説明

粉体状熱可塑性エラストマー組成物および成形体

【課題】低臭気性および耐熱性に優れた粉体状熱可塑性エラストマー組成物を得る。
【解決手段】粉体状(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を重合体ラテックス(ii)で被覆した後、乾燥させることにより得られる熱可塑性エラストマー組成物であって、粉体状(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)中に、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)からなり、ブロック(a)および(b)のうち少なくとも一方の重合体ブロック中に酸無水物基および/またはカルボキシル基を有するアクリル系ブロック共重合体(A)、1分子中に少なくとも1.1個以上のエポキシ基を有するアクリル系重合体(B)、およびトリメリット酸エステル系化合物および/またはピロメリット酸エステル系化合物からなる可塑剤(C)、を含むことを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたスラッシュ成形性を有し、臭気性、耐熱性に優れた成形体を提供する粉体状熱可塑性エラストマー組成物、およびその組成物を用いたパウダースラッシュ材料およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
インストルメントパネル、コンソールボックス、ドアトリム等の自動車内装部品の意匠面に配置される表皮材は、従来から射出成形、圧縮成形、スラッシュ成形などの成形法で製造されている。このなかでも、スラッシュ成形法はソフトな触感の製品が得られること、皮シボやステッチを製品に設けることができること、設計自由度が大きいこと、意匠性が良好な製品が得られることなどから、広く用いられている。
【0003】
ここで、パウダースラッシュ成形法とは、原料となる粉末状樹脂を加熱した金型に流し込み、溶融成形させ、ある一定時間経過後に冷却固化した成形体を取り出す方法である。したがって、パウダースラッシュ成形法に用いられる粉末状樹脂は、金型の細部まで充填する必要性から良好な粉体特性と、成形温度で容易に溶融し所望の形状となる溶融流動性(成形性)が求められる。また、粉体状樹脂のガラス転移温度が低い場合、製造工程(たとえば、スラリーを脱水、乾燥する後処理工程や、乾燥された粉体状樹脂組成物に添加剤を混合する工程)や、製品の輸送中や保管時などにおいて、ブロッキングが発生するという問題がある。ここで、ブロッキングの発生により粉体が凝集すると、成形用金型内に粉体状樹脂組成物を充填する際に充填度合いが不均一となり、その後の樹脂の溶融にむらが生じ、不具合を引き起こすこととなる。
【0004】
上記、ガラス転移温度の低い粉体状樹脂組成物において、ブロッキングの発生を防止する技術として、ガラス転移温度の低い(メタ)アクリル系ブロック共重合体粒子、水および分散剤を含むスラリーと、乳化重合法により製造したガラス転移温度の高い(メタ)アクリル系重合体ラテックスとを電解質水溶液と混合した後、この溶液を加熱し、重合体ラテックス中の乳化重合体粒子を共重合体粒子の表面に付着させる技術がある。(特許文献1)
上記材料は、ブロッキングの発生を防止し、且つ自動車内装部材向けパウダースラッシュ材料として優れている材料であるが、近年、富に要求が厳しくなった車内の快適性に関わる低臭気性については改善の余地を残すものであった。
【特許文献1】国際公開2007/094271号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、成形時のパウダー流動性(成形性)に優れ、さらに優れた低臭気性、低フォギング性、耐熱性、耐候性、耐薬品性、接着性、柔軟性及び耐摩耗性を有する成型体向けの粉体状熱可塑性エラストマー組成物を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者は、臭気発生の原因として、従来使用されていた可塑剤および重合体ラテックスの寄与が大きいことをつきとめ、これに変わる材料について鋭意検討を行った結果、可塑剤としてトリメリット酸エステル系化合物および/またはピロメリット酸エステル系化合物を使用することで、得られる粉体状熱可塑性エラストマー組成物からなる成形品は従来に無い低臭気性を示すこと、加えて、重合体ラテックス(ii)の製造方法として、連鎖移動剤としてチオグリコール酸系化合物、重合開始剤として過硫酸系化合物、乳化剤としてアニオン系界面活性剤、を使用した乳化重合法を採用することにより、得られる熱可塑性エラストマー組成物からなる成形品は大幅に臭気が低減すること、などを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(I).粉体状(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を重合体ラテックス(ii)で被覆した後、乾燥させることにより得られる粉体状熱可塑性エラストマー組成物であって、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)中に、メタアクリル系重合体を主成分とするメタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体を主成分とするアクリル系重合体ブロック(b)からなり、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)のうち少なくとも一方の重合体ブロック中に酸無水物基および/またはカルボキシル基を有するアクリル系ブロック共重合体(A)、1分子中に少なくとも1.1個以上のエポキシ基を有するアクリル系重合体(B)、トリメリット酸エステル系化合物および/またはピロメリット酸エステル系化合物からなる可塑剤(C)、を含むことを特徴とする粉体状熱可塑性エラストマー組成物、
(II).重合体ラテックス(ii)が、連鎖移動剤としてチオグリコール酸系化合物、重合開始剤として過硫酸系化合物、乳化剤としてアニオン系界面活性剤、を使用した乳化重合法によって得られ、ラテックスを構成する重合体が75℃以上のガラス転移温度を有し、且つ、重量平均分子量が40,000〜100,000であることを特徴とする(I)記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物、
(III).アクリル系重合体ブロック(b)の主鎖中に、酸無水物基および/またはカルボキシル基が存在することを特徴とする(I)または(II)に記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物、
(IV).アクリル系ブロック共重合体(A)が、メタアクリル系単量体を主成分とするメタアクリル系重合体ブロック(a)10〜60重量%と、アクリル系単量体を主成分とするアクリル系重合体ブロック(b)90〜40重量%とからなることを特徴とする(I)〜(III)のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物、
(V).アクリル系重合体ブロック(b)が、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−メトキシエチルおよびアクリル酸−2−エチルヘキシルからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体50〜100重量%と、これらと共重合可能なビニル系単量体50〜0重量%とからなることを特徴とする(I)〜(IV)のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物、
(VI).メタアクリル系重合体ブロック(a)が、25〜130℃のガラス転移温度を有することを特徴とする(I)〜(V)のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物、
(VII).アクリル系ブロック共重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した数平均分子量が、30,000〜200,000であることを特徴とする(I)〜(VI)のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物、
(VIII).アクリル系ブロック共重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が、1.8以下であることを特徴とする(I)〜(VII)のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物、
(IX).アクリル系重合体(B)の重量平均分子量が、30,000以下であることを特徴とする(I)〜(VIII)のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物、
(X).アクリル系ブロック共重合体(A)が、原子移動ラジカル重合法により製造されたブロック共重合体からなる(I)〜(IX)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物、
(XI).可塑剤(C)がアクリル系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、0.1重量部から30重量部であることを特徴とする(I)〜(X)のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物、
(XII).(I)〜(XI)のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物を含むパウダースラッシュ成形用樹脂組成物、
(XIII).(XII)に記載の樹脂組成物を、パウダースラッシュ成形して得られる自動車内装用表皮、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成形時のパウダー流動性(成形性)に優れ、得られた成形体は優れた低臭気性で、さらに成形時に進行する架橋反応により、耐熱性に優れた成形体を得ることが可能である。このため、本発明の組成物は、耐熱性が要求される成形材料として有用である。
【0008】
このような特徴を生かし、パウダースラッシュ成形に好適に使用することができる。
また、スクラッチ性や、耐候性、耐薬品性、接着性、柔軟性及び耐摩耗性に優れていることから、自動車内装用表皮として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、以下に記載の粉体状(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)、重合体ラテックス(ii)より得られ、粉体状(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)は所定の構造を有するアクリル系ブロック共重合体(A)、アクリル系重合体(B)、とトリメリット酸系化合物および/またはピロメリット酸系化合物からなる可塑剤(C)、を含む。
【0010】
本発明の粉体状熱可塑性エラストマー組成物を用いて得られる成形体は優れた低臭気性を有することを特徴とする。
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0011】
<アクリル系ブロック共重合体(A)>
粉体状熱可塑性エラストマー組成物を構成するアクリル系ブロック共重合体(A)は、ハードセグメントであるメタアクリル系重合体ブロック(a)と、ソフトセグメントであるアクリル系重合体ブロック(b)とからなり、メタアクリル系重合体ブロック(a)により成形時の良好な形状保持性を、アクリル系重合体ブロック(b)により、エラストマーとしての弾性及び成形時の良好な熱溶融特性が発現する。このような目的のため、アクリル系ブロック共重合体(A)において、メタアクリル系重合体ブロック(a)の割合を10〜60重量%、アクリル系重合体ブロック(b)の割合を90〜40重量%とすることが好ましい。メタアクリル系重合体ブロック(a)の割合が10重量%より小さく、アクリル系重合体ブロック(b)の割合が90重量%より大きいと、成形時に形状が保持されない場合があり、メタアクリル系重合体ブロック(a)の割合が60重量%より大きく、アクリル系重合体ブロック(b)の割合が40重量%より小さいと、エラストマーとしての弾性および成形時の溶融性が低下する場合がある。
【0012】
なお、メタアクリル系重合体ブロック(a)の割合が少ないと硬度が低くなる。一方で、アクリル系重合体ブロック(b)の割合が少ないと、硬度が高くなる傾向がある。このため、メタアクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)の組成比は、エラストマー組成物の必要とされる硬度を考慮して、上記範囲内で適宜設定することが好ましい。また、メタアクリル系重合体ブロック(a)の割合が少ないと、粘度が低く、また、アクリル系重合体ブロック(b)の割合が少ないと、粘度が高くなる傾向がある。このため、メタアクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)の組成比は、必要とする加工特性も考慮して、上記範囲内で適宜設定することが好ましい。
【0013】
アクリル系ブロック共重合体(A)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した数平均分子量が30,000〜200,000となるように調整することが好ましい。数平均分子量が30,000より小さいと、エラストマーとして十分な機械特性を発現出来ない場合があり、数平均分子量が200,000より大きいと、加工特性が低下する場合がある。特に、パウダースラッシュ成形を行う場合は、無加圧下でも樹脂が流動する必要があるため、数平均分子量が200,000より大きいと、溶融粘度が高くなり成形性が悪化する場合がある。
【0014】
また、アクリル系ブロック共重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、1.8以下であることが好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。Mw/Mnが1.8をこえるとアクリル系ブロック共重合体の均一性が悪化する場合がある。
【0015】
アクリル系ブロック共重合体(A)は、線状ブロック共重合体であっても、分岐状(星状)ブロック共重合体であっても、これらの混合物であってもよい。このようなブロック共重合体の構造は、必要とされるアクリル系ブロック共重合体(A)の物性に応じて適宜選択されるが、コスト面や重合容易性の点で、線状ブロック共重合体が好ましい。
【0016】
なお、線状ブロック共重合体は、いずれの構造(配列)のものであってもよいが、線状ブロック共重合体の物性または組成物の物性の点から、メタアクリル系重合体ブロック(a)をa、アクリル系重合体ブロック(b)をbと表現したとき、(a−b)型、b−(a−b)型および(a−b)−a型(nは1以上の整数、たとえば1〜3の整数)からなる群より選択される少なくとも1種のアクリル系ブロック共重合体からなることが好ましい。これらの中でも、加工時の取り扱い容易性や組成物の物性の点から、a−b型のジブロック共重合体、a−b−a型のトリブロック共重合体、またはこれらの混合物が好ましい。
【0017】
アクリル系ブロック共重合体(A)を構成するメタアクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度の関係は、メタアクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度をTg、アクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度をTgとすると、機械強度やゴム弾性発現等の点で下式の関係を満たすことが好ましい。
Tg>Tg
なお、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度(Tg)は、DSC(示差走査熱量測定)または動的粘弾性のtanδピークにより測定することができる。
【0018】
<メタアクリル系重合体ブロック(a)>
メタアクリル系重合体ブロック(a)は、メタアクリル酸エステルを主成分とする単量体を重合してなるブロックであり、メタアクリル酸エステル50〜100重量%およびこれと共重合可能なビニル系単量体0〜50重量%からなることが好ましい。メタアクリル酸エステルの割合が50重量%未満であると、メタアクリル酸エステルの特徴である耐候性などが損なわれる場合がある。
【0019】
メタアクリル系重合体ブロック(a)を構成するメタアクリル酸エステルとしては、たとえば、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−プロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸イソブチル、メタアクリル酸n−ペンチル、メタアクリル酸n−ヘキシル、メタアクリル酸n−ヘプチル、メタアクリル酸n−オクチル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸ノニル、メタアクリル酸デシル、メタアクリル酸ドデシル、メタアクリル酸ステアリルなどのメタアクリル酸脂肪族炭化水素(たとえば炭素数1〜18のアルキル)エステルなどがあげられる。これらはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、加工性、コストおよび入手しやすさの点で、メタアクリル酸メチルが好ましい。
【0020】
メタアクリル系重合体ブロック(a)を構成するメタアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえば、アクリル酸エステル化合物、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン化合物、ハロゲン含有不飽和化合物などをあげることができる。
【0021】
アクリル酸エステルとしては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸n−ヘプチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸脂肪族炭化水素(たとえば炭素数1〜18のアルキル)エステルなどをあげることができる。
【0022】
芳香族アルケニル化合物としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレンなどをあげることができる。
【0023】
シアン化ビニル化合物としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどをあげることができる。
【0024】
共役ジエン化合物としては、たとえば、ブタジエン、イソプレンなどをあげることができる。
【0025】
ハロゲン含有不飽和化合物としては、たとえば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなどをあげることができる。
【0026】
ビニル系単量体として例示したこれらの化合物は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのビニル系単量体は、後述するメタアクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度や、アクリル系ブロック体(b)との相溶性などを考慮して適宜選択される。
【0027】
メタアクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度は、25〜130℃となるように調整する。これは、良好な溶融流動性を示す組成物を得るためである。特に、本発明にかかる組成物をパウダースラッシュ成形材料として用いる場合、樹脂が無加圧下でも流動する必要があり、メタアクリル系重合体ブロック(a)の凝集力やガラス転移温度Tgが高くなると、溶融粘度が高くなり成形性が悪化する場合がある。一方、ガラス転移温度Tgが低すぎる場合には、樹脂組成物が常温でも流動性を有し、粉体としての性状を保持することが困難となる場合がある。
【0028】
<アクリル系重合体ブロック(b)>
アクリル系重合体ブロック(b)は、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチルおよびアクリル酸−2−メトキシエチルからなる群から選ばれる少なくとも1種のアクリル酸エステルを主成分とする。アクリル系重合体ブロック(b)は、上記アクリル酸エステル50〜100重量%と、これと共重合可能な異種のアクリル酸エステルおよび/又はビニル系単量体0〜50重量%とからなることが好ましい。
【0029】
アクリル酸−n−ブチルを用いた場合、本発明の粉体状熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体は、良好なゴム弾性および低温特性を示すようになる。アクリル酸エチルを用いた場合、得られる成形体は、良好な耐油性および引張強度等の機械特性を示すようになる。また、アクリル酸−2−メトキシエチルを用いた場合、得られる成形体は、良好な低温特性と耐油性を示し、また、樹脂の表面タック性が改善されることとなる。アクリル酸エステルは、これらの要求特性に応じて、単独で又は2種以上を組み合わせて使用する。なお、アクリル酸エステルの割合が50重量%未満であると、柔軟性、耐油性が損なわれる場合がある。
【0030】
アクリル系重合体ブロック(b)を構成するアクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチルおよびアクリル酸−2−メトキシエチルとは異種のアクリル酸エステルとしては、たとえば、メタアクリル系重合体ブロック(a)を構成する単量体として例示したアクリル酸エステルと同様の単量体をあげることができる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
アクリル系重合体ブロック(b)を構成するアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえば、メタアクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和カルボン酸化合物、不飽和ジカルボン酸化合物などをあげることができ、これらの具体例としては、メタアクリル系重合体ブロック(a)に用いられる単量体成分として例示したものと同様のものをあげることができる。これらのビニル系単量体は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
また、これらのビニル系単量体は、アクリル系重合体ブロック(b)に要求されるガラス転移温度および耐油性、メタアクリル系重合体ブロック(a)との相溶性などのバランスを勘案して、適宜好ましいものを選択する。たとえば、組成物の耐油性の向上を目的とした場合、アクリロニトリルを共重合するとよい。
【0033】
アクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度は、組成物のゴム弾性の観点から、25℃以下であるのが好ましく、0℃以下であるのがより好ましく、−20℃以下であるのがさらに好ましい。アクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度がエラストマー組成物の使用される環境の温度より高いと、柔軟性やゴム弾性の発現が困難となる場合がある。
【0034】
<酸無水物基およびカルボキシル基>
本発明の粉体状熱可塑性エラストマー組成物を構成するアクリル系ブロック共重合体(A)は分子中に必須成分として酸無水物基および/またはカルボキシル基を含む。
【0035】
メタアクリル系重合体ブロック(a)および/またはアクリル系重合体ブロック(b)中に存在する酸無水物基およびカルボキシル基は、通常、ブロック共重合体(A)が高分子量化または架橋されるための反応点または架橋点として作用する。酸無水物基およびカルボキシル基は、酸無水物基およびカルボキシル基を適当な保護基で保護した形、または、酸無水物基およびカルボキシル基の前駆体となる形でブロック共重合体に導入し、その後に従来公知の化学反応で酸無水物基およびカルボキシル基を生成させることもできる。
【0036】
酸無水物基およびカルボキシル基の含有数は、酸無水物基およびカルボキシル基の凝集力、反応性、アクリル系ブロック共重合体(A)の構造および組成、アクリル系ブロック共重合体(A)を構成するブロックの数、ガラス転移温度によって変化させ、その数は必要に応じて適宜設定する必要があるが、好ましくはブロック共重合体1分子あたり1.0個以上、より好ましくは2.0個以上とする。これは、1.0個より少なくなると、ブロック共重合体の高分子量化や架橋による耐熱性向上が不十分になる傾向があるためである。
【0037】
ただし、酸無水物基やカルボキシル基を導入することによりメタアクリル系重合体ブロック(a)やアクリル系重合体ブロック(b)の凝集力やガラス転移温度が上昇すると、柔軟性、ゴム弾性、低温特性が悪化する傾向にある。このため、酸無水物基やカルボキシル基は、アクリル系ブロック共重合体(A)の柔軟性、ゴム弾性、低温特性が悪化しない範囲で導入するのが好ましい。具体的には、酸無水物基やカルボキシル基をアクリル系重合体ブロック(b)に導入する場合は、アクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度が25℃以下になるような範囲で導入するのが好ましく、0℃以下になるように導入するのがより好ましく、−20℃以下になるように導入するのが更に好ましい。酸無水物基やカルボキシル基をメタアクリル系重合体ブロック(a)に導入する場合は、良好な溶融流動性を確保するために、ガラス転移温度が130℃以下になるように調整することが好ましい。
【0038】
以下に、酸無水物基およびカルボキシル基のそれぞれについて更に詳細に説明する。
<酸無水物基>
組成物中に活性プロトンを有する化合物を含む場合、酸無水物基はエポキシ基等の反応性官能基と容易に反応する。酸無水物基の導入位置は、特に限定されるものではなく、酸無水物基は、メタアクリル系重合体ブロック(a)、アクリル系重合体ブロック(b)の主鎖中に導入されていても良いし、側鎖に導入されていても良い。酸無水物基はカルボキシル基の無水物基であり、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)への導入の容易性から、主鎖中へ導入されていることが好ましい。
【0039】
酸無水物基はカルボキシル基の無水物基であり、具体的には一般式(1)で表される基をいう。一般式(1):
【0040】
【化1】

(式中、Rはそれぞれ独立に水素またはメチル基を表わす。nは0〜3の整数、mは0または1の整数を表わす。)
一般式(1)中のnは0〜3の整数であって、好ましくは0または1であり、より好ましくは1である。nが4以上の場合は、重合が煩雑になったり、酸無水物基の環化が困難になる傾向にある。
【0041】
酸無水物基の導入方法としては、酸無水物基の前駆体の形でアクリル系ブロック共重合体に導入し、その後に環化させることが好ましい。特に、一般式(2):
【0042】
【化2】

(式中、Rは水素またはメチル基を表わす。Rはそれぞれ独立に水素、メチル基またはフェニル基を表わす。但し、3つのRのうち少なくとも2つはメチル基および/またはフェニル基から選ばれる。)で表される単位を少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体を溶融混練して、環化導入することが好ましい。
【0043】
メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)への一般式(2)で表される単位の導入は、一般式(2)に由来するアクリル酸エステル、またはメタアクリル酸エステル単量体を共重合することによって行なうことができる。単量体としては、(メタ)アクリル酸−t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸α,α−ジメチルベンジル、(メタ)アクリル酸α−メチルベンジルなどがあげられるが、これらに限定するものではない。これらのなかでも、入手性や重合容易性、酸無水物基生成容易性などの点から(メタ)アクリル酸−t−ブチルが好ましい。なお、本願において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタアクリル酸を意味する。
【0044】
酸無水物基の形成は、酸無水物基の前駆体を有するアクリル系ブロック共重合体を高温下で加熱することにより行うのが好ましく、180〜300℃で加熱することが好ましい。180℃より低いと酸無水物基の生成が不十分となる傾向があり、300℃より高くなると、酸無水物基の前駆体を有するアクリル系ブロック共重合体自体が分解することがある。
【0045】
<カルボキシル基>
カルボキシル基は、エポキシ基等の反応性官能基と容易に反応する。カルボキシル基の導入位置は、特に限定されるものではなく、カルボキシル基は、メタアクリル系重合体ブロック(a)、アクリル系重合体ブロック(b)の主鎖中に導入されていても良いし、側鎖に導入されていても良いが、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)への導入の容易性から、主鎖中へ導入されていることが好ましい。
【0046】
カルボキシル基の導入は、カルボキシル基を有する単量体が重合条件下で触媒を被毒することがない場合は、重合により直接導入することにより行うのが好ましく、カルボキシル基を有する単量体が重合時に触媒を失活させるおそれがある場合には、官能基変換によりカルボキシル基を導入する方法により行うのが好ましい。
【0047】
官能基変換によりカルボキシル基を導入する方法では、カルボキシル基を適当な保護基で保護した形、または、カルボキシル基の前駆体となる官能基の形でアクリル系ブロック共重合体に導入し、そののちに公知の化学反応で官能基を生成させることができる。
【0048】
カルボキシル基を有するアクリル系ブロック共重合体(A)の合成方法としては、たとえば、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸トリメチルシリルなどのように、カルボキシル基の前駆体となる官能基を有する単量体を含むアクリル系ブロック共重合体を合成し、加水分解もしくは酸分解など公知の化学反応によってカルボキシル基を生成させる方法(特開平10−298248号公報、特開2001−234146号公報)や、一般式(2):
【0049】
【化3】

(式中、Rは水素またはメチル基を表わす。Rはそれぞれ独立に水素、メチル基またはフェニル基を表わす。但し、3つのRのうち少なくとも2つはメチル基および/またはフェニル基から選ばれる。)で表わされる単位を少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体を、溶融混練して導入する方法がある。一般式(2)で示される単位は、高温下でエステルユニットが分解してカルボキシル基を生成し、そのカルボキシル基の一部が環化することにより生成する。これを利用して、一般式(2)で示される単位の種類や含有量に応じて、加熱温度や時間を適宜調整することでカルボキシル基を導入することができる。
【0050】
また、上述の酸無水物基を加水分解することにより、カルボキシル基を導入することも可能である。
【0051】
<アクリル系ブロック共重合体(A)の製法>
アクリル系ブロック共重合体(A)を製造する方法は、とくに限定するものではないが、開始剤を用いた制御重合法を用いることが好ましい。制御重合法としては、リビングアニオン重合法や連鎖移動剤を用いるラジカル重合法、近年開発されたリビングラジカル重合法があげられる。なかでも、アクリル系ブロック共重合体の分子量および構造の制御の点から、リビングラジカル重合法により製造するのが好ましい。
【0052】
リビングラジカル重合法は、重合末端の活性が失われることなく維持されるラジカル重合法である。リビング重合とは狭義においては、末端が常に活性をもち続ける重合のことを指すが、一般には、末端が不活性化されたものと活性化されたものが平衡状態にある擬リビング重合法も含まれる。なお、本発明での定義も後者に相当する。
【0053】
リビングラジカル重合法としては、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いるもの、コバルトポルフィリン錯体(ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(J.Am.Chem.Soc.)、1994年、第116巻、7943頁)やニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの(マクロモレキュールズ(Macromolecules)、1994年、第27巻、7228頁)、有機ハロゲン化物などを開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合法(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)などをあげることができる。本発明において、これらのうちいずれの方法を使用するかは特に制約はないが、制御の容易さの点などから国際公開第2004/13192号パンフレットなどに記載された原子移動ラジカル重合法を用いるのが好ましい。
【0054】
<アクリル系重合体(B)>
本発明に係る粉体状熱可塑性エラストマー組成物を構成するアクリル系重合体(B)は、一分子中に少なくとも1.1個以上のエポキシ基を有することが必要である。アクリル系重合体(B)は、組成物の成形時に可塑剤として成形流動性を向上させると同時に、成形時にアクリル系ブロック共重合体(A)中の酸無水物基やカルボキシル基と反応し、アクリル系ブロック共重合体(A)を高分子量化、あるいは架橋させる役割を担う。なお、ここでいうエポキシ基の個数とは、アクリル系重合体(B)1分子中に存在するエポキシ基の平均の個数を表す。
【0055】
アクリル系重合体(B)中のエポキシ基は、アクリル系重合体(B)中1.1個以上が必要であり、好ましくは1.5個以上、より好ましくは2.0個以上である。その数は、エポキシ基の反応性、エポキシ基の含有される部位および様式、アクリル系ブロック共重合体(A)中の酸無水物基やカルボキシル基の含有される数や部位および様式に応じて変化させる。エポキシ基の含有数が1.1個より少なくなると、ブロック共重合体の高分子量化反応剤、あるいは架橋剤としての効果が低くなり、アクリル系ブロック共重合体(A)の耐熱性を向上させる効果が不充分となる傾向がある。
【0056】
アクリル系重合体(B)は、1種または2種以上のアクリル系単量体を重合させるか、又は、1種または2種以上のアクリル系単量体とアクリル系単量体以外の他の単量体との混合物を重合させることにより得られるものであることが好ましい。
【0057】
アクリル系単量体としては、アクリロイル基含有単量体及びメタクリロイル基含有単量体が挙げられ、具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸フェノキシエチル等が挙げられる。前記以外のその他の単量体としては、アクリル系単量体と共重合可能な単量体、例えば酢酸ビニル、スチレン等を用いることができる。
【0058】
アクリル系重合体(B)は、アクリロイル基含有単量体単位を含む。アクリル系重合体(B)中の全単量体単位に対するアクリロイル基含有単量体単位の割合は70質量%以上であることが好ましい。その割合が70質量%未満の場合、重合体の耐候性は比較的低く、アクリル系ブロック共重合体(A)との相溶性も低下する傾向にある。また、その成形物に変色が生じやすくなる。
【0059】
アクリル系重合体(B)は、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸エチル、およびアクリル酸−2−メトキシエチルからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体50〜100重量%と、これらと共重合可能な異種のアクリル酸エステルおよび/又はビニル系単量体50〜0重量%からなるものが好ましい。ビニル系単量体としては、スチレンが好ましい。
【0060】
また、アクリル系重合体(B)の重量平均分子量は、特に制限はないが、30,000以下の低分子量のものが好ましく、500〜30,000のものがさらに好ましく、500〜10,000のものが特に好ましい。重量平均分子量が500未満の場合、成形体にべとつきが生じる傾向があり、一方、重量平均分子量が30,000を越える場合、成形物の可塑化が不十分となる場合がある。
【0061】
アクリル系重合体(B)の粘度は、25℃においてコーン・プレート型の回転粘度計(E型粘度計)で測定した時、35,000mPa・s以下が好ましく。より好ましい粘度は、10,000mPa・s以下である。特に好ましい粘度は、5,000mPa・s以下である。粘度が35,000mPa・sより高いと、組成物の可塑化効果が低下する傾向にある。好ましい粘度の下限については特にないが、アクリル系重合体の通常の粘度は10mPa・s以上である。
【0062】
示差走査熱量測定法(DSC)で測定される、アクリル系重合体(B)のガラス転移温度Tgは、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは25℃以下であり、さらに好ましくは0℃以下であり、特に好ましくは−30℃以下である。ガラス転移温度Tgが100℃を超える場合、可塑剤として成形性を向上させる効果が不十分になる傾向があり、また、得られる成形体の柔軟性が低下する傾向にある。
【0063】
前記アクリル系重合体(B)は、公知の所定の方法で重合させることにより製造される。重合方法は必要に応じて適宜選択すればよく、例えば、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、リビングアニオン重合や連鎖移動剤を用いる重合およびリビングラジカル重合等の制御重合等の方法により行うことができるが、耐候性や耐熱性が良好で比較的低分子量かつ分子量分布の小さい重合体が得られる制御重合が好ましく、以下に記載の高温連続重合を用いる方法がコスト面などの点でより好ましい。
【0064】
アクリル系重合体(B)は、180〜350℃の温度での重合反応により得ることが好ましい。この重合温度では、重合開始剤や連鎖移動剤を使用することなく、比較的低分子量のアクリル系重合体が得られることから、そのアクリル系重合体は優れた可塑剤であり、耐候性も良好である。具体的には、特表昭57−502171号公報、特開昭59−6207号公報、特開昭60−215007号公報及びWO01/083619号パンフレットに開示された高温連続重合による方法が例示される。すなわち、所定の温度及び圧力に設定された反応器内に上記の単量体の混合物を一定の供給速度で連続して供給し、その供給量に見合う量の反応液を抜き出す方法である。
【0065】
アクリル系重合体(B)としては、具体的には東亞合成(株)のARUFON(登録商標)XG4000、ARUFON UG4000、ARUFON XG4010、ARUFON UG4010、ARUFON XD945、ARUFON XD950、ARUFON UG4030、ARUFON UG4070などが好適に使用できる。これらは、オールアクリル、アクリレート/スチレン等のアクリル系重合体であって、エポキシ基を1分子中に1.1個以上含む。
【0066】
<トリメリット酸エステル系化合物および/またはピロメリット酸エステル系化合物>
本発明の粉体状熱可塑性エラストマー組成物は、溶融性の向上および低温特性改善を目的として、可塑剤(C)を含むことが好ましい。
【0067】
可塑剤(C)の添加量はアクリル系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、0.1〜30重量部の範囲で使用するのが好ましく、0.2〜40重量部の範囲で使用するのがより好ましい。配合量が0.1重量部未満の場合には、得られる組成物の溶融性や低温特性改善効果が十分でない場合があり、50重量部を超えると、得られる成形体の機械特性などが悪化する場合がある。
【0068】
可塑剤(C)の種類は特に限定されないが、耐フォギング性と低臭気性の観点から、トリメリット酸エステル系化合物、ピロメリット酸エステル系化合物が好ましい。
【0069】
トリメリット酸エステル系化合物としては、特に限定されないが、SP値が8.1〜9.4である可塑剤が好ましい。SP値が8.0未満及び9.4を超える場合には、可塑剤とアクリル系ブロック共重合体(A)との相溶性が悪くなり、得られる成形体の物性が低下したり、可塑剤がブリードアウトする可能性がある。具体例としては、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリ−n−アルキル(C6〜C10)エステル、トリメリット酸トリ−n−アルキル(C8〜C10)エステル、トリメリット酸トリイソデシル等が例示される。
【0070】
また、ピロメリット酸エステル系化合物としては、特に限定されず、例えば、ピロメリット酸テトラヘキシル、ピロメリット酸テトラオクチル、ピロメリット酸テトラ−n−アルキル(C7〜C9)エステル等が例示される。
【0071】
また、これらエステル系可塑剤(C)のアルコール成分は単独、または複数種を組み合わせて用いられても良い。
【0072】
上記、トリメリット酸エステル系化合物としては、より具体的に、アデカサイザーC−810PS、C−880、C−8、C−8NB((株)ADEKA製)などが挙げられる。また、ピロメリット酸エステル系化合物としては、より具体的に、アデカサイザーUL−80、UL−100((株)ADEKA製)などが挙げられる。
【0073】
本発明は、可塑剤(C)としてトリメリット酸エステル化合物および/またはピロメリット酸エステル化合物を使用することによって、低臭気、耐熱性、耐熱老化性、耐寒性、耐フォギング性等に優れた組成物を提供するものであるが、本発明の組成物中には、可塑剤(C)としてトリメリット酸エステル系化合物、ピロメリット酸エステル系化合物以外の、通常用いられている可塑剤も50%未満であれば必要に応じて使用することができる。
【0074】
該可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート、ブチルヘキシルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジラウリルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジオクチルテレフタレート等のフタレート系可塑剤;ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジ(ブチルジグリコール)アジペート等のアジペート系可塑剤;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリ(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリ(ブトキシエチル)ホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート等のホスフェート可塑剤系;多価アルコールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等と、二塩基酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フタール酸、イソフタール酸、テレフタール酸等を用い、必要により一価アルコール、モノカルボン酸をストッパーに使用したポリエステル系可塑剤;その他、テトラヒドロフタール酸系可塑剤、アゼライン酸系可塑剤、ステアリン酸系可塑剤、クエン酸系可塑剤、ビフェニルテトラカルボン酸エステル系可塑剤、塩素系可塑剤等が挙げられる。
【0075】
<金属塩化合物>
本発明に係る粉体状熱可塑性エラストマー組成物を構成する金属塩化合物は、ブロック共重合体(A)中の酸無水物基やカルボキシル基と、アクリル系重合体中のエポキシ基との反応を促進することで、架橋反応を促進する成分である。更に、成形性を確保するためには、成形前の粉体状熱可塑性エラストマー組成物中では、反応が進行しないことが必要とされる。特に通常触媒として用いられる常温で液状の化合物であるでは、常温での架橋反応を抑制することが困難であることが課題として挙げられる。本発明において好適に使用可能な化合物として、有機金属塩化合物、金属の酸化物が挙げられる。
【0076】
有機金属塩化合物としては、p-ターシャリーブチル安息香酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、またはステアリン酸リチウム、12ヒドロキシステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。臭気性の点から揮発性の低い金属塩化合物が好ましい。
【0077】
金属塩化合物の添加量は、通常、アクリル系ブロック共重合体(A)100重量部に対して0.01〜5重量部である。
【0078】
<滑剤>
本発明に係る粉体状熱可塑性エラストマー組成物を構成する滑剤は、成形体の磨耗性を改善する効果がある。
【0079】
滑剤としては、エステル系滑剤、ポリエチレン系滑剤、ポリプロピレン系滑剤、炭化水素系滑剤、シリコーンオイル、モンタン酸系ワックス、ステアリン酸などの有機脂肪酸、ステアリン酸アミドなどの有機酸アミド、牛脂硬化油などが例示できる。これらは単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。中でも耐熱性に優れる牛脂極度硬化油などを挙げることが出来る。
【0080】
<重合体ラテックス(ii)>
本発明に使用される乳化重合により得られる重合体ラテックス(ii)は、(メタ)アクリル系樹脂(A)の重合体粒子と類似の樹脂組成を有するものが粉体としての品質に優れることから好ましく、たとえば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルを単独重合または複数種混合し共重合して得られるラテックスなどがあげられる。更に好ましくは、重合体ラテックス(ii)を構成する重合体100重量部において、メチルメタアクリレートを85〜99重量部、ブチルアクリレートを1〜15重量部としたものがあげられる。
【0081】
重合体ラテックス(ii)を構成する重合体の分子量は、大きすぎると成形時に溶融しないため、金型溶融成形での溶融性を向上させるため本発明では、重量平均分子量で20,000〜100,000の範囲に設定することが必要である。また、熱処理時に温度を高温にした際のラテックス同士の凝集を防ぐために、本発明では重合体ラテックス(ii)を構成する重合体のガラス転移温度は75℃以上であることが好ましい。さらに、得られた乳化重合体に対し、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの組成や分子量が異なる重合体をグラフト重合させることにより、内層、外層の組成および分子量が異なる重合体を得ることができる。
【0082】
上記の重合体ラテックス(ii)の一般的な製造方法は、例えば特開平8−134316号公報、特開平8−217817号公報に詳細に記載されている。ただし、本発明では、これらに限定されるものではなく、例えば以下に例示するモノマーの1種からなる重合体粒子、または、以下に例示するモノマーの複数種を共重合もしくはグラフト重合させてなる重合体粒子を単独または混合したラテックス粒子を用いることができる。
【0083】
メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等の炭素数が10以下のアルキル基を有するアルキルアクリレート類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等の炭素数が10以下のアルキル基を有するアルキルメタクリレート類;スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類;アクリル酸、メタクリル酸等のビニルカルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレン等のハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソブチレン等のアルケン類;アリルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、モノエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、グリシジルメタクリレート等の多官能性モノマー;など。
【0084】
乳化重合法により前記の重量平均分子量を得るためには、重合調整剤として連鎖移動剤が好ましく用いられる。連鎖移動剤種としては、従来から乳化重合に使用されているものが使用可能であり、例えば、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン、2-エチルヘキシルチオグリコレート、2-メルカプトエタノール等の含硫黄系の連鎖移動剤;トリクロロブロモメタン、四塩化炭素、ブロモホルム等の含ハロゲン系の連鎖移動剤;N,N-ジメチル-ホルムアマイド、ピバロニトリル等の含窒素系の連鎖移動剤;その他タービノーレン、ミルセル、リモネン、α-ピネン、β-ピネン等を挙げることができる。このなかでも、臭気と連鎖移動効果の点からβ-メルカプトプロピオン酸系の連鎖移動剤とチオグリコール酸系の連鎖移動剤が好ましく、チオグリコール酸2エチルヘキシル等のチオグリコール酸系化合物が入手性の点からさらに好ましい。
【0085】
乳化重合の際に使用する好ましい連鎖移動剤の量としては、臭気の点から全モノマー100重量部に対して1重量部以下が好ましい。また、乳化重合に用いる重合開始剤はレドックス系化合物、過硫酸系化合物、などが挙げられるが、臭気の点から還元剤を用いない過硫酸系化合物が好ましく、中でも入手性から過硫酸カリウムがさらに好ましい。
【0086】
乳化重合の際に使用する好ましい過硫酸カリウムの量としては、重合時のラテックス安定性の点から全モノマー100重量部に対して0.1〜1重量部が好ましい。
【0087】
乳化重合に際して使用しうる乳化剤としては、特に限定されずアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性乳化剤があげられるが、この中でも、貯蔵安定性、重合安定性、凝固安定性の点からアニオン性乳化剤が好ましい。また、乳化剤は単独で使用しても良く、あるいは複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0088】
上記アニオン性乳化剤類としては、例えば、オレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類;例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類;例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類;例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類;例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸エステル塩やアルカンスルホン酸塩及びその誘導体等を例示することができ、これらの乳化剤は単独で使用してもよくあるいは2種以上組み合わせて使用することもできる。中でも耐熱性に優れるアルカンスルホン酸塩が好ましく、入手性の点からアルカンスルホン酸ナトリウムがさらに好ましい。
【0089】
乳化重合の際に使用される好ましい乳化剤の量としては、ラテックス粒子径、重合中及び重合後のラテックス安定性の点から全モノマー100重量部に対して0.05〜1.5重量部である。また、ラテックス粒子の平均粒子径は0.05〜0.5μmとすることが耐ブロッキング性を向上させる点で好ましい。
【0090】
乳化重合の際の重合温度は特に制限されるものではないが、重合生産性と重合時のラテックス安定性の点から50〜90℃が好ましい。
【0091】
<粉体状(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)の製造方法>
粉体状(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリー((メタ)アクリル系樹脂を含有する水分散液)の製造方法としては、特に限定されるものではなく、例えば溶剤に溶解した重合体溶液、水及び分散剤を含む水分散液を攪拌しながら加熱する方法があげられる。攪拌に用いられる装置としては特に限定されないが、例えばジャケットと攪拌機を備えた反応槽を用いることができる。攪拌機に備え付ける攪拌翼の形状は、特に制約はなく、スクリュー翼、プロペラ翼、アンカー翼、パドル翼、傾斜パドル翼、タービン翼、大型格子翼等の任意の翼を使用することができる。これらは、同一の攪拌槽を用いて、液−液分散操作と溶剤除去操作を行なうこともできるし、複数の攪拌槽を用いて、すなわち、まず、第一の撹拌槽を用いて液−液分散操作を実施して分散液を形成させた後に、引き続き第二の撹拌槽を用いて溶剤除去を行なうこともできる。
【0092】
攪拌時間については特に制限はなく、(メタ)アクリル系樹脂(A)の分散性に応じて、充分に樹脂(A)が分散されるよう適宜決定される。攪拌時間は一般的には1分〜5時間であり、好ましくは5分〜3時間であり、より好ましくは10分〜2時間である。
【0093】
加熱時の液温は特に限定されないが、使用する溶剤の共沸点以上であることが好ましい。ただし溶剤の共沸点以下でも容器内を減圧下にすれば容易に溶剤を除去することができる。具体的には、加熱時の液温は、70℃以上160℃未満が好ましく、80℃以上150℃未満がさらに好ましい。70℃より低いと、粒子の残存溶媒量が増加し、乾燥時の安全性、溶剤回収率等が低下する傾向がある。また、160℃以上の場合、樹脂(A)の粒子が軟化するため、凝集等が発生して微粒子として分散されない可能性がある。
【0094】
使用される溶剤については特に限定されず、用いる樹脂(A)が溶解するよう適宜選択される。上記溶剤の沸点については、室温での取扱い性を考慮して常圧(1気圧)で25℃以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましい。また最終的に溶剤を蒸発させることから、溶剤の沸点は常圧(1気圧)で130℃以下であるのが好ましく、120℃以下であるのがより好ましく、100℃以下であるのが特に好ましい。
【0095】
上記溶剤の具体例としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン及びシクロペンタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;ジクロロメタン及びクロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;等が挙げられる。
【0096】
溶剤の使用量は(メタ)アクリル系樹脂(A)溶液の濃度、粘度等を考慮して適宜選択されるが、(メタ)アクリル系樹脂(A)溶液の固形分濃度が5〜70重量%になるよう溶剤を使用するのが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂(A)溶液の固形分濃度が5重量%未満の場合、収量が少なくなり、効率性が損なわれる可能性がある。一方、70重量%を超えると溶液全体の粘度が高くなり過ぎ、攪拌による重合体の分散が充分に行われない可能性がある。そこで、より好ましくは(メタ)アクリル系樹脂(A)溶液の固形分濃度が10〜50重量%、更に好ましくは10〜30重量%になるよう溶剤が使用される。
【0097】
用いる水の量は、所望の重合体粒子径等を考慮して適宜決定することができる。(メタ)アクリル系樹脂(A)溶液の体積を100体積%とした場合に、用いる水の量は25〜500体積%であるのが好ましく、40〜400体積%であるのが好ましく、50〜300体積%であるのが特に好ましい。
【0098】
この蒸発後の(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)の水分散液に、スチームを吹き込んで加熱を行ない、スチームストリッピングにより上記水分散液から溶剤を除去するのが、ジャケット等による間接加熱に比べて蒸発後の粒子中の残溶剤量が少ないので好ましい。スチームストリッピングを行なう時間は、溶剤がほぼ完全に留去されるのに充分な時間とするのが好ましい。また、スチームストリッピング時の攪拌は、分散状態及び生成する重合体粒子の粒形成度や形状に影響することから、スチームストリッピングは溶液を充分に攪拌した状態で行われる。
【0099】
スチームストリッピングに用いる容器は、蒸気を導入する配管が液相中に挿入されるように接続されていればよく、懸濁及び溶剤除去操作と同様に攪拌容器に蒸気を導入する方法が好適に使用される。また、スチームストリッピングの操作は、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)溶液の水分散液を攪拌する際に行なう加熱と共に、同一の槽内に蒸気を通気することにより実施することもできるし、別途ストリッピング槽を設けて加熱に引き続き実施することもできる。
【0100】
また、連続方式として、溶剤を除去する槽に対し通気攪拌槽を一槽以上連結させる場合や、棚段方式で蒸気と樹脂スラリーを接触させることによりストリッピングを行なうこともできる。
【0101】
これらのなかでも、溶剤の除去効率が高いことから、樹脂組成物(i)溶液の水分散液を攪拌する際に行なう加熱と共に、同一の槽でスチームストリッピングを行なうのが好ましい。
【0102】
スチームストリッピングを行なう際の水分散液の温度は、上記加熱時の液温と同様に、溶剤と水との共沸温度以上とするのが好ましい。具体的な温度は用いる溶剤によって異なるが、温度が低いと蒸発速度が遅く時間がかかり、また温度が高いと重合体が熱劣化したり、重合体表面の粘着力が上がり凝集したりする懸念があるため、70℃以上160℃未満であるのが好ましく、80℃以上、150℃未満がさらに好ましい。100℃以上でスチームストリッピングを行なう場合、蒸発出口ラインを絞って槽内を加圧することによって実施することができる。
【0103】
加熱及び/又はスチームストリッピングにより蒸発した溶剤は、その後冷却塔等を通じて冷却され、回収することができる。また必要であれば水相と分離した後、精製を行なう等により重合工程で再使用することもできる。
【0104】
粉体状樹脂組成物を含む水分散液を得た後、必要に応じて水分散液を濾過、遠心分離又は沈降分離法等を行ない、粉体状樹脂組成物を分離することができる。さらに必要に応じて、溝型撹拌乾燥機などの伝導伝熱式乾燥機あるいは流動乾燥機などの熱風受熱式乾燥機などを用いて乾燥することにより、粉体状樹脂組成物とすることができる。
【0105】
<粉体状(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーに重合体ラテックス(ii)を付着させる製造方法>
本発明の粉体状樹脂組成物は、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーと、乳化重合により製造した重合体ラテックス(ii)とを混合し、その混合物に電解質水溶液を接触させることにより作製される。
【0106】
(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーと乳化重合により製造した重合体ラテックス(ii)の混合は、撹拌下に、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーへ重合体ラテックス(ii)を、あるいは重合体ラテックス(ii)に(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーを添加することにより実施するのが好ましい。
【0107】
(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーと重合体ラテックス(ii)を混合する際、粉体状(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)の固形分濃度は1〜55重量%、重合体ラテックス(ii)の固形分濃度は0.1〜55重量%とするのが好ましい。混合時の温度は5℃以上が好ましく、5℃よりも低い場合はその後の熱処理操作のユーティリティー使用量が多大となる傾向がある。
【0108】
本発明の粉体状熱可塑性エラストマー組成物を製造するにあたり、上記の(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーと重合体ラテックス(ii)との混合物に電解質水溶液を接触させる。電解質水溶液との接触は、撹拌下に、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーと重合体ラテックス(ii)の混合物へ電解質水溶液を添加することにより実施するのが好ましい。
【0109】
この操作により、乳化重合体粒子が(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)粒子表面に凝析(析出)し、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)粒子表面を被覆する。本発明における(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーと重合体ラテックス(ii)との混合物への電解質水溶液の添加は、重合体ラテックス(ii)のガラス転移温度以下の温度で実施するのが好ましい。電解質水溶液添加時に(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーと重合体ラテックス(ii)との混合物の温度が重合体ラテックス(ii)のガラス転移温度を超えると、生成する重合体粒子の形状が歪むだけでなく、重合体粒子間の凝集が併発し、その結果として脱水後の含水率が高くなる傾向があり、また、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)へのラテックス重合体(ii)の被覆が不均一になり耐ブロッキング性を悪化させる傾向がある。
【0110】
なお、本発明では、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーと重合体ラテックス(ii)の混合物への電解質水溶液の添加は、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーと重合体ラテックス(ii)との混合の後に実施する。これは、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーと重合体ラテックス(ii)の混合時に電解質水溶液が存在すると、生成する重合体粒子の形状が歪み、脱水後含水率が高くなるだけでなく、重合体ラテックス(ii)が単独で凝集し、粉体状樹脂組成物(i)への重合体ラテックス(ii)の被覆率が低下することで耐ブロッキング性が悪化する可能性があるためである。
【0111】
本発明にかかる方法においては、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーと重合体ラテックス(ii)の固形分比は、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリー中の(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)100重量部に対して、重合体ラテックス(ii)を0.1〜30重量部とするのが好ましく、0.2〜10重量部とするのが臭気と耐ブロッキング性を両立させる点からより好ましい。
【0112】
なお、本発明の粉体状樹脂組成物を製造するにあたって、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーと重合体ラテックス(ii)との混合物に電解質水溶液を添加するだけでは、低含水率の粉体状樹脂組成物は得られない。低含水率の粉体状樹脂組成物を得るには、電解質水溶液を添加した後の懸濁液が中性となるようにした後、50〜120℃で熱処理するのが好ましい。
【0113】
熱処理により、スラリー中の重合体粒子表面を被覆した重合体ラテックス(ii)粒子の凝集体の凝固が促進され、処理時間を短くすることができる。また、重合体粒子の含水率が低下する。その後、常法に従って脱水および乾燥を行なえば、本発明の粉体状樹脂組成物が得られる。
【0114】
熱処理温度は、重合体ラテックス(ii)のガラス転移温度より低くするのが好ましい。熱処理温度が重合体ラテックス(ii)のガラス転移温度より高くなると、スラリー中の樹脂組成物(i)粒子に被覆した重合体ラテックス(ii)が軟化し、ブロッキングが生じやすくなるためである。
【0115】
一般に、粒子の表面に微粒子を付着させる時には付着される側の粒子径は大きい方が、付着面積が減って付着性が向上する。(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)粒子に重合体ラテックス(ii)粒子を付着させる際にも、粒径の小さな(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)粒子は少ない方が好ましい。成形用材料としての粒子径は、例えばパウダースラッシュ成形等の金型成形用途に本発明の粉体状樹脂組成物を用いる場合には、粉体の流動性及び金型への充填性を考慮して20μm以上700μm以下が好ましい。
【0116】
(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)粒子に重合体ラテックス(ii)粒子を付着させる際は、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーから(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)粒子を分離して小さな(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)粒子を除去し、その後、(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)粒子と重合体ラテックス(ii)の混合物を電解質水溶液と混合することにより、重合体ラテックス(ii)粒子の付着性を向上させることができる。
【0117】
(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を含有するスラリーから(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)粒子を分離する方法としては、特に限定はなく、例えば、濾過、遠心分離又は沈降分離法を用いることができる。分離は、例えば遠心脱水で脱水時間を延長して、重合体粒子の含水率が少なくなるようにしても良いし、静置分離をした後で上澄み液の一部を抜き出すような簡便な分離でも良い。
【0118】
分離した後の(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)粒子は、水分が少ないため、ハンドリング性が悪いこと、重合体ラテックス(ii)粒子付着時に混合しにくいこと等の問題があるため、純水や分散剤水溶液で希釈するのが好ましい。希釈率は特に限定はないが、好ましくは固形分濃度で0.1〜55重量%、さらに好ましくは1〜40重量%である。
【0119】
本発明の粉体状樹脂組成物の平均粒子径は、1μm以上1000μm未満であるのが好ましい。粒径が1000μmより大きい場合には複雑で微細形状を有する金型を用いた成形では成形不良が生じやすくなる傾向がある。また、1μmより小さい場合には、静電気等が生じやすくなり、かえって流動性が悪くなる場合がある。なお、粉体状樹脂組成物の粒子径は、目的とする用途に応じて、分散剤の量、重合体溶液と水の比率等を調整することにより調整することが可能である。
【0120】
なお、本発明における平均粒子径とは、標準ふるいで乾燥粉体をふるい分けし、それぞれの粒径範囲に属する部分の重量を個別に計量して重量基準による平均値を求めた値である。平均粒子径は、例えば電磁式ふるい振とう器(株式会社レッチェ製、AS200BASIC(60Hz))を用いて求めることができる。
【0121】
<粉体状熱可塑性エラストマー組成物>
本発明の粉体状熱可塑性エラストマー組成物は、成形を行う際は溶融粘度が低く、溶融流動性(成形性)に優れる一方、加熱時にアクリル系熱可塑性エラストマー組成物のブロック共重合体(A)中の酸無水物基やカルボキシル基と、アクリル系重合体中のエポキシ基との架橋反応が、金属塩化合物を用いることで促進される。トリメリット酸エステル系可塑剤(C)により溶融性の向上および低温特性が改善され、低揮発性と耐熱性の優れるトリメリット酸エステル系の可塑剤を用いることにより、優れた低臭気性の成形体を得ることができる。さらに滑剤を含むことで成形体の磨耗性が改善される。
【0122】
粉体状熱可塑性エラストマー組成物には、熱可塑性エラストマー組成物および得られる成形体の諸物性の調整を目的として、安定剤、難燃剤、顔料、帯電防止剤、離型剤、抗菌抗カビ剤などをさらに添加してもよい。このうち、安定剤としては、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。充填材を配合してもよい。充填材としては、特に限定されないが、機械特性の改善や補強効果、コスト面等から、無機充填材がより好ましく、酸化チタン、カーボンブラック、炭酸カルシウム、シリカ、タルクがより好ましい。
【0123】
<粉体状熱可塑性エラストマー組成物の製造方法>
粉体状熱可塑性エラストマー組成物は、例えば、バッチ式混錬装置や連続混錬装置を用いることにより得ることができる。
【0124】
バッチ式混練装置としては、例えば、ミキシングロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、高剪断型ミキサーを使用できる。また、連続混練装置としては、単軸押出機、二軸押出機、KCK押出混練機などを用いることができる。さらに、機械的に混合し、ペレット状に賦形する方法などの既存の方法を用いることができる。
【0125】
粉体状熱可塑性エラストマー組成物を製造するための混練時の温度は、アクリル系ブロック共重合体(A)とアクリル系重合体とが反応することにより、成形性が低下することのない温度が好ましい。アクリル系ブロック共重合体(A)とアクリル系重合体とが反応して成形性が悪化する温度は、酸無水物基やカルボキシル基、エポキシ基の種類、導入量、共存する金属塩化合物の種類、導入量、アクリル系ブロック共重合体(A)やアクリル系重合体の組成、アクリル系ブロック共重合体(A)とアクリル系重合体の相溶性などによって変化する。このため、上記のような要素に応じて、混練温度を適宜設定する必要がある。
【0126】
一般的には、組成物を得た後、その組成物の成形を可能とするため、混練時の温度は200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。混練時の温度が200℃を超えると、混練中に高分子量化や架橋反応が起こり、成形性が低下する傾向にある。ただし、一部に高分子量化や架橋が起こるような条件であっても、成形が可能な程度の温度であればよい。
【0127】
この熱可塑性エラストマー組成物を粉砕して粉体を得る場合、その方法としては、ターボミル、ピンミル、ハンマーミル、遠心ミル等の衝撃型微粉砕機、固定刃と回転刃による剪断作用を用いた粉砕機等を用いる方法がある。さらに、粉砕は常温で行うこともできるが、液体窒素等の冷媒や冷却設備を使用して機械粉砕することもできる。
【0128】
熱可塑性エラストマー組成物を粉砕して粉体を得る際は、粉砕前の組成物ペレット等の表面に、互着防止用の各種粉末を粉砕助剤として付着させてもよい。粉砕助剤としては、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、シリカ、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、金属石鹸等を用いることができる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、その量は、アクリル系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、1〜40重量部程度とするとよい。1重量部未満では、効果が十分ではなく、また40重量部より多いと、得られる組成物粉末の機械特性を悪化させる傾向がある。用いる粉砕助剤の粒子径に関しては特に制限されるものではないが、粒子径が大きすぎる場合には、互着防止能力が低く、微細な場合はハンドリング性が低下することとなるため、平均粒子径0.5〜15μm(光分散法により測定)のものを用いるのが好ましい。なお、粉砕助剤は、粉砕により得られる熱可塑性エラストマー組成物粉体に大部分が残留するものの、一部は粉砕工程で脱離し、粉砕機内で分離する。
【0129】
熱可塑性エラストマー組成物から粉体を得る際は、必ずしも粉砕工程を経なくてもよい。例えば、熱可塑性エラストマー組成物を連続式押し出し機で得る際、特殊なダイスを取り付けることで、組成物粉末をマイクロペレットとして直接得ることができる。また、アクリル系ブロック共重合体(A)を有機溶剤中に溶解させたアクリル系ブロック共重合体溶液へアクリル系重合体を溶解させた後に、水と混合して撹拌し、所定の大きさのアクリル系ブロック共重合体溶液の液滴を形成させ、そのまま加熱することで有機溶剤を蒸発させ、適当な粒度分布を持った粉体を得ることができる。この時、アクリル系ブロック共重合体溶液に、予め上記の架橋促進用の添加剤や触媒、充填材、滑材、安定剤、可塑剤、柔軟性付与剤、難燃剤、顔料、帯電防止剤、抗菌抗カビ剤等を溶解・分散させておいてもよい。また、所定の大きさの液滴を安定して得るために、乳化剤としてポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール/ポリ酢酸ビニル共重合体、メチルセルロースなどを添加してもよい。
【0130】
これらの結果得られた粉体は、ふるい等を用いて粒径1〜1000μmのものだけを分取するのが好ましい。1μmより粒径の小さいものを含んだ粉体は、粉体同士の凝集を促進させる原因となり、ハンドリング性が低下すると共に粉体流動性が悪化する。このため、パウダースラッシュ成形に用いたときに、金型の端部まで粉体が十分に届かず、成形体の意匠性が損なわれることとなる。また、1000μmより大きな粒径のものを含んだ粉体は、パウダースラッシュ成形に用いたときに、粒径の大きな粉体が十分に溶融しないため、成形体の意匠性が損なわれることとなる。
【0131】
粉体状熱可塑性エラストマー組成物をパウダースラッシュ成形に用いる場合は、成形体の色調や、スラッシュ成形において重要な金型離型性および粉体特性を改良するために、上記方法により得られた粉体に、必要に応じて、通常一般的に用いられる顔料、離型剤、ブロッキング防止用粉体などを混合・分散することで粉体特性を改良することが可能である。
【0132】
<成形体の用途および使用方法>
本発明の組成物の成形方法としては、パウダースラッシュ成形が例示されるが、それ以外にも、射出成形、射出ブロー成形、ブロー成形、押出ブロー成形、押出成形、カレンダー成形、真空成形、プレス成形などに適用可能である。
【0133】
得られた成形体は、たとえば、表皮材料や、触感材料(人形などの玩具類などの材料)、外観材料(自動車のハンドル、グリップ、シフトノブ、電化製品でのスイッチ類などの材料)として好適に用いることができ、その他に、耐摩耗性材料、耐油性材料、制振材料、粘着材料のような目的を有する材料として用いることができる。形状としては、シート、平板、フィルム、小型成形品、大型成形品その他任意の形状として、またパネル類、ハンドル類、グリップ類、スイッチ類のような部品として、さらにそれ以外にもシーリング部材として用いることができる。用途としては、特に制限されないが、自動車用、家庭用電気製品用、または事務用電気製品用が例示される。たとえば、自動車用表皮材料、自動車用触感材料、自動車用外観材料、自動車用パネル類、自動車用ハンドル類、自動車用グリップ類、自動車用スイッチ類として、また、家庭用または事務用電気製品用パネル類、家庭用または事務用電気製品用スイッチ類などを例示することができる。この中でも、自動車内装用表皮に好適に使用される。
【実施例】
【0134】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中に記載した分子量は、以下の方法に従って行った。
【0135】
<分子量測定法>
本実施例に示す分子量は以下に示すGPC分析装置で測定し、クロロホルムを移動相として、ポリスチレン換算の分子量を求めた。システムとして、ウオーターズ(Waters)社製GPCシステムを用い、カラムに、昭和電工(株)製Shodex(登録商標)K−804(ポリスチレンゲル)を用いた。
【0136】
<成形性>
成形性は29.4cm×20.4cmのシボ付平板(スラッシュ成形用金型)とパウダーボックスからなる箱型スラッシュ成形機を用いてスラッシュ成形を行うことにより評価した。条件は、粉体状熱可塑性エラストマー組成物粉体を2Kg投入し、280℃に加熱したスラッシュ成形用金型をスラッシュ成形機にセットした後、金型が240℃となった時点で、反転させ後、6秒間保持し、その後、反転させた。60秒間経過した時点で金型を冷却水で40秒冷却した。さらに空冷を行い、シート温度が30℃まで達した時点で、シートを金型から剥がし、成形シート(厚み1.0mm)を得た。得られた成形体シートの成形性は以下のように評価した。
【0137】
成形シートの裏面が平滑で、溶融ムラが無く、コーナー部にも凹凸が認められない;成形性 ○
成形シートの裏面の一部に成形時の熱可塑性エラストマー組成物粉体の粉切れ残りがあり、凹凸が認められる;成形性 △
成形シートの裏面で熱可塑性エラストマー組成物粉体の溶融が不十分であり、成形シートの裏面の前面が凸凹である;成形性 ×
【0138】
<臭気性>
成形により得られたシートから3cm×3cmのサンプルを切り出し、十分洗浄された内容積250ccのガラス瓶に入れ、アルミ箔で蓋をし、100℃オーブンに1時間放置した。オーブンから取り出したガラス瓶は23℃に放冷された後、アルミ箔の蓋を半分開けて、以下の人による臭気判定基準で評価した。
全く臭いがしない ;5点
わずかに臭いがする ;4点
容易に臭いを感じ取れる ;3点
強い臭いがする ;2点
気分が悪くなる臭いがする;1点
【0139】
<耐熱性>
成形により得られたシートから5cm×5cmのサンプルを切り出し、130℃オーブンに24時間放置した。シボ面の変化を試験前後で比較し、以下の基準で評価した。
試験前後で表面光沢が変化していない ;○
試験前後で表面光沢がわずかでも変化している;×
【0140】
<摩耗性評価試験>
スラッシュ成形により得られたシートから3cm×10cmのサンプルを切り出し、摩耗試験機にて、摩耗試験を行った。
使用機器:ヘイドン式摩耗試験機14DR(新東科学(株)製)
移動速度:6000mm/分
移動長さ:5cm
移動回数:5往復
荷重重さ:1kg
摩耗ジグ:ASTM式ジグを、ジグがサンプルに対して常に平行になるように軸に固定した。ASTMジグの下側に、アルミニウム製、直径2.5cm、長さ1cmの円柱を半分に切断した半円柱を接着した。その上から、金巾3号の布を4重巻きにて取り付け、ASTMジグの止め具にて固定した。
試験を行い、目視で観察し、以下の基準で評価した。
正面から見て傷がよく分からないもの ;○
正面から見て若干でも傷が認められるもの;×
【0141】
(製造例1)
<アクリル系ブロック共重合体の合成>
アクリル系ブロック共重合体を得るために以下の操作を行なった。耐圧反応器内を窒素置換したのち、臭化銅0.89重量部、アクリル酸−n−ブチル100重量部及びアクリル酸−t−ブチル4.46重量部を仕込み、攪拌を開始した。その後、開始剤2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル1.24重量部をアセトニトリル(窒素バブリングしたもの)9.18重量部に溶解させた溶液を仕込み、溶液温度を75℃となるように昇温しつつ30分間攪拌した。溶液温度が75℃に到達した時点で、配位子ペンタメチルジエチレントリアミン0.11重量部加えてアクリル系重合体ブロックの重合を開始した。
【0142】
重合開始から一定時間ごとに、サンプリング溶液のガスクロマトグラフィー分析によりアクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−t−ブチルの転化率を決定した。重合の際、ペンタメチルジエチレントリアミンを随時加えることで重合速度を制御した。なお、ペンタメチルジエチレントリアミンはアクリル系重合体ブロック重合時に合計2回(合計0.21重量部)添加した。
【0143】
アクリル酸−n−ブチルの転化率が99.0%、アクリル酸−t−ブチルの転化率が99.1%の時点で、メタアクリル酸メチル63.76重量部、アクリル酸エチル10.38重量部、塩化銅0.61重量部、ペンタメチルジエチレントリアミン0.11重量部及びトルエン(窒素バブリングしたもの)137.41重量部を加えて、メタクリル系重合体ブロックの重合を開始した。
【0144】
メタアクリル酸メチル、アクリル酸エチルを投入した時点でサンプリングを行い、これを基準としてメタアクリル酸メチル、アクリル酸エチルの転化率を決定した。メタアクリル酸メチル、アクリル酸エチルを投入後、内温を85℃に設定した。重合の際、ペンタメチルジエチレントリアミンを随時加えることで重合速度を制御した。なお、ペンタメチルジエチレントリアミンはメタクリル系重合体ブロック重合時に合計6回(合計0.64重量部)添加した。メタアクリル酸メチルの転化率が95.0%の時点でトルエン212.77重量部を加え、反応器を冷却して反応を終了させた。得られたアクリル系ブロック共重合体のGPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnは72,100、分子量分布Mw/Mnは1.48であった。
【0145】
上記のアクリル系ブロック共重合体を含有する反応溶液にトルエンを加えて、重合体濃度を25重量%とした。この溶液100重量部にp−トルエンスルホン酸を0.41重量部加え、反応器内を窒素置換し、30℃で3時間撹拌した。
【0146】
反応液をサンプリングし、溶液が無色透明になっていることを確認して、濾過助剤として昭和化学工業製ラヂオライト#3000を0.50重量部添加した。その後反応器を窒素により0.1〜0.4MPaGに加圧し、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機を用いて固形分を分離した。
【0147】
濾過後のブロック共重合体含有溶液100重量部に対し、酸化防止剤としてイルガノックス1010を0.15重量部添加した後、反応器内を窒素置換し、耐圧反応器中で、150℃で4時間攪拌した。30℃に冷却した反応液に固体塩基としてキョーワード500SH 1.75重量部を加えた後、反応器内を窒素置換して、2時間撹拌した。反応液をサンプリングし、溶液が中性になっていることを確認して反応終了とした。その後反応器を窒素により0.1〜0.4MPaGに加圧し、濾材としてポリエステルフェルトを備えた上に示した加圧濾過機を用いて固体分を分離し、アクリル系ブロック共重合体を含有する重合体溶液を得た。
【0148】
この重合体溶液を80℃で真空乾燥することにより、アクリル系ブロック共重合体(以下、「重合体1」とする)を得た。なお、本製造例1で得られた重合体1のメタクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度を上記Fox式に従って計算したところ、101℃であった。
【0149】
(製造例2)
<重合体ラテックス(A−1)の合成>
水200重量部、乳化剤としてアルカンスルホン酸ナトリウム0.16重量部、重合開始剤として過硫酸カリウム0.2重量部を撹拌器付反応器に仕込み、窒素置換後、60℃まで昇温した。これにメタアクリル酸メチル90重量部、アクリル酸−n−ブチル10重量部、連鎖移動剤としてチオグリコール酸2エチルヘキシル0.65重量部の混合液を6時間かけて添加し、添加開始から2時間後に乳化剤であるアルカンスルホン酸ナトリウム0.1893重量部を、4時間後に0.2007重量部を加えた。添加終了後、重合開始剤である過硫酸カリウムを0.05重量部添加して、1時間重合を行い、重合転化率99%、ガラス転移温度79℃、固形分濃度33重量%のアクリル酸エステル系ラテックス(A−1)を得た。
【0150】
(製造例3)
<重合体ラテックス(A−2)の合成>
水200重量部、乳化剤としてアルカンスルホン酸ナトリウム 0.16重量部、重合開始剤として過硫酸カリウム 0.25重量部を、撹拌装置付反応器に仕込み、窒素置換後、80℃まで昇温した。これにメチルメタアクリレート 95重量部、ブチルアクリレート5重量部、連鎖移動剤としてチオグリコール酸2エチルヘキシル 0.45重量部の混合液を6時間かけて追加し、追加開始から2時間後に乳化剤であるアルカンスルホン酸ナトリウム 0.1893重量部を、4時間後に0.2007重量部を加えた。追加終了後、重合開始剤である過硫酸カリウムを0.05重量部添加して、1時間重合を行ない、重合転化率99%、ガラス転移温度97℃、重量平均分子量76,000、固形分濃度33重量%の重合体ラテックス(A−2)を得た。
【0151】
(製造例4)
<重合体ラテックス(A−3)の合成>
水200重量部、乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.28部、重合開始助剤の電解質として硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)0.0015部、重合開始助剤としてエチレンジアミン四酢酸 0.006重量部および重合開始助剤の還元剤としてソジウムホルムアルデヒドスルフォキシレート(SFS)0.5重量部を、撹拌基付反応器に仕込み、窒素置換後、60℃まで昇温した。これにメチルメタアクリレート90重量部、ブチルアクリレート10重量部、連鎖移動剤としてターシャリ・ドデシルメルカプタン0.8重量部および重合開始剤としてクメンハイドロパーオキサイド(純度82%)1重量部の混合液を6時間かけて追加し、追加開始から2時間後に乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.33重量部を、4時間後に0.39重量部を加えた。追加終了後、SFSを0.05重量部添加して、1時間の重合を行ない、重合転化率99%、ガラス転移温度79℃、重量平均分子量53,000、固形分濃度33重量%の重合体ラテックス(A−3)を得た。
【0152】
(製造例5)
<アクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−1)の製造>
耐圧攪拌装置に純水200重量部及びポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、商品名KH−17)0.4重量部(3重量%水溶液として23.3重量部)を仕込み、製造例1で得られた重合体溶液400重量部(固形分濃度25重量%)、エポキシ基を持つアクリル系重合体であるARUFON(登録商標)UG4010(東亞合成(株)製)10重量部、金属塩化合物のp−ターシャリーブチル安息香酸亜鉛0.3重量部、低揮発性のトリメリット酸エステル系可塑剤であるC−810PS(旭電化工業(株)製)10重量部、滑剤である牛脂極度硬化油(融点60℃:日本油脂(株)製)0.1重量部、カーボンブラックを主成分とする黒色粉末顔料0.75重量部を添加した。撹拌翼としてH型攪拌翼を用いて攪拌して、撹拌槽の底部より蒸気を導入した。撹拌槽上部に接続したコンデンサで溶剤ガス及び蒸気を凝縮し、系外で逐次溶剤及び水を回収した。発泡に注意しながら蒸気流量を加減し、100℃到達後5分後に蒸気を停止し、撹拌槽のジャケットを用いて冷却を行い、重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーを得た。得られた重量体粒子について標準ふるいでふるい分けし、それぞれの粒径範囲に属する画分の重量を個別に計量して、重量基準による平均値を求めた結果、得られた重合体粒子の平均粒子径は200μmであった。
【0153】
このようにして得られた重合体粒子と水と分散剤を含むスラリーを1時間静置し、スラリー重量の72%相当分の上澄み液を取り除いた後、スラリー濃度が20重量%になるまで水を加え、撹拌器付反応器に仕込み、50℃に加熱した。製造例2の乳化重合により製造した33重量%の重合体ラテックス(A−1)水溶液を固形分基準で3.7重量部添加した。添加終了から5分後、60℃まで加熱し。15重量%硫酸ナトリウム水溶液を固形分基準で5.6重量部を5分間かけて連続的に添加した。添加終了から5分後、この分散液を75℃まで加熱し、5分間75℃で保持した後冷却して、ラテックスが重合体粒子の表面に付着した重合体スラリーを得た。このスラリーをバッチ式遠心ろ過機で脱水し、バッチ式流動乾燥機で樹脂温度最大50℃の条件で乾燥し、水分が0.4重量%のアクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−1)を得た。
【0154】
(製造例6)
<アクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−2)の製造>
製造例5と同様の方法で耐圧攪拌装置に純水200重量部及びポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、商品名KH−17)0.4重量部(3重量%水溶液として23.3重量部)を仕込み、製造例1で得られた重合体溶液400重量部(固形分濃度25重量%)、エポキシ基を持つアクリル系重合体であるARUFON(登録商標)UG4010(東亞合成(株)製)10重量部、金属塩化合物のp−ターシャリーブチル安息香酸亜鉛0.3重量部、低揮発性のトリメリット酸エステル系可塑剤であるC−8NB(旭電化工業(株)製)10重量部、滑剤である牛脂極度硬化油(融点60℃:日本油脂(株)製)0.1重量部、カーボンブラックを主成分とする黒色粉末顔料0.75重量部を添加し、重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーを得た。得られた重量体粒子について標準ふるいでふるい分けし、それぞれの粒径範囲に属する画分の重量を個別に計量して、重量基準による平均値を求めた結果、得られた重合体粒子の平均粒子径は200μmであった。
【0155】
また製造例5と同様の方法でスラリー重量の72%相当分の上澄み液を取り除いた後、スラリー濃度が20重量%になるまで水を加え、撹拌器付反応器に仕込み、70℃に加熱した。製造例3の乳化重合により製造した33重量%の重合体ラテックス(A−2)水溶液を固形分基準で3.7重量部添加した。添加終了から5分後、15重量%硫酸ナトリウム水溶液を固形分基準で5.6重量部を5分間かけて連続的に添加した。添加終了から5分後、この分散液を90℃まで加熱し、5分間90℃で保持した後冷却して、ラテックスが重合体粒子の表面に付着した重合体スラリーを得た。このスラリーをバッチ式遠心ろ過機で脱水し、バッチ式流動乾燥機で樹脂温度最大50℃の条件で乾燥し、水分が0.4重量%のアクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−2)を得た。
【0156】
(製造例7)
<アクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−3)の製造>
製造例5と同様に耐圧攪拌装置に純水200重量部及びポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、商品名KH−17)0.4重量部(3重量%水溶液として23.3重量部)を仕込み、製造例1で得られた重合体溶液400重量部(固形分濃度25重量%)、エポキシ基を持つアクリル系重合体であるARUFON(登録商標)UG4010(東亞合成(株)製)10重量部、金属塩化合物のp−t−ブチル安息香酸亜鉛0.3重量部、ポリエステルエーテル系可塑剤であるRS−800K(旭電化工業(株)製)10重量部、滑剤である牛脂極度硬化油(融点60℃:日本油脂(株)製)0.1重量部、カーボンブラックを主成分とする黒色粉末顔料0.75重量部を添加し、重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーを得た。得られた重量体粒子について標準ふるいでふるい分けし、それぞれの粒径範囲に属する画分の重量を個別に計量して、重量基準による平均値を求めた結果、得られた重合体粒子の平均粒子径は200μmであった。
【0157】
また製造例5と同様にスラリー重量の72%相当分の上澄み液を取り除いた後、スラリー濃度が20重量%になるまで水を加え、撹拌器付反応器に仕込み、70℃に加熱した。製造例3の乳化重合により製造した33重量%の重合体ラテックス(A−2)水溶液を固形分基準で3.7重量部添加した。添加終了から5分後、15重量%硫酸ナトリウム水溶液を固形分基準で5.6重量部を5分間かけて連続的に添加した。添加終了から5分後、この分散液を90℃まで加熱し、5分間90℃で保持した後冷却して、ラテックスが重合体粒子の表面に付着した重合体スラリーを得た。このスラリーをバッチ式遠心ろ過機で脱水し、バッチ式流動乾燥機で樹脂温度最大50℃の条件で乾燥し、水分が0.4重量%のアクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−3)を得た。
【0158】
(製造例8)
<アクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−4)の製造>
製造例5と同様に耐圧攪拌装置に純水200重量部及びポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、商品名KH−17)0.4重量部(3重量%水溶液として23.3重量部)を仕込み、製造例1で得られた重合体溶液400重量部(固形分濃度25重量%)、エポキシ基を持つアクリル系重合体であるARUFON(登録商標)UG4010(東亞合成(株)製)10重量部、金属塩化合物のラウリル酸亜鉛0.3重量部、ポリエステルエーテル系可塑剤であるRS−800K(旭電化工業(株)製)10重量部、滑剤である牛脂極度硬化油(融点60℃:日本油脂(株)製)0.1重量部、カーボンブラックを主成分とする黒色粉末顔料0.75重量部を添加し、重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーを得た。得られた重量体粒子について標準ふるいでふるい分けし、それぞれの粒径範囲に属する画分の重量を個別に計量して、重量基準による平均値を求めた結果、得られた重合体粒子の平均粒子径は200μmであった。
【0159】
また製造例5と同様にスラリー重量の72%相当分の上澄み液を取り除いた後、スラリー濃度が20重量%になるまで水を加え、撹拌器付反応器に仕込み、50℃に加熱した。製造例2の乳化重合により製造した33重量%の重合体ラテックス(A−1)水溶液を固形分基準で3.7重量部添加した。添加終了から5分後、60℃まで加熱し。15重量%硫酸ナトリウム水溶液を固形分基準で5.6重量部を5分間かけて連続的に添加した。添加終了から5分後、この分散液を75℃まで加熱し、5分間75℃で保持した後冷却して、ラテックスが重合体粒子の表面に付着した重合体スラリーを得た。このスラリーをバッチ式遠心ろ過機で脱水し、バッチ式流動乾燥機で樹脂温度最大50℃の条件で乾燥し、水分が0.4重量%のアクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−4)を得た。
【0160】
(製造例9)
<アクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−5)の製造>
製造例5と同様に耐圧攪拌装置に純水200重量部及びポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、商品名KH−17)0.4重量部(3重量%水溶液として23.3重量部)を仕込み、製造例1で得られた重合体溶液400重量部(固形分濃度25重量%)、エポキシ基を持つアクリル系重合体であるARUFON(登録商標)UG4010(東亞合成(株)製)10重量部、金属塩化合物のラウリル酸亜鉛0.3重量部、ポリエステルエーテル系可塑剤であるRS−800K(旭電化工業(株)製)10重量部、滑剤である牛脂極度硬化油(融点60℃:日本油脂(株)製)0.1重量部、カーボンブラックを主成分とする黒色粉末顔料0.75重量部を添加し、重合体粒子、水及び分散剤を含むスラリーを得た。得られた重量体粒子について標準ふるいでふるい分けし、それぞれの粒径範囲に属する画分の重量を個別に計量して、重量基準による平均値を求めた結果、得られた重合体粒子の平均粒子径は200μmであった。
【0161】
また製造例5と同様にスラリー重量の72%相当分の上澄み液を取り除いた後、スラリー濃度が20重量%になるまで水を加え、撹拌器付反応器に仕込み、50℃に加熱した。製造例4の乳化重合により製造した33重量%の重合体ラテックス(A−3)水溶液を固形分基準で3.7重量部添加した。添加終了から5分後、60℃まで加熱し。15重量%硫酸ナトリウム水溶液を固形分基準で5.6重量部を5分間かけて連続的に添加した。添加終了から5分後、この分散液を75℃まで加熱し、5分間75℃で保持した後冷却して、ラテックスが重合体粒子の表面に付着した重合体スラリーを得た。このスラリーをバッチ式遠心ろ過機で脱水し、バッチ式流動乾燥機で樹脂温度最大50℃の条件で乾燥し、水分が0.4重量%のアクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−5)を得た。
【0162】
(実施例1)
製造例5で得られたアクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−1)のスラッシュ成形性評価および成形シート特性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0163】
(実施例2)
製造例6で得られたアクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−2)のスラッシュ成形性評価および成形シート特性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0164】
(比較例1)
製造例7で得られたアクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−3)のスラッシュ成形性評価および成形シート特性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0165】
(比較例2)
製造例8で得られたアクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−4)のスラッシュ成形性評価および成形シート特性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0166】
(比較例3)
製造例9で得られたアクリル系ブロック共重合体組成物粉体(B−5)のスラッシュ成形性評価および成形シート特性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0167】
【表1】

実施例1、2と、比較例1、2、3の評価結果の比較から、低揮発性可塑剤を用いた本発明にかかる組成物では、低臭気性を有する成形体であることがわかる。加えて、本発明にかかる粉体状熱可塑性エラストマー組成物は、成形性が良好であり、得られた成形シートは耐摩耗性、耐熱性も良好であり、表皮材としてのバランスに優れた材料であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体状(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)を重合体ラテックス(ii)で被覆した後、乾燥させることにより得られる粉体状熱可塑性エラストマー組成物であって、粉体状(メタ)アクリル系樹脂組成物(i)中に、メタアクリル系重合体を主成分とするメタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体を主成分とするアクリル系重合体ブロック(b)からなり、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)のうち少なくとも一方の重合体ブロック中に酸無水物基および/またはカルボキシル基を有するアクリル系ブロック共重合体(A)、1分子中に少なくとも1.1個以上のエポキシ基を有するアクリル系重合体(B)、トリメリット酸エステル系化合物および/またはピロメリット酸エステル系化合物からなる可塑剤(C)、を含むことを特徴とする粉体状熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
重合体ラテックス(ii)が、連鎖移動剤としてチオグリコール酸系化合物、重合開始剤として過硫酸系化合物、乳化剤としてアニオン系界面活性剤、を使用した乳化重合法によって得られ、ラテックスを構成する重合体が75℃以上のガラス転移温度を有し、且つ、重量平均分子量が40,000〜100,000であることを特徴とする請求項1記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
アクリル系重合体ブロック(b)の主鎖中に、酸無水物基および/またはカルボキシル基が存在することを特徴とする請求項1または2に記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
アクリル系ブロック共重合体(A)が、メタアクリル系単量体を主成分とするメタアクリル系重合体ブロック(a)10〜60重量%と、アクリル系単量体を主成分とするアクリル系重合体ブロック(b)90〜40重量%とからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
アクリル系重合体ブロック(b)が、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−メトキシエチルおよびアクリル酸−2−エチルヘキシルからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体50〜100重量%と、これらと共重合可能なビニル系単量体50〜0重量%とからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
メタアクリル系重合体ブロック(a)が、25〜130℃のガラス転移温度を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
アクリル系ブロック共重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した数平均分子量が、30,000〜200,000であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
アクリル系ブロック共重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が、1.8以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
アクリル系重合体(B)の重量平均分子量が、30,000以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項10】
アクリル系ブロック共重合体(A)が、原子移動ラジカル重合法により製造されたブロック共重合体からなる請求項1〜9のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項11】
可塑剤(C)がアクリル系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、0.1重量部から30重量部であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の粉体状熱可塑性エラストマー組成物を含むパウダースラッシュ成形用樹脂組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の樹脂組成物をパウダースラッシュ成形して得られる自動車内装用表皮。

【公開番号】特開2009−120665(P2009−120665A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294263(P2007−294263)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】