説明

粘着性を有する微細構造を製造する方法

【課題】モールドの繰り返し使用と量産及び低コストが可能な粘着性を有する微細構造を製造する方法を提供する。
【解決手段】底面にナノメートルオーダーの凹槽22を有するモールド21及び基板11を用意する工程と、基板11の上に液体状のインプリント層31を被せる工程と、基板11にモールド21を押印する工程であって、インプリント層31は、モールド21と基板11との間に基材32を形成し、各凹槽22の所定の深さまで進入して基材32の上にナノ突起34を形成し、各凹槽22内の空気が圧縮される工程と、インプリント層31を固化させる工程と、モールド21を基板11から上向きに離型させる工程であって、各凹槽22内の圧縮された空気の反発力によって、各凹槽22内に形成されたナノ突起を各凹槽22からスムーズに出すことが可能で、基材32はナノ突起34と共に粘着性を有する微細構造30を形成する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造の製造技術に関し、特に、粘着性を有する微細構造を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在既に知られているナノテープは主に、自然界のヤモリの肢の指の皮膚から得られた技術であり、肢の指にある極めて高密度のスパチュラ構造を主に利用し、その吸着表面にファンデルワールス力を生じさせることによって、吸着の効果を実現している。現在のナノテープは、その表面の高密度の繊毛によって吸着効果を実現するものである。
既知のナノテープ製造技術は、英国Manchester大学Andre K. Geimによる非特許文献1、米国Carnegie Mellom大学Metin sittiによる非特許文献2、Akron大学Ali Dhinojwalaによる非特許文献3、及びAtlas Scientific社Yang Zhaoによる非特許文献4の4組等により開示され、前者の2組は高分子材料を使用しているのに対し、後者の2組はカーボンナノチューブを使用している。
【0003】
Gaimの方法は、電子ビームリソグラフィ(electron beam lithography)システム、金属めっき、及びプラズマエッチング等の設備を使用して、ポリイミド膜上に、百万本を超える人工合成されたポリイミド繊維を用意するものである。これらの繊維は、直径が約500ナノメートル、長さが約2マイクロメートルの柱状構造であり、繊維間の距離は、1.0マイクロメートルである。実験結果が示すところによると、この種の繊維は、1平方センチメートルあたりの耐重量が約300グラムであり、尚且つ、数回に及ぶ繰り返し使用後にその粘着力を失う。しかしながら、この方法は電子ビームリソグラフィシステム、金属めっき、及びプラズマエッチングの設備等の高価な設備を必要とするだけでなく、生産速度が非常に遅く、しかも大面積を生産できないので、量産のニーズを満たせないという欠点がある。同時に、繊維構造がエッチング法によって製造されるゆえに、繊維構造の特性に変化が生じ、繰り返し使用できないという欠点もある。
【0004】
Sittiのは、成形(molding)法を用いて、百万本を超える人工合成のシリコーンゴム繊維を用意する技術である。実験結果が示すところによると、この種の繊維は、1平方センチメートルあたりの耐重量が約0.3グラムである。したがって、この方法は、迅速で且つ大量な製造が可能な成形法を用いているが、モールドを繰り返し使用することが不可能であるので、量産のニーズを満たせないという欠点がある。
【0005】
Dhinojwala及びZhaoのは、合成したカーボンナノチューブをヤモリの肢の指のスパチュラ構造として用いる技術である。これらの技術は、スパチュラ構造に相当する粘着力を得ることができるが、カーボンナノチューブの成長温度が高すぎるゆえに、軟らかい高分子基板上に直接成長させることができないという欠点がある。
上述された欠点に鑑みて、本出願の発明者は、試作及び実験を続けた結果、ついにモールドを繰り返し使用できる成形法を見いだした。
【0006】
【非特許文献1】A. K.ゲイムほか ネイチャーマテリアルズ(A. K. Geim et al., Nat. Mater. 2,461 (2003))
【非特許文献2】M.シッティほか ジャーナル オブ アドヘッション サイエンスアンド テクノロジー(M. sitti et al., J. Adhesion Sci. Technol., 18, p1055 (2003))
【非特許文献3】B.ヨードマカンほか ケミカル コミュニケーションズ(B Yurdumakan et al., Chem. Commun., p3799 (2005))
【非特許文献4】Y.ザオ ジャーナル オブ バキューム サイエンス アンド テクノロジーPt B(Y. Zhao, J. Vac. Sci. Techno. B, 23 (1), p331 (2006))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主な目的は、モールドを繰り返し使用することができ、産業面において量産及び低コストのニーズを満たすことができる、粘着性を有する微細構造を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明にしたがって、粘着性を有する微細構造を製造する方法が提供される。該製造方法は、a)基板及びモールドを用意する工程であって、モールドの底面は、ナノメートルオーダーの複数の凹槽を有し、各凹槽は所定の深さを有する工程と、b)基板の上に液体状のインプリント層を被せる工程と、c)基板にモールドを押印する工程であって、インプリント層は、モールドと基板との間に基材を形成し、尚且つ、各凹槽の所定の深さまで進入して基材の上にナノ突起を形成し、各凹槽内にもとからある空気は圧縮される工程と、d)インプリント層を液体状から固体状へと固化させる工程と、e)モールドを基板から上向きに離型させる工程であって、各凹槽内の圧縮された空気によって生じる反発力によって、各凹槽内に形成されたナノ突起を各凹槽からスムーズに出すことができ、基材はナノ突起と共に粘着性を有する微細構造を形成する工程と、を含む。このようにすれば、モールドを繰り返し使用することができ、量産及び低コストのニーズを満たすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の技術の特徴を詳細に説明するために、2つの好ましい実施例を挙げ、以下に図面と合わせて説明を行う。
(第1実施例)
図1から図5に示されるように、本発明の第1実施例によって提供される粘着性を有する微細構造を製造する方法は、主に下記の工程を含む。
a)基板11及びモールド21を用意する。図1に示されるように、モールド21の底面は、ナノメートルオーダーの複数の凹槽22を有し、各凹槽22は、所定の深さを有し、直径は0.01〜5マイクロメートルである。モールド21の底面には、離型剤24の層が設けられ、この離型剤24は、モールド21の底面及び凹槽22の壁に被さる。離型剤24は、離型の際に役立ち、製品をモールド21から外しやすくする。
【0010】
b)図2に示されるように、基板11の上に液体状のインプリント層31を被せる。インプリント層31は、重合体、重合体と有機ナノ粒子との混合物、重合体と無機ナノ粒子との混合物、重合体と有機ナノ粒子との共重合体、又は重合体と無機ナノ粒子との共重合体であってもよい。
c)図3に示されるように、基板11にモールド21を押印する。インプリント層31は、モールド21と基板11との間に基材32を形成し、且つ、凹槽22の所定の深さまで進入して基材32の上に複数のナノ突起34を形成する。各凹槽22内にもとからある空気は、圧縮される。
【0011】
d)図4に示されるように、インプリント層31を液体から固体へと固化させる。加熱又は紫外線照射の方式でインプリント層31を固化させてよく、基材32及びナノ突起34は、形状が一定で変化しない。図4には、紫外線を照射する場合が示されている。この状況下では、モールド21は、紫外線を透過しやすいよう透明の材質である。このほか、透明な基板(図示せず)を選択し、紫外線を下方から透過させることも、もちろん可能である。
【0012】
e)図5に示されるように、モールド21を基板11から上向きに離型させる。各凹槽22内の圧縮された空気によって生じる反発力によって、各凹槽22内に形成されたナノ突起を各凹槽22からスムーズに出すことができる。基材32は、ナノ突起34と共に粘着性を有する微細構造30を形成する。また、凹槽22の深さは、これらナノ突起34の高さの2倍以上である。
上述された工程によって製造された粘着性を有する微細構造30は、基材32と、該基材32の上に位置する複数のナノ突起34とによって形成され、各ナノ突起34の直径は、0.01〜5マイクロメートルであり、各ナノ突起34の高さは10マイクロメートルである。
【0013】
(第2実施例)
図6から図8は、本発明の第2実施例によって提供される粘着性を有する微細構造を製造する方法であり、前掲の第1実施例と概ね同じである。異なる点は、下記の通りである。
工程a)において、図6に示されるようにモールド21’の各凹槽22’は、その底部からモールド21’を貫通してそれぞれ開口26を形成し、これらの開口26は、1つのガス源28に連結される。本実施例では、これらの開口26は、モールド21’の頂部に位置している。
【0014】
工程c)において、各凹槽22’内の空気は、ガス源28と通じている。
工程e)において、離型の際は、図8に示されるように、ガス源28から凹槽22’に対して所定の圧力の空気を提供することによって、第1実施例における空気の圧縮による反発力と同様の効果を実現し、離型の際にナノ突起34’を凹槽22’から押し出すことができる。
この第2実施例による方法の他の部分は、前掲の第1実施例のそれらと同様であるので、詳述を省くものとする。
【0015】
上記の実施例で挙げられた技術からわかるように、本発明によって提供される粘着性を有する微細構造を製造する方法は、真空環境を必要とせず、通常の環境のもとで、簡単な成形技術によって、迅速に且つ大量にナノメートルオーダーの複数の繊維を形成し、粘着性を有する微細構造とすることができる。これは、産業面において量産のニーズを満たせるだけでなく、低コストという利点も兼ね備えており、従来のものと比較して、産業面において更なる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施例による粘着性を有する微細構造を製造する方法の第1の動作を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施例による粘着性を有する微細構造を製造する方法の第2の動作を示す模式図である。
【図3】本発明の第1実施例による粘着性を有する微細構造を製造する方法の第3の動作を示す模式図である。
【図4】本発明の第1実施例による粘着性を有する微細構造を製造する方法の第4の動作を示す模式図である。
【図5】本発明の第1実施例による粘着性を有する微細構造を製造する方法の第5の動作を示す模式図である。
【図6】本発明の第2実施例による粘着性を有する微細構造を製造する方法の第1の動作を示す模式図である。
【図7】本発明の第2実施例による粘着性を有する微細構造を製造する方法の第2の動作を示す模式図である。
【図8】本発明の第2実施例による粘着性を有する微細構造を製造する方法の第3の動作を示す模式図である。
【符号の説明】
【0017】
11:基板、21、21’:モールド、22、22’:凹槽、24:離型剤、26:開口、28:ガス源、30:粘着性を有する微細構造、31:インプリント層、32:基材、34、34’:ナノ突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールドの底面は、ナノメートルオーダーの複数の凹槽を有し、前記凹槽は、所定の深さを有するモールドと、基板と、を提供する工程a)と、
前記基板の上に液体のインプリント層を被せる工程b)と、
前記基板に前記モールドを押印する工程であって、前記インプリント層は、前記モールドと前記基板との間に基材を形成し、且つ前記凹槽内の所定の深さまで進入して前記基材上にナノ突起を形成し、前記凹槽内にもとから存在する空気は圧縮される工程c)と、
前記インプリント層を液体から固体へと固化させる工程d)と、
前記モールドを前記基板から上向きに離型させる工程であって、各前記凹槽内の圧縮された空気によって生じる反発力によって、各前記凹槽内に形成されたナノ突起を前記凹槽からスムーズに出すことが可能であり、前記基材は前記ナノ突起と共に粘着性を有する微細構造を形成する工程e)と、
を含むことを特徴とする粘着性を有する微細構造を製造する方法。
【請求項2】
更に、前記基板から前記粘着性を有する微細構造を外す工程f)を含むことを特徴とする請求項1に記載の粘着性を有する微細構造を製造する方法。
【請求項3】
前記工程a)において、前記モールドの底面には、離型剤が設けられ、前記離型剤は、前記モールドの底面及び前記凹槽の壁を覆っていることを特徴とする請求項1に記載の粘着性を有する微細構造を製造する方法。
【請求項4】
各前記凹槽の直径は、0.01〜5マイクロメートルであり、前記凹槽の深さは、前記ナノ突起の高さの2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の粘着性を有する微細構造を製造する方法。
【請求項5】
前記インプリント層は、重合体であることを特徴とする請求項1に記載の粘着性を有する微細構造を製造する方法。
【請求項6】
前記インプリント層は、重合体と有機ナノ粒子との混合物であることを特徴とする請求項1に記載の粘着性を有する微細構造を製造する方法。
【請求項7】
前記インプリント層は、重合体と無機ナノ粒子との混合物であることを特徴とする請求項1に記載の粘着性を有する微細構造を製造する方法。
【請求項8】
前記インプリント層は、重合体と有機ナノ粒子との共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の粘着性を有する微細構造を製造する方法。
【請求項9】
前記インプリント層は、重合体と無機ナノ粒子との共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の粘着性を有する微細構造を製造する方法。
【請求項10】
前記工程d)において、加熱又は紫外線照射の方式で前記インプリント層を固化させてよく、前記モールド及び前記基板は、いずれか一方が透明であることを特徴とする請求項1に記載の粘着性を有する微細構造を製造する方法。
【請求項11】
各前記凹槽はその底部から前記モールドを貫通してそれぞれ開口を形成し、前記開口は、1つのガス源に連結されることを特徴とする請求項1に記載の粘着性を有する微細構造を製造する方法。
【請求項12】
モールドの底面は、ナノメートルオーダーの複数の凹槽を有し、前記凹槽は、所定の深さを有するモールドと、基板と、を提供する工程a)と、
前記基板の上に液体状のインプリント層を被せる工程b)と、
前記基板に前記モールドを押印する工程であって、前記インプリント層は、前記モールドと前記基板との間に基材を形成し、且つ前記凹槽内の所定の深さまで進入して前記基材上にナノ突起を形成し、前記凹槽内にもとから存在する空気は圧縮される工程c)と、
前記インプリント層を液体状から固体状へと固化させる工程d)と、
前記モールドを前記基板から上向きに離型させる工程であって、各前記凹槽内の圧縮された空気によって生じる反発力によって、各前記凹槽内に形成されたナノ突起を前記凹槽からスムーズに出すことが可能であり、前記基材は前記ナノ突起と共に粘着性を有する微細構造を形成する工程e)と、
を含む製造方法に基づいて製造される粘着性を有する微細構造であって、
主に、基材と、前記基材の上に位置する前記複数のナノ突起とによって形成され、各前記ナノ突起は、直径が0.01〜5マイクロメートルであり、高さが10マイクロメートルであることを特徴とする粘着性を有する微細構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−290438(P2008−290438A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171470(P2007−171470)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(504165214)東捷科技股▲分▼有限公司 (9)
【Fターム(参考)】