説明

粉末状のチアミンラウリル硫酸塩組成物およびその製造方法

【課題】 本発明は、広範囲の様々な用途で安定して使えて、使い易いチアミンラウリル硫酸塩製剤すなわち溶剤臭がなく、泡消えが早いと共に、塩類を含む低温の液状製品に対して用いても、また適用製品中のチアミンラウリル硫酸塩濃度を高めても結晶を析出することなく安定して溶解し、かつ保存安定性に優れたチアミンラウリル硫酸塩製剤の提供を目的とする。
【解決手段】 上記の課題は、チアミンラウリル硫酸塩と環状オリゴ糖との包接複合体であり、前記環状オリゴ糖はα型およびβ型シクロデキストリンの中から選ばれる一つ以上のシクロデキストリンとマルトシル型シクロデキストリンとの組み合わせである粉末状のチアミンラウリル硫酸塩組成物により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チアミンラウリル硫酸塩組成物およびその製造方法に関し、さらに詳しくはシクロデキストリンの包接作用により水への溶解度が高められた粉末状チアミンラウリル硫酸塩組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チアミンラウリル硫酸塩(以下TLSと略す)は、ビタミンB1としての生理活性に加えて抗菌作用を有することが知られており、栄養強化剤としての利用の他に日持向上剤として、減塩化の流れに伴い食品の日持ちの低下が問題となっている食品業界において特に注目されている物質である。しかしながら、チアミンラウリル硫酸塩は酢酸やエタノール等の有機溶媒にはよく溶けるが、難水溶性であり、水への溶解度は温度25℃で0.02%程度と極めて小さい。そのため、安全性と抗菌性の点では優れているにも関わらず、チアミンラウリル硫酸塩の利用分野とその使用濃度は限られているのが現状である。
【0003】
これまでに、かかるチアミンラウリル硫酸塩を水に溶け易くするための様々な工夫がなされてきた。
チアミンラウリル硫酸塩は20%以上の高濃度のエチルアルコール水溶液や酢酸水溶液には比較的良く溶けることから、これらを使った食品用殺菌剤組成物が開発され提案されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、界面活性剤の働きによりチアミンラウリル硫酸塩を水に可溶化させた、液状食品等の液状物に添加した際にも実質的に結晶が析出することのないチアミンラウリル硫酸塩の水性液剤(例えば、特許文献2参照)や、チアミンラウリル硫酸塩をマルトシル型シクロデキストリンの存在下で水に溶解させた食品保存用水溶液組成物(例えば、特許文献3参照)なども提案されている。
【特許文献1】 特開2005−97171号 公報
【特許文献2】 特開2004−210749号 公報
【特許文献3】 特開平11−253142号 公報
【0004】
しかしながら、チアミンラウリル硫酸塩をエチルアルコールや酢酸などの有機溶剤に溶解した食品用殺菌剤組成物には、それを食品などに殺菌剤として用いた時に溶剤臭の問題があり、界面活性剤によりチアミンラウリル硫酸塩を可溶化した水性液剤でも、それを液状食品などに添加した際の泡立ちや泡消えの悪さが問題となる。さらに、特許文献3の食品保存用水溶液組成物は、水溶液であるので組成物中の有効成分、すなわちチアミンラウリル硫酸塩の濃度を高めるには限度がある。
【0005】
さらに、近年、加工食品のほとんどが10℃以下のチルド流通システムで配送・販売・消費がなされていることから、濃度10%程度の塩類を含む低温の食品に適用しても抗菌性を発揮でき、結晶を析出することのない優れた溶解安定性を有するチアミンラウリル硫酸塩製剤が強く求められている状況がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者等は、広範囲の様々な用途で安定して使えて、使い易いチアミンラウリル硫酸塩製剤、すなわち溶剤臭がなく、泡消えが早いと共に、塩類を含む低温の液状製品に対して用いても、また適用製品中のチアミンラウリル硫酸塩濃度を高めても結晶を析出することなく安定して溶解し、かつ保存安定性に優れたチアミンラウリル硫酸塩製剤について様々な可能性を求めて鋭意研究を行った。
【0007】
その結果、従来技術に使われているエチルアルコール、酢酸および界面活性剤に替えて、澱粉系食品素材である環状オリゴ糖すなわちシクロデキストリン(以下CDと略す)を用い、かつ物理化学的性質が異なる少なくとも二種類のシクロデキストリンを組み合わせることで、水難溶性チアミンラウリル硫酸塩とシクロデキストリンとから水溶性に優れた包接複合体が得られること、さらに得られた包接複合体を乾燥して粉末化にすることで有効成分であるチアミンラウリル硫酸塩の含有濃度が高くかつ極めて保存安定性の良い商品形態のチアミンラウリル硫酸塩製剤が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
さらに付言すれば、前記二種類のシクロデキストリンの一方は特許文献3でその可溶化作用が証明されたマルトシル型シクロデキストリンであるが、他方は可溶化作用が否定されたα型およびβ型シクロデキストリンである。このような先行技術の結論からは予想し難いことに、本発明によるシクロデキストリンの組み合わせ使用は、それぞれの単独使用のケースよりも適用製品中のチアミンラウリル硫酸塩濃度を高めることができ、相乗効果の可能性が示唆される結果が得られた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の第1の課題解決手段は、チアミンラウリル硫酸塩と環状オリゴ糖との包接複合体であって、前記環状オリゴ糖はα型およびβ型シクロデキストリンの中から選ばれる一つ以上のシクロデキストリンとマルトシル型シクロデキストリンとの組み合わせからなる粉末状のチアミンラウリル硫酸塩組成物であり、第2の課題解決手段はチアミンラウリル硫酸塩に対する環状オリゴ糖の重量比が7〜15倍であり、かつ環状オリゴ糖に占めるα型およびβ型シクロデキストリンの中から選ばれる一つ以上のシクロデキストリンの重量割合が5〜40%の範囲のものである。
【0009】
さらに、第3の課題解決手段はチアミンラウリル硫酸塩と、α型およびβ型シクロデキストリンの中から選ばれる一つ以上のシクロデキストリンと、マルトシル型シクロデキストリンとを水溶媒に溶解混合させる第1の工程と、第1の工程で得られた水溶液から水分を除去して固形分を回収する第2の工程からなる粉末状のチアミンラウリル硫酸塩組成物の製造方法であり、第4の課題解決手段は第1の工程における溶解混合をチアミンラウリル硫酸塩のクラフトポイント以上の水溶液温度で行うものである。
【発明の効果】
【0010】
少なくとも二種類のシクロデキストリンを組み合わせて難水溶性のチアミンラウリル硫酸塩を可溶化した本発明の製剤は、それを食品等の適用製品に添加した際に、溶剤臭や泡消えの悪さといった問題がなく、加えて適用製品中のチアミンラウリル硫酸塩濃度を高めても結晶等の未溶解物を析出することなく安定して溶解する。さらに本発明の製剤は、粉体形状であるので、長期保存が可能で、かつ有効成分であるチアミンラウリル硫酸塩を高濃度に含有した形で提供できる。したがって、本発明の製剤は安定して使えて、使い易いチアミンラウリル硫酸塩含有製剤であり、その特性を生かして、醤油、味噌、ソースなどに代表される食品の他にも、ローション等の液状化粧品、目薬等の医薬品、健康食品、農薬といった広範囲な分野で好適に使用され得る。
【発明の実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で使用されるチアミンラウリル硫酸塩は、ビタミンB1誘導体の一種であり、ビタミンB1(チアミン)にラウリル硫酸がモル比1:2の比率で結合した化合物である。田辺製薬(株)の登録商標名「ビタゲンAS5号」などの市販品が好適に使用できる。
【0012】
本発明では、シクロデキストリン(以下CDと略す)とその誘導体とを総称して環状オリゴ糖という。
シクロデキストリンは、ブドウ糖単位がα−1,4グルコシド結合にて6個以上環状に連なった非還元性のマルトオリゴ糖で、分子内に空洞を有するものである。トウモロコシや馬鈴薯澱粉などを原料として、これに微生物系酵素などを作用させて作られ、結合するブドウ糖単位が6個のものはα型シクロデキストリン(以下α−CDと略す)、7個のものはβ型シクロデキストリン(以下β−CDと略す)、8個のものはγ型シクロデキストリン(以下γ−CDと略す)と称され、これら3種類が工業的に利用可能である。
【0013】
シクロデキストリン誘導体としては、マルトースを付加したマルトシル型シクロデキストリン(以下M−CDと略す)に代表される酵素修飾シクロデキストリンと、メチル化シクロデキストリン、ヒドロキシエチル化シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル化シクロデキストリン、アセチル化シクロデキストリン、モノクロロトリアジノ化シクロデキストリン、アミノ化シクロデキストリンなどに代表される化学修飾シクロデキストリンとが知られている。
【0014】
本発明のチアミンラウリル硫酸塩組成物を構成する環状オリゴ糖は、α型およびβ型シクロデキストリンの中から選ばれる一つ以上のシクロデキストリンとマルトシル型シクロデキストリンとを必須成分とする、物理化学的性質が異なる少なくとも2種類のシクロデキストリンの組み合わせである。マルトシル型シクロデキストリンとの組み合わせで、特に好ましいシクロデキストリンはα型シクロデキストリンである。
【0015】
上記必須成分以外のシクロデキストリン、すなわちγ型シクロデキストリン、マルトース以外の物質を付加した酵素修飾シクロデキストリンおよび化学修飾シクロデキストリンも、発明の効果を損なわない限り環状オリゴ糖として、上記必須成分に付加して用いることができる。
【0016】
本発明のチアミンラウリル硫酸塩組成物を構成するチアミンラウリル硫酸塩と環状オリゴ糖の重量比は、チアミンラウリル硫酸塩1に対して環状オリゴ糖は好ましくは7〜15、さらに好ましくは8〜13である。重量比が7未満では、結晶を析出することなく液状製品に添加できるチアミンラウリル硫酸塩濃度が顕著に低下し、逆に重量比が15を超えると、粉末製剤中のチアミンラウリル硫酸塩濃度が低く実用的でない。さらに、シクロデキストリンの量が多いため製造工程で水溶液に粘性が出て操作性が低下し、生産効率が悪化するのも重量比が15を超えた時の問題点である。
組成物粉末中のチアミンラウリル硫酸塩の濃度すなわち含有量の好ましい範囲は、チアミンラウリル硫酸塩と環状オリゴ糖以外の第三成分が配合されていない最も高濃度の場合、6%以上で、上限は13%程度である。
【0017】
環状オリゴ糖に占めるα型およびβ型シクロデキストリンの中から選ばれる一つ以上のシクロデキストリンの重量割合(α型およびβ型シクロデキストリンが共に選ばれる場合は、それぞれの重量割合の合計)は、好ましくは5〜40%、さらに好ましくは10〜30%である。5%未満および40%を超える重量割合では、高濃度の塩類を含有する液状製品などに使用した際に、チアミンラウリル硫酸塩の溶解安定性が低下し、チアミンラウリル硫酸塩の使用濃度を下げる必要が生じる。
【0018】
本発明の粉末状チアミンラウリル硫酸塩組成物において、チアミンラウリル硫酸塩と環状オリゴ糖とは包接複合体を形成しているが、その結合状態は通常考えられる包接だけではなく、ハイブリッドな会合状態なども混在していると考えられる。なぜならば、チアミンラウリル硫酸塩がシクロデキストリンと理想的に包接すると仮定した場合の理論上のモル比は、分子構造上、チアミンラウリル硫酸塩1モルに対して環状オリゴ糖2モルと考えられる。ところが、上記重量比の好ましい範囲を参照すれば、水溶性を示すチアミンラウリル硫酸塩組成物が生成する実験上のモル比は上記の理論値よりかなり過大であること、さらに水溶性は極めて狭い範囲のモル比の範囲に限定されることなどから、従来の知見では説明できないハイブリッドな会合状態の存在も示唆されると考えられる。
【0019】
チアミンラウリル硫酸塩と環状オリゴ糖以外にも、発明の効果を損なわない限り、その他の粉末状物質を適宜併用することができる。例えば、粉末状のPH調節剤や粘度調節剤などを必要に応じて用いてもよい。しかし、これらの第三成分の併用は、組成物粉末中のチアミンラウリル硫酸塩濃度を低下させるので、第三成分の添加量はこの点にも配慮して設定されるのが好ましい。
【0020】
本発明のチアミンラウリル硫酸塩組成物は粉末状であり、粉末であるため、製剤の保存安定性に極めて優れ、製剤に含まれる有効成分であるチアミンラウリル硫酸塩の濃度を高められ、製剤重量の軽減、取り扱いが簡便、輸送に有利といった利点を持つ。粉末の粒径は、液状製品などに添加して使用した際の溶解速度などに応じて適宜設定することができるが、通常、顆粒、粉体或いは微粉の粒径範囲、例えば1mm〜1μmとされる。
【0021】
本発明の製造方法は、チアミンラウリル硫酸塩と、α型およびβ型シクロデキストリンの中から選ばれる一つ以上のシクロデキストリンと、マルトシル型シクロデキストリンとを水溶媒に溶解混合させる第1の工程と、第1の工程で得られた水溶液から水分を除去して固形分を回収する第2の工程からなる。
【0022】
第一の工程は、チアミンラウリル硫酸塩と少なくとも二種類のシクロデキストリンとを水溶媒中で溶解混合する工程である。溶解混合の操作は、まずチアミンラウリル硫酸塩とマルトシル型シクロデキストリンを溶解混合させる第一段階と、続いて第一段階で得られた水溶液にα型およびβ型シクロデキストリンの中から選ばれる一つ以上のシクロデキストリンを溶解混合させる第二段階とに分けた二段階操作とするのが好ましい。溶解混合にあたっては、溶液を攪拌しながらこれを行うのが好ましい。なお、第一段階においては、まずチアミンラウリル硫酸塩を水溶媒に溶解させ、その溶解液にマルトシル型シクロデキストリンを投入して溶解混合するのが好ましい。
水溶媒中にチアミンラウリル硫酸塩と少なくとも二種類のシクロデキストリンを同時に投入して溶解混合を行う方法や、上記二段階操作とは逆に第一段階でα型およびβ型シクロデキストリンの中から選ばれる一つ以上のシクロデキストリンを溶解混合し、第二段階でマルトシル型シクロデキストリンを溶解混合する方法でも、水溶性に優れたチアミンラウリル硫酸塩製剤を製造することができるが、上記の好ましい二段階操作のものと比べると、得られる製剤は、食品等に使用した際の溶解安定性の点で多少劣るものである。
【0023】
水溶媒としては、脱イオン水が好ましく用いられる他、少ない量であればエチルアルコールなどの有機溶媒を水に混ぜた混合溶媒であってもよい。
【0024】
チアミンラウリル硫酸塩はラウリル基により界面活性作用を有するのでクラフト現象が見られ、クラフトポイント以上の温度で溶解度は急激に上昇する。本発明の第一の工程の溶解混合操作は、このクラフトポイント以上の温度で行われるのが好ましい。具体的には、水溶媒或いは水溶液の温度を40℃以上、好ましくは50〜70℃、さらに好ましくは55〜65℃の範囲に保ちながら溶解混合を行うのがよい。40℃未満の操作温度でも、目的とする水溶性に優れたチアミンラウリル硫酸塩製剤を得ることはできるが、溶解混合操作に数時間から数日間といった長時間を要し実用的ではないことに加えて、得られる製剤は溶解安定性の点で再現性が極めて悪いものである。また、操作温度が70℃を超えると、水の蒸発が激しくなり系を定常状態に保つことが難しくなる。
【0025】
溶解混合操作の所要時間については、溶解液の透明性や懸濁状態などが変化しなくなった時点を操作の終点とするのが好ましい。所要時間は系の規模などによっても変わるが、通常20〜60分である。
【0026】
第2の工程は、第1の工程で得られた水溶液から水分を除去して固形分を回収する乾燥工程である。乾燥方式としては、加熱乾燥、噴霧乾燥(所謂スプレードライヤー)、熱風乾燥、真空乾燥或いは凍結乾燥といった公知の技術を好適に用いることができる。噴霧乾燥以外の乾燥方式を採用する時には、固形分を粉砕する粉砕工程を新たに設ける必要がある。乾燥は、チアミンラウリル硫酸塩と環状オリゴ糖との結合状態が損なわれないように、でき得る限り低温で行われるのが好ましいが、スプレードライヤーによる120℃程度の温度での乾燥でも問題はなかった。
【0027】
本発明の粉末状チアミンラウリル硫酸塩組成物は、醤油、味噌、ソースおよびそれらを用いた食品、蕎麦等のつゆ、ハンバーグ等のタレ、梅干し、漬物、クリーム、ジャム、煮豆、各種練り製品といった液状の食品に対して、チアミンラウリル硫酸塩の濃度が通常10〜5000ppmの範囲内で所望の濃度となるように添加して用いることができる。さらに、食品以外でもローション等の液状化粧品、目薬等の医薬品、健康食品、農薬といった分野でも用いられ得る。
【実施例1】
【0028】
まず、攪拌と加熱冷却機能がついた密閉可能な反応容器にイオン交換水640gとチアミンラウリル硫酸塩(田辺製薬製ビタゲンAS5号)40gを投入し、攪拌しながら溶液温度が55℃になるまで昇温してチアミンラウリル硫酸塩を完全に溶解させた。そして、所謂溶解混合の第一段階操作として、マルトシル型シクロデキストリン(塩水港精糖製デキシーパールG2−β−CD)256gを容器に徐々に投入して均一に分散・溶解させた後、温度を55〜65℃に維持しながら30分間攪拌を行った。続いて、第二段階操作として、容器にα型シクロデキストリン(塩水港精糖製デキシーパールα−100)64gをさらに投入して均一に分散・溶解させた後、温度を55〜65℃に維持しながら20分間攪拌した。その後、室温となるまで溶液を冷却し、チアミンラウリル硫酸塩濃度4%の白色スラリー状の液体約1000gを得た。
次に、得られた溶液を温度70℃で加熱乾燥し、さらに乾燥残渣の固形分をメノウ鉢で粉砕することで、チアミンラウリル硫酸塩濃度約11.1%の白色粉末(TSLと全CDの重量比率=1:8、全CD中のα−CDまたはβ−CDの重量割合=20%)を得た。
得られた粉末は溶解安定性を調べる試験に供した。その結果、3水準のすべての濃度で、試験液は透明であり濁りや沈殿の発生もみられず、溶解安定性は良好であった。
【0029】
溶解安定性試験は以下の要領で行った。
容量約20mlの栓付き透明ガラス容器に、塩濃度10%の食塩水10mlを分取し、そこに各被験粉末を、チアミンラウリル硫酸塩濃度がそれぞれ0.1%、0.2%、0.3%になるように投入して密封し、3種類の試験液を作成した。試験液が入ったガラス容器は5℃に調整された冷蔵庫に移し7日間保管した。8日目に目視観察を行い、試験液に沈殿物がなく透明であれば良好(表1および表2では○で示す)、わずかな沈殿或いはにごりが観察されればやや良好(同△で示す)、明らかな沈殿やにごりが観察されれば不良(同×で示す)と判定・評価した。
【実施例2】
【0030】
イオン交換水、マルトシル型シクロデキストリンおよびα型シクロデキストリンの投入量をそれぞれ600g、324gおよび36gに変更した以外は、実施例1と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩濃度4%の白色スラリー状の液体約1000gを得た。さらに、実施例1と同様に加熱乾燥と粉砕を行って、チアミンラウリル硫酸塩濃度約10%の白色粉末(同、1:9、10%)を得た。
溶解安定性試験の結果は、3水準のすべての濃度で、試験液は透明であり濁りや沈殿の発生もみられず、溶解安定性は良好であった。
【実施例3】
【0031】
マルトシル型シクロデキストリンおよびα型シクロデキストリンの投入量をそれぞれ288gおよび72gに変更した以外は、実施例2と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩濃度4%の白色クリーム状の粘調な液体約1000gを得た。さらに、実施例1と同様に加熱乾燥と粉砕を行って、チアミンラウリル硫酸塩濃度約10%の白色粉末(同、1:9、20%)を得た。
溶解安定性試験の結果は、3水準のすべての濃度で、試験液は透明であり濁りや沈殿の発生もみられず、溶解安定性は良好であった。
【実施例4】
【0032】
マルトシル型シクロデキストリンおよびα型シクロデキストリンの投入量をそれぞれ252gおよび108gに変更した以外は、実施例2と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩濃度4%の白色クリーム状の粘調な液体約1000gを得た。さらに、実施例1と同様に加熱乾燥と粉砕を行って、チアミンラウリル硫酸塩濃度約10%の白色粉末(同、1:9、30%)を得た。
溶解安定性試験の結果は、3水準のすべての濃度で、試験液は透明であり濁りや沈殿の発生もみられず、溶解安定性は良好であった。
【実施例5】
【0033】
イオン交換水、チアミンラウリル硫酸塩、マルトシル型シクロデキストリンおよびα型シクロデキストリンの投入量をそれぞれ650g、25g、260gおよび65gに変更した以外は、実施例1と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩濃度2.5%の白色懸濁液約1000gを得た。さらに、実施例1と同様に加熱乾燥と粉砕を行って、チアミンラウリル硫酸塩濃度約7.1%の白色粉末(同、1:13、20%)を得た。
溶解安定性試験の結果は、3水準のすべての濃度で、試験液は透明であり濁りや沈殿の発生もみられず、溶解安定性は良好であった。
【実施例6】
【0034】
α型シクロデキストリンに代えてβ型シクロデキストリン(塩水港精糖製デキシーパールβ−100)60gを用い、マルトシル型シクロデキストリンの投入量を300gに変更した以外は、実施例2と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩濃度4%の白色スラリー状の液体約1000gを得た。さらに、実施例1と同様に加熱乾燥と粉砕を行って、チアミンラウリル硫酸塩濃度約10%の白色粉末(同、1:9、16.7%)を得た。
溶解安定性試験の結果は、3水準のすべての濃度で、試験液は透明であり濁りや沈殿の発生もみられず、溶解安定性は良好であった。
【比較例1】
【0035】
イオン交換水およびマルトシル型シクロデキストリンの投入量をそれぞれ760gおよび200gに変更し、第二段階操作をまったく行わない以外は、実施例1と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩濃度4%の白色スラリー状の液体約1000gを得た。さらに、実施例1と同様に加熱乾燥と粉砕を行って、チアミンラウリル硫酸塩濃度約16.7%の白色粉末(同、1:5、0%)を得た。
溶解安定性試験の結果は、濃度0.1%の試験液でやや良好の評価が出たが、他は不良であった。
【比較例2】
【0036】
イオン交換水およびマルトシル型シクロデキストリンの投入量をそれぞれ680gおよび280gに変更した以外は、比較例1と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩濃度4%の白色スラリー状の液体約1000gを得た。さらに、実施例1と同様に加熱乾燥と粉砕を行って、チアミンラウリル硫酸塩濃度約12.5%の白色粉末(同、1:7、0%)を得た。
溶解安定性試験の結果は、濃度0.1%の試験液で良好の評価が出たが、他は不良であった。
【比較例3】
【0037】
イオン交換水およびマルトシル型シクロデキストリンの投入量をそれぞれ600gおよび360gに変更した以外は、比較例1と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩濃度4%の白色スラリー状の液体約1000gを得た。さらに、実施例1と同様に加熱乾燥と粉砕を行って、チアミンラウリル硫酸塩濃度約10%の白色粉末(同、1:9、0%)を得た。
溶解安定性試験の結果は、濃度0.1%の試験液で良好、0.2%でやや良好の評価が出たが、0.3%の試験液は不良であった。
【比較例4】
【0038】
マルトシル型シクロデキストリンに代えてα型シクロデキストリンを用いた以外は、比較例1と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩濃度4%の白色スラリー状の液体約1000gを得た。さらに、実施例1と同様に加熱乾燥と粉砕を行って、チアミンラウリル硫酸塩濃度約16.7%の白色粉末(同、1:5、100%)を得た。
溶解安定性試験の結果は、濃度0.1%の試験液で良好の評価が出たが、他は不良であった。
【比較例5】
【0039】
マルトシル型シクロデキストリンに代えてα型シクロデキストリンを用いた以外は、比較例2と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩濃度4%の白色スラリー状の液体約1000gを得た。さらに、実施例1と同様に加熱乾燥と粉砕を行って、チアミンラウリル硫酸塩濃度約12.5%の白色粉末(同、1:7、100%)を得た。
溶解安定性試験の結果は、3水準のすべての濃度で溶解安定性は不良であった。
【比較例6】
【0040】
マルトシル型シクロデキストリンに代えてβ型シクロデキストリンを用いた以外は、比較例1と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩濃度4%の白色スラワー状の液体約1000gを得た。さらに、実施例1と同様に加熱乾燥と粉砕を行って、チアミンラウリル硫酸塩濃度約16.6%の白色粉末(同、1:5、100%)を得た。
溶解安定性試験の結果は、濃度0.1%の試験液でやや良好の評価が出たが、他は不良であった。
【0041】
実施例1〜6の結果をまとめて表1に、比較例1〜6の結果をまとめて表2に示す。なお、表中のM、α、βはそれぞれマルトシル型シクロデキストリン、α型シクロデキストリン、β型シクロデキストリンを表す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チアミンラウリル硫酸塩と環状オリゴ糖との包接複合体であって、前記環状オリゴ糖はα型およびβ型シクロデキストリンの中から選ばれる一つ以上のシクロデキストリンとマルトシル型シクロデキストリンとの組み合わせからなる粉末状のチアミンラウリル硫酸塩組成物。
【請求項2】
チアミンラウリル硫酸塩に対する環状オリゴ糖の重量比が7〜15倍であり、かつ環状オリゴ糖に占めるα型およびβ型シクロデキストリンの中から選ばれる一つ以上のシクロデキストリンの重量割合が5〜40%である請求項1に記載の粉末状のチアミンラウリル硫酸塩組成物。
【請求項3】
チアミンラウリル硫酸塩と、α型およびβ型シクロデキストリンの中から選ばれる一つ以上のシクロデキストリンと、マルトシル型シクロデキストリンとを水溶媒に溶解混合させる第1の工程と、第1の工程で得られた水溶液から水分を除去して固形分を回収する第2の工程からなる粉末状のチアミンラウリル硫酸塩組成物の製造方法。
【請求項4】
第1の工程における溶解混合をチアミンラウリル硫酸塩のクラフトポイント以上の水溶液温度で行うことを特徴とする請求項3に記載の粉末状のチアミンラウリル硫酸塩組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−94817(P2008−94817A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299594(P2006−299594)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(592246381)株式会社ミズホケミカル (7)
【Fターム(参考)】