説明

管の汚染状態測定方法、除染方法、汚染状態測定および除染方法、並びに再資源化方法

【課題】断面円形状態の管を縦割りするための機械を必要とすることなく管の内面を露出させて、管の内面の汚染状態の測定や除染処理さらには再資源化を行える方法を提供する。
【解決手段】放射性物質で汚染されている熱交換器の伝熱管10を適宜の長さに分割する。分割された個々の管10−1,10−2,・・・,10−nについて、プレス機で平板状に押し潰す。次いで、押し潰された管10−1,10−2,・・・,10−nの両側部の折り返し部10a,10cを、剪断機で切断して切り落とす。その結果残された2枚の平板状部材10e,10fについて、放射能検査および除染処理を行い、再資源化する。切り落とされた折り返し部10a,10cは放射性廃棄物として所定の方法で廃棄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内面が放射性物質で汚染されているまたは汚染されている可能性がある管の汚染状態測定方法、除染方法、汚染状態測定および除染方法、並びに再資源化方法に関し、汚染状態の測定や除染を容易に行えるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等の原子力プラントにおいては、定期的にまたは必要に応じて熱交換器等の機器の取り替えが行われる。この場合、取り除いた古い機器は、最終的に廃棄あるいは再資源化されるが、その前に、放射能汚染状態を測定し、汚染濃度が高い部位については、除染処理する必要がある。
【0003】
熱交換器内には多数の伝熱管(細管)が収容されており、熱交換器を廃棄あるいは再資源化する場合には、各伝熱管の内面についても汚染状態を測定し、汚染濃度が高い場合には除染処理を行う必要がある。ところが、熱交換器の伝熱管は一般に内径が小さいため、放射能測定のためのセンサや除染装置を差し込むのが困難な場合が多い。
【0004】
従来、内径が小さい管についてその内面の放射能測定あるいは除染を容易にした技術として、下記特許文献1,2に記載された手法が提案されていた。これは、管をカッターで縦割りに切断して内面を露出させることにより、放射能測定や除染を容易に行えるようにしたものであった。
【0005】
【特許文献1】実公平2−6977号公報(第3図)
【特許文献2】特開2005−7483号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1,2記載の手法によれば、断面円形状態の管を縦割りするための機械が必要であった。
【0007】
この発明は上記従来の技術における問題点を解決して、断面円形状態の管を縦割りするための機械を必要とすることなく管の内面を露出させて、管の内面の汚染状態の測定や除染処理さらには再資源化を行えるようにした方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の管の汚染状態測定方法は、少なくとも内面が放射性物質で汚染されているまたは汚染されている可能性がある管をその外面から加圧して押し潰し、該押し潰された管の、軸に沿った両側の折り返し部を切り落とし、残された上下各片の板状部材の少なくとも前記内面に相当する面について放射性物質による汚染状態を測定するようにしたものである。
【0009】
この発明の管の除染方法は、少なくとも内面が放射性物質で汚染されているまたは汚染されている可能性がある管をその外面から加圧して押し潰し、該押し潰された管の、軸に沿った両側の折り返し部を切り落とし、残された上下各片の板状部材の少なくとも前記内面に相当する面について放射線物質の除染処理を行うようにしたものである。
【0010】
この発明の管の汚染状態測定および除染方法は、少なくとも内面が放射性物質で汚染されているまたは汚染されている可能性がある管をその外面から加圧して押し潰し、該押し潰された管の、軸に沿った両側の折り返し部を切り落とし、残された上下各片の板状部材の少なくとも前記内面に相当する面について放射性物質による汚染状態を測定し、汚染があるものまたは汚染の程度が所定値以上のものについて放射線物質の除染処理を行うようにしたものである。
【0011】
この発明の管の再資源化方法は、少なくとも内面が放射性物質で汚染されているまたは汚染されている可能性がある管をその外面から加圧して押し潰し、該押し潰された管の、軸に沿った両側の折り返し部を切り落とし、該切り落とされた折り返し部を放射性廃棄物として廃棄し、残された上下各片の板状部材の少なくとも前記内面に相当する面について放射線物質の除染処理を行った後、該板状部材を再資源化するようにしたものである。
【0012】
この発明の管の再資源化方法は、少なくとも内面が放射性物質で汚染されているまたは汚染されている可能性がある管をその外面から加圧して押し潰し、該押し潰された管の、軸に沿った両側の折り返し部を切り落とし、該切り落とされた折り返し部を放射性廃棄物として廃棄し、残された上下各片の板状部材の少なくとも前記内面に相当する面について放射性物質による汚染状態を測定し、汚染がないものまたは汚染の程度が所定の許容値以下のものについて再資源化し、汚染があるものまたは汚染の程度が所定の許容値を超えるものについて放射線物質の除染処理を行った後再資源化するようにしたものである。
【0013】
この発明によれば、少なくとも内面が放射性物質で汚染されているまたは汚染されている可能性がある管をその外面から加圧して押し潰し、該押し潰された管の、軸に沿った両側の折り返し部を切り落とすようにしたので、既存のプレス機や剪断機を使用して処理することができ、断面円形状態の管を縦割りするための機械を不要にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施の形態を以下説明する。ここでは原子力発電所の給水加熱器を構成する熱交換器内に収容されている伝熱管について処理をする場合を説明する。図1は、この発明による処理手順の一例を示す。除染までの各工程は原子力発電所内の放射線管理区域内で行われる。各工程を順を追って説明する。
【0015】
〔工程1:伝熱管直管部分切り出し〕
伝熱管10は、給水加熱器を構成する熱交換器内に収容されている伝熱管の直管部分を切り出したものであり、長さが10〜20m、外径が10〜20mm、肉厚が約1.2mmの銅合金管やステンレス管等で構成される。この伝熱管10は放射能で汚染されている可能性がある。特に、BWR(沸騰水炉)型プラントの場合は、給水加熱器の伝熱管内には復水器からの放射能を帯びた水が流れ、伝熱管の外側には蒸気タービンからの放射能を帯びた蒸気が流れるので、伝熱管10の内面および外面は汚染度が高いことが予想される。
【0016】
〔工程2:所定長に切断〕
伝熱管10を、後の工程で処理しやすい適宜の長さ(例えば数十cm〜1mの長さずつ)に切断し、切断された伝熱管10−1,10−2,・・・,10−nを得る。以下、伝熱管10−1の処理について説明する。他の伝熱管10−2,10−3,・・・,10−nについても同様に処理する。
【0017】
〔工程3:押し潰し〕
所定長に切断された伝熱管10−1を、プレスブレーキ等のプレス機を用いてその外面から加圧して押し潰す。伝熱管10−1をプレスブレーキで押し潰すときの配置を図2に示す。プレスブレーキは長尺物のプレス加工を行うプレス機である。プレスブレーキ12において、フレーム14の下部にはテーブル16が設置され、フレーム14の上部にはラム18が上下方向に移動可能に設置されている。テーブル16上には下型20が装着され、ラム18の下端部には上型22が装着されている。下型20および上型22の対向する加工面20a,22aは共に平面(水平面)に構成されている。また、加工面20a,22aはその領域内にワーク(伝熱管10−1)全体をはみ出さずに配置できる広さを有する。下型20の加工面20a上に伝熱管10−1全体を乗せて、ラム18を下降させて、伝熱管10−1を外側から下型20と上型22で加圧することにより、伝熱管10−1を押し潰す。
【0018】
図2のプレスブレーキ12を用いて伝熱管10−1を押し潰す動作を図3に示す。(i)は押し潰す前の状態である。下型20の上に伝熱管10−1全体が乗せられている。この状態でラム18により上型22を下降させると、伝熱管10−1は(ii)に示すように、下型20と上型22に挟まれて全体が平板状に押し潰される。
【0019】
〔工程4:一方の折り返し部切り落とし〕
図1において、押し潰された伝熱管10−1の、軸に沿った一方の折り返し部10aを剪断機(シャリング)を用いて切断し、切り落とす。切り落とした折り返し部10aは放射性廃棄物として所定の方法で廃棄する。
【0020】
折り返し部10aを剪断機で切り落とすときの配置を図4に示す。剪断機24において、フレーム26の下部にはテーブル28が設置され、フレーム26の上部にはラム30が上下方向に移動可能に設置されている。テーブル28上には固定刃32が装着され、ラム30の下端部には可動刃34が装着されている。固定歯32および可動刃34の刃先の長さ(横方向の長さ)はワーク(伝熱管10−1)の長さよりも長く設定されている。フレーム26の上部には、別途ワーク押え36が上下方向に移動可能に設置されている。固定刃32の上の、その長手方向の範囲内に伝熱管10−1を乗せて、伝熱管10−1をワーク押え36で押さえ、ラム30を下降させることにより、伝熱管10−1の一方の折り返し部10aを切断し、切り落とすことができる。
【0021】
図4の剪断機24を用いて伝熱管10−1の一方の折り返し部10aを切断し、切り落とす動作を図5に示す。(i)は切り落とす前の状態である。固定刃32の上に伝熱管10−1が、その一方の折り返し部10aを所定幅dで固定刃32のエッジ32aからはみ出した状態で乗せられている。そして、ワーク押え36が下降し、ワーク押え36の下端部36aで伝熱管10−1を固定刃32上に押さえ付けて、伝熱管10−1が動かないようにする。この状態でラム30により可動刃34を下降させると、伝熱管10−1の折り返し部10aは(ii)に示すように、可動刃34と固定刃32の協働作用により切断されて、切り落とされる。
【0022】
〔工程5:他方の折り返し部切り落とし〕
図1において、伝熱管10−1の一方の折り返し部10aを切り落として残された部材10bを反転し、もう一方の折り返し部10cについて、図4の剪断機を用いて、図5と同様にして切断し、切り落とす。切り落とした折り返し部10cは放射性廃棄物として所定の方法で廃棄する。
【0023】
〔工程6:残された部材を分離〕
以上の工程を経て残された部分10dは、2枚の平板状部材10e,10fに分離される。
【0024】
〔工程7:放射能測定〕
平板状部材10e,10fのそれぞれについて、周知の方法によりその表裏両面の放射能測定を行う。
【0025】
〔工程8:除染〕
放射能測定の結果、汚染濃度が許容値よりも高い場合は除染処理を行う。除染処理は、例えば汚染面をブラシやグラインダーで研削する等周知の方法により行うことができる。除染処理後、放射能測定を再度行い、放射線濃度が許容値以下になったことが確認されるまで除染処理を繰り返す。
【0026】
〔工程9:再資源化〕
放射線濃度が許容値以下であることが確認された平板状部材10e,10fを放射線管理区域の外に出して、再資源化のルートに回す。
【0027】
以上の工程によれば、既存のプレス機や剪断機を使用することができ、断面円形状態の管を縦割りするための機械を不要にすることができる。また、平板状部材10e,10fを再資源化するので、伝熱管全体を廃棄する場合に比べて放射性廃棄物として廃棄する量を減らすことができ、廃棄コストを低減することができるとともに、省資源化を図ることができる。
【実施例】
【0028】
図1の工程1〜工程6について実証実験を行った。この実証実験の工程を図6に示す。ここでは、管10−1として、図6(i)に示すように外径が約16mm、肉厚が1mmで、長さが数十cmのステンレス製の管を使用した。
【0029】
プレス機としてコマツ製油圧プレスブレーキPHS−80−255型を使用し、管10−1を図6(ii)に示すようにプレスして平板状に押し潰した。このとき、押し潰された管10−1の幅は約25mmであった。
【0030】
次いで、剪断機としてコマツ製シャーリングSHS6×255型を使用し、図6(iii)に示すように、押し潰された管10−1の両側の折り返し部10a,10cを約2mmの幅でそれぞれ切断し、切り落とした。
【0031】
その結果、図6(iv)に示すように、幅が約21mmの平板状部材10e,10fが得られた。
【この発明の他の実施の形態】
【0032】
前記実施の形態では、管を押し潰す前に除染処理を行わなかったが、管の外周面について予めブラシやグラインダーで研削する等の方法により除染してから、押し潰すこともできる。このようにすれば、管の外周面に付着している放射性物質が、その後の押し潰しおよび切断工程で、プレス機や剪断機に付着するのを防止することができる。また、可能であれば、管を押し潰す前に、管の内周面についても予め除染処理を行うことができる。
【0033】
前記実施の形態では、押し潰した管を、その幅方向両側の折り返し部の近傍位置でのみ切断するようにしたが、押し潰した管の幅が広い場合等は、必要に応じて、押し潰した管の幅方向中間部分を併せて切断することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
前記実施の形態では、給水加熱器の伝熱管について処理する場合を説明したが、少なくとも内面が放射性物質で汚染されているまたは汚染されている可能性がある給水加熱器以外の熱交換器の伝熱管、さらには伝熱管以外の管についてもこの発明を適用して処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明による処理手順の一例を示す工程図である。
【図2】図1の工程3において、伝熱管をプレスブレーキで押し潰すときの配置を示すプレスブレーキの正面図である。
【図3】図2のプレスブレーキを用いて伝熱管を押し潰す動作を示す側面図である。
【図4】図1の工程4において、伝熱管の一方の折り返し部を剪断機で切り落とすときの配置を示す剪断機の正面図である。
【図5】図4の剪断機を用いて伝熱管の一方の折り返し部を切り落とす動作を示す側面図である。
【図6】図1の工程1〜工程6について行った実証実験の工程を示す、管の端面図である。
【符号の説明】
【0036】
10(10−1,10−2,・・・,10−n)…管(伝熱管)、10a,10c…折り返し部、10e,10f…板状部材、12…プレス機(プレスブレーキ)、24…剪断機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内面が放射性物質で汚染されているまたは汚染されている可能性がある管をその外面から加圧して押し潰し、該押し潰された管の、軸に沿った両側の折り返し部を切り落とし、残された上下各片の板状部材の少なくとも前記内面に相当する面について放射性物質による汚染状態を測定する管の汚染状態測定方法。
【請求項2】
少なくとも内面が放射性物質で汚染されているまたは汚染されている可能性がある管をその外面から加圧して押し潰し、該押し潰された管の、軸に沿った両側の折り返し部を切り落とし、残された上下各片の板状部材の少なくとも前記内面に相当する面について放射線物質の除染処理を行う管の除染方法。
【請求項3】
少なくとも内面が放射性物質で汚染されているまたは汚染されている可能性がある管をその外面から加圧して押し潰し、該押し潰された管の、軸に沿った両側の折り返し部を切り落とし、残された上下各片の板状部材の少なくとも前記内面に相当する面について放射性物質による汚染状態を測定し、汚染があるものまたは汚染の程度が所定値以上のものについて放射線物質の除染処理を行う管の汚染状態測定および除染方法。
【請求項4】
少なくとも内面が放射性物質で汚染されているまたは汚染されている可能性がある管をその外面から加圧して押し潰し、該押し潰された管の、軸に沿った両側の折り返し部を切り落とし、該切り落とされた折り返し部を放射性廃棄物として廃棄し、残された上下各片の板状部材の少なくとも前記内面に相当する面について放射線物質の除染処理を行った後、該板状部材を再資源化する管の再資源化方法。
【請求項5】
少なくとも内面が放射性物質で汚染されているまたは汚染されている可能性がある管をその外面から加圧して押し潰し、該押し潰された管の、軸に沿った両側の折り返し部を切り落とし、該切り落とされた折り返し部を放射性廃棄物として廃棄し、残された上下各片の板状部材の少なくとも前記内面に相当する面について放射性物質による汚染状態を測定し、汚染がないものまたは汚染の程度が所定の許容値以下のものについて再資源化し、汚染があるものまたは汚染の程度が所定の許容値を超えるものについて放射線物質の除染処理を行った後再資源化する管の再資源化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−85796(P2007−85796A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−272823(P2005−272823)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(597041264)株式会社 エイブル (2)
【Fターム(参考)】