説明

精製手段

ペプチド精製用のタグが開示される。このタグ構造は、タグ分子と、ペプチドへの損傷を最小限にする、実際には好ましくは阻止する条件下でタグ分子が結合しているペプチドと、の間に形成された結合の開裂を容易にする。本発明のタグ分子を使用して、あるペプチドをペプチドおよび/または他の成分との混合物から分離および/または精製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製手段、特に合成ペプチドおよびタンパク質の精製で使用するのに適している手段に関する。
【背景技術】
【0002】
化学的に合成されたペプチドおよびタンパク質の特性を高めるのに使用されている化学タグの例はほとんど存在しない。ラメージ(Ramage)ら(R.RamageおよびG.Raphy、Tetrahedron Lett.、1992、33、385−388)は、ペプチドおよびタンパク質を精製するためにFmocの疎水性類似化合物としてTbfmocを使用した。Tbfmocは、極端に疎水性であることが分かっており、分離HPLCによる精製を助けるために付けられたタグで表されるペプチドおよびタンパク質の溶離に対して十分な効果を有する。多孔性黒鉛化炭素(PGC)用の木炭の親和性は、ペプチドおよびタンパク質のクロマトグラフィー精製にも使用されている。しかし、Tbfmoc基は、疎水性表面に対する親和性が非常に高いので、しばしば避けることのできない望ましくない表面への結合を生じることが分かった。さらに、Tbfmocは、水系においてペプチドおよびタンパク質の溶解性に対して好ましくない影響を与え、精製中にしばしば問題を生じる。
【0003】
ヒスチジン(His)などいくつかのアミノ酸の金属イオンに対する固有の親和性は、いくつかのペプチドおよびタンパク質の精製に利用されてきた。技術の一つは、poly−His(E.HendanおよびJ.Porath、J.Chromatography、1985、323、255−264)配列を対象となるペプチドまたはタンパク質配列の末端に加え、ニッケルイオンに対する付加物の親和性を使用して所望の生成物を表面に選択的に結合させるものである。これらは効果的ではあるが、poly−Hisタグは、折り畳みに影響を及ぼす可能性があり、したがって活性に影響を及ぼす可能性がある、親配列の恒久的な特徴をそのまま残す。さらに、タグを加えるための余分な合成ステップが、材料の全収率を下げる可能性がある。
【0004】
メチオニン残基が親ペプチド配列とヒスチジン残基との間に挿入されている、開裂可能なpoly−Hisタグが、報告されている(セルウィウス(Servion)ら、欧州特許第0827966号明細書)。メチオニン残基での開裂は、臭化シアンでの処理によって選択的に実現される。しかし、臭化シアンは、毒性の高い試薬であり、こうした状況での使用には適していない(not robust)。さらに、タンパク質配列中のメチオニン残基は、望ましくない臭化シアン開裂を防ぐために酸化された形で使用される。その後、これらのメチオニン残基を、元の配列を得るために還元しなければならない。
【0005】
金属中心への連結を可能にするいくつかのアミノ酸の固有の電子供与性は、組換えタンパク質の精製にも使用されてきた(H.Chaouk、M.T.W.Hearn、J.Chromatography A、1999、852、105−115)。
【0006】
官能化された固体支持体に共有結合するタグは、合成タンパク質および組換えタンパク質の両方を精製するのに使用されてきた(M.Villain、J.VizzavonaおよびK.Rose、Chemistry & Biology、2001、8、673−679;J Vizzavona、M.VillainおよびK.Rose、Tetrahedron Lett、2002、8693−8696)。当初、この方法は、N末端システインまたはスレオニンを有するタンパク質にのみ適用可能であったが、全てのN末端アミノ酸に適するように調整された(J Vizzavona、M.VillainおよびK.Rose、Tetrahedron Lett、2002、8693−8696)。しかし、化学タグを得るには、長時間かかる合成が必要であり、ペプチドまたはタンパク質に損傷を与える可能性のある条件(過ヨウ素酸ナトリウム)下で開裂される。
【0007】
しばしば求められているプロテオミクスの側面は、表面、例えば、ポリスチレンマルチウェルプレート上でペプチドまたはタンパク質のアレイを生成することである。配向ペプチドアレイを実現する方法の一つは、UV照射後にポリマーに結合するアントラキノンを使用することである(S.P.Jensen、S.E.Rasmussen、M.H.Jakobsen、Innovations and Perspectives in Solid Phase Synthesis & Combinatorial Chemical Libraries、1996、419−422)。このアントラキノンは、ペプチドのN末端基とアミド結合できるように官能化され、したがってこのペプチドはポリスチレン表面と共有結合する。
【0008】
したがって、ペプチドの精製に使用でき、ペプチド自体への損傷を最小限にしながらペプチドから効率的にかつ容易に開裂できる化学タグが、依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、従来技術のタグに伴う多くの問題を克服するタグを開発した。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、ペプチドの精製用のタグが提供され、前記タグ分子は式Iの構造を有し、
(A)−C
式I
式中、Aは捕獲部分(capture moiety)であり、
nは1以上、例えば、1、2、3または4であり、
Cは、式IIまたは式IIAで表されるペプチド結合部分であり、
【化1】

【化2】

式中、Cが式IIで表されるペプチド結合部分である場合、RおよびRは、それぞれ独立に、H、任意のC1〜6アルキル基または電子吸引基であり、Rは、Hまたは任意のC1〜6アルキル基であり、RおよびRの一方は、前記結合部分をAに連結するリンカー部分Bであり、Rは、リンカー部分Bでない場合は、Hまたは任意のC1〜6アルキル基であり、Rは、リンカー部分Bでない場合は、電子吸引基、Hまたは任意のC1〜6アルキル基であり、R、RおよびRのうちの少なくとも一つは電子吸引基であり、
Cが式IIAで表されるペプチド結合部分である場合、RおよびRの一方、好ましくはRは、前記結合部分をAに連結するリンカー部分Bであり、RおよびRのもう一方、ならびにR、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、Hまたは任意のC1〜6アルキル基である。
【0011】
あるいは、またはそれに加えて、Cが式IIAで表されるペプチド結合部分である場合、R、R(リンカー部分Bではない場合)、R(リンカー部分Bではない場合)、R、R、R、RおよびRのうちの一つまたは複数は、それぞれ独立に、ペプチドにタグを付けるために使用する場合、タグの安定性に著しい影響を及ぼさない他の置換基とすることも可能である。こうした置換基、例えばアミドまたはアリール基は、弱い電子的効果しか持たないか、または全く持たないことが好ましい。ただし、より著しい電子的効果を有するが、それでもタグがペプチドと結合するのを阻止はしない、置換基を使用することもできる。こうした置換基には、1種(または複数)のハロゲン、ニトロ、エステル、アルコキシまたはアルデヒド基が含まれ得る。Cが式IIAで表されるペプチド結合部分である、好ましい実施形態では、R、RおよびRのもう一方、R、R、R、R、R、ならびにRおよびRのもう一方は電子的に中性である。
【0012】
あるいは、またはそれに加えて、Cが式IIで表されるペプチド結合部分である場合、R、R、R(リンカー部分Bではない場合)およびR(リンカー部分Bではない場合)のうちの一つまたは複数は、それぞれ独立に、ペプチドにタグを付けるために使用する場合、タグの安定性に著しい影響を及ぼさない他の置換基とすることも可能である。こうした置換基、例えばアミドまたはアリール基は、弱い電子的効果しか持たないか、または全く持たないことが好ましい。ただし、より著しい電子的効果を有するか、それでもタグがペプチドと結合するのを阻止はしない、置換基を使用することもできる。こうした置換基には、1種(または複数)のハロゲン、ニトロ、エステル、アルコキシまたはアルデヒド基が含まれ得る。
【0013】
Cが式IIで表されるペプチド結合部分である、本発明の好ましい実施形態では、R、RおよびRのうちの一つだけが電子吸引基である。好ましい実施形態では、Rは電子吸引基であり、Rは、Hまたは任意のC1〜6アルキル基であり、Rは、リンカー部分B、Hまたは任意のC1〜6アルキル基である。
【0014】
式IIの1種(または複数)の電子吸引基はいかなる電子吸引基でもよく、好ましくは、I、Br、Cl、SOCH、CFおよびNOからなる群より選択される電子吸引基である。特に好ましい実施形態では、一つ(または複数)の電子吸引基はNOである。
【0015】
こうした構造では、タグ分子とそれが結合しているペプチドとの間に形成される結合を容易に開裂することが容易になる。
【0016】
この捕獲部分は、タグ分子を他の分子「捕獲受容体(capture receptor)」に結合するのに適した任意の基を含むことができ、タグ分子を、捕獲部分を含まない別の分子から分離するのに使用することもできる。
【0017】
好ましい実施形態では、捕獲分子は疎水性であり、1個または複数の疎水基を含むことができる。好ましい実施形態では、疎水性分子は、フェナントレニル基、アントラセニル基またはナフチル基である。この疎水基は、置換されていても置換されていなくてもよい。適当な置換基としては、アルキル、アルコキシ、アミノまたはハロ基が挙げられるが、それだけには限定されない。好ましい実施形態では、疎水基は置換されていない。一実施形態では、捕獲部分は、式IIIとして表される環状構造を含み、ここで、前記結合部分は、式IIIの中央のフェニル基の5位に位置するリンカー部分に連結される。好ましい実施形態では、本発明のタグ分子は式IVで表される。
【化3】

【0018】
捕獲部分が疎水基を含む、特に好ましい実施形態では、この捕獲部分は、式IIIAとして以下に示すような環状構造、または式IIIBとして以下に示すような環状構造を含む。捕獲部分が式IIIAまたは式IIIBとして表されるような環状構造を含む実施形態では、本発明のタグ分子は、以下にそれぞれ示すような式IVA、またはより好ましくは式IVBを有する。
【化4】


【化5】


【化6】


【化7】

【0019】
式IIIで表される捕獲部分と同様に、炭素原子は、それぞれ独立に、置換されていても置換されていなくてもよい。適当な置換基としては、アルキル、アルコキシ、アミノまたはハロ基が挙げられるが、それだけには限定されない。好ましい実施形態では、式IIIAまたは式IIIBで表される捕獲部分の炭素原子は置換されていない。本発明の特に好ましい実施形態では、捕獲部分は、式III、式IIIAまたは式IIIBで表される。
【0020】
いくつかの別の好ましい実施形態では、捕獲部分Aは金属結合部分とすることもでき、置換されていても置換されていなくてもよい。置換基が存在する場合は、この部分と金属イオンとの結合の度合いを、置換基を欠く対応する部分による結合の度合いに比べて、下げないまたは著しく下げないような置換基を選択することが好ましい。適当な置換基としては、アルキル、アルコキシ、アミノまたはハロ基が挙げられるが、それだけには限定されない。好ましくは、この部分は置換されていない。
【0021】
適当な金属結合部分としては、ピリジル基、ヘキサヒスチジン、イミノ二酢酸(IDA)、ニトロロ三酢酸(NTA)、8−ヒドロキシキノリンおよびO−ホスホセリンが挙げられるが、それだけには限定されない(Uedaら、J.Chromatography A、2003、988、1−23)。好ましい一実施形態では、金属結合部分はヘキサヒスチジンタグである。別の好ましい実施形態では、金属結合部分はピリジル基である。好ましくは、ピリジル基は置換されていない。特に好ましい実施形態では、捕獲部分は式Vで表される。
【化8】

【0022】
金属結合捕獲部分を有する、本発明の特に好ましいタグは式VIで表される。
【化9】

【0023】
本発明のタグ分子は、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質のいずれにもタグを付けるのに使用することができる。本出願では、文脈上別の意味が要求されるのでない限り、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質という用語は互換的に使用される。
【0024】
ペプチドに結合した本発明によるタグ分子を含むタグ付きペプチドは本発明の第2の態様を構成する。好ましくは、このペプチドは、カルバメート結合を介してタグ分子に結合している。
【0025】
本発明の第3の態様によれば、ペプチド分子にタグを付ける方法が提供される。前記方法は、式IIのヒドロキシ基が反応性部分と置換されている、本発明の第1の態様によるタグ分子を提供するステップと、この置換されているタグ分子をペプチド分子と適切な反応条件下、好ましくは塩基性条件下で反応させるステップとを含み、前記反応性部分は、式VIIで表される部分であり、
【化10】

式中、Yはいずれかのハロゲン、好ましくはClであり、あるいは、前記反応性部分はカルボニルジオキシ部分を含む。
【0026】
置換されているタグ分子は、任意の適切な反応を使用して形成することができる。例えば、好ましい実施形態では、置換されているタグ分子は、本発明の第1の態様によるタグ分子を、ホスゲン、炭酸ビス(4−ニトロフェニル)、炭酸ビス(ペンタフルオロフェニル)または炭酸N,N’−ジスクシンイミジルと、適切な条件下、例えば塩基性条件下で反応させることによって形成することができる。
【0027】
本発明のタグ分子を使って、あるペプチドをペプチドおよび/または他の成分との混合物から分離および/または精製することができる。したがって、第4の態様では、本発明は、ペプチドの精製を容易にするためにペプチドを修飾する方法を提供する。この方法は、本発明の第1の態様によるタグ分子をペプチド鎖の合成中にペプチド鎖の末端に結合させるステップを含む。
【0028】
別の実施形態では、本発明のタグは単一のアミノ酸と結合させることができる。このタグの付いたアミノ酸は、標準的なペプチド合成方法を用いてペプチド配列の残部に結合させることができるN末端アミノ酸として使用することができる。こうしたタグの付いたアミノ酸は、例えば、式IIのヒドロキシ基が反応性部分と置換されている、本発明の第1の態様によるタグ分子を提供し、この置換されているタグ分子をアミノ酸(場合により、側鎖またはカルボキシ保護基を有する)と適切な反応条件(好ましくは塩基性条件)下で反応させることによって調製することができ、前記反応性部分は、式VIIで表される部分であり、
【化11】

式中、Yはいずれかのハロゲン、好ましくはClであり、あるいは前記反応性部分は、カルボニルジオキシ部分を含む。
【0029】
次いで、タグの付いたアミノ酸は、標準的なペプチドカップリング方法を使用してペプチド配列の残部に結合させることができる。
【0030】
したがって、本発明の第5の態様では、アミノ酸に結合した、本発明の第1の態様によるタグ分子を含むタグ付きアミノ酸が提供される。好ましくは、このアミノ酸は、カルバメート結合を介してタグ分子に結合している。
【0031】
カルバメート結合の例を、式VIIIとして以下に示す。
【化12】

【0032】
本発明の第6の態様によれば、式IIのヒドロキシ基が反応性部分で置換されている、本発明の第1の態様によるタグ分子を提供するステップと、この置換されているタグ分子をアミノ酸分子と適切な反応条件下、好ましくは塩基性条件下で反応させるステップとを含む、アミノ酸にタグを付ける方法が提供される。この反応性部分は、式VIIで表される部分であり、
【化13】

式中、Yはいずれかのハロゲン、好ましくはClであり、あるいは、この反応性部分はカルボニルジオキシ部分を含む。この方法は、場合によっては、そのアミノ酸を別のアミノ酸またはペプチド分子とカップリングさせる別のステップを含む。
【0033】
第7の態様では、本発明は、
a)本発明の第1の態様によるタグ分子をアミノ酸のN末端基に結合させるステップと、
b)ステップ(a)で形成されたタグ付きアミノ酸をペプチドとカップリングさせるステップと、
を含む、ペプチドの精製を容易にするためにペプチドを修飾する方法を提供する。
【0034】
本発明の第8の態様によれば、
a)本発明の第2の態様によるタグ付きペプチド、または本発明の第3、第6もしくは第7の態様に従って調製されるタグ付きペプチドを含むサンプルを提供するステップと、
b)前記サンプルを、捕獲部分が親和性を有する捕獲受容体と接触させるステップと、
c)非結合分子を、例えば洗浄によって除去するステップと、
d)場合によって、捕獲受容体から結合したタグ付きペプチドを取り外すステップと、
e)ペプチドをタグ分子の結合部分から開裂するステップと、
を含む、ペプチドの精製方法が提供される。
【0035】
任意の適切な捕獲受容体を使用することができる。例えば、捕獲受容体を、HPLCカラムの一部として提供することができる。
【0036】
上記のように、本発明のタグ分子は、前記分子でタグを付けたペプチドを、ペプチドへの損傷を最小限にする、実際には好ましくは阻止する条件下で精製した後で、容易にタグ分子から開裂できるので、特に有利である。本発明の第8の態様の方法の特に好ましい実施形態では、ステップe)において、前記ペプチドを前記結合部分から塩基性条件下で開裂する。
【0037】
生物学的検定および診断試験では、一般にマルチウェルプレートのウェル表面などの表面に、ペプチドまたはタンパク質を結合させている。しかし、こうしたペプチドまたはタンパク質を直接に、または従来から使用されているタグ分子を介して結合させると、しばしばペプチドがウェル表面上にランダムに配向し、バックグラウンドノイズが高く再現性が不十分な結果をもたらす。
【0038】
本発明のタグ分子は、タグ分子を表面にしっかりと固定し、ペプチドまたはタンパク質を均一に配向させ得るのに特に有効であり、したがってペプチドまたはタンパク質の実質的に全てが、基剤との分子結合に使用できるようになると考えられる。こうした均一性は、診断試験の信頼性および再現性を高める。
【0039】
したがって、本発明の第9の態様によれば、
a)本発明の第2の態様によるタグ付きペプチド、または本発明の第3、第6もしくは第7の態様に従って調製されるタグ付きペプチドを提供するステップと、
b)このタグ付きペプチドを、捕獲部分が親和性を有する捕獲受容体と接触させるステップと、
c)このタグ付きペプチドを、捕獲部分と捕獲受容体との相互作用によって表面に結合させることを可能にするステップと、
を含む、表面上でペプチドを実質的に均一な方向に空間的に配向させる方法が提供される。
【0040】
本発明の別の態様では、ペプチドを検出または精製するための診断キットが提供される。前記キットは、
a)本発明の第1の態様による分子タグ、または本発明の第5の態様によるタグ付きアミノ酸と、
b)分子タグの捕獲部分と結合することができる捕獲受容体と、
を含む。
【0041】
(捕獲部分)
捕獲部分は、対応するリガンド結合分子に結合する任意の適切なリガンドを含むことができる。本出願において、文脈上別の意味が要求されるのでない限り、リガンドには、ハプテン、抗体および親油性分子が含まれ得るが、それだけには限定されない。好ましくは、リガンドおよび対応するリガンド結合分子は互いに結合特異性を有する。こうした結合対のメンバーは、天然物に由来するものでもよく、あるいは完全または部分的に合成による生成物でもよい。1対の分子のメンバーの一方は、その表面上に、突起または空隙となり得る領域を有することができ、具体的には1対の分子のメンバーのもう一方と結合し、したがって1対の分子のうちのもう一方のメンバーの特定の空間および極性構成と相補的である。したがって、対になっているメンバーは、互いに特異的に結合する性質を有し得る。
【0042】
本出願においては、文脈上別の意味が要求されるのでない限り、リガンドとの言及は、ハプテン、抗体および親油性分子も指すと解することができるが、それだけには限定されない。したがって、捕獲部分は、ハプテン結合分子に結合するハプテン、例えば抗体とすることができる。その特異的抗体が知られているまたは生成させることができる適切などんなハプテンも、捕獲部分として使用することができる。適切なハプテンの一例は、ジゴキシゲニンである(Kerkhof、Anal.Biochem.205:359−364(1992)。
【0043】
別の実施形態では、抗体を、タグを捕獲するのに用いられる適切なハプテンを有する捕獲部分として使用することができる。一実施形態では、捕獲部分およびそれが結合するハプテンは抗体でよい。例えば、この捕獲部分は抗体でよく、それが結合するハプテンは、抗体、例えば、ある種の抗体に対する抗体、または特定のクラスの抗体、例えば、IgG、IgMに対する抗体である。
【0044】
「抗体」は、天然物であれ、部分的にまたは完全に合成によって生成されたものであれ、免疫グロブリンである。この用語は、抗体結合ドメインであるまたはそれと相同である、結合ドメインを有する、いずれのポリペプチド、タンパク質またはペプチドも含む。これらは、天然物由来のものでもよく、あるいは部分的にまたは完全に合成によって生成したものでもよい。抗体の例には、免疫グロブリンアイソタイプおよびそれらのアイソタイプ下位クラス(subclass);Fab、scFv、Fv、dAb、Fdなどの抗原結合ドメインを含む断片、ならびにダイアボディ(diabody)がある。こうした抗体および断片を生成する方法は当技術分野でよく知られている。
【0045】
別の実施形態では、ビオチンを捕獲部分として使用することができ、タグ分子を捕獲するための捕獲受容体としてストレプトアビジンまたはビオチン特異的抗体を使用する。
【0046】
本発明のさらに別の実施形態では、捕獲部分は親油性分子である。捕獲部分としてこうした分子を使用すると、例えば逆相HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を使用して、混合物または組成物中に混入しているタグの付いていない分子からタグ付きペプチドを分離することが可能になる。本発明のタグ分子または方法において捕獲部分として使用可能な親油性分子の例としては、トコフェリル基、コレステリル基および長鎖アルキル基が挙げられるが、それだけには限定されない。
【0047】
分子タグが、疎水性表面、例えばポリスチレンと結合するように設計されている場合、捕獲部分は、フェナントレニル基、アントラセニル基またはナフチル基など1個または複数の疎水基を含むことができる。
【0048】
好ましい一実施形態では、捕獲部分は式IIIで表され、
【化14】


前記結合部分は、式IIIで表される構造の中央のフェニル基の5位に位置するリンカー部分に連結される。
【0049】
別の好ましい実施形態では、捕獲部分は、式IIIAとして以下に示すような環状構造、または式IIIBとして以下に示すような環状構造を含む。
【化15】

【化16】

【0050】
タグが、Zn2+、Co2+、Cu2+またはNi2+などの金属中心または金属含有表面に結合するように設計されている場合、捕獲部分は、金属結合部分、例えば、1個または複数のピリジル基、ポリヒスチジン、イミノ二酢酸(IDA)、ニトロロ三酢酸(NTA)、8−ヒドロキシキノリンまたはO−ホスホセリン基とすることができる。特に好ましい実施形態では、捕獲部分は、式Vで表される。
【化17】

【0051】
(捕獲受容体)
捕獲部分の選択は、タグ分子が一緒に使用されると想定されている捕獲受容体に基づいて当業者によって決定される。捕獲受容体は、捕獲部分がそれと相互作用でき、タグ付きペプチドをタグの付いていない他のペプチドから分離するのに使用できる、どんな分子、構造または表面も包含する。
【0052】
捕獲受容体は、タグ付き分子の捕獲を可能にするどんな分子、支持体または表面でもよく、あるいはそれらと連結する、例えば、結合、カップリングまたは固定することができる。こうした分子、支持体または表面は、マルチウェルプレート、ビーズ、膜、瓶、皿、顕微鏡用スライド、繊維、ポリマー、粒子、微粒子などを含むマイクロプレートの形をとることができる。それらには、アクリルアミド、セルロース、コラーゲン、ニトロセルロース、ガラス;ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリシリケート、ポリカーボネート、テフロン、ポリアミノ酸などのポリマー、磁気材料、および/または金属材料を含めて適切などんな材料製のものでもよいが、それだけには限定されない。
【0053】
捕獲受容体、およびそれを構成する材料あるいはそれを連結またはそれに固定できる材料の性質は、タグ分子および所期の使用法に応じて当業者によって選択される。例えば、いくつかの好ましい実施形態では、非結合分子を容易に洗浄して除去することができ、したがって混合物からタグ付き分子を容易に精製できる固体支持体としてまたは固定支持体上に捕獲受容体を提供する。
【0054】
例えば、捕獲受容体は、本発明のタグが共有結合で結合する表面でよい。
【0055】
捕獲受容体は、確立されたカップリング方法を使用して支持体に結合させることができる。捕獲受容体を固体支持体に結合させる際に使用するのに適した結合剤(attachment agent)および方法は当技術分野でよく知られており、例えば、Protein Immobilization:Fundamentals and Applications、Richard F.Taylor編(M.Dekker、New York、1991)およびImmobilized Affinity Ligands、Craig T.Hermansonら編(Academic Press、New York、1992)に記載されている。
【0056】
例えば、捕獲受容体が抗体である場合、抗体の固定化は、標準的な固定化化学反応を使用して、例えば、アミノ化された表面、カルボキシル化された表面またはヒドロキシル化された表面に結合させることによって実施することができる。
【0057】
さらに、多数のタンパク質および抗体カラムが市販されており、ポリスチレンに基づく逆相HPLCカラムも同様である。
【0058】
(捕獲タグからのペプチドの除去)
本発明のタグ分子の具体的な利点は、タグ分子に結合したペプチドを、ペプチドに損傷を与えずに容易に開裂でき、このペプチドを容易に精製し回収するのが可能なことである。通常、開裂は、水性アセトニトリル中20%ピペリジン、または水性アセトニトリル中20%ピペリジンと1%DBUなどの塩基性条件を使用して実現することができる。
【0059】
本発明の各態様の好ましい特徴は、他の態様の各々についても同様に準用される。
【0060】
次に、本発明を、以下の非限定的な実施例において、添付図面を参照しながらさらに説明する。
【0061】
(実施例1:金属結合タグの合成)
6−(ジ−(2−ピコリル)アミン)−ヘキサノイル[2−(2−ヒドロキシ−エタンスルホニル)−5−ニトロ−フェニル]−アニリド [DPHSA]の合成を図1に示す。簡潔に述べると、タグDPHSAは、6−ブロモヘキサン酸から6ステップで調製され、まずKOH水溶液で滴定した後にカリウム塩を形成する。次いで、凍結乾燥した塩を塩化チオニルと反応させて酸塩化物2を形成し、これをその場で熱トルエン中2−クロロ−5−ニトロアニリンと反応させてブロモアニリド4を形成した。カルボン酸の活性エステルを経る直接アミド形成(例えば、DIC、HOBtで処理)はうまくいかないことが分かった。ジ−(2−ピコリル)アミンの4によるアルキル化は、アセトニトリル中DIEAと還流することによって実施した。炭酸カリウムや水素化ナトリウムなど他の塩基を使用すると、複雑な副生成物が生じた。5のスルファニル化は、β−メルカプトエタノールと反応させ、過酸化水素水との穏やかな反応によって選択的に酸化させてスルホン7にすることによって実施した。室温条件でHを少量ずつ加え、触媒を注意して選択することにより、ピリジンのN酸化物への過酸化を回避した。
【0062】
(実施例2:DPHSAを使用したペプチドの精製)
DHPSAでタグを付けたペプチドの合成経路を図2Aに示す。
【0063】
DPHSAを、塩基性条件下で活性物質、例えば、ホスゲン、炭酸ビス(4−ニトロフェニル)、炭酸ビス(ペンタフルオロフェニル)または炭酸N,N’−ジスクシンイミジルと反応させると、例えば、活性物質がホスゲン、XがClの場合、反応性部分中間体Aが形成された。
【0064】
ペプチドを、従来の保護基を使用して保護したカルボキシル基を用いて、標準的な固相または液相合成法によって調製した。
【0065】
次いで、この中間体を、アミン塩基(例えば、ジイソプロピルエチルアミン)の存在下でペプチドと反応させた。
【0066】
別の実施形態では、反応は第2の中間体を含むことができる。例えば、XがClである反応性部分中間体Aは、上述のようにタグ分子をホスゲンと反応させることによって構成することができる。次いで、これを、第2の反応物、例えば、ペンタフルオロフェノール、p−ニトロフェノールまたはジ−N−ヒドロキシスクシンイミドと反応させて、第2の中間体を形成することができる。その後、上述のように、第2の中間体を、アミン塩基(例えば、ジイソプロピルエチルアミン)の存在中ペプチドと反応させる。
【0067】
タグの付いたペプチドを、必要ならば標準的な開裂条件を使用して、樹脂から開裂する。
【0068】
精製:
凍結乾燥した粗ペプチドを、緩衝液1(8M尿素、0.1M NaHPO、0.01M Tris−Cl、pH 6.5)に溶解し、捕獲樹脂(capture resin)(NTAで連結されたNi2+(またはZn2+)を含有するアガロース)と一緒に撹拌する。
【0069】
上澄みを除去し、この樹脂を緩衝液2(8M尿素、0.1M NaHPO、0.01M Tris−Cl、pH 6.3)で繰り返し洗浄する。
【0070】
上澄みを除去し、タンパク質を緩衝液3(8M尿素、0.1M NaHPO、0.01M Tris−Cl、pH 4.9)で溶出する。
【0071】
生成物溶液を、セファデックスカラム(Sephadex column)を通すことにより脱塩する。
【0072】
タグを、塩基性条件下(例えば、水性アセトニトリル中20%ピペリジン)で処理することによって凍結乾燥した生成物から開裂する。
【0073】
上記の精製手順を、タグ付きペプチドの精製に使用することができたが、以下の手順を用いて安定性の改善を行った。結合を、すでにHPLCで精製したタグ付き材料を使用して確認した。
【0074】
精製した凍結乾燥ペプチドを、緩衝液A(50mMリン酸ナトリウム、300mM NaCl、pH 6.5)に溶解し、捕獲樹脂(capture resin)(NTAで連結されたNi2+を含有するアガロース)と一緒に軽く振盪した。上澄みを除去し、樹脂を緩衝液A中に懸濁し、焼結重力フローカラム(sintered gravity−flow column)に移した。この樹脂を、5カラム容量の緩衝液Aで洗浄し、次いで生成物を10カラム容量の緩衝液B(50mM酢酸ナトリウム、300mM NaCl、pH 3.5)または高濃度イミダゾール(50mMリン酸ナトリウム、300mM NaCl、500mMイミダゾール)を含む緩衝液で溶出した。その後、ペプチドを、アルカリ性条件下(例えば、水性アセトニトリル中20%ピペリジン)で処理することによって凍結乾燥した生成物から開裂した。図2Bは、精製したタグ付きペプチドのこうした開裂反応のHPLCトレースを示す。
【0075】
緩衝液(40mMリン酸ナトリウム、300mM NaCl、8M尿素、pH 6.5)にサンプルを投入し、同じ緩衝液で結合していないサンプルを洗浄することによって、Ni2+をチャージした予めロード済みのHi−Trapキレートカラム(Amersham Biosciences)を、連続フロー式に使用することができる。結合したサンプルを、低pHの緩衝液(40mMリン酸ナトリウム、300mM NaCl、8M尿素、pH 3.5)を通すことによってニッケルカラムから除去することができる。このことは、HPLCで精製したDPHSA−タグ付きペプチドを使用して実証され、図2Cに示す。同図は、Ni2+チャージHiTrapキレートカラム(Amersham Biosciences)への結合を示すDPHSA−タグ付きペプチドを示す。
【0076】
あるいは、(非結合不純物を洗浄によって除去した後)アルカリ性条件下(例えば、pH9.0)で樹脂にタグを付け、セファデックスカラムを使用して遊離ペプチドを脱塩しながら、このペプチドを開裂することもできる。
【0077】
(実施例3:金属結合タグの合成およびペプチドへのタグ付け)
DPHSAを使用してタグ付きアミノ酸を精製するのに使用した、図1および図2Aに示したのとは別の経路を、図3に示す。
【0078】
図3から分かるように、この合成経路は、図1に示したスルファニル化された中間体6の場合と同一であった。その後、図1のように選択的に酸化させてスルホン7にした後、図2Aのように活性物質(例えば、ホスゲン、炭酸N,N’−ジスクシンイミジルと反応させて中間体1を形成し、次いでペプチドと反応させる代わりに、スルファニル化中間体6を活性物質(例えば、炭酸N,N’−ジスクシンイミジル)と反応させて中間体8(図3)を形成し、次いで、アミノ酸(図3の場合はバリン)と反応させて中間体9を形成し、その後、選択的に酸化して図3の10に示したスルホン構造とした。
【0079】
図3に示した方法はバリンへのタグ付けを示しているが、この方法は、他のアミノ酸およびペプチドへのタグ付けにも適用可能である。
【0080】
(実施例4:ペプチドにタグ付けされる金属結合ヘキサヒスチジンタグの合成)
図4は、例としてグリシンを使用してアミノ酸/ペプチドにタグを付けるのに、ヘキサヒスチジンタグを使用する本発明の態様を示す。Fmocプロトコルを用いた標準的な固相ペプチド合成を使用して、側鎖16上にトリチル保護基を備える、樹脂に結合したヘキサヒスチジンを形成する。これを、N末端が修飾されたアミノ酸t−ブチルエステル(例えば、グリシン15)とカップリングさせる。95%TFAでの処理により、タグ付きアミノ酸が樹脂から開裂され、同時に側鎖トリチル基およびt−ブチルエステルが開裂されて、18が形成される(18は必要に応じてHPLCによって精製することができる)。弱酸性条件中での酸化により、目的分子19が得られる。次いで、ヘキサヒスチジングリシンタグを、標準的なアミド結合法(例えば、DIC、HOCt、DMF)によってペプチドまたはタンパク質のN末端に直接結合させる。
【0081】
修飾ヘキサヒスチジンが金属イオンをチャージしたカラムに結合する原理は、ヒドロキシスルフィド27の合成から証明された(図5)。この精製した材料(0.2mg)を、水性緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、pH 6.5)中、ニッケルをチャージしたHi−Trapキレートカラム(Amersham Biosciences)と結合させ、カラムに結合したサンプルを同じ緩衝液で洗浄した。化合物の溶出は、第2緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、pH 3.5)でカラムを洗浄することによって実施した。
【0082】
(実施例5:疎水性タグの合成)
3,5−(ジフェナントレン−9−イル)−ベンゾイル[2−(2−ヒドロキシ−エタンスルホニル)−5−ニトロ−フェニル]−アニリド [DPBSA]の合成を図6に示す。簡潔に述べると、タグDPBSAは、9−ブロモフェナントレン27から、まず対応するボロン酸28を形成し、3,5−ジブロモ安息香酸とパラジウムカップリングさせることによって、5ステップで調製される。酸塩化物29を、2−クロロ−5−ニトロアニリン3と速やかに反応させて、アミド30を形成する。スルファニル化は、β−メルカプトエタノールと反応させ、過酸化水素水との穏やかな反応によって選択的に酸化させてスルホン32を形成することによって実施する。
【0083】
(実施例6:疎水性タグDPBSAを使用するペプチドの精製)
DPBSAを、活性物質、例えば、ホスゲン、炭酸ビス(4−ニトロフェニル)、炭酸ビス(ペンタフルオロフェニル)または炭酸N,N’−ジスクシンイミジルと塩基性条件下で反応させて、実施例2で述べたものと類似した反応性部分中間体を形成する。
【0084】
ペプチドを、従来の保護基を使用して保護したカルボキシル基を用いて標準的な固相または液相合成法によって調製する。
【0085】
次いで、この中間体を、アミン塩基(例えば、ジイソプロピルエチルアミン)の存在下、ペプチドと反応させる。
【0086】
タグの付いたペプチドを、必要に応じて標準的な開裂条件を使用して、樹脂から開裂する。タグの付いた粗ペプチドを、逆相HPLCで精製し、または以下に記述するように固体支持体上に吸収させる。
【0087】
凍結乾燥した粗ペプチドを、緩衝液1(8M尿素、0.1M NaHPO、0.01M Tris−Cl、pH 8)に溶解し、固体支持体(例えば、ポリスチレンまたはオクタデシルシランシリカが結合した支持体)と一緒に撹拌する。上澄みを除去し、樹脂を緩衝液2(8M尿素、0.1M NaHPO、0.01M Tris−Cl、pH 6.3)で洗浄する。
【0088】
上澄みを除去し、タンパク質を、塩基性条件(例えば、水性アセトニトリル中20%ピペリジン)で捕獲タグから開裂する。
【0089】
あるいは、精製方法で、適切な固体支持体を詰めたカラムを使用することができる。
【0090】
(実施例7:別の疎水性タグの合成およびこのタグを使用する精製)
疎水性捕獲部分、3−(アントラセン−9−イル)−プロピオニル、式IIIA、および3−(アントラセン−9−イル)−2−(アントラセン−9−イルメチル)−プロピオニル、式IIIBを、ペプチド用の化学タグとして使用した。捕獲部分の疎水性が、逆相HPLCシステムでの物質Pの保持時間を増大させることが分かった。それはまた、365nmで特有のUV吸収をもたらし、タグ付きペプチド種が簡単に識別できるようになる。
【化18】

【化19】

【0091】
式IIIAで示される捕獲部分は、図7Aに示す合成経路によって合成した。この捕獲部分を、9−クロロメチルアントラセン20からマロン酸ジエチルで処理することによって調製し、続いて加水分解および脱炭酸して酸22を形成する。これを予め形成しておいたシリル化した5−クロロ−2−ニトロアニリン3とカップリングさせ、2−メルカプトエタノールで処理することによってスルファニル化して構造24を形成した。24を酸化させて、スルホン27を形成した。これは、図2Aで示されるものと類似の方法に従って活性化することができる。
【0092】
あるいは、24の遊離ヒドロキシル基を、トリホスゲンで処理し、生じたクロロホルメートを予め調製しておいたビストリメチルシリルバリンと反応させることによって活性化することができる。弱酸性条件下で硫黄を酸化すると、所望のタグ付きアミノ酸26が得られる。
【0093】
タグ26を形成するために疎水性捕獲試薬(例えば、3−アントラセン−9−イル−2−アントラセン−9−イルメチル−プロピオニル)に結合したアミノ酸、例えば、バリンを、標準的なアミドカップリング方法(例えば、DIC、HOCt、DMF)を使用して樹脂に結合したペプチドまたはタンパク質のNα末端と直接結合させることができる。次いで、この樹脂を95%TFAで処理し、粗ペプチドを分離HPLCによって精製し、365nmで吸収する材料を採取する。この疎水性捕獲部分を、塩基(例えば、水性アセトニトリル中20%ピペリジン)で処理することによって精製ペプチドから取り除くことができ、分離HPLCで再精製する。
【0094】
式IIIAおよび式IIIBとして示される捕獲部分のカルボン酸は、それぞれ独立に、樹脂に結合した物質PをDIC、HOCtを使用してカップリングさせた。95%TFAを使用して樹脂を開裂すると、付加物を持たないか、または開裂不可能なアミド結合によってIIIAまたはIIIBが付加している物質Pの粗製サンプルが形成された。図7Bに、説明した3個の化合物の混合物のHPLCトレースを示す。これは、IIIBが付加した物質Pが最大保持を示している。
【0095】
(実施例8:ヘキサヒスチジンタグ付きのフルオレニルメタノールタグの合成)
ヘキサヒスチジンタグ付きのフルオレニルメタノールタグの合成を図8に示す。フルオレニルメタノール33をニトロ化し、アルコールを、例えばシリル基で保護する。ニトロ基を還元してアミン35を形成し、グルタル酸無水物と反応させて酸36を形成する。次いで、この酸を、樹脂に結合したヘキサヒスチジン(側鎖上にトリチル保護基を持つ)とカップリングさせ、95%TFAで処理し、同時に樹脂と側鎖を開裂することによって最終的なタグ38を調製する。
【0096】
本明細書中で参照された文献はすべて、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の範囲および精神から逸脱しない、本発明のここで説明した実施形態に対する様々な変更形態および改変形態が、当分野の技術者には明らかであろう。本発明を、特定の好ましい実施形態に関して説明してきたが、特許請求の範囲に記載される本発明は、こうした特定の実施形態に不当に限定されるべきではないことを理解されたい。実際、当分野の技術者には自明である、ここの記載した本発明を実施するための形態に対する様々な変更は、本発明によって包含されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の金属結合タグ分子の合成経路を示すスキームである。
【図2A】本発明の金属結合タグをペプチドに結合させる経路を示すスキームである。
【図2B】精製されたタグ付きペプチドの開裂反応のHPLCトレースを示すクロマトグラムである。
【図2C】Ni2+チャージHiTrapキレートカラム(Ni2+ charged HiTrap chelation column)(Amersham Biosciences)への結合を示すDPHSA−タグ付きペプチドを示すクロマトグラムである。
【図3】本発明の金属結合タグ分子およびこのタグ分子をペプチドに結合させる別の合成経路を示すスキームである。
【図4】ヘキサヒスチジンタグ付きグリシンの合成経路を示すスキームである。
【図5】ヒスチジンタグの付いたヒドロキシル硫化物の合成を示すスキームである。
【図6】本発明の疎水性タグ分子の合成経路を示すスキームである。
【図7A】本発明の別の疎水性タグ分子の合成経路を示すスキームである。
【図7B】物質P(1)、IIIA付加物質P(2)およびIIIB付加物質P(3)のHPLCトレースを示すクロマトグラムである。
【図8】本発明のヘキサヒスチジンタグ付きのフルオレニルメタノールタグ(hexahistidine tagged fluorenyl methanol tag)の合成経路を示すスキームである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iで表されるタグ分子であって、
(A)−C
式I
式中、
Aは捕獲部分であり、
nは1以上、例えば、1、2、3または4であり、
Cは、式II
【化1】

または式IIAで表されるペプチド結合部分であり、
【化2】

式中、
Cが式IIで表されるペプチド結合部分である場合、RおよびRは、それぞれ独立に、H、任意のC1〜6アルキル基または電子吸引基であり、Rは、Hまたは任意のC1〜6アルキル基であり、RおよびRの一方は、前記結合部分をAに連結するリンカー部分Bであり、Rは、リンカー部分Bでない場合は、Hまたは任意のC1〜6アルキル基であり、Rは、リンカー部分Bでない場合は、電子吸引基、Hまたは任意のC1〜6アルキル基であり、R、RおよびRのうちの少なくとも一つは電子吸引基であり、
Cが式IIAで表されるペプチド結合部分である場合、RおよびRの一方は、前記結合部分をAに連結するリンカー部分Bであり、RおよびRのもう一方、ならびにR、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、Hまたは任意のC1〜6アルキル基であるタグ分子。
【請求項2】
Cが、式IIで表されるペプチド結合部分である、請求項1に記載のタグ分子。
【請求項3】
一つ(または複数)の前記電子吸引基が、I、Br、Cl、NO、CFおよびSOMeからなる群より選択される、請求項2に記載のタグ分子。
【請求項4】
一つ(または複数)の前記電子吸引基がNOである、請求項3に記載のタグ分子。
【請求項5】
Cが、式IIAで表されるペプチド結合部分である、請求項1に記載のタグ分子。
【請求項6】
Bが、アミド、アミン、エーテル、エステル、ヒドラジド、ケトンまたはイミン基を含む、前記請求項のいずれか一項に記載のタグ分子。
【請求項7】
前記捕獲部分Aが疎水性である、前記請求項のいずれか一項に記載のタグ分子。
【請求項8】
前記捕獲部分が、少なくとも1個のフェナントレニル基、アントラセニル基またはナフチル基を含む、請求項7に記載のタグ分子。
【請求項9】
前記捕獲部分が式IIIで表され、
【化3】

前記結合部分が、式IIIの中央のフェニル環の5位に位置するリンカー部分に連結している、請求項8に記載のタグ分子。
【請求項10】
式IVで表される、請求項9に記載のタグ分子。
【化4】

【請求項11】
前記捕獲部分が、式IIIAで表される環状構造を含む、請求項8に記載のタグ分子。
【化5】

【請求項12】
前記捕獲部分が、式IIIBで表される環状構造を含む、請求項8に記載のタグ分子。
【化6】

【請求項13】
前記捕獲部分Aが金属結合部分である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のタグ分子。
【請求項14】
前記捕獲部分が、少なくとも1個の2−ピリジル基を含む、請求項13に記載のタグ分子。
【請求項15】
前記捕獲部分が式Vで表される、請求項14に記載のタグ分子。
【化7】

【請求項16】
式VIで表される、請求項15に記載のタグ分子。
【化8】

【請求項17】
ペプチド分子に結合した前記請求項のいずれか一項に記載のタグ分子を含む、タグ付きペプチド。
【請求項18】
前記ペプチドが、カルバメート結合を介して前記タグ分子に結合している、請求項17に記載のタグ付きペプチド。
【請求項19】
ペプチド分子にタグを付ける方法であって、
式IIまたは式IIAのヒドロキシ基が反応性部分で置換されている請求項1〜16のいずれか一項に記載のタグ分子を提供するステップと、置換されているタグ分子をペプチド分子と反応させるステップと、を含み、
前記反応性部分が、式VIIで表される部分であり、
【化9】

式中、Yはいずれかのハロゲン、好ましくはClであり、
あるいは、前記反応性部分がカルボニルジオキシ部分を含む方法。
【請求項20】
ペプチドの精製を容易にするためにペプチドを修飾する方法であって、ペプチド鎖の合成中にペプチド鎖の末端に請求項1〜16のいずれか一項に記載のタグ分子を結合させるステップを含む方法。
【請求項21】
アミノ酸に結合した請求項1〜16のいずれか一項に記載のタグ分子を含む、タグ付きアミノ酸。
【請求項22】
前記ペプチドが、カルバメート結合を介して前記タグ分子に結合している、請求項21に記載のタグ付きアミノ酸。
【請求項23】
アミノ酸にタグを付ける方法であって、
a)式IIまたは式IIAのヒドロキシ基が反応性部分で置換されている請求項1〜16のいずれか一項に記載のタグ分子を提供するステップと、
b)置換されているタグ分子をアミノ酸のN末端と反応させるステップと、を含み、
前記反応性部分が、式VIIで表される部分であり、
【化10】

式中、Yはいずれかのハロゲン、好ましくはClであり、
あるいは、前記反応性部分がカルボニルジオキシ部分を含む方法。
【請求項24】
c)前記アミノ酸を別のアミノ酸またはペプチド分子と結合させるステップ、をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記置換されているタグ分子が、タグ分子を、ホスゲン、炭酸ビス(4−ニトロフェニル)、炭酸ビス(ペンタフルオロフェニル)または炭酸N,N’−ジスクシンイミジルと、適切な条件下で反応させることによって形成される、請求項19、23または24に記載の方法。
【請求項26】
ペプチドの精製を容易にするためにペプチドを修飾する方法であって、
a)請求項1〜16のいずれか一項に記載のタグ分子をアミノ酸のN末端に結合させるステップと、
b)ステップ(a)で形成されたタグ付きアミノ酸をペプチド分子に結合させるステップと、
を含む方法。
【請求項27】
ペプチドの精製方法であって、
a)請求項13もしくは14に記載のタグ付きペプチド、または請求項19、20、24もしくは26のいずれか一項に記載の方法に従って調製されるタグ付きペプチドを含むサンプルを提供するステップと、
b)前記サンプルを、捕獲部分が親和性を有する捕獲受容体と接触させるステップと、
c)非結合分子を、例えば洗浄によって除去するステップと、
d)場合によっては、結合したタグ付きペプチドを捕獲受容体から取り外すステップと、
e)ペプチドをタグ分子の結合部分から切り離すステップと、
を含む方法。
【請求項28】
ステップe)において、前記ペプチドを、塩基性条件下で前記結合部分から切り離す、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
表面上でペプチドを実質的に均一な方向に空間的に配向させる方法であって、
a)請求項13もしくは14に記載のタグ付きペプチド、または請求項19、20、24もしくは26に従って調製されるタグ付きペプチドを提供するステップと、
b)ステップa)のタグ付き分子を、捕獲部分が親和性を有する捕獲受容体と接触させるステップと、
c)タグ付き分子を、捕獲部分と捕獲受容体との相互作用によって表面に結合させるステップと、
を含む方法。
【請求項30】
前記表面がマルチウェルプレートの表面である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
ペプチドの検出用または精製用の診断キットであって、
a)請求項1〜16のいずれか一項に記載の分子タグ、または請求項21もしくは22に記載のタグ付きアミノ酸と、
b)前記分子タグの捕獲部分と結合できる捕獲受容体と、
を含むキット。
【請求項32】
実質的に本明細書に記載のタグ分子。
【請求項33】
実質的に本明細書に記載のタグ付きペプチド。
【請求項34】
実質的に本明細書に記載のタグ付きアミノ酸。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−537973(P2007−537973A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508383(P2006−508383)
【出願日】平成16年6月1日(2004.6.1)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002327
【国際公開番号】WO2004/106363
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(505443159)アルマック サイエンシズ (スコットランド) リミテッド (3)
【Fターム(参考)】