説明

粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。

【課題】粘着性放熱シートを貼り付けた後に紫外線を照射することによって、粘着性放熱シートの非接触面の粘着力を大きく低下させる粘着性放熱シートを提供する。
【解決手段】粘着性樹脂組成物に紫外線を照射することによって、粘着力を低下させる粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。粘着性樹脂組成物が光硬化型重合反応によって製造されたものである粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。紫外線照射の積算光量が5000〜20000mJ/cmである粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。粘着性樹脂組成物がアクリル系樹脂45〜65体積%、無機粉末が35〜55体積%である粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘着性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子部材の高性能化に伴い、その部材の発熱密度が大きくなっており、この熱を逃がすために熱伝導性に優れた放熱シートの必要性が大きくなっている。放熱シートには、熱伝導性の他に粘着性も必要であり、アクリル系の熱伝導性粘着シートとして、例えば、特許文献1及び2に示されるような粘着シートが知られている。
しかしながら、粘着性を付与させた放熱シートであってもその粘着力が十分でないために、その放熱シートを挟み込むように別途ねじでとめる必要があり多くの手間を要している。
さらに、近年の電子部材の小型化に伴い、粘着性放熱シートを発熱部材と同じ形状で貼り付けることが困難になってきており、その結果として発熱部材よりも大きな面積で貼り付けることが多くなってきている。
このように発熱部材よりも大きな面積で粘着性放熱シートを貼り付けると、発熱部材との非接触面が粘着性を維持したままであり、この面にほこり等が付着することで絶縁不良を起こすことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−54006号公報
【特許文献2】特開2004−27039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような従来技術の問題点に鑑み、その目的とするところは、粘着性樹脂組成物を用いた粘着性放熱シートを貼り付けた後に紫外線を照射することによって、粘着性放熱シートの非接触面の粘着力を大きく低下させる粘着性放熱シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)粘着性樹脂組成物に紫外線を照射することによって、粘着力を低下させることを特徴とする粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。
(2)粘着性樹脂組成物が光硬化型重合反応によって製造されたものであることを特徴とする前記(1)に記載の粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。
(3)紫外線照射の積算光量が5000〜20000mJ/cmであることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。
(4)粘着性樹脂組成物がアクリル系樹脂組成物であり、アクリル系樹脂が(a)炭素数2〜12のアルキル基を有するアクリレート若しくはメタクリレート、または(b)式(1)で表されるアクリル系モノマーであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。
【化1】



ここでRは水素またはメチル基を表す。Rはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基を表し、Rは水素または炭素数1〜12のアルキル基または置換または非置換のフェニル基を表し、nは1〜12の整数を表す。
(5)粘着性樹脂組成物がアクリル系樹脂45〜65体積%、無機粉末が35〜55体積%であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、粘着性樹脂組成物の非接触面の粘着力を大きく低下させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の粘着性樹脂組成物に用いるアクリル系樹脂としては、(a)炭素数2−12のアルキル基を有するアクリレートまたはメタクリレート、炭素数2〜12のアクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルを用いることができる。(a)の例としてはたとえばエチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等があげられる。
【0008】
本発明の粘着性樹脂組成物に用いるアクリル系樹脂としては、(b)式(1)で表されるアクリル系モノマーを用いることができる。
【化2】



ここでRは水素またはメチル基を表す。Rはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基を表し、Rは水素または炭素数1〜12のアルキル基または置換または非置換のフェニル基を表し、nは1〜12の整数を表す。(b)の例としては2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノキシエチルアクリレート、2−エチルヘキシルカルビトールアクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、トリエチレングリコールモノアクリレート、エチレングリコールユニット繰り返し数が12以下のポリエチレングリコールモノアクリレート、エチレングリコールユニット繰り返し数が12以下のメトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、エチレングリコールユニット繰り返し数が12以下のエトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、エチレングリコールユニット繰り返し数が12以下のフェノキシポリエチレングリコールモノアクリレート、プロピレングリコールユニット繰り返し数が12以下のポリプロピレングリコールモノアクリレート、プロピレングリコールユニット繰り返し数が12以下のメトキシポリプロピレングリコールモノアクリレート、プロピレングリコールユニット繰り返し数が12以下のエトキシポリプロピレングリコールモノアクリレート、プロピレングリコールユニット繰り返し数が12以下のフェノキシポリプロピレングリコールモノアクリレート、ブチレングリコールユニット繰り返し数が12以下のポリブチレングリコールモノアクリレート、エチレングリコールユニット繰り返し数が12以下のポリエチレングリコールモノメタクリレート、プロピレングリコールユニット繰り返し数が12以下のポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ブチレングリコールユニット繰り返し数が12以下のポリブチレングリコールモノメタクリレート等が例示されるが、これに限られるものではない。
【0009】
本発明の粘着性樹脂組成物としては、(c)ポリチオールのメルカプト基が2個以上のメルカプタン化合物である、式(2)、式(3)、式(4)、式(5)で表される平均分子量が50〜15000の物質を用いることができる。
【化3】



【化4】



【化5】



式中Zはm個の官能基を有する有機残基であり、mは2−6の整数であり、pおよびqは0−3の整数である。さらに式(2)、式(3)、式(4)、式(5)の有機残基Zが式(5)、式(6)、式(7)、式(8)であるポリチオールが好ましい。
【化6】



【化7】



【化8】



【化9】



ここでRはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基を表し、v、wは1〜6の整数でx、y、zは0〜6の整数。
【0010】
本発明で使用される無機粉末としては、酸化アルミニウム、二酸化チタン等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素等の窒化物、炭化珪素、水酸化アルミニウム等が挙げられ、単独あるいは数種類を組み合わせて使用することができる。粘着性樹脂組成物を光硬化型重合反応によって作製する場合には、樹脂への光透過性を考慮して、水酸化アルミニウムまたは酸化アルミニウムが好ましい。
【0011】
粘着性樹脂組成物の樹脂と無機粉末の好ましい配合は、アクリル系樹脂45〜65体積%、無機粉末55〜35体積%である。樹脂が45体積%未満では紫外線照射前の粘着力が十分でない場合があり、また65体積%を超える場合には放熱性が十分でない場合がある。
【0012】
本発明の粘着性樹脂組成物は(a)、(b)、(c)の構成成分以外に、公知の重合性化合物や公知の多官能ビニル化合物や多官能アクリレートや多官能アリル化合物等の共重合性の架橋成分を用いることができる。
【0013】
本発明の粘着性樹脂組成物には、光硬化型重合反応に影響がないかぎり、必要に応じて公知の添加剤を任意の添加量で添加することができる。添加剤としては例えば粘度、粘性をコントロールするための各種添加物、その他、改質剤、老化防止剤、熱安定剤、着色剤などがあげられる。
【0014】
本発明の粘着性樹脂組成物は、光重合開始剤による光硬化型重合反応によって重合されることが、硬化反応制御の面から好ましい。光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、4,4−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、クロロチオキサントン、m−クロルアセトン、プロピオフェノン、アンスラキノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンジル、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2,2−ジメチルアセトフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン1−[4−(2−ヒドロキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンなどが挙げられるが、これらに限定されるものでない。但し、可視光に吸収波長を有する光開始剤は塗料の貯蔵安定性に欠けることから、可視光に吸収を持たないベンゾフェノン、1-ヒドロキシ‐シクロへキシル‐フェニルケトンを用いることが好ましい。これらの光開始剤は単独で用いても、混合して用いてもよい。
【0015】
硬化促進剤は、前記光重合開始剤と反応し、ラジカルを発生する公知の硬化促進剤であれば使用できる。代表的な硬化促進剤としては例えば、第3級アミン、チオ尿素誘導体及び遷移金属塩等が挙げられる。第3級アミンとしては例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン及びN,N−ジメチル−p−トルイジン等が挙げられる。チオ尿素誘導体としては例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール、メチルチオ尿素、シブチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素及びエチレンチオ尿素等が挙げられる。遷移金属塩としては例えば、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅及びバナジルアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0016】
粘着性樹脂組成物の粘着力を低下させるために必要な紫外線照射の積算光量は5000〜20000mJ/cmが望ましい。5000mJ/cm以下の積算光量であると粘着力の低下が不十分な場合がある。また、20000mJ/cm以上の積算光量であると、粘着性樹脂組成物の劣化を促進する恐れがある。
ここで言う紫外線とは光の波長が10〜400nmの光のことを指す。
【0017】
紫外線照射後の粘着性樹脂組成物のシートの粘着力は10gf以下が望ましい。10gfを超える粘着力であると、塵、ほこり等が付着する可能性が高くなる。
【0018】
各構成材料の混合方法は、特に限定されるのもではないが、少量の場合は手混合も可能であるが、万能混合機、プラネタリーミキサー、ハイブリッドミキサー、ヘンシェルミキサー、ニーダー、ボールミル、ミキシングロール等の一般的な混合機が用いられる。
混合に際して、各成形方法に適する混合物とするため、水、トルエン、アルコール等の各種溶剤を添加することもできる。
【0019】
本発明の粘着性樹脂組成物のシートへの加工方法としては、従来公知の方法、例えば、コーター法、ドクターブレード法、押出成形法、射出成形法、プレス成形法等の各種成形法を用いることができる。なお、基材補強方法としては、本発明のシートが両面粘着性を有している場合には、シートと基材を通常のラミネート法、プレス法など公知の積層方法を用いて積層させることが可能であるが、コーター法などで使用する基材としてこれら補強用基材を使用し、直接作製しても良い。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
(実施例1〜8)
表1の実施例1〜8に記載の各材料を自公転式ミキサーで混合し、スラリー状の混合物を作製した。そのスラリーを2枚の紫外線透過型PET(Polyethylene Telephthalate)ライナー(以下「PETライナー」と記す)で挟持し、ラミネート成形後、ブラックライト(ニッポ社製FL15BLB)にて紫外線を照射し硬化させ、シート状成形体(厚み0.25mm)を得た。その後無電極放電ランプ(フュージョン社製)にて紫外線を照射した。
【0022】
(比較例1〜2)
表2の比較例1〜2に記載の各材料を自公転式ミキサーで混合し、スラリー状の混合物を作製した。そのスラリーを2枚の紫外線透過型PET(Polyethylene Telephthalate)ライナー(以下「PETライナー」と記す)で挟持し、ブラックライト(ニッポ社製FL15BLB)にて紫外線を照射し硬化させ、シート状成形体(厚み0.25mm)を得た。その後無電極放電ランプ(フュージョン社製)にて紫外線を照射した。
【0023】
下記に粘着力の試験方法について説明する。
試験機はRHESCA社のタッキング試験機を使用した。測定温度は23℃環境下で、測定接触部(プローブ)は直径5mmを使用した。進入速度120mm/分、加圧荷重10gf、加圧時間0.1秒、測定速度600mm/分にて測定し、同一サンプルの異なる場所を10回測定後、その平均値を粘着力とした。
【0024】
下記に熱抵抗測定について説明する。
熱抵抗測定はASTM D5470に準拠した。銅製間に測定サンプル(10mm×10mm)を挟み、上部から1kg荷重をかけ、サンプル上部の温度が80℃になるように電力調整する。そのときのサンプル上下間の温度差を測定し下記式(9)より熱抵抗を算出した。
【数1】



【0025】
【表1】



【0026】
表1及び表2の使用材料の品種に関する注釈を以下に示す。
*1 商品名(アクリルゴム、日本ゼオン社製)
*2 商品名(アクリル酸2−エチルヘキシルアクリレート、東亜合成社製)
*3 商品名(アクリル酸2−ヒドロキシエチルアクリレート、東亜合成社製)
*4 東亞合成社製
*5 商品名(1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、共栄社化学社製)
*6 商品名(1,8−ジメルカプト−3,6−ジオキサオクタン、丸善ケミカル社製)
*7 商品名(テトラメチロールプロパン トリス(3−メルカプトプロピオネート、
SC有機化学社製)
*8 商品名(ベンゾフェノン、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン混合物、
チバスペシャリティーケミカルズ社製)
*9 商品名(球状アルミナ、電気化学工業社製、平均粒子径 D50=7μm)
*10 商品名(水酸化アルミニウム、住友化学社製、平均粒子径 D50=50μm)
*11 商品名(水酸化アルミニウム、住友化学社製、平均粒子径 D50=0.25μm)
【0027】
実施例が示すように、本願発明の粘着性樹脂組成物シートの紫外線照射後の粘着力は、10gf以下と比較例に対して極めて低いものである。なお、実施例5の粘着性樹脂組成物シートは紫外線が照射された箇所が黄変していたので、紫外線照射の積算光量が多すぎると、粘着性樹脂組成物シートには好ましくない。
本発明の粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法は、実施例と比較例から、優れた効果を示していることがわかる。本発明の粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法により、粘着性樹脂組成物シートの非粘着化も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法は、電子部品のみならず放熱性と粘着性が求められるあらゆる分野での応用が期待される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着性樹脂組成物に紫外線を照射することによって、粘着力を低下させることを特徴とする粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。
【請求項2】
粘着性樹脂組成物が光硬化型重合反応によって製造されたものであることを特徴とする請求項1に記載の粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。
【請求項3】
紫外線照射の積算光量が5000〜20000mJ/cmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。
【請求項4】
粘着性樹脂組成物がアクリル系樹脂組成物であり、アクリル系樹脂が(a)炭素数2〜12のアルキル基を有するアクリレート若しくはメタクリレート、または(b)式(1)で表されるアクリル系モノマーであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。
【化1】



ここでRは水素またはメチル基を表す。Rはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基を表し、Rは水素または炭素数1〜12のアルキル基または置換または非置換のフェニル基を表し、nは1〜12の整数を表す。
【請求項5】
粘着性樹脂組成物がアクリル系樹脂45〜65体積%、無機粉末が35〜55体積%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘着性樹脂組成物の粘着力低下方法。


【公開番号】特開2012−177004(P2012−177004A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39486(P2011−39486)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】