説明

糖化原料、その製造方法およびエタノール製造方法

【課題】 植物バイオマスを原料として用い、全工程を通して食品製造に準じた処理および食品製造用の微生物を用いた発酵プロセスによって、コスト削減、作業の簡便化、有害残渣を産出することなくエタノールを製造する方法を提供すること。
【解決手段】 エタノール製造方法は、イネ全草(地上部全体)のペレット化により含まれるデンプンがα化している糖化原料1を用い、これを粉砕する粉砕過程P1と、粉砕過程P1により粉砕されたペレット1の酵素処理によってグルコース2を得る糖化過程P2と、グルコース2を用いて発酵処理するための発酵処理過程P3を備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖化原料、その製造方法およびエタノール製造方法等に係り、特に、植物バイオマスを原料とし、全工程を通して食品製造に準じた処理および食品製造用の微生物を用いた発酵プロセスにより、原料利用面および設備面におけるコスト削減、作業の簡便化、さらには有害残渣を産出しないゼロエミッション型のエタノール生産技術たる、糖化原料、その製造方法およびエタノール製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオマスからのエタノール製造はデンプン質を利用する場合と、セルロース質を利用する場合に大別される。デンプン質を利用する場合、デンプンをα化する必要があるが、従来この工程で多くの熱量を要するため、エネルギー収支は悪くなる。この問題を避けるために、遺伝子組み換え技術によって生デンプンを糖化できる酵母などが開発されている。
【0003】
一方、セルロース質含量の多い茎葉部、いわゆる稲わら等は、重量に対して嵩高くなり、塵埃等も発生する。したがって従来、エタノール製造用原料として稲わら等を用いることについては、貯蔵や運搬において難点が指摘されている。
【0004】
なお、後掲特許文献1に開示されている技術は、廃棄バイオマス等を利用した低コストのバイオエタノール製造方法として、細菌、糸状菌、または原生生物由来のセルラーゼを用いるとともに、Saccharomyces cerevisiaeをエタノール発酵酵母として用いる、というものである。
【0005】
また、同じく特許文献2に開示されている技術は、腐敗菌を抑制しつつアルコール製造することを目的として、原料に、多糖類分解酵素、乳酸菌、およびアルコール発酵菌を添加し、嫌気下で糖化、乳酸発酵およびアルコール発酵を同時に行う方法を提案するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−291154号公報「バイオエタノールの製造方法」
【特許文献2】特開2009−213440号公報「アルコールの製造方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて上述のとおり、バイオマスからのエタノール製造は従来、デンプン質またはセルロース質の一方を利用する。しかし、デンプン質利用の場合に必須のα化工程によるエネルギー収支悪化の問題には、まだ有効な解決策が得られていない。上述の生デンプンを糖化可能な酵母は、遺伝子組み換え体であることから、利用は困難な現状である。
【0008】
またセルロース質含量の多い茎葉部、いわゆる稲わら等は、そのままの形態では嵩高さのために貯蔵や運搬における処理効率が悪く、さらに塵埃発生が作業能率低下の一因となる。そこで、茎葉部をペレット化できればこれらの問題は解決できるのだが、稲わら等はリグニン含量が少ないため、通常加熱・加圧条件によってはペレット化することができない。これが従来、セルロース質含量の多い茎葉部の、エタノール製造用原料としての利用を妨げる一因となっている。
【0009】
このような現状であるから、たとえばイネの場合にイネ全草を、すなわち刈り取りで得られる籾と茎葉部の両方を含む地上部全体をそのまま利用する技術は、未だに提案・実施されたことがない。実際、デンプン質に富む籾部分でさえα化工程というプロセス上の負荷がある状況で、原料としての操作性にさらに大きな問題のある稲わらをも併せて植物体地上部全体を原料とすることに、何らかの利点を見出すことは困難である。なお、これらの問題への対処については、上述の各文献開示技術においても何らの示唆も認められない。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、植物バイオマスを原料として用い、全工程を通して食品製造に準じた処理および食品製造用の微生物を用いた発酵プロセスによって、原料利用面および設備面におけるコスト削減、作業の簡便化、さらには有害残渣を産出しないゼロエミッション型のエタノール生産を可能とする、糖化原料、その製造方法およびエタノール製造方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は上記課題について検討した。その結果、エタノール製造の原料としてイネ全草を用い、これを、デンプンが高温で糊化することを利用してペレット化することにより、運搬・貯蔵の容易な素材とすることができるとともに、その後の発酵工程においては蒸煮処理などによってデンプンのα化工程を省略できることを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0012】
〔1〕 デンプンおよびセルロースを含有するバイオマスの地上部全体をペレット化してなる、糖化原料。
〔2〕 前記バイオマスはイネ科植物であることを特徴とする、〔1〕に記載の糖化原料。
〔3〕 前記バイオマスはイネであることを特徴とする、〔1〕に記載の糖化原料。
〔4〕 ペレット化過程で発生する熱によりデンプンがα化しており、使用時にα化処理が不要であることを特徴とする、〔1〕ないし〔3〕のいずれかに記載の糖化原料。
〔5〕 〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の糖化原料の糖化処理によって製造されるグルコース。
〔6〕 デンプンおよびセルロースを含有するバイオマスの地上部全体を用いて、これを加圧成形処理するペレット化過程によってペレットを得る、糖化原料の製造方法。
【0013】
〔7〕 前記ペレット化過程で発生する熱によりデンプンがα化していることを特徴とする、〔6〕に記載の糖化原料の製造方法。
〔8〕 〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の糖化原料を用いるエタノール製造方法であって、該方法は、該糖化原料を粉砕する粉砕過程と、該粉砕過程により粉砕された該エタノール製造用原料の酵素処理によってグルコースを得る糖化過程とを備えており、得られたグルコースの発酵処理によってエタノールを得る、エタノール製造方法。
〔9〕 前記糖化過程においては、セルラーゼ産生糸状菌による麹もしくはアミラーゼ産生糸状菌による麹、またはその両者を用いることを特徴とする、〔8〕に記載のエタノール製造方法。
〔10〕 〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の糖化原料を用いるバイオエタノール生産システムであって、
該システムは、デンプンおよびセルロースを含有する糖化原料とするためのバイオマスが栽培される圃場である複数の栽培サイトと、
該栽培サイトごとにその内部に設けられていて最終的な該バイオエタノールの中間産物を得るための中間処理サイトと、
該中間産物を処理して該バイオエタノールとするための最終処理サイト
とを備えてなる、バイオエタノール生産システム。
【発明の効果】
【0014】
本発明の糖化原料、その製造方法およびエタノール製造方法等は上述のように構成されるため、これによれば、植物バイオマスを原料として用い、全工程を通して食品製造に準じた安全性の高いプロセスによって、原料利用面および設備面におけるコスト削減、作業の簡便化、さらには有害残渣を産出しないゼロエミッション型のエタノール生産が可能となる。
【0015】
本発明によれば、イネ全草に代表されるようなバイオマスの地上部全体をペレット化、すなわち加圧成形加工するため、容積・水分・塵埃の発生が減少し、運搬・貯蔵の容易な素材とすることができる。しかも、ペレット化の過程で発生する熱によりデンプンが糊化し、硬い被膜を形成することにより、保存性の良いペレットを調整することができる。
【0016】
また本発明によれば、上述のとおりペレット化の過程でデンプンがα化するため、ペレットを用いたその後の糖化・発酵処理の前処理として、蒸煮処理等によってデンプンをα化する工程が不要となる。すなわち、デンプンのα化に伴うコスト・設備投資を省くことができるため、バイオマス作物からのエタノール生産の経済性が向上する。
【0017】
つまり、バイオマスからのエタノール製造において、原料貯蔵庫のスペースをコンパクト化することができ、発酵前の処理として原料を蒸煮するための設備(蒸煮釜、ボイラー、配管等)も不要となる。また本発明によれば、ペレット化の過程でヘミセルロースがアミラーゼによる分解を受けやすい状態となるため、原料利用率(アルコール生成量)の向上が大いに期待できる。
【0018】
さらに、ペレット化は化学薬品等を使わない物理的処理であるため、エタノール発酵の残渣は配合飼料として利用することも可能である。つまり本発明によれば、使用した原料のすべてを有効活用することができる。このように、本発明は従来技術と比べて、コスト面でも作業の簡便さの点でも優れている。また、特別な設備を必要としないため、小規模企業体においても充分に実施可能な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図P1】本発明のエタノール製造方法を示すフロー図である。
【図1】実施例において、イネ全草試料の成分組成分析結果を示すグラフである。なお以下の図はすべて実施例に係るものである。
【図2】イネ全草粉砕試料の茎葉部の、未処理および酵素処理後の各デジタル実体顕微鏡写真である。
【図3】酵母の培養によるガス減量について、酵素量ごとの経時変化を示すグラフである。
【図4】供試菌の培養日数とアミラーゼ活性の関係を示すグラフである。
【図5】供試菌の培養日数とセルラーゼ活性の関係を示すグラフである。
【図6】イネ全草試料および同量のイネ全草から製造したイネ全草ペレットを示す写真である。
【図7】本発明バイオエタノール生産システムと従来技術の構成を示す概念図である。
【図8】発酵・粗留サイト(B−Site)で全草処理、オンサイト酵素生産をする場合のプロセスを、従来技術との比較で示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明について、さらに詳細に説明する。
本発明は、最終的にエタノール製造を実現するために用いる糖化原料およびその製造方法を基本とするが、特に、デンプンおよびセルロースを含有するバイオマスの地上部全体をペレット化してなる糖化原料を最も基礎的な構成とするものである。ここで、バイオマスとしては特に、イネその他のイネ科植物を好適に用いることができるが、その他のバイオマスであっても本発明の範囲内である。また、当該糖化原料の糖化処理によって製造されるグルコース自体もまた、本発明の範囲内である。
【0021】
本発明の糖化原料はペレット形態であるため、ペレット化過程すなわち一定の高温・高圧条件による成形過程において発生する熱により、原料中のデンプンがα化した状態となっている。したがって、これを後に糖化過程に供するにあたり、事前のα化処理を行う必要がない。このことによって、デンプンのα化に伴う設備投資等のコストを大いに低減できるため、バイオマス作物からのエタノール生産の経済性を向上させることができる。
【0022】
図P1は、本発明のエタノール製造方法を示すフロー図である。図示するように本製法は上述した本発明糖化原料1を用いる方法であって、糖化原料1を粉砕する粉砕過程P1と、該粉砕過程P1により粉砕された該エタノール製造用原料の酵素処理によってグルコース2を得る糖化過程P2、さらに、得られたグルコース2を用いて発酵処理するための発酵処理過程P3を備えていることを、主たる構成とする。
【0023】
かかる構成により本製法によれば、粉砕過程P1において糖化原料1が粉砕され、粉砕されたエタノール製造用原料は糖化過程P2において酵素処理されてこれによりグルコース2が得られ、発酵処理過程P3において得られたグルコース2が用いられて発酵処理がなされ、最終的にエタノール3が得られる。
【0024】
つまり、糖化原料1たるペレットが粉砕され(粉砕過程P1)、粉砕されたエタノール製造用原料にセルラーゼ、アミラーゼ、酵母菌および水が混合されて、原料中のセルロースおよびデンプンがそれぞれセルラーゼ、アミラーゼによってグルコース2に転換され(糖化過程P2)、生成されたグルコース2は酵母による嫌気代謝系によってエタノール3に転換される(発酵処理過程P3)。なお糖化過程P2においては、セルラーゼ産生糸状菌による麹か、もしくはアミラーゼ産生糸状菌による麹、またはその両者を用いるものとすることができる。
【0025】
以上述べた本発明の糖化原料を用いたバイオエタノール生産システムもまた、本発明の範囲内である。当該システムは3つのサイトを備えて構成されるが、まず複数設けられる栽培サイトは、デンプンおよびセルロースを含有する糖化原料とするためのバイオマスが栽培される圃場により構成される。次に中間処理サイトは、最終的なバイオエタノールの中間産物を得るためのものとして、各栽培サイトごとにその内部に設けられる。
【0026】
ここで中間産物とは、中間処理サイトにおいて粗留により得られる、たとえば濃度60%などの粗留エタノールであってもよいし、あるいはまた、糖化〜発酵処理過程中のいずれかの段階で得られる中間産物であってもよい。そして最終処理サイトは、中間処理サイトにより得られた中間産物を処理してバイオエタノールを得るためのサイトである。すなわち、中間処理サイトと最終処理サイトにおいて、最終的なエタノール製造に至る工業プロセスが分担される。
【0027】
なお、糖化原料たるペレットの製造は、栽培サイトまたは中間処理サイトにて行うものとすればよい。中間処理サイトで行う場合、中間処理サイトはペレット製造のみを担当し、その後の糖化〜発酵〜精留に至る工業プロセス全てを最終処理サイトが担当する構成としてもよい。より具体的な例については、実施例において述べる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を特にイネを原料とした実施例によってさらに説明するが、原料選択を初めとして、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。なお、本発明に至った過程、検討を加え進めた過程からなる研究開発過程の開示をもって、実施例の説明とする。
<1 目的と検討項目>
本研究開発は、物理化学的処理によらず、発酵法のみを使って、産業として成り立つバイオエタノール生産システムを確立することを目的とした。
イネ全草を対象とし、デンプン質とセルロース質の同時糖化・同時発酵システムの検討、セルロース分解処理コスト削減のためのセルラーゼ高生産糸状菌の選抜、イネ全草高発酵酵母の選抜により、高効率・低コストのエタノール発酵技術を開発することとした。なお「イネ全草」とは、通常の刈り取りで得られるイネの地上部(もみ、茎葉部)全体のことを示す。
【0029】
糸状菌および酵母の選抜に際しては、発酵食品(飲料)生産に準じた微生物を用いて、バイオハザード(環境・健康に被害をもたらす生物汚染)の心配のない、安全な生産システムを目指すこととした。
具体的な検討項目を列挙する。
1.イネの品種等による繊維組成の比較。
2.市販酵素によるイネ全草試料の糖化。
3.糖化試料発酵用酵母の検討。
4.全草培地でのアミラーゼ生産の検討。
5.全草培地でのセルラーゼ生産の検討。
6.イネ全草試料の並行複発酵の検討。
特に、市販酵素剤を使わず、食品用酵素生産菌をイネ全草で培養することにより製造した麹を、糖化に利用する技術の検討を含む。
7.イネ全草の前処理技術として、ペレット化試料の製造およびそれを用いた糖化・発酵の検討。
8.イネ全草からのエタノール生産LCA(環境影響評価)。
特に、圃場と燃料用エタノール製造施設の間に、発酵と粗留を行う中間処理サイトを挾むことによる輸送等コストの削減の検討を含む。
【0030】
<2 イネの品種等による成分組成の比較>
品種「ムツホマレ」については、弘前市石渡の農家より食用として刈り取り適期に収穫したもの、および刈り取り適期の2週間前に青刈りしたものを提供頂いた。品種「うしゆたか」については、青森県農業総合研究所(現、独立行政法人産業技術センター農林総合研究所)にて栽培試験を行ったサンプルの中から、収穫量最大区と最小区の収穫物を用いた。
このうち、うしゆたかの栽培区分を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
イネ全草試料は、全草を粉砕機、テストミルで数mm以下に粉砕後、真空乾燥機で一晩乾燥し、テストミルで微粉化したものを絶乾試料として繊維組成の分画に供した。分画のフローは下記のとおりである。
【0033】
・分画のフロー
絶乾試料
↓(ジエチルエーテル:ソックスレー)
↓ →減質量を粗脂肪画分とする
脱脂試料n
↓ 蒸留水室温で4時間振盪抽出
↓ →減質量を水可溶画分とする
水不溶画分
↓+0.01%アミログルコシダーゼ(200mM酢酸バッファpH4.5)
↓ 37℃18時間反応
↓ →減質量をデンプン画分とする
脱デンプン試料
↓ 0.25%シュウ酸アンモニウム95℃ 3時間攪拌抽出
↓ →減質量をペクチン画分とする
脱ペクチン試料
↓ 5%硫酸(v/v)100℃4〜10分抽出
↓ →減質量をヘミセルロース画分とする
脱ヘミセルロース試料
↓ 72%硫酸(w/w)72時間2〜4℃)抽出
↓ →減質量をセルロース画分とする
脱セルロース試料
↓ 450℃で純白となるまで灰化
↓ →減質量をリグニン画分とする
残渣を灰分とする
【0034】
図1は、イネ全草試料の成分組成分析結果を示すグラフである。図示するように、いずれの試料についても、最も多い成分はデンプンおよびセルロースであり、次いで、水可溶画分、灰分、リグニンが多く含まれていた。粗脂肪およびペクチン、ヘミセルロースは微量であった。各成分組成は、うしゆたかの最小区で最大区に比べリグニン画分が少なく灰分が多かった他は、栽培方法、収穫時期による差より、品種による差が大きかった。うしゆたかはムツホマレと比較して水可溶画分および灰分が多かった。
【0035】
アルコール発酵の主な発酵源となるデンプンおよびセルロースの量は、両品種間で大差なく、いずれもアルコール発酵原料として利用可能であることが認められた。なお、適期収穫ムツホマレでデンプンおよびセルロースが完全に糖化した場合、試料乾物gあたりそれぞれ378mg、370mgのグルコースが生成することが、計算により求められた。
【0036】
<3 市販酵素によるイネ全草試料の糖化>
市販酵素剤を用いてイネ全草試料(適期収穫ムツホマレ)を糖化した結果を表2に示した。イネ全草試料はアミラーゼ系の酵素剤の作用により試料乾物gあたり296.79〜373.49mgの還元糖を生成した。この量は、イネ全草試料に含まれるデンプンのほとんどがブドウ糖にまで分解された量に相当する。
【0037】
一方、セルラーゼ系の酵素剤はほとんど還元糖を生成せず、生成した還元糖量は、最大でもイネ全草試料に含まれるセルロースが完全分解した場合の7.5%にとどまった。アミラーゼ系酵素剤とセルラーゼ系酵素剤を複合して作用させた場合も、両者の作用を相加した以上の効果は見られなかった。また、試料の脱脂処理はイネ全草試料の糖化には影響を与えないか、やや糖化を阻害する傾向が見られた。なお、イネ全草試料をテストミルに2回かけて微粉化することにより、試料1gから生成するグルコースは70mgまで増加させることができた。
【0038】
【表2】

【0039】
図2は、イネ全草粉砕試料の茎葉部((a)、未処理)および、アミラーゼ系酵素剤とセルラーゼ系酵素剤を複合して作用させた後の茎葉部((b)、酵素処理後)のデジタル実体顕微鏡写真である。図の(a)未処理試料において、いぼ状に見える小突起はシリカである。また、(b)酵素処理後試料の写真では、コンゴレッド染色によりセルロースが濃く(赤く)染まっている。また白く見えるのはシリカの細胞骨格である。図から、木質バイオマスにおいても含有されるリグニンの他に、組織表面のシリカが、セルロースと酵素との接触を妨げているものと推定された。
【0040】
次いで、市販酵素剤の量を変え、酵素剤と酵母を同時にイネ全草試料に添加する並行複発酵を用いて、アミラーゼおよびセルラーゼの必要量を求めた。酵素剤は先の試験<3>で良好な成績が得られた四段用TG−B およびSumizymeACを用た。イネ全草試料10gをデュラン瓶に分取し、蒸留水25ml添加しオートクレーブにかけた。市販酵素剤および酵母(K11株)を107cell/ml仕込み水となるよう添加し、30℃静置培養でガス減量を測定した。
【0041】
図3は、酵母の培養によるガス減量について、酵素量ごとの経時変化を示すグラフである。また、市販酵素剤添加量を表3に示す。なおガス減量は、発酵により炭酸ガスが生成したことによる試料重量の減少量であり、発酵状況を簡便にモニターする指標である。その結果、四段用TG−B 0.01%およびSumizymeAC 1%を添加した区分において最も長く発酵が持続し、ガス減量も大であった。
【0042】
【表3】

【0043】
<4 糖化試料発酵用酵母の検討>
イネ全草試料による発酵阻害の有無を検討するため、イネ全草試料抽出液(全草試料4gを200ml蒸留水に加えオートクレーブして抽出)を調製し、イネ全草試料1%濃度相当の抽出液を含むYMP−2%グルコース液体培地(ダラム管入り)を作製し、これに研究室保存の酵母(20株)を一白金耳量植菌して、生育および発酵の有無を観察した。
【0044】
その結果、1株(味噌用酵母)以外の全ての株で炭酸ガスの発生が見られ、イネ全草での発酵能があると判定された。肉眼による判定では、発酵能の認められた全19株中、青森県所有の酒造用優良菌株3711株、および財団法人日本醸造協会で販売しているアルコール耐性株K11株(協会K11株)の2つが、旺盛なガス発生を示した。結局、エタノール発酵プラントで利用することを考えた場合、大量の酵母を容易に入手できることを考慮して、以下の試験には協会K11株を供することとした。
【0045】
<5 全草培地でのアミラーゼ生産の検討>
アミラーゼは、デンプン質をグルコースに分解する酵素である。この酵素を生産する菌として、青森県が所有する糸状菌12株の中から、イネ全草寒天培地で生育の良かった糸状菌2株(Aspergillus oryzae IFO30113,Aspergillus niger IFO1023)を選抜して、イネ全草培地で生育させ、生産されるアミラーゼ活性を経時的に測定した。
実験方法は以下のとおりである。
【0046】
・実験方法
イネ全草試料2.5gに5mlの蒸留水を添加

オートクレーブ滅菌

糸状菌胞子をそれぞれ50000spore植菌し、30℃で静置培養

所定日数培養後45mlの100mM NaAc buffer(pH5.0)を添加、55℃で24時間反応後、生成還元糖測定
【0047】
図4は、供試菌の培養日数とアミラーゼ活性の関係を示すグラフである。図示するように、A.nigerを2日間培養したものが最も高いアミラーゼ活性があることから、以後、A.niger IFO1023株をアミラーゼ生産菌として用いることとした。
【0048】
<6 全草培地でのセルラーゼ生産の検討>
イネ全草粉末を培地として、主としてセルロースを分解する酵素を生産するカビ(糸状菌)の選抜を行い、そのカビを用いてイネ全草を糖化する麹を作製した。
セルラーゼは、セルロース質をグルコースに分解する酵素である。この酵素を生産する菌として、食品用セルラーゼの生産によく使われる菌株であるTrichoderma viride NBRC31137株、およびTrichoderma reesei NBRC31326株、および弘前大学農学生命学部応用微生物研究室が白神山地から分離した子嚢菌2株(K菌株;Taralomyces,G菌株;Penicillum属)をイネ全草培地を培地として生育させ、生産されるセルラーゼ活性を経時的に測定した。なお、セルラーゼ活性は培地抽出液を粗酵素液として、CM−セルロースを基質とし、42℃24時間反応で生成するグルコース量により測定した。
【0049】
図5は、供試菌の培養日数とセルラーゼ活性の関係を示すグラフである。図示するように、T.virideを2日間培養したものが最も高いセルラーゼ活性を示した。すなわち、最もよくイネ全草を糖化した。また、その時の活性(糖化力)は予備試験で最もよくイネ全草を糖化した市販セルラーゼ剤SumizymeAC、0.8%に相当し、全草試料でT.virideを培養したもの(セルラーゼ麹)は、市販酵素剤の代替品として、充分に使用可能であることが明らかとなった。さらに、この麹を用いて、麹に対し約4倍量ものイネ全草を糖化することが可能であることも明らかとなった。
【0050】
セルラーゼは原料重量の0.1〜1%程度を使う必要があり、イネ全草1トンを糖化するコストは1万〜10万円にもなる。また、酵素剤を充分作用させるためには、55℃で1日間保温することが必要である。これに対し、麹の作製は2日間30℃というより低い温度に保温すればよく、特別の設備等も必要ないことから、酵素剤使用に対しほぼコストゼロと見なすことができる。この点でも、セルラーゼ麹は有利である。
【0051】
セルラーゼ麹は、セルロース分解酵素を生産させることを目的とすることから、デンプン質を含まない稲藁を培地としてセルロース麹の生産を試みた。その結果、稲藁、および稲藁にミネラル、米ぬかなどを添加した培地では、T.virideの生育はきわめて遅く、生産されたセルラーゼ活性はイネ全草培地を用いたものに比べ、著しく少なかった。このことは、セルラーゼ活性発現のためには、デンプンの存在によって菌株の生育が活発になることが必要であることを示すものであると考えられた。
【0052】
<7 イネ全草試料の並行複発酵の検討>
以上の試験で、酵母菌株、アミラーゼ麹、セルラーゼ麹が揃ったことから、これらを組み合せてイネ全草試料からエタノールを生産する条件について検討した。
まず、アミラーゼ麹とセルラーゼ麹の混合比を変えて、全体重量10gの試料について30℃14日間発酵させて生成するエタノールを測定した。表4に、混合比を変えたアミラーゼ麹・セルラーゼ麹による発酵試験結果を示す。なお、表中の*エタノール収率は、イネ全草試料10g中に含まれるデンプンおよびセルロースから算出されるエタノール生産量(理論収量 下式のとおり)に対し、実際にどれだけのエタノールが得られたかを示すものである。
理論収量= 3.91g(エタノール) /10g(イネ全草試料)
エタノールの内訳:デンプン由来2.12g、セルロース由来1.79g
【0053】
【表4】

【0054】
表に示すとおり、アミラーゼ麹1に対しセルラーゼ麹3の割合で混合したものが、エタノール濃度、収量とも最も高かった。そしてその量は、イネ全草試料の絶乾重量10gあたり1.82gであった。これをトンあたりリットル数に換算すると、227.5リットルであった。
【0055】
次いで、上記試験で得られたアミラーゼ麹・セルラーゼ麹の混合物に対し、0〜3倍量のイネ全草試料を加えて発酵させた。その結果、表5に示すように、混合麹に対し0.5〜3倍量のイネ全草試料を添加した場合、エタノール収率は混合麹単独の46.5%から42.6〜43.5%に落ちるものの、試料10gあたり1.68〜1.67gのエタノールを得ることができた。
【0056】
発酵後、残渣の粗繊維組成を調べたところ、デンプンがほぼ完全に消費されていたほか、ペクチンヘミセルロース画分も半分程度に減少していた。一方、セルロースは全体の20〜25%が減少したが、大部分は消費されなかった。
これらの結果は、市販酵素剤を使った試験と同様、セルロースが分解されないためにエタノール生成が理論値の40%程度に留まっていることを示しており、セルロース利用性の向上のためには、何らかの前処理方法が必要であると考えられた。
【0057】
【表5】

【0058】
<8 ペレット化試料の糖化・発酵>
イネ全草をアルコール発酵原料として使用する場合、そのままでは嵩が大きく貯蔵や移動に不便であること、水分が15%程度含まれておりカビやペスト(害虫・ネズミ等)の発生、食害等の心配があることから、イネ全草の高度素材化、具体的には、イネ全草試料を粉砕加圧してペレット状に加工するペレット化を試みた。
<8−1 ペレットの製造>
イネ全草試料としては平成21年産「みなゆたか」(青森県農業総合研究所、現:独立行政法人産業技術センター農林総合研究所)を用いた。これを、シュレッダーで長さ4cm程度以下に断片化した後、ペレタイザー((株)土佐テック社製 フラットダイ方式ペレタイザー TS−55)を用いて、径10mm×25mm程度のペレットに加工した。すなわち、ペレット化のフローは下記のとおりである。
【0059】
・ペレット化方法
原料(イネ全草)
↓ シュレッダーで処理
4cm程度以下に裁断
↓ ペレタイザーで処理
イネ全草ペレット
【0060】
図6は、イネ全草試料(約800g)および同量のイネ全草から製造したイネ全草ペレットを示す写真である。図示するように、ペレット化により容積が大幅に小さくなり、水分は約5%減少して減量化したほか、塵埃・屑が出なくなり、操作性(取扱い性)が大幅に向上した。また、ペレットに加工する際の熱によりデンプンがα化して仕込前の加熱処理が不要となり、さらに、形状が均一であることから容量で仕込ができるようになるなど、ペレット化は工場規模でのエタノール生産の原料として利点が多いことが示された。
【0061】
<8−2 ペレットの酵素糖化>
次いでペレット化前後での、イネ全草試料の酵素作用の受けやすさについて、以下の方法にて比較検討を行った。
ペレット化前後の試料をミルサーで粉砕後、0.5mm以下の篩で細粉化した試料をとり、50mgの試料に、
1mlの酵素溶液(アミラーゼ:グルク吟(5mg/ml) in 50mM酢酸緩衝液(pH4.8)
セルラーゼ:SumizymeAC(5mg/ml) in 50mM酢酸緩衝液(pH4.8)
アミラーゼ・セルラーゼ:グルク吟とSumizymeACを各5mg/ml) in 50mM酢酸緩衝液(pH4.8))
を添加し、50℃で48時間保温の後、遠心分離によって上清を回収してグルコース量を定量した。
【0062】
乾重1gあたりから生成したグルコース量の結果を表6に示す。ここに示されるとおり、ペレット化はSumizymeACによる糖化にはほとんど効果がなく、またグルク吟による糖化にはかえって阻害的に働いた。SumizymeAC+グルク吟処理では、ペレット化前とペレット化後の糖化との間において、差がほとんどなかった。SumizymeACはセルラーゼ活性の他にアミラーゼ活性を示すが、グルク吟にはセルラーゼ活性がないことから、SumizymeAC処理は実際上、セルラーゼ+アミラーゼ処理と考えてよく、生成したグルコースはセルロースとデンプン由来のものと判断された。また、グルク吟処理はアミラーゼ単独処理であり、生成されるグルコースはデンプン由来のものと判断された。
【0063】
グルク吟でグルコースの生成が阻害されたことは、ペレット化処理によりデンプンとセルロースが密着し、デンプンがアミラーゼの作用を受けにくくなったためと考えられる。しかしながらこの阻害は、セルラーゼの共存により解除されることから、エタノール生産には実質的な影響はないと結論した。
【0064】
【表6】

【0065】
<8−3 ペレット化による成分組成変化>
表7に、ペレット化前後の成分組成(%)を示す。表に示すように、ペレット化によって、リグニン、灰分およびヘミセルロース画分の減少とアミラーゼ可溶画分の顕著な増加、および水溶性画分の若干の増加が見られた。これらの変化について考察した。まず灰分の減少については、ペレット化により細胞壁を構成するシリカが微粉化し、ガラスフィルターを通り抜けたことによるものと考えられる。またリグニンの減少については、シリカ同様ペレット化によりリグニンが微粉化し、セルロース分解時にフィルターを抜けたことによるものと考えられる。
【0066】
またヘミセルロース画分の減少については、ヘミセルロースは五炭糖が主要な構成成分であるものの六炭糖も含まれており、ペレット化により、六炭糖がアミラーゼの加水分解作用を受けやすくなったためと考えられる。成分組成において見かけのデンプン量が増えたにもかかわらず、酵素分解により生成するグルコース量がペレット化前後で変わりがないことは、この推測を支持するものである。
【0067】
【表7】

【0068】
<8−4 ペレット化前後試料のアルコール発酵>
ペレット化前後試料およびその粉砕物を用いて、エタノール発酵を行い、アルコール収率を求めた。
ペレットおよびペレット化前試料は、バイブレーティングサンプルミルにより粉砕した試料(絶乾重量20g相当)に対して、水分量が40mlとなるように加水したもの(粉砕処理)、および、かかる粉砕処理を行わないもの(無処理)を用いた。また、ペレット化前試料については、温浴中30分間沸騰し、デンプンのα化を行った。酵母は、焼酎3号をYPD培地にて1昼夜、振とう培養し、試料重量あたり2×10個/gになるように汲み水の一部で希釈し、添加した。酵素剤はグルクSBG、SumizymeACをそれぞれ試料に対し、0.05%、1%添加し懸濁した。ペレット化前後試料からのアルコール生成結果を、表8に示す。
【0069】
表に示すとおり、粉砕処理したペレットを用いた場合、換算すれば原料トンあたり286リットル、重量にして226kgものエタノールが得られることが試算された。このときのエタノール理論収量は303kg/tであり、エタノール収量は理論収量の75.6%であった。以上の結果から、ペレット化した糖化原料は、糖化・発酵用の原料として充分使用可能であることが明らかとなった。
【0070】
【表8】

【0071】
<9 イネ全草からのエタノール生産コスト削減についての検討>
バイオマス作物によるエタノール生産の問題点、特にコストに関わる部分では次の2点がネックになっているといわれている。
・バイオマス作物の運搬コストが大きいこと。
(半径40km以内の運搬が望ましい)
・燃料エタノール精製プラントの設備投資コストが大きいこと。
(1.5万kl/年生産規模のプラントで約30億円:秋田県の試算)
このことから、燃料エタノール精製プラントとバイオマス作物を栽培する圃場との間に、発酵と粗留を行う中間処理サイトを挾むことと、酵素をオンサイト生産すること(サイト分割モデル)、さらに上述の造粒化(ペレット化)技術を組合わせ、バイオエタノール生産システムとしてシステム化した場合のコスト削減効果について、検討を行った。表9は、バイオエタノール生産システムの基本構成を示すものである。
【0072】
【表9】

【0073】
精留サイト(C−Site)を、生産規模1.5万kl/年のプラントとして、イネ全草でエタノールを生産する場合を想定し、バイオ作物を一ヶ所に集め・発酵・精留を行う場合(従来モデル)と、本バイオエタノール生産システム(本発明)で行う場合の、輸送コストの比較を行った。試算では、イネの収穫量については青森県農業総合研究所(現、独立行政法人産業技術センター農林総合研究所)で行ったうしゆたかでの最大収穫量19t/haを、またエタノール収量についてはイネ全草からの理論収量(エタノール391kg/t絶乾試料(デンプン由来212kg、セルロース由来179kg))を用いた。
【0074】
エタノール1.5万kl(1.2万t)製造に必要なイネの総量は、3.069万トン、必要な圃場面積は1614ha(16.14km)と算出された。一方、青森県の耕地面積比は16.5%であり、耕地面積の10%をエタノール生産用イネに当てると仮定すれば、978km(半径17.6km)の範囲からイネを集めればよいことになる。
【0075】
図7は、本発明バイオエタノール生産システムと従来技術(従来モデル)の構成を示す概念図である。図において、栽培サイト(A−Site、圃場)が10ヶ所あるとすると、従来モデル(図1中(b))では、原料運搬コストは、3.069万トンの原料を平均8.8km運ぶことになる(圃場から集積地までの刈り取り・集荷のコストは含めない)。一方、サイト分割モデルによる本発明システム(図1中(a))では、粗留エタノール(60%濃度)1.8万トンを同距離運ぶだけで済むこととなり、従来モデルの約6割の輸送コストで済むことになる。
【0076】
なお、秋田県における稲藁ロールを使った運搬費用の試算例では、運搬費用は2.4〜6.5円/kgと試算されている。これをベースに計算すれば、サイト分割モデルによる本発明システムにおける物量運搬費用は、1.4〜3.8円/kgと試算され、コスト低減を図ることができる。
【0077】
図8は、発酵・粗留サイト(B−Site)で全草処理、オンサイト酵素生産をする場合のプロセスを、従来技術との比較で示すフロー図である。本発明を(a)に、従来技術を図8(b)に示した。これらの比較から、本発明システム(イネ全草発酵・サイト分割方式)によるコスト削減効果をの概算した結果を、表10に示す。ここに示すとおり、エタノール製造klあたり、約5,000円から24,740円のコスト削減になるものと試算された。
【0078】
エタノール製造のコストについては、従来方式と本発明の方式の共通部分(発酵・蒸留・精留)、非共通部分(麹製造・脱穀・精米・固液分離・糖液濃縮)などの要素があるため、これらの全てを見込んだLCAを行う必要がある。しかし今回行った検討の結果、本発明のエタノール生産システムを構成するサイト分割方式、糖化酵素のオンサイト生産およびペレット加工についてはいずれも、発酵法によるエタノール生産のコストダウンにつながることが明らかとなった。
【0079】
なお、本研究にて検討した方法により、原料1トンから約350kgの残渣が副産物として生成する。この残渣は、土壌改良材(たい肥)、または粗飼料として、反芻家畜への利用が充分に可能であると判断された。
【0080】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の糖化原料、その製造方法およびエタノール製造方法等によれば、植物バイオマスを原料として用い、全工程を通して食品製造に準じた安全性の高いプロセスによって、原料利用面および設備面におけるコスト削減、作業の簡便化、さらには有害残渣を産出しないゼロエミッション型のエタノール生産が可能となる。したがって、エネルギー、農業、環境その他関連する産業分野において、利用性の高い発明である。
【符号の説明】
【0082】
1…糖化原料
2…グルコース
3…エタノール
P1…粉砕過程
P2…糖化過程
P3…発酵処理過程
【図P1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプンおよびセルロースを含有するバイオマスの地上部全体をペレット化してなる、糖化原料。
【請求項2】
前記バイオマスはイネ科植物であることを特徴とする、請求項1に記載の糖化原料。
【請求項3】
前記バイオマスはイネであることを特徴とする、請求項1に記載の糖化原料。
【請求項4】
ペレット化過程で発生する熱によりデンプンがα化しており、使用時にα化処理が不要であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の糖化原料。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の糖化原料の糖化処理によって製造されるグルコース。
【請求項6】
デンプンおよびセルロースを含有するバイオマスの地上部全体を用いて、これを加圧成形処理するペレット化過程によってペレットを得る、糖化原料の製造方法。
【請求項7】
前記ペレット化過程で発生する熱によりデンプンがα化していることを特徴とする、請求項6に記載の糖化原料の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれかに記載の糖化原料を用いるエタノール製造方法であって、該方法は、該糖化原料を粉砕する粉砕過程と、該粉砕過程により粉砕された該エタノール製造用原料の酵素処理によってグルコースを得る糖化過程とを備えており、得られたグルコースの発酵処理によってエタノールを得る、エタノール製造方法。
【請求項9】
前記糖化過程においては、セルラーゼ産生糸状菌による麹もしくはアミラーゼ産生糸状菌による麹、またはその両者を用いることを特徴とする、請求項8に記載のエタノール製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし4のいずれかに記載の糖化原料を用いるバイオエタノール生産システムであって、
該システムは、デンプンおよびセルロースを含有する糖化原料とするためのバイオマスが栽培される圃場である複数の栽培サイトと、
該栽培サイトごとにその内部に設けられていて最終的な該バイオエタノールの中間産物を得るための中間処理サイトと、
該中間産物を処理して該バイオエタノールとするための最終処理サイト
とを備えてなる、バイオエタノール生産システム。

【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−50408(P2012−50408A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197642(P2010−197642)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】