説明

糖衣タブレット及びその製造方法

【課題】タブレットに糖衣層を形成して保存中の吸湿が低減され、低水分含量で噛むとカリッとした歯ごたえのある硬い食感を有する糖衣タブレット及びその製造方法を提供することを目的とする。【解決手段】タブレットに油脂含有液を供給して該タブレット全体を覆う油脂層を形成した後、シェラック含有液を供給し乾燥させて前記油脂層全体を覆うシェラック層を形成し、その後、糖衣層被覆用溶液を供給し乾燥させて前記シェラック層全体を覆う糖衣層を形成することを特徴とする糖衣タブレットの製造方法。タブレット全体を覆う油脂層が形成され、かつ、該油脂層全体を覆うシェラック層が形成され、該シェラック層全体を覆う糖衣層が形成されていることを特徴とする糖衣タブレット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タブレットに糖衣層を形成させた糖衣タブレット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、キャンディやチューイングガム等の種々の菓子類に対して、所望の風味・味・食感・色彩を付与するため、又は外的圧力及び乾燥から保護するために糖衣層を形成する技術が用いられている。通常、糖衣層の形成には、糖衣パン或いは回転釜などと呼ばれる装置(以下、糖衣パン)が使用される。具体的には、先ず、糖衣パンの回転容器内に、キャンディやチューイングガム等の被糖衣物を投入し、次いで、この回転容器を回転させながら、糖衣蜜(糖類の溶液)を投入し、この糖衣蜜が被糖衣物の表面全体に被覆されたところで、粉体原料を投入するか或いは風を送るなどして上記糖衣蜜を乾かし、被糖衣物の外側に糖衣層を形成させる。
【0003】
特許文献1は、高水分含量で柔らかい固形食品に対して糖衣層のひび割れや剥がれ落ちを有効に防止する糖衣固形食品の製造方法に関して、水分8質量%以上の固形食品を回転容器内で回転させながら、これに第1糖衣層被覆用溶液を供給して、該固形食品全体を覆う第1糖衣層を形成させた後、第2糖衣層被覆用溶液を供給して、第1糖衣層よりも硬い第2糖衣層を形成させることを特徴とする糖衣固形食品の製造方法を開示している。また、これに関連する糖衣固形食品の製造方法が、特許文献2及び3に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−45117号公報
【特許文献2】特開2002−45118号公報
【特許文献3】特開2002−45119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、粉粒物を圧縮成形したタブレットは、低水分で噛むとカリッとした歯ごたえのある硬い食感を有するのが好ましいが、保存中に時間の経過に伴って吸湿し易く吸湿すると噛みごたえのない柔らかな食感になってしまう。これに対し、タブレットに糖衣を形成すれば、糖衣層により外部からのタブレットの吸湿を低減させることができる。しかし、タブレットに糖衣を形成するためにタブレットに糖衣層被覆用溶液を供給すると、糖衣層を形成する前に糖衣層被覆用溶液がタブレットに染み込んでしまい噛みごたえのない柔らかな食感になってしまう。
【0006】
そこで、本発明の目的は、タブレットに糖衣層を形成して保存中の吸湿が低減され、低水分含量で噛むとカリッとした歯ごたえのある硬い食感を有する糖衣タブレット及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、タブレットに糖衣層を形成するに当たり、タブレット全体を覆う油脂層が形成した後、該油脂層全体を覆うシェラック層を形成し、その後、該シェラック層全体を覆うように糖衣層被覆用溶液を供給し乾燥して糖衣層を形成することにより、タブレットに糖衣層被覆用溶液が染み込むことを防止しつつ糖衣層を形成させることができるとの知見を得、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下の発明を包含する。(1)タブレットに油脂含有液を供給して該タブレット全体を覆う油脂層を形成した後、シェラック含有液を供給し乾燥させて前記油脂層全体を覆うシェラック層を形成し、その後、糖衣層被覆用溶液を供給し乾燥させて前記シェラック層全体を覆う糖衣層を形成することを特徴とする糖衣タブレットの製造方法。(2)タブレット全体を覆う油脂層が形成され、かつ、該油脂層全体を覆うシェラック層が形成され、該シェラック層全体を覆う糖衣層が形成されていることを特徴とする糖衣タブレット。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で対象としているタブレットとは、粉粒物を圧縮成形したものであり、原料粉体を直接打錠することにより製造されたものでも、原料粉体を所定の形状、例えば一旦顆粒状としてから、その顆粒状物を打錠して製造されたものでもよい。このようなタブレットは、従来から公知の打錠機を用いて製造することができる。
【0010】
タブレットの形状は任意であり、例えば、球状体、楕円体、円柱体等が挙げられるが、全体が湾曲して丸みがあり角張った部分のない形状であるのが好ましい。本発明は、温度40℃で相対湿度90%の条件下に18時間放置したときに水分保有割合が3重量%以上となるタブレットに適用するのが好ましい。
【0011】
本発明は、こうしたタブレットに対して糖衣層被覆用溶液が染み込むことを防止しつつ糖衣層を形成させる糖衣タブレットの製造方法を包含する。この製造方法においては、タブレットに糖衣層被覆用溶液を供給する前に、タブレット全体を覆うように油脂含有液を供給して該タブレット全体を覆う油脂層を形成した後、シェラック含有液を該油脂層全体を覆うように供給し乾燥させてシェラック層を形成することが重要である。
【0012】
すなわち、タブレット全体を覆う油脂層を形成することにより、タブレットの中に糖衣層被覆用溶液が染み込むことを防止することができる。また、この油脂層全体を覆うシェラック層を形成することにより、表面の滑らかな糖衣層を形成させることができる。
【0013】
これに対し、タブレット全体を覆う油脂層を形成しない場合には、タブレットの中に糖衣層被覆用溶液が染み込むのを防止することができなくなる。また、油脂層を覆うシェラック層を形成しない場合には、油脂層が糖衣層被覆用溶液を弾くために、表面の滑らかな糖衣層を形成することができなくなる。
【0014】
本発明において油脂層を形成するための油脂としては、天然、合成を問わず種々のものを使用することができる。具体的には、例えば、カルバナワックス、みつろう、ナタネ硬化油、パーム油、オリーブ油、ラード、ヘット等が挙げられるが、カルバナワックス、みつろうが好ましい。油脂は、室温下で固体状の油脂でも液体状の油脂でも使用することができる。
【0015】
本発明においては、こうした油脂を溶媒に溶解し油脂含有液として使用することができる。この場合の溶媒としては、油脂を溶解できるものであれば任意であり、具体的にはエタノールを例示することができる。また、溶媒に溶解しなくとも、室温下で固体状の油脂であるなら加温して液体状の油脂にして、室温下で液体状の油脂であるなら加温せずに、液体状の油脂を溶媒に溶解させることなくそのまま油脂含有液として使用することもできる。尚、油脂含有液には、油脂や溶媒以外の成分が含まれていてもよい。このような油脂含有液は、タブレット100質量部に対して乾燥後の油脂層が0.1〜5.0質量部、より好ましくは0.3〜3.0質量部、更に好ましくは0.5〜3.0質量部の割合となるように供給するのがよい。
【0016】
次に、本発明においてシェラック層を形成するためのシェラックとは、既存の添加物として認められているラックカイガラムシ由来の樹脂である。シェラックは、油脂及び糖衣層被覆用溶液のいずれに対しても親和性が高いため、油脂層全体を覆うシェラック層を形成した後に糖衣層被覆用溶液を供給し乾燥することで、表面の滑らかな糖衣層を形成することができる。
【0017】
本発明においては、シェラックを例えばエタノール等の溶媒に溶解乃至分散させてシェラック含有液として使用することができる。シェラック含有液には、油脂や溶媒以外の成分が含まれていてもよいが、溶媒を除く構成物中のシェラックの構成比率が50質量%以上であるのがよい。このようなシェラック含有液は、タブレット100質量部に対して乾燥後のシェラック層が0.1〜5.0質量部、より好ましくは0.3〜3.0質量部、更に好ましくは0.5〜3.0質量部の割合となるように供給するのがよい。
【0018】
また、本発明において糖衣層被覆用溶液とは、糖衣層を形成するための、いわゆる糖衣蜜からなる溶液をいう。この溶液は、例えば、ショ糖、ブドウ糖、麦芽糖、トレハロース等の一般的な糖類、マルチトール、パラチニット等の糖アルコール、プルラン、アラビアガム、酸処理でんぷん、ゼラチン、香料、色素、ビタミンC等の機能性成分及び水等を所定の量加熱混合することにより調製することができる。
【0019】
タブレットに油脂層を形成させてからシェラック層を形成し、更に糖衣層を形成するまでの工程は、例えば回転容器内において行うことができる。回転容器とは、それ自体が回転可能であり、かつ、糖衣するタブレットを充填可能なものであればいずれのものであってもよい。例えば、一般に糖衣パン或いは回転釜と呼ばれる、糖衣品を形成するための装置に含まれるものであってもよい。
【0020】
回転容器は、例えば、駆動モータに接続され鉛直線に対して、例えば10〜60°傾斜させて配置された回転駆動軸に取り付けられた上方開口型の有底容器であるのが好ましい。また、このような回転容器を含み得る糖衣パンとしては、例えば、富士薬品機械社製のFY‐TS‐220を用いることができる。このような糖衣パンは、例えば、糖衣層被覆用溶液供給装置、例えばスプレーノズルを備えていてもよく、更に、加熱装置、冷却装置、乾燥装置(送風装置等)を備えていてもよい。
【0021】
回転容器を用いる場合の一例を示す。先ず、回転容器内にタブレットを収容し、この回転容器を回転させながら、回転容器内のタブレットに対して油脂含有液を供給し、送風しながら乾燥させることにより、タブレット全体を覆う油脂層を形成させることができる。また、送風する際の風量としては3m/分〜30m/分を例示できる。油脂層が形成されたら次にシェラック含有液を供給し、同様の操作によりシェラック層を形成させることができる。
【0022】
このようにしてシェラック層を形成した後、糖衣層被覆用溶液を供給する。ここで、糖衣層被覆用溶液は繰り返し供給して、シェラック層全体を覆う適当な厚みの糖衣層を形成することができる。この繰り返して用いる糖衣蜜の組成は同一のものとしてもよいし、或いは種々の組成を設定してもよい。シェラック層全体を覆う糖衣層の厚みは、保存中の吸湿を低減し、且つ硬い食感を付与することから、タブレット100質量部に対して乾燥後の糖衣層が10〜200質量部、より好ましくは20〜150質量部、更に好ましくは30〜100質量部の割合となるように供給するのがよい。
【0023】
糖衣層被覆用溶液は、タブレットに対して、例えば10〜50回繰り返し供給するのがよい。ここで、回転容器を回転させながら回転容器内のタブレットに対して送風しながら乾燥させることにより糖衣層を形成することができる。送風する際の風量としては3m/分〜30m/分を例示できる。
【0024】
本発明のタブレットは、単一の糖衣層からなるものでもよいが、複数の糖衣層からなるものであってもよい。タブレットに対して複数の糖衣層を形成する場合、例えば、二層の糖衣層を形成する場合には、(a)糖衣蜜を供給した後、更に粉体原料を供給し、風を吹きつけて乾燥させて、第1の糖衣層(セミハードコーティング層)を形成させ、(b)次に、糖衣蜜を供給した後、粉体原料を供給することなく、風を吹きつけて乾燥させて、第2の糖衣層(ハードコーティング層)を形成させることができる。
【0025】
糖衣層の仕上げ工程においては、回転容器の回転を止めるか、あるいは、回転容器からタブレットを取り出して静置して乾燥させるのが好ましい。また、この乾燥工程は、糖衣層の水分含量が0.1〜3.0質量%となるように行うのが好ましい。
【0026】
このようにして得られる糖衣タブレットは、タブレット全体を覆う油脂層が形成され、かつ、該油脂層全体を覆うシェラック層が形成され、該シェラック層全体を覆う糖衣層が形成されている。この糖衣タブレットは、保存中のタブレットの吸湿が低減され、低水分含量で噛むとカリッとした歯ごたえのある硬い食感を有する。
【0027】
この糖衣タブレットは、硬度が3〜20kgf(藤原製作所KHT−20N型、測定方法:木屋式硬度計による測定)、より好ましくは4〜15kgfで、水分が0.5〜3.0%(減圧70℃、5時間乾燥法
)、より好ましくは1.0%であるのが好ましい。本発明は、打錠菓子、機能性成分を配合したサプリメント打錠品等に好適に適用することができるが、適用範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
(実施例1)1)タブレットの調製
マルチトール95.0質量部(以下、単に「部」という)、ヒアロン酸0.1部、滑沢剤1.5部及び粉末香料3.4部からなる混合粉体を打錠機により打錠して楕円体のタブレットを調製した。尚、このタブレットは、調製直後の水分含量は0.8質量%でありカリッとした歯ごたえのある食感を有するが、温度40℃で相対湿度90%の条件下に18時間放置した後の硬度が2kgf、水分含量は5.0%(減圧70℃、5時間乾燥法)となりグニャッとした歯ごたえのないものとなった。
【0029】
2)糖衣層被覆用溶液の調製
マルチトール65.0部、酸処理澱粉(東和化成工業社製、コーティングパウダー)3.0部及び水32.0部を攪拌しながら100℃で加熱混合し、糖衣層被覆用溶液を調製した。
【0030】
3)糖衣タブレットの製造
工程(a)油脂層の形成 糖衣パンの鉛直線に対し傾斜して配置された回転軸を中心に回転可能な回転容器内に、1)で得られたタブレット40.0kgを供給し、該回転容器を毎分15回転で回転させながら、ミツロウとカルナバワックスとエタノールとからなる油脂含有液(Caul社製、Capol600F、ミツロウ:カルナバワックス:エタノール=15:1:84)を0.5kg供給し、回転容器を約3分間回転させ、送風管より27℃、湿度40%の風を風量15m/分でタブレットに対して3分間送風することによりタブレット全体を覆う油脂層を形成した。
【0031】
工程(b)シェラック層の形成 次に、上記回転容器内に、シェラックとエタノールとからなるシェラック含有液(日本シェラック工業社製、ラックグレーズ20E、シェラック:エタノール=20:80)0.5kgを供給して、毎分15回転で回転容器を回転させながら、送風管より27℃、湿度40%の風を風量15m/分でタブレットに対して3分間送風することにより油脂層全体を覆うシェラック層を形成した。
【0032】
工程(c)糖衣層の形成
次に、上記回転容器内に、2)の糖衣層被覆用溶液を供給し、この溶液がタブレットの全体に行き渡ったところで、送風管より27℃、湿度40%の風を風量15m/分で送風した。この作業を30回繰り返して、溶液を計15.0kg供給して乾燥することにより本発明の糖衣タブレットを製造した。この際、回転容器は約200分間回転させた。
【0033】
この糖衣タブレットは、食べるとカリッとした歯ごたえのある食感を有するものであった。この糖衣タブレットは、中心のタブレット100部に対して、油脂層が0.5部、シェラック層が0.5部、糖衣層が60部であり、硬度が8kgf(藤原製作所KHT−20N型、測定方法:木屋式硬度計による測定)で、水分が約1.8%(減圧70℃、5時間乾燥法)であった。
【0034】
尚、この糖衣タブレットは、温度40℃で相対湿度90%の条件下に18時間放置した後の硬度が6kgf、水分含量が2.5質量%(減圧70℃、5時間乾燥法)で、歯ごたえのある食感を保持していた。
【0035】
(比較例1)
工程(a)を実施しない(油脂層を形成しない)こと以外は、実施例1と同様にして、糖衣タブレットを製造した。この糖衣タブレットは、糖衣層表面は滑らかで綺麗なものあったが、タブレット中に糖衣層被覆用溶液が染み込んで、食べるとグニャッとした歯ごたえのないものであった。また、硬度が2kgf(藤原製作所KHT−20N型、測定方法:木屋式硬度計による測定)であった。水分は5.0%(減圧70℃、5時間乾燥法)であった。
【0036】
(比較例2) 工程(b)を実施しない(シェラック層を形成しない)こと以外は、実施例1と同様にして、糖衣タブレットを製造しようとしたが、糖衣が剥がれ滑らかな糖衣層を形成することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タブレットに油脂含有液を供給して該タブレット全体を覆う油脂層を形成した後、シェラック含有液を供給し乾燥させて前記油脂層全体を覆うシェラック層を形成し、その後、糖衣層被覆用溶液を供給し乾燥させて前記シェラック層全体を覆う糖衣層を形成することを特徴とする糖衣タブレットの製造方法。
【請求項2】
タブレット全体を覆う油脂層が形成され、かつ、該油脂層全体を覆うシェラック層が形成され、該シェラック層全体を覆う糖衣層が形成されていることを特徴とする糖衣タブレット。

【公開番号】特開2007−116929(P2007−116929A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310698(P2005−310698)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】