説明

筒状フィルタ

【課題】 濾過速度が速く、更に濾過寿命の長い筒状フィルタを提供すること。
【解決手段】 本発明の筒状フィルタは、多孔筒の周囲に濾過材を巻回した筒状フィルタであって、静電紡糸不織布からなる濾過材Aと、メルトブロー不織布、スパンボンド不織布、湿式不織布の群から選ばれる濾過材Bが巻回されており、濾過材Aは濾過流体の流れ方向において濾過材Bよりも下流側に巻回されている。なお、静電紡糸不織布のフラジール通気度が目付15g/mあたり10cm/cm/sec以下であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筒状フィルタに関する。より具体的には、液体濾過に好適に使用することができる筒状フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から液体中の固形物を濾過できるフィルタとして、濾過材を多孔筒の周囲に巻回した筒状フィルタが知られている。例えば、「液体通過孔を有する管状コアー部材の外側に平均繊維径が0.1〜10μmの間にあり、繊維径分布のばらつきを示す指数である標準偏差を平均値でわったCV%が50%以下である極細繊維よりなり、目付が5〜200g/mの範囲にある繊維集合体を少なくとも3巻以上巻き付け端部を固定したカートリッジフィルタにおいて、コアー部材に近い繊維集合体ほど繊維の分散状態が良く均一に繊維が分布させた事を特徴とするフィルターカートリッジ。」(特許文献1)が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−31813号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このフィルターカートリッジは繊維の分散状態を変化させ、上流側ほど繊維の分布を悪くしている。このようにすることで、孔径の分布が大きい上流側で大きい粒子を除去し、孔径の分布の小さい下流側で小さい粒子を除去することでき、濾過寿命をのばすことを可能としている。しかしながら、下流側にメルトブロー不織布のような従来の濾過材を使用した場合、メルトブロー不織布の密度が大きいので、流体が流れにくくなり濾過速度の低下をまねいていた。また、流体を流した時の圧力損失も大きく、一定の圧力に達するまでの濾過量が小さくなり、十分な濾過寿命が得られないものであった。
【0005】
本発明は前記問題点を解決するためになされたものであり、濾過速度が速く、更に濾過寿命の長い筒状フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1にかかる発明は、「多孔筒の周囲に濾過材を巻回した筒状フィルタであって、静電紡糸不織布からなる濾過材Aと、メルトブロー不織布、スパンボンド不織布、湿式不織布の群から選ばれる濾過材Bが巻回されており、濾過材Aは濾過流体の流れ方向において濾過材Bよりも下流側に巻回されていることを特徴とする筒状フィルタ。」である。
【0007】
本発明の請求項2にかかる発明は、「静電紡糸不織布のフラジール通気度が目付15g/mあたり10cm/cm/sec以下であることを特徴とする、請求項1記載の筒状フィルタ。」である。
【0008】
本発明の請求項3にかかる発明は、「静電紡糸不織布の厚さが50〜200μmであることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の筒状フィルタ。」である。
【0009】
本発明の請求項4にかかる発明は、「静電紡糸不織布が単層構造からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の筒状フィルタ。」である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1にかかる発明は、静電紡糸不織布からなる濾過材Aと濾過材Bとを含み、濾過材Aが下流側となるように巻回されていることによって、濾過速度を向上させることができ、また、圧力損失の低下をはかることができるため、濾過寿命を長くすることができる。
【0011】
本発明の請求項2にかかる発明は、静電紡糸不織布のフラジール通気度が目付15g/mあたり10cm/cm/sec以下であるため、濾過精度が向上するという効果がある。
【0012】
本発明の請求項3にかかる発明は、静電紡糸不織布の厚さが50〜200μmであるため、濾過精度が向上するという効果がある。
【0013】
本発明の請求項4にかかる発明は、静電紡糸不織布が単層構造からなるため、多孔筒に巻回しても、多層構造に見られるような層間剥離が生じないという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の筒状フィルタは静電紡糸不織布からなる濾過材Aと、メルトブロー不織布、スパンボンド不織布、湿式不織布の群から選ばれる濾過材Bとを組み合わせた点に特長がある。メルトブロー不織布、スパンボンド不織布、湿式不織布の群から選ばれる濾過材Bは、静電紡糸不織布からなる濾過材Aに比べて、孔径が大きいため、濾過流体の濾過速度を落とすことなく、大きな粒子を除去することができる。濾過材Bによって小さな粒子を除去するには、濾過材Bの孔径を小さく、つまり、濾過材Bの密度を大きくする必要がある。しかしながら、濾過材Bの密度を大きくすると、濾過流体の流れが悪くなり、濾過寿命、濾過速度の低下をまねく。これに対して、静電紡糸不織布からなる濾過材Aは密度が小さいにもかかわらず、孔径が小さいため、濾過流体の流れも良く、濾過寿命及び濾過精度に優れている。そのため、本発明の筒状フィルタによれば、孔径が大きく、圧力損失の小さい濾過材Bで大きい粒子を除去した後、孔径が小さく、圧力損失も小さい濾過材Aで小さい粒子をすることができるため、濾過速度が速く、濾過寿命の長いものである。
【0015】
この濾過材Aである静電紡糸不織布は、小さい孔径を有するように、平均繊維径が10nm〜2000nmであるのが好ましく、50nm〜1000nmであるのがより好ましく、100nm〜500nmであるのが更に好ましい。なお、本発明における「平均繊維径」は厚さ方向断面の電子顕微鏡写真をもとに50ヶ所以上の繊維径を測定し、その繊維径を算術平均した値をいう。繊維の横断面形状が非円形である場合には、横断面積と同じ面積をもつ円の直径を繊維径とみなす。
【0016】
静電紡糸不織布を構成する繊維の繊維長は特に限定するものではないが、繊維の脱落が発生しにくいように、0.1mm以上であるのが好ましく、特に、連続繊維であるのが好ましい。
【0017】
なお、静電紡糸不織布構成繊維は濾過流体によって浸されないものであれば良く、特に限定するものではないが、繊維構成樹脂は、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンなどの有機材料、あるいは石英ガラスなどの無機材料を挙げることができる。なお、静電紡糸不織布構成繊維は単一樹脂から構成されている必要はなく、二種類以上の樹脂から構成されていても良い。
【0018】
本発明の静電紡糸不織布は上述のような繊維から構成されているが、繊維は束状になく、繊維が分散した状態にある。そのため、孔径分布が均一で、濾過精度に優れている。より具体的には、最大孔径が5μm以下(好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下)で、平均流量孔径が3μm以下(好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、好ましくは0.1μm以上)で、最大孔径が平均流量孔径の5倍以下(好ましくは3倍以下、より好ましくは2倍以下)である。なお、本発明における最大孔径はポロメータ(Porometer、コールター(Coulter)社製)を用いてバブルポイント法により測定した値をいい、平均流量孔径はポロメータ(Porometer、コールター(Coulter)社製)を用いて、ミーンフローポイント法により測定した値をいう。
【0019】
本発明の静電紡糸不織布はフラジール通気度が目付15g/mあたり10cm/cm/sec以下であるのが好ましい。フラジール通気度が目付15g/mあたり10cm/cm/secを超えると、孔径が大き過ぎて、十分な濾過性能が得られないためで、7.5cm/cm/sec以下であるのがより好ましい。なお、圧力損失が大きくなり過ぎて、濾過速度が遅くなり、濾過寿命が短くならないように、2cm/cm/sec以上であるのが好ましく、2.5cm/cm/sec以上であるのがより好ましい。このフラジール通気度はJIS−L1096:1999(一般織物試験方法)8.27.1に規定されたA法(フラジール形法)により得られる値をいう。なお、目付15g/mあたりのフラジール通気度への換算は、目付と通気度とが反比例の関係にあることから算出できる。例えば、目付30g/mの濾過材Aの通気度がP(cm/cm/sec)の場合、目付15g/mでは2P(cm/cm/sec)と換算でき、目付10g/mの濾過材Aの通気度がP(cm/cm/sec)の場合、目付15g/mでは(2/3)P(cm/cm/sec)と換算できる。
【0020】
静電紡糸不織布の目付は、目付が小さすぎると小さな粒子が漏れ出し、十分な濾過精度が得られず、目付が大きすぎると圧力損失が大きくなるため、3g/m〜100g/mであるのが好ましく、5g/m〜30g/mであるのがより好ましい。また、静電紡糸不織布の厚さは、厚さが小さすぎると小さな粒子が漏れ出し十分な濾過精度が得られず、厚さが大きすぎると圧力損失が大きくなるのため、50〜200μmであるのが好ましく、80〜180μmであるのがより好ましく、100〜150μmであるのが更に好ましい。更に、静電紡糸不織布の見掛密度は濾過流体が流れやすく、濾過寿命及び濾過速度に優れているように、0.05g/cm〜0.5g/cmであるのが好ましく、0.1g/cm〜0.3g/cmであるのがより好ましい。なお、本発明における目付は10cm角の正方形サンプルの重量を測定し、その重量を100倍した値をいい、厚さは1cm当り2mNの荷重をかけた時の厚さをいい、見掛密度は目付(g/cm)を厚さ(cm)で除した値をいう。
【0021】
なお、静電紡糸不織布は単層構造からなるのが好ましい。静電紡糸不織布が多層構造からなると、多孔筒の周囲に巻回した際に層間で剥離しやすくなるためである。本発明における単層構造とは、平均繊維径の同じ層のみからなることを意味し、例えば、繊維の樹脂組成が異なっていても、平均繊維径の同じ層を2層有する場合であっても単層構造とみなし、平均繊維径の異なる静電紡糸不織布を2層有する場合は単層構造とはみなさない。
【0022】
このような静電紡糸不織布は、ノズル等から供給した紡糸溶液に対して電界を作用させることにより延伸して繊維化し、集積させることによって製造された不織布である。
【0023】
より具体的には、まず、紡糸溶液を用意する。この紡糸溶液は繊維構成材料を溶解させた溶液である。例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンなどの有機高分子を溶解させた溶液、或いは金属アルコキシドを加水分解した曳糸性のゾル溶液を使用することができる。これら例示以外の材料を溶解させた紡糸溶液も使用可能であり、例示以外の材料も含めて、二種類以上の材料を溶解させた紡糸溶液も用いることができる。
【0024】
紡糸溶液の溶媒は繊維構成材料によって異なり、特に限定するものではないが、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、ピリジン、トリクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトニトリルなどを挙げることができる。これら例示以外の溶媒も使用可能であり、例示以外の溶媒も含めて、2種以上の溶媒を用いた混合溶液も使用することができる。
【0025】
このような紡糸溶液をノズルへ供給し、ノズルから吐出するとともに、吐出した紡糸溶液に電界を作用させて繊維化する。
【0026】
この紡糸溶液を吐出するノズルの直径は、繊維の平均繊維径によって変化するが、平均繊維径を2000nm以下とすることができるように、ノズルの直径(内径)は0.2〜1.5mmであるのが好ましい。
【0027】
また、ノズルは金属製であっても、非金属製であっても良い。ノズルが金属製であればノズルを一方の電極として使用することができ、ノズルが非金属製である場合には、ノズルの内部又は紡糸溶液供給管内に電極を設置することにより、吐出した紡糸溶液に電界を作用させることができる。
【0028】
このようなノズルから紡糸溶液を吐出した後、吐出した紡糸溶液に電界を作用させることにより延伸して繊維化する。この電界は、繊維の平均繊維径、ノズルと繊維を集積する捕集体との距離、紡糸溶液の溶媒、紡糸溶液の粘度などによって変化するため、特に限定するものではないが、繊維の平均繊維径を2000nm以下とするには、0.2〜5kV/cmであるのが好ましい。印加する電界が大きければ、その電界値の増加に応じて繊維の平均繊維径が小さくなる傾向があるが、5kV/cmを超えると、空気の絶縁破壊が生じやすいので好ましくない。また、0.2kV/cm未満になると、繊維形状となりにくい。
【0029】
前述のように吐出した紡糸溶液に電界を作用させることにより、紡糸溶液に静電荷が蓄積され、捕集体側の電極(後述)によって電気的に引張られ、引き伸ばされて繊維化する。電気的に引き伸ばしているため、繊維が捕集体に近づくにしたがって、電界により繊維の速度が加速され、平均繊維径のより小さい繊維となる。また、溶媒の蒸発によって細くなり、静電気密度が高まり、その電気的反発力によって分裂し、更に平均繊維径の小さい繊維になると考えている。
【0030】
このような電界は、例えば、ノズル(金属製ノズルの場合にはノズル自体、ガラスや樹脂などの非金属製ノズルの場合にはノズル内部又は紡糸溶液供給管内の電極)と捕集体との間に電位差を設けることによって、作用させることができる。例えば、ノズルに電圧を印加するとともに捕集体をアースすることによって電位差を設けることができるし、逆に、捕集体に電圧を印加するとともにノズルをアースすることによって電位差を設けることもできる。なお、電圧を印加する装置は特に限定されるものではないが、直流高電圧発生装置を使用できるほか、ヴァン・デ・グラフ起電機を用いることもできる。また、印加電圧は前述のような電界強度とすることができるのであれば良く、特に限定するものではないが、5〜50KV程度であるのが好ましい。
【0031】
次いで、前記繊維化した繊維を捕集体上に集積させて不織布(静電紡糸不織布)を形成できる。この捕集体は繊維を捕集できるものであれば良く、特に限定されるものではないが、例えば、金属製や炭素などの導電性材料、又は有機高分子などの非導電性材料からなる、不織布、織物、編物、ネット、平板、ドラム、或いはベルトを使用できる。また、場合によっては水や有機溶媒などの液体を捕集体として使用できる。
【0032】
前述のように捕集体を他方の電極として使用する場合には、捕集体は体積抵抗が10Ω以下の導電性材料(例えば、金属製)からなるのが好ましい。一方、ノズル側から見て、捕集体よりも後方に対向電極として導電性材料を配置する場合には、捕集体は必ずしも導電性材料である必要はない。後者のように、捕集体よりも後方に対向電極を配置する場合、捕集体と対向電極とは接触していても良いし、離間していても良い。
【0033】
本発明の筒状フィルタは前述のような静電紡糸不織布からなる濾過材Aに加えて、メルトブロー不織布、スパンボンド不織布、湿式不織布の群から選ばれる濾過材Bが巻回されている。この濾過材Bは孔径が大きいため、粒子径の大きい粒子を除去することができ、濾過材Aへの負荷を減らすことができるので、濾過寿命をのばすことができる。
【0034】
より具体的には、濾過材Bがメルトブロー不織布からなる場合には、前述の効果に加えて、繊維の移行や繊維の脱落が少ないという特長がある。このメルトブロー不織布の平均繊維径、平均流量孔径は、静電紡糸不織布(濾過材A)との関係で適宜変化するため、特に限定するものではないが、平均繊維径は0.5μm〜10μmであるのが好ましく、1μm〜5μmであるのがより好ましい。また、平均流量孔径は0.5〜100μmであるのが好ましく、1〜10μmであるのがより好ましい。
【0035】
この「メルトブロー不織布」は、メルトブロー法により製造された不織布をいい、例えば、樹脂を吐出するダイを温度220〜350℃に加熱し、ダイから吐出した樹脂に対して、1m当り2〜8Nm/min.のエアーを作用させてメルトブロー繊維を形成した後、ロールやコンベアなどの捕集体により捕集して製造することができる。
【0036】
なお、メルトブロー繊維は熱可塑性樹脂から構成することができ、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂など)、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂など1種類以上から構成することができる。これら樹脂の中でも、ポリオレフィン系樹脂(特に、ポリプロピレン)は耐薬品性に優れ、汎用性にも優れているため好適である。なお、メルトブロー繊維を構成する樹脂成分は1種類である必要はなく、2種類以上含んでいても良い。
【0037】
このメルトブロー不織布はオリフィスから吐出されたメルトブロー繊維を捕集体で捕集して集積したものをそのまま使用しても良いし、平均流量孔径を調節するために、集積後に加熱処理及び/又は加圧処理を実施したものを使用しても良い。加熱処理及び加圧処理を実施する場合、加熱処理と加圧処理とを同時に実施しても良いし、加熱処理を実施した後に加圧処理を実施しても良い。いずれの場合の加熱温度も、メルトブロー繊維(メルトブロー繊維が融点の異なる2種類以上の熱可塑性樹脂からなる場合には、最も低い融点を有する樹脂)の融点よりも5〜120℃低い温度であるのが好ましく、いずれの場合の線圧力も0.3〜3kN/cmであるのが好ましい。本発明における「融点」は示差走査熱量計を用い、昇温温度10℃/分で、室温から昇温して得られる融解吸熱曲線の極大値を与える温度をいう。なお、極大値が2つ以上ある場合には、最も高温の極大値を融点とする。
【0038】
本発明のメルトブロー不織布の目付は5〜200g/mであるのが好ましく、20〜100g/mであるのがより好ましい。また、厚さは0.05〜0.5mmであるのが好ましく、0.1〜0.3mmであるのがより好ましい。更に、見掛密度は0.5〜1.0g/cmであるのが好ましく、0.6〜0.9g/cmであるのがより好ましい。
【0039】
濾過材Bがスパンボンド不織布からなる場合には、前述の効果に加えて、繊維の移行や繊維の脱落が少ないという特長がある。また、メルトブロー不織布と比較して繊維径が大きいので、孔径も大きく、大きな粒子を捕捉できる。この「スパンボンド不織布」は、常法のスパンボンド法により得られる不織布をいい、市販されているため容易に入手することができる。このスパンボンド不織布の平均繊維径は静電紡糸不織布(濾過材A)との関係で適宜変化するため、特に限定するものではないが、平均繊維径は1〜200μmであるのが好ましく、5〜100μmであるのがより好ましい。また、平均流量孔径は5〜500μmであるのが好ましく、30〜200μmであるのがより好ましい。
【0040】
なお、スパンボンド不織布を構成するスパンボンド繊維は、前述のメルトブロー繊維と同様の樹脂成分1種類以上から構成することができる。このスパンボンド不織布は常法のスパンボンド法により得られるスパンボンド不織布をそのまま使用しても良いし、平均流量孔径を調節するために、加熱処理及び/又は加圧処理を実施したものを使用しても良い。加熱処理及び加圧処理を実施する場合、加熱処理と加圧処理とを同時に実施しても良いし、加熱処理を実施した後に加圧処理を実施しても良い。いずれの場合であっても加熱する場合の温度は、スパンボンド繊維(スパンボンド繊維が融点の異なる2種類以上の熱可塑性樹脂からなる場合には、最も低い融点を有する樹脂)の融点より5〜120℃低い温度であるのが好ましく、線圧力は0.3〜3kN/cmであるのが好ましい。
【0041】
本発明のスパンボンド不織布の目付は5〜100g/mであるのが好ましく、20〜60g/mであるのがより好ましい。また、厚さは0.05〜0.5mmであるのが好ましく、0.1〜0.3mmであるのがより好ましい。更に、見掛密度は0.5〜0.9g/cmあるのが好ましく、0.6〜0.8g/cmであるのがより好ましい。
【0042】
濾過材Bが湿式不織布からなる場合には、前述の効果に加えて、繊維の分散が均一で、孔径分布も均一であるため、孔径に応じた大きい粒子を確実に捕捉することができるという特長がある。具体的には、最大孔径が30μm以下(好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下)で、平均流量孔径が0.5〜100μm(好ましくは1〜10μm)で、最大孔径が平均流量孔径の3倍以下(好ましくは2.5倍以下、より好ましくは2倍以下)である。
【0043】
この「湿式不織布」は、湿式法により繊維ウエブを形成した後に、繊維ウエブを水流などの流体流によって絡合させたり、繊維ウエブ中に融着性繊維を含ませておいて融着性繊維によって接着したり、エマルジョンバインダーやラテックスバインダーによって接着したり、或いはこれらを併用することにより繊維同士を結合した不織布をいう。
【0044】
なお、湿式不織布は前述のような平均流量孔径であることが容易であるように、平均繊維径が0.5〜10μm(好ましくは1〜3μm)の極細繊維を含んでいるのが好ましい。このような極細繊維は、例えば、海島型複合繊維から海成分を除去することによって島成分からなる極細繊維を得ることができるし、分割型複合繊維を外力によって分割し、個々の樹脂成分からなる極細繊維を得ることができるし、分割型複合繊維を化学的に膨潤させることによって分割し、個々の樹脂成分からなる極細繊維を得ることができるし、或いはスーパードロー法のように溶融紡糸することによって極細繊維を得ることができる。
【0045】
本発明の湿式不織布は前述のような最大孔径及び平均流量孔径であることが容易であるように、繊維ウエブを形成した後に、繊維の融着のみによって結合したものであるのが好ましい。水流などの流体流によって絡合させると、貫通孔が形成され、最大孔径や平均流量孔径が大きくなるためである。そのため、本発明の湿式不織布は融着性繊維を含んでいるのが好ましいが、この融着性繊維は融着後にも繊維形態を維持して強度的に優れるように、2種類以上の樹脂からなる、繊維断面における配置が芯鞘型、偏芯型、サイドバイサイド型、海島型、オレンジ型、多重バイメタル型などの複合繊維であるのが好ましい。この融着性繊維は融着繊維を融着させる際の熱によって極細繊維までも溶融させることがないように、融着性繊維の融着成分は極細繊維の融点よりも10℃以上低い(好ましくは20℃以上低い)融点であるのが好ましい。なお、極細繊維自体が融着性繊維として作用しても良い。また、融着性繊維は最大孔径及び平均流量孔径が小さいように、繊度が0.1dtex〜2.2dtexであるのが好ましく、0.5dtex〜1.1dtexであるのがより好ましい。
【0046】
本発明の湿式不織布は上述のような繊維(例えば、極細繊維、融着性繊維)から構成することができるが、湿式不織布構成繊維は前述のようなメルトブロー繊維構成樹脂と同じ樹脂から構成することができる。また、湿式不織布構成繊維の繊維長は均一に分散でき、最大孔径及び平均流量孔径が小さいように、0.5〜10mmであるのが好ましく、1〜5mmであるのがより好ましい。
【0047】
本発明の湿式不織布の目付は5〜100g/mであるのが好ましく、10〜60g/mであるのがより好ましい。また、厚さは0.05〜0.5mmであるのが好ましく、0.1〜0.3mmであるのがより好ましい。更に、見掛密度は0.5〜0.9g/cmあるのが好ましく、0.6〜0.8g/cmであるのがより好ましい。
【0048】
本発明の筒状フィルタは前述のような濾過材Aと濾過材Bとが多孔筒の周囲に巻回されているが、濾過材Aは濾過流体の流れ方向において濾過材Bよりも下流側に巻回されている。つまり、濾過流体が多孔筒へ向かって流れる場合には、濾過材Aは内層側に位置し、濾過材Bは外層側に位置した状態にある。逆に、濾過流体が多孔筒から外側へ向かって流れる場合には、濾過材Aは外層側に位置し、濾過材Bは内層側に位置した状態にある。そのため、孔径が大きく、圧力損失の小さい濾過材Bで大きい粒子を除去した後、孔径が小さく、圧力損失も小さい濾過材Aで小さい粒子をすることができ、濾過速度が速く、濾過寿命の長いものである。
【0049】
なお、濾過材Aと濾過材Bの巻回方法は特に限定するものではないが、例えば、濾過材Aの巻回数は3以下であるのが好ましく、2以下であるのがより好ましい。濾過材Aは濾材表面で濾過する表面濾過のため、1枚〜3枚で十分であり、これ以上巻いても濾過精度の向上は見られず、濾過流体の流れを妨げるだけであるためである。また、濾過材Bとして、平均繊維径及び/又は平均流量孔径の点で異なる2種類以上の濾過材Bを巻回しても良い。この場合には、平均繊維径又は平均流量孔径が大きいものほど上流側となるように巻回し、いずれの濾過材Bよりも下流側に濾過材Aを巻回するのが好ましい。なお、濾過材A及び濾過材Bは平巻き状に巻回しても良いし、螺旋状に巻回しても良く、特に限定するものではない。更に、濾過材A及び濾過材B以外の濾過材(例えば、糸、乾式不織布など)を巻回しても良い。
【0050】
本発明の筒状フィルタを構成する多孔筒は、従来から公知の材料、例えば金属やプラスチックからなるものを使用することができる。また、本発明の筒状フィルタは上述のような基本構成からなるが、筒状フィルタの両端をキャップで封鎖することにより処理流体が散逸するのを防いだり、筒状フィルタの最外表面に、金属やプラスチックからなる多孔網筒を設置することにより筒状フィルタの形状を保持するなど、従来から採られている構成を付加することができる。
【0051】
本発明の筒状フィルタは濾過速度が速く、濾過寿命も長いため、高粘度の液体の濾過用途にも好適に使用することができる。例えば、食品・飲料、電子、医薬、化学、水処理、写真、塗料、メッキ、染色、機械・鉄鋼など各製造プロセスにおいて使用する液体、又は使用した液体などの流体の濾過に好適に使用することができる。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(静電紡糸不織布Aの製造)
ポリアクリロニトリル繊維(三菱レイヨン(株)製、登録商標:ボンネルD122)を、N,N−ジメチルホルムアルデヒドに溶解させた、濃度11mass%の紡糸溶液を用意した。
【0054】
他方、シリンジにポリテトラフルオロエチレン製チューブを接続し、更に前記チューブの先端に、内径が0.6mmのステンレス製ノズルを取り付けて、紡糸装置とした。次いで、前記ノズルに高電圧電源を接続した。更に、前記ノズルと対向し、10cm離れた位置に、表面に導電フッ素加工を施したステンレス薄板を取り付けたドラム(捕集体、接地)を設置した。
【0055】
次いで、前記紡糸溶液を前記シリンジに入れ、マイクロフィーダーを用いて、重量の作用方向と直角の方向へ押し出す(押し出し量:2.5g/時間)とともに、前記ドラムを一定速度(表面速度:0.9m/分)で回転させながら、前記高電圧電源からノズルに+15KVの電圧を印加して、押し出した紡糸溶液に電界を作用させて繊維化し、前記ドラムのステンレス薄板上に連続した繊維を集積させて静電紡糸不織布Aを形成した。この静電紡糸不織布Aの物性は表1に示す通りであった。なお、静電紡糸不織布Aの形成は紡糸空間の相対湿度を30%とした環境下で行った。また、静電紡糸不織布Aを形成する際に、前記ノズルはドラムの回転方向と直角方向に一定速度(移動速度:3cm/分)で往復移動(移動幅:30cm)させて、繊維の分散性を高めた。












【0056】
【表1】

表中、Mは目付(g/m)、Tは厚さ(μm)、MDは平均繊維径(nm)、Pmaxは最大孔径(μm)、Paveは平均流量孔径(μm)、APは目付15g/mあたりのフラジール通気度(cm/cm/sec)、ADは見掛密度(g/cm)を、それぞれ意味する。なお、2層静電紡糸不織布における目付及び平均繊維径は各静電紡糸不織布の値を示す。
【0057】
(静電紡糸不織布Bの製造)
繊維の集積時間を短くして、目付を2.8g/mとしたこと以外は、静電紡糸不織布Aと全く同様にして静電紡糸不織布Bを製造した。この静電紡糸不織布Bの物性は表1に示す通りであった。
【0058】
(2層静電紡糸不織布の製造)
繊維の集積時間を短くして、目付を14g/mとしたこと以外は、静電紡糸不織布Aと全く同様にして静電紡糸不織布Cを製造した。
【0059】
また、紡糸溶液の濃度を16%massとしたこと、紡糸空間の相対湿度を40%としたこと、及び目付を17g/mとしたこと以外は、静電紡糸不織布Aと全く同様にして、静電紡糸不織布Dを製造した。
【0060】
次いで、静電紡糸不織布Cの上に静電紡糸不織布Dを積層した後、ローラプレス機(旭繊維機械工業(株)製、JR−1000LTS)を用い、温度130℃、ゲージ圧4.9KPa、時間60秒の条件で加熱加圧して、2層静電紡糸不織布を製造した。この2層静電紡糸不織布の物性は表1に示す通りであった。
【0061】
(メルトブロー不織布Aの製造)
ポリプロピレン製ペレット(MI:500g/10min.)を、ダイ温度270℃、エアー量1m当り4Nm/min.で紡糸して、メルトブロー不織布Aを作成した。このメルトブロー不織布Aの物性は表1に示す通りであった。
【0062】
(メルトブロー不織布Bの製造)
ダイ温度を250℃としたこと以外は、メルトブロー不織布Aと全く同様にして、メルトブロー不織布Bを製造した。このメルトブロー不織布Bの物性は表1に示す通りであった。
【0063】
(メルトブロー不織布Cの製造)
ダイ温度を235℃としたこと以外は、メルトブロー不織布Aと全く同様にしてメルトブロー不織布Cを製造した。このメルトブロー不織布Cの物性は表1に示す通りであった。
【0064】
(メルトブロー不織布Dの製造)
ダイ温度を280℃としたこと以外は、メルトブロー不織布Aと全く同様にしてメルトブロー不織布Dを製造した。このメルトブロー不織布Dの物性は表1に示す通りであった。
【0065】
(湿式不織布の製造)
島成分がポリプロピレンからなり、海成分がポリエチレンテレフタレートからなる海島型複合繊維の海成分を水酸化ナトリウム水溶液にて抽出除去して製造した、島成分からなるポリプロピレン単繊維(平均繊維径:1.5μm、繊維長:2mm、融点:180℃)80mass%と、ポリプロピレン(芯)/ポリエチレン(鞘、融点:130℃)からなる芯鞘型融着繊維(繊度:0.8dtex、繊維長:5mm)20mass%とからなるスラリーを抄紙し、乾燥した後、温度140℃で加熱することにより、前記芯鞘型融着繊維の鞘成分を融着させて湿式不織布を製造した。この湿式不織布の物性は表1に示す通りであった。
【0066】
(スパンボンド不織布の準備)
ポリプロピレン樹脂製スパンボンド不織布(出光ユニテック(株)、登録商標:ストラテックRN−2060)を用意した。このスパンボンド不織布の物性は表1に示す通りであった。
【0067】
(実施例1〜5及び比較例1)
ポリプロピレン樹脂製多孔筒の周囲に、表2で示す順序で濾過材を平巻きした後、発泡ポリプロピレン製のエンドキャップを多孔筒に積層した濾過材の両端に熱溶着して、筒状フィルタを製造した。






【0068】
【表2】

表中、ESaは静電紡糸不織布A、ESbは静電紡糸不織布B、ESdは2層静電紡糸不織布、MBaはメルトブロー不織布A、MBbはメルトブロー不織布B、MBcはメルトブロー不織布C、MBdはメルトブロー不織布D、WNは湿式不織布、SBはスパンボンド不織布、をそれぞれ意味する。また、表中の括弧内の数字は巻き数を表す。
【0069】
(筒状フィルタの濾過性能評価)
実施例1〜5及び比較例1の筒状フィルタの濾過性能を、JIS Z 8901に規定されているJIS試験用粉体1の11種を純水中に分散させた濃度40ppmの懸濁液を用いて評価した。
(イ)濾過寿命;
上述の懸濁液を20L/min.で濾過した時に、圧力損失が196kPaに達するまでの濾過流量を測定し、この濾過流量を濾過寿命とした。
(ロ)濾過精度;
前述の懸濁液を20L/min.で濾過し、最初の10Lの濾液をサンプリングし、パーティクルカウンターで0.2〜1.0μmの区間の粒子数(Na)を計測した。あらかじめ計測しておいた濾過前の懸濁液の粒子数(Nb)をもとに、次の式に基いて除去効率(LRV)を算出した。この除去効率(LRV)が大きいほど濾過精度に優れていることを表す。
LRV=log(Nb/Na)
(ハ)濾過速度;
前述の懸濁液を加圧タンクに入れ、100kPaで加圧濾過した時の初期の流速を測定した。
以上の筒状フィルタの濾過性能は表3に示す通りであった。
【0070】
【表3】

【0071】
表3から明らかなように、本発明の静電紡糸不織布からなる濾過材Aが巻回された筒状フィルタは、濾過速度が7.5L/min.以上、かつ濾過寿命が548L以上の濾過性能の優れるものであった。
【0072】
なお、実施例1と実施例4との比較から、目付及び厚さが適性で、目付15g/mあたりの通気度が10cm/cm/sec以下の筒状フィルタは濾過精度の点でも優れていることがわかった。
【0073】
また、実施例1と実施例5との比較から、単層構造の静電紡糸不織布が巻回されている方が、濾過寿命、濾過精度及び濾過速度のいずれの点においても優れるものであった。これは、実施例5の静電紡糸不織布は2層構造であり、多孔筒の周囲に巻回した際に、層間剥離によるシワが発生し、均一に巻回しにくかったため、多孔筒と2層静電紡糸不織布との間に隙間ができたためであると考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔筒の周囲に濾過材を巻回した筒状フィルタであって、静電紡糸不織布からなる濾過材Aと、メルトブロー不織布、スパンボンド不織布、湿式不織布の群から選ばれる濾過材Bが巻回されており、濾過材Aは濾過流体の流れ方向において濾過材Bよりも下流側に巻回されていることを特徴とする筒状フィルタ。
【請求項2】
静電紡糸不織布のフラジール通気度が目付15g/mあたり10cm/cm/sec以下であることを特徴とする、請求項1記載の筒状フィルタ。
【請求項3】
静電紡糸不織布の厚さが50〜200μmであることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の筒状フィルタ。
【請求項4】
静電紡糸不織布が単層構造からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の筒状フィルタ。

【公開番号】特開2007−222813(P2007−222813A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48528(P2006−48528)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】