説明

糖製品の製造方法

本発明は、リグノセルロース-含有バイオマスを分画することによって、グルコース等の糖類を製造するための方法に関する。このようにして得られる該糖類製品は、バイオエタノールおよびその他の化学物質を製造するために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース-含有バイオマスから、グルコース等の糖類を製造する方法に関する。このようにして得た該糖製品は、バイオエタノールおよびその他の化学物質を製造するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
現在、リグノセルロースを含有する原料物質からエタノールを製造する必要性に関連する、幾つかの理由がある。第一に、運輸交通用のバイオ燃料に対する需要があり、また第二に、第二世代の解決策、即ち穀粒、糖分または油分等の植物の所定部分のみならず、該植物の全バイオマス、即ちリグノセルロースを利用することを可能とする技術に対する需要がある。更に、炭水化物から作られるエタノールは、現時点において最も一般的に使用される運輸交通におけるバイオ燃料であり、また最も有力な将来の代替品の一つである。
【0003】
エタノールに加えて、他のこの種の化学物質を、リグノセルロースから製造することが試みられており、該化学物質は、現時点においては再生不可能な天然資源から製造されている。リグノセルロースを加水分解することにより得られる糖類は、このような製造に係る有力な出発物質である。
【0004】
Hamelinck等の文献1では、提示された該第二世代のエタノールの製造方法と、有力な将来の方法とが、広く比較検討されている。これらの方法は、多岐に渡る問題と直面している。
【0005】
既知の第二世代のエタノール製造法が有益なものであるためには、リグノセルロースのあらゆる炭水化物(セルロースおよびヘミセルロース)を加水分解して、糖類に転化し、更に醗酵させて、高収率にてエタノールに転化する試みがなされている。セルロースおよびヘミセルロースの糖類への加水分解は、様々な予備処理および加水分解条件を必要としている。セルロースから製造したグルコースの、エタノールへの醗酵は公知技術であるが、典型的にヘミセルロースから生成されるペントースの醗酵は、依然として未完成の技術である。更に、ヘミセルロース中の糖類の有意な部分が、典型的に予備処理中に失われ、これはエタノールの収量を低下する。
【0006】
公知の方法において、予備処理は、一般的にはリグニンを除去せず、従ってリグニンがセルロースの加水分解中に共存し、このことが、酵素を用いる加水分解操作を複雑化している(文献2参照)。
【0007】
多くの方法において、希硫酸(文献2参照)であれ、濃硫酸(文献1、3参照)であれ、硫酸が予備処理および加水分解において使用されている。硫酸を希釈して使用する場合、その回収の試みはなされず、中和され、そのために石膏廃棄物(文献1参照)が生成される。濃硫酸を使用する場合、これを回収し、再利用する必要があるが、その回収は複雑なクロマトグラフィー法による分離を必要とする(文献1、3参照)。
【0008】
幾つかの予備処理法、例えば蒸気爆砕(steam explosion)においては、高温(約200℃)および高圧が、特別な問題を引起す(文献1参照)。
【0009】
典型的には、セルロースの加水分解を、酵素学的に実施すべきことが提案されている。エタノールの収量に加えて、該方法の収益性は、使用する酵素の量および該加水分解工程の投下資本コストによって重大な影響を被り、これは更に該加水分解に必要とされる滞留時間に依存する(文献1参照)。
【0010】
公知の方法においては、また加水分解されていない画分(主としてリグニン)の処理は、高い投下資本を必要とし、かつ多大なエネルギーを消費する(文献1参照)。
【0011】
例えば、パルプおよび紙を製造する目的で、リグノセルロースを分画するために、蟻酸および酢酸等の有機酸を使用することは公知である(文献4〜9参照)。この場合、原料物質であるセルロースおよびヘミセルロースの一部は、該パルプ画分中に残され、一方でリグニンおよびヘミセルロースの残部は、蒸解液中に溶解する。漂白を簡略化するために、リグニンの縮合を開始することなしに、できる限り注意して、該パルプからリグニンを除去する試みがなされている。ヘミセルロースが該パルプ中に残され、またこれらは該パルプの製紙特性を改善する(文献12参照)。パルプ製造化学物質としてのエタノールの、対応する用途は公知であり(文献10参照)、またエタノールは、糖類および更にはエタノールを、リグノセルロースから製造する場合の、予備処理用化学物質として使用することができる(文献11参照)。
【発明の概要】
【0012】
ところで、予想外のことに、まず、有機酸を含有する試薬でリグノセルロース-含有バイオマスを選択的に分画する工程を含む方法によって、水溶性糖製品が、該バイオマスから有利に製造できることを見出した。この方法は、改善された加水分解性を持つ固体炭水化物製品を与え、次に該固体炭水化物製品は、酵素学的に加水分解されて、水溶性のオリゴ糖および単糖類、例えばグルコースを与える。中間体として得られる該固体炭水化物製品の諸特性は、製紙用に作られるパルプの特性とは異なっているが、これは、グルコースおよび、更にはエタノールまたはその他の化学物質製造用の原料物質として極めて適したものである。該炭水化物画分を、上記の分画処理に続く工程において、有機酸を含む試薬による更なる処理に付すことにより、該炭水化物画分の加水分解性を更に改善することができる。
【0013】
バイオマスを本発明において記載する方法で分画する場合、該バイオマスの含有するリグニンおよびヘミセルロースは、主として、この分画において使用する酸混合物中に溶解する。蒸煮用の有機酸は、簡単に、公知の方法により、この混合物から除去することができ、またフルフラール、酢酸、蟻酸、化学物質およびバイオ燃料を、該リグニンおよびヘミセルロースから製造することができる。優れた炭水化物画分の製造を伴う、有機酸の簡単な回収と、該化学物質の製造との組合せは、極めて生産性の良いバイオリファイニングをもたらす。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、リグノセルロース-含有バイオマスから、グルコース等の糖類を製造する方法に関する。本発明の方法は、(A) 該バイオマスを、1種またはそれ以上の有機酸を含有する試薬で処理し、改善された加水分解性を持つ固体炭水化物画分、および該バイオマスから溶解された有機物質および使用済みの有機酸を含有する、1または複数の画分を生成する工程;および(B) 得られた該固体炭水化物画分の少なくとも一部を、酵素を使用して、水溶性の単糖類及びオリゴ糖に加水分解して、糖製品を製造する工程によって特徴付けられる。該工程(A)の処理後、この方法は、従来の分離工程を含み、そこで該固体炭水化物製品は、得られた他の画分から分離される。
【0015】
本発明の方法の出発物質として使用する該バイオマスは、任意のリグノセルロース-含有植物材料であり得る。該植物材料は、木質材料、例えば針葉樹または落葉樹材料であり得る。これは、また茎のあるイネ科植物(grass-stemmed plants)の繊維(イネ科植物繊維)、靭皮繊維、葉の繊維または果実の繊維を主成分とする非-木質材料であってもよい。茎のあるイネ科植物を主成分とする適当な材料の例は、藁、例えば穀類(小麦、ライ麦、カラスムギ、大麦、米)の藁、ヨシ、例えばクサヨシ、ヨシ(common reed)、パピルス、サトウキビ、即ちバガス、竹、および草本類、例えばエスパルト、サバイ(sabai)およびレモングラスを含む。靭皮繊維の例は、アマ、例えばアマ(common flax)の茎およびオイルアマ(oil flax)の茎、大麻、東インド大麻、ケナフ、ジュート、ラミー、カジノキ、ガンピ繊維およびミツマタ繊維を包含する。葉の繊維の例は、特にアバカおよびサイザル麻を含む。果実繊維の例は、綿種子毛、綿種子の表皮繊維(リンター)、カポック、およびココナッツ外皮繊維を含む。
【0016】
本発明において有用な、またフィンランドにおいて生育している茎のあるイネ科植物としては、以下のようなものを挙げることができる:ヨシ(common reed)、クサヨシ、チモシー、カモガヤ、セイヨウエビラハギ、イネ科スズメノチャヒキ属植物(smooth brome)、イネ科ウシノケグサ属植物(red fescue)、シロバナシナガワハギ、アカツメクサ、ナンバンクサフジ属植物(goat's rue)およびアルファルファ。
【0017】
茎のあるイネ科植物を主成分とするバイオマス、例えば穀類藁が、特に有利に使用される。一態様においては、一年生の茎のあるイネ科植物を主成分とするバイオマスを使用する。他の態様においては、多年生の非-木本型の植物を主成分とするバイオマスを使用する。本発明によれば、とりわけ上記の穀類藁を含む農業廃棄物質を使用することも可能である。
【0018】
上記工程(A)の処理においては、蟻酸、酢酸および/またはプロピオン酸等の有機酸を主成分とする試薬を使用する。蟻酸および/または酢酸を含む試薬が好ましく使用される。蟻酸を含む試薬が、特に好ましく使用される。蟻酸および酢酸の量は、0〜95%なる範囲内で変えることができる。蟻酸および酢酸に加えて、該試薬は、典型的には水を、典型的には5〜50%なる範囲にて含む。好ましい一態様によれば、該処理試薬は、60%未満の酢酸を含み、その残部は蟻酸および水である。もう一つの好ましい態様においては、該処理試薬は、60%未満の酢酸、および少なくとも20%、典型的には40〜95%の蟻酸を含む。更に別の一態様において、該処理試薬は、40%未満の酢酸および少なくとも40%の蟻酸を含む。
【0019】
所望により、その他の酸、例えば硫酸または塩酸または有機パーオキシド酸等を使用することも可能である。
【0020】
上記工程(A)の処理温度は、典型的には60〜220℃なる範囲内にある。好ましい一態様において、該温度は100〜180℃なる範囲、例えば130〜170℃なる範囲内にある。該工程の処理期間は、5分〜10時間なる範囲、典型的には15分〜4時間なる範囲内であり得る。
【0021】
本発明の方法の工程(A)においては、改善された加水分解性を持つ固体炭水化物画分が得られ、またこれは、製紙用に作られた従来のパルプと比較して、より迅速にかつより少量の酵素を用いて、水溶性の糖類に加水分解されることが分かった。
【0022】
本発明の方法の工程(A)において得た該固体炭水化物画分の炭水化物は、主として(典型的には、少なくとも80%の)、グルコースおよび他のヘキソースによって形成された単位で構成される多糖類、および更に好ましくは10%未満、例えば5%未満のペントース単位で構成される多糖類を含む。これらペントースは、典型的には主としてキシロースおよびアラビノースである。該炭水化物画分は、繊維質物質および非-繊維質物質両者を含む。
【0023】
本発明の方法の工程(A)において得た該固体炭水化物画分のリグニン含有率は低く、即ちそのカッパー価は、典型的には50未満である。
【0024】
本発明の方法の分画工程(A)においては、1または複数の画分も得られ、該画分は、該バイオマスから溶出する有機物質および該処理において使用した有機酸を含む。該バイオマスから溶出する有機物質は、典型的にリグニンおよびヘミセルロースの糖類、例えばヘキソースおよびペントースを含む。該分離され、溶解された有機物質は、特に例えばバイオ燃料またはガス化用の原料物質として有用である。
【0025】
得られる該固体炭水化物画分は、得られる他の画分から、例えば該溶出した有機物質から、公知の方法、例えば濾過、洗浄または圧搾処理によって分離される。これらの方法においては、該工程において循環している有機酸またはその混合物を、補助薬剤として使用することができる。該固体炭水化物画分中に残存している該有機酸は、同様な公知の方法で分離することができ、そこでは該分離における該補助薬剤として水を使用することができる。
【0026】
洗浄によって様々な画分を分離する場合、該洗浄は、典型的には例えばまず濃厚な酸で該洗浄を行い、次いで水で洗浄するという、2段階の工程で実施することができる。該第一の洗浄段階で使用する濃厚な酸は、上記分画のために使用したものと同一の酸混合物であり得る。
【0027】
このようにして本発明の方法の工程(B)において得られる該固体炭水化物画分またはこの画分の一部は、酵素を用いた加水分解により、水溶性の単糖類およびオリゴ糖とされ、また所望により更に単糖類に加水分解され、それにより本発明による糖製品が得られる。本発明に関連して、水溶性オリゴ糖とは、短鎖オリゴ糖を意味し、二糖類をも包含する。該酵素学的加水分解は、セルロース-分解酵素、即ちセルラーゼを用いて、それ自体公知の方法で行われる。
【0028】
本発明の糖製品は、例えばグルコース製品であり得る。
【0029】
このようにして得られた該糖製品は、様々な工業用化学物質の製造用原料物質として有用である。
【0030】
本発明の一態様において、このようにして得られた該糖製品は、それ自体公知の方法で醗酵処理に掛けられて、エタノールとされる。この醗酵は、例えば以下のようにして実施することができる:該糖製品を、醗酵器に水性溶液として供給し、そこで酵母:サッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)により、該可溶性糖類が、エタノールおよび二酸化炭素に転化される。該醗酵器内での滞留時間は、典型的には48時間であり、また醗酵温度は32℃である。
【0031】
上記分離に関連して、該炭水化物画分は、有機酸の混合物と共に懸濁状態にあってもよい。この混合物の全体的な酸濃度は、0〜98%なる範囲内で変えることができるが、該懸濁液は、事実上如何なる溶解した有機物質を含むことはない。このような懸濁液を反応させることができ、それにより該炭水化物画分の多糖類は、一層容易に加水分解し得る形状に転化されるが、該多糖類はそれ以上反応してオリゴ糖または単糖類に転化されることはなく、または溶解することはない。同時に、エステルとして該固体炭水化物画分と化学的に結合した該有機酸は、該炭水化物画分から遊離する。エステルとして結合していた酸の遊離は、該方法の酸損失量を大幅に減じる。該懸濁液は、少量の溶解有機物質のみを含むので、事実上、この処理中に、上記酵素を用いた加水分解および醗酵操作を煩雑にする恐れのある、フルフラールまたはヒドロキシメチルフルフラール等の分解生成物を発生することがない。
【0032】
このように、本発明の方法に従って、上記工程(A)において得られた該炭水化物画分の処理を継続して、該固体炭水化物画分の処理を更に単純化することができ、また幾分かの多糖類が反応して、水溶性のオリゴ糖および単糖類を与える。
【0033】
従って、本発明の追加の一態様において、該方法は1またはそれ以上の更なる工程をも含むことができ、ここで該固体炭水化物画分は、1種またはそれ以上の有機酸を含む試薬で更に処理され、結果として更に処理された炭水化物画分、使用済み有機酸を含有する1またはそれ以上の画分および事によれば溶解した有機物質を含有する画分が得られる。この更なる処理において使用する該試薬は、上記第一の分画工程において使用したものと同一であり得る。この更なる処理においては、該処理すべき反応混合物を、典型的に60〜220℃なる範囲の温度にて加熱する。その処理時間は、1分〜72時間なる範囲内であり得る。次いで、このようにして得た該更に処理された炭水化物画分を、該使用済み有機酸を含有する画分から分離する。
【0034】
該更なる処理は、例えば以下の様な条件下で行うことができる:処理試薬:1〜50%の蟻酸を含む蟻酸混合物;処理温度:100〜180℃;滞留時間:10分〜24時間;反応混合物の固形分含有率:2〜40%。
【0035】
該更なる処理は、前記工程(A)の完了後に、該分画工程において得られた画分を相互に分離する前に、あるいは該画分の分離と同時に、または該分離の後に行われる。一態様において、該更なる処理は、第一の洗浄段階において、該得られた炭水化物画分に濃厚な洗浄用の酸を添加することにより、該画分の2-段階分離操作と共に行って、該炭水化物画分および該洗浄用の酸で構成される懸濁液を生成し、該懸濁液の温度を60〜220℃まで高め、該懸濁液を、この温度にて、例えば10分〜24時間に渡り反応させ、次いで該更に処理された炭水化物画分を、第二の洗浄段階において水で洗浄する。該濃厚な洗浄用の酸は、上記第一の分画工程において使用したものと同一の酸混合物であり得る。
【0036】
本発明の一態様において、該更なる処理は、90%を越える該固体炭水化物画分が、固体状態を維持する様な条件下で行われる。このような条件は、例えば以下のようなものであり得る:処理試薬:1〜50%の蟻酸を含む蟻酸混合物;処理温度:100〜160℃;滞留時間:10分〜4時間;反応混合物の固形分含有率:2〜40%。
【0037】
本発明のもう一つの態様において、該更なる処理は、以下の様な条件下で行われる。即ち、10%を越える、該固体炭水化物画分の多糖類が反応して、水溶性の単糖類およびオリゴ糖を与え、結果として更に処理された固体炭水化物画分、および水溶性の単糖類およびオリゴ糖並びに使用済み有機酸を含有する1またはそれ以上の画分を与える様な条件下で行われる。このような条件は、例えば以下のようなものであり得る:処理試薬:1〜50%の蟻酸を含む蟻酸混合物;処理温度:130〜180℃;滞留時間:1〜8時間;反応混合物の固形分含有率:2〜40%。
【0038】
該更なる処理から得られる画分は、次に濾過、洗浄または圧搾処理等の上記した公知の方法により、相互に分離される。
【0039】
このようにして得られた、また水溶性の単糖類及びオリゴ糖および有機酸を含む該画分は、水溶性の単糖類およびオリゴ糖を含む画分および使用済み有機酸を含む画分へと、更に分画処理することができる。有機酸は容易に気化し得るので、この分離は、蒸発等の熱的分離操作によって、適切に行うことができる。
【0040】
次いで、該更に処理された固体炭水化物画分を、上記段階(B)において、酵素を用いた加水分解により、上記と同様な方法で水溶性の単糖類およびオリゴ糖に転化する。この更なる処理から得られ、また水溶性の単糖類及びオリゴ糖を含有する該濃厚な糖画分は、必ずしも酵素学的な加水分解を必要としないが、品質改善の目的でそのまま使用することができる。あるいはまた、該濃厚糖画分を更に加水分解して、単糖類とすることもできる。該加水分解された単糖類およびオリゴ糖は、例えばエタノールへと、更に品質改善することができる。
【0041】
該更なる処理から得られた該オリゴ糖および単糖類製品は、また上記と同様な方法で、様々な工業用化学物質を製造するための原料物質としても有用である。本発明の一態様において、該オリゴ糖および単糖類は、加水分解して、エタノールとされる。
【0042】
該使用済みの有機酸および洗浄濾液は、回収され、かつ精製される。この方法では、酢酸およびフルフラールも生成される可能性があり、これらは分離され、また工業用製品として役立つ。
【0043】
上記工程(A)と(B)との間において、本発明の方法は、また該工程(A)において得られた該炭水化物画分中の繊維質および非-繊維質物質を相互に分離して、繊維質物質を含む画分および非-繊維質物質を含む画分を得るような、一段階をも含むことができる。本発明の一態様において、該工程(B)の酵素を用いた加水分解は、これら画分の一方についてのみ行われる。
【0044】
該工程(A)に先立って、本発明の方法は、また該洗浄用試薬として使用された該有機酸を、該処理すべきバイオマス中に吸収させる一工程を含むこともできる。
【0045】
該炭水化物画分を、有機酸の混合物で処理する場合、そのヘミセルロース成分は、セルロース成分よりも一層容易に加水分解される。本発明の方法によれば、該セルロースを事実上全く加水分解することなしに、該ヘミセルロースを加水分解することができる。加水分解されたヘミセルロースは、オリゴ糖および単糖類として溶解する。これらを洗浄濾液から回収し、例えばフルフラール製造用の原料として使用することができる。
【0046】
実際の一態様において、本発明の方法は、典型的には以下の諸工程を含む:有機酸混合物によるバイオマスの処理;得られる固体炭水化物画分からの、溶解した物質の分離;水で洗浄することによる、該固体炭水化物画分からの、蒸解用酸の分離;該炭水化物画分の酵素を用いた加水分解;加水分解生成物として得たグルコースおよびオリゴ糖の醗酵および醗酵生成物(エタノール)の分離;洗浄用酸の分離;該洗浄用酸および水の精製;この方法において生成した化学物質、例えば酢酸およびフルフラールの回収;および溶解した有機物質の回収。
【0047】
実際の一態様において、該固体炭水化物画分からの蒸解用酸の分離は、二段階の洗浄工程を含み、これら洗浄段階の間に、該炭水化物画分を含む混合物を加熱する。もう一つの実際の態様において、該蒸解用酸の一部を、まず洗浄により分離し、次いで該炭水化物画分を含む混合物を、該糖の一部が溶解する条件下で加熱し、引続き洗浄により残留する該酸および該溶解した糖類を分離し、かつ最終的に蒸発により該溶解した糖類を分離する。
【0048】
該蒸解用酸の分離に関連する、第三の実際の態様においては、該酸の一部をまず洗浄により分離し、次いで該炭水化物画分を含む混合物を加熱し、洗浄により該蒸解用酸および溶解したペントサンを分離し、蒸発により該溶解した糖類を分離し、このようにして得た該固体炭水化物画分を、該糖類の一部が溶解する条件下で加熱し、また最終的に洗浄により、残留する該蒸解用酸および該溶解した糖類を分離する。
【0049】
以下において、本発明を、例示的であるが限定的でない実施例によって説明する。以下の実施例および明細書の記載全体および特許請求の範囲において、百分率の意味は、特に述べない限り質量%(w-%)である。
【実施例1】
【0050】
3回に渡る分画A、BおよびCを、出発物質として小麦麦藁を使用し、有機酸を用いて実施した。
【0051】
ペントサンの含有率およびリグニンの含有率(カッパー価)は、これらの分画操作により得られた固体炭水化物画分について測定した。これら様々な画分の酵素を用いた加水分解性を、60 FPU[フィルタペーパー単位(Filter Paper Unit')]なるセルラーゼ用量を用いて比較した。使用した該セルラーゼ酵素は、市販のセルラーゼGC 200(製造元:ジェネンコール(Genencor))であった。加水分解生成物、即ちグルコースの収量は、以下のようにして算出した:(1) サンプルのセルロース含有率を、そのカッパー価、ペントサン含有率および灰分含有率に基いて見積もり;(2) 該酵素を用いた加水分解から得られたグルコースの量を該見積もられたセルロース含有率で割り;および(3) 得られた比と、セルロース単位対該グルコースのモル質量比(162/180)とを掛合せた。
該分画条件および分画の結果を以下の表に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
これらの結果から、得られた炭水化物画分の加水分解性は、該分画条件によって影響される可能性があるという、結論を導くことができる。同様に、炭水化物画分BおよびCは、該画分Aと比較して、これらのペントサン含有率が低く、またリグニン含有率が高いことから、パルプとして使用するにはあまり適していないことが分かった。より高いリグニン含有率は、部分的には、該溶解したリグニンの縮合によって、リグニンが該固体画分に戻された結果である。
【0054】
該炭水化物画分BおよびCは、元のバイオマスに対して、少量のペントサン類およびリグニンのみを含んでおり、また結果としてこれらは、酵素を用いた加水分解に対して極めて適しており、また更に醗酵させてエタノールとするのに極めて適したものである。
【実施例2】
【0055】
実施例1の該炭水化物画分Bを、更に、10質量%の蟻酸および90質量%の水を含む酸混合物で、130℃にて90分間処理した。この処理の開始時点において、該懸濁液は、7.5%の固形分を含んでいた。
【0056】
この処理前後における、結合した酸の含有率を測定した。該炭水化物画分の酵素学的加水分解性を比較した(酵素用量:60 FPU)。
得られた結果を以下の表に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
更なる処理によって、該加水分解性は改善され、かつ事実上該炭水化物画分を全く加水分解することなしに、遊離結合酸の量が増大するという結論を導くことができる。
【実施例3】
【0059】
実施例1の炭水化物画分Bを、更に、30質量%の蟻酸および70質量%の水を含む酸混合物で、160℃なる温度にて、90分間処理した。この処理の開始時点において、該懸濁液は7.5%の固形分を含んでいた。
該炭水化物画分の酵素学的な加水分解性を、比較した(酵素用量:60 FPU)。該懸濁液液状部分の、グルコースおよびヒドロキシメチルフルフラールの含有率を測定した。これら成分は、酸性条件下での、グルコースの主な分解生成物である。
【0060】
【表3】

【0061】
該更なる処理において、該固体炭水化物画分の23%が反応して、可溶性形状のものとなった。
【0062】
この実験から、分解反応によるグルコースの事実上の如何なる損失もなしに、更なる処理によって、該画分の加水分解性を更に改善できるという結論を導くことができる。溶解した物質は、主に、グルコース単位(例えば、セロビオース)により生成されるグルコースおよびオリゴ糖である。
【実施例4】
【0063】
実施例1の炭水化物画分Cを、更に、30質量%の蟻酸および70質量%の水を含む酸混合物で、130℃にて180分間処理した。この処理の開始時点において、この懸濁液は、7.5%の固形分を含んでいた。
【0064】
該炭水化物画分の酵素学的加水分解性を比較した(酵素用量:15 FPU)。
得られた結果を、以下の表に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
この更なる処理によって、該画分の加水分解性を改善することができ、また酵素を用いた加水分解が、低い酵素容量においても迅速に機能し、即ち該処理後に、該炭水化物が容易に加水分解し得る形状になるという結論を導くことができる。
【実施例5】
【0067】
実施例1の炭水化物画分Bを、更に、30質量%の蟻酸および70質量%の水を含む酸混合物で、160℃にて30分間処理した。この処理の開始時点において、この懸濁液は、7.5%の固形分を含んでいた。この処理後、該懸濁液の液状部分は、1.7g/Lのキシロースおよび0.6 g/Lのグルコースを含んでいた。結局、事実上該画分のグルコース部分を全く加水分解することなしに、該炭水化物画分の含有するキシランを加水分解して、キシロースとすることができる。
【実施例6】
【0068】
微細物質を、ススキ(Miscanthus sinensis)から製造した未漂白のパルプから分離し、以下のような条件下にて酸混合物中で処理した:即ち、80質量%の蟻酸および20質量%の水;処理温度:160℃;および反応時間:240分なる条件下で処理した。即ち、これらの条件は、実施例3で使用した条件よりも明らかに過酷なものであるが、僅かに7%の該固体炭水化物画分が反応して、可溶性形状のものとなった。従って、該微細物質の加水分解は、実施例3の炭水化物画分の加水分解よりも、より一層困難であった。即ち、様々な固体炭水化物画分が、酸処理において、極めて多彩な様式で反応する。
【0069】
文献
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7. WO 03/006737 A1 (published 23 January 2003), Rousu E., Rousu P., Anttila J. & Rousu, P., Process for producing pulp.
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10. US patent 5 681 427 (published 28 October 1997), Lora J.H., Maley, P., Greenwood, F., Phillips, J.R., Lebel, D.J., Apparatus for treating pulp produced by solvent pulping.
11. Pan, X., Gilkes, N., Kadl, J., Pye, K., Saka, S., Gregg, D., Ehara, K., Xie, D., Lam, D. & Saddler, J., Bioconversion of hybrid poplar to ethanol and co-products using an organosolv fractionation process: Optimization of process yields, Biotechnology and Bioengineering 94(5): 851-861, 2006.
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース-含有バイオマスから糖類を製造する方法であって、
(A) 該バイオマスを、1種またはそれ以上の有機酸を含有する試薬で処理し、改善された加水分解性を持つ固体炭水化物画分、および該バイオマスから溶解された有機物質および使用済みの有機酸を含有する、1または複数の画分を生成する工程;および
(B) 得られた該固体炭水化物画分の少なくとも一部を、酵素を使用して、水溶性の単糖類及びオリゴ糖に加水分解して、糖製品を製造する工程、
を含むことを特徴とする、前記糖類の製造方法。
【請求項2】
前記工程(A)の前記処理試薬が、蟻酸および/または酢酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記工程(A)における処理温度が、60〜220℃なる範囲にある、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記工程(A)から得られる前記固体炭水化物画分が、主として、グルコース単位で構成される多糖類、および更に、10%未満の、ペントース単位で構成される多糖類を含む、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(A)から得られる前記固体炭水化物画分が、繊維質物質および非-繊維質物質を含む、請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(A)の前記処理試薬が、60%未満の酢酸を含み、残部が蟻酸および水である、請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記蟻酸の量が、少なくとも20%である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記工程(A)における処理温度が、100〜180℃なる範囲にある、請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、更に前記工程(A)と(B)との間に、1またはそれ以上の工程を含み、該工程においては、該工程(A)の前記固体炭水化物画分を、更に1種またはそれ以上の有機酸を含む試薬で処理して、更に処理された固体炭水化物画分、使用した該有機酸を含む1または複数の画分、およびことによっては溶解した有機物質を含有する画分を生成し、その後該得られる更に処理された固体炭水化物画分を、前記工程(B)に従って、酵素を用いた加水分解処理に付して、糖製品を生成する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
90%を越える前記固体炭水化物画分が、固体状態に維持される条件下で、前記の更なる処理を行う、請求項9記載の方法。
【請求項11】
10%を越える前記固体炭水化物画分の前記多糖類が反応して、水溶性の単糖類及びオリゴ糖になる条件下で、前記の更なる処理を行って、更に処理された固体炭水化物画分および水溶性オリゴ糖および多糖類および使用済み有機酸を含有する1種またはそれ以上の画分を生成する、請求項9記載の方法。
【請求項12】
水溶性の単糖類及びオリゴ糖および使用済みの酸を含有する1種またはそれ以上の前記画分を分画して、糖製品として、水溶性の単糖類及びオリゴ糖を含有する画分および使用済みの有機酸を含有する画分を製造する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記処理の温度が、60〜220℃なる範囲にある、請求項9記載の方法。
【請求項14】
前記固体炭水化物画分および/または前記水溶性の単糖類及びオリゴ糖を含有する画分を、酵素を用いて、水溶性の単糖類及びオリゴ糖、または単糖類に加水分解して、糖製品を生成する、請求項11または12記載の方法。
【請求項15】
得られる前記糖製品を醗酵させて、エタノールを得る、請求項1、9、12または14記載の方法。
【請求項16】
前記使用済みの有機酸を回収する、請求項1、9、11または12記載の方法。
【請求項17】
前記溶解した有機物質を回収する、請求項1または9記載の方法。
【請求項18】
前記方法が、更に、前記工程(A)と(B)との間に、繊維質物質と非-繊維質物質とを夫々から分離し、繊維質物質を含む画分および非-繊維質物質含む画分を生成する工程をも含む、請求項1および5に記載の方法。
【請求項19】
前記工程(B)に従う前記酵素を用いる加水分解を、前記分離された画分の一つのみについて行う、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記方法が、更に、前記工程(A)に先立って、蒸煮用試薬として使用された前記有機酸を、前記バイオマス内に吸収させる工程をも含む、請求項1記載の方法。

【公表番号】特表2011−504098(P2011−504098A)
【公表日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532632(P2010−532632)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050639
【国際公開番号】WO2009/060126
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(510108548)
【Fターム(参考)】