説明

等速自在継手

【課題】 安定したシール性を確保することが容易でコスト低減を図り得る安価なシール構造を具備した等速自在継手を提供する。
【解決手段】 軸方向に延びるトラック溝11が内周面12の複数箇所に形成された外側継手部材13と、軸方向に延びるトラック溝14が外側継手部材13のトラック溝11と対をなして外周面15の複数箇所に形成された内側継手部材16と、外側継手部材13のトラック溝11と内側継手部材16のトラック溝14との間に介在するボール17とを備え、内側継手部材16から延びるシャフト19にスリーブ31をスプライン嵌合によりトルク伝達可能および軸方向摺動可能に外装した等速自在継手であって、シャフト19とスリーブ31との間に、シャフト19およびスリーブ31のスプライン嵌合部をシールする合成樹脂製の筒状カバー36を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄鋼設備などの各種産業機械において、劣悪な環境下で使用される等速自在継手に関し、詳しくは、外部からの粉塵等の異物や水の侵入を防止する密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄鋼設備などの各種産業機械において、駆動軸と従動軸とを連結して回転力を伝達する軸継手が使用されている。この軸継手の中には、劣悪な環境下で使用されるものがあり、そのような軸継手は、外部からの粉塵等の異物や水の侵入を防止するための密封構造を具備するのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に開示された軸継手は、一方のクロスジョイントに固定されたスプラインシャフトにスプラインチューブを嵌挿し、そのスプラインチューブを円筒部材によって他方のクロスジョイントに固定した構造を具備する。この軸継手において、スプラインチューブをクロスジョイントに固定する円筒部材は、外部からの粉塵等の異物や水の侵入を防止する密封構造をなすと共に、スプラインチューブと共にトルク伝達部材を構成している。
【0004】
特許文献1において、軸継手の密封構造をなす円筒部材は、炭素繊維強化プラスチックまたはガラス繊維強化プラスチックのいずれか一方、あるいは、炭素繊維強化プラスチックおよびガラス繊維強化プラスチックの両方をシール材料として形成され、捩れ方向において弾性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平7−35827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述した特許文献1で開示された軸継手では、炭素繊維強化プラスチックやガラス繊維強化プラスチックをシール材料とした円筒部材からなる密封構造を採用すると共に、その円筒部材の捩れ方向の弾性を利用することによりトルク伝達部材として使用しているため、材料コストおよび加工コストが高くなる。
【0007】
また、特許文献1に開示された軸継手の構造では、スプライン嵌合部が完全に密封されておらず、粉塵、水、薬品(酸性、アルカリ性)が侵入する劣悪な環境下で使用する場合、十分なシール性を確保することが非常に困難であり、スプライン嵌合部の潤滑性を長期間維持することが困難となる。その結果、スプライン嵌合部に粉塵等の異物や水が侵入し易くなって、錆や焼付けにより耐久性の低下を招くことになる。
【0008】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、安定したシール性を確保することが容易でコスト低減を図り得る安価なシール構造を具備した等速自在継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、軸方向に延びるトラック溝が内周面の複数箇所に形成された外側継手部材と、軸方向に延びるトラック溝が外側継手部材のトラック溝と対をなして外周面の複数箇所に形成された内側継手部材と、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在するトルク伝達部材とを備え、内側継手部材から延びるシャフトにスリーブをスプライン嵌合によりトルク伝達可能および軸方向へ摺動可能に外装した等速自在継手であって、シャフトおよびスリーブのスプライン嵌合部をシールする合成樹脂製の筒状カバーを設置したことを特徴とする。
【0010】
本発明では、シャフトとスリーブとの間のスプライン嵌合部をトルク伝達部位とし、シャフトおよびスリーブとは別部材でトルク伝達させない筒状カバーをシール部材とすることで、その筒状カバーを安価な合成樹脂で製作する。これにより、材料コストおよび加工コストの低減が図れ、シャフトにスリーブを軸方向へ摺動可能に外装したスプライン嵌合部を完全に密封することで、劣悪な環境下であっても安定したシール性を確保することができ、スプライン嵌合部の潤滑性を長期間維持することが容易となって耐久性の向上が図れる。
【0011】
本発明における筒状カバーは、硬質塩化ビニルあるいは熱硬化性樹脂のいずれか一方の材質で構成されていることが望ましい。このように、筒状カバーを硬質塩化ビニルや熱硬化性樹脂で構成すれば、従来使用されていた炭素繊維強化プラスチックやガラス繊維強化プラスチックに比べて安価であり、加工性に優れる点で有効である。
【0012】
本発明における筒状カバーは、一端がシャフトに固定されると共に他端がスリーブの外周面に装着されたOリングを介してスリーブに軸方向へ摺動可能に外装され、Oリングと当接する内周面に摺動抵抗低減材が被着されている構造が望ましい。このように、軸方向に摺動するスリーブのOリングと当接する筒状カバーの内周面に摺動抵抗低減材を被着させれば、Oリングと筒状カバーとの摺動抵抗を抑制することができ、Oリングの長寿命化が図れる。
【0013】
本発明における筒状カバーは、一端が間座を介してシャフトに固定されている構造が望ましい。このようにすれば、シャフトおよびスリーブのスプライン嵌合部をシールする筒状カバーを、シャフトとスリーブとの間に設置する構造を容易に実現することができる。
【0014】
なお、本発明では、筒状カバーと間座とを一体化した構造が望ましい。このようにすれば、筒状カバーを間座に取り付ける上で部品点数および組立工数の削減が可能となる点で有効である。
【0015】
本発明における筒状カバーの一端は、シャフトの外周面に装着された止め輪により位置規制された状態で固定されている構造が望ましい。このようにすれば、筒状カバーの一端をシャフトに対して位置決めした状態で固定することが容易に実現できる。
【0016】
本発明における筒状カバーの一端は、シャフトの外周面に一体的に形成された突起により位置規制された状態で固定されている構造が望ましい。このようにすれば、筒状カバーの一端をシャフトに対して位置決めした状態で固定する上で前述の止め輪を省略できて部品点数の低減が図れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シャフトとスリーブとの間のスプライン嵌合部をトルク伝達部位とし、シャフトおよびスリーブとは別部材でトルク伝達させない筒状カバーをシール部材とすることで、その筒状カバーを安価な合成樹脂で製作する。これにより、材料コストおよび加工コストの低減が図れ、シャフトにスリーブを軸方向へ摺動可能に外装したスプライン嵌合部を完全に密封することで、劣悪な環境下であっても安定したシール性を確保することができ、スプライン嵌合部の潤滑性を長期間維持することが容易となって耐久性の向上が図れる。その結果、安定したシール性を確保することが容易でコスト低減を図り得る安価なシール構造を具備した等速自在継手を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態で、ツェッパ型等速自在継手の全体構成を示す縦断面図である。
【図2】図1の筒状カバーによるシール構造を示す拡大断面図である。
【図3】図1の筒状カバーと間座とを一体化した構造を示す拡大断面図である。
【図4】図1の間座をシャフトに対して突起で位置規制した構造を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る等速自在継手の実施形態を以下に詳述する。以下の実施形態では、トルク伝達部材としてボールを用いたボールタイプのツェッパ型等速自在継手(BJ)を例示するが、他のボールタイプの固定式等速自在継手としてアンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)にも適用可能であり、さらに、他のボールタイプの摺動式等速自在継手としてダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)にも適用可能である。
【0020】
また、以下の実施形態では、各種産業機械の中でも、例えば、各種ロールに駆動力を伝達するロール駆動力伝達装置に使用される等速自在継手を例示する。このロール駆動力伝達装置は、80℃程度の輻射熱、水蒸気による高温多湿、スケールの飛散、薬品類を含む化学水の飛散などによる劣悪な環境下で使用される。
【0021】
図1に示すツェッパ型等速自在継手は、軸方向に延びる複数の円弧状トラック溝11が球面状内周面12に円周方向等間隔で形成された外側継手部材13と、その外側継手部材13のトラック溝11と対をなして複数の円弧状トラック溝14が球面状外周面15に円周方向等間隔で形成された内側継手部材16と、外側継手部材13のトラック溝11と内側継手部材16のトラック溝14との間に介在するトルク伝達部材としてのボール17と、外側継手部材13の球面状内周面12と内側継手部材16の球面状外周面15との間に配されてボール17を保持するケージ18とで主要部が構成されている。
【0022】
内側継手部材16には、シャフト19がスプライン嵌合によりトルク伝達可能に結合されている。そのシャフト19は、内側継手部材16の軸方向両端部で止め輪20,21により抜け止めされている。この等速自在継手には、継手内部を密封するためのブーツ22が装着されている。このブーツ22は、シャフト19に外嵌された小径筒部23と、その小径筒部23に可撓性連結部24を介して径方向外側に配置された大径筒部25とで構成されている。
【0023】
外側継手部材13は二枚のプレート26,27に挟持され、ブーツ22は一方のプレート26を押える固定部材28を介して外側継手部材13に固定される。この外側継手部材13、固定部材28およびプレート26,27に共通して設けられた貫通孔29にボルト(図示せず)を挿通して締め付けることにより、外側継手部材13、固定部材28およびプレート26,27を一体化する。
【0024】
この等速自在継手は、図1および図2に示すように、内側継手部材16から延びるシャフト19にスリーブ31をスプライン嵌合によりトルク伝達可能および軸方向へ摺動可能に外装した構造を具備する。つまり、シャフト19の外周面に雄スプライン32が形成されると共に、スリーブ31の内周面に雌スプライン33が形成され、シャフト19にスリーブ31を外挿することにより、シャフト19の雄スプライン32とスリーブ31の雌スプライン33とを嵌合させ、シャフト19に対してスリーブ31をトルク伝達可能および軸方向へ摺動可能としている。なお、スリーブ31の端部には、鋼管34が溶接35により同軸的に連結固定されている。
【0025】
シャフト19とスリーブ31との間に、シャフト19およびスリーブ31のスプライン嵌合部(雄スプライン32および雌スプライン33)をシールする合成樹脂製の筒状カバー36を設置する。つまり、シャフト19にリング状の間座37を外嵌し、シャフト19の外周面二箇所に形成された環状凹溝38,39に止め輪40,41を嵌合させることにより、シャフト19に対して間座37を軸方向で位置規制して固定する。この間座37の外周面に筒状カバー36の一端が止めねじ42で固定されてパッキン43で封止されている。
【0026】
一方、スリーブ31の外周面に環状凹溝44を形成し、その凹溝44にOリング45を嵌入させ、そのOリング45を筒状カバー36の内周面に当接させている。なお、スリーブ31の一端にはプレート46が加締め固定されている。このようにして、筒状カバー36は、シャフト19およびスリーブ31のスプライン嵌合部をシールする密閉空間を形成する。
【0027】
この等速自在継手では、シャフト19とスリーブ31をトルク伝達可能に外装したことにより、そのシャフト19とスリーブ31との間のスプライン嵌合部をトルク伝達部位とし、シャフト19およびスリーブ31とは別部材の筒状カバー36をシール部材とすることで、その筒状カバー36を安価な合成樹脂で製作するようにしている。
【0028】
これにより、材料コストおよび加工コストの低減が図れ、シャフト19にスリーブ31を軸方向へ摺動可能に外装したスプライン嵌合部を完全に密封することで、スプライン嵌合部の繰り返し伸縮や、粉塵、水、スケールの飛散、薬品類などによる劣悪な環境下であっても安定したシール性を確保することができ、スプライン嵌合部の潤滑性を長期間維持することが容易となって耐久性の向上が図れる。
【0029】
この筒状カバー36は、合成樹脂として、硬質塩化ビニルあるいは熱硬化性樹脂のいずれか一方の材質で構成されている。このように、筒状カバー36を硬質塩化ビニルや熱硬化性樹脂で構成することにより、従来使用されていた炭素繊維強化プラスチックやガラス繊維強化プラスチックに比べて安価であり、加工性に優れる。なお、合成樹脂製の筒状カバー36は切削加工が容易であることから、必要な軸方向寸法に加工することが容易である。
【0030】
軸方向に摺動するスリーブ31の外周面に装着されたOリング45と当接する筒状カバー36の内周面に摺動抵抗低減材を被着させることが可能である。これにより、Oリング45と筒状カバー36との摺動抵抗を抑制することができ、Oリング45の長寿命化が図れる。なお、摺動抵抗低減材としては、シリコン系オイルやコーティング材が好適で、これらシリコン系オイルやコーティング材を筒状カバー36の内周面に塗布すればよい。
【0031】
以上の実施形態では、筒状カバー36を間座37を介してシャフト19に固定した構造とすることにより、シャフト19およびスリーブ31のスプライン嵌合部をシールする筒状カバー36を、シャフト19とスリーブ31との間に設置する構造が容易に実現できる。なお、図3に示すように、筒状カバー36と間座37とを一体化した構造を備えた筒状カバー46を採用することも可能である。
【0032】
このように筒状カバー36と間座37とを一体化した構造を具備する筒状カバー46を採用することにより、筒状カバー36を間座37に取り付ける上で止めねじ42やパッキン43(図2参照)を省略することができるので、部品点数の削減が可能となる。また、筒状カバー36の外側に位置する止めねじ42の防錆処理が不要となることから、組立工数の削減も可能となる。
【0033】
また、以上の実施形態では、シャフト19に対して間座37を止め輪40,41により位置規制した状態で固定することにより、シャフト19に対する間座37の位置決め固定を容易にしている。一方、図4に示すように、間座37を、シャフト19の外周面に一体的に形成された突起47により位置規制した状態で固定することも可能である。
【0034】
筒状カバー36の外側に位置する止め輪41の場合、水などがかかる環境下にあるため防錆処理を施す必要があるが、前述のように間座37を突起47により位置決め固定することにより、止め輪41を省略することで、その止め輪41の防錆処理が不要になると共に部品点数の低減が図れる。
【0035】
この場合、間座37は、シャフト19に対して図示右側から突起47を越えさせて押し込むことで組み付けが可能となる。なお、図示しないが、筒状カバー36の内側に位置するもう一方の止め輪40を突起に変更することも可能である。
【0036】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0037】
11 トラック溝
12 内周面
13 外側継手部材
14 トラック溝
15 外周面
16 内側継手部材
17 トルク伝達部材(ボール)
19 シャフト
31 スリーブ
32,33 スプライン嵌合部(雄スプラインおよび雌スプライン)
36 筒状カバー
37 間座
40,41 止め輪
45 Oリング
47 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びるトラック溝が内周面の複数箇所に形成された外側継手部材と、軸方向に延びるトラック溝が前記外側継手部材のトラック溝と対をなして外周面の複数箇所に形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との間に介在するトルク伝達部材とを備え、前記内側継手部材から延びるシャフトにスリーブをスプライン嵌合によりトルク伝達可能および軸方向へ摺動可能に外装した等速自在継手であって、前記シャフトとスリーブとの間に、前記シャフトおよびスリーブのスプライン嵌合部をシールする合成樹脂製の筒状カバーを設置したことを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記筒状カバーは、硬質塩化ビニルあるいは熱硬化性樹脂のいずれか一方の材質で構成されている請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記筒状カバーは、一端がシャフトに固定されると共に他端がスリーブの外周面に装着されたOリングを介して前記スリーブに軸方向へ摺動可能に外装され、前記Oリングと当接する内周面に摺動抵抗低減材が被着されている請求項1又は2に記載の等速自在継手。
【請求項4】
前記筒状カバーは、一端が間座を介してシャフトに固定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の等速自在継手。
【請求項5】
前記筒状カバーと前記間座とを一体化した請求項4に記載の等速自在継手。
【請求項6】
前記筒状カバーの一端は、前記シャフトの外周面に装着された止め輪により位置規制された状態で固定されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の等速自在継手。
【請求項7】
前記筒状カバーの一端は、前記シャフトの外周面に一体的に形成された突起により位置規制された状態で固定されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−64422(P2013−64422A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202011(P2011−202011)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】