説明

粉体塗料組成物

【課題】ドラム缶の内面塗装に用いられた場合に、耐薬品性と可とう性とを満足し得るレベルで両立する塗膜を形成し得る粉体塗料組成物を提供すること。
【解決手段】o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(A)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)と、フェノール性硬化剤、アミン系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、およびカルボン酸系硬化剤からなる群より選択される少なくとも1種の硬化剤とを含み、該o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(A)と、該ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)との配合比[(A)/(B):重量比]が、95/5〜60/40である、粉体塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料組成物に関する。具体的には、金属製容器の内面塗装に好適に用いられる粉体塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラム缶等の金属製容器は、モノマー、界面活性剤、樹脂、およびこれらの水溶液、食品等の種々の内容物を充填、輸送した後、長期に渡って、保管する。したがって、このような容器の内面は、高度な耐薬品性を有することが求められる。これに対し、容器の内面を塗装し、塗膜で覆うことにより、耐薬品性を付与することが知られている。このような耐薬品性を付与するためには当該塗膜の機械的強度を高める必要がある。一方、形成される塗膜は、塗装面自体の湾曲や衝撃・変形(例えば、凹凸の形成)によって割れることがないように、十分な可とう性を有する必要がある。すなわち、容器の内面塗装に用いられる塗料には、高度な耐薬品性と十分な可とう性という相反する性能を両立する塗膜を形成することが求められる。
【0003】
しかしながら、従来公知の粉体塗料(例えば、特許文献1)は、高い可とう性を有する塗膜を形成し得るものの、耐薬品性が不十分であるので、耐薬品性と可とう性とを満足し得るレベルで両立することができない。また、このような金属製容器の内面塗装用として粉体塗料を用いた例はなかった。
【特許文献1】特開平8−323288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、金属製容器の内面塗装に用いられた場合に、耐薬品性と可とう性とを満足し得るレベルで両立する塗膜を形成し得る粉体塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の粉体塗料組成物は、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(A)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)と、フェノール性硬化剤、アミン系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、およびカルボン酸系硬化剤からなる群より選択される少なくとも1種の硬化剤とを含み、該o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(A)と、該ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)との配合比[(A)/(B):重量比]が、95/5〜60/40である。
【0006】
好ましい実施形態においては、上記硬化剤が、ビスフェノールA型フェノール性硬化剤(エポキシ基を有するものは除く)である。
【0007】
好ましい実施形態においては、上記粉体塗料組成物は、無機充填剤をさらに含む。
【0008】
好ましい実施形態においては、上記粉体塗料組成物は、上記無機充填剤を2.3〜8.9%の顔料容積濃度で含む。
【0009】
好ましい実施形態においては、上記粉体塗料組成物は、硬化促進剤をさらに含む。
【0010】
好ましい実施形態においては、上記粉体塗料組成物は、金属製容器の内面塗装に用いられる。
【0011】
本発明の別の局面によれば、金属製容器が提供される。該金属製容器は、上記粉体塗料組成物が内面に塗装されている。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記金属製容器は、鋼製ドラム缶である。
【0013】
本発明のさらに別の局面によれば、塗装方法が提供される。該塗装方法は、上記粉体塗料組成物を金属製容器の内面に塗布する工程、および該粉体塗料組成物が塗布された金属製容器の内面を加熱する工程を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明の粉体塗料組成物によれば、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を主樹脂成分として含み、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を副樹脂成分として含むので、高度な耐薬品性と十分な可とう性とを両立する塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
A.粉体塗料組成物
本発明の粉体塗料組成物は、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(A)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)と、フェノール性硬化剤、アミン系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、およびカルボン酸系硬化剤からなる群より選択される少なくとも1種の硬化剤とを含み、該o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(A)と、該ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)との配合比[(A)/(B):重量比]が、95/5〜60/40である。好ましくは、本発明の粉体塗料組成物は、無機充填剤および/または硬化促進剤をさらに含み得る。以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
A−1.o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂
o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、任意の適切なものを用いることができる。好ましくは、常温で固形の樹脂が用いられる。常温で固形でない樹脂を用いる場合、粉体塗料組成物の貯蔵中に粉体粒子間で融着が起こりやすいといった問題や、常温で固形とならず粉体塗料の体をなさない場合も起こりうる。なお、本明細書中において、「常温で固形である」とは、例えば、50℃未満の温度範囲で固形であることをいい、好ましくは軟化点が60℃以上、さらに好ましくは軟化点が60℃〜128℃であることをいう。
【0017】
上記o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、1分子中に1.5個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。
【0018】
上記o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂は、例えば、o−クレゾールとホルムアルデヒドとの反応生成物であるo−クレゾールノボラックと、エピクロルヒドリン等のエピハロヒドリンとを反応させて得ることができる。
【0019】
上記o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、市販製品を用いてもよい。市販製品としては、例えば、エポトートYDCN−701(エポキシ当量195〜220g/eq、軟化点約60〜70℃、東都化成社製)、エポトートYDCN−702(エポキシ当量195〜220g/eq、軟化点約70〜80℃、東都化成社製)、エポトートYDCN−703(エポキシ当量195〜220g/eq、軟化点約75〜85℃、東都化成社製)、エポトートYDCN−704(エポキシ当量195〜220g/eq、軟化点約85〜95℃、東都化成社製)、エピコート180S65(エポキシ当量205〜220g/eq、軟化点約67℃、ジャパンエポキシレジン社製)等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0020】
A−2.ビスフェノールA型エポキシ樹脂
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、任意の適切なものを用いることができる。好ましくは、常温で固形の樹脂が用いられる。常温で固形でない樹脂を用いる場合、粉体塗料組成物の貯蔵中に粉体粒子間で融着が起こりやすいといった問題や、常温で固形とならず粉体塗料の体をなさない場合も起こりうる。
【0021】
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、1分子中に1.5個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。
【0022】
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールA[2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン]とエピクロルヒドリン等のエピハロヒドリンとを反応させて、一旦低分子量のエポキシ樹脂を製造した後、更にビスフェノールAを付加重合させて、所望の分子量に調整する2段法により得ることができる。
【0023】
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、市販製品を用いてもよい。市販製品としては、例えば、エポトートYD−014(エポキシ当量900〜1000g/eq、軟化点91〜102℃、東都化成社製)、エポトートYD−017(エポキシ当量1750〜2100g/eq、軟化点117〜127℃、東都化成社製)、エポトートYD−904(エポキシ当量900〜1000g/eq、軟化点96〜107℃、東都化成社製)、エポトートYD−907(エポキシ当量1300〜1700g/eq、軟化点117〜127℃、東都化成社製)、エピコート1003F(エポキシ当量700〜800g/eq、軟化点約96℃、ジャパンエポキシレジン社製)、エピコート1004F(エポキシ当量875〜975g/eq、軟化点約103℃、ジャパンエポキシレジン社製)、エピコート1005F(エポキシ当量950〜1050g/eq、軟化点約107℃、ジャパンエポキシレジン社製)、アラルダイドXAC5007(エポキシ当量600〜700g/eq、軟化点約90℃、日本チバガイギー社製)、アラルダイドGT7004(エポキシ当量730〜830g/eq、軟化点約100℃、日本チバガイギー社製)、アラルダイドGT7097(エポキシ当量1650〜2000g/eq、軟化点約120℃、日本チバガイギー社製)等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。
【0024】
本発明の粉体塗料組成物は、上記o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(A)とビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)とを、95/5〜60/40、好ましくは95/5〜65/35、さらに好ましくは95/5〜70/30の配合比[(A)/(B):重量比]で含む。配合比[(A)/(B):重量比]が95/5よりも多い場合、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の配合量が少なくなり十分な可とう性を得ることができない。一方、配合比[(A)/(B):重量比]が60/40より少ない場合、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の配合量が少なくなり十分な耐薬品性を得ることができない。すなわち、本発明の粉体塗料組成物は、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂をエポキシ樹脂の主成分とし、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)を副成分として、所定の配合比で含むことにより、耐薬品性と可とう性とを両立する塗膜を形成することができる。
【0025】
A−3.硬化剤
本発明で用いられる硬化剤としては、フェノール性硬化剤、アミン系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、およびカルボン酸系硬化剤が挙げられる。硬化剤は、好ましくはフェノール性硬化剤である。硬化剤は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0026】
フェノール性硬化剤としては、任意の適切なものを用いることができる。好ましくはエポキシ基を有さないビスフェノールA型フェノール性硬化剤が用いられる。エポキシ基を有さないビスフェノールA型フェノール性硬化剤としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。このようなビスフェノールA型フェノール性硬化剤を用いることにより、可とう性がより優れた塗膜を形成し得る。
【化1】

(式中、mは、1〜4の整数を表す。)
【0027】
上記式(1)中、mが1未満である場合、以下に詳述するように、原料としてビスフェノールAを使用して合成することができない。mが4を越える場合、合成時に反応が進みすぎて、合成が困難となるおそれがある。
【0028】
上記一般式(1)で表される化合物のフェノール性水酸基当量は、好ましくは200〜800g/eqである。200g/eq未満である場合、粉体塗料組成物の軟化点が低下し、粉体塗料組成物の貯蔵中に粉体粒子間で融着が起こりやすくなるので、貯蔵安定性が低下するおそれがある。800g/eqを越える場合、反応性が低下するので、耐薬品性が低下するおそれがある。
【0029】
上記一般式(1)で表される化合物は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールAとの反応により得ることができる。また、市販製品を用いてもよい。市販製品としては、例えば、TH−4100(フェノール性水酸基当量約725g/eq、軟化点約110℃、東都化成社製)、エピキュア171(フェノール性水酸基当量200〜286g/eq、軟化点約80℃、ジャパンエポキシレジン社製)、エキピュア170(フェノール性水酸基当量286〜400g/eq、軟化点約90℃、ジャパンエポキシレジン社製)等を挙げることができる。
【0030】
上記フェノール性硬化剤の使用量は、被塗装物の材質、保管内容物等に応じて適切に設定され得る。好ましくは、フェノール性硬化剤の使用量は、エポキシ樹脂成分(上記o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびビスフェノールA型エポキシ樹脂)のエポキシ基1当量に対して、フェノール性硬化剤のフェノール性水酸基が、0.4当量以上、さらに好ましくは0.9〜1.1当量となる量である。フェノール性水酸基当量が0.4未満である場合、エポキシ樹脂の高分子化が不十分となり、得られる塗膜の硬度や耐薬品性が低下するおそれがある。
【0031】
アミン系硬化剤としては、任意の適切なものを用いることができる。具体的には、例えば、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、DDMのアダクト体、メタフェニレンジアミンが挙げられる。アミン系硬化剤の使用量は、例えば、エポキシ樹脂成分100重量部に対して、1〜10重量部、好ましくは2〜5重量部である。
【0032】
ヒドラジド系硬化剤としては、任意の適切なものを用いることができる。具体的には、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドが挙げられる。ヒドラジド系硬化剤の使用量は、例えば、エポキシ樹脂成分100重量部に対して、5〜50重量部、好ましくは10〜30重量部である。
【0033】
カルボン酸系硬化剤としては、任意の適切なものを用いることができる。具体的には、例えば、アジピン酸、セバチン酸、イソフタル酸が挙げられる。好ましくは、カルボン酸系硬化剤の使用量は、エポキシ樹脂成分(上記o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびビスフェノールA型エポキシ樹脂)のエポキシ基1当量に対して、カルボン酸系硬化剤のカルボキシル基が、0.4当量以上、さらに好ましくは0.9〜1.1当量となる量である。
【0034】
A−4.無機充填剤
本発明の粉体塗料組成物は、好ましくは無機充填剤をさらに含む。無機充填剤は、腐食因子の遮断に寄与して耐薬品性を向上させるとともに、塗膜の可とう性を向上させ得る。
【0035】
無機質充填材としては、例えば、アルミナ、シリカ、沈降性硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、タルク、マイカ等の体質顔料;二酸化チタン、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、カーボンブラック等の着色無機顔料;リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム等の防錆顔料等を挙げることができる。好ましくは、二酸化チタン、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、カーボンブラック等の着色無機顔料が用いられる。隠蔽性に優れた粉体塗料組成物が得られるからである。
【0036】
無機充填剤の使用量としては、顔料容積濃度(PVC=Pigment Volume Concentration)が、例えば、2.3〜8.9%、好ましくは3.5〜8.5%、さらに好ましくは3.5〜7.3%となる量である。該好適範囲内で無機充填剤を用いることにより、耐蝕性により優れた塗膜を形成することができる。なお、PVCは、各成分の重量配合量を各々の密度で除すことによりその容積を求め、顔料分の容積合計を全容積合計で除することによって求められる。
【0037】
A−5.硬化促進剤
本発明の粉体塗料組成物は、好ましくは硬化促進剤をさらに含む。硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール類化合物、イミダゾリン類化合物が挙げられる。
【0038】
上記イミダゾール類化合物としては、例えば、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール等のアルキルイミダゾール類、1−(2−カルバミルエチル)イミダゾール等のカルバミルアルキル置換イミダゾール類、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール等のシアノアルキル置換イミダゾール類、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール等の芳香族置換イミダゾール類、1−ビニル−2−メチルイミダゾール等のアルケニル置換イミダゾール類、1−アリル−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のアリル置換イミダゾール類及びポリイミダゾール等が挙げられる。なかでも、アルキルイミダゾール類および芳香族置換イミダゾール類が好ましく用いられる。
【0039】
上記イミダゾリン類化合物としては、例えば、2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾリン、2−ウンデシルイミダゾリン、2−ヘプタデシルイミダゾリン等が挙げられる。
【0040】
硬化促進剤の使用量は、上記硬化剤 100重量部に対して、好ましくは0.05〜15重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部である。使用量が該好適範囲よりも少ない場合、硬化時間が長くなるおそれがある。また、使用量が該好適範囲よりも多い場合、粉体塗料組成物の反応性が高くなるので、常温域においてもブロッキングが発生し、貯蔵安定性が不良となるおそれがある。
【0041】
A−6.その他の成分
本発明の粉体塗料組成物は、必要に応じて、任意の適切な有機顔料、レベリング剤、流動化助剤、脱気剤等の添加剤や助剤をさらに含んでもよい。
【0042】
A−7.粉体塗料組成物の製造方法
本発明の粉体塗料組成物は、任意の適切な製造方法を用いて製造され得る。例えば、上記の各成分からなる原料を準備した後、スーパーミキサー、ヘンシエルミキサー等を使用して原料を予備的に混合し、次いで、コニーダー、エクストルーダー等の混練機を用いて原料を溶融混練する。溶融混練は、少なくとも原料の一部が溶融し全体を混練することができる温度で行われる。溶融混練時の温度は、一般に80〜120℃である。得られた溶融物を冷却ロール、冷却コンベヤー等で冷却して固化し、粗粉砕及び微粉砕の工程を経て所望の粒径に粉砕する。このようにして得られる本発明の粉体塗料組成物の体積平均粒子径は、好ましくは5〜50μmである。
【0043】
B.被塗装物
本発明の粉体塗料組成物の塗装対象は、代表的には、金属製容器の内面である。金属製容器としては、好ましくはアルミニウム製、ステンレス製、鋼製、または鉄製の容器、さらに好ましくは鋼製、または鉄製の容器であり、特に好ましくは鋼製ドラム缶である。金属製容器の内面は、リン酸亜鉛、リン酸鉄等のリン酸塩処理や下塗り等が施されたものであってもよい。すなわち、本発明の別の局面によれば、上記粉体塗料組成物が内面に塗装された金属製容器、好ましくは鋼製ドラム缶が提供される。鋼製ドラム缶での実施例は3ピース(天板、胴体、地板)での塗装であるが、2ピース(地板+胴体、コップ、天板)での塗装も可能である。さらに、鋼製ドラム缶の場合、胴体シーム溶接部は鋼板がラップされるので溶接段差が発生する。この部分は、塗膜が均一に被覆されないので、耐蝕性不足が発生しやすい。従って、胴体シーム溶接部分には圧延処理を施し、塗膜を均一に被覆させることが望ましい。
【0044】
C.塗装方法
本発明の粉体塗料組成物を、被塗装物(代表的には、金属製容器の内面)に対して塗布し、次いで、加熱することにより塗膜を得ることができる。すなわち、本発明の別の局面によれば、上記粉体塗料組成物を金属製容器の内面に塗布する工程、および該粉体塗料組成物が塗布された金属製容器の内面を加熱する工程を含む、塗装方法が提供される。該塗装方法によれば、金属製容器に優れた耐薬品性を付与することができる。
【0045】
粉体塗料組成物を塗布する方法としては、任意の適切な方法を用いることができる。具体的には、静電粉体塗装法、スプレー塗装法、流動浸漬法等が挙げられる。なかでも、塗着効率の点から、静電粉体塗装法が好ましく用いられる。塗装膜厚は、目的に応じて適切に調整される。一般的には、塗装膜厚は、20〜150μmに設定される。鋼製ドラム缶の場合、巻締部は過酷な塑性変形を受けるため、塗膜剥離が発生しやすい。これを防止するために、巻締部の塗膜厚みを通常の1/3〜2/3程度に低減することが好ましい。これに伴う耐蝕性低下は、実際は問題にならない。他の対策としては、巻締部に補修剤を塗布することも有効である。
【0046】
粉体塗料組成物を塗布した後の加熱条件は、上記エポキシ樹脂成分の種類、配合比等に応じて適切に設定され得る。例えば、加熱温度は150〜280℃、好ましくは180〜250℃である。加熱時間は、加熱温度に応じて適切に設定され得る。加熱時間は、例えば、1〜20分である。
【実施例】
【0047】
[実施例1]
(1)粉体塗料組成物の調製
表1に記載の原料をスーパーミキサー(株式会社カワタ社製)にて約3分間予備混合した。次いで、コニーダー(ブス社製)により約100℃の条件で溶融混練押し出しを行った。押し出された配合品を室温まで冷却・粗粉砕後、アトマイザー(不二パウダル社製)にて微粉砕し、平均粒径35μmの粉体塗料組成物を得た。
【0048】
(2)試験片の作製
リン酸亜鉛処理された鋼板(0.8t×70×150mm SPCC−SD(ダル鋼板))に、(1)で調製した粉体塗料組成物を静電粉体塗装機(GX3300、オノダ社製)および静電粉体ガン(GX107、オノダ社製)を用いて静電塗装した。次いで、230℃で15分間加熱することにより、表面に塗膜が形成された試験片を得た。塗膜の厚みは、60〜80μmであった。
【0049】
(3)可とう性評価
[耐カッピング性試験]
上記(2)で得られた試験片について、JIS K5600−5−2に準拠して、耐カッピング性試験を行った。塗膜に欠陥(割れ、剥がれ等)が生じる最小押し込み深さが5mm以上のものを「○」と評価し、5mm未満のものを「×」と評価した。結果を表1に示す。
【0050】
[耐おもり落下性試験]
上記(2)で得られた試験片について、JIS K5600−5−3に準拠して、耐おもり落下性試験を行った。50cmの高さによる衝撃変形により、塗膜の割れ・剥がれを認めないものを「○」と評価し、それ以外を「×」と評価した。結果を表1に示す。
【0051】
(4)耐薬品性評価
上記(2)で得られた試験片を20〜60℃で30日間、種々の化合物溶液に浸漬した後、JIS K5600−5−6(碁盤目テープ法;2mm間隔)に準拠して、種々の化合物に対する耐性評価を行った。JIS K5600−5−6で記載された分類に基づき、分類が「0」のものを「○」と評価し、該分類が「1」または「2」のものを「△」と評価し、該分類が「3」を超えるものを「×」と評価した。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例2〜7、比較例1〜5]
表1に記載の原料を用いて、実施例1と同様にして粉体塗料組成物を調製し、試験片を作製した。得られた試験片について、実施例1と同様にして耐カッピング試験、耐おもり落下性試験、耐薬品性試験を行った。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
[試験例1]
実施例1で調製した粉体塗料組成物、比較塗料組成物1(東洋インキ社製、製品番号「519S」;溶剤系エポキシフェノール塗料組成物)、および比較塗料組成物2(東洋インキ社製、製品番号「526」;溶剤系フェノール塗料組成物)を用いて鋼製ドラム缶への塗装を行い、塗膜の性能を評価した。結果を表2に示す。
【0055】
(1)鋼製ドラム缶の塗装
各塗料組成物をポールガンを用いて、鋼製ドラム缶(内径:567mm、内高830mm)の内面に手塗り塗装した。次いで、230℃で15分加熱することにより、内面に厚み約70μmの塗膜が形成された鋼製ドラム缶を作製した。該ドラム缶の側面部分(10cm×10cm)を用いて、形成された塗膜について以下の可とう性評価を行った。また、該ドラム缶に種々の化合物溶液を封入し、形成された塗膜の耐薬品性評価1および2を行った。
【0056】
(2)可とう性評価
[耐カッピング性試験]
JIS K5600−5−2に準拠して、耐カッピング性試験を行い、塗膜に欠陥(割れ、剥がれ等)が生じる最小押し込み深さを測定した。
【0057】
[耐おもり落下性試験]
JIS K5600−5−3に準拠して、耐おもり落下性試験を行い、衝撃変形によって塗膜の割れ・剥がれが生じる最低高さを測定した。
【0058】
[鉛筆硬度測定]
JIS K5600−5−4に準拠して、塗膜の鉛筆硬度を測定した。
【0059】
[基盤目試験]
JIS K5600−5−6(碁盤目テープ法;2mm間隔)に準拠して、基盤目試験を行った。JIS K5600−5−6で記載された分類に基づき、分類が「0」のものを「○」と評価し、該分類が「1」または「2」のものを「△」と評価し、該分類が「3」を超えるものを「×」と評価した。
【0060】
[溶剤ラビング試験]
メチルエチルケトンを浸した脱脂綿で塗膜表面をラビングし、素地が露出するまでのラビング回数を計測した。
【0061】
(3)耐薬品性評価1
実施例1の(4)と同様にして、塗膜の耐薬品性を評価した。
【0062】
(4)耐薬品性評価2
上記(1)で塗装したドラム缶に、10重量%イゲパール水溶液を充填し、室温で6ヶ月放置した。放置開始後、1ヶ月、3ヶ月、および6ヶ月経過時に塗膜の状態を目視で観察した。
【0063】
【表2】

【0064】
表1および表2に示されるとおり、本発明の粉体塗料組成物は、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とを所定の割合で含むので、耐薬品性と可とう性とを満足し得るレベルで両立する塗膜を形成することができる。また、無機充填剤を適度に含むことにより、さらに可とう性に優れた塗膜を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の粉体塗料組成物は、金属製容器の内面塗装に好適であることから、塗料分野において好適に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(A)と、
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)と、
フェノール性硬化剤、アミン系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、およびカルボン酸系硬化剤からなる群より選択される少なくとも1種の硬化剤とを含み、
該o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(A)と、該ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)との配合比[(A)/(B):重量比]が、95/5〜60/40である、
粉体塗料組成物。
【請求項2】
前記硬化剤が、ビスフェノールA型フェノール性硬化剤(エポキシ基を有するものは除く)である、請求項1に記載の粉体塗料組成物。
【請求項3】
無機充填剤をさらに含む、請求項1または2に記載の粉体塗料組成物。
【請求項4】
前記無機充填剤を2.3〜8.9%の顔料容積濃度で含む、請求項3に記載の粉体塗料組成物。
【請求項5】
硬化促進剤をさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の粉体塗料組成物。
【請求項6】
金属製容器の内面塗装に用いられる、請求項1〜5のいずれかに記載の粉体塗料組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の粉体塗料組成物が内面に塗装された、金属製容器。
【請求項8】
鋼製ドラム缶である、請求項7に記載の金属製容器。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の粉体塗料組成物を金属製容器の内面に塗布する工程、および
該粉体塗料組成物が塗布された金属製容器の内面を加熱する工程を含む、塗装方法。


【公開番号】特開2009−62468(P2009−62468A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232241(P2007−232241)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000233675)日鐵ドラム株式会社 (12)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】