説明

糖と塩とを含む食肉処理用組成物

本発明は、糖と塩との混合物を含む食肉処理用組成物に関する。前記組成物を食肉を通じて浸透させることによって、あるいは、閉じた容器中で食肉を発酵させることによって食肉を処理すると、全体に塩味を有する肉製品となる。乳酸菌発酵を用いた方法および貯蔵安定性のある肉製品の製造方法についても開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵能力を向上させるとともに消費者の安全を向上させる肉製品を提供し、かつ、低温での乳酸菌成長に好適な状態を提供する食肉処理用の糖と塩との組合せ物に関する。
【背景技術】
【0002】
長期間貯蔵できる肉製品を製造するとき、及び、例えば、発酵肉、乾燥肉、ミンチ肉、挽肉等の、そのような糖処理を行った製品を材料としてさらに処理を行った肉製品を製造するとき、新鮮な肉片を最初に糖処理することがある。例えば米国特許5,607,713から知られているように、食肉を糖で前処理することによって、食肉中の固形物の含有比率(乾燥物含量)が増加する。ここで、有機酸の比率の低下が生じる一方で微生物学的な清浄さが同時に食肉中で維持されることも述べておく。そのような処理として、新鮮な状態、前処理(例えば照射)した状態、あるいは貯蔵(冷凍/解凍)状態のいずれかにある食肉を糖、好適には粉末形態の糖と接触させることが挙げられ、これにより滲出液(抽出物)が形成される。この滲出液は、食肉からの水性抽出物を含んでいる。この抽出物には、重金属、毒素、分解生成物などが含まれており、その大部分は廃棄物である。そのような廃棄物は、動物の屠殺の間に形成されることがある。生きている動物でも屠殺された動物でも、その体内で、死体硬直が始まる際の酸の生成などの、廃棄物を産生する有機反応および生化学反応が種々存在している。その一方で、食肉の品質は、屠殺前の屠殺動物の状態(ストレス、餌、運動など)によって変わるだろう。そのような反応によって、食肉の食味が悪くなり、臭いが生じ、あるいは食肉が固くなることがある。
【0003】
食肉中に存在する不必要な天然呈味化合物、例えば、トナカイ、羊、豚、畜牛などの温血動物由来の食肉に存在する食味、あるいは例えば繁殖追込畜舎/畜舎の匂い/食味は、そのような食肉を糖で加工処理することを通じて除去することができることもまた、特に述べておく。
【0004】
上記糖処理を行うことで、前記毒素及び重金属に加えてそのような廃棄物化合物及び食味劣化物質の全部または一部が除去されるだろう。そのような不必要な物質は、処理後の食肉からの滲出液中に存在するだろう。
【0005】
この滲出液は、廃棄される。そのような食肉の糖処理は、米国特許5,607,713号から従来公知であり、貯蔵能力を向上させるために食肉をショ糖処理することが開示されている。
【0006】
また、冷凍した食肉に対して上記に開示した糖処理を行うこともまた可能であろう。
本発明において「糖」とは、単糖、二糖、またはオリゴ糖または多糖類、例えばショ糖、フルクトース、マンノース、マルトースなど、好ましくはショ糖、フルクトースまたはこれらの混合物を包含するものとする。この糖は、粉末、顆粒または溶液のいずれの形態で存在していてもよい。また、パラチノースのように、代謝反応速度が低く、そのためカロリー量の低い糖を用いてもよい。甘味を全く有さない糖製品の例は、トレハロースである。
【0007】
表現『食肉』については、本発明では、陸棲動物 (牛, 豚, 羊など)及び水棲魚を由来とする全ての形態の食肉を包含するものと理解されるだろう。この食肉は、家畜、畜牛、豚、猟獣(ムース、トナカイ、鹿など)、鳥類(七面鳥、鶏、ライチョウ、ヨーロッパオオライチョウなど)または魚類(ニシン、サケ、マス、オヒョウ、タラなど)を起源とするものが好ましい。
【0008】
食肉を糖で処理する利点は、これによって再生的な方法を用いることができ、食肉の構造を損なわず、また官能特性(食味)を改良することにある。その滲出液には、使用した糖の相当部分に加えて不必要な呈味物質が含まれるからである。
【0009】
加えて、防腐剤を添加した出発材料を用いることを避ける。これは、多くの防腐剤が、食肉中の成分(タンパク、脂質、糖質など)との反応に入り込むか、栄養連鎖に導入されるか、あるいはその両方であるからである。防腐剤と食肉との反応生成物、または防腐剤それ自体は、体内での分解が困難である場合があり、且つ/あるいは、それらの物質の体内からの分泌が困難である場合もある。このことは、健康上のまたは環境上の危険があることをさらに示している。
【0010】
開放条件での適切な食肉の糖処理では、廃棄される滲出液が形成し、そのため、食肉の処理時間は食肉の質量/サイズとの関係で調整される。糖または糖組成物を用いた開放条件での食肉処理は、格子または網などの表面に食肉を置き、その食肉の上面を充分な量の適切な糖で(しかし、実質的な量で糖が食肉からこぼれ落ちないような態様で)覆うことによって行われる。糖は、その後、(肉片の厚さ、肉質、肉の種類など、当業者が容易に決定/考慮することができるものにもよるが、)肉汁に溶け、ゆっくりとその肉片に浸透し、上述の有害かつ不必要な成分とともに移動するだろう。
【0011】
ガイドラインとして、食肉の処理は、開放条件下で個々の肉片の厚さ1cmあたり1〜7時間の時間間隔で、より好ましくは肉片の厚さ1cmあたり2〜5時間の時間間隔で、最も好ましくは肉片の厚さ1cmあたり3〜4時間の時間間隔で行うことを示すことができる。しかし、これらの間隔は一つのガイドラインとして示したものにすぎない。なぜなら、上述したように、肉片の厚さ以外の要因が糖処理の時間を決定する上で影響を与えるからである。しかし、概して、それでも言えることは、開放条件での糖処理が、肉片から糖を含む滲出液が現れなくなったときに終了するということである。このことは、適切な種類/品質/厚さの肉片について直接観察することができ、あるいは経験的に決定することができる。
【0012】
糖処理を通じて食肉から引き出される不必要な/有害な物質に加えて、他の成分も糖滲出液とともに運び出されるようである。例えば、プロテアーゼ及びリパーゼなどの分解酵素が引き出されて、滲出液とともに廃棄される場合があるようである。理論に制限されずにいうなら、この種の処理食肉は、従来の食肉とは明らかに異なる、連続して肉処理を行うための出発材料をなす。
【0013】
上述の方法は、開放系での方法、すなわち、糖処理からの滲出液を自由に除去することができる方法を表す。
さらに、本発明によれば、乳酸菌は、上述したように糖で処理した食肉中で繁殖する。この乳酸菌はまた、食肉のpHを下げ且つ他の(有害なまたは腐敗させる)微生物及び真菌の成長に不適な環境を提供することによって肉製品の劣化を少なくし、その食肉に特別な(望ましい)味質を与えることができる。このことは、以下でより詳しく説明する。
【0014】
本発明による閉鎖状態及び開放状態での糖処理の間食肉を保存する温度間隔は、0℃と常温との間の温度間隔、例えば、0〜20℃、より好ましくは4〜15℃、さらに好ましくは4〜10℃、最も好ましくは4〜6℃の間隔にある。
【発明の開示】
【0015】
上記に示した糖処理した肉製品を得、糖処理に続いてその食肉を直接消費し、あるいは加工/処理(上記参照)をさらに行うために、塩を、食味増強剤として、あるいはそれ自体スパイスとして加えることが必要となるだろう(なぜなら、食肉中の呈味物質の一部は、開放状態での糖処理を通じて除去されるからである。)。本発明の根拠をなす問題は、予め糖処理した食肉にその後加えるこのような塩が、食肉の多少の乾燥状態のためその食肉に適切に入っていかないことにある。これは、肉汁/水の一部が、開放状態での糖処理の後形成し廃棄される滲出液を介して除去されるからである。
【0016】
また、そのように糖処理した食肉の後処理のために、例えば発酵/保存処理させた食肉を製造するために、所要により他のスパイス/食味付与剤/食味増強剤に加えて、塩を加える必要があるだろう。例として、発酵させた魚製品は0.5〜10% (v/v)の塩を含むのがよく、保存処理させた肉製品は0.5〜10% (v/v)の塩を含むのがよいだろう。また、呈味物質の一部が糖滲出液を通じて除去されることに起因して、糖処理した食肉が多少の甘味を有するので、食肉に塩を入れることが好ましい。
【0017】
驚くべきことに、食肉の糖処理の最初の段階において既に塩の添加を行うことができることが今日分かっている。最初の糖物質/組成物に塩を加えることによって、塩は、糖処理の後に加えた場合よりもはるかに多く、糖とともに食肉中に浸透するであろう。驚くべきことに、塩/糖組成物を最初の糖処理段階で加えたときには、その最初の糖処理段階の後で食肉は塩味を有することが分かった。したがって、本発明は、長期貯蔵能力を有する糖処理肉を得る処理組成物として好適な塩/糖組成物に関する。ここで、最初に加えられた塩の一部が、糖処理が終了した後に食肉中に残存する。
【0018】
具体的には、そのような糖/塩組成物においては、上記に示したような糖の種類またはそれらの混合物の形態で糖が存在するのがよい。また、塩化ナトリウムの形態だけではなく、海塩、または塩中のナトリウム量を減らすために塩化ナトリウム/塩化カリウム/塩化マグネシウムの混合物のような塩組成物の形態で塩が存在するのがよい。この糖/塩組成物は、砂糖/塩を20/80 (w/w)、より好ましくは50/50 (w/w)、さらに好ましくは80/20 (w/w)、例えば、60/40 (w/w)またはこれらのいずれかの比で有するのがよい。これらの比率は、開放状態での食肉の処理に関するものである。ここで、砂糖と同様に塩の多くが滲出液を通じて除去される。また、これらの比率はまた、閉鎖状態での塩/糖組成物を用いた処理にも関する。ここで、塩と糖の用いられる量ははるかに少ない。これは、容器(閉じられたプラスチック袋)が開けられるまでは、閉鎖状態での処理における滲出液が除去されないので、その結果、特にこの塩成分によって食肉に塩味が付与されるからである。推奨される塩成分の量は、食肉の重量から計算して、多くても10%(w/w)である。
【0019】
塩/糖の組成物を食肉処理の最初の段階で加える場合、この塩/糖処理を行った食肉中の乳酸菌数がかなり上昇することも分かっている。乳酸菌が存在することによって肉製品の貯蔵能力がさらに向上することから、このことは非常に驚くべきことであり、また有利である。
【0020】
さらに、糖処理した食肉に乳酸菌が存在することは、特に驚くべきことである。これは、処理が、低温(慣例的には冷蔵温度(0〜10℃、例えば、4〜6℃))で、且つ加えられた塩(上記を参照のこと)の存在を通じてイオン強度が高められているところで行われていることから、そのような条件は、通常そのような微生物の発育につながるものではないからである。
【0021】
加えて、糖処理を通じて食肉から一部の水の除去(滲出液の除去)を行うことによって、食肉が水の活性の低い状態に置かれるであろうが、このような状態もまた、微生物の発育にほとんどつながらないであろう。このような面から、乳酸菌が存在することは、かように全く驚くべきことである。
【0022】
また、糖処理した食肉に対して処理をさらに行う場合、そのような後処理段階の1つが発酵肉の製造であるのがよい。乳酸菌が存在することによっても、そのような発酵プロセスが向上し且つ高速化する。ただし、この発酵を弱い減圧下(例えば、100-500 mmHg)で行う。このような条件で乳酸菌が成長することもまた驚くべきことである。したがって、弱い減圧下及び冷蔵温度でさらに発酵させるため、開放条件での糖/塩処理を行った糖処理済みの食肉をプラスチック袋に入れることができる。しかし、そのような開放条件で処理した前処理済みの塩/糖を含む食肉を発酵させるとき、その発酵前の素材に残存している正確な糖または塩の量を知ることは必ずしも可能ではない。
【0023】
したがって、驚くべきことに、塩味のある糖処理した肉製品を製造するために、塩の量が適当である(かつ充分な量ではない)塩/糖組成物を減圧プラスチック袋に入れ、その袋を弱い減圧下に置くことができる(上記参照のこと)こともまた分かっている。明らかなことに、処理を行っていない肉片を適当量の塩と糖とともに閉じた容器(例えば、プラスチック減圧袋)に入れる場合、滲出液は食肉から除去されないだろう。しかし、そのような方法は、今日では乳酸菌による発酵を行うための正確な量の糖を加えることが可能となるから有利であろうし、また、系が閉じているので正確な量の塩を加えることもできるであろう。しかし、前記のように、本発明の処理を行う間、塩と糖はどちらも肉素材に浸透し、開放状態での糖処理後に食肉が多少乾燥する性質を生じる問題を解決する。
【0024】
減圧袋の中で乳酸菌が成長するため、糖が消費されて塩が残り、これによって食肉のフレーバーが向上する。そのような処理の出発材料は、新鮮な食肉でも良いし、あるいは上記に開示したように糖で前処理した食肉でもよい。また、塩/糖組成物を、減圧及び冷蔵を行う前に減圧袋の中のたとえ1ヶ所に置いた場合でも、減圧処理を行う期間の間に塩が食肉中に均等に行き渡る。
【0025】
閉じた袋での塩/糖処理を新鮮な食肉で行う場合、塩の量は、処理すべき肉片の重量に対して10% (w/w) を超えてはならない。このような閉鎖系条件下では、塩の量は通常2〜5% (w/w) の範囲にあるだろうが、1%, 3%, 7%, 10% (w/w)などといったその他の量でもよい。
【0026】
開放系での塩/糖処理において、完成品の塩含量もまた10%を超えないことが好ましい(しかし、これは、閉鎖系環境の場合より制御することが難しい。上記参照のこと。)。
このように、塩/糖組成物を用いた開放状態での食肉の処理は、糖処理の間に塩を同時に加えることにより、また、食肉中の乳酸菌がその後成長するに適した成長条件を提供するための増強要素としても、多数の利点を有している。
【0027】
本発明により塩/糖組成物を食肉に添加することによって、開放系処理モードで塩/糖処理が終了した後、あるいは、閉鎖系モードで塩/糖組成物と同時に、他のスパイスおよび食味増強剤を食肉に加えることもまた可能であろう。そのようなスパイス/食味増強剤の例として、コショウ、ナツメグ、生姜、またはスパイスの混合物;リンゴ、西洋ナシ、パイナップル、パパイヤ、ナツメヤシ、イチジクなどの果物(生/乾燥);ニンジン、セイヨウワサビ、カブ、ハツカダイコンなどの野菜;およびハーブが挙げられる。他の食味の添加もまた、エッセンス(ウィスキーエッセンス、ラムエッセンスなど)の形態で導入することができる。
【0028】
本発明により処理した最終製品の状態(食味、匂い、歯ごたえ、色など)は、塩及び/またはスパイス及び/または食味増強剤(または着色料などの他の成分)の添加量、処理温度、処理時間等の上記記載の要素の選択によって変わる。しかし、最終製品の状態は消費者の嗜好によっても変わるので、処理または後処理のプロセスの強度及び継続時間の決定は、個別に行われるだろう。しかし、最終製品の品質の決定は、当業者のルーチンテストと知識を通じて容易に見出すことができる。上記記載のパラメータ内で操作することによって、当業者は、所要の食味、匂い、歯ごたえを有する製品を容易に製造することができる。
【0029】
発酵した塩味を含む最終製品を提供するために、閉鎖系(減圧容器)で食肉を塩/糖組成物で処理する継続時間についてのガイドラインとして、この継続時間は、通常食肉1kgあたり1.5〜2 日の期間内である。ここで、塩が上記記載の範囲(肉片の重量を基準に算出して10% (w/w) まで、好ましくは2〜5% (w/w) の間、例えば2〜3% (w/w))となるよう塩/糖組成物を用いる。
【0030】
塩/糖組成物に加える糖の量は、上記開示に示した塩/糖の比と関係するだろう。これは、乳酸菌が成長するに適した環境を提供するだろう。
しかし、本発明による減圧下での閉鎖系における塩/糖及び乳酸菌での処理の継続時間は、最終生成物の所要の状態、処理を行う温度、加工する食肉の種類(通常、魚肉の発酵は、陸棲動物の食肉の発酵より短い時間で済み、また、例えば処理を行う動物肉の種の中でも変わる場合がある。)などによって上記に示した継続時間より長くなる場合も短くなる場合もある。塩/糖処理/発酵の正確な継続時間は、観察を通じて及び上記開示を見ることによって当業者が測定することができる。なぜならば、閉鎖系で塩/糖組成物を既知量加えれば、発酵が進行する環境が安定し、予測可能なものとなるだろうからである。しかし、上記開示とガイドラインを考慮して、また下記に示す実施例にも基づき、処理に必要な継続時間を確立するためには、特別の行為を要しない。
【0031】
本発明による塩/糖組成物で食肉を処理することによって、そして、引き続いてこの塩/糖処理した食肉をさらに加工するために所要により乳酸菌成長させることで、従来知られていなかった品質の肉製品、すなわち、塩味を同時に含む肉製品、及び従来既知の糖処理した食肉の特性を有しながら例えば上記に示したようなさらなる加工段階に適する肉製品、並びに、乳酸菌の活動のために特別の食味特性を有する様々な肉製品ができるであろう。塩味があり貯蔵安定性を有する肉製品を製造するためにこの塩/糖組成物を用いることはまた、新規であり、かつ当業者に自明ではないと思われる。同様に、貯蔵安定性を有する塩味のある肉製品を提供するために、適切な肉片を格子などの表面に置き、その食肉の表面上に塩/糖組成物を加え、引き続いて形成された滲出液を除去することにより、塩味がある糖処理した肉製品を製造する方法は、新規であり、かつ当業者に自明ではないと思われる。さらに、上記に開示した糖処理し且つ発酵させた塩味のある肉製品を提供する閉鎖系での方法は、新規であり、かつ進歩性があると思われる。このことはまた、下記に示す非制限的な実施例にもあてはまる。
【0032】
乳酸菌の成長に関して、そのような微生物は、塩/糖処理の間自然に増殖して、上記記載の有利な効果を与えるだろう。しかし、乳酸菌との選択と競争とによって他の微生物の成長を確実に抑えるため、乳酸菌のスターターカルチャーを添加することが望ましい場合がある。そのようなスターターカルチャーは、開放系処理モードでは滲出液の除去を行う前もしくは後、あるいは、閉鎖系モードでは塩/糖組成物の添加を行うと同時に、食肉に加えることができる。乳酸菌のスターターカルチャーは、いかなる市販の乳酸スターターカルチャーでもよく、あるいは、そのかわりに、例えば閉鎖系での発酵袋からの液体の添加を通じて、本発明による以前の発酵物から生じたものでもよい。添加すべきスターターカルチャーの量は、通常1〜10 mlの範囲にあるだろうが、臨界的なものではない。これは、乳酸菌の成長には、系内の他の微生物の成長を圧倒し抑制するための最初の推進が必要なだけだからである。
[実施例1](開放状態)
食肉産業における一般的な慣行に従って調製(四分し、骨抜きをし、切り身にする等)したそれぞれ重さ1〜4kgの新鮮なサケの半身をポリアミドの網上に置き、それらの上面をこぼれ落ちないような量、ショ糖粉末80重量部と塩化ナトリウム20重量部とからなる組成物で均一に覆った。ショ糖は、塩とともに肉汁に溶解し、滲出液が形成される。この滲出液は、排水を通じて除去される。このような処理の後、この食肉は、塩気のあるフレーバーを維持し、発酵魚肉製品または挽き魚肉/すり身を製造する等のさらなる処理に適している。この発酵魚肉製品または挽き魚肉/すり身もまた乾燥等の処理をさらに行うことができる。処理した食肉は、はっきりと識別できるが圧倒的ではない塩味を有している。
[実施例2](開放状態)
食肉産業における一般的な慣行に従って調製したそれぞれ重さ5〜10kgの新鮮な羊の腿片をポリアミドの網の上に置き、それらの上面をこぼれ落ちないようにショ糖粉末50 w/wと海塩50% (w/w) とからなる組成物で覆う。この組成物は、肉汁に溶解し、滲出液として排出される。このような処理の20時間後、塩/糖処理した食肉を挽き、20グラム量のスパイス混合物を加えてミンチとする。このミンチ肉に2リットルの水を一斉に加えて柔軟な素材を形成し、この素材を、腸から作られた直径3 cmのソーセージ皮に搾り入れる。一般的な大きさのソーセージを形成するために、このソーセージ皮に結び目を入れて、慣習的な長さとする。これらのソーセージを、最初に短時間(2時間)約15℃に加温してから4〜10℃の温度で保存処理するために吊るす。2〜3週間の保存処理時間の後、このソーセージは保存処理し終わって消費可能な製品になる。
【0033】
このソーセージは、スパイスの混合物の食味とともに、はっきりと識別できるが圧倒的ではない塩味を有している。さらに、このソーセージには、糖の味がない。これは、糖を乳酸及び乳酸生成物に変換する、ソーセージ中の存在する天然乳酸菌の数が増えることによるものである。
[実施例3](開放状態)
食肉産業における一般的な慣行に従って調製したそれぞれ重さ8kgの新鮮な豚の腿(ハム)をポリアミドの網の上に置き、それらの上面をこぼれ落ちないように、ショ糖粉末70% (w/w)と塩化ナトリウム/塩化カリウム/塩化マグネシウム (50/48/2) 混合物30% (w/w) とからなる組成物で均一に覆う。この組成物は、肉汁に溶解し、形成する滲出液は排出される。3〜6日後、貯蔵能力が向上し、良好な感覚特性を有し、かつ明確な塩味を有する充分に消費可能な製品が形成される。
[実施例4](開放状態)
食肉産業における一般的な慣行に従って調製したそれぞれ重さ8kgの新鮮な豚の腿(ハム)をポリアミドの網の上に置き、それらの上面をこぼれ落ちないように、ショ糖粉末70% (w/w)と塩化ナトリウム/塩化カリウム/塩化マグネシウム (50/48/2) 混合物30% (w/w) とからなる組成物で均一に覆う。この組成物は、肉汁に溶解し、形成する滲出液は排出される。3〜6日後に製品が形成する。これを、さらに保存処理するため処理を行う。このハムを、最初に1〜2日間10〜20℃に加温してから、6〜10℃の温度で保存処理するために吊るす。この保存処理プロセスを4〜12週間行う。この期間の後、充分に保存処理した食肉は、明確ではあるが不快ではない塩味を有する。この保存処理したハムには甘味が検出されなかったが、ハムの断面の隅々まで乳酸菌の数が上昇したことは注目すべきである。
[実施例5](開放状態)
食肉産業における一般的な慣行に従って調製したそれぞれ重さ8kgの新鮮な豚の腿(ハム)をポリアミドの網の上に置き、それらの上面をこぼれ落ちないように、ショ糖粉末70% (w/w)と塩化ナトリウム/塩化カリウム/塩化マグネシウム (50/48/2) 混合物30% (w/w) とからなる組成物で均一に覆う。この組成物は、肉汁に溶解し、形成する滲出液は排出される。それから、乳酸菌のスターターカルチャーを食肉に加えた。3〜6日後に製品が形成する。これを、さらに保存処理するため処理を行う。このハムを、最初に1〜2日間10〜20℃に加温してから、6〜10℃の温度で保存処理するために吊るす。この保存処理プロセスを4〜12週間行う。この期間の後、充分に保存処理した食肉は、明確ではあるが不快ではない塩味を有する。この保存処理したハムには甘味が検出されなかったが、ハムの断面の隅々まで乳酸菌の数が上昇したことは注目すべきである。
[実施例6](開放状態)
それぞれ重さ1.5〜3.0kgの新鮮な牛(雄牛)の腿片を塩/糖組成物 (80% 糖/20% 塩 (w/w)) で1〜2日間処理した。形成する滲出液を廃棄する。この塩/糖処理した食肉を12〜24時間最大20℃に加熱し、6〜10℃で乾燥させるために網の上に置く。5日後に、この肉片をカットして3cmの薄肉スライスとし、これらを相対湿度が低い状態(60%未満)にて6〜10℃で1〜7日間さらに乾燥させると、この食肉の乾燥が完了する。この食肉を2.3 mm厚の片にカットし、スパイスの混合物、例えばコショウ/オレガノを加えて、スナックとして包装する。
[実施例7](閉鎖状態)
それぞれ重さ1〜2kgのマス(Trout)片を個別にプラスチック減圧袋に入れた。2/3の袋に、7gの塩(塩化ナトリウム)と20gの糖(ショ糖)から成る塩/糖組成物を入れた。残りの1/3には、何も加えなかった。全ての袋を閉じ、引き続いて550 mmHgの減圧下に置き、+4℃の冷蔵庫に入れた。糖/塩処理を行った袋のうちの半分と糖/塩処理を行っていない袋について、この減圧及び温度を14日間保った。残りの袋を2群に分け、1群については既成の減圧下で計1ヶ月、残りの群については計2ヶ月の期間保った。
【0034】
乳酸菌の発育の効果を示し証明するため、これらのテストの結果を、概要がよりよくわかるよう下記表1に示す。
[実施例8](閉鎖系)
実施例6に開示したものと同様のテストを行ったが、今回は、それぞれ重さ2kgのハムの片について行った。このテストの結果を下記表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
乳酸菌数の測定は、MRS培地(de Man, Rosa, Sharp)上3日間、30℃で微好気性菌を調製して行った。この培地には、乳酸菌の成長に必要な全ての栄養が含まれている。検出及び定量は、カタラーゼ試験 (GB A-Food, Staatliche Akkreditieransstelle, Hannover, Germany) を用いて行った。
【0037】
このように、この微生物の成長が比較的高い塩濃度、低温及び減圧下で起こっているという事実にもかかわらず、低温及び所要により弱い減圧という適切な条件下で、上に証明されたように乳酸菌が迅速に発育することは、非常に驚くべきものである。
【0038】
1ヶ月及び2ヵ月後に、糖処理及び乳酸菌発酵させた食肉が入っている袋を開けたとき、糖の全てが、乳酸菌が発酵を推進させるために消費されたことが分かった。全ての食肉は、適度に発酵した食肉の特徴的な食味と適度に塩味のあるフレーバーを有していて良好な味であった。14日間処理した食肉でも発酵して食用に適する製品となったが、発酵をさらに進める余地があった。
[実施例9](閉鎖系)
それぞれ重さ1〜2kgのマス(Trout)片を個別にプラスチック減圧袋に入れた。それらの袋に、7gの塩(塩化ナトリウム)と、20gの糖(ショ糖)と、5 mlの乳酸菌のスターターカルチャーとから成る塩/糖組成物を加えた。このスターターカルチャーは、実施例7の1ヶ月マスを発酵させた袋の中で形成した滲出液から成る。全ての袋を閉じ、引き続いて550 mmHgの減圧下に置き+4℃の冷蔵庫中に置いた。この減圧および温度を1ヶ月間保った。この処理期間の後、マスは、良好な匂いと食味特性を有するとともに減圧袋の開封後直接消費可能な充分発酵した製品になった。
[実施例10](閉鎖系)
それぞれ重さ1kgのハムの片を個別にプラスチック減圧袋に入れた。それらの袋に、7gの塩(塩化ナトリウム)と、20gの糖(ショ糖)と、3 mlの乳酸菌のスターターカルチャーとから成る塩/糖組成物を加えた。このスターターカルチャーは、実施例7の2ヶ月ハムを発酵させた袋の中で形成した滲出液から成る。全ての袋を閉じ、引き続いて550 mmHgの減圧下に置き+4℃の冷蔵庫中に置いた。この減圧を1ヶ月間保った。この処理期間の後、ハムは、良好な匂いと食味特性を有するとともに減圧袋の開封後直接消費可能な充分発酵した製品になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩と糖との混合物を含む食肉処理用組成物であって、
該糖と塩が80/20 (w/w)〜20/80 (w/w)の比で存在することを特徴とする食肉処理用組成物
(ここで、食肉の処理は、滲出液を生成させ廃棄するために開放系で該組成物を食肉に添加することにより、あるいはそのかわりに、食肉を含む閉鎖系に該組成物を添加し、その食肉を弱い減圧下で0〜20℃の間の温度に置くことにより行われる。)。
【請求項2】
前記糖が、ショ糖、フルクトース、マンノース、マルトース、パラチノース、トレハロース等の単糖、二糖または多糖類に挙げられる純糖の形態で存在することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記糖が、ショ糖、フルクトース、マンノース、マルトース、パラチノース、トレハロースに挙げられる単糖、二糖または多糖類等の2以上の糖の混合物の形態で存在することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の塩/糖組成物で処理した食肉の形態で存在することを特徴とする肉製品。
【請求項5】
前記食肉が、全肉片または挽肉/ミンチ肉の形態で存在することを特徴とする請求項4に記載の肉製品。
【請求項6】
貯蔵安定性のある肉製品を製造するための、請求項1〜3のいずれかに記載の塩/糖組成物の使用方法。
【請求項7】
温血動物由来の呈味化合物もしくは畜舎の匂い/食味に挙げられる、天然起源の食肉中の匂い化合物および/または呈味化合物を除去するための、請求項1〜3のいずれかに記載の塩/糖組成物の使用方法。
【請求項8】
発酵肉製品または乾燥若しくは保存処理した肉製品に挙げられるさらに加工した肉製品を製造するための、請求項4または5に記載の肉製品の使用方法。
【請求項9】
除去する滲出液を生成させ、且つ貯蔵安定性のある肉製品を作るために、請求項1〜3のいずれかに記載の塩/糖組成物を前記食肉の表面に置くことを特徴とする、
開放条件を通じた貯蔵安定性のある肉製品の製造方法
(ここで、該食肉を、網の上に置くことにより常圧条件下、20℃以下の温度で空気にさらす。)。
【請求項10】
出発材料として冷凍肉製品を用いることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記塩/糖処理の前または後に、前記食肉に乳酸菌のスターターカルチャーを添加することを特徴とする請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
少なくとも請求項1〜3のいずれかに記載の塩/糖組成物とともに、肉片を密封容器内に置き、
該容器を閉じて弱い減圧を加え、乳酸菌が確実に成長するに充分な期間0℃と20℃との間の温度で置く
ことを特徴とする、閉鎖条件の使用を通じた発酵肉製品の製造方法。
【請求項13】
前記食肉を4〜10℃、好ましくは4〜8℃に冷蔵することを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記塩/糖混合物中に存在する塩の量が、容器内の前記食肉を基準として算出したときに15% (w/w)を超えないことを特徴とする請求項12または13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記塩/糖混合物中に存在する塩の量が、容器内の前記食肉を基準として算出したときに2〜3% (w/w)であることを特徴とする請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
袋を閉じる前に前記食肉に乳酸菌スターターカルチャーを添加することを特徴とする請求項12〜15のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
前記乳酸菌スターターカルチャーが、以前の乳酸菌発酵物から集めた滲出液を含むことを特徴とする請求項16に記載の製造方法。

【公表番号】特表2009−524427(P2009−524427A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552259(P2008−552259)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【国際出願番号】PCT/NO2007/000021
【国際公開番号】WO2007/086752
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(508224568)
【Fターム(参考)】