説明

粘膜適用液剤

【課題】フマル酸ケトチフェンに由来する経時的な着色を抑制もしくは軽減しつつ、粘膜への適用においても刺激が少ないpHを呈する粘膜適用液剤を提供する。
【解決手段】(a)フマル酸ケトチフェン、(b)ポリエチレングリコール4000、並びに(c)α−シクロデキストリン及びβ−シクロデキストリンの少なくとも1種を含有し、pHが5.8〜7の範囲にあり、波長400nmにおける吸光度が0.03以下であることを特徴とする粘膜適用液剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフマル酸ケトチフェンを含有する粘膜適用液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フマル酸ケトチフェンは化学伝達物質の遊離抑制作用と抗ヒスタミン作用を併せ持つ抗アレルギー薬の一種であり、アレルギー性鼻炎をはじめアレルギー性結膜炎、気管支喘息などの治療薬として汎用されている。
【0003】
フマル酸ケトチフェンを液剤として使用する場合、フマル酸ケトチフェンに由来する経時的な着色が生じるため、そのpHを5.8以下にすることが好ましい(特許文献1及び2参照)。
【0004】
しかしながら、正常なヒトの鼻汁や涙液のpHは中性付近であるため、酸性の粘膜適用液剤を投与すると刺激を生じることがあり、刺激を好まないユーザーに供するため、中性付近のpHを呈するフマル酸ケトチフェン含有粘膜適用液剤の開発が望まれている。
【0005】
そして、特許文献1及び2をはじめ先行技術文献の中に、フマル酸ケトチフェン、ポリエチレングリコール及びシクロデキストリンを配合し、pHが5.8〜7の範囲にある粘膜適用液剤の開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−308770号公報
【特許文献2】特開2001−187728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、鼻粘膜等への投与の際に刺激が少なくなるようにフマル酸ケトチフェン含有粘膜適用液剤のpHを中性付近に調整した。しかし、得られた粘膜適用液剤には経時的に着色が生じるという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、中性付近のpHを呈するため粘膜刺激性が緩和され、経時的な着色が抑制された、フマル酸ケトチフェン含有粘膜適用液剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、フマル酸ケトチフェンを含有する液剤に、ポリエチレングリコール4000、並びに、α−シクロデキストリン又はβ−シクロデキストリンを配合することにより、経時的に発生する帯黄色〜微黄色への着色を効果的に抑制もしくは低減し、中性付近のpHを呈する粘膜適用液剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かかる本発明の態様は次のとおりである。
(1)(a)フマル酸ケトチフェン、(b)ポリエチレングリコール4000、並びに(c)α−シクロデキストリン及びβ−シクロデキストリンの少なくとも1種を含有し、pHが5.8〜7の範囲にあることを特徴とする粘膜適用液剤である。
(2)(a)フマル酸ケトチフェン、(b)ポリエチレングリコール4000、並びに(c)α−シクロデキストリン及びβ−シクロデキストリンの少なくとも1種を含有し、pHが5.8〜7の範囲にあり、波長400nmにおける吸光度が0.03以下であることを特徴とする粘膜適用液剤である。
(3)点鼻剤又は点眼剤である(1)又は(2)記載の粘膜適用液剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、フマル酸ケトチフェン含有液剤の経時的な着色が効果的に抑制され、刺激が少ないとされる中性付近のpHを呈する粘膜適用液剤を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、フマル酸ケトチフェンは通常医薬品として用いられる品質のものを使用することができ、フマル酸ケトチフェンの含有量は、医薬品として配合される一般的な量であり、具体的には、粘膜適用液剤全体の0.01w/v%〜0.1w/v%である。
【0013】
ポリエチレングリコール(以下、適宜「PEG」と表記する。)とは、エチレンオキシドと水との付加重合体を示し、重合度により液状から固体状のものまで存在する。本発明におけるPEGは、着色防止効果の点から、PEG4000が好ましい。PEG4000の好ましい含有量は、粘膜適用液剤全体の0.1w/v%〜15w/v%であり、更に好ましくは0.15w/v%〜10w/v%である。
【0014】
シクロデキストリン(以下、適宜「CD」と表記する。)とは、デンプンにある種の酵素を作用させて得られる環状オリゴ糖であり、グルコースがα−1,4結合で環状に連なった化合物を示す。特に、グルコースが6個環状に結合したものはα−CD、7個環状に結合したものはβ−CD、8個環状に結合したものはγ-CDと呼ばれている。本発明におけるCDは、効果の点からα−CDまたはβ−CDを用いることが好ましい。各CDの好ましい含有量は、粘膜適用液剤全体の0.1w/v%〜10w/v%であり、さらに好ましくは0.5w/v%〜5w/v%である。なお、上記含有量内であれば、2種のCDを組み合わせて使用することもできる。
【0015】
本発明の粘膜適用液剤のpHの範囲は、5.8〜7である。pHが5.8未満であると粘膜投与時に刺激が生じるおそれがあり、pHが7を超えると着色防止効果の持続が不十分になるからである。
【0016】
本発明の粘膜適用液剤の波長400nmにおける吸光度は0.03以下である。波長400nmにおける吸光度が0.03より大きいと粘膜適用液剤は黄色を帯び、誤って白系の被服につけたときに黄色のシミとなる虞があるからである。波長400nmのときの吸光度が0.03以下の場合、粘膜適用液剤は無色澄明であり、そのような懸念はない。
【0017】
ここで、吸光度は紫外可視分光光度計を用い、精製水でゼロ点補正した後に、波長400nmにおける吸収を測定する。
【0018】
本発明の粘膜適用液剤には、ステロイド剤、殺菌剤、抗炎症剤、抗ヒスタミン剤、局所麻酔剤、血管収縮剤、抗アレルギー剤、ビタミン、アミノ酸、ピント調節剤、収斂剤、清涼化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤、等張化剤、溶解補助剤などの通常配合することができる他の有効成分、添加剤などを本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0019】
本発明の粘膜適用液剤の調製は、常法により、精製水にフマル酸ケトチフェン、ポリエチレングリコール4000、シクロデキストリン及び必要があればその他の成分を混合し、溶解した後、pHの調節を行い、最終的に精製水により容量調整をする製造方法が最も簡便である。
【0020】
本発明の粘膜適用液剤は、粘膜に投与する外用液剤として、点眼剤、点鼻剤、口腔用剤、咽頭用剤、痔疾用剤等として使用することができるが、フマル酸ケトチフェンを有効成分とするため、点眼剤又は点鼻剤として提供するのが一般的である。
【実施例】
【0021】
以下に実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。
【0022】
実施例1
精製水にフマル酸ケトチフェン0.0756g、ポリエチレングリコール4000 1g、β−シクロデキストリン1gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを6.5に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0023】
実施例2
精製水にフマル酸ケトチフェン0.0756g、ポリエチレングリコール4000 1g、α−シクロデキストリン2gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを6.5に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0024】
実施例3
精製水にフマル酸ケトチフェン0.069g、ポリエチレングリコール4000 0.5g、β−シクロデキストリン1gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを6.1に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0025】
実施例4
精製水にフマル酸ケトチフェン0.069g、ポリエチレングリコール4000 2g、β−シクロデキストリン1gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを6.8に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0026】
比較例1
精製水にフマル酸ケトチフェン0.0756g、ポリエチレングリコール4000 1gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを6.5に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0027】
比較例2
精製水にフマル酸ケトチフェン0.0756gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを5.9に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0028】
比較例3
精製水にフマル酸ケトチフェン0.0756g、α−シクロデキストリン2gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを6.5に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0029】
比較例4
精製水にフマル酸ケトチフェン0.069g、ポリエチレングリコール4000 0.5gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを6.1に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0030】
比較例5
精製水にフマル酸ケトチフェン0.0756g、ポリエチレングリコール400 1gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを6.5に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0031】
比較例6
精製水にフマル酸ケトチフェン0.0756gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを6.5に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0032】
比較例7
精製水にフマル酸ケトチフェン0.0756g、β−シクロデキストリン1gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを6.5に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0033】
比較例8
精製水にフマル酸ケトチフェン0.0756g、ポリエチレングリコール400 1g、α−シクロデキストリン2gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを6.5に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0034】
比較例9
精製水にフマル酸ケトチフェン0.0756g、ポリエチレングリコール4000 1g、ポリビニルアルコール(PVA)1gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを6.5に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0035】
比較例10
精製水にフマル酸ケトチフェン0.0756g、ポリエチレングリコール4000 1g、プロピレングリコール(PG)1gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを6.5に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0036】
比較例11
精製水にフマル酸ケトチフェン0.069g、ポリエチレングリコール4000 2gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを6.8に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0037】
参考例1
精製水にフマル酸ケトチフェン0.0756g、塩酸ナファゾリン0.025g、塩化ベンザルコニウム0.01gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを4に調整し、D−ソルビトール液を適量添加して等張付近になるように調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0038】
参考例2
精製水にフマル酸ケトチフェン0.0756g、塩酸ナファゾリン0.05g、塩化ベンゼトニウム0.02gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを4に調整し、グリセリンを適量添加して等張付近になるように調整した後、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0039】
参考例3
精製水にフマル酸ケトチフェン0.0756g、塩酸テトラヒドロゾリン0.1g、塩化ベンゼトニウム0.02gを添加し、撹拌して溶解させた。該液にクエン酸及びクエン酸ナトリウムを適量添加してpHを4に調整し、グリセリンを適量添加して等張付近になるように調整した後、精製水を加えて全量を100mLとした。
【0040】
試験例1
実施例1〜3及び比較例1〜10で調製した液剤を透明ガラス管に充填してサンプルとした。このサンプルを65℃で2週間静置後、外観、におい、沈殿の有無、pH及び波長400nmにおける吸光度を測定した。結果を表1−1〜1−3に示した。なお、着色度合いは、強い方から微黄色>帯黄色で示した。
【0041】
【表1−1】

【0042】
【表1−2】

【0043】
【表1−3】

【0044】
試験例2
実施例4及び比較例11で調製した液剤を透明ガラス管に充填してサンプルとした。このサンプルを65℃で9日間静置後、試験例1と同様にして、外観、におい、沈殿の有無、pH及び波長400nmにおける吸光度を測定した。結果を表2に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
試験例1及び2の結果から、本発明にかかる液剤の波長400nmにおける吸光度は0.03より小さい範囲にあり、経時的な着色が抑制されていることがわかった。また、本発明にかかる液剤のpHは5.8〜7の範囲にあり、粘膜適用液剤とした場合の刺激性も問題ないレベルにあることが容易に推察される。一方、フマル酸ケトチフェン単独の処方(比較例2及び6)、フマル酸ケトチフェンにPEG400、PEG4000又はCDを単独で配合した処方(比較例1、3、4、5、7及び11)、フマル酸ケトチフェンにPEG400及びCDを配合した処方(比較例8)、並びにフマル酸ケトチフェンにPEG4000及びPGを配合した処方(比較例10)では、波長400nmにおける吸光度が0.03より大きく、経時的な着色を十分に抑制することができず、また、PEG4000及びPVAを用いた処方(比較例9)では、着色は抑制されたものの、においが発生し、pHの著しい低下が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により、低刺激で、経時的な着色が抑制された澄明なフマル酸ケトチフェン含有点鼻剤、点眼剤等を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)フマル酸ケトチフェン、(b)ポリエチレングリコール4000、並びに(c)α−シクロデキストリン及びβ−シクロデキストリンの少なくとも1種を含有し、pHが5.8〜7の範囲にあることを特徴とする粘膜適用液剤。
【請求項2】
(a)フマル酸ケトチフェン、(b)ポリエチレングリコール4000、並びに(c)α−シクロデキストリン及びβ−シクロデキストリンの少なくとも1種を含有し、pHが5.8〜7の範囲にあり、波長400nmにおける吸光度が0.03以下であることを特徴とする粘膜適用液剤。
【請求項3】
点鼻剤又は点眼剤である請求項1又は2記載の粘膜適用液剤。

【公開番号】特開2009−263340(P2009−263340A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62622(P2009−62622)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】