説明

粒子集積体およびその製造方法

【課題】 高品質の粒子集積体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 粒子が密に集積して成る粒子集積体を製造する方法を提供する。その方法は、粒子22が第一溶媒24に分散している粒子分散液20を用意する工程;その分散液20を、第一溶媒24と相分離し得る第二溶媒30中に配置する工程;および、その第二溶媒30中において、粒子分散液20に含まれる第一溶媒24を第二溶媒30に拡散させる工程;を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球形粒子が密に集積して成る粒子集積体に関する。また本発明は、粒子が密に集積して成る粒子集積体を製造する方法に関する。さらに、かかる粒子集積体が基材表面に配置された粒子集積体材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の粒子の集合体は、単一の粒子とは異なる有用な特性を発揮する材料となり得ることから広く研究されている。例えば、微粒子が高度の規則性をもって集合して成る粒子集積体は、フォトニック結晶その他の分野において有用な材料となり得る。
特許文献1には、微粒子を含む懸濁液に基板を浸漬し、該基板を懸濁液中からゆっくりと引き上げることにより基板表面に単層微粒子膜を形成する技術が記載されている。微粒子の集合体に関する他の従来技術文献として特許文献2が挙げられる。
【0003】
【特許文献1】特開平8−234007号公報
【特許文献2】特開2002−341161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、基板とともに液相(懸濁液)中の粒子を気相中に引き上げることによって該基板の表面に膜状の粒子集合体を形成している。しかしこの技術は、任意の二次元形状を有する粒子集合体の作製に適用することはできない。また、気相と液相との界面の状態を安定して制御することが困難であるため、粒子集合体を構成する粒子の配列に欠陥が生じやすい。
【0005】
本発明は、粒子が密に集積して成る粒子集積体(クラスター)であって、高品質の粒子集積体(例えば、欠陥が少ない、配列の規則性が高い、の少なくとも一方を満たす粒子集積体)を提供することを一つの目的とする。本発明の他の一つの目的は、粒子が密に集積して成る粒子集積体の製造に適した、新規かつ有用な方法を提供することである。さらに他の目的は、このような粒子集積体が基材表面に配置された粒子集積体材料およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、気相と液相との界面(気−液界面)ではなく、液相と液相との界面(液−液界面)を利用することにより上記課題を解決し得ることを見出して本発明を完成した。
【0007】
ここに開示される一つの発明によると、実質的に単分散の球形粒子が密に集積して成る粒子集積体が提供される。その粒子集積体は球状の外形を呈する。該集積体を構成する球形粒子の平均直径dは10μm以下である。また、前記粒子集積体自体の半径rと、該集積体を構成する球形粒子の平均直径dとの比(r/d)は、凡そ5〜50の範囲にある。そして、この粒子集積体は、該集積体の球表面を構成する個々の粒子に着目し、それらを該粒子が5個の球面構成粒子で囲まれているもの(すなわち面内5配位の粒子(P5))と、該粒子が6個の球表面構成粒子で囲まれているもの(面内6配位の粒子(P6))と、該粒子が7個の球面構成粒子で囲まれているもの(面内7配位の粒子(P7))との三種に分類したとき、前記P5に該当する粒子の個数(NP5)と前記P6に該当する粒子の個数(NP6)と前記P7に該当する粒子の個数(NP7)との関係が次式:10%<{(NP5+NP7)/(NP5+NP6+NP7)}<30%;を満たす。
このような粒子集積体は、比較的多数の微粒子が集積して成る集積体でありながら、その球表面における粒子の配列規則性に優れる。すなわち該集積体は、粒子が密に詰まった高品質の球表面を備える。このような集積体は、種々の分野において有用である。
【0008】
ここに開示される他の一つの発明によると、実質的に単分散の球形粒子が密に集積して成る粒子集積体であって、該粒子が基材表面に所定の二次元パターンで集積した粒子集積体が提供される。ここで「二次元パターン」とは、基材表面に集積している粒子集積体を該表面に垂直な方向から見たときの該集積体の形状(パターン)をいう。該集積体を構成する球形粒子の平均直径dは10μm以下である。そして、前記集積体は、以下の(A)および(B)の少なくとも一方を満たす。
(A)前記パターンは仮想的な輪郭線が直線状の部分を有し、該直線状部分において前記集積体の外縁を構成する粒子の中心から前記仮想的な輪郭線までの距離の標準偏差Sが1×10-2μm以下である。
(B)前記パターンは仮想的な輪郭線が円弧状の部分を有し、該円弧状部分において前記集積体の外縁を構成する粒子の中心から前記仮想的な輪郭線までの距離の標準偏差Sが5×10-1μm以下である。
ここで、上記(A)について「仮想的な輪郭線が直線状の部分」とは、粒子集積体の外縁を構成する粒子の中心の位置が一次直線(仮想的な輪郭線)によってよく近似される部分を指す。上記(B)について「仮想的な輪郭線が円弧状の部分」とは、粒子集積体の外縁を構成する粒子の中心が円弧(仮想的な輪郭線)によってよく近似される部分を指す。
このような粒子集積体は、その二次元パターンの外縁(輪郭)の明瞭性および粒子の配列規則性が良好である。このように高品質の粒子集積体は有用性が高い。
【0009】
ここに開示される他の一つの発明によると、粒子が密に集積して成る粒子集積体を製造する方法が提供される。その方法は、前記粒子が第一溶媒に分散している粒子分散液を用意する工程を含む。また、前記粒子分散液を、前記第一溶媒と相分離し得る第二溶媒中に配置する工程を含む。そして、前記第二溶媒中において、前記分散液に含まれる粒子を実質的に前記配置された状態に維持しつつ、該分散液に含まれる第一溶媒(すなわち、前記粒子の分散媒)を第二溶媒に拡散させる工程を含む。
粒子分散液を第二溶媒中に配置すると、該粒子分散液(第一溶媒)と第二溶媒との間に液−液界面が形成される。該分散液に含まれる第一溶媒が第二溶媒に徐々に拡散することにより、該拡散から取り残された粒子が密に集積して粒子集積体を形成する。
【0010】
上記製造方法は、例えば、適当な基材表面に粒子集積体を製造するのに適用することができる。すなわち、ここに開示される他の一つの発明によると、粒子が密に集積して成る粒子集積体を基材表面に製造する方法が提供される。その製造方法は、前記粒子が第一溶媒に分散している粒子分散液を用意する工程と、前記基材の表面に前記分散液を付与する工程と、前記第一溶媒と相分離し得る第二溶媒中に前記基材を配置する工程とを含む。ここで、前記基材表面に粒子分散液を付与する工程は、該基材を第二溶媒中に配置する前に行ってもよく、該基材を第二溶媒中に配置した後に行ってもよい。この製造方法は、さらに、前記第二溶媒中において、前記基板上の分散液に含まれる粒子を前記基材表面に残しつつ、該分散液に含まれる第一溶媒を第二溶媒に拡散させる工程を含む。これにより、該拡散から取り残された粒子が密に集積して粒子集積体を形成する。
かかる方法によると、粒子分散液(第一溶媒)と第二溶媒との間に形成される液−液界面を利用して、粒子が密に集積した粒子集積体を適切に製造することができる。
【0011】
かかる製造方法の好ましい一つの態様では、前記分散液が付与される基材表面が、所定領域の前記第一溶媒に対する親和性が該領域の周囲よりも高くなるようにパターン化されている。このようにパターン化された基材表面に粒子分散液を付与することにより、上記粒子分散液を該所定領域に優先的に(好ましくは選択的に)配置することができる。このように配置された分散液に含まれる第一溶媒を第二溶媒中に拡散させることにより、上記所定領域に優先的に(好ましくは選択的に)粒子集積体を形成することができる。
【0012】
これらの製造方法に使用する粒子の好適例としては、比較的シャープな粒子径分布を有する粒子(好ましくは実質的に単分散の粒子、換言すれば、実質的に均一粒径の粒子)が挙げられる。また、球形粒子の使用が好ましく、実質的に真球状の粒子の使用がさらに好ましい。このような粒子径分布および/または形状を有する粒子を使用する場合には、本発明の製造方法を採用することによる効果が特によく発揮され得る。例えば、粒子配列の規則性がより良好な(配列の欠陥が少ない)粒子集積体を製造する、粒子がより密に集積した粒子集積体を製造する、より明瞭な輪郭を有する粒子集積体を製造する、のうち一または二以上を実現し得る。すなわち、より高品質の粒子集積体を製造し得る。
【0013】
ここに開示される他の一つの発明は、粒子が密に集積して成る粒子集積体が基材表面に配置された粒子集積体材料(すなわち、基材と該基材表面に配置された粒子集積体とを有する基板)の製造方法を提供する。その製造方法は、前記粒子が第一溶媒に分散している粒子分散液を用意する工程を含む。また、前記基材の表面に前記分散液を付与する工程を含む。また、前記第一溶媒と相分離し得る第二溶媒中に前記基材を配置する工程を含む。ここで、前記基材表面に粒子分散液を付与する工程は、該基材を第二溶媒中に配置する前に行ってもよく、該基材を第二溶媒中に配置した後に行ってもよい。この製造方法は、さらに、該第二溶媒中において、前記基材表面の分散液に含まれる粒子を該基材表面に残しつつ、該分散液に含まれる第一溶媒を第二溶媒に拡散させる工程を含む。これにより、該拡散から取り残された粒子が密に集積して粒子集積体を形成する。
かかる方法によると、粒子分散液(第一溶媒)と第二溶媒との間に形成される液−液界面を利用して、粒子が密に集積した粒子集積体を基材表面に有する粒子集積体材料を適切に製造することができる。
【0014】
上記方法は、前記粒子集積体が前記基材の所定領域に配置された粒子集積体材料を製造する方法として好ましく適用することができる。例えば、上記製造方法において、所定領域の前記第一溶媒に対する親和性が該領域の周囲よりも高くなるようにパターン化された基材を使用し、その基材の表面に粒子分散液を付与する。これにより、該所定領域に対応して粒子集積体が配置された粒子集積体材料を製造する。かかる態様によると、粒子集積体が上記所定領域に優先的に(好ましくは選択的に)形成された粒子集積体材料を適切に製造することができる。また、二以上の前記所定領域が所定のパターン(配列)を構成するように形成された基材を使用し、該パターンに対応して配置された粒子集積体から成るパタニング(配列物)が形成された粒子集積体材料を製造することができる。
上述したいずれかの方法は、種々の二次元パターン(二次元形状)を有する粒子集積体、および、該集積体を基材上に備えた粒子集積体材料の製造に適用することができる。また、二以上の粒子集積体が種々の配列(配列パターン)を成すように配置された粒子集積体パタニングおよび該パタニングを基材上に備えた粒子集積体材料の製造に適用することができる。かかる方法は、例えば、基材表面の二以上の方向に配列された複数の粒子集積体からなる粒子集積体パタニングおよび該パタニングを基材上に有する粒子集積体材料(すなわち、基材と該基材表面に配置された粒子集積体パタニングとを有する基板)を製造する方法として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に関する具体的な実施態様につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。また、本明細書において特に言及している内容以外の技術的事項であって本発明の実施に必要な事項は、従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書および図面によって開示されている技術内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
ここに開示される方法は、第二溶媒の相の中に第一溶媒(粒子分散液)の相が配置された二液系を構成し、次いで第一溶媒を第二溶媒に拡散させることにより液−液界面を利用して粒子を集積させる、という特徴を備える。かかる特徴を具備する限り、ここに開示される方法は、使用する粒子の特性(材質、外形、粒度分布等)等を問わず種々の態様で実施することがができる。例えば、直径0.1〜100μm程度の粒子を使用する態様で実施することができる。直径0.1〜20μm程度の粒子の使用がより好ましく、直径0.2〜10μm程度の粒子がさらに好ましい。より密な粒子集積体を得るという観点からは、滑らかな(凹凸の少ない)外形を有する粒子を使用することが好ましい。球に近い外形を有する粒子(球形粒子)が好ましく、実質的に真球状の粒子が特に好ましい。高品質の(換言すれば、より望ましい集積状態の)集積体を得るには、通常は、粒度分布が比較的シャープな粒子を用いることが有利である。例えば、粒度分布の標準偏差が0.5μm(50%)以下の粒子を好ましく使用することができる。該標準偏差が0.2μm(20%)以下の粒子がより好ましく、該標準偏差が0.1μm(10%)以下の粒子がさらに好ましい。実質的に単分散の(すなわち、実質的に均一粒径の)粒子を使用することが特に好ましい。
【0017】
ここに開示される発明は、金属、セラミック等からなる無機粒子、樹脂等からなる有機粒子のいずれの粒子から成る粒子集積体にも適用可能である。例えば、SiO2,TiO2,BaTiO3,Y23,Al23,SiC等のようなセラミック材料、金(Au),銀(Ag),銅(Cu),ニッケル(Ni)またはこれらの合金のような金属材料、ポリメチルメタクリレート(PMMA),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリスチレン等のようなポリマー材料等から主として構成される粒子を使用することができる。表面が適当に化学修飾または変性された粒子を用いてもよい。後述する第一溶媒および第二溶媒のいずれに対しても安定な(例えば、化学反応、溶解、膨潤等を起こしにくい)材質から成る粒子を選択することが好ましい。また、特性(材質、外形、粒度分布等)の異なる二種以上の粒子を併用してもよい。
【0018】
上記粒子を第一溶媒に分散させた粒子分散液を使用して粒子集積体を製造する。第一溶媒としては、使用する粒子の種類等を考慮して、分散安定性のよい分散液を与える溶媒を用いることが好ましい。上記分散安定性を向上させるために、一般的な分散剤を上記粒子分散液に適当量含有させてもよい。
特に限定するものではないが、この粒子分散液における粒子濃度は、例えば、凡そ0.01〜100mg/mLとすることができる。通常は、該粒子濃度を凡そ0.1〜10mg/mLとすることが適当である。好ましい粒子濃度は、目的とする粒子集積体の三次元形状(一粒子層状、多粒子層状、球状等)、サイズ(直径、面積等)、製造条件等によっても異なり得る。例えば、一粒子層から成る粒子集積体を基材表面に製造する場合には、通常は、比較的粒子濃度の低い粒子分散液(例えば、凡そ0.01〜0.1mg/mL)を使用することが好ましい。
【0019】
本発明では、第一溶媒と第二溶媒とを、これらが適切な組み合わせとなるように選択して使用する。すなわち、第一溶媒および第二溶媒は、両溶媒の間に液−液界面を形成し得る組み合わせ(両溶媒が相分離し得る組み合わせ、あるいは均一混合しない組み合わせ)となるように選択される。第一溶媒および第二溶媒の各々は、公知の有機溶媒および無機溶媒等から選択される一種類の溶媒からなる溶媒であってもよく、均一に混合する二種類以上の溶媒からなる混合溶媒であってもよい。通常は、一種類の溶媒からなる第一溶媒と、他の一種類の溶媒からなる第二溶媒とを用いることが好ましい。
【0020】
第一溶媒と第二溶媒との好適な組み合わせは、粒子集積体の製造条件、目的とする粒子集積体の形状等によっても異なり得る。特に限定するものではないが、例えば、基材表面に比較的大きな球状の粒子集積体を形成する場合、基材表面に比較的厚い(多層の)粒子集積体を形成する場合等にあって、分散液が付与された面を上として第二溶媒中に基材を配置する製造条件においては、第一溶媒と第二溶媒との比重が同程度か、第一溶媒の比重が第二溶媒の比重よりもやや小さい組み合わせとすることによって良好な結果が得られやすい。一方、分散液が付与された面を下として第二溶媒中に基材を配置する製造条件においては、第一溶媒と第二溶媒との比重が同程度か、第一溶媒の比重が第二溶媒の比重よりもやや大きい組み合わせとすることによって良好な結果が得られやすい。
一方、基材表面に所定の二次元形状を有する粒子集積体を形成する場合、基材表面の比較的広い範囲に均一な厚さの粒子集積体を形成する場合、基材表面に比較的薄い(例えば一粒子層〜二粒子層程度の)粒子集積体を形成する場合等にあって、分散液が付与された面を上として基材を第二溶媒中に配置する製造条件においては、第一溶媒と第二溶媒との比重が同程度か、第一溶媒の比重が第二溶媒の比重よりもやや大きい組み合わせとすることによって良好な結果が得られやすい。
また、第二溶媒中に第一溶媒の液滴を分散(浮遊)させた状態で粒子集積体を形成する場合には、第一溶媒と第二溶媒との比重が同程度となるような組み合わせとすることが好ましい。
【0021】
ここに開示される一つの好ましい態様では、第一溶媒および第二溶媒のうち一方を親水性溶媒から選択し、他方を疎水性溶媒から選択することができる。親水性溶媒としては、水、低級アルコール(例えば、炭素数1〜3程度のアルキルアルコール)、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン等から選択される一種または二種以上を用いることができる。また、疎水性溶媒としては、脂肪族炭化水素類(例えば、炭素数6〜12程度の鎖状炭化水素類(ヘキサン等)、炭素数6〜12程度の脂環式炭化水素類(デカリン等))、エーテル類(ジイソプロピルエーテル等)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン等)等から選択される一種または二種以上を用いることができる。操作の容易性等の観点から、通常は、第一溶媒および第二溶媒として、沸点が凡そ40℃以上であって凝固点が凡そ20℃以下である溶媒をそれぞれ選択することが好ましい。
【0022】
本発明の方法は、粒子集積体を任意の基材表面に製造する方法として好適である。使用する基材の材質や形状等は特に限定されない。例えば、シリコン(Si)、ガラス、金属(銅、アルミニウム等)、セラミック(アルミナ等)、ポリマー(PMMA等)から選択される一種または二種以上の材料から主として構成される基材を使用することができる。第一溶媒および第二溶媒のいずれに対しても安定な(例えば、化学反応、溶解、膨潤等を起こしにくい)材質から成る基材が好ましい。
【0023】
一つの好ましい態様では、分散液が付与される面の一部範囲またはほぼ全範囲に表面処理が施された基材を使用する。その表面処理された面に粒子分散液を付与して粒子集積体を形成する。かかる表面処理を施すことにより、基材表面の均一性を高める、基材表面の第一溶媒に対する親和性を調節する(親和性を高くする、あるいは低くする)、基材表面の所定領域と該領域の周囲とで第一溶媒に対する親和性を異なる状態とする(所定領域の親和性をより高くする、あるいはより低くする)ように基材表面をパターン化する、等のうち、一または二以上の効果を得ることができる。あるいは、このような表面処理を行うことなく、上記材質等からなる基材自体の表面に(すなわち、基材を構成する材質が露出した状態の表面に)直接粒子集積体を形成してもよい。
【0024】
基材表面に表面処理を施す方法としては、基材の材質、表面処理の目的等に応じて、種々の表面処理方法(あるいは表面改質方法)を採用することができる。好ましい方法の一例として、基材表面に所望のコーティングを施す(被膜を形成する)方法が挙げられる。例えば、いわゆる疎水性コーティング、あるいは親水性コーティングを施すことが好ましい。かかるコーティングを施す方法は特に限定されない。例えば、基材表面のほぼ前面または該表面の任意の範囲に適当なコーティング剤を付与すればよい。コーティング剤を付与する手段としては、ディッピング、ドクターブレード塗布、ローラ塗布、スプレー塗布、刷毛塗り、スクリーン印刷、型押し、フォトリソグラフィ等の従来公知の付与手段を適宜採用することができる。必要に応じて(例えば、基材表面の任意の範囲にコーティング剤を付与する場合等)、二種以上の手段を組み合わせて用いてもよく、いずれかの手段を繰り返して用いてもよい。
【0025】
ここに開示される方法に使用する基材の一好適例として、表面に自己組織化膜を有する基材が挙げられる。このような基材は表面の均一性に優れたものであり得る。表面に自己組織化単分子膜(self-assembled monolayer、以下「SAM」ということもある。)を有する基材がさらに好ましい。例えば、シリコン(Si),チタン(Ti)またはタンタル(Ta)等に非極性基および少なくとも一つのアルコキシ基またはハロゲンが結合した構造の化合物をモノマーに用いることにより、基材表面に疎水性の自己組織化膜(好ましくはSAM)を形成することができる。上記非極性基は、例えば、炭素数4〜20程度(好ましくは8〜20程度)の炭化水素基(典型的にはアルキル基)であり得る。かかる炭化水素基を構成する水素原子の一部または全部がハロゲン(例えばフッ素)で置換された非極性基であってもよい。その他、自己組織化膜を形成し得るものとして知られている公知のモノマーを特に限定なく使用することができる。
【0026】
ここに開示される方法は、所定領域とその周囲とで第一溶媒に対する親和性が異なるように(例えば、疎水性の程度が異なるように)パターン化された表面を有する基材を用いて実施することができる。該パターン化された基材は、例えば以下のようにして作製することができる。すなわち、感光性(光分解性)の疎水性基を有するモノマーを用いて基材表面に疎水性被膜(好ましくはSAM)を形成する。次いで、所定領域に対応する部分に光(例えば紫外光)を照射して疎水性基を分解させる。これにより、該所定領域に対応する部分の疎水性被膜を親水性に変化させる。このようにして、所定領域の親水性が該領域の周囲よりも高くなるようにパターン化された表面を有する基材が得られる。かかる基材は、例えば、親水性の第一溶媒(水、メタノール等)を用いる態様において好ましく使用することができる。
上記例では所定領域に対応する部分に光を照射したが(ポジ型)、所定領域と相補的な領域に光を照射してもよい(ネガ型)。この場合には、所定領域の親水性が該領域の周囲よりも低くなるようにパターン化された表面を有する基材が得られる。かかる基材は、例えば、疎水性の第一溶媒(ヘキサン、デカリン等)を用いる態様において好ましく使用することができる。
【0027】
光分解性の疎水性基を有するモノマーとしては、例えば、オクタデシルトリクロロシラン(OTS)、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシルトリクロロシラン(HFDTS)、フェニルトリクロロシラン、トリメトキシシリルエチルピリジン等の化合物を好ましく使用することができる。これらのモノマーは、基材の表面にSAMを形成するためのモノマーとしても好適である。OTSを用いて形成されたSAM(以下、「OTS−SAM」ともいう。)では、疎水性のオクタデシル基が光分解することによってシラノール基が生じる。また、HFDTSを用いて形成されたSAM(以下、「HFDTS−SAM」ともいう。)では、疎水性のフルオロデシル基が分解することによってシラノール基が生じる。特に限定するものではないが、これらの疎水性基は、例えば紫外線(UV)の照射によって適切に光分解させることができる。
【0028】
ここに開示される方法の一つの好ましい態様では、基材の表面に粒子分散液を付与し、次いで、該分散液を有する基材を第二溶媒中に配置する。基材表面に粒子分散液を付与する方法は特に限定されない。例えば、スポイト等の供給管を用いて基材表面に粒子分散液を供給(滴下)する方法、基材を粒子分散液に浸漬(ディッピング)する方法、基材表面に粒子分散液をスプレーする方法等を適宜採用することができる。
粒子分散液を有する基材を第二溶媒中に配置する方法は特に限定されない。基材表面に粒子分散液を付与する場合と同様に、スポイト等の供給管を用いて粒子分散液を有する基材の上方から第二溶媒を供給(滴下)する方法、粒子分散液を有する基材を第二溶媒中に沈める方法、粒子分散液を有する基材の上方から第二溶媒をスプレーする方法等を適宜採用することができる。基材上の粒子分散液を第二溶媒で覆うことができるように、該基材上にある粒子分散液よりも多量の第二溶媒を使用することが好ましい。粒子分散液を有する基材を第二溶媒中に沈める方法が特に好ましい。
【0029】
他の一つの好ましい態様では、まず第二溶媒中に基材を配置し、次いで、該第二溶媒中において基材表面に粒子分散液を付与する。例えば、第二溶媒中にある基材の表面にスポイトの先端を近づけ、該先端から基材表面に粒子分散液を供給する。また、例えば粒子分散液(第一溶媒)の比重が第二溶媒の比重よりも明らかに大きい場合には、基材表面の上方にやや離れた位置から分散液を供給してもよい。相対的に重い粒子分散液が第二溶媒中を基材表面に到達するまで沈むことにより、該基材表面に粒子分散液が付与される。
【0030】
上述したいずれの態様によっても、第二溶媒中に配置された基材表面に粒子分散液が配置された状態を実現することができる。この状態から該分散液に含まれる第一溶媒を第二溶媒に拡散させることにより、該分散液中の粒子が密に集積して粒子集積体を形成する。この拡散工程では、第一溶媒を十分に拡散させる(溶解させる)ことが可能な程度に多量の第二溶媒を使用する。少なくとも基材表面に配置された粒子分散液よりも多量の第二溶媒を使用することが好ましい。通常は、該拡散工程の間、第二溶媒中において基材をほぼ水平に保持することが好ましい。このことによって、より高品質の粒子集積体が形成され得る。
粒子分散液が第二溶媒中に配置された状態で超音波処理を行ってもよい。該超音波処理によって粒子分散液を微細化し、よりサイズの小さな粒子集積体を作製することができる。かかる超音波処理は、基材の使用の有無に拘わらず適用することができる。
【0031】
パターン化された基材を用いる態様では、基材の所定領域に粒子分散液が優先的に(好ましくは選択的に)配置された状態で上記拡散を進行させることが好ましい。このことによって、該所定領域に粒子集積体を優先的に(好ましくは選択的に)形成することができる。このようにパターン化された基材をテンプレートとして用いることにより、該基材表面に粒子集積体を自己組織的に形成することができる。
【0032】
粒子集積体の形成位置および/または形成範囲(二次元パターン)をよりよく制御するためには、粒子分散液が基材の所定領域になるべく精度よく配置された状態を実現することが望ましい。かかる状態を実現するためには、例えば、所定領域とその周囲との第一溶媒に対する親和性の差(疎水性の程度の差等)を大きくすることが好ましい。また、上記所定領域の面積および第二溶媒中における粒子分散液の三次元形状(モールド)を考慮して、適切な量の粒子分散液を基材表面に配置することが好ましい。粒子分散液を付与した基材を穏やかに揺すって、粒子分散液のうち所定領域からはみ出した部分を該所定領域上に適切に移動させることも有効である。
【0033】
基材表面に配置される粒子分散液の量を調節するために、必要に応じて、いったん基材表面に付与された粒子分散液の一部を基材表面から除去してもよい。例えば、基材を傾けたり振ったりする操作、または基材を回転させる(遠心力を作用させる)操作等を行うことによって余分な粒子分散液を除去することができる。これらの手法は、基板が第二溶媒中に配置された状態で実施してもよい。
【0034】
ここに開示される発明は、任意の二次元形状の所定領域(すなわち、第一溶媒に対する親和性が周囲よりも高い領域)を表面に有する基材を用いて実施することができる。このようにパターン化された表面を有する基材を用いることによって、該所定領域の二次元形状に対応した二次元形状を有する粒子集積体を好適に作製することができる。換言すれば、該パターン化された表面を、所定の二次元形状の粒子集積体を作製するためのテンプレートとして好適に活用することができる。本発明の方法は、例えば、円板形、多角形、直線状(棒状)、円弧状等の種々の幾何学的な二次元形状、あるいは他の任意の二次元形状(例えば、文字、記号等の形状)を有する粒子集積体を基材表面に作製する方法として好適である。また、かかる二次元形状の粒子集積体が基材表面に配置された粒子集積体材料(基板)を製造する方法として好適である。
【0035】
また、ここに開示される発明は、任意の一次元配列または二次元配列を構成する複数の所定領域(すなわち、第一溶媒に対する親和性が周囲よりも高い領域)を表面に有する基材を用いて実施することができる。このようにパターン化された表面を有する基材を使用することにより、各所定領域に対応した配列を有する粒子集積体を好適に作製することができる。換言すれば、該パターン化された表面を、所定の配列を構成する粒子集積体を作製する(好ましくは、自己組織的に作製する)ためのテンプレートとして好ましく用いることができる。本発明の方法は、規則的に配列した複数の粒子集積体の製造および不規則に配列した粒子集積体の製造のいずれにも好ましく適用することができる。また、複数の粒子集積体が基材表面の一つの方向に配列(一次元配列)した粒子集積体材料のみならず、二以上の方向に配列(二次元配列)した粒子集積体材料の製造にも適用することができる。
【0036】
粒子集積体の三次元形状は、例えば、該粒子集積体が形成される領域および/またはその周囲の領域における基材と第一溶媒(粒子分散液)との親和性、基材上に付与する粒子分散液の量、第一溶媒と第二溶媒との組み合わせ(例えば、両溶媒の比重の関係)、製造条件等によって調整することができる。例えば、基材の表面に球に近い形状の粒子集積体を製造する場合には、粒子分散液に対する親和性の低い基材表面に該分散液を付与することが好ましい。すなわち、第一溶媒として親水性溶媒を使用する場合には、基材の疎水性表面に粒子分散液を付与する。また、第二溶媒としては、第一溶媒の比重と同程度かあるいはやや大きい比重を有するものを選択することが好ましい。この場合、基材表面に付与された粒子分散液は、第二溶媒中において、該表面に対して高い接触角(好ましくは凡そ90°以上)を示す液滴を形成する。かかる液滴に含まれる第一溶媒を第二溶媒中に拡散させることにより、球に近い形状の粒子集積体を容易に製造することができる。
【0037】
また、粒子分散液を該分散液と同程度の比重を有する第二溶媒中に分散させることにより、第二溶媒中に粒子分散液からなるほぼ球形の液滴が配置された(浮遊した)状態を実現することができる。そして、粒子分散液に含まれる第一溶媒を第二溶媒に拡散させることにより、球に近い形状の粒子集積体を得ることができる。第一溶媒の比重と同程度の比重を有する粒子を使用することによって、第一溶媒の拡散に伴う粒子分散液の比重の変動を抑制することができる。その結果として、より高品質の粒子集積体が製造され得る。
【0038】
平均粒子径(平均直径)dが10μm以下であって実質的に単分散の球形粒子を使用して上記製造方法を実施することにより、例えば、以下の態様1または態様2のような粒子集積体が製造され得る。
【0039】
<態様1:球状の粒子集積体>
上記球形粒子の平均直径dの5倍から10倍の半径の球状の外形を呈する粒子集積体(例えば、半径約5〜50μmの球状の粒子集積体)であって、上述した面内5配位の粒子(P5)と面内6配位の粒子(P6)と面内7配位の粒子(P7)との合計数に対して面内5配位の粒子(P5)および面内7配位の粒子(P7)の合計数の占める割合が凡そ10〜30%の範囲にある粒子集積体が製造され得る。より好ましい態様では、該割合が凡そ13〜20%の範囲にある粒子集積体が製造され得る。典型的には、このような粒子集積体が、基材の表面に配置された状態で得られる。該粒子集積体は、ほぼ完全な球体を構成する形状であり得る。また、かかる球体の一部が平面で(例えば基材表面に接する部分で)カットされた形状(ドーム状)であり得る。少なくとも半球よりも球に近い形状(換言すれば、少なくとも球の中心が集積体の内部に位置する形状)の粒子集積体であることが好ましい。本発明の方法によると、上記カットされた部分と球の中心との成す角が240°以上(より好ましくは300°以上)である球状の粒子集積体を基材表面に製造し得る。
【0040】
ここで、実質的に単分散の球形粒子が平面状に密集して成る一粒子層(モノレイヤー)の粒子集積体における理想的な構造は、該集積体を構成する個々の粒子が同平面内にある他の6個の粒子で囲まれた最密充填三角格子(一つの粒子が同一面内において他の6つの粒子と接している状態、すなわち面内最密充填構造)の繰り返し構造である。一方、かかる粒子が「球状」に集積して成る粒子集積体の理想的な構造では、最密充填三角格子の繰り返しのみによっては該集積体の球状の表面(球表面)を覆うことができない。球状の粒子集積体の場合には、最密充填三角格子をベースとしつつ、一つの粒子が面内にある他の5個の粒子で囲まれた構造(面内5配位、すなわち同一面内において他の5つの粒子と接している状態)、および/または、一つの粒子が面内にある他の7個の粒子で囲まれた構造(面内7配位、すなわち同一面内において他の7つの粒子と接している状態)を導入することにより、その球表面を理想的に(すなわち密に)覆うことが可能となる。換言すれば、単分散の球形粒子が球状に密集して成る粒子集積体における一つの典型的な構造では、該集積体の球表面に、面内5配位粒子および/または面内7配位の粒子を有する。
【0041】
ここに開示される粒子集積体は、上述のように、球表面構成粒子のうち面内5配位構造または面内7配位構造をとる粒子の割合(個数比)が凡そ10〜30%(好ましくは凡そ13〜20%)の範囲にある粒子集積体であり得る。球面構成粒子のうち面内5配位構造または面内7配位構造をとる粒子の割合は、例えば、以下のようにして求めることができる。
まず、球状の粒子集積体の球表面におけるP5,P6およびP7の数は、例えば、該集積体の球表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して得られた像(SEM像)を用いて把握することができる。より具体的には、例えば、該SEM像に表れている球表面の任意の領域について、面内5配位構造をとる粒子P5の数(np5)、面内6配位構造をとる粒子P6の数(np6)、および面内7配位構造をとる粒子P7の数(np7)をそれぞれカウントする。そして、それら各粒子の数から、式:(nP5+nP7)/(nP5+nP6+nP7);により、該集積体の球表面構成粒子に占める面内5配位構造または面内7配位構造をとる粒子の割合を求めることができる。
【0042】
5,P6およびP7の数をカウントする対象とする領域は、その粒子集積体の有する球表面のほぼ全体であってもよく、一部の領域であってもよい。通常は、該球表面の一部の領域(例えば、その球表面に仮想的な円を描いた場合における該円内の領域)についてP5,P6およびP7の数をカウントすることが簡便であり好ましい。ここに開示される粒子集積体の典型的な態様では、該一部領域に含まれる球面構成粒子のうち面内5配位構造または面内7配位構造をとる粒子の割合{(nP5+nP7)/(nP5+nP6+nP7)}を、その粒子集積体の有する球表面全体における面内5配位構造または面内7配位構造をとる粒子の割合{(NP5+NP7)/(NP5+NP6+NP7)}を表すものとして(少なくとも該割合の近似値として)採用することができる。すなわち、上記関係式:10%<{(NP5+NP7)/(NP5+NP6+NP7)}<30%;に代えて、次の関係式:10%<{(nP5+nP7)/(nP5+nP6+nP7)}<30%を;を用いることができる。球表面の一部についてP5,P6およびP7の数をカウントすることによってその粒子集積体の有する球表面の全体における面内5配位構造または面内7配位構造をとる粒子の割合をより適切に近似するためには、該集積体が半径rの球体であると仮定した場合における全表面積(4πr2)の凡そ3%以上(例えば凡そ3〜30%)に相当する連続した領域(典型的には一つの円で囲まれた領域)についてP5,P6およびP7の数をカウントすることが好ましい。換言すれば、上記全表面積をS1とし、カウント対象とする領域の面積をS2としたとき、S2/S1が凡そ3%(0.03)以上となるように該カウント対象領域を設定することが好ましい。S2/S1が凡そ5%以上(例えば凡そ5〜20%)となるように設定することがより好ましい。
【0043】
粒子集積体を一方向(該粒子集積体が基材表面に形成されている場合には、例えばその基材表面に垂直な方向)から観察した二次元SEM像を用いてP5,P6およびP7の数をカウントする場合には、該SEM像において粒子集積体の外形(輪郭)を構成する円と同心円で囲まれる領域をカウント対象とすることが好ましい。これにより、その粒子集積体の球表面構成粒子に占める面内5配位構造または面内7配位構造をとる粒子の割合をより的確に把握することができる。この場合には、例えば、該集積体が半径rの球体であると仮定した場合における全表面積に対して上記同心円で囲まれる領域(カウント対象領域)が凡そ5〜15%程度となるように(すなわち、上記S2/S1が凡そ5〜15%程度となるように)該同心円の半径を設定することが適当である。
【0044】
なお、粒子集積体がほぼ完全な球体であると仮定して、該集積体の全表面積におけるP5,P6およびP7の個数をそれぞれNP5,NP6およびNP7とし、球状粒子集積体の任意の表面領域(カウント対象領域)S2におけるP5,P6およびP7の個数をそれぞれnP5,nP6およびnP7とした場合、NP5の値は式:NP5=nP5×(S1/S2);により算出することができる。同様に、NP6の値は式:NP6=nP6×(S1/S2);により、NP7の値は式:NP7=nP7×(S1/S2);により算出することができる。
【0045】
<態様2:基材表面に所定の二次元パターンで集積した粒子集積体>
上記球形粒子が基材表面に所定の二次元パターンで集積して成る粒子集積体であって、以下の(A)および(B)の少なくとも一方を満たす粒子集積体が製造され得る。
(A)前記パターンは仮想的な輪郭線が直線状の部分を有し、該直線状部分において前記集積体の外縁を構成する粒子の中心から前記仮想的な輪郭線までの距離の標準偏差Sが1×10-2μm以下である;および
(B)前記パターンは仮想的な輪郭線が円弧状の部分を有し、該円弧状部分において前記集積体の外縁を構成する粒子の中心から前記仮想的な輪郭線までの距離の標準偏差Sが5×10-1μm以下である。
ここで、上記「集積体の外縁を構成する粒子」は、典型的には、その粒子集積体の最も外側に連続的に並んだ粒子に該当する。
【0046】
上記(A)について「仮想的な輪郭線が直線状の部分」とは、粒子集積体を基材表面に垂直な方向からみたとき、該集積体の外縁を構成する複数の(少なくとも20個以上、好ましくは30個以上の)粒子の中心の位置が一次直線によってよく近似される部分を指す。それら各粒子の中心から上記近似直線(すなわち、仮想的な輪郭線)までの距離に基づいて、上記標準偏差Sを常法により求めることができる。ここに開示される粒子集積体の一つの好ましい態様では、上記仮想的な輪郭線の少なくとも一部が、六方格子構造(fcc)における<1 −1 0>方向に延びる直線状の輪郭線である。かかる方向に延びる輪郭線(換言すれば、該直線状部分における粒子集積体の外縁)は、特に明瞭な輪郭を示し得る(図7(E)参照)。
また、上記(B)について「仮想的な輪郭線が円弧状の部分」とは、粒子集積体を基材表面に垂直な方向からみたとき、該集積体の外縁を構成する複数の(少なくとも10個以上、好ましくは30個以上の)粒子の中心が円弧によってよく近似される部分を指す。それら各粒子の中心から上記仮想的な輪郭線(円弧)までの距離に基づいて、上記標準偏差Sを常法により(例えば、後述する実施例4のようにして)求めることができる。
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
<実施例1:水/ヘキサン二液系による粒子集積体の形成>
シリコン基板の表面をオクタデシルトリクロロシラン(OTS)により処理して、疎水性表面を有するシリコン基板を作製した。すなわち、乾燥トルエン中にOTSを1vol%の濃度で含むOTS溶液を用意し、この溶液にシリコン基板を5分間浸漬した。次いで、該シリコン基板を120℃に5分間加熱した。このようにして、オクタデシルトリクロロシランに由来する自己組織化単分子膜(OTS−SAM)を表面に有するシリコン基板を得た。該シリコン基板のOTS処理面における水の接触角は約105°であり、疎水性のOTS−SAMが形成されていることが確認された。
【0048】
粒子集積体を製造するための原料粒子としては、宇部日東化成株式会社から入手可能な商品名「ハイプレシカ UF N3N」を使用した。この材料は実質的に真球状の粒子形を有するSiO2粒子であって、非常にシャープ(実質的に単分散)な粒径分布を有していた。該材料を構成するSiO2粒子の平均直径dは約1.13μmであり、粒径精度(CV値)は3.57%(すなわち、標準偏差=0.0357×1.13μm=0.0403μm)、比重は1.8±0.1g/cm3であった。このSiO2粒子0.2mgを20μLの水(第一溶媒)に分散させて粒子分散液を調製した。そして、図1(A)に示すように、上述のように表面処理されたシリコン基板10の疎水性表面12(すなわち、OTS−SAM上)に、SiO2粒子22が水24に分散した粒子分散液20を滴下した。滴下された粒子分散液は、疎水性表面12上でいくつかの液滴を形成した。
【0049】
次いで、粒子分散液20の液滴を有するシリコン基板10を20mLのヘキサン(第二溶媒)30に浸漬した(図1(B))。この状態で1分間の超音波処理を行ったところ、疎水性表面12上において粒子分散液20の比較的大きな液滴が複数の小さな液滴に分かれた(図1(C))。それらの液滴(粒子分散液)20に含まれる水24が周囲のヘキサン30中に徐々に拡散することにより、各液滴20は次第に収縮(shrinkage)した。一方、各液滴20に含まれるSiO2粒子22は基板10上に残された。12時間の浸漬後、基板10の疎水性表面12上には、概ね球状の外形を呈する様々な大きさの粒子集積体40が観察された(図1(D))。なお、本実施例では、上記粒子分散液の分散媒たる水(第一溶媒)の比重は、ヘキサンの比重(0.7)よりも大きい。
【0050】
本実施例により得られたいくつかの粒子集積体を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。得られたSEM像を図2(A)〜(I)に示す。これらのうち(A)〜(G)は各集積体をほぼ真上(すなわち、基板表面に垂直な方向)から観察した像であり、(H)および(I)は斜め上から観察した像である。図2(A)〜(D)は、それぞれ3個、5個、6個および8個の粒子からなる集積体を示している。これら3個、5個、6個および8個の粒子からなる集積体は、それぞれ、三角形、四面体、八面体および十面体を構成するように規則正しく集積していた。図2(E)〜(I)は、より多くの粒子からなる球状の粒子集積体を示している。
以上のように、本実施例によると、球形粒子を水に分散させた粒子分散液をヘキサン中に配置し、該分散液中の水を周囲のヘキサン中に拡散(溶解)させることによって、球形粒子が密に集積した粒子集積体が形成された。疎水性表面(OTS−SAM)に付与された粒子分散液がヘキサン中において高い接触角を有する液滴を形成することにより、球に近い形状の粒子集積体(例えば、直径が3〜10μm程度の球状の粒子集積体)が得られた。また、基板に粒子分散液を付与した後に超音波処理を行うことによって様々なサイズの粒子集積体が得られた。
【0051】
<実施例2:メタノール/デカリン二液系による粒子集積体の形成>
実施例1で用いたものと同じSiO2粒子0.2mgを20μLのメタノール(第一溶媒)に分散させて粒子分散液を調製した。この粒子分散液を、実施例1と同様に、疎水性表面(OTS−SAM)を有するシリコン基板上に滴下した。
上記分散液の液滴を有するシリコン基板を20mLのデカリン(デカヒドロナフタレン;第二溶媒)に浸漬した。デカリン中の基板上における粒子分散液の液滴は、その直径が概ね100〜300μmの範囲にあった。なお、実施例1とは異なり、本実施例では浸漬後の超音波処理を行わなかった。また、粒子分散液の分散媒たるメタノールの比重(0.79)がデカリンの比重(0.88)よりも小さいことから、上記デカリンへの浸漬操作は、基板の疎水性表面から粒子分散液が離れて浮き上がらないように静かに実施した。このようにデカリンに浸漬された状態で、粒子分散液に含まれるメタノールがSiO2粒子を残してデカリン中に徐々に拡散することにより、上記基板上の上記液滴が次第に収縮した。12時間の浸漬後、上記基板の疎水性表面上には、実施例1よりも大きな球状の粒子集積体(例えば、直径が凡そ57μmの球状の粒子集積体)が形成されていた。
【0052】
得られた粒子集積体のSEM像を図3(A)に示す。この粒子集積体の直径は約57μmである。図示するように、この集積体の表面にはいくつかのリニアディスクリネーション(線欠陥)がみられた。図3(B)は、図3(A)と同じSEM像に重ねて、球表面の一部につき各球表面構成粒子の中心と隣接する球表面構成粒子の中心とを結んだ網目を表示したものである。この網目の形状から、該球状集積体の球表面を構成する粒子の集積構造が最密充填三角格子をベースとしていることがわかる。また、球表面にみられるディスクリネーションは、5個の球表面構成粒子で囲まれた粒子(面内5配位の粒子;図中に薄い点で示している)と、7個の球表面構成粒子で囲まれた粒子(面内7配位の粒子;図中に濃い点で示している)とから構成されていることがわかる。
【0053】
なお、球状の粒子集積体の半径をr、該集積体を構成する単分散粒子(ここではSiO2粒子)の直径をd、上記半径rを有する球の全表面積をS1、該集積体の二次元写真(例えばSEM像)において該集積体の外形(輪郭)を構成する円と同心円で囲まれる領域の面積(すなわち、SEM像上におけるカウント対象領域の半径)をS2、その同心円の上記二次元写真における半径をr1としたとき、全表面積S1における線欠陥の理論的最小数N、および、その一部領域の面積S2における線欠陥の理論的最小数nは、以下の式により求めることができる(図8(A)〜(C)を参照。)。ここで、図3(B)に示す粒子集積体では、r=28.5μm、d=1.13μmである。また、同図に示す同心円は、半径r1=17.5μmである。
【0054】
【数1】

【0055】
【数2】

【0056】
すなわち、図3(A)および(B)に示す粒子集積体がほぼ完全な球体であるとした場合におけるその全表面積S1に存在する線欠陥の理論的な最小数Nは約22と求められる。また、図3(B)において円(該円の半径r1=17.5μm)で囲まれた領域の面積S2は、この粒子集積体と同等の半径(r=約28.5μm)を有する球の全表面積の10.5%に相当することから(すなわち、S2/S1=10.5%)、この面積S2に存在する線欠陥の理論的な最小数nは約2.3と求められる。
【0057】
また、図3(B)において円で囲まれた領域(上述のように、この集積体と同等の半径を有する球の全表面積の10.5%に相当する領域)にある面内5配位粒子と面内7配位粒子との合計数(nP5+nP7)は149個である。これは、該円内に含まれる全球表面構成粒子の総数(nP5+nP6+nP7)の約13.8%に相当する。すなわち、図3(A),(B)に示す粒子集積体では、(nP5+nP7)/(nP5+nP6+nP7)=13.8%である。
【0058】
本実施例により得られた球状の粒子集積体の上部を除去し、この集積体の内部における粒子の集積状態を観察した。その結果、該集積体は内部まで密に詰まった集積構造を有することが確認された。
【0059】
<実施例3:メタノール/デカリン二液系による粒子集積体の二次元配列>
シリコン基板の表面をヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシルトリクロロシラン(HFDTS)により処理して、疎水性表面を有するシリコン基板を作製した。すなわち、乾燥トルエン中にHFDTSを1vol%の濃度で含むHFDTS溶液を用意し、この溶液にシリコン基板を5分間浸漬した。次いで、該シリコン基板を120℃に5分間加熱した。このようにして、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシルトリクロロシランに由来する自己組織化単分子膜(HFDTS−SAM)を表面に有するシリコン基板を得た。該シリコン基板のHFDTS処理面における水の接触角は約112°であり、疎水性のHFDTS−SAMが形成されていることが確認された。
【0060】
次いで、図4(A)に示すように、シリコン基板110の疎水性表面112(すなわち、HFDTS−SAM上)に、フォトマスクを通して紫外線(UV)を二時間照射した。フォトマスクとしては、直径約100μmの照射窓が約50μm間隔で縦横に規則的に配列された形状のものを使用した。疎水性表面112のうちUVが照射された領域(所定領域)は、シラノール基の生成により親水性に変化した。該領域における水の接触角は5°以下であった。一方、UVが照射されなかった領域は疎水性に保たれた。その結果、疎水性領域112内にいくつかの親水性領域114が形成された。それらの親水性領域114は、使用したフォトマスクの照射窓の配列に対応して、疎水性領域112内に規則的に配列されていた。このようにしてパターン化されたHFDTS−SAM(パターン化HFDTS−SAM)115を、粒子集積体のマイクロパタニング(微小配列物)を作製するためのテンプレートとして使用した。なお、本実施例に用いたシリコン基板は10mm×10mmの正方形状であった。
【0061】
実施例1で用いたものと同じSiO2粒子をメタノール(第一溶媒)に分散させて、該SiO2粒子を1g/Lの割合で含む粒子分散液を調製した。そして、図4(B)に示すように、10μLの粒子分散液120を、シリコン基板110の表面に形成されたパターン化HFDTS−SAM115上に付与した。次いで、粒子分散液120を付与したシリコン基板110を50mLのデカリン(第二溶媒)130に浸漬した。この状態でシリコン基板110に穏やかな振動を与えた。上述のようにメタノールの比重はデカリンの比重よりも小さいため、該振動の付与によって余分な分散液が基板110から離れて浮上した。また、この振動によって、パターン化HFDTS−SAM115の疎水性領域112上にある分散液120の親水性領域114上への移動を促進した。その結果、図4(C)に示すように、粒子分散液120の液滴が親水性領域114上に選択的に位置するようになった。すなわち、親水性領域114の配列に対応して、粒子分散液120の液滴のマイクロパターンが構成された。これらの液滴(粒子分散液)120は、メタノール124とデカリン130と基板表面との界面相互作用、および、デカリン130中におけるメタノール124の浮力によって、球に近い形状を呈していた。
【0062】
浸漬から12時間後には、図4(D)に示すように、各親水性領域(シラノール領域)114内に、SiO2粒子122からなる球状(ドーム型)の粒子集積体140がそれぞれ形成されていた。換言すれば、親水性領域114の配列に対応して、球状の粒子集積体140が二次元的に(基板表面の縦方向および横方向の二方向に)良好な規則性をもって配列された粒子集積体パタニング(配列物)150が得られた。他の観点によれば、基板110の表面に粒子集積体パタニング150を有する粒子集積体材料160が得られた。
上記粒子集積体パタニング(配列物)をほぼ真上から観察したSEM像を図5(A)に、斜め上から観察したSEM像を図5(B)に示す。各粒子集積体の中心間の距離は、親水性領域の形成に使用したフォトマスクの照射窓間の距離と同程度であった。
該パタニングを構成する粒子集積体の一つをほぼ真上から観察したSEM像を図5(C)に示し、他の一つを斜め上から観察したSEM像を図5(D)に示す。該粒子集積体パタニングを構成する粒子集積体の平均直径は凡そ18μmであった。図5(C),(D)から明らかなように、それらの粒子集積体の球表面は密に詰まったSiO2粒子により形成されていた。また、実施例2と同様に粒子集積体の上部を除去したところ、該集積体は内部まで密に詰まった集積構造を有することが確認された。
このように、本実施例によると、メタノール(第一溶媒)に対する親和性の差異によってパターン化された表面(パターン化HFDTS−SAM)を有する基板を使用して、該基板表面に球状の粒子集積体のドットアレイ(点状配列)を自己組織的に形成させることができた。これにより、粒子集積体が基材(ここではシリコン基板)の表面に規則的に配置された粒子集積体材料が得られた。
【0063】
<実施例4:メタノール/ヘキサン二液系による粒子集積体の形成>
実施例1と同様にして、オクタデシルトリクロロシランに由来する自己組織化単分子膜(OTS−SAM)を表面に有するシリコン基板を得た。該基板表面のOTS−SAM(疎水性表面)に、所定の形状および配置の照射窓を有するフォトマスクを通してUVを10分間照射した。UVが照射された領域では疎水性のオクタデシル基が親水性のシラノール基に変化した。これにより、疎水性のOTS−SAM(オクタデシル領域)中に親水性領域(シラノール領域)のパターンを形成した。照射窓の形状および配置が異なる複数種類のフォトマスクを用いることにより、各フォトマスクに対応した形状および配置の親水性領域を疎水性領域内に有するシリコン基板を用意した。このようにパターン化されたOTS−SAM(パターン化OTS−SAM)を有するシリコン基板を、所定のパターンに集積した粒子集積体を作製するためのテンプレートとして使用した。
【0064】
直径1.13μmのSiO2粒子(宇部日東化成株式会社入手可能な商品名「ハイプレシカ UF」を使用した。)をメタノール(第一溶媒)に分散させて粒子分散液を調製した。ここで使用したSiO2粒子の粒径精度(CV値)は2.0%以下(すなわち、標準偏差=0.02×1.13=0.0226μm以下)である。図6(A)に示すように、この粒子分散液220を、シリコン基板210のパターン化OTS−SAM215上に付与した。上述したように、このパターン化OTS−SAM215は、疎水性領域(オクタデシル領域)212内に所定の形状および配置の親水性領域(シラノール領域)214を有する。疎水性のオクタデシル領域212は分散液220をはじく性質があるため、分散液220は主として親水性のシラノール領域214上に存在した。
次いで、図6(B)に示すように、分散液220が付与されたシリコン基板210をヘキサン230(比重0.7)中に浸漬し、該基板210を揺すって余分な分散液を除去した(基板から振り落とした)。ヘキサン230中のパターン化OTS−SAM215上に残った粒子分散液220は、オクタデシル領域212では良くはじかれ、シラノール領域214上に選択的に存在していた。
【0065】
なお、メタノールを分散媒とする上記粒子分散液のOTS−SAM上(オクタデシル領域上)における接触角は、空気中では51.6°であったのに対し、ヘキサン中では129.5°に上昇した。このことは、空気中に比べてヘキサン中では、上記分散液が親水性領域上に選択的に存在する傾向がさらに高められることを示している。したがってヘキサン中では、パターン化された基板上に、該パターンの形状に良く対応した形状の粒子分散液をより容易に形作る(モールドする)ことができる。
【0066】
図6(B)に示す状態から、粒子分散液220に含まれるメタノール224がSiO2粒子222を残してヘキサン230中に徐々に拡散することにより、分散液220のモールドが次第に収縮した。この過程において、図6(C)および(D)に模式的に示すように、モールド内に残されたSiO2粒子222がメニスカス力により相互に引き寄せられて密集した。その結果、図6(E)に示すように、SiO2粒子222が密集して成る粒子集積体240が親水性のシラノール領域214上に選択的に形成された。このようにして、シラノール領域214上に選択的に形成された複数の粒子集積体240からなる粒子集積体パタニング(配列物)250が得られた。他の観点によれば、基板210の表面に粒子集積体パタニング250を有する粒子集積体材料260が得られた。
【0067】
このようにして得られた粒子集積体のSEM像を図7(A)〜(G)に示す。これらの粒子集積体の作製に使用した粒子分散液の組成(粒子濃度)は以下のとおりである。
図7(A),(B):SiO2粒子0.2mg/メタノール20μL、
図7(C),(D):SiO2粒子0.02mg/メタノール20μL、
図7(E)〜(G):SiO2粒子0.002mg/メタノール20μL。
【0068】
図7(A)は、疎水性領域(オクタデシル領域)内に棒状の親水性領域(シラノール領域)が規則的に配列されるようにパターン化した表面を有するシリコン基板を用いて得られた粒子集積体のSEM像である。図示するように、粒子集積体が規則的に配列した粒子集積体パタニング(配列物)が形成された。各棒状粒子集積体の幅は凡そ40μmであり、隣り合う棒状粒子集積体の間隔は凡そ40μmである。このように、本実施例によると、複数の粒子集積体が基材(ここではシリコン基板)の表面に、二次元的に(縦方向および横方向の二方向に)高い規則性をもって配列された粒子集積体材料が得られた。
図7(B)は図7(A)の一部を拡大したSEM像である。図示するように、粒子集積体の周縁部では基板上に粒子が一粒子層(モノレイヤー)を成すように集積していた。該集積体の中央部は周縁部よりも厚く、最も厚い部分では粒子が十層に積み重なっている(十粒子層を構成している)ことが確認された。
【0069】
図7(C)は、疎水性領域内にアラビア数字の「2」の形状の親水性領域をパターン化した表面を有するシリコン基板を用いて得られた粒子集積体のSEM像である。図示するように、得られた粒子集積体の輪郭線(feature edge)は高度な明瞭性を有していた。このように、本実施例によると、シリコン基板上に、明瞭な輪郭線を有する粒子集積体パターンが作製された。換言すれば、かかる明瞭な輪郭線を有する粒子集積体パターンが基材(ここではシリコン基板)の表面に配置された粒子集積体材料が得られた。
【0070】
図7(D)は、疎水性領域内に円形の親水性領域をパターン化した表面を有するシリコン基板を用いて得られた粒子集積体のSEM像である。図示するように、円形のパターンに集積した粒子集積体が得られた。該円形集積体の中心部(芯部)は、二粒子層であって、最密六方格子(すなわち、fcc{111}配列)を構成していた。また、該円形集積体の外縁部(外殻部)は一粒子層であって六方格子(fcc{111})を構成していた。これら二つの平坦部の境界部分(内殻部)にある粒子は入れ子構造の立方格子(すなわち、fcc{100})を構成していた。該内殻部における立方格子の格子定数は中心部からの距離に応じて徐々に増加し、これにより一粒子層の部分と二粒子層の部分との間になだらかなスロープが形成されていた。
【0071】
図7(E)〜(G)は、所定の二次元パターンに集積した一粒子層(モノレイヤー)の粒子集積体のSEM像である。これらのパターンを構成する粒子は、最密構造であるfcc{111}配列(六方格子構造)をとっていた。図から明らかなように、これらの粒子集積体は非常に欠陥の少ない(すなわち、理想に近い集積構造を有する)ものであった。例えば、図7(E)に示す粒子集積体の輪郭(エッジ)を構成する粒子のうち最も左にある粒子をx−y座標の原点とし、他の輪郭構成粒子の個々の中心をx−y座標上にプロットして求めた仮想的な輪郭線までの距離の標準偏差(S)は8.75×10-3であった。該標準偏差の算出は、図7(E)において最も左にある粒子から連続して並ぶ35個の粒子を対象として行った(すなわち、粒子数n=35)。本実施例によると、このように極めて明瞭な輪郭線を有する粒子集積体パターンが得られた。
なお、図7(E)に示す粒子集積体の輪郭の延びる方向(図中のほぼ横方向)は、fccにおける<1 −1 0>方向に相当する。また、図7(F)に示す粒子集積体の輪郭の延びる方向(図中のほぼ縦方向)は、fccにおける<1/2 1/2 −1>方向に相当する。
【0072】
また、図7(G)に示す粒子集積体の外縁に並ぶ全ての(112個の)粒子を対象として、以下のようにして該集積体の輪郭を構成する粒子の仮想的な輪郭線までの距離の標準偏差を算出した。
単一粒子層円形パターンの外周を形成するn(ここではn=112)個の粒子のうち、i番目の粒子の中心の座標をxi,yi(μm)とし、円の中心の座標をxo,yo(μm)とすると、i番目の粒子の円の中心からの距離は、次式で与えられる。
【数3】

【0073】
この距離の平均値r(アッパーバー)は次式で与えられる。
【数4】

【0074】
1.この距離の不偏分散Uは次式で与えられる。
ここで、不偏分散は、観測値の散らばりを表すと同時に,その観測値が得られた母集団における散らばりの推定値でもある(「母分散の不偏推定値」という)。
nが母集団である「対象となる粒子の総数」より小さい場合には、不偏分散を用いて母分散の推定を行う。一方、nが母集団である「対象となる粒子の総数」と同数である場合には、分散Vを用いて標準偏差を算出する。
【数5】

【0075】
この不偏分散より、標準偏差Sは次式で与えられる。
【数6】

【0076】
2.粒子の円の中心からの距離の分散Vは次式で与えられる。
ここでは、図7(G)に示される粒子集積体の外縁に並ぶ全ての粒子を対象粒子としてについて計算しているので(n=112)、分散を用いて標準偏差を算出する。
nが母集団である「対象となる粒子の総数」と同数である場合には、分散Vを用いて標準偏差を算出する(得られたデータそのものの散らばりを算出するときには分散を用いる。)。
【数7】

【0077】
この分散より、標準偏差Sは次式で与えられる。
【数8】

【0078】
図7(G)に示す粒子集積体のケースでは、標準偏差Sは以下のようになる。
【数9】

【0079】
ただし、不偏分散を用いた計算結果との誤差は無視できるほどに小さい。
【数10】

【0080】
なお、本発明を特に限定するものではないが、本発明により高品質の粒子集積体が形成されるメカニズムは、例えば以下のように説明することができる。すなわち、粒子分散液の液滴(モールド)に含まれる第一溶媒(粒子の分散媒)が周囲の第二溶媒に拡散するとき、該分散液に含まれる粒子は液滴内に留まろうとする。第一溶媒の拡散が進行して液滴が次第に収縮すると、粒子の存在し得るエリアが次第に小さくなり、ついには粒子が相互に接触する。水の拡散がさらに進行すると、界面のひずみによって粒子が再配列され、粒子が密集した(close-packed)集積体が形成されるものと考えられる。
【0081】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】(A)〜(D)は、実施例1の粒子集積体製造プロセスを模式的に示す説明図である。
【図2】(A)〜(I)は、それぞれ、実施例1により得られた粒子集積体のSEM像である。
【図3】(A)は実施例2により得られた粒子集積体のSEM像であり、(B)は該SEM像に粒子の集積状態を重ねて示した説明図である。
【図4】(A)〜(D)は、実施例3の粒子集積体製造プロセスを模式的に示す説明図である。
【図5】(A)および(B)は実施例3により得られた粒子集積体パタニングのSEM像であり、(C)および(D)は該パタニングを構成する粒子集積体のSEM像である。
【図6】(A)〜(E)は、実施例4の粒子集積体製造プロセスを模式的に示す説明図である。
【図7】(A)〜(G)は、実施例4により得られた粒子集積体のSEM像である。
【図8】(A)〜(C)は、S2/S1および線欠陥の最小数の求め方を説明するための図である。
【符号の説明】
【0083】
10,110,210:シリコン基板(基材)
12:疎水性表面(基材表面)
112,212:疎水性領域(基材表面)
114,214:親水性領域(基材表面、所定領域)
115 パターン化HFDTS−SAM(基材表面)
215 パターン化OTS−SAM(基材表面)
20,120,220:粒子分散液
22,112,212:SiO2粒子(粒子、球形粒子)
24:水(第一溶媒)
124,224:メタノール(第一溶媒)
30,230:ヘキサン(第二溶媒)
130 デカリン(第二溶媒)
40,140,240 粒子集積体
150,250 粒子集積体パタニング
160,260 粒子集積体材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に単分散の球形粒子が密に集積して成る粒子集積体であって、以下の条件:
前記集積体の外形が球状である;
前記粒子の平均直径dが10μm以下である;
前記集積体自体の半径rと前記平均直径dとの比(r/d)が5〜50の範囲にある;および、
前記集積体の球表面を構成する個々の粒子を、該粒子が5個の球表面構成粒子で囲まれているもの(P5)と、該粒子が6個の球表面構成粒子で囲まれているもの(P6)と、該粒子が7個の球表面構成粒子で囲まれているもの(P7)との三種に分類したとき、前記P5に該当する粒子の個数(NP5)と前記P6に該当する粒子の個数(NP6)と前記P7に該当する粒子の個数(NP7)との関係が、以下の式:
10%<{(NP5+NP7)/(NP5+NP6+NP7)}<30% ;
を満たす;
を具備する粒子集積体。
【請求項2】
実質的に単分散の球形粒子が密に集積して成る粒子集積体であって、以下の条件:
前記粒子は基材表面に所定の二次元パターンで集積している;
前記粒子の平均直径dが10μm以下である;および、
前記集積体は、以下の(A)および(B):
(A)前記パターンは仮想的な輪郭線が直線状の部分を有し、該直線状部分において前記集積体の外縁を構成する粒子の中心から前記仮想的な輪郭線までの距離の標準偏差Sが1×10-2μm以下である;および
(B)前記パターンは仮想的な輪郭線が円弧状の部分を有し、該円弧状部分において前記集積体の外縁を構成する粒子の中心から前記仮想的な輪郭線までの距離の標準偏差Sが5×10-1μm以下である;
の少なくとも一方を満たす;
を具備する粒子集積体。
【請求項3】
粒子が密に集積して成る粒子集積体を製造する方法であって、以下の工程;
前記粒子が第一溶媒に分散している粒子分散液を用意する工程;
前記分散液を、前記第一溶媒と相分離し得る第二溶媒中に配置する工程;および、
前記第二溶媒中において、前記分散液に含まれる第一溶媒を、該分散液に含まれる粒子を実質的に前記配置された状態に維持しつつ第二溶媒に拡散させる工程;
を包含する粒子集積体製造方法。
【請求項4】
粒子が密に集積して成る粒子集積体を基材表面に製造する方法であって、以下の工程;
前記粒子が第一溶媒に分散している粒子分散液を用意する工程;
前記基材の表面に前記分散液を付与する工程;
前記第一溶媒と相分離し得る第二溶媒中に前記基材を配置する工程;
前記第二溶媒中において、前記基材表面の分散液に含まれる粒子を該基材表面に残しつつ該分散液に含まれる第一溶媒を第二溶媒に拡散させる工程;
を包含する粒子集積体製造方法。
【請求項5】
前記基材表面は、所定領域の前記第一溶媒に対する親和性が該領域の周囲よりも高くなるようにパターン化されている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記粒子として実質的に単分散の球形粒子を使用する、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
粒子が密に集積して成る粒子集積体が基材表面に配置された粒子集積体材料を製造する方法であって、以下の工程;
前記粒子が第一溶媒に分散している粒子分散液を用意する工程;
前記基材の表面に前記分散液を付与する工程;
前記第一溶媒と相分離し得る第二溶媒中に前記基材を配置する工程;および、
該第二溶媒中において、前記基材表面の分散液に含まれる粒子を該基材表面に残しつつ該分散液に含まれる第一溶媒を第二溶媒に拡散させる工程;
を包含する粒子集積体材料の製造方法。
【請求項8】
前記基材表面は、所定領域の前記第一溶媒に対する親和性が該領域の周囲よりも高くなるようにパターン化されており、その所定領域に対応して前記粒子集積体が配置される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記基材表面には二以上の前記所定領域が所定のパターンを構成するように形成されており、該パターンに対応して前記粒子集積体が配置される、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−159166(P2006−159166A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358939(P2004−358939)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】