説明

粉末状のシリカコンポジット粒子及びその製造方法、シリカコンポジット粒子分散液、並びに樹脂組成物

【解決課題】粒子表面にホスホニウム塩系のイオン性液体が固定され、該イオン性液体の含有量が高くかつ分散性が高い粉末状のシリカコンポジット粒子を提供すること。また、該粉末状のシリカコンポジット粒子を工業的に有利な方法で、かつ高収率で製造する方法を提供すること。
【解決手段】平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子、アルコキシシラン、下記一般式(1):


で表されるホスホニウム塩系イオン性液体、及び反応溶媒を含む反応原料液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解することにより、該コアシリカ粒子の表面処理を行う表面処理工程を行い得られる粉末状のシリカコンポジット粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホニウム塩系のイオン性液体を粒子表面に固定化した粉末状のシリカコンポジット粒子、その製造方法、該シリカコンポジット粒子を含有するシリカコンポジット粒子分散液、樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン液体は、カチオンとアニオンとの塩であり、常温、常圧では液体であり、沸点を持たない物質であるが、そのうちのいくつかは、20世紀初頭から電気化学の分野では、研究されてきた。しかし、他の用途については、研究されていなかった。
【0003】
ところが、1990年代になり、グリーンケミストリーが叫ばれるようになると、イオン液体は、不燃性、不揮発性等の興味深い性質を示すことから、注目を集め始めた。そのため、種々のイオン液体が開発されるようになった。そして、近年、イオン液体を、不燃性、不揮発性かつ極性の高い溶媒として利用することについては、研究が進められている。
【0004】
しかし、溶媒としての用途以外については、イオン液体の利用方法については、未だ開発されておらず、今後、イオン液体の新規な用途が期待される。
【0005】
イオン液体の新規な用途の1つとして、イオン液体を含有する機能材料が考えられる。ところが、イオン液体を含有する機能材料を製造するためには、イオン液体を、種々の溶媒又は樹脂材料等に、均一に分散しなければならないが、イオン液体が、液体であるため、種々の溶媒又は樹脂材料等に均一に分散することが極めて困難であるという問題があった。
【0006】
このため、本発明者らは、先に溶媒や樹脂に均一に分散させることができる粒子表面にイオン性液体を固定化した粉末状のシリカコンポジット粒子を提案した(特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2007−270124号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1の粉末状のシリカコンポジット粒子は、平均粒径が5〜200μmのコアシリカ粒子を含有するシリカゾル、アルコキシシラン及びイオン液体を混合して得られる反応原料液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解し得られる懸濁した反応液から遠心分離処理して沈殿させて得た固形物を用いるものである。このため、多くの場合、収率が50%以下と低く、また、固定されるホスホニウム塩系イオン性液体の含有量もP原子として多くとも0.6重量%と、イオン性液体の固定量を多くすることができないという問題があった。
【0009】
したがって、本発明の課題は、粒子表面にホスホニウム塩系イオン性液体が固定された粉末状のシリカコンポジット粒子であって、ホスホニウム塩系イオン性液体の含有量が高くかつ分散性が高い粉末状のシリカコンポジット粒子を提供することにある。また、本発明の課題は、該粉末状のシリカコンポジット粒子を工業的に有利な方法で、かつ高収率で製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、(1)ホスホニウム塩系イオン性液体として特定の一般式で示されるホスホニウム塩系イオン液体を用い、該ホスホニウム塩系イオン液体、平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子、アルコキシシラン及び反応溶媒を含む反応原料液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解することにより得られる反応液は、従来の懸濁した反応液とは異なり、目視にて固形物が観察されず、該反応液を遠心分離処理しても沈殿物が観察されないこと、また、(2)該反応液から反応溶媒を蒸発除去することにより、目的物とする粉末状のシリカコンポジット粒子をほぼ定量的に得ることができること、また、(3)得られた粉末状のシリカコンポジット粒子中に含有されるホスホニウム塩系イオン性液体の含有率が高いこと、更に(4)該粉末状のシリカコンポジット粒子は、種々の分散溶媒又は樹脂材料等に均一に分散することができること等を見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子、アルコキシシラン、下記一般式(1):
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R1、R2及びR3は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。R4は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
で表されるホスホニウム塩系イオン性液体、及び反応溶媒を含む反応原料液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解することにより、該コアシリカ粒子の表面処理を行う表面処理工程を行い得られるシリカコンポジット粒子であることを特徴とする粉末状のシリカコンポジット粒子を提供するものである。
【0014】
また、本発明(2)は、平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子、アルコキシシラン、下記一般式(1):
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R1、R2及びR3は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。R4は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
で表されるホスホニウム塩、及び反応溶媒を含む反応原料液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解することにより、該コアシリカ粒子の表面処理を行う表面処理工程を有することを特徴とする粉末状のシリカコンポジット粒子の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(3)は、前記本発明(1)の粉末状のシリカコンポジット粒子が、分散溶媒に分散されていることを特徴とするシリカコンポジット粒子分散液を提供するものである。
【0018】
また、本発明(4)は、前記本発明(1)の粉末状のシリカコンポジット粒子を含有することを特徴とする樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、粒子表面にホスホニウム塩系イオン性液体が固定された粉末状のシリカコンポジット粒子であって、ホスホニウム塩系イオン性液体の含有量が高くかつ分散性が高い粉末状のシリカコンポジット粒子を提供することができる。また、本発明によれば、該粉末状のシリカコンポジット粒子を工業的に有利な方法で、かつ高収率でほぼ定量的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子、アルコキシシラン、下記一般式(1):
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、R1、R2及びR3は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。R4は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
で表されるホスホニウム塩系イオン性液体、及び反応溶媒を含む反応原料液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解することにより、該コアシリカ粒子の表面処理を行う表面処理工程を行い得られるシリカコンポジット粒子である。
【0023】
表面処理工程に係るコアシリカ粒子は、平均粒径が5〜200nmのシリカ粒子である。表面処理工程に係るコアシリカ粒子源としては、平均粒径が5〜200nmのシリカ粒子を含有するシリカゾルが挙げられる。表面処理工程に係るコアシリカを含有するシリカゾルは、親水性溶媒シリカゾル、疎水性シリカゾル等が挙げられ、メタノールゾル、エタノールゾル、イソプロピルアルコールゾルが、ゾルを製造し易い点で好ましい。また、メタノールゾルは、市販品でもよく、疎水性溶媒シリカゾルは、水性シリカゾルを溶媒置換することにより調製されていてもよい。シリカゾル中のコアシリカ粒子は、SiO2からなるシリカ粒子である。シリカゾル中のコアシリカ粒子の含有量は、特に制限はないが、好ましくは1〜80重量%、特に好ましくは3〜50重量%である。例えば、表面処理工程に係る反応溶媒に、表面処理工程に係るコアシリカを含有するシリカゾルを添加することにより、平均粒径が5〜200nmのコアシリカを含有する反応原料液が得られる。
【0024】
表面処理工程に係るコアシリカ粒子のシリカ源としては、例えば、珪酸ソーダ又は活性珪酸溶液から粒子成長を行って製造されたものや、有機珪素化合物を原料として製造されたものや、ヒュームドシリカ等、特に制限されない。
【0025】
表面処理工程に係るコアシリカ粒子の平均粒径は、5〜200nm、好ましくは5〜50nmである。コアシリカ粒子の平均粒径が、上記範囲内にあることにより、分散溶媒又は樹脂材料へのシリカコンポジット粒子の分散性が良好になる。一方、コアシリカ粒子の平均粒径が5nm未満だと、コアシリカ粒子を含有するシリカゾルの製造及び工業的に入手することが困難であり、また、平均粒径が200nmを超えると、シリカコンポジット粒子の分散安定性が低くなる。コアシリカ粒子は動的光散乱法によって測定することができる。本発明においては、大塚電子製のDLS−6000HLを用いて測定を行った。
【0026】
表面処理工程に係るアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシラン、ヘキシルオキシトリメチルシラン等のアルコキシトリアルキルシランが挙げられる。これらのアルコキシシランにおけるアルキル基の炭素鎖長は1〜6であることが好ましい。アルコキシ基の炭素鎖長も1〜6であることが好ましい。これらのうち、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランが、製造上、取り扱い易い点で好ましい。また、アルコキシシランは、1種単独でも、2種以上の組み合せでもよい。
【0027】
表面処理工程に係る前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体は、ホスホニウム塩でありかつイオン液体である。前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の式中のR1、R2及びR3は、炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられ、この中で、特にブチル基が好ましい。R1、R2及びR3はそれぞれが同一の基でも異なる基であってもよい。また、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の式中のR4は、炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基が挙げられ、この中で、特にメチル基が好ましい。また、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の式中のnは1〜8の整数、好ましくは3である。また、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の式中のXはアニオン基を示す。Xのアニオン基としては、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、BF4-、PF6-、N(SO2CF32-、PO2(OMe)3-、PS2(OEt)2-、(CO2Me)2PhSO3-等のアニオン基が挙げられ、この中で、塩素イオンが特に好ましい。
【0028】
表面処理工程に係る反応溶媒は、表面処理工程に係るアルコキシシラン及び一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体を溶解するものが用いられる。表面処理工程に係る反応溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが挙げられ、この中で、メタノールが特に好ましい。
【0029】
表面処理工程において、反応原料液を調製する際に、コアシリカ粒子を含有するシリカゾル、アルコキシシラン、一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体を反応溶媒に混合する順序は特に制限されるものではない。
【0030】
反応原料液中のコアシリカ粒子の含有量は、特に制限されないが、好ましくは1〜80重量%、特に好ましくは3〜50重量%である。反応原料液中のコアシリカ粒子の含有量が、上記範囲にあることにより、シリカコンポジット粒子の分散安定性が高くなる。
【0031】
反応原料液中のアルコキシシランの含有量は、コアシリカ粒子1gに対して、0.05〜1.5ml、好ましくは0.08〜1.05mlである。反応原料液中のアルコキシシランの含有量が、上記範囲にあることにより、粉末状のシリカコンポジット粒子中の前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の含有量が高くなる。反応原料液中のアルコキシシランの含有量が、コアシリカ粒子1gに対して、0.05ml未満だと、粉末状のシリカコンポジット粒子中の前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の含有量が低くなり易く、また、1.5mlを超えると、シリカコンポジット粒子の分散安定性が低くなり易い。
【0032】
反応原料液中の前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の含有量は、コアシリカ粒子1gに対して、0.03ml以上、好ましくは0.03〜1.5ml、特に好ましくは0.03〜0.45ml、更に好ましくは0.06〜0.3mlである。反応原料液中の前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の含有量が、上記範囲にあることにより、粉末状のシリカコンポジット粒子中のホスホニウム塩系イオン液体の含有量が高くなる。反応原料液中に含有させる前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の含有量が、コアシリカ粒子1gに対して、0.03ml未満だと、粉末状のシリカコンポジット粒子中に含有されるホスホニウム塩系イオン液体の含有量が低くなり易い。
【0033】
本発明において、表面処理工程に係る反応原料液は、下記一般式(2)又は(3):
【0034】
【化4】

【0035】
【化5】

【0036】
(式中、R5及びR6は、−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基を示し、R5及びR6は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R5及びR6中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Zは、水酸基、モルホリノ基、3級アミノ基又は2級アミノ基を示す。R7、R8及びR9は同一の基であっても異なる基であってもよく、R7、R8及びR9は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは5〜1000の整数である。)
で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有することができる。反応原料液が、前記一般式(2)又は(3)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有することにより、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、粒子表面に、前記一般式(2)又は(3)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有するシリカコンポジット粒子となる。本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子が、粒子表面に、前記一般式(2)又は(3)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有することにより、種々の分散溶媒又は樹脂材料等への分散性が更に高くなり、更には撥油性等の特性も有することができる。前記一般式(2)又は(3)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの式中のR5及びR6は、−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基を示し、R5及びR6は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R5及びR6中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。また、式中のZは、水酸基、モルホリノ基、3級アミノ基又は2級アミノ基を示す。3級アミノ基としては、トリメチルアミノ基、トリエチルアミノ基が挙げられ、2級アミノ基としては、−NHC(CH32CH2COCH3基、−NHCH(CH32基が挙げられる。R7、R8及びR9は同一の基であっても異なる基であってもよく、R7、R8及びR9は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。式中のmは5〜1000の整数を示す。
【0037】
反応原料液中の前記一般式(2)又は(3)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有量は、コアシリカ粒子1gに対して、好ましくは0.03〜1g、特に好ましくは0.04〜0.6gである。反応原料液中の前記一般式(2)及び(3)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有量が、上記範囲にあることにより、種々の分散溶媒又は樹脂材料へのシリカコンポジット粒子の分散性が高くなる。
【0038】
前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、例えば、特開平11−246573号公報、特開2001−253919号公報、特開2000−309594号公報等に記載の方法を参照して製造される。
【0039】
その製造例の一例を以下に示す。下記一般式(4):
【0040】
【化6】

【0041】
(式中、(式中、R5及びR6は、前記一般式(2)中のR5及びR6と同じである。)で表わされる過酸化フルオロアルカノイル化合物と、下記一般式(5):
【0042】
【化7】

【0043】
(式中、Zは、前記一般式(2)中のZと同じである。)
で表されるビニル基を有する化合物とを原料とし、下記反応式(6)に従って、前記一般式(4)で表される過酸化フルオロアルカノイル化合物と前記一般式(5)で表されるビニル基を有する化合物とを反応させ、前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを得る。
【0044】
【化8】

【0045】
前記一般式(4)で表される過酸化フルオロアルカノイル化合物の具体例としては、過酸化ジペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイル、過酸化ジペルフルオロ−2,5−ジメチル−3,6−ジオキサノナノイル、過酸化ジペルフルオロ−2,5,8−トリメチル−3,6,9−トリオキサドデカノイル、過酸化ジペルフルオロブチリル、過酸化ジペルフルオロヘプタノイル、過酸化ジペルフルオロオクタノイル等が挙げられる。前記一般式(4)で表される過酸化フルオロアルカノイル化合物は、公知の製造方法により得られ、例えば、フルオロアルキル基含有ハロゲン化アシルに、含フッ素芳香族溶媒又は代替フロンのような含フッ素脂肪族溶媒中で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムなどのアルカリの存在下、過酸化水素を反応させる方法等により容易に得られる。
【0046】
前記一般式(5)で表されるビニル基を有する化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソブチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチルアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジイソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルモルホリン、N−メタクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0047】
前記一般式(4)で表される過酸化フルオロアルカノイル化合物と、前記一般式(5)で表されるビニル基を有する化合物とを反応させる方法としては、例えば、前記一般式(5)で表されるビニル基を有する化合物を、不活性溶媒に溶解し、次いで、撹拌下で、前記一般式(4)で表される過酸化フルオロアルカノイル化合物を混合後、40〜50℃まで昇温し、熟成し、その後精製を行う方法が挙げられる。
【0048】
前記一般式(3)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、例えば、トリメトキシビニルシラン等のトリアルコキシシランを過酸化フルオロアルカノイルと反応させることにより、製造することができる(例えば、特開2002−338691号公報参照)。
【0049】
表面処理工程において、反応原料液に加える酸又はアルカリとしては、アルコキシシランの加水分解を行うことができるものであれば、特に制限されず、例えば、アルカリとしては、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等が挙げられ、酸としては、硫酸、塩酸、硝酸又は酢酸等が挙げられ、反応性が高い点で、好ましくは水酸化アンモニウム又は塩酸であり、特に好ましくは水酸化アンモニウムである。
【0050】
反応原料液に加える酸又はアルカリの混合量は、特に制限されず、適宜選択される。また、反応原料液に、酸又はアルカリを混合して、アルコキシシランの加水分解を行う際の反応温度は、−5〜50℃、好ましくは0〜30℃である。反応温度が、−5℃未満だと、アルコキシシランの加水分解速度が遅くなり過ぎるので、反応効率が悪く、また、50℃を超えると、粉末状のシリカコンポジット粒子の分散安定性が低くなり易い。また、反応原料液に、酸又はアルカリを混合して、アルコキシシランの加水分解を行う際の反応時間は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは1〜72時間、特に好ましくは1〜24時間である。
【0051】
そして、表面処理工程を行うことにより、シリカコンポジット粒子が生成し、シリカコンポジット粒子を含有する反応液が得られる。表面処理工程を行い得られる反応液中のシリカコンポジット粒子は、原料に平均粒径が5〜200nmのコアシリカを用いて得られかつ分散性が高いので、表面処理工程を行い得られる反応液中で、シリカコンポジット粒子は、微細にかつ均一に分散している。
【0052】
表面処理工程を行い得られる、シリカコンポジット粒子を含有する反応液は、目視にて固形物が観察されず、かつ、該反応液を遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理したときに目視にて沈殿物が観察されないことも特徴の1つである。従来の特開2007−270124号公報で得られる反応液は、懸濁液であり、目視にて反応液中に固形物が観察される。また、従来の反応液を同様に3000rpmで30分間遠心分離処理したときには、シリカコンポジット粒子が固形物として沈殿する。したがって、本発明に係る表面処理工程を行うことにより得られる、シリカコンポジット粒子を含有する反応液と、従来の特開2007−270124号公報で得られる反応液とは、性質が異なるものと言うことができる。また、反応液中に分散しているシリカコンポジット粒子の性質も異なると言うことができる。なお、遠心分離処理は、処理物を遠心管に入れ、遠心分離機で処理するが、沈殿物がある場合は、目視にて遠心管の底に沈殿物が観察される。よって、遠心分離処理したときに目視にて沈殿物が観察されないとは、処理後に、遠心管の底に目視で判別できるような沈殿物がないことを指す。
【0053】
次いで、表面処理工程を行い得られる反応液から、シリカコンポジット粒子を回収して、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子を得る。
【0054】
本発明では、表面処理工程を行い得られる反応液から、反応溶媒を蒸発させ除去して、粉末状のシリカコンポジット粒子を得る溶媒蒸発除去工程を行い、該反応液から、シリカコンポジット粒子を回収する。溶媒蒸発除去工程では、常圧又は減圧下で、反応溶媒が蒸発する温度に加熱して、反応溶媒の蒸発除去を行う。また、固形物を回収後、必要により乾燥を行う。
【0055】
そして、溶媒蒸発除去工程を行うことにより、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子を得る。本発明では、表面処理工程を行って得られる反応液を、そのまま反応溶媒を蒸発により除去するので、ほぼ定量的に、粉末状のシリカコンポジット粒子を得ることができる。
【0056】
本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、従来の特開2007−270124号公報の粉末状のシリカコンポジット粒子に比べ、ホスホニウム塩系イオン性液体の含有率が高いことに、その1つの特徴がある。即ち、従来の特開2007−270124号公報の粉末状のシリカコンポジット粒子では、ホスホニウム塩系イオン性液体の含有率が、P原子として、多くても0.60重量%である。これに対して、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子では、ホスホニウム塩系イオン性液体の含有率が、P原子として、好ましくは1.0重量%以上、特に好ましくは1.0〜4.0重量%である。本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子におけるホスホニウム塩系イオン性液体の含有率は、該シリカコンポジット粒子をフッ化水素で溶解して溶液となし、該溶液をICP分析することで求めることができる。
【0057】
また、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子の他の好ましい物性としては、平均粒径が5〜200nm、好ましくは5〜60nmである。平均粒径が前記範囲内にあると、種々の分散溶媒又は樹脂材料等への分散性が良好である点で好ましい。
【0058】
前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体は、表面処理工程において加水分解可能な部位を有しており、シリカコンポジット粒子において、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の反応残基と、アルコキシシランの加水分解物であるポリシロキサン化合物とが、化学結合又は分子間水素結合を形成することにより、コアシリカ粒子に付着したポリシロキサン化合物の表面に、結合を形成して存在するものと、分子鎖の一部が、ポリシロキサン化合物のネットワーク中に取り込まれて存在しているものがあると本発明者らは推測している。そして、ポリシロキサン化合物の表面に結合している前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の反応残基の分子鎖、及びポリシロキサン化合物のネットワークに取り込まれなかった、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の反応残基の部分が、シリカコンポジット粒子の表面から伸びるため、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の反応残基がコロナのように、コアシリカ粒子の表面から、放射状に伸びた形状となる。
【0059】
そして、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、コアシリカ粒子の表面から伸びる、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体の反応残基の分子鎖の作用により、種々の分散溶媒又は樹脂材料に加えた時に、粉末状のシリカコンポジット粒子同士が凝集し難くなるので、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、種々の分散溶媒又は樹脂材料への分散性が優れている。そのため、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子によれば、微細でかつ均一なシリカコンポジット粒子の分散液が得られる。また、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、前記のポリシロキサン化合物のネットワーク中に、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体を含有するので、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子によれば、微細かつ均一にイオン液体が分散された分散液が得られる。
【0060】
更に、反応原料液に、前記一般式(2)及び(3)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを添加したものにおいては、該フルオロアルキル基含有オリゴマーの分子鎖も、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体と同様に、ポリシロキサン化合物と化学結合又は分子間水素結合を形成することができるので、ポリシロキサン化合物の表面に結合を形成して存在するものと、分子鎖の一部が、ポリシロキサン化合物のネットワーク中に取り込まれて存在しているものがあると推測される。前記一般式(2)及び(3)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの分子鎖も、コロナのように、コアシリカ粒子の表面から、放射状に伸びる形状となるので、更に種々の分散溶媒又は樹脂材料への分散性が向上するものと考えられる。
【0061】
本発明における別の実施形態として、シリカコンポジット粒子の調製において、アルコキシシランを用いない場合がある。この場合のシリカコンポジット粒子は、平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子、下記一般式(1):
【化9】

(式中、R1、R2及びR3は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。R4は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
で表されるホスホニウム塩系イオン性液体、及び溶媒を含む原料液に、酸又はアルカリを加えることにより、該コアシリカ粒子の表面処理を行う表面処理工程を行い得られるシリカコンポジット粒子であることを特徴とするものである。
【0062】
このシリカコンポジット粒子においては、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体が、表面処理工程において加水分解可能な部位を有しているため、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体は、その反応残基が、コアシリカ粒子と結合を形成することにより、コアシリカ粒子の表面に存在するものと推測される。このシリカコンポジット粒子においても、コアシリカ粒子の表面に結合している上記反応残基の分子鎖が、コロナのように、コアシリカ粒子の表面から放射状に伸びた形状となる。
【0063】
このシリカコンポジット粒子によれば、先に説明した実施形態のシリカコンポジット粒子と同様の効果が奏される。したがって、以下の説明においてシリカコンポジット粒子というときには、本実施形態のシリカコンポジット粒子と、先に説明した実施形態のシリカコンポジット粒子の双方を包含する。また、本実施形態のシリカコンポジット粒子に関し、特に説明しない点については、先の実施形態のシリカコンポジット粒子に関して詳述した説明が適宜適用される。
【0064】
本発明のシリカコンポジット粒子分散液は、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子が、分散溶媒に分散されているシリカコンポジット分散液である。
【0065】
本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、種々の分散溶媒に対して高い分散性を示す。そのため、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子を分散溶媒に分散させて得られる分散液、すなわち、本発明のシリカコンポジット粒子分散液では、シリカコンポジット粒子が凝集せずに分散しているので、目視において固形物が観察されない。
【0066】
本発明のシリカコンポジット粒子分散液に係る分散溶媒としては、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子に不活性で、均一分散可能なものであれば特に制限はなく、水又は有機溶媒のいずれでもよく、また、有機溶媒としては、極性有機溶媒又は非極性有機溶媒のいずれでもよい。本発明のシリカコンポジット粒子分散液に係る有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、特に本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、水、メタノール、ジクロロメタンに対して極めて高い分散性を示す。
【0067】
また、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子に係る表面処理工程を行い得られる反応液は、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子を含有する反応液なので、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子に係る表面処理工程を行い得られる反応液、あるいは、該反応液の分散溶媒による希釈液は、本発明のシリカコンポジット粒子分散液である。
すなわち、前記平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子、アルコキシシラン、イオン性液体及び反応溶媒を含む反応原料液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解することにより得られた反応液、又はこの反応液を分散溶媒で希釈した希釈液も、本発明のシリカコンポジット粒子分散液である。
【0068】
本発明のシリカコンポジット分散液中、シリカコンポジット粒子の濃度は、用途や使用方法等を考慮して適宜調整すればよく特に制限されるものではなく、多くの場合、0.1〜90重量%である。
【0069】
また、本発明のシリカコンポジット粒子分散液には、更にイオン性液体を添加して、イオン性液体を含有させることができる。そして、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、追加添加されたイオン性液体を、分散溶媒に分散させる分散剤としても機能するので、イオン性液体が更に添加された本発明のシリカコンポジット粒子分散液では、追加添加されたイオン性液体が微細かつ均一に分散されている。つまり、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子及び本発明のシリカコンポジット粒子分散液は、追加添加されたイオン性液体を、種々の分散溶媒に対して微細かつ均一に分散性させることができる。
【0070】
本発明のシリカコンポジット粒子分散液に、更に追加添加するイオン性液体としては、公知のものを使用することができ、特に制限されるものではない。追加添加するイオン性液体としては、例えば、イミダゾリウム化合物、4級アンモニウム化合物、ピリジニウム化合物、ホスホニウム化合物が挙げられ、また、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体であってもよい。追加添加するイオン性液体の添加量は、本発明のシリカコンポジット粒子分散液の分散溶媒に分散可能な範囲の添加量であれば特に制限されるものではない。
【0071】
本発明の樹脂組成物は、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子を含有する。言い換えると、本発明の樹脂組成物は、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子が、樹脂材料に分散されている。そして、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、微細でありかつ樹脂材料への分散性が高いので、本発明の樹脂組成物は、シリカコンポジット粒子が微細でかつ均一に分散された樹脂組成物である。また、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体を含有するので、本発明の樹脂組成物は、イオン性液体が、微細かつ均一に分散された樹脂組成物である。
【0072】
本発明の樹脂組成物において、粉末状のシリカコンポジット粒子を分散させる樹脂材料としては、特に限定はなく、ゴムの組成物として用いる場合には、例えば天然ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム(SBR)、アクロニトリル−ブタジエン系ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン−プロピレン系ゴム(EPPM)、クロロブチレンゴム(CR)、ポリイソブチレンゴム、アルリルゴム、水素化アクロニトリル−ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ウレタンゴム、クリリスルホン化ゴム、シリコーンゴム及びこれらの変性物等が挙げられ、これらは、2種以上のブレンドゴムであってもよい。また、その他シート、フィルム、容器、繊維等の樹脂成型品を得る場合にマトリックスとなる樹脂類としては、例えばポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、熱可塑性アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリールフタレート樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性樹脂、アルキド樹脂、メラニン樹脂、グアナジン樹脂、ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミン樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ウレタン樹脂、ケイ素樹脂、含フッ素樹脂及びそれらの変性物等が挙げられる。
【0073】
本発明の樹脂組成物中、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子の含有量は、通常0.01〜50重量%、好ましくは0.5〜40重量%である。
【0074】
また、本発明の樹脂組成物は、他の成分として、ホワイトカーボン、カーボンブラック、ゼオライト、炭酸カルシウム、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム等の無機質充填剤、ハイスチレン樹脂、リグニン、フェノール樹脂等の有機質充填剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、体質顔料、分散助剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、軟化剤、老化防止剤、可塑剤等を含有することができる。
【0075】
本発明の樹脂組成物は、例えば、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子と、所望の樹脂材料とを混合し、溶融ブレンド等することにより、樹脂材料に本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子を分散させて製造される。また、本発明の樹脂組成物は、例えば、所望の樹脂材料を溶媒に溶解させた樹脂溶液に、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子又は本発明のシリカコンポジット分散液を添加し、混合した後、例えば、フィルム状等所望の形状に成形し、乾燥して、溶媒を蒸発除去することにより製造される。
【0076】
また、本発明の樹脂組成物には、樹脂材料に本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子を分散させる際に、シリカコンポジット粒子と共に、更にイオン性液体を添加して、それらを樹脂材料に分散させることにより、イオン性液体を含有させることができる。そして、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、追加添加されたイオン性液体を、樹脂材料に均一に分散させることができるので、追加添加されたイオン性液体を含有する本発明の樹脂組成物では、追加添加されたイオン性液体が均一に分散されている。つまり、本発明の樹脂組成物は、追加添加されたイオン性液体を微細に分散された状態で含有する。
【0077】
本発明の樹脂組成物に係る更に追加添加するイオン性液体としては、公知のものを使用することができ、特に制限されるものではない。追加添加するイオン性液体としては、例えば、イミダゾリウム化合物、4級アンモニウム化合物、ピリジニウム化合物、ホスホニウム化合物が挙げられ、また、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体であってもよい。追加添加するイオン性液体の添加量は、本発明の樹脂組成物に分散可能な範囲の添加量であれば特に制限されるものではない。
【0078】
本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子の製造方法は、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子に係る表面処理工程を有する。また、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子の製造方法は、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子に係る表面処理工程及び溶媒蒸発除去工程を有する。
【0079】
イオン液体を、液体のまま、種々の溶媒又は樹脂材料に、全体的に均一に分散させることは困難なので、イオン液体を、液体のまま分散させると、分散ムラが生じ易い。また、イオン液体は、種々の分散溶媒又は樹脂材料中で、液滴の状態で分散されるが、液滴の粒径を小さくすることは困難なので、イオン液体一滴当りの体積が大きくなる。そのために、イオン液体が、液体のまま分散されている分散溶媒又は樹脂材料を、小さい単位で局部観察をした場合、イオン液体の存在量のムラが大きい。つまり、イオン液体を液体のまま、種々の分散溶媒又は樹脂材料に分散させると、全体観察及び局部観察のいずれにおいても、分散ムラが大きくなってしまう。
【0080】
一方、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子を、種々の分散溶媒又は樹脂材料に分散させる場合は、固体であるコアシリカ粒子を担体として用いて、イオン液体である前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体を分散させることになるので、イオン液体を液体のまま分散させる場合に比べ、分散させ易い。そのため、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、種々の分散溶媒又は樹脂材料全体へのイオン液体の分散性が高い。また、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、5〜200nm、好ましくは5〜60nmと極めて微細であるため、小さい単位で観察した場合、イオン液体を液体のまま分散させる場合に比べ、イオン液体が微細かつ均一に分散している。すなわち、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子によれば、全体観察及び局部観察のいずれにおいても、分散ムラが小さく、イオン液体の微細かつ均一な分散が可能となる。
【0081】
また、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、追加添加したイオン性液体を、分散溶媒又は樹脂材料に、微細かつ均一に分散させることができるので、本発明によれば、種々のイオン性液体が、分散溶媒に微細かつ均一に分散された分散液、及び種々のイオン性液体が、樹脂材料に微細かつ均一に分散された樹脂組成物を提供できる。
【0082】
また、ホスホニウム塩は、帯電防止性、抗菌性等を有しているので、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子によれば、帯電防止性、抗菌性、耐熱性、触媒活性等の種々の機能を有する機能性材料を製造することができる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
(合成例1)
1Lの3つ口フラスコに、ジアセトンアクリルアミド69.3g(0.41mol)及びAK−225を500ml仕込み、更に、室温で、ペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイルペルオキシド([C37−O−CF(CF3)−CO−O−]2)の10%AK−225溶液を334g(ペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイルペルオキシド0.05mol)仕込んだ。その後、撹拌しながら45℃まで昇温し、5時間熟成後、撹拌を止めて、一晩静置した。静置後、濃縮し、AK−225を用いて洗浄し、ろ過を行い、50℃で真空乾燥して、一般式(2)に包含されるフルオロアルキル基含有オリゴマー(略称;RF−DOBAA)を得た。その結果を表1に示す。なお、AK−225は、旭硝子社製の不燃性フッ素系溶剤であり、その構造式はCF3CF2CHCl2/CClF2CF2CHClFで表される。
【0085】
【表1】

【0086】
*表1中、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)による数平均分子量である。
【0087】
トリメトキシビニルシラン(2.3g)を過酸化ペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイル(5.1g)を含むAK−225溶液150gに加え、窒素雰囲気下で45oCにて5時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を除去し、次いで蒸留を行うことにより、目的とする一般式(3)に包含されるフルオロアルキル基含有オリゴマー(略称;RF−VMオリゴマー)3.0gを得た。その結果を表2に示す。なお、AK−225は、旭硝子社製の不燃性フッ素系溶剤であり、その構造式はCF3CF2CHCl2/CClF2CF2CHClFで表される。
【0088】
【表2】

【0089】
(ホスホニウム塩系イオン性液体)
表3に、用いたホスホニウム塩系イオン性液体を示す。
【0090】
【表3】

【0091】
*表3中、ホスホニウム塩試料として、日本化学工業社製のものを用いた。
【0092】
(コアシリカ粒子)
コアシリカ源として、シリカゾル(30重量%メタノール溶液、日産化学工業社製、平均粒径11nm)を用いた。
【0093】
(実施例1〜4)
50mlのサンプル瓶に、メタノール20mlを入れ、次いで表4に示す添加量でホスホニウム塩試料A、前記シリカゾル3.33g(SiO2の含有量が1.0g)、及びテトラエトキシシラン(東京化成工業社製)0.5mlを入れ攪拌混合した。次いで、十分に攪拌混合しながら室温下(25℃)に表4に示す添加量で25重量%アンモニア水を添加した。次に室温(25℃)で5時間攪拌し反応を行って透明な反応液を得た。反応終了後、反応液を減圧下に50℃で蒸留し溶媒を除去し、残渣として固形分を得た。
該固形物をIRで分析した結果、1465cm-1及び1412cm-1付近、更には2900cm-1付近にホスホニウム塩に起因するピークが観察された。
なお、反応液を遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理しても、目視にて沈殿物は観察されなかった。反応液の状態及び反応収率を表5に示す。
【0094】
(実施例5〜8)
50mlのサンプル瓶に、メタノール20mlを入れ、次いで表4に示す添加量でホスホニウム塩試料A、合成例1で調製したRF−DOBAAオリゴマー、前記シリカゾル3.33g(SiO2の含有量が1.0g)、及びテトラエトキシシラン(東京化成工業社製)0.5mlを入れ攪拌混合した。次いで、十分に攪拌混合しながら室温下(25℃)に表3に示す添加量で25重量%アンモニア水を添加した。次に室温(25℃)で5時間攪拌し反応を行って透明な反応液を得た。反応終了後、反応液を減圧下に50℃で蒸留し溶媒を除去し、残渣として固形分を得た。
該固形物をIRで分析した結果、1465cm-1及び1412cm-1付近、更には2900cm-1付近にホスホニウム塩に起因するピークが観察された。また、1715cm-1及び1654cm-1付近にRF−DOBAAオリゴマー中のアミド基に起因するピークが観察された。
なお、反応液を遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理しても、目視にて沈殿物は観察されなかった。反応液の状態及び反応収率を表5に示す。
【0095】
(実施例9〜11)
50mlのサンプル瓶に、メタノール20mlを入れ、次いで表4に示す添加量でホスホニウム塩試料A、合成例2で調製したRF−VMオリゴマー、前記シリカゾル3.33g(SiO2の含有量が1.0g)、及びテトラエトキシシラン(東京化成工業社製)0.5mlを入れ攪拌混合した。次いで、十分に攪拌混合しながら室温下(25℃)で25重量%アンモニア水を5.0ml添加した。次に室温(25℃)で5時間攪拌し反応を行って透明な反応液を得た。反応終了後、反応液を減圧下に50℃で蒸留し溶媒を除去し、残渣として固形分を得た。
該固形物をIRで分析した結果、1465cm-1及び1412cm-1付近、更には2900cm-1付近にホスホニウム塩に起因するピークが観察された。
なお、反応液を遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理しても、目視にて沈殿物は観察されなかった。反応液の状態及び反応収率を表5に示す。
【0096】
(比較例1)
50mlのサンプル瓶に、メタノール20mlを入れ、次いで、ホスホニウム塩試料B0.5ml、前記RF−DOBAAオリゴマー0.5g、前記シリカゾル3.33g、及びテトラエトキシシラン2.3mlを入れ、撹拌混合した。次いで、十分に撹拌しながら、25%アンモニア水0.5mlを加え、一晩撹拌して懸濁した反応液を得た。
反応終了後、反応液を減圧下に50℃で蒸留し溶媒を除去し、残渣として固形分を得た。次いで、得られた固形分にメタノールを入れ、一晩撹拌して、固形分を分散させた後、遠心分離を行った。得られた固形分を、メタノールに加え、一晩分散させた後、遠心分離を行うという操作を2回繰り返し、精製を行った。精製後の固形分を、減圧デシケーター内で真空乾燥させ、粉末状のシリカコンポジット粒子を得た。
該固形物をIRで分析した結果、1465cm-1及び1412cm-1付近、更には2900cm-1付近にホスホニウム塩に起因するピークが観察された。また、1715cm-1及び1654cm-1付近にRF−DOBAAオリゴマー中のアミド基に起因するピークが観察された。
なお、反応液を遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理した結果、目視にて沈殿物が観察された。反応液の状態及び反応収率を表5に示す。
【0097】
【表4】

【0098】
【表5】

【0099】
(シリカコンポジット粒子の物性評価)
実施例1〜11で得られた粉末状のシリカコンポジット粒子についてTGA測定を行い、TGAカーブから、リン原子含有量、フッ素原子含有量を求めた。その結果を表6に示す。また、TGA曲線を図1〜6に示す。また、図1〜6には、無処理のシリカゾルを比較例2として測定対象とした、TGA測定の結果も併記した。更に、図1〜4には、RF−DOBAA単独を対象としたTGA測定の結果も併記した。ただし、実施例9〜11については、TGAに基づくリン原子含有量及びフッ素原子含有量は算出しなかった。これらのTGA測定とは別に、粉末状のシリカコンポジット粒子のリン含有量を、ICP発光分析計を用いて測定し、またフッ素原子の含有量を、元素分析計で測定した。この結果も併せて表6に示す。
なお、本発明の各実施例で得られた粉末状のシリカコンポジット粒子は反応液から溶媒を蒸発除去し、残った残渣を回収したものであるので、理論量のリン原子量とフッ素原子量が、そのまま実施例で得られたシリカコンポジット粒子中に含まれる全リン原子量とフッ素原子量となる。
また、粉末状のシリカコンポジット粒子の平均粒径を、メタノールに再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した。その結果を表6に示す。
【0100】
【表6】

【0101】
表6に示すように、実施例5及び6のフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有するシリカコンポジット粒子において、フッ素原子含有量については、TGAカーブから算出されるフッ素原子含有量と、理論値とは良い一致を示しているものの、TGAカーブから算出されるホスホニウム塩系イオン性液体に由来するリン含有量と理論値とは、大きく異なっている。これは、これらシリカコンポジット粒子中においては、ホスホニウム塩系イオン性液体がフルオロアルキル基含有オリゴマーに比べ、アルコキシシランの加水分解物であるポリシロキサン化合物からなるシリカマトリックス内へ効率よくカプセル化されやすいためと思われる。実施例4及び8を参照すると、最大で27重量%(リン原子換算2.08重量%に相当)のホスホニウム塩系イオン性液体をシリカのマトリックス内へカプセル化でき、これ以外のホスホニウム塩液イオン性液体は、20重量%(リン原子換算1.54重量%)に相当する明確な熱重量減少を示すことから、20重量%程度はマトリック系外へ容易にリリースすることができる。一方で27重量%に相当するホスホニウム塩系イオン性液体はシリカマトリックス中へ強固にカプセル化され熱減少を示さないことが示唆される。FT−IR分析からホスホニウム塩系イオン性液体に起因した2900cm-1付近の吸収が観測されることから、シリカマトリックス内へ吸着されないフリーなホスホニウム塩系イオン性液体が存在することが示唆される。
【0102】
また、実施例9〜11で得られたフルオロアルキル基含有オリゴマーを含むシリカコンポジット粒子においては、TGA測定より、シリカコンポジット粒子中におけるRF−VMオリゴマーおよびホスホニウム塩液イオン性液体の含有量は、総計で10〜60%であることがわかった。
【0103】
また、フルオロアルキル基含有オリゴマーを含むシリカコンポジット粒子のFT−IRスペクトルにおいては、フルオロアルキル基含有オリゴマー、更にはホスホニウム塩系イオン性液体に起因した吸収がそれぞれ1700cm-1付近更には2900cm-1付近に観測されている。更に理論量に近いフルオロアルキル基の熱重量減少が見られることから、シリカマトリックスは、フルオロアルキル基含有オリゴマーよりも、ホスホニウム塩系イオン性液体と効率よく相互作用し、熱重量減少できないホスホニウム塩系イオン性液体をシリカマトリックス内に取り込んでいるものと思われる。
【0104】
(分散性の評価)
(1)実施例1〜8及び比較例1で得られた粉末状のシリカコンポジット粒子の各種分散溶媒に対する分散性を試験した。その結果を表7に示す。なお、評価は分散溶媒5mlに粉末状のシリカコンポジット粒子0.01gを添加し、分散状態を目視で観測して評価した。また、比較例2(無処理のシリカゾル)についても同様に分散性試験を行い、その結果を併記した。
表中の記号は、以下のことを示す。
◎:分散性が良好で、目視にて固形物が観察されなかった。
○:分散性が良好で、白懸した液が得られた。
△:分散した。
×:分散しなかった。
【0105】
【表7】

【0106】
1)AK−225:CF3CF2CHCl2とCClF2CF2CHClFの重量比で1:1の混合溶液、THF:テトラヒドロフラン、ジクロロエタン:1,2−ジクロロエタン(CH2ClCH2Cl)
【0107】
表7の結果より、無処理のシリカナノ粒子(比較例2)が種々の分散溶媒中において、分散性を示さないのに対して、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、種々の分散溶媒中において極めて高い分散性を示すことが分かる。また、本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子は、特にメタノール、水、及び1,2−ジクロロエタン中において著しい分散安定性を示し、目視にて固形物が観察されない分散液が得られた。
【0108】
(2)種々の分散溶媒の屈折率と、これら一連のシリカコンポジット粒子分散液(実施例4及び8)の濁度との関係をUV−visスペクトルを用いて検討を行った、その結果を図7に示す。
【0109】
図7に示すように、これら一連のシリカコンポジット粒子においては、メタノール及び水中においてその濁度が最小値をとり、1,2−ジクロロメタン中においても、その濁度が低下する傾向が得られた。これは、シリカコンポジット粒子は有機性が高く、更にはシリカコンポジット粒子の屈折率と分散溶媒の屈折率とが類似することによるものと思われる。そこでこの図7に示した関係から、シリカコンポジット粒子の屈折率は1.33付近であることが推定される。
【0110】
(樹脂組成物)
(実施例12〜14)
水8mlにポリビニルアルコールを溶かし、これに実施例2、6及び8で得られた粉末状のシリカコンポジット粒子をメタノールに分散させた分散液を添加し、ポリビニルアルコール0.7重量部に対してシリカコンポジット粒子を0.3重量部含有する樹脂溶液を調製した。次いで、シャーレにこれら樹脂溶液を加え、2日間室温下(25℃)で自然乾燥、更には1晩真空乾燥し、キャストフィルムを作製した。調製した樹脂溶液の樹脂組成を表8に示す。また、得られたポリビニルアルコールフィルムの表面及び裏面のドデカンの接触角及び導電率を室温下(25℃)で測定した。その結果を表9に示す。接触角は、協和界面科学製のDrop Master 300を使用して測定した。導電率は、Agilent Technology製の4339Bを使用して測定した。
【0111】
(実施例15〜18)
水8mlにポリビニルアルコール(PVA)0.4gを溶かし、これに実施例2、4、6及び8で得られた粉末状のシリカコンポジット粒子をメタノールに分散させた分散液を添加し、更にこの樹脂溶液にホスホニウム塩試料Aを0.3g添加し、ポリビニルアルコール0.4重量部に対してシリカコンポジット粒子とホスホニウム塩試料Aの総量で0.6重量部含有し、シリカコンポジット粒子0.3重量部とホスホニウム塩試料Aを0.3重量部含有する樹脂溶液を調製した。次いで、シャーレにこれら樹脂溶液を加え、2日間室温下(25℃)で自然乾燥、更には1晩真空乾燥し、キャストフィルムを作製した。調製した樹脂溶液の樹脂組成を表8に示す。また、得られたポリビニルアルコールフィルムの表面及び裏面のドデカンの接触角及び導電率を室温下(25℃)で測定した。その結果を表9に示す。
【0112】
【表8】

【0113】
【表9】

【0114】
実施例12、13及び14において、フルオロアルキル基含有オリゴマーを含有するシリカコンポジット粒子(実施例13及び14)の場合、ドデカンの接触角の値は裏面に比べて表面において大きくなることが分かる。更に、ホスホニウム塩系イオン性液体を後で添加した実施例15〜18においても、フルオロアルキル基含有オリゴマーを含有するシリカコンポジット粒子(実施例17及び18)の場合、ドデカンの接触角の値は裏面に比べて表面において大きくなることが分かる。したがって、ポリビニルアルコールフィルム表面にシリカコンポジット粒子が効率よく分散していることが分かる。また、実施例で調製したポリビニルアルコールフィルムを、文字が書かれた白色紙の上において、そのフィルの透明性について観察した結果、本発明のシリカコンポジット粒子を添加していない無処理のものと比べ、本発明のシリカコンポジット粒子を含有させたものは透明性が維持され、粉末状シリカコンポジット粒子が均一に樹脂中に分散していることが確認できた。
【0115】
また、実施例12〜14において、フルオロアルキル基含有オリゴマーの添加の有無にかかわらず、ポリビニルアルコールフィルムの導電率は、シリカコンポジット粒子を添加しないポリビニルアルコールフィルム(導電率:2.8×10-12S/m)と大きな差は見られなかった。これに対して、ホスホニウム塩系イオン性液体を後で添加した実施例15〜18では、ポリビニルアルコールフィルムに高い導電性を付与することができることが分かる。特にフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有するシリカコンポジット粒子を用いた実施例17及び18では導電性が著しく向上することが分かる。また、この結果より、後で添加したホスホニウム塩系イオン性液体もポリビニルアルコールフィルム中に微細かつ均一に分散していることが分かる。
【0116】
(実施例19)
テトラエトキシシランを使用しなかった以外は、実施例10と同様にして、固形分(粉末状のシリカコンポジット粒子)を得た。
該固形分をIRで分析した結果、1465cm-1及び1412cm-1付近、更には2900cm-1付近にホスホニウム塩に起因するピークが観察された。
なお、反応液を遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理しても、目視にて沈殿物は観察されなかった。
また、得られた粉末状のシリカコンポジット粒子の平均粒径を、メタノールに再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した。
反応液の状態、反応収率及び平均粒径の測定結果を表10に示す。
また、図8に、得られた粉末状のシリカコンポジット粒子のTGA測定結果を示す。TGA測定値とは別に、粉末状のシリカコンポジット粒子のリン含有量を、ICP発光分析計を用いて測定し、またフッ素原子の含有量を、元素分析計で測定した。これらの結果を表10に示す。
【0117】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の粉末状のシリカコンポジット粒子、シリカコンポジット粒子分散液及び樹脂組成物によれば、イオン性液体が微細かつ均一に分散された分散液及び樹脂組成物を、工業的に有利な方法で、かつ高収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】実施例1及び5で得られたシリカコンポジット粒子と、無処理のシリカ粒子(比較例2)の熱重量分析の結果である。
【図2】実施例2及び6で得られたシリカコンポジット粒子と、無処理のシリカ粒子(比較例2)の熱重量分析の結果である。
【図3】実施例3及び7で得られたシリカコンポジット粒子と、無処理のシリカ粒子(比較例2)の熱重量分析の結果である。
【図4】実施例4及び8で得られたシリカコンポジット粒子と、無処理のシリカ粒子(比較例2)の熱重量分析の結果である。
【図5】実施例9及び11で得られたシリカコンポジット粒子の熱重量分析の結果である。
【図6】実施例10で得られたシリカコンポジット粒子の熱重量分析の結果である。
【図7】実施例4及び8で得られたシリカコンポジット粒子と、無処理のシリカ粒子(比較例2)を含む分散液と濁度の関係を示す図である。
【図8】実施例19で得られたシリカコンポジット粒子の熱重量分析の結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子、アルコキシシラン、下記一般式(1):
【化1】

(式中、R1、R2及びR3は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。R4は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
で表されるホスホニウム塩系イオン性液体、及び反応溶媒を含む反応原料液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解することにより、該コアシリカ粒子の表面処理を行う表面処理工程を行い得られるシリカコンポジット粒子であることを特徴とする粉末状のシリカコンポジット粒子。
【請求項2】
シリカコンポジット粒子中の前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の含有量が、P原子として1重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の粉末状のシリカコンポジット粒子。
【請求項3】
前記シリカコンポジット粒子が、平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子、アルコキシシラン、前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体、及び反応溶媒を含む反応原料液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解し、得られた反応液から該反応溶媒を蒸発除去することにより得られるシリカコンポジット粒子であることを特徴とする請求項1記載の粉末状のシリカコンポジット粒子。
【請求項4】
前記反応液が、該反応液を遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理したときに、沈殿物が観察されないものであることを特徴とする請求項3記載の粉末状のシリカコンポジット粒子。
【請求項5】
前記反応溶媒がメタノールであることを特徴とする請求項3記載の粉末状のシリカコンポジット粒子。
【請求項6】
前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体のR1、R2及びR3がn−ブチル基、R4がメチル基であり、nが3であることを特徴とする請求項1記載の粉末状のシリカコンポジット粒子。
【請求項7】
前記反応原料液が、更に、下記一般式(2)又は(3):
【化2】

【化3】

(式中、R5及びR6は、−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基を示し、R5及びR6は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R5及びR6中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Zは、水酸基、モルホリノ基、3級アミノ基又は2級アミノ基を示す。R7、R8及びR9は同一の基であっても異なる基であってもよく、R7、R8及びR9は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは5〜1000の整数である。)
で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有することを特徴とする請求項1記載の粉末状のシリカコンポジット粒子。
【請求項8】
平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子、下記一般式(1):
【化4】

(式中、R1、R2及びR3は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。R4は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
で表されるホスホニウム塩系イオン性液体、及び溶媒を含む原料液に、酸又はアルカリを加えることにより、該コアシリカ粒子の表面処理を行う表面処理工程を行い得られるシリカコンポジット粒子であることを特徴とする粉末状のシリカコンポジット粒子。
【請求項9】
平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子、アルコキシシラン、下記一般式(1):
【化5】

(式中、R1、R2及びR3は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。R4は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
で表されるホスホニウム塩、及び反応溶媒を含む反応原料液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解することにより、該コアシリカ粒子の表面処理を行う表面処理工程を有することを特徴とする粉末状のシリカコンポジット粒子の製造方法。
【請求項10】
前記表面処理工程で得られた反応液からのシリカコンポジット粒子の回収を、該反応液から、前記反応溶媒を蒸発させることにより除去し、シリカコンポジット粒子を得る溶媒蒸発除去工程により行うことを特徴とする請求項9記載の粉末状のシリカコンポジット粒子の製造方法。
【請求項11】
前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン性液体の添加量が、前記コアシリカ粒子1gに対して0.03ml以上であることを特徴とする請求項9記載の粉末状のシリカコンポジット粒子の製造方法。
【請求項12】
前記反応原料液が、更に、下記一般式(2)又は(3):
【化6】

【化7】

(式中、R5及びR6は、−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基を示し、R5及びR6は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R5及びR6中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Zは、水酸基、モルホリノ基、3級アミノ基又は2級アミノ基を示す。R7、R8及びR9は同一の基であっても異なる基であってもよく、R7、R8及びR9は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは5〜1000の整数である。)
で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有することを特徴とする請求項9ないし11のいずれか一項記載の粉末状のシリカコンポジット粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし7のいずれか一項記載の粉末状のシリカコンポジット粒子が、分散溶媒に分散されていることを特徴とするシリカコンポジット粒子分散液。
【請求項14】
前記シリカコンポジット粒子分散液が、平均粒径が5〜200nmのコアシリカ粒子、アルコキシシラン、下記一般式(1):
【化8】

(式中、R1、R2及びR3は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。R4は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。nは1〜8の整数を示す。Xはアニオン基を示す。)
で表されるホスホニウム塩系イオン性液体、及び反応溶媒を含む反応原料液に、酸又はアルカリを加えて、該アルコキシシランを加水分解することにより得られた反応液、又は該反応液の希釈液であることを特徴とする請求項13記載のシリカコンポジット粒子分散液。
【請求項15】
前記反応原料液が、更に、下記一般式(2)又は(3):
【化9】

【化10】

(式中、R5及びR6は、−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC37基を示し、R5及びR6は、同一の基であっても異なる基であってもよく、R5及びR6中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Zは、水酸基、モルホリノ基、3級アミノ基又は2級アミノ基を示す。R7、R8及びR9は同一の基であっても異なる基であってもよく、R7、R8及びR9は炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは5〜1000の整数である。)
で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有することを特徴とする請求項14記載のシリカコンポジット粒子分散液。
【請求項16】
前記反応液が、該反応液を遠心加速度800Gで30分間遠心分離処理したときに、沈殿物が観察されないものであることを特徴とする請求項14記載のシリカコンポジット粒子分散液。
【請求項17】
更に、イオン性液体が添加されていることを特徴とする請求項13記載のシリカコンポジット粒子分散液。
【請求項18】
請求項1ないし7のいずれか一項記載の粉末状のシリカコンポジット粒子を含有することを特徴とする樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−209349(P2009−209349A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211294(P2008−211294)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】