説明

粉末積層造形用粉末供給装置

【課題】粉末を造形エリアに直接散布する方式により、高精度にかつ高密度に粉末の薄層を形成できる粉末積層造形用粉末供給装置を提供する。
【解決手段】粉末24を造形エリアに散布する粉末散布ヘッド22に、粉末吐出口31を間にする粉末散布方向Fの前後に、ソレノイド34、35により昇降駆動される一対の均しブレード36、37を配設する。そして、粉末散布方向Fに対して後側となる均しブレード37を、前側となる均しブレード36よりも、形成すべき粉末の薄層39の一層分だけ上昇する高さに位置決めし、粉末散布方向に対して前側となる均しブレード36を前記造形エリアの粉末散布面Cに接触させながら移動させ、一対の均しブレード36と37との段差hに相当する間隙41を通じて粉末24を外部へ流出させ、粉末散布ヘッド22の移動跡に所定の厚さを有する粉末の薄層39を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末の薄層を結合及び積層して三次元形状物を造形する粉末積層造形に用いる粉末供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末積層造形法は、成形型を用いずに三次元形状物を迅速かつ簡易に得ることができることから、近年、その利用が注目されている。この粉末積層造形法において、造形エリアに対する粉末の供給は、一般には図5に示されるように、積層エリアAに対して供給エリアBを併設し、供給エリアB内の昇降テーブル1上の粉末2をワイパー3の移動(二点鎖線位置から実線位置への移動)により、積層エリアA内の昇降テーブル4上に薄層5の一層分だけ堆積させるようにしている。そして、レーザ発振器6からミラー7を経て出射されるレーザビームの照射によって所定の輪郭の結合層(焼結層)Sを形成した後は、積層エリアA内の昇降テーブル4の下降→ワイパー3の二点鎖線位置(待機位置)への後退→供給エリアB内の昇降テーブル1の上昇→ワイパー3の実線位置への前進が繰返され、これにより前記焼結層Sの積層が進んで所定の3次元形状物が得られるようになる。なお、粉末の結合及び積層方式としては、インクジェットによりバインダ(結合剤)を噴射して粉末粒子を接合しながら積層するインクジェット方式などもある。しかしながら、このようなワイパー3による粉末供給方式によれば、1回のレーザ照射を終えるごとにワイパー3の待機位置への戻り動作と供給エリアB内の昇降テーブル1の上昇動作とが必要になり、その分、サイクルタイムが延長して生産性が低下するという問題があった。
【0003】
そこで最近、粉末を造形エリアAに直接散布する粉末供給装置が開発されている。図6は、そのような粉末供給装置の一つを、特許文献1から抜粋して示したもので、装置10は、粉末11を収容する収容容器12の下部の粉末吐出口13に切出しローラ14を配設してなっており、その全体がガイドレール15に沿って移動するようになっている。このような粉末供給装置によれば、その移動中、切出しローラ14を回転させることで、積層エリアA内の昇降テーブル16(図5に示した昇降テーブル4と実質同じもの)上に所定厚さに粉末11が散布され、該装置10の往復双方向の移動で薄層17が形成されるようになる。なお、この装置10には、粉末の散布厚さすなわち薄層17の厚さを検出する厚み検出センサ18が付設されている。また、この種の粉末供給装置としては、粉末を収容する容器(粉末供給源)を粉末散布ノズルから独立させて,両者をフレキシブルホースにて接続し、粉末散布ノズルのみを移動させるようにしたものもある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−211656号公報
【特許文献2】特開2001−47520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載された粉末供給装置によれば、何れも積層エリアの散布面から粉末吐出口を離して粉末を散布しているため、粉末は単に堆積する状態となり、均一な厚さの薄層を形成することが困難であるという問題があった。また、散布された状態では密度が低いため、結合及び積層後の密度も低下し、得られる三次元形状物の強度が低下する虞もあった。なお、特許文献1に記載の発明では、厚み検出センサ14により散布厚さを検出しているが、それは、散布後の結果を監視しているだけであり、薄層の厚さ均一に散布することは困難である。
【0005】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、粉末を造形エリアに直接散布する方式により、高精度にかつ高密度に粉末の薄層を形成できる粉末積層造形用粉末供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、粉末を造形エリアに散布する粉末散布ヘッドを備え、該粉末散布ヘッドは、粉末吐出口を間にする粉末散布方向の前後に一対の均しブレードを昇降可能に設けており、前記一対の均しブレードは、粉末散布方向に対して後側となる均しブレードが、前側となる均しブレードよりも粉末の薄層の一層分だけ上昇する高さに位置決めされると共に、粉末散布方向に対して前側となる均しブレードが前記造形エリアの散布面に接触して位置決めされることを特徴とする。
【0007】
上記のように構成した粉末積層造形用粉末供給装置においては、一対の均しブレードの段差がそのまま散布厚さとなり、したがって、均一な厚さの薄層が安定して得られるようになる。また、粉末散布方向に対して後側となる一方の均しブレードによって散布された粉末の上面が押えられる(圧縮される)ので、得られる薄層の密度も高くなる。
【0008】
本発明において、上記一対の均しブレードは、相互に対向する側の先端部側縁にテーパ面を有している形状とするのが望ましく、この場合は、前記テーパ面のくさび効果により粉末の圧縮が促進されるので、より一層薄層の密度が高まる。
【0009】
本発明は、粉末散布ヘッドに、一対の均しブレードを昇降させる駆動手段を設けるようにしてもよく、この場合は、一対の均しブレードの高さの切換えを自動で行うことができる。また、この場合、駆動手段としては、構造簡単で小型化が可能であることから、ソレノイドを用いるのが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る粉末積層造形用粉末供給装置によれば、粉末を造形エリアに直接散布する方式により、高精度にかつ高密度に粉末の薄層を形成できるようになり、その利用価値は大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基いて説明する。
図1〜4は、本発明の一つの実施形態としての粉末積層造形用粉末供給装置を示したものである。本粉末供給装置20は、図2に示されるように粉末圧送装置(粉末供給源)21と、粉末散布ヘッド22と、前記粉末圧送装置21と粉末散布ヘッド22とを接続するフレキシブルホース23とから概略構成されている。
【0012】
上記粉末圧送装置21は、粉末24を収容するホッパ25とこのホッパ25下に横置きに配置されたスクリュフィーダ26とを備えている。スクリュフィーダ26は、前記ホッパ25に接続されたチューブ27内にモータ(減速機付き)28により回転駆動されるスクリュ29を配設してなっており、このスクリュ29の回転に応じてホッパ25内の粉末24がチューブ27内に定量ずつ切出され、かつ前記粉末散布ヘッド22へ圧送される。なお、粉末圧送装置21の全体は、後述の積層エリアA(図4)の上方に配置した架台30上に固設されている。
【0013】
一方、上記粉末散布ヘッド22は、前記フレキシブルホース23に後端部が接続され、先端部(下端部)に矩形の粉末吐出口31を有する粉末散布ノズル32と、該粉末散布ノズル32内の流路を開閉する開閉バルブ33と、粉末散布ノズル32に添設されたソレノイド(駆動手段)34、35により各独立に昇降駆動される一対の均しブレード36,37とを備えている。粉末散布ヘッド22は、前記積層エリアAの上方に架設された一対のガイドレール38(図4)に水平移動可能に支持されている。粉末散布ヘッド22はまた、ガイドレール38の一端側に配置された駆動手段(図示略)によって往復移動するようになっており、この動きに前記フレキシブルホース23が追従する。なお、フレキシブルホース23は、硬質ゴム製の蛇腹であっても、金属製のベローズであってもよい。
【0014】
ここで、上記した各均しブレード36,37は矩形板状をなしており(図3)、図1に示されるように、粉末吐出口31を間にする粉末散布方向Fの前後に対向して配置されている。また、各均しブレード36、37は相互に、形成すべき薄層39の厚さ分だけ段差hが生じるように伸長端(下降端)と短縮端(上昇端)とが規制されている。また、各均しブレード36、37は、相互に対向する側の先端部側縁に20〜30度程度のテーパ面36a、37aを有している。さらに、粉末散布ノズル32の側面には、前記一対の均しブレード36、37の間隙から側方へ粉末が流出するのを規制する遮蔽板40が添設されている。なお、均しブレード36、37の材種は任意であるが、できるだけ耐摩耗性に優れた材料、例えば、ダイス鋼、高速度工具鋼、セラミックス等を選択するのが望ましい。
【0015】
以下、上記のように構成した粉末供給装置20の作用を説明する。
粉末積層造形に際しては、図1に示されるように、粉末散布ヘッド22の一対の均しブレード36、37のうち、粉末散布方向Fの前側となる一方の均しブレード(以下、これを第1均しブレードという)36を伸長端に、後側となる他方の均しブレード(以下、これを第2均しブレードという)37を短縮端にそれぞれ位置決めする。この時、積層エリアA内の昇降テーブル4上の粉末散布面C(前回形成された薄層または焼結層39Lの上面)に前記伸長端にある第1均しブレード36の先端がわずか接触するように昇降テーブル4が位置決めされている。粉末散布の開始に際しては、粉末散布ヘッド22が昇降テーブル4の片側に位置決めされており、この位置で、先ずモータ28によってスクリュフィーダ26のスクリュ29が回転すると共に、開閉バルブ33が開弁する。これによってホッパ25内の粉末24は、フレキシブルホース23を経て粉末散布ヘッド22へ圧送される。
【0016】
一方、上記した粉末24の圧送に合せて、図示を略す駆動手段により粉末散布ヘッド22がガイドレール38に沿って粉末散布方向Fへ所定の速度で移動する。すると、図1に示されるように、粉末散布ノズル32の粉末吐出口31から吐出した粉末24が、短縮端にある第2均しブレード37の端面と前記散布面Cとの間の間隙41を通じて外部へ流出し、前記散布面Cに堆積する。この場合、前記間隙41の高さすなわち両均しブレード36と37との段差hは、形成すべき薄層39の厚さと同じ値となっており、これにより粉末散布ヘッド22の通過跡には、所定の厚さ(h)を有する薄層39が形成される。また、前記間隙41を通じて外部へ流出する粉末の上面は、第2均しブレード37のテーパ面37aとその端面とによって押えられ(圧縮され)ているので、密度の高い薄層39が得られるようになる。本実施形態においては特に、均しブレード37の先端部にテーパ面37aが存在するので、粉末24はこのテーパ面37aのくさび効果によって効果的に圧縮され、薄層39の密度は十分に高くなる。さらに、前回形成された焼結層39Lの上面には、微小な突起39aが発生することが多いが、これら突起39aは粉末散布方向Fに対して先行する第1均しブレード36によって押し潰され、この結果、新たに形成された粉末の薄層39は均一な厚さとなる。
【0017】
上記粉末散布ヘッド22は、昇降テーブル4の反対側に到達した時点で移動停止され、これと同時に開閉バルブ33が閉弁しかつスクリュフィーダ26のモータ28が停止される。これによって積層エリアAの昇降テーブル4上には新たな薄層39が一面に形成され、その後は、従来と同様の手順で、レーザ発振器6からミラー7を経て出射されるレーザビームの照射によって新たな焼結層(結合層)Sが積層形成される。
【0018】
そして、上記新たな焼結層Sの形成が終了したら、先ず積層エリアAの昇降テーブル4が、形成すべき粉末の薄層39の一層分だけ下降し、続いて粉末散布ヘッド22内のソレノイド34、35が作動して、第1均しブレード36が短縮端に、第2均しブレード37が伸長端にそれぞれ位置決めされる。これにより、積層エリアA内の昇降テーブル4上の粉末散布面C(前回形成された薄層または焼結層の上面)に前記伸長端にある第2均しブレード36の先端がわずか接触する状態となる。その後は、再びモータ28によってスクリュフィーダ26のスクリュ29が回転すると共に、開閉バルブ33が開弁し、さらに、図示を略す駆動手段により粉末散布ヘッド22が、先の粉末散布方向Fと逆方向F´(図1)へ所定の速度で移動する。これによって粉末散布ヘッド22の移動跡には、新たな粉末の薄層が形成され、以降、前記レーザビームの照射、粉末散布ヘッド22による粉末散布が繰返されて、所望の三次元形状物が造形される。
【0019】
なお、上記実施形態においては、粉末散布ヘッド22内の一対の均しブレード36、37を昇降駆動する駆動手段としてソレノイド32を用いたが、この駆動手段は任意であり、シリンダ、電動機構等の他の手段を用いることができる。また、この一対の均しブレード36、37は、例えばリンク機構を介して連動可能に連結して、1つの駆動手段により昇降駆動させるようにしてもよい。
【0020】
ここで、上記実施形態においては、粉末散布ヘッド22をガイドレール38に沿って往復移動させるようにしたが、その移動方式は任意であり、例えば工業用ロボットに持たせて、該ロボットの動きを利用して移動させるようにしてもよい。
【0021】
また、上記実施形態においては、粉末供給源としての粉末圧送装置21と粉末散布ヘッド22とを別体に形成して両者をフレキシブルホース23によって接続するようにしたが、本発明は、粉末圧送装置21と粉末散布ヘッド22とを一体化してもよいもので、この場合は、図6に示した従来例と同様の態様で、一体の粉末供給装置が積層エリアA上を移動することになる。
【0022】
さらに、上記実施形態においては、レーザビームを粉末の結合及び積層に用いるレーザ照射方式の粉末積層造形に適用した例を示したが、本発明は、インクジェットによりバインダ(結合剤)を噴射して粉末粒子を接合しながら積層するインクジェット方式の粉末積層造形に適用できることももちろんで、この場合は、積層用昇降テーブル4の上方に配置したX−Yプロッタにインクジェットヘッドを持たせるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る粉末積層造形用粉末供給装置の要部構造と使用態様とを示す断面図である。
【図2】本粉末積層造形用粉末供給装置の全体的構造を示す断面図である。
【図3】本粉末造形装置を構成する均しブレードとその駆動手段であるソレノイドとを示す正面図である。
【図4】本粉末供給装置を適用した、レーザ照射方式の粉末積層造形の実施状況を示す模式図である。
【図5】従来の粉末積層造形用粉末供給装置の一般的な構造と使用態様とを示す模式図である。
【図6】従来の粉末積層造形用粉末供給装置の他の構造と使用態様とを示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
S 積層エリア
4 積層用昇降テーブル
6 レーザ発振器
7 ミラー
21 粉末圧送装置(粉末供給源)
22 粉末散布ヘッド
23 フレキシブルホース
24 粉末
25 ホッパ
26 スクリュフィーダ
31 粉末吐出口
32 粉末吐出ノズル
33 開閉弁
34、35 ソレノイド(駆動手段)
36、37 均しブレード
38 ガイドレール


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末の薄層を結合及び積層して三次元形状物を造形する粉末積層造形に用いる粉末供給装置であって、粉末を造形エリアに散布する粉末散布ヘッドを備え、該粉末散布ヘッドは、粉末吐出口を間にする粉末散布方向の前後に一対の均しブレードを昇降可能に設けており、前記一対の均しブレードは、粉末散布方向に対して後側となる均しブレードが、前側となる均しブレードよりも粉末の薄層の一層分だけ上昇する高さに位置決めされると共に、粉末散布方向に対して前側となる均しブレードが前記造形エリアの散布面に接触して位置決めされることを特徴とする粉末積層造形用粉末供給装置。
【請求項2】
一対の均しブレードが、相互に対向する側の先端部側縁にテーパ面を有していることを特徴とする請求項1に記載の粉末積層造形用粉末供給装置。
【請求項3】
粉末散布ヘッドに、一対の均しブレードを昇降させる駆動手段を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の粉末積層造形用粉末供給装置。
【請求項4】
駆動手段が、ソレノイドからなることを特徴とする請求項3に記載の粉末積層造形用粉末供給装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−205456(P2006−205456A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18470(P2005−18470)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】