説明

粉体塗料および粉体塗装方法

【課題】 金属部材への塗膜の密着性に優れ、かつ耐食性の向上した塗装品を与えると共に、金属部材の塗装前下地処理の簡略化が可能な粉体塗料、および該粉体塗料を用いる塗装方法を提供する。
【解決手段】 化成処理された亜鉛粒子を含むことを特徴とする粉体塗料、およびこの粉体塗料を、被塗物に静電塗装することを特徴とする、粉体塗装方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料および粉体塗装方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、金属部材への塗膜の密着性に優れ、かつ耐食性の向上した塗装品を与えると共に、金属部材の塗装前下地処理の簡略化が可能な粉体塗料、および該粉体塗料を用いて静電塗装する粉体塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属への耐食性付与技術として、環境を配慮した粉体塗装が広く行われている。この粉体塗装に用いられる粉体塗料は、有機溶剤または水のような液体溶剤を使用せずに粉末の状態で塗装する塗料で、しいていえば空気を溶剤とした塗料であるともいえる。
【0003】
溶剤類を一切使用しないため火災の危険がなく、固形分100%の塗料であり、塗料は回収して再使用できるので塗装に際して、塗料の損失が少ない。また一度に厚く塗れ、100〜1000μmの塗膜厚が1回塗りで得られるなどの長所を持った塗料である。したがって、使用分野、適用範囲も徐々に拡大しており、使用される粉体塗料についても、各種防食顔料、フィラーが添加され、性能向上が図られている。
【0004】
しかしながら、塗料成分とフィラー粒子表面との親和性が低いことに起因して、フィラー粒子間に塗料成分が流入しにくく、塗膜とした際の欠陥の形成や、耐食性低下、塗膜と被着体との密着性低下などの問題が生じることがあり、特に亜鉛などの自己犠牲粒子を用いる場合には、前記問題は顕著となり、添加量を抑制せざるを得ないのが実状である。
【0005】
例えば、特許文献1には、金属基体に対して優れた防錆性能を発揮する塗装方法として、鉄、アルミニウム、ステンレスなどからなる鋼板や鋼材を対象とする金属基体に対して亜鉛末を含んだ粉体塗料を塗装して焼付硬化を施すことを特徴とする亜鉛末を含む粉体塗料を使用した粉体塗装方法が開示されているが、やはり前記の問題は残る。
【0006】
一方、金属部材に粉体塗装を行う場合には、塗膜の密着性などを向上させるために、金属部材に対して、通常表面に付着している油分を除去するための脱脂処理、脱脂後水洗処理、後工程である化成処理における化成皮膜の形成を良好に行うための表面調整処理、および、防食性や耐摩耗性を向上させるリン酸塩化成処理、および化成後水洗処理という一連の煩雑な塗装前処理工程を施してから、静電塗装などの粉体塗装が行われている。したがって、この塗装前処理工程が簡略化できれば、生産性が向上する。
【0007】
【特許文献1】特開2007−50369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情のもとで、金属部材への塗膜の密着性に優れ、かつ耐食性の向上した塗装品を与えると共に、金属部材の塗装前下地処理の簡略化が可能な粉体塗料、および該粉体塗料を用いる塗装方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、化成処理された亜鉛粒子を含む粉体塗料、および該粉体塗料を用いて、被塗物に静電塗装する粉体塗装方法により、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) 化成処理された亜鉛粒子を含むことを特徴とする粉体塗料、
(2) 化成処理がリン酸塩処理である、上記(1)項に記載の粉体塗料、
(3) 化成処理が、リン酸亜鉛処理またはリン酸アルミニウム処理である、上記(2)項に記載の粉体塗料、
(4) 被化成処理亜鉛粒子が、平均粒径0.1〜10μmのものである、上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の粉体塗料、
(5) 化成処理された亜鉛粒子表面の化成処理皮膜の厚さが0.05〜3μmである、上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の粉体塗料、
(6) 化成処理された亜鉛粒子の含有量が、粉体塗料全体積に基づき、5〜40容量%である、上記(1)〜(5)項のいずれか1項に記載の粉体塗料、
(7) 塗料の皮膜形成性成分が、熱可塑性樹脂または熱硬化型樹脂である、上記(1)〜(6)項のいずれか1項に記載の粉体塗料、および
(8) 上記(1)〜(7)項のいずれか1項に記載の粉体塗料を、被塗物に静電塗装することを特徴とする、粉体塗装方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属部材への塗膜の密着性に優れ、かつ耐食性の向上した塗装品を与えると共に、金属部材の塗装前下地処理の簡略化が可能な粉体塗料、および該粉体塗料を用いて静電塗装する粉体塗装方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明の粉体塗料について説明する。
[粉体塗料]
本発明の粉体塗料は、化成処理された亜鉛粒子(以下、化成処理亜鉛粒子と称することがある。)を含むことを特徴とする。
【0013】
(亜鉛粒子の化成処理)
本発明において、化成処理が施される亜鉛粒子としては、特に制限はないが、亜鉛を少なくとも80質量%含み、かつ他の成分が、鉄よりもイオン化傾向の大きな金属、例えばマグネシウムやアルミニウムなどである金属粒子が好適である。
【0014】
この被化成処理亜鉛粒子の平均粒径は、0.1〜10μm程度であることが好ましい。この平均粒径が0.1μm未満のものは化成処理の際に、化成処理液中で凝集が生じやすく、一方10μmを超えると、得られる化成処理亜鉛粒子の粉体塗料中での分散性が低下する傾向がある。より好ましい平均粒径は1〜5μmの範囲である。
【0015】
前記亜鉛粒子に化成処理を施す場合、当該亜鉛粒子は、まずアセトンなどの有機溶剤で脱脂処理し、乾燥処理後、化成処理を施すことが好ましい。この化成処理方法としては、リン酸塩化成処理法が好ましく用いられる。リン酸塩化成処理法としては、例えばリン酸亜鉛処理またはリン酸アルミニウム処理などを挙げることができる。
【0016】
前記リン酸亜鉛処理やリン酸アルミニウム処理については特に制限はないが、通常リン酸亜鉛またはリン酸アルミニウム処理液中に、前記の脱脂処理された亜鉛粒子を適宜量加え、常温〜50℃程度の温度で、1〜5分間程度浸漬処理したのち、乾燥させる方法を用いることができる。
【0017】
このようにして化成処理された亜鉛粒子表面の化成処理皮膜の厚さは、通常0.05〜3μm程度、好ましくは0.1〜1μmである。
【0018】
(粉体塗料の成分)
本発明の粉体塗料は、前述の化成処理亜鉛粒子を含むものであるが、皮膜形成性成分として、通常熱可塑性樹脂または熱硬化型樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられ、熱硬化型樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、熱硬化型ポリウレタン系樹脂、熱硬化型アクリル系樹脂などが挙げられるが、防湿性、さび止め性、防食性の持続性の観点から、金属部材表面への焼付け硬化が行える点で、熱硬化型樹脂が好ましい。なお、熱硬化型粉体塗料においては、必要に応じ、含有される熱硬化型樹脂に応じた硬化剤を含むことができる。
【0019】
本発明の粉体塗料においては、前記の化成処理亜鉛粒子の含有量は、金属部材への塗膜の密着性および耐食性の観点から、粉体塗料全体積に基づき、5〜40容量%であることが好ましく、10〜35容量%であることがより好ましく、25〜30容量%であることがさらに好ましい。また、粉体塗料の平均粒径は、静電塗布性、皮膜形成性の観点から、10〜100μmであることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましく、30〜40μmであることがさらに好ましい。
【0020】
次に、粉体塗装方法について説明する。
[粉体塗装方法]
本発明の粉体塗装方法は、前述した本発明の粉体塗料を、被塗物に静電塗装することを特徴とする。
【0021】
本発明の粉体塗装方法が適用される被塗物としては、本発明の効果の点から、金属部材を挙げることができる。
【0022】
(金属部材)
本発明の粉体塗装方法が適用される金属部材を構成する金属としては、構造材、機械部品などとして使用される全ての金属や合金などが挙げられるが、特に多量に使用される鉄、アルミニウム、銅が好適であり、中でも鉄(鋼材)が代表的な金属である。
【0023】
これらの金属部材は、粉体塗装が施される前に通常表面付着している油分を除去するための脱脂処理、脱脂後水洗処理、後工程である化成処理における化成皮膜の形成を良好に行うための表面調整処理、及び、防食性や耐摩耗性を向上させるリン酸塩化成処理、及び化成後水洗処理という一連の煩雑な塗装前処理工程が施されるが、本発明の粉体塗装方法においては、前記塗装前処理工程の中で、表面調整処理以降の工程を省略することが可能で、生産性の向上を図ることができる。
【0024】
(静電塗装)
粉体塗装方法としては、静電塗装法および流動浸漬塗装法があるが、塗着効率が高く、また均一に塗装できる点などから、静電塗装法が好適である。この静電塗装法は、接地した被塗物を陽極、塗料噴霧装置を陰極として高電圧を与え、両極間に静電場を作り、その中に塗料を飛散させて帯電せしめ、反対極である被塗物に吸引させて塗膜を作る方法である。
【0025】
静電塗装法は、電気的吸引作用によって塗料を付着させることから、塗料のロスが少なく、肉のりの悪い突出部や周辺部で厚い塗膜が得られる上、作業に人手をほとんど要しないなどの利点がある。静電粉体塗装機としては、市販のものを利用することができる。
【0026】
このようにして、金属部材などの被塗物上に、密着性および耐食性に優れた塗膜を形成することができる。この塗膜の厚さは、用途によって異なるが、通常20〜100μm程度、好ましくは30〜60μmである。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた塗膜の性能は、以下に示す方法に従って評価した。
【0028】
(1)密着性
JIS K 5600−5−6に準拠して基盤目試験を行い、密着性を評価した。
(2)耐食性
JIS K 2371に準拠して、240時間の塩水噴霧試験を行い、耐食性を評価した。
【0029】
実施例1
(1)粉体塗料の作製
平均粒径3μmの亜鉛粉末500gをアセトンにて脱脂処理し、乾燥後、リン酸亜鉛処理液[日本パーカーライジング社製、商品名「BT−3004」]中に、40℃で2分間浸漬処理したのち、純水で洗浄し、次いで80℃で1時間乾燥処理して、化成処理亜鉛粉末を得た。
【0030】
次に、この化成処理亜鉛粉末を、エポキシ樹脂[ソマール社製、商品名「エピフォームF7222」]に、二軸押出機により混練して分散混合し、化成処理亜鉛粒子30容量%を含有する塊状樹脂を得、ジェットミル粉砕機にて粉砕処理することにより、平均粒径30μmの粉体塗料を作製した。
【0031】
(2)粉体塗料塗装品の作製
鉄系部材として、SPCC(冷間圧延鋼板:100mm×100mm×3.6mm)を用い、これをアセトンでよく洗浄し、乾燥後、表面調整[「PL−4031」、日本パーカーライジング社製商品名]、次いでリン酸亜鉛処理[「BT−3004」、日本パーカーライジング社製商品名]を行い、皮膜質量3g/mのリン酸亜鉛皮膜を形成させた。
【0032】
次に、上記(1)で作製した粉体塗料を、粉体静電塗付装置[旭サナック社製、コロナ帯電方式]にて、リン酸亜鉛処理SPCC板に塗付したのち、大気加熱炉にて、180℃、30分間焼付け処理を行い、厚さ50μmの塗膜を形成した。塗膜の性能評価結果を表1に示す。
【0033】
実施例2
実施例1(1)において、リン酸亜鉛処理亜鉛粒子の含有量を20容量%に変更した以外は、実施例1と同様な操作を行い、厚さ50μmの塗膜を作製した。塗膜の性能評価結果を表1に示す。
【0034】
実施例3
実施例1(2)において、鉄系部材のアセトンによる洗浄のみを行い、表面調整およびリン酸亜鉛処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、厚さ50μmの塗膜を作製した。塗膜の性能評価結果を表1に示す。
【0035】
比較例1
実施例1(1)において、リン酸亜鉛処理亜鉛粒子の代わりに、リン酸亜鉛処理をしていない亜鉛粒子を30容量%含有させた以外は、実施例1と同様な操作を行い、厚さ50μmの塗膜を作製した。塗膜の性能評価結果を表1に示す。
【0036】
比較例2
実施例1(1)において、リン酸亜鉛処理亜鉛粒子の代わりに、リン酸亜鉛処理をしていない亜鉛粒子を20容量%含有させた以外は、実施例1と同様な操作を行い、厚さ50μmの塗膜を作製した。塗膜の性能評価結果を表1に示す。
【0037】
実施例4
(1)粉体塗料の作製
平均粒径6μmの亜鉛粉末500gを、リン酸二水素アルミニウムAl(HPO(純正化学(株)製、純正一級)の1質量%溶液に、室温で1分間浸漬処理したのち、純水にて洗浄し、その後80℃に加熱したオーブンに8時間投入し、乾燥させた。
【0038】
次に、この化成処理亜鉛粉体を、エポキシ樹脂[ソマール社製、商品名「エピフォームF7222」]とニーダにて100℃で混練し、樹脂−化成処理亜鉛粉末の混合物を得、ピンミルにて粉砕処理することにより、化成処理亜鉛粒子35容量%を含有する平均粒径45μmの粉体塗料を作製した。
【0039】
(2)粉体塗料塗装品の作製
上記(1)で得た粉体塗料を、静電粉体塗装装置[旭サナック社製]により、アセトンで脱脂処理したSPCC鋼板(100mm×100mm×3.6mm)に塗布し、オーブンに投入して、180℃で30分間焼付け処理を行い、厚さ50μmの塗膜を形成した。塗膜の性能評価結果を表1に示す。
【0040】
実施例5
実施例4(1)において、リン酸二水素アルミニウム処理亜鉛粒子の含有量を25容量%に変更した以外は、実施例4と同様な操作を行い、厚さ50μmの塗膜を作製した。塗膜の性能評価結果を表1に示す。
【0041】
比較例3
実施例4(1)において、リン酸二水素アルミニウム処理亜鉛粒子の代わりに、リン酸二水素アルミニウム処理をしていない亜鉛粒子を35容量%含有させた以外は、実施例4と同様な操作を行い、厚さ50μmの塗膜を作製した。塗膜の性能評価結果を表1に示す。
【0042】
比較例4
実施例4(1)において、リン酸二水素アルミニウム処理亜鉛粒子の代わりに、リン酸二水素アルミニウム処理をしていない亜鉛粒子を25容量%含有させた以外は、実施例4と同様な操作を行い、厚さ50μmの塗膜を作製した。塗膜の性能評価結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

表1から分かるように、実施例1〜5の塗膜は、密着性に優れると共に、耐食性も良好である。これに対し、比較例1、2は耐食性および密着性の両方とも悪く、また比較例3、4は、耐食性は良好であるものの、密着性が悪い。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の粉体塗料は、金属部材への塗膜の密着性に優れ、かつ耐食性の向上した塗装品を与えると共に、金属部材の塗装前下地処理の簡略化を可能であり、例えば自動車用ディスクブレーキのブレーキパッドやドラムブレーキのバッキングプレートなどの塗装に好適に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化成処理された亜鉛粒子を含むことを特徴とする粉体塗料。
【請求項2】
化成処理がリン酸塩処理である、請求項1に記載の粉体塗料。
【請求項3】
化成処理が、リン酸亜鉛処理またはリン酸アルミニウム処理である、請求項2に記載の粉体塗料。
【請求項4】
被化成処理亜鉛粒子が、平均粒径0.1〜10μmのものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粉体塗料。
【請求項5】
化成処理された亜鉛粒子表面の化成処理皮膜の厚さが0.05〜3μmである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の粉体塗料。
【請求項6】
化成処理された亜鉛粒子の含有量が、粉体塗料全体積に基づき、5〜40容量%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の粉体塗料。
【請求項7】
塗料の皮膜形成性成分が、熱可塑性樹脂または熱硬化型樹脂である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の粉体塗料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の粉体塗料を、被塗物に静電塗装することを特徴とする、粉体塗装方法。

【公開番号】特開2010−121048(P2010−121048A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296368(P2008−296368)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】