説明

精米方法及び装置

【課題】 胚芽米や7分搗米は栄養価の面ではすぐれているが、精白米(白米)に比して、外観、食べ易さ、消化吸収の面では劣っている。本発明ではこれらの長所を併せ持った精白米、すなわち、精白米でありながら胚芽米等のように栄養価にすぐれ食味も増加した新しいタイプの精白米を製造する。しかもその際、食品添加物等を使用することなく、米の成分のみを利用して製造する方法の開発を目的とする。
【解決手段】 玄米を一次精米(1〜5分搗)した後、一次精白米と一次精糠を分離することなく混合寝かせ処理し(10〜40時間)、次いで二次精米して精白米(白米)にまで精米するが、その際これらの全工程は18〜40℃の低温域で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飯米の食味を増加し栄養価を高める精米方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精白米は、精米によって玄米から糠及び胚芽を除去することによって製造される。在来の精米法としては、(1)玄米に研磨剤を添加して一定歩合精米し、直ちに精米と米糠を分別する方法、及び(2)玄米のみを精米機で精米し、直ちに精米と米糠を分別する方法があり、これらの方法は精米後、直ちに精米と研削した米糠を分別する方法である。
また、精米歩合については、3分搗(胚芽米の製造)、7分搗(7分搗米の製造)、10分搗(白米の製造)、20〜60分搗(酒米の製造)等が一般的であり、精米工程で副生する糠は分別、除去するのが通常である(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
これに対して本発明は、精米で副生する糠は、これを除去してしまうどころか、それとは全く逆に、精米後に糠と米を積極的に混合し、しかも更に両者を混合したまま寝かせ(放置し)、しかる後に更に1度又はそれ以上精米して精白米を製造するものであるが、このようなことは知られていないし、ましてや得られた精白米が従来の精米法で得られた精白米よりも風味及び栄養価双方の面ですぐれていることなど全く知られておらず、新規である。
【非特許文献1】「食品工業総合事典」、光琳、昭和54年10月25日、第528〜529頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
精白米(糠層、胚芽を含む糠を十分に除去した精米:10分搗米)は、色が白くて柔らかく食べやすいが、旨味や栄養素のかなりの部分が糠となってあるいは糠と共に除去されている。一方、7分搗米等精白度を低下させた場合には、普通精米に比して、外観、食味、食べやすさ、消化吸収率の低下等は避けられない。
【0005】
本発明は、このような技術の現状に鑑み、10分搗米すなわち精白米でありながら、胚芽米や7分搗米などのようにすぐれた食味及び栄養価を有する従来未知の新規精白米の製造、換言すれば、従来相反しており両立し得ない性質を併有する新しいタイプの精白米の製造、しかも食品添加物等を使用することのない製造を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するためになされたものであって、解決すべき技術課題が極めて困難且つ高度である点に鑑み、本発明者らは、発想の転換の必要性を認め、精米を1回で終了するのではなく、2回以上行うこと、精米により副生した糠を従来法のように分離除去するのではなくそれとは全く逆に糠と米を混合ししかも両者を混合したまま維持し、しかる後に所望する精米歩合に精米したが、目的を達成するには至らなかった。
【0007】
しかしながら、本発明者らは更に研究を続け、その過程において温度の重要性に着目した。そして、各種の検討、研究の結果、一連の上記工程は低温で実施することがよいことを見出し、その温度範囲の特定にも成功し、遂に本発明を完成するに至ったものである。
以下、本発明について詳述する。
【0008】
本発明を実施するには、例えば図1に示したように、玄米を一次精米(1〜5分、好ましくは2〜3分搗)した後、副生した糠(一次精糠)を米(一次精白米)と分離することなく、両者を混合したまま10〜40時間(好適には18〜30時間、更に好適には22〜26時間)寝かせ(静置)を行い、次いで二次精米(5〜10分搗、好ましくは7〜10分)を行い、しかもこれらの一連の工程を18〜40℃(好適には20〜35℃、更に好適には25〜27℃)の低温域で行い、目的とする二次精白米を得るのである。
【0009】
本発明の詳細なメカニズムの解明は後の研究にまたねばならないが、現時点では次のように考えられる。
【0010】
すなわち、一次精米によって酵素活性が起動、促進され、次いで、一次精米と一次糠を分離することなく、両者を18〜40℃、10〜40時間混合状態に維持して(寝かせ)、一種のインキュベーションを行う。その結果、次のような作用効果が促進ないし達成され、そして飯米の旨味が増加し、栄養価が高まるものと考えられる。
【0011】
(1)アミラーゼ活性効果により玄米中のデンプンから還元糖(β−アミラーゼにより麦芽糖を、グルコアミラーゼによりブドウ糖)を生成し、二次精米の白米中においても甘味は増加する効果。
(2)プロテアーゼ活性効果により、玄米中のタンパク質からアミノ酸を生成(玄米中のタンパク質の全アミノ酸中のグルタミン酸量は約20%含む)するためプロテアーゼ活性効果によって二次精米の白米中においても旨味は増加する効果。
(3)リパーゼの活性効果により、玄米中の油脂から脂肪酸を生成する。その結果、二次精米の白米中においても、炭素数16のパルミチン酸及び炭素数18のステアリン酸は増加する効果。
【0012】
上記したように、一次精米の(1〜5分、好ましくは2〜3分搗)によって酵素活性が促進され、次いで生成した一次精白米と副生した一次精米糠について、本発明においては、除糠することなく、両者を混合して混合接触反応(10〜40時間寝かせ)を行うことにより、次のような作用効果が奏される。
【0013】
玄米の立体的構造は、外部から表皮、アリュウロン層及び糊粉層に分別されている。1〜5分、好ましくは2〜3分精米(一次精米)では糊粉層及び胚の大部分は残して、一次精米糠には表皮とアリュウロン層が殆ど含まれている。
【0014】
この一次精米糠を分析した結果、乾物中フィチン(イノシトールの6リン酸エステルでCa,Mg,Fe等の塩類とキレート状に化合している)20〜26%、油脂15〜18%、無機質5〜8%を含み、この一次精米糠を一次精米と25〜27℃で24時間混合接触反応することによって、二次精米中の甘味を持つ還元糖(ブドウ糖、麦芽糖)、旨味の素であるグルタミン酸を含むアミノ酸が増加することを発見した。この発明は一次精米糠を玄米から分別することによって、一次精米のアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼの触媒を活性化する作用、促進する作用を与える。即ち、一次精米の酵素活性を促進することを発見した。
【0015】
そして、更に、一次精米と一次精糠とを混合して接触せしめた後、二次精米を行うのであるが、その際、混合接触反応(寝かせ)は、18〜40℃、10〜40時間の反応条件で行うことにより、二次精米の食味と栄養価を高めることができることを見出し、これらの新規な有用知見に基づき、本発明は完成されたものである。
したがって、本発明は、従来未知の全く新規な発明であって、過去において報告例も認められないものである。
【0016】
本発明に係る新規精米方法は、例えば図2に示した新規精米装置によって具体的に実施することができる。本発明に係る新規精米装置は、玄米を精米する際、玄米貯留槽、一次精米機、混合寝かせ槽及び二次精米機を経て、二次精米の製品を得るまでの一連の全工程を10〜40℃、好適には20〜35℃の一定温度で連続して操作することを特徴とするものである。
【0017】
先ず、18〜40℃に保持した玄米貯留槽から玄米を取り出し、この温度で一次精米機により精米処理する(一次精米)。一次精米では完全には精米せず、例えば1〜9分搗、好ましくは1〜5分、更に好ましくは2〜3分搗とする。一次精米によって、一次精白米一次精糠が生成、副生するが、本発明においては、糠を分離、除去することなく、米に糠を混合して寝かせることが必要である。
【0018】
一次精米と一時精米糠の混合接触反応(18〜40℃、10〜40時間)は、混合寝かせ槽で行うが、一時精米機内に両者を保持することによってこの反応を実施することも可能である。この反応は、通常、寝かせ(静置)によって実施するが、所望するのであれば、連続して又は間欠的にゆっくりと攪拌することも可能である。なお、一次精白米と一次精糠は、一時精米で得られた全量を混合寝かせ処理してもよいし、これらの混合比率を変えることによって、最終精米製品の食味、栄養価等を適宜調整することも可能である。
【0019】
次いで、二次精米機によって二次精米を行い、二次精米を得る。糠は分離する。二次精米は、一時精米に応じて行い、最終的に完全精米(10分搗)とする。例えば、一次精米(1〜5分搗)の場合は二次精米(5〜10分搗)とする。なお、二次精白米を完全精白米とまではしないことを所望する場合には、所望する精米度まで適宜二次精米を行えばよい。二次精米は1回で実施してもよいし、2回以上に亘って実施してもよい。
【0020】
二次精米も上記と同じく18〜40℃(好ましくは20〜35℃、更に好ましくは25〜37℃)の低温域で行う。例えば、一次精米機も同様であるが、二次精米機としては循環式精米機を用い、2〜10回(好ましくは4〜6回)発熱を防止しながら、60〜200分間(好ましくは100〜150分間)精米すればよいが、もちろん上記低温域を維持できるのであれば、他の精米機も適宜使用可能である。
【0021】
上記したように、本発明は、飯米の食味を増加し及び/又は栄養価を高める新規な精米方法及び装置に関するものであって、その態様としては次のものが例示される。
【0022】
(1)玄米を精米する際、一次精米機の1〜5分、好ましくは2〜3分精米によって玄米の一部分の細胞を破壊し、消化酵素を活性化した後、18〜40℃(最適は25〜27℃)において10〜40時間(好ましくは18〜30時間、更に好ましくは22〜26時間)寝かせ(静置)を行い、一次精米の加水分解及び酸化酵素反応時間を確保し、次いで二次精米の白米5〜10分好ましくは7〜10分精米を製造すること、を特徴とする精米方法。
(2)玄米を精米する際、玄米貯留槽、一次精米機、混合寝かせ槽及び二次精米機を含有し、二次精白米製品を得るまでの一連の全工程を18〜40℃(好ましくは20〜35℃)の一定温度で連続して操作できるよう操作速度をコントロールしたり、あるいは各装置に冷却ジャケットを装備したり、あるいは、各装置全体を空調管理された室内に収容したりしてなること、を特徴とする精米装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、玄米を一時精米した後、米と糠を分離することなく両者を混合してインキュベートし、生成した自己消化米を二次精米すること、しかもこれらの全工程を18〜40℃の低温域で実施するという新規精米方法が提供され、白米でありながら、飯米の食味が増加し及び/又は栄養価が高まった白米の製造がはじめて可能となった。
【0024】
このように本発明によって製造された二次精白米は、外観や喰べ易さや食味のほか消化吸収率は白米と同様にすぐれており、そのうえ更に、栄養価については、胚芽米や7分搗米に匹敵するものを保有しており、いわば、本発明に係る精白米は、両者の長所を併有したものということができ、卓越したものである。また、本発明に係る精白米は、わずかに着色しているが(例えば、淡黄色ないし淡褐色ないしアメ色)、炊飯するとこれらの着色は消失ないし低減して白色あるいは白色に近い色の飯となる。
【0025】
例えば、本発明方法によって精米することにより、従来法によって製造した精白米に比して、還元糖が5〜20%、脂質が30〜60%、アミノ酸(1)が50〜200%、アミノ酸(2)が20〜100%増加した精白米を製造することができるし、脂肪酸も増加させることができ、パルミチン酸は10〜50%、ステアリン酸は50〜200%も増加させることが可能である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によって更に詳しく説明するが、本発明は本実施例のみに限定されるものではなく、例えば、二次精白米製品の成分含量は1例として例示したものであって、これら測定値以上含まれる場合もあり、これらも当然本発明の権利範囲に包含されるものである。
【0027】
(実施例1)
図2に示した装置を用い、玄米(壱岐産コシヒカリ)から二次精米(白米)を製造した。
玄米900kgを玄米貯留槽に入れて、全量を20〜35℃の室温にて貯留後、一次精米と糠を20〜35℃の室温で24時間混合寝かせた後、二次精米を室温(26℃)で4〜6回に分けて循環法(発熱を防ぐため)により、120分間精米し、この全精米工程を20〜35℃、26時間で二次精米を得た。なお、一次精米機としては(株)サタケ製作所の製品(15馬力)、二次精米機としては(株)東洋精米製作所の製品(15馬力)を使用した。
【0028】
この発明精米の組成を在来法精米と比較するため、各成分の組成分析結果を表1、表2に示した。その結果、発明米は在来法に比較して還元糖14%、脂質46%、アミノ酸*1 92%及びアミノ酸*2では54%の増加が確認された。
【0029】
(表1)
在来法精米と発明精米の塑性分析(1)
―――――――――――――――――――――――――――――
組成 K Mg Cu Fe
試料 (ppm) (ppm) (ppm) (ppm)
―――――――――――――――――――――――――――――
在来精米 508.09 195.53 5.57 167.15
発明精米 545.15 251.46 8.72 126.28
―――――――――――――――――――――――――――――
【0030】
(表2)
在来法精米と発明精米の塑性分析(2)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
組成 全糖 還元糖*2 脂質 アミノ酸*1 アミノ酸*2
試料 (%) (ppm) (%) (%) (ppm)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
在来精米 71.16 802 0.28 0.66 133
発明精米 74.73 918 0.41 1.27 205
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0031】
なお、上記表において、*1及び*2は、それぞれ次のことを表わす。
*1 各々の白米1gに蒸留水200mL、25%塩酸溶液20mLを加え、湯浴中にて2.5時間加熱した。その後10%水酸化ナトリウム溶液にて中性にし、全量を500mLにし、ろ過を行ったものを試料として用いた。なお糖についてはソモギー変法、アミノ酸−Nについてはフォルモール法を用いて行った。
*2 各々の白米5gを蒸留水50mLに1時間浸漬した後、乳鉢で粉砕後全量を100mLとし、ろ過を行ったものを試料として使用した。
【0032】
一方、精米中の脂肪酸量も測定した。その結果を図3(ガスクロマトグラム)に示したが、その結果から明らかなように、在来法米に比較して本発明法では、特にパルミチン酸が27%増加し、ステアリン酸は157%も増加することが立証された。
【0033】
これらの分析結果から、本発明は在来法に比較して食味を増加し、栄養価を高めることが実験データからも証明された。
【0034】
なお、ガスクロマトグラフィーは、GAS CHROMOTOGRAPH G−2800(Yanaco製)を用い、以下の条件にて行った。
(ガスクロマトグラフィー条件)
inj. Volume: 1μL
Oven Temp.: 180℃
Injector Temp.:220℃
Detector Temp.:220℃
Carrier Gas: 120kPa
2: 100kPa
Air: 100kPa
Column: I.D 3.4mm、 L. 2M
Packing: KOCL−3000T 5%
Support: chromosorb W AM−DMCS
Mesh: 60/80
ATTN: 128
Chart Speed: 0.5mm/min
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る精米方法の1例のフローチャートである。
【図2】本発明に係る精米装置の1例を示す。
【図3】本発明に係る精米法と在来精米法で製造された白米中のパルミチン酸(C16)及びステアリン酸(C18)の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
玄米を一次精米した後、除糠することなく一次精白米と一次精糠を混合したまま寝かせ処理した後、二次精米を行うことを特徴とし、且つ、一連の全工程を18〜40℃の温度範囲で操作すること、を特徴とする精米方法。
【請求項2】
玄米を1〜5分、好ましくは2〜3分精米に一次精米した後、除糠することなく一次精白米(1〜5分、好ましくは2〜3分精白米)と一次精糠を混合したまま18〜40℃に10〜40時間、好ましくは18〜30時間、更に好ましくは22〜26時間保持して寝かせ処理した後、18〜40℃で二次精米して二次精白米(5〜10分、好ましくは7〜10分精白米)を製造すること、を特徴とする精米方法。
【請求項3】
玄米貯留槽、一次精米機、混合寝かせ槽、二次精米機からなり、玄米から二次精白米の製造に至る全工程に係る各装置を18〜40℃に保持してなること、を特徴とする精米装置。
【請求項4】
精米機が循環式精米機であること、を特徴とする請求項3に記載の精米装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の方法によって製造してなる、飯米の食味を増加し又は栄養価を高めてなる精白米。
【請求項6】
還元糖、脂質、アミノ酸、脂肪酸の少なくともひとつが常法で精白した精白米に比して増加したものであること、を特徴とする請求項5に記載の精白米。
【請求項7】
淡黄色ないしアメ色に着色しているが、炊飯すると着色は消失ないし低減するものであること、を特徴とする請求項5又は6に記載の精白米。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−130442(P2006−130442A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323847(P2004−323847)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(501263441)株式会社唐房米穀 (1)
【Fターム(参考)】