説明

粕取焼酎及びその製造方法

【課題】 香味良好な粕取焼酎又は粕醪取焼酎(それらを総称して粕取焼酎という)、及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】 粕取焼酎製品中のカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との質量比率が、1:1.5〜1:5である粕取焼酎。当該粕取焼酎を製造する方法において、焼酎膠の固形分の少なくとも一部を除去した後、蒸留することを特徴とする粕取焼酎の製造方法。当該粕取焼酎製品中のアルコール濃度を25v/v%に換算したとき、カプロン酸エチル含量が1.0〜10.0mg/Lであり、かつカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との総和が6.0〜40.0mg/Lであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粕取焼酎及びその製造方法に関し、更に詳細には、香気成分のバランスが良好な粕取焼酎及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粕取焼酎は、江戸中期から明治中期にかけて盛んに造られていたものである。粕取焼酎の製造方法は、清酒醪をもとに説明すると、これをそのまま蒸留したものは清酒醪取焼酎であり、いわゆる米焼酎が該当する。醪を圧搾ろ過し、清酒にしたものを、更に蒸留したものを酒取焼酎という。ろ過して得られる酒粕を、そのまま或いはしばらく寝かせた後、単式固形蒸留したものが粕取焼酎である。一方、酒粕を原料に、水を加え、液状の発酵醪とし、蒸留したものが粕醪取焼酎である。粕取焼酎と粕醪取焼酎とを併せて、一般的に粕取焼酎と呼んでいる。
粕取焼酎の製造方法については、古くは新粕、若しくは酒粕に加水した踏込み粕に、籾殻を混ぜたものを蒸篭型の蒸留機を用いて製造を行っていたが、近年では原料である酒粕に吟醸酒の酒粕を用いたり(特許文献1)、酒粕の他に米や米麹を加えた醪を再発酵させたり、蒸留方法も減圧蒸留機を用いて蒸留する方法を採用したりすることにより、粕取焼酎の酒質も非常に多様化してきている。
昔ながらの粕取焼酎は、籾殻を使うので、独特の香味、クセがある。粕醪取焼酎は、酒母又は汲水に酒粕を加えて、発酵醪とした後、籾殻を使用しないで蒸留するため、軽い香味で、クセも少ないので、現在はこちらの方が主流となっている。
粕取焼酎の品質を決定する上で重要な香気成分としては、カプロン酸エチルや酢酸イソアミルなどが挙げられるが、粕取焼酎に特に「華やかさ」を付与する点においては、カプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量が酒質に重大な影響を与える。カプロン酸エチルは粕取焼酎の原料である酒粕に多量に含まれている(非特許文献1)が、これは蒸留の際に高濃度で製品中に移行してしまう。カプロン酸エチル含量の高い粕取焼酎は、香りは非常に華やかであるがその含量が多すぎると特徴的な香りが強すぎて、更には味にも苦渋味があり、結果的に飲みにくい酒質になってしまう。一方、粕取焼酎のもう一つの重要な香気成分である酢酸イソアミルは、高濃度でもさわやかな果実様香を付与し、味にも悪影響を与えない。したがって、香味良好な粕取焼酎が得られる製造方法の開発が求められていた。
【0003】
【特許文献1】特開平6−303962号公報
【非特許文献1】日本醸造協会誌、第78巻、第12号、第949〜953頁(1983年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、香味良好な粕取焼酎又は粕醪取焼酎(以下、それらを総称して粕取焼酎と略記する)、及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、粕取焼酎製品中のカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との質量比率が、1:1.5〜1:5である粕取焼酎に関する。本発明の第2の発明は、粕取焼酎製品中のアルコール濃度を25v/v%に換算したとき、カプロン酸エチル含量が1.0〜10.0mg/Lであり、かつカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との総和が6.0〜40.0mg/Lである第1の発明に記載の粕取焼酎に関する。本発明の第3の発明は、第1の発明又は第2の発明に記載の粕取焼酎を製造する方法において、焼酎醪の固形分の少なくとも一部を除去した後、蒸留することを特徴とする粕取焼酎の製造方法に関する。本発明の第4の発明は、粕取焼酎の原料が、吟醸酒の酒粕である第3の発明に記載の粕取焼酎の製造方法に関する。
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、粕取焼酎製品中の重要な香気成分であるカプロン酸エチルと酢酸イソアミルについて、カプロン酸エチル含量を抑制し、酢酸イソアミル含量とのバランスを調整するために、焼酎醪の固形分の少なくとも一部を除去した後、蒸留することにより、香味良好な粕取焼酎が得られることを見出し、更には、蒸留の際の後留カット度数を調整することによっても、香味良好な粕取焼酎が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0007】
本発明の粕取焼酎の醪の固形分の少なくとも一部を除去した後、蒸留する製造方法により、粕取焼酎製品中のカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との質量比率が、1:1.5〜1:5である香味良好な粕取焼酎を得ることができる。
更には、蒸留の際の後留カット度数を調整することによっても、前記と同様に香味良好な粕取焼酎を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明における粕取焼酎は、粕取焼酎製品中のカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との質量比率が、1:1.5〜1:5である粕取焼酎である。特に好ましい質量比率は、1:3〜1:4である。粕取焼酎製品中のカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との質量比率が、1:1.5未満であると、カプロン酸エチルの特徴的な香りが勝ちすぎるものとなり、1:5超であると、カプロン酸エチルと酢酸イソアミルとのバランスが悪く、香味良好な酒質とならない。
また、粕取焼酎製品中のカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との質量比率が、1:1.5〜1:5の範囲内において、粕取焼酎製品中のアルコール濃度を25v/v%に換算したとき、カプロン酸エチル含量が1.0〜10.0mg/Lであり、かつカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との総和が6.0〜40.0mg/Lである粕取焼酎である。より好ましくは、粕取焼酎製品中のカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との質量比率が、1:1.5〜1:5の範囲内において、粕取焼酎製品中のアルコール濃度を25v/v%に換算したとき、カプロン酸エチル含量が2.0〜8.0mg/Lであり、かつカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との総和が12.0〜32.0mg/Lである粕取焼酎である。
なお、本発明では、初めは粕醪取焼酎での検討により発明を完成させたが、狭い意味の粕取焼酎にも本発明が有用であることを確認している。
【0009】
本発明における粕取焼酎の製造方法は、焼酎醪の固形分の少なくとも一部を除去した後、蒸留することが特徴である。焼酎醪の固形分の半分量以上を除去することが好ましい。更には、蒸留の際の後留カット度数を調整することによっても、香味良好な粕取焼酎を得ることができる。
【0010】
本発明における粕取焼酎の原料となる酒粕とは、清酒を製造する際に副生する酒粕であればよく、例えば、吟醸酒の酒粕、純米酒の酒粕、普通酒の酒粕、増醸酒の酒粕等が挙げられる。好ましくは、カプロン酸エチル含量が少なく、酢酸イソアミル含量が多くなるような吟醸酵母を使用して醸造した吟醸酒の酒粕である。吟醸酵母の例としては、清酒用協会酵母1701号等が挙げられる。清酒用協会酵母では、9号系酵母も用いることができる。その他として、特開平7−184639号公報に記載のアンホテリシンB耐性の変異株も用いることができる。
【0011】
本発明の粕取焼酎の製造方法では、焼酎醪の固形分の少なくとも一部を除去するが、焼酎醪の固形部分と液体部分とを分離する、すなわち固液分離する方法に特に限定はなく、例えば遠心分離やろ過等を行えばよい。また、焼酎醪を固液分離した液体部分に、固液分離をしていない焼酎醪を添加しても同様に香味の良好な粕取焼酎が得られる。固形分の割合については特に限定はないが、例えば蒸留後の粕取焼酎製品中のカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との質量比率が、1:1.5〜1:5、好ましくは1:3〜1:4となるように、あらかじめ小スケールで試験を行い、固形分の割合を適宜決定すればよい。
【0012】
次に、蒸留の際の後留カット度数については特に限定はないが、例えば粕取焼酎製品中の酢酸イソアミル含量を2.0〜20.0mg/Lとするには、後留カット度数は12〜50v/v%とすればよい。
なお、蒸留方法に特に限定はなく、減圧蒸留が好ましいが、2.80×10−2MPa(210mmHg)以上の減圧下での蒸留では、官能的に焦げ臭が感じられるため、2.80×10−2MPa(210mmHg)未満の減圧下での蒸留が特に好ましい。
【0013】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
清酒用協会酵母1701号を用いて醸造した吟醸酒の酒粕を用いて、表1に示す仕込配合で総原料500gの小仕込試験を行った。水麹の際に清酒用協会酵母1701号を添加し、発酵温度は20℃一定で留後10日間行った。
【0015】
【表1】

【0016】
発酵が終了した醪について、試験区1としてそのままの醪を、試験区2として醪の半分量を遠心分離し、その上清を残りの醪に加えたものを、試験区3として醪の全量を遠心分離した上清を、それぞれ1.07×10−2MPa(80mmHg)の減圧下で間接加熱蒸留を行った。蒸留は初留から製品として回収し、留出液のエタノール濃度が12v/v%になるまで回収した。
また、試験区3と同様に醪を遠心分離した上清を蒸留し、初留から留液のエタノール濃度が40v/v%まで回収した区分(試験区3a)と、エタノール濃度が40v/v%未満から12v/v%まで回収した区分(試験区3b)に分取した蒸留も行った。
各試験区の蒸留液のエタノール濃度を25v/v%に加水調整した後、カプロン酸エチル及び酢酸イソアミルの定量と官能評価を行った。
カプロン酸エチル含量、酢酸イソアミル含量及びカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との質量比率を表2に示し、官能評価の結果を表3に示す。
官能評価の判定は、◎:とてもよい、○:よい、△:あまりよくない、×:悪い、を意味する。
【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
以上の実施例の結果より、粕取焼酎醪を固液分離した後、液体部分を蒸留することによって、あるいは固形分の少なくとも一部を除去した醪を蒸留することによって、香味良好な粕取焼酎が得られた。また、実施例1の試験区3aのように、カプロン酸エチル含量が少なく酢酸イソアミル含量の豊富な粕取焼酎は、香りの華やかさと味のきれいさを備えた非常に良好な酒質であった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の粕取焼酎は、粕取焼酎製品中のカプロン酸エチル含量が抑えられ、酢酸イソアミル含量とのバランスがよく、香味良好な粕取焼酎である。工業的規模で粕取焼酎を製造することができるので、本発明は極めて優れた粕取焼酎及びその製造方法であり有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粕取焼酎製品中のカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との質量比率が、1:1.5〜1:5である粕取焼酎。
【請求項2】
粕取焼酎製品中のアルコール濃度を25v/v%に換算したとき、カプロン酸エチル含量が1.0〜10.0mg/Lであり、かつカプロン酸エチル含量と酢酸イソアミル含量との総和が6.0〜40.0mg/Lである請求項1に記載の粕取焼酎。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粕取焼酎を製造する方法において、焼酎醪の固形分の少なくとも一部を除去した後、蒸留することを特徴とする粕取焼酎の製造方法。
【請求項4】
粕取焼酎の原料が、吟醸酒の酒粕である請求項3に記載の粕取焼酎の製造方法。

【公開番号】特開2006−271304(P2006−271304A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98109(P2005−98109)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(302026508)宝酒造株式会社 (38)
【Fターム(参考)】