説明

粘性土浄化工法

【課題】重金属により汚染された粘性土から、重金属或いは重金属イオンを分離して、粘性土に含有される重金属量を環境基準値以下になる様に浄化する粘性土浄化工法の提供。
【解決手段】重金属により汚染された粘性土(Gp)を地上側(GL)に移動する工程(S1)と、汚染された粘性土にアルカリ性水溶液を添加する工程(S2)と、汚染された粘性土とアルカリ性水溶液との混合流体に電界を作用させて重金属イオンを除去する工程(S4)と、アルカリ性水溶液との混合流体を固液分離する工程(S8)と、液体(ろ液)と分離された固体(粘性土)における重金属の溶出量を計測する工程(S6)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属イオン、例えばフッ素、六価クロム、セレンによって汚染された粘性土の浄化に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばフッ素(F、SiF2−、FeF3−となる場合も含む)、六価クロム(Cr2−、CrO2−となる場合も含む)、セレン(SeO2−、SeO2−となる場合も含む)は、洗浄浄化の対象となる重金属(第二種特定有害物質)である。
【0003】
この様な重金属の化合物はイオン化傾向が高く、水に溶けるとイオン化し易い。
その様なイオン化し易い重金属の化合物は、粘性土においてはその結合力が強く、重金属を粘性土から分離することは困難である。
重金属の汚染物質を原位置土から分離する技術が従来から望まれているが、粘性土において、係る要請に応えることが出来る様な浄化技術は、未だに提案されていない。
【0004】
その他の従来技術として、例えば、汚染土壌を酸性の洗浄水と共に回転ドラム内へ投入して第1次磨砕を行い、第1次磨砕により得られた土壌とアルカリ性又は中性の洗浄水と共に装置内に投入して第2次磨砕を行う技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)は砂地盤の様な粘性土を含まない土壌が汚染されている場合には対応できるが、粘性土が汚染されている場合には、汚染物質と粘性土とを分離することが出来なかった。
【特許文献1】特開2006−326434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、重金属により汚染された粘性土から、重金属或いは重金属イオンを分離して、粘性土に含有される重金属量を環境基準値以下になる様に浄化する粘性土浄化工法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の粘性土浄化工法は、重金属により汚染された粘性土(Gp)を地上側(GL)に移動する工程(S1)と、(地上側に移動された)汚染された粘性土(スラリー)にアルカリ性水溶液(例えば、NaOH水溶液)を添加する工程(S2)と、汚染された粘性土とアルカリ性水溶液との混合流体に(例えば、電気泳動式分離装置4により)電界を作用させて重金属イオンを除去する工程(S4)と、(例えば、固液分離装置5により)アルカリ性水溶液との混合流体を固液分離する工程(S8)と、液体(ろ液)と分離された固体(粘性土)における重金属の溶出量を計測する工程(S6)とを有することを特徴としている(請求項1)。
ここで、「粘性土」とは、粘土やシルト等の細粒土が主成分となる土質を意味している。
また、前記重金属としては、例えば、フッ素、六価クロム、セレンが該当する。
【0007】
また、本発明において、固液分離する前記工程(S8)で固体(粘性土)と分離された液体(ろ液)に吸着材を添加する工程(S7)と、(例えば、吸着材分離装置7により)液体(ろ液)から吸着材を分離する工程(S9)と、吸着材を分離した後の液体(ろ液)における重金属の含有量を計測する工程(S10)とを有することが好ましい(請求項2)。
【0008】
吸着材を分離した後の液体(ろ液)は、(請求項2の重金属の含有量を計測する工程S10で計測した)重金属の含有量が所定値を上回っている場合には、(例えば、固液分離装置5により)固液分離された液体(ろ液)に戻し、(請求項2の重金属の含有量を計測する工程S10で計測した)重金属の含有量が所定値以下である場合には、(地上側に移動された)汚染された粘性土を浄化するアルカリ性水溶液(例えば、NaOH水溶液)に戻すのが好ましい(請求項3)。
【0009】
本発明において、重金属により汚染された粘性土(Gp)を地上側(GL)に移動する前記工程(S1)は、汚染された粘性土(Gp)に到達するボーリング孔(H)を削孔する工程と、ボーリング孔(H)内に噴射機構(1)を挿入する工程と、噴射機構(1)から流体を噴射(Jx1、Jx2)しつつ回転(R)しながら引き上げることにより、噴射された流体により汚染された粘性土(Gp)を切削し且つ噴射された流体と汚染された粘性土(Gp)とを混合すると共に、噴射された流体と汚染された粘性土との混合物をスラリーとして地上側(GL)へ移動させる工程(S1)、とを有するのが好ましい(請求項4)。
【発明の効果】
【0010】
上述する構成を具備する本発明によれば、地上側(GL)に移動された汚染された粘性土(スラリー)にアルカリ性水溶液(例えば、NaOH水溶液)を添加しており、特に汚染物質(重金属)がイオン化傾向の高いフッ素、六価クロム、セレンである場合には、当該汚染物質がアルカリ性水溶液内でイオン化して、粘性土の土粒子から分離され易くなる。
そして、本発明によれば、汚染された粘性土とアルカリ性水溶液との混合流体に(例えば、電気泳動式分離装置4により)電界を作用させるので、アルカリ性水溶液中でイオン化した重金属は、電界に引き寄せられて、粘性土の土粒子から分離し、溶液に移行する。そのため、粘性土の土粒子と汚染物質とを、容易に分離することが出来る。
そのため、本発明によれば、粘性土からフッ素、六価クロム、セレンの様な重金属イオンを分離、除去して、従来は浄化が困難であった粘性土を確実に浄化することが出来る。
【0011】
さらに、電界を作用させてイオン化した重金属を除去した後に、(例えば、固液分離装置5により)アルカリ性水溶液との混合流体を固液分離すれば、特に汚染物質(重金属)がフッ素、六価クロム、セレンである場合には、その大部分がアルカリ性水溶液中に存在し、固液分離により液体(ろ液)と分離された固体(粘性土)には、殆ど存在しなくなる。
従って、当該固体(粘性土)中における汚染物質の溶出量は極めて少なくなる。
なお、粘性土が浄化されたことは、固体(粘性土)における重金属の溶出量を計測する工程(S6)により確認される。
【0012】
本発明において、ボーリング孔(H)内に噴射機構(1)を挿入し、噴射機構(1)から流体を噴射(Jx1、Jx2)しつつ回転(R)しながら引き上げ、噴射された流体により汚染された粘性土(Gp)を切削し、噴射された流体と汚染された粘性土(Gp)とを混合し、噴射された流体と汚染された粘性土(Gp)との混合物をスラリーとして地上側へ移動(L1)させれば(請求項2)、汚染物質は噴射された流体との混合流体であるスラリーとして地上側(GL)に移動する事が出来る。そのため、電界を作用させてイオン化した重金属を除去する工程(S4)や、固液分離して粘性土を液体から分離する工程(S8)を、容易に行うことが出来る。
【0013】
また本発明において、固液分離する前記工程(S8)で固体(粘性土)と分離された液体(ろ液)に吸着材を添加し、(例えば、吸着材分離装置7により)液体(ろ液)から吸着材を分離すれば(請求項3)、重金属或いは重金属イオンは吸着材により吸着されるので、液体(ろ液)中に残存した汚染物質が、確実に除去される。
汚染物質が確実に除去された旨は、重金属の含有量を計測する工程(S10:請求項3)により確認される。
【0014】
さらに本発明において、吸着材を分離した後の液体(ろ液)を、(例えば、固液分離装置5により)固体(粘性土)と分離された液体(ろ液)に添加するか、或いは、(地上側に移動された)汚染された粘性土にアルカリ性水溶液(例えば、NaOH水溶液)と共に添加すれば(請求項4)、汚染物質である重金属或いは重金属イオンを系外に排出しない、いわゆる「ゼロ・エミッション」が達成できるので、施工コストを低く抑えることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図1〜図3を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図示の実施形態では、汚染物質である重金属は、例えば、フッ素、六価クロム、セレンである。
現在、粘性土汚染が問題になっているケースにおいて、汚染物質がフッ素、六価クロム、セレンであるケースが非常に多いことに起因する。
また、フッ素、六価クロム、セレンは、溶液中でイオンになり易いので、図2を参照して後述する電気泳動式分離装置4により除去し易い。
【0016】
図1において、全体を符号100で示す粘性土浄化システムは、掘削システム102と、浄化システム104とを有している。
掘削システム102は、例えばフッ素、六価クロム、セレン等の重金属(或いは重金属イオン)によって汚染された粘性土Gpを掘削して、スラリーとして地上GL側へ移動させる様に構成されている。
浄化システム104は、重金属(或いは重金属イオン)によって汚染された粘性土から重金属を分離して、重金属溶出量或いは重金属含有量を環境基準値以下まで低下するまで浄化する様に構成されている。
【0017】
掘削システム102では、重金属によって汚染された粘性土Gp中の領域に到達するようなボーリング孔Hを削孔し、ボーリング孔H内に噴射機構1を挿入している。
噴射機構1は、その側面に少なくとも一対のノズルN1、N2を有しており、一対のノズルN1、N2から噴流Jx1、Jx2が噴射される。そして、噴流Jx1、Jx2は、いわゆる「交差噴流(クロスジェット)」を構成する。なお、交差噴流を構成する流体は、高圧水やその他の溶液(例えば、アルカリ性水溶液)が用いられる。
噴射機構1は、その底部1bに各種溶液(例えば、アルカリ性水溶液)を注入(矢印J3)するための注入口1oを設けている。
【0018】
噴射機構1は、一対のノズルN1、N2から交差噴流Jx1、Jx2を噴射し、注入口1oから各種溶液を注入(矢印J3)しつつ、矢印Rで示す様に回転して、地上側GLに引き上げられる。
【0019】
交差噴流Jx1、Jx2は半径方向所定距離で衝突し、衝突個所よりも半径方向外方は掘削しない。これにより、掘削距離(半径方向距離)すなわち粘性土浄化範囲を、正確に制御することが出来る。
なお、浄化範囲を正確に制御する必要がなければ、交差噴流Jx1、Jx2に代えて、通常の水平方向のジェット(図示せず)にすることが出来る。
【0020】
ノズルN1、N2から交差噴流(Jx1、Jx2)が噴射され、注入口1oから各種溶液が注入され(J3)、汚染された粘性土Gpが切削される。切断された汚染された粘性土Gpは、スラリーとしてラインL1を経由し、地上側GLに設置したスラリー貯蔵装置2へ送られる。
【0021】
図1において、スラリー貯蔵装置2及びその下流側(掘削システム102から離隔した側)が、浄化システム104を構成している。
【0022】
スラリー貯蔵装置2には、掘削システム102で掘削された汚染された粘性土が、スラリーとして貯蔵される。
スラリー貯蔵装置2内には、撹拌装置3が設けられている。また、スラリー貯蔵装置2内には、ラインL9を介して、アルカリ性水溶液が添加される。添加されるアルカリ性水溶液は、例えば、水酸化ナトリウムである。
【0023】
ここで、明確には図示されていないが、スラリー貯蔵装置2は全体が密閉容器として構成されているのが好ましい。汚染された粘性土を扱うという作業において、作業員の安全や環境への影響を考慮すると、撹拌装置3による撹拌は、密閉容器内で行うことが好ましいからである。
【0024】
スラリー貯蔵装置2において、ラインL9を介してアルカリ溶液を加え、且つ、撹拌装置3により物理的に撹拌することにより、汚染物質が粘性土から分離される。
ここで、後述する様に、重金属汚染物質が例えばフッ素、六価クロム、セレンであれば、これ等はイオン化傾向が高く、アルカリ水溶液中では溶解してイオン化し易い。フッ素がイオン化すればF、SiF2−、FeF3−となり、六価クロムはCr2−、CrO2−となり、セレンはSeO2−、SeO2−となる。
また、上述した様に、アルカリ性環境下の方が、土粒子を重金属から分離し易い。
換言すれば、フッ素、六価クロム、セレンが溶解してイオン化し易く、且つ、土粒子から分離し易いので、アルカリ性水溶液を添加して、スラリーと混合するのである。
【0025】
図示の実施形態では、スラリー貯蔵装置2からラインL2を介して、スラリー(掘削システム102で発生したスラリー)とアルカリ性水溶液との混合物を電気泳動式分離装置4に送り、電気泳動によって、フッ素、六価クロム、セレンを粘性土から分離している。
【0026】
電気泳動式分離装置4は、詳細を図2で示す様に、容器41(水槽)内にプラスの電極42、マイナスの電極43が設けられている。容器41内には、さらに、フッ素、六価クロム、セレンのイオンを透過する膜(例えば半透膜)44が設けられており、2枚の膜44は、電極42、43が存在する領域42A、43Aを、容器41における中央の部分41Cから分離している。
なお、容器41の中央部分41Cには、ラインL2(図1参照)を介して、スラリーとアルカリ性水溶液との混合物が供給される。
【0027】
フッ素、六価クロム、セレンは、上述した通りイオン化傾向が高く、スラリーとアルカリ性水溶液との混合物中では、イオンとして存在する。
フッ素、六価クロム、セレンはマイナスイオンとして存在する。そして、マイナスイオン(フッ素、六価クロム、セレン)は、正極42のプラス電界に引き寄せられて、イオン透過膜44を透過して領域42Aに侵入する。
【0028】
この様に電気泳動式分離装置4によれば、スラリーとアルカリ性水溶液との混合物中にイオンとして存在するフッ素、六価クロム、セレンが、イオン透過膜44で隔てられた領域42Aまたは43Aに電気泳動によって移動する。
従来公知の技術を用いて、領域42Aまたは43Aに存在するイオンを、ラインL3(図1参照)を介して、廃棄装置8(図1参照)へ送り出せば、スラリーとアルカリ性水溶液との混合物から、フッ素、六価クロム、セレンが分離される。
これにより、フッ素、六価クロム、セレンの大部分が、スラリーとアルカリ性水溶液との混合物から除去される。
【0029】
ここで、イオン透過膜44の選定に当っては、膜の目詰まり防止についても考慮することが好ましい
その意味でも、電気泳動式分離装置4によるイオン化したフッ素、六価クロム、セレンの除去は、バッチ処理により行われることが好ましい。
【0030】
図2で示す電気泳動式分離装置4で、電気泳動によりイオン化したフッ素、六価クロム、セレンが除去された残りのスラリー(アルカリ性水溶液との混合物:フッ素、六価クロム、セレンは大部分が除去されているが、若干量が残存している可能性がある)は、ラインL4によって固液分離装置5に送られる。そして、固液分離装置5により固形物(粘性土)と水溶液(ろ液)とに分離される。
上述した通り、フッ素、六価クロム、セレンはアルカリ性水溶液に溶け易いので、フッ素、六価クロム、セレンの大部分は水溶液(ろ液)中に存在する。
【0031】
固液分離装置5により水溶液(ろ液)と分離された段階で、固形物(粘性土)中に含有されるフッ素、六価クロム、セレンは極めて少なくなっている。
固液分離装置5により水溶液(ろ液)と分離された固形物(粘性土)は、ラインL6を介して溶出量試験装置12に送られ、当該固形物(粘性土)中におけるフッ素、六価クロム、セレンの溶出量を計測される。
固形物(粘性土)中におけるフッ素、六価クロム、セレンの溶出量が環境基準値を下回っていたならば、当該固形物(粘性土)はラインL12により移送され、固化材供給装置10によって、例えばセメントミルクのような固化材を固形物に供給・混合して、固化される。固化された固体は、埋め戻し材貯留場11に一時貯留し、その後、掘削システム102で掘削された(重金属が除去された)領域に埋め戻すことが可能である。
固形物(粘性土)中におけるフッ素、六価クロム、セレンの溶出量が環境基準値を下回っているのであれば、当該固形物(粘性土)自体を、そのまま噴射機構1の注入口1oから地中に充填(埋め戻し)することも可能である。
【0032】
溶出量試験装置12において、固形物(粘性土)中におけるフッ素、六価クロム、セレンの溶出量が環境基準値を上回っていれば、ラインL11(コンベア等の搬送装置であっても良い)により、当該固形物(粘性土)をスラリー貯蔵装置2に投入して、再度、アルカリ水溶液と混合する。
【0033】
固液分離装置5で分離された水溶液(ろ液)は、フッ素、六価クロム、セレンを含んでいる。そのため、当該水溶液(ろ液)が固液分離装置5と吸着材分離装置7とを結ぶラインL5を流過する段階で、吸着材供給装置6により、吸着材を水溶液(ろ液)へ供給する。
その結果、水溶液中に存在するフッ素、六価クロム、セレン或いはそれ等のイオンは、吸着材により吸着される。
【0034】
吸着材供給手段6から供給される吸着材の種類については、特に限定するものではない。また、吸着材に加えて、或いは吸着材に代えて、鉄(例えば硫酸第一鉄)を吸着材供給手段6から供給することが可能である。
硫酸第一鉄の様な鉄分を添加すると、六価クロムを不溶化し、沈殿させて分離することが出来る。その意味で、吸着材供給手段6から供給される材料は、吸着材には限定されない。
【0035】
吸着材供給手段6からラインL5へ吸着材を供給した後、吸着材分離装置7により、液体と固体(フッ素、六価クロム、セレン或いはそれ等のイオンを吸着した吸着材)とに分離する。
分離された固体(フッ素、六価クロム、セレン或いはそれ等のイオンを吸着した吸着材)は、ラインL7経由で廃棄手段8に送られ、電気泳動式分離装置4からラインL3を介して送られてきた重金属イオンと共に、従来公知の技術を用いて廃棄される。
【0036】
吸着材分離装置7で分離された液体は、ラインL8を介して重金属含有量計測装置13に送られて、フッ素、六価クロム、セレンの含有量が環境基準値以下であるか否かが測定される。そして、フッ素、六価クロム、セレンの含有量が環境基準値以下であれば、吸着材分離装置7で分離された液体を種々の用途に再利用することが出来る。
ここで、吸着材分離装置7により分離された液体は、pHが7よりも大きいアルカリ性水溶液である。従って、重金属含有量計測装置13で計測されたフッ素、六価クロム、セレンの含有量が環境基準値以下であれば、当該液体を、ラインL13経由で再利用水貯留タンク9に一時的に貯溜し、必要に応じて、ラインL9を介してしてスラリー貯蔵装置2に供給しても良い。アルカリ性水溶液を再利用するのは、粘性土浄化作業のコストを考慮した場合、外部に出すことなく(ゼロエミッション)、閉鎖系内で処理することが好適だからである。
一方、重金属含有量計測装置13で、吸着材分離装置7により分離された液体におけるフッ素、六価クロム、セレンの含有量が環境基準値を上回っていることが計測された場合には、ラインL10経由で、ラインL5に投入する。当該投入個所は、ラインL5において、吸着材供給装置6の吸着材供給個所よりも上流側(固液分離装置5側)の領域である。
【0037】
図示の実施形態において、イオンの帯電性を利用して、フッ素、六価クロム、セレンを分離する手法は、図2で示す分離装置4を用いた電気泳動による分離に限定されるものではない。
イオンの帯電性を用いた分離法であれば、全て適用可能である。
【0038】
また、固液分離装置5、吸着材分離装置7については、固体と液体とを分離できる装置であれば、特に限定するものではない。
【0039】
次に、図3を主に参照して、図1、図2で説明した実施形態における粘性土浄化作業の手順を説明する。
【0040】
図3のステップS1では、掘削システム102によって汚染された粘性土Gpを掘削して、汚染された粘性土をスラリーとしてスラリー貯蔵装置2に貯蔵する。
そしてステップS2では、スラリー貯蔵装置2に、図1のラインL9を介して再利用水貯留タンク9から水酸化ナトリウム水溶液を添加する。そして、スラリー貯蔵装置2内の撹拌装置3によって、スラリーと水酸化ナトリウム水溶液とを撹拌して、混合する(ステップS3)。
【0041】
ステップS4では、十分に撹拌されたスラリーを、ラインL2を経由して電気泳動式分離装置4に送り込む。そして、電気泳動式分離装置4によって汚染物質である重金属(フッ素、六価クロム、セレン)の分離を行う。
ここで、フッ素、六価クロム、セレンは水中でイオンになり易く、水酸化ナトリウム溶液を添加したスラリーからは、上述したような電気泳動式分離装置4の電気泳動作用によって、フッ素、六価クロム、セレンを容易に除去することができる。
【0042】
電気泳動式分離装置4により、重金属の分離が行われたならば、スラリーを固液分離装置5に送り、さらに固液分離装置5によって固形物(粘性土)と、水溶液(ろ液)とに分離する(ステップS5)。
【0043】
図2を参照して上述した様に、電気泳動式分離装置4により、イオン化したフッ素、六価クロム、セレンは大部分が除去されるが、残存したスラリー内には、若干量のフッ素、六価クロム、セレン或いはそれ等のイオンが残存している可能性がある。
図1を参照して上述した様に、スラリーと水酸化ナトリウム水溶液とを混合、撹拌することにより、フッ素、六価クロム、セレンの殆どはイオンとして水溶液中に存在することになるので、固液分離装置5によって固形物(粘性土)と、水溶液(ろ液)とに分離した際に(ステップS5)、フッ素、六価クロム、セレン或いはそのイオンは、大部分が水溶液(ろ液)に存在すると考えられる。
しかし、固形物(粘性土)には、フッ素、六価クロム、セレン或いはそのイオンは存在しないと断言することは出来ない。
【0044】
そこで、ステップS6では、ステップS5で分離した固形物(粘性土)の重金属溶出量を、溶出量試験装置12により計測する。そして、分離した固形物(粘性土)に含まれるフッ素、六価クロム、セレンの溶出量が、環境基準値以下となっているか否かを判断する。
【0045】
固形物(粘性土)に含まれるフッ素、六価クロム、セレンの溶出量が、環境基準値以下となっていれば(ステップS6がYES)、浄化は完了したと判断する。
一方、フッ素、六価クロム、セレンの溶出量が、環境基準値を超えていれば(ステップS6がNO)、分離した固形物(粘性土)をスラリー貯蔵装置2に戻し、ステップS2以下を繰り返す。
なお、図1を参照して説明した様に、フッ素、六価クロム、セレンの溶出量が環境基準値以下である場合(ステップS6がYES)には、当該固形物(粘性土)に固化材を加え、埋め戻し材として、浄化処理後の孔に埋め戻すことも可能である。
【0046】
ステップS5で分離された水溶液(ろ液)は、ステップS7において、重金属を含む水溶液と混合される。この重金属を含む水溶液は、後述するステップS10において、環境基準値を超える重金属を含むと判定された水溶液である。
ステップS7において、ステップS5で分離された水溶液(ろ液)と、ステップS10で環境基準値を超える重金属を含むと判定された水溶液とを混合するに際して、吸着材供給装置6によって吸着材が供給される。水溶液に含有されているフッ素、六価クロム、セレンは、供給された吸着材に吸着して、水溶液から除去される。
水溶液と吸着材とは、ラインL5(図1参照)によって吸着材分離装置7に送られ、固液分離が行われる(ステップS8)。
【0047】
ステップS8で固液分離された固体(フッ素、六価クロム、セレンを吸着した吸着材)は、ラインL7(図1参照)経由で廃棄手段8に送られ、電気泳動式分離装置4からラインL3(図1参照)を介して送られてきた重金属イオンと共に、従来の方法で廃棄される(ステップS9)。
【0048】
一方、ステップS10では、重金属含有量計測装置13により、ステップS8で分離した液体(ろ液)中に含まれるフッ素、六価クロム、セレン(或いはそれ等のイオン)の含有量が、環境基準値以下となっているか否かを判断する。
液体(ろ液)中に含まれるフッ素、六価クロム、セレンの含有量が環境基準値以下となっていれば(ステップS10においてYES)、液体(ろ液)は再利用可能であると判断して(ステップS11)、ステップS2に戻る。係る液体(ろ液)の再利用(ステップS11)に際しては、再利用水貯留タンク9及びラインL9を介して、スラリー貯蔵装置2内へ添加される。
一方、液体(ろ液)に含まれるフッ素、六価クロム、セレン(或いはそれ等のイオン)の含有量が環境基準を超えていれば、(ステップS10においてNO)、ステップS7に戻る。すなわち、当該液体(ろ液)は、重金属含有量計測装置13からラインL10を介して、ステップS5で分離されてラインL5を流れている水溶液(ろ液)と混合される。
【0049】
上述した図示の実施形態によれば、地上側に移動された汚染された粘性土(スラリー)にアルカリ性水溶液(例えば、NaOH水溶液)を添加しているので、特に汚染物質(重金属)がイオン化傾向の高いフッ素、六価クロム、セレンである場合には、当該汚染物質がアルカリ性水溶液内でイオン化して、粘性土の土粒子から分離され易くなる。
そして、図示の実施形態によれば、汚染された粘性土(スラリー)とアルカリ性水溶液との混合流体に、電気泳動式分離装置4により電界を作用させるので、アルカリ性水溶液中でイオン化した重金属は、電界に引き寄せされて、粘性土の土粒子から分離する。そのため、従来技術では分離が困難であった粘性土の土粒子と汚染物質とを、容易に分離することが出来る。
【0050】
さらに、電界を作用させてイオン化した重金属を除去した後に、固液分離装置5によりアルカリ性水溶液との混合流体を固液分離すれば、特に汚染物質(重金属)がフッ素、六価クロム、セレンである場合には、その大部分がアルカリ性水溶液中に存在し、固液分離により液体(ろ液)と分離された固体(粘性土)には、殆ど存在しない。
従って、固液分離されて液体(ろ液)と分離された固体である粘性土中には、汚染物質の溶出量が極めて少なくなる。
なお、粘性土中において、汚染物質の溶出量が極めて少なくなった旨は、固体(粘性土)における重金属の溶出量を計測する工程(図3のステップS6)により確認される。
【0051】
図示の実施形態において、ボーリング孔H内に噴射機構1を挿入し、汚染された粘性土Gpを切削し、汚染された粘性土をスラリーとして地上側GLへ移動させている。そのため、電界を作用させてイオン化した重金属を除去する工程(図3のステップS4)や、固液分離して粘性土を液体から分離する工程(図3のステップS5)を、容易に行うことが出来る。
【0052】
また図示の実施形態において、固液分離する工程(図3のステップS5)で固体(粘性土)と分離された液体(ろ液)に吸着材を添加し、吸着材分離装置7により液体(ろ液)から吸着材を分離すれば(図3のステップS8)、重金属或いは重金属イオンは吸着材により吸着されるので、液体(ろ液)中に残存した汚染物質が、確実に除去される。
【0053】
土壌が浄化されたことは、重金属の溶出量を計測する工程(図3のステップS6)により確認される。
【0054】
さらに図示の実施形態では、吸着材を分離した後の液体(ろ液)を外部に排出しないので、汚染物質である重金属或いは重金属イオンを系外に排出しない、いわゆる「ゼロ・エミッション」が達成できるので、施工コストを低く抑えることが出来る。
【0055】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図。
【図2】図1における電気泳動式分離装置の概念を示す説明図。
【図3】実施形態における浄化の手順を示すフロー図。
【符号の説明】
【0057】
1・・・噴射機構
2・・・スラリー貯蔵装置
3・・・撹拌装置
4・・・電気泳動式分離装置
5・・・固液分離装置
6・・・吸着材供給装置
7・・・吸着材分離装置
8・・・廃棄装置
9・・・再利用水貯留タンク
10・・・固化材供給装置
11・・・埋め戻し材貯留場
100・・・粘性土浄化システム
102・・・掘削システム
104・・・浄化システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属により汚染された粘性土を地上側に移動する工程と、汚染された粘性土にアルカリ性水溶液を添加する工程と、汚染された粘性土とアルカリ性水溶液との混合流体に電界を作用させて重金属イオンを除去する工程と、アルカリ性水溶液との混合流体を固液分離する工程と、液体と分離された固体における重金属の溶出量を計測する工程とを有することを特徴とする粘性土浄化工法。
【請求項2】
固液分離する前記工程で固体と分離された液体に吸着材を添加する工程と、液体から吸着材を分離する工程と、吸着材を分離した後の液体における重金属の含有量を計測する工程とを有する請求項1の粘性土浄化工法。
【請求項3】
吸着材を分離した後の液体は、重金属の含有量が所定値を上回っている場合には、固液分離された液体に戻し、重金属の含有量が所定値以下である場合には、汚染された粘性土を浄化するアルカリ性水溶液に戻す請求項2の粘性土浄化工法。
【請求項4】
重金属により汚染された粘性土を地上側に移動する前記工程は、汚染された粘性土に到達するボーリング孔を削孔する工程と、ボーリング孔内に噴射機構を挿入する工程と、噴射機構から流体を噴射しつつ回転しながら引き上げることにより、噴射された流体により汚染された粘性土を切削し且つ噴射された流体と汚染された粘性土とを混合すると共に、噴射された流体と汚染された粘性土との混合物をスラリーとして地上側へ移動させる工程、とを有する請求項1〜3の何れか1項の粘性土浄化工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−307497(P2008−307497A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159719(P2007−159719)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(390002233)ケミカルグラウト株式会社 (79)
【Fターム(参考)】