説明

筋萎縮抑制剤

【課題】筋萎縮抑制作用がより効果的かつ安全であり、長期に使用可能な筋萎縮抑制剤を提供する。
【解決手段】本発明に係る筋萎縮抑制剤は、ウコギ科人参を有効成分として含有することを特徴とする。好ましくは、さらにクレアチンおよびカゼイン分解ペプチドの内の少なくとも1種類を含有する。ウコギ科人参としては田七人参が好ましく、さらに水抽出物とそのエタノ-ル洗浄物が好ましい。また、カゼイン分解ペプチドとしては、C12ペプチドが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋肉の萎縮を効果的に抑制する筋萎縮抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
骨折等の怪我や罹病により長期に亘る臥床や安静を余儀なくされると、筋肉の萎縮が生じ、日常生活への復帰に時間がかかり、場合によっては、日常生活に支障を来すおそれもある。また、健康であっても、日常の運動不足や老化によって、筋肉の萎縮が生じ、同様に日常生活への支障が生じ得る。さらに、特殊なケースであるが、宇宙飛行などの無重力環境下におかれる人々にも、筋肉の萎縮が生じ、日常生活への順応に時間がかかることが知られている。
【0003】
筋肉の萎縮が生じると、運動が困難になり、いわゆる生活の質が低下することになる。運動が困難になると、病人はさらに病状を悪化させ、老人は寿命を縮めることになりかねない。筋肉の萎縮が生じた場合、その回復には、適切な栄養を摂取しつつ、所定量の運動を持続的に実行することが重要であるとされている。かかる運動療法による筋肉の回復には、栄養の摂取量および運動量の設定が適切に行われ、かつ当人に継続実行する根気が必要とされる。そのため、怪我等によって一時的に運動不足となった健康者であれば、根気さえあれば、運動療法による筋肉の回復は可能であるが、病人や老人においては、運動療法による筋肉の回復ははなはだ困難であると言わざるを得ない。
【0004】
そこで、病人や老人、さらには、何らかの理由で運動不足に陥った健康者が生活の質を低下させる原因となる筋肉の萎縮を生じないように抑制する薬剤や補助食品の開発が、検討され、従来、いくつかの提案がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、果実ポリフェノールを有効成分として含有する筋萎縮抑制組成物が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、筋肉不使用症候群を治療あるいは予防する目的で、クレアチンを有効成分としたクレアチン経口補充療法剤が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−089387号公報
【特許文献2】特表2002−530330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1に開示の筋萎縮抑制組成物は、運動不足などから誘引される廃用性筋萎縮に酸化ストレスが関与しているとの示唆情報に基づいて開発されたもので、抗酸化作用を有する果実ポリフェノールを有効成分として用いることにより原因と推定される酸化ストレスを低減して筋萎縮を抑制しようとする筋萎縮抑制剤である。しかしながら、筋萎縮の原因は、臨床的には、運動不足にあることはほぼ明らかであると考えられるが、生理的、病理的には、未だ明確になっていない。この特許文献1に記載のように酸化ストレスが筋萎縮を誘引する場合もあれば、他の原因に基づくものもあると考えられ、実際にかかる特定のポリフェノールの摂取によって全ての筋萎縮の抑制が可能であるわけではなく、効果的にも限界がある。
【0009】
前記特許文献2に開示のクレアチン経口補充療法剤は、筋肉のエネルギー産生に重要な素材としてクレアチンを補充することにより、筋萎縮を含む筋肉不使用症候群を治療あるいは予防するための医療薬剤である。この医療薬剤は、老化に伴う運動能力の低下が身体のクレアチンレベルの低下に起因しているとの示唆情報に基づき開発されたものであり、クレアチンの経口補充によって、高齢者の運動能力を回復させ、筋肉の再生、維持を促進しようとするものである。しかしながら、筋萎縮の原因は、未だ十分に明らかになっているわけではないので、クレアチン補充以外の別のアプローチ法もありえる。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その課題は、筋萎縮抑制作用がより効果的かつ安全であり、長期に使用可能な筋萎縮抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本願発明者らが鋭意、実験、検討を重ねたところ、以下のような知見を得るに到った。
【0012】
すなわち、長期に亘る摂取にも安全で、従来から高い筋萎縮抑制作用のある成分を、広く植物抽出物の群を対象にしてスクリーニングした。
その結果、田七人参や御種人参などのウコギ科人参に高い筋萎縮抑制作用があることを確認することができた。
【0013】
また、ウコギ科人参の使用形態としては、特に限定されないが、抽出物として用いることが好ましい。そして、抽出物としては、水抽出によるものが良く、さらに、水による粗抽出物を有機溶媒を用いて洗浄して精製する工程を包含させると、もっとも高い筋萎縮抑制作用を有することが明らかとなった。
【0014】
本発明における筋萎縮抑制作用は、筋肉量の減少、筋肉の最大強度の減少、最大能力の減少、筋弛緩時間の増加、早発性筋肉疲労、糖取り込み量低下、脂質量の増加、筋肉エネルギー保持力の低下、筋肉血流の減少、運動制御障害などの筋肉に生じる減退症状を低減もしくは予防する作用である。
【0015】
周知のように、ウコギ科人参は、各種文献に様々な作用があること、そしてその作用に基づく適用例が開示されている。しかしながら、どの開示にも、ウコギ科人参に前述の筋萎縮を抑制する効果があることは記載も示唆もない。例えば、特開2004−189619号公報には、オタネニンジン、サンシチニンジン、アメリカニンジンおよびトチバニンジンからなる群より選ばれる1種または2種以上とビタミンB類を含有する組成物が開示されているが、ここで開示されている人参の効果は、滋養、強壮効果であって、筋萎縮の抑制効果については、なんら記載がないばかりでなく、示唆すらされていない。
【0016】
本発明者らは、多くの植物およびその抽出物を対象に、筋萎縮抑制作用を有するか否か、有する場合、どの程度の効果が期待できるのかについて、度重なるスクリーニングをした結果、前述のように、ウコギ科人参に格別顕著な筋萎縮抑制作用があることを知見するに到った。このウコギ科人参による筋萎縮抑制作用について、さらに、その作用機序について探究したところ、後述の実施例に示すように、筋肉細胞の増強を促す結果をもたらす筋芽細胞の増殖作用と分化作用の両作用を有しており、これら両作用に基づいて筋萎縮抑制作用がもたらされる可能性があることが知見された。
【0017】
さらに、このウコギ科人参の筋萎縮抑制作用を助長する化合物の有無についても数多くのスクリーニングをしたところ、クレアチンおよびカゼイン分解ペプチドの少なくとも1種類をウコギ科人参の抽出物に添加して併用することによりウコギ科人参が有する筋萎縮抑制効果が増強されることが確認された。
【0018】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明に係る筋萎縮抑制剤は、ウコギ科人参を有効成分として含有することを特徴とする。
本発明の筋萎縮抑制剤において、有効成分であるウコギ科人参の含有形態としては、水抽出物であることが好ましい。この水抽出物は、水を用いた粗抽出物をさらに有機溶媒を用いて洗浄して精製したものであることが好ましい。この場合の有機溶媒としては、80〜100%エタノールを用いることが好ましい。
また、本発明に係る筋萎縮抑制剤は、好ましくは、さらにクレアチンおよびカゼイン分解ペプチドの内の少なくとも1種類を含有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る筋萎縮抑制剤は、筋芽細胞の増殖作用および分化作用の両作用を有し、係る作用に基づいて優れた筋萎縮抑制効果を発揮するウコギ科人参を有効成分として含有している。したがって、本発明に係る筋萎縮抑制剤を適宜に摂取することにより、罹病や怪我などにより長期に亘り運動不足となる場合などに生じる筋萎縮を効果的に抑制し、筋萎縮により生活の質が損なわれることを低減もしくは予防することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
前述のように、本発明に係る筋萎縮抑制剤は、ウコギ科人参を有効成分として含有することを特徴としている。さらに、好ましくは、クレアチンおよびカゼイン分解ペプチドの内の少なくとも一種類を含有する。
【0021】
本発明における筋萎縮抑制作用は、筋肉量の減少、筋肉の最大強度の減少、最大能力の減少、筋弛緩時間の増加、早発性筋肉疲労、筋肉エネルギー保持力の低下、筋肉血流の減少、運動制御障害などの筋肉に生じる減退症状を低減もしくは予防する作用である。この筋萎縮作用は、有効成分であるウコギ科人参によって効果的にもたらされる。このウコギ科人参の筋萎縮抑制作用は、ウコギ科人参が筋芽細胞の増殖を促進する作用と筋芽細胞の分化を促進する作用の両作用を有することに伴って得られるものと思われる。
【0022】
前記筋芽細胞の増殖を促進する作用とは、培養筋芽細胞にサンプル水溶液を添加した場合の細胞増殖が無添加のものより優れていることを意味する。そしてこの筋芽細胞の増殖作用は、無添加と比較してどの程度増殖が促進されたかを測定することによって、その程度を評価することができる。
【0023】
一方、前記筋芽細胞の分化を促進する作用とは、培養筋芽細胞にサンプル水溶液を添加した場合の細胞増殖が無添加のものと比較して分化が進んでいることを意味する。そして、この筋芽細胞の分化作用は、細胞のクレアチンキナーゼ活性を測定することによって、その程度を評価することができる。
【0024】
次に、本発明の筋萎縮抑制剤の有効成分であるウコギ科人参と、任意の有効成分であるクレアチンとカゼイン分解ペプチドについて、個々に説明する。
【0025】
本発明の筋萎縮抑制剤の必須有効成分として用いるウコギ科人参は、ウコギ科の草本植物として分類される周知の薬用植物である。このウコギ科人参としては、御種人参(朝鮮人参、高麗人参とも別称される)、田七人参などがある。
【0026】
このウコギ科人参は、その根や根茎に特に有効成分を多く含んでいるので、その根や根茎部分を、原型に保った状態のまま、あるいは粉砕したもの、もしくは、さらに、溶媒抽出して濃縮した状態、乾燥して粉末とした抽出物の状態で使用することが望ましい。
【0027】
使用する具体的な人参の抽出物としては、水抽出物が好ましく、その工程としては特に限定されるものではないが、人参(乾燥物)1重量に対して、10倍から30倍量の水を用いて、温度として4℃から25℃、好ましくは10℃から20℃に保ちながら、2時間以上攪拌して有効成分を抽出するのが良い。通常、浸漬、攪拌することによって抽出を行い、得られる抽出物は、濾過、濃縮、凍結乾燥などの適当な処置を施して製剤化される。
【0028】
さらに、上記の人参の抽出物から、抽出残査を分離する工程を包含することによって、筋萎縮抑制作用を向上し得る。残査分離の工程は、特に限定されるものではないが、濾過、遠心分離、有機溶媒洗浄など公知の方法によって実施される。好ましくは、エタノ-ルを用いた残査分離工程が用いられ、人参の水抽出物1重量に対して、1から3倍量の無水エタノールを添加してその残査から有効成分を得る。さらに、エタノ-ルを用いた残査有効成分の洗浄精製工程は、2回以上繰り返すのが有効成分の純化には好ましいが、5回以上の繰り返しは多量に溶媒が必要なことや収率の低下を招き不経済である。得られる抽出物は、通常、攪拌、遠心分離、ろ過、乾燥などの適当な処置を施して製剤化される。
【0029】
ウコギ科人参として田七人参粉末を用いた場合、筋萎縮効果を得るための推奨摂取量としては、0.1mg/日から100g/日が好ましく、さらに好ましくは、0.1g/日から50g/日である。田七人参の水抽出物を用いた場合、筋萎縮効果を得るための推奨摂取量としては、0.1mg/日から100g/日が好ましく、さらに好ましくは、50mg/日から25g/日である。田七人参の水抽出物に無水エタノール洗浄工程を包含した場合、筋萎縮効果を得るための推奨摂取量としては、0.1mg/日から100g/日が好ましく、さらに好ましくは、10mg/日から10g/日である。かかる範囲において、服用者の年齢、性別、健康状態によって、最適な摂取量、摂取方法、摂取回数、摂取期間を適宜に決めればよい。前記摂取量として100g/日より増やしても効果の増強は高原状態となるので不経済であり、0.1mg/日未満とすると、筋萎縮抑制効果が期待できなくなる。
【0030】
本発明の任意有効成分として用いるクレアチンは、生体内に存在するアミノ酸の一種であり、食肉や水産物、哺乳類の乳から抽出したり、工業的に製造したりすることにより得られる。調製法に関しては数多くの研究がなされている。例えば、乳又は乳製品を限外濾過処理する工程で得られる透過液を原料とし、電気透析装置、イオン交換樹脂、ナノ膜濾過装置等を使用したクレアチンの分離・精製法が報告されている。また、工業的製造法は、サルコシンもしくはナトリウムサルコシネートまたはカリウムサルコシネートをシアナミドまたはO−メチルイソ尿素と反応させることによって行なわれ、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第5版、第A12巻、第552頁、VCH-Verlagsgesellschaft,Weinheim (1987)ならびに、これらの中に引用された刊行物中に記載されている。
【0031】
このクレアチンを本発明の筋萎縮抑制に添加して前記必須有効成分であるウコギ科人参抽出物と併用する場合の摂取量は、5g/日から0.05mg/日が好ましい。5gより増量しても効果の増加はわずかであるので不経済となる。また、0.05mg未満とすると、所望の効果を得ることができなくなる。
【0032】
また、本発明の任意有効成分として用いるカゼイン分解ペプチドは、カゼインのトリプシンやペプシン加水分解物から得られるもので、Phe-Phe-Val-Ala-Pro-Phe-Pro-Glu-Val-Phe-Gly-Lys(配列表)で表されるペプチドもしくはその酸付加塩を含有するものである。
【0033】
前記カゼインは、広く食品添加物として用いられているカゼイン、例えば、牛乳由来のカゼイン、酸カゼイン、カゼイン塩類を用いることができる。トリプシン、ペプシンは市販のものを使用することができ、これらは、特公昭60−23085号公報、特公昭61−51562号公報に記載されている公知の加水分解法により得ることができる。
【0034】
かかるカゼイン分解ペプチドとしては、具体的には、後述の実施例で使用したC12ペプチド(DMV社製)を挙げることができる。ここでいうC12ペプチドとは、ミルクプロテインのカゼインを酵素分解して得られる12個のアミノ酸からなるペプチドである。
【0035】
このカゼイン分解ペプチドを本発明の筋萎縮抑制に添加して前記必須有効成分であるウコギ科人参抽出物と併用する場合の摂取量は、0.05mg/日から5g/日が好ましい。5gより増量しても効果の増加はわずかであるので不経済となる。また、0.05mg未満とすると、所望の効果を得ることができなくなる。
【0036】
本発明の筋萎縮抑制剤には、必須有効成分としてウコギ科人参を含有し、好ましくは、クレアチンおよびカゼイン分解ペプチドから選ばれる少なくとも一種類を任意有効成分として添加、併用するが、その場合の配合割合は、人参を抽出物として使用する場合では、人参抽出物を成分A、クレアチンおよびカゼイン分解ペプチドから選ばれる少なくとも一種類を成分Bとして表すと、A:B=1:9〜5:5であり、この範囲に設定すれば、併用効果が高い。服用者への最も適切な配合比は、年齢、性別、健康状態などによって、適宜、決めればよい。
【0037】
本発明の筋萎縮抑制剤の製剤化は、公知の製剤技術により行なうことができ、製剤中には適当な添加物も加えることができる。本発明の筋萎縮抑制剤は経口的に投与するか、経皮的に投与するのが望ましい。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明にかかる筋萎縮抑制剤の実施例を説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明を説明するための好適な例示であり、なんら本発明を限定するものではない。
【0039】
(実施例1)
松浦薬業株式会社製の田七粉100gを2000gの水に拡散し、15℃に保ちながら3時間攪拌した。3000rpmで10分間の遠心分離によって得た上清を、ろ過し、約15倍に濃縮して田七人参水抽出物とした。
【0040】
さらに、上記の田七人参水抽出物に、95%エタノール(和光純薬社製)を体積で3倍量添加し、室温で2時間攪拌した後、3000rpmで10分間の遠心分離によって、沈殿物(水による粗抽出物)を得た。この沈殿物を無水エタノール(和光純薬社製)で2回洗浄し、吸引ろ過、室温乾燥後、エタノールによって洗浄精製された「田七人参水抽出物エタノール洗浄品」を得た。
松浦薬業株式会社製の田七粉100重量%に対し、得られた田七人参水抽出物エタノール洗浄品(水抽出物洗浄精製物)は約25重量%の収率であった。
【0041】
上記実施例で得られた「田七人参水抽出物エタノール洗浄品」を用いて、筋肉培養細胞、筋萎縮モデル動物に対して行なった試験方法及びその結果を、以下の実施例2において説明する。
【0042】
(実施例2)
この実施例2では、本発明に係る筋萎縮抑制剤を構成する必須有効成分であるウコギ科人参(下記サンプル1,2)と、IGF−1(比較対照の下記サンプル3)とに対して、以下のように筋芽細胞の増殖促進効果について評価した。なお、比較に用いたIGF−1とは、インシュリン様成長因子−1であり、筋芽細胞増殖作用を示す医薬品である。
【0043】
対象とする筋芽細胞として、大日本住友製薬社製のマウス由来筋芽細胞(商品名「C2C12」)を用いた。また、必須有効成分のサンプル1として松浦薬業株式会社製の「田七人参エキス末」を、サンプル2として上記実施例1で得た「田七人参水抽出物エタノール洗浄品」を、比較サンプル3として上述のIGF−1を用意した。また、培地は、インビトロジェン社製のDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)を用いた。
【0044】
5×10個の前記筋芽細胞を400μLの培地(10%FBS、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを含有したDMEM)に縣濁し、25ウェル・プレートに播種後、37℃、5%CO下で3時間培養して定着させた。
【0045】
その後、評価用の培地[0.5%FBS(ウシ胎仔血清)、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、各サンプル1〜3を含有したDMEM]400μLに交換した。各サンプル1〜3の評価濃度を終濃度で0.1、1、10、100ppmとした。各サンプル1〜3について1%の水溶液(疎水性のサンプルはエタノール溶液)を調製し、終濃度となるように適宜添加した。
【0046】
前述の培地を2日間培養後、培地を抜き取り、10%アラマーブルー、0.5%FBS、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンを添加したDMEMを200μL添加し、3時間培養後、蛍光プレートリーダーにて蛍光値(Ex544,Em590)を測定(蛍光強度が細胞数と比例)した。
相対増殖度は、以下の式(1)にて算出して求めた。
(相対増殖度)=(サンプル添加時の蛍光強度)÷(サンプル無添加の蛍光強度)
・・・(1)
【0047】
サンプル無添加の蛍光強度1.00に対して各サンプル添加による蛍光強度を測定した。サンプル3(IGF−1)を添加したものの蛍光強度が1.48であったのに対して、サンプル1(田七人参エキス末)を添加したものの蛍光強度は1.36であり、サンプル2(田七人参水抽出物エタノール洗浄品)を添加したものの蛍光強度は1.40であり、田七人参(サンプル1,2)の筋芽細胞増殖作用は、効果の高い医薬品であるIGF−1(サンプル3)添加の場合とほぼ同等であることが確認された。
【0048】
(実施例3)
この実施例3では、本発明に係る筋萎縮抑制剤を構成する必須有効成分であるウコギ科人参に対して、以下のように筋芽細胞の分化促進効果について評価した。
【0049】
対象とする筋芽細胞として、大日本住友製薬社製のマウス由来筋芽細胞(商品名「C2C12」)を用いた。また、評価用サンプルとして、前記サンプル1及びサンプル2に加えて、比較サンプル4としてクレアチン(デグサバイオアクティブス社製の「クレアチンシトレート(商品名)」)を用意した。また、培地は、インビトロジェン社製のDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)を用いた。
【0050】
12ウェル細胞培養プレートに前記筋芽細胞(C2C12)を播種し、培養液DMEM+10%FBS+1%ペニシリン−ストレプトマイシン1mLにて、90%コンフルエントまで培養した。前記筋芽細胞をDMEM+1%ペニシリン−ストレプトマイシン1mLにて2回洗浄した後、DMEM+1%ペニシリン−ストレプトマイシン1mLに、下記(表2)に示した、100ppm、1000ppm、10000ppmの評価用サンプル1,2及び比較サンプル4を、10μL添加して、終濃度1ppm、10ppm、100ppmの評価用培養液とした。
【0051】
上記各評価用培養液に対して、3日後に同じ培養液で培地交換を行い、5日間培養して分化を誘導した。各サンプルは、蒸留水またはエタノールに1%濃度で溶解してフィルター滅菌し、DMEM+1%ペニシリン−ストレプトマイシンにて、1倍、10倍、100倍に希釈し、それぞれ10000ppm、1000ppm、100ppm溶液とした。
【0052】
筋芽細胞の分化の程度を定量化するために、文献(Z-Q cheng, Jornal of Endcrinology, 167, 175-182 (2000))において分化マーカーとして利用されているクレアチンキナーゼ活性を測定した。クレアチンキナーゼ活性は、プロテアーゼインヒビターカクテル(シグマ社)を1%添加したCellytic M(シグマ社)100μLにて細胞を溶解し、遠心上清をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)にて100倍希釈したものをサンプルとして、CPKIIテストワコー(和光純薬株式会社製)の方法に従って測定した。評価用の各サンプルの効果を示す指標として、分化促進率(=成分サンプル添加時のクレアチンキナーゼ活性/無添加時のクレアチンキナーゼ活性)を用いた。
【0053】
測定された分化促進率は、田七人参エキス末のサンプル1では、1.10倍であり、田七人参水抽出物エタノール洗浄品のサンプル2では、1.36倍であり、比較サンプル4のクレアチンサンプルでは1.25倍であり、ウコギ科人参(サンプル1,2)に筋芽細胞分化促進作用があることが、確認された。
【0054】
(実施例4)
この実施例では、本発明に係る筋萎縮抑制剤の筋萎縮予防効果について評価した。
ラット(ウイスター系、♀、8週齢、各群10匹)へ、標準餌AIN−93G(日本SLC社製)に1%の割合で下記(表1)に示す評価用サンンプル1,1A,2,2A,2B,5,および6を添加したものを、1日15gづつ3週間摂取させた。
【0055】
ウコギ科人参としては、松浦薬業株式会社製の田七人参エキス末(サンプル1)と、田七人参粉末(サンプル1A)と、御種人参エキス末(サンプル5)、田七人参水抽出物エタノール洗浄品(サンプル2、2A、2B)とを用いた。また、クレアチンとしては、デグサバイオアクティブス社製のクレアチンシトレート(サンプル2A)を用い、カゼイン分解ペプチドとしては、DMV社製のC12ペプチド(サンプル2B)を用い、果実ポリフェノールとしてはキッコ-マン株式会社製のグラヴィノ-ルスーパー(比較サンプル6)を用いた。これに対して、対照群には1%コーンスタ-チ(日本SLC社製)を混ぜた標準餌を摂取させた。
【0056】
試験開始1週間目から試験終了最終日(試験開始から14日目)まで、ラットの右後肢をギプス固定し、筋萎縮を誘導した。試験終了最終日に右後肢を解剖し、ヒラメ筋の湿重量を測定した。筋萎縮率は、対照群の左後肢ヒラメ筋湿重量を100としたときの右後肢ヒラメ筋湿重量平均相対値により求めた。測定結果を下記(表1)に併記した。
【0057】
【表1】

【0058】
(表1)から明らかなように、本発明の評価サンプル1,2,2A,2B,5は、対照群および比較サンプル6に比べて、筋萎縮予防効果が高い。そして、本発明の評価サンプル1,2,2A,2B,5のなかでも、田七人参水抽出物エタノール洗浄品(サンプル2)の筋萎縮予防効果が高く、さらに田七人参水抽出物エタノール洗浄品にC12ペプチドを併用したサンプル2Bやクレアチンを併用したサンプル2Aでは、さらに高い筋萎縮予防効果が得られることが確認された。
【0059】
本発明の筋萎縮抑制剤の使用形態としては、経口剤または皮膚外用剤として用いることが好ましい。以下に、本発明の筋萎縮抑制剤を経口剤として用いた配合例(2例)、皮膚外用剤として用いた配合例(2例)とを例示する。
【0060】
(配合例1:内服液(経口剤))
田七人参水抽出物エタノール洗浄品:1000mg、江崎グリコ(株)製「αGヘスペリジン」:1000mg、ビタミンB1硝酸塩:10mg、アスコルビン酸:500mg、マルチトール:15000mg、ビタミンB6:10mg、イノシトール:50mg、無水カフェイン:20mg、リンゴ酸:150mg、クエン酸:700mg、クエン酸ナトリウム:適量、グリセリン:60mg、安息香酸ナトリウム:70mg、および香料:微量を内服液成分とし、これらを精製水に混合し、溶解して、100mlの内服液(pH=4.5)を得た。
【0061】
(配合例2:タブレット(経口剤))
田七人参水抽出物エタノール洗浄品:20g、ゼラチン:130g、グリセリン:70g、水:100g、およびパラオキシ安息香酸エチル:0.5gを、加熱し攪拌して、均一なゼラチン分散液(L1)を得た。
一方、酵素分解レシチン:100gとグリチルリチン酸ジカリウム:0.4gを、小麦胚芽油:200gにホモミキサーを用いて分散させて均一な溶液状の小麦胚芽油液(L2)とした。
上記ゼラチン分散液(L1)を直径12mmのアルミ製のカプセル用の型に押し出し、ゼラチンカプセルを得た。
次いで、小麦胚芽油液(L2)をノズルによって押し出して前記ゼラチンカプセル内に注入し、充填、冷却、乾燥した。これにより液状の小麦胚芽油液(L2)の充填されたゼラチンのゲル状外層を有する固形製剤(タブレット経口剤:ゲル状組成物)を得た。
【0062】
上記固形製剤1個あたりの組成および組成量を以下に示す。
ゼラチン:130mg(外層)
グリセリン:70mg(外層)
パラオキシ安息香酸エチル:0.5mg(外層)
αGヘスペリジンPS:20mg(筋萎縮抑制成分)
酵素分解レシチン:50mg:(矯味、矯臭成分)
グリチルリチン酸ジカリウム:0.5mg(矯味、矯臭成分)
小麦胚芽油 100mg:(内層)
以上、合計:371mg
【0063】
(配合例3:貼付液(皮膚外用剤))
下記に示す油層成分および水層成分を用意した。
以下の配合量(数字)は特に断りがなければ、質量(%)を表す。
(水層成分)
田七人参水抽出物エタノール洗浄品:5.0g、セトステアリルアルコール:4.0g、モノステアリン酸グリセリン:2.0g、POE(20)ソルビタンモノラウレート:2.0g、グリコ-ル酸:0.2g、サリチル酸:0.1g、局方イオウ:5.0g、ジグリセリン:5.0g、レゾルシンーラボナイト複合体:1.0g、水酸化ナトリウム:適量。
(油層成分)
スクワラン:10.0g、流動パラフィン:3.0g、蜜ロウ:2.0g。
香料:微量、精製水:バランス。
【0064】
上記油層成分および水層成分を別々に70℃で加熱した後、混合し乳化した。これを冷却しながら途中で香料を加えて、さらに室温まで冷却し、100gの貼付液(皮膚外溶剤)を得た。
【0065】
(配合例4:貼付剤シート(皮膚外用剤)
ポリエチレングリコール400(質量平均分子量400):10.00g、田七人参水抽出物エタノール洗浄品:3.75g、L−メントール:2.00gを混合溶解して混合溶液(L3):15.75gを得た。
次に、150℃に加熱したゴム系粘着剤SIS(商品名「クレイトンD−1107」、クレイトンポリマージャパン社製):73.7gに対して、脂環族炭化水素(商品名「アルコンP−100」、荒川化学社製)を110.55gの割合で混合して、粘着成分(M):184.25gを得た。
次に、上記混合溶液(L3):15.75gと、上記粘着成分(M):184.25gとを加えて混合し、膏体組成物:200gを得た。
次いで、上記膏体組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET、ライナー)上に、塗工量(膏体質量)が乾燥後に100g/mになるようにホットメルト法により塗工して、シート状の膏体を得た。
最後に、ポリウレタンフィルム/ポリエステルニット積層支持体(ニット目付け:30g/m、厚さ:180μm、透湿度:2200g、透明度:49)を用いて、上記膏体の膏面を被覆し、貼付剤シートを得た。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明にかかる筋萎縮抑制剤は、筋芽細胞の増殖作用および分化作用の両作用を有し、係る作用に基づいて優れた筋萎縮抑制効果を発揮するウコギ科人参を有効成分として含有している。したがって、本発明に係る筋萎縮抑制剤を適宜に摂取することにより、罹病や怪我などにより長期に亘り運動不足となる場合などに生じる筋萎縮を効果的に抑制し、筋萎縮により生活の質が損なわれることを低減もしくは予防することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウコギ科人参を有効成分として含有することを特徴とする筋萎縮抑制剤。
【請求項2】
前記ウコギ科人参を水抽出物の形態で含有することを特徴とする請求項1に記載の筋萎縮抑制剤。
【請求項3】
前記ウコギ科人参の水抽出物は水によるウコギ科人参の粗抽出物が有機溶媒により洗浄されて精製されたものであることを特徴とする請求項2に記載の筋萎縮抑制剤。
【請求項4】
前記有機溶媒が80〜100%エタノールであることを特徴とする行なわれる請求項3に記載の筋萎縮抑制剤。
【請求項5】
前記ウコギ科人参が田七人参であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の筋萎縮抑制剤。
【請求項6】
さらに、クレアチン、カゼイン分解ペプチドから選ばれる一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の筋萎縮抑制剤。
【請求項7】
前記カゼイン分解ペプチドを含む場合のカゼイン分解ペプチドがC12ペプチドであることを特徴とする請求項6に記載の筋萎縮抑制剤。
【請求項8】
経口又は皮膚外用であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の筋萎縮抑制剤。

【公開番号】特開2008−179620(P2008−179620A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330681(P2007−330681)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】