説明

粘着性組成物、粘着剤および粘着シート

【課題】粘着剤層形成後のエージングが不要で、粘着剤層の薄膜化が可能であり、粘着剤層の応力緩和性に富み、かつリワーク性に優れた粘着性組成物、粘着剤および粘着シートを提供する。
【解決手段】(A)モノマー単位として、炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル50〜99.8質量%と水酸基含有アクリル酸エステル0.2〜5質量%とを含有し、不飽和カルボン酸の含有量が0.1質量%以下である重量平均分子量80万〜200万のアクリル系ポリマーと、(B)水素引き抜き型光開始剤と、(C)シランカップリング剤とを含有し、二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーを実質的に含有せず、前記アクリル系ポリマー100質量部に対する前記水素引き抜き型光開始剤の配合量が0.6〜8質量部であり、前記アクリル系ポリマー100質量部に対する前記シランカップリング剤の配合量が0.01〜1質量部である粘着性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着性組成物、粘着剤(粘着性組成物を硬化または架橋させた材料)および粘着シートに関するものであり、特に、偏光板等の光学部材用として好適な粘着性組成物、粘着剤および粘着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置として、液晶表示装置(LCD)が広く利用されているが、その液晶表示装置を構成する光学部品として、液晶セルが用いられている。液晶セルは、一般に配向層を形成した2枚の透明電極基板の配向層を内側にして、スペーサにより所定の間隔になるように配置し、その周辺をシールして、2枚の透明電極基板の間に液晶材料を挟持したものである。通常、液晶セルにおける2枚の透明電極基板の外側には、それぞれ粘着剤を介して偏光板が接着される。
【0003】
偏光板は、一般的にポリビニルアルコール系偏光子の両面に、光学的等方性フィルム、例えばトリアセチルセルロース(TAC)フィルムなどを貼り合わせた3層講造を有する偏光フィルムからなり、さらにその片面には、上記透明電極基板等に貼着することを目的に粘着剤層が設けられており、通常、粘着剤付き偏光板として使用される。
【0004】
上記の粘着剤層を形成するための粘着性組成物には、一般的に耐久性を向上させるために架橋剤を添加し、架橋処理を施すことにより粘着剤層を形成しているが、イソシアナート系架橋剤やエポキシ系架橋剤などでは塗工乾燥後に架橋が完了しておらず、完全に架橋させるには、その後、通常3日から1週間程度のエージングが必要である。
【0005】
粘着剤付き偏光板を液晶セルに貼り付ける前には、打ち抜き加工やスリット加工のような各種加工処理がなされるが、このような加工を行うときに、上記のエージングを十分に行っていないと、切断刃に粘着剤が付着したり、切断した部材の切断面から粘着剤がはみ出し、当該部材を重ね合わせたときに上下の部材が互いに接着したりするという問題が生じる。一方、エージング促進のために加温処理を行うと、偏光板や位相差板の寸法変化が生じ、光学的な歪みが生じやすくなる。
【0006】
エージング処理は、上記のように長時間を有するため、生産性を著しく阻害していた。すなわち、粘着剤付き光学部材が製造された後、エージング処理なしに上記のような加工が速やかにできることは、生産性の面で非常に有利である。
【0007】
エージングが不要である粘着性組成物として、特許文献1には、活性エネルギー線照射により硬化する成分を含むノンソルベントタイプの高粘度粘着性樹脂組成物が提案されており、特許文献2には、(A)アルキル(メタ)アクリレート及び極性基を有するビニルモノマーと、(B)多官能性ビニルモノマーと、(C)光重合開始剤とを含む光重合性組成物が提案されており、特許文献3には、過酸化物を含む粘着性組成物を使用し、熱により主鎖を結合させる手法が提案されており、特許文献4には、アクリル酸系の主剤に対して、光架橋剤としてラジカル発生点を分子中に複数個有する多官能型光架橋剤を添加した粘着性組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−59577号公報
【特許文献2】特開平9−137138号公報
【特許文献3】特開2005−307034号公報
【特許文献4】特開2005−48003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1,2に記載の粘着性樹脂組成物を用いた場合には、無溶剤であるため硬化時間が短いという利点があるが、粘度調整が難しい、硬化収縮が大きくなり過ぎる、残存モノマーが発生しやすい、などの問題点がある。また、酸素による重合阻害を抑制するために、不活性ガス雰囲気にするか、カバーフィルムによる被覆が必要であり、作業効率上好ましくない。さらに近年、液晶ディスプレイの薄型化が要求されており、光学部材用の粘着剤層も薄いものが主流となりつつあるが、特許文献1,2に記載の粘着性樹脂組成物では高粘度であるために薄膜塗工が困難であり、モノマーの量を増やして粘度を下げると硬化収縮が大きくなり光学歪みを生じてしまうので、光重合タイプの薄膜粘着層を精度よく形成することは困難である。さらにまた、特許文献1,2に記載の粘着性樹脂組成物では多官能アクリレートを使用するが、この多官能アクリレートを使用して得られる粘着剤層では、貯蔵弾性率が高くなるため、応力緩和性に乏しく、それに起因して、偏光板にて光漏れが生じやすくなる等の問題が生じる。
【0010】
また、特許文献3に記載の発明では、熱により架橋を進行させるため、生産性は十分に良好ではなく、かつ光学フィルム(特に偏光板)への熱によるダメージも大きい。さらに、特許文献4に記載の発明では、アクリル酸系の主剤を用いることで、貼付後の経時で粘着力が上昇する傾向があるため、リワーク性に劣るという問題がある。
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、粘着剤層形成後のエージングが不要で、粘着剤層の薄膜化が可能であり、粘着剤層の応力緩和性に富み、かつリワーク性に優れた粘着性組成物、粘着剤および粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、(A)モノマー単位として、炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル50〜99.8質量%と水酸基含有アクリル酸エステル0.2〜5質量%とを含有し、不飽和カルボン酸の含有量が0.1質量%以下である重量平均分子量80万〜200万のアクリル系ポリマーと、(B)水素引き抜き型光開始剤と、(C)シランカップリング剤とを含有し、二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーを実質的に含有せず、前記アクリル系ポリマー100質量部に対する前記水素引き抜き型光開始剤の配合量が0.6〜8質量部であり、前記アクリル系ポリマー100質量部に対する前記シランカップリング剤の配合量が0.01〜1質量部であることを特徴とする粘着性組成物を提供する(発明1)。
【0013】
上記発明(発明1)に係る粘着性組成物においては、水素引き抜き型光開始剤(B)の存在下での紫外線の照射により、アクリル系ポリマー(A)同士が直接架橋し、その架橋は速やかに行われるため、エージングの必要がない。また、アクリル系ポリマー(A)同士が直接架橋すると、貼付後の経時による粘着力の上昇が抑制されるため、得られる粘着剤はリワーク性に優れたものとなる。さらに、上記発明(発明1)に係る粘着性組成物においては、二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーを実質的に含有しないことで、得られる粘着剤層が応力緩和性に富んだものとなる。さらにまた、上記発明(発明1)に係る粘着性組成物の塗工には溶剤の使用が可能であるため、粘着剤層を薄膜で形成することができる。
【0014】
上記発明(発明1)においては、(D)イソシアナート系架橋剤をさらに含有することが好ましい(発明2)。
【0015】
第2に本発明は、前記粘着性組成物(発明1,2)に、紫外線を照射してなる粘着剤を提供する(発明3)。
【0016】
第3に本発明は、基材と、粘着層とを備えた粘着シートであって、前記粘着層は、前記粘着性組成物(発明1,2)または前記粘着剤(発明3)からなることを特徴とする粘着シートを提供する(発明4)。
【0017】
上記発明(発明4)において、前記基材は、光学部材であることが好ましい(発明5)。
【0018】
第4に本発明は、2枚の剥離シートと、前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持された粘着層とを備えた粘着シートであって、前記粘着層は、前記粘着性組成物(発明1,2)または前記粘着剤(発明3)からなることを特徴とする粘着シートを提供する(発明6)。
【発明の効果】
【0019】
本発明の粘着性組成物、粘着剤および粘着シートによれば、粘着剤層形成後のエージングが不要で、粘着剤層の薄膜化が可能であり、粘着剤層の応力緩和性に富み、かつリワーク性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る粘着シートの断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る粘着シートの断面図である。
【図3】粘着剤層付き偏光板における光漏れ性試験の測定領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔粘着性組成物〕
本実施形態に係る粘着性組成物は、
(A)モノマー単位として、炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル50〜99.8質量%と水酸基含有アクリル酸エステル0.2〜5質量%とを含有し、不飽和カルボン酸の含有量が0.1質量%以下である重量平均分子量80万〜200万の、主剤ポリマーとしてのアクリル系ポリマーと、
(B)水素引き抜き型光開始剤と、
(C)シランカップリング剤と
を含有し、二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーを実質的に含有しない。
【0022】
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの両方を意味する。他の類似用語も同様である。
【0023】
アクリル系ポリマー(A)のモノマー単位である炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルとしては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
(メタ)アクリル酸アルキルが有するアルキル基の炭素数を4以上とすることにより、得られるアクリル系ポリマー(A)のガラス転移温度を低く抑えることができる。これによって、得られる粘着剤層を、応力緩和性に優れたものとすることができる。さらに、アルキル基の炭素数は、4〜16であることが特に好ましい。アルキル基の炭素数が16を超える場合、得られる粘着剤層の架橋密度に悪影響を与えるおそれがあるからである。
【0025】
アクリル系ポリマー(A)中におけるモノマー単位としての上記(メタ)アクリル酸アルキルの含有量は、50〜99.8質量%であり、好ましくは70〜99質量%である。上記(メタ)アクリル酸アルキルの含有量が50質量%以上であることで、光学部材用として好適な粘着力が得られる。一方、上記(メタ)アクリル酸アルキルの含有量の上限は、水酸基含有アクリル酸エステルの最低配合量が確保できる量として規定される。
【0026】
水酸基含有アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
このように、アクリル酸エステルとして水酸基含有アクリル酸エステルを使用することで、水素引き抜き型光開始剤(B)との組み合わせにより、本実施形態に係る粘着性組成物に対して紫外線を照射したときに、水素引き抜き型光開始剤(B)で発生したラジカルが、アクリル系ポリマー(A)中の主鎖骨格等の炭素に結合した水素を引き抜き、当該アクリル系ポリマー(A)中にラジカルを発生させ、アクリル系ポリマー(A)同士が直接架橋することとなる。この架橋は速やかに行われるため、一般的な架橋剤(イソシアナート系架橋剤、エポキシ系架橋剤等)のみを使用した場合のように長期間かけて架橋が進行するということがなく、したがって、当該粘着性組成物から得られる粘着剤は、エージングの必要がない。また、上記のように主剤ポリマーとしてのアクリル系ポリマー(A)同士が直接架橋すると、貼付後の経時による粘着力の上昇が抑制されるため、得られる粘着剤はリワーク性に優れたものとなる。
【0028】
アクリル系ポリマー(A)中におけるモノマー単位としての水酸基含有アクリル酸エステルの含有量は、0.2〜5質量%であり、好ましくは0.5〜3質量%である。水酸基含有アクリル酸エステルの含有量が0.2質量%以上であると、上記の水素引き抜き反応機構が働くとともに、架橋が十分となり、耐久性が良好となる。一方、水酸基含有アクリル酸エステルの含有量が5質量%以下であると、架橋性が高くなりすぎることによる、被着体、例えば液晶ガラスセル等への貼合適性の低下がなく好ましい。
【0029】
ここで、一般的には、アクリル系ポリマー(A)のモノマー単位として、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸が使用されることが多い。しかし、不飽和カルボン酸を使用すると、アクリル系ポリマー(A)の貼付後の経時により粘着力が大きく上昇して、リワーク性に劣ることとなる。したがって、本実施形態に係る粘着性組成物におけるアクリル系ポリマー(A)は、モノマー単位としての不飽和カルボン酸の含有量を0.1質量%以下に規定している。
【0030】
アクリル系ポリマー(A)は、上記(メタ)アクリル酸アルキルおよび水酸基含有アクリル酸エステル以外のモノマー単位として、他の重合可能なモノマーを含んでいてもよい。かかる重合可能なモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン等のアミド系モノマー;N−(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクリロイル−6−オキシヘキサメチレンスクシンイミド等のスクシンイミド系モノマー;酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、スチレン等のビニルモノマー;シリコーン(メタ)アクリレート、フッ素(メタ)アクリレート等のアクリル酸エステル系モノマー等が好ましく挙げられる。
【0031】
アクリル系ポリマー(A)の重量平均分子量は、80万〜220万であり、好ましくは130万〜200万である。なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値である。アクリル系ポリマー(A)の重量平均分子量が80万以上であると、高温・湿熱条件下での接着耐久性が十分となり、浮きや剥がれなどが生じない。また、アクリル系ポリマー(A)の重量平均分子量が220万以下であると、塗工性が良好となり、厚み精度の高い粘着層を薄膜で形成することが可能となる。
【0032】
アクリル系ポリマー(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比率を表す分子量分布(Mw/Mn)は20以下が好ましい。分子量分布が20以下であると低分子量体成分の割合が少なく、高温下などの使用環境においても十分な接着耐久性が得られる。一方、分子量分布の下限値については、性能上の制限は特にないが、製造コストを考慮すると2以上が好ましい。
【0033】
アクリル系ポリマー(A)の共重合形態については特に制限はなく、ランダム、ブロック、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0034】
水素引き抜き型光開始剤(B)としては、例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、P,P’−ジメトキシベンゾフェノン、P,P’−ジクロルベンゾフェノン、P,P’−ジメチルベンゾフェノン、アセトナフトン等の芳香族ケトン類が挙げられる。その他にも、テレフタルアルデヒド等の芳香族アルデヒド、メチルアントラキノン等のキノン系芳香族化合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記水素引き抜き型光開始剤(B)の中でも、ラジカル発生の容易さの観点から、特にベンゾフェノンを含有する化合物を使用することが好ましい。
【0035】
アクリル系ポリマー(A)100質量部に対する水素引き抜き型光開始剤(B)の配合量は、0.6〜8質量部であり、好ましくは、0.6〜5.0質量部である。水素引き抜き型光開始剤(B)の配合量が上記範囲内にあることにより、上記の水素引き抜き反応機構が良好に機能する。また、水素引き抜き型光開始剤(B)が大過剰に存在すると、紫外線照射では完全に消費できず、経時安定性に欠ける場合がある。
【0036】
シランカップリング剤(C)としては、分子内にアルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物であって、粘着剤成分との相溶性がよく、かつ光透過性を有するもの、例えば実質上透明なものが好適である。
【0037】
シランカップリング剤(C)の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン等の重合性不飽和基含有ケイ素化合物、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ構造を有するケイ素化合物、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有ケイ素化合物、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本実施形態に係る粘着性組成物に上記シランカップリング剤(C)を含有させることにより、例えば偏光板を液晶ガラスセルなどに貼合する場合に、粘着剤と液晶ガラスセルとの間の密着性がより良好となる。また、水素引き抜きによるアクリル系ポリマー(A)間の架橋の進行により粘着力が低下し過ぎた場合に、シランカップリング剤(C)によって粘着力の微調整が可能となる。
【0039】
アクリル系ポリマー(A)100質量部に対するシランカップリング剤(C)の配合量は、0.01〜1質量部であり、好ましくは、0.05〜0.5質量部である。シランカップリング剤(C)の配合量が上記範囲内にあることにより、上記の効果が発揮される。また、シランカップリング剤(C)の添加量が多すぎると、剥離フィルムが重剥離化したり、粘着剤層のリワーク性が悪化するおそれがある。
【0040】
ここで、本実施形態に係る粘着性組成物は、二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーを実質的に含有しない。この二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーを含有する粘着性組成物は、貯蔵弾性率が高い粘着剤となるため、応力緩和性に乏しく、それに起因して、偏光板にて光漏れが生じやすくなる等の問題が生じる。本実施形態に係る粘着性組成物は、応力緩和性を有する粘着剤になるにもかかわらず、エージングを必要としないことを特徴とする。
【0041】
二重結合を有するモノマーまたはオリゴマーの例としては、多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエステルオリゴ(メタ)アクリレート、ポリウレタンオリゴ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0042】
本実施形態に係る粘着性組成物は、好ましくは、さらに熱架橋剤としてのイソシアナート系架橋剤(D)を含有する。このイソシアナート系架橋剤(D)を含有することで、上記水素引き抜き反応機構によりアクリル系ポリマー(A)同士が直接架橋することに加えて、当該イソシアナート系架橋剤(D)がアクリル系ポリマー(A)中の水酸基含有アクリル酸エステルの水酸基と反応するため、当該イソシアナート系架橋剤(D)を介してさらに緻密な架橋構造が形成され、それにより液晶ガラスセル等の被着体との密着性が向上する。さらに、凝集力が向上することにより、耐久性も向上する。
【0043】
イソシアナート系架橋剤(D)は、少なくともポリイソシアナート化合物を含むものである。ポリイソシアナート化合物としては、トリレンジイソシアナート、ジフェニルメタンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナートなどの芳香族ポリイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナートなどの脂肪族ポリイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアナートなどの脂環式ポリイソシアナートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油などの低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体など(例えばトリメチロールプロパンアダクトキシリレンジイソシアナート等)を挙げることができる。
【0044】
上記イソシアナート系架橋剤(D)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、イソシアナート系架橋剤(D)の配合量は、アクリル系ポリマー(A)100質量部に対して、通常0.01〜20質量部、好ましくは、0.1〜10質量部である。
【0045】
上記粘着性組成物には、所望により、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えば粘着付与剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、軟化剤、充填剤などを添加することができる。
【0046】
なお、上記粘着性組成物を塗工する際には、後述するように溶剤の使用が可能であるため、従来のノンソルベントタイプの高粘度粘着性樹脂組成物と異なり、エージングが不要であるにもかかわらず、粘着剤層の薄膜化が可能である。
【0047】
〔粘着剤〕
本実施形態に係る粘着剤は、上記粘着性組成物に紫外線を照射してなるものであり、紫外線の照射により、上記粘着性組成物は架橋し、硬化する。紫外線は、高圧水銀ランプ、無電極ランプ、キセノンランプなどで得られる。
【0048】
上記粘着性組成物に対する紫外線の照射量としては、所望の粘着力および貯蔵弾性率を有する粘着剤が得られるように適宜選定されるが、照度50〜1000mW/cm、光量50〜1000mJ/cmの範囲が好ましい。
【0049】
上記粘着剤は、ゲル分率が40〜90質量%であることが好ましく、特に50〜80質量%であることが好ましい。このゲル分率が40質量%以上であれば、応力緩和性に優れ、十分な接着耐久性が得られる。また、ゲル分率が90質量%以下であれば、耐光漏れ性が良好な粘着剤となる。
【0050】
さらに、経時によるゲル分率増加の少ない粘着剤は、シーズニング性に優れる。具体的には、粘着剤形成後(本実施形態においては紫外線照射後をいう)1日経過した時のゲル分率をG1とし、粘着剤形成後7日経過後のゲル分率をG2としたときに、{(G2−G1)/G1}×100が100以下となるものが好ましく、2以下となるものが特に好ましい。なお、ゲル分率の測定方法については、後述する試験例に示す。
【0051】
上記粘着性組成物に紫外線を照射すると、アクリル系ポリマー(A)が速やかに架橋するため、長期間かけて架橋が進行するということがなく、得られる粘着剤はエージングの必要がない。また、上記粘着性組成物に紫外線を照射すると、主剤ポリマーとしてのアクリル系ポリマー(A)同士が直接架橋するため、貼付後の経時による粘着力の上昇が抑制され、したがって、得られる粘着剤はリワーク性に優れたものとなる。さらに、上記粘着性組成物は、二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーを実質的に含有しないため、紫外線照射によって、応力緩和性に富む粘着剤が得られる。
【0052】
上記のようにして得られる粘着剤は、光学部材用として好ましく用いることができ、例えば、偏光板と位相差板との接着、あるいは偏光板(偏光フィルム)や位相差板(位相差フィルム)をガラス基板に接着するのに好適である。
【0053】
〔粘着シート〕
図1に示すように、第1の実施形態に係る粘着シート1Aは、下から順に、剥離シート12と、剥離シート12の剥離面に積層された粘着層11と、粘着層11に積層された基材13とから構成される。
【0054】
また、図2に示すように、第2の実施形態に係る粘着シート1Bは、2枚の剥離シート12a,12bと、それら2枚の剥離シート12a,12bの剥離面と接するように当該2枚の剥離シート12a,12bに挟持された粘着層11とから構成される。なお、本明細書における剥離シートの剥離面とは、剥離シートにおいて剥離性を有する面をいい、剥離処理を施した面および剥離処理を施さなくても剥離性を示す面のいずれをも含むものである。
【0055】
いずれの粘着シート1A,1Bにおいても、粘着層11は、前述した粘着性組成物、または当該粘着性組成物に紫外線を照射してなる粘着剤からなる。
【0056】
粘着層11の厚さは、粘着シート1A,1Bの使用目的に応じて適宜決定されるが、通常5〜100μm、好ましくは10〜60μmの範囲であり、例えば、光学部材、特に偏光板用の粘着層として使用する場合には、10〜50μm、特に10〜30μmであることが好ましい。前述した粘着性組成物を使用することで、このように粘着層11を薄膜化することが可能である。
【0057】
基材13としては、特に制限は無く、通常の粘着シートの基材シートとして用いられているものは全て使用できる。例えば、所望の光学部材の他、レーヨン、アクリル、ポリエステル等の繊維を用いた織布または不織布;上質紙、グラシン紙、含浸紙、コート紙等の紙類;アルミ、銅等の金属箔;ウレタン発泡体、ポリエチレン発泡体等の発泡体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリウレタンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム等のプラスチックフィルム;これらの2種以上の積層体などを挙げることができる。プラスチックフィルムは、一軸延伸または二軸延伸されたものでもよい。
【0058】
光学部材としては、例えば、偏光板(偏光フィルム)、偏光子、位相差板(位相差フィルム)、視野角補償フィルム、輝度向上フィルム、コントラスト向上フィルム等が挙げられる。中でも偏光板(偏光フィルム)は、収縮し易く、寸法変化が大きいため、耐光漏れ性の観点から、上記粘着層11を形成する対象として好適である。
【0059】
基材13の厚さは、その種類によっても異なるが、例えば光学部材の場合には、通常10μm〜500μmであり、好ましくは50μm〜300μmである。
【0060】
剥離シート12,12a,12bとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、液晶ポリマーフィルム等が用いられる。また、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらの積層フィルムであってもよい。なお、剥離シート12,12a,12b上から粘着性組成物に紫外線を照射して粘着剤とする場合もあることから、剥離シート12,12a,12bは紫外線透過性を有するものが好ましい。
【0061】
上記フィルム表面(特に粘着層11と接する面)には、剥離処理が施されていてもよい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。
【0062】
剥離シート12,12a,12bの厚さについては特に制限はないが、通常20〜150μm程度である。
【0063】
上記粘着シート1Aを製造するには、剥離シート12の剥離面に、上記粘着性組成物を含む溶液を塗布して粘着層11を形成した後、その粘着層11に基材13を積層し、所望により、基材13の積層前又は積層後に、上記粘着層11に対して紫外線を照射する(この段階で粘着層11は粘着剤層となる)。なお、紫外線の照射は、被着体への貼付後であってもよい。紫外線の照射条件については、前述したとおりである。
【0064】
また、上記粘着シート1Bを製造するには、一方の剥離シート12a(または12b)の剥離面に、上記粘着性組成物を含む塗布溶液を塗布して粘着層11を形成した後、その粘着層11に他方の剥離シート12b(または12a)の剥離面を重ね合わせ、所望により、他方の剥離シート12b(または12a)の積層前又は積層後に、上記粘着層11に対して紫外線を照射する(この段階で粘着層11は粘着剤層となる)。この場合も、紫外線の照射は、一方の剥離シートを剥がして被着体に貼付した後であってもよい。
【0065】
粘着性組成物を希釈して塗布溶液とするための溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル、エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤などが用いられる。
【0066】
このようにして調製された塗布溶液の濃度・粘度としては、コーティング可能な範囲であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。なお、塗布溶液を得るに際して、希釈溶剤等の添加は必要条件ではなく、粘着性組成物がコーティング可能な粘度等であれば、溶剤を添加しなくてもよい。この場合、粘着性組成物がそのまま塗布溶液となる。
【0067】
粘着層11を形成する方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などを用いて、粘着性組成物をコーティングして塗膜を形成させ、乾燥させる方法を用いることができる。乾燥条件は特に制限されないが、通常50〜150℃で10秒〜10分程度である。
【0068】
ここで、例えば、液晶セルと偏光板とから構成される液晶表示装置を製造するには、粘着シート1Aの基材13として偏光板を使用し、当該粘着シート1Aの剥離シート12を剥離して、露出した粘着層11と液晶セルとを貼合すればよい。
【0069】
また、例えば、液晶セルと偏光板との間に位相差板が配置される液晶表示装置を製造するには、基材13として偏光板を使用した粘着シート1Aの剥離シート12を剥離して、露出した粘着層11と位相差板とを貼合し、さらに、粘着シート1Bの一方の剥離シート12a(または12b)を剥離して、露出した粘着層11と上記位相差板とを貼合し、次いで他方の剥離シート12b(または12a)を剥離して、露出した粘着層11と液晶セルとを貼合すればよい。
【0070】
以上の粘着シート1A,1Bにおいては、紫外線を照射した粘着層11(粘着剤層)がエージングを必要としないため、紫外線照射後、すぐに打ち抜き加工やスリット加工等の各種加工処理を行っても、切断刃に粘着剤が付着したり、加工した粘着シート1A,1Bの切断面から粘着剤がはみ出したりすることが防止される。したがって、上記粘着シート1A,1Bは、生産性の面で非常に優れている。
【0071】
また、上記粘着シート1A,1Bにおける粘着剤層は、貼付後の経時による粘着力の上昇が抑制されるため、当該粘着シート1A,1Bはリワーク性に優れる。さらに、上記粘着シート1A,1Bにおける粘着剤層は、応力緩和性に富むものであるため、偏光板等の光学部材に使用したときに、優れた耐光漏れ性等が発揮される。
【0072】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0073】
例えば、粘着シート1Aの剥離シート12は省略されてもよいし、粘着シート1Bにおける剥離シート12a,12bのいずれか一方は省略されてもよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0075】
〔実施例1〕
アクリル酸ブチル(BA)とアクリル酸4−ヒドロキシブチル(4HBA)とを質量比99:1の割合で用いて常法に従って重合し、重量平均分子量約180万のアクリル系ポリマーを製造した。
【0076】
次に、上記アクリル系ポリマー100質量部に対して、水素引き抜き型光開始剤としてベンゾフェノン(関東化学社製)1.00質量部と、シランカップリング剤として3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製,KBE−9007)0.2質量部とを混合した粘着性組成物を、メチルエチルケトンにて固形分濃度14%となるように希釈しこれを粘着性組成物の塗布溶液とした。なお、当該粘着性組成物の配合を表1に示す(以下同じ)。
【0077】
得られた塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した剥離シート(リンテック社製,SP−PET3811,厚さ:38μm)の剥離処理面に、乾燥後の厚さが25μmになるようにナイフコーターで塗布したのち、90℃で1分間乾燥処理して粘着層を形成した。
【0078】
次いで、ディスコティック液晶層付偏光フィルムからなる、偏光フィルムと視野角拡大フィルムとが一体化した偏光板を、粘着層とディスコティック液晶層とが接するように貼合した。貼合してから30分後に剥離フィルム側から、紫外線(UV)を下記の条件で照射し、粘着剤層付き偏光板を作製した。
<UV照射条件>
・フュージョン社製無電極ランプ Hバルブ使用
・照度600mW/cm、光量150mJ/cm
なお、UV照度・光量計としては、アイグラフィックス社製「UVPF−36」を使用した。
【0079】
〔実施例2〕
水素引き抜き型光開始剤の添加量を1.50質量部に変更する以外、実施例1と同様にして粘着剤層付き偏光板を作製した。
【0080】
〔実施例3〕
水素引き抜き型光開始剤の添加量を2.00質量部に変更する以外、実施例1と同様にして粘着剤層付き偏光板を作製した。
【0081】
〔実施例4〕
アクリル酸ブチル(BA)とアクリル酸2−ヒドロキシルエチル(HEA)とを質量比98.5:1.5の割合で用いて常法に従って重合し、重量平均分子量約180万のアクリル系ポリマーを製造した。このアクリル系ポリマーを使用し、水素引き抜き型光開始剤の添加量を1.50質量部に変更する以外、実施例1と同様にして粘着剤層付き偏光板を作製した。
【0082】
〔実施例5〕
実施例1にて調製したアクリル系ポリマー100質量部に対して、水素引き抜き型光開始剤としてベンゾフェノン(関東化学社製)0.75質量部と、シランカップリング剤として3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製,KBE−9007)0.2質量部と、熱架橋剤としてトリメチロールプロパンアダクトキシリレンジイソシアナート(三井武田ケミカル社製,タケネートD−110N)0.05質量部とを混合した粘着性組成物を、メチルエチルケトンにて固形分濃度14%となるように希釈しこれを粘着性組成物の塗布溶液とした。この塗布溶液を使用する以外、実施例1と同様にして粘着剤層付き偏光板を作製した。
【0083】
〔実施例6〕
水素引き抜き型光開始剤の添加量を0.75質量部に変更する以外、実施例1と同様にして粘着剤層付き偏光板を作製した。
【0084】
〔比較例1〕
水素引き抜き型光開始剤の添加量を0.00質量部に変更する(水素引き抜き型光開始剤を添加しない)以外、実施例1と同様にして粘着剤層付き偏光板を作製した。
【0085】
〔比較例2〕
水素引き抜き型光開始剤の添加量を0.50質量部に変更する以外、実施例1と同様にして粘着剤層付き偏光板を作製した。
【0086】
〔比較例3〕
アクリル酸ブチル(BA)とアクリル酸(AA)とを質量比95:5の割合で用いて常法に従って重合し、重量平均分子量約180万のアクリル系ポリマーを製造した。このアクリル酸エステル共重合を使用し、水素引き抜き型光開始剤の添加量を1.50質量部に変更し、シランカップリング剤として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製,KBM−403)を使用する以外、実施例1と同様にして粘着剤層付き偏光板を作製した。
【0087】
〔比較例4〕
水素引き抜き型光開始剤の添加量を10.00質量部に変更する以外、実施例1と同様にして粘着剤層付き偏光板を作製した。
【0088】
〔比較例5〕
実施例1にて調製したアクリル系ポリマー100質量部に対して、シランカップリング剤として3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製,KBE−9007)0.2質量部と、熱架橋剤としてトリメチロールプロパンアダクトキシリレンジイソシアナート(三井武田ケミカル社製,タケネートD−110N)0.15質量部とを混合した粘着性組成物を、メチルエチルケトンにて固形分濃度14%となるように希釈しこれを粘着性組成物の塗布溶液とした。この塗布溶液を使用する以外、実施例1と同様にして粘着剤層付き偏光板を作製した。
【0089】
〔比較例6〕
実施例1にて調製したアクリル系ポリマー100質量部に対して、水素引き抜き型光開始剤としてベンゾフェノン(関東化学社製)0.25質量部と、シランカップリング剤として3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製,KBE−9007)0.2質量部と、熱架橋剤としてトリメチロールプロパンアダクトキシリレンジイソシアナート(三井武田ケミカル社製,タケネートD−110N)0.15質量部とを混合した粘着性組成物を、メチルエチルケトンにて固形分濃度14%となるように希釈しこれを粘着性組成物の塗布溶液とした。この塗布溶液を使用する以外、実施例1と同様にして粘着剤層付き偏光板を作製した。
【0090】
〔試験例1〕(粘着力測定)
実施例または比較例で得られた粘着剤層付き偏光板から、25mm幅、100mm長のサンプルを切り出し、剥離シートを剥がして、露出した粘着剤層を介して無アルカリガラス(コーニング社製,イーグルXG)に貼付したのち、栗原製作所社製オートクレイブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した。その後、23℃、50%RHの条件下で24時間(1日)放置してから、引張試験機(オリエンテック社製,テンシロン)を用い、JIS Z 0237に準拠して、剥離速度300mm/min、剥離角度180度の条件で粘着力(N/25mm)を測定した。
【0091】
さらに、23℃、50%RHの条件下で7日および14日放置してから、上記と同様にして粘着力(N/25mm)を測定した。結果を表1に示す。なお、好ましい粘着力の範囲は、1〜10N/25mmである。
【0092】
〔試験例2〕(ゲル分率の測定)
実施例または比較例で形成した粘着層の露出面に、偏光フィルムの替わりに、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した剥離シート(リンテック社製,SP−PET3801,厚さ:38μm)をその剥離処理面が粘着層に接するように積層し、剥離シート/粘着層/剥離シートの構成からなる粘着シートを作製した。その後、粘着剤層付き偏光板を得る場合と同様の条件で紫外線を照射し、粘着層を粘着剤層とした。
【0093】
上記のようにして得られた剥離シート/粘着剤層/剥離シートの構成からなる粘着シートを、23℃、50%RHの条件下で、24時間(1日)および7日間放置し、これをサンプルとした。このサンプル(粘着剤層の厚さ:25μm)を80mm×80mmのサイズに裁断して、両面の剥離シートを剥し、ポリエステル製メッシュ(メッシュサイズ200)に包み、粘着剤のみの質量を精密天秤にて秤量した。このときの質量をM1とする。
【0094】
ソックスレーを用いて、酢酸エチル溶剤に粘着剤のサンプルを浸漬させて還流を行い、16時間処理した。その後粘着剤を取り出し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間風乾させ、さらに80℃のオーブン中にて12時間乾燥させた。乾燥後の粘着剤のみの質量を、精密天秤にて秤量した。このときの質量をM2とする。ゲル分率(%)は、(M2/M1)×100で表される。結果を表1に示す。
【0095】
〔試験例3〕(光学性能の測定)
実施例または比較例で形成した粘着層の露出面に、偏光フィルムの替わりに、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した剥離シート(リンテック社製,SP−PET3801,厚さ:38μm)をその剥離処理面が粘着層に接するように積層し、剥離シート/粘着層/剥離シートの構成からなる粘着シートを作製した。その後、粘着剤層付き偏光板を得る場合と同様の条件で紫外線を照射し、粘着層を粘着剤層とした。
【0096】
上記のようにして得られた剥離シート/粘着剤層/剥離シートの構成からなる粘着シートから両面の剥離シートを剥し、露出した粘着剤層(厚さ:25μm)について、ヘイズメーター(日本電色工業社製,NDH2000)を用いて、JIS K7105に準じて全光線透過率(TT;%)およびヘイズ値(%)を測定した。結果を表1に示す。なお、好ましい全光線透過率の範囲は、88〜90%であり、好ましいヘイズ値の範囲は、0〜1.0%である。
【0097】
〔試験例4〕(耐久性評価)
実施例または比較例で得られた粘着剤層付き偏光板を、紫外線を照射してから、23℃、50%RHの条件下で7日間放置した後、裁断装置(荻野製作所社製スーパーカッター,PN1−600)を用いて233mm×309mmサイズに調整した。剥離シートを剥がして、露出した粘着剤層を介して無アルカリガラス(コーニング社製,イーグルXG)に貼付したのち、栗原製作所製オートクレイブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した。
【0098】
その後、下記の各耐久条件の環境下に投入し、500時間後に10倍ルーペを用いて観察を行った。外観変化は以下を基準とした。結果を表1に示す。
○:4辺において、外周端部から0.6mm以上の部位に欠点が無いもの
×:4辺の少なくとも1辺において、外周端部から0.6mm以上の部位に、浮き、剥がれ、発泡、スジなどの0.1mm以上の粘着剤の外観異常欠点があるもの
<耐久条件>
・80℃dry
・60℃,相対湿度90%
・−35℃⇔70℃の各30分のヒートショック試験,200サイクル
【0099】
〔試験例5〕(光漏れ性試験)
実施例または比較例で得られた粘着剤層付き偏光板を、紫外線を照射してから、23℃、50%RHの条件下で7日間放置した後、裁断装置(荻野製作所社製スーパーカッター,PN1−600)を用いて233mm×309mmサイズに調整した。剥離シートを剥がして、露出した粘着剤層を介して無アルカリガラス(コーニング社製,イーグルXG)に貼付したのち、栗原製作所製オートクレイブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した。なお、上記貼合は、無アルカリガラスの表裏に、粘着剤層付き偏光板を偏光軸がクロスニコル状態になるように行った。この状態で、80℃dry環境下にて500時間放置後、以下に示す方法で光漏れ性を評価した。結果を表1に示す。
【0100】
<光漏れ性評価>
大塚電子社製のMCPD−2000を用い、図3に示す各領域の明度を測定し、明度差ΔL*を、式
ΔL*=[(b+c+d+e)/4]−a
(ただし、a、b、c、d及びeは、それぞれA領域、B領域、C領域、D領域及びE領域のあらかじめ定められた測定点(各領域の中央部1箇所)における明度である。)で求め、光漏れ性とした。ΔL*の値が小さいほど光漏れが少ないことを示す。
【0101】
〔試験例6〕(加工性評価)
粘着性組成物を塗工して紫外線を照射した直後の粘着剤層付き偏光板を裁断装置(荻野製作所社製,スーパーカッター,PN1−600)で切断した際に、糊欠けや切断刃への粘着剤転移を確認した。以下を基準として、加工性の評価を行った。結果を表1に示す。
○:問題なく切断でき、糊欠けや切断刃への粘着剤転移が見られなかった。
×:粘着剤層がきれいに切断できず、切断刃への粘着剤転移が確認された。
【0102】
【表1】

【0103】
表1より、実施例の粘着剤層付き偏光板は、加工性に優れており、エージングが不要であることが分かる。また、貼付後の経時による粘着力の上昇が抑制され、いずれも10N/25mm未満となっており、リワーク性に優れていた。さらには、粘着剤のゲル分率が好ましい範囲に入っており、耐久性および耐光漏れ性にも優れていた。
【0104】
これに対し、比較例1,2の粘着剤層付き偏光板は加工性が悪く、また、ゲル分率が好ましい範囲より低過ぎることから、耐久性に劣るものであった。比較例3の粘着剤層付き偏光板は、粘着力自体および貼付後の経時による粘着力の上昇が大きく、したがってリワーク性が悪いものであった。比較例4の粘着剤層付き偏光板の粘着剤のゲル分率は高過ぎて、応力緩和性に劣り、したがって耐光漏れ性が悪いものであった。比較例5の粘着剤層付き偏光板は、加工性が悪いものであった。比較例6の粘着剤層付き偏光板は加工性が悪く、また、粘着剤のゲル分率が高過ぎて応力緩和性に劣り、したがって耐光漏れ性が悪いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の粘着性組成物および粘着剤は、光学部材、例えば偏光板や位相差板の接着に好適であり、また、本発明の粘着シートは、偏光板や位相差板等の光学部材用の粘着シートとして好適である。
【符号の説明】
【0106】
1A,1B…粘着シート
11…粘着層
12,12a,12b…剥離シート
13…基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)モノマー単位として、炭素数4以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル50〜99.8質量%と水酸基含有アクリル酸エステル0.2〜5質量%とを含有し、不飽和カルボン酸の含有量が0.1質量%以下である重量平均分子量80万〜200万のアクリル系ポリマーと、
(B)水素引き抜き型光開始剤と、
(C)シランカップリング剤と
を含有し、
二重結合を有するモノマーおよびオリゴマーを実質的に含有せず、
前記アクリル系ポリマー100質量部に対する前記水素引き抜き型光開始剤の配合量が0.6〜8質量部であり、
前記アクリル系ポリマー100質量部に対する前記シランカップリング剤の配合量が0.01〜1質量部である
ことを特徴とする粘着性組成物。
【請求項2】
(D)イソシアナート系架橋剤
をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の粘着性組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粘着性組成物に、紫外線を照射してなる粘着剤。
【請求項4】
基材と、粘着層とを備えた粘着シートであって、
前記粘着層は、請求項1または2に記載の粘着性組成物または請求項3に記載の粘着剤からなる
ことを特徴とする粘着シート。
【請求項5】
前記基材は、光学部材であることを特徴とする請求項4に記載の粘着シート。
【請求項6】
2枚の剥離シートと、
前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持された粘着層と
を備えた粘着シートであって、
前記粘着層は、請求項1または2に記載の粘着性組成物または請求項3に記載の粘着剤からなる
ことを特徴とする粘着シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−140576(P2011−140576A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2346(P2010−2346)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】