説明

粘着性透明多層フィルム及び透明な防音・制振材

【課題】 防音・制振効果が高く、平滑面や梨地状のシボ模様を持つ面などの様々な面形状を有する被着体に対する巻き付け作業性及び密着性に優れ、かつ透明で、層間剥離などが起こりにくい多層フィルム及びそれを有してなる透明な防音・制振材を提供すること。
【解決手段】 透明樹脂を主成分として含有する透明フィルム2の、易剥離処理を施していない面上に、粘着性熱可塑性エラストマー組成物を主成分として含有する粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム3を積層してなる粘着性透明多層フィルム1及びそれを有してなる透明な防音・制振材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防音・制振性に優れる粘着性透明多層フィルム及びそれを有してなる透明な防音・制振材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、室内環境、居住空間の快適性が求められており、騒音対策が大きな問題となっている。課題のひとつとして、給水管や排水管等の配管から発生する不快音や共振音の防止があるが、これらの管状体を被着体とする防音シートとしては、防音・制振効果が高いだけでなく、管状体の外周に良好な状態で巻き付けるために、被着体の形状に追従しうる巻き付け作業性と密着性が要求される。
【0003】
従来の防音シートとしては、発泡体からなる吸音層と、塩化ビニル系樹脂にゴムを配合した制振層と、塩化ビニル系樹脂に充填剤を配合した遮音層と、熱収縮フィルムとの積層品がある(特許文献1)。しかしながら、このような防音シートでは防音・制振効果が十分ではなく、防音・制振効果を高める目的で、制振層にさらに充填剤を配合したり、遮音層に配合する充填剤を増量したりすると、防音シートの可撓性が低下し、管状の被着体への巻き付け作業性や密着性が低下する問題がある。
【0004】
また、第1発泡層と、未加硫EPDMゴムからなる制振層と、第2発泡層と、表皮層との積層品からなる防音シートが提案されている(特許文献2)。このような防音シートは、未加硫EPDMゴムを制振層に用いることにより、制振層の可撓性を向上させ、管状の被着体への巻き付け作業性を改良したものであるが、曲率の大きい配管の外周にはうまく巻き付けることができず、可撓性が十分に改善されているとはいえない。
【0005】
そこで本出願人は、防音・制振効果が高く、平滑面や梨地状のシボ模様を持つ面などの様々な面形状を有する被着体に対する巻き付け作業性及び密着性に優れたものとして、特定構造の芳香族ビニル−イソプレン共重合体組成物を用いることにより前記課題を解決した(特許文献3)が、透明性を必要とする用途に対しては十分ではなく、また吸音層や遮音層として用いる樹脂との密着性も十分ではないものであった。
【0006】
【特許文献1】特開平10−96496号公報
【特許文献2】特開2003−222289号公報
【特許文献3】特開2005−213429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、防音・制振効果が高く、被着体に対する巻き付け作業性及び密着性に優れ、かつ透明で、層間剥離などが起こりにくい多層フィルム及びそれを有してなる透明な防音・制振材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、特定の構造を有する芳香族ビニル−イソプレンブロック共重合体と特定の重量平均分子量及び分子量分布を有するポリイソプレンとを特定量比で含有する熱可塑性エラストマー組成物を主成分として含有してなるフィルムを、特定の透明樹脂フィルムと積層することにより前記目的を達成できることを見いだし、この知見に基づいて、本発明を完成させるに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、以下の(1)及び(2)の発明が提供される。
(1)ポリエチレンテレフタレート(a1)、1,4−シクロヘキサンジメタノール−エチレングリコール−テレフタル酸共重合体(a2)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(a3)及びポリカーボネート(a4)からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる透明樹脂(A)を主成分として含有する厚みが10〜100μmの透明フィルム(FA)の、易剥離処理を施していない面上に、ポリ芳香族ビニルブロックを2つ以上有する、芳香族ビニル−イソプレンブロック共重合体(b1)10〜98重量%、芳香族ビニル−イソプレンジブロック共重合体(b2)0〜88重量%及び重量平均分子量が5,000〜300,000でありかつ(重量平均分子量/数平均分子量)の値が3以下であるポリイソプレン(b3)2〜66重量%からなる粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)を主成分として含有する、厚みが5〜150μmの粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)を積層してなる粘着性透明多層フィルム(F)。
(2)前記(1)に記載の粘着性透明多層フィルム(F)を有してなる透明な防音・制振材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、防音・制振効果が高く、平滑面や梨地状のシボ模様を持つ面などの様々な面形状を有する被着体に対する巻き付け作業性及び密着性に優れ、かつ透明で、層間剥離などが起こりにくい多層フィルム及びそれを有してなる透明な防音・制振材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の粘着性透明多層フィルム(F)は、ポリエチレンテレフタレート(a1)、1,4−シクロヘキサンジメタノール−エチレングリコール−テレフタル酸共重合体(a2)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(a3)及びポリカーボネート(a4)からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる透明樹脂(A)を主成分として含有する厚みが10〜100μmの透明フィルム(FA)の、易剥離処理を施していない面上に、ポリ芳香族ビニルブロックを2つ以上有する、芳香族ビニル−イソプレンブロック共重合体(b1)10〜98重量%、芳香族ビニル−イソプレンジブロック共重合体(b2)0〜88重量%及び重量平均分子量が5,000〜300,000でありかつ(重量平均分子量/数平均分子量)の値が3以下であるポリイソプレン(b3)2〜66重量%からなる粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)を主成分として含有する、厚みが5〜150μmの粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)を積層してなる。
【0012】
本発明の粘着性透明多層フィルム(F)を構成する透明フィルム(FA)は、ポリエチレンテレフタレート(a1)、1,4−シクロヘキサンジメタノール−エチレングリコール−テレフタル酸共重合体(a2)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(a3)及びポリカーボネート(a4)からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる透明樹脂(A)を主成分として含有する。
【0013】
本発明において用いるポリエチレンテレフタレート(a1)、1,4−シクロヘキサンジメタノール−エチレングリコール−テレフタル酸共重合体(a2)及びポリエチレン−2,6−ナフタレート(a3)は、それぞれを構成する主モノマー(例えば、ポリエチレンテレフタレート(a1)の場合はエチレングリコールとテレフタル酸)の他に、イソフタル酸、フタル酸及びジエチレングリコールなどの、ポリエステルを構成することができる第三モノマーを、該第三モノマーの全使用量が、生成するポリエチレンテレフタレート(a1)、1,4−シクロヘキサンジメタノール−エチレングリコール−テレフタル酸共重合体(a2)及びポリエチレン−2,6−ナフタレート(a3)の重量の20重量%以下となる範囲で共重合させることができる。但し、使用できる第三モノマーの種類及びその使用量は、上記の規定(20重量%以下)の他、生成する透明フィルム(FA)が透明性を損なわない範囲内で用いることができる。
【0014】
ポリカーボネート(a4)としては、透明なものであれば、種々のものを用いることができる。
【0015】
透明樹脂(A)として、ポリエチレンテレフタレート(a1)、1,4−シクロヘキサンジメタノール−エチレングリコール−テレフタル酸共重合体(a2)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(a3)及びポリカーボネート(a4)からなる群から選ばれる少なくとも一種のみを用いることが、高透明性となるために好ましい。
【0016】
また、前記透明フィルム(FA)の材料となる組成物は、前記透明樹脂(A)を主成分として含有する他、任意の樹脂及び/又はエラストマーを併用することができる。但し、前記透明フィルム(FA)が透明性を損なわない範囲内で併用することができる。なお、「主成分として」とは、通常、「50重量%以上」を意味する。
前記透明樹脂(A)と併用することができる樹脂及び/又はエラストマーとしては、例えば、前記ポリエチレンテレフタレート(a1)、前記1,4−シクロヘキサンジメタノール−エチレングリコール−テレフタル酸共重合体(a2)、前記ポリエチレン−2,6−ナフタレート(a3)及び前記ポリカーボネート(a4)以外のポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリアクリレートエラストマー、ポリメタクリレート樹脂、ポリメタクリレートエラストマー、アクリロニトリル−アクリレート−メタクリレート共重合体、エチレン−アクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,12、MXD−ナイロン、ポリ(1,3−ペンタジエン)、ポリ(エチリデン−2−ノルボルネン)、などが挙げられる。これらは、1種を、あるいは2種以上を併用して用いることができる。
前記透明フィルム(FA)の材料となる組成物として、前記透明樹脂(A)を単独で用いることが、高透明性となるために好ましい。
【0017】
前記透明フィルム(FA)の厚みは、通常、10〜100μm、好ましくは20〜80μm、より好ましくは30〜70μmである。前記透明フィルム(FA)の厚みが前記範囲より小さい場合は、本発明の粘着性透明多層フィルム(F)の防音・制振効果に劣るものとなり、一方、前記範囲より大きい場合は、本発明の粘着性透明多層フィルム(F)の可撓性が損なわれるために形状追随性に劣るものとなる。
【0018】
前記透明フィルム(FA)の表面は、その少なくとも粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)が積層される側の面は、易剥離処理を施していないことが必須である。易剥離処理を施すと、前記透明フィルム(FA)と前記粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)とが容易に剥離しやすくなり、その結果、本来の防音・制振用途としての機能を全うできずに、剥離を起こしてしまう可能性があるため、好ましくない。
【0019】
本発明の粘着性透明多層フィルム(F)を構成する粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)は、ポリ芳香族ビニルブロックを2つ以上有する、芳香族ビニル−イソプレンブロック共重合体(b1)10〜98重量%、芳香族ビニル−イソプレンジブロック共重合体(b2)0〜88重量%、及び重量平均分子量が5,000〜300,000でありかつ(重量平均分子量/数平均分子量)の値が3以下であるポリイソプレン(b3)2〜66重量%からなる粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)を主成分として含有する。
【0020】
上記の組成を有する粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)を主成分として含有する、厚みが5〜150μmの粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)を積層してなる本発明の粘着性透明多層フィルム(F)は、騒音等の人間が可聴し得る音の領域の振動を減衰させる効果が高いだけでなく、可撓性に優れているため、被着体に対する巻き付け作業性及び密着性に優れたものとなる。前記粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の厚みは、通常、5〜150μm、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜80μmである。前記粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の厚みが前記範囲より小さい場合は、本発明の粘着性透明多層フィルム(F)の防音・制振効果に劣るものとなり、一方、前記範囲より大きい場合は、本発明の粘着性透明多層フィルム(F)の透明性に劣るものとなる。
【0021】
本発明で用いる粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)を構成する粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)に含有される、ポリ芳香族ビニルブロックを2つ以上有する、芳香族ビニル−イソプレンブロック共重合体(b1)(以下、「(b1)成分」という)は、ポリ芳香族ビニルブロックを2つ以上有するものであり、重合体ブロックを少なくとも3つ有するものである。
【0022】
(b1)成分中のポリ芳香族ビニルブロックは、(b1)成分の重合体鎖において、芳香族ビニル単量体単位を主たる構成単位として含有する部分をいう。ポリ芳香族ビニルブロックは、芳香族ビニル単量体単位含有量が80重量%以上のものが好ましく、芳香族ビニル単量体を単独重合したものが特に好ましい。
【0023】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどが挙げられる。なかでも、スチレンが好ましく使用できる。
【0024】
(b1)成分中のポリ芳香族ビニルブロックは、本発明の効果を実質的に阻害しない範囲であれば、芳香族ビニル単量体と、芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体とを共重合したものであってもよい。芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの共役ジエン単量体が好ましく挙げられる。
【0025】
(b1)成分中のポリ芳香族ビニルブロックの重量平均分子量は、好ましくは8,000〜100,000、より好ましくは12,000〜70,000、特に好ましくは14,000〜50,000である。ポリ芳香族ビニルブロックの重量平均分子量が小さすぎると、粘着性透明多層フィルム(F)の形状保持性が低下する傾向にあり、逆に大きすぎると粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)の高温下での流動性が悪くなったり、溶液粘度が高くなり、成形性に劣る傾向がある。
【0026】
(b1)成分中のポリ芳香族ビニルブロックの(重量平均分子量/数平均分子量)の値(通常、重量平均分子量をMw、数平均分子量をMnと記し、Mw/Mnで表される。以後、単に「Mw/Mn」と表記することがある。)は、通常、3以下であり、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。
【0027】
(b1)成分中のポリイソプレンブロックは、(b1)成分の重合体鎖において、イソプレン単位を主たる構成単位として含有する部分をいう。ポリイソプレンブロックは、イソプレン単位含有量が80重量%以上のものが好ましく、イソプレンを単独重合したものが特に好ましい。
【0028】
(b1)成分中のポリイソプレンブロックは、本発明の効果を実質的に阻害しない範囲であれば、イソプレンと、イソプレンと共重合可能な単量体とを共重合したものであってもよい。イソプレンと共重合可能な単量体としては、前記の芳香族ビニル単量体;1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン,1,3−ペンタジエンなどのイソプレン以外の共役ジエン単量体;が好ましく挙げられる。
【0029】
(b1)成分の芳香族ビニル単量体単位含有量は、通常、5〜75重量%、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは13〜40重量%である。
【0030】
(b1)成分におけるイソプレン単位中のビニル結合含有量は、特に限定されず、通常、50重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは5〜10重量%である。
【0031】
(b1)成分の重量平均分子量は、好ましくは100,000〜1,000,000、より好ましくは110,000〜920,000、特に好ましくは120,000〜880,000である。
【0032】
(b1)成分の(Mw/Mn)は、通常、3以下であり、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。
【0033】
前記粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)中の(b1)成分の割合は、10〜98重量%、好ましくは20〜94重量%、より好ましくは35〜85重量%である。この割合が少なすぎると、粘着性透明多層フィルム(F)の形状保持性が低下して、使用に適さず、逆に多すぎると防音・制振効果に劣るだけでなく、被着体に対する巻き付け作業性及び密着性にも劣る防音シートとなる。
【0034】
所望により前記粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)中に含有させる芳香族ビニル−イソプレンジブロック共重合体(b2)(以下、「(b2)成分」ともいう。)は、ただ1つのポリ芳香族ビニルブロックとただ1つのポリイソプレンブロックとからなるブロック共重合体である。
【0035】
(b2)成分中のポリ芳香族ビニルブロックは、(b2)成分の重合体鎖において、芳香族ビニル単量体単位を主たる構成単位として含有する部分をいう。ポリ芳香族ビニルブロックは、芳香族ビニル単量体単位含有量が80重量%以上のものが好ましく、芳香族ビニル単量体単位のみからなるものがより好ましい。
【0036】
芳香族ビニル単量体としては、(b1)成分の説明において前述したものと同様のものが挙げられる。なかでも、スチレンが好ましく使用できる。
【0037】
(b2)成分中のポリ芳香族ビニルブロックは、本発明の効果を実質的に阻害しない範囲であれば、芳香族ビニル単量体と、芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体とを共重合したものであってもよい。芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体としては、(b1)成分の説明において前述したものと同様のものを好ましく挙げることができる。
【0038】
(b2)成分中のポリ芳香族ビニルブロックの重量平均分子量は、好ましくは8,000〜100,000、より好ましくは12,000〜70,000、特に好ましくは14,000〜50,000である。
【0039】
(b2)成分中のポリ芳香族ビニルブロックの(Mw/Mn)は、通常、3以下であり、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。
【0040】
(b2)成分中のポリイソプレンブロックは、(b2)成分の重合体鎖において、イソプレン単位を主たる構成単位として含有する部分をいう。ポリイソプレンブロックは、イソプレン単位含有量が80重量%以上のものが好ましく、イソプレン単位のみからなるものがより好ましい。このイソプレン単位含有量が少なすぎると、得られた粘着性透明多層フィルム(F)の防音・制振効果が劣る傾向にある。
【0041】
(b2)成分中のポリイソプレンブロックは、本発明の効果を実質的に阻害しない範囲であれば、イソプレンと、イソプレンと共重合可能な単量体とを共重合したものであってもよい。イソプレンと共重合可能な単量体としては、前記の芳香族ビニル単量体;1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどのイソプレン以外の共役ジエン単量体;が好ましく挙げられる。
【0042】
(b2)成分の芳香族ビニル単量体単位含有量は、通常、5〜75重量%、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは13〜40重量%である。
【0043】
(b2)成分におけるイソプレン単位中のビニル結合含有量は、特に限定されず、通常、50重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは5〜10重量%である。
【0044】
(b2)成分の重量平均分子量は、好ましくは50,000〜250,000、より好ましくは55,000〜230,000、特に好ましくは60,000〜220,000である。
【0045】
(b2)成分の(Mw/Mn)は、通常、3以下であり、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。
【0046】
前記粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)中の(b2)成分の割合は、0〜88重量%、好ましくは1〜75重量%、より好ましくは5〜55重量%である。(b2)成分が多すぎると、粘着性透明多層フィルム(F)の形状保持性が低下する傾向にある。粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)に上記範囲の割合で(b2)成分を含有させることにより、防音・制振効果と被着体に対する巻き付け作業性及び密着性とのバランスにより優れる粘着性透明多層フィルム(F)が得られる。
【0047】
(b1)成分の製造方法は特に限定されず、一般に公知の製造方法が採用でき、例えば、アニオンリビング重合法により、ポリ芳香族ビニルブロック及びポリイソプレンブロックを、それぞれ逐次的に重合する方法や、リビング性の活性末端を有するブロック共重合体を製造した後、それとカップリング剤とを反応させてカップリングしたブロック共重合体として製造する方法が採用できる。
【0048】
(b2)成分の製造方法は特に限定されず、一般に公知の製造方法が採用でき、例えば、アニオンリビング重合法により、ポリ芳香族ビニルブロック及びポリイソプレンブロックを、逐次的に重合する方法が採用できる。
【0049】
なお、(b1)成分と(b2)成分は、上記のようにそれぞれ別々に製造してもよいが、それぞれの重合工程を1つにまとめて、(b1)成分と(b2)成分の混合物として製造することもできる。
【0050】
本発明で用いる粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)を構成する粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)に含有されるポリイソプレン(b3)(以下、「(b3)成分」ともいう。)の重量平均分子量は5,000〜300,000、好ましくは10,000〜200,000、より好ましくは30,000〜100,000である。この重量平均分子量が小さすぎると、得られた粘着性透明多層フィルム(F)の防音・制振効果が低下し、逆に大きすぎると被着体に対する巻き付け作業性及び密着性に劣る粘着性透明多層フィルム(F)となる。
【0051】
(b3)成分の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、通常、3以下であり、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。
【0052】
(b3)成分は、その重合体鎖において、イソプレン単位を主たる構成単位として含有する。(b3)成分は、イソプレン単位含有量が80重量%以上のものが好ましく、イソプレン単位のみからなるものがより好ましい。
【0053】
(b3)成分は、イソプレンの単独重合体であることが好ましいが、本発明の効果を実質的に阻害しない範囲で、イソプレン及びイソプレンと共重合可能な単量体の共重合体であってもよい。イソプレンと共重合可能な単量体としては、前記の芳香族ビニル単量体、及びブタジエン、1,3−ペンタジエンなどのイソプレン以外の共役ジエン単量体が好ましく挙げられる。
【0054】
(b3)成分におけるイソプレン単位中のビニル結合含有量は、特に限定されず、通常、50重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは5〜10重量%である。
【0055】
(c)成分の製造方法は特に限定されず、一般に公知の製造方法が採用でき、例えば、重合溶媒中、アニオン重合開始剤を用いてイソプレンを重合する方法が採用できる。
【0056】
粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)中の(b3)成分の割合は、2〜66重量%であることを要し、好ましくは5〜55重量%、より好ましくは10〜35重量%である。(b3)成分が少なすぎると、防音・制振効果に劣るだけでなく、被着体に対する巻き付け作業性及び密着性にも劣る粘着性透明多層フィルム(F)となり、逆に多すぎると粘着性透明多層フィルム(F)の形状保持性が低下して、使用に適さなくなる。
【0057】
本発明で用いる粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)においては、(b1)成分、(b2)成分及び(b3)成分の合計量に対する芳香族ビニル単量体単位含有量が5〜40重量%の範囲にあることが好ましく、10〜30重量%の範囲にあることがより好ましい。この含有量が少なすぎると、粘着性透明多層フィルム(F)の形状保持性が低下する傾向にあり、逆に多すぎると、得られた粘着性透明多層フィルム(F)の被着体に対する巻き付け作業性及び密着性が劣る傾向にある。
【0058】
本発明で用いる粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)の製造方法は特に限定されない。別個に製造した(b1)成分、(b2)成分及び(b3)成分を混練して製造してもよく、あるいはこれらを溶液の状態で混合し、重合体を分離して乾燥することにより製造してもよい。
(b1)成分と(b2)成分の混合物として製造されたものに、別途製造された(b3)成分を混合して製造してもよい。
【0059】
本発明で用いる粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)には、さらに必要に応じて、(b1)成分、(b2)成分及び(b3)成分以外のエラストマーのほか、一般に公知の、熱可塑性樹脂、粘着付与樹脂、充填剤、補強繊維、軟化剤、発泡剤、発泡助剤、酸化防止剤、難燃剤、抗菌剤、光安定剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、滑剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、帯電防止剤などの配合剤を所望量配合することができる。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。但し、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の透明性を損なわない範囲で使用することができる。
【0060】
(b1)成分、(b2)成分及び(b3)成分以外のエラストマーとしては、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、シクロヘキセン−エチレン−ブチレン−シクロヘキセンブロック共重合体、シクロヘキセン−エチレン−プロピレン−シクロヘキセンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリブタジエンゴム、ポリイソブチレンゴム、ポリイソプレンゴム、天然ゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。但し、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の透明性を損なわない範囲で使用することができる。
【0061】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン及びその変性物、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリフェニレンエーテルなどが挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。但し、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の透明性を損なわない範囲で使用することができる。
【0062】
粘着付与樹脂は、天然樹脂系粘着付与樹脂と合成樹脂系粘着付与樹脂とに大別される。天然樹脂系粘着付与樹脂としては、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂などが挙げられる。ロジン系樹脂としては、ガムロジン、トールロジン、ウッドロジンなどのロジン類;水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジンなどの変性ロジン類;変性ロジンのグリセリンエステル、ペンタエリスリトールエステルなどのロジンエステル類などが例示される。テルペン系樹脂としては、α−ピネン系、β−ピネン系、ジペンテン(リモネン)系などのテルペン樹脂のほか、芳香族変性テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂などが例示される。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。但し、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の透明性を損なわない範囲で使用することができる。
【0063】
合成樹脂系粘着付与樹脂は、付加重合系粘着付与樹脂と重縮合系粘着付与樹脂とに大別される。付加重合系粘着付与樹脂としては、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、共重合系(C5−C9系)石油樹脂、水素添加石油樹脂、脂環族系石油樹脂などの石油樹脂類;クマロン・インデン樹脂;スチレン系、置換スチレン系などのピュア・モノマー系石油樹脂が挙げられる。重縮合系粘着付与樹脂としては、アルキルフェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂などのフェノール系樹脂及びキシレン樹脂などが挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。但し、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の透明性を損なわない範囲で使用することができる。
【0064】
充填剤としては、例えば、クレー、珪藻土、シリカ、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、金属酸化物、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム、各種の金属粉、木粉、ガラス粉、セラミックス粉などの他、ガラスバルーン、シリカバルーンなどの無機中空フィラー;ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体などからなる有機中空フィラー;が挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。但し、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の透明性を損なわない範囲で使用することができる。
【0065】
補強繊維としては、例えば、ワラ、毛、ガラスファイバー、金属ファイバー、その他各種のポリマーファイバーなどの短繊維及び長繊維が挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。但し、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の透明性を損なわない範囲で使用することができる。
【0066】
軟化剤としては、例えば、芳香族系プロセスオイル、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどの伸展油;ポリブテン、ポリイソブチレンなどの液状重合体;などが挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。但し、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の透明性を損なわない範囲で使用することができる。
【0067】
酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル・テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などのヒンダードフェノール系化合物;ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどのチオジカルボキシレートエステル類;トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニル)ジトリデシルホスファイトなどのホスファイト類などが挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。但し、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の透明性を損なわない範囲で使用することができる。
【0068】
滑剤としては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、モンタンワックスなどの炭化水素系滑剤;ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、複合型ステアリン酸系、硬化油のような脂肪酸系滑剤;ステアロアミド、オキシステアロアミド、オレイルアミド、エルシルアミド、ラウリルアミド、パルミチルアミド、ベヘンアミド、メチロールアミド、高級脂肪酸のモノアミド、メチレンビスステロアミド、エチレンビスステロアミド、エチレンビスオレイルアミド、エチレンビスラウリルアミド、高級脂肪酸ビスアミド、N−ステアリルオレイルアミド、N−ステアリルエルシルアミド、N−ステアリルパルミトアミド、複合型アミド、特殊脂肪酸アミドなどの脂肪酸アミド系滑材;n−ブチルステアレート、多価アルコール脂肪酸エステル、飽和脂肪酸エステル、エステル系ワックス、特殊脂肪酸エステル、芳香族脂肪酸エステル、複合エステル系のような脂肪酸エステル系滑材;高級アルコール、高級アルコール系複合型、高級アルコールエステル、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロールのような脂肪アルコール系滑材;グリセリン脂肪酸エステル、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、脂肪酸部分エステルのような脂肪酸と多価アルコールとの部分エステル系滑材;シリコーンオイル、ポリオルガノシロキサン、ジステアリルエポキシヘキソヒドロキシフタレート、ナトリウムアルキルサルフェート、長鎖脂肪族化合物、非イオンエステル系活性剤、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック共重合体、四フッ化エチレン樹脂粉末などが挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。但し、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の透明性を損なわない範囲で使用することができる。
【0069】
本発明の粘着性透明多層フィルム(F)を構成する粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)は、前述した粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)を成形することにより製造される。成形方法としては、例えば、射出成形法、異型押出成形法、インフレーション成形法、Tダイ押出成形法、キャスト成形法などが挙げられる。この中でも、キャスト成形法が、成形される粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の厚みを適度な範囲内で小さく(薄く)できるので好ましい。
【0070】
本発明の粘着性透明多層フィルム(F)を成形する方法としては、前記透明フィルム(FA)の易剥離処理をしていない面上に、前述した方法にて成形される粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)を積層することにより得ることができる。好適には、前記透明フィルム(FA)の易剥離処理をしていない面上に、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)をキャスト法により積層することにより得ることができる。
なお、透明フィルム(FA)は、前記透明樹脂(A)を、例えば、射出成形法、異型押出成形法、インフレーション成形法、Tダイ押出成形法、中空成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法、回転成形法、トランスファー成形法、真空成形法、キャスト成形法などにより成形して得ることができる。
【0071】
本発明の粘着性透明多層フィルム(F)を成形する好適な方法である、前記透明フィルム(FA)の易剥離処理をしていない面上に、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)をキャスト法により積層することについて、以下に詳細に説明する。
【0072】
粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)をキャスト法により積層するために、まず、粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)を溶媒に溶解する。溶媒としては、粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)を溶解しやすい、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族系溶媒が好ましく、安全性、取扱い性及びコスト面から、トルエンがより好ましい。
粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)の溶液における濃度は、通常、10〜70重量%、好ましくは20〜60重量%、より好ましくは30〜50重量%である。濃度が10重量%未満では、キャスト成形時に溶液が流動しやすくなるため、キャスト成形が困難になる他、乾燥後に得られる粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)がカール状に変形しやすくなる。一方、濃度が70重量%を超えると、溶液の流動性が悪くなり
キャスト成形が困難になる他、キャスト成形法により得られる粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の厚み精度が悪くなる。
【0073】
キャスト成形は、透明フィルム(FA)の易剥離処理をしていない面上に、粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)の溶液をのせてドクターブレード、アプリケーター又はコンマナイフなどで所定の厚みに塗工する。
塗工後、乾燥して、溶媒を除去することで、キャスト成形が完了する。
乾燥温度は、通常、20℃以上かつ溶媒の沸点より100℃高い温度以下で行う。20℃未満であると乾燥に長時間を要し、一方溶媒の沸点より100℃高い温度を超えると溶媒の揮発速度が高すぎて粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)に亀裂が生じやすくなる他、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)がカール状に変形しやすくなる。乾燥温度は、好ましくは30℃以上かつ沸点より80℃高い温度以下、より好ましくは40℃以上かつ沸点より50℃高い温度以下である。
なお、乾燥においては、熱風を使用することが好ましい。熱風の送風方向は、粘着性透明多層フィルム(F)の法線方向が好ましく、粘着性透明多層フィルム(F)のどちらの面に向けて送風してもよい。
【0074】
本発明の、「透明な防音・制振材」は、透明であり、粘着性透明多層フィルム(F)を有してなるものである。
【0075】
透明な防音・制振材の形状は特に限定されるものではなく、パッキン状などのシート状のものなどが挙げられるが、例えば防音シートに用いる場合は、被着体への形状追従性が高いことから、シート状のものとすることが好ましい。
【0076】
このような本発明の透明な防音・制振材は、音の領域の振動を減衰させる効果が高く、防音・制振効果に優れたものとなる。また、透明であるため、透明であることが必要とされる用途にも使用可能である。
【0077】
また、本発明の透明な防音・制振材は極めて可撓性に優れたものであるので、例えば配管等の曲率の大きい被着体に対しても巻き付け作業性が良好であり、密着性に優れた防音シートが得られる。
【0078】
さらに、本発明の透明な防音・制振材はそれ自体が粘着性を有するものであるので、例えばこの透明な防音・制振材を用いた防音シートは、被着体や他の機能層との接合面に接着剤層を設ける必要がなく、取り付け作業性に優れたものとなる。また、粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)中に前述した粘着付与樹脂を配合することにより、さらに粘着性を高めることもできる。
【0079】
このような本発明の透明な防音・制振材は、例えば、マンション等の床材、壁材、天井、窓枠、シャッター、ドア、防音壁、屋根材、給水管・排水管等の配管などの建材;レコードの支持ターンテーブル、CDプレイヤーなどの音響機器;コピー機、FAX、プリンターなどのOA機器;などの不快音や共振音を低減したり、エアコンの室外機、ダクト内の音などの家電製品のモーター駆動によって生じる不快音や共振音;自動車のエンジンルームや自動車車内の騒音;を低減したりする目的に用いることができる。中でも、給水管や排水管等の曲率の大きい被着体に対する密着性が高いことから、これらの配管等の防音シートとして特に好適である。また、透明性を有することから、ガラス窓など、透明であることが求められるものへの防音・制振材として特に好適である。
【0080】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例、比較例及び製造例中の部及び%は、特に断りのないかぎり、重量基準である。
【0081】
(1)透明性(%)
得られた粘着性透明多層フィルム(F)の透明性を、JIS K 7361−1に準拠して全光線透過率(%)を測定した。数値が大きい程、透明性が高い。
【0082】
(2)防音性・防音レベル(点)
得られた粘着性透明多層フィルム(F)を幅100cm×長さ18.5cmの大きさに切り取り、内径50mmのポリエチレン製の管(管の厚みは4mm)の外周に、幅100cmに渡って丁度一周巻き付けて貼り付ける。その後、音響測定室内で、前記のポリエチレン製の管を水平方向に対して30°傾け、その内部に、流量1.0リットル/分の水を流す。前記のポリエチレン製の管の中心から水の流れる方向に対して直角でかつ管の中心から水平な方向に15cm離れた位置で、水の流れる音を聴取する。聴取した音の大きさを、以下の評価基準に基づいて判定する。判定は5人が1回ずつ行い、その平均値を防音・制振性の試験値とした。点数が高いほど防音・制振性に優れる。
◎・・・音を聴き取れない。 評価点 4点。
○・・・かすかに音を感じる。 評価点 3点。
△・・・音を感じる。 評価点 2点。
×・・・はっきりと音を感じる。 評価点 1点。
【0083】
(3)微粘着性・プローブタック強度(N)
粘着性透明多層フィルム(F)を25mm×25mmの大きさに切り取り、ニチバン(株)社製〔NS PROBE TACK TESTER〕を用い、プローブ圧着速度=1cm/秒、プローブ圧着時間=1秒にて、プローブタック強度(N)を測定した。
【0084】
(4)粘着力(mN/cm)
表面に梨地状の凹凸を有するアルミ製の板に得られた粘着性透明多層フィルム(F)を25mm×250mmの大きさに切り取って貼り付け、JIS Z 0237に準拠して180°引き剥がし粘着力(mN/cm)を測定した。粘着力測定は密着性を測る試験でもある。
【0085】
(製造例1)
耐圧反応器を用い、シクロヘキサン112部、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(「TMEDA」と略号で示す。)0.000728部及びスチレン11.7部を40℃で攪拌しているところに、重合開始剤n−ブチルリチウム0.0267部を添加し、50℃に重合温度を上げて、1時間重合した。この時点でのスチレンの重合転化率は100%であった。反応液の一部を採取して、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、ポリスチレンブロックの重量平均分子量を測定したところ、31,000であった。また、Mw/Mn=1.13であった。
【0086】
引き続き、イソプレン36.3部を、反応温度55℃で1時間かけて添加し、添加終了後にさらに1時間重合した。この時点での重合転化率は100%であった。反応液の一部を採取して、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、スチレン−イソプレンジブロック共重合体((b2)成分に相当する。)の重量平均分子量を測定したところ、168,000であった。また、Mw/Mn=1.15であった。
【0087】
次いで、カップリング剤としてジメチルジクロロシラン0.0242部を添加して2時間カップリング反応を行い、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体((b1)成分に相当する。)を形成した。この後、反応器に重合停止剤としてメタノール0.04部を添加しよく混合して、上記(b1)成分と(b2)成分とからなる芳香族ビニル−イソプレンブロック共重合体組成物(b1+b2)(1)を得た。反応液の一部を採取して、上記組成物(b1+b2)(1)中のスチレン単位含有量を1H−NMRにより測定したところ、24.28重量%であった。また、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、上記組成物(b1+b2)(1)の重量平均分子量を測定したところ、307,000であった。また、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、(b1)成分と(b2)成分の重量比を測定したところ(b1)/(b2)=85/15であった。さらに、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、(b1)成分の重量平均分子量を計算すると、332,000であり、Mw/Mn=1.21であった。
【0088】
(製造例2)
耐圧反応器を用い、シクロヘキサン112部、TMEDA0.00364部及びn−ブチルリチウム0.134部を40℃で攪拌しているところにイソプレン48部を60℃に重合温度を上げながら1時間かけて添加し、イソプレン添加終了後さらに60℃で1時間重合した。イソプレンの重合転化率は100%であった。この後、反応器に重合停止剤としてメタノール0.2部を加えてよく混合してポリイソプレン(b3)(1)を得た。ポリイソプレン(b3)(1)の重量平均分子量は40,000であった。また、Mw/Mn=1.14であった。
【0089】
(製造例3)
芳香族ビニル−イソプレンブロック共重合体組成物(b1+b2)(1)の30%シクロヘキサン溶液100部に、ポリイソプレン(b3)(1)の30%シクロヘキサン溶液40部を加え、さらに酸化防止剤2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール0.3部を加えて混合し、混合溶液を少量ずつ85〜95℃に加熱された温水中に滴下して溶媒を揮発させた。得られた析出物を粉砕し、85℃で熱風乾燥して、(b1)成分、(b2)成分及び(b3)成分であるポリイソプレン(b3)(1)を含有する粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)(1)を得た。
【実施例1】
【0090】
長さ100cm×幅30cmのポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略記することがある。)製フィルム(FA)(1)(帝人デュポン(株)社製「メリネックスS」:厚み50μm、表裏両面とも易剥離処理されていない。)の一表面上全面に渡って、粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)(1)40重量部を60重量部のトルエンに溶解したものを塗布し、キャスト成形用の金属製アプリケーターで均一に伸ばした後トルエンを100℃で乾燥除去し、50μmの粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)(1)が積層した、厚みが100μmの粘着性透明多層フィルム(F)(1)を作製した。この粘着性透明多層フィルム(F)(1)について、透明性、防音性・防音レベル、微粘着性・プローブタック強度、及び粘着力の試験を行った。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0091】
粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)(1)の厚みを75μmとした(粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)(2)とする)以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚みが125μmの粘着性透明多層フィルム(F)(2)を作製した。この粘着性透明多層フィルム(F)(2)について、透明性、防音性・防音レベル、微粘着性・プローブタック強度、及び粘着力の試験を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(比較例1)
粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)(1)の厚みを3μmとした(粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)(3)とする)以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚みが53μmの粘着性透明多層フィルム(F)(3)を作製した。この粘着性透明多層フィルム(F)(3)について、透明性、防音性・防音レベル、微粘着性・プローブタック強度、及び粘着力の試験を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例2)
粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)(1)の厚みを160μmとした(粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)(4)とする)以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚みが210μmの粘着性多層フィルム(F)(4)を作製した。この粘着性多層フィルム(F)(4)について、透明性、防音性・防音レベル、微粘着性・プローブタック強度、及び粘着力の試験を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(比較例3)
ポリエチレンテレフタレート製フィルム(FA)(1)の代わりに、ポリプロピレン(以下、「PP」と略記することがある。)製フィルム(FA)(5)(日本ポリプロ(株)社製「ノパテックPP EA7A」を押出機で厚み50μmに押し出したもの:厚み50μm)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚みが100μmの粘着性多層フィルム(F)(5)を作製した。この粘着性多層フィルム(F)(5)について、透明性、防音性・防音レベル、微粘着性・プローブタック強度、及び粘着力の試験を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例4)
ポリエチレンテレフタレート製フィルム(FA)(1)の代わりに、HDPE(高密度ポリエチレン)製フィルム(FA)(6)(京葉ポリエチレン(株)社製「KEIYOポリエチ E8081」を押出機で厚み50μmに押し出したもの:厚み50μm)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚みが100μmの粘着性多層フィルム(F)(6)を作製した。この粘着性多層フィルム(F)(6)について、透明性、防音性・防音レベル、微粘着性・プローブタック強度、及び粘着力の試験を行った。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1の結果より、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の厚みが小さすぎる比較例1では、防音性・防音レベルが劣り、微粘着性・プローブタック強度が劣り、粘着力が劣る結果となった。また、粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)の厚みが大きすぎる比較例2では、透明性が劣る結果となった。また、透明フィルム(FA)として、ポリプロピレン製フィルムを用いた比較例3では、透明性が劣り、防音性・防音レベルが劣る結果となった。また、透明フィルム(FA)として、HDPE製フィルムを用いた比較例4では、透明性が著しく劣り、防音性・防音レベルが劣る結果となった。
これに対し、本願発明の構成を有する実施例1及び実施例2では、透明性、防音性・防音レベル、微粘着性・プローブタック強度、及び粘着力のいずれにも優れた結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る概略側面図である。
【符号の説明】
【0099】
1… 粘着性透明多層フィルム
2… 透明フィルム
3… 粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート(a1)、1,4−シクロヘキサンジメタノール−エチレングリコール−テレフタル酸共重合体(a2)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(a3)及びポリカーボネート(a4)からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる透明樹脂(A)を主成分として含有する厚みが10〜100μmの透明フィルム(FA)の、易剥離処理を施していない面上に、ポリ芳香族ビニルブロックを2つ以上有する、芳香族ビニル−イソプレンブロック共重合体(b1)10〜98重量%、芳香族ビニル−イソプレンジブロック共重合体(b2)0〜88重量%及び重量平均分子量が5,000〜300,000でありかつ(重量平均分子量/数平均分子量)の値が3以下であるポリイソプレン(b3)2〜66重量%からなる粘着性熱可塑性エラストマー組成物(B)を主成分として含有する、厚みが5〜150μmの粘着性透明熱可塑性エラストマーフィルム(FB)を積層してなる粘着性透明多層フィルム(F)。
【請求項2】
請求項1に記載の粘着性透明多層フィルム(F)を有してなる透明な防音・制振材。

【図1】
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【公開番号】特開2007−216486(P2007−216486A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38708(P2006−38708)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】