説明

粗形材の設計支援方法及び装置

【課題】三次元の粗形材のモデリングを効率よく短時間で行える粗形材の設計支援方法を提供する。
【解決手段】設計しようとする粗形材により作成される対象物の基本形状を金型材モデルの分割面で分割する第1工程と、第1工程による基本形状の分割形状毎に粗形材の分割形状を並行して作成する第2工程と、分割粗形材形状を金型材モデルの各部に転写する第3工程と、分割粗形材形状を転写して得られた各分割粗形材金型モデルを各分割面位置を合わせて一体化する第4工程と、一体化されてなる金型モデルにより基本形状の粗形材形状を対象物側に転写する第5工程とを有して粗形材をモデリングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元粗形材の設計(モデリング)に好適な粗形材の設計支援方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては特許文献1に記載のものがあった。
これは、三次元CAD(CAD:Computer Aided Design)を使用し、設計対象物である三次元の粗形材の原形モデルを複数の分割面に分割して完成モデルの設計を支援するという方法であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−153359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来技術では、モデリング作業が全般的に時間がかかった。また、分割後のつなぎ合わせ作業時に、各分割面の間に生じる形状の不整合の調整が必要になり、特に、この作業が煩雑になって、モデリングに時間がかかった。
【0005】
本発明は、上記のような実情に鑑みなされたもので、三次元の粗形材のモデリングを効率よく短時間で行える粗形材の設計支援方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、粗形材の設計支援方法及び装置を下記各態様の構成とすることによって解決される。
各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴及びそれらの組合わせが以下の各項に記載のものに限定されると解釈されるべきではない。また、1つの項に複数の事項が記載されている場合、それら複数の事項を常に一緒に採用しなければならないわけではなく、一部の事項のみを取り出して採用することも可能である。
【0007】
以下の各項のうち、(1)項が請求項1に、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、各々対応する。(4)項は請求項に係る発明ではない。
【0008】
(1)設計しようとする粗形材により作成される対象物の三次元の基本形状を、金型材モデルの予め位置設定された分割面で分割する第1工程と、該第1工程により得られた基本形状の分割形状毎に該基本形状の分割形状を得るための粗形材の分割形状を並行して作成する第2工程と、該第2工程により作成された分割粗形材形状を前記第1工程で分割された金型材モデルの各部に前記分割面位置を一致させた状態で転写する第3工程と、該第3工程により分割粗形材形状を転写して得られた各分割粗形材金型モデルを前記各分割面位置を合わせた状態で一体化する第4工程と、該第4工程により一体化されてなる金型モデルにより前記基本形状の粗形材形状を前記対象物側に転写する第5工程と、を具備することを特徴とする粗形材の設計支援方法。
第2工程においては、基本形状の分割形状毎にその基本形状の分割形状を得るための粗形材の分割形状を並行して作成する。すなわち、並行する複数の作業によって各粗形材の分割形状が作成可能になり、作業効率が格段に上昇する。三次元の基本形状の分割数が多ければ多いほど、作業効率が上昇する。
(2)前記第4工程における各分割粗形材金型モデルの一体化は、前記金型材モデルの外形状に一致した外形状を有する作業領域内にて、相互に外形状を合わせた状態で行うことを特徴とする(1)項に記載の粗形材の設計支援方法。
金型材モデルの外形状に一致した外形状を有する作業領域内にて相互に外形状を合わせれば、各分割粗形材金型モデルの一体化は必然的に(特に何もすることなく)行われる。すなわち、各分割粗形材金型モデルの一体化は極めて簡単に行われる。
(3)設計しようとする粗形材により作成される対象物の三次元の基本形状を、金型材モデルの予め位置設定された分割面で分割する第1手段と、該第1手段により得られた基本形状の分割形状毎に該基本形状の分割形状を得るための粗形材の分割形状を並行して作成する第2手段と、該第2手段により作成された分割粗形材形状を前記第1手段で分割された金型材モデルの各部に前記分割面位置を一致させた状態で転写する第3手段と、該第3手段により分割粗形材形状を転写して得られた各分割粗形材金型モデルを前記各分割面位置を合わせた状態で一体化する第4手段と、該第4手段により一体化されてなる金型モデルにより前記基本形状の粗形材形状を前記対象物側に転写する第5手段と、を具備することを特徴とする粗形材の設計支援装置。
各手段は、通常、複数のCAD装置に分担して備えられる。1台の製品設計用CAD装置と、この製品設計用CAD装置と双方向通信が可能な複数台の粗形材モデリング用CAD装置とを備えて構成されるのが好例である。この場合、各粗形材モデリング用CAD装置相互間も双方向通信が可能に構成される。
(4)前記第4手段における各分割粗形材金型モデルの一体化及び前記第5手段における粗形材形状の転写は、前記金型材モデルの外形状に一致した外形状を有する作業領域内にて、相互に外形状を合わせた状態で行うことを特徴とする(3)項に記載の粗形材の設計支援装置。
本(4)項に記載の発明によれば、分割粗形材形状を転写して得られた各分割粗形材金型モデルの一体化を更にずれなく、かつ簡単に行えるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0009】
(1)項に記載の発明によれば、上記のような手順で、特に、基本形状の分割形状毎にその基本形状の分割形状を得るための粗形材の分割形状を並行して作成するようにしたので、三次元の粗形材のモデリングを効率よく短時間で行える。また、分割粗形材形状を転写して得られた各分割粗形材金型モデルの一体化をずれなく容易にできるので、これによっても、三次元の粗形材のモデリングを効率よく短時間で行える。
(2)項に記載の発明によれば、分割粗形材形状を転写して得られた各分割粗形材金型モデルの一体化を更にずれなく、かつ簡単に行えるという効果を奏する。
(3)項に記載の発明によれば、三次元の粗形材のモデリングを効率よく短時間で行える粗形材の設計支援装置を提供できる。
なお、(4)項に記載の発明は、本発明(特許請求の範囲に記載した発明)ではないので、上記課題を解決するための手段の欄に、その効果を述べた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】同上実施形態による粗形材のモデリングの手順を示すフローチャートである。
【図3】同じくモデリング手順を示す概念図である。
【図4】図3の手順の続きを示す概念図である。
【図5】図4の手順の続きを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、各図間において、同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1は、本発明方法が適用された粗形材の設計支援装置の一実施形態を示すブロック図である。
この図1に示すように、本実施形態に係る粗形材の設計支援装置は、製品設計用CAD(CAD:Computer Aided Design)装置1と、この製品設計用CAD装置1に接続された記憶装置2と、この記憶装置2に接続された複数nの粗形材モデリング用CAD装置31、32、…3nとを備えて構成される。
【0012】
この場合、製品設計用CAD装置1は、本支援装置で設計しようとする粗形材により作成される対象物、すなわち製品の三次元モデル(三次元の基本形状)を作成するためのCAD装置である。
この製品設計用CAD装置1は、パーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータ1aと、マン・マシンインターフェース、例えば表示装置1bや入力装置1c等を備えて構成されている。コンピュータ1aには、その実行により同コンピュータ1aに製品設計機能を付与するコンピュータプログラムを備えている。
この製品設計用CAD装置1により作成された製品の三次元モデル(データ)は、記憶装置2に送られて記憶されるように構成されている。
この製品設計用CAD装置1は、詳細を後述する粗形材モデリング用CAD装置31、32、…3nにより作成されて記憶装置2に記憶される三次元の粗形材モデル(データ)を読み出すことができるように構成されている。
【0013】
粗形材モデリング用CAD装置31、32、…3nは、各々粗形材の三次元モデルを作成するためのCAD装置であり、製品設計用CAD装置1と同様に、コンピュータ3aと、マン・マシンインターフェース、例えば表示装置3bや入力装置3c等を備えて構成されている。コンピュータ3aには、その実行により同コンピュータ3aに粗形材モデル設計機能を付与するコンピュータプログラムを備えている。
この粗形材モデリング用CAD装置31、32、…3nにより作成された三次元の粗形材モデル(データ)は、記憶装置2に送られて記憶されるように構成されている。
この粗形材モデリング用CAD装置31、32、…3nは、上記製品設計用CAD装置1により作成されて記憶装置2に記憶されている上記製品の三次元モデル(データ)を読み出すことができるように構成されている。
【0014】
上記表示装置1b、3bは、例えばフルカラー表示可能なCRTディスプレイや液晶ディスプレイ等からなり、その画面に、製品や粗形材の三次元モデルやこの粗形材の三次元モデルの作成(設計)過程における様々な形状や数値データ、あるいは作業手順の案内メッセージ等の表示が可能とされている。また、上記入力装置1c、3cとしては、キーボード、マウス等が用いられる。
なお、製品設計用CAD装置1と粗形材モデリング用CAD装置31、32、…3nとの間、及び粗形材モデリング用CAD装置31、32、…3n相互間は、双方向通信が可能である。
【0015】
次に、本実施形態による三次元の粗形材のモデリング手順(粗形材の設計支援方法)につき、図2〜図5を参照して説明する。なお図3〜図5は、後述する直方体Rの分割数(作業範囲Wの分散数)nを2とした場合を例示している。
【0016】
図2のフローチャートに示すように、まずステップ201にて、製品の基本形状BS(図3参照)を作成する。なお基本形状とは、抜き勾配、加工代及びフィレットが付加されていない形状を指す。
次にステップ202では、上記製品の基本形状BSを、粗形材の形状(粗形材形状)を成形する金型モデルの分割数nだけコピーする(図3参照)。金型モデルの分割数nに変更があった場合には、その変更に応じてコピー数を増減すればよい。
ステップ201、202の処理は、同処理機能が付与された製品設計用CAD装置1にって行われ、処理結果、つまり製品の基本形状BS及びそのコピーは記憶装置2に記憶される。粗形材モデリング用CAD装置31、32、…3nは、上記製品の基本形状BSのコピーを記憶装置2から受信する。
記憶装置2には、製品設計用CAD装置1で作成された製品の基本形状BSのみを記憶し、粗形材モデリング用CAD装置31、32、…3nの各々が記憶装置2から製品の基本形状BSを読み込むようにしてもよい。
このステップ202により、粗形材モデリング作業は、作業範囲W1、W2、…Wn(図3参照)に分散可能になり、したがって、並行作業が可能になって粗形材設計の効率アップ、短時間設計が可能となる。
【0017】
ステップ203では、設計しようとする粗形材形状BS´を完全に包含する、したがって製品の基本形状BSも完全に包含する、中実の直方体R(図4参照)を作成する。この直方体Rは金型材(金型モデルの原材料)モデルとして想定されるものである。
次にステップ204にて、粗形材を成形する金型モデルの分割面SF(同図4参照)を直方体R中に作成する。
そしてステップ205にて、金型モデルの分割面SFで直方体Rをn分割して、分割直方体S1、S2、…Sn(同図4参照)を得る。
ステップ206では、上記直方体Rと同じサイズ(同形状)の直方体T(図5参照)を作成する。この直方体Tは粗形材原材(粗形材の原材料)として想定されるものである。
上記ステップ203〜206の処理は、同処理機能が付与された製品設計用CAD装置1又は粗形材モデリング用CAD装置31、32、…3nにより、ここでは製品設計用CAD装置1により行われる。
【0018】
ステップ207−1、207−2、…207−nでは、作業範囲W1、W2、…Wnにて各々製品の基本形状BSに抜き勾配DA(図3参照)を付加する。
ステップ208−1、208−2、…208−nでは、作業範囲W1、W2、…Wnにて各々抜き勾配DAが付加された製品の基本形状BSに加工代PA(同図3参照)を付加する。
ステップ209−1、209−2、…209−nでは、作業範囲W1、W2、…Wnにて各々抜き勾配DA及び加工代PAが付加された製品の基本形状BSにフィレットFS(同図3参照)を付加する。
このステップ209−1、209−2、…209−nの終了により、作業範囲W1、W2、…Wnにおける各分割粗形材モデル(形状)41、42、…4n(同図3参照)が完成する。
【0019】
次に、ステップ210−1、210−2、…210−nでは、ステップ205で得られた分割直方体S1、S2、…Snを、ステップ209−1、209−2、…209−nで作成された分割粗形材モデル41、42、…4nの表面形状F1、F2、…Fn(図4参照)で切り取る。すなわち、分割粗形材モデル41、42、…4nの表面形状F1、F2、…Fnを分割直方体S1、S2、…Snに転写する。これにより、分割粗形材金型モデルM1、M2、…Mn(図5参照)が作成される。
上記ステップ207−1、207−2、…207−n〜210−1、210−2、…210−nの処理は、同処理機能が付与された粗形材モデリング用CAD装置31、32、…3nにより行われる。
【0020】
ステップ211では、ステップ206で作成された直方体Tを、ステップ210−1、210−2、…210−nで作成された分割粗形材金型モデルM1、M2、…Mnの表面形状F1、F2、…Fnで切り取る(図5参照)。すなわち、分割粗形材金型モデルM1、M2、…Mnの表面形状F1、F2、…Fnを直方体Tに転写する。
分割粗形材金型モデルM1、M2、…Mnは、図5に示すように上記分割面SFの位置を合わせた状態で一体化して、その表面形状F1、F2、…Fnを直方体Tに転写する。
上記のように、直方体Tは直方体Rと同じサイズ(ステップ206)である。したがって、ステップ211において直方体Tの外形状を、分割粗形材金型モデルM1、M2、…Mn、図5ではM1、M2の組合せ体の外形状(換言すれば直方体Rの外形状)に合わせれば、上記分割面SFの位置が正確に合った状態で一体化される。すなわち、分割粗形材金型モデルM1、M2、…Mnの表面形状F1、F2、…Fnが位置ずれなく、しかも容易に直方体Tに転写される。
これにより、粗形材モデル5が完成し(図5参照)、粗形材のモデリング手順を終了する。
このステップ211の処理は、同処理機能が付与された粗形材モデリング用CAD装置31、32、…3n又は製品設計用CAD装置1により、ここでは、粗形材モデリング用CAD装置31、32、…3nにより行われる。
完成した粗形材モデル(データ)5は記憶装置2に記憶される。本実施形態においては、ステップ201〜ステップ210−1、210−2、…210−nにおける中間処理結果(形状等の各種データ)も製品設計用CAD装置1、粗形材モデリング用CAD装置31、32、…3n自身の記憶装置に記憶する他、記憶装置2にも記憶されるように構成されている。
【0021】
上述した実施形態によれば、粗形材のモデリング作業を、複数nの作業範囲W(W1、W2、…Wn)に分散して行うので、並行作業が可能になり、粗形材のモデリング(粗形材設計)を効率よく短時間で行うことができる。
しかも、分割後のつなぎ合わせ作業(一体化)も煩雑な、各分割面の間に生じる形状の不整合の調整を要することなく簡単に行えるので、この点からも粗形材のモデリングを効率よく短時間で行うことができる。
【符号の説明】
【0022】
1:製品設計用CAD装置、2:記憶装置、31、32、…3n:粗形材モデリング用CAD装置、41、42:分割粗形材モデル、5:粗形材モデル、BS:製品の基本形状、W1、W2:作業範囲、SF:分割面、R、T:直方体、BS´:粗形材形状、F1、F2:表面形状、S1、S2:分割直方体、、M1、M2:分割粗形材金型モデル。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
設計しようとする粗形材により作成される対象物の三次元の基本形状を、金型材モデルの予め位置設定された分割面で分割する第1工程と、
該第1工程により得られた基本形状の分割形状毎に該基本形状の分割形状を得るための粗形材の分割形状を並行して作成する第2工程と、
該第2工程により作成された分割粗形材形状を前記第1工程で分割された金型材モデルの各部に前記分割面位置を一致させた状態で転写する第3工程と、
該第3工程により分割粗形材形状を転写して得られた各分割粗形材金型モデルを前記各分割面位置を合わせた状態で一体化する第4工程と、
該第4工程により一体化されてなる金型モデルにより前記基本形状の粗形材形状を前記対象物側に転写する第5工程と、
を具備することを特徴とする粗形材の設計支援方法。
【請求項2】
前記第4工程における各分割粗形材金型モデルの一体化は、前記金型材モデルの外形状に一致した外形状を有する作業領域内にて、相互に外形状を合わせた状態で行うことを特徴とする請求項1に記載の粗形材の設計支援方法。
【請求項3】
設計しようとする粗形材により作成される対象物の三次元の基本形状を、金型材モデルの予め位置設定された分割面で分割する第1手段と、
該第1手段により得られた基本形状の分割形状毎に該基本形状の分割形状を得るための粗形材の分割形状を並行して作成する第2手段と、
該第2手段により作成された分割粗形材形状を前記第1手段で分割された金型材モデルの各部に前記分割面位置を一致させた状態で転写する第3手段と、
該第3手段により分割粗形材形状を転写して得られた各分割粗形材金型モデルを前記各分割面位置を合わせた状態で一体化する第4手段と、
該第4手段により一体化されてなる金型モデルにより前記基本形状の粗形材形状を前記対象物側に転写する第5手段と、
を具備することを特徴とする粗形材の設計支援装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−3900(P2013−3900A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135242(P2011−135242)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】