説明

粘着シートによる耐震固定方法

【課題】十分な耐震性を確保しつつ、対象物の撤去又は移動を容易に行えるようにし、その際、床が損傷しないようにする。
【解決手段】対象物である装置20の支持部22の下方に粘着シート7を敷き、この支持部22に、上下方向に貫通する取外し用ねじ穴6を設け、床10から装置20を取り外す際には、取外し用ねじ穴6に取外し用ボルト23をねじ込み、この取外し用ボルト23を支持部22の下方へ突出させることにより、支持部22を床10に対し浮き上がらせて、粘着シート7を床10から剥がせるようにし、また、前記取外し用ねじ穴6の直下に位置するブロック体8を設け、取外し用ボルト23のねじ込みに伴い、取外し用ボルト23のねじ軸部の先端がブロック体8に当接しつつ回転するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、工場内に設置される製造装置や計測装置、コンピュータ等を耐震固定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、工場内に各種装置を設置する際には、図6に示すように、床10のコンクリート11にアンカーボルト30を埋め込み、装置20の下部に取り付けたブラケット31の貫穴32に、床10から上方へ突出したアンカーボルト30を挿通し、そのねじ部にナット33をねじ込み、装置20を地震等の振動に伴い移動しないように固定する。
【0003】
また、装置20の底部に設けた高さ調整機能付きの脚部21を床10に当接させて、装置20の傾きを補正すると共に、がたつきを防止する。
【0004】
ここで、装置20が薬液や水等を使用するものである場合には、床10のコンクリート11を薬液や水等の浸透による変質から保護するため、コンクリート11の上面に、防水塗料の塗布や防水シートの貼付により防水処理層12が設けられる。
【0005】
また、この方法とは別の方法として、下記特許文献1には、図7に示すように、固定具40として、板状体41の下面に粘着性及び弾性を有する粘着シート42を貼着すると共に、板状体41の上面に箱状の固定部材43を設けたものを使用し、装置20を床10に固定する耐震固定方法が記載されている。
【0006】
この固定方法では、装置20の脚部21の下方に固定具40の板状体41を敷き、脚部21を固定部材43に係合させて、粘着シート42の粘着力及び弾性変形により、地震等の振動に伴う装置20の移動を阻止すると共に、装置20に作用する衝撃を緩和する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−299561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記アンカーボルトによる方法では、装置を撤去又は移動する際、アンカーボルトを除去する必要があり、このとき、床のコンクリートや防水処理層が損傷し、その損傷部分から薬液等が床に浸透するおそれがある。
【0009】
また、上記固定具を使用する方法では、装置を撤去又は移動する際、まず、固定具の固定部材と装置の脚部との係合を解除し、板状体から装置を降ろして、固定具を床から引き剥がさなければならず、作業に手間を要するという問題がある。
【0010】
このため、固定具が装置の脚部に係合したままで、装置を持ち上げて移動させようとすると、粘着シートの粘着力が強力であれば、固定具を床から引き剥がすのに大きな力を要し、粘着力が弱ければ、耐震性が不足して、大きな地震が発生した場合、装置が固定具と共に移動してしまうおそれがある。
【0011】
そこで、この発明は、十分な耐震性を確保しつつ、対象物の撤去又は移動を容易に行えるようにし、その際、床が損傷しないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のような課題を解決するため、この発明は、耐震設置される対象物の一部としてその荷重が作用する支持部の下方に、粘着性及び弾性を有する粘着シートを敷き、対象物の荷重により粘着シートを弾性変形させつつ、床の表面及び対象物の支持部の裏面に圧接させて、地震等の振動に伴う対象物の移動を阻止すると共に、対象物に作用する衝撃を緩和する耐震固定方法において、前記対象物の支持部に、上下方向に貫通する取外し用ねじ穴を設け、床から対象物を取り外す際には、取外し用ねじ穴に取外し用ボルトをねじ込み、取外し用ボルトを支持部の下方へ突出させることにより、支持部を床に対し浮き上がらせて、粘着シートを床から剥がせるようにし、また、前記取外し用ねじ穴の直下に位置するブロック体を設け、取外し用ボルトのねじ込みに伴い、取外し用ボルトのねじ軸部の先端がブロック体に当接しつつ回転するようにしたのである。
【発明の効果】
【0013】
この耐震固定方法では、対象物を撤去又は移動する際、対象物の支持部に設けた取外し用ねじ穴に、取外し用ボルトを螺合させ、スパナ等の工具で回転させることにより、支持部が床に対し浮き上って、粘着シートが密着状態から解放されるので、粘着シートを床から容易に剥がすことができる。
【0014】
また、このとき、取外し用ボルトのねじ軸部の先端が床ではなく、粘着シートのブロック体に当接して回転するので、床が傷付くことがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施形態に係る耐震固定方法の使用部材を示す分解斜視図
【図2】同上の固定状態を示す斜視図
【図3】同上の縦断側面図
【図4】同上の取外し過程を示す斜視図
【図5】同上の縦断側面図
【図6】従来のアンカーボルトによる耐震固定方法を示す縦断側面図
【図7】従来の粘着式固定具による耐震固定方法を示す縦断側面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態を図1乃至図4に基づいて説明する。
【0017】
図1乃至図3に示すように、この耐震固定方法を使用して、工場等の床10に半導体の製造等に使用する装置20を固定する際には、装置20の下部にL字金具のブラケット1をボルト止めにより固定する。このとき、ブラケット1は、垂直部分の下端から水平部分が外側へ延びるように向ける。
【0018】
ブラケット1の水平部分の下面には、正方形の金属製の敷板2を取付ボルト3により取り付ける。取付ボルト3は、ブラケット1の水平部分に形成した貫穴4を介して、敷板2の中央寄りに形成した取付用ねじ穴5にねじ込む。
【0019】
ここで、敷板2は、ブラケット1に取り付けた状態において、外周部分がブラケット1の水平部分からはみ出すようにしておき、このはみ出した部分において、敷板2の各コーナー部には、上下方向に貫通する取外し用ねじ穴6を設けておく。このブラケット1と敷板2とにより、装置20の一部としてその荷重が作用する支持部22が形成される。
【0020】
このように支持部22を形成すると共に、敷板2の下方にウレタン系ゴム等の粘着性及び弾性を有する粘着シート7を敷く。
【0021】
また、粘着シート7の一つのコーナー部分を切り欠いておき、その切欠部において敷板2の裏面には、取外し用ねじ穴6の直下に位置するブロック体8を両面テープ等で貼り付けておく。
【0022】
ブロック体8は、粘着シート7よりやや硬質のエンジニアリングプラスチック等を材料とし、粘着シート7に装置20の荷重が作用した状態で、粘着シート7と略同一の厚さになるものとする。
【0023】
また、上記のような耐震固定作業と共に、装置20の底部に設けた高さ調整機能付きの脚部21を床10に当接させて、装置20の傾きを補正し、がたつきを防止する。なお、ブラケット1は、装置20に対し、取付高さを調整できるようにしておくとよい。
【0024】
このように装置20を設置すると、装置20の荷重により粘着シート7が弾性変形しつつ、床10の表面及び敷板2の裏面に圧接し、粘着シート7の粘着力により、地震等の振動に伴う装置20の移動が阻止され、また、粘着シート7の弾性により、装置20に作用する衝撃が緩和される。
【0025】
一方、装置20を撤去又は移動する際には、図4及び図5に示すように、装置20からブラケット1を外し、ブラケット1と敷板2とを分離して、ブロック体8の直上に位置する取外し用ねじ穴6に、取外し用ボルト23を螺合させ、スパナ等の工具で回転させる。
【0026】
これにより、取外し用ボルト23が敷板2の下方へ突出し、敷板2が床10に対し浮き上がって、粘着シート7が密着状態から解放されるので、粘着シート7を床10から容易に剥がすことができる。
【0027】
また、敷板2が浮き上がるとき、粘着シート7が敷板2に貼り付いたままで、ブロック体8のみが敷板2から剥がれるので、取外し用ボルト23の回転抵抗が著しく大きくなることもない。
【0028】
そして、このとき、取外し用ボルト23のねじ軸部の先端が床10ではなく、粘着シート7のブロック体8に当接して回転するので、床10が傷付くことがなく、床10のコンクリート11の上面に防水処理層12が設けられている場合でも、防水処理層12が保護され、床10の防水性や耐薬品性が損なわれることがない。
【0029】
なお、上記実施形態では、粘着シート7の一つのコーナー部分にのみブロック体8を設けたが、複数のコーナー部分にブロック体8を設けるようにしてもよい。
【0030】
また、敷板2は、方向性を意識することなくブラケット1に取り付けられるように、正方形とし、その四隅に取外し用ねじ穴6を設けたが、設置条件等を考慮して、敷板2を長方形等の他の形状とし、二隅や一隅にのみ取外し用ねじ穴6を設けてもよい。
【0031】
また、支持部22は、ブラケット1と敷板2とから成るものとしたが、一体の部材により対象物を支持するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 ブラケット
2 敷板
3 取付ボルト
4 貫穴
5 取付用ねじ穴
6 取外し用ねじ穴
7 粘着シート
8 ブロック体
10 床
11 コンクリート
12 防水処理層
20 装置
21 脚部
22 支持部
23 取外し用ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐震設置される対象物の一部としてその荷重が作用する支持部(22)の下方に、粘着性及び弾性を有する粘着シート(7)を敷き、対象物の荷重により粘着シート(7)を弾性変形させつつ、床(10)の表面及び対象物の支持部(22)の裏面に圧接させて、地震等の振動に伴う対象物の移動を阻止すると共に、対象物に作用する衝撃を緩和する耐震固定方法において、 前記対象物の支持部(22)に、上下方向に貫通する取外し用ねじ穴(6)を設け、床(10)から対象物を取り外す際には、取外し用ねじ穴(6)に取外し用ボルト(23)をねじ込み、この取外し用ボルト(23)を支持部(22)の下方へ突出させることにより、支持部(22)を床(10)に対し浮き上がらせて、粘着シート(7)を床(10)から剥がせるようにし、
また、前記取外し用ねじ穴(6)の直下に位置するブロック体(8)を設け、取外し用ボルト(23)のねじ込みに伴い、取外し用ボルト(23)のねじ軸部の先端がブロック体(8)に当接しつつ回転するようにしたことを特徴とする粘着シートによる耐震固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−180926(P2010−180926A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23682(P2009−23682)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(591222083)株式会社枚方技研 (8)
【Fターム(参考)】