説明

粒状ビニル系重合体及び熱硬化性樹脂組成物

【課題】熱硬化時の反応性及び熱硬化後の塗膜物性、特に硬度と耐溶剤性に優れ、かつ貯蔵安定性が極めて良好な粒状ビニル系重合体及び熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】カルボキシル基含有ビニル系単量体(a)及びエポキシ基含有ビニル系単量体(b)を含むビニル系単量体混合物を共重合して得られるビニル系重合体であって、該重合体が懸濁重合法によって製造されることを特徴とする粒状ビニル系重合体;及び、この粒状ビニル系重合体を用いた熱硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性塗料の用途に好適なカルボキシル基及びエポキシ基含有粒状ビニル系重合体及びその重合体を用いた熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、カルボキシル基とエポキシ基の反応を利用した熱硬化性樹脂組成物が知られている。このような熱硬化性樹脂組成物は、硬化物の化学性能及び物理性能が優れているので、例えば、塗料、インク、接着剤、プラスチック成形材料などの分野において幅広く利用されている。ただし、カルボキシル基とエポキシ基とは反応性が高いので、両官能基が共存する系においては貯蔵中にゲル化を起こしたり、可使時間が短いなどの問題が生じる。そこで、カルボキシル基をブロック化し、エポキシ基との反応性を抑制する方法が多数提案されている。しかし、カルボキシル基をブロック化する方法では、例えば、ブロック化剤の脱離反応に高温が必要であったり、ブロック化剤により着色が生じたり、ブロック化剤の脱離時に発生する揮発成分により気泡が発生する等の問題があり、必ずしも満足できる方法とは言えない。
【0003】
一方、特許文献1〜3には、カルボキシル基含有ビニル系単量体とエポキシ基含有ビニル系単量体を共重合して得た同一分子中に両官能基を有するビニル系重合体が開示されている。この重合体の両官能基は、何れもブロック化されていない。このような重合体を得るにあたっては、比較的低温で重合することにより、重合反応中のゲル化が防止されている。
【0004】
しかしながら、溶液重合法で製造する限りでは、両官能基の反応は少なからず進行しており、重合反応中に系全体がゲル化する可能性は否定できない。また、得られる樹脂は溶液形態になるので貯蔵安定性が低い。これを脱溶剤して固形化すれば貯蔵安定性は向上するが、その製造工程が煩雑となり好ましくない。
【特許文献1】特開2003−128957号公報
【特許文献2】特開2003−183478号公報
【特許文献3】特開2003−307847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、熱硬化時の反応性及び熱硬化後の塗膜物性、特に硬度と耐溶剤性に優れ、かつ貯蔵安定性が極めて良好な粒状ビニル系重合体及び熱硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、カルボキシル基とエポキシ基を含有するビニル系重合体を懸濁重合法で製造することが非常に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、カルボキシル基含有ビニル系単量体(a)及びエポキシ基含有ビニル系単量体(b)を含むビニル系単量体混合物を共重合して得られるビニル系重合体であって、該重合体が懸濁重合法によって製造されることを特徴とする粒状ビニル系重合体である。
【0008】
さらに、本発明は、カルボキシル基含有ビニル系単量体(a)及びエポキシ基含有ビニル系単量体(b)を含むビニル系単量体混合物を共重合する工程を有するビニル系重合体の製造方法であって、該工程を懸濁重合法によって行うことを特徴とする粒状ビニル系重合体の製造方法である。
【0009】
さらに、本発明は、上記粒状ビニル系重合体を用いた熱硬化性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、懸濁重合法により固形の重合体粒子が得られ、この固形状態ではカルボキシル基とエポキシ基との反応性が著しく低く、貯蔵安定性が極めて良好となる。また、懸濁重合中も溶液重合に比べて両基の反応が進行し難い傾向にある。その結果、熱硬化時の反応性及び熱硬化後の塗膜物性にも優れた硬化物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、カルボキシル基含有ビニル系単量体(a)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルテトラヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロフタル酸、5−メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルシュウ酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルシュウ酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ソルビン酸等が挙げられる。これらは1種以上を適宜選択して使用できる。中でも、他のビニル系単量体との共重合性が良好であるという点から、(メタ)アクリル酸が好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル及び/又はメタクリロイル」をそれぞれ意味する。
【0012】
本発明において、エポキシ基含有ビニル系単量体(b)としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、α−n−プロピルアクリル酸グリシジル、α−n−ブチルアクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸6,7−エポキシへプチル、α−エチルアクリル酸6,7−エポキシへプチル、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは1種以上を適宜選択して使用できる。中でも、他のビニル系単量体との共重合性が良好であるという点から、メタクリル酸グリシジルが好ましい。
【0013】
本発明の粒状ビニル系重合体においては、単量体(a)及び単量体(b)以外のビニル系単量体(c)を必要に応じて併用することもできる。この単量体(c)は、例えば、塗膜性能の改質や重合工程における単量体(a)のカルボキシル基と単量体(b)のエポキシ基との反応を緩和することを目的として使用できる。単量体(c)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エチルヘキサオキシ)エチル(メタ)アクリレート、1−メチル−2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、o−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、o−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、γ−ブチロラクトン又はε−カプロラクトン等との付加物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート又は2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の二量体又は三量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル系単量体;などが挙げられる。これらは1種以上を適宜選択して使用できる。中でも、塗膜の硬度や光沢を向上させる成分としては、メチルメタクリレートやスチレンが好ましい。また、塗膜の柔軟性や基材との密着性を向上させる成分としては、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートが好ましい。なお、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及び/又はメタクリレート」を、「(メタ)アクリロニトリル」は「アクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリル」をそれぞれ意味する。
【0014】
本発明の粒状ビニル系重合体は、単量体(a)、単量体(b)、及び必要に応じて単量体(c)を含むビニル系単量体混合物を、懸濁重合法により共重合して得られるものである。各単量体の量は特に限定されないが、ビニル系単量体混合物100質量部中、単量体(a)が0.5〜30質量部、単量体(b)が0.5〜30質量部、単量体(c)が40〜99質量部であることが好ましい。
【0015】
具体的には、例えば、水を媒体としてビニル系単量体混合物を懸濁し、また必要に応じて分散剤、重合開始剤を添加し、その水性懸濁液を加熱することにより重合反応を進行させ、重合後の水性懸濁液を濾過、洗浄、脱水、乾燥することにより、容易に粒状ビニル系重合体を製造することができる。得られた粒状ビニル系重合体は固形粒子であるため、この状態ではカルボキシル基とエポキシ基との反応性が著しく低く、貯蔵安定性が極めて良好となる。
【0016】
また、溶液重合法に比べて重合場のモノマー濃度が高いので、比較的低温かつ短時間での重合が可能となり、重合工程において、カルボキシル基とエポキシ基との反応が進行し難い傾向にある。また、懸濁重合においては水を媒体として含むので、カルボキシル基とエポキシ基との反応が抑制される傾向にある。更に、万一重合中にカルボキシル基とエポキシ基との反応が進行した場合であっても、重合体は架橋粒子となり、系全体のゲル化には至らないので、安全性、作業性、工程通過性の面からも好ましい。
【0017】
また、一般に懸濁重合法で製造される粒状ビニル系重合体は、重量平均粒子径が10〜2000μm程度で、ほぼ真球に近い一次粒子となる。一方、乳化重合後に凝集またはスプレードライして製造される粒状ビニル系重合体は、一次粒子径が0.05〜1μm程度の凝集粒子となる。また、塊状重合法あるいは、溶液重合後に脱溶剤して得た重合体を粉砕した場合には、重合体粒子の形状は不揃いとなり、粒度分布が広くなる。
【0018】
本発明の粒状ビニル系重合体の重量平均粒子径は、30〜500μmの範囲内であることが好ましい。これは、30μm以上とすることにより、大気中への微粉の飛散が低減し、作業環境汚染や粉塵爆発性が低下する傾向にあると共に、粒子の流動性が向上し、取り扱い性が良好となる傾向にあるためである。また、500μm以下とすることによって、懸濁重合時の分散安定性が向上する傾向にあると共に、得られた粒子の比表面積が増大し、有機溶剤への溶解性が向上する傾向にあるためである。さらに、80〜300μmの範囲内であることが特に好ましい。
【0019】
本発明の粒状ビニル系重合体を懸濁重合法で製造する際に使用する分散剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸メチルの共重合物のアルカリ金属塩、ケン化度70〜100%のポリビニルアルコ−ル、メチルセルロ−ス等が挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用できる。
【0020】
懸濁重合の際に使用する分散剤の量は、特に限定されないが、水性懸濁液中0.005〜5質量%の範囲内であることが好ましい。これは、分散剤の量を0.005質量%以上とすることにより、懸濁重合時の分散安定性が良好となる傾向にあるためである。また、5質量%以下とすることにより、粒状ビニル系重合体の洗浄性、脱水性、乾燥性及び重合体粒子の流動性が良好となる傾向にあるためである。さらに、0.01〜1質量%の範囲内であることが特に好ましい。また、懸濁重合時の分散安定性向上を目的として、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マンガン等の電解質を使用することができる。
【0021】
懸濁重合における重合温度は、特に限定されないが、50〜130℃の範囲内であることが好ましい。これは、50℃以上とすることにより、比較的短時間で重合体を製造することが可能となるためである。また、130℃以下とすることにより、懸濁重合時の分散安定性が向上すると共に、カルボキシル基とエポキシ基との反応が進行し難い傾向にあるためである。さらに、60〜100℃の範囲内であることが特に好ましい。
【0022】
懸濁重合の際に使用する重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルヒドロペルオキシド等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;などが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用できる。
【0023】
また、粒状ビニル系重合体の分子量調整を目的として、連鎖移動剤を使用できる。使用する連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えば、n−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、チオグリコール酸オクチル等のチオグリコール酸エステル類、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン等が挙げられる。これらは、必要に応じて適宜選択して使用できる。
【0024】
本発明の粒状ビニル系重合体の重量平均分子量は、10,000〜200,000の範囲内であることが好ましい。これは、重量平均分子量を10,000以上とすることにより、硬化塗膜の硬度、耐溶剤性が向上する傾向にあるためである。また、200,000以下とすることにより、種々の溶剤に対する溶解性が向上する傾向にあり、この重合体を用いた熱硬化性樹脂組成物を高固形分化し易くなると共に、塗膜の外観や基材に対する密着性が向上する傾向にあるためである。さらに、15,000〜100,000の範囲内であることが特に好ましい。
【0025】
本発明の粒状ビニル系重合体のMw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)は、4以下であることが好ましい。これは、Mw/Mnを4以下とすることにより、種々の溶剤に対する溶解性が向上する傾向にあり、この重合体を用いた熱硬化性樹脂組成物を高固形分化し易くなると共に、塗膜の外観や基材に対する密着性が向上する傾向にあるためである。さらに、3以下であることが特に好ましい。
【0026】
本発明の粒状ビニル系重合体の酸価は、5〜120mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。これは、酸価を5mgKOH/g以上とすることにより、硬化塗膜形成時のエポキシ基との反応性や、硬化塗膜の基材に対する密着性、硬度、耐溶剤性が向上する傾向にあるためである。また、120mgKOH/g以下とすることにより、重合工程において、エポキシ基との反応が進行し難い傾向にあると共に、種々の溶剤に対する溶解性が向上する傾向にあるためである。さらに、10〜100mgKOH/gの範囲内であることが特に好ましい。
【0027】
本発明の粒状ビニル系重合体において、使用する単量体(a)のカルボキシル基と単量体(b)のエポキシ基の当量比は、特に限定されないが、塗膜物性のバランスから1/10〜10/1であることが好ましく、2/10〜10/2であることがより好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、本発明の粒状ビニル系重合体を用いた熱硬化性樹脂組成物である。この樹脂組成物は、本発明のビニル系重合体がその粒形状を保持したまま含有されている組成物に限られるものではなく、本発明の粒状ビニル系重合体を所望の溶剤に溶解してなる樹脂組成物が好適な実施形態である。また、熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて硬化触媒等の添加剤を配合することもできる。本発明の熱硬化性樹脂組成物に含まれる共重合体はカルボキシル基とエポキシ基とを有するので、所定温度に加熱すると両基が反応し、樹脂組成物が硬化する。
【0029】
溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノアセテート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール誘導体;プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、1−ブトキシエトキシプロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコール誘導体;テトラヒドロフラン等のエーテル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;などが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用できる。
【0030】
硬化触媒としては、特に限定されないが、例えば、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−ブチルアンモニウムクロリド、テトラn−ブチルアンモニウムブロミド、テトラn−ブチルアンモニウムホスフェート、テトラn−ドデシルアンモニウムクロリド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、フェニルトリメチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウム塩;アリルトリフェニルホスフォニウムクロリド、n−アミルトリフェニルホスフォニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスフォニウムクロリド、ブロモメチルトリフェニルホスフォニウムブロミド、エトキシカルボニルホスフォニウムブロミド、n−ヘプチルトリフェニルホスフォニウムブロミド、メチルトリフェニルホスフォニウムブロミド、テトラフェニルホスフォニウムブロミド等のホスフォニウム塩;等が挙げられる。これらは1種以上を適宜選択して使用することができる。
【0031】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、以上述べた成分以外にも、必要に応じて、着色剤、充填剤、顔料分散剤、ゲル化防止剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、垂止め剤、ワックス等の各種添加剤を添加できる。さらに、光反応性単量体、オリゴマー、光重合開始剤、増感剤、酸発生剤等を添加して、レジスト材料等の感光性樹脂組成物として使用することもできる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」は「質量部」を表す。また、物性測定及び評価は、以下の方法により実施した。
【0033】
(1)分子量:
重合体をゲル透過クロマトグラフィー(GPC)[東ソー株式会社製、商品名HLC−8120]を用いて測定し、標準ポリスチレン換算にてMw(重量平均分子量)、Mn(数平均分子量)、Mw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)を算出した。
【0034】
(2)酸価:
固形分約1gのビニル系重合体を精秤し、溶剤50g(イソプロパノール/アセトン/水=50/25/25質量%)を加えて溶解し、フェノールフタレインの変色点を基準にして0.2規定の水酸化カリウム(KOH)−エタノール溶液を滴定し、固形分1gを中和するのに必要なKOHのmg数を下記式(I)より算出した。
・酸価(mgKOH/g)=A×0.2×f×56.1/試料固形分質量(g)・・・(I)
A:滴定量(ml)。
【0035】
f:0.2規定の水酸化カリウム溶液の力価。
【0036】
(3)粘度:
25℃に保持したビニル系重合体溶液の粘度を、B型粘度計[TOKIMEC製R100型粘度計(RBタイプ)]を用いて測定した。
【0037】
(4)貯蔵安定性:
冷暗所に保存された製造後1週間以内の粒状ビニル系重合体を有機溶剤に溶解して、粘度(V0)が100〜300mPa・sとなる重合体溶液を調製した。次に、同じ粒状ビニル系重合体を密閉容器中40℃で1ヶ月間保存した後、前記重合体溶液と同一溶剤、同一固形分の重合体溶液を調製し、粘度(V1)を測定した。粘度上昇率を下記式(II)より算出し、5%未満を合格「○」、5%以上を不合格「×」とした。
・粘度変化率(%)=100×(V1−V0)/V0・・・(II)
なお溶液重合品(比較例)については、その溶液状態のまま同様に保存して、測定を行った。
【0038】
(5)鉛筆硬度:
ビニル系重合体の鉛筆硬度を、JIS K 5600−5−4:1999の手かき法に準じて測定し、HB以上を合格「○」、それ未満を不合格「×」とした。
【0039】
(6)耐溶剤性:
ガーゼに酢酸エチルを含浸して、200g/cm2の荷重をかけて、塗膜表面をラビングテストした。下地が露出するまでのラビング回数を測定し、下記基準にて判定した。
「○」:50回以上。
「△」:25回以上、50回未満。
「×」:25回未満。
【0040】
(7)塗膜外観:
塗膜表面を目視観察し、下記基準にて判定した。
「○」:平滑性、透明性、光沢に異常が無いもの。
「△」:平滑性、透明性、光沢の何れかに僅かな異常が見られるもの。
「×」:平滑性、透明性、光沢の何れかに著しい異常が見られるもの。
【0041】
(8)密着性:
塗膜の密着性について、JIS K 5600−5−6:1999に準じたクロスカット法により測定し、下記基準にて判定した。
「○」:剥離面積が全体の5%未満。
「△」:剥離面積が全体の5%以上、30%未満。
「×」:剥離面積が全体の30%以上。
【0042】
<合成例1>
攪拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、脱イオン水200部とポリビニルアルコール(ケン化度80%、重合度1,700)0.3部を加えて攪拌し、ポリビニルアルコールを完全に溶解した。その後、一旦攪拌を停止し、メタクリル酸1部、メタクリル酸グリシジル13.2部、メタクリル酸メチル57.8部、アクリル酸n−ブチル28部、ラウロイルペルオキシド0.8部、n−ドデシルメルカプタン0.32部を加えて再度攪拌し、70℃に昇温して1時間反応させ、90℃に昇温して1時間保持して懸濁重合反応を終了させて、40℃に冷却し、粒状ビニル系重合体を含む水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、脱水し、40℃で16時間乾燥して、粒状ビニル系重合体を得た。この粒状ビニル系重合体の酸価は6.3mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)は92,800、Mw/Mnは2.14であった。なお本実施例において、カルボキシル基とエポキシ基の当量比(Ma/Mb)は、0.125である。
【0043】
<合成例2〜10、14、15>
表1に示す単量体、開始剤、連鎖移動剤を使用し、表1に示す温度、時間で反応させたこと以外は合成例1と同様にして懸濁重合を行い、粒状ビニル系重合体を得た。評価結果を表1に示す。
【0044】
<合成例11>
攪拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)100部を仕込み、重合装置内を窒素置換し、70℃に昇温した。次いで、メタクリル酸16部、メタクリル酸グリシジル3.3部、メタクリル酸メチル42.7部、メタクリル酸n−ブチル18部、アクリル酸n−ブチル20部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)3部、PGM50部からなるビニル系単量体混合物を3時間かけて滴下し、1時間保持し、さらにAIBN0.5部を加え、95℃に昇温して1時間保持したところ、系全体がゲル化(固化)したため、反応を中止した。
【0045】
<合成例12>
合成例11と同じ重合装置中に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)100部を仕込み、重合装置内を窒素置換し、70℃に昇温した。次いで、メタクリル酸4部、メタクリル酸グリシジル6.6部、メタクリル酸メチル57.4部、メタクリル酸n−ブチル22部、アクリル酸n−ブチル10部、AIBN3部、PGMEA100部からなるビニル系単量体混合物を3時間かけて滴下し、1時間保持し、AIBN0.5部を加え、90℃に昇温して1時間保持し、さらにPGMEA33.3部を加え、溶液重合反応を終了させて、ビニル系重合体溶液を得た。このビニル系重合体溶液の酸価(対固形分)は20.8mgKOH/g、Mwは89,200、Mw/Mnは5.25であった。
【0046】
<合成例13>
合成例12と同じ重合装置中に、トルエン100部を仕込み、重合装置内を窒素置換し、70℃に昇温した。次いで、メタクリル酸2部、メタクリル酸グリシジル6.6部、メタクリル酸メチル70.4部、メタクリル酸n−ブチル21部、AIBN3部、トルエン100部からなるビニル系単量体混合物を3時間かけて滴下し、1時間保持し、AIBN0.5部を加え、90℃に昇温して1時間保持し、さらにトルエン33.3部を加え、溶液重合反応を終了させて、ビニル系重合体溶液を得た。このビニル系重合体溶液の酸価(対固形分)は10.9mgKOH/g、Mwは42,200、Mw/Mnは3.84であった。
【0047】
<実施例1>
合成例1で得た粒状ビニル系重合体30部と、テトラn−ブチルアンモニウムブロミド0.2部をPGMEA70部に溶解し、熱硬化性樹脂組成物を得た。この熱硬化性樹脂組成物をガラス板に乾燥膜厚30μmとなるように塗布し、室温で30分保持し、次いで120℃で60分加熱して、塗膜を硬化させた。評価結果を表2に示す。
【0048】
<実施例2〜10、比較例1〜4>
表2に示すビニル系重合体を使用したこと以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を調製し、硬化塗膜を形成した。評価結果を表2に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表2に示す結果から明らかなように、実施例1〜10では、貯蔵安定性、硬度及び耐溶剤性について欠陥は生じなかった。これに対し、比較例1〜4では、上記三つの性能の何れかについて明らかな欠陥があり、熱硬化性樹脂組成物としては満足できるものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の粒状ビニル系重合体及び熱硬化性樹脂組成物は、上述の様な優れた特性を示すので、例えば、塗料、インク、接着剤、プラスチック成形材料、成形材料用低収縮剤、ハロゲン含有樹脂用安定化剤、レジスト材料、焼成材料、液晶パネル用スペーサービーズ、ガラスセパレーション用ビーズ、光拡散膜用微粒子などの各種分野において幅広く使用することが可能であり、工業上極めて有益なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有ビニル系単量体(a)及びエポキシ基含有ビニル系単量体(b)を含むビニル系単量体混合物を共重合して得られるビニル系重合体であって、該重合体が懸濁重合法によって製造されることを特徴とする粒状ビニル系重合体。
【請求項2】
カルボキシル基含有ビニル系単量体(a)及びエポキシ基含有ビニル系単量体(b)を含むビニル系単量体混合物を共重合する工程を有するビニル系重合体の製造方法であって、該工程を懸濁重合法によって行うことを特徴とする粒状ビニル系重合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の粒状ビニル系重合体を用いた熱硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−282935(P2006−282935A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107598(P2005−107598)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】