説明

粒子光学装置

電子顕微鏡システム3及びイオンビーム加工システム7を備える粒子光学装置であって、電子顕微鏡システムの対物レンズを備え、この対物レンズは、被検査対象物の位置11に最も近い位置に配置されている、電子顕微鏡システムの構成要素としての環状電極を有する。この環状電極と、イオンビーム加工システム7の主軸9との間には、シールド電極81が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子顕微鏡システム及びイオンビーム加工システムを備える粒子光学装置に関する。
【0002】
小型構造素子を製造するために、イオンビームを用いて容易に試料を加工し、および、実質的に加工と同時に、電子顕微鏡を用いてこの加工の進行を観察することが必要とされている。
【背景技術】
【0003】
このために、被検査対象物に向けた一次電子ビームを電子顕微鏡の主軸に沿って照射する電子顕微鏡システムと、被検査対象物に向けたイオンビームをイオンビーム加工システムの主軸に沿って照射するイオンビーム加工システムとの複合装置が用いられうる。この場合、電子顕微鏡システムの主軸と、イオンビーム加工システムの主軸とは、相互に角をなすように傾けられ、両方のビームは、検査及び/又は加工されるべき対象物の共通の領域に方向づけられうる。このようなシステムは、例えば、特許文献1や、特許文献2により知られており、これらの開示の内容全体を本願明細書に援用する。
【0004】
そのようなシステムは、例えば、半導体ウェーハ内に加工された構造素子の構造についての情報を得るために採用されうる。例えば、イオンビームを用いてウェーハ表面に対して垂直な溝を刻み込み、電子顕微鏡を用いてイオンビームによる加工の進行を把握し、そして、溝の側面の電子顕微鏡画像を取得して加工済み半導体構造の断面図を生成する。このような加工の間、ウェーハの表面はイオンビームの方向に対して実質的に直交するように向けられ、このとき、電子ビームはウェーハの表面に対して斜め方向に向けられている。
【0005】
一般に、高解像度電子顕微鏡システムは、電子ビームを集束させるための磁気レンズ及び静電レンズを有する対物レンズを備える。ここで、静電レンズの電場は、被検査試料上にまで広がっている。例えば、電子顕微鏡システムの主軸に対して斜め方向の表面を有する半導体ウェーハを検査する場合、ウェーハが斜め方向に配置されることにより、電場が影響を受ける。即ち、静電レンズの回転対称な構成にも関わらず、その電場は非回転対称となり、電子ビームの集束及びビーム誘導に悪影響を与える。
【0006】
さらには、電子顕微鏡の対物レンズから漏洩する電場は、イオンビームのビーム誘導にも影響するため、イオンビームが所望の経路から外れてしまい、試料の所定位置に衝突できなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0184251号明細書
【特許文献2】米国特許第6,855,938号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、電子ビームの良好な集束及びビーム誘導を可能にすると共に、イオンビームを用いた正確な加工が可能な、電子顕微鏡システム及びイオンビーム加工システムを備える粒子光学装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、本発明に係る粒子光学装置は、被検査対象物に向けた一次電子ビームを電子顕微鏡の主軸に沿って照射する電子顕微鏡システムと、被検査対象物に向けたイオンビームをイオンビーム加工システムの主軸に沿って照射するイオンビーム加工システムとを含みうる。電子顕微鏡システムの主軸と、イオンビーム加工システムの主軸とは、相互に角をなすように傾けられ、電子顕微鏡システムは、対物レンズを有し、その対物レンズは、電子ビームを集束させる磁界レンズおよび静電レンズを有し、かつ、電子顕微鏡システムの主軸を通す環状電極を有する。この環状電極は、被検査対象物の位置の最も近くに配置された、電子顕微鏡システムの構成部品である。さらに、粒子光学装置は、シールド電極が環状電極およびイオンビーム加工システムの主軸との間に配置されていることを特徴とする。
【0010】
このような粒子光学装置は、電子顕微鏡システムの主軸に対して傾いた試料について、電子顕微鏡システムの環状電極に電圧を供給して、静電レンズから漏洩する電場に影響し、電子ビームの集束及びビーム誘導のための実質的に回転対称な構成を維持できる。また、この環状電極の電場により、シールド電極は、イオンビームの影響を実質的に回避できる。このように、従来の装置に比較して、電子ビームの集束及びビーム誘導が向上すると同時に、イオンビームへの影響が小さくなる。
【0011】
イオンビーム加工システムの主軸に直交する少なくとも1つの数学的直線が、シールド電極及び環状電極の両方と交差するという意味において、シールド電極は、環状電極と、イオンビーム加工システムの主軸との間に位置する。
【0012】
本発明の1つの実施態様によれば、シールド電極は、イオンビーム加工システムのハウジングの一部分に導電的に接続されており、この一部分は、被検査対象物の位置付近に位置する。従って、シールド電極は、例えば、イオンビーム加工システムのハウジングと共に、地電位に保持されうる。
【0013】
シールド電極は、環状電極と、イオンビーム加工システムの主軸との間に配置されたプレートの形状であっても良い。具体的には、シールド電極は、イオンビーム加工システムの主軸に面した表面を有しており、この表面は凹んで湾曲している。1つの実施態様によれば、シールド電極は部分的又は全体的にイオンビーム加工システムの主軸を包含するように曲げられている。具体的には、シールド電極はイオンビームの主軸が通るスリーブとして構成され、特に、このスリーブは、被検査対象物の位置に向かって円錐状に先細る。
【0014】
本発明の1つの実施態様によると、シールド電極はイオンビームの周囲で湾曲形状を呈すると規定され、被検査対象物の位置に面するこの電極の前面は、イオンビーム加工システムの主軸に垂直な数学的表面に対して斜め方向に延在することを特徴とする。具体的には、シールド電極の前面は、電子顕微鏡システムの主軸に垂直な表面に対して略平行に延在するように構成されうる。
【0015】
本発明の1つの実施態様によれば、電子顕微鏡システムの対物レンズの環状電極も、被検査対象物の位置に向かって円錐状に先細る形状であってもよい。
【0016】
本発明の1つの実施態様によれば、粒子光学装置は、環状電極に対して電圧を供給するように構成された電圧源を備える。具体的には、環状電極に供給される電圧が対物レンズから漏洩する電場に影響を与えて、好適には、電子顕微鏡システムの主軸に対して直交方向ではなく配置されている対象物表面による電場の広がりを低減するので、実質的に回転対称形状に近い電場の構成が得られる。従って、環状電極に供給する電圧を、電子顕微鏡システムの主軸に対する被検査対象物の角度に応じて調節することが有利である。
【0017】
従って、対物レンズの対象物に面する末端から被検査対象物までの所定の有効距離と、対象物の電子顕微鏡システムの主軸に対する向きについて、環状電極に供給する電圧を制御して、対物レンズから漏洩する電場が実質的に回転対称の構成とし、これに対応して、その状態における電子ビームの集束及びビーム誘導が満足される。
【0018】
いくつかの用途においては、実際上は、被検査対象物がイオンビーム加工システムの主軸に対して略直角に配置されていることが望ましい。従って、このような配置についても、環状電極に供給する電圧を有利に調節することができる。
【0019】
本発明の1つの実施態様によれば、被検査対象物の電子顕微鏡システムの主軸に対する所望の方向が決定し、かつ、この方向に対応して環状電極に供給する有利な電圧が決定した場合には、シールド電極は以下に示すような特定の幾何学的形状を有しうる。対物レンズから漏洩する電場の分布は、シールド電極の幾何学的形状に有意に影響される。例示した実施態様において、シールド電極の幾何学的形状は、イオンビーム加工システムの主軸に沿う電場が以下の関係を満たすように調節される。

【0020】
この積分式において、積分経路は、被検査対象物の位置から始まり、イオンビーム加工システムのイオン光学系の内部にいたるまでの、イオンビーム加工システムの主軸上に延在する。イオンビーム加工システムの主軸に垂直な方向の電場の成分に対して積分が実施され、その値は素電荷eで乗算され、被検査対象物からの距離で重み付けされる。積分した値を、被検査対象物の位置におけるイオンの運動エネルギーを2倍した値で割った値は、10μmより小さく、特に、5μmより小さいことを要する。
【0021】
シールド電極の幾何学的形状が上述の関係式を満たす場合は、電子顕微鏡システムの対物レンズから漏洩する電場によるイオンビームへの影響が小さく有利である。
【0022】
以下に、本発明の実施形態について、図を用いて更に詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】電子顕微鏡システム及びイオンビーム加工システムを備える従来の粒子光学装置を示す図である。
【図2a】従来の粒子光学装置における、対物レンズ内の電場及び磁場の様子と、電子ビーム及びイオンビームの様子を示す図である。
【図2b】図2aの詳細を示す図である。
【図3a】図2aの粒子光学装置において、供給電圧を変更した場合の、対物レンズ内の電場及び磁場の様子と、電子ビーム及びイオンビームの様子を示す図である。
【図3b】図3aの詳細を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に従う、粒子光学装置の詳細を示す図である。
【図5a】本発明の実施形態に従う粒子光学装置における、対物レンズ内の電場及び磁場の様子と、電子ビーム及びイオンビームの様子を示す図である。
【図5b】図5aの詳細を示す図である。
【図6a】図5aの粒子光学装置において、供給電圧を変更した場合の、対物レンズ内の電場及び磁場の様子と、電子ビーム及びイオンビームの様子を示す図である。
【図6b】図6の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、最新技術による粒子光学装置1の模式斜視図であり、本発明の実施態様の説明に用いる。粒子光学装置は、主軸5を有する電子顕微鏡システム3と、主軸9を有するイオンビーム加工システム7とを備える。電子顕微鏡システム3とイオンビーム加工システム7の主軸5と9は、それぞれ位置11において角度αを挟んで交差する。半導体ウェーハのような、表面15を有する非検査対象物13が、位置11周辺において、イオンビーム加工システム7の主軸9に沿って放射されるイオンビーム17を用いて加工され、また、電子顕微鏡システム3の主軸5に沿って放射される電子ビーム19を用いて検査されるように、角度αは、例えば45°〜55°である。対象物を保持するために、模式的に示したホルダ16が設けられ、対象物13を電子顕微鏡システムから一定距離に調節し、かつ、電子顕微鏡システムに対して相対的な方向に調節する。
【0025】
電子顕微鏡システム3は、一次電子ビーム19を生成するために、陰極23および陽極27と、その間に配置された抑制電極25と、抑制電極とは離間して配置される引き出し電極26とにより模式的に示される電子源21を備える。電子顕微鏡システム3は、ビーム管29に一体化する加速電極27と、環状コイル33およびヨーク35により模式的に示されるコリメータ装置31とを更に有する。一次電子ビームは、コリメータ装置31を経た後に、開口部37と、二次電子検出器41の中心孔39を通過する。そして、一次電子ビーム19は、電子顕微鏡システム3の対物レンズ43に入射する。対物レンズ43は、一次電子ビーム19を集束させる磁界レンズ45および静電レンズ47を備える。図1の模式図において、磁界レンズ45は環状コイル59、内側磁極片51および外側磁極片53を備える。静電レンズ47は、ビーム管29の下端55と、外側磁極片53の内側下端と、試料の位置11に向かって円錐状に先細る環状電極59とにより形成される。対物レンズ43を、図1に模式的に示すが、米国特許第6,855,938号明細書に更に詳細に示されるような構成でもよい。
【0026】
イオンビーム加工システム7は、引き出し電極65を有するイオン源63と、コリメータ67と、可変開口69と、偏向電極71と、フォーカスレンズ73とを有し、イオンビーム加工システム7のハウジング75から射出されるイオンビーム17を生成する。
【0027】
図2aに、電子顕微鏡システム3の主軸5及びイオンビーム加工システム7の主軸9の近傍の位置11に近い、対物レンズ43の領域における磁位線および電位線を示し、これにより、対物レンズ43の静電レンズ47および磁界レンズ45の詳細を示す。図2aは、磁極片ギャップが間に形成されるように配置される、内側磁極片55の下端と、外側磁極片53の内側下端とを示す。この磁極片ギャップを、電子顕微鏡システムの主軸5に向かって延びる磁位線が通り、電子ビーム19のための磁界レンズを形成する。
【0028】
静電レンズ47は、ビーム管29の下端及び環状電極59の間の電位差により形成された電場により形成される。図2に示した状態において、環状電極59は外側磁極片53および試料表面15と共に地電位に保持され、ビーム管29は、例えば、8000Vの電位に保持される。ビーム管29の下端および環状電極59の間の電場強度が高いため、明確のために、その電場の電位線は図示しない。図2aにおいては、対物レンズ43から電場が漏洩する領域のみを、50V、45V、・・・10V、5Vの電位線により示す。50Vの電位線の広がりから理解できるように、電子顕微鏡システムの主軸5に対して、対物レンズ43から漏洩する電場の回転対称性は、それ自体は0Vの電位を保持している試料表面15が傾いていることにより著しく損なわれる。このことは、特に、対象物13に導かれた電子ビームのエネルギーが低い場合に、電子ビーム19の集束およびビーム誘導に悪影響を与える。これについて、図2bに領域11周辺の拡大図を示す。図2bにおいて、線19a、19b、19c、19dおよび19eは、それぞれ、20kev、10kev、5kev、2kev、1kevのエネルギーを有する電子線19の主軸を示す。電子ビームの運動エネルギーが減少するにつれて、電子顕微鏡システムの主軸5が、表面15と交差する点から次第に距離を大きくして、電子ビームが対象物13の表面15に衝突するようになっている。これは図2bに示した縮尺からも読み取り可能であり、図2bにおいて、主軸5と表面15とが交差する点が0μmに位置する場合、エネルギー2kevの電子線19dと表面15の交差する点が−65μmに位置し、エネルギー1kevの電子線19eと表面15との交差する点が−130μmに位置する。
【0029】
イオンビーム17が表面15に衝突する位置もまた、イオンビームのエネルギーに依存する。図2bは、それぞれ、エネルギーが30kev、20kev、10kevおよび5kevのイオンビーム17についての、主軸17a、17b、17cおよび17dを示す。エネルギー5kevのイオンビーム17dは、イオンビーム加工システムの主軸9が対象物の表面15と交差する位置から−25μmの位置に衝突する。
【0030】
図3aは、対物レンズ43から漏洩する電場の非対称性を低減するための措置を示す。図3aによれば、電圧−150Vが、ブロック60として模式的に示す電源から環状電極59に供給され、これにより、試料付近の電場分布が図2aと比較して対称になる。このことは、図2bに対応して図3bに図示したことからも明らかなように、電子ビームの集束及びビーム誘導について有利な効果を有する。図3bにおいても、それぞれ、20keV、10keV、5keV、2keV、1keVのエネルギーを有する電子ビーム19a〜19eを示すが、ここで、エネルギー1keVのビーム19eは、電子顕微鏡システムの主軸5から10μm以下の位置で、対象物13の表面に衝突する。
【0031】
環状電極59に負の電位が供給されることで、電子ビーム19の集束を改善するという有利な効果が生ずる一方で、他方では、イオンビームが表面15に衝突する位置がエネルギーに強く依存するため、イオンビームによる対象物の加工が困難になるという不利益が生ずる。図3bにおいても、それぞれ、30keV、20keV、10keV、5keVのエネルギーを有するイオンビームの主軸17a〜17dを示すが、ここで、エネルギー5keVのビーム17dは、電子顕微鏡システムの主軸9から+75μmの位置で、表面15に衝突する。
【0032】
本発明の実施形態によれば、この不利点は、対象物付近の領域において、環状電極59とイオンビーム加工システム7の主軸9との間に適切なシールド電極を配置することで大幅に低減できる。
【0033】
図4は上述したようなシールド電極81であって、イオンビーム加工システムの主軸9に沿って対象物15に向かって円錐状に先細るスリーブとして構成されている。このスリーブは、イオンビーム加工システム7のハウジング75のフランジ83に固定されている。円錐状シールド電極81の前面は対象物15に面し、イオンビーム加工システム7の主軸9に対して斜め方向に延びている。
【0034】
図4に参照符号15を付した直線は、主軸9に対して垂直方向にある場合の対象物表面を示す。参照符号15’を付した直線は、電子顕微鏡システム3の主軸5に対して、略垂直に配置された場合の対象物表面を示す。図4に示した実施形態では、シールド電極81の前面85が表面15’に略平行に位置づけられている。
【0035】
図5aは図2aに対応するが、ここでは、0Vの電位が環状電極59に供給され、シールド電極81が電場に与える影響が比較的低いことを示している。
【0036】
図5bは図2bに対応するが、ここでは、直線19a〜19eは、それぞれ、20keV、10keV、5keV、2keVおよび1keVのエネルギーの電子ビームの主軸を示し、直線17a〜17dは、それぞれ、30keV、20keV、10keVおよび5keVのエネルギーのイオンビームの主軸を示す。図2bと同様に、エネルギー1kevの電子ビーム19eは、電子顕微鏡システムの主軸5が対象物の表面15と交差する位置から−130μmの位置に衝突する。同様に、エネルギー5kevのイオンビーム17dは、イオンビーム加工システムの主軸9が対象物の表面15と交差する位置から−25μmの位置に衝突する。
【0037】
図6aは図3aに対応するが、ここでも、−150Vの電位が環状電極59に供給され、電子ビームの集束及びビーム誘導のための電場を対称化する。図6aから、シールド電極81の電場の分布に対する顕著な影響が明白である。図3bに対応する図6bからも明らかなように、シールド電極81の影響により、電子ビーム19およびイオンビーム17の両方に良好な集束とビーム誘導が可能となることは明白である。図6bにおいても、直線19a〜19eは、それぞれ、20kev、10kev、5kev、2kev、1kevのエネルギーを有する電子線19の主軸を示す。電子ビーム19eは、電子顕微鏡システムの主軸5が対象物の表面15と交差する位置から−5.7μmの位置に衝突するが、これは、図2に比較して良好な結果を示す。以下に詳述するように、シールド電極81の幾何学的形状を特別に設定したために、それぞれエネルギー30keV、20keV、10keVおよび5keVのイオンビームの主軸17a〜17dが実質的に一致し、また、イオンビーム加工システムの主軸9や、電子顕微鏡システムの主軸5が、対象物13の表面15と交差する位置とも一致する。即ち、イオンビーム17が衝突する位置は、イオンビームのエネルギーからは実質的に独立している。これは、図2b及び3bに比較して、非常に良好な結果である。
【0038】
イオンビームが対象物13の表面15に衝突する位置が、実質的にエネルギーに依存しなくなるのは、シールド電極81の幾何学的形状を特に選択したことによる。図6aからも明白なように、イオンビームは、イオン光学系のハウジング75からの出射経路を経て、対象物13の表面15に向かう過程で、軸9に対して横断方向の電場の電場成分が図6において右手方向に方向付けられている領域を経て、次いで、電場成分が左手方向に方向付けられている領域を経る。これは、イオンビームが、先ず右手側に偏向して、表面15への衝突の直前に左手側に偏向することの原因となる。このような右手、左手方向の偏向が相互に補償して零となる様に、シールド電極の幾何学的形状を調節する。この場合、下記の関係性が成り立つ。この関係式の詳細については既述した。

【0039】
従って、本発明の実施形態に従う粒子光学装置は、基本的には、図1を参照して既に説明した電子顕微鏡システムの構成と同様であるが、電子顕微鏡システムの対物レンズの環状電極と、イオンビーム加工システムの主軸との間に、シールド電極が追加的に配置している。例えば、シールド電極は図4を参照して述べたような構成である。しかし、シールド電極は必ずしもスリーブとして構成されて、イオンビーム加工システムの主軸9を包含する必要はなく、異なる形状であってもよい。例えば、シールド電極は、対物レンズの環状電極とイオンビーム加工システムの主軸との間に配置された、略平面のプレートであっても良い。
【0040】
図1に示すように、イオンビーム加工システムは、ビーム偏向器71を備え、イオンビーム加工システム7の主軸9からイオンビームを偏向させるので、イオンビーム17は、対象物13の表面15上の、イオンビーム加工システム7の主軸9と表面15とが交差する位置11とは異なる位置で衝突しうる。しかし、図2、3、5および6において、それぞれ参照符号17a〜17dを付して示されるイオンビームは、ビーム偏向器の制御により主軸9からずらされているのではなく、単に、電子顕微鏡システムの対物レンズから漏洩する電場の影響によって主軸9から偏向される。
【0041】
同様にして、電子顕微鏡システムも、図1には示さないが、一般的に対物レンズ内に配置されているような、電子ビームのためのビーム偏向器を備える。これらのビーム偏向器を用いて、電子ビームは、被検査対象物の表面上を走査して、対象物の走査電子顕微鏡記録が得られる。しかし、図2、3、5および6において、それぞれ参照符号19a〜19eを付して示される電子ビームは、ビーム偏向器の制御により電子顕微鏡システムの主軸5から偏向されるのではなく、単に、電子顕微鏡システムの対物レンズから漏洩する電場の影響によって偏向される。
【0042】
上述の実施形態では、シールド電極81は、イオンビーム加工システムのハウジング75に導電的に接続されるので、大半の用途において地電位に保持される。
【0043】
しかし、電圧源を用いて電位を供給することも可能であり、この場合の電位は地電位とは異なる。イオンビーム加工システムのハウジングから、シールド電極を絶縁することも有意義である。そのような電圧をシールド電極に供給すると、被検査対象物の前方における電場が影響を受け、特に、電子ビーム及びイオンビームのビーム誘導が更に最適化されうる。このことは、とくに、特定の角度αについて、シールド電極の幾何学的形状の選択によっては、上述した関係式により定義される関係を満足させることができない場合に、有効に活用し得る。とくに、シールド電極に供給される電圧を変更することで、対象物のビーム軸に対する複数の異なる角度αについて、上述の式により決定される関係性を満たすことが可能になる。
【0044】
要約すると、電子顕微鏡システム及びイオンビーム加工システムを備える粒子光学装置は、電子顕微鏡システムの対物レンズを備え、この対物レンズは、被検査対象物の位置に最も近い位置に配置される、電子顕微鏡システムの構成要素としての環状電極を有する。そして、その環状電極とイオンビーム加工システムの主軸との間には、シールド電極が配置されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡システム(3)の主軸(5)に沿って被検査対象物(13)に向けて一次電子ビーム(19)を照射する電子顕微鏡システム(3)と、
イオンビーム加工システム(7)の主軸(9)に沿って前記被検査対象物(13)に向かってイオンビームを照射するイオンビーム加工システム(7)とを備え、前記電子顕微鏡システム(3)の前記主軸(5)と前記イオンビーム加工システム(7)の前記主軸(9)とは、角度(α)を成すように相互に方向づけられており、
前記電子顕微鏡システム(3)は、前記電子ビーム(19)を集束させるための、磁界レンズ(45)および静電レンズ(47)を備える対物レンズ(43)を備え、かつ、前記電子顕微鏡システム(3)の前記主軸(5)が通る環状電極(59)を備え、該環状電極(59)は、前記被検査対象物(13)の位置(11)近傍に配置された前記電子顕微鏡システム(3)の構成要素であって、
前記環状電極(59)と、前記イオンビーム加工システム(7)の前記主軸(9)との間に配置された、シールド電極(81)を特徴とする、粒子光学装置。
【請求項2】
前記シールド電極(81)は、前記イオンビーム加工システム(7)の前記主軸(9)に垂直な、少なくとも1つの数学的な直線が、前記シールド電極(81)および前記環状電極(59)の両方と交差するように配置されたことを特徴とする、請求項1に従う粒子光学装置。
【請求項3】
前記シールド電極(81)は、前記イオンビーム加工システム(7)のハウジングの1部分に導電的に接続されており、前記1部分は、前記被検査対象物(13)の前記位置(11)の最近傍に位置することを特徴とする、請求項1または2に従う粒子光学装置。
【請求項4】
前記シールド電極(81)に電圧を供給するための電圧源を更に備える、請求項1または2に記載の粒子光学装置。
【請求項5】
前記イオンビーム加工システム(7)の前記主軸(9)に面する、前記シールド電極(81)の表面が、凹んで湾曲していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の粒子光学装置。
【請求項6】
前記シールド電極(81)は、前記イオンビーム加工システム(7)の前記主軸(9)を、少なくとも部分的に包含するスリーブとして構成されていることを特徴とする、請求項5に従う粒子光学装置。
【請求項7】
前記スリーブは、前記被検査対象物(13)の前記位置(11)に向かって、円錐状に先細ることを特徴とする、請求項6に従う粒子光学装置。
【請求項8】
前記被検査対象物(13)の前記位置に面する、前記シールド電極(81)の前面(85)が、前記イオンビーム加工システム(7)の前記主軸(9)に対して垂直な数学的な面(15)に対して斜め方向に延在することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の粒子光学装置。
【請求項9】
前記シールド電極(81)の前記前面(85)は、前記イオンビーム加工システム(3)の前記主軸(5)に対して垂直な数学的な面(15’)に対して略平行に延在することを特徴とする、請求項8に従う粒子光学装置。
【請求項10】
前記環状電極(59)は、前記被検査対象物(13)の前記位置(11)に向かって、円錐状に先細ることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の粒子光学装置。
【請求項11】
前記環状電極(59)に電圧を供給するための電圧源(60)を更に備える、請求項1〜10のいずれか1項に記載の粒子光学装置。
【請求項12】
前記被検査対象物(13)を、前記電子顕微鏡システム(3)の前記主軸(5)に対して、前記対象物の表面の少なくとも2つの異なる方向において保持するように構成された対象物ホルダ(16)を更に含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の粒子光学装置。
【請求項13】
前記粒子光学装置(1)の操作中に前記電源(60)から前記環状電極(59)に供給される電圧は、前記電子顕微鏡システム(3)の前記主軸(5)に対する角度が異なる前記被検査対象物(13)の前記表面(15)について、異なる値であることを特徴とする、請求項11に従属する請求項12に記載の粒子光学装置。
【請求項14】
前記シールド電極(81)が、
前記対象物(13)の前記表面(15)の方向が前記イオンビーム加工システム(7)の前記主軸(9)に略垂直であって、対応して操作中に前記環状電極(59)に供給される電圧を調節する場合に、
イオンビーム加工システムの主軸に沿った電場の分布が以下の関係性を満たすように構成され、

eは、素電荷を表し、
zは、前記対象物(13)の前記表面(15)からの、前記イオンビーム加工システム(7)の前記主軸(9)に沿った距離を表し、

は、前記対象物(13)の前記表面(15)から、前記主軸(9)に沿って距離zだけ離れた位置に配置された、前記イオンビーム加工システム(7)の前記主軸(9)に垂直な電場成分を表し、
Zは、前記イオンビーム加工システム(7)の前記主軸(9)に沿った、前記イオンビーム加工システムのイオン光学系内の位置までの距離を表し、
Wkinは、前記対象物の位置における、前記イオンビームのイオンの運動エネルギーを表すことを特徴とする請求項13に記載の粒子光学装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【公表番号】特表2010−512628(P2010−512628A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540623(P2009−540623)
【出願日】平成19年11月23日(2007.11.23)
【国際出願番号】PCT/EP2007/010193
【国際公開番号】WO2008/071303
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(504020452)カール・ツァイス・エヌティーエス・ゲーエムベーハー (36)
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss NTS GmbH
【Fターム(参考)】