説明

粉末状化粧料

【課題】パラベンに代わる防腐殺菌剤であるチロソール誘導体を効果的かつ安定的に使用した粉末状化粧料を提供する。
【解決手段】下記式(1)で示されるチロソール誘導体を防腐殺菌剤として含有することを特徴とする粉末状化粧料。
【化1】


(式中、Rは水素原子又は炭素数2〜10のアシル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チロソール誘導体からなる防腐殺菌剤を含有してなる粉末状化粧料に関する。詳しくは、パラベンの配合量が少ないもしくはパラベンを配合しなくとも防腐殺菌性が高く、かつ経時的にその防腐力が下がらない粉末状化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
チロソールは糖のアルコール発酵の際、酵母の作用によりチロシンから生成され、例えば、日本酒やワインといった醸造酒ににがみ成分として含まれる物質である。チロソールの誘導体を、パラベンの減量や代替を目的に、防腐殺菌剤として利用する技術は既に提案されており、フェノキシエタノールとの相乗効果によって、更なる効果が得られるとされている。(特許文献1参照)
【0003】
一方、パラベンの減量や代替としては、近年、ポジティブリストに収載されるフェノキシエタノールの応用が増加している。更には、植物抽出物の配合や1,2−ペンタンジオールや1,2−へキサンジオールなどアルカンジオールの配合といった種々の方法も提案されている(特許文献2〜6参照)。しかしながら、粉末状化粧料は一般にローションや乳液のような密閉系の容器ではないことから、揮発性のある成分を安定的に製剤中に保持させることが難しく、またその特性上、液状成分の配合量が限られるという特徴がある。
【0004】
【特許文献1】特開2007−39340号公報
【特許文献2】特開平8−73364号公報
【特許文献3】特開平8−73368号公報
【特許文献4】特開平10−182333号公報
【特許文献5】特開平10−203955号公報
【特許文献6】特開2005−15361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情において、チロソール誘導体単体で粉末状化粧料の防腐力が充分でない場合、それと相乗効果を発し、かつ製剤中で安定な成分が求められていた。即ち、本発明の目的とするところは、パラベンに代わる防腐殺菌剤であるチロソール誘導体を粉末状化粧料において効果的かつ安定的に使用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記事情に鑑み、鋭意研究した結果、下記一般式(1)で示されるチロソール誘導体を含む粉末状化粧料は通常充分な防腐力を持つが、その防腐力が不足する場合は、常温で結晶性のある防腐殺菌剤と組み合わせることで効果的かつ安定的に働くことを見出した。
【0007】
【化1】

(式中、Rは水素原子又は炭素数2〜10のアシル基である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明で用いられるチロソール誘導体は、細菌・酵母・黴に対し抗菌活性を持っており、常温で結晶性を持つ防腐殺菌剤と組み合わせることで、より高い防腐性を得ることができる。またその粉末状化粧料は長期に保存しても充分な防腐性を持つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いる前記一般式(1)で表される化合物のうち、Rが炭素数2〜10のアシル基のものは、フェノール化合物のアシル化として既に公知の方法を用いて得ることができる。例えば、ピリジン中において2−(4−ヒドロキシフェニル)エチルアルコールと酸クロライドとを反応させることにより、容易に得ることができる。尚、アシル基としては、内部に不飽和結合を有するものでも問題無く、また芳香環を有していてもよい。また、アミノ基等の官能基を有するものであってもかまわない。具体的には、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ヘキサノイル、ラウロイル、パルミトイル、オレオイル等を挙げることができる。それらの中でも防腐殺菌効果の点より、プロピオニルチロソールが好ましく、またモノアセチルチロソールは特有の匂いもなく、容易且つ安定に配合することができる点で好ましい。
【0010】
本発明に係るチロソール誘導体の配合量は、粉末状化粧料の総量を基準として0.01〜1%が好ましく、更に好ましくは0.05〜1%であり、当該範囲内であるとパラベンを使用することなく有効な防腐殺菌効果を発揮できる。
【0011】
本発明に係るチロソール誘導体は、パラベンと同等の優れた防腐殺菌効果を有するが、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、クロロフェネシン等の常温で結晶性のある防腐殺菌剤との併用により、その相乗効果で粉末状化粧料の防腐効果を高めることができる。
【0012】
本発明に係る常温で結晶性のある防腐殺菌剤の配合量は、粉末状化粧料の総量を基準として0.01〜1%が好ましく、更に好ましくは0.05〜0.5%であり、当該範囲内でチロソール誘導体と併用することにより、特に顕著な防腐殺菌効果を発揮できる。
【0013】
また本発明に係る粉末状化粧料は、低刺激性の化粧料を提供することを目的としてメチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類を実質的に含有しないか、少なくともその配合量を、粉末状化粧料の総量を基準として0.01%未満とすることが好ましい。本発明において「実質的に含有しない」とは、それら成分を積極的に含有しないことを意味し、一般的に用いられる植物抽出物等の化粧品原料に少量成分として既に配合されており、その化粧品原料を配合することに伴って結果的に粉末状化粧料中に含有せしめることになる場合については、「実質的に含有しない」に該当するものである。
【0014】
本発明に係る粉末状化粧料とは、粉体を構成成分の主として含有する化粧料を指し、通常化粧料総量を基準として粉体を75質量%以上含有するものである。例えばファンデーション、白粉、アイシャドウ、アイライナー、アイブロー、チーク等のメイクアップ化粧料や、ボディパウダーやベビーパウダーのようなボディ用化粧料等が挙げられる。特にパウダーファンデーション、アイシャドウ、アイブロー、チーク等の一般に密閉性の低い容器を用いられる化粧料でその本発明の効果を発揮する。
【0015】
本発明の効果を損なわない範囲内で、粉末状化粧料に一般的に用いられる各種成分、例えば、赤色104号、赤色102号、赤色226号、赤色201号、赤色202号、黄色4号、黒色401号等の色素、青色1号アルミニウムレーキ、黄色4号アルミニウムレーキ、黄色5号アルミニウムレーキ、黄色203号バリウムレーキ等のレーキ色素、ナイロンパウダー、シルクパウダー、ウレタンパウダー、テフロン(登録商標)パウダー、シリコーンパウダー、ポリメタクリル酸メチルパウダー、セルロースパウダー、シリコーンエラストマー球状粉体、ポリエチレン末等の高分子、黄酸化鉄、ベンガラ、黒酸化鉄、酸化クロム、カーボンブラック、群青、紺青等の有色顔料、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の白色顔料、タルク、マイカ、セリサイト、カオリン、板状硫酸バリウム等の体質顔料、雲母チタン、ベンガラ被覆雲母チタン、カルミン被覆雲母チタン、紺青被覆雲母チタン、黒酸化鉄被覆雲母チタン等のパール顔料、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム等の金属塩、シリカ、アルミナ等の無機粉体、ベントナイト、スメクタイト、窒化ホウ素、ラウロイルリジン、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛、動植物油、鉱物油、エステル油、ワックス油、シリコーン油、リン脂質、脂肪酸類、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤、ビタミン類、紫外線吸収剤、抗酸化剤、マルチトール、キシリトール、ショ糖、グルコース、ラフィノース、ヒアルロン酸およびその塩、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー、アラビアガム、アルギン酸(塩)、カラギーナン、寒天、グアーガム、クインスシード、タマリンドガム、デキストリン、デキストラン、デンプン、ローカストビーンガム、カラヤガム、トラガカントガム、ペクチン、マルメロ、キトサン、キサンタンガム、ジェランガム、ヒアルロン酸(塩)、プルラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カチオン化セルロース、ポリアクリル酸アミド、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、コンドロイチン4硫酸、コンドロイチン6硫酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン4,6ジ硫酸、デルマタン4,6ジ硫酸、ケラタン硫酸、ヘバラン硫酸等が挙げられ、またその塩類としては、例えばこれらムコ多糖のカリウム塩、ナトリウム塩等、水溶性高分子、pH調整剤、着色料、香料、動植物性蛋白質及びその分解物、動植物性多糖類及びその分解物、微生物培養代謝成分、血流促進剤、消炎剤、抗炎症剤、乳化剤、抗アレルギー剤、細胞賦活剤、アミノ酸とその塩類、角質溶解剤、収斂剤、増泡剤、口腔用剤、消臭・脱臭剤等とともに配合することができる。
【実施例】
【0016】
・試験例
後記実施例1〜2、比較例1に示すパウダーファンデーションを常法にて調製し、防腐殺菌効果確認試験を行った。結果を下記に示す。直後試験とは、サンプルを試作後1週間以内での試験開始の結果を指し、6ヵ月後試験とは、40℃の恒温槽にて6ヶ月を経過したサンプルの試験結果を指す。試験は、日本薬局方参考情報に収載される保存効力試験に準じ実施した。判定は接種7日後、99.9%以上の菌数減少を認め4週後もそのレベルが維持された場合を「防腐性有り」とした。
【0017】
実施例1 実施例2 比較例1
直後試験 防腐性有り 防腐性有り 防腐性有り
6ヶ月後試験 防腐性有り 防腐性有り 防腐性無し
【0018】
・実施例1〜2、比較例1(パウダーファンデーション)
(質量%)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
実施例1 実施例2 比較例1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−シリコーン処理ベンガラ 0.5 0.5 0.5
シリコーン処理黄酸化鉄 2.0 2.0 2.0
シリコーン処理黒酸化鉄 0.3 0.3 0.3
フッ素処理酸化チタン 15.0 15.0 15.0
ラウロイルリジン処理マイカ 25.0 25.0 25.0
ミリスチン酸亜鉛処理タルク 残 量 残 量 残 量
麻セルロース末 5.0 5.0 5.0
架橋型シリコーン末(注1) 3.0 3.0 3.0
ジメチルポリシロキサン 4.0 4.0 4.0
イソノナン酸イソノニル 2.0 2.0 2.0
流動パラフィン 2.0 2.0 2.0
パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル 2.0 2.0 2.0
アセチルチロソール 0.2 0.2 0.2
デヒドロ酢酸ナトリウム 0.2 − −
クロロフェネシン − 0.2 −
フェノキシエタノール − − 0.3
注1)KSP−300(信越化学工業社製)
【0019】
下記処方例1〜9につき、常法で調製し、防腐殺菌効果確認試験を行ったところ、試作直後及び40℃恒温槽にて6ヶ月保存後もすべて十分な防腐殺菌効果を示した。
【0020】
・処方例1(パウダーファンデーション)
(質量%)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
寒天処理ベンガラ 0.5
寒天処理黄酸化鉄 2.0
寒天処理黒酸化鉄 0.3
セルロース処理酸化チタン 20.0
ミリスチン酸亜鉛処理マイカ 10.0
ラウロイルリジン処理タ合成金雲母 15.0
ラウロイルリジン処理タルク 残 量
ポリアクリル酸アルキル 5.0
球状シリカ 3.0
ジメチルポリシロキサン 4.0
ワセリン 2.0
ジカプリル酸プロピレングリコール 2.0
ヒドロキシステアリン酸2−エチルヘキシル 2.0
アセチルチロソール 0.3
デヒドロ酢酸ナトリウム 0.2
【0021】
・処方例2〜5(パウダーアイシャドウ)
(質量%)−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
処方例2 処方例3 処方例4 処方例5
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−タルク 15.0 15.0 15.0 15.0
マイカ 残 量 残 量 残 量 残 量
ナイロン末 5.0 5.0 5.0 5.0
硫酸バリウム 10.0 10.0 10.0 10.0
グンジョウ 3.0 3.0 3.0 3.0
赤色226号 0.5 0.5 0.5 0.5
黄酸化鉄 5.0 5.0 5.0 5.0
酸化チタン 1.0 1.0 1.0 1.0
雲母チタン 5.0 5.0 5.0 5.0
メチルフェニルポリシロキサン 3.0 3.0 3.0 3.0
オクチルドデカノール 5.0 5.0 5.0 5.0
ワセリン 2.0 2.0 2.0 2.0
蛍光PET/Al/エポキシ
積層末(注2) 1.0 − 3.0 −
蛍光PET/ポリメチルメタクリレート
積層末(注3) − 3.0 3.0 − PET/Al/エポキシ
積層末(注4) − − 2.0 3.0
酸化亜鉛蛍光体 − − − 3.0
アセチルチロソール 0.2 0.2 0.1 0.1
デヒドロ酢酸ナトリウム 0.1 0.1 − −
クロロフェネシン − − 0.2 0.2
注2)ダイヤモンドビーズ CO−3EP シルバー 蛍光タイプ(ダイヤ工業社製)
注3)レインボーフレークII No.501-S No.7 蛍光タイプ(ダイヤ工業社製)
注4)DCグリッター シルバーC(0.001)(ダイヤケムコ社製)
【0022】
・処方例6(ルースパウダー)
(質量%)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
流動パラフィン 3.0
アセチルチロソール 0.2
クロロフェネシン 0.1
ソルビン酸 0.05
ベンガラ 0.2
黄酸化鉄 0.2
タルク 50.0
マイカ 26.25
板状硫酸バリウム 10.0
球状シリカ 5.0
ナイロン末 5.0
【0023】
・処方例7〜9(プレストパウダー)
(質量%)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
処方例6 処方例7 処方例9
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
流動パラフィン 2.0 2.0 2.0
ジメチルポリシロキサン 3.0 3.0 3.0
イソノナン酸イソノニル 1.0 1.0 1.0
アセチルチロソール 0.2 0.3 −
カプロイルチロソール − − 0.5
デヒドロ酢酸ナトリウム 0.1 0.05 0.1
ソルビン酸カリウム − 0.1 0.1
香料 0.1 − 0.1
ベンガラ 0.1 0.1 −
黄酸化鉄 0.3 0.3 1.0
赤色226号 − − 0.3
雲母チタン − 10.0 −
タルク 50.0 50.0 50.0
マイカ 32.2 22.15 30.9
球状シリカ 3.0 3.0 3.0
ナイロン末 8.0 8.0 8.0
【0024】
尚、処方例中の香料は、下記香料処方のものを用いた。
【0025】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるチロソール誘導体を防腐殺菌剤として含有することを特徴とする粉末状化粧料。
【化1】

(式中、Rは水素原子又は炭素数2〜10のアシル基である。)
【請求項2】
下記式(1)で示されるチロソール誘導体を防腐殺菌剤として含有し、更に常温で結晶性のある防腐殺菌剤を含有することを特徴とする粉末状化粧料。
【化2】

(式中、Rは水素原子又は炭素数2〜10のアシル基である。)
【請求項3】
常温で結晶性のある防腐殺菌剤が、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、クロロフェネシンからなる群より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項2に記載の粉末状化粧料。
【請求項4】
パラベンを実質的に含有しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の粉末状化粧料。

【公開番号】特開2009−269840(P2009−269840A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120141(P2008−120141)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】