説明

粘性流体封入ダンパー

【課題】薄型化により小型化しても振動減衰特性に異方性が生じにくい粘性流体封入ダンパーの提供。
【解決手段】密閉容器15を扁平形状とし容器本体16の高さを低くしているため、メカニカルシャーシ4と筐体7との隙間が小さくても密閉容器15を取付けできる。また筒状突起20bの端部20cを、外縁より内縁が蓋体17に向かって突出する傾斜面とし先細り形状に形成しているため、容器本体16の高さ方向(Z方向)に密閉容器15が押し潰される際の変形荷重を容器本体16の幅方向(X−Y方向)における密閉容器15の変形荷重に近づけることができ、全方向(X−Y−Z方向)に対する減衰性能を等方性に近づけることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用、民生用を含めた音響機器、映像機器、情報機器、各種精密機器等に用いられる光ディスク装置、光磁気ディスク装置等のディスク装置の振動減衰技術に関し、特に、ディスクの再生機構を実装したメカニカルシャーシなどの被支持体の振動を減衰する粘性流体封入ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク装置は、モータによって高速回転するディスクに対して光ピックアップなどを接近させ、ディスクに情報を記録し又は再生する精密装置である。そのため、偏芯ディスクの回転によって生じる内部振動や機器の外側から伝わってくる外部振動に弱く、それら振動により発生する誤動作を防ぐ必要がある。そこで、ディスクの再生機構を実装したメカニカルシャーシと筐体との間に粘性流体封入ダンパーを介在させ、メカニカルシャーシの振動を減衰するのが通例である。
【0003】
このような一従来例による粘性流体封入ダンパー1は、例えば図11で示すように、密閉容器2のゴム状弾性体でなる可撓部3が、メカニカルシャーシ4に設けた硬質の取付シャフト5に固定されるとともに、密閉容器2の蓋部6が、取付ねじNによって筐体7に固定されて、メカニカルシャーシ4と筐体7の間に取付けられる。他方、メカニカルシャーシ4には、一端を筐体7に取付けた吊下げばね8の他端が取付けられて、筐体7の内部で浮動状態で支持される。ディスク装置9は、粘性流体封入ダンパー1と吊下げばね8を併用することでメカニカルシャーシ4を筐体7の内部で浮動状態で弾性支持する(特許文献1,特許文献2)。
【0004】
上記粘性流体封入ダンパー1は、図12で示すように密閉容器2の内部にシリコーンオイル等の粘性流体10を封入する構成である。密閉容器2は、硬質樹脂でなる円筒状の周壁部11の一端側を可撓部3で封止し、フランジ付きの他端側を硬質樹脂でなる蓋部6で封止してある。可撓部3には底付き円筒状の攪拌筒部12が形成されており、収容凹部13に取付シャフト5を挿入する。
【0005】
こうした粘性流体封入ダンパー1の振動減衰効果は、ディスク装置9に振動が加わった際、収容凹部13に挿入した取付シャフト5と一体の攪拌筒部12が上下左右方向(三次元方向)に連動し、密閉容器2の内部に封入した粘性流体10を攪拌して生じる粘性抵抗によって発揮される。そして密閉容器2は、三次元方向に対し減衰性能を発揮し易いよう外観上立方体に近い中空の円柱形状になっている。
【特許文献1】特開2001−57068号公報
【特許文献2】特開2003−139181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ディスク装置9は、取付スペースを小さくするため、小型化、薄型化が進んでいる。このことからメカニカルシャーシ4と筐体7との隙間を小さくする必要があり、粘性流体封入ダンパー1を薄型化により小型化することが求められている。しかしながら既存の粘性流体封入ダンパー1をそのまま縮小して全体的に小型化すると、粘性流体10の充填量が大幅に減少して減衰性能が悪化してしまう。そこで粘性流体封入ダンパー1の高さだけを低くし全体的に扁平形状とすることで、隙間の狭小化に対応することが考えられる。ところがこの場合、粘性流体封入ダンパー1の高さ方向における見かけ上のばね定数が幅方向における見かけ上のばね定数よりも大きくなり、高さ方向と幅方向とで減衰特性に大きな違いが生じてしまう。この振動減衰特性における異方性の発現は、攪拌筒部12が高さ方向で変位する際にその底面全面が粘性流体10を押圧することにより生じる抵抗が一つの原因になると考えられる。しかしこうした減衰特性の異方性があると、ディスク装置9全体の振動対策を検討する際に、ディスク装置9の使用時における設置形態の多様な要望に適応するために、減衰特性の異方性をできるだけ回避できるよう粘性流体封入ダンパー1の高さ方向と幅方向とで複雑な異なる振動設計を行わなければならないという不都合を生じる。
【0007】
以上のような従来技術を背景になされたのが本発明である。すなわち本発明は、薄型化により小型化しても振動減衰特性に異方性が生じにくい粘性流体封入ダンパーの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして上記目的を達成する本発明は以下のように構成される。
【0009】
すなわち本発明は、容器本体と該容器本体の開口端を閉塞する蓋体とでなる密閉容器と、該密閉容器に封入する粘性流体と、を備えており、密閉容器を支持体と被支持体とに固定して、被支持体の振動を粘性流体の粘性抵抗によって減衰する粘性流体封入ダンパーについて、密閉容器が扁平形状でなり、容器本体が該容器本体の内面から蓋体に向かって突出し粘性流体を攪拌する攪拌突起を有し、該攪拌突起における蓋体側の端部が先細り形状であることを特徴とする粘性流体封入ダンパーを提供する。
【0010】
本発明では、密閉容器が扁平形状である。即ち、容器本体を浅くして密閉容器の高さを低くしており、前述の従来例のような外観上立方体に近い形状とは異なる。このため支持体と被支持体との隙間が小さくても密閉容器を取付けることができる。
【0011】
そして扁平形状とする場合の課題は前述した振動減衰特性の異方性の発現である。これを解決すべく本発明では容器本体が内面から蓋体に向かって突出し粘性流体を攪拌する攪拌突起を有しており、この攪拌突起における蓋体側の端部を先細り形状としている。このため容器本体の高さ方向(Z方向)で密閉容器が押し潰される際、粘性流体中に押し込まれる攪拌突起の変位抵抗を小さくすることができる。よって攪拌突起が粘性流体中に押し込まれ易くなり、Z方向で押し潰される密閉容器の変形荷重を小さくすることができる。このようにして本発明ではZ方向で押し潰される密閉容器の変形荷重が小さくなり、容器本体の幅方向(X−Y方向)での密閉容器の変形荷重に近づけることができる。つまり全方向(X−Y−Z方向)に対する減衰性能を等方性に近づけることができ、密閉容器を扁平形状とする場合の減衰特性の異方性の発現を抑制することができるようになる。この結果、本発明では、扁平形状の密閉容器によって支持体と被支持体との隙間を小さく設計できるため、ディスク装置の小型化、薄型化の実現に寄与することができる。
【0012】
本発明は前記粘性流体封入ダンパーについて、攪拌突起が蓋体側に開口を有する筒状突起である。攪拌突起を蓋体側に開口を有する筒状突起とするため、筒状突起の内部には粘性流体が充填される。このため前述の従来例のように中実形状の攪拌突起よりも粘性流体の充填量を多く確保することができ、粘性流体の増量効果による優れた減衰性能を発揮できる。また粘性流体の攪拌効率向上による減衰性能の向上をも発揮できる。すなわち筒状突起は外周面のみならず内周面をも粘性流体と接触する。つまり筒状突起と粘性流体との接触面積を拡大することができ、振動を受けて遊動する筒状突起による粘性流体の攪拌効率を高めることができる。したがって大きな粘性抵抗を発揮でき、振動減衰性能を高めることができる。
【0013】
本発明は前記筒状突起を有する粘性流体封入ダンパーについて、筒状突起の端部が、外縁より内縁が蓋体に近接する傾斜面を形成するものである。このためZ方向に密閉容器が押し潰される際、粘性流体が傾斜面に沿って筒状突起の側方へ流動し易くできる。よってZ方向で押し潰される密閉容器の変形荷重を小さくでき、X−Y方向における密閉容器の変形荷重に近づけることができる。したがって全方向(X−Y−Z方向)に対する減衰性能を等方性に近づけることができる。
【0014】
本発明は前記筒状突起を有する粘性流体封入ダンパーについて、蓋体が該蓋体の内面から筒状突起の内部へ突出し、支持体と被支持体の相対変位に伴って筒状突起の内部の粘性流体を攪拌する棒状突起を有する。棒状突起が筒状突起の内部へ突出するため、筒状突起の内部の粘性流体を効率よく攪拌することができる。よって粘性流体の粘性抵抗を効率よく発揮でき、振動減衰性能を高めることができる。
【0015】
本発明は前記粘性流体封入ダンパーについて、攪拌突起を櫛歯状突起として構成する。即ち、櫛歯状突起が粘性流体を攪拌するため、粘性流体との接触面積を増やすことができる。また振動を受けて遊動する櫛歯状突起によって線柱状の櫛歯どうしの間に粘性流体の乱流を発生させることができる。よって粘性流体の攪拌効率が高まり大きな粘性抵抗を発揮することができ、振動減衰性能を高めることができる。
【0016】
本発明は前記粘性流体封入ダンパーについて、攪拌突起又は棒状突起を、減衰可能な振動変位を超える衝撃変位が加わった際に対向面に当接可能な長さで形成したものである。一般に、粘性流体封入ダンパーを備えるディスク装置では、支持体に対する被支持体の過剰な変位を強制的に停止させる手段として粘性流体封入ダンパーとは別に剛体の板金でなるストッパーを取付けている。しかし本発明では攪拌突起又は棒状突起が、減衰可能な振動を超える過剰な衝撃変位が加わった場合に対向面に対して当接する。したがって、粘性流体封入ダンパーそれ自体に前述の板金製ストッパーと同等の機能を付加することができる。またこれによって粘性流体封入ダンパーの圧潰を防ぐことができる。
【0017】
この場合、そのような衝撃変位規制手段となる攪拌突起及び棒状突起は高分子体により形成するのが好ましい。高分子体は衝撃吸収性を有するため、従来の板金でなるストッパーと異なり衝撃変位規制手段が対向部分に当接した際に緩衝効果を発揮することができる。なお、高分子体は、硬質樹脂、軟質樹脂、ゴム状弾性体などである。また衝撃変位規制手段を対向部材よりも軟質の素材で形成すれば、対向部分に対して柔らかく当接させることができる。
【0018】
本発明は前記粘性流体封入ダンパーについて、容器本体が、支持体又は被支持体に固定され内面に攪拌突起を有する取付部と、該取付部を浮動支持するゴム状弾性体でなる可撓膜と、を備えており、可撓膜が容器本体の深さに相当する凹凸差を形成した蛇腹形状である。このため可撓膜の全長を長くでき、取付部の変位にともなう可撓膜の引張応力を小さくすることができる。一般に可撓膜の引張応力は密閉容器を変形し難く、粘性流体の粘性抵抗を起こり難くすることがある。しかし本発明によれば、可撓膜の引張応力を小さくできるため、密閉容器を変形し易くでき、粘性流体の粘性抵抗を高めることができる。さらに容器本体の内部に可撓膜が深く入り込んでおり、この可撓膜は粘性流体を攪拌することができる。よって十分な振動減衰効果を実現できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の粘性流体封入ダンパーによれば、扁平形状の密閉容器によって支持体と被支持体との隙間を小さくすることができる。また容器本体のZ方向で密閉容器が押し潰される際、粘性流体中に押し込まれる攪拌突起の変位抵抗を小さくすることができる。よって攪拌突起が粘性流体中に押し込まれ易くなり、Z方向で押し潰される密閉容器の変形荷重を小さくすることができ、容器本体のX−Y方向での密閉容器の変形荷重に近づけることができる。つまり、密閉容器を扁平形状とする場合の減衰特性の異方性の発現を抑制することができるようになる。この結果、本発明では、扁平形状の密閉容器によって支持体と被支持体との隙間を小さく設計できるため、ディスク装置の小型化、薄型化の実現に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態の例について図面を参照しつつ説明する。なお各実施形態で共通する構成については同一符号を付して重複説明を省略する。
【0021】
第1実施形態〔図1〜図3〕
第1実施形態の粘性流体封入ダンパー14は、密閉容器15に粘性流体10を封入する構成である。この密閉容器15は扁平形状でなり、容器本体16と別体に成形した蓋体17とを固着して形成したものである。
【0022】
容器本体16は、図3で示すように、中空で下端が開口しており、周壁部18、可撓膜19、中央取付部20で構成されている。このうち周壁部18は熱可塑性の硬質樹脂、より具体的にはポリプロピレン樹脂で環状に形成されている。この周壁部18の外側には筐体7の取付孔7aと係合する係止面18aを有し、上端には上端側を閉塞するように可撓膜19の外縁が固着している。可撓膜19はスチレン系熱可塑性エラストマーのゴム状弾性体でなり、平面視で円環形状に形成されている。そして容器本体16の深さに相当する凹凸差を形成するように蓋体17に臨む深型の蛇腹形状に形成されている。可撓膜19の内縁には中央取付部20が固着している。中央取付部20は熱可塑性の硬質樹脂、より具体的にはポリプロピレン樹脂で形成されている。この中央取付部20はメカニカルシャーシ4の取付孔4aと係合する係止溝20aを有し、さらに容器本体16の内方に向かって「攪拌突起」としての円筒形状の筒状突起20bが設けられている。筒状突起20bは蓋体17側に開口しており、内部には粘性流体10が充填されている。そして蓋体17側の端部20cは外縁より内縁が突出する先細り形状の傾斜面に形成されている。以上の周壁部18、可撓膜19、中央取付部20は二色成形で形成されている。
【0023】
蓋体17は、熱可塑性の硬質樹脂、より具体的にはポリプロピレン樹脂で円板形状に形成されている。そして蓋体17は周壁部18と超音波融着により固着されており、周壁部18の下端を閉塞している。
【0024】
次に、本実施形態の粘性流体封入ダンパー14を備えるディスク装置21を説明する。ディスク装置21は、図1,図2で示すように、メカニカルシャーシ4と、メカニカルシャーシ4を内蔵する筐体7と、粘性流体封入ダンパー14と、吊下げばね8とを備えている。メカニカルシャーシ4と筐体7の間には、粘性流体封入ダンパー14と、吊下げばね8が取り付けられている。
【0025】
筐体7には取付孔7aが設けられ、粘性流体封入ダンパー14における周壁部18の係止面18aが固定される。他方、メカニカルシャーシ4には取付孔4aが設けられており、粘性流体封入ダンパー14における中央取付部20の係止溝20aが固定されている。したがって本実施形態の粘性流体封入ダンパー14の取付構造は、図10で示す従来例の粘性流体封入ダンパー1のようなメカニカルシャーシ4に設けた硬質の取付シャフト5を使って固定する取付構造とは異なるものとなっている。
【0026】
ここで、本実施形態の粘性流体封入ダンパー14を構成する各部材の材質を説明する。なお、以下の説明は後述の各実施形態についても共通である。
【0027】
可撓膜19の「ゴム状弾性体」は減衰効果を有する材質でなり、本実施形態で採用する熱可塑性エラストマーの他、合成ゴムが好ましい。例えば、熱可塑性エラストマーは、本実施形態の可撓膜19として採用するスチレン系熱可塑性エラストマーの他、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー等が挙げられ、合成ゴムは、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等が挙げられる。
【0028】
周壁部18、中央取付部20の「硬質樹脂」は、機械的強度、耐熱性、耐久性、寸法精度、信頼性等の要求性能、及び軽量化や加工性により、本実施形態で採用する熱可塑性樹脂の他、熱硬化性樹脂が好ましい。例えば、本実施形態の周壁部18及び中央取付部20として採用するポリプロピレン樹脂の他、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン・アクリレート樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリウレタン樹脂、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂、あるいはこれらの複合樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を使用できる。また衝撃吸収性を有する硬質樹脂を用いるとその部材の緩衝作用を向上できる。なお、硬質樹脂に熱可塑性樹脂を用いてゴム状弾性体に熱可塑性エラストマーを用いた場合、二色成形が可能となる。
【0029】
粘性流体10の材質は、液体、あるいは液体に反応、溶解しない固体粒子を添加したものが好ましい。例えば、シリコーン系オイル、パラフィン系オイル、エステル系オイル、液状ゴム等の液体、あるいはこれら液体に反応、溶解しない固体粒子を添加したものが挙げられる。なかでも、液体として、温度依存性、耐熱性、信頼性等の要求性能により、シリコーン系オイルが好ましく、具体的には、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル等が挙げられ、これらシリコーン系オイルに反応、溶解しない固体粒子としては、シリコーンレジン粉末、ポリメチルシルセスキオキサン粉末、湿式シリカ、乾式シリカ、ガラスビーズ、ガラスバルーン等、又はこれらの表面処理品等が挙げられ、これらを単独もしくは複数組合せて用いる。
【0030】
以上のような粘性流体封入ダンパー14を製造するには、二色成形用射出成型機を用意する。一色目の金型にてポリプロピレン樹脂でなる周壁部18及び中央取付部20を成形する。移動側の金型が回転した後に二色目の金型にてスチレン系熱可塑性エラストマーでなる可撓膜19を成形する。この時、周壁部18及び中央取付部20と可撓膜19は熱融着によって固着され、容器本体16を得ることができる。この容器本体16の内部にディスペンサーにて粘性流体10を注入する。最後に別途形成したポリプロピレン樹脂でなる蓋体17を容器本体16の開口端に被せ、超音波融着にて容器本体16の周壁部18と蓋体17を固着し粘性流体封入ダンパー14を得ることができる。
【0031】
最後に、粘性流体封入ダンパー14の作用・効果を説明する。
【0032】
粘性流体封入ダンパー14によれば、密閉容器15を扁平形状とし容器本体16の高さを低くしているため、メカニカルシャーシ4と筐体7との隙間が小さくても密閉容器15を取付けることができる。また筒状突起20bの端部20cを、外縁より内縁が蓋体17に向かって突出する傾斜面とし先細り形状に形成しているため、容器本体16の高さ方向(Z方向)に密閉容器15が押し潰される際、粘性流体10が傾斜面に沿って筒状突起20bの側方へ流動し易くできる。よってZ方向で押し潰される密閉容器15の変形荷重を小さくでき、容器本体16の幅方向(X−Y方向)における密閉容器15の変形荷重に近づけることができる。つまり全方向(X−Y−Z方向)に対する減衰性能を等方性に近づけることができ、密閉容器15を扁平形状とする場合の減衰特性の異方性の発現を抑制することができるようになる。この結果、本実施形態では、扁平形状の密閉容器15によってメカニカルシャーシ4と筐体7との隙間を小さく設計できるため、ディスク装置21の小型化、薄型化の実現に寄与することができる。
【0033】
筒状突起20bは蓋体17側に開口を形成するため、筒状突起20bの内部には粘性流体10が充填される。よって従来例のような中実形状の攪拌突起よりも粘性流体10の充填量を多く確保することができ、粘性流体10の増量効果による優れた減衰性能を発揮できる。また筒状突起20bは外周面のみならず内周面をも粘性流体10と接触させることができる。つまり筒状突起20bと粘性流体10との接触面積を拡大することができ、振動を受けて遊動する筒状突起20bによる粘性流体10の攪拌効率を高めることができる。したがって大きな粘性抵抗を発揮でき、振動減衰性能を高めることができる。
【0034】
可撓膜19を容器本体16の深さに相当する凹凸差を形成した深型の蛇腹形状としているため、可撓膜19の全長が長く、可撓膜19における素材自体の伸縮変形というよりも蛇腹形状の形状的変形によって中央取付部20の変位にともなう可撓膜19の引張応力を小さくすることができる。よって密閉容器15を変形し易くでき、粘性流体10の粘性抵抗を高めることができる。さらに深型の蛇腹形状の可撓膜19が容器本体16の内部に深く入り込んでおり、これによって粘性流体10を攪拌することができる。よって十分な振動減衰効果を実現できる。
【0035】
またディスク装置21に取付ける際に従来例の粘性流体封入ダンパー1のような取付シャフト5を不要とするため、ディスク装置21の部品点数を削減することができる。
【0036】
第2実施形態〔図4〕
第2実施形態の粘性流体封入ダンパー22が、第1実施形態の粘性流体封入ダンパー14と異なるのは、蓋体17の構造である。残余の構成及びその作用と効果は第1実施形態と同じである。
【0037】
蓋体17には、中央の位置に内面から容器本体16に向かって突出する棒状突起17aが形成されている。この棒状突起17aの先端は、筒状突起20bによって画成される攪拌室20dに入り込んでいる。すなわち棒状突起17aの突出長は、粘性流体封入ダンパー22による減衰限界を超える衝撃的な振動又は衝撃による大きな変位が加わった際に、対向する中央取付部20の底面と接触可能な長さとされている。
【0038】
第2実施形態の粘性流体封入ダンパー22は、第1実施形態の粘性流体封入ダンパー14と同様の作用と効果を発揮するほか、さらに次の作用・効果を発揮する。
【0039】
棒状突起17aが筒状突起20bによって画成する攪拌室20dに入り込んでいるため、攪拌室20dの内部にある粘性流体10を棒状突起17aが効率よく攪拌することができる。よって粘性流体10の粘性抵抗を効率よく発揮でき、振動減衰性能を高めることができる。
【0040】
また棒状突起17aの軸方向における可動ストロークが筒状突起20bの軸方向に沿う可動ストロークより短いので、棒状突起17aは衝撃変位規制手段として機能する。すなわち、棒状突起17aの突出長は、粘性流体封入ダンパー22による振動減衰限界を超える衝撃的な振動及び衝撃による変位が加わった際に、対向する中央取付部20の底面に対して突き当たる。例えば筐体7の内部でメカニカルシャーシ4が大きく変位して密閉容器15をZ方向に押し潰そうとする衝撃的な振動ないし衝撃が加わると、棒状突起17aが対向する容器本体16に突き当たって過剰な衝撃変位が規制される。このようにして本実施形態の棒状突起17aにはストッパーとしての機能を備えている。よって粘性流体封入ダンパー22の他にストッパー部材を備える必要がなく、部品点数を削減することができ、ディスク装置21の組立を簡単にすることができる。
【0041】
そして棒状突起17aはポリプロピレン樹脂で形成されているため、従来の板金によるストッパーと比べてより衝撃を吸収することができる。すなわち棒状突起17aが対向する容器本体16に当接した際に生じるポリプロピレン樹脂の衝撃吸収性や、当接後に先端側が軸心に対し外向きに撓って衝撃を緩和することによる緩衝効果を発揮することができる。
【0042】
第3実施形態〔図5〜図8〕
第3実施形態の粘性流体封入ダンパー23が、第1実施形態の粘性流体封入ダンパー14と異なるのは、中央取付部24の攪拌突起24aの形状である。残余の構成及びその作用と効果は第1実施形態と同じである。
【0043】
中央取付部24はポリプロピレン樹脂で形成されており、第1実施形態の中央取付部20と同様にメカニカルシャーシ4の取付孔4aと係合する係止溝24bを有している。しかし「攪拌突起」については第1実施形態の筒状突起20bと異なり、複数本の線柱状の突起が集合する櫛歯状突起24aとなっている。櫛歯状突起24aの突出長は第1実施形態の筒状突起20bよりも長く、先端部が可撓膜19の蛇腹形状における谷の底部と並列する位置まで突出している。すなわちその突出長は、粘性流体封入ダンパー23の減衰限界を超える衝撃的振動ないし衝撃による変位が加わった際に対向する蓋体17と接触可能な長さとされている。櫛歯状突起24aの形状は、図7(A)で示すように基端から先端に向けて徐々に先細る尖頭形状になっており、先端部は球面状の丸みを帯びて形成されている。そして中央取付部24を底面側から示す図8に表れるように、櫛歯状突起24aは中央取付部24の円形底面にその中央から外縁側まで広く林立させて配置されている。なお、櫛歯状突起24aは、第3実施形態の形状の他、図7(B)で示すように先端部が平坦面に形成されているもの、図7(C)で示すように長手中央から先端に向けて徐々に先細る形状に形成されているもの等も使用できる。
【0044】
次に、第3実施形態の粘性流体封入ダンパー23の作用・効果を説明する。
【0045】
粘性流体封入ダンパー23によれば、密閉容器15を扁平形状とし容器本体16の高さを低くしているため、メカニカルシャーシ4と筐体7との隙間が小さくても密閉容器15を取付けることができる。また櫛歯状突起24aを、基端から先端に向けて徐々に先細る尖頭形状に形成しているため、容器本体16の高さ方向(Z方向)に密閉容器15が押し潰される際、粘性流体10が櫛歯状突起24aの側方へ流動し易くできる。よってZ方向で押し潰される密閉容器15の変形荷重を小さくでき、容器本体16の幅方向(X−Y方向)における密閉容器15の変形荷重に近づけることができる。つまり全方向(X−Y−Z方向)に対する減衰性能を等方性に近づけることができ、密閉容器15を扁平形状とする場合の減衰特性の異方性の発現を抑制することができるようになる。この結果、扁平形状の密閉容器15によってメカニカルシャーシ4と筐体7との隙間を小さくできるため、ディスク装置21の小型化、薄型化の実現に寄与することができる。
【0046】
櫛歯状突起24aが粘性流体10を攪拌するため、粘性流体10との接触面積を増やすことができる。また振動を受けて遊動する櫛歯状突起24aによって線柱状の櫛歯状突起24aどうしの間に粘性流体10の乱流を発生させることができる。よって粘性流体10の攪拌効率が高まり大きな粘性抵抗を発揮でき、振動減衰性能を高めることができる。
【0047】
また櫛歯状突起24aは筐体7に対するメカニカルシャーシ4の衝撃変位規制手段となる。例えば筐体7の内部でメカニカルシャーシ4が過剰に変位して密閉容器15をZ方向に押し潰そうとする時、櫛歯状突起24aが対向する蓋体17に突き当たって過剰な衝撃変位を規制することができる。このため櫛歯状突起24aはストッパーとしての機能を備えている。よって粘性流体封入ダンパー23の他にストッパーなどを備える必要がなく、部品点数を削減することができ、ディスク装置21の組立を簡単にすることができる。
【0048】
さらに櫛歯状突起24aはポリプロピレン樹脂で形成されているため、従来の板金によるストッパーと比べてより衝撃を吸収することができる。すなわち櫛歯状突起24aが対向する蓋体17に当接した際に生じるポリプロピレン樹脂の衝撃吸収性や、当接後に先端側が軸心に対し外向きに撓って衝撃を緩和することによる緩衝効果を発揮することができる。
【0049】
各実施形態の変形例
第1,第2,第3実施形態の粘性流体封入ダンパー14,22,23では、筒状突起20b、櫛歯状突起24aなどの攪拌突起をポリプロピレン樹脂で形成する例を示したが、本変形例の粘性流体封入ダンパー25では攪拌突起をスチレン系熱可塑性エラストマーなどのゴム状弾性体で形成することもできる。代表例として第3実施形態の粘性流体封入ダンパー23の変形例である粘性流体封入ダンパー25を図9に示す。このようにすれば、櫛歯状突起26が蓋体17に衝突した時、櫛歯状突起26が蓋体17に柔らかく衝突し、緩衝効果を発揮することができる。
【0050】
また、第1,第2,第3実施形態の粘性流体封入ダンパー14,22,23では、可撓膜19の蛇腹形状を均一の肉厚で例示したが、本変形例の粘性流体封入ダンパー27では可撓膜19の内面から内部に突出する攪拌突部28を設けることもできる。代表例として第1実施形態の粘性流体封入ダンパー14の変形例である粘性流体封入ダンパー27を図10に示す。この攪拌突部28は、柱形状の突起を多数個設けたり、複数の環状突起を可撓膜19と多重同心円状に設けたりすることができる。このようにすれば、可撓部19が変形する際に攪拌突部28によって接触面積が増え粘性流体10をより効果的に攪拌でき、振動減衰性能を高めることができる。
【0051】
第1,第2実施形態の粘性流体封入ダンパー14,22では、筒状突起20bを形成しているが、本変形例では筒状突起20bに例えば丸孔、長孔などによる貫通孔やスリ割り溝といった粘性流体10の流通孔を形成することもできる。このような流通孔があると、粘性流体10が筒状突起20bの内外間を流通し易くなり攪拌効率を高めることができる。よって粘性流体10の粘性抵抗を効率よく発揮でき、振動減衰性能を高めることができる。
【0052】
第1実施形態では筒状突起20bがメカニカルシャーシ4の大きな衝撃変位を規制する長さとしていない(つまりストッパーとして機能しない)が、その長さを第3実施形態の櫛歯状突起24aと同様に衝撃変位を規制する長さで形成するようにしてもよい。
【0053】
第2実施形態では棒状突起17aを1本とする例を説明したが2本以上、例えば第3実施形態の櫛歯状突起24aと同程度の複数本であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】第1実施形態の粘性流体封入ダンパーを取付けたディスク装置の説明図。
【図2】図1の粘性流体封入ダンパーの断面図。
【図3】図1の粘性流体封入ダンパーの容器本体の断面図。
【図4】第2実施形態の粘性流体封入ダンパーの断面図。
【図5】第3実施形態の粘性流体封入ダンパーの断面図。
【図6】図5の粘性流体封入ダンパーの容器本体の断面図。
【図7】図5の粘性流体封入ダンパーの攪拌突起の形状説明図。
【図8】図5の粘性流体封入ダンパーの攪拌突起の配置を示す中央取付部の底面図。
【図9】第3実施形態の粘性流体封入ダンパーの変形例を示す断面図。
【図10】第1実施形態の粘性流体封入ダンパーの変形例を示す断面図。
【図11】一従来例の粘性流体封入ダンパーを取付けたディスク装置の説明図。
【図12】図11の粘性流体封入ダンパーの断面図。
【符号の説明】
【0055】
1 粘性流体封入ダンパー(一従来例)
2 密閉容器
3 可撓部
4 メカニカルシャーシ
4a 取付孔
5 取付シャフト
6 蓋部
6a 孔
7 筐体
7a 取付孔
8 吊下げばね
9 ディスク装置(従来)
10 粘性流体
11 周壁部
12 攪拌筒部
13 収容凹部
14 粘性流体封入ダンパー(第1実施形態)
15 密閉容器
16 容器本体
17 蓋体
17a 棒状突起
18 周壁部
18a 係止面
19 可撓膜
20 中央取付部
20a 係止溝
20b 筒状突起(攪拌突起)
20c 端部
20d 攪拌室
21 ディスク装置
22 粘性流体封入ダンパー(第2実施形態)
23 粘性流体封入ダンパー(第3実施形態)
24 中央取付部
24a 櫛歯状突起(攪拌突起)
25 粘性流体封入ダンパー(第3実施形態の変形例)
26 櫛歯状突起(攪拌突起)
27 粘性流体封入ダンパー(第1実施形態の変形例)
28 攪拌突部
N 取付ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体と該容器本体の開口端を閉塞する蓋体とでなる密閉容器と、該密閉容器に封入する粘性流体と、を備えており、密閉容器を支持体と被支持体とに固定して、被支持体の振動を粘性流体の粘性抵抗によって減衰する粘性流体封入ダンパーにおいて、
密閉容器が扁平形状でなり、
容器本体が該容器本体の内面から蓋体に向かって突出し粘性流体を攪拌する攪拌突起を有し、該攪拌突起における蓋体側の端部が先細り形状であることを特徴とする粘性流体封入ダンパー。
【請求項2】
攪拌突起が蓋体側に開口を有する筒状突起である請求項1記載の粘性流体封入ダンパー。
【請求項3】
筒状突起の端部が、外縁より内縁が蓋体に近接する傾斜面を形成する請求項2記載の粘性流体封入ダンパー。
【請求項4】
蓋体が該蓋体の内面から筒状突起の内部へ突出し、支持体と被支持体の相対変位に伴って筒状突起の内部の粘性流体を攪拌する棒状突起を有する請求項2又は請求項3記載の粘性流体封入ダンパー。
【請求項5】
攪拌突起が櫛歯状突起である請求項1記載の粘性流体封入ダンパー。
【請求項6】
攪拌突起又は棒状突起を、減衰可能な振動変位を超える衝撃変位が加わった際に対向面に当接可能な長さで形成してある請求項1〜請求項5何れか1項記載の粘性流体封入ダンパー。
【請求項7】
容器本体が、支持体又は被支持体に固定され内面に攪拌突起を有する取付部と、該取付部を浮動支持するゴム状弾性体でなる可撓膜と、を備えており、
可撓膜が容器本体の深さに相当する凹凸差を形成した蛇腹形状である請求項1〜請求項6何れか1項記載の粘性流体封入ダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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