説明

粒子状物質検出素子

【課題】一対の電極間に堆積する粒子状物質の量によって変化する電気的特性を検出して被測定ガス中に含まれる粒子状物質の量を検出する粒子状物質検出素子の不感時間の安定化を図り、信頼性の高い粒子状物質検出素子を提供する。
【解決手段】絶縁性耐熱材料を用いて検出部11の所定の範囲を遮蔽層形成領域として覆う電界強度不均一領域遮蔽層130を設け、電界強度不均一領域遮蔽層130が、電気的特性を検出すべく検出電極110、120間に電圧を印加したときに検出部11に形成される電界強度の均一な領域を被測定ガスに露出させ、電界強度の不均一な領域を被測定ガスから隔絶せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両用内燃機関の排気浄化システムに好適に利用されて、被測定ガスとなる排出ガス中に存在する粒子状物質を検出する粒子状物質検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ディーゼルエンジン等において、排気ガスに含まれる環境汚染物質、特に煤粒子(Soot)及び可溶性有機成分(SOF)を主体とする粒子状物質(Particulate Matter;以下、適宜PMと称する)を捕集するために、排気通路にディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、適宜DPFと称する)を設置することが行われている。DPFは、耐熱性に優れる多孔質セラミックスからなり、多数の細孔を有する隔壁に排気ガスを通過させてPMを捕捉する。
【0003】
DPFは、PM捕集量が許容量を超えると、目詰まりが生じて圧力損失が増大したり、PMのすり抜けが増加したりする虞があり、定期的に再生処理を行って捕集能力を回復させている。
【0004】
DPFの再生時期は、一般的には、PM捕集量の増加により前後差圧が増大することを利用して決定されている。このため、DPFの上流及び下流の圧力差を検出する差圧センサが設置される。再生処理は、ヒータ加熱あるいはポスト噴射等により高温の燃焼排気をDPF内に導入し、PMを燃焼除去することによって行われる。
【0005】
一方、燃焼排気中のPMを直接検出可能な粒子状物質検出センサ(以下、適宜、PMセンサと称する。)について種々提案されている。このPMセンサを、例えばDPFの下流に設置して、DPFをすり抜けるPM量を測定し、車載式故障診断装置(OBD;On Board Diagnosis)において、DPFの作動状態の監視、例えば亀裂や破損といった異常の検出に利用することができる。
【0006】
あるいはDPFの上流に設置して、DPFに流入するPM量を測定し、差圧センサに代わる再生時期の判断に利用することも検討されている。
【0007】
このようなPMセンサの基本的な構成として、特許文献1には、絶縁性を有する基板の表面に、一対の導電性電極を形成し、基板の裏面又は内部に発熱体を形成した電気抵抗式のスモークセンサが開示されている。
このセンサは、スモーク(微粒炭素)が導電性を有することを利用したもので、検出部となる電極間に、スモークが堆積することで生じる抵抗値の変化を検出する。
発熱体は、検出部を所望の温度(例えば、400℃〜600℃)に加熱し、電極間抵抗を測定した後に、付着したスモークを焼き切って検出能力を回復させる。
【0008】
また、この種のPMセンサでは、検出部以外の表面へのPMの堆積による導電経路の形成に伴う誤作動を防止すべく、検出部を除く基板の表面を、気密な絶縁物質によって被覆して絶縁保護している(特許文献1図1等)。
【0009】
さらに、この種のPMセンサにおいては、検出電極間に一定量以上のPMが堆積するまでは、検出電極間の抵抗が極めて大きく、出力が検出されない不感時間(質量)が存在することが知られている。
【0010】
特許文献2には、櫛歯状に形成された検出電極間に印加する電圧を可変とし、測定開始初期には高い電圧の印加により検出電極間の電界強度を高くし、PMの堆積速度を促進させ、不感時間の短縮を図り、不感時間経過後には低い電圧の印加により、検出電極間の電界強度を低くしてPMの堆積速度を低下させて、再生処理を必要とするまでの期間の延長を図っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、検出電極間に高電圧を印加することによりPM堆積速度の促進を図ろうとする場合、対向する一対の検出電極が特許文献2にあるような櫛歯状に形成されている場合、検出電極の先端部は電界集中により電界強度が高くなり、リード部に直交するように接続された検出電極の根本部は電界強度が低くなり、検出電極間に電界強度が不均一となる部分が存在する。
【0012】
このように電界強度に不均一な部分が存在すると、PMの堆積速度が一定とならず、不感質量にバラツキを生じることが判明した。特に、特許文献2にあるように、印加電圧を高くしてPMの堆積量の増加を図ろうとした場合に、このような電界強度の分布が生じていると、電界強度の高い部分にPMが堆積し易く、電界強度の低い部分との堆積量の差が拡大され、不感質量のバラツキが大きくなる虞がある。
不感質量のバラツキが大きいと、その後の出力結果にも影響するためセンサとしての信頼性が損なわれる。
【0013】
そこで、本発明は、係る実情に鑑み、一対の電極間に堆積する粒子状物質の量によって変化する電気的特性を検出して被測定ガス中に含まれる粒子状物質の量を検出する粒子状物質検出素子の不感時間の安定化を図り、信頼性の高い粒子状物質検出素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の発明は、被測定ガス中に配設される絶縁性基体の表面に所定の間隙を隔てて対向する一対の検出電極によって検出部を設け、該検出部に堆積する粒子状物質の量によって変化する電気的特性を検出して被測定ガス中の粒子状物質を検出する粒子状物質検出素子であって、絶縁性耐熱材料を用いて上記検出部の所定の範囲を遮蔽層形成領域として覆う電界強度不均一領域遮蔽層を設け、該電界強度不均一領域遮蔽層が、上記電気的特性を検出すべく上記検出電極間に電圧を印加したときに上記検出部に形成される電界強度の均一な領域を被測定ガスに露出させ、電界強度の不均一な領域を被測定ガスから隔絶せしめたことを特徴とする(請求項2)。
【0015】
第2の発明では、上記電界強度不均一領域が、上記検出電極の長辺部を基準線として一対の上記検出電極間に電圧を印加したときに形成される電界の等電位線と上記基準線とが略平行となる範囲を除く領域である(請求項2)。
【0016】
より具体的には、第3の発明のように、上記電界強度不均一領域が、上記基準線と上記等電位線とのなす角度が±3°を超える領域である(請求項3)。
【0017】
本発明によれば、電界強度の不均一な領域に粒子状物質が堆積せず、上記遮蔽層開口部から露出した電界強度均一領域にのみ粒子状物質が堆積するため、局所的な粒子状物質の偏在が抑制され、不感時間が一定となり、検出出力の安定化を図ることができる。
例えば、それぞれの検出電極の幅を150μm,対向する検出電極間の距離を50μm、一方の検出電極先端部から他方の検出電極リード部までの距離を50μmとしたとき、上記遮蔽層によって覆う領域は、少なくとも、検出電極の先端から50μm、即ち、一方の検出電極先端部から他方の検出電極リード部までの距離と同等の距離、又は、それ以上とするのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態における粒子状物質検出素子の概要を示し、(a)は、展開斜視図、(b)は、要部平面図、(c)は、要部断面図。
【図2】図1に示す粒子状物質検出素子の検出電極間に形成される電界の等電位線及び電気力線を示す平面模式図。
【図3】図1に示す粒子状物質検出素子の検出電極間に形成される電界の強度分布図。
【図4】図1に示す粒子状物質検出素子の検出電極間に形成される電界の有限要素法による電界解析図。
【図5】本発明の効果を比較例と共に示し、(a)は、センサ出力の経時変化を示す特性図、(b)は、本図(a)中A部の拡大図。
【図6】(a)から(f)に、本発明の第1の実施形態における粒子状物質検出素子とその変形例における電界強度分布を示す電界強度分布図。
【図7】本発明の第2の実施形態における粒子状物質検出素子の概要を示し、(a)は、展開斜視図、(b)は、要部平面図。
【図8】図7に示す粒子状物質検出素子に形成される電界の状態を示し、(a)は、等電位線及び電気力線を示す平面模式図、(b)は、電界強度分布図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の粒子状物質検出素子10は、内燃機関の排気浄化装置に適用されて、被測定ガス中に配設される検出部11に堆積する粒子状物質の量によって変化する電気抵抗や静電容量等の電気的特性を検出して、被測定ガス中に含まれる粒子状物質の検出に好適に利用されるものである。具体的には、DPFの下流に設置されて、DPFの異常検出に利用することができる。あるいは、DPFの上流に設置されて、DPFに流入する粒子状物質PMを直接検出するシステムに利用することもできる。
本発明の粒子状物質検出素子10は、検出部11に形成される電界強度が均一な部分のみが被測定ガスに晒されているので粒子状物質の堆積に偏りが生じ難くなり、不感質量の安定化を図り、信頼性の高い粒子状物質の検出を実現することができるものである。
【0020】
図1を参照して、本発明の第1の実施形態における粒子状物質検出素子10の概要について説明する。
本図(a)に粒子状物質検出素子10は、検出部11と保護層13とヒータ部14とが積層されて一体に形成されている。
【0021】
検出部11は、略平板状の絶縁性基体100と、その表面に形成された一対の検出電極110、120とによって構成されている。
絶縁性基体100は、アルミナ、チタニア、ジルコニア、スピネル等の酸化物セラミックス、又は、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化硅素等の非酸化物セラミックス等の絶縁性耐熱材料を用いてドクターブレード法等の公知の方法により略平板状に形成されている。検出電極110、120は、Pt等の導電性材料を用いて、厚膜印刷、メッキ、蒸着等の公知の方法により形成されている。
本実施形態においては、検出電極110と検出電極120とは、それぞれ、外部に設けられた図略の検出回路部との導通を図る検出電極リード部111、121及び検出電極端子部112、122に接続されており、検出電極リード部111、121に直交するように並んだ複数の検出電極110と検出電極120とが交互に対向するように櫛歯状に形成されている。
【0022】
保護層13は、検出部11の表面側に積層して形成され、本発明の要部である電界強度不均一領域遮蔽層130と、遮蔽層開口部131と、従来からある検出電極リード部111、121を絶縁保護する絶縁保護層132とによって構成されている。
電界強度不均一領域遮蔽層130は、検出部11の所定の範囲を遮蔽層形成領域として覆っている。
【0023】
電界強度不均一領域遮蔽層130はアルミナ、チタニア、ジルコニア、スピネル等の酸化物セラミックス、又は、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化硅素等の非酸化物セラミックス、若しくは、耐熱性ガラス等の耐熱性絶縁材料を用いて、ドクターブレード法、厚膜印刷、CIP、HIP等の公知の方法によって略平板状に形成されている。
【0024】
具体的な蔽層形成領域は、検出電極110、120の先端部及び検出電極リード部111、121との接続部を含み、検出電極110、120間に形成される電界の等電位線が、検出電極110、120の長手方向の側縁に対して略平行となる領域である。
【0025】
さらに具体的には、検出電極110、120の長手方向の側縁を基準線としたときに、検出電極110、120間に形成される電界の等電位線のなす角度が、基準線に対して±3°を超える範囲を蔽層形成領域とする。
より具体的には、例えば、それぞれの検出電極110、120及び検出電極リード部111、121の幅を150μmとし、対向する検出電極110、120間の距離Dを50μmとし、一方の検出電極110、120の先端縁から他方の検出電極リード部121、111の側端縁までの距離を50μmとしたとき、電界強度不均一領域遮蔽層130によって覆う領域は、少なくとも、検出電極110、120の先端縁から50μm、即ち、一方の検出電極110、120の先端縁から対向する他方の検出電極リード部121、111の側端縁までの距離Dと同等の距離、即ち、少なくとも50μm、又は、検出電極リード部を含めて200μm以上とするのが望ましい。
さらに、検出電極110、120の先端縁から、例えば、5μm程度の範囲でそれぞれの検出電極110、120の一部を覆うようにしても良い。
【0026】
電界強度不均一領域遮蔽層130には、遮蔽層開口部131が形成され、電気的特性を検出すべく検出電極110、120間に電圧を印加したときに検出部11に形成される電界強度の均一な領域を被測定ガスに露出させ、電界強度の不均一な領域を被測定ガスから隔絶せしめている。
したがって、所定の開口幅W及び開口長Lで形成された遮蔽層開口部131からは、本図(b)に示すように、複数の検出電極110、120の直線部分が平行に並んだ領域が被測定ガスに対して露出している。
【0027】
さらに、本図(c)に示すように、遮蔽層形成領域においては、電界強度不均一領域遮蔽層130によって、検出電極110、120の表面が覆われているだけでなく、検出電極110、120間にも電界強度不均一領域遮蔽層130が介在しており、検出電極110の先端部と検出電極リード部121との間、又は、検出電極120の先端部と検出電極リード部111との間の絶縁性が確保されている。
【0028】
検出部11の裏面側に積層してヒータ部14が設けられている。
ヒータ部14は、絶縁性基体101の表面又は内部に形成された発熱体140と発熱体140と外部の通電制御装置とを接続する一対の発熱体リード部141a、141b、スルーホール電極142a、142b、発熱体端子部143a、143bとによって構成されている。
発熱体140には、Pt、W、MoSi、WC等の通電により発熱する導電性セラミックが用いられ、ドクターブレード法、CIP、HIP、厚膜印刷等の公知の方法により形成されている。
【0029】
図2から図4を参照して本発明の原理について説明する。
粒子状物質検出素子10の検出電極110、120間に検出電極110を正極とし、検出電極120を接地電極として電圧+V(例えば30V)を印加すると、検出電極110、120間に電界が形成される。
このとき、図2に示すように、検出電極110、120の長手方向に伸びる長辺部が平行に並んで対向する部分では、検出電極110の長辺を基準線としたとき、等電位線が基準線に対して略平行となるように電位が変化し、電気力線は検出電極110から検出電極120に対して略直交する方向に示すことができる。
【0030】
しかし、一方の検出電極110、120の先端部は、互いに、他方の検出電極120、110の根本部と検出電極リード部121、111とによって略コ字によって取り囲まれている。
このため、一方の検出電極110、120の先端とその周囲を略コ字型に取り囲む他方の検出電極120、110及び検出電極リード部121、111との間に形成される等電位線は湾曲し、電気力線は、略扇状に広がるように、又は、逆扇状に収束するように形成される。
【0031】
このため、図3に示すように、検出電極110、120の先端部に電界集中が起こりその近傍の電界強度が高くなり、検出電極110、120と検出リード部111、121とが接続する検出電極110、120の根本部は電界強度が低くなる。
本図に示すように、電界強度均一領域は、検出電極110、120の長辺部分が平行に並んで対向する部分の一定の範囲に限られ、検出電極110、120の先端部周辺に電界強度が不均一となる領域が形成されることが分かる。
本発明においては、この電界強度が不均一となる領域を遮蔽層形成領域として、絶縁性耐熱材料を用いて電界強度不均一領域遮蔽層130を形成してある。
なお、図2、3は、二次元ラプラス方程式(∂U/∂x+∂U/∂y=0)を差分法により解いたシミュレーション結果に基づくものである。
【0032】
図4は、有限要素法によって解析した、電界解析図である。本図中Aに示すように、検出電極110の長辺部と検出電極120の長辺部とが対向する位置は、電界が一様に形成され、電界ベクトルが検出電極110、120に対して略直交している。
一方、本図中Bに示すように、検出電極110の先端を検出電極120及び検出電極リード部121が略コ字型に取り囲む部分では、電界ベクトルが放射線状に広がっていることが分かる。
【0033】
図5及び表1を参照して、本発明の効果について説明する。図5は、本発明の効果を確認すべく比較例と共に行った試験結果を示す特性図である。
本発明の電界強度不均一領域遮蔽層を形成していない粒子状物質検出素子を用いた試験結果を比較例1とし、基準線に対して等電位線のなす角度が7°以上、又は、−7°以下となる範囲に電界強度不均一領域遮蔽層を形成した粒子状物質検出素子を用いた試験結果を電比較例2とし、基準線に対して等電位線のなす角度が3°以上、又は、−3°以下となる範囲に電界強度不均一領域遮蔽層を形成した粒子状物質検出素子を用いた試験結果を実施例1として示す。
【0034】
評価環境としてエンジンベンチを用い、定常走行において、酸化触媒後方120cmの位置に本発明の粒子状物質検出素子及び比較例として上述の検出素子を載置し、被測定ガス中のPM濃度を0.4mg/sとしてセンサ出力の経時変化を測定し、その結果について横軸をPM総排出量(mg)縦軸をセンサ出力(V)として図5に示す。
【0035】
計測開始からセンサ出力の検出限界である0.01V以上の出力の立ち上がりが得られるまでの不感時間から不感質量を算出し、その平均値(Xバー)と標準偏差(σ)を算出し、変動係数CV/Xバー×100)(%)を不感質量検出バラツキとし、一定のPM総排出量経過時におけるセンサ出力の平均値(Vバー)と標準偏差(σ)を算出し、変動係数CV(σ/Vバー×100)(%)を出力バラツキとし、その結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1及び図5に示すように、比較例1では、不感質量の検出バラツキCVが5%以上あり、被測定ガス中に一定のPM総排出量(例えば、100mg)が排出された一定PM総排出量経過時におけるセンサの出力バラツキCVは10%以上と大きく、判定結果として×印を付した。
一方、比較例2では、比較例1に比べて改善されているが、不感質量の検出バラツキCVが3%〜5%程度あり、一定PM総排出量経過時におけるセンサの出力バラツキCVも5〜10%と、改善は見られるものの依然大きく、判定結果として○印を付した。
本発明の実施例1では、不感質量の検出バラツキCVは3%以内で、一定PM総排出量経過時におけるセンサの出力バラツキCVは、5%以内となり、判定結果として◎印を付した。以上のように本発明効果が確認された。
【0038】
図6を参照して本発明の第1の実施形態における粒子状物質検出素子10とその変形例における電界強度分布の解析結果について説明する。なお、図6(a)から(f)に、各実施形態における電界強度均一領域の電界強度レベルを△印で示した。
検出電極110の長辺部と検出電極120の長辺部との間隙をDとし、検出電極110、120の先端部から検出電極リード部121、111までの間隙を同じくDに形成した場合、本図(a)に示すように、検出電極110、120の先端部周辺の電界が不均一となり、平行に対向する検出電極110、120間の電界強度がWの幅で均一となる。
【0039】
本図(b)に示す変形例10aでは、検出電極110a、120aの先端部から検出電極リード部111、121までの距離を長辺部の間隙Dの2倍に形成してある。
このような構成としたときには、長辺部における電界強度が均一となる領域Waは、本図(a)の場合に比べ、狭くなるが、検出電極110、120の先端部での電界集中が抑制されるので、相対的に電界均一領域Waにおいける電界強度は、本図(a)の場合よりも高くなる。
したがって、本実施形態のような構成とすれば、上記実施形態と同様に、不感質量検出バラツキを抑制する効果に加え、PMの堆積速度の向上を図り、不感時間のさらなる短縮を図ることもできる。
【0040】
また、本図(c)に示す変形例10bでは、検出電極110a、120aの先端部から検出電極リード部111、121までの距離を長辺部の間隙Dの2分の1に形成してある。
このような構成とした場合には、検出電極110b、120bの先端部近傍の電界強度がさらに高くなり、長辺部の電界強度均一領域Wbにおける電界強度は相対的に低くなる。
しかし、本発明によれば、検出電極110b、120bの先端部と検出リード部121、111との間が、電界強度不均一領域遮蔽層130によって絶縁されているので、この間で短絡する虞がない。
また、電界強度の高い部分は、電界強度不均一領域遮蔽層130によって覆われているので、PMの局所的な堆積を防ぐことができ、上記実施形態と同様の効果が発揮される。
さらに、電界強度均一領域Wbの幅は、本図(a)の場合よりも広くなり、電界強度均一領域Wbにおける電界強度は低下するので、再生が必要となるまでの時間を長くすることができる。
【0041】
さらに、本図(d)に示す変形例10cでは、検出電極110c、120cの先端部及び検出電極110c、120cが検出電極リード部111c、112cに接続する根本部のそれぞれが、R形状としてある。
このような構成とすることにより、電界集中が抑制され、相対的に電界強度均一領域Wcにおける電界強度は、本図(a)に示した場合よりも高くなり、上述の効果に加え、不感時間の短縮を図ることができる。
【0042】
さらに、本図(e)に示す変形例10dでは、検出電極110d、120dの先端部及び検出電極110d、120dが検出電極リード部111d、112dに接続する根本部のそれぞれが、R形状としてあるのに加え、検出電極110d、120dの先端部から検出電極リード部111d、121dまでの距離を長辺部の間隙Dの2倍に形成してある。
このような構成とすることにより、電界強度均一領域Wdにおける電界強度がさらに高くなるので、本図(a)と同様の効果に加え、不感時間のさらなる短縮を図ることができる。
【0043】
さらに、本図(f)に示す変形例10eでは、検出電極110e、120eの先端部及び検出電極110e、120eが検出電極リード部111e、112eに接続する根本部のそれぞれが、R形状としてあるのに加え、検出電極110e、120eの先端部から検出電極リード部111e、121eまでの距離を長辺部の間隙Dの2分の1に形成してある。
このような構成とすることにより、R形状の負荷による電界強度均一領域Weにおける電界強度の上昇と先端部とリード部との距離の縮小による電界強度の低下とが相殺され、本図(a)の場合と同様の電界強度を維持しつつ、電界強度均一領域Weの範囲を拡大させることが可能となり、本図(a)と同様の効果に加え、再生を要するまでの時間を長くすることもできる。
【0044】
さらに、本発明によれば、上記いずれの変形例においても、検出電極110、110a〜e、120、120a〜eの先端部と検出電極リード部121、121c〜e、111、111c〜eとの間に、電界強度不均一領域遮蔽層130が形成されているので、印加電圧を高くしたときに短絡する虞がなく、高い信頼性を維持できる。
一方、本発明によらず、検出電極の先端部と検出電極リード部との間が被測定ガスに対して露出している場合には、検出電極の長辺部間の距離と同じに設定しないと高電圧を印加した場合に、電界集中により短絡を起こしたり、電界集中部への局所的なPMの堆積を生じたりする虞があり、本願の課題とする不感時間の変動を抑制することができない。
【0045】
加えて、通常この種の粒子状物質検出素子を保護すべくカバー体が設けられるが、本発明によれば、カバー体の形状によらず、不感時間の変動を抑制し、安定して検出部にPMを堆積させることができ、上述の如く、検出電極110、120の先端部と検出電極リード部121、111との距離や、先端部及び根元部の形状を変化させることによって電界強度均一領域の電界強度を調整できるので、検出素子として極めて自由度が高い。

【0046】
図7、8を参照して本発明の第2の実施形態における粒子状物質検出素子10fについて説明する。なお、上記実施形態と同様の構成については同じ符号を付したので説明を省略し、相違点についてのみ説明する。
上記実施形態においては、検出電極110、120を櫛歯状に形成した例を示したが本実施形態のように、一定間隙を隔てて対向し直線状に伸びる平行電極110f、120fによって検出部11fを形成しても良い。
【0047】
このような構成においても、検出電極110f、120fが屈曲し、電界集中し易い部分を、電界強度不均一領域遮蔽層130fによって覆うことにより、上記実施形態と同様に、遮蔽層開口部131f内に形成される電界強度を均一にすることができる。
【0048】
また、本実施形態においては、検出電極110f、120fの一方の端部は、検出電極リード部111、121、検出電極端子部112、122を介して外部に設けられた図略の検出回路部に接続されるが、他方の端部には、受動素子15が設けられている。
受動素子15として、例えば、所定の静電容量を有するキャパシタ素子や、所定の電気抵抗を有する抵抗素子を用いることができる。
キャパシタ素子を用いた場合には、検出電極110、120間に堆積するPMによって形成される検出抵抗に対して並列に静電容量成分が接続されることとなり、検出電極110、120間に交流電流を印加し、粒子状物質検出素子10fと検出回路部との間の断線検出を行うことも可能となる。
また、抵抗素子を用いた場合には、検出抵抗に対して並列な電気抵抗が接続されるので、相対的に検出抵抗を低下させ、不感時間のさらなる短縮を図ったり、検出部11にPMが堆積していない状態でも導通状態となるので、粒子状物質検出素子10fと検出回路部との間の断線検出を行ったりすることも可能となる。
本実施形態においても、図8(a)、(b)に示すように、遮蔽層開口部131f内の電界強度を均一にすることが可能となり、局所的なPMの堆積を抑制し、不感質量及び、センサ出力の変動を抑制して信頼性の高い粒子状物質検出素子が実現できる。
また、本実施形態に示した変形例のように、屈曲部をR形状とすることにより電界集中を抑制し、検出電極110f120f間の電界強度を高くすることも可能となる。
【0049】
上記実施形態においては、検出部に堆積するPMによって変化する電気的特性として電気抵抗を検出するものを例として説明したが、本発明において、検出対象となる電気的特性は、電気抵抗に限らず、静電容量や、素子のインピーダンスを計測するものであっても良い。
この場合においても、本発明の検出電極間に形成される電界が不均一となる領域に電界強度不均一領域遮蔽層を形成することにより、検出部に堆積するPMの偏在化を抑制し、検出対象とする静電容量や素子インピーダンスの検出精度を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0050】
10 粒子状物質検出素子
100 絶縁性基体
11 検出部
110、120 検出電極
111、121 検出電極リード部
112、122 検出電極端子部
13 絶縁層
130 電界強度不均一領域遮蔽層
131 遮蔽層開口部
132 絶縁保護層
14 ヒータ部
140 発熱体
141a、141b 発熱体リード部
142a、142b
【先行技術文献】
【特許文献】
【0051】
【特許文献1】特開昭59−197847号公報
【特許文献2】特表2008−502892号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中に配設される絶縁性基体の表面に所定の間隙を隔てて対向する一対の検出電極によって検出部を設け、該検出部に堆積する粒子状物質の量によって変化する電気的特性を検出して被測定ガス中の粒子状物質を検出する粒子状物質検出素子であって、
絶縁性耐熱材料を用いて上記検出部の所定の範囲を遮蔽層形成領域として覆う電界強度不均一領域遮蔽層を設け、
該電界強度不均一領域遮蔽層が、上記電気的特性を検出すべく上記検出電極間に電圧を印加したときに上記検出部に形成される電界強度の均一な領域を被測定ガスに露出させ、電界強度の不均一な領域を被測定ガスから隔絶せしめたことを特徴とする粒子状物質検出素子。
【請求項2】
上記電界強度不均一領域が、上記検出電極の長辺部を基準線として一対の上記検出電極間に電圧を印加したときに形成される電界の等電位線と上記基準線とが略平行となる範囲を除く領域である請求項1に記載の粒子状物質検出素子。
【請求項3】
上記電界強度不均一領域が、上記基準線と上記等電位線とのなす角度が±3°を超える領域である請求項1または2に記載の粒子状物質検出素子。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−93292(P2012−93292A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242189(P2010−242189)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】