説明

粉末焼結体の製造方法、粉末焼結体成型用オス型、および粉末焼結体成型用メス型

【解決手段】
目的とする粉末焼結体と同一形状の元型を用いて第1メス型を作成し、この第1メス型を用いて発泡可能な樹脂製オス型前駆体を形成し、次いでこの発泡可能な樹脂製オス型前駆体を発泡膨張させて得られる樹脂製発泡膨張オス型を用いて第2メス型を作成し、この第2メス型に粉末原料を充填成形して得られる成形体を焼結して粉末焼結体を製造する粉末焼結体の製造方法、並びにこの方法に使用する粉末焼結体成型用オス型および粉末焼結体成型用メス型である。
【効果】
この発明によれば、製品ごとに数値化して設計をする必要がないので、生体材料等の少量生産品または複雑な形状の製品であっても、簡易に、また安価にセラミックス等の粉末焼結体を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粉末焼結体の製造方法、粉末焼結体成型用オス型、および粉末焼結体成型用メス型に関し、さらに詳しくは、目的とする粉末焼結体と同一形状の元型を用いて第1メス型を作成し、この第1メス型を用いて発泡可能な樹脂製オス型前駆体を形成し、次いでこの発泡可能な樹脂製オス型前駆体を発泡膨張させて得られる樹脂製発泡膨張オス型を用いて第2メス型を作成し、この第2メス型に粉末原料を充填成形して得られる成形体を焼結して粉末焼結体を製造することを特徴とする粉末焼結体の製造方法、並びにこの方法に使用する粉末焼結体成型用オス型および粉末焼結体成型用メス型に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは通常、プレス成形法、加圧鋳込み成形法または高速遠心成形法等の成形方法により原料粉末を所定のメス型に充填して成形し、成形体を製造した後、この成形体を焼結して製造される。
【0003】
この焼結の際に、成形体は収縮する。この収縮は、高い圧を加えて原料粉末をメス型に充填しても粉末間の隙間をなくすことはできないことから成形体中に空隙が生じ、焼結による原料粉末の凝集により、原料がその空隙中に入り込むことにより起こると考えられる。この空隙は上記いかなる成形方法によっても形成されるので、上記成形体の収縮は、上記いかなる成形方法によっても避けられない。
【0004】
したがって、目的とするセラミックスと同じ形および大きさの成形体を製造し、これを焼結したのでは、目的とするセラミックスよりも小さい製品しか得られず、目的とする形および大きさのセラミックスは得られない。
【0005】
このため目的とするセラミックスを製造するためには、成形体が焼結により収縮したときに目的の形および大きさになるように、予め目的とするセラミックスよりも大きな成形体を作る必要がある。
【0006】
このような成形体を作るためには、これを作るメス型もそれに合わせて大きく成形する必要があり、さらにそのメス型を作るオス型もそれに合わせて大きく成形する必要がある。
【0007】
このようなオス型等の製造には、従来、CAD・CAM等を使用して、焼結収縮分を数値化して設計を行い、製造する方法が採られていた。
しかしこのような方法は、製品ごとに数値化して設計をする必要があるので、大量生産が予定されているセラミックスには好適に適用することができるが、多品種少量生産品の場合には、膨大な手間がかかり、コスト高になり、適していない。たとえば人工の骨や歯などのような、使用する人ごとに要求される形および大きさが異なる生体材料等の製造にはこの方法は適さない。
【0008】
またこの方法は、焼結したときの収縮分を数値化する必要があるので、数値化が容易な単純な形状のセラミックスには適用することが可能であるが、複雑な形状の製品の場合には、収縮分の正確な数値化が困難であり、適さない。たとえば上記生体材料や複雑な形状のアクセサリー類等にはこの方法は適さない。
【0009】
このような焼結収縮による問題点は、セラミックスの他、原料粉末を圧縮成形し、これ
を焼結して製造する製品全般について生じる問題点であり、たとえば金属粉末を原料とする金属材料等にも生じる。
【特許文献1】特開2003−328005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、粉末焼結体の焼結収縮により生じる上記問題点を解決することを目的とする。すなわち、この発明の課題は、焼結収縮分の数値化をすることなく、容易に、また複雑な形状であっても所望の粉末焼結体を製造することのできる粉末焼結体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段は、目的とする粉末焼結体と同一形状の型を用いて第1メス型を作成し、この第1メス型を用いて発泡可能な樹脂製オス型前駆体を形成し、次いでこの発泡可能な樹脂製オス型前駆体を発泡膨張させて得られる樹脂製発泡膨張オス型を用いて第2メス型を作成し、この第2メス型に粉末原料を充填成形して得られる成形体を焼結して粉末焼結体を製造する粉末焼結体の製造方法であり、
この粉末焼結体の製造方法の好ましい態様として、
樹脂製発泡膨張オス型は、前記発泡可能な樹脂製オス型前駆体に発泡剤を含浸させた後この発泡可能な樹脂製オス型前駆体を発泡膨張させて作成され、
樹脂製発泡膨張オス型は、前記発泡可能な樹脂製オス型前駆体を超臨界流体に浸漬してこの発泡可能な樹脂製オス型前駆体に超臨界流体成分を含浸させた後、この発泡可能な樹脂製オス型前駆体を常圧下に移すことにより発泡膨張させて作成され、
超臨界流体は超臨界窒素であり、
発泡膨張オス型は、第2メス型作成工程において、溶解性溶剤によって溶解除去しうる溶剤溶解性樹脂製であり、
樹脂製発泡膨張オス型を溶解性溶剤によって溶解除去し、
発泡可能な樹脂製オス型前駆体は、スチレン系重合体製であり、
発泡可能な樹脂製オス型前駆体は、ポリスチレン製であり、
第2メス型作成工程の成型材料が焼結工程において焼結除去される樹脂であり、
第2メス型作成工程の成型材料が熱硬化型樹脂であり、
成形体は、プレス成形法、加圧鋳込み成形法、および遠心成型法からなる群から選ばれた少なくとも1種の成型方法で作成され、
成形体は、高速遠心成形で作成される。
【0012】
他の手段は、樹脂製膨張発泡体から形成されかつ原形状物品の元型と全方向に均等の倍率の大きさを有する粉末焼結体成型用オス型であり、
この粉末焼結体成型用オス型の好ましい態様として、
樹脂製膨張発泡体が、スチレン系重合体の発泡膨張体であり、
樹脂製膨張発泡体が、ポリスチレンの発泡膨張体であり、
樹脂製膨張発泡体が、スチレン系重合体を発泡剤で発泡して形成された発泡膨張体であり、
樹脂製膨張発泡体が、ポリスチレンを超臨界流体に浸漬して超臨界流体成分を含浸させ、これを発泡して形成させた発泡膨張体であり、
樹脂製膨張発泡体が、ポリスチレンを超臨界窒素流体に浸漬して窒素を含浸させ、これを発泡して形成させた発泡膨張体であり、
樹脂製膨張発泡体が、原形状物品の元型のロウ型、シリコン型または石膏型から作成された第1メス型により成型された発泡可能な樹脂製オス型前駆体を発泡剤で原形状物品の元型と全方向に均等の倍率の大きさに発砲膨張して成る。
【0013】
また他の手段は、熱硬化型樹脂から形成されかつ原形状物品の元型と全方向に均等の倍率の大きさを有する成形体を作成できることを特徴とする粉末焼結体成型用メスであり、
この粉末焼結体成型用メス型の好ましい態様として、
熱可塑性樹脂が、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種であり、
熱可塑性樹脂がエポキシ樹脂であり、
上記粉末焼結体成型用オス型から熱硬化型樹脂を用いて形成された粉末焼結体成型用メス型である。
【発明の効果】
【0014】
この発明の粉末焼結体の製造方法、粉末焼結体成型用オス型、および粉末焼結体成型用メス型によれば、製品ごとに数値化して型の設計をする必要がないので、多品種少量生産品の場合でも型の作成に手間がかからず、製品がコスト高になることがない。このためこの発明を使用すれば、たとえば人工の骨や歯などのような、使用する人ごとに要求される形および大きさが異なる生体材料等であっても所望の粉末焼結体を安価に製造することができる。
【0015】
またこの発明の粉末焼結体の製造方法、粉末焼結体成型用オス型、および粉末焼結体成型用メス型によれば、焼結したときの収縮分を数値化する必要がないので、収縮分の数値化が困難な複雑な形状の製品の場合でも、収縮分を見込んだオス型およびメス型の作成が可能である。このためこの発明を使用すれば、たとえば上記生体材料や複雑な形状のアクセサリー類等であっても所望の粉末焼結体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明の粉末焼結体の製造方法は、目的とする粉末焼結体と同一形状の型を用いて第1メス型を作成し、この第1メス型を用いて発泡可能な樹脂製オス型前駆体を形成し、次いでこの発泡可能な樹脂製オス型前駆体を発泡膨張させて得られる樹脂製発泡膨張オス型を用いて第2メス型を作成し、この第2メス型に粉末原料を充填成形して得られる成形体を焼結して粉末焼結体を製造する粉末焼結体の製造方法である。本発明の粉末焼結体の製造方法を、図1を用いて説明する。このプロセスは、所望の形および大きさを有する元型
から、これと実質的に同じ形および大きさを有する粉末焼結体1を製造するプロセスである。このプロセスは、工程(a)〜(e)からなる。
【0017】
図1の工程(a)は、元型2から第1メス型3を作成する工程である。元型2は、目的
とする粉末焼結体と実質的に同じ形および大きさを有する。元型2は、既存の技術、たとえば既存の歯科技工技術により作成することができ、たとえばロウ型、シリコン型または石膏型である。
【0018】
第1メス型3も、元型2から既存の技術により作成することができ、たとえば元型2を
所定の容器に入れ、その容器内に、石膏系埋没剤と水とを混合して得られる泥漿を流し込み、これを固めることにより、石膏製の第1メス型3が得られる。
【0019】
第1メス型3を作成した後、第1メス型3内の元型2を除去する。元型2の除去方法としては、たとえば、第1メス型3を切断して元型2を取り出す方法でもよく、また元型2をロウ型にしておき、第1メス型内に埋没している元型2に通じる孔を第1メス型に設け、この第1メス型ごと元型を加熱することにより、元型2を融解させ、その融解物を前記孔から排出する方法でもよい。
【0020】
図1の工程(b)は、第1メス型3からオス型前駆体4を作成する工程である。
オス型前駆体4は、発泡膨張することによりオス型7になる物体である。オス型前駆体
4は、発泡膨張することのできる樹脂、すなわち発泡可能な樹脂製である。オス型前駆体4の材料である発泡可能な樹脂としては、成形体を焼結したときに所望の粉末焼結体を製造することができるようにオス型を作成することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
後述するオス型前駆体4を発泡膨張させる方法として、オス型前駆体4を作成した後このオス型前駆体4に発泡剤を含浸させる方法を採る場合には、このようなオス型前駆体4の材料としては、熱可塑性であり、また非結晶性である材料が好適である。なぜなら、オス型前駆体の材料が非結晶性であると、熱履歴の影響を受けにくいので、膨張工程が同条件であればほぼ同じ量のガスがオス型前駆体に含浸して同じような発泡挙動が示され、発泡膨張の再現性が良好になるからである。このような材料としては、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル共重合体等のスチレン系重合体、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリ乳酸等を挙げることができ、特にスチレン系重合体が好ましく、さらにポリスチレンが、上記のメリットが大きい点で好適である。
【0022】
オス型前駆体4の形および大きさとしては、成形体を焼結したときに所望の粉末焼結体が得られるようにオス型を作成することができる形および大きさであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜決定することができる。一般的には、このようなオス型前駆体4の形および大きさとしては、所望する粉末焼結体の形および大きさと同じであることが好適である。なぜなら、発泡膨張させる前のオス型前駆体の形および大きさが所望する焼結体の形および大きさと同じであれば、オス型前駆体を全方向に均等に発泡膨張させてオス型を作成し、そのオス型に基づいて作成した成形体を焼結するときに、その成形体を全方向から均等に収縮させることにより、粉末焼結体を所望の形および大きさにすることができるからである。
【0023】
オス型前駆体4の作成方法としては、前述のようなオス型前駆体を作成することができれば特に制限はない。たとえば、オス型前駆体4をポリスチレンで作成するときには、図1に示したように、溶融したポリスチレンを原料注入孔5から第1メス型内に注入し、こ
れを固化させてオス型前駆体4を作成することができる。このようにして作成されたオス型前駆体4は、元型と同じ形および大きさである。
【0024】
図1の工程(c)は、オス型前駆体4を発泡膨張させてオス型7を作成する工程である。
オス型7は、第2メス型9を作成するための型であり、粉末焼結体成型用オス型である。この発明は、このオス型7の作成方法に特徴を有する。すなわちこの発明は、成形体を焼結したときに所望の粉末焼結体が得られるように、オス型前駆体4を発泡膨張させてオス型7を作成する発泡膨張オス型作成工程を有することを特徴とする。さらに詳しくいえば、この発明は、成形体を焼結したときにこの成形体は収縮することから、その収縮分を考慮して、成形体を焼結して得られる粉末焼結体が所望の形および大きさになるように、その所望する粉末焼結体よりも予めオス型を大きく作成するためにオス型前駆体を発泡膨張させてオス型を作成する発泡膨張オス型作成工程を有する。つまりこの発明は、オス型前駆体を発泡膨張させて所望する粉末焼結体よりも大きなオス型を作成し、そのオス型からメス型を作成し、そのメス型から成形体を作成し、この成形体を焼結して所望の粉末焼結体を製造する粉末焼結体の製造方法である。
【0025】
オス型前駆体4を発泡させると、オス型前駆体4の中に多数の気泡8が生じ、オス型前駆体4が膨張してオス型7となる。このオス型7は、樹脂製膨張発泡体により形成され、かつ元型に対して全方向に均等な倍率の大きさを有する。
【0026】
オス型前駆体4を発泡膨張させる方法としては、成形体を焼結したときに粉末焼結体が所望の形および大きさになるように、前記オス型を作成することのできる方法であれば特に制限はなく、オス型前駆体4の材料等に応じて適宜選択することができる。このような方法としては、たとえばオス型前駆体4の原料に発泡剤を混合してオス型前駆体4を作成し、この発泡剤の作用によりこのオス型前駆体4を発泡膨張させる方法、およびオス型前駆体4を作成した後、このオス型前駆体4に発泡剤を含浸させて、その含浸した発泡剤の作用によりこのオス型前駆体4を発泡膨張させる方法等を挙げることができる。
【0027】
後者の方法としては、たとえばオス型前駆体4を超臨界流体に浸漬してオス型前駆体4に超臨界流体成分を含浸させた後、このオス型前駆体4を常圧下に移すことにより、含浸した超臨界流体成分の作用によりこのオス型前駆体4を発泡膨張させる方法を挙げることができる(以下、超臨界流体法という)。この超臨界流体法で用いる超臨界流体としては、上記のように超臨界流体成分の含浸、およびオス型前駆体の発泡膨張をさせることができるような流体、たとえば超臨界の窒素、アルゴンおよび二酸化炭素等を挙げることができ、特に超臨界の窒素は、超臨界流体成分である窒素の含浸が容易であり、発泡性も良く、また安価である点で好適である。
【0028】
前記超臨界流体法において、オス型前駆体4を超臨界流体に浸漬してオス型前駆体に超臨界流体成分を含浸させる条件としては、前記成形体を焼結したときに所望の粉末焼結体が得られるようにオス型前駆体を発泡膨張させることができるような条件が選択され、たとえば含浸圧力、含浸時間および含浸温度等の条件が適宜決定される。これらの条件は、オス型前駆体4の材質および形状、並びに超臨界流体の種類等に応じて決定される。この方法によりオス型前駆体4に超臨界流体成分を含浸させると、発泡剤である超臨界流体成分をオス型前駆体中に多量に、また均一に含浸、分散させることができる。
【0029】
超臨界流体法において、オス型前駆体4に超臨界流体成分を含浸させた後、オス型前駆体4を常圧下に移し、オス型前駆体4を発泡膨張させる条件も、成形体を焼結したときに所望の粉末焼結体が得られるようにオス型前駆体4を発泡膨張させることができるような条件が選択され、たとえば発泡温度および発泡時間等の条件が適宜決定される。これらの条件は、オス型前駆体4の材質および形状、並びに超臨界流体成分の種類等に応じて決定される。
【0030】
たとえばオス型前駆体4の材料にポリスチレン、超臨界流体に超臨界窒素を用いたときには、含浸圧力としては、13〜22MPa、含浸時間としては試料全体が飽和状態になるまでの時間で2〜5時間、含浸温度としては、383〜410Kが好適である。これらの条件を適宜決定すれば、オス型前駆体4を線膨張率で140%まで全方向に均等に発泡膨張させることができる。140%という膨張率は、成形体を焼結したときに生じる収縮を補うのに十分な値である。
【0031】
また上記含浸および発泡膨張の条件としては、たとえば、低温でオス型前駆体4に超臨界流体成分を含浸させ、常圧に戻した後、発泡が起こる温度に昇温して発泡させる方法、および常圧に戻した後に昇温しなくても発泡が起こる温度で超臨界流体成分を含浸させた後、常圧に戻すことにより自発的に発泡させる方法等を用いることができる。
【0032】
この方法によりオス型前駆体4を発泡膨張させると、オス型前駆体中に分散している発泡剤である超臨界流体成分を均等に発泡させることができる。このため超臨界流体法を用いれば、オス型前駆体4が複雑な形状であっても、オス型前駆体を元の形を維持させたまま発泡膨張させることが容易である。
【0033】
このように超臨界流体法によりオス型前駆体4を発泡膨張させると、オス型前駆体と同
じ形で、体積がオス型前駆体4より大きいオス型7を作成することが容易である。このため超臨界流体法によりオス型7を作成し、そのオス型7から第2メス型9、さらにその第2メス型9から成形体を作成してこの成形体を焼結すると、この成形体はオス型7と同じ形および大きさを有するから、成形体を焼結収縮させれば、粉末焼結体をオス型前駆体4と実質的に同じ形および大きさにすることが容易である。したがってオス型前駆体4を、所望する粉末焼結体と同じ形および大きさにしておけば、所望する粉末焼結体の形状が複雑であっても、上記超臨界流体法によりオス型7を作成して、所望する粉末焼結体を容易に得ることができる。このように、超臨界流体法以外の発泡膨張方法によっても本発明のオス型7を作成することはできるが、超臨界流体法を用いれば、所望する粉末焼結体の形状が複雑であっても、容易に、また再現性良く、成形体を焼結したときに所望の粉末焼結体が得られるようなオス型7を作成することができる。
【0034】
図1の工程(d)は、オス型7から第2メス型9を作成する工程である。第2メス型9は、粉末原料を充填成形して成形体を作成するための型であり、粉末焼結体成型用メス型である。この第2メス型9の製造方法には特に制限はなく、公知の方法を使用することができる。図1においては、オス型7を第2メス型9の原料10の中に埋め込み、原料10を固化させた後、オス型7を除去することにより第2メス型9が作成される。その後オス型7は、除去される。
【0035】
第2メス型9の材料としては、オス型7を侵さないこと、成形体の作成に絶えうる強度をメス型に付与できること、オス型7を溶解除去する場合にはその溶媒に侵されないこと、および成形体作成後に第2メス型9を熱焼失させる場合には熱焼失させることができること、等の条件を満たす材料が選択される。たとえばオス型7の材質がポリスチレンである場合には、これらの条件を満たすものとして、2液硬化型の熱硬化性樹脂、たとえばフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂等を挙げることができ、これらの中で特にエポキシ樹脂が好ましい。
【0036】
オス型7を除去する方法としては、第2メス型9が損傷することがない限り特に制限はない。オス型7の材質がポリスチレンである場合には、これを溶解除去する方法が最も簡易であり、好適である。この場合、第2メス型9の材質が上記2液硬化型の熱可塑性樹脂であるときには、溶解除去に用いる溶解性溶剤として、エチルベンゼン、1,4−ジオキサン、アニソールおよび安息香酸等を用いることができる。溶解除去する場合には、孔11から第2メス型9内に溶媒を流し込み、オス型7を溶解除去する。
【0037】
工程(e)は、第2メス型9により成形体12を作成し、この成形体12を焼結して、粉末焼結体1を製造する工程である。
まず第2メス型9内に、孔11から粉末原料を充填し、これを成形して成形体12を作成する。粉末原料としては、粉末焼結体に応じて適宜選択され、たとえば粉末焼結体がセラミックスならばセラミック粉末が、金属材料ならば金属粉末が使用される。粉末原料を充填成形して成形体12を作成する方法については、焼結可能な成形体が得られる限り特に制限はなく、公知の方法、たとえばプレス成形法、加圧鋳込み成形法または高速遠心成形法等を用いることができる。
【0038】
このようにして作成された成形体12は、オス型7と同じ形および大きさを有する。図1において粉末焼結体1は、球形で表されているが、本発明の粉末焼結体はこの形に制限されず、製造が可能な限り任意の形を採りうる。
【0039】
次に成形体2を焼結して粉末焼結体1を製造する。成形体12は、焼結により収縮して、粉末焼結体1となる。この粉末焼結体1は、原料粉末に対応してセラミックスおよび金属材料等となる。成形体12は、第2メス型9から取り出してから焼結してもよく、また
第2メス型9ごと加熱して、第2メス型9を熱分解させると同時に成形体12を焼結してもよい。また成形体12を焼結する方法については、前記成形体を焼結したときに所望の粉末焼結体が得られるような方法を、公知の方法から選択して用いることができる。
【0040】
このように製造された粉末焼結体1は、元型2と実質的に同じ形および大きさを有する。
また本発明においては、上記のように作成したオス型から直接メス型を作成し、そのメス型から成形体を作成し、その成形体をそのまま焼結して粉末焼結体を製造する方法が最も簡易で好ましいが、必ずしもそのような方法には制限されず、必要に応じて、たとえばオス型に適当な加工を加えてからメス型を作成したり、成形体に適当な加工を加えてから焼結したりしてもよい。
【実施例1】
【0041】
図2に示した縦断面を有する有底筒状体である元型から、これと形および大きさが実質的に同じであるセラミックスを、図1に示した製造プロセスに従って製造する方法を以下
説明する。
【0042】
(1)第1メス型の作成(工程(a))
元型から、これと同じ形および大きさを有するロウ型を既存の歯科技工技術により作成した。
【0043】
このロウ型に、湯道を作るためのロウ棒を取り付け、これをキャスティングリング(株式会社モリタ製)に設置した。歯科鋳造用石膏系埋没剤と水とを混合し、この混合物を、振動を加えながらキャスティングリング内に流し込んだ。石膏が固まったら、これを加熱してロウ型およびロウ棒を融かし、形成された湯道から融けたロウを流し出した。
【0044】
このようにして石膏製の第1メス型を作成した。
(2)オス型前駆体の作成(工程(b))
第1メス型を手動射出成形機に取り付け、ペレット状のポリスチレン(PS)(東洋ス
チール株式会社製)を手動射出成形機のシリンダー内に入れ、このポリスチレンを溶融温度付近の温度で混錬した。手動射出成形機のピストンを下げて、第1メス型の空隙部に融解したポリスチレンを鋳込んだ。ポリスチレンが固化した後、第1メス型を割って、作成
されたオス型前駆体を取り出した。このようにしてポリスチレン製のオス型前駆体を作成した。
【0045】
(3)オス型の作成(工程(c)、発泡膨張オス型作成工程)
オス型前駆体を発泡膨張させる発泡膨張装置13を図3に示した。
空気恒温槽14内に収容されたオートクレーブ15内にオス型前駆体を入れ、系内の真空排気およびオス型前駆体の脱揮を行った。窒素シリンダー16および高圧ガス注入機17よりオートクレーブ15内に窒素ガスを導入した。オートクレーブ15内を圧力15MPa、温度391Kで3時間保持することにより、オス型前駆体に窒素を飽和含浸させた
。その後オートクレーブ15内を、この温度を保持しながら大気圧まで一気に減圧することで、オス型前駆体を発泡膨張させた。このようにしてポリスチレン製のオス型を作成した。
【0046】
(4)第2メス型の作成(工程(d))
オス型をメス型作成用の容器に入れ、その中に融解させたエポキシ樹脂(スペシフィックス、ストルアス社製)を流し込み、そのエポキシ樹脂を固化させた。固化したエポキシ樹脂に、オス型に通じる孔を設け、その孔からエチルベンゼンを流し込み、エポキシ樹脂内のオス型を溶解させ、除去した。このようにしてエポキシ樹脂製の第2メス型を作成し
た。
【0047】
(5)粉末焼結体の作成(工程(e))
まず次のようにして、高速遠心成形法により成形体を作成した。ジルコニア粉末(TZ-3YS-E、東ソー株式会社製)70質量%、水28質量%およびポリカルボン酸アンモニウム2質量%を混合し、タービュラーミルで分散させて、泥漿を得た。この泥漿を第2メス型に適量入れ、高速冷却遠心機に装着して、10000rpmで3.6ks間回転させた。上澄みを除去した後、沈殿部を乾燥させて、成形体を作成した。
【0048】
この成形体を、メス型に収容したまま、1623Kで3時間加熱して、第2メス型の除
去および成形体の焼結をした。
以上のようにしてセラミックスを製造した。
【0049】
(6)このようにして製造されたセラミックスと元型との寸法を、図2に示したa〜dにより比較した。結果を表1に示した。
このセラミックスは、元型と実質的に同じ形および大きさを有していた。すなわちこのセラミックスは、所望の粉末焼結体であった。
【0050】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】は、本発明の粉末焼結体の製造方法を含む粉末焼結体の製造プロセスである。
【図2】は、実施例で使用した元型の縦断面図である。
【図3】は、オス型前駆体を発泡膨張させる発泡膨張装置13の説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 粉末焼結体
2 元型
3 第1メス型
4 オス型前駆体
7 オス型
8 気泡
9 第2メス型
12 成形体
13 発泡膨張装置
14 空気恒温槽
15 オートクレーブ
16 窒素シリンダー
17 高圧ガス注入機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的とする粉末焼結体と同一形状の型を用いて第1メス型を作成し、この第1メス型を用いて発泡可能な樹脂製オス型前駆体を形成し、次いでこの発泡可能な樹脂製オス型前駆体を発泡膨張させて得られる樹脂製発泡膨張オス型を用いて第2メス型を作成し、この第2メス型に粉末原料を充填成形して得られる成形体を焼結して粉末焼結体を製造することを特徴とする粉末焼結体の製造方法。
【請求項2】
樹脂製発泡膨張オス型は、前記発泡可能な樹脂製オス型前駆体に発泡剤を含浸させた後この発泡可能な樹脂製オス型前駆体を発泡膨張させて作成される請求項1に記載の粉末焼結体の製造方法。
【請求項3】
樹脂製発泡膨張オス型は、前記発泡可能な樹脂製オス型前駆体を超臨界流体に浸漬してこの発泡可能な樹脂製オス型前駆体に超臨界流体成分を含浸させた後、この発泡可能な樹脂製オス型前駆体を常圧下に移すことにより発泡膨張させて作成される請求項1に記載の粉末焼結体の製造方法。
【請求項4】
超臨界流体は超臨界窒素である請求項3に記載の粉末焼結体の製造方法。
【請求項5】
発泡膨張オス型は、第2メス型作成工程において、溶解性溶剤によって溶解除去しうる溶剤溶解性樹脂製である請求項1〜4のいずれか1項に記載の粉末焼結体の製造方法。
【請求項6】
樹脂製発泡膨張オス型を溶解性溶剤によって溶解除去する請求項5に記載の粉末焼結体の製造方法。
【請求項7】
発泡可能な樹脂製オス型前駆体は、スチレン系重合体製である請求項1〜6のいずれか1
項に記載の粉末焼結体の製造方法。
【請求項8】
発泡可能な樹脂製オス型前駆体は、ポリスチレン製である請求項1〜7のいずれか1項
に記載の粉末焼結体の製造方法。
【請求項9】
第2メス型作成工程の成型材料が焼結工程において焼結除去される樹脂である請求項1〜8のいずれか1項に記載の粉末焼結体の製造方法。
【請求項10】
第2メス型作成工程の成型材料が熱硬化型樹脂である請求項1〜9のいずれか1項に記載
の粉末焼結体の製造方法。
【請求項11】
成形体は、プレス成形法、加圧鋳込み成形法、および遠心成型法からなる群から選ばれた少なくとも1種の成型方法で作成される請求項1〜10のいずれか1項に記載の粉末焼結
体の製造方法。
【請求項12】
成形体は、高速遠心成形で作成される請求項1〜11のいずれか1項に記載の粉末焼結体
の製造方法。
【請求項13】
樹脂製膨張発泡体から形成されかつ原形状物品の元型と全方向に均等の倍率の大きさを有することを特徴とする粉末焼結体成型用オス型。
【請求項14】
樹脂製膨張発泡体が、スチレン系重合体の発泡膨張体である請求項13に記載の粉末焼結体成型用オス型。
【請求項15】
樹脂製膨張発泡体が、ポリスチレンの発泡膨張体である請求項13または14に記載の粉末焼結体成型用オス型。
【請求項16】
樹脂製膨張発泡体が、スチレン系重合体を発泡剤で発泡して形成させた発泡膨張体である請求項13〜15のいずれか1項に記載の粉末焼結体成型用オス型。
【請求項17】
樹脂製膨張発泡体が、ポリスチレンを超臨界流体に浸漬して超臨界流体成分を含浸させ、これを発泡して形成させた発泡膨張体である請求項13〜16のいずれかに記載の粉末焼結体成型用オス型。
【請求項18】
樹脂製膨張発泡体が、ポリスチレンを超臨界窒素流体に浸漬して窒素を含浸させ、これを発泡して形成させた発泡膨張体である請求項13〜17のいずれかに記載の粉末焼結体成型用オス型。
【請求項19】
樹脂製膨張発泡体が、原形状物品の元型のロウ型、シリコン型または石膏型から作成された第1メス型により成型された発泡可能な樹脂製オス型前駆体を発泡剤で原形状物品の元型と全方向に均等の倍率の大きさに発砲膨張して成る請求項13〜18のいずれか1項に
記載の粉末焼結体成型用オス型。
【請求項20】
熱硬化型樹脂から形成されかつ原形状物品の元型と全方向に均等の倍率の大きさを有する成形体を作成できることを特徴とする粉末焼結体成型用メス型。
【請求項21】
熱硬化型樹脂が、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項20に記載の粉末焼結体成型用メス型。
【請求項22】
熱可塑性樹脂がエポキシ樹脂である請求項20に記載の粉末焼結体成型用メス型。
【請求項23】
請求項13〜19のいずれか1項に記載された粉末焼結体成型用オス型から熱硬化型樹脂を用いて形成された粉末焼結体成型用メス型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−265157(P2008−265157A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111807(P2007−111807)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年12月5日 粉体粉末冶金協会発行の「粉体粉末冶金協会講演概要集 平成18年度秋季大会」に発表
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】