説明

糖脂質を用いた、脂質系アジュバント製剤を安定化する組成物及び方法

【課題】
【解決手段】本発明は、物理的に安定なリポソーム製剤に関する。特に、本発明は、リポソーム内に糖脂質を組み込むことによるカチオン性リポソームの立体安定化に関する。安定化したリポソームは、抗原性成分のためのアジュバントとして、又は薬物送達システムとして用いることができる。特に、本発明は、免疫感作のための水性媒体アジュバントを用いたワクチンであって、最終生成物が安定しているワクチンに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理的に安定しているリポソーム製剤に関する。具体的には、本発明は、それによって糖脂質をリポソームの中に組み込む独特のフィルム法による、カチオン性リポソームの立体安定化に関する。安定化されたリポソームは、抗原性成分のアジュバントとして、又は薬物送達システムとして用いることができる。具体的には、本発明は、免疫感作のための、水性媒体中にアジュバントを含むワクチンであって、最終生成物が安定しているワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症に対し免疫を産生するためにヒトに使用された最初のワクチンは、生きている、弱毒化病原体であった。弱毒化病原体の型は、自然に発生した近縁種であるか、又は連続継代培養で得られたものである。一つの例は、弱毒化されてはいるが生きているMycobacterium bovis株を用いたワクチン(BCGワクチン)により有効である結核である。しかし、この処置の効力が、全ての集団のヒト結核症に対し十分な抵抗力を必ずしも与えるとは言えない。それゆえに、結核及びその他の感染症に対する免疫を生成する、新規の有効な方法が求められている。特に有望な方法は、初期分泌標的抗原(ESAT−6)及び抗原85(Ag85)のような免疫優性抗原の組換え型を単離してワクチンとして使用することである。これらのワクチンは明確に定義され、副作用は最小限である。残念なことに、多くの、高度に精製された物質、例えば精製組換えタンパク質は、それほど免疫原性は高くなく、実際の感染症に対し防御する、効果的な免疫反応を起こさない。この事実は周知であり、該物質を、いわゆるアジュバントと組み合わせることによって免疫原特性を高める試みが多くなされている。病原菌によっては、防御は、優位的な液性反応又は細胞性反応を必要とする。特異的な免疫反応(液性又は細胞性)の発生は、アジュバントの選択によって決まる場合がある。
【0003】
M.tuberculosisのような細胞内病原菌に対する防御免疫は、細胞性免疫反応を必要とし、TBに直接作用させるサブユニットワクチンに好適なアジュバントはTh1反応を高める(Lindblad et al.,1997)。TBに対する免疫では、抗体が重要は役割を果たしておらず、一方細胞性のIFN−ガンマ(インターフェロンガンマ)の放出は、防御に関与する、最も重要なサイトカインであると一般には信じられている(Collins & Kaufmann,2001)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細胞性免疫反応を誘導する数多くのアジュバントが提案されているが、一般的には全ての点に関して理想的なものはない。
【0005】
細胞性免疫反応を促進する特に有効なタイプのアジュバントの1つは、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)のような第四アンモニウム化合物である(Hilgers and Snippe,1992)。DDAは、親水性の、正に帯電したジメチルアンモニウム頭部基と2本の長い疎水性のアルキル鎖とを含む合成両親媒性物質である。水性環境においてDDAは自己集合し、中性リン脂質からできたリポソームに類似する小胞性の二重層を形成する。DDAとその他の免疫調節剤との組み合わせが記載されている。DDAを含むArquard 2HTのヒトへの投与は有望であり、顕著な副作用は誘導しない(Stanfield et al.,1973)。M.tuberculosisの培養液濾過タンパク質及びDDAに基づく実験ワクチンは、マウスのTBに対し防御免疫反応を生成した(Andersen,1994)。M.tuberculosisタンパク質ESAT−6とAg85Bの融合タンパク質、及びDDA/MPLをアジュバントとして用いたマウスへのワクチン接種は、BCGワクチン接種により得られたものに類似した防御を提供する(Olsen et al.,2001)。これらの研究は、たとえばミョウバンとは異なり、DDA系アジュバントがマウスにおいてTBに対する防御免疫反応を誘導できることを証明している。更には、DDAは、T細胞反応及び抗ウイルス免疫を高める、仮性狂犬病ウイルスに対するDNAワクチン用のアジュバントとして用いられている(van Rooji et al.,2002)。
【0006】
熱死菌を基にしたBrucella abortusワクチン用のアジュバントとして、DDA溶液へのTDM(アルファ,アルファ’−トレハロース6,6’−ジミコレート)の油乳剤の追加について、Woodardら(1980)によって研究された。DDA単独又はDDAとTDMとの混合物のいずれも防御を誘導できなかった。可溶性タンパク質抽出物を基にしたBrucella abortusサブユニットワクチンに関する別の研究では、DDAとTDMの組み合わせもアジュバントとして用いられ(Dzata et al.,1991)、この混合物が、DDA単独に比べて観察される免疫反応(抗体レベル、皮膚試験反応、及びIL−2レベル)を高めることが見いだされた。Holten−Andersenら(2004)は、DDAリポソームとTDB(アルファ,アルファ’−トレハロース6,6’−ジベヘナート)懸濁液との組み合わせについて研究し、ESAT−6抗原をこのアジュバント混合物と一緒に投与すると、DDAリポソームの形でESAT−6を投与した場合より有意に高い、結核に対する強力な防御免疫反応を誘導することを見いだした。
【0007】
残念なことに、DDA単独又は、上記のようなDDAとMPL、TDM若しくはTDBとの混合物といった、親水性の第四アンモニウム化合物の懸濁液は物理的に不安定であり、凝集及び沈殿を発生させることなしに4℃で長期保存することはできない。沈殿形成は調合物の臨床使用を妨げるため、DDA製剤の安定性欠如は、これまでヒト応用への大きな障害となってきた。
【0008】
英国特許第2147263−A号においてTakahashi及びTsujiは、2種類の第四アンモニウム化合物を一緒に混合するか、又は各種界面活性剤を第四アンモニウム化合物に加えることによる第四アンモニウム化合物の小胞の安定化を記載している。
【0009】
米国特許第5,026,546号においてHigers及びWeststrateは、ポリアリルスクロースで架橋されたアクリル酸のポリマーを用いたDDAアジュバント懸濁液の安定化を記載している。
【0010】
細胞のトランスフェクションのためのカチオン性脂質−プロタミン−DNA複合体の凍結乾燥がLiら(2000)によって記載されている。単糖類及び二糖類のような従来からある凍結防止剤を加える効果が検討され、単糖類に比べると、二糖類が粒子サイズを良好に保存することが見いだされた。また、10%のスクロースによって安定化された凍結乾燥していない、脂質−プロタミン−DNA複合体も、4℃で8週間の保存後でも安定した粒子サイズを維持したが、トランスフェクション効率は、凍結乾燥されていないサンプルに比べ、凍結乾燥されたサンプルで高かった。
【0011】
米国特許第5922350号は、リポソームを脱水する前にトレハロース及びスクロースといった糖を加えることによる、例えばリン脂質を基にしたリポソームの保管期間を延長する方法を記載している。更には、この特許は、濃度勾配及び脱水−再水和のプロセスの組み合わせによって、事前に作成し保管しておいたリポソームを後から加えることができるようになることも記載している。
【0012】
ポリエチレングリコール誘導体で安定化された薬物送達のためのリン脂質のリポソーム(融合性リポソーム)は国際特許出願WO96/10392号に記載されている。国際特許出願WO02/03959号に記載されている別の薬物送達製剤は、カチオン性リポソーム及び中性リポソームを含み、各リポソーム群がそれぞれ同一又は別種の治療薬を担持する製剤を開示している。
【0013】
好適なリポソームの調製方法が、Banghamにより記載されている(Bangham et al.,1965)。この調製は、リン脂質を有機溶媒に溶解し、次に蒸発させて、試験管の内側に薄い脂質フィルムが残るまで乾燥させることを含む。次に乾燥脂質フィルムは適当量の水相に水和され、混合物を脂質の相転移温度を越えるまで加熱し、「膨潤」させる。こうして得られた、多重層小胞(MLV)を構成するリポソームを、試験管を振盪することによって分散する。小胞二重膜を構成する脂質は、疎水性の炭化水素「尾部」が二重層の中心に向かい、一方親水性の「頭部」は内側及び外側の水相に向かうように配置される。この調製は、超音波(Papahadjopoulos et al.,1967)又はCullisらが米国特許第5,008,050号に記載するような押し出しといった方法により単層小胞(UV)を生成する基盤を提供する。
【0014】
小胞の調製に用いられる別の技術は、SzokaとPapahadjopoulosによって導入された逆相蒸発法(Szoka and Papahadjopouls,1978、米国特許第4,235,871号)である。この技術は、有機溶媒、及びカプセル化対象となる物質を含有する水性緩衝液の中で、脂質の油中水型乳剤を形成させることからなる。減圧下で有機溶媒を除去すると、粘性のゲルが生じる。このゲルは圧潰すると、脂質小胞の水性懸濁液が形成される。
【0015】
Carmona−Ribeiro及びChaimovichが記載した別の方法(Carmona−Ribeiro and Chaimovich,1983)は、所望の脂質の有機溶液、例えばクロロホルム、メタノール、エタノールの溶液を、水性緩衝液内に注入することを必要とするが、この場合溶媒が蒸発するときに、脂質は自発的にリポソームを形成する。
【0016】
リポソームは、Holten−Andersenら(2004)がDDAについて記載している、水性緩衝液のリポソーム形成化合物の懸濁液を例えば、間欠的に振盪しながら80℃に20分間加熱して、その後室温まで冷却する水熱法によっても調製できる。
【0017】
Woodardら(1980)、Dizataら(1991)及びHolten−Andersenら(2004)が用い、記載している上記の「水熱法(aqueous heat method)」は、DDA及びTDBの溶液を安定化しない。
【0018】
一つの、特に好ましい方法では、タンパク質抗原は事前に形成された小胞の中に、水相内のオリゴヌクレオチド、ペプチド又はタンパク質を、凍結乾燥後に凍結乾燥リポソームを再水和することによってカプセル化する脱水−再水和法(Kirby and Gregoriadis,1984)によってカプセル化される。
【0019】
或いは、抗原はPick(Pick、1981)が記載する、及び米国特許第4,975,282号内にBallyらによって記載された凍結融解法を用いて組み込まれる。この技術では、小胞はタンパク質抗原と混合され、液体窒素中での急速凍結と、当該脂質の主相転移温度を超える温度までの加温とが繰り返される。小胞をさらに処理し、カプセル化されなかった抗原を、例えば洗浄及び遠心分離によって除いてもよい。
【0020】
TDB及びマイコバクテリアの細胞壁から単離されたコード因子、TDMのようなアシル化グリコシドがリン脂質小胞間の融合を阻止することが示されている(Spargo et al.,1991 and Crowe et al.,1994)。親水性トレハロース部分は、小胞の表面に固定化しやすく、従って、融合にとって重要な一次障害である水和力を向上させる。或いは、固定されたトレハロース部分は、融合に対し立体障害として機能するかもしれない(Spargo et al.,1991)。
【0021】
現在、リン脂質からできた(TDBを含まない)リポソームは、例えばインフルエンザワクチン(Ben−Yehuda et al,2003)においてアジュバントとして実験的に用いられている。別の例は、インフルエンザに対するIMUXEN(商標)リポソームワクチンである(Lipoxen Technologies Ltd.;Gregoriadis et al.,1999)。
【0022】
第四アンモニウム化合物、特にDDAは効果的なワクチンアジュバントとして非常に有望な候補であるが、水溶液の中では物理的に安定しておらず、保存中に凝集して沈殿するという大きな欠点があることから、形成した小胞を安定化させることが強く求められている。本発明は、DDAのようなカチオン性脂質から構成されるアジュバント製剤を安定化させる新規の方法を記載する。これに加えて、この方法により、本製剤のアジュバント効果は高められる。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、糖脂質、例えば、アルファ,アルファ’−トレハロース6,6’−ジベヘネート(TDB)又はアルファ、アルファ’−トレハロース6,6’−ジミコレート(TDM)のようなアシル化グリコシドを、DDA、DODA、DOTAP、DODAP又はDOTMAのような親水性第四アンモニウム化合物から作られたリポソーム二重層内に組み込むことによって、カチオン性リポソーム懸濁液を安定化させる組成物及び方法を開示する。糖脂質の、強力に水和された糖頭部基はリポソーム二重層全体の水和度を高め、これが第四アンモニウムの頭部基の脱水、及びカチオン性小胞の電荷反発力の低下による凝集を防ぐ。このDDAの安定化は、糖、例えばトレハロース又はスクロースを加えるだけで、又は第四アンモニウム化合物と糖脂質を単純に混合するだけでは得られない。本発明はまた、これら安定化したリポソームのワクチンアジュバントとしての使用も開示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、糖脂質を用いた、水性製剤中のカチオン性リポソームを安定化させる新規の方法を開示する。カチオン性リポソーム、例えば両親媒性第四アンモニウム化合物から作られたものは、リポソームの膜内に糖脂質を組み込むことによって安定化される。
【0025】
本発明の好ましい態様は、第四アンモニウム化合物がジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)又はジメチルジオクタデセニルアンモニウム(DODA)化合物のブロミド塩、クロリド塩、硫酸塩、リン酸塩又はアセテート塩である場合である。
【0026】
別の好ましい第四アンモニウム化合物は、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2−ジミリストイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン、1,2−ジパルミトイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン、1,2−ジステアロイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン、及びジオレオイル−3−ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)、並びにN−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA)である。
【0027】
リポソームを安定化する糖脂質は、アルファ,アルファ’−トリハロース6,6’ジベヘネート(TDB)又はアルファ,アルファ’−トリハロース6,6’ジミコレート(TDM)が好ましい。製剤での糖脂質のモル百分率は、0.5〜95モル%でよいが、好ましくは2.5〜約20モル%であり、より好ましくは約5〜約18モル%である。
【0028】
本発明はまた、これら安定化したリポソームのアジュバント、例えばワクチン組成物での使用のためのアジュバントとしての使用も示す。具体的には、本発明は免疫感作のための、アジュバントを加えた水性媒体ワクチンであって、最終生成物が安定しているワクチンに関する。
【0029】
本発明はまた、ワクチンが、たとえば結核、マラリア、クラミジア等のいずれの疾患に対しても効果がある場合のワクチンアジュバントとしての使用する上記の方法によって安定化されたリポソーム生成物を開示する。
【0030】
「リポソーム(liposomes)」は、水性核を取り囲む、1つ又はそれ以上の脂質二重層から出来た閉鎖小胞構造物として定義される。各脂質二重層は、2つの脂質単層からなっており、それぞれが疎水性の「尾部(tail)」領域と親水性の「頭部(head)」領域を有している。二重層では、脂質単層の疎水性「尾部」は二重層の内側に向いており、一方疎水性の「頭部」は二重層の外側に向いている。リポソームは、サイズ、脂質組成、表面電荷、流動性及び二重層膜の数などの様々な物理化学特性を有することができる。脂質二重層の数に基づいて、リポソームは単一脂質相を含む単層小胞(UV)、又は水の層によって相互に隔てられている2又はそれ以上の同心的な二重層を含む多重層小胞(MLV)に類別できる。水溶性化合物は水相/リポソームの核内に閉じこめられ、反対に脂溶性化合物は脂質二重層膜の核内に閉じこめられる。
【0031】
「ミセル(micelles)」は、両親媒性分子のコロイド凝集体として定義され、それは臨界ミセル濃度(CMC)として知られる、明確に定義されている濃度で生ずる。ミセル内の凝集分子の典型的な数は50〜100である。ミセルは、炭化水素の尾部が中心に向かい、極性の頭部が外部水環境に向かうように配置された界面活性剤分子からなる球体でよい。他の可能な構造としては、逆転ミセル及び円筒ミセルが挙げられる。
【0032】
用語「カチオン性脂質(cationic lipid)」は、合成脂質及び脂質類似体を含み、疎水性の極性頭部部分を持ち、生理学的pHにおいて正味の正電荷を有し、それ自体が水中において自発的に二重層小胞又はミセルを形成できる、両親媒性脂質を包含するものである。
【0033】
本発明で用いられる、1つの特に好ましいタイプのカチオン性脂質は、一般式NR−Xを有する第四アンモニウム化合物であり、このときR及びRはそれぞれ独立に、1〜3個の炭素原子を含有する短鎖アルキル基であり、Rは独立に、水素若しくはメチル基、又は12〜20個、好ましくは14〜18個の炭素原子を含有するアルキル基であり、並びにRは独立に、12〜20個の炭素原子、好ましくは14〜18個の炭素原子を含有する炭化水素基である。Xは薬学的に許容されるアニオンであり、それ自体無毒である。このようなアニオンの例は、ハロゲン化アニオン、クロリド、ブロミド及びヨードである。硫酸及びリン酸のような無機アニオン、又は酢酸のような単純な有機酸に由来する有機アニオンも用いてもよい。R基及びR基は、メチル基、エチル基、プロピル基及びイソプロピル基でよく、このときRは水素、メチル基又はドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基及びエイコシル基でよく、並びにRはドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基及びエイコシル基でよい。しかしながら、R基及びR基は分岐側鎖を持たずに飽和していることが好ましいが、それらはわずかな程度であれば分岐して、例えばメチル及びエチル側鎖を持ってもよいため、他のC12〜C20の炭化水素基であってもよい。R及びRはまた、極低い不飽和度を有してもよく、例えば1〜3個の二重結合をそれぞれ持つことができるが、好ましくは、それらは飽和アルキル基である。カチオン性脂質は、最も好ましくは、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド若しくはクロリド(DDA−B又はDDA−C)或いはその硫酸塩、リン酸塩若しくはアセテート塩(DDA−X)又はジメチルジオクタデセニルアンモニウムブロミド若しくはクロリド(DODA−B若しくはDODA−C)又はその硫酸化合物、リン酸化合物若しくはアセテート化合物(DODA−X)である。別のタイプの、本発明での使用に好ましいカチオン性脂質としては、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2−ジミリストイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン、1,2−ジパルミトイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン、1,2−ジステアロイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン、及びジオレオイル−3−ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)、並びにN−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA)である。
【0034】
カチオン性リポソームは、リポソーム膜内に糖脂質を組み込むことによって安定化される。組み込みは、分子の疎水性領域及び親水性領域を、膜、ミセル、リポソーム又は二重層の対応する疎水性及び親水性領域又は分子部分内に、しっかり固定する手順を意味する。リポソーム内に糖脂質を組み込むための手順は、「薄フィルム法」、「逆相蒸発法」及び「有機溶液注入法」、並びにリポソーム膜内への糖脂質組み込みに同一の効果を有する将来−現時点では未知の方法でもよい。現在知られている全ての方法は、発明の背景の章に記されている。本発明にとって最も好ましい方法は、薄フィルム法である。
【0035】
糖脂質は、長鎖脂肪酸、アシルグリセロール、スフィンゴイド、セラミド又はプレニルホスフェートのような疎水性部分と、グリコシド結合によって結合している1又はそれ以上の単糖残基を含有する化合物として定義される。本発明の糖脂質は、合成、植物若しくは微生物起源、例えばマイコバクテリア起源のものでよい。
【0036】
本発明に用いられる1つの分類の糖脂質は、アシル化(又はアルキル化)グリコシドであり、それは1つ、2つ又は3つの脂肪酸にエステル化した1つ又は2つの糖残基からなる。脂肪酸は、飽和脂肪酸、例えばミリスチン酸C14:0、ペンタデカン酸C:15、パルミチン酸C16:0、ヘプタデカン酸C17:0、ステアリン酸C18:0、ノナデカン酸C:19、アラキジン酸、C:20、ヘンエイコサンC21:0、ベヘン酸C:22、及び不飽和脂肪酸、例えばオレイン酸C18:1n−9、リノール酸C18:2n−6、又はミコール酸、メトキシミコール酸、ケトミコール酸、エポキシミコール酸、及びコリノミコール酸(corynomycolic acid)のような複合分岐脂肪酸を含む、いずれかの直鎖でよい。糖残基は、単糖類、例えばグルコース及びフルクトース、又は2つの共有結合した単糖を含む二糖類、例えばグルコースとフルクトースからなるスクロース、及び2つのグルコース単位がグリコシド結合により連結したトレハロースのいずれかでよい。本発明で用いる1つのタイプの糖脂質は、マイコバクテリアから単離される細胞壁糖脂質であり、1つ、2つ又は3ついずれかの、標準のパルミチン酸、C16:0;オレイン酸、C18:1n−9;リノール酸、18:2n−6又は複合ヒドロキシ、分岐鎖脂肪酸、即ち長さ60〜90炭素原子の範囲のミコール酸残基にエステル化した二糖からなる。本発明で用いられる別の細菌糖脂質は、より短い脂肪酸鎖を有する、例えばコリネバクテリウム(Corynobacterium)、ノカルジア(Nocardia)から単離されるコリノミコール酸(corynomycolic acid)(22〜36炭素)又はノカルドミコール酸(nocardomycolic acid)(44〜60炭素)酸である。好ましいマイコバクテリア糖脂質は、コード因子と呼ばれることが多いアルファ、アルファ’−トレハロース6,6’−ジミコレート(TDM)であり、これはマイコバクテリア細胞壁の最も重要な免疫調節成分の1つである。特に好ましい態様では、糖脂質は、2つのドコサン脂肪酸(ベヘン酸)にエステル化したアルファ,アルファ’−トレハロース、例えばアルファ,アルファ’−トレハロース6,6’−ジベヘネート(TDB)からなり、これはTDMの純粋な合成類似体である。
【0037】
本発明の用いられる別の分類の糖脂質としては、グリセロールに基づく次の糖脂質であるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
グリセロールに基づく糖脂質:これらの糖脂質は、1つ又は2つの脂肪酸でアシル化(又はアルキル化)していてもよいグリセロールのヒドロキシル基に、グリコシド結合した単糖又はオリゴ糖からなる。更には、これら糖脂質は電荷を持たなくともよく、それゆえに中性グリコグリセロ脂質と呼ばれることも多く、又は硫酸基若しくはリン酸基を含有してもよい。
【0039】
セラミドに基づく糖脂質:スフィンゴ糖脂質は、炭化水素部分の構造に従って、置換されていないグリコシル基を含有する中性スフィンゴ糖脂質、及び酸性カルボキシル基、硫酸基、又はリン酸基を持つグリコシル基を含有する酸性スフィンゴ糖脂質に分けられている。
【0040】
リポ多糖(LPS):これら複合化合物は、グラム陰性細菌の細胞壁に見いだされる内毒素抗原(S−リポ多糖)である。脂質部分(脂質A)は、グリコシド結合を介して多糖と複合体を形成する。脂質Aは、グルコサミンIの1位及びグルコサミンIIの4位に2つのリン酸エステル基を持つb−1,6−グルコサミニル−グルコサミンの基幹からなる。グルコサミンIIの3位は、長鎖多糖と酸に不安定なグリコシド結合を形成している。他の基は、ヒドロキシミリステート(2つのエステル結合及び2つのアミド結合)のようなヒドロキシル化脂肪酸、並びに一般的な脂肪酸(ラウレート)で、(エシェリキア属において)置換される。特に好ましい本発明のリポ多糖は、脂質Aのモノホスホリル誘導体(MPL)であり、それらは無毒であり、優れたアジュバント特性を有している。
【0041】
ステロールのグリコシド:この族は、1つのステロール分子のヒドロキシル基に結合した1つの炭化水素単位からなる。ステロール部分は、様々なステロールから構成されることが定められた。即ち、コレステロール、カンペステロール、スチグマステロール、シトステロール、ブラシカステロール及びジヒドロシトステロールである。糖部分は、グルコース、キシロース及び、更にはアラビノースから構成される。
【0042】
脂肪酸又はアルコールのグリコシド:細菌、酵母及び下等生物(海綿)には、極めて多数の単純糖脂質が見いだされている。これら化合物は、脂肪アルコール又はヒドロキシル脂肪酸の1つのヒドロキシル基に結合した、又は脂肪酸の1つのカルボキシル基に結合した(エステル結合)グリコシル部分(1つ若しくは複数単位)から構成される。これら化合物は、興味深い物理的又は生物学的特性を持つことが多い。その界面活性特性(アルキルグリコシド)を求めて工業生産されているものもある。
【0043】
アルキル鎖は脂肪属炭化水素鎖を指し、それは直鎖でも分岐鎖でもよい。鎖は飽和してもよく、又はそれは1つ若しくはそれ以上の二重結合を有してもよく、例えば不飽和でもよい。
【0044】
アシル鎖はアルキル−OC(O)基を指し、この場合、アルキル基は前述したものである。
【0045】
脂肪酸鎖は、アルキル基又はアシル基の、分岐した、若しくは分岐していない、飽和若しくは不飽和の炭化水素鎖をさす。
【0046】
薬学的に許容されるという用語は、活性成分の効力又は生物活性を妨害せず、かつ宿主若しくは患者に対し毒性でない物質を指す。
【0047】
相転移温度又はTmは、示差走査熱量測定(DSC)により測定されるような、リポソームの二重層が、規則的な脂肪酸鎖を特徴とする低温のゲル相(固体−規則相)から、脂肪酸鎖が高い立体不規則性を有する(液体−不規則相)高温の流体相に移行する温度である。
【0048】
医薬製剤の安定性とは、生成物の有効期間中、製剤が定義された限界値内に留まる能力を意味する。リポソーム分散液は、化学的だけでなく物理的安定特性も示す。
【0049】
化学的安定性は、化学分解に関係しているが、物理的安定性は系のコロイド安定性に関係する。
【0050】
リポソーム分散液の物理的安定性は、小胞内相互作用によって決まり、それは引力と斥力との間のバランスに依存する。コロイド系は、斥力、即ち静電気の斥力、及びバルクの水と相互作用領域内の水との化学ポテンシャルの差による立体斥力によって安定化される。
【0051】
アジュバントは、抗原に対する免疫反応を非特異的に高める物質として定義される。アジュバントは、その特性により、細胞性免疫反応、液性免疫反応、又は2つの混合反応を促進できる。免疫反応の強化は非特異的であるため、同一のアジュバントを様々な抗原を用いて様々な標的に対する反応を促進できること、例えばM.tuberculosis由来の抗原を用いてM.tuberculosisに対する免疫を促進するか、又は腫瘍由来の抗原を用いて、特定種類の腫瘍に対する免疫を促進できることは、当該技術分野では周知である。
【0052】
例示の第四アンモニウム化合物、例えばジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド、−クロリド、又はそれらのその他有機塩若しくは無機塩(DDA−B、DDA−C若しくはDDA−X)、ジメチルジオクタデセニルアンモニウムクロリド、−ブロミド、又はそれらのその他有機塩若しくは無機塩(DODA−C、DODA−B又はDODA−X)、或いは1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2−ジミリストイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン、1,2−ジパルミトイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン、1,2−ジステアロイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン、及びジオレオイル−3−ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)、並びにN−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA)は、水性媒体中に分散させた時に、脂質二重層、単層及び多重層両方のタイプのリポソーム、ミセル等の脂質凝集体を形成する能力を有している。これら構造物の脂質膜は、糖脂質のようなその他両親媒性化合物を閉じこめるための優れたマトリックスを提供し、それらは本発明の小胞体分散液を安定化することが示されている。
【0053】
更には、糖脂質、例えばTDB及びTDMは、それ自体が免疫活性化特性を有しており、第四アンモニウム化合物と相乗的に働いて免疫反応を高めることができる。更には、高分子、例えばオリゴヌクレオチド、ペプチド又はタンパク質の抗原を、単層及び多重層リポソーム両方の水相内に閉じこめることができる。
【0054】
疎水性アシル鎖、例えばTDBは、本発明の第四アンモニウム化合物から作られた脂質二重層の疎水性領域内に埋め込まれ、それにより親水性トレハロース頭部基を疎水性領域とバルク水との界面に固定すると期待されている。強く水和された糖頭部基は、界面全体の水和を高め、水和力のポテンシャルを増加させて、これが小胞の凝集又は融合にとって必要な、対抗する二重層の密な接触を阻止する。更には、界面が水和された結果として、二重層の流動性が増し、これも小胞を安定化させる傾向にもある。
【0055】
本発明の製剤に用いられる分散媒体は、いずれか好適な水性溶媒でよい。しかしながら、リポソーム製剤の安定性は、リン酸イオン及び硫酸イオンのようなアニオンに影響を受けると思われる。それ故に、本発明のアジュバント組成物は、このようなイオンが存在しないか、又は低レベルで形成することが好ましい。
【0056】
ワクチンアジュバントとして用いる場合には、抗原性成分をアジュバント溶液に、できればMPL(モノホスホリル脂質A)又はその誘導体、ポリイノシンポリシチジル酸(ポリIC)、ムラミールジペプチド(MDP)又はその誘導体、ザイモサン、二本鎖RNA(dsRNA)、DC−Chol、CpGオリゴデオキシヌクレオチド、及びタモキシフェンのようなその他の免疫賦活剤と一緒に加えることが好ましい。抗原性成分又は物質は、事前に形成しておいた抗体並びに/又はT及びB細胞の特異的受容体と反応する分子である。ワクチン接種という意味では、分子は特異的T又はB細胞の発生を促進でき、免疫細胞が抗原を二回目に経験した際に、より迅速な「記憶」反応を促進する免疫細胞の記憶集団を形成できる分子である。記憶集団がクローン性であることは稀であることから、実際的には、このことは抗原が、前にその抗原に暴露した個体に由来する免疫細胞が、その抗原と再度出会った時に免疫反応の上昇を刺激できるいずれかの分子又は分子の集まりを意味している。
【0057】
抗原性成分又は物質は、ポリペプチド又はポリペプチドの一部分でよく、それらは本明細書に記載されているいずれかの生物学的検出法によって決定される、動物又は人類、及び/又は生物サンプルにおいて免疫反応を惹起する。ポリペプチドの免疫原性部分は、T細胞エピトープ又はB細胞エピトープでよい。免疫反応中に認識される、関連のT細胞エピトープを同定するために、「ブルートホース(brute force)」法を用いることができる。つまり、T細胞エピトープは直線状であることから、ポリペプチドの欠失変異体は、体系的に構築すれば、ポリペプチドのどの領域が免疫認識にとって必須であるかを、例えばこれら欠失変異体を、例えば本明細書に記載されているIFNガンマ測定に供することによって、明示する。別の方法は、ポリペプチドに由来する、重複するオリゴペプチド(好ましくは、例えば20アミノ酸残基の長さを有する合成物)を利用する。これらポリペプチドは、生物学的検定法(例えば本明細書に記載されているIFNガンマ測定)で試験でき、かつそのうちの幾つかはペプチド中のT細胞エピトープの存在の証明である陽性反応を示す(従って免疫原性である)。直線状B細胞エピトープは、例えばHarboeらが1998年に記載しているように、関心対象のポリペプチド全体をカバーする、重複ペプチドに対するB細胞認識を解析することによって決定できる。
【0058】
T細胞エピトープの最低長は、少なくとも6アミノ酸であることが示されているが、このようなエピトープがより長いアミノ酸のストレッチで構成されていることは一般的である。従って、本発明のポリペプチド断片は少なくとも7アミノ酸残基長を有する。例えば少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも14、少なくとも16、少なくとも18、少なくとも20、少なくとも22、少なくとも24、及び少なくとも30アミノ酸残基を有する。それゆえに、本発明の方法の重要な態様では、ポリペプチド断片は、せいぜい40、35、30、25、及び20アミノ酸残基といった、最大50アミノ酸残基長であることが好ましい。診断ツールとしては、10〜20アミノ酸残基の長さを持つペプチドが最も効果的でることが証明されると予想されることから、本発明の方法で用いられるポリペプチド断片の、特に好ましい長さは18アミノ酸で、15、14、13、12アミノ酸、さらに11アミノ酸もある。
【0059】
ワクチンは、疾患に対する免疫を産生するための、死んだ、弱毒化された、又はその他改質された微生物(細菌、ウイルス若しくはリケッチア)、或いはそれらの一部の接種用懸濁物として定義される。ワクチンは、疾患を予防するための予防ワクチンとして、又は癌又は潜在性感染症のような既に存在している疾患を治療するための、またアレルギーや自己免疫疾患に関する治療ワクチンとして投与できる。ワクチンは、免疫反応を強化するために、好適アジュバントの形に乳化できる。
【0060】
ワクチンは、製剤投与量にあった様式で、治療的に有効かつ免疫原性である量が投与される。投与する量は、免疫反応を展開する個体の免疫系の能力及び所望する保護の程度によって決まる。好適な投与量範囲は、ワクチン接種当たり数百マイクログラム活性成分のオーダーであり、好ましい範囲は、約1μg〜300μgのような約0.1μg〜1000μgの範囲であり、特に好ましくは約10μg〜50μgの範囲である。初回投与及び追加接種の好適レジメンもまた様々であるが、初回投与後に続けて接種するタイプ、又は別に投与するタイプに分けられる。
【0061】
使用方法は極めて多様である。ワクチン投与のいずれの通常の方法も応用できる。これらは、固体の、生理学的に許容される基剤若しくは生理学的に許容される分散液を用いた経口又は粘膜用、注射による非経口用を含むと考えられる。ワクチンの投与量は投与経路により決まり、ワクチン接種対象となるヒトの年齢によって変わり、ある程度はワクチン接種対象となるヒトのサイズによっても変わる。
【0062】
ワクチンは、通常は、注射によって、例えば皮下若しくは筋肉内に非経口的に投与される。その他の投与形態に適合する追加の製剤としては、坐薬及び、いくつかの例では、経口又は粘膜製剤が挙げられる。坐薬の場合は、伝統的な結合剤及びキャリアとしては、例えばポリアルキレングリコール(polyalkalene glycols)又はトリグリセリドが挙げられる。このような座薬は、0.5%〜10%、好ましくは1〜2%の範囲で活性成分を含有する混合物から形成することができる。経口製剤は、一般に用いられる賦形剤、例えば医薬品等級のマニトール、ラクトース、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等を含む。これら組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、ピル、カプセル、徐放製剤又は粉末の形態を取り、かつ10〜95%、好ましくは25〜70%の活性成分を含有すると有利である。
【0063】
ワクチンは、例えば次のものから選択できる:
【0064】
タンパク質ワクチン:ポリペプチド(少なくとも1つのその免疫原性部分)又は融合ポリペプチドを含むワクチン組成物。
【0065】
生組換え体ワクチン:非病原性の微生物又はウイルスで、ワクチンの関連抗原を発現させたもの。このような微生物の周知例は、Mycobacterium bovis BCG、Salmonella及びPseudomonasであり、ウイルスの例は、Vaccinia Virus及びAdenovirusである。
【0066】
これらワクチン構築物全てに関し、好適アジュバントを追加することで、ワクチン効力を増強する(Brandt et al.,2000;van Rooij et al.,2001;Wang et al.,2002;Eriksson,2003)。
【0067】
本発明のさらに別の態様は、アジュバントを含む送達システムである。リポソームは、免疫アジュバント、感染症及び炎症の治療、癌治療、並びに遺伝子治療といった薬学及び医学での送達システムとして用いられている(Gregoriadis,1995)。リポソームのアジュバント効果に影響する可能性のある因子は、リポソームのサイズ、脂質組成、及び表面電荷である。更には、抗原の位置(例えばそれがリポソーム表面に吸着若しくは共有結合しているか、又はリポソーム水性コンパートメント内に閉じこめられているか)も重要であろう。樹枝状細胞は、抗原送達ビークルとして用いることができる。樹枝状細胞のような抗原提示細胞への抗原の負荷は、抗腫瘍免疫で役割を果たす活性なT細胞を生成する効果的な方法であることが示されている。
【0068】
本発明のリポソームは、当技術分野周知の様々な方法によって作ることができる。
【0069】
好ましくは、カチオン性脂質は、ジメチルアンモニウム頭部基及び12〜20個の炭素原子を含む2つの長い疎水性アルキル基、例えばジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA−B)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド(DODA−C)を有する第四アンモニウム化合物である。その他タイプの好ましいカチオン性脂質としては、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2−ジミリストイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン、1,2−ジパルミトイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン、1,2−ジステアロイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン、及びジオレオイル−3−ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)、並びにN−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
糖脂質は、好ましくは、1つから3つの脂肪酸が1又は2個の糖残基をアシル化しているものから作られたアシル化グリコシドである。脂肪酸は飽和又は不飽和の、直鎖又は複合分岐脂肪酸のいずれかである。糖は、単純な単糖又は2つの供給結合した単糖類を含む二糖のいずれかでよい。特に好ましい態様では、糖脂質は、1又は2本の、14〜90個の炭素原子を含むグリコシド結合脂肪酸鎖を持つトレハロース、例えばアルファ,アルファ’−トレハロース6,6’−ジベヘネート(TDB)及びアルファ、アルファ’−トレハロース6,6’−ジミコレート(TDM)からなる。
【0071】
一つの態様では、本発明のリポソームは、カチオン性脂質を形成する二重層、好ましくは第四アンモニウム頭部基及び2本の長い疎水性アルキル基を有する二重層である。特に好ましい態様では、頭部基はジメチルアンモニウムであり、かつ疎水性鎖はヘキサデシル、オクタデシ又はオクタデセニル鎖である。発明のカチオン性脂質は、単独又は組み合わせて用いることができる。更には、カチオン性脂質又はその混合物は、ホスファチジルコリン(PC)及びホスファチジルグリセロール(PG)のような中性リン脂質、又は他の二重層を形成する中性若しくは合成の、静電気的に中性な脂質と組み合わせて用いることができる。
【0072】
カチオン性リポソームは、フィルム法を用いて糖脂質をリポソーム膜内に組み込むことによって安定化される。これに対し、この安定化効果は、既に述べた製剤であるDDA及びTDBの事前生成溶液を混合しても得られない(Woodard et al,1980、Dzata et al.1991,Holten−Andersen et al,2004)。糖脂質は、その疎水性部分は二重膜の疎水性領域内に埋め込まれ、またその極性頭部基部分は膜の親水性表面に向かって配置される形で、脂質二重層内に安定的に組み込まれなければならない。カチオン性リポソームに加える糖脂質のモル比は、製剤に用いられた糖脂質並びに潜在的賦形剤の性質によって決まる。特定の糖脂質のモル百分率は、0.5〜約95モル%、好ましくは約2.5〜約20モル%、さらに好ましくは約5〜約18モル%である。
【0073】
特に好ましい本発明の態様では、第四アンモニウム化合物/カチオン性脂質はDDA−Bであり、糖脂質はTDBである。リポソームは、所定重量のDDA−B及びTDBを、全脂質濃度が約1mM、2mM、5mM又は10mMであるときに、5モル%又は10モル%又は15モル%のモル百分率になるように好適有機溶媒中に溶解して調製する。溶媒を蒸発させると、薄い脂質膜が試験管の内壁に残る。次に乾燥した脂質フィルムを、塩を含まないか、又は低濃度の塩を含む薬学的に許容される緩衝液で水和する。安定リポソーム構造体の形成は、イオン、特にリン酸塩及び硫酸塩のようなアニオンの存在に影響を受けると考えられる。好ましくは、有機緩衝液、例えばpH6.0〜8.0、より好ましくはpH6.5〜7.5の2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(Trometamolum又は簡略してTris)又は2−ビス(2−ヒロドキシエチル)アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(Bis−Tris)は、Tris又はBis−Tris基剤をMilliQ水に溶解し、次にHClを加えてpHを調節して調製する。緩衝液は、Tris又はBis−Trisに限定されるものでなく、任意の薬学的に許容される緩衝液又は緩衝物質が添加されていない純粋な水であってもよい。混合物を脂質混合物の相転移温度より高い温度まで加熱し、5分ごとに、20分間激しく振盪する。得られたアジュバント製剤は、通常のカチオン性リポソームよりも、有意に改善された物理的安定性を有することを特徴とするMLVからなる。
【0074】
抗原性物質、即ちタンパク質又はペプチドを加え、アジュバント製剤と混合する。最も好ましくは、抗原性物質は静電引力又は疎水性相互作用によって小胞に結合する。本発明の特に好ましい態様では、結核に対する最終ワクチンは、TDBによって安定化したDDAリポソームを含有するアジュバント製剤と融合タンパク質Ag85B−ESAT−6の溶液を混合することによって調製される。アジュバントは、本発明に従って、1mlあたり2.50mgのDDA(4mM)及び1ml当たり0.25mgのTDB(0.25mM)を含み、pH7.4の10mMトリス緩衝液中に約5モル%のTDB濃度に相当するように調製される。このアジュバント製剤約4.5mlを0.5mlの1.0mg/mlのAg85B−ESAT−6のTris緩衝液に混合して、融合タンパク質の濃度を100マイクログラム/mlにして、最終的な、すぐに使用出来るワクチンを得る。
【0075】
別の好ましい態様では、抗原性物質は、脱水−再水和法を用いて小胞内にカプセル化されるか、或いは抗原は凍結融解技術を用いて組み込まれる。
【0076】
実施例
実施例1
濃度を増加させたTDBを含有するDDA小胞の調製
TDBを含有するDDA小胞を、薄脂質フィルム法を用いて作った。ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA−B、重量平均分子量(Mw)=630.97)及びD−(+)−トレハロース6,6’−ジベヘネート(TDB、Mw=987.5(Avanti Polar Lipids,Alabaster,Al)をクロロホルムメタノール(9:1)に別々に、10mg/mlの濃度になるように溶解した。指定容積の各化合物をガラス製試験管の中で混合した。緩やかなN気流を用いて溶媒を蒸発させ、脂質フィルムを一晩、低圧下で乾燥させ微量の溶媒を取り除いた。乾燥した脂質フィルムをTris緩衝液(10mM、pH=7.4)で、表1に指定した濃度に水和し、70℃の水槽に20分間入れ、サンプルを5分ごとに激しく振盪した。
【0077】
表1.本発明に従い調製されたアジュバント製剤の範囲一覧表

【0078】
実施例2
TDBはDDA製剤の長期安定性を高める
濃度を増加したTDBを含むDDA−B小胞の製剤を4℃に保存し、1日後及び2ヶ月後にもう一度、各製剤の外観を評価した(表2及び図2)。評価は、TDBがDDA小胞を安定化することを明瞭に証明した。1日後、TDBを含まない水性緩衝液のDDA懸濁液は沈殿を形成したが、一方10モル%を超えるTDBを含有するDDA懸濁液には沈殿は形成されなかった。TDB濃度がせいぜい6%と低い懸濁液では、極少量の沈殿だけが形成され、これは軽く振盪することによって簡単に再懸濁された。
【0079】
表2.様々なアジュバント製剤の範囲における2ヶ月安定性

【0080】
長期保管を促進するために、懸濁液を3000gで30分間遠心分離した。2.5モル%を超えるTDBを含有するDDA−B懸濁液だけが極わずかな沈殿を形成したが、これは振盪によって再懸濁できた。
【0081】
実施例3
TDBをDDA小胞の脂質二重層内に組み込む
合成ジアルキルジメチルアンモニウムから形成された脂質二重層は、特徴的な相転移温度Tmにおいて、ゲルから液晶への主相転移を起こす。相転移は、小胞二重層中のジアルキル鎖の溶解を含み、鎖の構成が高い立体規則性を特徴とする状態から、不規則性がより高い状態へと変化する。鎖の溶解プロセスには、大きな転移エンタルピーを伴う。このエンタルピーの変化は、転移温度の最大値Tmを示す熱容量曲線のピークとして検出される。転移温度並びに熱容量曲線の形は、極性頭部基の性質、対イオン、ジアルキル鎖の長さによって決まる。一般にTm値は、鎖長が短くなるに従って、またアルキル鎖の非対称性が増加するほど上がる。サーモトロピック相の挙動に対する第2ジアルキル界面活性剤の影響は、2つの構成成分間の相互作用に関する有益な情報を提供できる。
【0082】
熱容量曲線は、0.34mlのセル容積を持つパワー補正式VP−DSC示差走査マイクロ熱量計(Calorimetry Sciences Corp.,Provo)を用いて得た。0.34mlのサンプルのアップスキャンを三回連続して30C/時の速度で行った。サンプルは開始温度で50分間平衡化させた。
【0083】
図3に示すDDA−B及びDOBからなる2成分系のDSCサーモグラムは、TOBのモル濃度上昇が、脂質膜の熱力学に大きな影響を与えることを示している。DDAリポソームの二重層の膜へTDBが挿入されたことは、主相転移温度Tmの低下によって証明される。純粋DDA−Bリポソームのゲルから流体への転移は、48℃における狭く、よく定義された熱容量ピークを特徴とする。TDB濃度の上昇は、ゲルと流体相が同時に存在する流体相共存状態までゲルを広げる。
【0084】
20モル%のTDBを含有するDDA−Bリポソームの相転移温度は、純粋なDDA−Bの同温度よりも約5℃低温側にシフトする。DDA−Bリポソーム膜内へのTDBの挿入は、相転移ピークを二分割する傾向がある。これは、おそらくは、ゲルから流体への転移プロセス中の、脂質膜内の小規模な組成相分離によるものと考えられる。熱力学パラメータを表3に示す。
【0085】
TDBの安定化作用は、おそらくは、DDA−Bリポソーム膜内に固着している、TDBの強く水和されたトレハロース頭部基によるものであり、これが小胞二重層の脱水及び融合を阻止していると考えられる。
【0086】
表3.30℃/時の走査速度の示差走査熱量測定(DSC)を用いて得た、増加濃度のTDBを含有するDDA−Bリポソームの熱力学パラメータ。リポソームはpH7.4の10mM Tris緩衝液に分散させ、総脂質濃度は5mMであった。

【0087】
転移状態がタンパク質抗原の添加により影響を受けるか否かを評価するために、DDAおおびTDBから構成されたリポソームを、マイコバクテリア融合タンパク質のAg85B−ESAT−6の濃度を上げながら加え、製剤を示差走査熱量測定により分析した。図4に示すように、相転移温度は、タンパク質組み込みによって変化しない。
【0088】
実施例4
TDB含有DDAリポソームの粒子サイズ
実施例4A
TDBの組み込みによってDDA−Bの安定性を高める
増加濃度のTDBを含有する、フィルム法で調製したDDA−Bの粒子安定性を、Malvern ZetaSizer 4(Malvern Instruments Ltd.UK)を用いた動的光散乱測定により測定した。0モル%、6モル%、11モル%及び20モル%のTDBを組み込んだDDA−B粒子製剤を、0日目にpH7.4の10mM Tris緩衝液中に分散した。調製後0日目、14日目、28日目、42日目、56日目及び105日目に測定を実施した(図5)。経時的に粒子サイズ安定性を比較すると、TDBの組み込みがDDA−B粒子を安定化し、それらが凝集を形成するのを防ぐことがわかる。逆に、DDA単独の製剤は、4℃で数日保存後に凝集し、42日後には凝集のために、それ以上のサイズ測定は不可能であった。これらのデータは、図2に示した、DDA及びDDA/TDB製剤の視覚的印象を裏付けるものである。
【0089】
実施例4B
水熱法による2成分混合法、又はトレハロースである糖部分を加える代わりに、TDBを組み込むことでDDA−B粒子の安定性を効率的に高める
DDA−B粒子を安定化させるためのDDA−B粒子内へのTDBを組み込みの必要性を、Malvern ZetaSizer 4(Malvern Instruments Ltd.UK)を用いた動的光散乱測定により調べた。フィルム法で調製した11モル%のTDBを含有するDDA−B粒子の粒子サイズを、11モル%のTDBと混合したDDA−B粒子(Holten−Andersenにより前に記載されている水熱法)と比較した。両製剤をpH7.4の10mM Tris緩衝液中に分散した。調製後0日後、14日後及び28日後に測定を実施した(図6)。経時的に粒子サイズ安定性を比較すると、TDBの組み込みが、2成分を混合した場合に比べDDA−B粒子を安定化し、それらが凝集するのを防ぐことがわかる。
【0090】
TDBの脂質部分がDDA−B粒子の安定化にとって必要であるか否かを調べるために、フィルム法で調製した11モル%TDB含有DDA−B粒子の粒子サイズを、10%(w/v)のスクロース及びトレハロースをそれぞれ含有するDDA−B粒子と比較した。全ての製剤をpH7.4の10mM Tris緩衝液中に分散した。調製後0日後、14日後及び28日後に測定を実施した(図7A)。経時的に粒子サイズ安定性を比較すると、DDA−Bリポソームを安定化するには、TDBの脂質部分が必須であることがわかる。トレハロース及びスクロースではなくTDBがDDA−TDBリポソームの凝集を阻止している。
【0091】
実施例5
抗原をTDB含有DDA小胞に吸着する
最終の、すぐに使用できるワクチンの、遠心分離したAg85B−ESAT−6の上清及び再懸濁した沈殿物のSDS−PAGE分析を行い、カチオン性リポソームに吸着した抗原を視覚化した。アジュバントは、15モル%の糖脂質TDBを組み込んで安定化したDDAから構成されるカチオン性リポソームを含んでいた。最終ワクチンのAg85B−ESAT−6(Mw45KDa)は、40マイクログラム/ml、80マイクログラム/ml、160マイクログラム/ml及び200マイクログラム/mlであり、DDA及びTDBの濃度はそれぞれ10mM及び0.6mMであった。ワクチンを超遠心分離(100,000g)に30分間かけ、上清及び元の容積のTris緩衝液に再懸濁した沈殿物についてSDS−PAGE分析を実施した(図8)。Ag85B−ESAT−6を50マイクログラム/ml含有する参照サンプルをレーン1にロードし、分子量マーカーをレーン2にロードした。タンパク質のバンドはクマシー(coomassie)染色で視覚化した。上清をロードしたレーンには肉眼で見えるバンドは無かったが、再懸濁した沈殿物をロードしたレーンには分子量約45KDaに明瞭なバンドが観察され、全ての、又はほとんど全ての抗原がカチオン性リポソームに吸着していることを示した。
【0092】
実施例6
TDBと結びついたDDAは、Ag85B−ESAT−6に対する効率的な免疫反応を促進する
アジュバントはある種の免疫反応の誘導に選択性を有することは、一般的に認められている。INF−γ産生に基づくTh1サイトカイン放出の重要性が、TBに対する耐性に必須であることが示されている(Flynn et al.,1993;Cooper et al.,1993)。20モル%のTDBを含有するDDA−Bリポソームを、本発明の実施例1に記載の通りに調製し、Ag85B−ESAT−6のTris緩衝液と混合して最終ワクチンにした。最終ワクチンでの濃度は、DDAは250μg、TDBは100μg、及びAg85B−ESAT−6は2μgであった。比較のために、同一量のDDA及びDDBからなるが、既に述べたようにDMSO(Holten−Andersen et al,2004)で、即ちフィルム法によるリポソーム内へのTDBの組み込みをしないで調製した。マウスを3回免疫感作させ、3回目のワクチン接種後1週目に血液細胞の特異的免疫反応を調べた(図9)。フィルム法で調製したDDA/TDBを用いて免疫感作したものについては、既に述べた方法に比べはるかに高い反応が観察され、フィルム法で調製したDDA/TDB製剤がDDA/TDBの単純な混合物に比べ、アジュバント効果を高めることが証明された。
【0093】
同様に、フィルム法で調製したDDA/TDBの免疫反応を、臨床使用が既に許可されているアルミニウム系アジュバント、Alhydrogelの免疫反応と比較した。図10に見られるように、DDA/TDBを用いた免疫感作は、高レベルのIFN−γ及び低レベルのIL−5を導いたが、Alhydrogelで免疫感作したマウスは逆のパターンを示し、IFN−γの分泌は無視できるほどであり、IL−5は高レベルであった。
【0094】
液性免疫を産出するDDA/TDBの能力を、初回免疫感作後第5週時のAg85B−ESAT−6特異IgG抗体反応をモニタリングすることによって調べた。最終ワクチンでの濃度は、DDAは250μg、TDBは100μg、及びAg85B−ESAT−6は2μgであった。比較のために、一群のマウスにAlhydrogelを用いたAg85B−ESAT−6を投与した。表5に見られるように、DDA/TDBを用いたAg85B−ESAT−6でワクチン接種されたマウスの血清には、高力価の特異IgGが存在していた。Ag85B−ESAT−6/Alhydrogelによる免疫感作で得た力価と比較して、DDA/TDBを含むアジュバント製剤はより高レベルの特異抗体を誘導した。
【0095】
表5.Ag85B−ESAT−6免疫感作マウスより得た血清の抗原特異的抗体の中間点力価

【0096】
実施例6A
DDA/TDBの組み合わせへ第3成分を組み込むことにより免疫反応を強化
最近、Toll様受容体(TLR)のリガンドが、新規アジュバント製剤に加えるべき魅力的な標的と考えられている。他の免疫刺激性成分、即ちTLRリガンドをDDA/TDB製剤に組み入れる効果を調べるために、マウスを、250μgのDDA/50μgのTDBに2μgのAg85B−ESAT−6を加えたものと、選択した免疫調整剤を用いて免疫感作させた。これらに、前もって形成されたDDA−TDBリポソームに、TLR3のリガンドとして知られるPoly IC(ポリイノシン酸−ポリシチジル酸、Sigma Aldrich)100μgを加えたもの、並びに25μgのTLR2/TLR4を活性化するムラミールジペプチド(MDP)を含有させた。MDPは、水和前のDDA−TDB脂質フィルムに含有させた。
【0097】
最終免疫後3週目に個々のマウスから、脾細胞又は血液細胞(図の説明に示すように)を精製し、5μg/mlのAg85B−ESAT−6を用いてインビトロで再刺激した後、IFN−γ放出レベルを測定した。DDA/TDB単独又は第3成分(Poly IC及びTDM)単独で産生する免疫反応に比べて、3つ全ての成分を包含する製剤は高い免疫反応を起こし、DDA/TDBと免疫調整剤との間の相乗作用を示した(図11a及びb)。
【0098】
実施例7
TDB以外の糖脂質の組み込みによって、DDA−B粒子の安定性を効率的に高める
DDA−B粒子が、TDB以外の糖脂質、11モル%のβ−D−ラクトシルセラミド(β−LacCer)、11モル%のβ−ガラクトシルセラミド(β−GalCer)及び44w/w%G(M1)ガングリオシドそれぞれの組み込みによって安定化できることを例示する。製剤はフィルム法で調製し、0日目にpH7.4の10mM Tris緩衝液に分散させた。粒子サイズは、Malvern Zeta−Sizer 4(Malvern Instruments Ltd.UK)を用いた動的光散乱測定により測定した。測定は調整後0日目、14日目及び28日目に実施した(図12)。経時的に粒子サイズ安定性を比較すると、糖脂質の組み込みがDDAを安定化することがわかる。
【0099】
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US5922350
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明で用いられる幾つかのカチオン性脂質の構造を示す図である。
【図2】4℃で2ヶ月間保存した後の10mM DDA製剤のデジタル画像である。(サンプル02)は16モル%のTDBを含有し、(サンプル03)は12.5モル%のTDBを含有し、(サンプル04)は6モル%のTDBを含有し、(サンプル05)は2.5モル%のTDBを含有し、サンプル(06)は0.5モル%のTDBを含有し、また参照サンプルはDDAのみを含有している。この図より、TDB含有懸濁液はより均一であり、沈殿がないことは明らかである。
【図3】TDBの濃度を増加させた(上から下に)DDA−Bからなる多重層リポソームの、30C/hの走査速度で得たDSCサーモグラムである。リポソームはpH7.4の10mMトリス緩衝液に分散させた。サーモグラムは、TDBがDDAリポソーム膜内に挿入されることを明瞭に示している。
【図4】抗原Ag85B−ESAT−6の濃度を増加させた(上から下に)DDA−B及びTDBからなる多重層リポソームの、30C/hの走査速度で得たDSCサーモグラムである。リポソームはpH7.4の10mMトリス緩衝液に分散させた。サーモグラムは、相転移温度が抗原をリポソーム内へ組み込むことによって変化しないことを明瞭に示している。
【図5】0モル%TDB(−◆−)、6モル%TDB(−▲−)、11モル%TDB(−★−)及び20モル%TDB(−■−)を含有するDDAリポソームの平均粒子サイズの時間展開図である。リポソームは、pH7.4に調節された10mMトリス緩衝液中に分散された。14日後、TDBを含まないDDAリポソームに著しい増加が見られた。
【図6】DDAリポソーム(−◆−)、及び水熱法で調製した11モル%のTDBを含有するDDAリポソーム(−▲−)、フィルム法で調製した11%モル%のTDBを含有するDDAリポソーム(−■−)の平均粒子サイズの時間展開図である。リポソームは、pH7.4に調節された10mMトリス緩衝液中に分散された。14日後、DDAリポソーム及び水熱法で調製されたDDA/TDBリポソームに著しい増加が見られた。
【図7A】11モル%TDB(−■−)、10%(w/v)トレハロース(−●−)及び10%(w/v)スクロース(−X−)を含有するDDAリポソームの平均粒子サイズの時間展開である。リポソームは、pH7.4に調節された10mMトリス緩衝液中に分散された。14日後、トレハロース及びスクロースを含有するDDAリポソームは、PCSによるそれ以上の測定を不可能にする程度まで凝集した。
【図7B】10%(w/v)トレハロース及び11モル%TDBをそれぞれ含有する10mM DDA製剤の、4℃で14日間保存後のデジタル像である。トレハロースを含有する製剤において、著しい凝集が見られた。
【図8】最終的な、すぐ使用可能なワクチンを超遠心分離し、Ag85B−ESAT−6の上清及び再懸濁沈殿物についてのSDS−PAGE分析を行い、カチオン性リポソームへの抗原吸着を視覚化した図である。
【図9】本発明の実施例1に記載したように調製したAg85B−ESAT−6/DDA/TDB又はHolten−Andersenら(2004)が記載したように調製したAg85B−ESAT−6/DDA/TDBで免疫感作を行ったC57Bl/6jマウスから単離した血液リンパ球からのIFNガンマの放出を示す図である。リンパ球は、三回目の免疫感作1週後に単離し、5μg/mlのAg85B−ESAT−6で刺激した。
【図10】2μgのAg85B−ESAT−6/DDA/TDB又は500υgのミョウバン(Alum)に封じ込められたAg85B−ESAT−6/DDA/TDBで免疫感作を行ったC57Bl/6jマウスから単離した血液リンパ球からのIFNガンマ及びIL−5の放出を示す図である。リンパ球は、三回目の免疫感作1週後に単離し、5μg/mlのAg85B−ESAT−6を用いてインビトロで再び刺激した。
【図11A】250ug DDA/50ug TDB、100ug ポリIC、又は250ug DDA/50ug TDB/100ug ポリICのいずれかに封じ込められた2μgのAg85B−ESAT−6で免疫感作を行ったBALB/Cマウスから単離した脾細胞からのIFNガンマの放出を示す図である。脾細胞は、三回目の免疫感作1週後に単離し、5μg/mlのAg85B−ESAT−6を用いてインビトロで再び刺激した。
【図11B】250ug DDA/50ug TDB、25ug MDP、又は250ug DDA/50ug TDB/25ug MDPのいずれかに封じ込められた2μgのAg85B−ESAT−6で免疫感作を行ったBALB/Cマウスから単離した血液リンパ球からのIFNガンマの放出を示す図である。血液細胞は、三回目の免疫感作1週後に単離し、5μg/mlのAg85B−ESAT−6を用いてインビトロで再び刺激した。
【図12】DDAリポソーム(−◆−)及び11モル%TDBを含有するDDAリポソーム(−●−)、11%ラクトシルセラミドを含有するDDAリポソーム(−*−)及び11モル%のアルファガラクトシルセラミド(−X−)を含有するDDAリポソーム(−X−)の平均粒子サイズの時間展開図である。リポソームは、pH7.4に調節された10mMトリス緩衝液中に分散された。14日後、糖脂質を含まないDDAリポソームに著しい増加が見られた。これはTDB以外の糖脂質がDDAを安定化できることを示唆している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソーム内に糖脂質を組み込むことによって、水性製剤中のカチオン性リポソームを安定化する方法。
【請求項2】
請求項1に記載のカチオン性リポソームを安定化する方法において、前記カチオン性脂質が、両親媒性第四アンモニウム化合物であることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載のリポソームを安定化する方法において、前記両親媒性第四アンモニウム化合物が、1本又は2本の脂肪鎖を有することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のリポソームを安定化する方法において、前記各脂肪鎖が、12〜20個の炭素原子を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載のリポソームを安定化する方法において、前記両親媒性第四アンモニウム化合物が、DDA−B、DDA−C、DDA−X、DODA−B、DODA−C、DODA−X、DOTAP、DODAP又はDOTMAであることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のリポソームを安定化する方法において、前記糖脂質が、1つ又は2つの糖残基に結合した1本又は3本までの脂肪族炭化水素鎖から形成されるアシル化グリコシドであることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載のリポソームを安定化する方法において、前記糖脂質が、2本のアシル鎖を有する二糖であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のリポソームを安定化する方法において、前記アシル鎖が、15〜90個の炭素原子を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載のリポソームを安定化する方法において、糖脂質が、アルファ,アルファ’−トレハロース6,6’−ジベヘネート(TDB)又はアルファ,アルファ’−トレハロース6,6’−ジミコレート(TDM)であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のリポソームを安定化する方法において、特定の糖脂質のモル百分率が、0.5〜約95モル%、好ましくは約2.5〜約20モル%、より好ましくは約5〜約18モル%であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の方法により安定化されたリポソーム生成物。
【請求項12】
請求項11に記載のリポソーム生成物において、抗原性化合物がリポソームにカプセル化されていることを特徴とするリポソーム生成物。
【請求項13】
薬物送達に使用することを特徴とする請求項10又は11に記載のリポソーム生成物。
【請求項14】
アジュバントとして使用することを特徴とする請求項12に記載のリポソーム生成物。
【請求項15】
請求項11に記載のリポソーム生成物を含むことを特徴とするワクチンアジュバント。
【請求項16】
クラミジア、マラリア又は結核に対するワクチンで使用することを特徴とする請求項15に記載のアジュバント。
【請求項17】
請求項15に記載のアジュバントを含むことを特徴とするクラミジア、マラリア又は結核に対するワクチン。
【請求項18】
請求項11に記載のリポソーム生成物を含むことを特徴とする送達システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【公表番号】特表2008−505131(P2008−505131A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519615(P2007−519615)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【国際出願番号】PCT/DK2005/000467
【国際公開番号】WO2006/002642
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(507006422)
【Fターム(参考)】