説明

筋ジストロフィー治療剤および治療用食品

本発明に係る筋ジストロフィー治療剤は、グルタミンペプチドを含有することを特徴としており、本発明に係る別の筋ジストロフィー治療剤は、グルタミンペプチドおよびユビキノンを含有することを特徴としている。 また、本発明に係る筋ジストロフィー治療用食品は、添加されたグルタミンペプチドを含有することを特徴としており、さらにユビキノンを含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、筋ジストロフィー治療剤および治療用食品に関する。より詳しくは、グルタミンペプチドを含有する筋ジストロフィー治療剤および筋ジストロフィー治療用食品ならびにこれらを用いた治療方法に関する。
【背景技術】
筋ジストロフィーは、筋組織の変性および壊死による進行性の筋力低下、筋萎縮を主症状とする遺伝性疾患の総称であり、遺伝形式によって、X染色体性劣性のDuchenne型およびBecker型;常染色体性劣性の肢帯型、先天性、遠位型;常染色体性優性の顔面肩甲上腕型、筋緊張性ジストロフィーなどに分類される。
これらのうち、Duchenne型、肢帯型、顔面肩甲上腕型が患者の大部分を占めるが、Duchenne型の患者数が最も多く、従来、Duchenne型を中心に研究が進められてきた。
Duchenne型筋ジストロフィーの患者の大部分は男性であり、幼児期に発症し、一旦発症するとその進行が止まることはなく、常に進行性で、筋組織は次第に脂肪と結合組織で置き換えられていき、11歳前後で起立不能となり、心不全、呼吸不全などの合併症により平均20歳程度で死亡する。
このDuchenne型筋ジストロフィーは、X染色体(X p21.1)に存在するジストロフィン遺伝子の欠損により、ジストロフィン蛋白質が産出されないことによって発症することが明らかにされている。ジストロフィン遺伝子は、75個以上のエクソンからなる約2,300kbにおよぶ長大なものであるため、遺伝子欠失率が高く、Duchenne型筋ジストロフィーは家族歴のない突然変異が患者数の約1/3と高くなっている。このジストロフィン遺伝子の遺伝子産物であるジストロフィン蛋白質は、筋細胞の形質膜の直下に存在し、筋原線維の構成蛋白質であるアクチンと、形質膜のジストロフィン結合糖蛋白質に結合している。
このようなジストロフィン遺伝子の一部あるいは全長をアデノウィルスDNAに挿入したベクターを筋内投与する遺伝子治療も試みられているが、投与効果の持続性が短いこと、再投与による効果が乏しいなどの問題があり、未だ治療法としては充分でない。
また、他の病型についても、種々の蛋白質の欠損あるいは異常により、当該疾病が引き起こされることが次第に明らかにされてきているが、有効な治療剤、治療方法は未だ確立されていないのが現状である。
このような筋ジストロフィーの進行抑制剤として、特開平8−198756号公報には、海草の細胞膜成分であるカラジーナンを含むことを特徴とする筋ジストロフィー進行抑制剤が提案されている。
しかしながら、この筋ジストロフィー進行抑制剤は、マウス、鶏などの動物で投与実験を行い、動物の筋細胞の肥大あるいは増殖を確認したに過ぎず、ヒトの筋ジストロフィーに対して進行抑制効果があるのかどうかは明らかでない。
【発明の開示】
本発明者らは、上記実情に鑑みて鋭意研究した結果、L−グルタミン含量の高いグルタミンペプチドを用いることにより、ヒトの筋ジストロフィーの進行を抑制し、その症状を改善させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、筋ジストロフィーの進行を抑制し、症状を改善させる治療剤および治療用食品を提供することを目的としている。また、本発明では、グルタミンペプチドを含有する治療剤および/または治療用食品を用いて筋ジストロフィーを治療する方法をも提供する。
すなわち、本発明に係る筋ジストロフィー治療剤は、グルタミンペプチドを含有することを特徴としている。
また、本発明に係る別の筋ジストロフィー治療剤は、グルタミンペプチドおよびユビキノンを含有することを特徴としている。
本発明に係る筋ジストロフィー治療用食品は、添加されたグルタミンペプチドを有効成分として含有することを特徴としており、さらにユビキノンを含有することが好ましい。
前記グルタミンペプチドは、L−グルタミン含有量が15〜60質量%で、ゲル濾過法によって測定された平均分子量が200〜100,000のペプチドであることが好ましく、小麦グルテン由来であることが望ましい。
また、前記ユビキノンは、コエンザイムQ10であることが好ましい。
本発明に係る筋ジストロフィーの治療方法は、前記筋ジストロフィー治療剤または筋ジストロフィー治療用食品を用いることを特徴としている。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る筋ジストロフィー治療剤は、グルタミンペプチドを含有してなることを特徴としている。
ここで、グルタミンペプチドとは、L−グルタミン含有量の高いペプチドを意味する。グルタミンペプチドにおけるL−グルタミン含有量が15質量%未満であると、充分な治療効果が期待できなくなる。一方、L−グルタミン含有量の上限は、特に限定されないが、60質量%を超えると天然の蛋白質からの調製が困難になる。このため、入手や調製の容易性およひ経済性の面からは、グルタミンペプチド中のL−グルタミン含有量は60質量%以下であり、通常は15〜60質量%、好ましくは20〜40質量%である。
なお、グルタミンペプチド中のL−グルタミン含有量は、アミド態窒素置換法により測定したアミド態窒素含有量から求めたアミド態窒素含有L−アミノ酸含有量に基づく算出法、あるいはグルタミンペプチドが合成物である場合には、合成時におけるL−グルタミンの使用割合から求めることができる。
L−グルタミンは、側鎖に酸アミド構造を有する中性アミノ酸であり、ヒトの必須アミノ酸ではないが、近年の研究により、各種侵襲時やストレス時における窒素平衡の改善、抗潰瘍効果、創傷治癒効果などを有することが明らかにされており、輸液、経腸栄養剤などとしての重要性が見直されている。
本発明に用いられるグルタミンペプチドの平均分子量は、通常200〜100,000であり、好ましくは500〜20,000であり、さらに好ましくは1,000〜10,000である。前記グルタミンペプチドの平均分子量が200未満であると、苦味を呈して味が不良になる傾向がある一方、グルタミンペプチドの平均分子量が100,000を超えると、水を加えた時に粘稠な塊を形成し、取り扱い性が劣るようになる。なお、本明細書でいうグルタミンペプチドの平均分子量は、ゲル濾過法によって測定した場合の平均分子量である。
本発明に用いられるグルタミンペプチドは、天然もしくは組換え蛋白質の部分的加水分解、化学合成もしくは遺伝子工学的手法、またはこれらの組み合わせによって製造することができ、その製造方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。
これらのうち、原料入手の容易さ、安定した供給、製造効率などの点から、天然蛋白質である小麦グルテンの部分的加水分解によるのが有利である。
小麦グルテンは、主にグルテニンとグリアジンとからなる蛋白質の混合物であり、構成アミノ酸としてL−グルタミンを多く含むため、小麦グルテンを加水分解することによって、比較的容易にL−グルタミン含有量の高いペプチドを製造することができる。
すなわち、小麦グルテンは、構成アミノ酸として通常25〜50質量%のL−グルタミンを含有しており、そのため平均分子量が200〜100,000の範囲内になるような条件でプロテアーゼ、酸、アルカリなどにより小麦グルテンを加水分解し、必要に応じて分画などを行うことにより、L−グルタミン含有量が15〜60質量%の範囲内のグルタミンペプチドを比較的容易に得ることができる。
この場合、使用する小麦グルテンは、生グルテンの状態であっても、これを粉末化したものでもよく、さらに、該小麦グルテンに予め酸、アルカリによる化学的処理や、酵素などによる生物的処理を施して、分子量を低下させたものや、プロテアーゼとの親和性などを高めたものを使用してもよい。
具体的には、特開昭64−47353号公報、特許第2985193号公報、特開平5−236909号公報などに開示された方法でグルタミンペプチドを製造することができる。
たとえば、特開昭64−47353号公報に開示されているように、キトサンビーズのような担体にペプシンと他の酸性プロテアーゼとの複合プロテアーゼを固定化して、小麦グルテンを処理する方法、または、
特許第2985193号公報に開示されているように、小麦グルテンをプロテアーゼおよびアミラーゼを用いて加水分解する方法などが好ましく挙げられる。これらの方法で用いるプロテアーゼとしては、たとえば、ペプシン、トリプシン、キモトリシプシン、ヒイロタケ起源の酸性プロテアーゼ、アスペルギルス起源の酸性プロテアーゼ、パパイン、ブロメラインなどのような種々のプロテアーゼを挙げることができる。
このようなグルタミンペプチドとしては、市販のグルタミンペプチドGP−1(日清ファルマ株式会社製)、グルタミンペプチドGPA(DMV社製)などを用いることができる。また、必要に応じてこれらのグルタミンペプチドにさらに加水分解、分画などの処理を施してもよい。
また、本発明に係る別の筋ジストロフィー治療剤は、前記グルタミンペプチドに加えてさらにユビキノンを含有している。
ユビキノンは、電子伝達系の重要な補因子であり、真核生物では細胞のミトコンドリア内膜に存在する脂溶性のキノンである。このユビキノンは、コエンザイムQともよばれ、下記式のような構造を有し、n=6〜10のコエンザイムQ〜Q10が広く知られている。

これらのうち、本発明では、n=10のコエンザイムQ10を用いることが好ましい。
上述したように本発明に係る筋ジストロフィー治療剤には、前記グルタミンペプチドを含有することを特徴とする第一の態様と、グルタミンペプチドに加えてユビキノンを含有することを特徴とする第二の態様とがあるが、前者の場合には、ユビキノンを含有していない筋ジストロフィー治療剤とユビキノンとを別途併用して投与する形式を採用してもよい。
本発明の筋ジストロフィー治療剤は、グルタミンペプチドをその有効成分として含有する限り、投与経路に応じて任意の剤型を採ることができる。
すなわち、本発明に係る筋ジストロフィー治療剤の剤型は、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、トローチ剤などのいずれでもよい。これらは、通常、種々の添加剤、たとえば、賦形剤、結合剤、安定剤、乳化剤、分散剤、増量剤、界面活性剤、緩衝剤、甘味料、着色料、pH調整剤、香料などを用いて、常法により製造することができる。ただし、コエンザイムQ10は水に難溶性であるため、植物性油、動物性油などの非親水性有機溶媒に溶解するか、または乳化剤、分散剤もしくは界面活性剤などを用いて水性溶液中に分散・乳化させて用いることが望ましい。その他、コエンザイムQ10の吸収性を高めるために、平均粒子径を1μm程度またはそれ以下まで微粉砕して用いてもよい。
具体的に、製剤化に用いることができる添加剤としては、たとえば、大豆油、サフラー油、オリーブ油、胚芽油、ヒマワリ油、牛脂、イワシ油などの動植物油;ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトールなどの多価アルコール;ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどの界面活性剤;精製水、乳糖、澱粉、結晶セルロース、D−マンニトール、レシチン、アラビアガム、ソルビトール液、糖液などの賦形剤;甘味料、着色料、pH調整剤、香料などを挙げることができる。
なお、液体製剤は、服用時に水または他の適当な媒体に溶解または懸濁させる形であってもよい。また、錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。
また、本発明の筋ジストロフィー治療剤を食品に含有させることより、有効成分の摂取がさらに容易になる。言い換えれば、食品に前記グルタミンペプチドを添加することによって、本発明の筋ジストロフィー治療用食品を製造することができる。さらに、該食品には前記ユビキノン、好ましくはコエンザイムQ10を添加することが望ましい。
そのような食品としては、流動食、スープ類、ジュース類、乳飲料、ゼリー状飲料などの液状食品;うどんなどの麺類、パン、菓子、クッキー、せんべいなどの炭水化物系食品;お茶類;ふりかけ;バター、ジャムなどのスプレッド類などの形態が挙げられる。これらの食品は、健康食品、機能性食品、医療用食品として、一日当たりの投与量が管理できる形にするのが望ましい。
なお、液状食品の場合には、最初から液状食品として調製してもよいが、粉末またはペースト状で調製してから、所定量の水性液体に溶解するものでもよい。また、液状食品には、風味をよくするために種々の添加剤、たとえば、呈味成分、フレーバーなどを添加するのが好ましく、さらに各種栄養素、種々のビタミン、ミネラル、食物繊維、多価不飽和脂肪酸などのその他の栄養素、分散剤、乳化剤、安定剤、甘味料などを配合することができる。
本発明の筋ジストロフィーの治療方法は、前記筋ジストロフィー治療剤および/または筋ジストロフィー治療用食品を用いることを特徴としており、該治療剤および/または食品を筋ジストロフィーの患者に経口または経腸的に投与または摂取させることからなる。
なお、前記グルタミンペプチドは小麦グルテン由来の安全性の高いものであり、ユビキノン、特にコエンザイムQ10も近年、健康食品としても用いられている安全性の高いものである。
この際、グルタミンペプチドの投与量は、症例、用法、年齢、体重、性別などによって異なり、適宜決定することができるが、成人の場合には通常1〜40g/日、好ましくは5〜10g/日の範囲内で投与することができる。
また、グルタミンペプチドに加えてユビキノンを用いる場合は、ユビキノンの投与量は、グルタミンペプチドの投与量と併せて適宜決定することができるが、成人の場合には通常5〜200mg/日、好ましくは10〜100mg/日の範囲となるように用いることが望ましい。
一般に、筋ジストロフィーの診断は、発症年齢、初発症状、家族歴などのほか、血液および尿の生化学的検査、筋肉CT、筋電図、生検筋の組織学的および生化学的検査などを実施することにより行われている。
このうち、患者の血液の生化学的検査では、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)、アルドラーゼ、乳酸脱水素酵素(LDH)、グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)、グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)などの筋形質(サルコプラズマ)由来の酵素の血中濃度増加、ならびに、筋組織において酸素貯蔵体として機能しているミオグロビンの血中濃度の増加が見られる。特にDuchenne型筋ジストロフィーでは、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)の血中濃度増加が顕著である。
これらの原因としては、筋組織の崩壊、壊死に加えて、筋細胞膜の透過性の異常亢進が指摘されている。
したがって、定期的に患者の血液を生化学的に検査し、血中の筋形質(サルコプラズマ)由来の酵素およびミオグロビンの濃度を知ることにより、筋ジストロフィーの進行具合の生化学的な指標の1つとすることができる。
なお、本発明の筋ジストロフィー治療剤、治療用食品は、ヒト以外の動物に投与することも当然可能であり、このような適用を何ら除外するものではない。
【発明の効果】
本発明の筋ジストロフィー治療剤および筋ジストロフィー治療用食品ならびにこれらを用いた治療方法によれば、筋ジストロフィーの進行を抑制し、症状を改善させることができる。また、本発明において用いられるグルタミンペプチド、コエンザイムQ10は安全性に優れており、長期間投与するのに適している。このため、本発明の治療剤および治療用食品は、筋ジストロフィーの治療に極めて有用である。
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例中、グルタミンペプチドの平均分子量、該ペプチド中のL−グルタミン含有量は次の方法で測定した。
<ペプチドの平均分子量>
ペプチドの水溶液を孔径0.45μmのメンブランフィルターで濾過し、ゲル濾過にて分子量を測定した。カラムとして、日本バイオラッドラポラトリーズ社製「バイオシルSEC125−5」を使用した。測定条件は、測定波長280nm、溶出液0.2mMリン酸緩衝液(pH6.0,0.1%SDS)、流速0.2ml/分であった。また、分子量の標準として、オボアルブミン(分子量44kDa)、ミオグロブリン(分子量17kDa)およびビタミンB12(分子量1.35kDa)を使用した。
<ペプチド中のL−グルタミン含有量>
アミド態窒素を含有するL−アミノ酸は、グルタミンとアスパラギンの2つであるが、小麦蛋白質では、そこに含まれるアミド態窒素含有アミノ酸のうちの95質量%以上がグルタミンである。すなわち、小麦グルテン中のアミド態窒素含有アミノ酸量を、そのままL−グルタミン含有量としても、大きな誤差は生じない。したがって、小麦グルテン中のアミド態窒素含有アミノ酸量を、そのままL−グルタミン含有量とした。
まず、グルタミンペプチドに含まれるアミド態窒素の含有量を、Wilcoxによる化学物質中のアミドの定量法[Meth.Enzymol.,11,36−65(1967)]に従って求めた。具体的には、コンウェイのフラスコ中にグルタミンペプチドを入れ、そこに1Nの塩酸を加えて、グルタミンペプチド中のアミド態窒素をアンモニアとして遊離させ、発生したアンモニアを衛生検査指針[日本薬学会編「衛生試験法・注解」,p274〜276,金原出版(1990)]に従って定量し、定量したアンモニア量からグルタミンペプチドに含まれるアミド態窒素量を求めた。
得られたアミド態窒素量に基づき、グルタミンペプチドのアミド態窒素含有アミノ酸の含有量を算出し、この値をL−グルタミン含有量とした。
製造例1 グルタミンペプチドの製造
(1)反応釜に、イオン交換水9,700kg、無水クエン酸38kgおよび小麦グルテン(活性グルテン,Weston Foods Limited製)1,500kgを仕込み、45℃に加温した後、プロテアーゼ(天野製薬株式会社製「プロテアーゼMアマノ」)2.2kgおよびアミラーゼ(阪急バイオインダストリー株式会社製「液化酵素T」)1.1kgを加えて、45℃で5時間加水分解反応を行い、次いで25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、液のpHを4.4〜4.5に調整して5時間保って酵素処理を行った。
(2)次いで、液を80℃に20分間保ってプロテアーゼを失活させた後、65℃に冷却し、そこにアミラーゼ(阪急バイオインダストリー株式会社製「液化酵素T」)0.5kgを加えて小麦グルテン中に含まれていた澱粉質および繊維質を加水分解させた後、液を90℃に20分間保ってアミラーゼを失活させた。
(3)次に、液を10℃以下に冷却した後、再度55℃に加熱し、そこに活性炭(武田薬品工業株式会社製「タケコール」)100kgを加えて55℃で30分間攪拌した。
(4)液温を45℃にし、濾過助剤(昭和化学工業株式会社製「ラヂオライト」)を加えて、加圧濾過装置を使用して濾過を行い、濾液7,000リットル(7m)を回収した。
(5)上記(4)で回収した濾液をBrix値が20〜40になるまで減圧下で濃縮した後、プレートヒーターを使用して110℃で20秒間加熱して殺菌し、次いで55℃まで冷却した。
(6)上記(5)で得られた液を、噴霧乾燥装置を使用して送風温度160℃、排風温度80℃の条件下に噴霧乾燥して、小麦グルテンの加水分解物であるグルタミンペプチド粉末約1,000kgを得た。
(7)上記(6)で得られたグルタミンペプチド粉未を60メッシュ篩(目開き0.246mm)を用いて分級し、60メッシュ篩を通過した微粉(グルタミンペプチド微粉)を回収した。
(8)上記(7)で回収したグルタミンペプチド(微粉)の平均分子量およびL−グルタミン含有量を測定したところ、平均分子量は約8,000およびL−グルタミン含有量は32質量%であった。
製造例2〜4 グルタミンペプチドの製造
製造例1と同様な方法で下記の第1表に示す性状のグルタミンペプチドを得た。

実施例1 錠剤の製造
製造例1で得られたグルタミンペプチド83.3g、結晶セルロース(旭化成株式会社製)10gおよびポリビニルピロリドン(BASF社製)5gを混合し、これにエタノール30mlを添加して、湿式法により常法に従って顆粒を製造した。それにより得られた顆粒を乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム1.2gを加えて打錠用顆粒末とし、打錠機を用いて打錠し、1錠が1gの錠剤100個を製造した(錠剤1錠当たりのグルタミンペプチド含有量0.838g)。
実施例2 シロップ剤の製造
精製水400gを煮沸し、これにかき混ぜながら白糖750gおよび製造例2で得られたグルタミンペプチド100gを加えて溶解し、熱時に布ごしし、これに精製水を加えて全量を1000mlとしてシロップ剤を製造した(シロップ剤100ml当たりのグルタミンペプチド含有量10g)。
実施例3 顆粒剤の製造
グルタミンペプチドGP−1(平均分子量7,000、L−グルタミン含有量32質量%;日清ファルマ株式会社製)76g、乳糖(DMV社製)13.3g、結晶セルロース(旭化成株式会社製)6.7gおよびポリビニルピロリドン(BASF社製)4gを混合し、これにエタノール30mlを添加して、湿式法により常法に従って顆粒を製造し、乾燥後、整粒して顆粒剤を得た(顆粒剤10g当たりのグルタミンペプチド含有量7.6g)。
実施例4 流動食の製造
約65℃の純水750gにカゼインナトリウム(DMV社製)40g、マルトデキストリン(三和デンプン社製)160gおよびグルタミンペプチドGP−1(日清ファルマ株式会社製)25gを添加して溶解し、次いでビタミンミックス5gおよびミネラル微量の各成分混合液を添加した。この混合液をホモミキサー(特殊機化工業製)に投入し、約8000rpmにて15分間粗乳化した。得られた乳化液を約20℃に冷却し、香料を添加後、最終メスアップを行った。この液をパウチへ本液230g充填後、窒素置換を行いながらパウチを密封し、121℃で15分間殺菌を行って濃厚流動食を得た。流動食230g当たりのグルタミンペプチド含有量は約5gであった。
実施例5 パンの製造
小麦粉(強力粉)150gとドライイースト2gを混ぜた。これとは別にグルタミンペプチドGP−1(日清ファルマ株式会社製)20g、砂糖20g、食塩3g、脱脂粉乳6gを温湯70gに溶かし、鶏卵1個を添加してよく混ぜた。これを前者の小麦粉に加え、手でよくこねた後、バター約40gを加えてよくこね、20個のロールパン生地を作った。次いで、発酵させた後、表面に溶き卵を塗り、オーブンにて180℃で約15分焼き、ロールパンを製造した。このロールパンは、1個当たりグルタミンペプチドを約1g含有していた。
実施例6 パスタ用ミートソースの製造
パスタ用のミートソース一人前(150g)を鍋に入れ、同時にグルタミンペプチドGP−1(日清ファルマ株式会社製)5gおよびコエンザイムQ10(日清ファルマ株式会社製)30mgを加え、ミートソースを温めながらハードカプセルを溶解し、パスタ用ミートソースを作成した。このソースをパウチへ充填した後、窒素置換を行いながらパウチを密封し、121℃で15分間殺菌を行ってグルタミンペプチドおよびコエンザイムQ10を含有するパスタ用ミートソースを得た。
実施例7 うどんの製造
グルタミンペプチドGP−1(日清ファルマ株式会社製)20gおよびコエンザイムQ10(日清ファルマ株式会社製)400mgを予めよく混合した。小麦粉(中力粉)400gに対して、水200gに前記グルタミンペプチドとコエンザイムQ10の混合物、食塩20gを分散させ、よく混ぜこねて寝かした。この後、生地を延伸し、幅約5mmに切断してうどんを製造した。これを沸騰したお湯で約10分茹でたところ、外観、味、食感ともに良好であった。このうどんは、1食分当たりグルタミンペプチドを約5g、コエンザイムQ10を約100mg含有していた。
試験例1
<症例1;Duchenne型進行性筋ジストロフィー(男性、4歳)>
1歳を過ぎて歩き始めた頃から転倒し易く、2歳を過ぎてもわずかな段差さえ上れず、3歳頃には大きく開脚して床に手をつかないと起立ができないGowers徴候を呈するようになり、Duchenne型進行性筋ジストロフィーと診断された。
この患者に血液検査を実施した後、グルタミンペプチドGP−1(日清ファルマ株式会社製;小麦グルテン由来、平均分子量7,000、L−グルタミン含有量32質量%、以下同じ。)2g/日をヨーグルトまたは牛乳に混ぜて経口投与を開始し、投与開始から1.5ヶ月経過後に血液検査を行った。
結果を第2表に示す。


第2表から、血中のCPK、GOT、GPT、LDH、アルドラーゼ、ミオグロビン値は、それぞれ投与開始前に比較して低下しており症状が改善していることがわかる。
また、投与開始から3週間後には高さ17cmの階段を手すりにつかまらずに起立したまま上ることができるようになり、以後、階段でも段差の低いものは上れるようになり、つま先立ち歩行はあるものの走ることができるようになった。
試験例2
<症例2;顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(男性、60歳)>
20歳頃から左上腕の倦怠が顕著となり、30歳頃には左肩の拳上がやや困難になり、その後、頚部、両肩、両上肢の脱力感および歩行後の下肢の脱力感が著しくなり、45歳で顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーと診断された。50歳頃からは、左肩の拳上が完全に困難となり歩行障害が一段と進行した。
最近では、翼状肩甲が認められ、顔面筋の脱力により口笛が吹けず憂鬱な表情を呈していた患者に、血液検査を実施した後、グルタミンペプチドGP−1(9g/日)の経口投与を開始し、投与開始から3ヶ月経過後に血液検査を行った。
結果を第3表に示す。

第3表から、血中のCPK、ミオグロビン値は、それぞれ投与開始前に比較して低下しており症状が改善していることがわかる。また、投与開始から3ヵ月経過後には、頚部および上肢の脱力感ならびに歩行障害が軽減した。
試験例3
<症例3;Duchenne型進行性筋ジストロフィー(男性、6歳)>
2歳頃から起立困難となり、最近では大きく開脚して床に手をつかないと起立ができないGowers徴候を呈するようになり、両側下腿筋の仮性肥大を有し、ややつま先立ちで動揺しながら歩行していた患者に血液検査を実施した後、グルタミンペプチドGP−1(3g/日)およびユビキノン(コエンザイムQ10;日清ファルマ株式会社製、以下同じ。)30mg/日の経口投与を開始し、投与開始から3ヶ月経過後、さらに投与開始から6ヶ月経過後に血液検査を行った。
結果を第4表に示す。

第4表から、血中のCPK、LDH、ミオグロビン値は、それぞれ投与開始前に比較して低下しており症状が改善していることがわかる。また、投与開始から6ヶ月経過後には、患者は起立が容易となり、小走り程度であればスムーズに行えるようになった。
試験例4
<症例4;筋緊張性ジストロフィー(男性、26歳)>
22歳頃から両手の握力が低下し全身倦怠があり、筋緊張性ジストロフィーと診断され、筋緊張に対してミオナール(R)(塩酸エペリゾン)150mg/日の投与と理学療法が行われてきた。
この患者に、血液検査を実施した後、グルタミンペプチドGP−1(8g/日)およびユビキノン(コエンザイムQ10)90mg/日の経口投与を開始し、投与開始から3ヶ月経過後、さらに投与開始から6ヶ月経過後に血液検査を行った。
なお、投与開始時には、患者は両手の握力が右5kg、左5.5kgであり、全身倦怠、舌や母指球のpercussion myotonia(叩打ミオトニー)、手を握り締めた後に弛緩しにくくなるgrip myotoniaの症状を有していた。
結果を第5表に示す。

第5表から、血中のCPK、アルドラーゼ、ミオグロビン値は、それぞれ投与開始前に比較して低下しており症状が改善していることがわかる。また、投与開始から6ヶ月後にはmyotoniaは認められるものの、両手の握力が向上し(右16kg、左12kg)、全身倦怠もほぼ消失した。
試験例5
<症例5;遠位型筋ジストロフィー(男性、70歳)>
35歳頃に筋ジストロフィーと診断され、15年ほど前から両手両足の筋力低下がおこり、最近では握力低下(右12kg、左13kg)と四肢遠位筋の著しい萎縮が認められ、起立歩行障害を有する患者に、血液検査を実施した後、グルタミンペプチドGP−1(8g/日)およびユビキノン(コエンザイムQ10)90mg/日の経口投与を開始し、投与開始から3ヶ月経過後、さらに投与開始から6ヶ月経過後に血液検査を行った。
結果を第6表に示す。

第6表から、血中のCPK、アルドラーゼ、ミオグロビン値は、それぞれ投与開始前に比較して低下しており症状が改善していることがわかる。また、投与開始から6ヶ月経過後には、起立後の歩行がややスムーズとなり、四肢の倦怠が改善され、握力が大幅に向上していた(右20kg、左21kg)。
【産業上の利用可能性】
本発明の筋ジストロフィー治療剤、筋ジストロフィー治療用食品によれば、ヒトの筋ジストロフィーの進行を抑制し、症状を改善させることができるため、医薬、健康食品、機能性食品、医療用食品などの分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミンペプチドを含有してなる筋ジストロフィー治療剤。
【請求項2】
前記グルタミンペプチドが、L−グルタミン含有量が15〜60質量%で、ゲル濾過法によって測定された平均分子量が200〜100,000のペプチドであることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の筋ジストロフィー治療剤。
【請求項3】
前記グルタミンペプチドが、小麦グルテン由来であることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の筋ジストロフィー治療剤。
【請求項4】
グルタミンペプチドおよびユビキノンを含有してなる筋ジストロフィー治療剤。
【請求項5】
前記グルタミンペプチドが、L−グルタミン含有量が15〜60質量%で、ゲル濾過法によって測定された平均分子量が200〜100,000のペプチドであることを特徴とする請求の範囲第4項に記載の筋ジストロフィー治療剤。
【請求項6】
前記グルタミンペプチドが、小麦グルテン由来であることを特徴とする請求の範囲第4項または第5項に記載の筋ジストロフィー治療剤。
【請求項7】
前記ユビキノンが、コエンザイムQ10であることを特徴とする請求の範囲第4項または第5項に記載の筋ジストロフィー治療剤。
【請求項8】
前記ユビキノンが、コエンザイムQ10であることを特徴とする請求の範囲第6項に記載の筋ジストロフィー治療剤。
【請求項9】
添加されたグルタミンペプチドを有効成分として含有する筋ジストロフィー治療用食品。
【請求項10】
さらにユビキノンを含有することを特徴とする請求の範囲第9項に記載の筋ジストロフィー治療用食品。
【請求項11】
請求の範囲第1項〜第10項のいずれかに記載の筋ジストロフィー治療剤または筋ジストロフィー治療用食品を用いる筋ジストロフィーの治療方法。

【国際公開番号】WO2004/075908
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502957(P2005−502957)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002388
【国際出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【出願人】(301049744)日清ファルマ株式会社 (61)
【Fターム(参考)】