説明

糖含有組成物

【課題】本発明は、木質系バイオマスから、糖を豊富に含み、アルコール発酵に供した際の発酵阻害性が少なく、かつ、雑菌汚染を受け難い糖含有組成物を得ることを目的とする。
【解決手段】木質系バイオマスについて、亜硫酸を1.0w/v%以上4.0w/v%以下の濃度で含む溶液を用いる亜硫酸処理を行って得られる糖含有組成物;アルコール及び/又は有機酸の原料である、上記糖含有組成物;木質系バイオマスについて、亜硫酸を1.0w/v%以上4.0w/v%以下の濃度で含む溶液を用いる、糖含有組成物の製造方法;前記糖含有組成物のアルコール及び/又は有機酸の原料としての用途;前記糖含有組成物を原料として用いる、アルコール及び/又は有機酸の製造方法;前記糖含有組成物を含む、微生物生育用培地;前記糖含有組成物で微生物を生育する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
産業革命以後、人類は豊かな生活を送れる様になってきたが、一方エネルギーの見地から見ると限りある石油・石炭の大量消費から化石資源の枯渇が問題となってきている。また、環境の見地から見るとこれらの燃焼により発生する二酸化炭素等に基づく地球温暖化が進み、その両面での対策が急務となってきている。
【0003】
この両者に効果のある対策のひとつとして再生可能な資源であるバイオマスの利用が注目され、所謂バイオエタノール、バイオブタノール等のバイオアルコールの生産技術開発もその一環として多くの研究や実用化が試みられている。
【0004】
バイオエタノールについては石油から作られるガソリンを補う燃料としての実用化が進められており、ブラジルのサトウキビの糖を利用したものや米国のとうもろこしでんぷんを利用したエタノールがすでに実用化されている。しかし、これらの原料は元来、人間や家畜の食糧・飼料となるものであり、これらを工業用途に利用する事は食糧危機を更に加速するする側面も持ち合わせており、危惧されている。
【0005】
この様な背景から木質系バイオマスを利用したバイオアルコール生産技術の開発が求められている。
【0006】
従来から、木質系バイオマスからアルコール発酵に利用する糖を得る技術としては、硫酸が用いられた鉱酸加水分解法(濃硫酸法、希硫酸法)が知られている。
【0007】
しかし濃硫酸法では、濃硫酸を糖(主にグルコース)と分離する工程が必要であると共に硫酸を回収する工程が必要であり、設備の腐食や操業安全性に問題があるとされてきた。また、希硫酸法では、廃硫酸の石灰による中和により生成する石膏の処理が問題となることが多かった。さらに、木材中の主要成分の一つであるリグニンは、木質系バイオマスの主成分の一つであり、木材に占めるリグニンの割合は、通常20重量%〜40重量%である。リグニンは、鉱酸加水分解法、すなわち濃硫酸法及び希硫酸法のいずれにおいても、不溶性の状態でとどまるため、該方法による糖化収率を低下させる原因となることが多い。さらに、鉱酸加水分解法では、フルフラール等の発酵阻害物質も著量発生し、これも糖化・発酵収率の低下を招いている。
【0008】
これらの従来の問題点を解決するため、様々な技術が提案されているが、いずれも従来の課題を解決するには不十分である。
【0009】
例えば、特許文献1には、クラフトパルプ(KP)製造技術を利用し、リグノセルロース系バイオマス、すなわち木質系バイオマスをアルカリ蒸解法で脱リグニンし、アルカリ蒸解したリグノセルロース系バイオマスを炭素源として糖化酵素産生菌を培養し、リグノセルロース系バイオマスの糖化に適した酵素を生産させ、得られた糖化酵素を含有する培養液とエタノール発酵菌をアルカリ蒸解したリグノセルロース系バイオマスに添加して糖化・発酵させる方法が開示されている。しかしながら、アルカリ蒸解した処理液にはヘミセルロースがポリマーのまま残存するため、単糖を得るためには、事実上複数の糖化酵素(セルラーゼ、ヘミセルラーゼなど)が必要である。酵素の至適活性点は通常異なるため、十分な糖化がなされないおそれがある。また、糖化された糖液は、比較的雑菌汚染を受けやすい問題がある。
【0010】
特許文献2には、第1のリグノセルロース原料、すなわち木質系バイオマスをクラフト蒸解してクラフトパルプとクラフト黒液を得るクラフト蒸解装置と、第2のリグノセルロース原料をナトリウムベースでサルファイト蒸解してサルファイトパルプとサルファイト黒液を得るサルファイト蒸解装置と、サルファイト黒液をエタノール発酵してエタノールと発酵済液を得るエタノール発酵装置と、クラフト黒液と発酵済液に含まれる蒸解薬品を回収し、回収した蒸解薬品を該クラフト蒸解装置へ送る蒸解薬品回収装置と、を備える、リグノセルロースを原料としてエタノールを製造するためのシステムが提案されている。このシステムでは、サルファイト蒸解の条件については一般的な条件を示すに過ぎず、このような一般的なサルファイト蒸解の条件で得られるサルファイト黒液からでは、収率良くエタノール発酵させることが困難である。非特許文献1には、酸性亜硫酸蒸解法で木材をヘミセルロース及びセルロースを単糖化する技術が開示されているが、ヘミセルロースから生成した単糖は過分解を起こし発酵に利用できなくなる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−92910号公報
【特許文献2】特開2009−213389号公報
【0012】
【非特許文献1】第77回紙パルプ研究発表会講演要旨集p82−85(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、木質系バイオマスから、糖を豊富に含み、アルコール発酵に供した際の発酵阻害性が少ない糖含有組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の〔1〕〜〔8〕を提供する。
〔1〕木質系バイオマスについて、亜硫酸を1.0w/v%以上4.0w/v%以下の濃度で含む溶液を用いる亜硫酸処理を行って得られる糖含有組成物。
〔2〕前記亜硫酸処理は、pH1.1以上2.0以下の条件下で行われる、上記〔1〕に記載の糖含有組成物。
〔3〕以下の(A)、(B)又は(C)である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の糖含有組成物。
(A)前記亜硫酸処理を行って、抽出残渣を分離して得られる抽出液
(B)前記亜硫酸処理を行って、抽出液を分離して得られる抽出残渣を、アルカリ処理し、さらに糖化酵素処理して得られる酵素分解物
(C)前記(A)及び(B)の混合物
〔4〕アルコール及び/又は有機酸の原料である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の糖含有組成物。
〔5〕木質系バイオマスに対し、亜硫酸を1.0w/v%以上4.0w/v%以下の濃度で含む溶液を用いる亜硫酸処理を行う、糖含有組成物の製造方法。
〔6〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の糖含有組成物を原料として用いる、アルコール及び/又は有機酸の製造方法。
〔7〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の糖含有組成物を含む、微生物生育用培地。
〔8〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の糖含有組成物で微生物を生育する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、糖を豊富に含み、アルコール発酵に供した際の発酵阻害性が少ないので、バイオエタノール等アルコールの製造原料として優れている糖含有組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1−1】図1−1は、酵母に対する比較例1で得られる蒸解抽出液の添加量と生成エタノール量との関係を示すグラフである。
【図1−2】図1−2は、酵母に対する実施例1で得られる蒸解抽出液の添加量と生成エタノール量との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例2及び実施例3のそれぞれで得られる抽出残渣の糖化による生成グルコース量の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の糖含有組成物は、木質系バイオマスを亜硫酸処理して得られる。
【0018】
本発明において、木質系バイオマスとは、木本類、草本類、海草などから選ばれる植物に由来するバイオマスを意味する。木質系バイオマスの代表的なものとしては、針葉樹、広葉樹等のいわゆる木本類を原料とする木材系バイオマス、草本類など木本類以外の加工品である非木材系バイオマスが挙げられ、これらのいずれであってもよい。針葉樹としては、例えば、アカシア、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、スプルース、バルサム、ラジアータパイン等が例示される。広葉樹としては、例えば、ナラ、シイ、ブナ、カバ、ハンノキ、シラカバ、ポプラ、ユーカリ、マングローブ、ラワン等を挙げることができる。非木材系バイオマスとしては古来より非木材パルプ原料として用いられてきた、靭皮繊維を利用するケナフ、楮、三椏、雁皮、亜麻、大麻、ジュート、種毛繊維を利用する綿、茎の繊維を利用する竹、稲わら、麦わら、砂糖きびバガス等を挙げることができる。木質系バイオマスは、木本類、草本類等の植物の植物体そのもの、その一部(例:樹皮、幹、枝、葉、根、実)のいずれであってもよいし、必要に応じて植物に処理を加えたもの(例えば、粉砕、チップ、ペレット等への成形など)であってもよい。木質系バイオマスの具体例としては、間伐材、林地残材、製材所廃材、剪定枝、果樹剪定枝、建築廃材(例:建築解体廃材、新増築廃材)、成形燃料等を挙げることができる。
【0019】
本発明においては、木質系バイオマスの亜硫酸処理を行う。亜硫酸処理とは、亜硫酸を被処理物に接触させる処理を意味する。亜硫酸そのものを用いてもよいし、亜硫酸の塩(例えば、亜硫酸カルシウム、亜硫酸マグネシウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸ナトリウムなど)を用いてもよい。亜硫酸処理の際用いる設備は特に限定されるものではなく、例えば、一般に知られている溶解パルプの製造設備などを用いることができる。
【0020】
亜硫酸処理は、亜硫酸の溶液中の濃度(木質系バイオマスの持つ水分も含めた溶液(いわゆる蒸解用薬液(蒸解液))の容量(100mL)に対する亜硫酸の重量(g)の割合(g/100mL、単位:w/v%))、実施例における仕込み亜硫酸濃度)が所謂従来のレーヨン用パルプを製造する条件より低いこと、すなわち、4.0w/v%以下であることが必要である。好ましくは、3.5w/v%以下である。亜硫酸濃度が4.0w/v%以下であることにより、亜硫酸処理の結果得られる糖含有組成物中の酢酸、フルフラール等の発酵阻害物質の濃度は、上記範囲外の濃度の亜硫酸にて処理された処理物のそれと同等であるにもかかわらず、発酵阻害性の低い糖含有組成物が得られる。発酵阻害性が低い原因は、従来より発酵阻害性を有することが知られている物質である、酢酸やフルフラール類以外の、発酵阻害性を持つ物質(糖、リグニン、タンニンフラボノイドの変性物(過分解物))が少ない為であると推測される。すなわち、上記範囲内であることにより、木質系バイオマス中の糖の分解を最小限に抑えることができると共に、発酵阻害物質等の余分な成分が抽出されず、糖含量(例えば抽出固形分に対する糖の割合)を向上させることができる。亜硫酸の濃度の下限は、1.0w/v%以上であることが好ましく、2.0w/v%以上であることが好ましい。これより低いとヘミセルロースを単糖に十分に分解できなくなるおそれがある。すなわち、亜硫酸の濃度は、ヘミセルロース由来の単糖が十分含有される糖類を得る観点からは、1.0w/v%以上4.0w/v%以下であることが好ましく、2w/v%以上3.5w/v%以下であることがより好ましい。
【0021】
亜硫酸処理の際のpH条件は、1.1以上2.0以下であることが好ましく、1.2以上1.8以下であることが好ましい。これにより、木質系バイオマスに含まれるリグニン類を十分可溶化させることができる。また、後述の糖化酵素処理を行う場合には、セルロースの糖化性を十分に向上することができる。
【0022】
また、亜硫酸処理においてはカウンターカチオンを添加することが好ましい。カウンターカチオンを添加することにより、亜硫酸処理におけるpHを保つことができ、糖の過分解を抑えることができる。カウンターカチオンとしては、例えば、MgO、Mg(OH)2、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、NH3、NH4OH、NaOH、NaHCO3、Na2CO3等が挙げられ、このうちMg(OH)2、NaOHが特に好ましい。
【0023】
亜硫酸処理の際の温度条件は、120℃以上150℃以下であることが好ましい。なお、上記カウンターカチオンを添加する際は、添加時の温度は、常温の範囲(例えば、10℃以上40℃以下)とすることが好ましい。
【0024】
亜硫酸処理の処理時間は、通常は1時間以上12時間以下、好ましくは2時間以上4時間以下である。
【0025】
亜硫酸処理は、通常は、いわゆる蒸解液と呼ばれる亜硫酸を含む溶液と、木質系チップとを接触させて行う。蒸解液における亜硫酸の濃度は、通常は5w/v%以上10w/v%以下である。蒸解液は、亜硫酸を適当な溶媒、一般に、水等に溶解させて調製され得る。蒸解液には、必要に応じて、亜硫酸、カウンターカチオンのほかに、蒸解浸透剤(例えば、アントラキノンスルホン酸塩、アントラキノン、テトラヒドロアントラキノン等の環状ケト化合物)を含ませてもよい。亜硫酸処理における、木質系バイオマスと蒸解液との比率は、亜硫酸の濃度、pHなど亜硫酸処理条件にもよるが、通常は、蒸解液液比(木質バイオマスの水分も加えた蒸解液の容量(L)に対する木質系バイオマスの絶乾重量(kg)の比(L/kg))として、2.0〜6.0であることが好ましく、2.5〜4.0であることがより好ましい。
【0026】
亜硫酸処理後、抽出液、抽出残渣、及びそれらの混合物が得られ、いずれもそのまま、或いは、必要に応じて他の処理を加えて本発明の糖含有組成物として利用できる。中でも、本発明の糖含有組成物は、以下の(A)、(B)又は(C)であることが好ましく、(C)であることがより好ましい。
(A)木質系バイオマスを亜硫酸処理して得られる抽出液
(B)木質系バイオマスを亜硫酸処理して得られる抽出残渣をアルカリ処理し、さらに糖化酵素処理して得られる酵素分解物
(C)(A)及び(B)の混合物、すなわち、木質系バイオマスを亜硫酸処理して得られる抽出液と、木質系バイオマスを亜硫酸処理して得られる抽出残渣をアルカリ処理し、さらに糖化酵素処理して得られる酵素分解処理物との混合物
【0027】
(A)木質系バイオマスを亜硫酸処理して得られる抽出液は、亜硫酸処理の結果得られる処理物のうち蒸解液に溶解した液体部分を意味し、以下、本明細書において蒸解抽出液と呼ぶことがある。蒸解抽出液は、亜硫酸処理の結果得られる処理物のうち、抽出残渣を除いた部分である。抽出残渣の除去は、ろ過や遠心分離等の手段による分離によることができる。抽出液はそのまま、或いは必要に応じて中和、減圧濃縮等の処理を行ってから、糖含有組成物として利用できる。中和の際には、例えば、MgO、Mg(OH)2、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、NH3、NH4OH、NaOH、NaHCO3、Na2CO3等を用いることができる。減圧濃縮を行うことにより、抽出液の糖濃度を向上させることができる。
【0028】
(B)木質系バイオマスを亜硫酸処理して得られる抽出残渣をアルカリ処理し、さらに糖化酵素処理して得られる酵素分解物において、抽出残渣は、亜硫酸処理により得られる処理物のうち主に固体部分を意味する。抽出残渣は、抽出液からろ過や遠心分離等の手段により分離することにより得られる。抽出残渣はそのまま、水洗後、或いはアルカリ処理、糖化酵素処理を行ってから、糖含有組成物として利用でき、アルカリ処理、次いで糖化酵素処理を行ってから糖含有組成物として利用することが好ましい。
【0029】
アルカリ処理は、抽出残渣に塩基性物質を接触させて行えばよい。塩基性物質としては、水酸化ナトリウム(NaOH、苛性ソーダ)が好ましい。塩基性物質の量は、抽出残渣の固形分重量、或いは、後述のように抽出残渣を水等の水性溶媒に分散し分散液を調整する場合には分散液の重量に対する重量の割合で、0.5重量%以上3.0重量%以下であることが好ましく、1.0重量%以上2.0重量%以下であることがより好ましい。この範囲であることにより、糖化酵素の反応性を十分な範囲に保つことができ、塩基性物質の添加量に見合った効果を得ることができる。アルカリ処理の処理温度は、90℃以上100℃以下であることが好ましく、95℃以上98℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理の処理時間は、0.5時間以上6時間であることが好ましく、1時間以上2時間以下であることが特に好ましい。
【0030】
アルカリ処理に先立ち、必要に応じて、抽出残渣の分散処理、濃度の調整(水等の水性溶媒の分散液の調製)を行ってもよい。分散処理は、ディスクリファイナーの通過、ミキサー、ディスパーザーへの添加、ニーダー処理などによることができる。濃度の調整は、例えば水等の水性溶媒を用いて行うことができる。濃度の調整は、水性溶媒(重量)中の抽出残渣の固形分(重量)濃度が5.0重量%以上であることが好ましい。上限は、20.0重量%以下となるように調整することが好ましく、15.0重量%以下となるように調整することがより好ましい。
【0031】
糖化酵素処理の際用いる糖化酵素としては、特に限定されるものではない。例えば、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼとヘミセルラーゼの混合物などが挙げられる。セルラーゼは、endo−グルカナーゼ、exo−グルカナーゼ、β−グルコシダーゼ等に分類され、これらから選ばれる1種、或いは2種以上の混合物を、糖化酵素として用いることができる。前記セルラーゼの2種以上の混合物の場合には、それぞれの酵素の配合比のバランスの取れたものであることが好ましい。糖化酵素は、分解活性の高いものが好ましい。糖化酵素の具体例として、ノボ社製のセルラーゼ(NS50013とNS50010の混合物、NS22074など)、ジェネンコア協和社のセルラーゼ(オプチマッシュBG、Accellase1500)、新日本化学工業社のセルラーゼ(スミチームAC)等を例示することができるが、これに限定されるものではない。
【0032】
また、糖化酵素に代えて、糖化酵素活性を持つ微生物又はその培養物を利用してもよい。糖化酵素活性を持つ微生物のうち、セルラーゼ活性を持つ微生物としては、例えば、トリコデルマ(Trichoderma)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、アクレモヌウム(Acremonium)属等の微生物が挙げられる。糖化酵素活性を持つ微生物を利用する糖化酵素処理の例としては、該微生物を含む培地に、上記アルカリ処理後の抽出残渣を添加する方法が挙げられる。
【0033】
糖化酵素処理における処理条件は、用いる糖化酵素、微生物等により左右され、一律に範囲を特定することは困難であるが、一例を示すと以下の通りである。酵素の添加量は、抽出残渣の固形分重量に対する固形分(重量)濃度で、0.5重量%以上10.0重量%以下であることが好ましく、1.0重量%以上8.0重量%以下であることがより好ましい。pH条件は、4.0以上7.0以下であることが好ましい。温度条件は、30℃以上60℃以下であることが望ましい。反応時間は10時間以上72時間以下であることが好ましく、24時間以上48時間以下であることがより望ましい。
【0034】
糖化処理に先立ち、アルカリ処理がなされた抽出残渣の固形分濃度の調整を行ってもよい。固形分濃度の調整例としては、抽出残渣の固形分の重量が2.0重量%以上15.0重量%以下となるように水等の水性溶媒を添加することが挙げられる。
【0035】
得られる酵素分解物はそのままでも利用可能であるが、ろ過、膜処理ないしは遠心分離でスラッジを除くことが好ましい。また、減圧濃縮或いは逆浸透濃縮を行うと、酵素分解物中の糖濃度を向上させることができるので、好ましい。
【0036】
(C)混合物の亜硫酸濃度は、雑菌汚染効果を有し、且つ発酵阻害が起こさない点から、混合物の容量(100mL)に対する重量(g)の比率(単位:w/v%)として、0.01w/v%以上0.30w/v%以下であることが好ましく、0.05w/v%以上0.10w/v%以下であることが更に好ましい。糖含有組成物中(C)の亜硫酸濃度は、(A)抽出液及び/又は(B)酵素分解物の製造時における減圧濃縮によるコントロール、(A)と(B)の配合比率によりコントロールすることが可能である。(C)における(A)と(B)の配合比率(容量比)は特に限定されず、例えば、(A)/(B)=0.01〜99.99/99.99〜0.01(但し、(A)+(B)=100とする)であればよい。さらに、(A)〜(C)のいずれにおいても、発酵阻害物質のうち、酢酸等の有機酸は、糖含有組成物をエバポレーター処理等することにより通常は半分以下の量まで除去され得る。
【0037】
本発明の糖含有組成物は、いずれも糖を含む。(A)抽出液は、糖、中でも、グルコース、マンノース、ガラクトース等の六炭糖、キシロース、アラビノース等の五炭糖を豊富に含有し、このうち五炭糖ではキシロースが多く、六炭糖ではマンノースが主体である。また、本発明の糖含有組成物のうち(A)及び(C)、中でも(A)は、有機酸、例えば、酢酸、蟻酸等の低級有機酸(好ましくは炭素数1以上3以下程度)を多く含む。さらに、(B)酵素分解物及び(C)混合物に含まれる糖は、材料や処理条件等により個体差が多いので一概には言えないが、通常はグルコースが主体である。さらに、(A)及び(C)は、雑菌に汚染されにくいという特徴がある。雑菌汚染が防止できる理由は完全には明らかではないが、主に糖含有組成物中の亜硫酸が雑菌汚染防止効果を発現しているものと推測される。
【0038】
本発明の糖含有組成物は、アルコール及び/又は有機酸製造の際の原料として有用である。糖含有組成物はそのまま、あるいは必要に応じて減圧濃縮、水等の水性溶媒への分散などを行ってからアルコール及び/又は有機酸製造の原料として利用できる。
【0039】
糖含有組成物を用いてアルコール(例えば、エタノール、ブタノール)及び/又は有機酸(例えば、酢酸、蟻酸)を製造する際の条件は、特に限定されない。アルコールの製造を例に取ると、アルコール発酵能を有する微生物を添加して培養する方法が挙げられる。アルコール発酵を有する微生物としては、カンジダ属微生物(例えば、五炭糖からのアルコール発酵能を有するカンジダ・シェハタエ(例えばカンジダ・シェハタエ(Candida shehatae) ATCC22984))、サッカロミセス属微生物(例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、シゾサッカロミセス属微生物(例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe) AHU3179)等が挙げられる。アルコール発酵能を有する微生物の培養の際の条件は、微生物の種類により最適な条件を選択すればよい。微生物が、カンジダ・シェハタエの場合の例を挙げると、温度は25℃以上35℃以下であることが好ましく、発酵時間は12時間以上48時間以下であることが好ましい。アルコール及び/又は有機酸を製造する際には、糖含有組成物のみを原料としてもよいし、他の原料(グルコース等の糖など)と共に原料としてもよい。
【0040】
製造されるアルコール及び/又は有機酸は、必要に応じて蒸留、精製等を施した後、いわゆるバイオアルコール(バイオエタノール、バイオブタノールなど)、酢酸、蟻酸などとして、各種用途に供することができる。
【0041】
本発明の糖含有組成物は、微生物の生育において、炭素源としても有用である。本発明の糖含有組成物により生育可能な微生物は、生育に炭素源を必要とする微生物であれば特に限定されないが、アルコール発酵能を有する微生物(具体例については上述したとおりである)、有機酸発酵能を有する微生物(アセトバクター属微生物など)であることが好ましい。本発明の糖含有組成物は、微生物生育用培地の成分として含ませることができる。微生物生育用培地の形態は、液体培地、固体培地等のいずれであってもよい。また、微生物生育用培地は、本発明の糖含有組成物のほかに、他の成分、例えば窒素源、ビタミン、微量元素等を含んでいてもよい。
【実施例】
【0042】
以下実施例をもって本発明の詳細を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。
【0043】
なお、下記の記載における単糖の対抽出液固形分比率とは、抽出液固形分の重量に対する単糖の合計量の比率(重量比)を意味する。単糖の合計量は、HPLC法により測定した六炭糖(グルコース、マンノース及びガラクトース)並びに五炭糖(キシロース及びアラビノース)の溶液100ml中の重量(g)の総和を単位w/v%であらわした数値である。「抽出液固形分」は、溶液100mlを120℃で衡量化するまで乾燥した時の重量(g)を単位w/v%で表した数値である。また、比較例1及び実施例1における水洗原質パルプ収率とは、蒸解して、抽出液除去後に得られた蒸解残渣(抽出残渣)を定法どおり離解・水洗浄後、8カットスクリーンを通過した繊維の乾燥重量の対チップ絶乾重量に対する百分率(単位:重量%)である。
【0044】
[比較例1:No.SP28]
アカシアチップを、蒸解液液比(チップ水分も含めた蒸解液の容量に対するチップの絶乾重量比(L/kg)、以下同じ)4、仕込み亜硫酸濃度5.49w/v%、pH1.29(by MgO)で140℃、4時間蒸解した。蒸解液の亜硫酸以外の組成は、Mg0.33w/v%とした。Mg(OH)2添加の際の温度は、常温(20℃)であった。処理後に蒸解抽出液を、遠心分離により抽出残渣から分離した。得られた蒸解抽出液中、単糖合計の対抽出液固形分比率は0.24であった。また水洗原質パルプ収率は46.6重量%であった。なお、比較例1の水洗原質パルプ収率及び単糖の対抽出液固形分比率は酸性亜硫酸蒸解法で溶解パルプを製造する場合の一般的数値であった。
【0045】
[実施例1 No.SP30]
アカシアチップを、蒸解液液比4、仕込み亜硫酸濃度2.46w/v%、pH1.81(by MgO)で140℃、4時間蒸解したほかは、比較例1と同様に行った。蒸解液の亜硫酸以外の組成は、Mg 0.30w/v%とした。Mg(OH)2添加の際の温度は、20℃であった。処理後に蒸解抽出液を、遠心分離により抽出残渣から分離した。得られた蒸解抽出液中、単糖の対抽出液固形分比率は0.31と比較例1に比べ高い単糖合計比率であった。一方、水洗原質パルプ収率は20.0重量%にとどまり、溶解パルプの実用収率にははるか及ばなかった。また、蒸解抽出液の亜硫酸濃度は、0.67w/v%であった。
【0046】
比較例1にて得られた蒸解抽出液(No.SP28)を半量まで60℃で減圧濃縮後もとの量まで水で戻した抽出液をSP28E、実施例1にて得られた蒸解抽出液をSP28Eの場合と同様に濃縮後もとの量まで加水して得られた抽出液をSP30Eとした。これらの抽出液を、50容量(v/v)%のグルコースモデル糖液(組成:10w/v%グルコース/200mM リン酸カリウム緩衝液)に10〜50容量(v/v)%となるように添加し、残りの容量を水でフィルアップ後、これに五炭糖発酵可能な酵母Candida shehatae ATCC22984を発酵菌として2重量%添加し30℃、2時間発酵させた。
【0047】
各抽出液存在下での発酵終了後、生成エタノールをF−キット(酵素法エタノール測定キット、株式会社J.K.インターナショナル)により測定した。生成エタノ−ルの測定結果を図1−1(SP28及びSP28E)及び図1−2(SP30及びSP30E)に示した。
【0048】
比較例1の蒸解抽出液(SP28)では糖液への蒸解抽出液の添加率を増すに従い、急激にエタノールの生成が低下した(図1−1)。減圧濃縮処理を施した抽出液(SP28E)の場合も、エタノール発酵性は向上するものの発酵阻害性は十分には低下しなかった。これと比較し、実施例1の蒸解抽出液(SP30)ではパルプ製造条件での蒸解抽出液と比較し、含まれる酢酸や発酵阻害物質の濃度は同等であったにもかかわらず、発酵阻害性が低下しており、特に減圧濃縮を施した場合(SP30E)顕著であった(図1−2)。なお、SP−30には酢酸が1.0重量%含まれていたが、エバポレーターにより処理した後は、0.37重量%に低下した。
【0049】
[実施例2]
実施例1と同一条件で蒸解とパルプの分離を行った。得られた結果物から抽出残渣を蒸解抽出液から分離して水洗し、スクリーン通過を行うことなく採取した。これを4.0重量%固形分濃度となるように水分散し、希塩酸でpHを5.2に調整後、セルラーゼ(ノボ社製、NS22074)を、抽出残渣に対する固形分(重量)濃度で、5.0重量%添加し、50℃で30時間反応させた。酵素反応の間生成するグルコースを経時的に測定した。
【0050】
[実施例3]
実施例2と同様の条件で採取された抽出残渣を、8.0重量%固形分濃度となるように水に分散し、これに苛性ソーダを抽出残渣の水分散液の重量に対する重量割合で、2.0重量%添加し、95℃及び3時間の条件で加熱処理を行った。その後、遠心分離機により抽出液が殆ど出なくなるまで脱液、水洗後家庭用ミキサーを用い1分間分散を行い、得られる酵素糖化用パルプを4.0重量%固形分濃度となるように水分散した。0.1N希塩酸でpHを5.2に調整後、セルラーゼ(ノボ社製、NS22074)を、酵素糖化用パルプの重量の対固形分(重量)で5.0重量%添加し、50℃で30時間反応させた。酵素反応の間生成するグルコースを測定した。
【0051】
実施例2及び実施例3の測定結果を、図2に示した。実施例2及び実施例3とも、グルコースは生成されていたが、アルカリ処理を行う実施例3では、酵素反応性が大幅に向上していた。また、実施例3の酵素糖化用パルプでは、パルプに含まれるグルコース当たり70.0重量%以上の糖化率が得られた。また、実施例2及び実施例3のそれぞれにおいて酵素反応終了後に得られる、酵素分解液中に亜硫酸は殆ど検出されなかった。
【0052】
[実施例4]
実施例1で得られた蒸解抽出液を比較例1のSP28と同様に濃縮して得られる濃縮液(全単糖濃度6.8w/v%)50容量部と、実施例3で得た酵素分解液を3倍に濃縮後ろ過してスラッジを除いた糖液(グルコース7.5w/v%)を50容量部合せて糖液を得た。この糖液の組成は、以下の通りであった:グルコース3.8w/v%、マンノース0.1w/v%、ガラクトース0.2w/v% キシロース2.9w/v%、アラビノース0.1w/v%、五炭糖と六炭糖の合計:7.1w/v% SO2:0.17w/v%。
【0053】
この糖液のpHを6.0に調整後、500ml三角フラスコに300mlを添加し、予め前培養しておいた酵母Candida shehataeを、糖液中の濃度が2重量%濃度となるようにさらに添加した。サランラップでこのフラスコの口を覆い、30℃及び50rpmの条件で2日間発酵を行った。
【0054】
発酵終了後の培養液中のエタノール濃度を測定したところ、2.0容量(v/v)%であった。なお、使用した器具類は滅菌処理を施さないものであり、また、雑菌汚染対策も施さず、実験終了後3日間同一条件で培養を継続したが、不快な臭いは発生せず、また検鏡で雑菌汚染は観察されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系バイオマスについて、亜硫酸を1.0w/v%以上4.0w/v%以下の濃度で含む溶液を用いる亜硫酸処理を行って得られる糖含有組成物。
【請求項2】
前記亜硫酸処理は、pH1.1以上2.0以下の条件下で行われる、請求項1に記載の糖含有組成物。
【請求項3】
以下の(A)、(B)又は(C)である、請求項1又は2に記載の糖含有組成物。
(A)前記亜硫酸処理を行って、抽出残渣を分離して得られる抽出液
(B)前記亜硫酸処理を行って、抽出液を分離して得られる抽出残渣を、アルカリ処理し、さらに糖化酵素処理して得られる酵素分解物
(C)前記(A)及び(B)の混合物
【請求項4】
アルコール及び/又は有機酸の原料である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の糖含有組成物。
【請求項5】
木質系バイオマスに対し、亜硫酸を1.0w/v%以上4.0w/v%以下の濃度で含む溶液を用いる亜硫酸処理を行う、糖含有組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の糖含有組成物を原料として用いる、アルコール及び/又は有機酸の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の糖含有組成物を含む、微生物生育用培地。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の糖含有組成物で微生物を生育する方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−161258(P2012−161258A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22561(P2011−22561)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.サランラップ
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発/バイオマスエネルギー等効率転換技術開発(先導技術開発)/亜硫酸脱リグニン法を基礎技術とした木質バイオマスからの合理的エタノール生産プロセスの構築」に係わる委託業務実施計画書(平成21年度〜22年度)
【出願人】(502368059)日本製紙ケミカル株式会社 (86)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【Fターム(参考)】