説明

粘着体、粘着シートおよびその用途

【課題】低粘度で塗工性が良く、無溶剤化が可能であり、かつ被着体への密着性が良好であるとともに再剥離性に優れ、剥離帯電量が抑制され、かつ高速剥離性にも優れる粘着体の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるシリル基含有重合体(S)を含む硬化性組成物を、硬化剤として水を用いて硬化させて得られる剥離粘着力が1N/25mm以下であることを特徴とする粘着体。


式(1)中、Rは一分子中にt個の水酸基を有する化合物から全部の水酸基を除いたt価の残基、Rは2価の有機基、Rは炭素数1〜20の1価の有機基、Xは水酸基又は加水分解性基、Yは2価の基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着体、粘着シートおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤は、被着体と接着して剥がれ難いことが要求される。一方粘着剤は、テープ等の形状に成形され、貼り合わせた直後から良好な接着性を発現させることが求められている。また同時に粘着剤には、糊残りが無いように剥離できる再剥離性が要求される。接着剤が永久接着を要求されることに対して、粘着剤では一時的な接着性と再剥離性とがそろって要求される。したがって接着剤と粘着剤とは、似てはいるが根本的に要求特性が異なる。
【0003】
従来の粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、オキシアルキレン系粘着剤が知られている。特に最近は、強い粘着力を有する強粘着型粘着剤から、微小な粘着力を有する微粘着型粘着剤まで広範囲の用途にアクリル系粘着剤が使用される傾向がある。しかし、アクリル系粘着剤は、アクリルモノマーが粘着剤中に残存する場合に、臭気や皮膚刺激性が問題となる。またアクリル系粘着剤は、被着体に貼付した後、経時変化によって、粘着力が上昇したり移行性が高くなる傾向がある。このため被着体に糊残りが生じ易く、再剥離性が不充分になりやすいという問題がある。
ゴム系粘着剤は、取り扱い性や粘着性能の調整のため低分子量可塑剤の添加が不可欠である。そのため長期間経過すると、低分子量可塑剤が表面に移行して、著しい性能低下を起こす問題がある。
シリコーン系粘着剤は、耐熱性に優れる。しかし高価であり、特殊な用途にしか展開されていない。
ウレタン系粘着剤は、経時変化が少なく安定性に優れるという特性を有する(特許文献1参照。)。しかし製造工程が長い傾向にあり、アクリル系粘着剤と比較すると高価になりがちである。また製造工程が長いため、品質のばらつきが発生しやすく、工程管理が煩雑になりやすいという問題があった。
オキシアルキレン系粘着剤は、有機溶剤を使用せずに塗布可能という特性を有する(特許文献2、3参照。)。しかし粘着付与樹脂のブリードが発生することがあり、長期の粘着力の安定性という点で問題があった。
【0004】
近年、電気部品、電子材料などを製造する際、保護シートや保護テープが多用されている。これらの部品や材料を、保管、搬送などの工程において、傷やほこりから守るためである。特に電子部品、光学部材の製造においては、微小な塵が製造途中の製品に付着することを徹底的に排除する必要がある。塵は汚染の原因となり、製品不良を発生させるからである。この保護シートや保護テープとしては、低い粘着力を有する粘着剤の層が設けられた粘着性シートや粘着性テープが採用される。これらの粘着性シートや粘着性テープには、粘着剤層を保護するためセパレータが用いられる。このセパレータに起因する汚染も近年問題となっている(特許文献4参照。)。すなわちセパレータに含まれるシリコーンが電子部品の汚染の原因となっている。このためシリコーン系剥離剤を使用しないセパレータを有する粘着性シートが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−12751号公報
【特許文献2】国際公開第2005/73333号
【特許文献3】国際公開第2005/73334号
【特許文献4】特開平06−297645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アクリル系などの従来の粘着剤においては、粘着力が経時的に上昇しやすいという問題があった。特に粘着力が低い粘着剤を製造しようとした場合、初期の粘着力が低くくなるように粘着剤の組成を調整しても、貼着時間が長時間になれば粘着力が上昇するという問題があった。粘着力が上昇すると被着体が変形したり、破損する可能性が生じる。また逆に一定時間後に粘着力が低くなるよう粘着剤の組成を調整すると、そもそも初期に充分な粘着力が得られないという問題があった。充分な粘着力が得られないと被着体から意図せずに剥離してしまい、保護シートなどの所定の役割を果たせない。また粘着剤層の厚さを薄くして、粘着力の上昇を抑制することもある。しかしこの場合、被着体への軽い圧力での接着という、粘着剤が有する本来の機能が損なわれやすかった。
【0007】
特許文献1に記載のウレタン系粘着剤の原料である樹脂を製造する際に、原料のわずかな反応性の差を利用して所定の構造を有する高分子を得ている。しかし反応性の差による構造の制御は、精密な反応条件の制御が必要である。結果としてこの樹脂の製造においては、分子量の制御が難しく、所望の性能の粘着剤を得ることが困難であった。特に高分子量体の生成と、それに伴うゲル化の進行の制御が困難であった。分子量は、分子の凝集力と関係し、粘着性、再剥離特性に影響がある。またゲル化が極度に進行すると、得られる組成物が高粘度化しやすい。組成物が高粘度であると、粘着剤の成形加工の際に、所定厚さを均一に有する粘着体層を得ることが困難な場合や、得られた粘着体の表面が平滑でなくなる場合があり、製造上の問題であった。溶剤を利用して見かけの粘度を低下させても、厚い粘着体が得にくい、発泡が生じやすい、長い乾燥時間が必要になるなどの問題が発生する。
【0008】
また保護シートや保護テープは、部品の一時的固定や保護の役割が終了した時点で、剥離除去される。しかし保護シートが貼着されていた部材から剥離される際に、保護シートと部品との間に静電気(いわゆる剥離帯電)が発生する。この静電気が電子部品の回路に悪影響を与えたり、静電気によって塵やゴミが部材表面に付着しやすくなるという問題がある。また、液晶ディスプレイ(LCD)の表面保護フィルムも、使用時には剥離除去される。保護フィルムが液晶ディスプレイから剥離される時に、剥離帯電が生じる場合がある。この剥離帯電により、液晶配列が乱され、画像が乱れるという障害を生じる場合がある。
【0009】
このように、貼着後に剥離される粘着性シートにおいては、剥離帯電に起因する静電気の発生の抑制や、発生した静電気の速やかな除電が要求される。これは被着体の表面帯電が、異物や塵埃の被着体への付着の原因となるため、または、被着体の機能低下の原因となるためである。
【0010】
また一般的に粘着性シートを剥離するために必要な引っ張り力(剥離強度)は、引っ張り速度(剥離速度)が速いほど大きくなる傾向がある。例えばディスプレイ、偏光板、電子基板、ICチップ等の電子部品等の表面保護シートは、高速でスムーズに剥離できることが好ましい。低速度で剥離する場合の剥離強度に対して、高速で剥離する場合の剥離強度が大きくならないことが要求される。すなわち保護シートは、剥離強度の速度依存性が低く、高速剥離特性が優れることが要求される。
【0011】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものである。すなわち、低粘度で塗工性が良く、無溶剤化が可能であり、被着体への密着性が良好であり、粘着力が低く再剥離性に優れ、かつ濡れ性も良好である粘着体を提供することを目的とする。
また本発明は、剥離帯電量が抑制され、高速剥離特性に優れ、かつシリコーンなどの汚染を発生させない粘着体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために本発明は以下の要旨を有する。
<1> 下記一般式(1)で表されるシリル基含有重合体(S)を含む硬化性組成物を、硬化剤として水を用いて硬化させて得られる剥離粘着力が1N/25mm以下であることを特徴とする粘着体。
【0013】
【化1】

【0014】
[式(1)中、Rは一分子中にt個の水酸基を有する化合物から全部の水酸基を除いたt価の残基を示し、Rは2価の有機基を示し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を示し、Xは水酸基又は加水分解性基を示し、Yは下記一般式(A)で表される2価の基または下記一般式(B)で表される2価の基を示し、aは1〜3の整数を示し、rは1〜1000の整数を示し、tは1〜8の整数を示す。tが2〜8である場合、Rに結合するt個の1価基は互いに同一でも異なってもよい。aが2または3である場合、1個のケイ素原子に結合している2個または3個のXは互いに同一でも異なってもよい。aが1の場合、1個のケイ素原子に結合している2個のRは互いに同一でも異なってもよい。rが2以上の場合、互いに結合している複数のYは互いに同一でも異なってもよい。]
【0015】
【化2】

【0016】
[式(A)中、Rは炭素数2〜8のアルキレン基を示す。式(B)中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。]
【0017】
<2>前記硬化性組成物中の前記シリル基含有重合体(S)の100質量部に対して、前記水が0.01〜5質量部である、<1>に記載の粘着体。
【0018】
<3> 前記硬化性組成物がさらに下記一般式(3)で表される他のシリル基含有重合体(S4)を含む<1>または<2>に記載の粘着体。
【0019】
【化3】

【0020】
[式(3)中、R21は一分子中にm個の水酸基を有する化合物から全部の水酸基を除いたm価の残基を示し、R22は2価の有機基を示し、R23は炭素数1〜20の1価の有機基を示し、X’は水酸基又は加水分解性基を示し、Y’は炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、a’は1〜3の整数を示し、kは1〜10000の整数を示し、mは1〜8の整数を示す。mが2〜8である場合、R21に結合するm個の1価基は互いに同一でも異なってもよい。a’が2または3である場合、1個のケイ素原子に結合している2個または3個のX’は互いに同一でも異なってもよい。aが1の場合、1個のケイ素原子に結合している2個のR23は互いに同一でも異なってもよい。kが2以上の場合、互いに結合している複数のY’は互いに同一でも異なってもよい。]
【0021】
<4>前記硬化性組成物中の前記シリル基含有重合体(S)と前記シリル基含有重合体(S4)の合計量の100質量部に対して、前記水が0.01〜5質量部である、請求項3に記載の粘着体。
【0022】
<5> 基材層と少なくとも1層の粘着体層とを有する粘着シートであって、該粘着体が<1>〜<4>のいずれか一項に記載の粘着体であることを特徴とする粘着シート。
<6> 基材層と少なくとも1層の粘着体層とを有する光学部材保護用粘着シートであって、該粘着体が<1>〜<4>のいずれか一項に記載の粘着体であることを特徴とする光学部材保護用粘着シート。
<7> <6>に記載の光学部材保護用粘着シートが貼着されてなる光学部材。
<8> 前記光学部材が光拡散板またはプリズムシートである<7>に記載の光学部材。
<9> 基材層と少なくとも1層の粘着体層とを有するバックグラインドテープであって、該粘着体が<1>〜<4>のいずれか一項に記載の粘着体であることを特徴とするバックグラインドテープ。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかる硬化性組成物は、加水分解性シリル基を鎖延長機構に用いたものである。本発明によれば、低粘度で塗工性が良く、無溶剤化が可能であり、粘着力が低い一方で被着体への密着性が良好であり、再剥離性に優れ、かつ濡れ性も良好である粘着体が得られる。
また本発明によれば、剥離帯電量が抑制され、高速剥離性に優れ、かつシリコーンなどの汚染を発生させない粘着体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書における分子量分布とは、質量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で割った値をいう。本明細書における数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、分子量既知の標準ポリスチレン試料を用いて作成した検量線を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定することによって得られるポリスチレン換算分子量である。
本明細書における平均水酸基価(OHV)は、JIS−K−1557−6.4に基づいた測定値である。
また本明細書において、粘着性(adherence property)とは、軽い圧力で被着材に接着し、かつ、任意に再剥離可能な性質である。また粘着剤(pressure sensitive adhesive)とは、粘着性を有し、軽い圧力で被着材に接着する物質である。ただし再剥離性を有し、一時的な接着に用いる。接着剤は永久接着性能を有する点で、粘着剤とは異なる。また粘着体(adherence substance)とは、粘着性を有する成形体である。また粘着性シート(単に、粘着シートともいう。)(pressure sensitive adhesive sheet)とは、粘着性を有するシートである。ただし本明細書においては厚さは問わず、シートとフィルムとは区別しない。通常は、少なくとも基材層と粘着体層とを構成要素として有する積層体である。また粘着性テープ(単に、粘着テープともいう。)(pressure sensitive adhesive tape)とは、テープ形状の粘着性シートである。
またポリオールまたはモノオールを合わせて、ポリ(モノ)オールと表記することもある。
【0025】
本明細書において、剥離粘着力(被着体からの剥離強度)により、粘着剤を分類することがある。剥離粘着力が0N/25mmを超え1N/25mm以下の場合を微粘着、剥離粘着力が1N/25mmを超え8N/25mm以下の場合を低粘着、剥離粘着力が8N/25mmを超え15N/25mm以下の場合を中粘着、剥離粘着力が15N/25mmを超え50N/25mm以下の場合を強粘着という。なお特に断りがない場合には、剥離粘着力はJIS−Z−0237(1999)−8.3.1に規定される180度引きはがし法に準拠し、以下の試験方法に従う。23℃の環境で、厚さ1.5mmのブライトアニール処理したステンレス鋼板(SUS304(JIS))に、測定する粘着シート試験片(幅:25mm)を貼着し、質量が2kgのゴムロールで圧着した。30分後、JIS−B−7721に規定する引張り試験機を用い、剥離強度(180度ピール、引張り速度300mm/分)を測定した。
【0026】
<シリル基含有重合体(S)>
本発明の粘着体は、上式(1)で表されるシリル基含有重合体(S)を含む硬化性組成物を硬化させて得られる。
本明細書において、シリル基含有重合体(S)のうち、rが2以上であって、r個のYが上式(A)で表される2価の基(以下、2価基(A)ということもある。)および上式(B)で表される2価の基(以下、2価基(B)ということもある。)からなるものをポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)(以下、ポリエステルエーテル系重合体(S1)ということもある。)という。
シリル基含有重合体(S)のうち、Yが2価基(B)のみであるものをポリエーテル系シリル基含有重合体(S2)(以下、ポリエーテル系重合体(S2)ということもある。)といい、Yが2価基(A)のみであるものをポリエステル系シリル基含有重合体(S3)(以下、ポリエステル系重合体(S3)ということもある。)という。
本発明にかかる硬化性組成物に含まれる重合体(S)は、ポリエステルエーテル系重合体(S1)、ポリエーテル系重合体(S2)、およびポリエステル系重合体(S3)のうちのいずれか1種でもよく、2種以上を併用してもよい。少なくともポリエステルエーテル系重合体(S1)を含むことが好ましい。
【0027】
<ポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)>
上式(1)におけるRは、一分子中にt個の水酸基を有するモノヒドロキシ化合物またはポリヒドロキシ化合物から全部の水酸基を除いたt価の残基である。
は、重合体(S1)を製造するのに用いた開始剤(z)に由来する残基である。該開始剤(z)は1〜8個の水酸基を有するモノヒドロキシ化合物またはポリヒドロキシ化合物である。開始剤(z)については後述する。
は、炭素数1〜20のt価の炭化水素基が好ましく、炭素数1〜10のt価の炭化水素基であることがより好ましい。
式(1)におけるt、すなわち開始剤(z)の水酸基数が8個を超えると、水酸基1個あたりの分子量が同等の場合には、ポリエステルエーテル系重合体(S1)の中間生成物であるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)(以下、ポリ(モノ)オール(p1)ということもある。)の粘度が高くなりやすい。またポリ(モノ)オール(p1)の分子量分布が広くなりやすい。このため、該ポリ(モノ)オール(p1)を用いて得られるポリエステルエーテル系重合体(S1)の柔軟性が損なわれ、粘着性能が低下する。ポリエステルエーテル系重合体(S1)の製造に用いられる開始剤(z)として2種以上の化合物を用いる場合、その1分子当たりの平均水酸基数、すなわちポリエステルエーテル系重合体(S1)におけるtの平均値は、1〜8個であることが好ましく、1〜5個がより好ましく、さらに1〜3個であることがより好ましい。該平均水酸基数が上記の範囲内であると粘度が低いため製造しやすく、また良好な硬化速度と柔軟性が付与できる。
【0028】
上式(1)において、Rは2価の有機基を示す。Rは炭素数1〜17の2価の炭化水素基であることが好ましい。この場合、原料を安価で入手できるため、製造コストを削減できる。
が、メチレン基(−CH−)またはトリメチレン基(−CHCHCH−)であることがより好ましい。この場合、ポリエステルエーテル系重合体(S1)の硬化速度と貯蔵安定性のバランスがよいという利点がある。
また、上式(1)における−R−SiX(3−a)が、
−CH−SiX(3−a)、または
−CH−CH−CH−SiX(3−a)
であることが好ましい。この場合、ポリエステルエーテル系重合体(S1)の硬化速度をより高めることができる。
ポリエステルエーテル系重合体(S1)が分子内にRを複数有する場合、該Rは互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、tが2〜8の整数である場合、Rはそれぞれ独立に2価の有機基を示す。
【0029】
上式(1)において、Rは炭素数1〜20の1価の有機基であり、炭素数1〜6の1価の有機基が好ましい。具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
は置換基を有していてもよい。該置換基の例としてはメチル基、フェニル基等が挙げられる。
ポリエステルエーテル系重合体(S1)が分子内にRを複数有する場合、該複数のRは互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、aが1である場合、1個のケイ素原子(Si)に結合している2個のRはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の1価の有機基を示す。
【0030】
式(1)において、Xは水酸基(−OH)又は加水分解性基を示す。該加水分解性基としては、例えば−OR基(Rは炭素数4以下の炭化水素基)が挙げられる。かかる−OR基としては、炭素数4以下のアルコキシ基又はアルケニルオキシ基であることが好ましい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基又はプロペニルオキシ基等が挙げられる。これらの中でもメトキシ基またはエトキシ基がより好ましい。この場合、ポリエステルエーテル系重合体(S1)の硬化速度をより高めることができる。
ポリエステルエーテル系重合体(S1)において、分子中にXが複数個存在する場合、該複数のXは互いに同一でも異なってもよい。すなわち、式(1)においてaが2または3である場合および/またはtが2〜8の整数である場合、Xはそれぞれ独立に、水酸基又は加水分解性基を示す。
また式(1)において、aは1〜3の整数を示す。tが2〜8の整数である場合、t個のaはそれぞれ独立に1〜3の整数を示す。aは好ましくは2〜3であり、3が最も好ましい。
上式(1)において、−SiX(3−a)としては、トリメトキシシリル基またはトリエトキシシリル基が好ましく、トリメトキシシリル基が特に好ましい。シリル基含有重合体(S)の貯蔵安定性が良好であり、かつ、硬化性組成物の硬化速度が速く粘着体の製造に好適であるためである。
本発明において、ウレタン結合と上記シリル基が分子内で近接することで、粘着体の低い粘着力が得られ、かつ、粘着力の安定性が得られていると推定される。
【0031】
上式(1)において、Yは2価基(A)又は2価基(B)を示す。
具体的には、開始剤(z)としてオキシアルキレン基を有さないポリ(モノ)オールからなる第1の開始剤(z1)を用いた場合は、2価基(A)は、中間生成物であるポリ(モノ)オール(p1)の製造に用いた環状エステル化合物(a)に由来する基であり、2価基(B)は該ポリ(モノ)オール(p1)の製造に用いたアルキレンオキシド(b)に由来する基である。開始剤(z)としてオキシアルキレン基を有するポリオキシアルキレンポリ(モノ)オールからなる第2の開始剤(z2)を用いた場合は、上式(1)におけるYは、該開始剤(z2)に由来する2価基(B)も含む。環状エステル化合物(a)、アルキレンオキシド(b)、第1の開始剤(z1)、および第2の開始剤(z2)については後述する。
重合体(S)が分子内にYを複数有する場合、該複数のYは互いに同一でも異なってもよい。すなわち、rが2〜1000の整数である場合および/またはtが2〜8の整数である場合、Yはそれぞれ独立に2価基(A)又は2価基(B)である。
上式(1)において、rは1〜1000の整数を示す。このrは10〜500の整数であることが好ましく、20〜200の整数であることがより好ましい。なお、tが2〜8である場合、rはそれぞれ独立に、1〜1000の整数を示す。
【0032】
上式(A)において、Rは炭素数2〜8のアルキレン基を示す。融点が高くなり過ぎないようにするために、Rは炭素数2〜5のアルキレン基であることが好ましく、その中でも直鎖状の飽和炭化水素鎖であることがより好ましい。重合体(S)が分子内に2価基(A)を複数有する場合、該複数の2価基(A)におけるRは互いに同一でも異なってもよい。Rはn−ペンチレン基であることがもっとも好ましい。
【0033】
上式(B)において、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。重合体(S)の粘度の観点から、Rはエチレン基及び/又はプロピレン基であることが好ましく、プロピレン基のみであることがより好ましい。重合体(S)が分子内に2価基(B)を複数有する場合、該複数の2価基(B)におけるRは互いに同一でも異なってもよい。
【0034】
ポリエステルエーテル系重合体(S1)において、−(Y−)で表されるポリエステルエーテル鎖を構成する2価基(A)と2価基(B)の共重合鎖は、ランダム共重合鎖でもよく、ブロック共重合鎖でもよく、一分子中にランダム共重合鎖とブロック共重合鎖の両方が存在していてもよい。またtが2以上であり、分子中にポリエステルエーテル鎖が複数存在する場合、該複数のポリエステルエーテル鎖における2価基(A)と2価基(B)の並び方は、同じであってもよく、異なってもよい。該2価基(A)と2価基(B)の共重合鎖は、ランダム共重合鎖を有することが好ましく、一分子中にランダム共重合鎖とブロック共重合鎖の両方が存在していることがより好ましい。
ポリエステルエーテル系重合体(S1)において、2価基(A)と2価基(B)の質量比(A):(B)は5:95〜95:5であることが好ましい。より好ましい範囲は30:70〜70:30である。特に好ましい範囲は30:70〜60:40である。該(A):(B)が上記の範囲内であると粘度が低くかつ基材への接着性が良好になる。
すなわち2価基(A)の導入により基材への接着性を良好にできる。また2価基(B)の導入により、硬化性組成物の粘度を低くできる。また2価基(B)を導入することで柔軟性に優れた粘着体が得られる。このため被着体から粘着体を剥離する際に、いわゆるジッピングが発生しにくくなると推定される。またさらに2価基(B)を導入することで粘着体の表面抵抗を低くでき、剥離帯電を抑制できると推定される。
【0035】
<ポリエステルエーテル系重合体(S1)の製造方法>
ポリエステルエーテル系重合体(S1)は、分子中に1〜8個の水酸基を有する化合物からなる開始剤(z)と、炭素数3〜9の環状エステル化合物(a)および炭素数2〜4のアルキレンオキシド(b)とを重合触媒存在下で反応させてポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)を得る第1のステップと、該ポリ(モノ)オール(p1)と、シリルイソシアネート化合物(i)とをウレタン化触媒存在下で反応させてポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)を得る第2のステップとを備える方法により製造できる。
【0036】
[第1のステップ]
<開始剤(z)>
第1のステップで用いる開始剤(z)は、分子中に1〜8個の水酸基を有する化合物である。開始剤(z)は、分子中に1〜8個の水酸基を有し、かつ分子中にオキシアルキレン基を有さない第1の開始剤(z1)でもよく、該第1の開始剤(z1)にアルキレンオキシドを反応させて得られるポリオキシアルキレンポリ(モノ)オールからなる第2の開始剤(z2)でもよい。
開始剤(z)として第1の開始剤(z1)を用いた場合も、第2の開始剤(z2)を用いた場合も、上式(1)におけるRは、第1の開始剤(z1)の全部の水酸基を除いた残基に相当する。
開始剤(z)として第1の開始剤(z1)を用いる場合、式(1)における−(Y)−O−は、該第1の開始剤(z1)と重合した環状エステル化合物(a)およびアルキレンオキシド(b)に由来する。開始剤(z)として第2の開始剤(z2)を用いる場合、式(1)における−(Y)−O−は、該第2の開始剤(z2)を製造する際に第1の開始剤(z1)と重合したアルキレンオキシド、ならびに該第2の開始剤(z2)と重合した環状エステル化合物(a)およびアルキレンオキシド(b)に由来する。
開始剤(z)の水酸基数(t)は、該開始剤(z)を用いて得られる、上式(1)のポリエステルエーテル系重合体(S1)におけるtと一致する。第2の開始剤(z2)の水酸基数(t)は、その製造に用いた第1の開始剤(z1)の水酸基数(t)と一致する。
【0037】
第1の開始剤(z1)の具体例としてはメタノール、エタノール、2−プロパノール、ノルマルブタノール、iso−ブタノール、2−エチルヘキサノール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデカノール、セチルアルコール、ステアリルアルコール又はオレイルアルコール等の1価アルコール;水;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール又は1,4−シクロヘキサンジオール等の2価アルコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール又はトリペンタエリスリトール等の多価アルコール類;グルコース、ソルビトール、デキストロース、フラクトース、蔗糖又はメチルグルコシド等の糖類又はその誘導体;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ノボラック、レゾール又はレゾルシン等のフェノール化合物等が挙げられる。
【0038】
第2の開始剤(z2)の平均水酸基価は20mgKOH/g〜280mgKOH/gであることが好ましい。数平均分子量(Mn)は、400〜5000であることが好ましく、700〜2000であることがより好ましい。該Mnが上記範囲の下限値以上であると良好な物性が得られ、上限値以下であると低粘度化が可能である。
第2の開始剤(z2)の分子量分布(Mw/Mn)は、3.0以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましい。第2の開始剤(z2)の分子量分布が上記の範囲内であり、ポリ(モノ)オール(p1)中において、第2の開始剤(z2)から誘導される部分の含有率を50質量%以上とすれば、ポリ(モノ)オール(p1)の分子量分布(Mw/Mn)を1.4以下とすることができる。ポリ(モノ)オール(p1)の分子量分布を小さくできると、ポリ(モノ)オール(p1)の粘度を低くすることができる。したがって、ポリエステルエーテル系重合体(S1)の粘度を低くできる。
【0039】
第2の開始剤(z2)は、製造しやすさの点から下記一般式(4)で表されるポリオキシアルキレンポリ(モノ)オール(z21)が好ましい。
【0040】
【化4】

【0041】
上式(4)中、R10は炭素数1〜20のt価の炭化水素基を示し、R11は炭素数2〜4のアルキレン基を示す。tは1〜8の整数を示し、sは1〜250の整数を示す。
分子内にR11が複数存在する場合、該複数のR11は互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、sが2〜250の整数である場合及び/又はtが2〜8の整数である場合、R11はそれぞれ独立に、炭素数2〜4のアルキレン基を示す。tが2〜8である場合、R10に結合するt個の1価基は互いに同一でも異なってもよい。すなわちtが2〜8である場合、sはそれぞれ独立に、1〜250の整数を示す。
【0042】
10の炭素数が20以下であると、融点が低く製造が容易である。該R10は炭素数1〜10のt価の炭化水素基であることが好ましい。
sが250以下の整数であると、低粘度で取り扱いが容易である。該sは5〜100の整数であることが好ましい。
上式(4)において、R10は、該ポリオキシアルキレンポリ(モノ)オール(z21)の製造に用いた第1の開始剤(z1)に由来する残基である。すなわち第1の開始剤(z1)から全部の水酸基を除いた残基である。式(4)におけるtは、用いた第1の開始剤(z1)における水酸基数(t)と一致する。ポリオキシアルキレンポリ(モノ)オール(z21)の水酸基数(t)は、該ポリオキシアルキレンポリ(モノ)オール(z21)を開始剤(z)として用いて得られる、上式(1)のポリエステルエーテル系重合体(S1)におけるtと一致する。
【0043】
<ポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S11)>
開始剤(z)として、上式(4)で表されるポリオキシアルキレンポリ(モノ)オール(z21)を用いると、第2のステップを経て下記一般式(2)で表されるポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(以下、ポリエステルエーテル系重合体(S11)ということもある。)が得られる。
【0044】
【化5】

【0045】
[式(2)中、R10は炭素数1〜20のt価の炭化水素基を示し、R11は前記ポリオキシアルキレンポリ(モノ)オール(z2)に由来する、炭素数2〜4のアルキレン基を示し、Rは2価の有機基を示し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を示し、Xは水酸基又は加水分解性基を示し、Y10は、環状エステル化合物(a)に由来する、上記一般式(A)で表される2価の基、またはアルキレンオキシド(b)に由来する、上記一般式(B)で表される2価の基を示し、aは1〜3の整数を示し、r’は1以上の整数を示し、sは1〜250の整数を示し、r’とsの合計が2〜1000の整数であり、tは1〜8の整数を示す。
tが2〜8である場合、R10に結合するt個の1価基は互いに同一でも異なってもよい。aが2または3である場合、1個のケイ素原子に結合している2個または3個のXは互いに同一でも異なってもよい。aが1の場合、1個のケイ素原子に結合している2個のRは互いに同一でも異なってもよい。r’が2以上の場合、互いに結合している複数のY10は互いに同一でも異なってもよい。sが2以上の場合、互いに結合している−OR11−は互いに同一でも異なってもよい。]
【0046】
式(2)中、R、R、X、a、及びtは上式(1)中のR、R、X、a、及びtと、好ましい態様も含めて同じである。R10、R11およびsは、上式(4)におけるR10、R11およびsと好ましい態様も含めて同じである。
10は、後述する環状エステル化合物(a)に由来する2価基(A)または後述するアルキレンオキシド(b)に由来する2価基(B)である。
式(2)中、r’は1以上の整数であり、r’とsの合計(r’+s)が2〜1000の整数、好ましくは5〜200の整数、より好ましくは10〜100の整数である。
かかるポリエステルエーテル系重合体(S11)は、特に低粘度であるため、取扱性に優れるという利点がある。
【0047】
開始剤(z)は1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組合せて用いてもよい。水酸基数(t)が異なる開始剤を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
<環状エステル化合物(a)>
第1のステップで用いる環状エステル化合物(a)は、炭素数が3〜9のものである。
好ましい例としては、β−プロピオラクトン(炭素数3)、δ−バレロラクトン(炭素数5)、ε−カプロラクトン(炭素数6)が挙げられる。これらのうちでもε−カプロラクトンがより好ましい。環状エステル化合物(a)がε−カプロラクトンであるとき、これが重合時に開環すると、Rがn−ペンチレン基である2価基(A)が形成される。
環状エステル化合物(a)はモノマーであっても、ダイマーであっても、トリマーであってもよい。反応性の点からはモノマーであることが好ましい。環状エステル化合物(a)は1種類のみを用いても、2種類以上を組合せて用いてもよい。
【0049】
<アルキレンオキシド(b)>
第1のステップで用いるアルキレンオキシド(b)は、炭素数が2〜4のものである。
具体例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1、2−ブチレンオキシド、2、3−ブチレンオキシド、オキセタン等が挙げられる。
アルキレンオキシド(b)は1種類のみを用いても、2種類以上を組合せて用いてもよい。
上記の例のうちで、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
アルキレンオキシド(b)がエチレンオキシドであるとき、これが重合時に開環すると、Rがエチレン基である2価基(B)が形成される。またアルキレンオキシド(b)がプロピレンオキシドであるとき、これが重合時に開環すると、Rがプロピレン基である2価基(B)が形成される。
【0050】
<重合触媒>
第1のステップにおいて、開始剤(z)と、環状エステル化合物(a)と、アルキレンオキシド(b)とを共重合させる際には、重合触媒を用いる。該重合触媒は特に限定されないが、具体的には(1)複合金属シアン化物錯体触媒、(2)ホスファゼニウムカチオンの水酸化物塩に代表されるP=N結合を有する化合物触媒、等が挙げられる。複合金属シアン化物錯体触媒を用いることがより好ましい。
第1のステップにおいて、中性の複合金属シアン化物錯体触媒を用いることにより、環状エステル化合物(a)の加水分解を抑制できるため、高収率でポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)が得られる。
また、複合金属シアン化物錯体触媒は活性が高いため、第1のステップにおいて複合金属シアン化物錯体触媒を用いると、該第1のステップで得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)は分子量が大きくなりやすい。分子量の大きいポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)を用いて得られるポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)は硬化性に優れ、硬化性組成物の硬化体は伸度等の機械物性に優れるという利点がある。
また、第1のステップにおいて、複合金属シアン化物錯体触媒を用いた場合、共重合反応の速度を速めることができ、かつ分子量分布が狭い高分子量のポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)が得られる。分子量分布が狭い高分子量のポリ(モノ)オール(p1)を用いて得られるポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)は、粘度が低いため、取扱い等の作業性に優れるという利点がある。
【0051】
[(1)複合金属シアン化物錯体触媒]
複合金属シアン化物錯体触媒としては、高い重合活性を有することから亜鉛ヘキサシアノコバルテートを主成分とする錯体が好ましい。複合金属シアン化物錯体触媒は、有機配位子を有することが好ましい。有機配位子がエーテル、又はアルコール等であると高活性となることからより好ましい。
【0052】
上記有機配位子としてのエーテルは、重合反応時に錯体を取り扱いやすいことから、エチレングリコールジメチルエーテル(グライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)及びトリエチレングリコールジメチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これらのうちでも、重合反応時における錯体の取り扱い性の点からグライムがより好ましい。
【0053】
上記有機配位子としてのアルコールは、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、iso−ペンチルアルコール、N,N−ジメチルアセトアミド及びエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種とtert−ブチルアルコールとの混合物、またはtert−ブチルアルコールを用いることが好ましい。この場合、重合触媒がより高活性となることから、重合触媒の使用量を減らすことができ、その結果ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)中における触媒の残存量が低減される。
特にtert−ブチルアルコールを用いると、環状エステル化合物(a)と、アルキレンオキシド(b)との共重合反応の速度を速めることができ、かつ分子量分布が狭いポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)が得られる。
【0054】
複合金属シアン化物錯体触媒の使用量は、得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の全質量に対して1〜500ppmであることが好ましい。さらに製品の貯蔵安定性が優れ、かつ経済的にも有利であることから1〜100ppmがより好ましい。
【0055】
なお、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)中に残存する複合金属シアン化物錯体触媒の量が多い場合は、第1のステップ終了後に、得られたポリ(モノ)オール(p1)から複合金属シアン化物錯体触媒を除去する操作を行ってもよい。複合金属シアン化物錯体触媒を除去せずにそのまま第2のステップを行ってもよい。
【0056】
一方、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)中に残存する複合金属シアン化物錯体触媒の量が少なく、かつ、その後に悪影響を及ぼさない場合は、複合金属シアン化物錯体触媒を除去する工程を行わずに次の工程へ進むことができる。この場合、複合金属シアン化物錯体触媒をより少なくすることにより、工程数を減らすことができることから、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の生産効率を高めることができる。
このような複合金属シアン化錯体触媒は、公知の製造方法で製造できる。
【0057】
[(2)P=N結合を有する化合物触媒]
P=N結合を有する化合物触媒としては、(2−1)ホスファゼニウム化合物、(2−2)ホスファゼン化合物又は(2−3)ホスフィンオキシド化合物等が挙げられる。
上記(2−1)ホスファゼニウム化合物としては、例えば特開平11−106500号公報に記載された化合物が挙げられる。具体的には、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウムヒドロキシド、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウムメトキシド、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウムエトキシド、又はテトラキス[トリ(ピロリジン−1−イル)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウム−tert−ブトキシド等が挙げられる。
【0058】
上記(2−2)ホスファゼン化合物としては、例えば特開平10−36499号公報に記載された化合物が挙げられる。具体的には1−tert−ブチル−2,2,2−トリス(ジメチルアミノ)ホスファゼン、1−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−2,2,2−トリス(ジメチルアミノ)ホスファゼン、1−エチル−2,2,4,4,4−ペンタキス(ジメチルアミノ)−2λ,4λ−カテナジ(ホスファゼン)、1−tert−ブチル−4,4,4−トリス(ジメチルアミノ)−2,2−ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]−2λ,4λ−カテナジ(ホスファゼン)、1−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−4,4,4−トリス(ジメチルアミノ)−2,2−ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]−2λ,4λ−カテナジ(ホスファゼン)、1−tert−ブチル−2,2,2−トリ(1−ピロリジニル)ホスファゼン又は7−エチル−5,11−ジメチル−1,5,7,11−テトラアザ−6λ−ホスファスピロ[5,5]ウンデカ−1(6)−エン等が挙げられる。
【0059】
上記(2−3)ホスフィンオキシド化合物としては、例えば特開平11−302371号公報に記載された化合物が挙げられる。具体的には、トリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシド又はトリス[トリス(ジエチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシド等が挙げられる。
これらの中でも入手の容易さの観点から、(2−1)ホスファゼニウム化合物、または(2−3)ホスフィンオキシド化合物を用いることが好ましい。
【0060】
重合触媒として上記P=N結合を有する化合物触媒を用いる場合の使用量は、開始剤(z)中の活性水素原子1モル当量、すなわち水酸基1モル当量に対し、P=N結合を有する化合物触媒が1×10−4〜5×10−1モル当量であることが好ましく、1×10−4〜2×10−1モル当量であることがより好ましい。
開始剤(z)の活性水素原子に対して、P=N結合を有する化合物触媒の使用量が1×10−4モル当量以上であると、環状エステル化合物(a)とアルキレンオキシド(b)との共重合反応の速度を良好に速めることができ、5×10−1モル当量以下であると製造コストを抑制するうえで好ましい。
【0061】
なお、第1のステップにおいて、重合触媒として(2)P=N結合を有する化合物触媒を用いる場合は、該触媒がポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)中に残存すると、該ポリ(モノ)オール(p1)が着色する傾向があるため、ポリ(モノ)オール(p1)を製造した後は、触媒成分を除去することが好ましい。
【0062】
<ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の製造>
第1のステップでは、開始剤(z)と、環状エステル化合物(a)およびアルキレンオキシド(b)とを重合触媒存在下で反応させてポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)を得る。
第1のステップにおいて、使用する環状エステル化合物(a)及びアルキレンオキシド(b)の種類および使用量は、硬化性組成物を硬化させて得られる粘着体の粘着特性に応じて適宜設定される。2価基(A)に由来するエステル鎖を多くすると基材との接着性が向上する。また2価基(B)に由来するエーテル鎖を多くすると柔軟性に富む粘着体が得られる。
【0063】
水酸基数(t)が異なる2種以上の開始剤(z)を用いる場合、該2種以上の開始剤(z)を混合した後、環状エステル化合物(a)およびアルキレンオキシド(b)を反応させてもよく、それぞれの開始剤(z)に環状エステル化合物(a)およびアルキレンオキシド(b)を反応させてポリ(モノ)オール(p1)を得た後に混合してもよい。
1個の水酸基を有する開始剤(z)を用いて得たモノオール(p1)を、2個以上の水酸基を有する開始剤(z)を用いて得たポリオール(p1)と混合することが、物性調整、粘度調整の点で好ましい。
【0064】
開始剤(z)として第1の開始剤(z1)を用いた場合、ポリエステルエーテル系重合体(S1)における2価基(A)と2価基(B)の共重合鎖は、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)における、環状エステル化合物(a)とアルキレンオキシド(b)の共重合鎖に由来する。
また開始剤として第2の開始剤(z2)を用いた場合には、上式(2)における−(OR11−)からなるブロック鎖、および該ブロック鎖に結合する環状エステル化合物(a)とアルキレンオキシド(b)の共重合鎖が、ポリエステルエーテル系重合体(S1)における2価基(A)と2価基(B)の共重合鎖となる。
【0065】
開始剤(z)および重合触媒の存在下、反応容器内にアルキレンオキシド(b)の1種以上と、環状エステル化合物(a)の1種以上とを同時に添加して重合を行うことにより、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)のランダム共重合体を得ることができる(ランダム共重合)。
また、アルキレンオキシド(b)の1種以上と、環状エステル化合物(a)の1種以上とを順次添加することにより、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)のブロック共重合体を得ることができる(ブロック共重合)。
さらには、環状エステル化合物(a)およびアルキレンオキシド(b)の添加順序及び添加量などを調節することより、分子内の一部に環状エステル化合物(a)に由来するポリエステル鎖部分および/またはポリオキシアルキレン鎖部分を導入して、ランダム共重合部位とブロック共重合部位が同一分子中に存在するポリエステルエーテルポリ(モノ)オールを得ることができる(ランダム・ブロック共重合体)。
例えば、環状エステル化合物(a)の1種以上を予め所定量重合させた環状エステル重合体と、アルキレンオキシドの1種以上を予め所定量重合させたアルキレンオキシド重合体を同時に添加することより、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の分子中にブロック共重合鎖を導入できる。
【0066】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)がランダム共重合鎖を有する場合、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)中における、環状エステル化合物(a)とアルキレンオキシド(b)とのランダム共重合鎖の含有率は、10〜95質量%であることが好ましく、20〜90質量%であることがより好ましい。
ランダム共重合鎖の含有率は、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オールにおいて、環状エステル化合物(a)とアルキレンオキシド(b)とを同時に添加して得られたランダム共重合鎖の割合である。製造されたポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの全質量に対して、同時に添加された環状エステル化合物(a)とアルキレンオキシド(b)との合計量から計算される。
ランダム共重合鎖の含有率が10質量%以上であると、ポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)の充分な硬化性が得られ易く、95質量%以下であると、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の粘度が低く抑えられ、取扱い性が良い。
【0067】
第1のステップで得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)中において、環状エステル化合物(a)に由来する上式(A)で表される2価基(A)の含有率は5〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましい。該2価基(A)の含有率が5質量%以上であるとポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)の充分な硬化性が得られ易く、硬化物の濡れ性が良好となり易い。50質量%以下であるとポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の粘度が低くなり易い。
該2価基(A)の含有率を5〜50質量%とするには、重合反応に用いる開始剤(z)、環状エステル化合物(a)、およびアルキレンオキシド(b)との合計質量に占める環状エステル化合物(a)の割合を5〜50質量%とすることが好ましい。
【0068】
第1のステップで得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)中において、上式(B)で表される2価基(B)の含有率は、50〜95質量%であることが好ましく、60〜95質量%であることがより好ましい。
開始剤(z)として第1の開始剤(z1)を用いる場合、該2価基(B)の含有率を50〜95質量%とするには、重合反応に用いる環状エステル化合物(a)、およびアルキレンオキシド(b)との合計質量に占めるアルキレンオキシド(b)の割合を5〜95質量%とすることが好ましい。該含有率が50質量%以上であるとポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の粘度が低くなり易く、95質量%以下であるとポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)の充分な硬化性が得られやすい。
また開始剤(z)として第2の開始剤(z2)を用いる場合、該2価基(B)の含有率を50〜95質量%とするには、重合反応に用いる開始剤(z)、環状エステル化合物(a)、およびアルキレンオキシド(b)との合計質量に占める、第2の開始剤(z2)に含まれるオキシアルキレン基と、アルキレンオキシド(b)との合計質量の割合が50〜95質量%とすることが好ましい。
【0069】
また第1のステップで得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)中に存在する、アルキレンオキシド(b)に由来する2価基(B)と、環状エステル化合物(a)に由来する2価基(A)との質量比が、前記ポリエステルエーテル系重合体(S1)における(A):(B)のモル比の範囲内となるように調整することが好ましい。
【0070】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の製造条件、すなわち、撹拌効率、環状エステル化合物(a)とアルキレンオキシド(b)の供給速度、反応温度、溶媒の有無に関しても特に限定はなく、得ようとするポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の物性や生産効率に応じて定めることができる。
第1のステップにおいて、環状エステル化合物(a)及びアルキレンオキシド(b)の反応容器内への添加は、液層部からの添加であってもよく、気層部からの添加であってもよい。
【0071】
第1のステップにより、得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)は、平均水酸基価(OHV)が10〜230mgKOH/gであることが好ましく、20〜120mgKOH/gがより好ましく、30〜60mgKOH/gであることがさらに好ましい。
該平均水酸基価が10mgKOH/g以上であると粘度が低く取り扱いが容易であり、230mgKOH/g以下であると柔軟性と強度を与えることができる。
【0072】
第1のステップにより、得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)は、数平均分子量が500〜10000であることが好ましく、1000〜5000であることがより好ましく、1000〜3000であることが更に好ましい。
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の数平均分子量が500以上であると、環状エステルのユニット数を充分確保できるため、ポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)の充分な硬化性が得られやすく、硬化体の表面における充分なべたつきが得られ易い。該ポリ(モノ)オール(p1)の数平均分子量が10000以下であると、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の粘度が充分に低くなり易い。
【0073】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の分子量分布(Mw/Mn)は、2.0以下が好ましく、1.02〜1.4がより好ましく、1.02〜1.35が更に好ましい。分子量分布が2.0以下であると、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の粘度が充分に低くなり易い。ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の分子量分布が1.02以上であると、重合反応に要する時間が短くなり易く、生産効率向上の点で好ましい。
【0074】
[第2のステップ]
第2のステップにおいては、第1のステップで得られたポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)から、ポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)を合成する。かかるポリエステルエーテル系重合体(S1)は、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)と、シリルイソシアネート化合物(i)とをウレタン化触媒存在下反応させることにより得られる。
【0075】
[シリルイソシアネート化合物(i)]
シリルイソシアネート化合物(i)は、下記一般式(5)で表される。
【0076】
【化6】

【0077】
式中のR、R、およびaは上式(1)におけるR、R、およびaと好ましい態様も含めて同義である。またXとしては上式(1)におけるXのうち加水分解性基を示す。上式(1)における−R−SiX(3−a)は、上式(5)で表されるシリルイソシアネート化合物(i)における−R−SiX(3−a)に由来する。
【0078】
シリルイソシアネート化合物(i)としては、α−イソシアネートメチルトリメトキシシラン、β−イソシアネートエチルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートブチルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートペンチルトリメトキシシラン、α−イソシアネートメチルトリエトキシシラン、β−イソシアネートエチルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートブチルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートペンチルトリエトキシシラン、α−イソシアネートメチルメチルジメトキシシシラン、α−イソシアネートエチルエチルジメトキシシラン、α−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン又はα−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネートシラン系化合物が挙げられる。
これらの中でも、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン又はγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0079】
(ウレタン化触媒)
本発明において、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)とシリルイソシアネート化合物(i)とを反応させる際にはウレタン化触媒を用いる。ウレタン化触媒としては、公知のウレタン化反応触媒が用いられる。具体的には、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)等のスズ触媒やビスマス触媒が挙げられる。また、複合金属シアン化物錯体触媒等も使用できる。該複合金属シアン化物錯体触媒は、第1のステップにおいて説明した複合金属シアン化物錯体触媒と同義である。
【0080】
複合金属シアン化物錯体触媒を用いる場合は、第1のステップで使用する重合触媒と同一の複合金属シアン化物錯体触媒を用いることができる。すなわちポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)と、シリルイソシアネート化合物(i)とを第1のステップで用いた複合金属シアン化物錯体存在下で反応させ、ポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)を得ることができる。
この場合、第1のステップで使用する複合金属シアン化物錯体触媒の量や活性度を調整し、第1のステップ終了時に複合金属シアン化物錯体触媒の活性を残存させ、そのまま、第2のステップを行うことが好ましい。この方法によれば、第2のステップにおいて新たなウレタン化触媒を添加することなく反応を進行させることができる。また、第1のステップと、第2のステップとを続けて行うことができるため、作業性も向上し、得られるポリエステルエーテル系重合体(S1)の収率も向上する。
【0081】
第2のステップに用いるウレタン化触媒の使用量は、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)と、シリルイソシアネート化合物(i)とのウレタン化反応に必要な量であればよく、特に限定されない。この反応により得られるポリエステルエーテル系重合体(S1)の全質量(仕上がり質量)に対して、100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下がより好ましい。ウレタン化触媒の使用量が、100ppm以下であると、ポリエステルエーテル系重合体(S1)におけるウレタン化触媒の残存量が少なく、良好な貯蔵安定性が得られやすい。
【0082】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)と、シリルイソシアネート化合物(i)とのウレタン化反応は、ウレタン化触媒の使用量によって反応温度及び反応が完結するのに要する時間が異なるが、一般に20〜200℃、好ましくは50〜150℃の温度で数時間反応を行うことが好ましい。また、この反応は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中で行うのが好ましい。この場合、副反応が抑制できるため、得られるシリル基含有重合体の収率を向上させることができる。
【0083】
第2のステップにおいて、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)と、シリルイソシアネート化合物(i)との配合比は、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の水酸基(OH)の数に対する、シリルイソシアネート化合物(i)のイソシアネート基(NCO)の数、すなわちNCO/OHで表されるモル比が1.1以下であることが好ましく、1.0以下がより好ましく、0.97以下がさらに好ましい。
該NCO/OH(モル比)が上記の範囲であると、ウレタン化反応後にポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の水酸基が残存しやすくなる。すなわち、上式(1)で表されるポリエステルエーテル系重合体(S1)の他に、上式(1)におけるR−[−(Y−)r−]の一部にOH基が結合している水酸基残存重合体(S1−OH)が生成されやすい。このような分子内にOH基を有している水酸基残存重合体(S1−OH)が存在することが、本発明の効果に寄与していると考えられる。
該NCO/OH(モル比)の下限値は、貯蔵安定性の点で0.3が好ましく、0.5がより好ましく、0.8がさらに好ましい。
【0084】
このようにしてウレタン化反応を行って得られる反応生成物は、主にポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)を含む他に、実質的にポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の水酸基が未反応で残存している水酸基残存重合体(S1−OH)も含んでいる。
かかるポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)を含む硬化性組成物は、粘度が低く、塗工性が良い。したがって溶剤を用いなくても良好な塗工性が得られるため粘着体を成形する際に硬化性組成物の無溶剤化を実現できる。また該組成物は硬化性に優れるため、水分と接触すると、迅速かつ強固に硬化(湿気硬化)して硬化体が得られる。該湿気硬化には反応性ケイ素基(−SiX(3−a))が寄与する。また、基材上に塗布して硬化させると、基材との良好な接着性が得られる。硬化後の硬化体は、良好な柔軟性を有し、表面の濡れ性が良く、かつ低い粘着性を有する。したがって粘着体層として好適であり、被着体への濡れ性および密着性が良好であるとともに、良好な再剥離性が得られる。
【0085】
特に、第1のステップにおいて、ポリオキシアルキレンポリ(モノ)オール(z21)を用いて得られるポリエステルエーテル系重合体(S11)は、より低粘度であり、取り扱い性に優れる。
【0086】
また、第2のステップにおいて、上式(5)で表されるシリルイソシアネート化合物(i)を用いることにより、少ない工程数でポリエステルエーテル系重合体(S1)を簡便に製造できる。比較としては、例えばシリル基を有さないポリイソシアネート化合物をポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)と、イソシアネート基過剰の条件で反応させる。その後ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(p1)の末端に残存するイソシアネート基をシリル化する方法が例示できる。
第2のステップを採用することにより、工程時間を大幅に短縮でき、製造工程途中で副生する不純物も低減できる。したがって、得られるポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)を貯蔵安定性が優れるものとすることができる。また精製等の煩雑な操作も不要とすることができる。
【0087】
<ポリエーテル系シリル基含有重合体(S2)>
ポリエーテル系重合体(S2)は、上式(1)におけるYが2価基(B)のみからなるほかは、ポリエステルエーテル系重合体(S1)と同様である。
【0088】
<ポリエーテル系シリル基含有重合体(S2)の製造方法>
ポリエーテル系シリル基含有重合体(S2)は、R−[−(Y)−OH](Yは上式(B)で表される2価の基である。)で表されるポリエーテルポリ(モノ)オール(p2)(以下、ポリ(モノ)オール(p2)ということもある。)を製造する第1のステップと、該ポリ(モノ)オール(p2)と、シリルイソシアネート化合物(i)とをウレタン化触媒存在下で反応させる第2のステップを経て製造できる。
【0089】
[第1のステップ]
ポリエーテルポリ(モノ)オール(p2)は、公知の方法で製造できる。例えば、
[1]分子中に1〜8個の水酸基を有する化合物からなる開始剤(z)と、炭素数2〜4のアルキレンオキシド(b)とを重合触媒存在下で反応させる方法で製造できる。
開始剤(z)およびアルキレンオキシド(b)は、前記ポリエステルエーテル系重合体(S1)の製造方法における開始剤(z)およびアルキレンオキシド(b)とそれぞれと同じである。第1の開始剤(z1)を用いてもよく、第2の開始剤(z2)を用いてもよい。
開始剤(z)とアルキレンオキシド(b)を反応させてポリ(モノ)オール(p2)を得る方法は、公知の方法を用いることができる。重合触媒も公知のものを適宜用いることができる。重合触媒としては、アルカリ金属水酸化物等のアルカリ触媒でもよく、前記複合金属シアン化物錯体触媒でもよい。複合金属シアン化物錯体触媒がより好ましい。
【0090】
または、[2]ポリ(モノ)オール(p2)としては、ポリオキシテトラメチレングリコール等も例示できる。ポリオキシテトラメチレングリコールはTHFの開環重合によって製造できる。ポリ(モノ)オール(p2)は市販品からも入手可能である。
ポリエーテルポリ(モノ)オール(p2)の数平均分子量は500〜15000が好ましく、700〜5000がより好ましい。該数平均分子量が上記範囲の下限値以上であると良好な物性が得られ、上限値以下であると低粘度化が可能である。
ポリ(モノ)オール(p2)の分子量分布(Mw/Mn)は、3以下が好ましく、2.8〜1.5がより好ましく、2.5〜1.8が更に好ましい。分子量分布が3以下であると、ポリ(モノ)オール(p2)の粘度が充分に低くなり易い。ポリ(モノ)オール(p2)の分子量分布が1.5以上であると、重合反応に要する時間が短くなり易く、生産効率向上の点で好ましい。
ポリエーテルポリ(モノ)オール(p2)の平均水酸基価は15〜230mgKOH/gが好ましく、20〜170mgKOH/gがより好ましい。該平均水酸基価が15mgKOH/g以上であると良好な物性が得られ、230mgKOH/g以下であると低粘度化が可能である。
【0091】
[第2のステップ]
第2のステップは、前記ポリエステルエーテル系重合体(S1)の製造方法における第2のステップと同様である。
第2のステップにおいて、ポリエーテルポリ(モノ)オール(p2)と、シリルイソシアネート化合物(i)との配合比は、前記ポリエステルエーテル系重合体(S1)の製造方法におけるNCO/OH(モル比)と同じである。
【0092】
前記ポリエステルエーテル系重合体(S1)の場合と同様に、第2のステップのウレタン化反応により得られる反応生成物は、主にポリエーテル系シリル基含有重合体(S2)を含む他に、実質的にポリエーテルポリ(モノ)オール(p2)の水酸基が未反応で残存している水酸基残存重合体(S2−OH)も含んでいる。
かかるポリエーテル系シリル基含有重合体(S2)を含む硬化性組成物も、粘度が低く、常温で迅速かつ強固に湿気硬化し、基材との良好な接着性が得られる。したがって粘着体を得るための硬化性組成物として好適である。また硬化後の硬化体は、良好な柔軟性を有し、表面の濡れ性が良く、かつ低い粘着性を有する。したがって粘着体層として好適であり、被着体への濡れ性および密着性が良好であるとともに、良好な再剥離性が得られる。
【0093】
<ポリエステル系シリル基含有重合体(S3)>
ポリエステル系重合体(S3)は、上式(1)におけるYが2価基(A)のみからなるほかは、ポリエステルエーテル系重合体(S1)と同様である。
【0094】
<ポリエステル系シリル基含有重合体(S3)の製造方法>
ポリエステル系シリル基含有重合体(S3)は、R−[−(Y)−OH](Yは上式(A)で表される2価の基である。)で表されるポリエステルポリ(モノ)オール(p3)(以下、ポリ(モノ)オール(p3)ということもある。)を製造する第1のステップと、該ポリ(モノ)オール(p3)と、シリルイソシアネート化合物(i)とをウレタン化触媒存在下で反応させる第2のステップを経て製造できる。
【0095】
[第1のステップ]
ポリエステルポリ(モノ)オール(p3)は、公知の方法で製造できる。市販品からも容易に入手できる。
ポリエステルポリ(モノ)オール(p3)の数平均分子量は500〜15000が好ましく、700〜5000がより好ましい。該数平均分子量が500以上であると良好な物性が得られ、15000以下であると低粘度化が可能である。
ポリ(モノ)オール(p3)の分子量分布(Mw/Mn)は、3以下が好ましく、
2.8〜1.5がより好ましく、2.5〜1.8が更に好ましい。分子量分布が2以下であると、ポリ(モノ)オール(p3)の粘度が充分に低くなり易い。ポリ(モノ)オール(p3)の分子量分布が1.5以上であると、重合反応に要する時間が短くなり易く、生産効率向上の点で好ましい。
ポリエーテルポリ(モノ)オール(p3)の平均水酸基価は15〜230mgKOH/gが好ましく、20〜170mgKOH/gがより好ましい。該平均水酸基価が15mgKOH/g以上であると良好な物性が得られ、230mgKOH/g以下であると低粘度化が可能である。
【0096】
第2のステップは、前記ポリエステルエーテル系重合体(S1)の製造方法における第2のステップと同様である。
第2のステップにおいて、ポリエステルポリ(モノ)オール(p3)と、シリルイソシアネート化合物(i)との配合比は、前記ポリエステルエーテル系重合体(S1)の製造方法におけるNCO/OH(モル比)と同じである。
【0097】
前記ポリエステルエーテル系重合体(S1)の場合と同様に、第2のステップのウレタン化反応により得られる反応生成物は、主に、ポリエステル系シリル基含有重合体(S3)を含む他に、実質的にポリエステルポリ(モノ)オール(p3)の水酸基が未反応で残存している水酸基残存重合体(S3−OH)も含んでいる。
かかるポリエステル系シリル基含有重合体(S3)を含む硬化性組成物も、粘度が低く、常温で迅速かつ強固に湿気硬化し、基材との良好な接着性が得られる。したがって粘着体を得るための硬化性組成物として好適である。また硬化後の硬化体は、良好な柔軟性を有し、表面の濡れ性が良く、かつ低い粘着性を有する。したがって粘着剤層として好適であり、被着体への濡れ性および密着性が良好であるとともに、良好な再剥離性が得られる。
【0098】
本発明にかかる硬化性組成物に含まれるシリル基含有重合体(S)は、ポリエステルエーテル系重合体(S1)、ポリエーテル系重合体(S2)、およびポリエステル系重合体(S3)のいずれか1種でもよく、2種を組み合わせてもよく、3種を含んでもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合、ポリエステルエーテル系重合体(S1)、ポリエーテル系重合体(S2)、およびポリエステル系重合体(S3)のそれぞれを製造した後に、混合してもよく、中間生成物であるポリ(モノ)オール(p1)、(p2)、および/または(p3)を混合した後、該混合物をシリルイソシアネート化合物(i)と反応させてもよい。
またポリエステルエーテル系重合体(S1)、ポリエーテル系重合体(S2)、およびポリエステル系重合体(S3)のそれぞれにおいて、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリエステルエーテル系重合体(S1)、ポリエーテル系重合体(S2)、およびポリエステル系重合体(S3)から選ばれる2種を混合して用いる場合、混合割合は質量比で95:5〜5:95の範囲が好ましい。
【0099】
<他のシリル基含有重合体(S4)>
本発明にかかる硬化性組成物は、任意成分として下記一般式(3)で表されるシリル基含有重合体(S4)(以下、他の重合体(S4)ということもある。)を含有してもよい。
【0100】
【化7】

【0101】
式(3)中、R21は分子中にm個の水酸基を有する化合物から全部の水酸基を除いたm価の残基を示し、R22は2価の有機基を示し、R23は炭素数1〜20の1価の有機基を示し、X’は水酸基又は加水分解性基を示し、Y’は炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、a’は1〜3の整数を示し、kは1〜10000の整数を示し、mは1〜8の整数を示す。
mが2〜8である場合、R21に結合するm個の1価基は互いに同一でも異なってもよい。
a’が2または3である場合、1個のケイ素原子に結合している2個または3個のX’は互いに同一でも異なってもよい。aが1の場合、1個のケイ素原子に結合している2個のR23は互いに同一でも異なってもよい。kが2以上の場合、互いに結合している複数のY’は互いに同一でも異なってもよい。
【0102】
上式(3)において、R21は上式(1)におけるRと、R22はRと、R23はRと、X’はXと、Y’はYと、a’はaと、mはtと、それぞれ好ましい態様も含めて同様である。
式(3)において、kは1〜10000の整数を示す。このkは1〜1000の整数であることが好ましく、10〜1000の整数であることがより好ましい。なお、mが2〜8である場合、kはそれぞれ独立に、1〜10000の整数を示す。
かかる他の重合体(S4)は、公知の製造方法で製造できる。市販品からも入手できる。
【0103】
本発明にかかる硬化性組成物において、重合体(S)に加えて他の重合体(S4)を配合することにより硬化性組成物の濡れ性が向上する。
他の重合体(S4)の配合量は、その添加効果を充分に得るためには、シリル基含有重合体(S)の100質量部(水酸基残存重合体を含む)に対して5質量部以上が好ましい。上限は、塗工粘度の点から70質量部以下が好ましい。該他の重合体(S4)の配合量のより好ましい範囲は10〜70質量部である。
本発明にかかる硬化性組成物においては、ウレタン結合とシリル基とは、実質的に等量存在するか、シリル基がウレタン結合より多く含まれる。これはウレタン結合はシリルイソシアネート化合物(i)に由来し、シリル基はシリルイソシアネート化合物(i)および他の重合体(S4)に由来するからである。実質的に等量とは、硬化性組成物を製造する際に用いるシリルイソシアネート化合物(i)が高純度品であるという前提が含まれることを意味する。工業的に入手可能なシリルイソシアネート化合物(i)は、水分などの影響によりシリル基どうしの縮合、イソシアネート基の変性(加水分解変性、イソシアヌレート縮合変性などの変性)が若干生じている。本発明においてウレタン結合とシリル基との割合は(ウレタン結合/シリル基)のモル比で、1/1〜1/2が好ましく、1/1〜2/3がより好ましい。この割合であれば、硬化性組成物を硬化させて得られる粘着体において、低い粘着力が得られ、かつ、粘着力の安定性に優れる。
【0104】
<添加剤>
本発明にかかる硬化性組成物には、添加剤を含有させることができる。なお硬化性組成物においては、可塑剤を用いないことが好ましい。特にフタル酸ジオクチル等のエステル系可塑剤は、用いないことが好ましい。エステル系可塑剤を用いると、硬化体と基材との接着力が低下し、糊残り(adhesive deposit)が発生する場合があるからである。
[硬化剤]
本発明にかかる硬化性組成物は水と接触することにより硬化する。したがって大気中の水と反応して湿気硬化する。また、硬化させる直前に、硬化剤として水(HO)を添加してもよい。この場合の水の添加量は、重合体(S)および他の重合体(S4)の合計量(水酸基残存重合体を含む)100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましく、0.01〜1質量部がより好ましく、0.05〜0.5質量部が特に好ましい。硬化剤の添加量を0.01質量部以上とすることにより硬化を有効に促進でき、硬化剤の添加量を5質量部以下とすることにより使用時の可使時間を確保できる。
【0105】
[硬化触媒]
硬化性組成物に、重合体(S)および他の重合体(S4)の反応性ケイ素基の加水分解及び/又は架橋反応を促進するための硬化触媒(硬化促進剤)を含有させることが好ましい。
【0106】
かかる硬化触媒は反応性ケイ素基の反応を促進する成分として公知のものを適宜使用できる。具体例としては、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、(n−CSn(OCOCH=CHCOOCH、(n−CSn(OCOCH=CHCOO(n−C))、(n−C17Sn(OCOCH=CHCOOCH、(n−C17Sn(OCOCH=CHCOO(n−C))、(n−C17Sn(OCOCH=CHCOO(iso−C17))等の有機スズカルボン酸塩;(n−CSn(SCHCOO)、(n−C17Sn(SCHCOO)、(n−C17Sn(SCHCHCOO)、(n−C17Sn(SCHCOOCHCHOCOCHS)、(n−CSn(SCHCOO(iso−C17))、(n−C17)2Sn(SCHCOO(iso−C17))、(n−C17Sn(SCHCOO(n−C17))、(n−CSnS等の含硫黄有機スズ化合物;(n−CSnO、(n−C17SnO等の有機スズオキシド;エチルシリケート、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジオクチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル及びフタル酸ジオクチルからなる群より選ばれるエステル化合物と、上記有機スズオキシドとの反応生成物;(n−CSn(acac)、(n−C17Sn(acac)、(n−CSn(OC17)(acac)、(n−CSn(OC(CH)CHCO、(n−C17Sn(OC(CH)CHCO、(n−CSn(OC17)(OC(CH)CHCO)、ビスアセチルアセトナートスズ等のキレートスズ化合物(ただし、上記acacはアセチルアセトナト配位子を意味し、OC(CH)CHCOはエチルアセトアセテート配位子を意味する。);テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン及びテトラプロポキシシランからなる群より選ばれるアルコキシシランと、上記キレートスズ化合物との反応生成物;(n−C(CHCOO)SnOSn(OCOCH
)(n−C、(n−C(CHO)SnOSn(OCH)(n−C等の−SnOSn−結合含有有機スズ化合物等のスズ化合物が挙げられる。
【0107】
また、硬化触媒の更なる具体例としては、2−エチルヘキサン酸スズ、n−オクチル酸スズ、ナフテン酸スズ又はステアリン酸スズ等の2価スズカルボン酸塩類;オクチル酸、オレイン酸、ナフテン酸又はステアリン酸等の有機カルボン酸の錫以外の金属塩類;カルボン酸カルシウム、カルボン酸ジルコニウム、カルボン酸鉄、カルボン酸バナジウム、ビスマストリス−2−エチルヘキサノエート等のカルボン酸ビスマス、カルボン酸鉛、カルボン酸チタニウム、又はカルボン酸ニッケル等;テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラ(2−エチルへキシルチタネート)等のチタンアルコキシド類;アルミニウムイソプロピレート、モノ−sec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウムアルコキシド類;ジルコニウム−n−プロピレート、ジルコニウム−n−ブチレート等のジルコニウムアルコキシド類;チタンテトラアセチルアセトナート、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート等のチタンキレート類;アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート類;ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムビスアセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート等のジルコニウム化合物類;リン酸、p−トルエンスルホン酸又はフタル酸等の酸性化合物類;ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン等の脂肪族モノアミン類;エチレンジアミン、ヘキサンジアミン等の脂肪族ジアミン類;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族ポリアミン類;ピペリジン、ピペラジン、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7等の複素環式アミン類;メタフェニレンジアミン等の芳香族アミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン又はトリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;トリエチルアミン等のトリアルキルアミン類;上記アミン類と肪族モノカルボン酸(蟻酸、酢酸、オクチル酸、2−エチルヘキサン酸など)、脂肪族ポリカルボン酸(蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸など)、芳香族モノカルボン酸(安息香酸、トルイル酸、エチル安息香酸など)、芳香族ポリカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ニトロフタル酸、トリメリット酸など)、フェノール化合物(フェノール、レゾルシン等)、スルホン酸化合物(アルキルベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など)、リン酸化合物等の有機酸、及び塩酸、臭素酸、硫酸等の無機酸等の酸からなる第1級〜第3級のアンモニウム−酸塩類;トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、ヘキシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、オクチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、デシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、オクチルジメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、デシルジメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルジメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、ジヘキシルジメチルアンムニウムヒドロキシド、ジオクチルジメチルアンモニウムヒドロキシド、ジデシルジメチルアンモニウムヒドロキシド、ジドデシルジメチルアンモニウムヒドロキシド等のアンモニウム水酸基塩類;エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる各種変性アミン等のアミン化合物類等が挙げられる。
【0108】
これらの硬化触媒は1種類のみを用いても、2種類以上を組合せて用いてもよい。2種類以上を組合せる場合は、たとえば、上記2価スズカルボン酸塩、有機スズカルボン酸塩又は有機スズオキシドと、エステル化合物との反応物等の上記金属含有化合物に、脂肪族モノアミン又はその他の上記アミン化合物を組合せることが、優れた硬化性が得られることから好ましい。
【0109】
硬化触媒を添加する場合、その添加量は、重合体(S)および他の重合体(S4)の合計量(水酸基残存重合体を含む)100質量部に対して0.001〜10質量部であることが好ましく、0.01〜5質量部がより好ましい。硬化触媒の添加量を0.001質量部以上とすることにより硬化速度を有効に促進でき、硬化触媒の添加量を10質量部以下とすることにより使用時の可使時間を確保できる。
【0110】
[溶剤]
本発明にかかる硬化性組成物は、低粘度であり無溶剤での塗工が可能であるが、溶剤を含有させてもよい。
溶剤は特に限定されないが、例えば、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、エステルアルコール類、ケトンアルコール類、エーテルアルコール類、ケトンエーテル類、ケトンエステル類又はエステルエーテル類が挙げられる。
【0111】
これらの中でも、溶剤としてアルコール類を用いると、硬化性組成物の保存安定性を向上させることができるため好ましい。このアルコール類としては、炭素数1〜10のアルキルアルコールであることが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソペンチルアルコール又はヘキシルアルコールであることがより好ましく、メタノール又はエタノールであることが更に好ましい。特にメタノールを用いた場合に、添加量を増やすと、硬化性組成物の硬化時間を長くすることができる。これは硬化性組成物を調製後の所定粘度まで達する時間、所謂ポットライフを長くするために有効な手法である。
【0112】
硬化性組成物に溶剤を添加する場合、その添加量は、重合体(S)および他の重合体(S4)の合計量(水酸基残存重合体を含む)100質量部に対して、500質量部以下であることが好ましく、1〜100質量部であることがより好ましい。添加量が500質量部を超えると、溶剤の揮発に伴って硬化物の収縮が生じる場合がある。
【0113】
[脱水剤]
本発明にかかる硬化性組成物は、貯蔵安定性を改良するために、本発明の効果を損なわない範囲で少量の脱水剤を含有させてもよい。
【0114】
かかる脱水剤の具体例としては、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル等のオルトギ酸アルキル;オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル等のオルト酢酸アルキル;メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシラン等の加水分解性有機シリコン化合物;加水分解性有機チタン化合物等が挙げられる。これらの中でもビニルトリメトキシシラン又はテトラエトキシシランがコスト、脱水能力の点から好ましい。
【0115】
硬化性組成物に脱水剤を添加する場合、その添加量は、重合体(S)および他の重合体(S4)の合計量(水酸基残存重合体を含む)100質量部に対して0.001〜30質量部であることが好ましく、0.01〜10質量部であることがより好ましい。
【0116】
[その他の添加剤]
硬化性組成物に下記の充填剤、補強剤、安定剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、又は防黴剤等を配合してもよい。
充填剤または補強剤としては、たとえば、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、ガラス、骨粉、木粉、又は繊維フレークなどが挙げられる。
安定剤としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、または光安定剤などが挙げられる。
難燃剤としては、たとえば、クロロアルキルホスフェート、ジメチルメチルホスホネート、アンモニウムポリホスフェート、又は有機臭素化合物等が挙げられる。
離型剤としては、たとえば、ワックス、石鹸類、又はシリコンオイル等が挙げられる。防黴剤としては、たとえば、ペンタクロロフェノール、ペンタクロロフェノールラウレート、又はビス(トリ−n−ブチル錫)オキシド等が挙げられる。
また、硬化性組成物に、基材との接着性を向上させる目的で接着性付与剤を添加してもよい。
【0117】
<粘着体>
本発明にかかる硬化性組成物は、シリル基含有重合体(S)、任意に配合される他の重合体(S4)および必要に応じて添加される添加剤を混合して得られる。
また本発明の粘着体は、上記硬化性組成物を硬化させて得られる。特に本発明は、シリル基含有重合体(S)を含む硬化性組成物を硬化させて得られる、剥離粘着力が1N/25mm以下、好ましくは、0N/25mmを超え1N/25mm以下であり、特に好ましくは、0.005〜0.8N/25mmである粘着体を提供する。また本発明は、ポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S1)またはポリエステル系シリル基含有重合体(S3)を含む硬化性組成物を硬化させて得られる粘着体を提供する。
【0118】
<硬化性組成物の硬化>
本発明の粘着体は、上記硬化性組成物を硬化させて得られる。硬化性組成物は硬化後に成形することも可能である。例えば硬化性組成物を、シート状などの適当な形状に硬化させた後、型抜きを行うなどで所定の形状に成形し、単独で粘着体として利用することが可能である。しかし、基材に硬化性組成物を塗工し、硬化させて積層体として利用することが好ましい。
硬化性組成物の硬化条件は、必要に応じて設定される。例えば硬化性組成物として硬化触媒を添加したものを用意する。これに所定量の水を硬化剤として添加し充分に混合する。これを基材の上に塗工する。塗工厚さは適宜設定される。この後オーブン等で加熱し、室温で養生することにより硬化性組成物を硬化させることができる。室温で養生する際または養生した後に加湿環境に放置することも有効である。オーブン等による加熱は基材の耐熱温度等により適宜設定される。例えば60〜120℃の環境に1〜30分程度放置することが好ましい。特に溶剤を用いた場合には、一定の乾燥時間を設定することが好ましい。ただし急激な乾燥は、発泡の原因になるため好ましくない。またオーブン内でまたはオーブンから取り出した後に、スチームを当ててもよい。
硬化性組成物の塗工は、連続的に行うこともできる。すなわちロールから取り出した基材に、所定量の水を混合した硬化性組成物を塗工し、インラインオーブンで加熱乾燥させる。得られた成形体(積層体)に、必要に応じてセパレータを合わせ、巻き取る。これを必要に応じて加湿した室温環境に保管し養生することにより成形された粘着体が得られる。また別の塗工方法としては、上記の方法において基材とセパレータを逆にしてもよい。すなわち最初にセパレータ上に塗工し、後から基材を貼着させてもよい。
【0119】
<積層体>
本発明は、少なくとも1層の基材層と、本発明の粘着体からなる粘着体層とを有する積層体を提供する。積層体がシート形状である場合にはこの積層体は粘着シートとなる。また積層体をテープ形状に成形加工すれば粘着テープが得られる。
なお基材を用いずに後述するセパレータに、硬化性組成物を塗工し、硬化させて硬化体を得た後に、該セパレータを剥離すると、粘着体単体で扱うことも可能となる。この場合に例えば両面粘着シート等が得られる。本発明にかかる硬化性組成物は溶剤を用いない場合であっても低粘度で塗工特性に優れる。このためセパレータに対しても、良好な塗工が可能である。具体的にはセパレータに対して硬化性組成物を塗工し、加熱乾燥させて、さらに別のセパレータを積層させ、養生することで、基材を有していない粘着体のみの粘着性シートが得られる。このとき別のセパレータを用いずに、最初に塗工したセパレータの背面を用いて、巻き取りを行い、粘着体のロールを製造してもよい。
積層体は、必要に応じて他の層を有していてもよい。例えば基材層と粘着体層との間に接着層を設け、基材と粘着体の剥離を防止してもよい。また基材層と粘着体層との間に発泡体等からなる緩衝体層を設けてもよい。また基材層と粘着体層との間に導電材層を設けてもよい。導電材層は、金属系導電材、イオン性導電材、カーボン系導電材等の導電材料を基材層に塗工することで得られる。導電材料は単独で塗工してもよく、各種樹脂等のバインダーを併用して塗工してもよい。また粘着体層の基材層とは反対側に、セパレータ(剥離ライナー)層を設けてもよい。また基材層の粘着体層とは反対側に印刷層を設けてもよい。印刷層を設けると、印字を行うことが可能となり、また意匠性を高くすることも可能である。また基材層を挟んで両面に粘着体層を設けてもよい。この場合に両面粘着シート等が得られる。
【0120】
<基材>
基材の材質は特に限定されない。好ましい例としてはポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン−ポリプロピレン共重合体(ブロック共重合体、ランダム共重合体)等のポリオレフィン類;ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ポリオレフィン類;ボール紙等の紙類;織布、不織布等の布類;アルミニウム箔等の金属箔等が挙げられる。これらの基材は組み合わせて用いてもよい。例えばPET層、金属箔層、ポリエチレン層を積層した積層体を用いてもよい。
基材の表面は事前の加工を行わなくてもよい。特にポリエステル類、紙類の粘着体層との接合面は事前の加工を行わなくても硬化性組成物の硬化に伴う接着効果により剥離しにくくなる。必要に応じてプライマー等を塗工しておいてもよい。
【0121】
一方ポリオレフィン類を基材に用いる場合には、硬化性組成物を塗工する面を事前に処理しておくことが好ましい。未処理の面に対しては剥離粘着力が低くなる場合があるためである。すなわちポリオレフィン類を用いた基材の硬化性組成物を塗工する面に対する事前の処理としては、コロナ処理(コロナ放電処理)、プライマー処理が例示できる。特に処理が簡単で工程が簡略化できるためにコロナ処理を行うことが好ましい。
例えば厚さが100μmのポリプロピレンフィルムの片面にコロナ処理を行い、この処理面に硬化性組成物を塗工する。塗工後加熱乾燥を行う。このようにして得られたフィルムは、粘着体を設けていない面(背面)がそのままセパレータとして利用できる。すなわちこのフィルムをそのまま巻き取ることにより粘着フィルムが製造できる。すなわちセパレータを介装することなくロール状に巻回することができる。
【0122】
<粘着体層>
本発明の粘着シート等において、粘着体層の厚さは特に限定されない。例えば、塗工精度の点からは5μm以上が好ましく、20μm以上がさらに好ましく、30μm以上がより好ましい。また粘着力の安定性、経済性の点からは200μm以下が好ましく、100μm以下がさらに好まく、80μm以下がより好ましい。
【0123】
<セパレータ>
上記の粘着体層の粘着面(被着体を貼着させる面)にセパレータを貼付させてもよい。セパレータとしては、一般の剥離剤で表面処理を行った紙類の他に、上述の未処理のポリオレフィン類を用いることができる。また紙類等の基材にポリオレフィン類を積層したものも使用できる。ポリオレフィン類をセパレータに用いるとシリコーンオイル等による汚染が防止できる。これは電子部品等の保護シートとして上記粘着シートを適用する際に有益である。またポリオレフィン類を単独でセパレータとして用いると、廃棄物のリサイクルが容易になる。
【0124】
<粘着シートの用途>
本発明の粘着体を用いることにより、特に、被着体への濡れ性および密着性が良好であるとともに、低い粘着力を有し再剥離性に優れた粘着シートが得られる。また、剥離帯電量が抑制され、かつ高速剥離特性にも優れた粘着シートが得られる。したがって、粘着シートの用途としては、自動車用保護シート;電子基板、ICチップ等の電子材料用保護シート;偏光板、光拡散板、プリズムシート等の光学部材用保護シート;各種ディスプレイ用保護シート等が好適に例示される。特に、電子材料用保護シートや光学部材用保護シートなど、製造工程中で剥離される保護シートとして、本発明の粘着シートは好適である。これは、粘着力が低く再剥離性が良好であるとともに、剥離帯電量が小さく、高速剥離特性に優れるためである。
すなわち本発明の粘着シートは、光学部材保護用粘着シートとして好適である。特に本発明の粘着体は柔軟性に優れるとともに、濡れ性に優れる。このため被着体の表面に凹凸が存在する場合であっても、良好な密着性が確保される。また本発明の光学部材保護用粘着シートは、密着性に優れ、貼着した被着体の貼着面内でのずれはほとんど発生しないが、剥離粘着力が低く簡単に剥離可能であり、液晶パネル等の製造工程の生産性向上に有用である。
このため本発明の粘着シートは、光拡散板またはプリズムシートの保護フィルム、特にその凹凸面の保護フィルムとして好適である。また本発明の粘着シートを貼着した光学部材は、粘着体の粘着力の経時変化が小さいために、低い剥離粘着力で剥離することができ、かつ、その剥離粘着力がほとんど変化しない。このため、光学部材の長期間の保管が可能となる。
また本発明の粘着シートはバックグラインドテープとしても好適である。バックグラインドテープとは、半導体ウエハに電子回路を形成後、バックグラインド(ウエハ裏面の研削)時にウエハ表面を保護するテープである。バックグラインドテープを回路面に貼着し、回路面の損傷、研削水・研削屑の浸入によるウエハ表面の汚染を防止する。本発明の粘着シートは、密着性に優れ、貼着した被着体の貼着面内でのずれはほとんど発生しないが、剥離粘着力が低く簡単に剥離可能である。またポリオレフィン類を基材に用いた場合に、セパレータが不要であり、シリコーンなどの汚染も発生しない。また剥離帯電が抑制されるため回路に損傷を与える危険が少ない。
【実施例】
【0125】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
以下において、プロピレンオキシドをPO、エチレンオキシドをEO、ε‐カプロラクトンをCL、γ‐イソシアネートプロピルトリメトキシシラン(イソシアネート基(NCO)の含有率:17.87質量%)をTMS、ジブチルスズジラウレートをDBTDLと略記する。また水は純水を用いた。またステンレス鋼板は、JISに規定されるSUS−304合金の板を用いた。このステンレス鋼板のブライトアニール処理した表面は、ほぼ平滑で光沢を有する。
【0126】
実施例および比較例で使用したシリル基含有重合体は表1に示す配合で製造したものである。シリル基含有重合体の製造に用いたポリオールは以下の通りである。なおポリオールA〜DおよびFの製造に用いた開始剤としてのそれぞれのポリオールについては、KOH触媒を用いてPOを反応させて得られたものである。表1に示す配合量の単位は特に断りの無い限り「g」である。
・ポリオールA:ジプロピレングリコールにPOを重合させて得られた平均水酸基価160.3mgKOH/gのポリオキシプロピレンジオールを開始剤とし、複合金属シアン化物錯体触媒(参考製造例1で得られるTBA−DMC触媒)を用いてPO:CLの比率が質量比で1:2になるように反応させて製造した、平均水酸基価56.1mgKOH/gのポリエステルエーテルポリオール。
・ポリオールB:ジプロピレングリコールにPOを重合させて得られた平均水酸基価112mgKOH/gのポリオキシプロピレンジオールを開始剤とし、複合金属シアン化物錯体触媒(参考製造例1で得られるTBA−DMC触媒)を用いてPOを反応させて製造した、平均水酸基価11.2mgKOH/gのポリオキシプロピレンポリオール。
・ポリオールC:ジプロピレングリコールにPOを重合させて得られた平均水酸基価280.5mgKOH/gのポリオキシプロピレンジオールを開始剤とし、KOH触媒を用いてPOを反応させて製造した、平均水酸基価56.1mgKOH/gのポリオキシプロピレンポリオール。
・ポリオールD:三菱化学社製ポリオキシテトラメチレングリコール(平均分子量650)。
・ポリオールE:クラレ社製P−1010(3−メチル−1,5−ペンタンジオールとアジピン酸との共重合体)、平均水酸基価112mgKOH/gのポリエステルポリオール。平均水酸基数110。
・ポリオールF:ポリオキシプロピレンポリオール(ジプロピレングリコールにPOを重合させて得られた平均水酸基価37.4mgKOH/gのポリオキシプロピレンジオールと、グリセリンにPOを重合させて得られた平均水酸基価33.7mgKOH/gのポリオキシプロピレントリオールとの混合物)を開始剤とし、複合金属シアン化物錯体触媒(参考製造例1で得られるTBA−DMC触媒)を用いてPOを反応させて製造した、平均水酸基価5.6mgKOH/gのポリオキシプロピレンポリオール。
【0127】
(参考製造例1:複合金属シアン化物錯体触媒の製造)
以下の方法で、有機配位子としてtert−ブチルアルコールを有する亜鉛ヘキサシアノコバルテート(以下、TBA−DMC触媒という。)を製造した。本例中のポリオールXは、ジプロピレングリコールにプロピレンオキシドを付加重合して得られた、数平均分子量(Mn1)が1000のポリオールである。
まず、500mlのフラスコに、塩化亜鉛の10.2gと水10gからなる水溶液を入れ、この水溶液を40℃に保温しつつ、毎分300回転(300rpm)で撹拌しながら、ここへ4.2gのカリウムヘキサシアノコバルテート(K3[Co(CN)]6)と水75gからなる水溶液を30分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに混合物を30分撹拌した。その後、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル(以下、EGMTBEと略す。)の40g、tert−ブチルアルコール(以下、TBAと略す。)の40g、水の80g、およびポリオールXの0.6gからなる混合物を前記混合物中に添加し、40℃で30分、さらに60℃で60分間撹拌した。得られた反応混合物を、直径125mmの円形ろ板と微粒子用の定量ろ紙(ADVANTEC社製のNo.5C)とを用いて加圧下(0.25MPa)で50分かけてろ過を行い、固体を分離した。
【0128】
次に、この複合金属シアン化物錯体を含むケーキに18gのEGMTBE、18gのTBA、および84gの水からなる混合物を添加して30分撹拌した後、加圧ろ過(ろ過時間:15分)を行った。ろ過により得られた複合金属シアン化物錯体を含むケーキに、さらに54gのEGMTBE、54gのTBA、および12gの水からなる混合物を添加して30分撹拌し、有機配位子を有する複合金属シアン化物錯体を含むEGMTBE/TBAのスラリーを得た。このスラリーをTBA−DMC触媒として用いた。
このスラリーを5gほどフラスコに秤り取り、窒素気流で概ね乾かした後、80℃で4時間減圧乾燥した。得られた固体を秤量した結果、スラリー中に含まれる複合金属シアン化物錯体の濃度は4.70質量%であることがわかった。
【0129】
(製造例1:ポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S11−1)の製造)
[第1のステップ]
撹拌機付きステンレス製10Lの耐圧反応器内に、開始剤(z21)として2800gのポリオキシプロピレンジオール(水酸基換算Mw=700)と、重合触媒としてのTBA−DMC触媒を投入した。TBA−DMC触媒の使用量は、仕上がり質量に対して50ppm、すなわち第1のステップ終了時の重合体中の金属量として50ppmとした。
反応器内を窒素置換後、140℃に昇温し、撹拌下、280gのPOを反応器内に投入して反応させた。これは最初に少量のPOを供給してTBA−DMC触媒を活性化させるための工程である。
次いで、反応器内の圧力が低下した後、撹拌下、1640gのPOと3280gのCLを、単位時間当たりの供給量が質量比でPO/CL=1/2となるように、POとCLとをそれぞれ一定の速度で反応器内に投入した。POとCLの投入終了後、さらに1時間撹拌を続けた。その間、反応器内の温度を140℃、撹拌速度を500rpmに保ち、重合反応を進行させた。こうしてポリオールAを得た。
得られたポリオールAは、13C−NMRの測定結果から、CL及びPOのランダム共重合鎖を有することが確認された。このポリオールAの平均水酸基価は56.1mgKOH/gであった。
得られたポリオールA中における、CL由来の2価基(A)の含有率は41質量%であった。またポリオールA中における、CL及びPOのランダム共重合鎖の含有率は61.5質量%であった。
【0130】
[第2のステップ]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコに、上記で得たポリオールAの658.9gと、シリルイソシアネート化合物(i)としてTMSの150gを加え、ウレタン化触媒としてDBTDLを加えた。DBTDLの使用量はポリオールAとTMSの合計量に対して50ppmに相当する量とした。そして80℃まで徐々に昇温し、IRにてNCOのピークが消失するまで反応を行い、ポリエステルエーテル系シリル基含有重合体(S11−1)を得た。このウレタン化反応におけるNCO/OH(モル比)、および得られた重合体のMwを表1に示す。
【0131】
(製造例2:ポリエーテル系シリル基含有重合体(S2−1)の製造)
[第1のステップ]
撹拌機付きステンレス製10Lの耐圧反応器内に、開始剤(z2)として800gのポリオキシプロピレンジオール(水酸基換算Mw=1000)と、重合触媒としてのTBA−DMC触媒を投入した。TBA−DMC触媒の使用量は、仕上がり質量に対して50ppmとした。
反応器内を窒素置換後、140℃に昇温し、撹拌下、80gのPOを反応器内に投入して反応させた。これは最初に少量のPOを供給してTBA−DMC触媒を活性化させるための工程である。
次いで、反応器内の圧力が低下した後、撹拌下、7120gのPOを供給し、反応器内の温度を140℃、撹拌速度を500rpmに保ちながら、11時間撹拌して、重合反応を進行させた。こうしてポリオールBを得た。
【0132】
[第2のステップ]
製造例1の第2のステップにおいて、ポリオールAの代わりに上記で得たポリオールBの761.6gを用い、TMSの使用量を15gに変更した他は、製造例1と同様にしてポリエーテル系シリル基含有重合体(S2−1)を得た。結果を表1に示す。
【0133】
(製造例3:ポリエーテル系シリル基含有重合体(S2−2)の製造)
[第1のステップ]
撹拌機付きステンレス製10Lの耐圧反応器内に、開始剤(z2)として200gのポリオキシプロピレンジオール(Mn=400)と、重合触媒としてのKOHを投入した。KOHの使用量は、仕上がり質量に対して0.3質量%とした。
反応器内を窒素置換後、140℃に昇温し、撹拌下、960gのPOを供給し、反応器内の温度を140℃、撹拌速度を500rpmに保ちながら、6時間撹拌して、重合反応を進行させた。こうしてポリオールCを得た。
【0134】
[第2のステップ]
製造例1の第2のステップにおいて、ポリオールAの代わりに上記で得たポリオールCの658.9gを用いた他は、製造例1と同様にしてポリエーテル系シリル基含有重合体(S2−2)を得た。結果を表1に示す。
【0135】
(製造例4:ポリエーテル系シリル基含有重合体(S2−3)の製造)
本例では、ポリオール(D)を用いた。
[第2のステップ]
製造例1の第2のステップにおいて、ポリオールAの代わりにポリオールDの212.4gを用いた他は、製造例1と同様にしてポリエーテル系シリル基含有重合体(S2−3)を得た。結果を表1に示す。
【0136】
(製造例5:ポリエステル系シリル基含有重合体(S3−1)の製造)
本例では、ポリオールEを用いた。
[第2のステップ]
製造例1の第2のステップにおいて、ポリオールAの代わりにポリオールEの333.4gを用いた他は、製造例1と同様にしてポリエステル系シリル基含有重合体(S3−1)を得た。結果を表1に示す。
【0137】
(製造例6:他のシリル基含有重合体(S4−1)の製造)
ジプロピレングリコールにプロピレンオキシド(PO)を開環重合させて得られたMn=3000のポリオキシプロピレンジオール(以下、ジオール4Aという)120gおよびグリセリンにPOを開環重合させて得られたMn=5000のポリオキシプロピレントリオール(以下、トリオール4Bという)200gの混合物を開始剤として用い、1.2gの亜鉛ヘキサシアノコバルテート−グライム錯体触媒存在下、2480gのPOを反応容器内に少しずつ添加しながら120℃の条件下で重合反応を行い、POの全量を添加したのち反応容器内圧が下がらなくなるまで反応させた。なお亜鉛ヘキサシアノコバルテート−グライム錯体触媒は、参考製造例1において、EGMTBEとTBAの代わりにグライムを用いて製造できる。
続いて、120gのジオール4Aおよび200gのトリオール4Bを反応容器内に投入し、上記同様にして1680gのPOを少しずつ加えたのち反応容器内圧が下がらなくなるまで反応させた。さらに、120gのジオール4Aおよび200gのトリオール4Bを反応容器内に投入し、上記同様にして1280gのPOを少しずつ加えたのち反応容器内圧が下がらなくなるまで反応させた。さらに、80gのジオール4Aおよび130gのトリオール4Bを反応容器内に投入し、さらに上記同様にして590gのPOを少しずつ加え、反応容器内圧が下がらなくなるまで反応させた。
さらに60gのジオール4Aおよび100gのトリオール4Bを添加し、さらに上記同様にして240gのPOを少しずつ加えたのち反応容器内圧が下がらなくなるまで反応させた。
最後に75gのジオール4Aおよび125gのトリオール4Bを添加し、上記同様にして200gのPOを少しずつ加えたのち反応容器内圧が下がらなくなるまで反応させた。この操作により、Mnが17000、Mw/Mnが1.76、かつ粘度が19.5Pa・s(25℃)のポリオキシプロピレンポリオールFを得た。
【0138】
得られたポリオキシプロピレンポリオールFに対し、その水酸基の1.05当量のナトリウムメトキシドのメタノール溶液を添加し、加熱減圧下でメタノールを留去してポリオキシプロピレンポリオールの末端水酸基をナトリウムアルコキシドに変換した。次にこれに塩化アリルを反応させてから、未反応の塩化アリルを除去し、さらに副生した塩を精製して除去し、末端アリル基を有するポリオキシプロピレンを得た。さらにこれに対して、メチルジメトキシシランを白金触媒の存在下で反応させて、末端にメチルジメトキシシリル基を有するオキシプロピレン重合体(S4−1)を得た。
得られた重合体(S4−1)のMnは20000であり、Mw/Mnは1.35であった。
【0139】
【表1】

【0140】
(実施例1〜12)
表2、3に示す配合で硬化性組成物を調製した。表2、3に示す配合量の単位は特に断りの無い限り「g」である。すなわちシリル基含有重合体に硬化剤(水)と硬化触媒を添加して硬化性組成物とした。硬化触媒としては実施例1〜11ではDBTDLよりも触媒活性が高い#918(三共有機合成社製)を用いた。該#918はフタル酸ジエチル及びフタル酸ジオクチルからなる群より選ばれるエステル化合物と、有機スズオキシドとの反応生成物に該当する。また実施例12では、アミン触媒であるSA102(サンアプロ社製)を用いた。SA102は1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7のオクチル酸塩である。
得られた硬化性組成物を、厚さ100μmのPETフィルム(基材)上に、乾燥後の膜厚が50μmになるように塗工し、循環式オーブンにおいて100℃で5分乾燥した。そして、23℃で一週間養生した後、23℃かつ相対湿度65%で2時間放置して粘着層を形成して粘着シートを得た。
下記の方法で評価を行った。評価結果を表2、3に示す。
【0141】
(評価方法)
[粘度]
硬化性組成物の粘度を、東機産業社製E型粘度計RE−80Uを使用し、ローターNo.1を用いて25℃で粘度を測定した。
[塗工性(ハンドリング)]
硬化性組成物の粘度と、硬化性組成物調製時の撹拌状態から判断した。25℃における粘度が高いほどハンドリングは低下し、粘度が10000mPa・s/25℃以下であるとき○(良好)、以上の時を×(不良)とした。
[基材への接着力]
厚さ1.5mmのブライトアニール処理したステンレス鋼板に粘着シートを貼着し、23℃かつ相対湿度65%で1週間養生した後、粘着シートを引き剥がして、粘着剤の状態から判断した。離型面(粘着層とステンレス板との界面)から剥がれたものを○(良好)、非離型面(粘着層とPETフィルムとの界面)から剥がれた時または、ステンレス板に糊が残った時を×(不良)とした。
【0142】
[剥離粘着力]
室温下で、厚さ1.5mmのブライトアニール処理したステンレス鋼板に、粘着シートを貼着し、2kgのゴムロールで圧着した。30分後、JIS B 7721に規定する引張り試験機(オリエンテック社製、RTE−1210)を用い、剥離強度(180度ピール、引張り速度300mm/分)を測定した。この値が小さいほど微粘着で剥がし易く、再剥離性に優れることを示す。
【0143】
[再剥離性]
粘着シートをブライトアニール処理したステンレス鋼板に貼着した後、40℃かつ相対湿度65%の条件下に放置し、23℃かつ相対湿度65%に冷却した後、剥離し、糊残り性を目視評価した。目視評価では、ステンレス鋼板への糊移行が全くないものを○(良好)、部分的にあるものを△(やや良)、完全に移行しているものを×(不良)として評価した。また、剥離後、ステンレス板に糊が残った場合には、貼着面積に対する糊残りの割合を下記数式(I)で計算し評価した。
糊残り率(%)=(ステンレス鋼板へ移行した粘着剤の面積/粘着シートを貼り付けた面積)×100 ・・・(I)
【0144】
[保持力]
厚さ1.5mmのブライトアニール処理したステンレス鋼板の一端に、粘着シートの25mm×25mmの面積が接触するように貼合わせ、ロールで圧着した。ついで、ステンレス板の他端を吊り下げて、粘着シートがステンレス板にぶら下がるように配置し、23℃中に20分間放置した。その後、粘着シートに200gの荷重をかけ、落果するまでの秒数を測定した。60分間落下しなかった場合は、60分後のずれを測定した。60分後にずれが全くないものを〇(良好)、60分後にずれが生じたもの、または落下したものを×(不良)として評価した。
この保持力が良好であるということは、被着物との密着性に優れることを示す。
【0145】
[濡れ性]
粘着シートを(幅)25mm×(長さ)15cmに切り出し、シートの一端を、ブライトアニール処理したステンレス鋼板に1cm貼り付け、もう一端を45度まで持ち上げた状態から落下させた。落下させてから、落下した粘着シートがSUS板に張りつくのに要する時間を測定した。全体の空気だまりが消えるまでの時間が10秒以内のものは○(良好)、10秒を超えるものは×(不良)とした。
【0146】
【表2】

【0147】
【表3】

【0148】
表2、3に示されるように、実施例の硬化性組成物は無溶剤での塗工が可能であった。比較例1に比べて、粘度が低く、塗工性、基材への接着性、保持力、および濡れ性のいずれにおいても優れており、剥離粘着力も小さかった。
また厚さ1.5mmのブライトアニール処理したステンレス鋼板の表面に、#280の研磨を施し、粗面化したステンレス鋼板を用意した。実施例1〜6で得られた粘着シートを用いて、粗面化したステンレス鋼板を被着体とした場合について、再剥離性、保持力、および濡れ性の評価を行った。いずれも良好であり、本発明の粘着体は、粗面であっても良好な粘着特性を示すことがわかった。また剥離した際の糊残りも見られなかった。
【0149】
実施例6で得られた粘着シートについて、下記の方法で剥離帯電量、表面抵抗値、体積固有抵抗値、および高速剥離力を評価した。その結果を表4に示す。
比較例2として、市販の微粘着タイプのアクリル系粘着剤について同様に評価するとともに、上記剥離粘着力(貼着30分後、引張り速度300mm/分)を測定した。その結果を表4に示す。
【0150】
[剥離帯電量]
メチルエチルケトンで洗浄し、乾燥させたガラス板に、粘着シートを室温にて貼着し、2kgのゴムロールで圧着した。30分後、高速剥離試験機(テスター産業社、製品名:TE−701型)を用い、180度ピール、引張り速度30m/分の条件で粘着シートを剥離した。剥離直後の粘着シート表面に、静電気測定装置(春日電機社製、静電気測定装置KSD−0103)を設置して帯電量(単位:V)を測定した。
【0151】
[表面抵抗値]
粘着シートの粘着面を用いて表面抵抗値(単位:Ω)を測定した。測定は、高抵抗率計(三菱化学社製ハイレスターUP(MCP−HT450)を使用し、表面抵抗モード、室温23℃、相対湿度65%で行った。この値が小さいほど帯電し難いことを示す。
[体積固有抵抗値]
粘着シートの粘着面を用いて体積固有抵抗値(単位:Ω)を測定した。測定は上記高抵抗率計を使用し、体積固有抵抗モード、室温23℃、相対湿度65%で行った。この値が小さいほど帯電し難いことを示す。
【0152】
[高速剥離性]
メチルエチルケトンで洗浄し、乾燥させたブライトアニール処理のSUS板に、粘着シートを室温にて貼着し、2kgのゴムロールで圧着した。24時間後、SUS板を台上に置いて固定し、高速剥離試験機(テスター産業社、製品名:TE−701型)を用い、180度ピールで粘着シートを剥離し、剥離粘着力を測定した。引張り速度は300mm/分と30000mm/分(30m/分)の2通りとした。
【0153】
【表4】

【0154】
表4の結果より、比較例2のアクリル系粘着剤に比べて、実施例6の方が剥離帯電量が小さく、表面抵抗値(比較例2では1×1014、実施例6では6×1012)および体積固有抵抗値(比較例2では1.2×1012、実施例6では2.4×10)も小さかった。また実施例6は、剥離速度30000mm/分の高速剥離時の剥離粘着力と、剥離速度300mm/分の低速剥離時の剥離粘着力との差が殆どなかった。このことは剥離粘着力の剥離速度依存性が小さく、高速剥離特性に優れていることを示す。一方は、比較例2のアクリル系粘着剤は剥離粘着力の剥離速度依存性が大きく、剥離速度が速くなると剥離強度が増大した。
【0155】
[シリコーン汚染性]
実施例6で得られた粘着シートについて、下記2種類のセパレータを貼着させたサンプルを用意した。(1)粘着体表面に何の処理も施されていない2軸延伸処理ポリプロピレンフィルム(以下、OPPフィルムという。)を2kgのゴムローラを使って圧着させた。(2)粘着体表面にシリコーン処理されたPET剥離紙を2kgのゴムローラを使って圧着させた。下記の方法でシリコーン処理剤由来のSiによる粘着剤表面の汚染性をFT−IRのATR法により分析した。
【0156】
[表面のシリコーン分析法]
純水で洗浄し、乾燥させたゲルマニウムプリズムの表面に、セパレータを剥離した後の粘着シートを貼着した。手で圧着し、その後粘着シートを剥離した。粘着シートを剥離した後のゲルマニウムプリズムの表面を測定した。また別途シリコーン処理されたPET剥離紙をゲルマニウムプリズムにこすりつけて比較サンプルとした。
【0157】
[シリコーン分析結果]
シリコーン処理剥離紙を用いた場合のスペクトル結果より、1270cm−1付近にSi−CH由来のピークが確認された。また(2)のシリコーン処理されたPET剥離紙を使用したサンプルにも、当該ピークが観察された。一方(1)のサンプル(未処理OPPフィルム使用)には当該ピークが観察されなかった。いずれのサンプルにおいても、粘着体からのセパレータの剥離は極めて容易であり、糊残りなどは発生しなかった。このことから本発明の粘着シートは未処理のOPPフィルム等のポリオレフィン類がセパレータとして利用できる。
【0158】
[水硬化性]
シリル基含有重合体(S2−1)に、硬化剤(水)と硬化触媒(DBTDL)を添加して硬化性組成物とした。硬化剤の量と可使時間の関係を求めた。シリル基含有重合体(S2−1)の90質量部と、溶剤としてトルエンの10質量部、水の所定量を加え、1分間充分に撹拌した。E型粘度計(ローターはNo.1)を用いて、15分ごとに粘度を測定した。温度は25℃に保った。可使時間は10000mPa・s/25℃になるまでの時間とした。
【0159】
【表5】

【0160】
結果を表5に示す。硬化性組成物の90質量部に、水0.01〜1質量部では充分な可使時間が得られる。
【0161】
[溶剤希釈]
シリル基含有重合体(S2−1)に硬化剤(水)と硬化触媒(DBTDL)を添加して硬化性組成物とした。溶剤で希釈した際のアルコール類が可使時間に及ぼす影響を測定した。シリル基含有重合体を100質量部と、水の0.03質量部および硬化触媒の1質量部に対して、溶剤を合計で100質量部加えた。溶剤としては、酢酸エチルとメタノールを用いた。混合比率を変えて1分間充分撹拌し、所定時間後の粘度を測定した。E型粘度計(ローターはNo.1)を用いて、25℃における粘度を測定した。結果を表6に示す。表中「gel」とはゲル化したことを示す。
【0162】
【表6】

【0163】
表中、ゲル化したもの以外はPETフィルムへの塗工状態は良好であった。また塗工後、110℃のオーブンで2分間乾燥させ、23℃で5日間養生した。得られた粘着体の剥離粘着力を測定した。ブライトアニール処理したSUS板を用いて、貼付け30分後の剥離粘着力を測定した。塗工できたものは、いずれも0.07〜0.09N/25mmとほぼ一定であった。
酢酸エチルとメタノールの割合を変えると、メタノールが70質量%以上であれば、48時間後の粘度を600mPa・s以下と低く保つことができる。すなわちアルコールの添加により硬化性組成物の硬化速度を抑制できることがわかった。これは塗工液の安定性(ポットライフ)を制御可能であることと同時に、得られる粘着体の特性には影響がないことを示す。
【0164】
[養生期間]
シリル基含有重合体(S2−1)の100質量部に対し、硬化剤として水を0.03質量部、硬化触媒としてDBTDLを1.0質量部および希釈溶媒としてトルエンを10質量部加えて撹拌した。無処理のOPPフィルムに約17μmの厚さとなるように塗工した。110℃のオーブンで2分間乾燥させた。取り出したOPPフィルムの塗工面に、厚さが25μmのPETフィルムを基材として貼着した。23℃で所定期間養生した後、ブライトアニール処理したSUS板を用いて、貼付け30分後の剥離粘着力を測定した。
またOPPフィルムの粘着体塗工面に同様のOPPフィルムを貼着し、23℃で所定期間養生した。フィルム間の粘着体層の質量を測定した。その後トルエンに3日間静置浸漬させた。不溶分を乾燥させて質量を測定した。浸漬前の質量に対する、浸漬後の質量をゲル分率として算出した。結果を表7に示す。
【0165】
【表7】

【0166】
表7の結果から明らかなように、養生期間は2日で充分であることがわかった。すなわち粘着特性が得られるまでに短期間で粘着特性が安定することがわかった。また同時に長期保管しても粘着特性に変化がないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明によれば、低粘度で塗工性が良く、無溶剤化が可能であり、粘着力が低い一方で被着体への密着性が良好であり、再剥離性に優れ、かつ濡れ性も良好である粘着体が得られる。また本発明によれば、剥離帯電量が抑制され、高速剥離性に優れ、かつシリコーンなどの汚染を発生させない粘着体が得られるので、特に光学部材保護用粘着シートまたはバックグラインドテープに有用である。
なお、2007年4月3日に出願された日本特許出願2007−097307号および2007年10月25日に出願された日本特許出願2007−277803号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるシリル基含有重合体(S)を含む硬化性組成物を、硬化剤として水を用いて硬化させて得られる剥離粘着力が1N/25mm以下であることを特徴とする粘着体。
【化1】

[式(1)中、Rは一分子中にt個の水酸基を有する化合物から全部の水酸基を除いたt価の残基を示し、Rは2価の有機基を示し、Rは炭素数1〜20の1価の有機基を示し、Xは水酸基又は加水分解性基を示し、Yは下記一般式(A)で表される2価の基または下記一般式(B)で表される2価の基を示し、aは1〜3の整数を示し、rは1〜1000の整数を示し、tは1〜8の整数を示す。tが2〜8である場合、Rに結合するt個の1価基は互いに同一でも異なってもよい。aが2または3である場合、1個のケイ素原子に結合している2個または3個のXは互いに同一でも異なってもよい。aが1の場合、1個のケイ素原子に結合している2個のRは互いに同一でも異なってもよい。rが2以上の場合、互いに結合している複数のYは互いに同一でも異なってもよい。]
【化2】

[式(A)中、Rは炭素数2〜8のアルキレン基を示す。
式(B)中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。]
【請求項2】
前記硬化性組成物中の前記シリル基含有重合体(S)の100質量部に対して、前記水が0.01〜5質量部である、請求項1に記載の粘着体。
【請求項3】
前記硬化性組成物がさらに下記一般式(3)で表される他のシリル基含有重合体(S4)を含む請求項1または2に記載の粘着体。
【化3】

[式(3)中、R21は一分子中にm個の水酸基を有する化合物から全部の水酸基を除いたm価の残基を示し、R22は2価の有機基を示し、R23は炭素数1〜20の1価の有機基を示し、X’は水酸基又は加水分解性基を示し、Y’は炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、a’は1〜3の整数を示し、kは1〜10000の整数を示し、mは1〜8の整数を示す。mが2〜8である場合、R21に結合するm個の1価基は互いに同一でも異なってもよい。a’が2または3である場合、1個のケイ素原子に結合している2個または3個のX’は互いに同一でも異なってもよい。aが1の場合、1個のケイ素原子に結合している2個のR23は互いに同一でも異なってもよい。kが2以上の場合、互いに結合している複数のY’は互いに同一でも異なってもよい。]
【請求項4】
前記硬化性組成物中の前記シリル基含有重合体(S)と前記シリル基含有重合体(S4)の合計量の100質量部に対して、前記水が0.01〜5質量部である、請求項3に記載の粘着体。
【請求項5】
基材層と少なくとも1層の粘着体層とを有する粘着シートであって、該粘着体が請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘着体であることを特徴とする粘着シート。
【請求項6】
基材層と少なくとも1層の粘着体層とを有する光学部材保護用粘着シートであって、該粘着体が請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘着体であることを特徴とする光学部材保護用粘着シート。
【請求項7】
請求項6に記載の光学部材保護用粘着シートが貼着されてなる光学部材。
【請求項8】
前記光学部材が光拡散板またはプリズムシートである請求項7に記載の光学部材。
【請求項9】
基材層と少なくとも1層の粘着体層とを有するバックグラインドテープであって、該粘着体が請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘着体であることを特徴とするバックグラインドテープ。

【公開番号】特開2012−211323(P2012−211323A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−114756(P2012−114756)
【出願日】平成24年5月18日(2012.5.18)
【分割の表示】特願2009−509280(P2009−509280)の分割
【原出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】