説明

糖タンパク質を定量的プロテオ−ム分析する方法

【課題】糖タンパク質および糖タンパク質プロファイリングの高処理能力でかつ定量的な解析の方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、サンプル中のポリグリコペプチドを同定しかつ定量するための方法を提供する。本発明は、固体支持体に対してグリコポリペプチドを固定する工程と;この固定されたグリコポリペプチドを切断して、これによって非グリコシル化ペプチドを遊離して固定されたグリコペプチドを保持する工程と;この固体支持体からこのグリコペプチドを遊離する工程と;この遊離されたグリコペプチドを解析する工程とを包含する。この方法はさらに、例えば、質量分析法を用いて、1つ以上のグリコペプチドを同定する工程を包含してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、プロテオミクスの分野に、そしてさらに詳細には、糖タンパク質の定量的解析に関する。
【背景技術】
【0002】
完全なゲノム配列および大型の部分的な(EST)配列データベースは可能性としては、ある種のあらゆる遺伝子を同定する。しかし、配列だけでは生物学的プロセスおよび臨床的プロセスの機構を説明できない。なぜなら配列だけでは、遺伝子およびその産物がどのように協同して特定のプロセスまたは機能を行なうかを説明できないからである。さらに遺伝子配列では、タンパク質産物の量も活性も予想できず、そしてあるタンパク質が修飾をされ得るか否か、どうされるか、どこの位置(単数または複数)でされるかという疑問に答えることもできない。
【0003】
タンパク質の定量的なプロファイリングは、細胞または生物体の生理学的状態または病理学的状態をプロファイリングするための重要なアプローチとして認識されている。タンパク質の定量的なプロファイルの特異的な期待としては、診断的疾患マーカーおよび予後予測的疾患マーカーを検出する能力、治療標的としてのタンパク質を発見する能力、または基本的な生物学的機構について学習する能力が挙げられる。
【0004】
種々の病理学的状態において、発現されるタンパク質の量およびタイプが変動するだけでなく、タンパク質の翻訳後修飾もまた細胞または生物体の生理学的状態または病理学的状態に依存して変動する。従って、発現されるタンパク質の量およびタイプ、ならびにタンパク質の修飾をプロファイリングできることが重要である。
【0005】
グリコシル化は、タンパク質の機能、例えば、タンパク質の安定性、酵素活性およびタンパク質間相互作用に影響する、最も一般的な翻訳後修飾として長きにわたって認識されている。示差的なグリコシル化は、タンパク質の微小不均一性の主な原因である。糖タンパク質は細胞の連絡、シグナル伝達および細胞の接着において重要な役割を果たす。細胞表面および体液における炭水化物の変化は、ガンおよび他の疾患状態において実証され、その重要性を強調する。しかし、タンパク質グリコシル化の研究は、タンパク質グリカンの多様な構造、ならびにタンパク質およびグリカンの構造上のグリコシル化部位(単数または複数)を同定する有効なツールがないことによって困難になっている。オリゴ糖は、セリンもしくはトレオニン残基(O−グリコシル化)に、またはアルパラギン残基(N−グリコシル化)に連結されてもよく、そして糖タンパク質は、任意の示される可能性のある部位(単数または複数)に対して結合された異なるオリゴ糖を有してもよい。
【0006】
タンパク質の多くの翻訳後修飾のなかでも、グリコシル化は、細胞外環境に対して曝されているタンパク質に共通である修飾である。例えば、細胞の表面上で発現されたタンパク質は、血液または周囲の組織のような外部環境に曝されている。同様に、細胞から、例えば血流中に分泌されるタンパク質は、一般にグリコシル化される。
【0007】
細胞によって発現されるタンパク質の多様なタイプのなかでも、脂質膜に一体化しているかまたは会合しているタンパク質は、広範な本質的な細胞機能を行なう。細孔、チャネル、ポンプおよびトランスポーターは、細胞区画の間で、および細胞とその細胞外環境との間での膜不浸透性分子の交換を促進する。膜貫通レセプターは、細胞環境における、そして代表的には会合したタンパク質を介した変化を検知して特定の細胞内応答を開始する。細胞接着タンパク質は、他の細胞および細胞外基質との細胞特異的相互作用を媒介する。脂質膜はまた、細胞質および他の親水性の細胞区画の環境とは劇的に異なる、生化学的反応のための疎水性環境を提供する。
【0008】
膜タンパク質、詳細には、原形質膜を横切る膜タンパク質はまた、診断および治療上、重要であると考えられるが、この重要性はそれらの膜タンパク質が容易に接近可能であることに起因してさらに強化される。特定の細胞タイプの表面上で選択的に発現されるタンパク質に対する抗血清は、蛍光表示式細胞分取または関連の方法による、細胞の分類のために、そしてそれらの分取的単離のために広く用いられている。膜タンパク質は、乳癌のような特定の疾患の経過において量が変調されるHer2/neuによって実証されるとおり一般に、診断の指標として、そして頻度は少ないが、治療の標的として用いられる。Her2/neuレセプターを特異的に認識するヒト化モノクローナル抗体(Herceptin,Genentech,Palo Alto,CA)は、乳癌の首尾よい治療のための基礎であって、他の細胞表面タンパク質に対する抗体はまた、抗ガン剤のような臨床的トライアルが行なわれている。さらに、高血圧および心疾患のような疾患のための現在有効な治療剤のほとんどは、特定の膜タンパク質の活性を標的して選択的に改変するレセプターアンタゴニストである。従って、膜タンパク質を体系的に同定可能であり、種々の細胞集団または組織の膜タンパク質プロフィールにおける定量的変化を正確に検出可能である一般的技術が生物学にとって、および適用される生物医学的研究のためにかなり重要であるということが明白である。
【0009】
膜結合タンパク質に加えて、ホルモン、リンホカイン、インターフェロン、トランスフェリン、抗体、プロテアーゼ、プロテアーゼインヒビターおよび他の因子を含む、細胞によって分泌されるかまたは細胞表面から脱落するタンパク質は、生物体の生理学的活性に関して重要な機能を果たす。生理学的に重要な分泌されるタンパク質の例としては、インターフェロン、リンホカイン、タンパク質およびペプチドのホルモンが挙げられる。このようなタンパク質の異所での有効性については重要な臨床的影響があり得る。従って、分泌されたタンパク質を正確に定量的にプロファイルする能力は、健康および疾患における広範な種々の生理学的プロセスを調節する機構の発見のために、ならびに診断目的または予後予測目的のために極めて重要であることが明らかである。このような分泌タンパク質は体液、例えば、血清および血漿、脳脊髄液、尿、肺滲出液、母乳、膵液、および唾液に存在する。例えば、前立腺特異的抗原のレベルが増大していることは、前立腺癌の診断マーカーとして用いられている。さらに、アゴニストもしくはアンタゴニストの使用、または可溶性の分泌タンパク質の置換は、広範な疾患のための治療の重要な様式である。
【0010】
定量的なプロテオミクスには、複雑なタンパク質サンプルの解析が必要である。臨床的診断の場合、臨床的解析のために適切な試料を得る能力は、診断の容易さおよび正確さのために重要である。上記で考察されるように、多数の生理学的に重要な分子が分泌され、従って、血液および血清、脳脊髄液、唾液などのような体液中に存在する。重要な生物学的分子の存在に加えて、体液はまた魅力的な試料供給源となる。なぜなら体液は一般に容易に採取され、かつ臨床解析のために妥当な量で利用可能であるからである。従って、健常および疾患において体液に含まれるタンパク質の定量的解析のための一般的方法は、診断上および臨床上極めて重要であることが明らかである。
【0011】
血清および多くの他の体液のプロテオミクスの解析に伴う重要な問題は、これらの試料の特有のタンパク質組成である。タンパク質組成は、アルブミンのみで総血漿タンパク質の50%に相当する、特別に豊富な2〜3のタンパク質によって支配される。これらの主なタンパク質の豊富さ、ならびにこれらの豊富なタンパク質の複数の改変型の存在に起因して、さらに量の少ない多数のタンパク質種は、2次元電気泳動(2DE)のような伝統的なプロテオミクス解析方法によっては、不明瞭であるかまたは得ることが難しい。
【0012】
上記のタンパク質、膜タンパク質、分泌タンパク質および体液中のタンパク質のクラスは、共通して、グリコシル化されるための高い性向を有し、すなわち、1つまたは数個のアミノ酸残基で複雑性が変動する炭水化物構造で翻訳後に改変されている。従って、糖タンパク質の解析によって重要な生物学的分子の特徴付けが可能になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、糖タンパク質および糖タンパク質プロファイリングの高処理能力でかつ定量的な解析の方法の必要性が存在する。本発明は、この要件を満たして、同様に関連の利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、サンプル中のポリグリコペプチドを同定して定量するための方法を提供する。この方法は、固体支持体に対してグリコポリペプチドを固定する工程と;この固定されたグリコポリペプチドを切断し、これによって非グリコシル化ペプチドを遊離して、固定されたグリコペプチドを保持する工程と;この固体支持体からこのグリコペプチドを遊離する工程と;この遊離されたグリコペプチドを解析する工程とを包含し得る。この方法はさらに、例えば、質量分析法を用いて、1つ以上のグリコペプチドを同定する工程を包含してもよい。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
(a)ポリペプチドサンプル中のグリコポリペプチドを誘導体化する工程と;
(b)固体支持体に対して該誘導体化されたグリコポリペプチドを固定する工程と;
(c)該固定されたグリコポリペプチドを切断し、これによって非グリコシル化ペプチドフラグメントを遊離して、固定されたグリコペプチドフラグメントを保持する工程と;
(d)同位体タグを用いて該固定されたグリコペプチドを標識する工程と;
(e)該固体支持体から該グリコペプチドフラグメントを遊離して、これによって遊離したグリコペプチドフラグメントを生成する工程と;
(f)質量分析法を用いて該遊離されたグリコペプチドフラグメントを解析する工程と;(g)遊離したグリコペプチドフラグメントを同定する工程と;
(h)工程(g)において同定された該グリコペプチドの量を定量する工程と;を包含する、サンプル中のグリコポリペプチドを同定および定量するための方法。
(項目2)
前記固体支持体がヒドラジド部分を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記グリコペプチドがグリコシダーゼを用いて前記固体支持体から遊離される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記グリコシダーゼがN−グリコシダーゼまたはO−グリコシダーゼである、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記グリコペプチダーゼがN−グリコシダーゼおよびO−グリコシダーゼの連続的な添加を用いて前記固体から遊離される、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記グリコペプチドが化学的切断を用いて前記固体支持体から遊離される、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記グリコペプチドが過ヨウ素酸塩を用いて酸化されている、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記グリコペプチドがトリプシンで切断される、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記遊離された非グリコシル化ペプチドが同位体標識されて、質量分析法によって解析される、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記サンプルが体液、分泌型タンパク質および細胞表面タンパク質から選択される、項目1に記載の方法。
(項目11)
(a)固体支持体に対してグリコポリペプチドを固定する工程と;
(b)該固定されたグリコポリペプチドを切断し、これによって非グリコシル化ペプチドを遊離して、固定されたグリコペプチドを保持する工程と;
(c)同位体タグを用いて該固定されたグリコペプチドを標識する工程と;
(d)該固体支持体から該グリコペプチドを遊離する工程と;
(e)該遊離されたグリコペプチドを解析する工程と;
を包含する、サンプル中のグリコポリペプチドを同定および定量するための方法。
(項目12)
前記グリコポリペプチドが酸化されている、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記固体支持体がヒドラジド部分を含む、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記グリコペプチドが過ヨウ素酸塩を用いて酸化される、項目12に記載の方法。
(項目15)
前記グリコペプチドがグリコシダーゼを用いて前記固体支持体から遊離される、項目11に記載の方法。
(項目16)
前記グリコシダーゼがN−グリコシダーゼまたはO−グリコシダーゼである、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記グリコペプチドがN−グリコシダーゼおよびO−グリコシダーゼの連続的な添加を用いて前記固体から遊離される、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記グリコペプチドが化学的切断を用いて前記固体支持体から遊離される、項目11に記載の方法。
(項目19)
前記グリコペプチドがトリプシンで切断される、項目11に記載の方法。
(項目20)
前記遊離された非グリコシル化ペプチドが質量分析法によって解析される、項目11に記載の方法。
(項目21)
(a)固体支持体に対してグリコポリペプチドを固定する工程と;
(b)該固定されたグリコポリペプチドを切断し、これによって非グリコシル化ペプチドを遊離して、固定されたグリコペプチドを保持する工程と;
(c)該固体支持体から該グリコペプチドを遊離する工程と;
(d)該遊離されたグリコペプチドを解析する工程と;
を包含する、サンプル中のグリコポリペプチドを同定および定量するための方法。
(項目22)
前記グリコポリペプチドが酸化されている、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記固体支持体がヒドラジド部分を含む、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記グリコペプチドが過ヨウ素酸塩を用いて酸化される、項目22に記載の方法。
(項目25)
前記グリコペプチドがグリコシダーゼを用いて前記固体支持体から遊離される、項目21に記載の方法。
(項目26)
前記グリコシダーゼがN−グリコシダーゼまたはO−グリコシダーゼである、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記グリコペプチドがN−グリコシダーゼおよびO−グリコシダーゼの連続的な添加を用いて前記固体から遊離される、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記グリコペプチドが化学的切断を用いて前記固体支持体から遊離される、項目21に記載の方法。
(項目29)
前記グリコポリペプチドがトリプシンで切断される、項目21に記載の方法。
(項目30)
前記遊離された非グリコシル化ペプチドが質量分析法によって解析される、項目21に記載の方法。
(項目31)
(a)第一の固体支持体に対して試験サンプル由来のグリコポリペプチドを固定する工程と;
(b)第二の固体支持体に対してコントロールサンプル由来のグリコポリペプチドを固定する工程と;
(c)該固定されたグリコポリペプチドを切断し、これによって非グリコシル化ペプチドを遊離して、固定されたグリコペプチドを保持する工程と;
(d)該各々の支持体上で異なる同位体タグを用いて、該第一の支持体および第二の支持体上の該固定されたグリコペプチドを標識する工程と;
(e)該固体支持体から該グリコペプチドを遊離する工程と;
(f)該遊離したグリコペプチドを解析する工程と;
(g)試験サンプルとコントロールサンプルとの間で異なるグリコシル化を有する1つ以上のグリコシル化ポリペプチドを同定する工程と;
を包含する、疾患についての診断マーカーを同定する方法。
(項目32)
前記グリコポリペプチドが酸化される、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記固体支持体がヒドラジド部分を含む、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記グリコペプチドが過ヨウ素酸塩を用いて酸化される、項目32に記載の方法。
(項目35)
前記グリコペプチドがグリコシダーゼを用いて前記固体支持体から遊離される、項目31に記載の方法。
(項目36)
前記グリコシダーゼがN−グリコシダーゼまたはO−グリコシダーゼである、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記グリコペプチドがN−グリコシダーゼおよびO−グリコシダーゼの連続的な添加を用いて前記固体から遊離される、項目36に記載の方法。
(項目38)
前記グリコペプチドが化学的切断を用いて前記固体支持体から遊離される、項目31に記載の方法。
(項目39)
前記グリコペプチドがトリプシンで切断される、項目31に記載の方法。
(項目40)
前記遊離された非グリコシル化ペプチドが質量分析法によって解析される、項目31に記載の方法。
(項目41)
前記疾患がガンである、項目31に記載の方法。
(項目42)
ヒドラジド樹脂、過ヨウ素酸塩、および1対の示差的に標識された同位体タグを備えるキット。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、グリコポリペプチド/糖タンパク質を同定かつ定量するため、およびタンパク質のグリコシル化状態における定量的変化を決定するための例示的な方法の模式図を示す。
【図2】図2は、炭水化物のアルデヒドへの酸化、その後のヒドラジドビーズへの共有結合を示す。
【図3−1】図3−1は、グリコペプチドのアミノ基を標識可能であることが試験されかつ証明された代表的な化学試薬を示す。標識されたペプチドの構造を右の列に列挙する。
【図3−2】図3−2は、グリコペプチドのアミノ基を標識可能であることが試験されかつ証明された代表的な化学試薬を示す。標識されたペプチドの構造を右の列に列挙する。
【図4】図4は、ヒドラジド樹脂への糖タンパク質の固定前(−)および固定後(+)の粗血清の総タンパク質染色または糖タンパク質染色を示す。タンパク質をSDS−PAGEによって分離して、銀(左側)またはGel Code Blue糖タンパク質染色試薬(右側)を用いて染色した。
【図5】図5は、以下の3つの方法を用いて観察された血清タンパク質のグリコペプチド解析の結果の概要および比較を示す:広範な分離によるシステイン捕獲、グリコペプチド捕獲およびシングル液体クロマトグラフィー−質量分析法/質量分析法(LC−MS/MS)、ならびにシステイン捕獲およびシングルLC−MS/MS。
【図6】図6は、マクロファージから分泌されたグリコシル化タンパク質の同定を示す。未処理のRAWマクロファージ細胞またはLPS処理したRAWマクロファージ細胞の分泌タンパク質から糖タンパク質を同定した。
【図7】図7は、ICAT(商標)試薬またはN−グリコシル化ペプチドの選択的単離を用いた前立腺癌細胞株LNCaPのミクロソーム画分からのタンパク質/ペプチドの同定の比較を示す。
【図8】図8は、LNCaP前立腺上皮細胞の粗ミクロソーム画分から同定された糖タンパク質の細胞下位置を示す。
【図9】図9は、固定されたグリコペプチドのN末端を、示差的に同位体標識された形態のアミノ酸フェニルアラニン(Phe)をそのN末端へ結合することによって同位体で標識する、化学および模式図を示す。
【図10】図10は、Pheを用いた同位体による標識およびMS/MSを用いたグリコペプチド(配列番号1〜10)の同定を示す。1μlのマウス腹水からグリコペプチドを単離した。
【図11】図11は、図10(円で囲んだ)で同定されたペプチドのうちの1つ(配列番号7)の衝突誘起解離(CID)スペクトルを示す。
【図12】図12は、図11で測定されたペプチドの再構成イオンクロマトグラムを示す。同位体タグ化ペプチドの重鎖型および軽鎖型について算出されたピーク面積の比を用いて、もとの混合物における相対的なペプチドの豊富さを決定した。
【図13】図13は、単一のペプチド対についての定量を示す。MSモードにおけるMALDIプレートからの28個のスポットでの質量分析法のシングルスキャンによって、4単位の質量の相違を有する8対のシグナルを同定した(で示した)。
【図14】図14は、MS/MSによる前駆体イオンの解析を示す。得られたスペクトルの配列データベース検索によって、血清プロテアーゼであるヒト血漿カリクレインからのペプチド配列をIYSGILN#LSDITKとして同定した。N#は、ペプチド配列における修飾されたアスパラギンを示す。
【図15】図15は、整列させた配列のパターンを示す。整列された配列における各々の位置について、各々の文字の高さは、その頻度に比例しており、最も一般的なものが一番上である。位置21(他の位置の詳細を示すために取り出した)ではNが、優先度が高かった。Nの優先度の次は位置23(他の位置における残基を示すために取り出した)におけるSまたはTであった。
【図16】図16は、正常な組織および前立腺癌組織の細胞外基質から同定されたタンパク質を示す。
【図17】図17は、一次元LC−MS/MS実施において存在する総ペプチド、およびLC−MS/MS実施の間に得られたCID、その後のSEQUESTを用いた検索によって同定されたペプチドを示す。
【図18】図18は、血清に存在するグリコペプチドをプロファイリングしてバイオマーカーを同定するために用いたストラテジーの模式図を示す。
【図19】図19は、LC−MS/MS実施の溶出の間のペプチドのシグナル強度を示す。N1およびN2は正常なマウス血清由来であって、T1およびT2は皮膚癌を有するマウス血清由来のグリコペプチドであった。
【図20】図20は、正常なマウスおよび皮膚癌を有するマウスの血清からの種々の溶出時間の間の逆重畳ペプチドの強度を示す。左側のパネルは、正常なマウスのペプチドを示す。右側のパネルはガンのマウスにおけるペプチドを示す。
【図21】図21は、ガンのマウスと正常マウスとの間の正規化されたペプチドの量を示す。正常なマウスに対するガンのマウスの相対的なペプチド強度。
【図22】図22は、正常なマウスおよびガンを有するマウスのクラスタリング解析を示す。自動的な、マウス血清の全体的特徴クラスタリングによって健常状態からガンが識別される。全てのガンマウスが一緒にクラスタ分割した(上部パネルの実験1では11A、12A、13Aとして;下部パネルの実験2ではM11、M12、M13として示される)。
【図23】図23は、一晩の絶食の前後の個体からのサンプルのクラスタリング解析を示す。一晩の絶食の前後の3つの個体からの血清の自動的なクラスタリングによって個体は一貫して分けられる(実験1、上部パネル;実験2、下部パネル)。同じ人に由来する血清サンプルは一緒にクラスタ分割される。
【図24】図24は、先天性グリコシル化異常症(CDG)患者由来の血清のグリコシル化占有率研究の模式図を示す。
【図25】図25は、肥満マウスおよび正常マウス由来の血清を用いるグリコシル化の総レベルに対する研究の模式図を示す。
【図26】図26は、質量分析法によって同定された重同位体で標識された合成の標準ペプチドの配列(配列番号11〜19)を示す。Vは重バリンであって、F#は重フェニルアラニンである。
【図27】図27は、N連結グリコペプチドが遊離された後、ヒドラジド樹脂からO連結グリコペプチドを遊離するための一連の酵素切断から同定されたペプチド(配列番号20〜29)を示す。
【図28】図28は、同定されたN連結グリコペプチド(配列番号30〜48)を示しており、ここではコンセンサスNXT/Sモチーフが強調されている。
【図29】図29は、O連結オリゴ糖で同定されたペプチド(配列番号49〜63)を示す。これらはエレクトロスプレー源におけるO連結オリゴ糖鎖の除去によって生成された。炭水化物結合の部位は、O連結オリゴ糖が連結されたSerまたはThrでの水の欠失によって特徴付けられる。18ダルトンの水を失っているセリンまたはトレオニン残基は円で囲んでいる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
本発明は、プロテオーム規模のスケールでの糖タンパク質およびグリコペプチドの定量的プロファイリングのための方法を提供する。本発明の方法によって複雑なサンプルにおける糖タンパク質の同定および定量、ならびにグリコシル化の部位の決定が可能になる。本発明の方法を用いて、健常および疾患において生物学的システムおよび生物体の動揺に応答して生じる、糖タンパク質の量の変化およびそれらの糖タンパク質上の個々のグリコシル化部位でのグリコシル化の状態の変化を決定することが可能になる。
本発明の方法を用いて、グリコシル化されたタンパク質またはペプチドを精製すること、ならびにこのグリコシル化部位を同定および定量することができる。本発明の方法は、グリコポリペプチドを単離することに関するので、この方法はまた解析の複雑さを低下させる。なぜなら多くのタンパク質および糖タンパク質のフラグメントは、炭水化物を含まないからである。これによって、血清のような複雑な生物学的サンプルの解析を簡単にできる(以下を参照のこと)。本発明の方法は、グリコーム研究におけるタンパク質グリコシル化の決定のために有利であり、これを用いて、細胞膜または体液から糖タンパク質を単離および同定して、特定の疾患状態またはガンに関連する特定の糖タンパク質変化を決定することができる。本発明の方法は、糖タンパク質を含むタンパク質サンプルにおける定量的変化を決定するために、そしてそれらのグリコシル化の程度を検出するために用いることができる。本発明の方法は、診断のバイオマーカー、免疫療法、あるいは他の診断または治療適用の同定および/または特徴づけのために適用可能である。本発明の方法はまた、薬物開発、至適用量決定、毒性学、薬物標的および関連の治療適用の間に薬物の有効性を評価するために用いることができる。
【0017】
1つの実施形態では、糖タンパク質における炭水化物のシス−ジオール基を、過ヨウ素酸塩酸化によって酸化して、共有的なヒドラゾン結合を形成するためにアガロース支持体を有するヒドラジドゲルに対して反応性であるジアルデヒドを得ることが可能である。この固定された糖タンパク質は、プロテアーゼ消化、続いて非グリコシル化ペプチドを除去するための広範な洗浄に供される。固定されたグリコペプチドは、化合物またはグリコシダーゼによってビーズから遊離される。この単離されたペプチドは、質量分析法(MS)によって解析されて、そのグリコペプチド配列および対応するタンパク質がデータベース検索と組み合わされたMS/MSによって同定される。このグリコペプチドはまた、比較されるべき種々の生物学的サンプルからの糖ペプチドの定量を可能にするために、同位体的に、例えば、アミノ末端またはカルボキシル末端で標識されてもよい。
【0018】
本発明の方法は、複雑なサンプルから、グリコシル化ペプチド、またはもとのタンパク質サンプルにおいてグリコシル化されたペプチドを選択的に単離する工程に基づく。このサンプルは、例えば、酵素消化または化学的切断によって生成されたタンパク質のペプチドフラグメントから構成される。このペプチドフラグメントの質量分析的な解析および正確な定量を容易にするために、安定な同位体タグがこの単離されたペプチドフラグメントに導入される。
【0019】
本発明は、サンプル中のグリコポリペプチドを同定および定量するための方法を提供する。この方法は、例えば、酸化による、ポリペプチドサンプル中のグリコポリペプチドの誘導体化の工程と;この誘導体化されたグリコポリペプチドを固体支持体に結合させる工程と;この固定されたグリコポリペプチドを切断し、これによって非グリコシル化ペプチドフラグメントを遊離して、固定されたグリコペプチドフラグメントを保持する工程と;必要に応じて同位体タグを用いてこの固定されたグリコペプチドフラグメントを標識する工程と;この固体支持体からこのグリコペプチドフラグメントを遊離して、これによって遊離したグリコペプチドフラグメントを生成する工程と;質量分析法を用いて、この遊離されたグリコペプチドフラグメントまたはそれらの脱グリコシル化対応物を解析する工程と;この同定されたグリコペプチドフラグメントの量を定量する工程とを包含してもよい。この遊離されたグリコポリペプチドは、結合したままの炭水化物(グリコシル化型)で遊離されても、または外された炭水化物(脱グリコシル化型)で遊離されてもよい。
【0020】
本発明の1実施形態は、図1に示される。グリコポリペプチドを含むサンプルは、サンプル中のグリコポリペプチドの炭水化物が固体支持体に選択的に結合できるように、化学的に修飾される。例えば、グリコポリペプチドは、この炭水化物が固体支持体の反応性基に共有結合できるように、炭水化物を化学的に修飾することよって固体支持体に共有結合されてもよい。図1に示される実施形態において、サンプルのグリコポリペプチドの炭水化物は酸化される。炭水化物は、例えば、アルデヒドに酸化され得る。グリコポリペプチドの酸化された部分、例えばアルデヒド部分は、ヒドラジドまたはアミン部分を含む固体支持体と反応し得、これによってヒドラジン化学による固体支持体に対するグリコシル化ポリペプチドの共有結合が可能になる。サンプルグリコポリペプチドは、化学的に修飾された炭水化物、例えばアルデヒドを通じて固定され、これによって固体支持体の洗浄による非グリコシル化サンプルタンパク質の除去が可能になる。所望の場合、この固定されたグリコポリペプチドは、変性されても、および/または還元されてもよい。この固定されたグリコポリペプチドは、プロテアーゼまたは化学的切断のいずれかを用いてフラグメントに切断される。切断によって、炭水化物を含まず、従って固定されていないペプチドフラグメントの遊離が生じる。これらの遊離された非グリコシル化ペプチドフラグメントは、所望の場合、必要に応じてさらに特徴付けられ得る。
【0021】
切断後、グリコシル化されたペプチドフラグメント(グリコペプチドフラグメント)は、固体支持体に対して結合したままである。定量的な質量分析(MS)解析を容易にするため、固定されたグリコペプチドフラグメントを同位体的に標識してもよい。固定されたグリコペプチドフラグメントのほとんどまたは全てを特徴付けることが所望される場合、このグリコペプチドフラグメントのN末端またはC末端が標識され得るように、同位体タグ化試薬は、アミノまたはカルボキシル反応性基を含む(図1、3および9を参照のこと)。この固定されたグリコペプチドフラグメントは化学的にまたは酵素的に、例えば、N−グリカナーゼ(N−グリコシダーゼ)またはO−グリカナーゼ(O−グリコシダーゼ)のようなグリコシダーゼを用いて、固体支持体から切断され得る。この遊離されたグリコペプチドフラグメントまたはそれらの脱グリコシル化型は、例えばMSを用いて解析され得る。
【0022】
本明細書において用いる場合、「ポリペプチド(polypeptide)」という用語は、2つ以上のアミノ酸のペプチドまたはポリペプチドをいう。ポリペプチドはまた、天然に存在する修飾、例えば、リン酸化反応、脂肪アシル化、プレニル化、硫酸化、水酸化、アセチル化、炭水化物の付加、補欠分子族または補因子の付加、ジスルフィド結合の形成、タンパク質分解、高分子複合体への組み立て、などを含む翻訳後修飾によって修飾されてもよい。「ペプチドフラグメント(peptide fragment)」は、一般にさらに大きいポリペプチドに由来する2つ以上のアミノ酸のペプチドである。
【0023】
本明細書において用いる場合、「グリコポリペプチド(glycopolypeptide)」または「糖タンパク質(glycoprotein)」とは、共有結合した炭水化物基を含むポリペプチドをいう。この炭水化物は、単糖であっても、オリゴ糖であっても多糖であってもよい。プロテオグリカンは「グリコポリペプチド(glycopolypeptide)」という意味に包含される。グリコポリペプチドはさらに、他の翻訳後修飾を含んでもよい。「グリコペプチド(glycopeptide)」とは、共有結合した炭水化物基を含むペプチドをいう。「グリコペプチドフラグメント(glycopeptide fragment)」とは、それより大きいポリペプチドの酵素的切断または化学的切断から生じるペプチドフラグメントであって、共有結合した炭水化物を保持するペプチドフラグメントをいう。グリコペプチドフラグメントまたはペプチドフラグメントとは、得られたペプチドが切断反応の前後のいずれに存在するかにかかわらず、特定の切断反応から生じるペプチドをいうことが理解される。従って、切断部位を含まないペプチドは、切断反応後に存在して、その特定の切断反応から生じるペプチドフラグメントであるともみされる。例えば、結合したグリコペプチドが切断される場合、結合した炭水化物を保持するこの得られた切断産物は、グリコペプチドフラグメントであるとみなされる。このグリコシル化フラグメントは、固体支持体に結合されたままであってもよく、そしてこのような結合したグリコペプチドフラグメントは、切断部位がないことに起因して切断されなかったフラグメントを含むとみなされる。
【0024】
本明細書において開示されるように、グリコポリペプチドまたはグリコペプチドは、その炭水化物が親のグリコポリペプチドから取り除かれるように処理され得る。このようなもともとグリコシル化されたポリペプチドは本明細書において、炭水化物が酵素的におよび/または化学的に取り除かれる場合であっても、依然としてグリコポリペプチドまたはグリコペプチドと呼ばれることが理解される。従って、グリコポリペプチドまたはグリコペプチドとは、ポリペプチドのグリコシル型または脱グリコシル型をいってもよい。炭水化物が取り除かれているグリコポリペプチドまたはグリコペプチドは、ポリペプチドの脱グリコシル型と呼ばれるが、一方で、その炭水化物を保持するグリコポリペプチドまたはグリコペプチドは、ポリペプチドのグリコシル型と呼ばれる。
【0025】
本明細書において用いる場合、「サンプル(sample)」という用語は、1つ以上の異なる分子、例えば、核酸、ポリペプチドまたは低分子を含む、任意の生物学的液体、細胞、組織、器官またはそれらの一部を意味することが意図される。サンプルは、生検によって得られる組織切片であっても、組織培養に入れられるかまたはそれに適合された細胞であってもよい。サンプルはまた、生物学的な液体試料、例えば、血液、血清または血漿、脳脊髄液、尿素、唾液、精漿、膵液、母乳、肺洗浄液などであってもよい。サンプルはさらには、原核生物細胞および真核生物細胞を含む任意の種由来の細胞抽出物、ならびにウイルスであってもよい。組織または生物学的な液体試料はさらに、必要に応じて、特定の細胞タイプを含む画分に分画されてもよい。
【0026】
本明細書において用いる場合、「ポリペプチドサンプル(polypeptide sample)」とは、2つ以上の異なるポリペプチドを含むサンプルをいう。ポリペプチドサンプルは、数十、数百、さらには数千以上の異なるポリペプチドを含んでもよい。ポリペプチドサンプルはまた、そのサンプルがポリペプチドを含む限り、タンパク質でない分子を含んでもよい。ポリペプチドサンプルは、細胞全体であっても、もしくは組織抽出物であってもよく、または生物学的液体であってもよい。さらにポリペプチドサンプルは、本明細書に開示されるような周知の方法を用いて、部分的または実質的に精製されたタンパク質画分に分画されてもよい。
【0027】
生物学的液体、例えば体液のサンプル供給源としての使用は、本発明の方法において特に有用である。生物学的液体試料は一般に、臨床解析のために容易に採取可能であって、比較的大量に利用可能である。生物学的液体を用いて、種々の疾患についての診断および予後予測のマーカーを解析することができる。容易に採取可能であることに加えて、体液試料は、疾患に罹患され得る特定の器官または器官の特定の部位についてなんら予備知識を必要としない。体液、詳細には血液は、多くの体器官と接触しているので、体液は、病理学的状態に関連する分泌または細胞溶解液に起因する病状を示す分子兆候を「拾い上げる(pick up)」。体液はまた、本明細書に開示されるような、薬物投与量、薬物標的および/または毒性効果を評価するために適切な分子兆候を拾い上げる。
【0028】
種々のプロテオームにおける相対的なタンパク質変化の比較として規定される定量的プロテオミクスは、機能的ゲノミクスの新興の科学の重要な要素として認識されている。この技術は、診断または予後予測の疾患マーカーの検出および同定、治療標的としてのタンパク質の発見を容易にすること、および生物学的プロセスへ新しい機能的な洞察を提供することが期待される。複雑なタンパク質混合物の定量的プロファイルを行なうために2つの方法が優先的に用いられている。第一のそして最も通常用いられる方法は、2次元ゲル電気泳動(2DE)および質量分析(MS)の組み合わせである。第二の方法は、タンパク質の安定な同位体タグ化および自動化ペプチドタンデム型質量分析法に基づくさらに最近に開発された技術である(Odaら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:6591〜6596(1999);Veenstraら、J.Am.Soc.Mass.Spectrom.11:78〜82(2000);Gygiら、Nat.Biotechnol.17:994〜999(1999))。現在、いずれの種についても完全なプロテオームを決定することに成功している方法はない。これは主に、最も豊富なタンパク質が優先的にまたは排他的に解析される、いずれかの方法における操作の「トップダウン(top down)」様式に起因する。
【0029】
全体的なプロテオーム解析の複雑性を考慮して、選択的に単離されるプロテオームの特定のサブセットを包括的に解析することによってこの「トップダウン(top down)」の問題に対処するために、いくつかの研究は「分断攻略(divide and conquer)」のストラテジーを採用している。このような研究は、機能的な複数のタンパク質の複合体、例えば、リボソーム(Linkら、Nat.Biotechnol.17:676〜682(1999))、スプライセオソーム(Rappsilberら、Genome Res.12:1231〜1245(2002);Zhouら、Nature 419:182〜185(2002))および核膜孔複合体(Routら、J.Cell Biol.148:635〜651(2000))、または細胞小器官、例えば、ミトコンドリア(Fountoulakisら、Electrophoresis 23:311〜328(2002))、ペルオキシソーム(Yiら、Electrophoresis 23:3205〜3216(2002))、ミクロソーム(Hanら、Nat.Biotechnol.19:946〜951(2001))および核(Bergquistら、J.Neurosci.Methods 109:3〜11(2001))の解析を含む。あるいは、共通の識別構造特徴、例えば、リン酸エステル基((Ficarroら、Nat.Biotechnol.20:301〜305(2002);Odaら、Nat.Biotechnol.19:379〜382(2001);Zhouら、Nat.Biotechnol.19:375〜378(2001))、システイン残基(Gygiら、前出(1999);Spahrら、Electrophoresis 21:1635〜1650(2000)を含むか、または特定の化合物に特異的に結合する能力を有する(Haysteadら、Eur.J.Biochem.214:459〜467(1993);Adamら、Nat.Biotechnol.20:805〜809(2002))タンパク質が、MS解析の前に選択的に富化されている。これらのストラテジーは、それらが豊富な生物学的状況のサブプロテオームの綿密な解析に集中しており、従って豊富に発現されるタンパク質の繰り返しの解析を最小限にするという点で共通である。
【0030】
本発明の方法は、MS解析を容易にするために化学的修飾と組み合わされたグリコポリペプチドの選択的単離を利用する。タンパク質は、複雑な酵素的機構によって、代表的にはセリンまたはトレオニン残基の側鎖で(O連結)、またはアスパラギン残基の側鎖で(N連結)グリコシル化される。N連結グリコシル化部位は一般にN−X−S/Tと記載できる配列モチーフにおさまるが、ここでXは、プロリン以外の任意のアミノ酸であってもよい。グリコシル化は、多くの生物学的プロセスにおいて重要な機能を果たす(HeleniusおよびAebi,Science 291:2364〜2369(2001);Ruddら、Science 291:2370〜2375(2001)に概説されている)。
【0031】
タンパク質のグリコシル化は、極めて一般的な翻訳後修飾として長らく認識されている。上記で考察されるとおり、炭水化物は、セリン残基またはトレオニン残基に(O連結グリコシル化)またはアスパラギン残基に(N−連結グリコシル化)連結される(Varkiら,Essentials of Glycobiology Cold Spring Harbor Laboratory(1999))。タンパク質のグリコシル化、そして詳細にはN連結グリコシル化は、細胞外環境について運命付けられたタンパク質に広まっている(Roth,Chem.Rev.102:285〜303(2002))。これらとしては、原形質膜の細胞外側のタンパク質、分泌タンパク質、および体液、例えば、血流、脳脊髄液、尿、母乳、唾液、肺洗浄液、膵液などに含まれるタンパク質が挙げられる。これらは偶然にも、診断および治療目的のために最も容易に採取可能なヒトの身体のタンパク質でもある。
【0032】
細胞の細胞外表面に曝された体液が容易に採取可能であること、およびこれらの体液に分泌型タンパク質が存在することに起因して、多くの臨床的バイオマーカーおよび治療標的は、糖タンパク質である。これらとしては、乳癌のHer2/neu、生殖細胞腫瘍のヒト慢性ゴナドトロピンおよびαフェトプロテイン、前立腺癌の前立腺特異的抗原、ならびに卵巣癌のCA125が挙げられる。Her2/neuレセプターはまた、ヒト化モノクローナル抗体であるHerceptinを用いる乳癌の首尾よい免疫療法のための標的である(Shepardら、J.Clin.Immunol.11:117〜127(1991))。さらに、細胞表面および体液におけるタンパク質のグリコシル化の程度および炭水化物構造の変化の程度は、ガンおよび他の疾患状態と相関することが示されており、これによって、病状の機構の指標またはエフェクターとして、この修飾の臨床的重要性が強調される(DurandおよびSeta,Clin.Chem.46:795〜805(2000);Freeze,Glycobiology 11:129R〜143R(2001);Spiro,Glycobiology 12:43R〜56R(2002))。従って、糖タンパク質の体系的かつ定量的な解析のための方法は、新規な潜在的診断マーカーおよび治療標的の検出のために重要である。
【0033】
本明細書には、定量的な糖タンパク質プロファイリングのための方法が開示される。1つの実施形態では、この方法は、ヒドラジド化学を用いた固体支持体への糖タンパク質の結合、グリコペプチドの安定な同位体標識化、およびペプチド−N−グリコシダーゼF(PNGase F)を介した、以前にN連結されたグリコシル化ペプチドの特異的な遊離に基づく。次いで、この回収されたペプチドをタンデム型質量分析(MS/MS)によって同定して定量する。この方法は、本明細書に記載のとおり、細胞表面および血清タンパク質の解析に適用された。
【0034】
グリコポリペプチドを選択的に単離するため、この方法は、炭水化物部分に特異的な化学および/または結合の相互作用を利用する。グリコポリペプチドの選択的結合とは、実施例IIに示されるような、非グリコシル化ペプチドを上回るグリコポリペプチドの優先的な結合をいう。本発明の方法は、グリコポリペプチドの共有結合を利用し得るが、この方法は、ストリンジェントな洗浄を行なって非特異的に結合した非グリコシル化ポリペプチドを除去させることによって、グリコポリペプチドの選択的単離を増大するために特に有用である。
【0035】
グリコポリペプチドの炭水化物部分は化学的にまたは酵素的に修飾されて、対応する反応性基を有する支持体に選択的に結合され得る反応性基が生じる。図2に示される実施形態では、グリコポリペプチドの炭水化物はアルデヒドに酸化される。酸化は、例えば、過ヨウ素酸ナトリウムを用いて行なうことができる。炭水化物のヒドロキシル基はまた、エポキシドまたはオキシラン、アルキルハロゲン、カルボニルジイミダゾール、N,N,’−ジスクシンイミジルカルボネート、N−ヒドロキシクシニミジルクロロホルメートなどによって誘導体化されてもよい。炭水化物のヒドロキシル基をまた、酵素によって酸化して、アルデヒド基のような反応性基を作製してもよい。例えば、ガラクトースオキシダーゼは、末端のガラクトースまたはN−アセチル−D−ガラクトース残基を酸化してC−6アルデヒド基を形成する。これらの誘導体化された基は、アミノ含有部分またはヒドラジド含有部分に結合されてもよい。
【0036】
過ヨウ素酸ナトリウムを用いるヒドロキシル基のアルデヒドへの酸化は、グリコペプチドの炭水化物に特異的である。過ヨウ素酸ナトリウムは、アミンまたはヒドラジド含有分子とのカップリングのためのアルデヒドを形成する、隣接する炭素原子上のヒドロキシル基を酸化し得る。過ヨウ素酸ナトリウムはまた、隣接する炭素原子上に一級アミンおよび二級ヒドロキシル基を含む化合物であるヒドロキシルアミン誘導体と反応する。この反応を用いて、ペプチドのN末端セリン残基上に反応性アルデヒドを作成する。セリン残基はタンパク質のN末端ではまれである。従って、過ヨウ素酸ナトリウムを用いるアルデヒドへの酸化は、グリコポリペプチドの炭水化物基に特異的である。
【0037】
一旦グリコポリペプチドの炭水化物が、例えばアルデヒドへの酸化によって修飾されれば、この修飾された炭水化物は、ヒドラジドまたはアミノ部分を含む固体支持体、例えば、図2に示されるヒドラジド樹脂に結合し得る。酸化化学およびヒドラジドへのカップリングで図示されるが、グリコポリペプチドの炭水化物部分の特定の結合を可能にする任意の適切な化学修飾および/または結合相互作用が本発明の方法において用いられ得ることが理解される。固体支持体とのグリコポリペプチドの結合相互作用は、一般に共有結合であるが、グリコポリペプチドまたはグリコペプチドのフラグメントが消化、洗浄およびこの方法の他の工程の間に結合を保持する限り、非共有的な相互作用が用いられてもよい。
【0038】
本発明の方法はまた、炭水化物のサブグループを選択して特徴付けるために用いられ得る。例えば、グリコシダーゼを用いる化学的修飾または酵素的修飾が、炭水化物のサブグループを単離するために用いられ得る。例えば、過ヨウ素酸ナトリウムの濃度は、糖タンパク質のシアル酸基上で酸化が生じるように調節され得る。詳細には、0℃で約1mMの過ヨウ素酸ナトリウムの濃度を用いて、シアリル酸基を本質的に排他的に修飾することができる。
【0039】
特定の単糖を含むグリコポリペプチドは、上記のガラクトースオキシダーゼまたは他の糖オキシダーゼのような、アルデヒド基を生成するために選択的糖オキシダーゼを用いて標的化されてもよい。さらに、炭水化物のサブ基を含むグリコポリペプチドは、グリコポリペプチドが固体支持体に結合した後に選択され得る。例えば、固体支持体に結合したグリコペプチドは、特定の単糖構造についての特異性を有する異なるグリコシダーゼを用いて選択的に遊離され得る。
【0040】
グリコポリペプチドは、固体支持体への結合によって単離される。固体支持体は例えば、ビーズであっても、樹脂であっても、膜であっても、もしくはディスクであっても、または本発明の方法に適切な任意の固体支持体物質であってもよい。グリコポリペプチドに結合する固体支持体を用いることの利点は、これによって広範な洗浄で非グリコシル化ポリペプチドを除去することが可能になるということである。従って、多数のポリペプチドを含む複雑なサンプルの場合、グリコポリペプチドを単離することおよび非グリコシル化ポリペプチドを除去すること、これによって解析されるべきポリペプチドの数を減らすことによって解析は簡便にできる。
【0041】
グリコポリペプチドはまた、ビオチンヒドラジドのようなアミン基を通じてアフィニティータグに結合されてもよい。次いでこのアフィニティータグ化グリコペプチドは、固体支持体、例えば、アビジンまたはストレプトアビジンの固体支持体に結合され得、そして非グリコシル化ペプチドが除去される。固体支持体に結合したグリコペプチドは、プロテアーゼによって切断され得、そして非グリコシル化ペプチドフラグメントが洗浄によって除去され得る。このタグ化グリコペプチドは、酵素的切断または化学的切断によって固体支持体から遊離され得る。あるいは、このタグ化グリコペプチドは、オリゴ糖およびアフィニティータグが結合した固体支持体から遊離され得る(実施例XVならびに図28および29を参照のこと)。
【0042】
固体支持体に対してグリコポリペプチドを結合する別の利点は、サンプル分子の損失を生じ得るさらなる精製工程を必要としないサンプル分子のさらなる操作を可能にするということである。例えば、本発明の方法は、結合したグリコポリペプチドを切断する工程、および同位体タグを付加する工程、または結合したグリコポリペプチドの他の所望の修飾を包含してもよい。グリコポリペプチドが結合されるので、これらの工程は固相上で行なわれ得、一方これによって、過剰な試薬は除去されること、および引き続く操作の前の広範な洗浄が可能になる。
【0043】
結合したグリコポリペプチドは、MS解析を容易にするためにペプチドフラグメントに切断され得る。従って、ポリペプチド分子は、1つ以上のプロテアーゼを用いてペプチドフラグメントに酵素的に切断されてもよい。ポリペプチドを切断するために有用な例示的なプロテアーゼとしては、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、パパイン、Staphylococcus aureus(V8)プロテアーゼ、Submaxilliarisプロテアーゼ、ブロメライン、サーモリシンなどが挙げられる。特定の適用において、2〜3の部位で切断する切断特性を有するプロテアーゼ、例えば、単一のアミノ酸ではなく、ある配列について特異性を有する配列特異的プロテアーゼを必要に応じて用いてもよい。ポリペプチドはまた、例えば、CNBr、酸または他の化学的試薬を用いて、化学的に切断され得る。特に有用な切断試薬は、プロテアーゼトリプシンである。当業者は、ペプチド切断の所望の有効性を達成する切断のために適切な条件を容易に決定できる。
【0044】
結合したグリコポリペプチドの切断は、親のポリペプチドを特定するために1つまたは2〜3個のペプチドで一般に十分であるという点で、MS解析のために特に有用である。しかし、結合したグリコポリペプチドの切断は必要なく、詳細にはここでは結合したグリコポリペプチドは比較的小さくかつ単一のグリコシル化部位を含むということが理解される。さらに、この切断反応は、固体支持体へのグリコポリペプチドの結合後に行なわれてもよく、これによって結合されたグリコポリペプチドに由来する非グリコシル化ペプチドフラグメントの特徴づけが可能になる。あるいは、この切断反応は、固体支持体へのグリコペプチドの添加の前に行なわれてもよい。当業者は、本発明の方法の特定の適用のために必要である場合、サンプルポリペプチドの切断の好ましさおよび切断反応を行なうための適切なポイントを容易に決定できる。
【0045】
必要に応じて、結合したグリコポリペプチドは、変性されてもよく必要に応じて還元されてもよい。結合したグリコポリペプチドを変性および/または還元することは、グリコポリペプチドの切断、詳細にはプロテアーゼ切断の前に有用であり得る。なぜなら、これによって天然型のグリコポリペプチドにおいてマスクされ得るプロテアーゼ切断部位に接近することが可能になるからである。この結合したグリコポリペプチドは、界面活性剤および/またはカオトロピック剤を用いて変性され得る。還元剤、例えば、β−メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、tris−カルボキシエチルホスフィン(TCEP)などがまた必要に応じて用いられてもよい。上記で考察されたとおり、固体支持体に対するグリコポリペプチドの結合によって、変性工程を行なうこと、続いて、酵素的または化学的切断反応を阻害し得る変性物を除去するための広範な洗浄を行なうことが可能になる。変性剤および/または還元剤の使用はまた、非グリコシル化タンパク質が結合したグリコポリペプチドと複合体を形成しているタンパク質複合体を解離するためにも用いられ得る。従って、これらの因子の使用は、固体支持体から非グリコシル化ポリペプチドを洗い去ることによってグリコポリペプチドについての特異性を増大するために用いられ得る。
【0046】
切断試薬を用いた結合したグリコポリペプチドの処理によって、ペプチドフラグメントの生成が得られる。炭水化物部分は固体支持体に結合されるので、グリコシル化残基を含むペプチドフラグメントは、固体支持体に結合したままである。結合したグリコポリペプチドの切断後、グリコポリペプチドフラグメントは、炭水化物部分の結合を介して固体支持体に結合したままである。グリコシル化されないペプチドフラグメントは、固体支持体から遊離される。必要に応じて、以下にさらに詳細に記載されるとおり、遊離された非グリコシル化ペプチドが解析され得る。
【0047】
本発明の方法を用いて、サンプルに存在するグリコポリペプチドの量を同定および/または定量することができる。グリコポリペプチドを同定および定量するために特に有用な方法は、質量分析法(MS)である。本発明の方法は、例えば、MS解析を用いて、グリコポリペプチドを定性的に同定するために用いることができる。必要に応じて、詳細にはMSによる定量的解析を容易にするために、同位体タグを結合したグリコペプチドフラグメントに付加してもよい。
【0048】
本明細書において用いる場合、「同位体タグ(isotope tag)」とは、2つのサンプルにおいてポリペプチドを示差的にタグ化するために用いられ得る、異なる質量の化学的に同一な試薬の生成を可能にする、同位体の取り込みのために適切な化学的特性を有する化学部分をいう。この同位体タグはまた、1つ以上の原子において適切な同位体の取り込みを可能にする適切な組成を有する。特に有用な安定な同位体対は水素および重水素であり、これは、それぞれ、軽型および重型として質量分析法を用いて容易に識別できる。重型および軽型が質量分析を用いて識別可能である限り、任意の多数の同位体原子を同位体タグに取り込むことができる、例えば、13C、15N、17O、18Oまたは34S。例示的な同位体タグとしては、Gygiら(Nature Biotechnol.17:994〜999(1999)によって記載される、4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミンベースのリンカーおよびその関連の重水素型、2,2’,3,3’,11,11’12,12’−オクタデウテロ−4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミンが挙げられる。他の例示的な同位体タグも以前に記載されている(本明細書において参考として援用されるWO00/11208を参照のこと)。
【0049】
ICAT型試薬に関連するこれらの以前に記載された同位体タグと対照的に、グリコポリペプチドは既に単離されているので、アフィニティータグがこの試薬に含まれる必要はない。当業者は、本発明の方法において有用な任意の多数の適切な同位体タグを容易に決定できる。同位体タグは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アリルなどであってもよく、そして必要に応じて、例えば、O、S、Nなどで置換されてもよく、そしてアミン、カルボキシル、スルフヒドリルなどを含んでもよい(WO 00/11208を参照のこと)。例示的な同位体タグとしては、無水コハク酸、無水イサトイン酸、無水Nメチルイサトイン酸、グリセルアルデヒド、Boc−Phe−OH、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドなどが挙げられる(図3)。Pheに加えて、図3および9に示されるように、他のアミノ酸を同様に同位体タグとして用いてもよい。さらに、図3に示されるのと同様の低分子有機アルデヒドを同位体タグとして用いてもよい。これらおよび他の誘導体は、当業者に周知の方法を用いて、本明細書に開示されたのと同じ方式で作製され得る。同位体タグが示差的に同位体で標識できる限り、多数の適切な化学基が同位体タグとして用いることができるということを当業者は容易に理解する。
【0050】
結合したグリコペプチドフラグメントは、MS解析を容易にするために同位体タグでタグ化される。グリコペプチドフラグメントをタグ化するために、同位体タグはグリコペプチドフラグメントのペプチド部分上の化学基と反応し得る反応性基を含む。反応性基はポリペプチドのようなサンプル中の分子と反応性であって、従ってそのような分子に共有結合され得る。反応性基は当業者に周知である(例えば、Hermanson,Bioconjugate Techniques,3〜116頁、Academic Press,San Diego(1996);Glazerら、Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology:Chemical Modification of Proteins,第3章、68〜120頁、Elsevier Biomedical Press,New York(1975);Pierce Catalog(1994),Pierce,Rockford ILを参照のこと)。任意の種々の反応性基は、その反応性基が固定されたポリペプチドに共有結合され得る限り、本発明の方法における使用のために同位体タグ中に取り込まれてもよい。
【0051】
多数のまたは本質的に全ての結合したグリコポリペプチドを解析するためには、ほとんどのグリコペプチドフラグメントと反応する反応性基を有する同位体タグを用いることが所望され得る。例えば、アミノ基と反応する反応性基は、結合したグリコペプチドフラグメントのN末端で遊離のアミノ基と反応し得る。切断されたペプチドの遊離のアミノ基を残す切断試薬が選択される場合、このようなアミノ基反応剤は、ペプチドフラグメントの大部分を標識し得る。ブロックされたN末端を有するペプチドフラグメントだけは標識されない。同様に、切断されたペプチド上に遊離のカルボキシル基を残す切断試薬は、カルボキシル反応基で修飾され得、その結果ペプチドの全てではなくても多くの標識が得られる。従って、同位体タグにアミノまたはカルボキシル反応基を含むことは、結合したグリコペプチドフラグメントの全てではなくてもほとんどが解析されることが望ましい本発明の方法に特に有用である。
【0052】
さらに、ポリペプチドは、ポリペプチド中のシステインまたは還元システインの遊離スルフヒドリルと反応し得るスルフヒドリル反応基を介して同位体タグでタグ化されてもよい。例示的なスルフヒドリル反応基としてはヨードアセトアミド基が挙げられる(Gygiら、前出,1999を参照のこと)。他の例示的なスルフヒドリル反応基としては、マレイミド、アルキルおよびアリールハライド、ハロアセチル、αハロアシル、ピリジルジスルフィド、アジリジン、アクリロイル、アリール化剤およびチオメチルスルホンが挙げられる。
【0053】
反応性基はまた、アミン、例えば、ペプチドのαアミノ基またはLysの側鎖のε−アミノ基、例えば、イミドエステル、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS)、イソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、塩化スルホニル、アルデヒド、ケトン、グリオキサール、エポキシド(オキシラン)、カルボネート、アリール化剤、カルボジイミド、無水物などと反応し得る。反応性基はまた、AspもしくはGluにおいて見出されるカルボキシル基、またはペプチドのC末端、例えば、ジアゾアルカン、ジアゾアセチル、カルボニルジイミダゾール、カルボジイミドなどと反応し得る。ヒドロキシル基と反応する反応性基としては、例えば、エポキシド、オキシラン、カルボニルジイミダゾール、N,N’−ジスクシンイミジルカルボネート、N−ヒドロキシククシンイミジルクロロホルメートなどが挙げられる。反応性基はまた、アミノ酸、例えば、ヒスチジン、例えば、α−ハロアシドおよびアミド;チロシン、例えば、ニトロ化およびヨウ素化;アルギニン、例えば、ブタンジオン、フェニルグリオキサール、およびニトロマロンジアルデヒド;メチオニン、例えば、ヨード酢酸およびヨードアセトアミド;およびトリプトファン、例えば、2−(2−ニトロフェニルスルフェニル)−3−メチル−3−ブロモインドレニン(BNPS−スカトール)、N−ブロモスクシンイミド、ホルミル化およびスルフェニル化とも反応し得る(Glazerら、前出、1975)。さらに、反応性基はまた、リンペプチドの選択的な標識のためのリン酸基と(Zhouら、Nat.Biotechnol.,19:375〜378(2001))、またはリポペプチド、もしくは任意の公知の共有結合的なポリペプチド修飾を含む他の共有結合的に修飾されたペプチドと反応し得る。当業者は、種々の試薬を用いることによってサンプル分子を修飾するための条件、インキュベーション条件、および同位体タグを用いる分子の修飾のために適切な条件を得るためのインキュベーションの時間を容易に決定し得る。共有結合の化学に基づく単離方法の使用は、グリコポリペプチドの結合の高度に特異的な性質に起因して、特に有用である。
【0054】
上記の反応性基は、標的サンプル分子との共有結合を形成し得る。しかし、同位体タグは、サンプル分子と非共有結合的に相互作用し得る反応性基を、その相互作用が高い特異性および親和性を有する限り、含み得るということが理解される。
【0055】
さらなる解析の前に、結合したグリコペプチドフラグメントを遊離することが一般に所望される。グリコペプチドフラグメントは、固体支持体から酵素的にまたは化学的にフラグメントを切断することによって遊離され得る。例えば、グリコシダーゼ、例えば、N−グリコシダーゼおよびO−グリコシダーゼを用いて、それぞれ、N連結またはO連結の炭水化物部分を切断することが可能であり、これによって対応する脱グリコシル化ペプチド(単数または複数)を遊離し得る。所望の場合、N−グリコシダーゼおよびO−グリコシダーゼは、一緒に添加されてもよいし、どちらかの順序で連続して添加されてもよい。N−グリコシダーゼおよびO−グリコシダーゼの連続した添加によって、N連結された遊離ペプチド対O連結された遊離ペプチドの示差的な特徴づけが可能になり、これによって炭水化物部分および修飾されたアミノ酸残基の性質についてのさらなる情報が得られる。これによって、N連結およびO連結グリコシル化部位は、同じサンプル上で連続して、かつ別々に解析され得、これによって実験の情報内容が増大して、解析されているサンプルの複雑性が単純化される。
【0056】
N−グリコシダーゼおよびO−グリコシダーゼに加えて、他のグリコシダーゼを用いて結合したグリコポリペプチドを遊離してもよい。例えば、エキソグリコシダーゼを用いてもよい。エキソグリコシダーゼは、末端の単糖に特異的なアノマーの残基および連結であって、対応する炭水化物を有するペプチドを遊離するために用いることができる。
【0057】
酵素切断に加えて、化学的切断を用いて、結合したペプチドを遊離するために炭水化物部分を切断することもできる。例えば、O連結オリゴ糖は、アルカリによって触媒されたβ排除反応を介してポリペプチドから特異的に遊離され得る。この反応は、約50mM NaOHを含む約1M NaBH中で、約55℃で約12時間行なうことができる。時間、温度および試薬の濃度は、十分なβ排除反応が実験の必要性のために行なわれる限り、変化されてもよい。
【0058】
1つの実施形態では、N連結オリゴ糖は、例えば、ヒドラジン分解によってグリコポリペプチドから遊離され得る。グリコポリペプチドは、PおよびNaOHによってデシケーター中で乾燥され得る。無水ヒドラジンを添加して、例えば、乾熱ブロックを用いて、約100℃で10時間加熱する
結合したグリコペプチドを遊離するために酵素切断または化学的切断を用いることに加えて、結合した炭水化物の性質にかかわらず、結合した分子が遊離され得るように固体支持体を設計してもよい。グリコポリペプチドが結合する固体支持体上の反応性基は、切断可能なリンカーでこの固体支持体に連結され得る。例えば、固体支持体反応性基は、切断可能なリンカー、例えば光切断可能なリンカーを介して固体支持体に共有結合されてもよい。例示的な光切断可能なリンカーとしては、例えば、O−ニトロベンジル、デシル、トランス−o−シンナモイル、m−ニトロフェニル、ベンジルスルホニル基を含むリンカーが挙げられる(例えば、DormanおよびPrestwich,Trends Biotech.18:64〜77(2000);GreeneおよびWuts,Protective Groups in Organic Synthesis,第二版.,John Wiley & Sons,New York(1991);米国特許第5,143,854号;同第5,986,076号;同第5,917,016号;同第5,489,678号;同第5,405,783号を参照のこと)。同様に、反応性基は化学的に切断可能なリンカーを介して固体支持体に連結されてもよい。インタクトな炭水化物を用いるグリコペプチドフラグメントの遊離は、この炭水化物部分が、質量分析法を含む周知の方法を用いて特徴付けられるべきである場合、特に有用である。脱グリコシル化されたペプチドフラグメントを遊離するためのグリコシダーゼの使用はまた、炭水化物部分の性質に対する情報を提供する。
【0059】
このように、本発明は、グリコポリペプチドを同定し、さらにそのグリコシル化部位を同定するための方法を提供する。本発明の方法は、本明細書で開示されるように、適用され、そして親のグリコポリペプチドが同定される。このグリコシル化部位自体もまた、同定することが可能であり、そしてコンセンサスモチーフ、ならびに本明細書に開示されるような、炭水化物部分を決定することが可能である(実施例VII)。本発明はさらに、本発明の方法によって同定される、グリコポリペプチド、グリコペプチドおよびグリコシル化部位を提供する。
【0060】
サンプル由来のグリコポリペプチドは炭水化物部分を介して固体支持体に結合される。結合したグリコポリペプチドは一般に、例えば、プロテアーゼを用いて切断されてグリコペプチドフラグメントが生じる。上記で考察されるとおり、種々の方法を用いて結合したグリコペプチドフラグメントを遊離して、それによって遊離されたグリコペプチドフラグメントを生成することができる。本明細書において上記されるとおり、「遊離されたグリコペプチドフラグメント(relased glycopeptide fragment)」とは、遊離されたペプチドが炭水化物を保持するか否かにかかわらず、共有結合した炭水化物部分を介して固体支持体に結合され、引き続いてこの固体支持体から遊離されたペプチドをいう。いくつかの場合、結合されたグリコペプチドフラグメントが遊離される方法によって、例えば、炭水化物部分のグリコシダーゼまたは化学切断を用いて、炭水化物部分の切断および除去が生じる。反応性基、例えばヒドラジドが切断可能なリンカーを介して固体支持体に結合されるように固体支持体が設計される場合、遊離されたグリコペプチドフラグメントは、炭水化物部分を保持する。炭水化物部分が保持されるか、または遊離されたペプチドから除去されるかにかかわらず、このようなペプチドは遊離されたグリコペプチドフラグメントと呼ばれることが理解される。
【0061】
サンプルからグリコポリペプチドを単離し、このグリコポリペプチドをフラグメントに切断した後、この固体支持体から遊離されたグリコポリペプチドフラグメントおよび遊離されたグリコペプチドフラグメントが、同定および/または定量される。遊離されたグリコペプチドフラグメントの解析のための特に有用な方法は、質量分析法である。遊離されたグリコポリペプチドフラグメントのようなサンプル分子を同定および/または定量するために、種々の質量分析システムが本発明の方法において使用され得る。高い質量正確性、高い感受性および高い解像度を有する質量分析器としては、限定はしないが、イオントラップ質量分析計、三連四重極質量分析計、および飛行時間質量分析計、四重極飛行時間質量分析計、およびフーリエ変換イオン質量分析器(FT−ICR−MS)が挙げられる。質量分析計は代表的には、マトリックス支援レーザー脱離(MALDI)およびエレクトロスプレーイオン化(ESI)イオン供給源を装備するが、ペプチドイオン化の他の方法を用いてもよい。イオントラップMSでは、解析物はESIまたはMALDIによってイオン化され、次いでイオントラップに入れられる。次いでトラップされたイオンは、イオントラップからの選択的遊離の際にMSによって別々に解析され得る。フラグメントはまた、イオントラップにおいて生成されて、解析され得る。遊離されたグリコペプチドフラグメントのようなサンプル分子は、例えば、MALDI−TOFまたはESI−TOFシステムを備える一段階質量分析によって解析され得る。質量分析解析の方法は、当業者には周知である(例えば、Yates,J.Mass Spect.33:1〜19(1998);KinterおよびSherman,Protein Sequencing and Identification Using Tandem Mass Spectrometry,John Wiley & Sons,New York(2000);AebersoldおよびGoodlett,Chem.Rev.101:269〜295(2001)を参照のこと)。
【0062】
高解像度のポリペプチドフラグメント分離のために、分離方法としてキャピラリー逆相クロマトグラフィーを利用する液体クロマトグラフィーESI−MS/MSまたは自動化LC−MS/MSを用いてもよい(Yatesら、Methods Mol.Biol.112:553〜569(1999))。動的排除を伴うデータ依存性衝突誘起解離(CID)も、質量分析方法として用いることができる(Goodlettら、Anal.Chem.72:1112〜1118(2000))。
【0063】
一旦ペプチドをMS/MSによって解析すれば、得られたCIDスペクトルを単離されたグリコペプチドの同一性の決定のためにデータベースと比較することができる。単一のペプチドを用いるタンパク質同定のための方法は、以前に記載されている(AebersoldおよびGoodlett,Chem.Rev.101:269〜295(2001);Yates,J.Mass Spec.33:1〜19(1998))。詳細には、1個または2〜3個のペプチドフラグメントを用いて、このペプチドが親のポリペプチドについて固有の兆候を提供する場合、このフラグメントが由来する親のポリペプチドを同定し得ることが可能である。従って、単一のグリコペプチドの、単独かまたはグリコシル化の部位の知識と組み合わせた同定を用いて、このグリコペプチドフラグメントが由来する親のグリコポリペプチドを同定することが可能である。さらに、付着されたタグの性質および炭水化物付着のためのコンセンサス配列モチーフの存在を解析することによって、さらなる情報を得ることができる。例えば、ペプチドがN末端タグで修飾されている場合、各々の遊離されたグリコペプチドは、CIDスペクトルのフラグメントのイオンシリーズにおいて認識され得る特定のN末端タグを有する。さらに、例えば、N連結炭水化物含有ペプチドにおいて見出される公知の配列モチーフの存在、すなわち、コンセンサス配列NXS/Tは、Nグリコシル化ペプチドのデータベース検索における制約として用いられ得る。
【0064】
さらに、親のグリコポリペプチドの同一性は、ペプチドと関連した種々の特徴の解析によって、例えば、種々のクロマトグラフィー媒体上の解像度または種々の分画方法を用いて決定され得る。これらの経験的に決定された特徴は、ペプチドタグを規定する、親のポリペプチドを一意的に特定するデータベースの特徴と比較され得る。
【0065】
ペプチドタグおよび関連のデータベースの使用は、ポリペプチド、またはそのペプチドフラグメントに関連する特徴を決定すること、ポリペプチド同定インデックスに対してこの決定された特徴を比較すること、および同じ特徴を有するポリペプチド同定インデックスにおいて1つ以上のポリペプチドを同定することによって、ポリペプチドの集団からポリペプチドを同定するために用いられる(WO 02/052259を参照のこと)。この方法は、ポリペプチドに関連する特徴のデータベースである、ポリペプチド同定インデックスを作成することに基づく。このポリペプチド同定インデックスは、ポリペプチドの同定のために、サンプル由来のポリペプチドに関連することが決定された特徴の比較のために用いられ得る。さらに、この方法は、ポリペプチドを同定するために適用され得るだけではなく、サンプル中の特定のタンパク質の量を定量するためにも適用され得る。
【0066】
ポリペプチドを同定するための方法は、定量的なプロテオーム解析の実行、またはサンプルポリペプチドの同定および定量の両方に関与するポリペプチド集団の間の比較に適用可能である。このような定量的解析は、所望の場合、2つの別の段階で都合よく実施され得る。第一の工程として、本明細書に開示されるような、グリコポリペプチドサンプルなどの、検討中の、例えば、種、細胞タイプまたは組織タイプから、試験されるべきサンプルの代表である、参照ポリペプチドインデックスが生成される。第二の工程は、未知のポリペプチドに関連する特徴と、前に作成された参照ポリペプチドインデックス(単数または複数)との比較である。
【0067】
参照ポリペプチドインデックスは、細胞、細胞下画分、組織、器官または生物体のような特定のサンプルのポリペプチドに相当するポリペプチド同定コードのデータベースである。ポリペプチド同定インデックスを作成することができるが、これは、サンプル中で発現される可能性のある本質的に全てのポリペプチドを含む、サンプル中の多数のポリペプチドの代表である。グリコポリペプチドを同定することに関連する本発明の方法において、ポリペプチド同定インデックスは、血清サンプルのような所望のサンプルについて決定される。一旦ポリペプチド同定インデックスが作成されれば、このインデックスは、サンプル、例えば、疾患を有する可能性のある個体由来のサンプル中の1つ以上のポリペプチドを同定するために繰り返して用いることができる。従って、親のグリコポリペプチドと関連し得るグリコペプチドについて、1セットの特徴が決定され得るが、これはこのグリコペプチドのアミノ酸配列を含み、インデックスとして記憶され、これはこのインデックスが作成されたのと実質的に同じ方式で処理されたサンプルでの引き続く実験において参照され得る。
【0068】
同位体タグの取り込みは、サンプルグリコポリペプチドの定量を容易にするために用いられ得る。前に開示されたように、同位体タグの取り込みによって、サンプル中の特定の分子の量を定量するための方法が提供される(Gygiら、前出、1999;WO 00/11208)。同位体タグを用いることにおいては、以下にさらに詳細に記載されるように、サンプル分子のものとは異なって標識された同位体タグを有する、既知量の標準標識分子を比較するために用いられ得る異なる同位体を組み込んでもよい(実施例XIIIを参照のこと)。従って、異なる同位体を有する標準的ペプチドを、既知の濃度で添加して、同じMS解析において、または平行なMS解析において同様の条件で解析してもよい。特定の較正標準を、既知の絶対量で添加して、サンプル中のグリコポリペプチドの絶対量を決定することができる。さらに、この標準を、以下に記載のとおり相対的な定量が行なわれるように添加してもよい。
【0069】
あるいは、平行なグリコシル化サンプル分子は、異なる同位体標識で標識されて、隣り合って比較されてもよい(Gygiら、前出、1999を参照のこと)。これは、コントロールサンプルに対する定性的解析または定量的解析のために特に有用である。例えば、疾患状態から導出されたグリコシル化サンプルは、以前に記載されたように、2つのサンプルを示差的に標識することによって非疾患状態由来のグリコシル化サンプルに対して比較されてもよい(Gygiら、前出、1999)。このようなアプローチによって、2つのサンプルのための示差的な同位体タグの使用によって容易になるグリコシル化の示差的な状態の検出が可能になり、従って疾患のための診断マーカーとしてグリコシル化における相違に関連して用いられ得る(実施例VIII、IX、XI、およびXIIを参照のこと)。
【0070】
本発明の方法は、複雑な生物学的および臨床的サンプルの解析のための多くの利点を提供する。複雑なサンプルに存在するあらゆる糖タンパク質から、2〜3のペプチドのみが単離される。なぜなら糖タンパク質の2〜3のペプチドのみがグリコシル化されるからである。従って、グリコペプチドフラグメントを単離することによって、得られたペプチド混合物の組成は、質量分析の解析のために有意に簡易化される。例えば、あらゆるタンパク質は平均して数十のトリプシン消化ペプチドを生じるが、トリプシン消化のグリコシル化ペプチドについては1から2〜3個だけである。例えば、グリコペプチドの数は、主な血漿タンパク質中のトリプシン消化ペプチドまたはCys含有ペプチドの数よりも有意に低い(表1を参照のこと)。従って、グリコポリペプチドまたはグリコペプチドの解析によって、複雑な生物学的サンプル、例えば、血清の複雑性が低下する。
【0071】
(表1)
5つの主な血漿タンパク質が総タンパク質の80%より多くに相当する
【0072】
【表1】

【0073】
本発明の方法の別の利点は、臨床的な試料としての体液、詳細には血清の解析のための使用である。5つの主な血漿タンパク質であるアルブミン、α1抗トリプシン、α2マクログロブリン、トランスフェリン、およびγグロブリンが、血漿中における総タンパク質の80%より多くに相当する。これらのうちアルブミンは、血清および他の体液において最も豊富なタンパク質であり、血漿中の総タンパク質の約50%を構成する。しかし、アルブミンは本質的に、N−グリコシル化の欠損に起因して、本発明の方法では認識できない。例えば、アルブミン由来のトリプシン消化でないNグリコシル化ペプチドは、本発明の方法が適用され、Nグリコシダーゼを用いてN連結グリコペプチドが遊離された場合に観察された。これは、全てかなり重要である。なぜなら、50を超える異なるアルブミン種が2Dゲル電気泳動によって検出されているが、2Dゲル電気泳動では、ゲルパターンの重要な部分および臨床的重要性を有する豊富でない血清タンパク質の解析が全体として不明瞭であるからである。従って、グリコシル化されたタンパク質の解析を可能にする本発明の方法によって、血清中のアルブミンの優位性が補償されて、血清中に存在する、量の少ないグリコシル化されたタンパク質の解析が可能になる。本明細書において開示されたとおり、本発明の方法によって、従来の方法に比べて、より多くの血清タンパク質の同定が可能になった(実施例IIを参照のこと)。本発明の方法によって、量の少ない血清タンパク質の解析も可能になる。これらの量の少ない血清タンパク質は見込みのある診断マーカーである。このようなマーカーは、本明細書に開示されるとおり、疾患サンプルと健常サンプルとを比較することによって容易に決定できる(実施例VIII、IX、XIおよびXIIを参照のこと)。
【0074】
さらに、Nグリコシル化について公知の配列モチーフ(N−X−S/T)は、単離されたペプチドの同定のための強力な配列データベース検索の制約として有用である。これを用いれば、グリコペプチドフラグメントが由来するポリペプチドの同定が容易にできる。なぜならグリコシル化モチーフを含むのは可能性のあるペプチドのうちさらに少数であるからである。
【0075】
本発明の方法はまた、高速の処理および簡便性を可能にするので有利である。従って、この方法は、臨床サンプルの解析のために特に有利であり得る、サンプルの高速処理の解析に容易に適合可能である。さらに、本発明の方法は、複数のサンプルの処理を容易にするために自動化されてもよい(実施例XVIを参照のこと)。本明細書に開示されるとおり、ロボット様のワークステーションが自動化糖タンパク質解析に適合されている(実施例XVI)。
【0076】
上記の理由のための体液の解析に加えて、本発明の方法はまた、原形質膜に含まれるタンパク質の解析にも有利である。本発明の方法によって、細胞表面タンパク質および分泌型タンパク質を、このような試料の細胞内タンパク質に混入する可能性が最も高いタンパク質が最もグリコシル化されないという事実に基づいて、選択的に分離することが可能になる。従って、本発明の方法を用いれば、細胞溶解物からの混入物ではなくサンプルの代表的なタンパク質をより正確に反映することができる。
【0077】
このような解析を、グリコポリペプチドの解析のための細胞下画分と必要に応じて組み合わせてもよい(実施例IV).
上記のように、非グリコシル化ペプチドフラグメントは、タンパク質分解または化学的な切断後に固体支持体から遊離される(図1を参照のこと)。必要に応じて、遊離されたペプチドフラグメントを特徴づけして、サンプルから単離されたグリコポリペプチドの性質のさらなる情報を得ることができる。特に有用な方法は、同位体コードされたアフィニティータグ(ICAT(商標))の使用方法である(本明細書に参考として援用される、Gygiら、Nature Biotechnol.17:994〜999(1999))。ICAT(商標)型の試薬の方法は、質量分析法を用いて容易に識別可能である同位体で示差的に標識され得るアフィニティータグを用いる。ICAT(商標)型のアフィニティー試薬は、3つの構成要素である、アフィニティータグ、リンカーおよび反応性基から構成される。
【0078】
ICAT(商標)型アフィニティー試薬の1つの構成要素は、このアフィニティータグの同族の結合パートナーへの結合によってアフィニティー試薬に結合されたペプチドの単離を可能にするアフィニティータグである。特に有用なアフィニティータグはビオチンであって、これはその同族の結合パートナーであるアビジン、または関連の分子、例えばストレプトアビジンに対して高い親和性で結合し、従ってさらなる生化学的操作に対して安定である。アフィニティータグが、ICAT(商標)型のアフィニティー試薬に結合したペプチドの単離を可能にするように同属の結合パートナーに対して十分な結合親和性を提供する限り、任意のアフィニティータグを用いることができる。アフィニティータグはまた、磁気的なアフィニティータグを単離するのに適切な磁気ビーズまたは他の磁気形態によってタグ化されたペプチドを単離するのに用いられてもよい。ICAT(商標)型の試薬の方法、またはペプチドをアフィニティータグ化する任意の他の方法において、例えば、架橋試薬を用いる、共有結合的な捕獲の使用によって、所望の場合、固体支持体に対してタグ化ペプチドを結合させることができる。
【0079】
ICAT(商標)型のアフィニティー試薬の第二の構成要素は、適切な同位体を取り込み得るリンカーである。リンカーは、反応性基が試料ポリペプチドに結合して、アフィニティータグがその同族の結合パートナーに結合できるのに十分な長さを有する。このリンカーはまた、1つ以上の原子で安定な同位体の取り込みを可能にするのに適切な組成を有する。特に有用な安定な同位体の対は、水素および重水素であって、これは、質量分析法を用いて、それぞれ軽型および重型として容易に識別可能である。重型および軽型が質量分析法を用いて識別可能である限り、任意の多数の同位体原子をリンカー中に組み込むことができる。例示的なリンカーとしては、Gygiら(前出、1999)によって記載される、4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミンベースのリンカー、およびその関連の重水素型、2,2’,3,3’,11,11’,12,12’−オクタデウテロ−4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミンが挙げられる。当業者は、同位体タグについて上記されたように、上記の規準を満たすICAT(商標)型アフィニティー試薬において有用な適切な任意の多数のリンカーを容易に決定できる。
【0080】
ICAT(商標)型アフィニティー試薬の第三の構成要素は、試料中のポリペプチドに共有結合され得る反応性基である。種々の反応性基が同位体タグに関して上記されており、同様にICAT型試薬中に取り込まれてもよい。
【0081】
ICAT(商標)法または他の同様の方法を、固体支持体から遊離された非グリコシル化ペプチドフラグメントの解析に適用することができる。あるいは、ICAT(商標)法または他の類似の方法を、結合したグリコポリペプチドの切断の前に、すなわちインタクトなグリコポリペプチドが固体支持体に依然として結合されたままで適用してもよい。
【0082】
この方法は一般に、自動化タンデム質量分析法の工程およびペプチド/タンパク質同定のための配列データベース検索の工程と;安定な同位体希釈理論に基づく質量分析法による定量のための適切な同位体タグ化工程と;特定のペプチドの選択的単離のための特定の化学反応の使用とを包含する。例えば、以前に記載されたICAT(商標)試薬は、スルフヒドリル反応性基を含んでいた。従って、ICAT(商標)型試薬を用いて固体支持体から遊離されたシステイン含有ペプチドフラグメントを標識することができる。上記されるような他の反応性基もまた用いることができる。
【0083】
グリコシル化ペプチドを解析する方法と組み合わせた非グリコシル化ペプチドの解析によって、サンプル中のポリペプチド発現状態についてさらなる情報が得られる。グリコペプチドフラグメントおよび非グリコシル化ペプチドの両方を解析することによって、糖タンパク質の量における変化、および特定のグリコシル化部位でのグリコシル化の状態の変化を容易に決定することができる。
【0084】
所望される場合、公知の多数の分画技術によってサンプルを分画してもよい。分画技術は、本発明の方法における任意の多数の適切なポイントで適用され得る。例えば、サンプルは、酸化、および/または固体支持体へのグリコポリペプチドの結合の前に分画され得る。従って、所望される場合、グリコペプチド(単数または複数)の実質的に精製された画分を、サンプルグリコポリペプチドの固定のために用いてもよい。さらに、固体支持体からの遊離後に、分画/精製工程を非グリコシル化ペプチドまたはグリコペプチドに適用してもよい。当業者は、本発明の方法の特定の適用の必要性に基づいて、サンプル分子を分画するための適切な工程を容易に決定することができる。
【0085】
サンプル分子を分画するための方法は、当業者に周知である。分画方法としては、細胞下分画またはクロマトグラフィー技術、例えば、強力なおよび弱い陰イオンおよび陽イオン交換樹脂を含むイオン交換クロマトグラフィー、疎水性および逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性荷電誘導(hydrophobic charge−induction)クロマトグラフィー、色素結合クロマトグラフィーなどが挙げられるがこれらに限定されない(Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology(補遺56),John Wiley & Sons,New York(2001);Scopes,Protein Purification:Principles and Practice,第3版、Springer−Verlag,New York(1993))。他の分画方法としては、例えば、遠心分離、電気泳動、塩の使用などが挙げられる(Scopes,前出,1993)。膜糖タンパク質を解析する場合には、周知の可溶化条件、例えば、変性界面活性剤および/または非変性界面活性剤の使用を適用して、膜結合タンパク質を抽出してもよい(Scopes、前出、1993)。
【0086】
アフィニティークロマトグラフィーがまた用いられてもよいが、これは例えば、色素結合樹脂、例えば、シバクロンブルー(Cibacron blue)、ATP、NADなどのような、補因子のアナログを含む、基質アナログ、リガンド、イムノアフィニティー単離のために有用な特異的抗体、ポリクローナルまたはモノクローナルのいずれか、などを含む。グリコポリペプチドのサブセットは、所望の場合、レクチンアフィニティークロマトグラフィーを用いて単離されてもよい。例示的なアフィニティー樹脂としては、ICAT(商標)型試薬で標識されたサンプル分子上のビオチンタグに結合するアビジン樹脂のようなポリペプチド中に取り込まれ得る特定の部分に結合するアフィニティー樹脂が挙げられる。特定のクロマトグラフィー媒体の解像および能力は、当該分野で公知であり、そして当業者によって決定され得る。特定の適用のための特定のクロマトグラフィー分離の有用性は、当業者によって同様に評価され得る。
【0087】
当業者は、特定のサンプルサイズまたは組成物のための適切なクロマトグラフィー条件を決定することが可能であって、規定された緩衝液、カラム寸法および流速条件のもとでクロマトグラフィー分離のための再現可能な結果を得る方法を公知である。分画方法は必要に応じて、特定のクロマトグラフィー適用の再現性を評価するための内部標準の使用または他の分画方法を包含してもよい。適切な内部標準は、用いられるクロマトグラフィー媒体または分画方法に依存して変化する。当業者は、クロマトグラフィーのような分画の方法に適用可能な内部標準を決定することが可能である。さらに、ゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動を含む電気泳動がまた、サンプル分子を分画するために用いられてもよい。
【0088】
本発明はまた、サンプル中のグリコペプチドを同定および定量するための方法を提供する。この方法は、固体支持体に対してグリコポリペプチドを固定する工程と;この固定されたグリコポリペプチドを切断し、これによって非グリコシル化ペプチドを遊離して、固定されたグリコペプチドを保持する工程と;同位体タグを用いて固定されたグリコペプチドを標識する工程と;固体支持体からこのグリコペプチドを遊離する工程と;この遊離されたグリコペプチドを解析する工程とを包含する。
【0089】
本発明の方法は、基本的かつ臨床的な生物学における広範な適用において用いることができる。本発明の方法は、原形質膜で発現されたタンパク質のプロフィールにおける変化、細胞および組織によって分泌されたタンパク質の組成における変化、血液、精漿、脳脊髄液、膵液、尿、母乳、肺洗浄液などを含む体液のタンパク質組成における変化の検出のために用いることができる。これらのサンプル中のタンパク質の多くがグリコシル化されるので、本発明の方法は、これらのサンプルにおける糖タンパク質の簡便な解析を可能にする。疾患状態において観察される検出された変化は、先天性グリコシル化異常症(実施例XI)または異常なグリコシル化に関与する任意の障害を含む広範な疾患;ガン、例えば、皮膚癌、前立腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌など(実施例VIIIおよびIX);代謝性の疾患またはプロセス、例えば、糖尿病(実施例XII)、または生理学的状態の変化(実施例X);炎症性疾患、例えば、関節リウマチ;精神障害または神経学的プロセス;感染性疾患;病原体に対する免疫応答などについての診断または予後予測のマーカーとして用いられ得る。さらに、本発明の方法は、細胞表面タンパク質に対する抗体依存性細胞傷害作用を含む、種々の治療のための潜在的な標的の同定のため、および薬物に接近可能なタンパク質の検出のために用いることができる。
【0090】
従って、本発明の方法を用いて、疾患を有する患者由来のサンプルを健常な固体または固体の群由来のサンプルに対して比較することによって、疾患のための診断マーカーを同定することができる。疾患サンプルおよび健常なサンプルを比較することによって、疾患に関連する特定のグリコポリペプチドの発現における増大または減少を用いて診断パターンを決定することが可能であり、このパターンは診断目的のためのサンプルの引き続く解析のために用いることができる(実施例VIII、IX、XIおよびXIIを参照のこと)。この方法は、グリコポリペプチドの解析に基づき、そしてこのような解析は、診断目的に十分である。
【0091】
従って、本発明は、本発明の方法を用いること、および疾患の個体(単数または複数)由来のサンプルを健常な個体(単数または複数)に対して比較すること、および2つのサンプルの間で示差的な発現を有するグリコポリペプチドを同定する(ここで発現の相違は、疾患との相関を示し、従って診断マーカーとして機能し得る)ことによって、診断のグリコポリペプチドマーカーを同定するための方法を提供する。本発明はまた、本発明の方法を用いて同定された診断マーカーを提供する。
【0092】
さらに、示差的な発現を示すグリコポリペプチドは潜在的な治療標的である。それらは示差的に発現されるので、これらのグリコポリペプチドの活性を調節することは可能性として、疾患に関連する兆候または症状を緩和するために用いることができる。従って、本発明は、疾患の治療的なグリコポリペプチド標的を同定するための方法を提供する。一旦グリコポリペプチドが示差的に発現されることが見出されれば、治療的なグリコポリペプチド標的の活性を調節する潜在的な治療剤について潜在的な標的をスクリーニングすることができる。ライブラリーを生成して、潜在的な治療活性についてこのライブラリーをスクリーニングする方法は、当業者には周知である。化学的分子または生物学的分子、例えば、簡易または複雑な有機分子、金属含有化合物、炭水化物、ペプチド、タンパク質、ペプチド模倣物、糖タンパク質、リポタンパク質、核酸、抗体などを含む多数の化合物を生じるための方法は当該分野では周知である(例えば、Huse、米国特許第5,264,563号;Francisら、Curr.Opin.Chem.Biol.2:422〜428(1998);Tietzeら、Curr.Biol.,2:363〜371(1998);Sofia,Mol.Divers.3:75〜94(1998);Eichlerら、Med.Res.Rev.15:481〜496(1995);Gordonら、J.Med.Chem.37:1233〜1251(1994);Gordonら、J.Med.Chem.37:1385〜1401(1994);Gordonら、Acc.Chem.Res.29:144〜154(1996);WilsonおよびCzarnik編.,Combinatroal Chemistry:Synthesis and Application,John Wiley & Sons,New York(1997)を参照のこと)。本発明はさらに、本発明の方法によって同定されたグリコポリペプチド治療標的を提供する。
【0093】
本方法は、種々の臨床的および診断的適用について用いられ得る。グリコポリペプチドを通じて発揮される公知の治療方法は、本発明の方法によって特徴づけされ得る。例えば、Enbrel(商標)およびハーセプチンのような治療は糖タンパク質を通じて機能する。本発明の方法によって、糖タンパク質発現に関する個々の患者の特徴づけが可能になり、これを用いて糖タンパク質に関与する治療の見込みのある有効性を決定する。
【0094】
このように、本発明の方法は、以下の適用を含むがこれらに限定されない種々の適用において用いることができる。本発明の方法は、例えば、予後予測および診断のタンパク質マーカーの検出のための血清プロファイリングのために用いることができる(例えば、実施例VIII、IX、XIおよびXIIを参照のこと)。本発明の方法はまた、診断/予後予測のタンパク質マーカーの検出のための細胞表面タンパク質の定量的なプロファイリング、および治療の潜在的標的の検出のために用いることができる(実施例IV)。例えば、本発明の方法は、抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)または他のタイプの治療のために用いることができる。本発明の方法は、臨床用および診断用の医薬、動物薬、農業などにおいて適用可能である。例えば、本発明の方法は、薬物標的を同定および/または確証するために、そして薬物有効性、薬物投薬量、および/または薬物の毒性を評価するために用いられ得る。このような場合、血液プロテオーム、すなわち血清は、薬物投与に関連し、薬物有効性、投与量、および/もしくは毒性、ならびに/または薬物標的の確証に相関する、血清グリコポリペプチドプロフィールにおける変化を見つけるために、本明細書に開示される方法を用いて解析されてもよい。このような相関は、種々の薬物用量を投与された1つ以上の個体から血清サンプルを収集すること、薬物の毒性を経験すること、所望の有効性を経験することなどによって容易に決定され得る。さらに、血清プロフィールは、薬物の投与、または種々の薬物用量、毒性などによって特定の標的を迅速かつ効率的に確証するような方法として、薬物標的の解析と組み合わせて作成され得る。従って、血清(血液サンプル)によって、個体の状態、および彼または彼女が薬理学的介入に応答する能力についての代理のマーカーが得られる。
【0095】
本発明の方法はさらに、血漿に加えて、CSF、膵液、肺洗浄液、精漿、尿、母乳などを含む、種々の体液における定量的なタンパク質プロファイリングのためにさらに用いることができる。本発明の方法はまた、新規なタンパク質およびペプチドホルモンおよび他の因子の検出のための、細胞または組織によって分泌されたタンパク質の定量的タンパク質プロファイリングのために用いることができる。このように、本発明によって、糖タンパク質の定量的プロファイルを作成するための方法が得られる。本発明はまた、本明細書において開示されるような、サンプル中のグリコポリペプチドを定量するための方法を提供する。本発明によってさらに、血清および他の体液における予後予測または診断のパターンの検出のための方法が得られる。本発明によってさらに、分泌されたタンパク質ホルモンおよび調節因子の検出のための方法が得られる。このように、本発明によって、体液由来のグリコポリペプチド、分泌型タンパク質および細胞表面タンパク質をプロファイリングするための方法が得られる。
【0096】
本発明の方法はまた、同じサンプル上でのタンパク質の豊富さの測定およびタンパク質のグリコシル化の測定の同時適用に基づいた、タンパク質のグリコシル化の状態における変化の検出に適用可能である。このように、本発明によって、特定のタンパク質のグリコシル化パターンにおける定量的な変化を検出する方法が得られる。
【0097】
本発明によってまた、タンパク質上でのグリコシル化部位の体系的な検出のための方法が得られる。本発明の方法によって、グリコシル化されているペプチドフラグメントの同定が可能になるので、これが、グリコシル化の部位の同定としても役立つ(実施例VII)。
【0098】
本明細書に開示される方法は一般に、グリコポリペプチドの解析のために記載されているが、同様の方法は、他の炭水化物含有分子の解析にも適用可能である。この方法は、炭水化物部分の特異的な結合に基づくので、修飾および/または単離の方法は同様に、他の炭水化物含有分子に適用可能である。例えば、本明細書に開示される方法工程と類似の方法工程は、グリコペプチド、グリコスフィンゴ脂質などのようなグリコシル化分子の同定および定量に適用可能である。
【0099】
本発明はまた、グリコポリペプチドを単離および定量するための試薬およびキットを提供する。このキットは、例えば、グリコポリペプチドの固相捕獲のためのヒドラジド樹脂または他の適切に反応性の樹脂と、炭水化物部分の修飾のための試薬、例えば、過ヨウ素酸塩のような酸化試薬と、質量分析法を用いる定量的解析のために特に有用な、2つの異なるサンプルにカップリングするための1セットの2つ以上の示差的に標識された同位体タグとを備えてもよい。1つの実施形態では、本発明は、ヒドラジド樹脂と、過ヨウ素酸塩と、1対の示差的に標識された同位体タグとを備えるキットを提供する。本発明のキットの内容物、例えば、任意の樹脂または他の標識試薬は、適切なパッケージング材料に、そして所望の場合には、滅菌の混入物のない環境に含まれる。さらに、このパッケージング材料は、キット内の物質を使用してサンプル分子を標識し得る方法を示す指示書を備える。使用のための指示書は代表的には、試薬濃度または少なくとも1つのアッセイ方法パラメーター、例えば、混合されるべき試薬およびサンプルの相対的な量、試薬/サンプル混合のための維持期間、温度、緩衝液条件などを記載している有形の表現を含む。
【0100】
本発明の方法は、本発明の方法の解析に適切なハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせの使用によって容易にされ得る。例えば、ロボット様のワークステーションが開発されて自動的なグリコペプチド解析が容易になった(実施例XVI)。コンピュータープログラムは、特定の疾患を有する人由来のサンプル中において特異的に存在するか、または特定の量で存在するタンパク質および/またはペプチドのパターンを見出すために用いることができる(実施例を参照のこと)。例えば、多数の血清サンプルを解析して、健常な個体由来の血清サンプルと比較してもよい。あるアルゴリズムを用いて、試験されている疾患または疾患の段階について、個々に、または全体的にのいずれかの診断用ペプチドおよび/またはタンパク質を見出す。
【0101】
別の実施形態では、本発明はサンプル中のグリコペプチドを同定および定量するための方法を提供する。この方法は、固体支持体へグリコポリペプチドを固定する工程と;固定されたグリコポリペプチドを切断し、これによって非グリコシル化ペプチドを遊離して固定されたグリコペプチドを保持する工程と;この固体支持体からグリコペプチドを遊離する工程と;この遊離されたグリコペプチドを解析する工程とを包含してもよい。この方法はさらに、例えば、質量分析法を用いて、1つ以上のグリコペプチドを同定する工程を包含してもよい。
【0102】
さらに別の実施形態において、本発明は、疾患のための診断マーカーを同定する方法を提供する。この方法は、第一の固体支持体に対して試験サンプル由来のグリコポリペプチドを固定する工程と;第二の固体支持体に対してコントロールサンプル由来のグリコポリペプチドを固定する工程と;この固定されたグリコポリペプチドを切断し、これによって非グリコシル化ペプチドを遊離して固定されたグリコペプチドを保持する工程と;各々の支持体上の異なる同位体タグを用いて、この第一および第二の支持体上でこの固定されたグリコペプチドを標識する工程と;この固体支持体からグリコペプチドを遊離する工程と;この遊離されたグリコペプチドを解析する工程と;この試験サンプルとコントロールサンプルとの間で示差的なグリコシル化を有する1つ以上のグリコシル化されたポリペプチドを同定する工程とを包含してもよい。あるいは、試験サンプルおよびコントロールサンプルを、平行に流して、別々に解析してもよい。このような場合、グリコペプチドは、異なる同位体タグを用いることなく、同定され比較される。
【0103】
試験サンプルは、例えば疾患を有する個体由来の試料であってもよい。コントロールサンプルは、例えば、健常な個体から得られた対応する試料であってもよい。サンプルは、本明細書に記載されるとおり、例えば、血清または組織生検であってもよい。示差的なグリコシル化とは、定量的な相違、例えば、コントロールサンプルと比べた試験サンプル中のグリコポリペプチドの有無であってもよい。示差的なグリコシル化とはまた、定量的な相違であってもよい。定量的な相違の決定は、示差的な同位体タグを用いた標識によって容易にすることが可能で、その結果サンプルは、本明細書に開示され、Gygiら、前出、1999に記載されるように、隣り合って混合されて、比較されてもよい。示差的なグリコシル化を示す1つ以上のグリコポリペプチドは、各々の疾患についての潜在的な診断マーカーである。このような方法によって、グリコペプチド疾患プロフィールが得られ、これは診断目的のために引き続いて用いることができる。従って、1つまたは2〜3個の診断マーカーを用いるのではなく、本発明の方法によって、診断マーカーのプロフィールを同定することが可能になり、これによって、疾患のタイプ、段階および/または予後予測に相関するプロフィールを決定することにより、疾患のタイプ、疾患の段階、および/または疾患の予後予測に対するさらに詳細な情報を得ることができる。
【0104】
さらに別の実施形態では、本発明は疾患を診断する方法を提供する。この方法は、固体支持体に対して試験サンプル由来のグリコポリペプチドを固定する工程と;この固定されたグリコポリペプチドを切断し、これによって非グリコシル化ペプチドを遊離して、固定されたグリコペプチドを保持する工程と;この固体支持体からこのグリコペプチドを遊離する工程と;この遊離されたグリコペプチドを解析する工程と;例えば、上記のような、本発明の方法によって決定されるような疾患に関連する1つ以上の診断マーカーを同定する工程とを包含してもよい。
【0105】
疾患について試験されるべき個体または疾患を有することが疑われる個体由来の試験サンプルを、本明細書に開示される方法によってグリコペプチド解析のために記載されるとおり処理してもよい。試験サンプルから得られるグリコペプチドプロフィールを、コントロールサンプルと比較して、診断マーカーのグリコシル化における変化が上記で考察されたように生じるか否かを決定することができる。あるいは、グリコペプチドプロフィールを、診断マーカーの公知のセット、または診断マーカーについての情報を含むデータベースと比較してもよい。
【0106】
別の実施形態では、疾患を診断する方法は、診断試験の結果についての報告を作成する工程を包含し得る。例えば、この報告は、疾患に関連する十分な数の診断マーカーの存在に基づいて、個体が疾患を有する可能性が高いか、または疾患を有さない可能性が高いかを示すことができる。本発明によってさらに、疾患を診断する方法の結果の報告が得られる。同様の報告およびこのような報告の準備は、本発明の他の方法について提供される。
【0107】
本発明の方法は、グリコペプチド解析のために適切な任意の順序で行うことができることが理解される。当業者は、グリコペプチド解析に適切な本発明の方法の工程を行なう適切な順序を容易に決定することができる。
【0108】
本発明の種々の実施形態の行動に実質的に影響しない改変がまた、本明細書に提供される本発明の定義内で提供されるということが理解される。従って、以下の実施例は、本発明を例示することを意図しており限定はしない。
【実施例】
【0109】
(実施例I)
(グリコペプチドの定量的解析)
本実施例は、同位体タグを用いたグリコペプチドの精製および示差的な標識を記載する。
【0110】
本発明の方法の実施形態は、図1に模式的に例示される。本発明は以下の工程を包含してもよい:(1)糖タンパク質酸化:例えば、過ヨウ素酸塩を用いた酸化は、炭水化物のシス−ジオール基をアルデヒドに変換する(図2);(2)カップリング:アルデヒドは、固体支持体に固定されたヒドラジン基と反応してヒドラゾン共有結合を形成する(図2)。非グリコシル化タンパク質が、除去される(3)タンパク質分解:固定された糖タンパク質は、固体支持体上でタンパク質分解される。非グリコシル化ペプチドは、洗浄によって除去されて、さらなる解析のために必要に応じて収集され得るが、一方グリコシル化ペプチドは、固体支持体上に残る;4)同位体標識:固定されたグリコペプチドのαアミノ基は、リジンのεアミノ基がホモアルギニンに変換された後に、無水コハク酸の同位体としての軽型(d0であって、重水素を含まない)または重型(d4,4つの重水素を含む)で標識される(図3);(5)遊離:以前にN連結されたグリコペプチドが、PNGase F処理によって固相から遊離される;(6)解析:単離されたペプチドは、マイクロキャピラリーを用いる高処理能力の液体クロマトグラフィーエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(μLC−ESI−MS/MS)またはμLC分離に続くマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)MS/MSを用いて、同定および単離される。データは、一組のソフトウェアツールによって解析される。
【0111】
サンプル、例えば、複雑な生物学的サンプル由来のタンパク質を、100mM NaAc、150mM NaCl、pH5.5を含有する緩衝液(カップリング緩衝液)に変える。15nMの過ヨウ素酸ナトリウム溶液をサンプルに添加した。キャップを固定して、チューブをホイルでカバーした。サンプルを室温で1時間、転倒式に回転させた。脱塩カラム(Econo−Pac 10DGカラム)を用いてサンプルから過ヨウ素酸ナトリウムを除去した。カップリング緩衝液において平衡化されたヒドラジン樹脂(Bio−Rad;Hercules CA)をサンプルに添加した(ゲル1ml/タンパク質5mg)。このサンプルおよび樹脂をしっかりキャップして、室温で10〜24時間、転倒式に回転させた。
【0112】
カップリング反応の終了後、樹脂を1000×gで10分間スピンダウンして、等容積の8M尿素/0.4M NHHCOを用いてこの樹脂を3回洗浄することによって、非糖タンパク質を徹底的に洗い去った。樹脂上のタンパク質を、55℃で30分間、8M尿素/0.4M NHHCO中で変性させ、続いて尿素溶液を用いて3回洗浄した。尿素緩衝液の最終の洗浄および除去の後、水を用いて樹脂を4倍希釈した。トリプシンを、タンパク質100μgあたり1μgの濃度で添加して、結合したタンパク質を37℃で一晩消化した。必要に応じて、8mM TCEP(Pierce,Rockford IL)を添加することによって室温で30分間ペプチドを還元し、10mM ヨードアセトアミドを添加することによって室温で30分間アルキル化してもよい。必要に応じて、ICAT(商標)試薬または他のタグ化試薬を用いた標識のために、トリプシンで遊離されたペプチドを除去して、収集した。等容積の1.5M NaClを用いて3回、80%アセトニトリル(MeCN)/0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を用いて3回、100%メタノールを用いて3回、そして0.1M NHHCOを用いて6回、この樹脂を洗浄した。ペプチド−N−グリコシダーゼF(PNGaseF)を用いた一晩の消化によって、樹脂からN連結グリコペプチドを遊離した。樹脂をスピンさせて上清を保存した。O連結グリコペプチドは、ノイラミニダーゼ/Oグリコシダーゼの組み合わせを用いることによって樹脂から遊離され得る。80% MeCN/0.1%TFAを用いて樹脂を2回洗浄して、上清と組み合わせた。ペプチドを乾燥させて、LC−MS/MS解析のために0.4%酢酸中に再懸濁した。
【0113】
あるいは、化学的にグリコペプチドを樹脂から遊離してもよい。N連結グリコペプチドは、ヒドラジン分解によって遊離され得る。グリコペプチドをデシケーター中でPおよびNaOHで乾燥する。無水ヒドラジンを用いて機密式スクリューキャップチューブ中で反応を行なう。乾熱ブロックを用いて100℃で約10時間反応を行なう。50mM NaOH含有1M NaBH中で、55℃で約18時間、O連結グリコペプチドの遊離を行なう。
【0114】
無水コハク酸を用いたグリコペプチドの同位体標識のために(図3)、ビーズ上のグリコペプチドを、15%NHOHを含有する水(pH>11)で2回洗浄した。1Mのメチルイソウレアを含有する15%NHOH(NHOH/HO=15/85(v/v))を、100倍モル過剰でアミン基に添加して、55℃で10分間インキュベートした。次いでビーズを水で2回、ジメチルホルムアミド(DMF)/ピリジン/HO=50/10/40(v/v/v)で2回洗浄して、DMF/ピリジン/HO=50/10/40(v/v/v)中に再懸濁した。無水コハク酸溶液を最終濃度2mg/mlまで添加した。サンプルを室温で1時間インキュベートして、続いてDMFを用いて3回、水を用いて3回、そして0.1M NHHCOを用いて6回洗浄した。上記のようにPNGaseFを用いてビーズからペプチドを遊離した。
【0115】
あるいは、グリコペプチドのアミン基で他の試薬を用いてグリコペプチドを標識し、一方このペプチドをヒドラジドビースにさらに結合させてもよい。アミノ基を標識できることが試験されて証明されている化合物のリストを図3に挙げる。標識されたペプチドの構造を右側の列に挙げる。一旦グリコペプチドが同位体で標識されれば、PNGaseFを添加して、固体支持体からペプチドを遊離して、質量分析法によって解析した。
【0116】
Pheを用いたグリコペプチドの同位体標識のために(図9を参照のこと)、0.22MのBoc−d0−Phe−OH(Nova Biochem)またはBoc−d5−Phe−OH(CDN同位体)を無水のN,N−ジメチルホルムアミドに溶解した。1,3−ジイソプロピルカルボジイミドを最終濃度0.2Mまで添加した。この反応は、室温で2時間行なった。ビーズ上のグリコペプチドを0.5M NaHCOを用いて3回洗浄して、50%スラリーへ再懸濁した。同じ容積のBoc−Phe−無水物をビーズ上のグリコペプチドに添加して、このビーズを室温で30分間インキュベートした。ビーズを80% MeCN/0.1% TFAを用いて3回洗浄して、乾燥させた。室温で30分間TFAとともにインキュベートすることによって、Boc保護基を除去した。上記のように、グリコシダーゼ緩衝液を用いてビーズを洗浄し、続いてグリコシダーゼを用いて標識されたグリコペプチドの遊離を行なった。
【0117】
本実施例は、同位体タグを用いたグリコペプチドの精製および示差的な標識を記載する。
【0118】
(実施例II:ヒト血清における定量的なグリコペプチドプロファイリング)
本実施例は、ヒト血清における糖タンパク質のプロファイリングを記載する。
【0119】
血清タンパク質プロファイリングのためのグリコペプチド捕捉方法の能力を評価するため、結合の特異性および有効性を最初に決定した。ヒト血清タンパク質をヒドラジンビーズに結合させた。ヒドラジド樹脂への糖タンパク質の捕捉の前(「−ビーズ(−beads)」)または後(「+ビーズ(+beads)」)に、同一のアリコート(1μl)をサンプルから取り出した。9%ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によってサンプルを分離して、銀(総タンパク質染色)、または糖タンパク質染色試薬を用いて染色した(図4)。
【0120】
グリコポリペプチドの単離を、本質的に実施例Iに記載のとおり行なった。血清サンプルの解析のために、2.5mlのヒト血清(総タンパク質200mg)を、脱塩カラム(Bio−Rad)を用いて、100mM NaAc、150mM NaCl(pH5.5)を含む緩衝液に交換した。過ヨウ素酸ナトリウム溶液を15mMでサンプルに加えた。キャップを固定して、チューブをホイルでカバーした。サンプルを室温で1時間、転倒式に回転させた。脱塩カラムを用いてサンプルから過ヨウ素酸ナトリウムを除去した。サンプルの50μlのアリコートをサンプルのカップリングの前に採取した。このサンプルに、8mlのカップリング緩衝液平衡化ヒドラジン樹脂(Bio−Rad)を添加した。このサンプルおよび樹脂をしっかりキャップして、室温で10〜24時間、転倒式に回転させた。カップリング反応の終了後、樹脂を1000×gで10分間スピンダウンして、上清中の非糖タンパク質を除去した。共役後のサンプルの50μlのアリコートを採取した。
【0121】
カップリングの前後に採取したアリコートの各々の一部(1μl)を9%ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)ゲルで解析して、染色した。総タンパク質および糖タンパク質について、それぞれ、銀染色またはGelCode Glycoprotein染色試薬を用いて、糖タンパク質単離の特異性および有効性を決定した。
【0122】
図4に示されるとおり、ビーズへの添加の前の上清(−)は、多数のタンパク質を含み、その多くは糖タンパク質(右パネル、「−」レーン)として染色する。ビーズを添加してともにインキュベーションした後、グリコポリペプチドのほとんどが除去される(左および右のパネル、「+」レーン)。これらの結果によって、ヒドラジドビーズが、血清サンプル由来のグリコポリペプチドに効率的に結合することが示される。主な血清タンパク質であるアルブミンが、上清中に残り(左パネル、「+」レーン)、そして糖タンパク質染色で染色されなかった(右パネル、「−」レーン)ことに注目のこと。従って、アルブミンは、グリコシル化されていないようである。アルブミンは、主要な血清タンパク質である(>50%)であるので、炭水化物特異的結合の使用によって、血清に存在する、量の少ないグリコシル化されたポリペプチドを効率的に解析する方法が得られる。
【0123】
以下は図4に示される実験から明らかである。第一に、予想どおり、血清サンプルは、かなりの量のグリコシル化タンパク質を含む(糖タンパク質染色、「−ビーズ(−beads)」レーン)。第二に、タンパク質のバンドのほとんどが、カップリング反応によって本質的に枯渇された(銀染色されたバンド「+/−ビーズ(+/− beads)レーン」)。第三に、用いられる2つの染色方法の異なる染色強度から決定できる限り、グリコシル化タンパク質を定量的に枯渇させて、グリコシル化タンパク質を含むバンドを、カップリング反応によって優先的に除去した。第四に、血清アルブミンに相当する主なバンドは、カップリング反応によって枯渇されず、そして糖タンパク質染色試薬で染色しなかった。総合的に、これらの結果によって、ヒドラジドビーズが、血清サンプル由来の酸化された糖タンパク質に効率的にかつ特異的に結合することが示される。それらによってまた、主な血清タンパク質であるアルブミンが上清中に優勢に保持されており(左パネル、「+ビーズ(+ beads)」レーン)、糖タンパク質染色で染色されなかった(右パネル、「+/−ビーズ(+/− beads)」レーン)ことが示される。従って、血清糖タンパク質の炭水化物特異的単離の使用によって、血清アルブミン除去のために、通常用いられるアフィニティー枯渇方法よりも経済的で、簡易でかつさらに再現可能な方法が得られる。本発明の方法はまた、変性されたタンパク質の固定と適合するので、アルブミンの選択的除去がアルブミン関連タンパク質をも除去する可能性は低下される。
【0124】
樹脂に結合した非特異的タンパク質を、等容積の8M尿素/0.4M NHHCOを用いて樹脂を3回洗浄することによって、広範に洗い流した。8M尿素/0.4M NHHCO中で、55℃で30分間樹脂上のタンパク質を変性させて、その後に尿素溶液を用いて3回洗浄した。尿素緩衝液の最終洗浄および除去の後、水を用いて樹脂を4倍希釈した。トリプシンをトリプシン1μg/タンパク質100μgの濃度で添加して、37℃で一晩消化した。等容積の1.5M NaClを用いて3回、80% MeCN/0.1% TFAを用いて3回、100%メタノールを用いて3回、そして0.1M NHHCOを用いて6回、この樹脂を洗浄して、トリプシン遊離したペプチドを除去した。N連結グリコペプチドをPNGase Fを用いた37℃一晩の消化によって、樹脂から遊離した。この樹脂をスピンさせて上清を保存した。80% MeCN/0.1%TFAを用いて樹脂を2回洗浄して、上清と合わせた。その後、O連結グリコペプチド遊離のために樹脂を保存した。
【0125】
ペプチドを17本のチューブ中で乾燥して、1本のチューブを50μlの0.4%酢酸に再懸濁した。サンプルの3μlのアリコート(9μlの血清由来)をμLC−MS/MS解析のためにキャピラリーカラムにロードした。SEQUEST(Engら、J.Am.Soc.Mass.Spectrom.5:976〜989(1994))を用いて、ヒトデータベースに対してCIDスペクトルを検索して、グリコペプチドおよび糖タンパク質を同定した(図5、中央のパネル)。
【0126】
グリコペプチド捕捉および遊離によって達成されたペプチドサンプル複雑性の低減によって、従来のように調製されたコントロールサンプルに比べて、匹敵するμLC−MS/MSプロトコールが適用された場合、より多くの血清タンパク質の同定が可能になるか否かを決定するため、上記のように同定されたグリコペプチドおよび糖タンパク質を、同じμLC−MS/MSプロトコールを用いて他の方法から同定した血清タンパク質の数と比較した。ICAT試薬方法を用いて、システイン含有ペプチドを選択的に単離することによって、コントロールサンプルを生成した(Gygiら、Nat.Biotechnol.17:994〜999(1999))。グリコペプチド捕捉方法によって単離されたペプチドの解析のためと同じμLC−ESI−MS/MS法を用いるか(図5、右側パネル)、または、広範な3次元(陽イオン交換/ビオチンアフィニティー/逆相液体クロマトグラフィー(RP−LC))のいずれかを用いて、これらを解析し、ここではペプチド混合物が17の陽イオン交換画分に分画して、これを連続してμLC−ESI−MS/MSによって解析した(図5、左パネル;Hanら、Nat.Biotechnol.19:946〜951(2001))。
【0127】
約2時間の質量分析時間を要するシングルμLC−ESI−MS/MSを実行して、57個の固有の血清タンパク質に対する145個の固有のペプチドマッピングを、グリコペプチド捕捉方法(2.5ペプチド/タンパク質)によって同定した。匹敵するMS方法をシステインタグペプチドの解析に供した場合、23個の固有のタンパク質に対する72個の固有のペプチドマッピングを同定して、そのうちの15個をまたグリコペプチド捕捉方法を介して同定した(図5、右パネル)。約34時間の質量分析時間を要する、システインタグ化ペプチドの解析のための広範なペプチド分離プロトコールを用いて、97個の血清タンパク質に対する356個の固有のペプチドマッピングを同定した。グリコペプチド捕捉方法によって単離され、一次元LC−MS/MSによって同定された57個のタンパク質のうち、23個のタンパク質は、システインタグ化ペプチドの広範なμLC−ESI−MS/MSベースのプロトコールによっては示されなかった(図5、左パネル)。これらのデータによって、グリコペプチド捕捉方法によって提供された血清解析の有効性の上昇が実証される。
【0128】
血清タンパク質解析のための現在の「ゴールドスタンダード法(gold standard method)」は、高い解像度の2次元電気泳動(2DE)およびMSに基づくので、グリコペプチド捕捉方法によって単離されたペプチドのシングルLC−MS/MS解析によって同定されたタンパク質の数はまた、SWISS−2DPAGE(us.expasy.org/cgi−bin/get−ch2d−table.pl)での最新の2DE血漿タンパク質マッピングにおいて注記されるタンパク質の数とも関連していた。2DEマッピングは、626の検出されたスポットから58個の固有のタンパク質を同定した。これらのうち、270個のスポットは免疫グロブリン鎖の8つの異なる形態に相当する。グリコペプチド捕捉および一次元LC−MS/MS解析は、57個のタンパク質を同定し、そのうちの7個が異なる免疫グロブリン鎖であり、そして16個のタンパク質はSWISS−2DPAGEに含まれない。たとえ、サンプルおよび実験のバラツキの理由のために3つの方法から得られたデータを直接比較できなくても、血清タンパク質プロファイリングのための各々の方法の能力を評価することに関して4つの主な結論を引き出すことができる。第一に、2DE/MSベースの方法およびシステインタグ化方法の両方とも、総血漿タンパク質量のうち80%より多くに相当する5つの主な血漿タンパク質(アルブミン、α−1−抗トリプシン、β−2−マクログロブリン、トランスフェリンおよびγグロブリン)を含む、多数の高い含量のタンパク質の存在によって実質的に制限される(すなわち、その極度の「トップダウン(top down)」問題)。システインタグ化ペプチドを解析した場合、質量分析計は、アルブミンのCIDスペクトル上で捕捉時間のうち三分の一を過ごした(システインタグ化方法によって同定されたペプチドのうち39%がアルブミン由来であった)。対照的に、グリコペプチド捕捉法をアルブミンに対して選択したところ、同定されたペプチドのうちのわずか1%がアルブミン由来であった。
【0129】
第二に、いずれの伝統的な方法によっても同定されなかったタンパク質が、グリコペプチド捕捉に従って容易に同定された(図5)。これによって、このグリコペプチド捕捉方法が劇的に短縮されたデータ獲得時間内でさらに深い血清タンパク質対象範囲を得る能力が証明される。伝統的な方法によって解析されたこのタンパク質の多様性の限界は、システイン反応性タグを用いてのみ同定された63個のタンパク質のうち18個が異なる免疫グロブリンであったという観察によってさらに例示される。このグリコペプチド捕捉方法によって免疫グロブリンの定常領域由来のペプチドのみが同定され、従って免疫グロブリン由来ペプチドの数は制限された(グリコペプチド捕捉方法によって7個の免疫グロブリン鎖が同定され、これはまたシステインタグ化方法によっても同定された)。
【0130】
第三に、グリコペプチド捕捉方法は、サンプルの複雑性を低下させた;タンパク質1個あたり平均2.5個のペプチドが検出された。第四に、同定されたペプチドにおけるNグリコシル化配列モチーフの存在によって、特異的な単離のさらなる確証が得られ、そしてデータベース検索結果における信頼が向上した。従って、グリコペプチド捕捉方法によって達成されたサンプル複雑性の低下によって、血清および同様のタンパク質組成の他の体液の解析について実質的な進歩が得られる。
【0131】
グリコペプチド捕捉方法を用いて2.5mlの血清から単離されたペプチドを陽イオン交換分画によってさらに分離した(Hanら、Nat.Biotechnol.19:946〜951(2001))。上記のヒドラジド樹脂から遊離されたペプチドを含む17本のチューブのうち4本(等しく600μlの血清)を、陽イオン交換クロマトグラフィーによって38本の画分に分けて、20μlの0.4%酢酸溶液に再懸濁した。各々の画分の5μlのアリコートを、μLC−MS/MS解析のためにキャピラリーカラムにロードした。SEQUEST(Engら、J.Am.Soc.Mass.Spectrom.5:976〜989(1994))を用いて、ヒトデータベースに対してCIDスペクトルを検索して、グリコペプチドおよび糖タンパク質を同定した。
【0132】
ヒト血清サンプル由来の多数の糖タンパク質およびそのグリコペプチドを、PNGase Fを用いて遊離した。全部で1011個の同定されたタンパク質が、少なくとも0.5のタンパク質確率スコアを有した。異なるタンパク質およびペプチドの確率スコアでの感度および誤差率の分布に基づいて(Kellerら、Anal.Chem.74:5383〜5392(2002))、少なくとも0.5のタンパク質確率スコアを有する、832個の正しく同定されたタンパク質が存在した(表2)。
【0133】
表2.種々のタンパク質確率スコアで評価した感度、誤差率、正確なタンパク質および誤ったタンパク質の数。
【0134】
【表2】

【0135】
これらの結果によって、グリコペプチド捕捉方法はまた、血清タンパク質の解析からアルブミンを除き、これによって量の少ない血清タンパク質の解析が可能になることが示される。この方法によって、他の方法では容易に同定されなかった多数の血清タンパク質の同定が可能になった。
【0136】
血清は、身体の健康についての膨大な情報を含む複雑な体液である。身体を通じて血液が循環する場合、細胞から分泌されたタンパク質、細胞表面タンパク質から断片化されたタンパク質、および全ての組織の死滅細胞から遊離されたタンパク質が、血清にたまる。血清はまた、診断目的のために最も容易に採取可能な試料でもある。DNAアレイ技術では、血清サンプルを解析できない。なぜなら、RNAを抽出する特定の組織サンプルがないからである。血漿または血清のタンパク質の解析もまた、プロテオミクスの焦点である。2次元の電気泳動技術が、1977年以来ヒト血漿タンパク質の解析において用いられている(AndersonおよびAnderson,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 74:5421〜5425(1977))。この2DE法を用いて、現在までに289個の血漿タンパク質が同定されている(AndersonおよびAnderson,Mol.Cell.Proteomics 1:845〜687(2002))。近年では、質量分析法を用いた血清タンパク質の直接解析を用いて、ヒト血清におけるタンパク質が解析されている。この解析では、豊富な免疫グロブリンタンパク質を最初に、血清サンプルからアフィニティー枯渇させた。得られたペプチドを強力な陽イオン交換クロマトグラフィーによって、解析の前に異なる画分に分離した。イオントラップ質量分析と組み合わせたオンライン逆相マイクロキャピラリー液体クロマトグラフィーによって、490個の血清タンパク質を同定した(Adkinsら、Mol.Cell.Proteomics 1947〜1955(2002))。
【0137】
前にNグリコシル化されたペプチドについてのさらに広範な分離プロトコールの使用が血清タンパク質の対象範囲の深さを増大するが、用いられる質量分析法の検出範囲内におさまるには短すぎるか長すぎるトリプシン消化ペプチドは、同定されない。これは、少なくとも一部は、トリプシンの切断特性とは異なる切断特性を有するプロテアーゼの使用によって克服できる。
【0138】
他のプロテオミクス法に比べてグリコペプチド捕捉法を用いて同定された血清タンパク質の数の増加によって現在のところ、グリコペプチド法は血清タンパク質を解析するのに有効な方法であり、血清中の疾患バイオマーカーとして量の少ないタンパク質を同定する能力を有することが示される。
【0139】
(実施例III)
(マクロファージによって分泌された糖タンパク質の定量的プロファイリング)
本実施例は、刺激されたRAW 264.7マウス単球/マクロファージ細胞株から分泌されたタンパク質サンプルの調製を記載する。
【0140】
手短に言えば、10個のRAW細胞を用いた。1日目に、10nM ホルボール12−ミリステート−13−アセテート(PMA)を用いて2.5×10細胞/cmの密度で細胞をプレートした。2日目に、培地を取り出して、新しい培地をPMAなしで添加した。3日目に、血清なしの培地を用いてこれらの細胞を3回洗浄した。
【0141】
リポ多糖類(LPS)を、実験細胞に刺激物として、血清なし、PMAなしの培地とともに添加した。細胞を37℃で4時間インキュベートした。上清を取り出して、細胞を3,000×gで5分間遠心分離して、細胞および大きい破片を除去した。上清を100,000×gで1時間遠心分離して、破片を除去した。
【0142】
80mL Centricon濃縮機を用いて、上清を濃縮し、ここでは各々の条件について300mLを1mL未満まで濃縮した。タンパク質の最終濃度は少なくとも2mg/mLであった。
【0143】
未刺激および刺激されたマクロファージから分泌されたタンパク質の1mgを、脱塩カラム(Bio−Rad)を用いて、100mM NaAc、150mM NaCl、pH5.5を含む緩衝液に変えた。過ヨウ素酸ナトリウム溶液を15mMでこのサンプルに加えた。キャップを固定して、チューブをホイルでカバーした。このサンプルを室温で1時間、転倒式に回転させた。脱塩カラムを用いてこのサンプルから過ヨウ素酸ナトリウムを除去した。このサンプルの50μlのアリコートをサンプルのカップリングの前に採取した。このサンプルに、0.2mlのカップリング緩衝液平衡化ヒドラジン樹脂(Bio−Rad)を添加した。この樹脂およびサンプルをしっかりキャップして、室温で10〜24時間、転倒式に回転させた。カップリング反応の終了後、樹脂を1000×gで10分間スピンダウンして、上清中の非糖タンパク質を除去した。共役後のサンプルの50μlのアリコートを採取した。樹脂への結合の前後のサンプルのアリコートを、9%SDS−PAGEゲルで解析して、銀染色試薬を用いて総タンパク質について染色して、糖タンパク質単離の特異性および有効性を決定した。
【0144】
樹脂に結合した非特異的タンパク質を、等容積の8M尿素/0.4M NHHCOを用いて樹脂を3回洗浄することによって、広範に洗い流した。8M尿素/0.4M NHHCO中で、室温で30分間、樹脂上のタンパク質を変性させて、その後に尿素溶液を用いて3回洗浄した。尿素緩衝液の最終洗浄および除去の後、水を用いて樹脂を4倍希釈した。トリプシンをタンパク質100μgあたりトリプシン1μgの濃度で添加して、37℃で一晩消化した。等容積の1.5M NaClを用いて3回、80% MeCN/0.1% TFAを用いて3回、100%メタノールを用いて3回、0.1M NHHCOを用いて6回、この樹脂を洗浄することによって、トリプシン遊離したペプチドを除去した。N連結グリコペプチドを、Nグリコシダーゼを用いた37℃一晩の消化によって樹脂から遊離した。この樹脂をスピンさせて上清を保存した。80% MeCN/0.1%TFAを用いて樹脂を2回洗浄して、上清と組み合わせた。その後、O連結グリコペプチド遊離のために樹脂を保存した。
【0145】
ペプチドを乾燥させて、50μlの0.4%酢酸に再懸濁した。サンプルの3μlをμLC−MS/MS解析のためにキャピラリーカラムにロードした。SEQUESTを用いて、マウスデータベースに対してCIDスペクトルを検索して、グリコペプチドおよび糖タンパク質を同定した。
【0146】
図6は、未処理またはLPS処理のRAWマクロファージ細胞の分泌型タンパク質から同定された糖タンパク質を示す。全部で32個のタンパク質を同定した。未処理の細胞および処理された細胞の両方において、19個の分泌されたグリコシル化タンパク質を同定した。未処理の細胞において8個のタンパク質を同定し、処理した細胞において5個のタンパク質を同定した。公知のマクロファージ分泌タンパク質のうちの1つである腫瘍壊死因子(TNF)は、LPS処理後のRAW細胞由来の培地中で陽性に特定された。これらの結果によって、グリコポリペプチドが細胞由来の分泌型タンパク質から、有効かつ特異的な方式で選択的に単離され得ることが示される。
【0147】
無水コハク酸を用いたグリコペプチドの同位体標識のために(図3)、ヒドラジド樹脂から遊離された乾燥ペプチドを、DMF/ピリジン/HO=50/10/40(v/v/v)中に再懸濁した。無水コハク酸溶液を最終濃度2mg/mlまで添加した。サンプルを室温で1時間インキュベートして、続いてC18カラムを用いるペプチドの精製を行なった。標識されたペプチドを質量分析法によって解析する。
【0148】
これらの結果によって、グリコシル化された分泌タンパク質が単離され得、同定され得、定量され得ることが実証される。
【0149】
(実施例IV)
(細胞表面タンパク質の定量的なグリコペプチドプロファイリング)
本実施例は、細胞表面糖タンパク質のプロファイリングを記載する。
【0150】
細胞表面タンパク質の解析のためのグリコペプチド捕獲方法の能力を評価するため、LNCaP前立腺癌上皮細胞株からの粗膜画分を用いて、N連結グリコシル化部位を含むペプチドを選択して同定した(Horoszewiczら、Prog.Clin.Biol.Res.37:115〜132(1980))。60μgの粗膜画分から単離された遊離されたペプチドを一次元μLC−MS/MSによって解析して、データを処理した。
【0151】
手短に言えば、本質的に実施例Iに記載のとおりグリコポリペプチドを単離した。細胞表面タンパク質の解析のために、前立腺癌細胞株LNCaP(10%ウシ胎仔血清を補充したRPMI培地中で増殖)由来の4mgの粗膜画分を、1% NP40、6M尿素、100mM Tris緩衝液、pH8.3中に溶解した。この緩衝液を、脱塩カラム(Bio−Rad;Hercules CA)を用いて、100mM NaAc、150mM NaCl、pH5.5を含むカップリング緩衝液に変えた。過ヨウ素酸ナトリウム溶液を15mMでこのサンプルに加えた。キャップを固定して、チューブをホイルでカバーした。サンプルを室温で1時間、転倒式に回転させた。脱塩カラムを用いてサンプルから過ヨウ素酸ナトリウムを除去した。50μlのアリコートをサンプルのカップリングの前に採取した。このサンプルに、1mlのカップリング緩衝液平衡化ヒドラジン樹脂(Bio−Rad)を添加した。この樹脂およびサンプルをしっかりキャップして、室温で10〜24時間、転倒式に回転させた。
【0152】
カップリング反応の終了後、樹脂を1000×gで10分間スピンダウンして、等容積の8M尿素/0.4M NHHCOを用いて樹脂を3回洗浄することによって、非糖タンパク質を広範に洗い流した。8M尿素/0.4M NHHCO中で、55℃で30分間、樹脂上のタンパク質を変性させて、その後に尿素溶液を用いて3回洗浄した。尿素緩衝液の最終洗浄および除去の後、水を用いて樹脂を4倍希釈した。トリプシンを、タンパク質100μgあたりトリプシン1μgの濃度で添加して、37℃で一晩消化させた。等容積の1.5M NaClを用いて3回、80% MeCN/0.1% TFAを用いて3回、100%メタノールを用いて3回、そして0.1M NHHCOを用いて6回、この樹脂を洗浄することによって、トリプシン遊離したペプチドを除去した。N連結グリコペプチドを、Nグリコシダーゼを用いた一晩の消化によって、樹脂から遊離した。この樹脂をスピンさせて上清を保存した。80% MeCN/0.1%TFAを用いてこの樹脂を2回洗浄して、上清と合わせた。その後、O連結グリコペプチド遊離のために樹脂を保存した。
【0153】
ペプチドを4本のチューブ中で乾燥させて、1本のチューブを50μlの0.4%酢酸に再懸濁した。サンプルの3μlのアリコート(60μgのもとのミクロソームタンパク質由来)をμLC−MS/MS解析のためにキャピラリーカラムにロードした。SEQUEST(Engら、前出、1994)を用いて、ヒトデータベースに対してCIDスペクトルを検索して、グリコペプチドおよび糖タンパク質を同定した(図7および8、ならびに表3を参照のこと)。
【0154】
図7に示されるように、1203個の固有のタンパク質を、ICAT試薬を用い、続いて集約3Dクロマトグラフィーを用いてLNCaP細胞のミクロソーム画分から同定して、ペプチド混合物を分画した。グリコペプチド解析を用いて、64個の固有のタンパク質を同定した。これらのうち、総ミクロソーム画分解析から同定されなかった35個のグリコポリペプチドを同定した。表3は、前立腺癌細胞株LNCaPの粗膜画分からの糖タンパク質およびグリコペプチド(配列番号64〜174)、ならびに細胞下局在化を示す。グリコペプチドは、保存されたN連結グリコシル化モチーフ(NXS/T)(太字で示す)を含む。
【0155】
同定されたタンパク質の細胞下局在化を、SWISS−PROTデータベース(www.expasy.org/sprot/)または予測ツール、PSORT II(psort.ims.u−tokyo.ac.jp/)からの情報を用いてさらに解析した。図8に示されるように、全部で64個の同定された糖タンパク質のうち45個(70%)が真正であって、予測された膜貫通タンパク質であった。非膜貫通タンパク質はほとんど、糖タンパク質について富化されることが公知である2つの細胞区画である、細胞外(7個のタンパク質、11%)、またはリソソーム(9個のタンパク質、14%)のいずれかとして示された。3個のタンパク質のみが細胞質タンパク質として割り当てられた(5%)。興味深いことに、2つの以前に同定された抗原である、黒色腫関連抗原ME491(CD63)および前立腺特異的膜抗原I(FOH1)もこの実験において同定された。これらのデータによって、粗ミクロソーム画分の解析を上回る、細胞表面タンパク質についての選択性の顕著な改善が示される。同定されたタンパク質の40%より多くが、粗ミクロソーム画分の解析において膜タンパク質ではなかった(Hanら、Nat.Biotechnol.19:946〜951(2001))。このデータによってまた、代表的には、2DEを用いて行なった解析において過少評価された、高分子量および極端なpIのタンパク質は、この方法によって容易に同定されることが示される。これは、基礎の膜特異的硫酸ヘパランプロテオグリカンコアタンパク質(遺伝子名SW:PGBM)、470kDa細胞外タンパク質、および酸性(pI=4.39)膜貫通タンパク質シグナル配列レセプターαサブユニット(遺伝子名:SW:SSRA)の同定によって実証される。これらの結果によって、グリコペプチド捕獲方法はまた、原形質膜に含まれるタンパク質の選択的な解析のために有効であることが示される。さらに、総ミクロソーム画分の解析において検出できなかったタンパク質が容易に同定された(図7を参照のこと)。これらの結果によって、これらの方法は総ミクロソームタンパク質画分の解析に、この方法でなければ受け入れられないグリコポリペプチドを解析するために用いることができることが示される。
【0156】
【表3−1】

【0157】
【表3−2】

【0158】
【表3−3】

【0159】
【表3−4】

【0160】
【表3−5】

【0161】
本実験で同定されたタンパク質の総数は比較的少ないが、広範な分離なしにLC−MS/MSを用いて複雑なサンプルから同定された固有のタンパク質の数と一致する。質量分析計における前駆体イオン選択の「トップダウン(top down)」方式のせいで、最も豊富なタンパク質が優先的に同定される。より多数のタンパク質を同定するためには、サンプルを質量分析解析の前にさらに広範に分画しなければならない。
【0162】
この方法によって、糖タンパク質またはグリコペプチドの定量的プロファイリングが得られる。この方法によって複雑なサンプル中のN連結炭水化物を含む糖タンパク質の同定および定量、ならびにグリコシル化部位の決定が可能になる。この方法の選択性によって、この方法は、グリコシル化されたタンパク質において富化されているサンプルの解析に理想的に適合される。これらは、細胞膜、体液および分泌タンパク質を含む。このようなサンプルは、詳細には、免疫療法または薬理学的介入のための、診断バイオマーカーおよび標的の同定のために、生物学的重要性および臨床的重要性が大きい。
【0163】
この方法とICAT試薬を用いるシステインタグ化方法(Gygiら、前出、1999)とを組み合わせることによって、個々のN連結グリコシル化部位の占有率およびその変化をまた決定することができる。これは、N連結グリコシル化の経路が欠如している先天性I型グリコシル化異常症を有する患者によって例証されるように、グリコシル化占有率の変化が疑われる研究において特に興味深い(AebiおよびHennet,Trends Cell Biol.11:136〜141(2001))。
【0164】
この方法の選択性によってまた、複雑なタンパク質サンプルが解析される場合、ペプチド混合物の複雑性は実質的に低下される。なぜなら糖タンパク質は一般に2〜3個のグリコシル化部位しか含まないからである。この方法は、N連結グリコシル化部位の解析に集中している。類似のストラテジーを考案して、O−グリコシル化ペプチドをまた解析することができる。そして実際に、タンパク質サンプルが、固体支持体上に一旦固定されれば、引き続くN連結およびO連結グリコシル化ペプチド遊離に供されてもよく、これによってこの方法の解像度、およびそれによって得られるデータの情報内容がさらに向上する。従って、この方法は、プロテオミクス検索および診断適用において広範な適用を有する。
【0165】
これらの結果によって、膜グリコポリペプチドは容易に解析できることが示される。さらに、総ミクロソーム画分の解析において検出できないグリコポリペプチドが容易に同定された(図7を参照のこと)。これらの結果によって、この方法でなければ総ミクロソームタンパク質画分の解析に受け入れられないグリコポリペプチドを解析するためにこの方法を用いることができることが示される。また、この方法によって、容易な薬物接近性および抗体関連治療について治療上の価値を有する、原形質膜および細胞外表面に位置するタンパク質の解析および集束が簡単になることに注目のこと。
【0166】
(実施例V)
(マウス腹水の定量的なグリコペプチドプロファイリング)
本実施例は、マウス腹水由来の糖タンパク質のプロファイリングを記載する。
【0167】
グリコポリペプチドは、本質的に実施例Iに記載のように精製した。腹水の解析のために、20μlのマウス腹水(総タンパク質600μg)を、脱塩カラム(Bio−Rad)を用いて、100mM NaAc、150mM NaCl、pH5.5を含む緩衝液に変えた。過ヨウ素酸ナトリウム溶液をこのサンプルに15mMで加えた。キャップを固定して、チューブをホイルでカバーした。サンプルを室温で1時間、転倒式に回転させた。脱塩カラムを用いてサンプルから過ヨウ素酸ナトリウムを除去した。20μlのアリコートのカップリング緩衝液平衡化ヒドラジン樹脂(Bio−Rad)をこのサンプルに添加した。このサンプルおよび樹脂をしっかりキャップして、室温で10〜24時間、転倒式に回転させた。
【0168】
カップリング反応の終了後、樹脂を1000×gで10分間回転させて、等容積の8M尿素/0.4M NHHCOを用いて樹脂を3回洗浄することによって、非糖タンパク質を広範に洗い流した。8M尿素/0.4M NHHCO中で、樹脂上のタンパク質を55℃で30分間変性させて、続いて尿素溶液を用いて3回洗浄した。尿素緩衝液の最終洗浄および除去の後、水を用いて樹脂を4倍希釈した。トリプシンを、タンパク質100μgあたりトリプシン1μgの濃度で添加して、37℃で一晩消化した。等容積の1.5M NaClを用いて3回、80% MeCN/0.1% TFAを用いて3回、100%メタノールを用いて3回、そして0.5M NHHCOを用いて3回、この樹脂を洗浄することによって、トリプシン遊離したペプチドを除去して、この樹脂を20μlの0.5M NaHCO、pH8.0に再懸濁した。
【0169】
ペプチドの修飾のために、0.22MのBoc−d0−Phe−OH(Nova Biochem)またはBoc−d5−Phe−OH(CDN 同位体)を無水N,N−ジメチルホルムアミドに溶解した。1,3−ジイソプロピルカルボジイミドを、最終濃度0.2Mまで添加して、反応を室温で2時間行なった。10μlのアリコートのBoc−Phe無水物の重型および軽型をビーズ上の10μlのグリコペプチドに添加して、室温で30分間インキュベートした。このビーズを80%MeCN/0.1% TFAを用いて3回洗浄し、合わせて乾燥した。TFAとともに室温で30分間インキュベートすることによってBocを除去した。このビーズをグリコシダーゼ緩衝液で洗浄し、その後37℃でNグリコシダーゼを用いて、標識したグリコペプチドを遊離させた。Nグリコペプチドを乾燥させて、20μlの0.4%酢酸に再懸濁した。2μlのアリコートをLC−MS/MSによって解析して、PheによってグリコペプチドのN末端標識の定量を行なった(図9〜12を参照のこと)。
【0170】
LCQ、およびSequestによるタンパク質データベース検索によるペプチドの質量分析解析によって、保存されたNグリコシル化モチーフNXS/Tを有するNグリコシル化ペプチドの同定が行なわれた。20μlのマウス腹水から50個を超える糖タンパク質が同定され、このことはこの方法が生物学的サンプルからの糖タンパク質の同定のために高感度かつ有用であることを示す。
【0171】
図9に示されるとおり、2つの等量のマウス腹水(1μl)を用いて、Pheを用いた同位体標識を行ない、以前にN連結したグリコペプチドをMS/MSを用いて同定した。図10は、Pheを用いた同位体標識後の同定されたペプチドの列挙を示す。円によって示される、同定されたペプチドのうちの1つの対応する衝突誘起解離(CID)スペクトルを図11に示した。
【0172】
図12は、図11において測定されたペプチドについての再構成したイオンクロマトグラムを示す。同位体タグ化ペプチドの重型および軽型について算出されたピーク面積の比を用いて、もとの混合物における相対的なペプチドの豊富さを決定した(軽型スキャン:質量1837.0;重型スキャン:質量1842.0)。この比(0.81:1)は、1対1という期待される比と合理的にかなり一致した。
【0173】
これらの結果によって、複雑な体液由来のグリコポリペプチドが解析され、道程されて、定量され得ることが示される。同位体タグを用いて、2つのサンプルを比較して、もとの混合物におけるペプチドの相対的な量を決定したところ、この方法は定量的に用いることができることが示された。
【0174】
(実施例VI)
(既知の比を有するコントロールの糖タンパク質の定量的なグリコペプチド解析)
本実施例は、既知の比を有する純粋な糖タンパク質混合物から、および2つの等量のヒト血清タンパク質からの糖タンパク質の定量的解析を記載する。
【0175】
同じ3つの糖タンパク質を異なる量で含む2つの混合物を調製した。このタンパク質は、Calibiochem(San Diego,CA)から購入した。混合物AおよびBにおける各々のタンパク質の量(μg)は、α−1−抗トリプシン(50、10)、α−2−hs−糖タンパク質(10、30)、およびα−1−抗キモトリプシン(2、2):であった。2つのタンパク質混合物から、前にN連結されたグリコシル化ペプチドを、実施例Iに記載のように精製して標識した。
【0176】
μLC−ESI−MS/MSによって、前にNグリコシル化されたペプチドを解析して、同定した。表4は、2つの実験からの各々の同定されたペプチドについての同定された配列(配列番号:175〜179)および観察されたd0/d4ペプチド比を示す。4つの同定されたNグリコシル化部位のうち、3つが以前に記載されている(Yoshiokaら、J.Biol.Chem.261:1655〜1676(1986);Millsら、Proteomics 1:778〜786(2001);Baumannら、J.Mol.Biol.218:595〜606(1991))が、一方、配列FN#LTETSEAEIHQSFQH(配列番号180)のN#は、以前に記載されていないα−1−抗キモトリプシンにおけるグリコシル化部位に相当する。同位体比から算出された存在比は、予想される値に合理的に一致した。これらの結果によって、この方法が糖タンパク質の混合物からN連結グリコペプチドを選択的に単離および定量することが示される。
【0177】
【表4】

【0178】
糖タンパク質の特異的な捕獲は、以前に記載されたように過ヨウ素酸ナトリウムによる、炭水化物の隣接する炭素原子上のヒドロキシル基のアルデヒドへの酸化に基づく(Bobbitt,Adv.Carbohydr.Chem.11,1〜41(1956))。このアルデヒドは次に、アミンまたはヒドラジンを含有する分子に共有結合する(Bayerら、Anal.Biochem.170:271〜281(1988))。用いられる条件下で、アルデヒドを生じる過ヨウ素酸ナトリウムの予想される唯一の副反応は、N末端セリン残基によって例証されるように、隣接する炭素原子上に一級アミンおよび二級ヒドロキシル基を含むポリペプチドの酸化である(GeogheganおよびStroh,Bioconjug.Chem.3:138〜146(1992))。この立体配座はタンパク質ではまれである。従って、ヒドラジン樹脂に対する過ヨウ素酸酸化タンパク質の結合は、N連結および/またはO連結の炭水化物を含む糖タンパク質について完全に特異的である。種々のタイプのオリゴ糖は、異なる過ヨウ素酸濃度および反応条件で酸化する。ここで用いられる条件(15mM 過ヨウ素酸ナトリウム、室温で1時間)は、隣接する炭素原子のヒドロキシル基で全てのタイプのオリゴ糖の酸化を確実にするように選択した。PNGase Fによる前にNグリコシル化されたペプチドの酵素触媒された遊離によって、N連結グリコペプチドおよびN連結グリコシル化部位についての特異性が得られる(Maleyら、Anal.Biochem.180:195〜204(1989))。しかし、PNGase Fは、コアフコシル化を含有するN連結オリゴ糖を遊離しない。
【0179】
グリコペプチド選択方法が、ヒト血清の種々のサンプルから単離されたN連結グリコペプチドのプロフィールにおける定量的変化を検出するために用いることができるか否かについても決定した。原理証明実験において、2つの等量のヒト血清由来のグリコペプチド(総タンパク質1mg)を、C末端リジン残基が実施例Iに記載されるようなホモアルギニンに転化された後、N末端で軽型(d0)または重型(d4)のいずれかの無水コハク酸で同位体標識した。リジンからホモアルギニンへの転化によって、MALDI四重極飛行時間(MALDI−QqTOF)質量分析による検出が容易にされて、安定な同位体タグが定量化のために取り込まれた。標識後、2つのサンプルを含むビーズを組み合わせて、前にN連結されたグリコペプチドを遊離した。1.25μlの血清に等しい、サンプルの画分を、RP−LCによってMALDIプレート上の29個のスポットに分画し、MALDI−QqTOF MSおよびMS/MSによって解析した。この実験を繰り返して、ESI−QqTOF MSによって解析し、その結果は、MALDI−QqTOF MSによって同定された結果に匹敵した。表5は、2つの実験からの同定されたペプチド(配列番号181〜197)、それらが由来するタンパク質、およびそれらの観察された定量的な比を列挙している。一般に、観察された比は予期される比である1に近かった。観察された比と予想される比との間の相違は、0%〜29%の間に及び、平均8%であった。これによって、安定な同位体タグ化と組み合わされた場合、グリコペプチド捕獲方法が合理的な定量を可能にすることが示される。
【0180】
図13において、単一のペプチド対について定量をさらに図示している。MS方式での28個のスポットにおける質量分析のシングルスキャンによって、4単位の質量の相違を有する8対のシグナルが同定された(図13、で示した)。m/z=1577とm/z=1590との間の質量範囲の展開によって、シグナルが1.11の定量的な比を有した、1579.74および1583.78のモノアイソトピックピークでのペプチド対の天然の同位体分布が解明された。
【0181】
【表5−1】

【0182】
【表5−2】

【0183】
これらの結果によって、この方法は糖タンパク質の混合物からN連結グリコペプチドを選択的に単離および定量することが示される。
【0184】
(実施例VII)
(N連結グリコシル化のためのN連結グリコシル化部位およびコンセンサスモチーフの同定)
本実施例は、天然のタンパク質においてN連結炭水化物によって占められるアスパラギン残基の同定、および同定されたN連結グリコシル化部位のアラインメントからのコンセンサスモチーフの決定を記載する。
【0185】
糖タンパク質を、ヒドラジド樹脂に結合体化して、実施例Iに記載のとおりPNGase Fによって固体支持体から遊離した。糖タンパク質由来のオリゴ糖のPNGase F触媒した切断によって、リンカーアスパラギンをアスパラギン酸に脱アミノし、1質量単位の質量シフトを生じた。アスパラギンとアスパラギン酸との間の単一の質量単位相違を、質量分析によって検出し、これによってオリゴ糖が結合したアスパラギン酸残基を同定した。
【0186】
糖タンパク質からのオリゴ糖の切断後のアスパラギンからアスパラギン酸への転化によって生じる1質量単位の相違は、MS/MSスペクトルのデータベース検索の間のSequest検索パラメーターにおいて特定された。得られたMS/MSスペクトルをNCBI由来のヒトタンパク質データベースに対して検索した。MALDI QqTOF(MDS SCIEX;Concord,Ontario CA)によって得られたMS/MSスペクトルについては、検索されている各々のペプチドの1価の荷電のイオンの質量ウインドウには、測定されたモノイソトピック質量と算出されたモノイソトピック質量との間に0.08Daの許容誤差が与えられ、そしてデータベースペプチドのb、yおよびzのイオン系列は、Sequest解析に含まれた。Finnigan LCQイオントラップ質量分析計によって得られたMS/MSスペクトルについては、検索されている各々のペプチドの質量ウインドウには、測定された平均質量と算出された平均質量との間に3Daの許容誤差が与えられ、b、およびyのイオン系列が、Sequest解析に含まれた。この配列データベースは、特定の残基に対する以下の可能性のある修飾を予想して設定した:カルボキシメチル化システイン、酸化されたメチオニンおよび炭水化物結合の部位でのAsnからAspの酵素触媒転化。他の制約はSequest検索に含まれなかった。
【0187】
実施例VIで同定されたm/z=1579.74を有する前駆体イオンを、MS/MSおよび得られたスペクトルの配列データベース検索によってさらに解析したこところ、血清プロテアーゼであるヒト血漿カリクレインから、ペプチド配列IYSGILN#LSDITKを用いてこれが同定された(図14)。N#は、ペプチド配列における修飾されたアスパラギンを示す。このペプチドからのyイオンの系列は、マッチングを確認し、そして、アスパラギンとアスパラギン酸との間の単一の質量単位の相違が、MALDI QqTOF質量分析によって容易に検出できることを示し、従って、このペプチド内の正確なグリコシル化部位がN7であることが確認された。
【0188】
NからDへの変換で同定されたペプチドを、Sequence Logosを用いて整列させた(Schneider および Stephens,Nucleic Acids Res.18:6097〜6100(1990))。図15は、整列された配列のパターンを示す。整列された配列における各々の位置について、各々の文字の高さは、その頻度と比例しており、最も一般的なものが一番上である。予想どおり、図15では位置21でNが高い優先であった(他の位置の詳細を示すために取り出した)。Nの優先度の次には23位置でのSまたはTが続く(他の位置の残基を示すために取り出した)。これは、公知のコンセンサスN連結グリコシル化モチーフである。さらに、位置9、15、20、22、24、28、29でのL、V、A、S、Gの優先度を同定した。
【0189】
同定されたグリコペプチドを用いてグリコペプチドデータベースを構築した。以前に規定されたNXS/T配列を有する潜在的なN連結グリコシル化モチーフについてヒトデータベースを検索する場合、ヒトタンパク質の60%が、コンセンサスなN連結グリコシル化モチーフを含む。グリコペプチド捕獲方法により同定されたN連結グリコペプチドのアラインメントによって、精錬されかつ伸長されたコンセンサスなN連結グリコシル化モチーフをここで記載した。精錬されたモチーフを用いて、可能なN連結グリコシル化部位のための全体的データベースを検索するためのアルゴリズムを作成する。これによってデータベース検索制約が増大し、偽の同定の性向が減る。公知のタンパク質のタンパク質位相幾何学、またはPSORT IIのような予測プログラムからの予測タンパク質位相幾何学を用いて、予測されるN連結グリコシル化モチーフの信頼性をさらに向上させることができる。なぜなら、N連結グリコシル化は、細胞外ドメインおよびタンパク質表面で生じることが公知であるからである。
【0190】
N連結グリコシル化部位についての予想力の向上によって、正常および卵巣癌のサンプルのマイクロアレイデータから卵巣癌に特異的な候補遺伝子を検索することができる。予測されるN連結グリコシル化ペプチドは、安定な同位体アミノ酸の取り込みによって合成される。500フェムトモルの合成ペプチドを、実施例Iにおいて記載されるグリコペプチド捕獲方法を用いて正常および卵巣癌の血清から精製されたペプチドと混合する。正常およびガンの患者において相対的に豊富な候補ペプチドを、高い正確性および感度で定量する。ペプチド質量および各々の合成ペプチドのMS/MSスペクトルは公知であるので、定量の感度および正確性が向上したシングル反応モニターモード(SRM)で行なうように質量分析計を設定することができる。
【0191】
本実施例は、グリコシル化部位を特定する例示的な方法を記載する。
【0192】
(実施例VIII)
前立腺癌の細胞外基質における糖タンパク質の定量的プロファイリング
前立腺癌は、西洋では男性における最も一般的なガンであって、ガンの死亡率の第二の主な原因である。前立腺は著しくガンを発達させる傾向であって、原因についてはほとんど未知であるので、予防方法は策定できない。前立腺特異抗原(PSA)に基づくスクリーニングの使用によって、前立腺癌のうち80%が局所療法によって処置できる段階で検出され得る。しかし、PSAレベルが上昇することによって示されるような処置の失敗の率は10%〜40%に及び得る。前立腺からのガン細胞の逸脱は明らかに早期の事象であり、多くの患者の試験がその血液および骨髄においてこれらの細胞について陽性である。前立腺癌の診断および処置における課題は、早期に、さらに根治できる段階で、疾患を検出するためのガン診断のためのさらに良好なマーカーを開発すること;さらに正確な予後診断のために前立腺癌進行を分子的に規定すること;および治療標的としてガン細胞表面特異的抗原を同定することである。
【0193】
同じ患者の前立腺の末梢領域からの腫瘍および良性の組織サンプルを、滅菌条件下で取り扱った。組織試料を刻んで、10−8Mのジヒドロテストステロンを補充したRPMI−1640培地中でコラゲナーゼで消化した(Liuら、Prostate 40:192〜199(1999))。消化培地を保存して、糖タンパク質を実施例Iに記載のとおり単離した。
【0194】
患者のマッチングした正常およびガンのサンプル由来の細胞外基質タンパク質試料を、実施例Iに記載のとおりグリコペプチド捕獲方法によって処理した。ヒドラジド樹脂から遊離されたペプチドを20μlの0.4%酢酸中に再懸濁した。サンプルの5μlのアリコートをμLC−MS/MS解析によって解析し、Sequestを用いてHuman NCIデータベースに対してCIDスペクトルを検索した。
【0195】
図16は、正常組織およびガン組織から同定されたタンパク質を示す。2つのガン特異的タンパク質である、前立腺特異的抗原(PSA)および前立腺酸性フォスファターゼ(PAP)は、ガン組織において容易に検出できた。
【0196】
前にN連結されたグリコシル化ペプチドを、実施例Iに記載されるように軽および重の無水コハク酸で標識して、正常サンプル(軽い無水コハク酸で標識した)およびガンサンプル(重い無水コハク酸で標識した)由来のペプチドを合わせて、LC−MS/MSによって解析する。CIDスペクトルをヒトデータベースに対して検索して、ASASratio、およびExpress(Hanら、Nat.Biotechnol.19:946〜951(2001))のような安定な同位体定量のソフトウェアを用いて、この同定されたタンパク質を定量する。
【0197】
ガン組織における特定のタンパク質の濃度は、血清における濃度よりもかなり高いので、ガン特異的表面タンパク質は容易に検出される。同定されたタンパク質は、ガン細胞表面特異的治療標的として役立ち得る。前立腺癌患者の血清におけるガン特異的タンパク質の存在を決定するために、合成ペプチドを血清から単離されたグリコペプチドと混合して、質量分析によって解析する。SRMモードの解析をこの解析において用い、これによって早期検出マーカーについての患者血清におけるペプチド検出の特異性および感受性が増大される。
【0198】
本実施例は、潜在的な診断マーカーおよび/または治療標的としてのガンのサンプルからのマーカーの同定を記載する。
【0199】
(実施例IX)
(皮膚癌を有するマウスからのグリコペプチドの定量的プロファイリングおよびバイオマーカーの同定)
本実施例は、皮膚癌に関連するバイオマーカーの同定を記載する。
【0200】
質量分析は近年、タンパク質に基づくバイオマーカープロファイリングのためのプラットフォームとして用いられている(Petricoinら、Lancet 359:572〜577(2002))。組織および器官の生理学的変化は、血液が身体を循環するときの血清タンパク質変化に反映される。グリコペプチド捕獲方法からのサンプルの複雑性の低下および生物学的情報の富化によって、血清中のタンパク質の何千もの血清タンパク質発現パターンの体系的な検討についての利点が得られる。
【0201】
血清バイオマーカーを同定するためにグリコペプチド捕獲方法およびペプチド質量を用いるいくつかの利点は、以下のとおりである。(1)それは、迅速であって、大規模な分離方法の必要性を省く。LC−MS/MS実験の間に利用可能な時間でのタンデム型質量分析法のトップダウンモードの操作のおかげで、存在するペプチドのある画分のみをCIDのために選択してペプチド配列を同定する。結果として、ペプチドがその質量のみによって検出される場合、LC−MS/MS実験の期間内に、配列決定されるよりも、有意に多い数のペプチドを、検出することができる。これは、図17に例示されている。シングルLC−MS/MS実施に存在するペプチドの総数およびこの実施の間に同定されたペプチドを示している。複雑な生物学的サンプルについて同定されたのは総ペプチドの10%未満であったことが一貫して見出された。(2)グリコペプチド捕獲方法によって、プロテアーゼ消化後に血清に存在する総ペプチドを単純化して、異なるオリゴ糖修飾およびMS解析の間の破壊によって生じるペプチドの異質性を取り除いた。(3)生物学的サンプルにおける主なタンパク質およびペプチドは、異なる状態のサンプルでは変化しなかった。LC−MSに存在する全てのペプチドの相対的な量を解析することによって、量の変化するペプチドが同定可能であり、そして同定のために示差的に発現されるタンパク質上にCID解析が集中した。
【0202】
血清中のバイオマーカーを同定するために用いられるストラテジーは、図18に模式的に示される。10匹の正常マウスおよび3匹の疾患マウス由来の100μlの血清からグリコペプチドを実施例Iに記載のとおり精製した。ペプチドを30μlの0.4%酢酸に再懸濁して、5μlのサンプルをLC−MS/MSによって解析した。図19は、LC−MS/MS実施の溶出の間のペプチドのシグナル強度を示す。N1およびN2は、正常なマウス由来であって、T1およびT2は、皮膚癌を有するマウス血清からのグリコペプチドであった。個々のマウスからのペプチドの再現可能なパターンをLC−MS/MS実施の間に観察した。
【0203】
全体的な実施における異なる電荷状態からのペプチドピークを一価のペプチドに逆重畳した。図20は、正常および皮膚癌のマウスからの異なる溶出時間の間の逆重畳されたペプチド強度を示す。約3000個のペプチドが異なるサンプルにおいて一貫して観察された。次いで、このペプチドを組み込みの展開型ソフトウェアを用いて溶出時間によって整列させて、バックグラウンドに対して正規化して異なる実施による変動を低下させた。正常なマウスに対するガンマウスの相対的なペプチド強度を算出して、図21に示す。
【0204】
定量を容易にするために、13匹のマウス全てから等量のペプチドを混合してコントロールとして質量分析によって解析した。アラインメント後にコントロールに対する各々のペプチドの相対強度を得た。2つの異なる実験に由来する13匹全てのマウスからの相対的なペプチド強度を、教師なし(unsupervised)階層的クラスタ分割(Eisenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:14863〜14868(1998))によって解析した。定義済みでない参照ベクトルおよび正常またはガンの予備知識を用いた。このクラスタ分割解析において、ペプチドの間の相関は、枝の長さが対象物の間の類似性の程度を反映するツリーによって示される。図22に示されるとおり、全てのガンマウスが一緒にクラスタ分割されて見出された(実験1では11A、12A、13Aとして、実験2ではM11、M12、M13として示される)。濃い灰色で示されるペプチド強度によって、ペプチド量は、共通のコントロールにおける対応するペプチド強度よりも低いことが示され、そして薄い灰色で示されるペプチド強度によって、混合物の共通のコントロールに比べてペプチドの量が高いことが示される。
【0205】
本実施例は、グリコ捕獲(glycocapture)法によって単離されたペプチドがガンのマーカーを含むことを示す。ペプチド質量および保持時間を用いる、前にN連結されたグリコペプチドの解析によって、質量分析解析の間のペプチドの情報が増大する。このアプローチは、正常なマウスとガンを有するマウスとの間の相違を識別して、血清からガンマーカーを同定することができる。
【0206】
(実施例X)
(一晩の絶食の前後に得たヒトの血清サンプル由来のグリコペプチドの定量的プロファイリング)
本実施例は、一晩の絶食の前後の3人の個体の血清サンプル由来のグリコペプチドの定量的プロファイリングおよびクラスタ分割解析を記載する。
【0207】
一晩の絶食の前後の3人からの100μlの血清由来のグリコペプチドを、実施例Iに記載のように精製した。ペプチドを30μlの0.4%酢酸に再懸濁して、6つのサンプルの全てに由来する等量(1μl)のあらゆるグリコペプチドを混合することによって、コントロールサンプルを作成した。サンプルの5μlのアリコートをLC−MS/MSによって解析した。ペプチドのピークを一価のペプチドに逆重畳した。異なる実施のアラインメントおよび正規化の後に、共通のコントロールサンプルに対する各々のペプチドの相対強度を決定した。
【0208】
一晩の絶食の前後の3人の個体からの相対的ペプチド強度を各々の実験から決定して、個々のサンプルについてなんら特異性および条件の予備知識なしに、教師なしの階層的クラスタ分割によって解析した((Eisenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:14863〜14868(1998))。このクラスタ分割解析において、ペプチド間の関係は、枝の長さが対象物の間の類似性の程度を反映するツリーによって示された。図23に示すように、両方の実験において、朝食の前後の各々の個体からの血清サンプルは、両方の実験において一緒に(1〜3の人で示す)クラスタ分割されたことが見出された。カラーコードは、図22に示されるものと同様である。
【0209】
これらの結果によって、一晩の絶食の前後に各々の個体の血清サンプルからグリコ捕獲法によって単離されたペプチドは最も密接に関連することが示される。ペプチド質量および保持時間を用いる、前にN連結されたグリコペプチドの解析によって、質量分析解析の間のペプチドの情報が増大する。このアプローチは、サンプルの間の最も重大な相違を自動的に識別することができる。これによって、個々の血清サンプル由来のグリコペプチドは、個体の生理学的状態を評価するのに用いることができる特性を含むことが示される。
【0210】
(実施例XI)
(健常な個体またはI型先天性グリコシル化異常症(CDG)を有する患者から得た血清サンプルからのグリコシル化占有率の決定)
本実施例は、グリコシル化の障害を有する個体のグリコペプチドプロファイリングを記載する。
【0211】
N連結グリコシル化の定量的解析によって、種々のプロテオームにおける相対的なN連結グリコシル化を決定できる。システインタグ化方法を用いて、種々のプロテオームにおける相対的なタンパク質変化を決定することができる(Gygiら、Nat.Biotechnol.17:994〜999(1999))。N連結グリコシル化の定量的解析とシステインタグ化とを組み合わせることによって、個々のN連結グリコシル化部位の占有率およびその変化をまた決定することができる。このことは、N連結グリコシル化の経路が欠損しているI型先天性グリコシル化異常症(CDG)を有する患者によって実証されるように、グリコシル化占有率の変化が疑われる研究においては特に興味深い(AebiおよびHennet Trends Cell Biol.11:136〜141(2001))。さらに、細胞表面上および体液中におけるグリコシル化の程度およびタンパク質の炭水化物構造の変化は、ガンおよび他の疾患状態に相関することが示されており、このことは病理的な機構の指標またはエフェクターとしてのこの修飾の臨床的重要性を強調する(Spiro,Glycobiology 12:43R〜56R(2002);Freeze Glycobiology 11:129R〜143R(2001);DurandおよびSeta、Clin.Chem.46:795〜805(2000))。
【0212】
CDG患者由来の血清のグリコシル化占有率研究を図24に記載する。ICAT試薬を用いて個体の総血清タンパク質レベルの比を定量して、個体のN連結グリコペプチドの比を、グリコペプチド捕獲とその後のN末端同位体標識によって決定する。タンパク質の総タンパク質の比で割った各々のN連結グリコペプチドの比によってグリコシル化占有率を決定する。
【0213】
総タンパク質の相対的な比を決定するために、ICAT試薬を用いてタンパク質を標識した。正常な人#1由来の0.5mgの血清タンパク質を含む7つのサンプルをICAT軽型試薬で標識し、そして、正常な人#1、正常な人#2、CDG 1a患者#1、CDG 1g患者#2、CDG 1b患者 #1、CDG 1b患者#2、およびCDG 1b患者#3由来の0.5mgの血清タンパク質をICAT重型試薬で標識した。ICAT試薬をApplied Biosystemsから購入して、製造業者の指示に従って標識を行なった。
【0214】
手短に言えば、血清タンパク質(0.5mg、6.25μl)を0.5mlのICAT標識緩衝液(6M尿素、0.05% SDS、200mM Tris、5mM EDTA、pH8.3)に添加した。8mM tris−カルボキシエチルホスフィン(TCEP)を添加すること、および37℃で45分間インキュベートすることによって、サンプルを還元した。5倍過剰の軽型および重型のICAT試薬を添加して、暗野において37℃で2時間標識を行なった。重型ICAT試薬で標識した7個のサンプルを、軽型ICAT試薬で標識した7個の正常なサンプルのうちの1つと混合した。7個の混合したサンプルを10倍に希釈して、5μgのトリプシンを添加して37℃で一晩インキュベートした。ICAT標識したトリプシン消化ペプチドを、Applied Biosystems(Foster City,CA)のVisionクロマトグラフィーワークステーションを用いてアビジンアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。20μlの0.4%酢酸中にペプチドを再懸濁して、5μlのペプチドをFinnigan LCQイオントラップ質量分析(Finnigan、San Jose,CA)によって解析した。Sequestを用いるヒトNCIデータベースに対してCIDスペクトルを検索した。Institute for Systems Biology(システムズ生物学研究所)で開発された一式のソフトウェアツールを用いて、ペプチドおよびタンパク質同定の確率解析含む、タンパク質の同定および相対的な発現比、ならびに各々のタンパク質の発現比を解析した(Engら、J.Am.Soc.Mass Spectrom.5:976〜989(1994);Hanら、Nat.Biotechnol.19:946〜951(2001);Kellerら、Anal.Chem.74:5383〜5392(2002))。正常な人#1から正常な人#1へのタンパク質比を表6に示す。この比は予想される1:1の比とよく一致した。
【0215】
(表6.ICAT標識によって決定されたタンパク質発現比)
【0216】
【表6】

【0217】
各々のN連結グリコシル化部位の相対的なグリコシル化比を決定するために、正常なヒト#1由来の1mg(12.5μl)の7つのアリコート、ならびに正常な人#1、正常な人#2、CDG 1a患者#1、CDG 1g患者#2、CDG 1b患者 #1、CDG 1b患者#2、およびCDG 1b患者#3由来の1mgの血清を、実施例Iに記載のようなグリコペプチド捕獲方法に供した。正常なヒト#1由来の7つのサンプル由来のグリコペプチドを軽型無水コハク酸で標識し、他のサンプルを重型無水コハク酸で標識して、一方でグリコペプチドは固体ビーズに結合させたままにした。対の正常および7つの個体を混合して、前にN連結されたグリコシル化ペプチドを遊離する。このペプチドを20μlの0.4%酢酸に再懸濁して、Finnigan LCQイオントラップ質量分析計(Finnigan,San Jose,CA)によって5μlのペプチドを解析した。Sequestを用いてヒトNCIデータベースに対してCIDスペクトルを検索し、Institute for Systems Biologyで開発された一式のソフトウェアツールを用いてASAP比を用いるペプチドおよびタンパク質の確率ならびにタンパク質発現比を解析した。グリコシル化ペプチドの比を、総タンパク質比によって割り、各々のN連結グリコシル化部位についてグリコシル化占有率を決定する。
【0218】
(実施例XII)
(糖尿病の肥満マウス血清からのグリコシル化のレベルの決定)
本実施例は、糖尿病のモデルにおけるグリコシル化の決定を記載する。
【0219】
糖尿病における非酵素的糖化は、タンパク質上のグルコースと一級アミン基との間の、糖化された残基が形成される反応から生じる。この糖化タンパク質および後に発達する進行した糖化の最終生成物は、糖尿病腎障害の病因に機構的に関連している。糖化アルブミンは、糖尿病性腎疾患の病態生理学に原因として関連している(CohenおよびZiyadeh、J.Am.Soc.Nephrol.7:183〜190(1996))。
【0220】
血清中の他のタンパク質がまた、糖尿病の合併症の発達の原因であり得る。炭水化物修飾された血清タンパク質における変化についてサンプルを解析する。野生型の同腹仔およびBTBRマウス系統由来の糖尿病性肥満マウス由来の血清を、図25に示されるように軽型および重型のICAT試薬で標識する。標識された血清サンプルを2つの等しい画分に分けて、正常および糖尿病の肥満マウスサンプル由来の対の軽型および重型血清を混合する。ICAT測定を用いて総血清タンパク質比を決定するために1つの混合物を用いる。ヒドラジド化学を用いて固体支持体に第二の混合物を結合体化する。糖タンパク質からシステイン含有ペプチドをトリプシンによって遊離して、Visionクロマトグラフィーワークステーション(ABI)を用いてアビジンクロマトグラフィーカラムによって単離する。正常なマウスと糖尿病マウスとの間の糖タンパク質の相対的な量を決定する。血清中の総タンパク質への正規化後、グリコシル化の変化を決定する。
【0221】
この実験によって、グリコペプチド捕獲方法は、酵素的にグリコシル化されたタンパク質、およびタンパク質の非酵素的リジン糖化を解析するために用い得ることが示される。非酵素的糖化のレベルは、患者血清における高いグルコースレベルに起因する糖尿病によって生じる特定の疾患において増大する。
【0222】
(実施例XIII)
(重型同位体で標識された合成ペプチド標準を用いるN連結グリコペプチドの定量)
本実施例は、標識された合成ペプチド標準を用いる定量を記載する。
【0223】
表7は、実施例IIに記載されるようにヒト血清から同定された、いくつかの合成ペプチド(配列番号198〜209)を示す。このペプチドは、下線の位置のバリン残基に取り込まれた炭素13アミノ酸を用いる標準的固相合成化学を用いて合成された。グリコシル化されたアスパラギンはまた、アスパラギン酸に変化された。各々のペプチドの500fmolを混合してLC−MS/MS解析上で別々に実施して保持時間およびCIDスペクトルを決定した。同じ量のペプチドを、3人の個体由来のヒト血清サンプルと混合して、血清中のこれらのグリコペプチドの相対的な量を決定した。
【0224】
図26は、質量分析によって同定された合成ペプチドを示す。
【0225】
(表7.合成の重型同位体で標識されたペプチド標準)
【0226】
【表7】

【0227】
実施例Iに記載のとおりグリコペプチドについてサンプルを解析する。これらの結果によって、既知の量の合成ペプチドを用いて、個々の血清サンプルにおける同じグリコペプチドの相対的または絶対的な量を決定し得ることが示される。
【0228】
(実施例XIV)
(酵素切断を用いるO連結グリコペプチドの同定)
本実施例は、O連結グリコペプチドの同定を記載する。
【0229】
また、N連結グリコシル化部位の解析について本明細書で記載されるものと類似のストラテジーを用いて、O−グリコシル化ペプチドを解析することができる。実際、タンパク質サンプルは、一旦固体支持体に固定されれば、引き続くN連結およびO連結のグリコシル化ペプチドの遊離に供し得、これによってさらにこの方法の解像度およびそれによって得られるデータの情報含有量が増大する。インタクトなO連結糖を除去するためのPNGaseに匹敵する酵素は存在しない。O連結オリゴ糖を遊離するために、Galβ1、3GalNAcコアのみがセリンまたはトレオニン残基に結合されたままで残るまで、1パネルのエキソグリコシダーゼを用いることによって単糖を引き続いて除去する。次いでコアをOグリコシダーゼによって遊離し得る。全てのO連結オリゴ糖がこのコア構造を含むわけではないので、β脱離(elimination)のような化学的方法は、前にO連結されたグリコシル化ペプチドの遊離については、より一般的かつ有効であり得る。
【0230】
N連結グリコペプチドを遊離した後、1mlの1.5M NaClを用いて2回、1mlの100%メタノールを用いて2回、そして1mlの水を用いて2回、100μlのヒドラジン樹脂を洗浄した。エンド−α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、ノイラミニダーゼ、β1,4−ガラクトシダーゼ、およびβ−N−アセチルグルコサミニダーゼを含む1セットの酵素(Calbiochem)によって、O連結グリコペプチドを切断した。この遊離されたペプチドを、LC−MS/MS解析のために、乾燥して、0.4%酢酸に再懸濁した。
【0231】
図27は、N連結グリコペプチドが遊離された後、ヒドラジド樹脂からの一連の酵素切断から同定されたペプチドを示す。PNGase Fが、オリゴ糖の遊離後にグリコシル化されたNをDに変換するN連結グリコシル化とは異なり、O連結グリコシル化されたセリンまたはトレオニンは未変化のままであった。O連結グリコシル化について利用可能な公知のコンセンサスモチーフは存在しない。現在のところ、O連結オリゴ糖が結合されたセリン残基またはトレオニン残基は同定されていない。
【0232】
本実施例は、O連結グリコペプチドも同定し得ることを実証する。
【0233】
(実施例XV)
(ビオチンタグ化ヒドラジンによって単離されるグリコペプチドの同定)
本実施例は、ビオチンタグ化ヒドラジドによって単離されるグリコペプチドの同定を記載する。
【0234】
実施例Iに記載される同じ手順をまた、いくつかの改変をともなうビオチン標的化ヒドラジド(PIERCE)を用いる溶液相中で実施した。タンパク質を酸化してビオチンヒドラジドに結合体化した後、0.5% SDSおよび8M尿素を含有する0.4M NHCO中において、タンパク質を室温で30分間変性させた。このサンプルを水で4倍に希釈して、トリプシンを最終濃度1:100に添加した。トリプシン消化を室温で一晩行なった。ビオチンヒドラジドに結合体化されたグリコペプチドを、Visionクロマトグラフィーワークステーションを用いてアビジンカラムによって精製した。オリゴ糖がペプチドに結合したままでグリコペプチドを単離した。このペプチドを、乾燥して、0.4%酢酸中に再懸濁させて、質量分析によって解析した。
【0235】
高い噴霧電圧をESI−LC−MS/MS解析(2.0kv)において用いた場合、オリゴ糖が噴霧源でペプチドから分離された。これによって、質量分析によるN連結ペプチドおよびO連結ペプチドの解析が得られた。同定されたN連結グリコペプチドを図28に示したが、ここではコンセンサスNXT/Sモチーフを強調している。O連結オリゴ糖を水の損失をともなって噴霧源中で除去した。これによって、未修飾のSerまたはThrよりも18ダルトン少ない、前にO連結されたグリコシル化SerまたはThrが残った。これは、修飾なしのSまたはTで図29中に示される(丸で示す)。
【0236】
これらの結果によって、グリコペプチド捕獲方法が溶液化学によってタンパク質に結合されたアフィニティー反応タグを介しても実施され得ることが示される。この方法によって単離されたグリコペプチドは、グリコペプチドに結合されたオリゴ糖鎖を有し得る。N連結およびO連結グリコペプチドの両方とも同時に単離して解析し得ることができる。
【0237】
(実施例XVI)
(TECANワークステーションを用いるグリコペプチド捕獲方法の自動化)
本実施例は、グリコペプチド解析方法の自動化への適合を記載する。
【0238】
グリコポリペプチド解析の方法の処理能力および再現性を改善するために、グリコペプチド単離のための連続する反応を行なう自動化されたロボット様ワークステーションを設計した。このワークステーションは、高いサンプル処理能力を要する全ての適用に特に有用である。血清バイオマーカー同定において、実施例Iに記載される手順を、自動化のための固相抽出形式で試験する。
【0239】
TECANワークステーションをグリコペプチド捕獲手順のために設計した。このワークステーションを用いて、グリコペプチドのサンプリングおよび解析を自動化する。このワークステーションは、診断適用、例えば、多数の血清サンプルまたは診断目的の他の生物学的サンプルの解析に容易に適合し得る。
【0240】
本出願全体にわたって、種々の刊行物が引用されている。これらの刊行物の開示は、その全体が、本発明の属する当該分野の状況をさらに詳細に記載するために本出願において参考として援用される。本発明は上記の実施例に関連して記載されているが、本発明の趣旨から逸脱することなく、種々の改変がなされ得ることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2010−96769(P2010−96769A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7509(P2010−7509)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【分割の表示】特願2004−509709(P2004−509709)の分割
【原出願日】平成15年6月3日(2003.6.3)
【出願人】(504272187)ザ インスティテュート フォー システムズ バイオロジー (2)
【Fターム(参考)】