説明

粒子線照射システム

【課題】標的位置における荷電粒子ビームの照射位置の精度を向上することができ、正常組織への照射を減少させることができる粒子線照射システムを提供することにある。
【解決手段】粒子線照射システムは、荷電粒子ビームを出射する加速装置6と、走査磁石24,25と、荷電粒子ビーム位置検出器26,27を有する。制御装置70は、荷電粒子ビーム位置検出器26,27からの信号に基づき、標的位置でのビーム位置を算出し、走査磁石24,25を制御して荷電粒子ビームを標的位置にて所望の照射位置へ移動させる。制御装置70は、所定の周期毎に荷電粒子ビームの位置と角度の情報を基に走査磁石24,25への励磁電流の値を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム等を腫瘍等の患部に照射して治療するために用いられる粒子線照射システムに係り、特に、ビーム位置の補正に好適な粒子線照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患者に陽子線などの荷電粒子ビームを照射する粒子線照射システムが知られている。このシステムは、荷電粒子ビーム発生装置、ビーム輸送系、及び治療室を備えている。荷電粒子ビーム発生装置で加速された荷電粒子ビームはビーム輸送系を経て治療室の照射装置に達し、照射装置に備えられた走査電磁石により走査され、患者の患部に照射される。このような照射システムにおいて、従来、荷電粒子ビーム発生装置からの荷電粒子ビームを停止させた状態で、走査電磁石を制御し、荷電粒子ビームの照射位置を変更し、その後、照射を再開する方法が知られている。
【0003】
また、このような照射方法では、荷電粒子ビームの位置及び角度に高い精度が要求されるが、荷電粒子ビーム発生装置からの荷電粒子ビームの位置と角度が安定しないことがあるため、ビーム輸送系内に二台のステアリング電磁石を設置して荷電粒子ビームの軌道を補正するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、荷電粒子ビーム位置検出装置のビーム位置情報を利用して走査電磁石を制御することでビーム位置を補正するものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−282300号公報
【特許文献2】特表2002−540911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載のものでは、ステアリング電磁石から照射装置までの間に他の電磁石が存在するため、位置と角度を正確に補正するためには複数回での収束が必要であり、瞬時に正確な補正をすることは困難であるという問題がある。
【0007】
また、特許文献2記載のものでは、荷電粒子ビーム位置検出装置位置で測定された荷電粒子ビーム位置が所望の位置から外れている場合、走査電磁石を制御することで荷電粒子ビームを所望の位置へ移動させているが、荷電粒子ビームは位置と角度の両方が変化するため、荷電粒子ビーム位置検出装置位置での荷電粒子ビーム位置が正しくとも、荷電粒子ビーム検出装置よりも荷電粒子ビームの下流側である標的位置では荷電粒子ビームが所望の位置に到達していない可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、標的位置における荷電粒子ビームの照射位置の精度を向上することができ、正常組織への照射を減少させることができる粒子線照射システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、荷電粒子ビームを出射する加速器と、荷電粒子ビーム走査装置と、荷電粒子ビーム位置検出装置を有する粒子線照射システムであって、前記荷電粒子ビーム位置検出装置からの信号に基づき、標的位置でのビーム位置を算出し、前記荷電粒子ビーム走査装置を制御して前記荷電粒子ビームを前記標的位置にて所望の照射位置へ移動させる制御装置を備えるようにしたものである。
【0010】
かかる構成により、標的位置でのビーム位置を算出するので、標的位置における荷電粒子ビームの照射位置の精度を向上することができ、正常組織への照射を減少させることができるものとなる。
【0011】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記制御装置は、所定の周期毎に前記荷電粒子ビームの位置と角度の情報を基に前記荷電粒子ビーム走査装置への励磁電流の値を補正するようにしたものである。
【0012】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記制御装置は、前記加速器の出射周期毎に前記荷電粒子ビームの位置と角度の情報を基に前記荷電粒子ビーム走査装置への励磁電流の値を補正するようにしたものである。
【0013】
(4)上記(1)において、好ましくは、前記制御装置は、前記標的位置での前記荷電粒子ビーム位置と前記所望の照射位置との距離に対し、次の前記周期では前記所望の位置を基準として前記ビーム位置の反対側に前記距離だけ離れた点を、前記ビーム位置と前記所望の照射位置が一致するような荷電粒子ビームが照射するような励磁電流量を前記荷電粒子ビーム走査装置に設定するようにしたものである。
【0014】
(5)上記(3)において、好ましくは、前記制御装置は、前記荷電粒子ビーム走査装置が前記荷電粒子ビームを走査した場合でも、前記荷電粒子ビーム位置検出装置位置での、前記所望の照射位置に向かう前記荷電粒子ビームの位置と、前記荷電粒子ビームの経路との距離により、前記標的位置での前記所望の位置と前記荷電粒子ビーム位置との距離を算出するようにしたものである。
【0015】
(6)上記(1)において、好ましくは、前記制御装置は、前記出射周期の位相の進行は、同一の出射周期内の照射済み電荷量から識別するようにしたものである。
【0016】
(7)上記(1)において、好ましくは、前記制御装置は、前記出射周期の位相の進行は、同一の出射周期内の照射済み電荷量を蓄積電荷量で割った数値により識別するようにしたものである。
【0017】
(8)上記(1)において、好ましくは、前記制御装置は、前記出射周期での前記位相に従って前期荷電粒子ビーム照射位置が変化する位置を、前記出射周期の位相の関数で近似した関数により、前記出射周期の次の出射周期での前記荷電粒子ビーム照射位置を補正するようにしたものである。
【0018】
(9)上記(1)において、好ましくは、前記荷電粒子ビーム位置検出装置を二台設置し、一台は前記荷電粒子ビーム走査装置の上流側に、もう一台は下流側に設置したものである。
【0019】
(10)上記(1)において、好ましくは、前記荷電粒子ビーム位置検出装置を二台設置し、二台共に、前記荷電粒子走査装置の下流に設置したものである。
【0020】
(11)上記(1)において、好ましくは、前記荷電粒子ビーム位置検出器が1台であり、前記荷電粒子ビームの位置と角度を測定することができるものである。
【0021】
(12)上記(1)において、好ましくは、前記制御装置が算出する前期標的位置での前記荷電粒子ビーム位置と、前記所望の照射位置との差が閾値を超えた場合にインターロックシステムを作動させるようにしたものである。
【0022】
(13)上記(1)において、好ましくは、前記荷電粒子ビーム位置検出装置を二台設置し、二台共に、前記荷電粒子走査装置の上流に設置したものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、荷電粒子ビームの照射位置の精度を向上することができ、正常組織への照射を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図1〜図7を用いて、本発明の一実施形態による粒子線照射システムの構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による粒子線照射システムの全体構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による粒子線照射システムの全体構成を示すシステムブロック図である。
【0025】
本実施形態の粒子線照射システムは、荷電粒子ビーム発生装置1と、ビーム輸送系2と、照射装置16と、制御装置70とを備えている。
【0026】
荷電粒子ビーム発生装置1は、イオン源(図示せず)と、ライナック3(前段荷電粒子ビーム加速装置)と、シンクロトロン4とから構成されている。シンクロトロン4は、高周波印加装置5と、加速装置6と、蓄積電荷量検出器10を有する。高周波印加装置5は、シンクロトロン4の周回軌道に配置された高周波印加電極7と、高周波電源8を備え、高周波印加電極7と高周波電源8はスイッチ9により接続される。加速装置6は、周回軌道に配置された高周波加速空洞(図示せず)と高周波加速空洞に高周波電力を印加する高周波電源(図示せず)を備える。陽子,炭素などのイオンはイオン源にて発生し、ライナック3に入射し加速される。ライナック3から出射したイオンビームは、シンクロトロン4へ入射される。シンクロトロン4では、イオンビームは、高周波電源から高周波加速空洞を経てイオンビームに印加される高周波電力によってエネルギーを与えられて加速する。予め設定されたエネルギーまで加速された後、イオンビームに高周波印加装置5により高周波が印加される。安定限界内でシンクロトロン4内を周回していたイオンビームは安定限界外に移行し、出射用デフレクタ11を通ってシンクロトロン4から出射される。高周波の印加を停止することにより、イオンビームの出射を停止する。
【0027】
また、蓄積電荷量検出器10は、シンクロトロン4の周回軌道に配置され、イオンビームの電流量を測定することにより、シンクロトロン4内に蓄積されたイオンビームの量Cを測定する。
【0028】
シンクロトロン4から出射したイオンビームは、ビーム輸送系2を経て、照射装置16に輸送される。ビーム輸送系2は、四極電磁石14,18と、偏向電磁石15,19,20とにより構成される。
【0029】
回転ガントリー(図示せず)は、ビーム輸送系2の一部と照射装置16を備える。ビーム輸送系2の一部で、逆U字状の部分と照射装置16は、回転ガントリーの略筒状の回転胴(図示せず)に設置され、モーターにより回転可能な構成にされている。照射装置16を通過したイオンビームは、回転胴の内部に設置されている照射ベッド21の上の照射対象物22内の標的23に照射される。ここで、例えば、腫瘍へ照射する場合、標的23は患部を含むイオンビームの照射対象領域であり、患部よりもいくらか大きい。また、照射対象物は人体である。
【0030】
制御装置70は、加速器制御部72と、照射装置制御部73と、記録装置74と、計算機75とから構成される。制御装置70の動作については、後述する。
【0031】
ここで、図2を用いて、本実施形態による粒子線照射システムの照射装置16の構成について説明する。
【0032】
図2は、本発明の一実施形態による粒子線照射システムの照射装置の構成を示すシステムブロック図である。
【0033】
照射装置16は、走査電磁石24,25と、上流側ビーム位置検出器26と、下流側ビーム位置検出器27と、線量検出器28とから構成されている。二台の走査電磁石24,25は、ビーム進行方向と垂直な面内で、互いに直行する二つの方向(X方向,Y方向)にそれぞれビームを偏向し、照射位置を変更する。ビーム位置検出器26,27は、イオンビームの位置とイオンビームの広がりを計測する。線量検出器28は、照射されたイオンビームの量を計測する。上流側ビーム位置検出器26は走査電磁石の上流に設置され、下流側ビーム位置検出器27は走査電磁石の下流側に設置される。
【0034】
線量検出器28は、二つの電極が平行平板型構造をしており、電極間に電圧が印加されている。イオンビームが線量検出器28を通過すると、イオンビームにより、検出器内の空気が電離され、電離された荷電粒子は検出器内電場により電極に集積し、信号となって読み出される。ここで、イオンビーム量と、電極に集積する電荷が比例するので通過したイオンビーム量を計測することができる。
【0035】
上流側ビーム位置検出器26と下流側ビーム位置検出器27は、X方向,Y方向それぞれ一定間隔毎に平行にワイヤーが張られている。ワイヤーには高電圧がかけられており、イオンビームが通過すると検出器内の空気が電離され、電離された荷電粒子は最も近いワイヤーに集められる。そこで、ワイヤー付近を通過したイオンビームに比例する信号電荷は、コンデンサーに蓄えられる。蓄えられた電荷に応じた電圧が各チャネルから読み出される。イオンビームの広がりよりも十分に小さい間隔でワイヤーを張ることにより、ビームの分布を得ることができるので、ビーム位置(分布の重心)とビーム幅(分布の標準偏差)を算出することができる。
【0036】
ここで、図3を用いて、本実施形態による粒子線照射システムにおける標的の深さとイオンビームのエネルギーとの関係について説明する。
図3は、本発明の一実施形態による粒子線照射システムにおける標的の深さとイオンビームのエネルギーとの関係の説明図である。
【0037】
標的23は、照射対象物22の内部にある。図3(a)は、単一エネルギーのイオンビームが照射対象物22内に及ぼす線量分布を深さの関数として示している。図3(a)におけるピークをブラッグピークと称する。ブラッグピークの位置はエネルギーに依存するので、標的23の深さに合わせイオンビームのエネルギーを調整することでブラッグピークの位置で標的23を照射することができる。標的23は深さ方向に厚みを持っているが、ブラッグピークは鋭いピークであるので、図3(b)に表すようにいくつかのエネルギーのイオンビームを適切な強度の割合で照射し、ブラッグピークを重ね合わせることで深さ方向に標的23と同じ厚みを持った一様な高線量領域(SOBP)を形成する。
【0038】
以降、イオンビームが入射する方向と垂直な方向を横方向と称する。標的23の横方向の広がりとイオンビームの関係について説明する。イオンビームは照射装置16に達した後、互いに垂直に設置された二台の走査電磁石24,25により走査され、所望の横方向の位置へと到達する。イオンビームの横方向への広がりはガウス分布形状で近似することができる。ガウス分布を等間隔で配置し、その間の距離をガウス分布の標準偏差程度にすることで、足し合わされた分布は一様な領域を有する。イオンビームを走査することにより、このように一定の間隔で照射することで横方向に一様な線量領域を形成することができる。
【0039】
以上により、走査電磁石24,25によるX方向,Y方向へのビーム走査と、ビームエネルギー変更による深さ方向へのブラッグピークの移動により、標的23全体を均一に照射することができる。なお、同一のエネルギーで照射され、走査電磁石によるイオンビーム走査により横方向へ広がりを持つ照射野の単位を層と呼ぶ。
【0040】
次に、制御装置70の制御動作について説明する。
【0041】
ライナック3からシンクロトロン4にイオンビームを供給し、シンクロトロン4は設定されたエネルギーまでイオンビームを加速する。その際、加速終了時に、蓄積電荷量検出器10は、シンクロトロン10内に蓄積されたイオンビームの量Cを測定する。その後、ひとつのエネルギーでの標的23への照射が終了した場合、すなわち、ひとつの層への照射を終了した場合、イオンビームを減速し、ライナック3からシンクロトロン4へ新たなイオンビームを供給して次の設定された異なるエネルギーまで加速した後、さらに照射を行う。また、ひとつのエネルギーでの標的23への照射が終了せず、すなわちひとつの層への照射が終了せず、シンクロトロン4内を周回するイオンビームが無くなった場合、ライナック3からシンクロトロン4へ新たなイオンビームを供給し、同じエネルギーまで加速した後、照射を継続する。シンクロトロン4がライナック3から供給されたイオンビームを加速し、ひとつのエネルギーでの照射を終了する、あるいはシンクロトロン4中のイオンビームを照射により使い切り、新たにライナック3からイオンビームを供給する周期を、出射周期と称する。
【0042】
ひとつの出射周期内での照射に関する制御を説明する。制御装置70は、シンクロトロン4からのイオンビームの出射を停止し、イオンビームの出射を停止した状態で走査電磁石24,25に励磁電流値を設定し、イオンビームの照射位置を変更させ、その変更後にイオンビームの出射を開始する。イオンビームの照射量が設定値に達した後、再びイオンビームの出射を停止し、走査電磁石24,25に励磁電流値を設定してイオンビームの照射位置を変更する。イオンビームの出射中は走査電磁石24,25の励磁電流の値を一定に保つ。このひとつの照射を、スポットと称する。シンクロトロン4からの出射を開始することで標的23への照射は開始し、出射を停止することで照射を停止する。
【0043】
照射位置と励磁電流量を関連付ける表は、テーブルとして予め用意されている。このテーブルは、荷電粒子発生装置1からのイオンビームの位置と角度が全く変化しない場合、照射位置が目標照射位置に一致するようになっている。以降、このイオンビームの位置と角度を、基準状態と称する。基準状態のイオンビームの照射装置への入射角度は、照射装置16内の各機器に対し、垂直である。
【0044】
記録装置74は、照射情報を記録する。照射情報は、スポット毎の照射角度(すなわち、ガントリーの回転角度),照射位置(以降、目標照射位置と称する),エネルギー,照射量のデータを含んでいる。予め照射を行う前に照射計画装置77を使用し、CT等で撮影した画像を基に標的23を決定し、その標的23から照射情報を作り出し、作り出した照射情報を記録装置74に記録する。
【0045】
加速器制御部72は、荷電粒子ビーム発生器1と、ビーム輸送系2と、回転ガントリーを制御し、イオンビームの加速,出射,停止を行う。加速器制御部72は、記録装置74から照射情報を受け取り、照射情報の照射角度へ回転ガントリーを回転移動し、照射情報のエネルギーまでイオンビームを加速する。さらに、ビーム輸送系2の有する各磁石を制御し、加速したエネルギーのイオンビームが照射装置16に到達するように、各磁石の励磁電流を設定する。加速器制御部72は、照射装置制御部73からの出射許可信号により、高周波印加装置6を制御してイオンビームに高周波を印加し、イオンビームを出射する。また、照射装置制御部73からのビーム停止信号により、高周波印加装置6を制御し、高周波の印加を停止してイオンビームの出射を停止する。また、加速器制御部72は、蓄積電荷量検出器10からのイオンビームの量Cの情報を受け取る。
【0046】
照射装置制御部73は、走査電磁石24,25に流す励磁電流量の設定と、線量検出器28やビーム位置検出器26,27の信号を読み出す。照射装置制御部73は、記録装置74が記録している照射情報に基づき、計算機75が算出した励磁電流の値を計算機75から受け取り、加速器制御部72が照射情報により指定されたエネルギーまでイオンビームを加速した後、照射装置制御部73は、計算機75に指定された励磁電流値を走査電磁石24,25に設定し、出射許可信号を加速器制御部72に送信する。その後、イオンビームが出射され、標的23に照射されたイオンビームの照射量は、線量検出器28の信号として検出される。照射装置制御部73は、電流パルス変換器(図示せず)と、線量カウンタ(図示せず)を備えており、線量検出器28の信号は電流パルス変換器により量子化され、線量カウンタに数えられる。照射情報が指定する照射線量に対応する線量カウンタの値は、カウンタ目標値として予め算出、設定されており、カウンタの値がカウンタ目標値と一致すると、照射装置制御部73は、加速器制御部72に対し出射停止信号を送信する。また、照射装置制御部73は、ビーム位置検出器26,27からの信号を読み出し、その信号を基にしてビーム位置とビーム幅を算出する。
【0047】
ところで、実際の荷電粒子発生装置1から出射したイオンビームの位置、及び角度は、安定しない可能性がある。照射装置16に入射したイオンビームの状態が基準状態から異なる場合、テーブルによる励磁電流量では目標照射位置と照射位置が離れることとなる。従って、目標照射位置からの変動を小さくするために、計算機75は、走査電磁石に設定する励磁電流の値を、直前の出射周期での情報に基づき、テーブルによる値から補正する。本実施形態では、計算機75は、ひとつの出射周期での照射が完了すると、照射装置制御部73が算出した出射周期中の各スポットのイオンビームの位置と照射線量を受け取り、直後の出射周期中の各スポットの走査電磁石24,25に流す励磁電流の設定値を算出する。
【0048】
ここで、直前の出射周期の情報に基づき補正する理由について説明する。照射中は、同じ層を二つ以上の出射周期で照射することは少なく、出射周期毎に異なる深さの層を照射する場合が多い。すなわち、出射周期毎にエネルギーの違ったイオンビームにより標的23を照射することになる。イオンビームの基準状態からの変動は、エネルギーが同じ場合、出射周期毎に同じ様子を示す。しかし、エネルギーが違う場合、基準状態からのビーム位置の変動、角度の変動の様子は異なったものになり、補正することが困難となる。ただし、深い層から浅いほうへ向けて順に照射する、あるいは浅い層から深い層に向けて順に照射し、隣り合う層を連続して照射することにより、エネルギーを変更する場合でも、エネルギーの違いは僅かとなる。エネルギーの差が小さい場合、イオンビームの位置,角度の基準状態からの変化は似た様子を示し、補正が有効となる。
【0049】
また、イオンビームは出射周期毎に基準状態から変化するものの他、出射周期に関係なく出射周期に比べて長い時間をかけて変化するものが考えられる。また、様々な機器の経時変化により、その日毎に異なったイオンビームの位置及び角度となってしまうことも考えられる。このような場合においても、直前の出射周期のビーム情報を基に本実施形態による補正方法を用いることにより、照射位置精度を高くすることができる。
【0050】
以下、本実施形態における補正方法について説明する。
【0051】
補正は、まず、直前出射周期の各スポットの上流ビーム位置検出器26と下流ビーム位置検出器27でのビーム位置情報から算出した標的位置での照射位置と目標照射位置との差を算出する。正確に補正するためには、照射位置と目標照射位置との差と目標照射位置の情報を基に補正量を決定する必要がある。しかし、加速器に起因するイオンビーム角度の基準状態からの変動が微小であることから、以下の補正方法を採用することにより目標照射位置に関係無く、照射位置と目標位置との差のみを使用することで照射位置精度を高めることができる。
【0052】
以下、図4〜図6を用いて、本実施形態による粒子線照射システムによるX方向の補正手順について説明する。
図4及び図5は、本発明の一実施形態による粒子線照射システムの照射装置の内部におけるビーム挙動の説明図である。図6は、本発明の一実施形態による粒子線照射システムの制御装置における補正方法を示すフローチャートである。
【0053】
図4において、基準状態のイオンビームは、位置aから照射装置16に入射し、走査電磁石24により走査され、目標照射位置bに達する。他方、補正をしていない場合、位置cから入射した基準状態と異なるイオンビームは同じ励磁電流値に設定された走査電磁石24により走査され、位置dへ到達する。ここで、荷電粒子ビーム発生装置1に起因する走査電磁石内でのイオンビーム位置の基準状態からの変化に対し、走査電磁石による偏向角の大きさの差は僅かである。すなわち、位置aから入射したイオンビームと、位置cから入射したイオンビームは同じ角度だけ偏向する。この偏向角は、最大0.1rad程度であるので、図4の体系を図5の体系に近似する。位置aから位置bに至る経路(基準経路)と、位置cから位置dへ至る経路のビーム位置検出器26,27上での差をxA,xBとする。
【0054】
次に、図6を用いて、本実施形態による粒子線照射システムの制御装置による補正方法について説明する。
【0055】
ステップ101において、加速器制御部72による出射周期が終了した後、ステップ102において、照射制御部73は、差xA,xBを算出する。
【0056】
次に、ステップ103において、計算機75は、上流側ビーム位置検出器26から標的位置までの距離をzAとし、下流側ビーム位置検出器27から標的23までの距離をzBとして、差δx=xA+(xB−xA)×zA/(zA−zB)を算出する。この差δxが、標的位置での目標照射位置と実際の照射位置との差である。ひとつの出射周期中の全てのスポットに対し、この差δxの算出を行う。
【0057】
次に、ステップ104において、計算機75は、各スポットに照射された電荷量の情報を使用することにより、出射周期中の照射済み電荷量D(すなわち、同一周期内の直前のスポットまでの各スポットの照射線量の合計を電荷量に換算したもの)と差δxの関係を、適当な関数,例えば三次関数で近似する(δx=f(D))。
【0058】
次に、ステップ105において、計算機75は、次の出射周期中の各スポットの照射済み電荷量D’(同一出射周期内での直前のスポットまでの各スポットの照射線量の合計を電荷量に換算したもの)に対し、近似により求めた関数から、次の出射周期での各スポットの位置の差の予想値δx’を、δx’=f(D’)により算出する。
【0059】
ステップ106において、計算機75は、補正量Δx’=δx’とし、ステップ107において、計算機75は、目標照射位置x0’の時、x0’+Δx’に対応する励磁電流の値をテーブルから参照し、照射装置制御部に送信する。
【0060】
最後に、ステップ108において、照射制御部73は、照射を開始する。
【0061】
以上の計算をY方向についても同様に行う。
【0062】
ここで、補正対象の前出射周期も補正を受けている場合、前出射周期でのステップ109において、その補正量Δxを計算機75に記録しておき、ステップ110において、δxをδx+Δxに置き換えた上で上記の手順により計算する。
【0063】
この補正方法によると、照射開始後、最初の出射周期では補正することができず、二つ目の出射周期以降のスポットに対し、補正を行う。従って、照射前に試験照射を行い、予め近似曲線(δx=f(D))を取得してもよいものである。また、最初の出射周期のために予め補正量Δx’を決めておいてもよいものである。
【0064】
次に、図7を用いて、本実施形態による粒子線照射システムによる標的位置での照射位置の補正効果について説明する。
図7は、本発明の一実施形態による粒子線照射システムによる標的位置での照射位置の補正効果の説明図である。
【0065】
図7は、図5と同じく、照射装置内を示している。上流側ビーム位置検出器26から走査電磁石24までの距離をz1とし、走査電磁石24から標的23までの距離をz2とする。基準状態のイオンビームはaからbに到達し、位置と角度が基準状態から変化した位置cから位置dに到達するビームを考える。δxはステップ103での計算により求める。照射装置16に入射したビームの基準状態とのなす角をθ1とし、補正による角度をθ2とする。すなわち、Δx=δxであり、走査電磁石に設定する励磁電流値は、基準状態のビームがeへ向かう値と同一にする。よって、θ1=(δx−xA)/(z1+z2)、θ2=δx/z2が成り立つ。補正することにより、cから入射したビーム照射位置は走査電磁石による補正を受けfに到達する。このとき、eとfの差を計算すると、xA+θ1×z1−(θ2−θ1)×z2=0となるのでeとfは一致し補正が正しいことがわかる。これは、Y方向についても同様である。
【0066】
なお、ここでは、出射周期の位相(出射周期内のスポットの位置)を識別するため、照射済み電荷量Dを使用した。ただし、出射周期毎の蓄積電荷量Cの情報を使用し、D/Cにより出射周期の位相の進行を識別する(δx=f(D/C)とする)ことで、より正確に補正することができる。この方法は特に出射周期毎の蓄積電荷量が大きく変化する場合に有効である。
【0067】
なお、上流側ビーム位置検出器は走査電磁石の下流側に設置してもよい。上記実施例と同じように、二つのビーム位置検出器上での基準状態からの距離をxA,xBとすることで同じように計算することができる。二台とも下流に設置した場合には、位置検出の精度が向上する。
【0068】
なお、二つのビーム位置検出器は二台とも走査電磁石上流側に設置しても良い。上記実施例として、ビーム輸送系2に設置された二台の位置モニターによるビーム位置情報から、照射装置内でのビームの位置と角度を求めることにより、補正を行うことも可能である。
【0069】
なお、ここでは、シンクロトロンの周期毎に補正するものとして説明したが、以下のような所定の周期で補正することができる。すなわち、シンクロトロンの2周期毎に補正してもよく、また、前スポットの位置情報を用いて次のスポット位置を補正してもよく、さらに、連続ビームに対してある周期を持ってビームの位置を補正するなど、所定の周期を持って補正することも可能である。
【0070】
なお、ビーム位置検出器は1台で位置及び角度の両方を測定できるものを使用してもよい。その方法として、シンチレータまたはシンチレーションファイバからのシンチレーション光を光電子増倍管またはCCDカメラを使用することにより測定する方法や、複数の層状にワイヤーを張ることにより測定する方法がある。
【0071】
本実施例中の計算機75は、出射周期終了後に照射装置制御部よりビーム位置検出器によるビーム位置の情報を取得している。ここで、ビーム位置情報をスポット終了毎に照射制御装置から受け取り、スポット終了毎に標的位置での照射位置を求めることができる。
【0072】
標的23以外の位置への照射を防ぐため、照射位置が目標照射位置から大きく離れるとインターロックシステムを作動し、照射を停止する必要がある。従来、目標照射位置以外への照射を防ぐため、スポット毎にビーム位置検出器上でのビーム位置が閾値を越えた場合にインターロックシステムが作動している。しかし、ビーム位置検出器上の位置が所望の位置から閾値以上に離れていて、標的23上において照射位置が目標照射位置に一致するような場合、インターロックシステムの作動が必要なくとも、作動してしまい、照射システムの利用効率を低下させている。
【0073】
スポット毎に標的位置での照射位置を算出し、目標照射位置から照射位置までの距離に対して閾値を持ち、その閾値を超えた場合にインターロックシステムを作動させることで、モニタのトレランスを緩和することができ、インターロックシステムの作動を必要最小限にすることができるので、照射効率を上げることができる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態によれば、荷電粒子ビームの照射位置の精度を向上することができ、正常組織への照射を減少させることができる。
【0075】
また、荷電粒子ビーム発生装置に要求されるビーム位置及び角度の精度を緩和することができるので、加速器調整時間を短縮でき、コスト低減することができる。
【0076】
さらに、照射位置精度が上がることで、照射装置のインターロックシステムの作動を少なくすることができる。インターロックシステムの動作回数を減少させることで、ひとつの照射あたりの平均時間を短縮することができ、より多くの照射を決められた時間内に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施形態による粒子線照射システムの全体構成を示すシステムブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態による粒子線照射システムの照射装置の構成を示すシステムブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態による粒子線照射システムにおける標的の深さとイオンビームのエネルギーとの関係の説明図である。
【図4】本発明の一実施形態による粒子線照射システムの照射装置の内部におけるビーム挙動の説明図である。
【図5】本発明の一実施形態による粒子線照射システムの照射装置の内部におけるビーム挙動の説明図である。
【図6】本発明の一実施形態による粒子線照射システムの制御装置における補正方法を示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態による粒子線照射システムによる標的位置での照射位置の補正効果の説明図である。
【符号の説明】
【0078】
1…荷電粒子ビーム発生装置
2…ビーム輸送系
3…ライナック
4…シンクロトロン
5…高周波印加装置
6…加速装置
7…高周波印加電極
8…高周波印加電源
9…スイッチ
10…蓄積電荷量検出器
11…出射用デフレクタ
14,18…四極電磁石
15,19,20…偏向電磁石
16…照射装置
21…照射ベッド
22…照射対象物
23…標的
24,25…走査電磁石
26…上流側ビーム位置検出器
27…下流側ビーム位置検出器
28…線量検出器
70…制御装置
72…加速器制御部
73…照射制御部
74…記録装置
75…計算機
77…照射計画装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを出射する加速器と、荷電粒子ビーム走査装置と、荷電粒子ビーム位置検出装置を有する粒子線照射システムであって、
前記荷電粒子ビーム位置検出装置からの信号に基づき、標的位置でのビーム位置を算出し、前記荷電粒子ビーム走査装置を制御して前記荷電粒子ビームを前記標的位置にて所望の照射位置へ移動させる制御装置を備えたことを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項2】
請求項1記載の粒子線照射システムにおいて、
前記制御装置は、所定の周期毎に前記荷電粒子ビームの位置と角度の情報を基に前記荷電粒子ビーム走査装置への励磁電流の値を補正することを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項3】
請求項1記載の粒子線照射システムにおいて、
前記制御装置は、前記加速器の出射周期毎に前記荷電粒子ビームの位置と角度の情報を基に前記荷電粒子ビーム走査装置への励磁電流の値を補正することを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項4】
請求項1記載の粒子線照射システムにおいて、
前記制御装置は、前記標的位置での前記荷電粒子ビーム位置と前記所望の照射位置との距離に対し、次の前記周期では前記所望の位置を基準として前記ビーム位置の反対側に前記距離だけ離れた点を、前記ビーム位置と前記所望の照射位置が一致するような荷電粒子ビームが照射するような励磁電流量を前記荷電粒子ビーム走査装置に設定することを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項5】
請求項3記載の粒子線照射システムにおいて、
前記制御装置は、前記荷電粒子ビーム走査装置が前記荷電粒子ビームを走査した場合でも、前記荷電粒子ビーム位置検出装置位置での、前記所望の照射位置に向かう前記荷電粒子ビームの位置と、前記荷電粒子ビームの経路との距離により、前記標的位置での前記所望の位置と前記荷電粒子ビーム位置との距離を算出することを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項6】
請求項1記載の粒子線照射システムにおいて、
前記制御装置は、前記出射周期の位相の進行は、同一の出射周期内の照射済み電荷量から識別することを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項7】
請求項1記載の粒子線照射システムにおいて、
前記制御装置は、前記出射周期の位相の進行は、同一の出射周期内の照射済み電荷量を蓄積電荷量で割った数値により識別することを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項8】
請求項1記載の粒子線照射システムにおいて、
前記制御装置は、前記出射周期での前記位相に従って前期荷電粒子ビーム照射位置が変化する位置を、前記出射周期の位相の関数で近似した関数により、前記出射周期の次の出射周期での前記荷電粒子ビーム照射位置を補正することを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項9】
請求項1記載の粒子線照射システムにおいて、
前記荷電粒子ビーム位置検出装置を二台設置し、一台は前記荷電粒子ビーム走査装置の上流側に、もう一台は下流側に設置したことを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項10】
請求項1記載の粒子線照射システムにおいて、
前記荷電粒子ビーム位置検出装置を二台設置し、二台共に、前記荷電粒子走査装置の下流に設置したことを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項11】
請求項1記載の粒子線照射システムにおいて、
前記荷電粒子ビーム位置検出器が1台であり、前記荷電粒子ビームの位置と角度を測定することができることを特徴とすることを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項12】
請求項1記載の粒子線照射システムにおいて、
前記制御装置が算出する前期標的位置での前記荷電粒子ビーム位置と、前記所望の照射位置との差が閾値を超えた場合にインターロックシステムを作動させることを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項13】
請求項1記載の粒子線照射システムにおいて、
前記荷電粒子ビーム位置検出装置を二台設置し、二台共に、前記荷電粒子走査装置の上流に設置したことを特徴とする粒子線照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−347(P2009−347A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164990(P2007−164990)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】