説明

粘接着剤組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】特殊ポリマーを使用することなく、汎用材料の組み合わせにより、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分を分散させた熱可塑性エラストマーとタイヤとの良好な接着を可能にする粘接着剤組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性エラストマー80〜99質量部とハロゲン化ゴム1〜20質量部を含む基材ポリマー100質量部およびレゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤20〜50質量部を含む粘接着剤組成物。好ましくは、レゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤は、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂であり、熱可塑性エラストマーとしてはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などが例示でき、ハロゲン化ゴムとしてはクロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンなどが例示できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘接着剤組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関する。より詳しくは、本発明は、空気入りタイヤの内面に熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーからなる空気透過防止層を接着するための粘接着剤組成物に関し、さらに該粘接着剤組成物の層を含む積層体、および該積層体を用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの空気透過防止層に熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーを用い、その熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーをタイヤの内面に接着するための粘接着剤組成物として、エポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、粘着付与樹脂および有機過酸化物架橋剤からなる粘接着剤組成物が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、樹脂フィルム層とゴム状弾性体層とを接合する接着剤組成物として、ハロゲン化ゴム、充填剤、架橋剤、樹脂または低分子量ポリマー、および有機溶媒からなる粘接着剤組成物が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−68173号公報
【特許文献2】特開2007−100003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特殊ポリマーであるエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を使用することなく、汎用材料の組み合わせにより、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーとタイヤの良好な接着を可能にする粘接着剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件第1発明は、熱可塑性エラストマー80〜99質量部とハロゲン化ゴム1〜20質量部を含む基材ポリマー100質量部およびレゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤20〜50質量部を含む粘接着剤組成物である。
熱可塑性エラストマーは、好ましくは、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)、およびスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)からなる群から選ばれた少なくとも1種である。
熱可塑性エラストマーのメルトフローレートは、好ましくは、JIS K 7210による200℃、5kgの測定で10g/10分以上である。
ハロゲン化ゴムは、好ましくは、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、および臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種である。
ハロゲン化ゴムの配合量は、好ましくは、5〜10質量部である。
レゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤は、好ましくは、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂またはその変性品である。
レゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤の配合量は、好ましくは、30〜40質量部である。
粘接着剤組成物は、好ましくは、未架橋時のキャピラリーせん断溶融粘度が温度150℃、せん断速度243s−1において2000Pa・s以下であり、ロータレスレオメータ測定での150℃、20分後のトルクが0.5dN・m以下かつ175℃、20分後のトルクが1.0dN・m以上である。
【0007】
本件第2発明は、前記の粘接着剤組成物の層と、熱可塑性樹脂の層または熱可塑性樹脂成分を連続相としエラストマー成分を分散相とする熱可塑性エラストマー組成物の層との積層体である。
粘接着剤組成物の層の厚さは、好ましくは、5〜100μmである。
【0008】
本件第3発明は、前記の積層体を空気透過防止層として用いた空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粘接着剤組成物は、熱可塑性エラストマーとハロゲン化ゴムおよびレゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤を組み合わせることにより、特殊ポリマーであるエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を使用することなく、接着性と流動性を両立させ、インフレーション成形などのフィルム押出成形が可能であり、かつ熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーとタイヤとを良好に接着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は本発明の積層体を製造するのに使用することができるインフレーション成形装置の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の粘接着剤組成物は、基材ポリマーおよびレゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤を含む。基材ポリマーは、熱可塑性エラストマーおよびハロゲン化ゴムを含む。
【0012】
基材ポリマーを構成する熱可塑性エラストマーとしては、限定するものではないが、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー、1,2−ポリブタジエン(RB)、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、トランス−1,4−ポリイソプレン、フッ素系熱可塑性エラストマーなどが挙げられるが、なかでも溶融時の流動性や樹脂架橋剤との反応性の観点から、スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−エチレン−プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)などを挙げることができ、なかでもスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)が好ましく、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)が特に好ましい。熱可塑性エラストマーは市販品を用いることができる。
【0013】
基材ポリマーを構成する熱可塑性エラストマーは、そのメルトフローレート(以下「MFR」ともいう。)が、JIS K 7210による200℃、5kgの測定で、好ましくは10g/10分以上であり、より好ましくは13〜20g/10分である。メルトフローレートが小さすぎると粘接着剤組成物の粘度が高すぎて押出性が悪化する懸念があり、大きすぎると粘接着剤組成物の粘度が低すぎて押出性が悪化する懸念がある。
【0014】
ハロゲン化ゴムとしては、限定するものではないが、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体、塩素化エチレン−プロピレン共重合体、塩素化エチレン−プロピレン−非共役ジエン三元共重合体、ポリ塩化ビニル、含塩素アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴムなどが挙げられるが、なかでもクロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体が好ましく、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンが特に好ましい。ハロゲン化ゴムは市販品を用いることができる。
【0015】
ハロゲン化ゴムは、樹脂架橋剤を活性化し、樹脂架橋剤と被接着体であるゴムとの反応および樹脂架橋剤と被接着体である熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分を連続相としエラストマー成分を分散相とする熱可塑性エラストマー組成物との反応を促進すると考えられる。
【0016】
基材ポリマーを構成する熱可塑性エラストマーとハロゲン化ゴムの配合比率は、基材ポリマー100質量部を基準として、熱可塑性エラストマーが80〜99質量部であり、ハロゲン化ゴムが1〜20質量部である。好ましくは、基材ポリマー100質量部を基準として、熱可塑性エラストマーが90〜95質量部であり、ハロゲン化ゴムが5〜10質量部である。ハロゲン化ゴムが多すぎると、樹脂架橋剤の反応が過剰に促進され、混合・押出過程で粘接着剤組成物に焼けが発生する懸念があり、逆に少なすぎると、樹脂架橋剤の反応の促進が不足し接着力が低下する懸念がある。
【0017】
本発明に用いる樹脂架橋剤は、レゾール型フェノール樹脂である。レゾール型フェノール樹脂としては、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド共縮合樹脂、クレゾール・ホルムアルデヒド共縮合樹脂、レゾルシノール・フェノール・ホルムアルデヒド共縮合樹脂、レゾルシノール・クレゾール・ホルムアルデヒド共縮合樹脂、またはそれらの変性品などが挙げられるが、なかでもアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂またはその変性品が好ましい。ここで、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂の変性品とは、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂のハロゲン化物および塩化硫黄縮合物をいう。レゾール型フェノール樹脂は市販品を用いることができる。
【0018】
粘接着剤組成物に硫黄や硫黄系加硫促進剤を配合すると、硫黄や硫黄系加硫促進剤が接着性を阻害するので、粘接着剤組成物に硫黄や硫黄系加硫促進剤を配合しないほうがよい。本発明は、硫黄または硫黄系加硫促進剤を使用せずに、レゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤を使用する。本発明は、レゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤を配合することにより、接着性と流動性を両立させ、インフレーション成形などのフィルム押出成形が可能であり、かつ熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーとタイヤを良好に接着することができる。また、レゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤を配合することにより、特殊ポリマーであるエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を使用する必要がない。
【0019】
粘接着剤組成物を構成する基材ポリマーとレゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤の配合比率は、基材ポリマー100質量部を基準として、レゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤が20〜50質量部であり、好ましくは30〜40質量部である。レゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤が多すぎると、粘接着剤組成物の混練・押出工程での焼けの問題や、樹脂成分が増えることによる粘接着剤組成物の弾性率増加や伸び低下などの物性が悪化する懸念があり、逆に少なすぎると、粘接着剤組成物の流動性の低下や粘接着剤組成物の接着性が悪化する懸念がある。
【0020】
本発明の粘接着剤組成物の未架橋時のキャピラリーせん断溶融粘度は、温度150℃、せん断速度243s−1において、好ましくは2000Pa・s以下であり、より好ましくは500〜1500Pa・s以下である。キャピラリーせん断溶融粘度が高すぎると、インフレーション成形などの押出性が悪化する懸念があり、低すぎても、押出性が悪化する懸念がある。
【0021】
本発明の粘接着剤組成物のロータレスレオメータ測定での150℃、20分後のトルクは、好ましくは0.5dN・m以下であり、より好ましくは0.1〜0.4dN・mである。150℃、20分後のトルクが大きすぎると、成形温度付近で架橋反応が生じることを示すため、押出成形に不具合が生じる懸念があり、逆に小さすぎると、キャピラリーせん断溶融粘度の場合と同様に押出性が悪化する懸念がある。
また、本発明の粘接着剤組成物のロータレスレオメータ測定での175℃、20分後のトルクは、好ましくは1.0dN・m以上であり、より好ましくは1.0〜4.0dN・mである。175℃、20分後のトルクが小さすぎると加硫温度付で架橋反応が生じないことを示すため、粘接着剤の接着性が発現しない懸念があり、逆に大きすぎると、過剰に架橋反応が生じていることを示すため、粘接着剤の物性が低下する懸念がある。
【0022】
本発明の粘接着剤組成物は、さらに酸化亜鉛を含むことが好ましい。酸化亜鉛を配合することにより、粘接着剤組成物の高温時の破断強度を改善することができる。一般に、空気入りタイヤの内面に粘接着剤組成物の層を介して熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーからなる空気透過防止層を接着した空気入りタイヤを製造するときは、加硫工程においてブラダーを使用するが、加硫直後の高温時にブラダーを収縮させて取り外す際に、空気透過防止層がブラダーにくっついたまま剥がれてきてしまうことがある。これは、粘接着剤組成物の層の高温時の破断強度が小さい場合に起こる。粘接着剤組成物に酸化亜鉛を大量に配合することにより、加硫直後の高温時の破断強度を維持することが可能になり、上記の問題を解消することができる。
【0023】
本発明の粘接着剤組成物には、前記した必須成分に加えて、補強剤(フィラー)、可塑剤、老化防止剤、着色剤、内部離型剤などの従来の粘接着剤組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0024】
本件第2発明の積層体は、前記の粘接着剤組成物の層と、熱可塑性樹脂の層または熱可塑性樹脂成分を連続相としエラストマー成分を分散相とする熱可塑性エラストマー組成物の層との積層体である。この積層体は、空気入りタイヤの空気透過防止層として好適に用いることができる。
【0025】
熱可塑性樹脂の層を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂(たとえばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)など)、ポリエステル系樹脂(たとえばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)など)、ポリニトリル系樹脂(たとえばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタアクリロニトリルなど)、ポリメタアクリレート系樹脂(たとえばポリメタアクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタアクリル酸エチルなど)、ポリビニル系樹脂(たとえば酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PDVC)、ポリ塩化ビニル(PVC)など)、セルロース系樹脂(たとえば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース)、フッ素系樹脂(たとえばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)など)、イミド系樹脂(たとえば芳香族ポリイミド(PI))などを挙げることができる。なかでも、積層体を空気入りタイヤの空気透過防止層として用いるときは、ポリアミド樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0026】
熱可塑性エラストマー組成物の層を構成する熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂成分を連続相とし、エラストマー成分を分散相とするものである。
【0027】
熱可塑性エラストマー組成物の連続相を構成する熱可塑性樹脂成分としては、熱可塑性樹脂の層を構成する熱可塑性樹脂と同一のものを挙げることができる。
【0028】
熱可塑性エラストマー組成物の分散相を構成するエラストマー成分としては、ジエン系ゴムおよびその水添物(たとえば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)など)、オレフィン系ゴム(たとえば、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、ブチルゴム(IIR)など)、アクリルゴム(ACM)、含ハロゲンゴム(たとえば、Br−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)など)、シリコーンゴム(たとえば、メチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴムなど)、含イオウゴム(たとえば、ポリスルフィドゴム)、フッ素ゴム(たとえば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム)、熱可塑性エラストマー(たとえば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、酸変性オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー)などを挙げることができる。なかでも、積層体を空気入りタイヤの空気透過防止層として用いるときは、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物、オレフィン系エラストマー、酸変性オレフィン系エラストマーが好ましい。
【0029】
熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とを、たとえば2軸混練押出機等で、溶融混練し、連続相(マトリックス相)を形成する熱可塑性樹脂中にエラストマー成分を分散相として分散させることにより、製造することができる。
【0030】
熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分の質量比率は、限定するものではないが、好ましくは10/90〜90/10であり、より好ましくは15/85〜90/10である。
【0031】
熱可塑性樹脂の層および熱可塑性エラストマー組成物の層には、本発明の効果を損なわない範囲において、各種添加剤を含むことができる。
【0032】
粘接着剤組成物の層の厚さは、好ましくは5〜100μmであり、より好ましくは10〜70μmである。厚さが薄すぎると所望の粘接着性が得られず、逆に厚すぎると質量が増加するとともに耐久性が不良になるおそれがある。
【0033】
熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物の層の厚さは、好ましくは1〜200μmであり、より好ましくは5〜150μmである。厚さが薄すぎると空気透過防止層として使用した場合のバリア性が低下する懸念があり、逆に厚すぎると質量が増加するとともに耐久性が不良になる懸念がある。
【0034】
本発明の積層体の製造方法は、限定するものではないが、粘接着剤組成物と、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物とを、共押出することによって、積層体を製造することができる。たとえば、図1に示すインフレーション成形装置を使用して、積層体を製造することができる。図1において、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物を押出機1に投入し、粘接着剤組成物を押出機2に投入し、ダイ3を通して粘接着剤組成物の層を外側とする2層のチューブ状フィルム7に押し出し、案内板4を経て、ピンチロール5によりチューブ状フィルム7を折りたたみ、巻取機6で巻き取る。
【0035】
本件第3発明の空気入りタイヤは、前記の積層体を空気透過防止層として用いた空気入りタイヤである。
【0036】
本発明の空気入りタイヤは、常法により製造することができる。たとえば、タイヤ成形用ドラム上に、前記の方法で作製した積層体を、熱可塑性樹脂の層または熱可塑性エラストマー組成物の層がタイヤ成形用ドラム側になるように置き、その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、成形後、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとし、次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加硫することにより、所望の空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0037】
(1)粘接着剤組成物の調製
表2および表3に示した配合成分をドライブレンドして2軸混練機(日本製鋼所製)に投入し、130℃で3分間混練した。混練物はストランド状に押出し、水冷した後、防着剤を通して樹脂用ペレタイザーでペレット化した。このようにして実施例1〜10および比較例1〜7の粘接着剤組成物を調製した。
【0038】
粘接着剤組成物の調製に用いた原料は次のとおりである。
SBS(1): 旭化成株式会社製スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体「タフプレン(登録商標)A」(MFR=13g/10分)
SBS(2): 旭化成株式会社製スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体「タフプレン(登録商標)126S」(MFR=20g/10分)
クロロプレンゴム: 電気化学工業株式会社製「デンカクロロプレン(登録商標)S41」
クロロスルホン化ポリエチレン: デュポンエラストマー株式会社製「ハイパロン(登録商標)45」
酸化亜鉛: 正同化学工業株式会社製 酸化亜鉛 3種
粘着付与樹脂: トーネックス株式会社製「エスコレッツ1315」
樹脂架橋剤(1): 日立化成工業株式会社製レゾール型アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂「ヒタノール(登録商標)2501」
樹脂架橋剤(2): 田岡化学工業株式会社製ノボラック型フェノール樹脂「スミカノール620」
硫黄: 細井化学工業株式会社製 油処理硫黄
硫黄系加硫促進剤: 大内新興化学工業株式会社製チウラム系加硫促進剤「ノクセラーTOT−N」(テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド)
【0039】
(2)熱可塑性エラストマー組成物の調製
実施例において使用した熱可塑性エラストマー組成物は、表1に示したとおりの配合としたものであり、その調製は、次のように行った。
ゴムおよび架橋剤を密閉型バンバリーミキサー(神戸製鋼所製)にて100℃で2分間混合してゴムコンパウンドを作製し、ゴムペレタイザー(森山製作所製)によりペレット状に加工した。一方、樹脂と可塑剤を2軸混練機(日本製鋼所製)にて250℃で3分間混練してペレット化し、得られた樹脂組成物のペレットと前記ゴムコンパウンドのペレットと変性ポリオレフィンを2軸混練機(日本製鋼所製)にて250℃で3分間混練して熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。
【0040】
熱可塑性エラストマー組成物の調製に用いた原料は次のとおりである。
Br−IPMS: エクソンモービル・ケミカル社(ExxonMobil Chemical Company)製臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合ゴム「Exxpro(登録商標)MDX89−4」
亜鉛華: 正同化学工業株式会社製 酸化亜鉛 3種
ステアリン酸: 日油株式会社製ビーズステアリン酸
ステアリン酸亜鉛: 堺化学工業株式会社製ステアリン酸亜鉛
ナイロン6/66: 宇部興産株式会社製「UBEナイロン」5033B
BBSA: 大八化学工業株式会社製N−ブチルベンゼンスルホンアミド「BM−4」
Mah−EEA: 三井・デュポンポリケミカル株式会社製変性EEA「HPR AR201」
【0041】
【表1】

【0042】
(3)積層体の作製
上記(1)で調製した粘接着剤組成物と上記(2)で調製した熱可塑性エラストマー組成物とを、図1に示すインフレーション成形装置にて粘接着剤組成物の層を外側とする2層のチューブ状に押し出し、直径390mmにブロー成形後、ピンチロールで折りたたみ、そのまま巻き取った。前記のチューブは、粘接着剤組成物の層の厚みが30μm、熱可塑性エラストマー組成物の層の厚みが100μmとなるように押し出した。
【0043】
(4)タイヤの作製
上記(3)で作製した2層の積層体を、熱可塑性エラストマー組成物の層側を内側にしてタイヤ成形用ドラム上に配置した。その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層などの通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとした。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って、加熱加硫することにより195/65R15サイズのタイヤを作製した。
【0044】
(5)粘接着剤組成物の評価
上記(1)で調製した粘接着剤組成物について、キャピラリーせん断粘度、レオメータトルク、押出成形性、およびタイヤでの接着性を評価した。評価結果を表2および表3に示す。なお、各評価項目の評価方法は次のとおりである。
【0045】
[キャピラリーせん断粘度]
株式会社東洋精機製作所製キャピラリーレオメータ「キャピログラフ1C」を使用し、せん断速度243s−1、温度150℃、保持時間5分で、直径1mm、長さ10mmのオリフィスを使用して、溶融粘度(単位:Pa・s)を測定した。
【0046】
[レオメータトルク]
株式会社オリエンテック製ロータレスレオメータ「キュラストメータV」を用い、150℃、20分後のトルク、および170℃、20分後のトルクを測定した。
【0047】
[押出成形性]
上記(3)に記載した方法で積層体を作製し、以下の基準で評価した。
良: 押出性に問題がないもの。
可: 押出は可能だが、樹脂圧が高い、若干のスコーチ粒などが発生するもの。
不可: 樹脂圧オーバーや多量のスコーチ粒が発生し押出がうまくいかないもの。
【0048】
[タイヤでの接着性]
上記(4)に記載した方法でタイヤを作製し、作製したタイヤの内面のベルト端部からビード側に10mmの部分に、幅5mm、深さ0.5mmのカットを周方向に対して斜め45度に入れた(周上6箇所)。このタイヤを内部空気圧140kPaで、直径1707mmのドラムを用い、時速80km、荷重5.5kNで5000km走行させた後、内面を観察し、以下の判定基準で空気透過防止層の剥がれを観察した。
良: クラックからの剥離の進行が1mm未満で、界面剥離ではないもの。
可: クラックからの剥離の進行が1mm以上5mm未満で、界面剥離ではないもの。
不可: クラックからの剥離の進行が5mm以上で、接着剤が界面剥離しているもの。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の粘接着剤組成物は、空気入りタイヤの製造に用いることができる。より具体的には、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分を連続相としエラストマー成分を分散相とする熱可塑性エラストマー組成物と積層させてタイヤの空気透過防止層として用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 押出機
2 押出機
3 ダイ
4 案内板
5 ピンチロール
6 巻取機
7 チューブ状フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー80〜99質量部とハロゲン化ゴム1〜20質量部を含む基材ポリマー100質量部およびレゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤20〜50質量部を含む粘接着剤組成物。
【請求項2】
熱可塑性エラストマーがスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)、およびスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の粘接着剤組成物。
【請求項3】
熱可塑性エラストマーのメルトフローレートがJIS K 7210による200℃、5kgの測定で10g/10分以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の粘接着剤組成物。
【請求項4】
ハロゲン化ゴムが、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、および臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘接着剤組成物。
【請求項5】
ハロゲン化ゴムの配合量が5〜10質量部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の粘接着剤組成物。
【請求項6】
レゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤がアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂またはその変性品であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の粘接着剤組成物。
【請求項7】
レゾール型フェノール樹脂系樹脂架橋剤の配合量が30〜40質量部であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の粘接着剤組成物。
【請求項8】
未架橋時のキャピラリーせん断溶融粘度が温度150℃、せん断速度243s−1において2000Pa・s以下であり、ロータレスレオメータ測定での150℃、20分後のトルクが0.5dN・m以下かつ175℃、20分後のトルクが1.0dN・m以上である請求項1〜7のいずれか1項に記載の粘接着剤組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の粘接着剤組成物の層と、熱可塑性樹脂の層または熱可塑性樹脂成分を連続相としエラストマー成分を分散相とする熱可塑性エラストマー組成物の層との積層体。
【請求項10】
粘接着剤組成物の層の厚さが5〜100μmであることを特徴とする請求項9に記載の積層体。
【請求項11】
請求項9または10に記載の積層体を空気透過防止層として用いた空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−12561(P2012−12561A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203131(P2010−203131)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】