説明

粘膜免疫調節剤並びにその用途

【課題】 本発明は、服用者に過度の負担をかけることなく、日々の食生活で継続的に投与できるとともに、連続投与による副作用の心配のない、粘膜免疫調節剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 トレハロースを含有する粘膜免疫調節剤を提供することにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食物、医薬品、医薬部外品、飼料若しくは餌料の形態にある、トレハロースを有効成分とする粘膜免疫調節剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトをはじめとする高等動物は、細菌、ウイルス、寄生虫などの病原体の感染を防御するための機能、すなわち、免疫機能を有している。20世紀後半には、主に、抗体、サイトカインなどが関与する液性免疫に関する研究が急速に発展し、その結果、多種多様の医薬品が開発された。
【0003】
一方、粘膜免疫は、粘膜において病原性細菌などの感染を防護する機能である。その機能は粘膜に存在する数種の免疫担当細胞によって発揮される。それらの細胞は、免疫グロブリンA(IgA)を産生する。IgAは全グロブリン量の6割以上を占めており、その産生調節は健康を保つために重要である。
【0004】
しかしながら、近年、食中毒、食物アレルギー又は花粉症患者数の増加現象は、現代人の粘膜免疫調節機能は損なわれやすいことを示唆している。その原因として、ストレス、不規則な生活習慣、栄養状態の変調、医薬品の服用、過剰なまでに清潔な生活環境などを挙げることができる。したがって、粘膜免疫機能を調節する手段が鶴首されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、服用者に過度の負担をかけることなく、日々の食生活で継続的に投与できるとともに、連続投与による副作用の心配のない、粘膜免疫機能調節作用を有する粘膜免疫調節剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決すべく、本発明者等が種々の物質を検索したところ、非還元性二糖類であるトレハロースを経口投与することにより、粘膜に存在する免疫担当細胞による免疫グロブリンA(IgA)、及びインターフェロン−γ(IFN−γ)などのサイトカインの産生を調節することができることを新規な知見に到達した。具体的には、健常人においては、粘膜におけるIgA及びIFN−γの産生を有意に高め、非健常人においては、粘膜におけるIgAの産生を高め、IFN−γの産生を低減させる。本発明の粘膜免疫調節剤は、経口投与によって、ヒト若しくは動物に本来備わっている粘膜免疫の機能を正常な状態に調節、維持するものである。その効果は、腸管粘膜に存在する免疫担当細胞、とりわけ、パイエル板に存在する免疫担当細胞において発揮される。
【0007】
本発明の有効成分であるトレハロースは2分子のグルコースが還元性基同士で結合してなる二糖類である。結合方式によって、α,α−トレハロース(この結合ものを単にトレハロースということもある)、α、β−トレハロース(ネオトレハロース)、β,β−トレハロース(イソトレハロース)の3種の異性体が存在する。本発明で用いるトレハロースとしては、これら3種類の1種又は2種以上を用いることができる。とりわけ、α,α−トレハロースは、自然界においては細菌、真菌、藻類、昆虫、甲殻類などに広く分布すること、及び大量生産技術が確立され市販されていることから、本発明においては最も有利に用いられる。トレハロースは、本発明の粘膜免疫調節剤としての効果を発揮するものである限り、構造、純度、調製方法は特に限定されない。
【0008】
また、トレハロースは、従来より、食品に広く含有若しくは配合されているので、副作用の心配なく、飲食物、医薬品若しくは医薬部外品などの多種多様な形態として用い得ることができる。また、純度の低いトレハロース調製物は、高純度のトレハロースと比較すると極めて安価であることから、ヒトに対してだけでなく、ウシ、ウマ、ヒツジなどの家畜、ニワトリ、ガチョウなどの家禽、イヌ、ネコなどのペットなどの動物用の飼料若しくは餌料としても利用し得る。
【0009】
すなわち、本発明は、前述の課題を、有効成分としてトレハロースを含有する粘膜免疫調節剤を提供することによって解決するものである。
【発明の効果】
【0010】
有効成分としてトレハロースを含んでなる本発明の粘膜免疫調節剤は、免疫機能の変調によって罹患しやすくなる経口伝染病又は食物アレルギーなどの治癒、予防、症状の緩和に効果を発揮する。また、平常時のサイトカイン産生を抑制することから、服用による副作用の心配が少なく、有効成分のトレハロースは、極めて安価であるので、安心して常用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】パイエル板由来の免疫担当細胞に、各濃度のLPSを添加した時のIFN−γ産生量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明でいう粘膜免疫調節剤とは、トレハロースを有効成分とし、経口又は経管投与されることによって、例えば、口腔粘膜、胃粘膜、腸管粘膜などの消化器粘膜に存在する免疫担当細胞を介して粘膜免疫を調節する作用効果を発揮するものである。特にその効果は腸管粘膜及びパイエル板において顕著に発揮される。
【0013】
本発明の粘膜免疫調節剤の有効成分であるトレハロースは、本発明の目的を損ねない限り、その製造方法に由来する副産物を含んでいてもよい。株式会社林原商事販売のα,α−トレハロース(商品名『トレハ』)は、本発明の粘膜免疫調節剤に、有利に供することができる。
【0014】
上記パイエル板は、近年、その構造及び機能について解明された。『臨床免疫』、第30巻、第11号、1524頁乃至1531頁(1998年)ハシグチ等の総説、及び、『メディカル・イムノロジー(Medical Immunology)』、第27巻、第5・6号、431頁〜437頁(1994年)タカハシ等の総説に記載されているとおり、パイエル板は、腸管外周に点在する免疫組織であり、M細胞、B細胞、T細胞、マクロファージ細胞などの免疫担当細胞を有するリンパ小節の集合体である。主な機能は、IgAの産生であり、そのほかにも、IFN−γ、インターロイキン2(IL−2)、インターロイキン5、(IL−5)などに代表されるサイトカイン類も産生する。なお、臨床免疫、第30巻、第1号、14頁乃至19頁(1998年)キヨノ等の総説に記載されている如く、IFN−γは、IgAの産生調節作用を有していることが明らかになっている。
【0015】
本発明の粘膜免疫調節剤の作用メカニズムについて説明するに、ヒト又は家畜、家禽、ペットなどの動物がトレハロースを経口投与した時、トレハロースが小腸で2分子のグルコースに加水分解されるまでの間に、口腔、食道、胃、十二指腸、小腸などの消化器官の粘膜に直接接することによって、そこに存在する免疫担当細胞に作用すると考えられる。
【0016】
本発明の粘膜免疫調節剤は、有効成分としてトレハロースを含有しているかぎり、飲食物、医薬品、医薬部外品、飼料及び餌料などの形態で用いることができる。なお、この発明の粘膜免疫調節剤が奏する独特の効果は、例えば、腸管粘膜、とりわけパイエル板由来の免疫担当細胞のサイトカイン及び/又は抗体の産生量を指標とする後述の試験によって確認することができる。
【0017】
本発明の粘膜免疫調節剤は、有効成分であるトレハロース単独の形態であっても、トレハロースの投与を容易にすることができる他の成分との組成物の形態であってもよい。なお、本発明でいう経口投与とは、トレハロースが消化管の粘膜に到達させることを可能にする方法であればよく、通常の経口投与のみならず、経管投与、胃ゾンデなどによる投与方法を包含する。トレハロースの経口投与を容易にした組成物は、通常の経口投与される飲食物のみならず、経管流動食として、溶液状、懸濁液状、乳液状、クリーム状、ペースト状、粉末状、顆粒状、あるいは、それ以外の所望の形状に成形された固形状の食品、医薬品、医薬部外品、飼料又は餌料の形態で提供される。すなわち、飲食物としての形態の場合には、例えば、水、アルコール、澱粉質、蛋白質、繊維質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラル、着香料、着色料、甘味料、調味料、香辛料、安定剤、酸化防止剤、防腐剤のような食品に通常用いられる原料及び/又は素材をトレハロースの投与を容易にすることのできる成分として配合して組成物とすればよい。斯かる組成物に、さらに、ビフィズス菌増殖糖質、粉末ミルク、乳蛋白分解物(カゼインカルシウムペプチド、カゼインフォスフォペプチド)、ラクトフェリン、大豆イソフラボン、血粉、骨粉、貝殻粉、珊瑚粉末などの健康食品素材の1又は複数を適宜配合することもできる。斯かる食品は、経管流動食としての形態であってもよい。また、医薬品又は医薬部外品としての形態の場合には、例えば、担体、賦形剤、希釈剤及び安定剤の1又は複数をトレハロースの経口投与を容易にすることのできる成分として配合し、さらに必要に応じて、各種疾病の治療に通常用いられる、例えば、乳酸カルシウム、グリセロ燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム及びL−アスパラギン酸カルシウムなどのカルシウム剤、さらには、鎮痛剤、消炎剤、活性型ビタミンD剤、ビタミンK剤、カルシトニン製剤、エストロゲン製剤、蛋白質同化ホルモン製剤などの他の薬剤の1又は複数を配合して組成物とすればよい。さらに、飼料又は餌料としての形態の場合には、通常用いられる飼料又は餌料に適量のトレハロースを混合配合すればよい。さらに、特に、腸管における本発明の粘膜免疫調節剤の濃度を高めたい場合、あるいは胃液に対して弱い成分とを併用する場合には、腸溶性素材でコーティングを施した錠剤若しくは顆粒剤形態で用いることができる。使用形態にもよるが、この発明の粘膜免疫調節剤は、通常、トレハロースを0.1重量%以上、望ましくは、1重量%以上含有する。
【0018】
この発明の粘膜免疫調節剤の使用例及び用量をヒトの場合を例にとって説明すると、疾患の予防、疾患治療の効果の改善・増進に奏効する。とりわけ、粘膜免疫機能の働きを最良の状態に保つことができるので、A型肝炎ウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルスなどのウイルス、コレラ菌、赤痢菌、腸チフス菌、サルモネラ菌、キャンピロバクター、類鼻疽菌、腸炎ビブリオ菌、ブルセラ菌などの細菌、広節裂頭条虫、横川吸虫、肝吸虫、棘口吸虫、肺吸虫、アニサキス、顎口虫、広東住血線虫、赤痢アメーバ、クリプトスポリジウム、マラリア、ミクロフィラリアなどの寄生虫などが原因となる経口伝染病、又は、食物アレルギーといった飲食物の投与が原因となる疾病の予防又は治療に効果を発揮する。本発明の粘膜免疫調節剤は、疾病の予防を目的とする場合には、通常、飲食物の形態で経口的に投与する。一方、疾病の治療や、疾病に伴う症状の改善を目的とする場合には、通常、食品又は液剤、シロップ剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などの医薬品の形態で経口的に投与する。用量としては、通常、トレハロースの投与量が0.5g乃至100g/成人/日、望ましくは、1g乃至50g/成人/日になるようにして毎日投与するか、あるいは、1乃至5回/週の頻度で投与する。
【0019】
また、動物に投与させる場合には、上記したヒトの場合と同様にして、その動物の体重を目安に用量を決定すればよい。つまり、0.01g乃至2g/kg/日、望ましくは、0.02g乃至1g/kg/日になるようにして投与させるとよい。
【0020】
なお、トレハロースは、すでに食品分野に利用されており、経口投与の安全性が確認されているので安心して用いることができる。
【0021】
以下、本発明を実験を用いて詳細に説明する。
【0022】
<実験1:パイエル板免疫担当細胞の反応性への影響(1)>
トレハロース投与による免疫担当細胞への作用効果は、パイエル板から採取した免疫担当細胞のリポ多糖(LPS)刺激によるIFN−γの産生量を指標にして評価した。IFN−γは前述の如くIgAの産生を増強する働きをも有するサイトカインである。すなわち、結晶性α,α−トレハロース粉末(商品名『トレハ』、株式会社林原商事販売)の適量を蒸留水に溶解し、滅菌処理後、常法にしたがって、雄性C3H/HeNマウス(10匹/群)5週齢にα,α−トレハロースを投与量を1g/kgマウス体重の用量で1日1回5日間経口投与した。対照のα,α−トレハロース非投与群には蒸留水のみを等量投与した。これらのマウスは清潔な環境下において、滅菌処理済みの固形飼料及び水を自由に与えて飼育した。最終投与日の翌日にマウスを解剖して、パイエル板をすべて摘出し、それらを細切後0.2%(w/v)コラゲナーゼ液で37℃、30分処理し、セルストレーナーで未消化物を除去し、遠心分離して沈渣物を得た。さらに免疫担当細胞を単離するために、その沈渣物を45%(v/v)パーコール液に浮遊させ、75%(v/v)パーコール液に重層して遠心分離し、中間層に浮遊する免疫担当細胞を回収し、ウシ胎児血清10%(v/v)及び2−メルカプトエタノール5×10−5モル/lを含むRPMI1640培地に浮遊させ、さらに刺激剤として0、0.2又は1μg/mlのLPSを添加しつつ、最終細胞濃度を2×10個/mlとした。これらを37℃、5%COインキュベーターで2日間培養した後、培養液上清のIFN−γの濃度を常法の酵素免疫法によって測定した。なお、本実験においては、IFN−γの標準品として、米国国立公衆衛生研究所から入手した標準マウスIFN−γ(Gg02−901−533)を用い、国際標準単位(IU)に換算して表示した。結果を図1に示す。
【0023】
図1の結果から明らかなようにα,α−トレハロース経口投与マウスのパイエル板から調製した免疫担当細胞は、α,α−トレハロース非投与マウスよりもLPS刺激に応じてIFN−γの産生量が高まる傾向があった。この結果は、α,α−トレハロース経口投与により、パイエル板に存在する免疫担当細胞の細菌性の刺激に対する免疫反応性が高まり、α,α−トレハロースの経口投与が細菌感染性の疾患の予防及び治療に有効であることを物語っている。また、LPS非刺激下においては、IFN−γの産生は逆に抑制される傾向にあることから、平常時の免疫反応を過剰に増加させないことが期待される。
【0024】
<実験2:パイエル板免疫担当細胞の反応性への影響(2)>
トレハロース投与による免疫担当細胞への作用効果を、パイエル板から採取した免疫担当細胞のLPS刺激又はコンカナバリンA(ConA)刺激によるIL−2、IFN−γ及びIgAの産生量を指標にして評価した。すなわち、α,α−トレハロース0.1g/kgマウス体重の用量で週5回の頻度で4週間に亙って経口投与させた雌性ddYマウス、又はα,α−トレハロースの代わりに蒸留水を経口投与させた雌性ddYマウスから、それぞれパイエル板を採取し、細切後0.2%(w/v)コラゲナーゼ液で37℃、30分処理し、セルストレーナーで未消化物を除去し、遠心分離して沈渣物を得た。さらに免疫担当細胞を単離するために、その沈渣物を45%(v/v)パーコール液に浮遊させ、75%(v/v)パーコール液に重層して遠心分離し、中間層に浮遊する免疫担当細胞を回収し、ウシ胎児血清10%(v/v)及び2−メルカプトエタノール5×10−5モル/lを含むRPMI1640培地に浮遊させ、免疫担当細胞を調製した。この免疫担当細胞浮遊液を3群に分け、そのうちの2群は刺激剤としてLPS2μg/ml又はConA5μg/mlを添加しつつ、最終細胞濃度を1×10個/mlとした。残りの1群は刺激剤を添加しない以外は同様にして対照とした。これらを37℃、5%COインキュベーターで培養した。3日間培養した後、培養液のIL−2、IFN−γ、IgAの濃度を実験1と同様に、常法の酵素免疫法によって測定した。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1の結果から明らかなように、α,α−トレハロース投与マウスのパイエル板から調製した免疫担当細胞では、α,α−トレハロース非投与マウスのそれと比較して、LPS又はConA刺激非存在下では低レベルに保たれているIFN−γ産生量を、これらの刺激剤存在下で著しく高めた。さらに、IL−2についても、LPS刺激においては同様であった。一方、IgAについては、α,α−トレハロース投与マウス由来のパイエル板免疫担当細胞においては無刺激時においても高いレベルの量で産生され、その産生量はLPS又はConA刺激によって著しく増加した。この結果は、α,α−トレハロース経口投与は刺激剤存在下でのサイトカイン及びIgA抗体の産生量を高めることで、経口感染性疾患の予防、治療に有効であることを物語っている。
【0027】
以下、本発明の粘膜免疫調節剤の実施例を示す。
【実施例1】
【0028】
<健康食品>
ガムベース2質量部を柔らかくなる程度に加熱融解し、これにマルトース粉末2質量部、蔗糖粉末4質量部及び結晶性α,α−トレハロース粉末(商品名『トレハ』、株式会社林原商事販売)1質量部を加え、更に少量のハッカ香料と着色料とを混合した後、常法にしたがってロールにより練り合わせ、成形することによってチューインガムを得た。
【0029】
呈味、風味ともに良好な本品は、食すれば粘膜免疫機能を調節するので、健康を維持・増進する健康食品として有用である。
【実施例2】
【0030】
<経口流動食>
下記の成分を配合し、経口流動食を得た。
結晶性α,α−トレハロース 1質量部
脱脂粉乳 43質量部
全粉乳 12質量部
水飴 42質量部
ブドウ糖 3質量部
ビタミンA 適量
ビタミンD 適量
塩酸チアミン 適量
リボフラビン 適量
塩酸ピリドキシン 適量
シアノコバラミン 適量
酒石酸水素コリン 適量
ニコチン酸アミド 適量
パントテン酸カルシウム 適量
アスコルビン酸 適量
酢酸トコフェロール 適量
硫酸鉄 適量
リン酸水素カルシウム 適量
アラビアゴム 適量
【0031】
本品を適量の水に溶解し、経口投与すれば、通常の食事投与ができない患者の栄養補給が可能な上、粘膜免疫機能が調節され、患者の良好な回復が期待できる。また、チューブを用いて経管投与することもできる。
【実施例3】
【0032】
<健康補助食品>
結晶性α,α−トレハロース粉末40質量部、天然珊瑚粉末20質量部、牛骨粉10質量部、粉末ヨーグルト10質量部、グアーガム12質量部、ビタミンC3質量部及び糖転移ビタミンP0.5質量部を常法にしたがって適量の水を噴霧滴下しながら混練し、流動層造粒した後、粉砕し、整粒して打錠用粉体を得た。これに潤沢剤として蔗糖脂肪酸エステル3質量部を均一に混合した後、直径6mmの杵を装着した打錠機により打錠してα,α−トレハロースを含有する錠剤(約200mg/錠)を得た。
【0033】
呈味、風味ともに良好な本品は、食すれば粘膜免疫機能を調節するので健康を維持・増進する健康食品として有用である。
【実施例4】
【0034】
<腸溶性錠剤>
実施例3の方法で得た錠剤タイプの本発明の粘膜免疫調節剤を、常法にしたがって酢酸セルロースでコーティングし、腸溶性の錠剤を得た。
【0035】
腸管に達してから溶解する本品は、有効成分を効率よく腸管に輸送できるので、比較的少量の服用で腸管免疫系を介しての免疫機能を調節する効果を発揮する。
【実施例5】
【0036】
<健康食品>
下記の材料を配合し、常法にしたがってチーズクラッカータイプの健康食品を得た。
小麦粉 100質量部
油脂 9質量部
麦芽エキス 1.3質量部
重曹 0.6質量部
チーズパウダー 13質量部
α,α−トレハロース 2質量部
砂糖 2質量部
食塩 1質量部
炭酸アンモニウム 0.6質量部
スパイス 適量
水 33質量部
【0037】
呈味、風味ともに良好な本品は、食すれば粘膜免疫機能を調節するので健康を維持・増進する健康食品として有用である。
【実施例6】
【0038】
<健康食品>
液体飲料用にブレンドした緑茶1質量部を65℃のイオン交換水30質量部で5分間抽出し、茶葉を除去して、緑茶抽出液を得た。この抽出液を飲用濃度にイオン交換水で希釈した後、希釈液に1(w/v)%α,α−トレハロース及び0.03(w/v)%L−アスコルビン酸を添加した後、常法にしたがって、適当な容器に、充填、密封、殺菌を行い、緑茶飲料タイプの健康食品を得た。
【0039】
呈味、風味ともに良好な本品は、飲用すれば粘膜免疫機能を調節するので健康を維持・増進する健康食品として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、ヒト又は動物において、経口投与されたトレハロースが、粘膜に存在する免疫担当細胞、とりわけパイエル板に存在する免疫担当細胞の働きを調節することによって、粘膜免疫機能を調節する作用を発揮するという知見に基づくものである。この作用ゆえに、有効成分としてトレハロースを含んでなる本発明の粘膜免疫調節剤は、免疫機能の変調によって罹患しやすくなる経口伝染病又は食物アレルギーなどの治癒、予防、症状の緩和に効果を発揮する。また、平常時のサイトカイン産生を抑制することから、服用による副作用の心配が少なく、有効成分のトレハロースは、極めて安価であるので、安心して常用できる。本発明は斯くも顕著な作用効果を有する発明であり、斯界に貢献すること誠に多大な意義のある発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてα,α−トレハロースを含有し、腸溶性素材でコーティングされていることを特徴とする腸管粘膜免疫調節剤。
【請求項2】
腸溶性素材が酢酸セルロースであることを特徴とする請求項1記載の腸管粘膜免疫調節剤。
【請求項3】
錠剤または顆粒剤の形態であることを特徴とする請求項1又は2記載の腸管粘膜免疫調節剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−197030(P2009−197030A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139205(P2009−139205)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【分割の表示】特願2002−540732(P2002−540732)の分割
【原出願日】平成13年11月2日(2001.11.2)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】