説明

精製ヒドロフルオロアルカンを得るための方法

本発明は、従って、一態様においては、不飽和有機不純物から精製された少なくとも2個の炭素原子を含むヒドロフルオロアルカンを得るための方法であって、(クロロ)フルオロオレフィンを含む有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンが、好ましくはイニシエータの存在下で臭素またはBrClとの少なくとも1種の精製処理に供される方法に関する。この方法は、例えば、1,1,1,2−テトラフルオロエタンを精製するために好適である。さらなる態様は、気体−気体、液体−液体または気体−液体タイプの化学反応を支援するためのLEDまたはOLEDの適用、ならびに、対応する反応器に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンから選択される精製ヒドロフルオロアルカンを得るための方法に関し;ならびに、一定の化学方法における放射線源としてのLEDおよびOLEDの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンなどのヒドロフルオロアルカンは、例えば膨張剤、冷媒または溶剤としての(ヒドロ)クロロフルオロアルカンの代替物として用いられ得る。
【0003】
これらのヒドロフルオロアルカンは、典型的にはクロロまたはクロロフルオロ前駆体をフッ化水素と反応させることにより製造される。この反応において得られる粗ヒドロフルオロアルカンは、度々、未転化の試薬、塩化水素およびオレフィン系不純物、特に2個、3個または4個の炭素原子を含有するクロロフルオロオレフィンなどの不純物を含有する。
【0004】
(特許文献1)には、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンを精製するためのプロセスが記載されている。この公知のプロセスによれば、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン中のフルオロトリクロロエチレン含有量を、FeClの存在下でのイオン性クロロ化により、活性炭担持Pd/Rhの存在下での水素化により、または、特に、フッ素との反応により低減させることが可能である。
【0005】
(特許文献2)には、300〜400nmの波長のUV光で開始される光クロロ化が実施される、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンから1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを精製するためのプロセスが記載されている。
【0006】
(特許文献3)によれば、ヒドロフルオロアルケン(換言すると、単に炭素、水素およびフッ素から構成されるオレフィン)はヒドロフルオロアルカン中に不純物として存在する場合には特に除去が困難であり、特に1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン中に不純物として存在する、特に3〜5個の炭素原子を含むもの、最も特定的には実験式Cに相当するものは特に除去が困難である。前記国際特許出願は、例えば、270nm未満の波長を有する光での不飽和不純物の光クロロ化によってヒドロフルオロカーボンを精製する数々の方法を開示する。他の方法は、HFとの反応、吸着剤の適用および一定の蒸留方法に関する。
【0007】
いく種かの不純物のきわめて低い化学反応性のために、ヒドロフルオロアルカン中のヒドロフルオロアルケンの化学処理による除去は長い処理時間を必要とする傾向にあり、これは、ヒドロフルオロアルカンを製造するための産業的プロセスにおいては望ましくない。極端な場合には、一定のヒドロフルオロアルケン含有量未満に達することが不可能であり得る。
【0008】
従って、実施が簡単である技術的手段を用いると同時に、オレフィン系不純物の含有量および特にヒドロフルオロアルケンの含有量の効果的な低減を可能とする、ヒドロフルオロアルカン、特に1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンを精製するための利用可能なプロセスを有することが所望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際特許出願第WO−A−00/14040号パンフレット
【特許文献2】国際特許出願第WO−A−97/37955号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2002/12153号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、従って、不飽和有機不純物から精製された少なくとも2個の炭素原子を含むヒドロフルオロアルカンを得るための方法に関し、これによれば、(クロロ)フルオロオレフィンを含む有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンが、臭素またはBrClとの少なくとも1種の精製処理に供される。「ヒドロフルオロアルカン」という用語は、炭素原子、水素原子およびフッ素原子のみから構成される飽和脂肪族化合物を示す。それ故、必然的に少なくとも1個の水素原子が存在する。本発明によれば、少なくとも水素原子と同数のフッ素原子を含有するヒドロフルオロアルカンが精製されることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
精製されるべきヒドロフルオロアルカン分子において所望されない水素−臭素交換が行われるのではなく、臭素およびBrClが適度な速度で不飽和不純物に付加することはきわめて意外であると考えられる。
【0012】
本発明による方法は、特に2〜6個の炭素原子を含むヒドロフルオロアルカンに適用される。例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236fa)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)および1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(HFC−43−10mee)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンを精製することが可能である。この方法は、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの精製に、および最も特定的には1,1,1,2−テトラフルオロエタンを精製するために特に好適である。
【0013】
本発明による方法は、ヒドロフルオロアルカン中の有機不純物の含有量を効果的に低減させることが意外にも見出された。特に、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンは、本発明による方法の条件下で物理的および化学的安定性を有する。本発明による方法は容易に実施され得る。
【0014】
本発明による方法によりその含有量が低減され得る有機不純物は、一般に、2〜6個、時々それ以上の炭素原子を含む。1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンが処理される場合には、これらは、一般に、2個、3個または4個の炭素原子を含む。「(クロロ)フルオロオレフィン」という用語は、本発明において、水素原子、塩素原子および/またはフッ素原子により置換されているが、ただし少なくとも1つの置換基が塩素またはフッ素原子であるオレフィンを示す。例えば、この用語は、クロロオレフィン、ヒドロクロロオレフィン、フルオロオレフィン、ヒドロフルオロオレフィン、クロロフルオロオレフィンおよびヒドロクロロフルオロオレフィンを包含する。精製されるべきヒドロフルオロカーボンは、このような1種以上の(クロロ)フルオロオレフィンを含有し得る。不純物は、少なくとも1個の塩素原子により置換された、エテン、プロペンおよび/またはブテンを含み得る。これらは、特に2個、3個または4個の炭素原子を含有する(クロロ)フルオロオレフィンである。クロロフルオロエタン、クロロジフルオロエタン、例えば、HFC−1122、クロロジフルオロプロペンおよびクロロフルオロブテンが、除去され得るオレフィンの例として挙げられる。
【0015】
本発明による方法は、精製されるべきヒドロフルオロアルカン中に汚染物として存在するヒドロフルオロアルケンおよびヒドロフルオロクロロアルケンを効果的に除去するために特に好適である。本発明による方法は、特に1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン中に存在するオレフィン系不純物の含有量の効果的な低減を可能とする。
【0016】
臭素での処理は、ヒドロフルオロアルカン中のオレフィン系不純物を臭素化する。これらは、とりわけ、2個、3個または4個の炭素原子を含有する(クロロ)フルオロオレフィンまたは、特に、上述のヒドロフルオロアルケン、ヒドロフルオロクロロアルケンおよびクロロアルケンである。
【0017】
本発明の方法により除去され得る不純物の特定の例は、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1−ジフルオロクロロエテン(HCFC−1122)、1,2−ジフルオロクロロエテン(HCFC−1122a)、特に1,1,1,2−テトラフルオロエタン中に存在し得るトランス−1−クロロ−2−フルオロエタン、または1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン中のモノクロロトリフルオロブテン異性体である。
【0018】
この反応は熱的に実施することが可能であるが、イニシエータの存在下に実施されることが好ましい。イニシエータは、臭素またはBrCl分子を開裂により分解する。
【0019】
本発明による方法の3つの変形例が好ましい。
【0020】
本発明による方法の第1の変形例において、イニシエータは、有機または無機イニシエータ化合物から選択されるラジカルイニシエータである。
【0021】
オレフィン系不純物を含有するヒドロフルオロアルカンとイニシエータ化合物との混合を促進させるために、本発明による方法の第1の態様の第1の変形例は液相中で実施されることが好ましい。
【0022】
本発明によれば、フリーラジカルイニシエータはしばしば有機化合物である。有機化合物のなかでも、過酸化またはジアゾ化合物が通常用いられる。過酸化化合物が特に用いられる。これらのうち、ジアシル過酸化物、パーオキシジカーボネート、アルキル過酸エステル、パーアセタル(peracetal)、ケトン過酸化物、アルキルヒドロ過酸化物およびジアルキル過酸化物がより特に選択される。ジアシル過酸化物またはパーオキシジカーボネートが選択されることが好ましい。優れた結果が、過酸化ジラウロイル、過酸化ジベンゾイルまたはジアセチルパーオキシジカーボネートで得られている。
【0023】
フリーラジカルイニシエータはまた無機化合物であってもよい。この場合、これは、しばしば、過酸化水素、特に過炭酸ナトリウムなどの過炭酸塩、および、過ホウ酸ナトリウムなどの過ホウ酸塩から選択される。
【0024】
イニシエータ化合物は、臭素での処理温度で、0.1〜3時間、好ましくは0.5〜1.5時間、および通常は約1時間の半減期を有する化合物から選択されることが好ましい。
【0025】
イニシエータ化合物は、一般に、オレフィン系不純物を含有するヒドロフルオロアルカンと相対的な重量基準で少なくとも約10ppmの割合で用いられる。特に、イニシエータ化合物の重量基準で少なくとも約20ppmが用いられ、より特に、重量基準で少なくとも約30ppmが用いられる。最も頻繁に、イニシエータ化合物の重量基準で約10000ppm以下が、オレフィン系不純物を含有するヒドロフルオロアルカンと比して用いられる。好ましくは、有機イニシエータ化合物の量は、重量基準で約1000ppmを超えず、さらにより好ましくは、重量基準で約300ppmを超えない。
【0026】
本発明による方法の第1の変形例において、臭素は、気相または液相中で用いられ得る。これは、臭素化されるべきオレフィン系不純物の全量に比して過剰量でオレフィン系不純物を含有するヒドロフルオロアルカン中に導入される。一般に、臭素は、オレフィン系不純物1モル当たり3mol超、および好ましくは、オレフィン系不純物1モル当たり少なくとも約4molの割合で用いられる。一般に、オレフィン系不純物1モル当たり約40molの臭素を超えることは望ましくない。実質的にすべての臭素が反応することが可能であり、本精製処理後に未転化の形態で存在しないように使用量を制限することが好ましい。好ましくは、この量は、オレフィン系不純物1モル当たり約15molを超えず、および、さらにより好ましくはこの比は約12を超えない。
【0027】
本発明による方法の第1の変形例において、臭素での処理は、広い温度範囲にわたって実施され得る。特に、臭素での処理は、少なくとも約40℃およびさらにより特に少なくとも約60℃の温度で実施される。より高い温度が不飽和化合物のより速い転化を可能とする。しかしながら、これは、配慮が必要となる相関的な圧力の上昇をもたらす。好ましくは、この処理温度は、約150℃を超えず、およびさらにより好ましくは約100℃を超えない。優れた結果は、臭素での処理が60〜100℃の範囲で実施された場合に得られた。
【0028】
本発明による方法の第1の変形例において、臭素での処理は、自生圧または例えば、不活性ガスを導入することにより生成されるより高い圧力で実施され得る。普通、この処理は、約5MPaおよび好ましくは2MPaを超えない圧力で実施される。約0.2〜約2.0MPaの圧力が使用のためにきわめて好適である。
【0029】
臭素での処理に許容される高温および高圧のこれらの関連づけられた条件は、オレフィン系不純物の高速、かつ、効果的な除去に寄与する。本発明による方法の第1の変形例において、臭素での処理時間は約1〜約120分間であり得る。好ましくは、塩素での処理時間は約60分間以下である。
【0030】
本発明による方法の第1の変形例の有利な実施形態によれば、イニシエータ化合物は、臭素の添加の前に、オレフィン系不純物を含有するヒドロフルオロアルカンに導入される。本発明のこの実施形態の好ましい実施変形例において、臭素は、処理温度に近似する温度でヒドロフルオロアルカンに導入される。本発明のこの実施形態の特に好ましい実施変形例において、イニシエータ化合物はまた、処理温度に近似する温度でヒドロフルオロアルカンに導入される。
【0031】
本発明による方法の第2の変形例において、フリーラジカルイニシエータであるイニシエータは電磁放射線である。320〜540nmの範囲の波長を有する光が臭素の適用に対して効果的である。ここで、320nm〜540nmの全範囲にわたって放射線を放射する、または1つ以上の部分範囲においてのみ光を放射する光源を適用することが可能である。狭い範囲においてのみ放射線を放射する光源、また、レーザ源などの単一波長を有する放射線を放射する光源でさえも適用することが可能である。320nm〜540nmの範囲外の放射線を放射する光源の適用性を排除するものではない。しかしながら、この範囲では、反応混合物に照射されたエネルギーの一部が失われることに注意しなければならない。当然、所望の場合には、異なる光源を組み合わせることが可能である。BrClの適用の観点においては、300nm〜520nmの間の範囲内の放射線が好適であることを言及しておくべきである。臭素での処理が好ましく、さらに詳細に説明することとする。
【0032】
例えば太陽または通常の人工光源により放射される可視光を、例えばイニシエータとして適用することが可能である。例えば、電球、ハロゲンランプまたは蛍光灯または蛍光チューブを光源として用いることが可能である。あるいは、UVをイニシエータとして適用することが可能である。360nm〜520nmの間の範囲に波長を有する光がきわめて効果的である。380nm〜500nmの範囲内に波長を有する光が特に効果的である。その放射線が、380〜500nmの範囲内に波長を有する放射線の少なくとも一部を含む光源を適用することが好ましい。本発明による方法のこの変形例の一実施形態において、360nmより長い波長の部分のエネルギーは、電磁放射線の総エネルギーの5%より高いことが好ましい。他の実施形態において、520nmより短い波長の部分のエネルギーは、電磁放射線の総エネルギーの少なくとも95%である。本発明に好適である典型的な光源は、UV−A光(約320nm〜400nm)および/または可視光を放射するものである。例えばヨウ化ガリウム、ヨウ化カドミウムまたはヨウ化タリウムでドープされたものといった例えば、低圧、中圧または高圧Hgランプを適用することが可能である。蛍光性チューブも好適である。発光ダイオード(LED)および有機発光ダイオード(OLED)もまた臭素ラジカルの誘導を引き起こすためにきわめて好適であることが見出された。LEDの利点は、きわめて狭いスペクトルの光を放射することである。それ故、最大の吸光に近い最適な範囲で光を放射するLED(またはOLED)を選択することが可能である。臭素の最大吸光係数が約410〜420nmであるために、例えば、390nm〜460nmの範囲で光を放射するダイオードがきわめて好適である。青色光を放射するLED(またはOLED)がたいへん好適である。これらのLEDは市販されている。
【0033】
驚くべきことに、本発明による方法のこの第2の変形例は、ヒドロフルオロアルカン中に含有されている可能性がある(クロロ)フルオロアルケン、例えば、ヒドロフルオロアルケン、クロロフルオロアルケンおよびヒドロクロロフルオロアルケンの量を、急速に、かつ、ヒドロフルオロアルカンの実質的な分解を伴わずに許容レベルに低減させるために特に効果的であることが見出された。本発明による方法のこの変形例は、幅広いスペクトルの波長の存在下での臭素の使用を許容すると共に、速い精製操作、不飽和不純物の効率的な分解および向上したエネルギーの使用を可能にする。
【0034】
ランプおよびバーナを保護するために、冷却を適用し得る。ランプ、複数のランプまたはバーナと精製反応が実施される反応媒体との間の隔離は、一般に、所望の波長を透過させる透光性の材料で達成される。例えば、放射線は、石英ガラスまたはホウケイ酸ガラスを透過し得る。ホウケイ酸ガラスは約280nm未満の波長を有する放射線を吸収することが知られている、これは、本発明の方法に悪影響を及ぼさない。
【0035】
米国特許第6489510号明細書に記載のとおり、例えば、保護塗料または収縮チューブといった放射線に対して透過性(透明)である防食性コーティングを適用することも可能である。保護コーティングは、装置全体に適用することも可能であり、または放射線が透過する選択された部分に適用することも可能である。
【0036】
本発明による光化学精製方法は、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンのヒドロフルオロアルケンおよびヒドロクロロフルオロアルケンからの精製に特に好適である。
【0037】
本発明の方法のこの変形例は、他の変形例のように、例えば、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(R−1233zd)を不純物として含む1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの精製に首尾よく適用することが可能である。
【0038】
実験式C、特にE−CF−CH=CF−CH、Z−CF−CH=CF−CH、E−CF−CH=CH−CHF、Z−CF−CH=CH−CHF、E−CF−CH−CH=CHF、Z−CH−CH−CH=CHFおよび/またはCF−CH−CF=CHのヒドロフルオロアルケンから、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンを精製するために特に好適である。この方法は、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンを、E−CF−CH=CF−CH、Z−CF−CH=CF−CHおよびCF−CH−CF=CHから選択される1種以上のヒドロフルオロアルケンから精製するために特に好適である。CClF、テトラクロロエテンまたはフルオロトリクロロエテンからもまた精製されることが可能である。
【0039】
これは、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)を精製するためにきわめて特に好適である。例えば、以下の不純物の1種以上を含むHFC−134aを処理することが可能である:1,2−ジフルオロエテン(HFC−1132a/HFC−1132)、トリフルオロエタン(HFC−1123)、オクタフルオロ−2−ブテン(FC−1318my)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225zc)、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)、3,3,3−トリフルオロプロペン(HFC−1243zf)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC−1234ze)、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(HFC−1336mzz)、1,1−ジフルオロクロロエテン(HFC−1122)、1,2−ジフルオロクロロエテン(HFC−1122a)、トランス−1−クロロ−2−フルオロエタン(HCFC−1131)、1,1−ジクロロ−2,2−ジフルオロエテン(CFC−1112a)、トランス−1,2−ジクロロフルオロエタン(HCFC−1121)、トリクロロエテン(HCC−1120)、クロロトリフルオロエタン(CFC−1113)、および塩化ビニル(HCC−1140)。好ましくは、以下の不純物の1種以上を含むHFC−134aが処理される:2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225zc)、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)、3,3,3−トリフルオロプロペン(HFC−1243zf)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC−1234ze)、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(HFC−1336mzz)、1,1−ジフルオロクロロエテン(HFC−1122)、1,2−ジフルオロクロロエテン(HFC−1122a)、トランス−1−クロロ−2−フルオロエタン(HCFC−1131)。特に好ましくは、HFC−134aは本発明の方法に基づいて処理されて、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC−1234ze)、1,1−ジフルオロクロロエテン(HFC−1122)、およびトランス−1−クロロ−2−フルオロエタン(HCFC−1131)およびクロロトリフルオロエタンを含む群から選択される不純物の含有量が除去されるか、または少なくとも低減される。
【0040】
電磁放射線の強度は、一般に少なくとも0.01W・h/不純物を含有するヒドロフルオロアルカン1kg、好ましくは少なくとも0.02W・h・kg−1またはさらには少なくとも0.05W・h・kg−1である。電磁放射線の強度は、一般に5W・h/不純物を含有するヒドロフルオロアルカン1kg以下および好ましくは3W・h・kg−1以下またはさらには2W・h・kg−1以下である。
【0041】
本発明による方法の第2の変形例において、臭素は、気相または液相中で用いられ得る。液相中で用いられることが好ましい。
【0042】
本発明による方法の第1の態様の第2の変形例は、例えば、流下薄膜型光反応器または浸漬型バーナ光反応器において実施され得る。
【0043】
本発明による方法の第1の態様の第2の変形例の第1の実施形態において、臭素は、不純物を含有するヒドロフルオロアルカン中の臭素化されるべきオレフィン系不純物全体と相対的に理論量または過剰量で導入される。この実施形態において、臭素は、オレフィン系不純物1モル当たり約1mol以上の量で用いられる。臭素の量は、この実施形態においては、一般にオレフィン系不純物1モル当たり約10mol以下の臭素である。好ましくは、この量は、オレフィン系不純物1モル当たり約5molの臭素を超えず、さらにより好ましくは、この比は約2を超えない。
【0044】
本発明による方法の第2の変形例の第2の実施形態において、臭素は、不純物を含有するヒドロフルオロアルカン中の臭素化されるべきオレフィン系不純物全体より少ない量で導入される。この変形例において、臭素は、オレフィン系不純物1モル当たり1モル未満の量、好ましくはオレフィン系不純物1モル当たり約0.9mol未満の量で用いられる。臭素の量は、この実施形態においては、一般に、オレフィン系不純物1モル当たり約0.01mol以上の臭素である。好ましくは、この量は、オレフィン系不純物1モル当たり約0.1mol以上の臭素である。オレフィン系不純物1モル当たり約0.5mol以上の量の臭素が最も特に好ましい。
【0045】
本発明による方法の第2の変形例において、臭素での処理は、一般に−30℃以上の温度で実施される。このような低温では、1,1,1,2−テトラフルオロエタンの精製のための光化学反応は、液体状態において常圧で実施されることが可能である。この温度は、しばしば0℃以上である。好ましくは、この温度は約10℃以上である。この変形例において、臭素での処理は、一般に150℃以下の温度で実施される。この温度は、しばしば100℃以下である。好ましくは、この温度は約80℃以下である。きわめて好ましい範囲は30℃〜75℃である。
【0046】
本発明による方法の第2の変形例において、臭素での処理が実施される圧力は、一般に約1バール以上である。臭素での処理が実施される圧力は、一般に約40バール以下である。当業者は、一定の温度での特定の化合物の蒸気圧は、その化合物の沸点が低いほど高いことを知っている。従って、1,1,1,2−テトラフルオロエタンが本発明に基づいて処理される場合、この圧力は、しばしば5バール(絶対)以上である。これはしばしば15バール以下である。1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンが本発明に基づいて処理される場合、この圧力は、しばしば1バール(絶対)以上である。これはしばしば5バール(絶対)以下である。1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンが本発明に基づいて処理される場合には、この圧力は、しばしば2バール(絶対)以上である。これはしばしば10バール(絶対)以下である。
【0047】
本発明による方法の第2の変形例において、臭素での処理時間は様々である。この時間は、しばしば、反応条件、不純物の臭素との反応速度、および、当然ながら、不純物が除去される所望の程度に依存する。例えば、高エネルギー出力であるか、または、放射される放射線が高吸光範囲に近いランプまたはバーナを用いることで、しばしば、低エネルギー出力であるか、または、放射される放射線が高吸光範囲にあまり近くないランプまたはバーナの使用と比して、一定の純度を達成するために必要とされる処理時間が短縮される。しばしば、この時間は0.1分間以上である。臭素での処理時間は、しばしば1分以上である。好ましくは、臭素での処理時間は2分間以上である。本発明による方法の第1の態様の第2の変形例において、臭素での処理時間は、一般に10時間以下である。臭素での処理時間は、しばしば5時間以下である。好ましくは、臭素での処理時間は約1時間以下である。特定の好ましい様式においては、30分間を超えない。
【0048】
本発明の第1の態様の第3の変形例において、イニシエータは、所定の量の金属イオンである。第3の変形例は、好ましくは実質的にフリーラジカルイニシエータの不在下で実施される。特にこれは、320nm〜540nmの範囲内に波長を有する電磁放射線の実質的な不存在下で実施されることが好ましい。この変形例によれば、上述のものなどのヒドロフルオロアルケン、クロロフルオロアルケンおよびヒドロクロロフルオロアルケンの効率的な排除は、所望のヒドロフルオロアルカンの実質的な分解を伴わずに達成され得る。この変形例において、イニシエータをヒドロフルオロアルカンから分離するために特定の分離操作は必要とされない。あるいは、イニシエータは、任意の蒸留により容易に分離される。
【0049】
金属イオンはルイス酸であることが好ましい。元素周期律表(IUPAC1970)の第IIIa、IVaおよびb、Vaおよびb、VIbおよびVIII族金属のイオンから選択されることが好ましい。特に好適な方法では、鉄、ニッケル、アルミニウム、ホウ素、チタン、クロム、ジルコニウム、タンタル、錫、またはアンチモンのイオンから選択される。鉄イオンが特に好ましい。例えばFeCl、FeCl、FeBrおよびFeBrといったハロゲン化鉄化合物がきわめて好適である。
【0050】
臭素での処理中に存在する金属イオンの量は、有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンに対して重量基準で、一般に10.000ppm以下、しばしば5000ppm以下および好ましくは1000ppm以下である。金属イオンの量は、より頻繁に100ppm以下である。この量は好ましくは50ppm以下である。30ppm以下の金属イオンの量が特に好ましい。臭素での処理中に存在する金属イオンの量は、有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンに対して重量基準で、一般に少なくとも0.01ppmである。この金属イオンの量は、より頻繁に少なくとも0.1ppmである。この量は、好ましくは少なくとも0.5ppmである。
【0051】
金属イオンは、例えば好適な金属化合物の添加によって反応媒体に導入されることが可能である。特定の実施形態においては、この臭素での処理は、上述のとおり好適な金属を含有する材料製の反応器中で、少なくとも微量の金属イオンが放出されるに十分な条件下で実施される。
【0052】
本発明による方法の第3の変形例において、臭素での処理は、一般に0℃以上の温度で実施される。この温度はしばしば20℃以上である。好ましくは、この温度は約40℃以上である。この変形例において、臭素での処理は、一般に200℃以下の温度で実施される。この温度はしばしば150℃以下である。好ましくは、この温度は約100℃以下である。
【0053】
本発明による方法の第1の態様の第3の変形例において、臭素での処理時間は、一般に1時間以上である。臭素での処理時間はしばしば3時間以上である。本発明による方法の第1の態様の第3の変形例において、臭素での処理時間は一般に20時間以下である。好ましくは、臭素での処理時間は約10時間以下である。
【0054】
本発明による方法の第3の変形例における好適な圧力は、本発明による方法の第2の変形例と同じである。
【0055】
本発明による方法の第3の変形例において、ヒドロフルオロアルカンは、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンからなる群から適宜選択される。1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンから選択されることが好ましい。最も好ましくは、ヒドロフルオロアルカンは、1,1,1,2−テトラフルオロエタンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンである。
【0056】
他の実施形態において、本発明による方法の第3の変形例はまた、上述のものなどのバルククロロ(フルオロ)オレフィンまたは大量のこのようなクロロ(フルオロ)オレフィンを含む画分の臭素化に有利に用いられることが可能である。
【0057】
本発明による方法は、バッチ式、半連続式または連続モードで実施され得る。連続モードが好ましい。
【0058】
本発明による方法においては、臭素化反応器および蒸留装置は、特に、MONEL、INCONELまたはHASTELLOYなどのタイプの合金などの耐食性材料製であることが好ましい。
【0059】
本発明による方法において、有利には、臭素中の酸素含有量が体積基準で1000ppm未満であること、好ましくは、体積基準で50ppmを超えないことが確実とされるよう注意される。これを達成するために、オレフィン系不純物を含有するヒドロフルオロアルカンは先ず、例えば窒素といった不活性ガスでスパージングすることにより脱気され得る。しばしば、出発材料中の酸素含有量はこれらの条件を満足するか、またはこの出発材料は無酸素でさえあるであろう。
【0060】
本発明による方法において、臭素での処理には一般に分離操作が続き、その役割は主に、高い沸点を有するヒドロフルオロアルカン化合物から、特に含まれる場合には残存臭素および先の不飽和不純物をそれらが臭素化された後に分離することである。分離操作は好ましくは蒸留である。
【0061】
イニシエータとしての放射線の存在下での臭素(またはBrCl)での処理といった第2の変形例が好ましい変形例である。
【0062】
所望の場合には、本発明の方法は、当技術分野において公知である他の処理と組み合わせて実施することが可能である。例えば、
(a)イニシエータの存在下での塩素または臭素での処理
(b)フッ化水素との反応
(c)精製ヒドロフルオロアルカンが蒸留カラムの頂部または側部から取り出される蒸留
(d)抽出蒸留
(e)固体吸着媒への吸着
(f)酸素を含有する化合物との反応、および
(g)元素塩素との反応を除く、少なくともいく種かの有機不純物と反応することができる試薬との気相反応
からなる群から選択される1つ以上の追加の処理ステップの前または後に実施することが可能である。
【0063】
以下において、追加の処理ステップが詳細に説明されている。追加のステップにより、ヒドロフルオロアルカンは、不純物を除去するために、または臭素での処理によっては除去されることができないか反応速度が過度に遅い不純物を除去するために前処理されることが可能である。あるいは、既に臭素で処理されたヒドロフルオロアルカンを、例えば、除去されなかったかあるいは臭素での処理によっては満足な程度にまで除去されなかった不純物を除去するための、または形成された臭素化生成物を除去するためのその後の追加の処理ステップに供することが可能である。
【0064】
一つの追加の処理ステップにおいて、ヒドロフルオロアルカンは、イニシエータの存在下で、元素塩素またはもう一度臭素で処理される。イニシエータは、塩素または臭素分子を開裂により分解させる。フリーラジカルイニシエータは、しばしば有機化合物である。通常用いられる有機化合物のなかには、過酸化化合物またはジアゾ化合物がある。過酸化化合物が特に用いられる。イニシエータは可視光またはUV光であり得る。イニシエータはまた、ルイス酸であることが好ましい金属イオンであり得る。元素周期律表(IUPAC1970)の第IIIa、IVaおよびb、Vaおよびb、VIbおよびVIII族金属のイオンから選択されることが好ましい。特に好適な方法においては、鉄、ニッケル、アルミニウム、ホウ素、チタン、クロム、ジルコニウム、タンタル、錫またはアンチモンのイオンから選択される。鉄イオンが特に好ましい。
【0065】
他の追加の処理ステップにおいて、有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンはフッ化水素との反応に供される。
【0066】
これは、フッ化水素を用いることによって、ヒドロフルオロアルカン中に存在する有機不純物の含有量の効果的な低減を特に可能にする。後者の化合物は、ヒドロフルオロ化(hydrofluorination)によるヒドロフルオロアルカンの合成において用いられる試薬のなかにある。転化による生成物は、オレフィン系またはクロロフルオロ有機不純物よりも毒物学的におよび環境的に許容される飽和(ヒドロ)フルオロアルカンである。加えて、一定の有機不純物について、フッ化水素との反応は、所望のヒドロフルオロアルカン、すなわち、特に、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの形成をもたらすであろう。追加のステップは、ヒドロフルオロ化によるヒドロフルオロアルカンの合成の反応のために開発された技術的手段を用いることにより容易に実施され得る。
【0067】
この追加のステップによりその含有量が特に低減され得る有機不純物は少なくとも1個の塩素原子を含み、クロロフルオロエチレン、クロロジフルオロプロパンおよびクロロフルオロブタンまたは−ブテンなどである。これらは、クロロジフルオロエチレンまたはモノクロロトリフルオロブテン異性体などの、特に2個、3個または4個の炭素原子を含有する(クロロ)フルオロオレフィンである。
【0068】
追加のヒドロフルオロ化ステップがまた、上述の(クロロ)フルオロアルケン(任意により1個以上の水素原子を含有し得る)の排除に特に有用である。ヒドロフルオロアルケンとフッ化水素との反応は、フッ素化触媒の存在下に実施されることが好ましい。これは触媒の不在下に実施されてもよい。
【0069】
(クロロ)フルオロアルケン(任意により1個以上の水素原子を含有する)とフッ化水素との反応が触媒の存在下に実施される場合、HFのオレフィンへの付加および/または塩素原子のフッ素原子での置換を促進することが可能である触媒が用いられ得る。用いられ得る触媒のうち、元素周期律表(IUPAC、1970)の第IIIa、IVaおよびb、VaおよびbおよびVIb族からの金属ならびにこれらの混合物から選択される金属の誘導体が挙げられる。チタン、タンタル、モリブデン、ホウ素、錫およびアンチモン誘導体がより特に選択される。好ましくは、チタンまたは錫誘導体が用いられる。挙げられる金属誘導体は、塩およびより特にハロゲン化物である。好ましくは、この選択は、塩化物、フッ化物および塩化フッ化物からなされる。本発明によるヒドロフルオロアルカンを調製するための方法において特に好ましい触媒は、チタンおよび錫の塩化物、フッ化物および塩化フッ化物、ならびに、これらの混合物である。四塩化チタンおよび四塩化スズが使用のために特に好適である。
【0070】
ヒドロフルオロアルカン中に存在するフッ化水素と有機不純物とのモル比は、一般に少なくとも1mol/molである。好ましくは、この方法は、少なくとも1.5mol/molのモル比で実施される。用いられるフッ化水素と有機化合物とのモル比は、一般に1000mol/molを超えない。このモル比は10mol/molを超えないことが好ましい。この追加の処理ステップにおいて、3以下のフッ化水素とオレフィン系不純物とのモル比がしばしば維持される。
【0071】
HFとの反応は、バッチ式または連続法で実施され得る。
【0072】
反応がバッチ式法で実施される場合、有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンのフッ化水素との反応の時間は、一般に10分〜5時間の範囲である。好ましくは、この時間は少なくとも0.5時間である。有利には、この時間は少なくとも1時間である。普通、この時間は4時間を超えない。好ましくは、この時間は2.5時間を超えない。
【0073】
反応が連続法で実施される場合、反応器における試薬の滞留時間は一般に少なくとも0.5時間である。これは、通常30時間を超えない。典型的には、これは5〜25時間の範囲である。好ましくは、これは10〜20時間の範囲である。「反応器における試薬の滞留時間」という表記は、反応媒体の体積と、反応器出口での反応媒体の体積基準での流量との間の比を示すことが意図される。
【0074】
好ましい第1の変形例において、有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンのフッ化水素との反応は液相中で実施される。この変形例において、有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンのフッ化水素との反応が実施される温度は、一般に少なくとも60℃である。好ましくは、この温度は少なくとも80℃である。普通、この温度は160℃を超えない。好ましくは、これは140℃を超えない。
【0075】
この変形例において、圧力は、反応媒体が液体形態に維持されるよう選択される。用いられる圧力は、反応媒体の温度に応じて様々である。これは、一般に40バール以下である。好ましくは、35バール以下である。特に有利な様式において、圧力は25バール以下である。普通、圧力は5バール以上である。
【0076】
第2の変形例において、HFでの処理は気相中で実施される。この変形例は、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンを精製するために特に好適である。
【0077】
特に、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンは、意外な熱安定性を示し、その気相における精製が許容される。
【0078】
この第2の変形例において、酸化クロム、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウム、およびこれらの混合物から選択される金属酸化物に基づくフッ素化触媒がしばしば用いられる。しばしば、金属酸化物は、少なくとも100m/gおよび好ましくは少なくとも150m/gのBET法に基づいて測定される比表面積を有する。一般に、この比表面積は400m/g以下である。金属酸化物はアモルファスであることが好ましい。
【0079】
この第2の変形例において、フッ化水素との反応の温度は、一般に少なくとも50℃である。好ましくは、この温度は少なくとも100℃である。一般に、この温度は400℃以下である。好ましくは、この温度は300℃以下である。
【0080】
HFでの追加の処理は、ヒドロフルオロ化による合成、特にクロロ(フルオロ)カーボンのヒドロフルオロ化による合成によって得られたヒドロフルオロアルカンの精製に対する有利な適用を見出す。後者の場合において、有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンの塩化水素含有量を、本発明による方法の第2の態様におけるその使用の前に低減させておくことが有利であり得る。
【0081】
HFでの処理には、しばしば、ヒドロフルオロアルカンの回収を意図する少なくとも1つの処理ステップが続く。用いられ得る処理ステップの例は、とりわけ、例えば、KF、NaFあるいはアルミナなどの固体への吸着、水での洗浄、抽出操作、好適なメンブランによる分離、抽出蒸留または蒸留などの、残存フッ化水素をヒドロフルオロアルカンから分離するために用いられ得る処理である。
【0082】
本発明の他の実施形態によれば、有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンは蒸留にさらに供されると共に、精製ヒドロフルオロアルカンが蒸留カラムの頂部または側部から取り出される。
【0083】
驚くべきことに、特に2個、3個または4個の炭素原子を含む(ヒドロ)(クロロ)フルオロカーボンといったヒドロフルオロアルカン中に存在する有機不純物はヒドロフルオロアルカンと共沸物を形成する傾向を有さず、それ故、分離されることが可能であることが見出された。この処理ステップは容易に実施され得る。
【0084】
本発明による方法の追加の精製ステップによりその含有量が低減され得る有機不純物は、一般に2個、3個または4個の炭素原子を含む。これらは、特に臭素化反応生成物であり、しばしば、これらは臭素、ならびに、少なくとも1個の塩素およびフッ素により置換されたアルカンであり;これらは水素をさらに含み得る。通常は、これらは、2個、3個または4個の炭素原子を含有する。蒸留圧は、一般に40絶対バール未満であり;しばしば、25バール(絶対)未満である。一般に、この蒸留圧は、少なくとも0.5バールである。通常は少なくとも1バールである。好ましくは、これは少なくとも1.5バールである。適用される具体的な圧力は、蒸留されるべきベース生成物に応じる。ベース生成物が1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンである場合、この圧力は、上記の範囲の下方域内であることが好ましいであろう。ベース生成物が1,1,1,2−テトラフルオロエタンである場合、この圧力は、上記の範囲の中域から上方域内にあることが好ましいであろう。
【0085】
この追加のステップの記載において、圧力に対するいずれかの言及は、蒸留カラムの頂部で計測される絶対圧に対応する。
【0086】
蒸留が実施される温度は、一般に、およそ、選択された圧力でのヒドロフルオロアルカンの沸点に相当する。
【0087】
ヒドロフルオロアルカンが1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンである場合、良好な結果は約1.5〜3バールの圧力および約50〜70℃の温度で得られ、ヒドロフルオロアルカンが1,1,1,2−テトラフルオロエタンである場合、良好な結果は約5〜25バールの圧力および約20〜75℃の温度で得られる。
【0088】
蒸留は、1つ以上の蒸留カラムで実施され得る。好ましくは、1つのカラムのみが用いられることとなる。
【0089】
用いられ得る蒸留カラムはそれ自体公知である。例えば、従来のプレートカラム、または、「双流式」プレートカラムまたはバルク充填あるいは構造化充填されたカラムを用いることが可能である。
【0090】
蒸留における理論的プレート数は、一般に少なくとも10である。通常は少なくとも15である。少なくとも20の数が良好な結果をもたらす。
【0091】
この追加の処理ステップにおける有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンの供給は、一般にカラムの理論的プレート数の50%未満のレベルで実施され、カラムの頂部が理論的プレート数の100%に対応すると理解される。このレベルは、通常はカラムの理論的プレート数の45%以下である。一般に、この供給は、カラムの理論的プレート数の少なくとも5%のレベルで実施される。このレベルは通常はカラムの理論的プレート数の少なくとも10%である。
【0092】
側部からの取り出しが実施される場合、これは、一般に、蒸留の理論的プレート数の少なくとも50%に相当するレベルで実施される。側部の取り出しは、一般に蒸留の理論的プレート数の80%以下に相当するレベルで実施される。
【0093】
この追加の処理ステップにおいて、精製ヒドロフルオロアルカンは、一般に供給の少なくとも50%の量で除去される。この量は、通常は供給の少なくとも70%である。この量は、好ましくは供給の少なくとも80%である。一般に、精製ヒドロフルオロアルカンは、供給の99%以下の量で除去される。この量は、通常は供給の97%以下である。この量は、好ましくは供給の95%以下である。
【0094】
蒸留におけるモル還流の程度は一般に20以下である。この程度は、通常は10以下である。7以下の還流の程度が良好な結果をもたらした。
【0095】
本発明による精製処理において実施されることが可能である他の追加のステップは抽出蒸留である。この抽出蒸留は、一般に(ヒドロ)クロロカーボン、(ヒドロ)フルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボン、炭化水素、ケトン、アルコール、エーテル、エステル、ニトリル、塩化水素および二酸化炭素から選択される少なくとも1種の抽出剤の存在下に実施される。
【0096】
抽出剤として用いられ得るヒドロフルオロカーボンは、典型的には、1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を含む。好ましい特定のヒドロフルオロカーボン抽出剤は、例えば、ジフルオロメタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1−トリフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンから選択されるヒドロフルオロアルカン抽出剤である。本発明による方法の第4の態様におけるヒドロフルオロカーボン抽出剤は、普通、有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンとは異なることが理解される。
【0097】
用いられ得る他の抽出剤は、例えば、ジクロロメタン、パークロロエチレン、n−ペンタン、n−ヘキサン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジエチルエーテル、アセトン、2−ブタノン、酢酸エチルおよびアセトニトリルから選択される。
【0098】
他の実施形態において、抽出剤は、ヒドロフルオロ化によるヒドロフルオロアルカンの合成に好適である塩素化前駆体、または、クロロフルオロエタン、クロロフルオロプロパンおよびクロロフルオロブタンなどの前記塩素化前駆体のヒドロフルオロ化により得られるクロロ(フルオロ)中間体から選択される。
【0099】
好ましくは、この抽出剤は、1,1,1,3,3−ペンタクロロブタン、1,1−ジクロロ−1,3,3−トリフルオロブタン、1,3−ジクロロ−1,1,3−トリフルオロブタン、3,3−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロブタン、1−クロロ−1,3,3,3−テトラフルオロブタンおよび3−クロロ−1,1,3,3−テトラフルオロブタンまたはこれらの抽出剤の混合物から選択される。
【0100】
この蒸留は、一般に、適切な場合、抽出剤とヒドロフルオロアルカンとの間の共沸物の形成の実質的な回避を可能とする圧力および温度で実施される。
【0101】
この蒸留は、1つ以上の蒸留カラムにおいて実施され得る。好ましくは、1つのカラムのみが用いられる。
【0102】
本発明による方法において用いられ得る蒸留カラムはそれ自体公知である。例えば、従来のプレートカラムまたは「双流式」プレートカラムまたはバルク充填あるいは構造化充填されたカラムを用いることが可能である。
【0103】
本発明の精製方法における追加の処理ステップのさらに他の代替は固体吸着媒への吸着である。固体吸着媒は、例えば、アルミナ、シリカ、酸化鉄化合物、ゼオライトおよび活性炭から選択され得る。このような吸着媒は市販されている。吸着媒は、任意により、吸着処理での使用に先んじて活性化される。熱処理または固体吸着媒のルイス酸性度を高めることが意図される処理が好適である。好ましい固体吸着媒は、例えば塩酸または硝酸での洗浄といった、ルイス酸性度を高めることが意図される処理を経たものである。
【0104】
有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンと固体吸着媒との間の接触は、種々の技術に従って実施され得る。この方法は流動床において実施され得るが、一般には、有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンの流れが通される粒子の固定床の形態での固体吸着媒を配置することが好ましい。この流れは、液体または気体であり得る。一変形例において、吸着は気相において実施される。
【0105】
この追加のプロセスステップが気相において実施される場合、有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンと固体吸着媒との、少なくとも1秒の接触時間が実施される。好ましくは、このプロセスは、2秒超の接触時間で実施される。良好な結果は、3秒以上の接触時間で得られた。原理上は、このプロセスは、例えば数分間のきわめて長い接触時間で実施され得る。実際には、効率の理由から、このプロセスは、一般に、1分未満および好ましくは約30秒以下の接触時間で実施される。
【0106】
この追加のプロセスステップが液相において実施される場合、有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンと固体吸着媒との、少なくとも約2分間の接触時間が実施される。好ましくは、このプロセスは、約5分間超の接触時間で実施される。
【0107】
原理上は、このプロセスは、例えば120分間のきわめて長い接触時間で実施され得る。実際には、このプロセスは、一般に、60分間未満および好ましくは約30分間以下の接触時間で実施される。
【0108】
このプロセスステップが固定床において実施される場合、接触時間は、吸着媒の固定床の体積対有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンの流れの体積基準の流量の比として定義される。このプロセスステップが流動床において実施される場合、接触時間は、固体吸着媒を含有するタンクの容積対有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンの流れの体積基準の流量の比として定義される。
【0109】
固体吸着媒は粒子の粉末の形態で用いられ、その最適な粒径はこのプロセスが実施される条件に左右される。一般に、その粒径が約0.1mm〜10mmの範囲である固体吸着媒が選択される。このプロセスは、7mm以下の直径を有する粒子で実施されることが好ましい。特に好ましい様式において、5mm以下の直径を有する粒子が用いられる。しかも、その粒子が0.5mm以上の直径を有する固体吸着媒を用いることが好ましい。このプロセスは、1mm以上の直径を有する粒子で実施されることが好ましい。特に好ましい様式においては2mm以上の直径を有する粒子が用いられる。
【0110】
このプロセスの後、固体吸着媒は、例えば100〜250℃といった適度の温度で、例えば窒素下といった気流下で、または減圧下で加熱することにより再生され得る。この固体吸着媒はまた酸素での処理によっても再生され得る。
【0111】
本発明による他の代替的な追加のプロセスステップは、酸素を含有する化合物との反応による精製処理に関係する。酸素を含有する試薬は、ヒドロフルオロアルカン中、特に1,1,2−テトラフルオロエタンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン中に存在する有機不純物と優先的に、かつ、ヒドロフルオロアルカンを実質的に分解させることなく反応することが見出された。酸素を含有する化合物は、例えば、酸素化ガス、酸素化酸、有機あるいは無機過酸化物、過酸化物塩または過酸であり得る。このような化合物の具体例は、酸素、オゾン、過酸化水素、過酢酸、過マンガン酸カリウム、硫酸および三酸化硫黄から選択される。
【0112】
この追加のプロセスステップの実施形態において、この反応は、塩基の存在下に実施され、酸素を含有する化合物はアルコールである。塩基は、例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物であり得る。アルコールは、例えば、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールから選択され得る。
【0113】
酸素を含有する化合物との反応は、酸素化触媒の存在下または不存在下に実施され得る。用いられ得る酸素化触媒は、例えば、白金、マンガンまたはチタンを含有する化合物および特に錯体から選択され得る。
【0114】
酸素を含有する化合物との反応は、気相または液相中で実施され得る。液相中で実施されることが好ましい。この場合、反応温度は、一般に150℃以下である。この温度は、より頻繁に120℃以下である。好ましくは、この温度は100℃以下である。反応温度は、一般に少なくとも−20℃である。この温度は、より頻繁に少なくとも0℃である。好ましくは、この温度は少なくとも20℃である。
【0115】
反応圧力は一般に1〜40バールである。
【0116】
さらなる任意のプロセスステップは、気相における、少なくともいく種かの有機不純物と反応することができる試薬との反応に関する。ここで、試薬は、原理上は、気相中において、ヒドロフルオロアルカン中に存在する少なくともいく種かの有機不純物であって、特にオレフィン系不純物と反応することができるいずれかの試薬であり得る。この試薬は、有利には、塩化水素、水素、フッ化水素、酸素およびオゾンから選択される。
【0117】
典型例においては、この反応は触媒水素化である。
【0118】
驚くべきことに、触媒水素化は、特に1,1,1,2−テトラフルオロエタンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン中のいずれかの不純物の含有量を5mg/kg近くまで、さらにはこれより少ないレベルへの低減を、同時にヒドロフルオロアルカンの分解を回避しながら、可能とすることが見出された。
【0119】
本発明による気相中での触媒水素化反応において用いられ得る触媒は、例えば、好ましくは活性炭などの担体に担持された元素周期律表(IUPAC、1970)の第VIII族からの金属あるいは数種の金属の混合物、フッ素化アルミナまたはアルミニウム三フッ化物を含有する触媒である。第VIII族からの金属の具体例は、白金、パラジウムおよびロジウムである。これらの触媒のうち、パラジウムを含む触媒が好ましい。
【0120】
用いられ得る担持触媒における金属含有量は、一般に少なくとも0.001重量%である。この含有量は、通常は少なくとも0.1重量%である。担持触媒中の金属含有量は、一般に20重量%以下である。この含有量は、頻繁に10重量%以下である。触媒水素化の最中に存在し得る生成物、特にフッ化水素に対して耐性である触媒が選択されることが好ましい。良好な結果が、例えば、活性炭に担持されたパラジウムを含む触媒で得られる。
【0121】
試薬と、ヒドロフルオロアルカン中に存在する有機不純物とのモル比は、一般に少なくとも1mol/molである。好ましくは、このプロセスは、少なくとも1.5mol/molのモル比で実施される。試薬と有機不純物とのモル比は、一般に1000mol/molを超えない。このモル比は10mol/molを超えないことが好ましい。本発明によるプロセスの第7の態様において、試薬とオレフィン系不純物との3以下のモル比が頻繁に維持される。しかしながら、試薬が水素である場合、良好な結果はまた、5以上の水素とオレフィン系不純物とのモル比が維持される場合にも得られる。水素とオレフィン系不純物とのモル比は、有利には20以下である。好ましくは、この比は10以下である。
【0122】
気相反応の温度は、一般に少なくとも50℃である。この温度は、通常は少なくとも70℃である。好ましくは、この温度は100℃以上である。一般に、気相反応の温度は400℃以下である。好ましくは、この温度は300℃以下である。特に好ましい様式において、この温度は250℃以下である。さらにより好ましくは、この温度は150℃以下である。
【0123】
この追加のステップにおいて、しばしば、有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンを気体形態にすることが意図される操作を実施することが必要となる。この操作は例えば、蒸発を含み得る。好ましい一変形例において、この操作は、気相中での精製を目的とする、気体形態でのヒドロフルオロアルカンおよび有機不純物を含む蒸留画分の除去を含む。この蒸留画分は、有機不純物に追加して、場合により、ヒドロフルオロアルカンの合成の副生成物または中間体に起因する試薬を含む粗ヒドロフルオロアルカンの1回以上の蒸留により得てもよい。粗ヒドロフルオロアルカンは、特にこのヒドロフルオロアルカンがヒドロフルオロ化により得られる場合に、特に、フッ化水素および/または塩化水素を含み得る。粗ヒドロフルオロアルカン中のフッ化水素および/または塩化水素含有量は、蒸留画分が低フッ化水素および/または塩化水素含有量を有するように、蒸留により低減され得る。
【0124】
フッ化水素および/または塩化水素含有量のこの低減は、上述の触媒水素化が実施される場合に特に有利である。この場合、有機不純物を含有すると共に、一般に1000mmol/kg以下、好ましくは100mmol/kg以下の酸性度を有するヒドロフルオロアルカンが精製処理において用いられる。
【0125】
良好な結果は、フッ化水素および/または塩化水素を実質的に含まない有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンで得られる。
【0126】
有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンを気体形態にすることを意図する操作においては、一般に、ヒドロフルオロアルカンの温度が気相精製処理の温度を超えないことを確実にするように注意が払われる。
【0127】
気相精製反応の後に、有利には、有機不純物と試薬との間の反応の生成物からヒドロフルオロアルカンを分離することを意図する1つ以上の処理が続いてもよい。特に試薬が水素である場合には、蒸留が処理として好適である。
【0128】
本発明による方法においては、精製処理の後に、例えば、いずれかの残存酸性度、特に微量のフッ化水素を除去することが意図された1つ以上の仕上ステップが続き得る。この目的のための好適な仕上ステップは、例えば、アルミナ、KF、NaFまたはシリカなどの固体への吸着である。
【0129】
用いられ得る他の処理は、例えば、水での洗浄、抽出操作、または好適なメンブランによる分離である。
【0130】
本発明による方法は、前処理が必要とされることなく、任意の合成プロセスにより調製された、オレフィン系不純物を含有するヒドロフルオロアルカンの精製に適用される。本発明による方法はまた、実質的にヒドロフルオロアルカンおよび有機不純物のみから構成される、有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンの精製にも適用される。典型的には、精製されるべきヒドロフルオロアルカンは、10重量%以下の有機不純物を含有する。不純物のこの含有量は5重量%以下であり得る。これは、1重量%以下でもあり得る。本発明による方法は、0.1重量%以下の有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンにさえ適用され得る。
【0131】
本発明による方法は、ヒドロフルオロ化(hydrofluorination)、特にヒドロクロロ(フルオロ)カーボンのヒドロフルオロ化により得られたヒドロフルオロアルカンの精製において有利な用途が見出される。
【0132】
本発明による臭素での処理は、本発明による方法により達成される有益性を最適にするために、それぞれ追加の精製処理と組み合わされることが可能であると理解されるべきである。特定の実施形態において、本発明による方法は、本発明による少なくとも1種の精製処理を含む有機不純物を除去するための1つ、2つ、3つまたは4つの追加の精製ステップと組み合わされてもよい。特にこの組み合わせは、所望のヒドロフルオロアルカンの損失が極めて小さい、クロロ(フルオロ)オレフィン含有量の効果的な低減を可能にする。
【0133】
精製処理の好ましい組み合わせを記載している以下の段落においては、以下の略語が用いられている:
(a1)本発明による方法の第1の変形例による臭素またはBrClでの処理(有機または無機イニシエータ化合物から選択されるフリーラジカルイニシエータ);
(a2)本発明による方法の第2の変形例による臭素またはBrClでの処理(電磁放射線);
(a3)本発明による方法の第3の変形例による臭素またはBrClでの処理(金属イオンの存在);
(b)フッ化水素との反応;
(c)蒸留;
(d)抽出蒸留;
(e)固体吸着媒への吸着;
(f)酸素を含有する化合物との反応;
(g)気相反応、好ましくは水素化反応;
(h)例えば、主に波長>280nmのUV光を用いる、BrClでの光塩素化、光臭素化または光化学反応
(i)塩素の不存在下での光分解
(j)フッ素との反応。
【0134】
好適な順次の組み合わせとしては、とりわけ、(「+」は「続いて」を意味する)
(a3)+(a1)、(a3)+(a2)、(a2+c)、(c)+(a2)+(c)、(a2)+(c)、(a2)+(e)、(a2)+(e)+(c)、(a3)+(c)、(a3)+(e)、(a3)+(h)、(b)+(a2)、(a2)+(b)+(c)、(c)+(a1)、(c)+(a2)、(d)+(a1)、(d)+(a2)、(f)+(a2)、(g)+(a1)、(g)+(a2)、(i)+(a1)、(i)+(a2)、(j)+(a2)が挙げられる。
【0135】
組み合わせ(a3)+(a1)、(a3)+(a2)、(a3)+(c)、(c)+(a2)+(c)、(a2)+(c)、(a2)+(e)、(a2)+(e)+(c)、(a2)+(e)、(a3)+(e)、(a3)+(h)、(c)+(a1)、(c)+(a2)、(i)+(a1)、(i)+(a2)が好ましい。
【0136】
前述の組み合わせは、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの精製に特に良好に好適であることが理解される。
【0137】
上記(h)の下では、光塩素化が、本発明による少なくとも1つの処理ステップと共に可能な追加の処理ステップとして記載されていることに注意しなければならない。この追加の処理ステップにおいては、>280nmの波長を有する光が適用され得る。280nm以下の波長を有する光を適用することもまた可能である。基本的に約254nmの波長を有する放射線を放射する光源を適用することが可能であることさえ見出された。このように短波長を有する放射線は元素塩素の吸収範囲の観点から無効であることが予期されていたため、これはきわめて意外である。実際、260nmより短い波長の部分のエネルギーが総エネルギーの少なくとも90%である電磁放射線を用いての元素塩素との反応により達成されることが可能である不飽和不純物を含有するヒドロフルオロアルカンの処理は、上述のとおり臭素またはBrClを用いる処理と一緒に追加のステップとしては適用されることのみができないこと;260nmより短い波長の部分のエネルギーが総エネルギーの少なくとも90%、好ましくは100%である電磁放射線を伴う元素塩素との反応による、不飽和不純物を含有するヒドロフルオロアルカンのこの処理は、単一の精製ステップ(上述の臭素またはBrClでの処理なしで)としてでさえ適用されることが可能であること;または任意により上述のステップ(b)〜(g)および(i)あるいは(j)の1つ以上と組み合わされること、が見出された。この本発明の態様(元素塩素で不飽和不純物を含有するヒドロフルオロアルカンを処理するための)は、260nmより短い波長の部分のエネルギーが総エネルギーの少なくとも90%である放射線で実施することさえ可能である。「ヒドロフルオロアルカン」という用語は、上記に示したヒドロフルオロアルカンを示し;好ましいヒドロフルオロアルカンがこの態様においても好ましい。不飽和不純物についても同じである。HFC−134aがこの態様において最も好ましいヒドロフルオロアルカンである。好ましくは、少なくとも1種の以下の不純物がHFC−134aに含有されており、除去される:2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC−1234yf)、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225zc)、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFC−1225ye)、3,3,3−トリフルオロプロペン(HFC−1243zf)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC−1234ze)、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(HFC−1336mzz)、1,1−ジフルオロクロロエテン(HFC−1122)、1,2−ジフルオロクロロエテン(HFC−1122a)、およびトランス−1−クロロ−2−フルオロエタン(HCFC−1131)。
【0138】
本発明の他の態様は、気体−気体反応、気体−液体反応、および液体−液体反応における特定の光化学反応を実施するための放射線源としての電気的に操作されたLED(発光ダイオード)および電気的に操作されたOLED(有機発光ダイオード)の適用である。それ故、これらのダイオードは、電流が流れたときに光を放射する。
【0139】
従って、本発明のさらなる実施形態は、2種以上の出発反応剤(reactant)からの反応混合物を準備するステップ、LEDまたはOLEDにより光化学放射線の少なくとも一部を供給することにより反応を開始させるかまたは支援する(サポートする)ステップ、および反応生成物を回収するステップを含む、気体−気体、液体−液体または気体−液体タイプの光化学反応を実施するための方法であって、ここで、出発材料は有機化合物を含み、ならびに、反応は、光化学的にサポートされた塩素化、塩化臭素化あるいは臭素化反応であるか、または、光酸化が光増感剤の不存在下あるいは光増感剤としての塩素の存在下に実施される光酸化反応である。
【0140】
好ましくは、LEDおよびOLEDは、製造プロセスまたは精製プロセスにおいて、前記無機二原子分子と有機反応剤との、気体−気体反応、気体−液体反応、および液体−液体反応における反応に適用される。
【0141】
LEDは、p−n接合の順方向に電気的バイアスが印加されたときに非干渉性の狭スペクトル光を放射する半導体デバイスである。この効果は、エレクトロルミネセンスの形態である。放射される放射線の色は、用いられる半導体材料の組成および条件に依存し、赤外光、可視光または近紫外線であることが可能である。LEDは市販されている。例えば、以下の色が放射されることが可能である:
赤および赤外色:AlGaAs;green:AlGaP;黄色、緑、オレンジ色、オレンジ−赤色:AlGaInP;GaAsP:黄色、オレンジ−赤色および赤;赤、黄色および緑:GaP;緑、青、白色(AlGaN量子障壁を有する場合):GaN;近UV、青緑および青:InGaN;青:基質としてのSiC;青:Si(基質);青:基質としてのサファイア;青:ZnSe;UV:ダイアモンド;近紫外線〜遠紫外線:AlNまたはAlGaN。
【0142】
OLEDは有機発光ダイオードである。これは、有機化合物のフィルムを発光性エレクトロルミネセント層中に含む。この層は、通常、好適な有機化合物が、単純な印刷プロセスによって、平坦な層の上に行および列で堆積されることを可能とするポリマー物質を含む。得られるピクセルのマトリックスは様々な色の光を放射することが可能である。広い範囲の色が生成されることが可能である。
【0143】
LEDおよびOLEDは高効率を有するが、しばしば、比較的低いエネルギー出力しか有さない。従って、所望の場合には、所望のエネルギー出力を達成するために複数のLEDまたはOLEDを一緒に適用する必要がある。
【0144】
原理上は、LEDおよびOLEDは、幅広く多様な既述した光化学方法に、気体−気体反応、気体−液体反応、および液体−液体反応を介して適用されることが可能であり、この方法は、例えば、2種以上の出発反応剤から反応混合物を準備するステップ、LEDまたはOLEDにより光化学放射線の少なくとも一部を供給することにより反応を開始させるかまたは支援するステップ、および反応生成物を回収するステップ、を含むことが可能である。この回収は、しばしば蒸留による精製ステップを含むことが可能である。
【0145】
このような反応は、例えば精製目的のために上述されているとおりであるが、当然、化合物を合成すると共に製造する意図も伴う、例えば塩素化または臭素化化合物、塩素、臭素またはBrClを不飽和炭素−炭素結合にもたらす水素−ハロゲン交換を含む。これらは、例えば、一般に、飽和ヒドロフルオロカーボンまたはパーフルオロカーボン中に含まれる不飽和不純物を、精製されるべき飽和ヒドロフルオロカーボンまたはパーフルオロカーボンからの分離がより容易である反応生成物への転換のために適用することが可能である。例えば、フルオロエタン、フルオロプロパン、フルオロブタン、フルオロペンタンおよびより高級の同族体は、不飽和不純物がこの様式で除去されることにより精製されることが可能である。精製されることが可能であるヒドロフルオロカーボンのうち、例えば1,1,1,2−テトラフルオロエタンといったテトラフルオロエタン;例えばペンタフルオロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパンまたは1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンといったフルオロプロパン;例えば1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパンといったヘプタフルオロプロパン;例えば1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンといったペンタフルオロブタンが挙げられるべきである。この精製は、塩素、BrCl、臭素またはこれらの混合物との光化学的接触下で達成されることが好ましい。例えば、1,1,1,2−テトラフルオロエタンは、不飽和不純物から、塩素、臭素またはBrClを添加すると共に、LEDまたはOLEDを光源として適用して、不飽和不純物へのそれぞれのハロゲンの付加を支援しまたは促進させることによって精製されることが可能である。例えば、これらは、臭素またはBrClを用いる上述の光化学的に操作された精製方法において放射線源として適用されることが可能である。これはまた、ヒドロフルオロアルカンが光化学的に精製されて(ヒドロ)(クロロ)フルオロアルケンが除去される精製方法において用いられることが可能である。
【0146】
LEDおよびOLEDはまた、酸素が関与すると共に、いずれかの増感剤の不在下であるか、または追加の増感剤(あるいは「イニシエータ」)としての塩素の存在下での光化学反応に適用されることが可能である。塩素が増感剤として用いられる場合、これが用いられる唯一の増感剤であることが好ましい。酸素が関与する反応の例としては、CHCl基を有する化合物からのC−(O)基を含む化合物の調製が挙げられる。このような反応の枠組みにおいて、フッ化カルボニルはCHFClから調製され、カルボン酸塩化物はCHCl基を有するアルカンから調製され、およびカルボン酸フッ化物はCHClF基を有するアルカンから調製されることが可能である。
【0147】
例えば、式R’CFXC(O)Clの化合物は、米国特許第US−A5,545,298号明細書に記載されているとおり調製されることが可能である。この式におけるXはフッ素または塩素を示し、およびR’はフッ素または1〜10個の炭素原子を有する過フッ素化飽和アルキル基を示す。
【0148】
好ましくは、この反応は、式RC(O)Clのカルボン酸塩化物を式R−CHClの対応するクロロフルオロカーボンから生成し、式中、Rは、少なくとも1個のフッ素原子および任意に1個以上のCl原子により置換されていてもよいC1〜C3アルキル基であり、CHCl基はC(O)Cl基に酸化される。
【0149】
例えば、塩化クロロジフルオロアセチルはCFClCHClおよび酸素の光化学反応により調製されることが可能であり;塩化トリフルオロアセチルはCFCHClから調製されることが可能であり;ならびにCF−CFC(O)ClはCFCFCHClから調製されることが可能である。上記特許において、ハロアルカンと酸素との反応は常圧で実施され、この利点は例えばガラス反応器を用いることが可能であることである。この反応はまた、雰囲気圧より高い圧力、例えば、1〜10バール(絶対)の圧力または、所望の場合には、さらに高い圧力で実施されることが可能である。塩素は添加されない。
【0150】
米国特許第5,569,782号明細書には、C(O)Cl基に転換されるCHCl基でのそれぞれの化合物の光化学酸化による、塩化ポリフルオロクロロアルキルカルボニルおよび塩化パーフルオロアルキルカルボニル、例えば、塩化パーフルオロプロピオニル、塩化トリフルオロアセチルおよび塩化クロロジフルオロアセチルを調製するための方法が開示されている。この反応は、λ≧290nmの波長を有する光と塩素の存在下に実施される。この反応は常圧で実施されることが可能である。
【0151】
本発明によるLEDまたはOLEDを用いる上述の方法に基づいたカルボン酸塩化物およびカルボン酸フッ化物を生成する反応はまた、加圧下で実施されることが可能である。
【0152】
例えば、米国特許第3,883,407号明細書には、75psig以下の圧力で、UV光の適用下でのCFCHClの光化学的酸化による塩化トリフルオロアセチルの調製が開示されている。本発明によれば、UV光を放射するLEDまたはOLEDが適用されている。
【0153】
米国特許第6,489,510号明細書には、式RCFXC(O)Fのカルボン酸フッ化物を生成するための方法が開示されている。ここで、Xはフッ素または塩素を示し、およびRは、フッ素または1〜9個の炭素原子を有する直鎖あるいは分岐過フッ素化アルキル基を示す。有利には、λ≧280nmの波長の光が適用される。この方法は、放射線源としてLEDまたはOLEDを用いて実施されることが可能である。
【0154】
米国特許第5,663,543号明細書には、塩化ペンタフルオロプロピオニルの形成下での3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパンの光化学的酸化により、またはフッ化パーフルオロプロピオニルの形成下での1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンの光化学的酸化により、ハロゲン化ポリフルオロプロピオニルを生成するための方法が開示されている。この反応は、塩素の存在下、および280nm超の波長を有する光の適用下で実施される。ここではまた、LEDおよびOLEDが本発明による放射線源として適用可能である。
【0155】
国際公開第2005/085129号パンフレットには、塩素の存在下における280nm以上の波長の光でのCHFまたはCHFClの光化学的酸化によるフッ化カルボニルの光化学的調製のための方法が開示されている。LEDおよびOLEDがこの方法においても放射線源として適用可能である。
【0156】
これらの反応は、一般に、気相または液相において実施されることが可能である。特に精製方法として意図される塩素化反応、臭素化反応および塩化臭素化反応は、精製されるべき液体出発材料を提供すると共に気体状ハロゲンを導入することにより実施されることが好ましい。
【0157】
上述の光酸化反応において、LEDまたはOLEDを光源として適用することが可能である。この光酸化方法は気体−気相方法として実施されることが好ましく;これは、出発材料、例えば酸素、CHFClまたはCFCHClが反応器に気体状態(これは蒸気状態を含む)で導入され、かつ、増感剤としての塩素のすべてもまた気体形態で導入されることを意味する。塩素が含まれる場合には、LEDまたはOLEDは、塩素に関する高吸光係数範囲であるために、好ましくは280〜400nmの範囲、特に好ましくは300〜360nmの範囲内の光を放射するよう選択される。約280nm未満の波長を有する光の好ましい除外は、生成されるカルボン酸ハロゲン化物のいく種か自体が約280nm未満の波長を有する光を吸収するという追加の利点を有する。この範囲での吸光は副反応を生じさせ得る。
【0158】
カルボン酸ハロゲン化物またはフッ化カルボニルを形成するハロアルカンの光化学的酸化、および化合物の精製のために実施される方法におけるLEDまたはOLEDの適用は、本発明の枠組みにおけるLEDおよびOLEDの用途の好ましい分野である。これらはまた、他の気体−気体、液体−液体および液体−気体反応においても適用されることが可能である。例えば、これらは、米国特許第US−A5,486,275号明細書に記載のとおり、対応する窒素含有臭化パーフルオロアシルの脱カルボニル化による窒素含有臭化パーフルオロアルキルの調製における放射線源として用いられることが可能である。
【0159】
気体−気体反応が特に好ましい。
【0160】
本発明のさらに他の実施形態は、放射線放射源としてLEDまたはOLEDを含む気相における光化学反応用の反応器である。本発明による光化学的にサポートされた(光化学的に支援された)気体−気体反応を実施するためのこの反応器は、反応混合物を受けるための反応チャンバ、流体を反応器に供給するための1つ以上のライン、反応流体を反応器から取り出すための1つ以上のライン、および放射線を反応混合物に適用するための少なくとも1つのLEDまたはOLED、真空ポンプへの接続部、ならびに、任意選択で、反応装置に共通する追加の手段を備えてもよい。反応混合物を混合するための手段、例えば、機械的攪拌機または磁気攪拌機、加熱のための手段、例えば、外部または内部加熱要素、例えば温度計または熱電対といった温度測定手段、例えば冷却フィンガーといった反応チャンバまたはLEDまたはOLEDを冷却するための手段、ならびに、減圧あるいは、減圧および加圧を適用するための手段、(例えばHFを含有する)腐食性反応媒体と接触するガラス性の部品への例えば透明塗料または透明収縮包装といった耐食保護のための手段が挙げられる。この反応器は、反応器のいかなる損傷も生じさせることなく0.1バール(絶対)までの減圧および15バール(絶対)以下の高圧を適用することが可能であるように構成される。それ故、この反応器は耐減圧性および耐圧性に構成される。例えば、これは、それぞれ、厚いガラス壁またはプラスチックまたは金属から構成されることが可能である。
【0161】
本発明による反応器を、ここで図1を参照して説明する。この反応器は、耐圧性壁、耐圧性底および耐圧性上蓋を備える反応チャンバ1を有する。この上蓋2は、厚い耐圧性の、透光性ホウケイ酸ガラス製である。機械的攪拌機3は、反応チャンバ1中に含まれる反応混合物を均質化させる。流体ライン4および5は、気体を反応器に導入させ、一方で、流体ライン6は反応混合物を抜き出す。発光ダイオード(LED)の集合7が、LEDの放射線が反応器の内部に指向されるよう、透光性上蓋2の上に配置されている。この反応チャンバには、例えば、温度または圧力といった反応器における物理的条件を測定するためのセンサーが設けられていてもよい。図1は、本発明による反応器のきわめて単純な実施形態を示す。複数のLEDをUVランプの代わりに備える照射ユニットが設けられた浸漬型シャフト光反応器が、本発明の他の好適な実施形態である。真空ポンプに接続可能であるラインは簡単のための省略している。あるいは、ライン4および/または5は、例えば水分を除去するためまたは反応を減圧下で実施するための、反応器内を減圧にすることを許容する例えば3方向バルブといったバルブに接続されていることが可能である。
【0162】
上述のとおりのLEDまたはOLEDの使用は多くの利点を有する。例えば、LEDおよびOLEDは、その波長が最大吸収範囲に対応する光が放射されるよう選択されることが可能である。異なる波長の光を放射するLEDまたはOLEDを組み合わせることが可能であり、それ故、光源を変更する必要なく異なる反応を実施するために好適であるか、または、異なる波長の光が必要とされる反応ステップを効果的に実施するために好適な装置を構成することが可能となる。
【0163】
以下の実施例は、その範囲を限定することなく本発明を例示することを意図する。
【実施例】
【0164】
実施例1−1,1,1,2−テトラフルオロエタンの精製
光化学反応器:排気可能である耐圧性キュベットを用いた。それは48mmの半径および25mmの長さを有していた。キュベットは、底に63mmの直径および15mmの厚さを有するSchott Maxosホウケイ酸ガラスを備えていた。反応器の内容物はそのホウケイ酸ガラスを通して照射した。
【0165】
実施例1.1〜1.4においては蒸留により予備精製された1,1,1,2−テトラフルオロエタンを処理し、一方で実施例1.5〜1.7においては、この様式では予備精製されていない粗生成物を用いた。予備精製された材料および原料は、特に高沸点の不純物の含有量が異なる(特に、3または4個の炭素原子を有する不飽和不純物)。
【0166】
すべての実験において、表1およびIIに示されているとおり、約10mL(0.007g)、20mLの臭素蒸気(0.014g)または40mLの臭素蒸気(0.028g)を反応器に導入し、次いで、55.8gの1,1,1,2−テトラフルオロエタンを添加した。反応器の内容物を完全に混合したところ、1,1,1,2−テトラフルオロエタンは臭素に起因する茶色となった。1,1,1,2−テトラフルオロエタンは、基本的にキュベット中に液相中に含まれていた。次いで、この反応混合物を以下に示す光源で照射した。次いで、液相の一部を、ガラス製の気体貯蔵シリンダ(昼光または実験室の光から保護するために金属フォイルで覆った)に移した。次いで、貯蔵シリンダにそれぞれの分析装置をとりつけ、その内容物を、マススペクトロスコピー(GC−MS)が連結されたガスクロマトグラフィにより分析した。実施したGC−MS分析は定性的なものであったことに注意しなければならない。処理した1,1,1,2−テトラフルオロエタンを分析して、クロロトリフルオロエテン(CFC−1113)、テトラフルオロプロペン(HFC−1234)およびクロロジフルオロエテン(CFC−1122)の含有量をチェックした。
【0167】
実施例1.1は、標準的な実験室光により補助された昼光で実施した。実施例1.1を気体貯蔵シリンダを用いて繰り返し、ここで、出発材料を、昼光および実験用の光の影響下で反応させた。設定した制限時間の後、貯蔵シリンダを金属フォイルで覆い、分析装置に組み付け、内容物を分析した。
【0168】
実施例1.2.1〜1.2.7は、Philips製のモデルPL−S 9WのUV−C光を用いて実施した。
【0169】
実施例1.3.1〜1.3.9は、Philips製2160ルーメンの150W電球を用いて実施した。この電球は、白色光を、日光に匹敵する連続的な全色のスペクトルの形態で放射する。
【0170】
実施例1.4.1および1.4.2は、直列の2×3LEDで実施した。このLEDはConrad Electronicから購入し(購入番号187503)、これは、GaNベースのものであり、約470nmの青色光を、4800mcdの光強度lで放射する。
【0171】
実施例1.5は、実施例1.4.1および1.4.2に記載のLED38個で実施した。
【0172】
実施例1.6.1および1.6.2は、直列の4個のLEDで実施した。タイプLXHL−NRR8のLEDをConrad Electronicから購入し(購入番号b1716094−29)、これは、「紺青色」と呼ばれる455nmの波長で、1Wの出力で光を放射した。
【0173】
実施例1.7.1および1.7.2は、実施例1.4.1および1.4.2に記載のとおり、LED38個で実施した。
【0174】
実施例1.8.1および1.8.2は、Osram製のUV高圧ランプSanolux HRC 300−280/E27を適用して実施した。これは、300Wエネルギー消費量を有すると共に、315〜400nm(UV−A)の範囲内で13.6ワットの出力、およびUV−B範囲(約280〜320nm)内で3.0ワットの出力を有する。
【0175】
実施例1.9.1および1.9.2は、発光ランプ「Ralutec long 18W/71/2G11」で実施した。これは、18ワットの電力消費量を有すると共に、400〜550nmの範囲内で、4.2ワットのエネルギーで光を放射する。
【0176】
以下の表1においては、出発材料(予備処理された1,1,1,2−テトラフルオロエタン)および実施例1.1〜1.4の精製生成物のデータおよびGC分析の結果が編集されている。「X」は、対応する不純物が検出されたことを示し、「N」は、対応する不純物が検出限界未満であったことを示す。
【0177】
【表1】

【0178】
さらなるテストを、蒸留による予備精製がされていない「粗」1,1,1,2−テトラフルオロエタンで行った。対応するデータが表2に編集されている:
【0179】
【表2】

【0180】
次いで、処理した1,1,1,2−テトラフルオロエタンは、臭素化反応生成物および残存臭素から、特に蒸留による公知の手段で分離されることが可能である。
【0181】
実施例1.2:1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの精製
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含む1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを、前述の実施例に記載しているように、臭素を添加すると共に光源を適用することにより処理する。臭素と1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとのモル比は1.2:1に設定する。処理の後、反応混合物を蒸留して、精製1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンが得られる。
【0182】
実施例1.3:1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの精製
実施例1.2を繰り返すが、CClFHを不飽和不純物として含む1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンを処理する。精製1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンが蒸留後に得られる。
【0183】
実施例1.4:BrClを用いる1,1,1,2−テトラフルオロエタンの精製
実施例1を、不飽和不純物に添加される反応剤としてBrClを用いて繰り返す。BrCl対不飽和不純物の和のモル比は約1.2:1である。光源としては、発光ランプ「Ralutec long 18W/71/2G11」を適用する。精製1,1,1,2−テトラフルオロエタンが圧力蒸留により得られる。
【0184】
実施例1.5:Clを用いる1,1,1,2−テトラフルオロエタンの精製
実施例1を、不飽和不純物に添加される反応剤としてClを用いて繰り返す。Cl対不飽和不純物の和のモル比は約1.2:1である。光源としては、タイプLXHL−NRR8のLEDを適用する。塩素化不純物は、1,1,1,2−テトラフルオロエタンから圧力蒸留によって分離されることが可能である。
【0185】
実施例2:塩素の存在下での1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンの光化学的酸化による塩化トリフルオロアセチルの調製
米国特許第US−A5,569,782号明細書の実施例6に記載されているとおりの方法条件を適用した。予熱された1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジクロロエタンおよび酸素の1:1.2のモル比での混合物を、38モル%の塩素と一緒に気体として、100℃の内部反応器温度で、400mL浸漬型シャフト光分解反応器へと計量し、同時に、UV光を放射するLEDを用いてPyrex(登録商標)ガラスを介して照射する。280nmで光を放射する、Hooriba Jobin Yvon GmbH製のLED15−NJ、または、Laser 2000 GmbH製のPSY−UVLED−280が好適なUV源の例である。圧力は、反応器内において凝縮が生じないように保つ。この反応混合物を、次いで、特に圧力蒸留による普通の方法によって分離する。
【0186】
実施例3:CFHClの光化学的酸化によるフッ化カルボニルの調製
例えば、国際公開第2005/085129号パンフレットに記載されているように、580mLの内部容積を有する浸漬型シャフト反応器を用いる。冷却フィンガーは、約280nm未満の波長を有する放射線を吸収するDuran(登録商標)ガラスから形成されている。ここに記載のUVランプの代わりに、例えば、実施例2に記載のものなどの、UVを放射するLEDを適用する。1時間あたり、0.5モルのCHFCl、0.5モルの酸素および約0.12モルの塩素を反応器に供給する。この反応生成物は、フッ化カルボニル、HCl、二酸化炭素および出発物質を含み、これは、圧力蒸留により、または、より容易には、国際公開第2006/045518号パンフレットに記載のとおり、イオン性液体に通過させることにより分離されることができる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和有機不純物から精製された少なくとも2個の炭素原子を含むヒドロフルオロアルカンを得るための方法であって、(クロロ)フルオロオレフィンを含む有機不純物を含有する前記ヒドロフルオロアルカンが、臭素またはBrCl、好ましくは臭素との少なくとも1種の精製処理に供される方法。
【請求項2】
オレフィン系不純物を含有する前記ヒドロフルオロアルカンが、イニシエータの存在下で臭素での処理に供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒドロフルオロアルカンが、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記イニシエータが、好ましくは過酸化物およびジアゾ化合物から選択される有機イニシエータである、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記イニシエータが、320nm〜540nmの範囲内の波長の少なくとも一部分を含む電磁放射線である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項6】
前記臭素と存在する前記オレフィン系不純物の和とのモル比が1〜10である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記臭素と存在する前記オレフィン系不純物の和とのモル比が1未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記イニシエータが少量の金属イオン、好ましくは、第IIIa、IVaおよびb、Vaおよびb、VIBおよびVIII族金属のイオンから選択される少量の金属イオンである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
臭素での前記処理が液相中で実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記オレフィン系不純物が、2個、3個または4個の炭素原子を含有するクロロフルオロオレフィンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
2種以上の出発反応剤から反応混合物を準備するステップ、LEDまたはOLEDにより光化学放射線の少なくとも一部を供給することにより反応を開始させるかまたは助けるステップ、および反応生成物を回収するステップを含む、気体−気体、液体−液体または気体−液体タイプの光化学反応を実施する方法であって、出発材料が有機化合物を含み、かつ前記反応が、光化学的にサポートされた塩素化、塩化臭素化あるいは臭素化反応であるか、または、光増感剤の不存在下あるいは光増感剤としての塩素の存在下に実施される光酸化反応である方法。
【請求項12】
前記反応が、ハロアルカン、好ましくはフルオロアルカンから不飽和不純物を除去するための反応である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記反応が、式RC(O)Clのカルボン酸塩化物を式R−CHClの対応するクロロフルオロカーボンから生成するための反応であり、式中、Rが、少なくとも1個のフッ素原子および任意に1個以上のCl原子により置換されていてもよいC1〜C3アルキル基であり、CHCl基がC(O)Cl基に酸化される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
不飽和有機不純物から精製された少なくとも2個の炭素原子を含むヒドロフルオロアルカンを得るための方法であって、(クロロ)フルオロオレフィンを含む有機不純物を含有するヒドロフルオロアルカンが、260nmより短い波長の部分のエネルギーが総エネルギーの少なくとも90%である電磁放射線を用いての塩素との少なくとも1種の精製処理に供される方法。
【請求項15】
光化学反応を実施するための反応チャンバを含み、気体出発材料を前記反応器に供給するための1つ以上のライン、反応混合物を前記反応器から抜き出すための1つ以上のライン、ならびに、出発材料間の反応を助けるために電磁放射線を提供する少なくとも1つのLEDおよび/またはOLEDをさらに含むと共に、真空ポンプに接続可能なラインを含み、前記反応器が耐減圧性および耐圧性である、気体−気体タイプの光化学反応を実施するための反応器。
【請求項16】
請求項15に記載の反応器であって、280nm〜400nmの範囲内の波長の少なくとも一部分を含む光を放射する少なくとも1つのLEDあるいはOLEDが備えられた、塩素が関与する光化学反応を実施するために設計された反応器;または、310nm〜520nmの範囲内の波長の少なくとも一部を含む光を放射する少なくとも1つのLEDあるいはOLEDが備えられた、BrClが関与する反応、あるいは、320nm〜540nmの範囲内の波長の少なくとも一部を含む光を放射する少なくとも1つのLEDあるいはOLEDが備えられた、臭素が関与する反応を実施するために設計された反応器。

【公表番号】特表2010−533678(P2010−533678A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516497(P2010−516497)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059285
【国際公開番号】WO2009/013198
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(592165314)ゾルファイ フルーオル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (55)
【氏名又は名称原語表記】Solvay Fluor GmbH
【住所又は居所原語表記】Hans−Boeckler−Allee 20,D−30173 Hannover,Germany
【Fターム(参考)】