説明

粒子線照射システム、並びに、これに用いるコンピュータプログラム及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体

【課題】照射時間を短縮し、照射対象に対する時間の負荷を軽減させるだけでなく、照射精度を向上させることができるようにする。
【解決手段】荷電粒子ビーム2を出射する加速器12と、該加速器から出射された荷電粒子ビームを周期変動する照射対象6に複数回スキャニング照射する照射装置20と、を有する粒子線照射システム10において、前記照射対象をビーム軸方向に分割して層状に形成される各スキャン領域の大きさに対応する照射線量を、前記加速器からのビーム強度を変調(S2)させて供給させるビーム強度変調手段と、該ビーム強度変調手段によって変調された荷電粒子ビームにより供給される前記各照射線量を、前記照射対象の周期変動の変位量が所定位相内にあるゲート期間に、前記各スキャン領域に対してスキャニング照射(S3、S4、S5)させる手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線照射システム、並びに、これに用いるコンピュータプログラム及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に関する。特に、照射時間を短縮し、照射対象に対する時間の負荷を軽減させるだけでなく、照射精度を向上させることができる粒子線照射システム、並びに、これに用いるコンピュータプログラム及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん治療のため、陽子線、重粒子線等の荷電粒子ビーム(粒子線とも称する)を用いた放射線治療装置が注目されている。この荷電粒子ビームの照射方法の一つとして、3次元的に局所集中した線量分布をもつ荷電粒子ビームによるスポットビームにより腫瘍部(ターゲット部)を3次元的に塗りつぶすように照射するスキャニング法がある。
【0003】
このスキャニング法では、設定した目標照射線量をターゲット部に対し一様に照射できるように、即ち、線量分布が悪化しない(例えば、ターゲット部での線量分布が平坦で一様になる)ように照射することが求められている。
【0004】
このため、従来の照射方式では、スキャンの回数を増やし、照射時間を長くすることにより、ターゲット部の変動による線量分布の悪化等を避けている。例えば、特許文献1には、ターゲット部に対し、必要な線量を複数回に分けてスキャニング照射する、いわゆるリスキャニング照射に関する技術が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−087649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特にペンシルビームを用いたスキャニング照射では、ピンポイントに絞られたビームによりスキャンして行くので、照射対象が動くと照射精度の低下が大きくなり、この照射精度の低下を避けるため、ビーム強度を弱くして照射時間を長くする必要があった。そのため、周期変動を有するターゲット部に対して短時間内に照射を終わらせることは困難であった。
【0007】
本発明は、前記従来の問題点を解消すべくなされたもので、照射時間を短縮し、照射対象に対する時間の負荷を軽減させるだけでなく、照射精度を向上させることができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、荷電粒子ビームを出射する加速器と、該加速器から出射された荷電粒子ビームを周期変動する照射対象に複数回スキャニング照射する照射装置と、を有する粒子線照射システムにおいて、前記照射対象をビーム軸方向に分割して層状に形成される各スキャン領域の大きさに対応する照射線量を、前記加速器からのビーム強度を変調させて供給させるビーム強度変調手段と、該ビーム強度変調手段によって変調された荷電粒子ビームにより供給される前記各照射線量を、前記照射対象の周期変動の変位量が所定位相内にあるゲート期間に、前記各スキャン領域に対してスキャニング照射させる手段と、を備えることで、前記課題を解決したものである。
【0009】
本発明は、又、加速器から出射された荷電粒子ビームを周期変動する照射対象にスキャニング照射するためのコンピュータプログラムであって、前記照射対象をビーム軸方向に分割して層状に形成される各スキャン領域の大きさに対応する照射線量を、前記周期変動による変位量が所定位相内にあるゲート期間に前記各スキャン領域に対してスキャニング照射するステップを含むことを特徴とするコンピュータプログラムを提供するものである。
【0010】
本発明は、又、前記コンピュータプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を提供するものである。
【0011】
前記ゲート期間が、前記周期変動の各1周期中のゲート期間であるようにしてもよい。
【0012】
又、前記各照射線量を複数回に分けてスキャニング照射するようにしてもよい。
【0013】
又、前記周期変動が前記照射対象の変動を起こさせる変動源の収縮膨張による周期変動であり、前記所定位相が前記収縮膨張による変位量の中間点から収縮領域側の所定変位量以上の領域を示す位相であるようにしてもよい。
【0014】
又、前記所定変位量が照射に許容された許容変位量であって、該許容変位量よりさらに収縮領域側の変位量以上の領域を示す位相により決定されるゲート期間によって前記各照射線量を割ったビーム強度により、該決定されたゲート期間にスキャニング照射するようにしてもよい。
【0015】
又、予め記憶された前記照射対象の周期変動の基本パターンと照射中の周期変動のパターンとを時間軸基準に比較し、該比較により両パターンの変位間に所定以上のずれが生じた場合は、次のゲート期間開始まで照射を保留するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前記照射対象の周期変動の変位量が所定位相内にあるゲート期間に、前記各スキャン領域に対してスキャニング照射するようにしたので照射対象の周期変動と同期が取れ、しかもスキャン領域の断面の大きさに応じて荷電粒子ビームの強度を変調し、複数回スキャニング照射(リスキャニング照射)するようにしたので、短時間内で精度良く照射が完了できるようになった。従って、これまでの技術では照射時間を要し、照射対象に対する時間の負荷等があったため、実現が困難と考えられていた周期変動を伴うターゲット(例えば呼吸性変動を伴う臓器)へのスキャニング照射が可能となり、照射(例えば治療)を現実的な時間内に完了することが可能となる。又、従来は多数回のリスキャニング照射が必要であった場合も、照射精度が高いので数回のリスキャニング照射により照射を完了させることが出来る。
【0017】
特に、ゲート期間が、周期変動の各1周期中のゲート期間である場合には、計画通りに照射ができ、短時間で照射が完了させることができる。
【0018】
又、ゲート期間を、変位量の中間点から収縮領域側の所定変位量以上の領域を示す位相であるようにした場合には、周期変動が少ない所定位相期間の設定が容易にできる。
【0019】
又、許容変位量よりさらに収縮領域側の変位量以上の領域を示す位相により決定されるゲート期間にスキャニング照射するようにした場合には、周期変動の乱れの影響を受けにくい。
【0020】
又、予め記憶された前記照射対象の周期変動の基本パターンと照射中の周期変動のパターンとを時間軸基準に比較し、該比較により両パターンの変位間に所定以上のずれが生じた場合は、次のゲート期間開始まで照射を保留するようにした場合には、照射途中で突発的な周期変動の乱れがあっても対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0022】
図1は、本発明の第1実施形態に係る粒子線照射システムの全体構成を示す説明図である。
【0023】
図1に示される如く、粒子線照射システム10は、荷電粒子ビーム2を加速して出射する加速器12と、該加速器12から出射された荷電粒子ビーム2を輸送するビーム輸送系14と、該ビーム輸送系14を経た荷電粒子ビーム2を被照射体(例えば人や動物)4の照射対象であるターゲット部(例えば臓器の腫瘍部等)6に照射する照射装置20と、被照射体4の呼吸性変動を監視する呼吸性変動監視装置30と、加速器12から出射される荷電粒子ビーム2の強度を変調する加速器強度変調装置(ビーム強度変調手段)32と、前記粒子線照射システム10を制御する制御装置34とを備えている。
【0024】
前記照射装置20は、図2に詳細に示される如く、荷電粒子ビーム2をビーム進行方向(Z方向)に垂直な平面を形成するX−Y方向に偏向させるスキャニングマグネット22、24と、荷電粒子ビーム2の位置を監視する線量モニタ26と、Z方向の荷電粒子ビーム2の停止位置を調整するレンジシフタ28とを備え、ターゲット部6に対しスキャン軌道8に沿ってスキャンするようになっている。
【0025】
前記呼吸性変動監視装置30は、例えば被照射体4の体表に取付けられたLEDの光の動きをカメラでとらえ、画像処理により呼吸性変動を監視し、ターゲット部6の呼吸による周期変動を検出するようになっている。
【0026】
前記加速器強度変調装置32は、照射対象であるターゲット部6を、荷電粒子ビーム2のビーム軸方向に分割し、層状に形成される各スキャン領域の大きさに対応する照射線量を、加速器12からの荷電粒子ビーム2の強度を変調するようになっている。
【0027】
前記制御装置34は、図1に示される如く、加速器12から出射された荷電粒子ビーム2を照射装置20によりターゲット部6にスキャニング照射等するためのコンピュータのCPU34Aと、前記加速器強度変調装置32により変調された荷電粒子ビーム2を照射するようにコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムを有するメモリ34Bとを備え、前記コンピュータプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体36が接続されるようになっている。
【0028】
又、制御装置34は、呼吸性変動監視装置30より検出された呼吸性変動に基づき、加速器強度変調装置32よって加速器12からの荷電粒子ビーム2の強度を変調させたり、照射装置20によって、前記変調された荷電粒子ビーム2により供給される照射線量を、ターゲット部6の周期変動の変位量が所定位相内にあるゲート期間に、各スキャン領域に対してスキャニング照射させたり、照射装置20のスキャニングマグネット22、24によるスキャニングや、レンジシフタ28によるビーム停止位置等を制御したりするようになっている。
【0029】
ここで、前記制御装置34による制御は、メモリ34Bのコンピュータプログラムに基づき、実現されるようになっている。
【0030】
次に、本発明に係る実施形態の照射方法であるPCR法(Phase Controlled Rescanning)の手順について、図4及び図5を参照しながら、図3に基づき説明する。
【0031】
まず、ステップS1で、呼吸性変動監視装置30により、図4(A)に示される如く、呼吸性変動の信号の波形(呼吸パターン)Pを照射前又は照射中に測定する。この呼吸パターンPが照射対象であるターゲット部6の周期変動に対応していて、この周期変動は、照射対象の変動を起こさせる変動源(例えば肺)の収縮・膨張により発生する。ここで、図4(A)中、変位量の中間点から上側が膨張領域、下側が収縮領域である。
【0032】
次に、ステップS2で、ターゲット部6を分割したスキャン領域Sの大きさに応じて荷電粒子ビーム2の強度を変調する。例えばスキャン領域Sの断面や体積の大きさに応じたビーム強度に変調する。
【0033】
このビーム強度は、ビーム強度=照射線量/基本ゲート期間、より求める。
【0034】
ここで、照射線量は、照射対象をビーム軸方向に分割して層状に形成される各スキャン領域の大きさに対応する照射線量である。又、基本ゲート期間は、予め測定された基本的な照射対象の周期変動(以下、基本呼吸パターンと称する)の変位量が所定位相内にある期間である。具体的には、基本呼吸パターンの変位量が所定閾値以下、即ち所定位相が収縮・膨張による変位量の中間点から収縮領域側の所定変位量以上の領域を示す位相内にある期間である。
【0035】
次にステップ3で、図4(B)に示される如く、測定中の呼吸パターンの変位量が所定閾値θ以下になるゲート期間Tを検出する。具体的には、呼吸周期ゲート期間Tの始点Aを検出する。
【0036】
ここで、図4(D)では、ターゲット部6を深さ方向(荷電粒子ビーム2の進行方向)において複数の層(スライス)に分割したスキャン領域Sに対して、スライス番号を深いものから順に付けている。又、図4(C)のビーム電流(ビーム強度)は、各スキャン領域Sの大きさに応じている。
【0037】
ゲート期間Tを検出したら、ステップS4で、ゲート期間Tをリスキャン回数Nで割った分割期間に、スキャン領域Sに対してスキャニング照射をする。具体的には、図5に示される如く、分割期間t1にスキャン領域Sに対してスキャニング照射を1回行う。ここで、リスキャン回数N=4で、ゲート期間Tは4分割され、各分割期間t1、t2、t3、t4、の時間の長さはT/4である。
【0038】
次に、ステップS5で、スキャニング照射を行った回数がリスキャニング回数Nになったか否かを判定する。リスキャニング回数Nに達していない場合は、ステップS4に戻り、次の分割期間t2に同じスキャン領域Sに対して2回目のスキャニング照射をする。
【0039】
これをリスキャニング回数Nに達するまで繰り返す。具体的には、図5に示される如く、分割期間t4まで繰り返す。
【0040】
リスキャニング回数Nに達したら、ステップS6で、全てのスライスにリスキャニング照射が終了したか否か、即ち、スキャン領域Sのスライス番号が最後か否かを判定する。
【0041】
スライス番号が最後でないなら、ステップS2に戻り、次のゲート期間Tにおいて、次のスキャン領域Sn+1に対してリスキャニング照射を行う。スライス番号が最後なら照射を終了する。
【0042】
次に、図5に基づき、PCR法について詳細に説明する。
【0043】
図5は、図4の呼吸パターンPのゲート期間T付近を拡大して示した図である。
【0044】
このゲート期間Tにおいて、1つのスキャン領域S、例えばSに対してリスキャニング照射を行う。この1つのスキャン領域Sに照射する荷電粒子ビーム2の総粒子数は、スキャン領域Sの大きさにより決ってくる。
【0045】
リスキャン回数をNと設定した場合、前記総粒子数をNで割った粒子数が、1スキャンに必要な粒子数(1スキャン粒子数)である。
【0046】
この1スキャン粒子数を、例えば、スキャン領域Sに対しゲート期間TのN分の1の時間で供給する。具体的には、分割期間t1において、例えば、スキャン領域Sに対し、所定のスキャン軌道に沿ってスキャニング照射を行い、1スキャン粒子数を供給する。ここで、1スキャン粒子数をT/Nで割った値が荷電粒子ビーム2の強度(ビーム電流)に対応する。このビーム電流は、各スキャン領域Sの大きさに応じて、フレキシブルに加速器強度変調装置32により設定される。
【0047】
次の分割期間t2においても、前記スキャン軌道に沿ってスキャニング照射を行い、1スキャン粒子数を供給する。これを期間t4まで繰り返し、スキャン領域Sに対し総粒子数を供給する。
【0048】
このPCR法においては、1つのゲート期間Tに、1つのスキャン領域Sに対してリスキャニング照射を行い、スキャン領域Sに対する総粒子数をリスキャン回数Nに分けて供給することにより、照射精度を高めている。
【0049】
具体的には、図5に示される如く、4回に分けて総粒子数を供給しているため、各期間t1、t2、t3、t4における呼吸性変動による各照射誤差が平均化され、照射精度を高めることができる。即ち、ゲート期間Tを分割し、時間分割したスキャニング照射を行うことによって照射誤差を相殺し、照射精度を向上させることが可能となっている。
【0050】
一方、従来のリスキャニング照射では、呼吸性変動の位相と1つのスキャン領域に対する照射との同期が取れていなかった。具体的には、図6に示される如く、荷電粒子ビーム2の強度(ビーム電流)は、どのゲート期間Tにおいても一定のままで、例えば、スキャン領域Sに対してリスキャニング照射を行い、ゲート期間Tの間にリスキャニング照射が終了したら、次のスキャン領域Sn+1に対して、同じビーム強度でリスキャニング照射を開始していた。そして、スキャン領域Sn+1に対するリスキャニング照射が、ゲート期間Tの間に終了しない場合(例えば、図6に示される如く、スキャン軌道8が途中で終わっている場合)は、次のゲート期間Tを待って、同一のスキャン領域Sn+1に対して残りのリスキャニング照射を行っていた。このため、呼吸性変動による照射誤差を十分に相殺するために、照射線量率を弱くした非常に多数回のリスキャニングを必要とし、周期変動を伴うターゲットへのスキャニング照射の実現を困難なものにしていた。
【0051】
次に、図7に、従来法及び本発明に係る実施形態のPCR法による線量分布のシミュレーション結果を示す。
【0052】
従来法では、図7(A)に示される如く、呼吸性変動の影響によりターゲット領域Dにおいて線量分布が波を打っている。
【0053】
一方、PCR法では、図7(B)に示される如く、ターゲット領域Dにおいて平坦な線量分布が得られている。
【0054】
このように、PCR法では、少数回のリスキャンであっても平坦な線量分布が得られ、照射計画通りに効果的に照射できるため、狙った腫瘍細胞を死滅させることができる。
【0055】
次に、本発明に係る第2実施形態について図8に基づき説明する。
【0056】
本実施形態では、第1実施形態のゲート期間Tを以下に述べる許容ゲート期間より短くして照射する。
【0057】
図8に示される如く、閾値θaは、所定変位量が照射対象の照射に許容された許容変位量である。即ち、呼吸による変動の場合には収縮領域より膨張領域の方が照射対象の変動が大きいため、閾値θaは照射に対してその変動が許容されるか否かの変位量である。この閾値θaにより定まるゲート期間が許容ゲート期間Taである。
【0058】
閾値θaよりさらに収縮領域側の変位量が、閾値θbであり、この閾値θbより低い変位量の領域、即ち、許容変位量よりさらに収縮領域側の変位量の領域以上を示す位相により決定されるゲート期間がゲート期間Tbである。
【0059】
本実施形態の照射では、照射対象の変動がより小さくなっているゲート期間Tbにスキャン照射を行う。このときのビーム強度はゲート期間Tbによって各スキャン領域Sの大きさに対応する照射線量を割ったビーム強度であり、ゲート期間Tbがゲート期間Taより短いため、ビーム強度は強くなる。このビーム強度は、第1実施形態の制御装置34の下、加速器強度変調装置32により実現される。
【0060】
本実施形態によれば、ゲート期間Tbでは、照射対象の変動が小さいため、照射のずれが小さく、照射精度が向上する。照射精度を上げたい場合や部分に照射したいとき、閾値を変えるだけで容易に照射精度を上げることができる。
【0061】
次に、本発明に係る第3実施形態について図9に基づき説明する。
【0062】
本実施形態では、咳や動悸といった突発的に呼吸パターンが乱れた場合にも対処する。
【0063】
図9に示される如く、基本呼吸パターン(基本パターン)P0は、第1実施形態のメモリ34Bに予め記憶された照射対象の周期変動の基本呼吸パターンである。この基本呼吸パターンP0は、照射対象ごとに予め測定され、メモリ34Bに記憶させておく。ゲート期間T0は、基本呼吸パターンP0で閾値θ1のときの基本ゲート期間である。
【0064】
次に、本実施形態の照射方法について説明する。
【0065】
図3に示した第1実施形態のステップS4で、スキャニング照射をしている際、図9に示したように、Bの時点で例えば咳をしたときに、呼吸パターンが、呼吸パターン(パターン)P1となり、基本呼吸パターンP0からずれて行く場合等を本実施形態は想定している。
【0066】
まず、第1実施形態のステップS3に対応するステップで、ゲート期間を検出した後、即ち、第1閾値θ1を越えた点A1のときスキャニング照射を開始する(ステップS4に対応)。
【0067】
次に、このスキャニング照射中に、基本呼吸パターンP0と照射中の周期変動の呼吸パターンP1を時間軸基準に比較する。具体的には、照射開始時点での呼吸パターンP1における点A1での変位量と基本呼吸パターンP0における点C1での変位量との差g0を求める。
【0068】
そして、この呼吸パターンP1と基本呼吸パターンP0との変位量の差を監視し続け、両呼吸パターンの変位間に所定以上のずれg1が生じた場合は、スキャニング照射を停止させ、次のゲート期間開始まで照射を保留させる。具体的には、点A2のときスキャニング照射を停止させる。このときの呼吸パターンP1における変位量θ2(第2閾値)をメモリ34Bに記憶させる。
【0069】
次に、呼吸の乱れが収まった後、呼吸パターンの変位量が第2閾値θ2以下になった点C3で照射を再開し、呼吸パターンの変位量が第1閾値θ1になった点C4でスキャニング照射を止める。
【0070】
なお、ここまでのスキャニング照射の間に、分割期間での照射が終了した場合は、第1実施形態のステップS5に対応したステップでリスキャン回数を判定し、所定のリスキャン回数が終了したら、第1実施形態のステップS6に対応したステップに移る。
【0071】
本実施形態によれば、図9に示したように、このスキャン領域に対する合計の照射時間はT1+T2となり、基本ゲート期間T0とほぼ同じであり、照射途中で突発的な周期変動の乱れがあっても、計画していた照射線量をスキャン領域に照射できる。
【0072】
なお、本発明に係る実施形態は治療に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る第1実施形態の粒子線照射システムの全体構成を示すブロック図
【図2】前記粒子線照射システムの照射装置の構成を示す説明図
【図3】前記粒子線照射システムにおけるPCR法の手順を示すフローチャート
【図4】前記PCR法のアウトラインを示す説明図
【図5】前記PCR法による照射誤差を相殺する原理を示す説明図
【図6】従来の照射方法を示す説明図
【図7】(A)従来法及び(B)前記PCR法による線量分布の比較を示す分布図
【図8】本発明に係る第2実施形態におけるゲート期間の概略を示す説明図
【図9】本発明に係る第3実施形態における照射方法の概略を示す説明図
【符号の説明】
【0074】
2…荷電粒子ビーム
6…ターゲット部(照射対象)
10…粒子線照射システム
12…加速器
20…照射装置
32…加速器強度変調装置(ビーム強度変調手段)
34A…CPU(コンピュータ)
34B…メモリ(プログラム)
36…記憶媒体
T…ゲート期間(所定位相期間)
S…スキャン領域
θ…所定閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを出射する加速器と、該加速器から出射された荷電粒子ビームを周期変動する照射対象に複数回スキャニング照射する照射装置と、を有する粒子線照射システムにおいて、
前記照射対象をビーム軸方向に分割して層状に形成される各スキャン領域の大きさに対応する照射線量を、前記加速器からのビーム強度を変調させて供給させるビーム強度変調手段と、
該ビーム強度変調手段によって変調された荷電粒子ビームにより供給される前記各照射線量を、前記照射対象の周期変動の変位量が所定位相内にあるゲート期間に、前記各スキャン領域に対してスキャニング照射させる手段と、
を備えたことを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項2】
前記ゲート期間が、前記周期変動の各1周期中のゲート期間であることを特徴とする請求項1に記載の粒子線照射システム。
【請求項3】
前記スキャニング照射させる手段が、前記各照射線量を複数回に分けてスキャニング照射させることを特徴とする請求項1又は2に記載の粒子線照射システム。
【請求項4】
前記周期変動が前記照射対象の変動を起こさせる変動源の収縮膨張による周期変動であり、
前記所定位相が前記収縮膨張による変位量の中間点から収縮領域側の所定変位量以上の領域を示す位相であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の粒子線照射システム。
【請求項5】
前記ビーム強度変調手段は、前記ビーム強度を、前記所定変位量が照射に許容される許容変位量であって、該許容変位量よりさらに収縮領域側の変位量以上の領域を示す位相により決定されるゲート期間によって前記各照射線量を割ったビーム強度に変調させ、
前記スキャニング照射させる手段は、前記決定されたゲート期間に前記スキャニング照射させることを特徴とする請求項4に記載の粒子線照射システム。
【請求項6】
予め記憶された前記照射対象の周期変動の基本パターンと照射中の周期変動のパターンとを時間軸基準に比較する手段と、
該手段の比較により両パターンの変位間に所定以上のずれが生じた場合は、次のゲート期間開始まで照射を保留させる手段と、
を更に有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の粒子線照射システム。
【請求項7】
加速器から出射された荷電粒子ビームを周期変動する照射対象にスキャニング照射するためのコンピュータプログラムであって、
前記照射対象をビーム軸方向に分割して層状に形成される各スキャン領域の大きさに対応する照射線量を、前記周期変動による変位量が所定位相内にあるゲート期間に前記各スキャン領域に対してスキャニング照射するステップを含むことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項8】
前記ゲート期間が、前記周期変動の各1周期中のゲート期間であることを特徴とする請求項7に記載のコンピュータプログラム。
【請求項9】
前記スキャニング照射するステップが、前記各照射線量を複数回に分けてスキャニング照射するようにされていることを特徴とする請求項7又は8に記載のコンピュータプログラム。
【請求項10】
前記周期変動が前記照射対象の変動を起こさせる変動源の収縮膨張による周期変動であり、
前記所定位相内が前記収縮膨張による変位量の中間点から収縮領域側の所定変位量以上の領域を示す位相であることを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項11】
前記スキャニング照射するステップは、前記所定変位量が照射に許容された許容変位量であって、該許容変位量よりさらに収縮領域側の変位量以上の領域を示す位相により決定されるゲート期間によって前記各照射線量を割ったビーム強度により、該決定されたゲート期間にスキャニング照射するようにされていることを特徴とする請求項10に記載のコンピュータプログラム。
【請求項12】
予め記憶された前記照射対象の周期変動の基本パターンと照射中の周期変動のパターンとを時間軸基準に比較するステップと、
該比較により両パターンの変位間に所定以上のずれが生じた場合は、次のゲート期間開始まで照射を保留するステップと、
を更に有することを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載のコンピュータプログラム。
【請求項13】
前記請求項7乃至12のいずれかに記載のプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−154627(P2008−154627A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343489(P2006−343489)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】