説明

糖尿病発症及び/又は進展リスクの判定方法

【課題】糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定方法、KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNA等の提供。
【解決手段】ヒトゲノムDNAのKCNJ15遺伝子のアリルを検出することで、糖尿病の発症及び/又は進展リスクを判定する、KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNA等のKCNJ15遺伝子の発現阻害又はKCNJ15タンパク質の機能を抑制する物質を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定方法に関する。さらに詳しくは、KCNJ15遺伝子のアリルを検出することによる糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定方法に関する。また、KCNJ15遺伝子の発現阻害又はKCNJ15タンパク質の機能を抑制する物質、例えば、KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNA、または該RNA等を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2型糖尿病は生活習慣病の1つとして知られており、我が国においても罹患率が上昇している。この疾病は遺伝的な要因と、肥満、運動不足、食生活等の環境要因とが加わって発症すると考えられており、2型糖尿病に関連する様々な遺伝子が報告されている。
【0003】
特に、近年の遺伝子解析技術の向上に伴い、特定の遺伝子において高頻度に検出されるアリルの違いを特定する、一塩基多型(以下、SNPとする)と2型糖尿病との関連に注目が集まっている。2型糖尿病に関連するこのような遺伝子として、TCF7L2(transcription factor 7−like 2)、PPARG(peroxisome proliferative activated receptor gamma)、CAPN10(calpain 10)、KCNJ11(potassium inwardly−rectifying channel, subfamily J, member 11)、SLC30A8(solute carrier family 30 member 8)、HHEX(haematopoietically expressed homeobox)、CDKAL1(CDK5 regulatory subunit associated protein 1−like 1)、CDKN2A/B(cyclin−dependent kinase inhibitor 2A/B)、IGF2BP2(insulin−like growth factor 2 mRNA−binding protein 2等が報告されている。そして、これらのアリルの違いを特定し、SNPを調べることにより、2型糖尿病を検査する方法等が開発されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
本発明者らはこのアリルの違いより、2型糖尿病に関連する新たな遺伝子として、本発明において示すKCNJ15(Potassium inwardly−rectifying channel, subfamily J, member 15)遺伝子を見出した。
KCNJ15遺伝子はKir4.2遺伝子とも称され、ヒトの21番染色体に位置する、腎臓・肝臓・膵臓及びいくつかの成人組織に発現している内向き整流カリウム(K)チャンネル遺伝子として知られている。しかし、2型糖尿病との関連は知られておらず、2型糖尿病との関連の解析及びその結果より、2型糖尿病の関連遺伝子として糖尿病の発症及び/又は進展リスクの指標のひとつと判定等に用いることが期待されている。
【特許文献1】国際公開WO2004/084797号パンフレット
【特許文献2】特開2006−115811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定方法の提供を課題とする。さらに詳しくは、KCNJ15遺伝子のアリルを検出することによる糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定方法の提供を課題とする。また、KCNJ15遺伝子の発現阻害又はKCNJ15タンパク質の機能を抑制する物質、例えば、KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNA、または該RNA等を含む組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、糖尿病患者と健常者との遺伝背景を比較することで、ヒトゲノムDNAのKCNJ15遺伝子のアリル頻度の違いを見出し、KCNJ15遺伝子が糖尿病の発症等に関する疾患感受性遺伝子であることを確認した。そして、このKCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位又はrs743296(ゲノム上の第一エキソンの第一塩基から数えて16183番目のG/C多型:以下、rs743296とする)のアリル又は遺伝子型を調べることにより、糖尿病の発症及び/又は進展リスクが判定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、本発明者らは、KCNJ15遺伝子の発現阻害又はKCNJ15タンパク質の機能を抑制する物質として、KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNAを得て、このRNA等を含む組成物がインスリン分泌不全の改善等に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は次の(1)〜(13)の糖尿病発症及び/又は進展リスクの判定方法、KCNJ15遺伝子の発現阻害又はKCNJ15タンパク質の機能抑制する物質等に関する。
(1)KCNJ15(Potassium inwardly−rectifying channel,subfamily J,member 15)遺伝子のアリルを検出することを特徴とする糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定方法。
(2)KCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位のアリルがTアリルである、及び/又はrs743296(ゲノム上の第一エキソンの第一塩基から数えて16183番目のG/C多型)のアリルがCアリルであるヒトは糖尿病の発症及び/又は進展リスクが高いとする上記(1)に記載の判定方法。
(3)KCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位の遺伝子型がC/T型またあるいはT/T型である、及び/又はrs743296(ゲノム上の第一エキソンの第一塩基から数えて16183番目のG/C多型)の遺伝子型がC/C型あるいはC/G型であるヒトは糖尿病の発症及び/又は進展リスクが高いとする上記(1)又は(2)に記載の判定方法。
(4)ヒトゲノムDNAを用いる上記(1)〜(3)のいずれかに記載の判定方法。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の判定方法において、KCNJ15遺伝子多型のアリルを検出するために用いる配列表配列番号1、2、21又は22に示されるプライマー。
(6)糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定に用いるKCNJ15遺伝子。
(7)KCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位の塩基又はゲノム上の第一エキソンの第一塩基から数えて16183番目の塩基を含む糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定に用いるDNA。
(8)DNA、RNA、蛋白又は抗体のいずれかであるKCNJ15遺伝子の発現阻害又はKCNJ15タンパク質の機能を抑制する物質。
(9)上記(8)に記載の物質であって、KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNA。
(10)KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有する配列表配列番号37〜40のいずれかに示されるRNA。
(11)上記(9)又は(10)に記載のRNA又は該RNAをコードするDNAを含む組成物。
(12)インスリン分泌不全の改善に用いる上記(8)に記載の物質、上記(9)に記載のRNAまたは上記(10)に記載のRNAを含む組成物。
(13)2型糖尿病患者の治療に用いる上記(8)に記載の物質、上記(9)に記載のRNAまたは上記(10)に記載のRNAを含む組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により確立された糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定方法により、糖尿病の発症リスクを早期に判定することができる。これによって、それぞれの患者にあった検査、治療方法の検討や治療薬の選定等を行うことが可能となる。また、本発明によって得られたKCNJ15遺伝子の発現阻害又はKCNJ15タンパク質の機能を抑制する物質等を糖尿病の治療等に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の「糖尿病の発症及び/又は進展リスク」とは、糖尿病の患者の遺伝素因による、糖尿病の発症及び/又はこれが進展するする可能性を有する危険性のことをいう。ここで、本発明の糖尿病の進展リスクとは、糖尿病網膜症等の合併症を併発する危険性のことをいう。
【0010】
本発明の「糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定方法」とは、判定の対象となるヒトより得たゲノムDNAを用い、KCNJ15遺伝子のアリルを検出することでそのヒトが糖尿病の発症及び/又は進展リスクが高いか否かを判定することをいう。この判定にあたり、必要に応じて得られたゲノムDNAをPCRによって増幅し、得られた増幅産物を判定の試料として用いることもできる。
【0011】
この「糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定」のためには、KCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位及び/又はrs743296のアリル又は遺伝子型を判定の基準とすることが好ましい。
KCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位のアリル又は遺伝子型を判定の基準とする場合には、特にTアリルを有するヒトが糖尿病の発症及び/又は進展リスクが高いとし、または遺伝子型がC/T型又はT/T型であるヒトが糖尿病の発症及び/又は進展リスクが高いとする判定方法であることが好ましい。
また、rs743296のアリル又は遺伝子型を判定の基準とする場合には、特にCアリルを有するヒトが糖尿病の発症及び/又は進展リスクが高いとし、又は遺伝子型がC/C型又はC/G型であるヒトが糖尿病の発症及び/又は進展リスクが高いとする判定方法であることが好ましい。
【0012】
本発明の「ヒトゲノムDNA」は、判定の対象となるヒトから得たゲノムDNAのことをいい、ヒトの血液、血清、白血球、硝子体液などからフェノール・クロロホルム法等の一般的な抽出方法を用いて得ることができ、特に末梢血白血球などから得ることが好ましい。得られたヒトゲノムDNAをPCRなどで増幅し、得られた増幅産物を判定に用いることができる。
糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定において、KCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位及び/又はrs743296のアリル又は遺伝子型を判定の基準とする場合には、この「ヒトゲノムDNA」が、KCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位及び/又はゲノム上の第一エキソンの第一塩基から数えて16183番目の塩基を含むDNAであることが好ましい。
【0013】
本発明のヒトゲノムDNAの増幅には、PCR等の一般的な増幅方法を用いて行うことができる。PCRを行う場合には、増幅の対象となるKCNJ15遺伝子のアミノ酸566位及び/又はrs743296のアリルを含む箇所を増幅できるプライマー、増幅機器、増幅反応条件等を用いることが好ましい。
【0014】
本発明の「プライマー」としては、KCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位及び/又はrs743296のアリルを検出するためにゲノムDNAの増幅できるプライマーであればいずれのプライマーも用いることができるが、配列の特異度がより高くなるように設計されたプライマーを用いることが好ましい。
例えば、KCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位のアリルを検出するためには、本発明者が独自に設計した配列表配列番号21又は配列番号22に示されるプライマー等を用いることが好ましい。また、rs743296のアリルを検出するためには、配列表配列番号1又は配列番号2に示されるプライマー等を用いることが好ましい。
また、本発明の「アリルの検出」には、DNAシークエンサーによるシークエンスや、PCR−RFLP法等の一般的な方法を用いることができる。さらに、taqman SNP genotype assay(ABI社)等の公知の解析方法や、いくつかのSNPを一度に解析可能なDNAアレイを作成し、これを用いた解析方法等を用いる事ができる。
【0015】
なお、本発明の判定方法の対象は、ヒトであれば可能であるが、糖尿病患者、糖尿病予備軍を対象とすることができる。また、本発明の判定方法は、健常者を対象とする成人検診などに用いることができる。
【0016】
本発明の「KCNJ15遺伝子の発現阻害又はKCNJ15タンパク質の機能を抑制する物質」とは、KCNJ15遺伝子の発現を阻害する物質や、発現によって得られたKCNJ15タンパク質の機能を抑制する物質であればいずれの物質も含まれる。例えば、DNA、RNA、蛋白又は抗体などが挙げられる。
このような物質のひとつとして挙げられる、本発明の「KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNA」とは、KCNJ15遺伝子の発現を抑制するRNAであればいずれのものでもよい。特に配列表配列番号37〜40のいずれかに示されるRNAであることが好ましい。
また、ヒトの「KCNJ15遺伝子」には、3個のバリアント(アクセッション番号:NM_002243.3、NM_170736.1、NM_170737.1)が報告されていることから、この3個のバリアントの共通部分の一部を含むdsRNA、3個のバリアントに対するRNAi効果を有するRNAまたはDNA等が好ましい「KCNJ15遺伝子の発現阻害又はKCNJ15タンパク質の機能を抑制する物質」として挙げられる。
本発明の「KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNA」又は「該RNAをコードするDNA」を含む組成物には、これらのRNA又はDNAを含むものであればいずれのものも含まれるが、例えば、「KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNA」を発現できるDNAをクローニングしたベクター等が挙げられる。本発明のこのような組成物は、特にこれらのRNA又はDNAを有効成分として含み、インスリン分泌不全の改善や、2型糖尿病患者の治療に用いることができる組成物であることが好ましい。
【0017】
以下、試験例、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0018】
[試験例1]
<2型糖尿病関連遺伝子の特定>
1.対象
東京女子医科大学の糖尿病センターにおいて、診断を受けてから2年間のうちにインスリン治療が必要とされた、GAD抗体(+)又はGAD抗体(+)である一親等の親族を有する2型糖尿病患者147名(2型糖尿病患者群)を対象とした。これらの患者は血液サンプリングと医療記録の点検の際のインタビューによって得られ、全て、書面によるインフォームドコンセントを与えられた者であった。また、比較対象として健常者200名(健常者群)をコントロールとした。
【0019】
2.2型糖尿病関連遺伝子の検討
1)サンプルの調製
2型糖尿病患者又は健常者のそれぞれの末梢血よりQIAamp blood Kit(Qiagen,Hilden,Germany)を用いてゲノムDNAを抽出した。これをGENios fluorescence reader(Tecan,Maennedorf,Switzerland)を用いたfluorescence assay(PicoGreen,Molecular Probes,Eugene,USA)によって定量し、個々のサンプルに含まれるDNAが250ngとなるように調製してプールした。このプールされたDNAが10ng/mlとなるように試験時に調製して用いた。
【0020】
2)アリル頻度の評価
上記1)で調製したゲノムDNAにおいて21番染色体の38,000,000から46,944,323番目の間の領域(2型糖尿病の疾患感受性遺伝子の存在候補領域:参考文献参照)に着目し、この領域に含まれる86個のSNPを選択した。
それぞれのSNPのアリル頻度をCE−SSCP(capillary−electrophoresis single−strand confirmation polymorphism)解析によって調べた。すなわち、表1に示したプライマーを用いて、PCRによってゲノムDNAを増幅して、これをキャピラリー電気泳動した。ピーク非からアリル頻度を推定して、2型糖尿病患者群と健常者群の頻度の差を検討することでCE−SSCP解析を行った。
[参考文献]
Iwasaki, N. et al. Mapping genes influencing type 2 diabetes risk and BMI in Japanese subjects. Diabetes 52, 209−13 (2003).
【0021】
【表1】

【0022】
3)タイピング及び変異スクリーニング
上記2)のアリル頻度の評価の結果、5つのSNPについて明らかな違いが見られた。
これらの5つのSNPについて、ABI prism 3730 DNA analyzer (Applied Biosystems,Foster City,USA)でダイレクトシークエンスすることによって個々の遺伝子型を特定した。
その結果、図1に示すように、SNP(rs743296)においてCアリルを有するヒトが糖尿病の発症及び/又は進展リスクが高く、SNP(rs743296)が全ての2型糖尿病及びLean2型糖尿病(痩せ型2型糖尿病)に有意な関連があることを確認した。
このSNP(rs743296)を含む連鎖不平衡ブロックはKCNJ15遺伝子を含んでおり、この遺伝子の上流及び下流に存在する異なる連鎖不平衡ブロックでは有意な関連が見られなかったことから、KCNJ15遺伝子が2型糖尿病の関連遺伝子であると考えられた。
【0023】
そこで、KCNJ15遺伝子の全てのエキソンとプロモーター領域について、さらにABI prism 3730 DNA analyzer(Applied Biosystems,Foster City,USA)を用いてダイレクトシークエンスを行い、高密度のマッピングを行った。このPCR反応及びシークエンス反応に用いたプライマーの配列を表2に示した。
その結果、プロモーター領域に3つのSNP及びエキソンに8つのSNPが存在することが確認され、このうち第四エキソンのアミノ酸566位に存在するSNP(rs3746876)が、図1に示すように、lean2型糖尿病に有意な関連があることが確認された(p=0.0071,OR=3.25)。独立したサンプル(2型糖尿病患者419人、健常者500人)で再現性を確認したところ、同様に有意であった。
【0024】
【表2】

【0025】
[試験例2]
<KCNJ15遺伝子の2型糖尿病との関連>
1.mRNA発現レベルの検討
PAXgene Blood RNA Kit(Qiagen,Hilden,Germany)を用いて健常者16人の末梢血全血からtotal RNAを抽出した。そして、cDNA合成のために、oligo(dT) primers及びImProm−II reverse transcriptase(Promega,Tokyo,Japan)を用いて100ngのDNaseで処理した。
定量的リアルタイムPCR及び解析をABI Prism 3700 Real Time PCR System(Applied BioSystems, Foster city, USA)を用いて行った。
96ウェルプレートに5μl purified cDNA,25μl SYBR green I PCR Master Mix(Applied BioSystems Foster city,USA),200nM primers(表3)、DNase−RNase−free distilled waterで全量を50μlに調製した。
PCR反応は、50℃ 2分間、95℃ 10分間の後、95℃ 10秒間、53.5℃ 10秒間、2℃ 30秒間、及び95℃ 60秒間、60℃ 60秒間、95℃ 60秒間を1サイクルの伸長反応として40サイクル行った。データをGeneAmp SDS software packageを用いて集め、βアクチンとの比をとってKCNJ15のmRNAの発現比とした。
その結果、KCNJ15遺伝子のアミノ酸566位に存在する遺伝子型が異なる健常者において、図2に示したように遺伝子型がT/C型及びT/T型の者は、C/C型の者と比べてmRNAの発現レベルが高いことが確認された。
【0026】
【表3】

【0027】
2.タンパク発現レベルの検討
HEK293細胞にKCNJ15 GFP融合タンパク質発現を強制発現させることで、それぞれのアリルについてのKCNJ15遺伝子のタンパク質発現レベルを調べた。
1)形質転換
KCNJ15遺伝子のタンパク質コード領域(KCNJ15遺伝子のアミノ酸566位がC型のもの:配列表配列番号35、同位がT型のもの:配列番号36)をpcDNA6.2/C−EmGFP−DEST vector(Invitrogen,Carlsbad,USA)にクローニングした。
85%コンフレントのHEK293T細胞を0.05%トリプシン及び0.02%EDTAでプレートから剥がした後、24ウェルプレート上の新鮮な培地(DMEM containing 10% fetal calf serum,2mM glutamine,及びpenicillin/streptomycin)に入れた。培養24時間後、Lipofectamine 2000(Invitrogen,Carlsbad,USA)と上記でクローニングしたプラスミドとの複合体(1μg/well)を加え、細胞を形質転換した。
2)ウェスタンブロッティング
48時間後、上記1)で形質転換した細胞をPBS(pH7.4)で2回洗浄した後、プロテアーゼ阻害カクテルを含むRAIPA solutionを浸透させた。これを22口径又は27口径の注射針に10及び5回通し懸濁液とした。
メンブレン画分を遠心分離(10,000g、30分)によって集め、浸透バッファーに再懸濁し、100mM DTT及び2%SDS(sodium dodecyl sulfate)を含むSDS−PAGE sample bufferに溶解した。流動性を増す為に、サンプルバッファーを加え、室温で24時間インキュベートした後、50℃で15分間、20℃で30分間及び50℃で15分間加熱した。
溶解物を10−20%SDS−polyacrylamideゲル電気泳動を行った。その後蛋白質をゲルからpolyvinylidene difluoride membrane(Amersham Biosciences,Uppsala,Sweden)に写し、2000倍希釈したラビットポリクローナル抗GFP(Green Fluorescent Protein)抗体及び1000倍希釈したラビットポリクローナルE−カドヘリン抗体を加え1時間室温で反応させた。その後、さらに、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)でラベルされた特異的な二次抗体をアプライした。バックグランドレベルを下げる為の抗体希釈バッファー中にGet Signal(Toyobo, Osaka, Japan)を用いた。ECL Plus(Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)を用いてラベルしたchemiluminescent signalをCCD camera systemを用いて検出した。
その結果、図3に示したように、KCNJ15遺伝子のアミノ酸566位のアリルがTアリルのものの方がCアリルのものを形質転換した場合よりもタンパク質の発現レベルが高いことが確認された。
【0028】
3.インスリン依存性及び感受性の検討
1)対象及びサンプルの調製
東京女子医科大学の糖尿病センターにおいて、糖尿病発症後10年以内で、HOMA−B≦10である2型糖尿病患者又はインスリン注射加療が開始されている2型糖尿病患者186名をインスリン依存性に進展している患者として対象とした。これらの患者それぞれの末梢血より試験例1と同様にDNAを調製して用いた。
【0029】
2)タイピング及び変異スクリーニング
この調製したDNAを用い、試験例1と同様にSNP(rs3746876)についてABI prism 3730 DNA analyzer (Applied Biosystems,Foster City,USA)でダイレクトシークエンスすることによって個々の遺伝子型を特定した。
【0030】
その結果、図4に示すように、インスリン依存性に進展している患者は、KCNJ15遺伝子のアミノ酸566位の遺伝子型がT/C型又はT/T型の者が多く、C/C型は少なかった。
【実施例1】
【0031】
<糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定方法>
1.KCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位
ヒトの末梢血よりゲノムDNAを抽出し、配列表配列番号21及び配列番号22に示されるプライマーを用いてPCRを行い、得られた増幅産物を、直接塩基配列決定法を用いて両方向のシークエンスを行い、遺伝子型を決定した。得られた遺伝子型より、KCNJ15遺伝子多型の遺伝子型がT/T型又はC/T型である患者は糖尿病の発症リスク及び/又は進展リスクを有すると判定した。
2.rs743296
上記1.と同様に、配列表配列番号1及び配列番号2に示されるプライマーを用いてPCRを行い、得られた増幅産物を、直接塩基配列決定法を用いて両方向のシークエンスを行い、遺伝子型を決定した。得られた遺伝子型より、rs743296の遺伝子型がC/C型又はC/G型である患者は糖尿病の発症リスク及び/又は進展リスクを有すると判定した。
この判定方法によって、糖尿病の発症リスク及び/又は進展リスクを有すると判定された患者に対し、適した治療方法の検討を行った。
【実施例2】
【0032】
<KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNAの製造>
委託会社に依頼して、表4に示すKCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNAの製造を行った。
【0033】
【表4】

【0034】
[試験例3]
1.INS−1培養細胞におけるインスリン分泌量への影響の検討
KCNJ15遺伝子に対するRNAiをラット培養インスリン産生腫瘍細胞であるINS−1 cells(kindly provided by Dr Itaru Kojima,Gunma University,Japan)に導入して、KCNJ15遺伝子の発現を抑制することでKCNJ15遺伝子の役割を調べた。
【0035】
1)試料
a)INS−1 cells
D−MEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)基礎培地にFBS(fetal bovine serum)15%付加した培地を用い、37度 5%COでINS−1培養細胞を培養した。
b)KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNA
上記実施例2.で調製したRNA(stealth RNAi targeted against KCNJ15)を用いた。
c)コントロール
Med GC(Invitrogen社)
【0036】
2)KCNJ15遺伝子の発現ノックダウン
INS−1細胞にコントロール又はKCNJ15に対するstealth RNAiをLipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて導入した後、72時間インキュベートし、KCNJ15遺伝子の発現をノックダウンした。
細胞のRNAをTRIzol(Invitrogen)を用いて抽出し、DNaseI(Roche,Lewes,East Sussex,U.K.)で処理して一本鎖cDNAを合成した。ノックダウンの効果を、各々の細胞におけるKCNJ15遺伝子のmRNAレベルを質量的なreal−time PCRによって調べることで行った。
INS−1細胞は24−well plateで培養し、Krebs-Ringer buffer{Arden, 2007 #26}で洗浄した。その後、glucose−free Krebs-Ringer buffer内で、37℃で30分間プレインキュベートした後、グルコースを含む(5mM又は25mM)培地で1時間インキュベートし、インスリン分泌量を検出した。培養液中のインスリン濃度はELISA(Rat Insulin ELISA kit,Mercodia AB,Uppsala,Sweden)によって測定した。
その結果、図5に示したように、KCNJ15遺伝子のノックダウンによって、25mMグルコース存在下でのインスリン分泌量が顕著に増加した。一方5mMグルコース存在下ではインスリン分泌量は変化しなかった。
【0037】
2.糖尿病モデルマウスにおけるインスリン分泌不全の改善
1)試料
a)マウス
6週齢における随時血漿グルコース濃度が300〜400mg/dlのアキタ糖尿病マウス(Akita diabetic mice)の雌(8週齢)及び比較としてC57/B6マウスを用いた(いずれもapan SLC Inc)。
b)KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNA
上記実施例2.で調製したRNA(MSS205690)を用いた。
c)コントロール
scramble stealth RNAi
sense(配列番号41):
5’−CCUACAUGACGACGAUGUACCGUGA−3’
antisense(配列番号42):
5’−UCACGGUACAUCGUCGUCAUGUAGG−3’.
【0038】
2)マウスにおけるKCNJ15遺伝子の発現ノックダウン
上記1)ののアキタ糖尿病マウス及び比較としてC57/B6マウスを用いた。これらのマウスを、KCNJ15−stealth RNAiを投与するもの及びコントロールとしてscramble stealth RNAiを投与するもの、それぞれ2つのグループにランダムにわけた。合成RNAi400μgを0.8mlのPBSに溶解し、尾の静脈に注入した。
その後4日後及び2週間後に、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行い、blood glucose monitor(Terumo,Tokyo,Japan)を用いてD−glucose(2g/5ml/kg)を経口インジェクションする前及びインジェクション15分後の血中グルコース濃度及び血漿中のインスリン濃度を測定した。
その結果、図6に示したように、アキタ糖尿病マウスにおいては、B57/B6マウスと比べて、KCNJ15−stealth RNAiを投与したマウスにおけるOGTT後15分の血中グルコース濃度が有意に下がることが確認された。
また、図7に示したように、アキタ糖尿病マウスにおいては、KCNJ15−stealth RNAiを投与したマウスにおける血中インスリン濃度が有意に上昇することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の判定方法を利用することにより、糖尿病の発症及び/又は進展リスクを早期に判定することができる。これによって、それぞれの患者にあった検査や治療の検討等の真に必要な検査や治療のみを行うことで可能となり、診察時間の短縮や医療費の節約にもつながる。
また、本発明のKCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNA等を糖尿病の治療などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】KCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位又はrs743296に存在するSNPを示した図である(試験例2)。
【図2】遺伝子型の違いによるmRNA発現レベルを示した図である(試験例2)。
【図3】アリルの違いによるタンパク質の発現レベルを示した図である(試験例2)。
【図4】インスリン依存性及び感受性を示した図である(試験例2)。
【図5】KCNJ15遺伝子のノックダウンによるインスリン分泌量への影響を示した図である(試験例2)。
【図6】KCNJ15遺伝子のノックダウンによる糖尿病マウスにおける血中グルコース濃度の低下を示した図である(試験例2)。
【図7】KCNJ15遺伝子のノックダウンによる糖尿病マウスにおける血中インスリン濃度の上昇を示した図である(試験例2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
KCNJ15(Potassium inwardly−rectifying channel,subfamily J,member 15)遺伝子のアリルを検出することを特徴とする糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定方法。
【請求項2】
KCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位のアリルがTアリルである、及び/又はrs743296(ゲノム上の第一エキソンの第一塩基から数えて16183番目のG/C多型)のアリルがCアリルであるヒトは糖尿病の発症及び/又は進展リスクが高いとする請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
KCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位の遺伝子型がC/T型またあるいはT/T型である、及び/又はrs743296(ゲノム上の第一エキソンの第一塩基から数えて16183番目のG/C多型)の遺伝子型がC/C型あるいはC/G型であるヒトは糖尿病の発症及び/又は進展リスクが高いとする請求項1又は2に記載の判定方法。
【請求項4】
ヒトゲノムDNAを用いる請求項1〜3のいずれかに記載の判定方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の判定方法において、KCNJ15遺伝子多型のアリルを検出するために用いる配列表配列番号1、2、21又は22に示されるプライマー。
【請求項6】
糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定に用いるKCNJ15遺伝子。
【請求項7】
KCNJ15遺伝子の第四エキソンのアミノ酸566位の塩基又はゲノム上の第一エキソンの第一塩基から数えて16183番目の塩基を含む糖尿病の発症及び/又は進展リスクの判定に用いるDNA。
【請求項8】
DNA、RNA、蛋白又は抗体のいずれかであるKCNJ15遺伝子の発現阻害又はKCNJ15タンパク質の機能を抑制する物質。
【請求項9】
請求項8に記載の物質であって、KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有するRNA。
【請求項10】
KCNJ15遺伝子に対してRNAi効果を有する配列表配列番号37〜40のいずれかに示されるRNA。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のRNA又は該RNAをコードするDNAを含む組成物。
【請求項12】
インスリン分泌不全の改善に用いる請求項8に記載の物質、請求項9に記載のRNAまたは請求項10に記載のRNAを含む組成物。
【請求項13】
2型糖尿病患者の治療に用いる請求項8に記載の物質、請求項9に記載のRNAまたは請求項10に記載のRNAを含む組成物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−136682(P2010−136682A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316595(P2008−316595)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(503168256)株式会社スタージェン (8)
【Fターム(参考)】