説明

管状物体及びその製造方法

【課題】管状物体のとくに外面の動摩擦係数を下げ、耐久性が高く、製造コストの安い管状物体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリイミドとフッ素樹脂粒子とを含む混合物が成形され加熱硬化された管状物体(31)であって、前記管状物体(31)の表層近傍に存在する少なくとも一部のフッ素樹脂粒子は、前記管状物体の外面又は内外面に溶融流動して析出し、部分的又は全面にフッ素樹脂被膜を形成している。この管状物体(31)は、ポリイミド前駆体溶液にフッ素樹脂粒子を添加した混合溶液を金型外面に塗布し所定の厚みにキャスト成形し、加熱してイミド化し、前記イミド化の最高温度をフッ素樹脂の融点を越える温度とし、冷却後、前記金型と管状物体を分離することにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真方式を利用した画像成形装置において、未定着のトナー像を熱定着するための耐熱樹脂からなる管状物体に関し、さらに詳しくは管状物体の内外面の動摩擦係数を下げ、耐久性の高い管状物体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は耐熱性、寸法安定性、機械的特性、電気的特性など優れた特性を有し電子・電気機器や絶縁材料、あるいは航空宇宙などの幅広い分野で使用されている。その用途の一例として、電子写真方式の画像形成装置では帯電、感光、中間転写および定着などの電子写真プロセスの中でも多くの部材として使用されている。
【0003】
ここで画像形成装置の定着部材として使用されるポリイミド管状物体について例を挙げて説明する。複写機・レーザービームプリンターなどの画像形成装置において、印刷や複写の最終段階では紙をはじめとするシート状転写材上のトナー像を、加熱溶融して転写材上に定着させている。
【0004】
ポリイミド樹脂管状物体を画像形成装置の定着ベルトとして使用する一例を挙げると、特許文献1〜3等で提案されているベルト定着方式があり、図6に示すように複写紙上に形成したトナー像を、熱定着するための定着ベルトとして使用されている。この用途では定着ベルト31(ポリイミド樹脂管状物体)の内側にベルトガイド32とセラミックヒーター33を備え、ヒーターと圧接した駆動源を持つ加圧ロール34との間にトナー像を形成した複写紙37を順次送り込みながらトナー38を加熱溶融させ複写紙上に定着させるものである。前記ベルト定着方式では極めて薄いフィルム状の被膜を有するポリイミド管状物体(定着ベルト)を介して、ヒーターが実質的に直接トナーを加熱するため、加熱部が瞬時に所定の定着温度に達し電源の投入から定着可能状態に達するまでの待ち時間がなく、また消費電力も小さいく優れた特徴がある。
【0005】
またフルカラー画像形成装置においてポリイミド管状物体を定着機の加圧ベルトとして使用する一例が特許文献4で提案されている。この定着装置は図7に示すように、熱源55を有する駆動源を持つ回転可能な定着ロール54と、このロールに圧接した加圧ベルト51(ポリイミド樹脂管状物体)と、この加圧ベルトの内側に配置された押圧パッド53、押圧ガイド52からなる構成であり、定着ロールの表面に加圧ベルトを押圧し、定着ロールの駆動力により加圧ベルトを回転させ、この挟接部にトナー画像が形成された複写紙57を順次、送りこみトナー像56を定着ロール表面で熱定着する方法である。これらの用途で使用されるポリイミド樹脂管状物体は、一般に極性重合溶媒中でテトラカルボン酸二無水物とジアミンを反応させて得られるポリイミド前駆体溶液から管状物体を成形し、これをイミド化することにより得ることができる。
【0006】
前記ポリイミド前駆体溶液から管状物体を製造する方法は、特許文献5〜6で知られているように、成形金型の外面や内面に所定の厚みでポリイミド前駆体溶液を成形した後、加熱あるいは化学的にイミド化を完結させ、金型から分離して管状物体を得る方法が提案されている。
【0007】
前記定着ベルトあるいは加圧ベルトはポリイミド管状物体の外面(トナーと接する面)にフッ素樹脂などの離型層が形成された2層構造、あるいは前記ポリイミド管状物体とフッ素樹脂層の間に接着性を向上させるためのプライマー層を有する3層構造のベルトが使用されている。
【0008】
近年、OA機器は小型化、高速化の要求が高く、こうした要求に対応するための定着ベルトあるいは加圧ベルトではベルト外面の離型性と共に、内面の動摩擦係数が低いこと、あるいは高い熱伝導性などの特性が要求される。
【0009】
すなわち、前記図6の定着ベルトあるいは図7の加圧ベルトは、それぞれ駆動源を持つ加圧ロールあるいは定着ロールによって伝達され回転する機構になっている。このような機構で駆動源を持つロールとベルトが直接接触している場合は、駆動ロールの回転力はそのままベルトに伝わり、比較的円滑に回転する。しかしながら、駆動ロールとベルトの間に複写紙が挿入され、実質的にトナーの定着が行われる時は、ベルトへの回転力は駆動ロールから転写紙を介してベルトに伝達されるため、転写紙とベルトの表面でスリップが発生しやすくなる。
【0010】
特に定着あるいは加圧ベルトの最外層は溶融したトナーの付着(オフセット現象)を防止するためにフッ素樹脂等の離型層が積層されており動摩擦係数も低くすべり易く、さらに複写機やプリンターが高速化になるほどスリップが発生しやすい。前記のように定着面(ニップ部)でスリップが発生すると、複写紙とベルト表面の微小なスリップの繰り返しにより、ベルト表面の離型層が複写紙で磨耗されることになり毛羽立ち離型層表面が粗くなり、オフセットの原因になっている。
【0011】
またポリイミド樹脂やその外面に積層されているフッ素樹脂はもともと熱伝導性が低く、且つ多層構造になっているため高速化に対応するための熱伝導性に乏しいことも問題になっている。
【0012】
これらの要求特性に対応するため、例えば特許文献7〜9等の提案がされている。特許文献7は、ポリイミド管状物体の内側表面を粗面化して潤滑剤を保持させるものである。特許文献8は、ポリイミド前駆体に熱伝導性無機質充填剤とポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂粉末を添加し、250℃で加熱し、その後外表面にフッ素樹脂をコーティングして被膜形成している。特許文献9は、ポリイミド前駆体にフッ素樹脂粉末を添加したものを、円筒金型の内周面に塗布して展延し、加熱して硬化反応をさせている。
【特許文献1】特開平7−178741号公報
【特許文献2】特開平3−25471号公報
【特許文献3】特開平6−258969号公報
【特許文献4】特開平11−133776号公報
【特許文献5】特開平6−23770号公報
【特許文献6】特開平1−156017号公報
【特許文献7】特開2001−341143
【特許文献8】特開2001−040102
【特許文献9】特開2001−056615
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、前記従来の提案の特許文献7〜9は、いずれも管状物体内面の摩擦抵抗を下げることを目的としており、表層の紙と接触する面は従来からのフッ素樹脂層の離型層をそのまま採用しているか、又は改良されていない。また、ポリイミド管状物体とフッ素樹脂離型層を有する2層構造あるいはポリイミド層とフッ素樹脂層間にプライマー層を有する3層構造であり特に図6の定着装置で使用する場合には多層構造であるため厚みが厚く熱伝導性が低下し、また、その製造方法も3種類の原料と、3つのそれぞれ異なる工程が必要となり製造工程が煩雑で、かつ、各材料で形成された層間の接着力にも問題があった。
【0014】
本発明は前記従来例の問題を解決し、管状物体の内面が低い摩擦抵抗を持ち同時に管状物体外面も定着ベルトや加圧ベルトとしての十分な離型性を有し耐久性が高く、製造コストの低い管状物体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の管状物体は、ポリイミドとフッ素樹脂粒子とを含む混合物が成形され加熱硬化された管状物体であって、前記管状物体の表層近傍に存在する少なくとも一部のフッ素樹脂粒子は、前記管状物体の外面又は内外面に溶融流動して析出し、部分的又は全面にフッ素樹脂被膜を形成していることを特徴とする。
【0016】
本発明の管状物体の製造方法は、ポリイミド前駆体溶液と溶融流動するフッ素樹脂粒子との混合溶液を金型外面に塗布し所定の厚みにキャスト成形し、加熱してイミド化し、前記イミド化の最高温度をフッ素樹脂の融点を越える温度とし、冷却後、前記金型と管状物体を分離することにより、前記管状物体の表層近傍に存在する少なくとも一部のフッ素樹脂粒子を前記管状物体の外面又は内外面に溶融流動して析出させ、部分的又は全面にフッ素樹脂被膜を形成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、管状物体の表層近傍に存在する少なくとも一部のフッ素樹脂粒子は、管状物体の外面又は内外面に溶融して析出し、この溶融析出したフッ素樹脂はポリイミドと一体化し、且つ前記管状物体表面で流動した被膜を形成しているので、管状物体内面の動摩擦係数が低く、また管状物体の外面もフッ素樹脂被膜で形成されているため、溶融したトナーの離型性も高く、従来の定着ベルトのようにフッ素樹脂離型層を別工程で新に成型する必要もなく、画像形成装置の定着部材や転写ベルト、あるいは中間転写兼加熱定着ベルトなどに使用できる。さらに、ポリイミド前駆体溶液にフッ素樹脂粒子を添加した混合溶液を成形金型外面又は内面に塗布し、所定の厚みにキャスト成形し、加熱してイミド化し、前記イミド化の最高温度をフッ素樹脂の融点を越える温度とすることにより、管状物体の表層近傍に存在する少なくとも一部のフッ素樹脂粒子を管状物体の少なくとも外面に溶融して析出させることができる。ポリイミド基材の片面あるいは両面にフッ素樹脂が溶融析出した構造の成形物はフィルム状では耐熱摺動材料や離型性フィルム、あるいはチューブ形状としてはフッ素樹脂の化学的な安定性及びポリイミドの機械的特性などを持ち合わせ医療用分野のカテーテルや体内に挿入する医療用の各種チューブなどにも好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の管状物体の基本的成分は、ポリイミドとフッ素樹脂粒子である。ポリイミドとフッ素樹脂粒子との相溶性はなくポリイミド管状物体の外面又は内外面にフッ素樹脂が溶融析出し、且つ前記溶融析出面はその表面で流動した被膜を形成している。
【0019】
そして、金型の外面にキャスト成形されたフッ素樹脂粒子を含むポリイミド前駆体溶液を加熱してイミド化させる際に、イミド化の最高温度をフッ素樹脂の融点を越える温度とする。これにより、フッ素樹脂粒子がポリイミドの少なくとも外面に溶融析出し、これにより低摩擦係数を有する内面と高い離型性を有する外面特性を持つポリイミド管状物体を得ることができる。
【0020】
前記フッ素樹脂被膜面は、フッ素樹脂粒子に起因する粒状模様を有していることが好ましい。これはフッ素樹脂粒子が一部残存しており、表面が細かな泡の状態として観察される。
【0021】
前記フッ素樹脂粒子は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(PETFE)から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂であることが好ましい。
【0022】
管状物体の表面に析出したフッ素樹脂を熱的に流動させ、フッ素樹脂被膜を形成させるためにはPFAやFEPのような熱可塑性フッ素樹脂が好ましい。これらのフッ素樹脂は、融点以上の温度で流動し、管状物体の内外面にフィルム状の被膜として形成することができる。
【0023】
またPTFE樹脂のように、融点以上の温度に加熱しても溶融粘度が高く熱流動しにくいフッ素樹脂を混合した場合、管状物体の内外表面の状態は、ポリイミドが海状、フッ素樹脂粒子が島状で存在する、いわゆる海島構造である。このような構造は、画像形成装置に用いる中間転写ベルトなどの用途に最適な構造である。すなわち、前記転写ベルトは、感光体からトナー像を中間的に転写させ、その後トナー像を複写紙に再転写する目的に使用されるベルトであり、複写紙に再転写したのち転写ベルト表面にわずかに残存しているトナー粉末をブレードで掻き取り除去する場合に、ブレードとの摺動抵抗が低く好ましい構造である。
【0024】
本発明で使用するポリイミドは、熱硬化性樹脂であり、ポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂の混合溶液を、例えば金型の外面あるいは内面にキャスティング成形し、乾燥及び加熱してイミド化を完結させ、管状物体の少なくとも外面又は内外面にフッ素樹脂が析出したポリイミド・フッ素樹脂複合管状物体を製作することができる。
【0025】
前記方法で製作した管状物体は、その被膜が空気に接している面にフッ素樹脂が溶融析出し易い。すなわち、フッ素樹脂粉末はポリイミド前駆体溶液中では混合され分散した状態で存在する。しかし、加熱処理により、イミド化を進行させる過程でフッ素樹脂の融点を超える温度まで加熱処理することにより、溶融したフッ素樹脂が管状物体の厚み方向で、空気に接している最外層に向かって移動していくことが考えられる。
【0026】
フッ素樹脂が前記管状物体の中で移動していく現象の詳細なメカニズムは不明であるが、本発明者らは数多くの実験と研究を継続した結果、前記のポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂の混合溶液をガラス板上に流延し、キャスティング成形し、乾燥及び加熱してイミド化を完結させ、ポリイミド・フッ素樹脂複合フィルムの製作において、前記フィルムがガラス面に接触している面にも、フッ素樹脂が溶融析出することを見出し、本発明の管状物体において確認実験を行った。
【0027】
その結果、空気層に全く接していない管状物体の内面にも、フッ素樹脂を析出させることができることを見出した。また、管状物体の両面にフッ素樹脂が析出してくる現象は、フッ素樹脂の種類の違いやイミド化工程の温度の違いによって異なることを見出した。
【0028】
すなわち、フッ素樹脂が析出する現象は、フッ素樹脂の融点とポリイミド前駆体のイミド化温度の影響を受ける。詳細な実験結果では、芳香族テトラカルボン酸二無水物としてビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と、芳香族ジアミンとしてパラフェニレンジアミン(PPD)を用いた剛直なポリイミドに、フッ素樹脂を混合した場合、イミド化の最高温度がフッ素樹脂の融点未満では、フッ素樹脂は管状物体のいずれの面にも顕著に現れないが、フッ素樹脂の融点以上まで温度を上げると、管状物体の内面、外面の両面にフッ素樹脂が溶融して析出し、低い摩擦抵抗を有する管状物体を得ることができた。
【0029】
また、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンからなるポリイミド前駆体溶液単体をイミド化して得られるポリイミドの熱収縮率が大きいことがフッ素樹脂を溶融析出させるために好ましいことを見出した。すなわちポリイミド前駆体溶液をガラス板上にキャスティング成形し乾燥後、段階的に300℃まで加熱しイミド化を進行させた後、冷却後ポリイミドフィルムをガラス板より剥がし、300℃からフッ素樹脂の融点以上の温度、例えば400℃まで加熱したときの熱収縮率の大きいポリイミドにおいてフッ素樹脂が溶融析出しやすい。
【0030】
前記テストの結果、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDAと芳香族ジアミン成分としてPPDからなるポリイミド前駆体から作製したフィルムの熱収縮率は0.9%であり、PMDAとODAを用いたポリイミド前駆体より得られたフィルムの熱収縮率は0.09%であった。ポリイミドフィルムの熱収縮率の値とフッ素樹脂が溶融析出する現象の関係は、300℃〜400℃における熱収縮率が大きいほどポリイミド被膜中からフッ素樹脂が析出しやすい現象を見出した。
【0031】
前記熱収縮率の詳細なテスト方法を下記に説明する。熱収縮率の測定は島津製作所社製“TMA−50”を用いた。ポリイミドフィルムは前記モノマーから得られたポリイミド前駆体溶液をガラス板上にイミド化完結時の厚みが50μmになるよう流延し150℃の温度で40分乾燥後200℃で40分、さらに250℃で20分、300℃で20分加熱しポリイミドフィルムを作製した。
【0032】
このフィルムを長さ10mm幅3.5mmの短冊状に切断し、その片方に2.0gの荷重をかけ“TMA−50”に装着した。熱収縮の状態は室温から400℃まで10℃/分の昇温速度で観察し300℃から400℃における熱収縮率を算出した。
【0033】
また、PTFE(融点:327℃)よりも融点の低いFEP(融点:250℃)を用いたポリイミド前駆体溶液で実験した結果では、イミド化の最高温度が300℃の温度で、管状物体の内外面にフッ素樹脂(FEP)が析出し、且つその表面は熱流動し被膜の状態を形成し、低い摩擦抵抗を有する管状物体を得ることができた。
【0034】
このように本発明の管状物体の内外面にフッ素樹脂が析出する現象は、フッ素樹脂の融点、ポリイミド前駆体のイミド化温度等を選定し、所定の条件に設定することにより、管状物体の両面にフッ素樹脂を析出させることが可能になった。
【0035】
本発明の管状物体は、単体層でも良いし、必要に応じて多層で形成しても良い。多層の場合、内層はフッ素樹脂粒子を含まないか又は外層よりもその存在量を相対的に少なくしてポリイミド層を成形することもでき、管状物体の機械的特性をさらに向上させることができる。またポリイミドやフッ素樹脂の種類やあるいはフッ素樹脂の混合量を変えた層で多層にすることもできる。さらにフッ素樹脂を混合したポリイミド前駆体を用い金型にキャスト成型した後、イミド反応時の温度を制御し、管状物体の外面のみにフッ素樹脂を溶融析出することもできる。中間転写ベルトなどの用途のように、外層の表面のみ摩擦特性を良好にすれば良い場合もあるからである。
【0036】
また、前記フッ素樹脂混合ポリイミド前駆体溶液には窒化ホウ素、チタン酸カリウム、マイカ、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム、窒化アルミニウム、アルミナ、炭化珪素、珪素、窒化珪素、シリカ、グラファイト、カーボンファイバー、金属粉末、酸化ベリリウム、マグネシウム、酸化マグネシウム等の熱伝導性フィラー等を添加できる。これらの熱伝導性フィラーを添加することによって管状物体被膜の熱伝導性が改善され高速定着に対応でき好ましい。
【0037】
本発明において前記フッ素樹脂はPTFE,PFA,FEP,CPTFE等のフッ素樹脂を単体で、あるいは混合して使用することができる。PTFE、PFA、FEPは耐熱性、離型性に優れ本発明で使用できる好ましい材料である。また、前記フッ素樹脂を混合したポリイミド前駆体溶液中にはカーボンブラック、カーボンファイバー、金属粉末などの導電性物質や帯電防止剤を添加することができる。
【0038】
導電性あるいは帯電防止剤を混合分散したフッ素樹脂を用いることによって、画像形成プロセスの中で発生する静電オフセットなどによる画質の低下あるいは、画像上ゴーストとなってしまう状態を改善でき好ましい。
【0039】
また前記フッ素樹脂の混合量はポリイミド前駆体溶液の固形分に対して10〜90質量%に設定することが好ましい。特に好ましくは20〜80質量%である。
【0040】
上記フッ素樹脂の含有量が10質量%未満であると、溶融析出してくるフッ素樹脂が少なく摩擦抵抗を低下させる効果が少なくなる傾向となり、また90質量%を超えると、機械強度が低くなり、管状物体表面の平滑性も損なわれ割れが生じやすくなる傾向となる。
【0041】
また、前記フッ素樹脂は粉末状のものが混合しやすく好ましい形態であり、平均粒径は、0.1〜100μmの範囲が好ましい。より好ましい平均粒子径は、0.5〜50μmの範囲である。このような範囲内であると粒子の凝集が少なく均一に分散できるため好ましい。
【0042】
なお、前記平均粒径が0.1μm未満であると粒子が二次凝集しやすく、100μmを超えると管状物体の内面あるいは外面に、フッ素樹脂粒子に起因する凹凸が生じやすいため好ましくない。なお、上記フッ素樹脂粉末の平均粒径の測定方法はレーザ回析式粒度測定装置(ASLD−2100:島津製作所社製)やレーザ回析/散乱式粒度分布測定装置(LA−920:堀場製作所社製)で測定することが出来る。
【0043】
前記のフッ素樹脂粒子の大きさを整えるため、ポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂粒子との混合溶液を金型外面に塗布する前に、前記混合溶液をフィルターで濾過し、フッ素樹脂粒子の粗大粒子を除去することが好ましい。
【0044】
また、本発明の管状物体は、ポリイミドを主成分とする管状物体であり、フッ素樹脂とポリイミド前駆体溶液を混合しシームレス状にキャスティング成形後、加熱イミド化したものである。前記ポリイミド前駆体溶液は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの略等モルを有機極性溶媒中で反応させて得ることができる。
【0045】
前記、芳香族テトラカルボン酸二無水物の代表例としては、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,3′,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2′−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物等があげられる。
【0046】
また、前記芳香族ジアミンの代表例としては、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3′−ジクロロベンジジン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニルジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド−3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、3,3′−ジメチルベンジジン、4,4′−ジアミノフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルプロパン、m−キシリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、等があげられる。
【0047】
これら芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンは、単独であるいは混合して使用することができる。またポリイミド前駆体溶液まで完成させてそれらの前駆体を混合して使用することもできる。
【0048】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの組み合わせの中では、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンの組み合わせが好ましい。この前駆体から得られたポリイミドは、ポリマーの構造がリジッドであり、フッ素樹脂の溶融温度でフッ素樹脂を外側に押出しやすい構造となる。
【0049】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを反応させる有機極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、ピリジン、ジメチルテトラメチレンスルホン、テトラメチレンスルホン等があげられる。これらの有機極性溶媒はフェノール、キシレン、ヘキサン、トルエン等を混合することもできる。
【0050】
上記、ポリイミド前駆体溶液は、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で通常は90℃以下で反応させることによって得られ、溶媒中の固形分濃度は、最終のポリイミド管状物体の仕様や加工条件によって設定することができるが10〜30質量%である。
【0051】
また、有機極性溶媒中で芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させると、その重合状況によって溶液の粘度が上昇するが、使用に際しては所定の粘度に希釈して使用することができる。製造条件や作業条件によって通常1〜5000ポイズの粘度で使用される。
【0052】
本発明の製造方法において、管状物体の少なくとも外面にフッ素樹脂層を析出させることができる温度は、フッ素樹脂の融点を越える温度に加熱する必要がある。イミド化の最高温度は、混合したフッ素樹脂の融点より10℃以上高い温度でイミド化を完成させることが好ましい。
【0053】
また、前記管状物体の内外面にフッ素樹脂を析出させるために必要な加熱時間は、イミド化の最高温度がフッ素樹脂の融点を越える温度に到達してから30分以内の時間であることが好ましい。30分以上の加熱時間になると、フッ素樹脂の熱分解や、ポリイミドの機械的特性が低下するおそれがある。
【0054】
本発明の管状物体は例えば次のような方法で得ることができる。所定の外径(管状物体の内径に相当する径)の金型表面にフッ素樹脂混合ポリイミド前駆体溶液を塗布し、外側にダイスを用いてキャスト成形し、加熱装置に導き、100〜150℃の比較的低い温度で重合溶媒を乾燥させ、その後、イミド化反応を進め、最終的にはフッ素樹脂の融点を越える温度で所定時間加熱してイミド化を完成させる。その後冷却して、前記金型から管状物体を取り外す。
【0055】
本発明の一実施例においてポリイミド前駆体溶液にフッ素樹脂(PTFE)粉末を混合し、キャスト成形し、ポリイミドのイミド化温度が300℃のときの管状物体10の概略拡大断面図を図1に示す。この段階まではポリイミドフィルム層11の内部にフッ素樹脂粉末12は分散されており、表層面はほとんどポリイミド層で覆われている。この段階では水の接触角も低い。15は金型である。
【0056】
次に、イミド化温度を400℃にすると、図2に示すように、フッ素樹脂粉末は溶融し、ポリイミド表面から染み出すように空気側表面層に析出する。13は溶融して染み出したフッ素樹脂である。14は金型側の内表面側に溶融して析出したフッ素樹脂である。この状態になると水の接触角は高くなる。フッ素樹脂はポリイミドとの関係においては、非相溶で海島構造(海がポリイミド、島がフッ素樹脂)であり、かつ溶融したフッ素樹脂はポリイミド表面から部分的に析出している。
【0057】
図3はポリイミド前駆体溶液にFEP(融点260℃)粒子のみを単独で混合し、キャスト成形し、ポリイミドのイミド化温度を400℃にしたときの管状物体の概略拡大断面図である。ポリイミドフィルム層21の内部にFEP粉末22は分散されており、外表層面にFEPが溶融流動して析出し、部分的又は全面にフッ素樹脂被膜23を形成している。30は内表面に溶融析出したFEP樹脂である。28は金型である。
【0058】
図4はポリイミド前駆体溶液にPTFE(融点327℃)粒子とFEP(融点260℃)粒子を50:50の割合で混合し、キャスト成形し、ポリイミドのイミド化温度を400℃にしたときの管状物体の概略拡大断面図である。ポリイミドフィルム層21の内部にFEP粉末22とPTFE粉末24は分散されており、表層面にFEPとPTFEが溶融流動して析出し、部分的又は全面にフッ素樹脂被膜(23,25)を形成している。28は金型である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0060】
下記の実施例及び比較例において、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は「BPDA」と略記し、パラフェニレンジアミンは「PPD」と略記し、ピロメリット酸二無水物は「PMDA」と略記し、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルは「ODA」とN−メチル−2−ピロリドンは「NMP」と略記する。
【0061】
また、本発明で得られた管状物体の動摩擦係数及び、これらの材料で得たフィルムの純水に対する接触角は下記の方法で測定した。
(1)動摩擦係数の測定方法(図12に示す)
動摩擦係数の測定はJISK7125に準じて行った。水平なテーブル64の上に幅80mm長さ200mmの大きさの試験フィルム62を固定した。その上に幅63mm、長さ63mm(面積40cm2)の大きさで固定した試験フィルム62と同材質の試験フィルム61を重ね、さらにその上に幅63mm、長さ63mm(面積40cm2)、重さ200gの重り63を置き、重ねた試験フィルムを100mm/分の速度で水平に滑らし、その荷重(動摩擦力)を測定し下記の式により動摩擦係数を計算した。65はワイヤ、66は滑車、67は引っ張り試験機のロードセルでZの方向に巻き上げる。
動摩擦係数μD=FD/FP
D:動摩擦力(N)
P:すべり片の質量によって生じる方線力(=1.96N)
(2)接触角の測定
協和界面化学(株)製“FACE CA−Z”測定器を用いて、23℃の純水に対する接触角を測定した。
【0062】
(実施例1)
(1)フッ素樹脂混合ポリイミド前駆体溶液の製作
BPDA100質量部に対してPPD39質量部をフラスコ中でNMPに溶解(モノマー濃度18.2質量%)し、23℃の温度で6時間攪拌しながら反応させてポリイミド前駆体溶液を得た。このポリイミド前駆体溶液の回転粘度は1200ポイズであった。なお、回転粘度は温度23℃においてB型粘度計で測定した値である。次に、前記ポリイミド前駆体溶液に平均粒子径3.0μmのPTFE粉末(融点327℃:デュポン社製商品名“Zonyl MP1100”)をポリイミド前駆体溶液中の固形分に対して20質量%の割合になるように添加して攪拌し、さらに平均粒子径35μmのFEP粉末(融点260℃:デュポン社製商品名"532−8110")をポリイミド前駆体溶液中の固形分に対して4.0質量%の割合になるように添加して攪拌し、均一に分散させた。その後250メッシュのステンレス金網を用いて粗い異物を濾過し、フッ素樹脂粉末混合ポリイミド前駆体溶液を用意した。
(2)管状物体の製作
外径が24mm、長さ500mmのアルミニウム製金型の表面に酸化ケイ素コーティング剤をディッピング法によりコーティングし焼付け、酸化ケイ素膜を被覆した。
【0063】
次いで図5に示すように、前記のフッ素樹脂粉末混合ポリイミド前駆体溶液4に金型1を先端から400mm部分まで浸漬し、塗布したのち、内径25mmのリング状ダイス2を前記金型の上部から挿入し走行させ、前記金型の表面に500μmの厚みのキャスト膜3を成形した。
【0064】
その後、前記金型1ごと120℃のオーブンに入れ60分間乾燥後、200℃の温度まで40分間で昇温させ、同温度で20分間保持し、最終イミド化処理として250℃の温度で10分間加熱した後、400℃の温度まで15分で昇温し、同温度で10分間加熱してイミド化を完了させ、室温(25℃)に冷却後、金型から管状物体を取り外した。
【0065】
得られた管状物体の厚みは55μmであり両端部をカットし、長さ240mm(A4サイズ)とし内径24mmの管状物体を得た。
【0066】
この管状物体の内外面の動摩擦係数の測定結果を後の表1に示す。また、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX−100)による1000倍の外面の観察写真を図9に示す。外面の白く斑点状に見える部分がPTFE樹脂粒子であり、そのまわりに流動したような状態で析出している部分がFEP樹脂である。全体としてフッ素樹脂被膜面は、フッ素樹脂粒子に起因する粒状模様を有していることが確認できる。また、この管状物体の内面の同写真を図10に示す。黒く斑点状に見える部分はPTFE樹脂が析出ものであり、まわりの白く見える部分はFEP樹脂が溶融して流動している部分である。
【0067】
このポリイミド管状物体を図6に示す毎分10枚の定着が可能なレーザービームプリンターの定着ベルトとして装着し画像定着を行った結果、良好な画像が得られた。
【0068】
(比較例1)
実施例1の条件でポリイミド前駆体溶液にフッ素樹脂粉末を混合しない以外は実施例1と同様の条件でポリイミド管状物体を得た。この管状物体の内面の動摩擦係数の測定結果を後の表1に示す。
【0069】
(実施例2)
実施例1で調合したBPDA/PPDからなるポリイミド前駆体単体溶液にフッ素樹脂粉末として平均粒子径35μmのFEP粉末(デュポン社製商品名“532−8110”)のみをポリイミド前駆体溶液中の固形分に対して23質量%の割合になるように添加し混合しフッ素樹脂混合ポリイミド前駆体溶液を用意した。
【0070】
その後実施例1と同様に金型の表面にポリイミド前駆体溶液を塗布し、キャスト成形し、実施例1と同様にイミド化処理を実施し、最終イミド化処理として250℃の温度で10分加熱した後、300℃の温度まで5分で昇温させ350℃の温度で15分間加熱し、冷却してポリイミド管状物体を得た。
【0071】
この管状物体の動摩擦係数の測定結果を表1に示す。また、図6に示す毎分10枚の定着が可能レーザービームプリンターの定着ベルトとして装着し画像定着を行った結果、良好な画像が得られた。図6において、31は定着ベルト(ポリイミド樹脂管状物体)、32はベルトガイド、33はセラミックヒーター、34は駆動源を持つ加圧ロール、35はサーミスタ、36は加圧ロールの芯金、37は複写紙、38は定着前のトナー像、39は定着後のトナー像、Nはニップ点である。
【0072】
(実施例3)
実施例1で調合したBPDA/PPDからなるポリイミド前駆体単体溶液にフッ素樹脂粉末として平均粒子径28μmのPFA樹脂粉末(三井デュポンフロロケミカル社製商品名PFA MP102)のみをポリイミド前駆体溶液中の固形分に対して24質量%の割合になるように添加し混合しフッ素樹脂混合ポリイミド前駆体溶液を用意した。
【0073】
その後実施例1と同様に金型表面ポリイミド前駆体溶液をキャスト成型し実施例1と同様の条件でイミド化の最高温度を400℃で処理してポリイミド管状物体を得た。ただし、前記金型は外径30mmの金型を使用した。
【0074】
この管状物体の動摩擦係数の測定結果を表1に示す。また、図7に示す毎分6枚の定着が可能レーザービームプリンターの加圧ベルトとして装着し画像定着を行った結果、良好な画像が得られた。図7において、51は加圧ベルト、52は押圧ガイド、53は押圧パッド、54は定着ロール、55は熱源、56は定着前のトナー像、57は複写紙である。
【0075】
(実施例4)
PMDA100質量部に対してODA75質量部をフラスコ中でNMPに溶解(モノマー濃度18.0質量%)し、23℃の温度で6時間攪拌しながら反応させてポリイミド前駆体溶液を得た。このポリイミド前駆体溶液の回転粘度は1500ポイズであった。回転粘度は温度23℃においてB型粘度計で測定した値である。次に平均粒子径35μmのFEP粉末(融点270℃デュポン社製商品名“532−8110”)のみをポリイミド前駆体溶液中の固形分に対して26質量%の割合になるように添加し混合しフッ素樹脂混合ポリイミド前駆体溶液を用意した。
【0076】
その後実施例1と同様に金型の表面にポリイミド前駆体溶液を液状成形した。その後120℃のオーブンで60分間乾燥し、200℃まで20分間で昇温し、同温度で20分間加熱し、最終イミド化処理として250℃の温度で10分加熱した後、400℃の温度まで10分で昇温させ400℃の温度で10分間加熱し、冷却してポリイミド管状物体を得た。
【0077】
この管状物体の動摩擦係数の測定結果を表1に示す。また、図6に示す毎分6枚の定着が可能レーザービームプリンターの定着ベルトとして装着し画像定着を行った結果、良好な画像が得られた。
【0078】
(比較例2)
実施例1の条件で最終のイミド化温度を250℃に変更した以外は実施例1と同様の条件でポリイミド管状物体を得た。この管状物体の内外面の動摩擦係数の測定結果を表1に示す。
【0079】
各実施例および各比較例で調整したフッ素樹脂混合ポリイミド前駆体溶液を300mm□(縦:300mm、横:300mm)のガラス板上に80μmの厚みになるようキャスト成形し、表1の最高イミド化温度でイミド化を完成させポリイミドフィルムを得た。その後、各フィルムの純水に対する接触角を測定した結果を表1に示す。
【0080】
(実施例5)
図8に示す管状物体の成形装置を用い、ポリイミド前駆体の吐出スリット部分72の内径が230.2mmで、吐出スリット開口幅1.4mmの吐出口を有する吐出スリットヘッド70を前記成形装置に装着した。また成形金型71として外径229mm、長さ500mmのアルミニウム製金型を用意し、金型表面に酸化ケイ素コーティング剤をディッピング法によりコーティングし焼付け、酸化ケイ素膜で被覆した金型を用い、金型の上端が吐出スリット部の内側にくるように設置した。前記金型の平均表面粗度は(Rz)2.2μmであった。
【0081】
次に実施例1で調合したBPDA/PPDよりなるポリイミド前駆体単体溶液に平均粒子径3.0μmのPTFE粉末(融点327℃:デュポン社製商品名“Zonyl MP1100”)をポリイミド前駆体溶液中の固形分に対して23質量%の割合になるように添加して攪拌し、均一に分散させた。その後250メッシュのステンレス金網を用いて粗い異物を濾過し、PTFE粉末混合ポリイミド前駆体溶液を用意した。
【0082】
その後前記PTFE粉末混合ポリイミド前駆体溶液にさらに、酸性カーボンブラック(三菱化学(株)製、商品名「MA78」、DBP吸収量:70cm3、比表面積100m2/g当りの揮発分:2.6重量%)をポリイミド樹脂に対して14.5質量%添加しポリイミド、PTFE,及びカーボンブラックの3成分を混合分散させたポリイミド前駆体を製作した。
【0083】
その後前記PTFE混合前駆体溶液74を貯蔵タンク73に投入し、スラリーポンプ77を回転させ、所定量のポリイミド前駆体溶液を分岐ユニット78で24箇所に分配し、配管79,80(他の配管は図示せず)を用いて吐出スリッドヘッド70の配管コネクターに接続し、吐出スリット開口部まで圧送した。同時に金型を矢印Yの方向に垂直に上昇させ金型71の最上部から下方向に50mmの位置が、吐出スリット部を通過した時点でスラリーポンプ77からポリイミド前駆体溶液を圧送させ、金型71の外表面に600μmの厚みでポリイミド前駆体溶液81をキャスト成形した。75は送液パイプ、76はバルブである。スラリーポンプ77の圧送速度と、金型71の上昇速度は予め実験によりポリイミド前駆体溶液の粘度、金型71の外径、液状成形厚み等のデータから算出し所定の条件を設定した。金型71の最下端部から50mmの位置が吐出スリット部を通過した時点でスラリーポンプからの圧送を停止し、金型71の表面に約400mmの長さで液状成形を完了させた。その後、前記金型をそのままオーブンに入れ120℃で60分間乾燥後、200℃の温度まで40分間で昇温させ同温度で20分間保持した。次いで300℃まで20分間で昇温させ30分間保持しさらに340℃まで15分間で昇温し、同温度で20分間加熱しイミド化を完了させた後オーブンから取出し冷却後、金型から脱型してポリイミド樹脂管状物体を作製した。
【0084】
この管状物体の厚さは57μmであり、印加電圧500vにおける体積抵抗率は1.1×108Ω・cmであった。また前駆体溶液に混合した前記PTFE樹脂は管状物体の内外面に溶融析出していたが、動摩擦係数のデータでは内面よりも外面に多く析出している結果が得られた。
【0085】
この管状物体について、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX−100)による1000倍の外面の観察写真を図11に示す。白く斑点状に見える部分がPTFE樹脂粒子であり、フッ素樹脂粒子に起因する粒状模様を有していることが確認できる。
【0086】
この管状物体の動摩擦係数及び接触角の測定結果を表1に示す。この管状物体をフルカラーのタンデム型レーザービームプリンターの中間転写ベルトとして使用した結果、ベルト表面に形成したカラートナー像を複写紙に転写した後、転写ベルト上に残存するトナーをウレタンゴム製ブレードにより除去する場合、前記ブレードと転写ベルト表面の摺動抵抗が低く残存するトナーを確実に除去でき、鮮明な画像と十分な耐久性が得られた。また前記管状物体の内面にはフッ素樹脂の析出が少ないため、転写ベルトの内面に配置している駆動ロール間でスリップもなく確実な回転が伝達でき、トナー像が乱れることがなく、画像ぶれの発生が防止できた。体積抵抗率は、JIS C2151の方法に従って、アドバンテスト社製のデジタル超高抵抗/微少電流計R8340/R8340Aを使用し、印加時間30秒で測定した。
【0087】
(実施例6)
(1)多層構造管状物体の1層目(内層)の製作
実施例1で調製したBPDA/PPDからなるポリイミド前駆体単体溶液に、窒化ホウ素粉末(三井化学(株)MBN−010T)を前記ポリイミド前駆体溶液の固形分濃度に対して30質量%混合して窒化ホウ素粉末混合ポリイミド前駆体溶液を作製した。次いで実施例1で用いた金型の表面に、リング状ダイスを用いイミド化後の被膜厚みが35μmになるよう塗布しキャスト成形し、120℃で乾燥後250℃の温度でイミド化の中間処理を行い、窒化ホウ素粉末が混合されたポリイミド被膜からなる管状物体の1層目の被膜成形を行った。
(2)多層構造管状物の2層目(外層)に用いるポリイミド前駆体溶液の製作
実施例1で調製したBPDA/PPDからなるポリイミド前駆体単体溶液に、平均粒子径3.0μmのPTFE粉末(融点327℃:SUMMIT PRECISION POLYMERS CORPORATION製"SP-Powdered PTFE")をポリイミド前駆体溶液中の固形分に対して70質量%、とカーボンファイバー(昭和電工社製"VGCF-H")を5質量%の割合で添加して攪拌し、均一に分散させた。その後250メッシュのステンレス金網を用いて粗い異物を濾過し、フッ素樹脂粉末とカーボンファイバー混合ポリイミド前駆体溶液を用意した。
(3)多層構造管状物体の2層目(外層)の成形及びイミド化の完結
前記(1)項で製作した1層目の管状物体の表面に前記(2)項で調製したフッ素樹脂粉末とカーボンファイバー混合ポリイミド前駆体溶液をイミド化後の被膜厚みが20μmになるようにリング状ダイスを用いてキャスト成形し、120℃の温度で乾燥した後、250℃の温度で一次イミド化処理を行い、さらに、400℃の温度まで15分で昇温し、同温度で20分間加熱してイミド化を完了させ、ポリイミドに窒化ホウ素粉末を混合した内層と、同じくポリイミドにフッ素樹脂粉末とカーボンファイバーを混合した外層を有する2層構造のポリイミド管状物体を得た。この管状物体の内径は24mmで総厚みは54μmであり、1層目と2層目はイミド化によって強固に接着され剥離することはできなかった。また、管状物体の外面には、混合したフッ素樹脂が溶融して析出しており、フッ素樹脂の優れた離型性及び低い摩擦特性を有していた。この管状物体の内外面の動摩擦係数の測定結果を表1に示す。この管状物体は1層目と2層目がイミド化によって一体化された構造であり、1層目(内層)は管状物体として必要とされる機械的特性を有し、2層目(外層)は多量に混合したフッ素樹脂が溶融して析出し、十分な厚みの離型層が得られ優れた耐久性が得られた。
【0088】
また、1層目に混合した窒化ホウ素と、2層目に混合したカーボンファイバーによって管状物体の厚み方向の熱伝導性が改良され、同時に最外層に析出したフッ素樹脂層の表面抵抗は800Ω/□であり、毎分14枚の定着が可能な図6に示すレーザービームプリンターの定着ベルトとして装着し、画像定着を行った結果、オフセットの発生もなく良好な画像が得られた。
【0089】
(実施例7)
(1)多層構造管状物体の1層目(内層)の製作
実施例1で調製したBPDA/PPDからなるポリイミド前駆体単体溶液に、平均粒子径3.0μmのPTFE粉末(融点327℃:デュポン社製商品名"Zonyl MP1100")を15質量%混合してフッ素樹脂とポリイミド前駆体の混合溶液を調合した。次いで実施例3で用いた金型の表面にリング状ダイスを用いイミド化後の被膜厚みが35μmになるように塗布し、キャスト成形し、120℃で乾燥後250℃の温度でイミド化の中間処理を行い、前記混合溶液からなる1層目の被膜を成形した。
(2)多層構造管状物の2層目(外層)に用いるポリイミド前駆体溶液の製作
実施例1で調製したBPDA/PPDからなるポリイミド前駆体単体溶液に平均粒子径3.0μmのPTFE粉末(融点327℃:SUMMIT PRECISION POLYMERS CORPORATION製"SP-Powdered PTFE"をポリイミド前駆体溶液中の固形分に対して55質量%、カーボンファイバー(昭和電工社製"VGCF-H")を5質量%の割合になるように添加して攪拌し、均一に分散させた。その後250メッシュのステンレス金網を用いて粗い異物を濾過し、フッ素樹脂粉末とカーボンファイバー混合ポリイミド前駆体溶液を用意した。
(3)多層構造管状物体の2層目(外層)の成形、及びイミド化の完結
前記(1)項で製作した1層目の管状物体の表面に前記(2)項で調合した、フッ素樹脂粉末とカーボンファイバー混合ポリイミド前駆体溶液をイミド化後の被膜厚みが20μmになるように、リング状ダイスを用いてキャスト成形し、120℃の温度で乾燥した後、250℃の温度で一次イミド化処理を行い、さらに、400℃の温度まで15分で昇温し、同温度で20分間加熱してイミド化を完了させ、ポリイミドにフッ素樹脂を混合した内層と、同じくポリイミドにフッ素樹脂粉末とカーボンファイバーを混合した外層を有する2層構造のポリイミド管状物体を得た。この管状物体の内径は24mmで総厚みは55μmであり、1層目と2層目はイミド化によって強固に接着されていた。また、管状物体の外面、及び内面にもフッ素樹脂が溶融して析出しており、フッ素樹脂の優れた離型性及び低い摩擦特性を有していた。この管状物体の内外面の動摩擦係数の測定結果を表1に示す。この管状物体の最外層に析出したフッ素樹脂層の表面抵抗は815Ω/□であり、図7に示す定着装置を装着したレーザービームプリンターの加圧ベルトとして用い、画像定着を行った結果、オフセットの発生もなく良好な画像が得られた。
【0090】
【表1】

【0091】
表1から明らかなとおり、本発明の管状物体は、動摩擦係数が低く、フィルム状成形物の接触角も低かった。また、電子顕微鏡写真による観察結果から、ポリイミド管状物体の表面にフッ素樹脂が析出していることが確認できた。さらに、レーザービームプリンターの定着ベルトとして装着し、画像定着を行った結果、良好な画像が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は本発明の一実施例におけるイミド化完結前の管状物体の概略断面図。
【図2】図2は本発明の一実施例におけるイミド化完結後の管状物体の概略断面図。
【図3】図3は本発明の一実施例におけるFEP添加の場合の被膜形成を示す概略断面図。
【図4】図4は本発明の一実施例におけるFEPとPTFE混合添加の場合の比較形成を示す概略断面図。
【図5】図5は本発明の一実施例におけるキャスト成形の方法を示す断面図。
【図6】図6は本発明の一実施例で用いたレーザービームプリンター定着装置を示す概略断面図。
【図7】図7は本発明の別の実施例で用いたレーザービームプリンター定着装置を示す概略断面図。
【図8】図8は本発明の別の実施例におけるキャスト成形の方法を示す断面図。
【図9】図9は本発明の実施例1におけるポリイミド管状物体の外表面の顕微鏡写真。
【図10】図10は本発明の実施例1におけるポリイミド管状物体の内表面の顕微鏡写真。
【図11】図11は本発明の実施例5におけるポリイミド管状物体の外表面の顕微鏡写真。
【図12】図12は本発明の一実施例で用いた動摩擦係数の測定装置を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0093】
1,15,28,71 金型
2, ダイス
3,81 キャスト膜
4,74 フッ素樹脂粉末混合ポリイミド前駆体溶液
10,51 ポリイミド管状物体
11,21 ポリイミドフィルム層
12,24 PTFE粒子
13,25 外表面側に溶融析出したPTFE
14,29 内表面側に溶融析出したPTFE
22 熱可塑性フッ素樹脂粒子
23 外表面に溶融析出した熱可塑性フッ素樹脂粒子
30 内表面に溶融析出した熱可塑性フッ素樹脂粒子
31 定着ベルト
32 ベルトガイド
33 セラミックスヒーター
34 加圧ロール
35 サーミスタ
36 加圧ローラの芯金
37 複写紙
38 トナー
39 トナー像


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドとフッ素樹脂粒子とを含む混合物が成形され加熱硬化された管状物体であって、
前記管状物体の表層近傍に存在する少なくとも一部のフッ素樹脂粒子は、前記管状物体の外面又は内外面に溶融流動して析出し、部分的又は全面にフッ素樹脂被膜を形成していることを特徴とする管状物体。
【請求項2】
前記フッ素樹脂被膜面は、フッ素樹脂粒子に起因する粒状模様を有している請求項1に記載の管状物体。
【請求項3】
前記管状物体は、ポリイミドとフッ素樹脂粒子を含む単体層である請求項1又は2に記載の管状物体。
【請求項4】
前記管状物体は、フッ素樹脂粒子を含まない内層、又は、外層よりもフッ素樹脂の存在量が少ない内層と、前記内層よりもフッ素樹脂の存在量が大きい外層で形成されている請求項1又は2に記載の管状物体。
【請求項5】
前記ポリイミドとフッ素樹脂粒子とを含む層のフッ素樹脂粒子の存在量は、10〜90質量%である請求項1〜4のいずれかに記載の管状物体。
【請求項6】
前記フッ素樹脂粒子は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(PETFE)から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載の管状物体。
【請求項7】
前記フッ素樹脂の平均粒子径は、0.1〜100μmである請求項1〜6のいずれかに記載の管状物体。
【請求項8】
前記ポリイミドは、少なくとも1種の芳香族テトラカルボン酸二無水物と、少なくとも1種の芳香族ジアミンからなるポリイミド前駆体溶液を加熱イミド化したポリイミドである請求項1、3又は5に記載の管状物体。
【請求項9】
ポリイミド前駆体溶液と溶融流動するフッ素樹脂粒子との混合溶液を金型外面に塗布し所定の厚みにキャスト成形し、
加熱してイミド化し、前記イミド化の最高温度をフッ素樹脂の融点を越える温度とし、
冷却後、前記金型と管状物体を分離することにより、
前記管状物体の表層近傍に存在する少なくとも一部のフッ素樹脂粒子を前記管状物体の外面又は内外面に溶融流動して析出させ、部分的又は全面にフッ素樹脂被膜を形成させることを特徴とする管状物体の製造方法。
【請求項10】
前記混合溶液を金型外面に塗布して所定の厚みにキャスト成形する前に、予め金型外面にポリイミド前駆体溶液を塗布し所定の厚みにキャスト成形しておき、
イミド化する前又は完結後に、前記混合溶液を金型外面に塗布し所定の厚みにキャスト成形する請求項9に記載の管状物体の製造方法。
【請求項11】
前記ポリイミドとフッ素樹脂粒子とを含む層のフッ素樹脂粒子の存在量は、10〜90質量%である請求項9又は10に記載の管状物体の製造方法。
【請求項12】
前記フッ素樹脂粒子は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(PETFE)から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂である9〜11のいずれかに記載の管状物体の製造方法。
【請求項13】
前記フッ素樹脂の平均粒子径は、0.1〜100μmである請求項9〜12のいずれかに記載の管状物体の製造方法。
【請求項14】
前記ポリイミドは、少なくとも1種の芳香族テトラカルボン酸二無水物と、少なくとも1種の芳香族ジアミンからなるポリイミド前駆体溶液を加熱イミド化したポリイミドである請求項9〜11のいずれかに記載の管状物体の製造方法。
【請求項15】
前記ポリイミドは、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、パラフェニレンジアミンからなるポリイミド前駆体溶液を加熱イミド化したポリイミドである請求項14に記載の管状物体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−256323(P2006−256323A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42221(P2006−42221)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】