説明

糸巻取装置及び糸巻取方法

【課題】トラバース装置によって糸を綾振りしながらボビンに巻き取る糸巻取装置において、リボンを有効に防止できるとともに、糸解舒時の糸切れ(ラッチング)の生じにくいパッケージを形成できる構成を提供する。
【解決手段】重なりの強いリボンが発生する危険ワインド数に接近するまでは、通常の巻取綾角WA1を含む所定範囲内に綾角を維持しつつ巻き取る(ステッププレシジョン巻)。そして、パッケージ径の増大に伴ってワインド数が前記危険ワインド数に接近すると、綾角が上記範囲から減少側に外れて小さい綾角WA2となるように、トラバース速度を急減少させる。そして、当該小さくなった一定の綾角WA2を含む所定範囲内に綾角を維持しつつ巻き取り、その後、トラバース速度を急増大させて、前記危険ワインド数を飛び越えて元の綾角WA1側に戻すように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラバース装置によって紡績糸を綾振りしながらボビンに巻き取る糸巻取装置及び糸巻取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、トラバース装置によって糸を綾振りしながらボビンに巻取る糸巻取装置において、一定の綾角で巻き取る第1工程と、大きなリボンが発生する危険ワインド数に至る直前の時点で綾角を大きくするトラバースジャンプによって危険ワインド数を瞬時に通過する第2工程と、トラバースジャンプ後の綾角から第1工程での綾角に徐々に戻す第3工程とを含んでなるトラバース制御方法を開示する。
【0003】
特許文献1は、タッチローラの振動や糸の解舒性低下等を引き起こすリボンの発生をトラバースジャンプにより回避できるとともに、上記のように第3工程でトラバースジャンプ後の大きな綾角から元の綾角へ徐々に戻すことによって、綾落ちがしにくくなるとする。
【特許文献1】特開平9−71368号公報(要約など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の方法は、合成繊維フィラメント糸には適するが、紡績糸においては、第2工程のトラバースジャンプ後に糸の緩みが生じ易く、糸解舒時の糸切れ(ラッチング)の起こり易いパッケージとなってしまっていた。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、紡績糸の巻取りにおいて、リボンを有効に防止できるとともに、ラッチングの生じにくいパッケージを形成できる糸巻取装置及び糸巻取方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の第1の観点によれば、以下のような、糸巻取方法が提供される。即ち、紡績糸を綾振りしながら巻取ボビンを回転させて前記糸を前記巻取ボビンに巻取るとともに、前記糸の巻取中に綾角を変化させながら綾角が所定範囲内に維持されるように前記トラバース速度を制御する。パッケージ径の増大に伴ってワインド数が危険ワインド数に近づくと、綾角を前記所定範囲から減少側へ急激に外すように変化させることで、ワインド数が危険ワインド数になることを避けるようにトラバース速度を制御する。ここで、危険ワインド数とは、リボン巻が発生するワインド数のことであり、特に、解舒性等に極めて影響を及ぼすワインド数を意味する。また、紡績糸とは、多数の短い繊維を撚って形成した糸のことである。
【0008】
この方法により、危険ワインド数を避けて、リボン巻を防止することができる。また、前記綾角を所定範囲内から減少側へ急激に外すように変化させるので、糸層の密度低下を防止し、糸の緩みによる解舒時のラッチングを防止することができる。また、所定範囲内から減少側へ綾角を急激に外すようにトラバース速度を制御するので、危険ワインド数近傍のワインド数で長い期間巻くことを防止できるから、糸の緩みの進行を回避でき、この意味でもラッチングを防止することができる。
【0009】
前記の糸巻取方法においては、綾角を前記所定範囲内から減少側へ急激に外すように変化させた後、変化後の綾角が減少側の所定範囲内に維持されるように前記トラバース速度を制御し、その後、前記危険ワインド数を飛び越えるように、綾角を再び元の所定範囲内へ急激に戻すようにトラバース速度を制御することが好ましい。
【0010】
この方法により、通常の巻取綾角の所定範囲から減少側へ外すように急激に変化させ、再び元の所定範囲内へ急激に戻すという制御により、危険ワインド数を瞬時に通過し、リボン巻を確実に防止することができる。
【0011】
本発明の第2の観点によれば、以下のように構成する、糸巻取装置が提供される。即ち、紡績糸を巻き取るための巻取ボビンを回転駆動するための巻取ボビン回転駆動モータと、前記巻取ボビンへの糸の巻取りの際にその糸を綾振るためのトラバース装置と、を備える。前記トラバース装置は、糸と係合して糸を綾振りさせるためのトラバースガイドと、前記巻取ボビン回転駆動モータとは切り離されて駆動し、前記トラバースガイドを移動させるためのトラバースガイド駆動モータと、を有する。更に、糸巻取装置は、綾角を変化させながら綾角が所定範囲内に維持されるように前記トラバースガイド駆動モータを制御するトラバース制御装置を備える。前記トラバース制御装置はトラバース速度急減少手段を備える。このトラバース速度急減少手段は、パッケージ径の増大に伴ってワインド数が危険ワインド数に近づくと、ワインド数が危険ワインド数になることを避けるように、綾角が前記所定範囲から減少側へ外れるように変化させるようにトラバースガイド駆動モータを制御する。
【0012】
この構成により、危険ワインド数を避けて、リボン巻を防止することができる。また、前記綾角を所定範囲内から減少側へ急激に外すようにトラバース速度急減少手段によって変化させるので、糸層の密度低下を防止し、糸の緩みによる解舒時のラッチングを防止することができる。またトラバース速度急減少手段により、所定範囲内から減少側へ綾角を急激に外すようにトラバースガイド駆動モータを制御するので、危険ワインド数近傍のワインド数で長い期間巻くことを防止して糸の緩みの進行を回避でき、この意味でもラッチングを防止することができる。
【0013】
前記の糸巻取装置においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記トラバース制御装置はトラバース速度急増大手段を備える。前記トラバース速度急増大手段は、前記トラバース速度急減少手段による綾角の変化の後、前記危険ワインド数を飛び越えるように、かつ綾角を再び元の所定範囲内へ戻すように前記トラバースガイド駆動モータを制御する。
【0014】
このように、通常の巻取綾角の所定範囲から減少側へ外すようにトラバース速度急減少手段によって綾角を変化させ、更に綾角をトラバース速度急増大手段によって再び元の所定範囲内へ戻すことにより、危険ワインド数を瞬時に通過し、リボン巻を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る自動ワインダの糸巻取ユニットを示す正面模式図及びブロック図である。
【0016】
最初に図1に基づいて、自動ワインダ1の糸巻取ユニット(糸巻取装置)2を説明する。この糸巻取ユニット2は、給糸ボビン3からの紡績糸4(以下、単に「糸」という)を、トラバース装置5でトラバースさせながら巻取チューブ6に巻き取って糸層を形成し、所定長で所定形状のパッケージ7を形成するものである。図1では糸巻取ユニット2を1台しか図示していないが、このような糸巻取ユニット2が図略の機台上に多数列設されることで、自動ワインダ1が構成されている。
【0017】
なお本明細書では、巻取チューブ6及びパッケージ7を総称して巻取ボビンと呼ぶ。即ち、糸層が形成されていない巻取ボビンが巻取チューブ6であり、糸層が形成された巻取ボビンがパッケージ7である。
【0018】
糸巻取ユニット2は、前記巻取チューブ6を着脱可能に支持するクレードル8と、巻取チューブ6の周面に又は前記パッケージ7の周面に接触して従動回転可能な接触ローラ9と、を備えている。前記クレードル8は、前記巻取ボビン6の両端を挟持して回転自在に支持できるように構成されている。また、このクレードル8は揺動軸10を中心に傾動自在に構成されており、巻取ボビン6,7への糸4の巻取りに伴う巻太り(糸層の径の増大)を、クレードル8が揺動することによって吸収できるように構成されている。
【0019】
前記クレードル8の巻取チューブ6を挟持する部分にはパッケージ駆動モータ(巻取ボビン回転駆動モータ)41が取り付けられており、このパッケージ駆動モータ41により巻取チューブ6を積極的に回転駆動して糸4を巻き取るように構成されている。パッケージ駆動モータ41のモータ軸は、巻取チューブ6をクレードル8に把持させたときに、当該巻取チューブ6と相対回転不能に連結されるようになっている(いわゆるダイレクトドライブ方式)。このパッケージ駆動モータ41の作動はパッケージ駆動制御部42により制御され、このパッケージ駆動制御部42はユニット制御部50からの信号を受けて前記パッケージ駆動モータ41の運転/停止を制御するように構成している。
【0020】
また、前記クレードル8にはパッケージ回転速度センサ(回転速度センサ)43が取り付けられており、このパッケージ回転速度センサ43は、クレードル8に取り付けられた巻取ボビン6,7の回転速度(巻取チューブ6に形成された糸層7の回転速度)を検出するように構成している。この巻取ボビン6,7の回転速度検出信号は、パッケージ回転速度センサ43から、前記パッケージ駆動制御部42や前記ユニット制御部50へ送信される。更に、前記回転速度検出信号は、後述するトラバース制御部46へも入力される。
【0021】
また、前記クレードル8にはロータリエンコーダ等からなるパッケージ径センサ(径センサ)44が取り付けられており、このパッケージ径センサ44は、クレードル8に取り付けられた巻取チューブ6に糸4を巻き取って形成される糸層(パッケージ7)の径を、クレードル8の揺動角を検出することで検知できるように構成されている。パッケージ径センサ44で取得された糸層7の径は、ユニット制御部50へ送信されるとともに、ユニット制御部50からパッケージ駆動制御部42へ転送される。
【0022】
前記接触ローラ9の近傍には前記トラバース装置5が設けられており、このトラバース装置5によって、糸4が綾振りされながらパッケージ7に巻き取られるようになっている。このトラバース装置5は、トラバース方向に往復移動自在に設けられたトラバースガイド(糸ガイド)11と、このトラバースガイド11を往復駆動するトラバースガイド駆動モータ45と、を備えている。
【0023】
前記トラバース装置5は、支軸まわりに旋回可能に構成した細長状のアーム部材13の先端に前記トラバースガイド11をフック状に設けるとともに、このアーム部材13を前記トラバースガイド駆動モータ45により図1の矢印のように往復旋回駆動させる構成になっている。本実施形態において前記トラバースガイド駆動モータ45はボイスコイルモータで構成されている。
【0024】
このトラバースガイド駆動モータ45の作動はトラバース制御部46により制御され、このトラバース制御部46はユニット制御部50からの信号を受けて前記トラバースガイド駆動モータ45の運転/停止を制御するように構成している。また、トラバース装置5はロータリエンコーダ等からなるトラバースセンサ47を備えており、アーム部材13の旋回位置(ひいては、トラバースガイド11の位置)を検出して、位置信号を前記トラバース制御部46へ送信できるように構成されている。
【0025】
なお、本実施形態では図1に示すように、巻取ボビン6,7を駆動するパッケージ駆動モータ41と、トラバースガイド11を駆動するトラバースガイド駆動モータ45とは、別々に設けられており、巻取ボビン6,7とトラバースガイド11とは別個独立に駆動(制御)されるように構成されている。これにより、巻取ボビン6,7へ糸4を巻き取る際に、図3で説明するようなステッププレシジョン巻等の多種多様な巻き方を実現できると同時に、リボン回避のための後述するトラバースジャンプ制御も可能になっている。
【0026】
次に、糸継装置14及びヤーンクリアラ15を説明する。即ち、前記糸巻取ユニット2は、給糸ボビン3と接触ローラ9との間の糸走行経路中に、給糸ボビン3側から順に、糸継装置14とヤーンクリアラ15を配設した構成となっている。
【0027】
糸継装置14は、ヤーンクリアラ15が糸欠陥を検出して行う糸切断時、又は給糸ボビン3から糸の糸解舒中の糸切れ時に、給糸ボビン3側の下糸と、パッケージ7側の上糸とを糸継ぎするように構成されている。
【0028】
また、ヤーンクリアラ15は糸4の太さ欠陥を検出するためのものであって、ヤーンクリアラ15の検出部を通過する糸4の太さを適宜のセンサで検出し、このセンサからの信号をアナライザ23で分析することで、スラブ等の糸欠陥を検出するように構成されている。このヤーンクリアラ15には、糸欠陥を検出した時に直ちに糸4を切断するためのカッタ16が付設されている。
【0029】
糸継装置14の下側と上側には、給糸ボビン3側の下糸を吸引捕捉して案内する下糸捕捉案内手段17と、パッケージ7側の上糸を吸引捕捉して案内する上糸捕捉案内手段20が設けられている。上糸捕捉案内手段20はパイプ状に構成されており、軸21を中心に上下回動可能に設けられるとともに、その先端側にマウス22を設けている。同様に下糸捕捉案内手段17もパイプ状に構成されており、軸18を中心に上下回動可能に設けられるとともに、その先端側には吸引口19を設けている。上糸捕捉案内手段20及び下糸捕捉案内手段17には適宜の負圧源が接続されており、先端のマウス22及び吸引口19に吸引作用を生じさせるようになっている。
【0030】
以上のようにして本実施形態の自動ワインダ1が構成されており、この構成においてトラバース制御装置63は、ユニット制御部50、パッケージ径センサ44、及びトラバース制御部46を少なくとも含んで構成されている。
【0031】
次に、上記の自動ワインダ1の糸巻取ユニット2におけるトラバース制御装置63(トラバース制御部46)での制御について、図2等を参照して説明する。図2はトラバース制御を説明するフローチャート図である。図3は本実施形態のトラバースジャンプ制御の様子を説明する図である。図4は、リボン巻回避のための他の制御を示す比較例を説明する図である。
【0032】
本実施形態において、前記トラバース制御部46はマイクロコンピュータ式に構成されて、図示しない演算手段としてのCPUや、記憶手段としてのROM、RAM等を備えている。また、ユニット制御部50も同様に図略のCPUやROM、RAM等を備えている。
【0033】
トラバース制御部46の前記ROMには、当該トラバース制御部46が備えるCPU等のハードウェアをトラバース速度急減少手段71及びトラバース速度急増大手段72として動作させるための制御ソフトウェアが記憶されている。
【0034】
前記ユニット制御部50は、大きなリボン巻が発生する所定の危険ワインド数を予め上記RAMに記憶できるように構成されている。即ち、ワインド数(1トラバースのボビンの回転数)が所定の値になると、巻かれる糸が同じ場所を通過して重なるリボン巻が発生し、中でもワインド数が小さな値の整数になると、重なりの強いリボン巻が発生する。本実施形態では、このようなワインド数を危険ワインド数と呼び、危険ワインド数をユニット制御部50において予め複数設定しているのである。また、大きなリボン巻には至らないが、小さなリボン巻が発生するワインド数についても、ユニット制御部50において予め複数設定されている(図3に一点鎖線で示すワインド数)。
【0035】
図2のフローを順次説明すると、処理のスタート後は先ずS101で、巻取ボビン6,7に糸4を巻き取っていく。即ち、予め設定された目標巻取速度となるように、巻取ボビン6,7の回転速度を制御すべくパッケージ駆動モータ41を制御する。このときトラバースガイド駆動モータ45側では、糸4が巻き取られる綾角は一定の第1綾角WA1となるように、正確には綾角を変更しつつ当該第1綾角WA1を含む一定範囲内に前記綾角が維持されるように、その綾角(トラバース速度)が制御される。
【0036】
具体的には図3に示すように、糸4が巻き取られる綾角を第1綾角WA1の近傍の所定の範囲内で保つようにしながら、小さなリボン巻を形成するワインド数を避けるように、ワインド数一定→綾角急変(トラバースジャンプ)→ワインド数一定→・・・というように制御の切換を繰り返すようになっている。この制御の方法をステッププレシジョン巻と呼んでいる。この第1綾角WA1は所定の値とされており、通常の巻取綾角として、事前に前記ユニット制御部50のRAMに記憶されている。
【0037】
上記のように、糸が巻き取られる綾角を変化させつつ第1綾角WA1を含む所定範囲内に維持しながら糸4の巻取りを継続すると、パッケージ径が巻太りにより増大するのに伴ってワインド数が増大し、上記の危険ワインド数に徐々に近づく。綾角の観点から言えば、図3に示すように、パッケージ径が巻太りにより増大するのに伴って、危険ワインド数に相当する綾角が緩やかに減少することになる。そしてワインド数が危険ワインド数に一致すると、上述のリボンが発生して、綾落ちや糸解舒不良などの原因になる。
【0038】
この点を考慮し、ユニット制御部50は図2のS102の処理で、パッケージ径センサ44からの信号を基にパッケージ径を取得し、それから現在のワインド数を演算して取得する。そしてS103の処理で、得られた現在ワインド数が上記の危険ワインド数に接近しているかどうかを判定する。
【0039】
現在ワインド数が危険ワインド数近傍には未だ到達していないとS103で判定された場合、S101の処理に戻る。これにより、巻太りによって徐々に変化するワインド数が危険ワインド数に接近するまでは、S101〜S103のループ処理が反復されて、図3に示すように、糸が巻き取られる綾角が変化させられつつ前記第1綾角WA1を含む所定範囲内に維持されながら巻取りを継続することになる。
【0040】
そして、図2のS103の判断で現在ワインド数が危険ワインド数に接近したと判定された場合、S104の処理で、前記の第1綾角WA1を含む所定範囲から綾角減少側へ外れるように、糸が巻き取られる綾角が瞬時に(非連続的に)変更され、当該危険ワインド数を避けるように所謂トラバースジャンプが行われる(図3)。この制御により、前記トラバース速度急減少手段71が実現される。なお、このジャンプ先の小さな第2綾角WA2は、上記の危険ワインド数より綾角小側に存在する危険ワインド数に到達しないように設定される。
【0041】
次に、S105の処理で、糸が巻き取られる綾角が上記のトラバースジャンプ後の小さい綾角WA2で一定となるように、正確には綾角を変更しつつ前記第2綾角WA2を含む一定範囲内に維持されるように、巻取りが継続される。なおこのときも図3に示すように、小さなリボン巻を形成するワインド数を避けるベく、上記のWA2の近傍の所定範囲内で、ワインド数一定→綾角急変→ワインド数一定→・・・というように細かく制御を切り換えるようになっている。即ち、ステッププレシジョン巻が行われる。
【0042】
そして、上記のS102の処理と同様に、現在のパッケージ径をパッケージ径センサ44から取得し、それから現在のワインド数を計算する(S106)。そしてS107で、仮にトラバースジャンプ前の大きな第1綾角WA1に綾角を戻した場合のワインド数を計算し、そのワインド数が上記の危険ワインド数を超えているかどうかを調べる。
【0043】
即ち、大きな第1綾角WA1側から小さい第2綾角WA2側へ危険ワインド数を避けるようにトラバースジャンプし、その小さい第2綾角WA2を含む所定範囲内に綾角を保持しながら巻取りを一定程度継続すると、上記の危険ワインド数に相当する綾角が巻太りに伴い徐々に小さくなって、ついには上記の大きな綾角WA1を下回る状態になる。言い換えれば、小さな綾角WA2側での巻取りに伴い、上記の大きな綾角WA1に相当するワインド数が巻太りに伴って増大し、上記の危険ワインド数を上回る状態になる。
【0044】
S107の処理では、そのような状態になったか否かを判定し、もしそうであればS108の処理で、綾角を大きくする方向に瞬時に(非連続的に)変更するトラバースジャンプを行い、当該危険ワインド数を飛び越えて通過するのである。なお、そのジャンプ先の綾角は、S101で説明した、前記第1綾角WA1を含む所定範囲内とされる。
【0045】
その後は、巻終わりに到達していないことを条件に最初の処理に戻り(S109→S101)、再び、元の大きな第1綾角WA1を含む所定範囲内に綾角を維持しつつ巻取りを継続する。これ以降はS101〜S108の処理が再び同様に行われ、次の大きな危険ワインド数に接近したときは小さな綾角WA2側へトラバースジャンプし、再び大きな綾角WA1側へトラバースジャンプすることによって、その危険ワインド数を瞬時に通過することになる。本実施形態の自動ワインダ1の糸巻取ユニット2は、巻始めからS109の判定で巻終わりが検出されるまで、S101〜S108の処理が繰り返され、大きなリボン巻を形成する複数の危険ワインド数を1つずつトラバースジャンプによって通過しながら糸4を巻取ボビン6,7に巻き取っていく。
【0046】
以上のような制御を行うことによる、上記特許文献1に比較した効果を説明する。即ち、通常の綾角から綾角大側にトラバースジャンプして危険ワインド数を通過する特許文献1の構成は、例えば滑り易く伸縮性の高い合繊フィラメント糸等を巻き取る場合には一定の効果があるものの、紡績糸の巻取時には上記トラバースジャンプ(綾角増大)に伴って糸層の密度が通常よりも小さくなり、糸の物性上の事情から糸の緩みが発生し、糸解舒時の連れ切れ(ラッチング)が発生し易い。
【0047】
一方、本実施形態では図3に示すように、巻取綾角を変更しつつ、ある綾角(第1綾角WA1)の近傍に巻取綾角を維持しながら糸を巻いてゆき、危険ワインド数が接近すると、小さい綾角(第2綾角WA2)となるようにいったんトラバースジャンプし、当該第2綾角WA2の近傍に巻取綾角を維持しながら巻いているうちに前記危険ワインド数に相当する綾角が減少して元の第1綾角WA1より下回った段階で、元の第1綾角WA1側に戻すように再びトラバースジャンプし、これにより危険ワインド数を通過するようになっている。従って、綾角が通常の綾角(第1綾角WA1)よりも大きくならないので、糸層7の密度が部分的に低くなって糸緩みによるラッチングが発生することを防止できるのである。
【0048】
なお、図4の比較例に示すように、当初の第1綾角WA1での巻取中に危険ワインド数に接近した場合には、ワインド数一定を保つようにして徐々に綾角を減少させていくように制御することも考えられ、この場合でもリボン巻を防止することは可能である。しかしながら、図4のようにワインド数一定の期間tが長期間となると、その間はパッケージ径の増大につれて綾角が大から小へ緩やかに変化することとなり、糸層密度は疎から密へ緩やかに変化することとなる。しかも、そのときのワインド数は危険ワインド数近傍であるため、パッケージ周面に糸が形成する菱形格子同士が大きな面積割合で重複する。即ち、密度の低い糸層の上側に密度の高い糸層が次々と直接的に積み重なる形となるため、糸の緩みが一層進行し易い。更には、前記の期間tにおいては危険ワインド数近傍で糸が巻かれるため、パッケージ周面上の糸の間隔が狭く、この意味でも連れ切れ(ラッチング)が起こり易いパッケージになってしまう。
【0049】
一方で、図3の本実施形態の制御では同一ワインド数で長い間巻く期間がないので、上記のラッチングをより確実に防止することができ、パッケージ品質を良好に保つことができるのである。
【0050】
以上に示すように本実施形態の自動ワインダ1の糸巻取ユニット2は、糸を巻き取るための巻取チューブ6を回転駆動するためのパッケージ駆動モータ41と、前記巻取チューブ6への糸の巻取りの際にその糸を綾振るためのトラバース装置5と、を備える。このトラバース装置5は、糸と係合して糸を綾振りさせるためのトラバースガイド11と、前記パッケージ駆動モータ41とは切り離されて駆動し、前記トラバースガイド11を移動させるためのトラバースガイド駆動モータ45と、を有する。更に糸巻取ユニット2は、綾角を変化させながら綾角が前記第1綾角WA1を含む所定範囲内に維持されるように前記トラバースガイド駆動モータ45を制御するトラバース制御装置63を備える。そして、トラバース制御装置63はトラバース速度急減少手段71を備える。このトラバース速度急減少手段71は、パッケージ径の増大に伴ってワインド数が危険ワインド数に近づくと、ワインド数が危険ワインド数になることを避けるように、綾角が前記第1綾角WA1を含む所定範囲から減少側へ外れるように変化させるようにトラバースガイド駆動モータ45を制御する。
【0051】
これにより、危険ワインド数を避けて、リボン巻を防止することができる。また、トラバース速度急減少手段71が、通常の巻取綾角である第1綾角WA1から減少側へ外れるようにトラバース速度を急減少(トラバースジャンプ)するので、糸層の密度低下を防止し、糸の緩みによる解舒時のラッチングを防止することができる。また、綾角小側へのトラバースジャンプをしない図4の比較例と比べても、危険ワインド数近傍のワインド数で長い期間巻くことがないので、糸の緩みが進行しにくく、この意味でもラッチングを防止することができる。
【0052】
また、本実施形態のトラバース制御装置63はトラバース速度急増大手段72を備える。そして、前記トラバース速度急増大手段72は、トラバース速度急減少手段71による綾角の急激な変化の後、前記危険ワインド数を飛び越えるように、綾角を再び第1綾角WA1を含む所定範囲内へ戻すように前記トラバースガイド駆動モータ45を制御する。
【0053】
このように、綾角小側へのトラバースジャンプ→元の綾角へのトラバースジャンプの2つのトラバースジャンプを行うことで、危険ワインド数を瞬時に通過し、リボン巻を確実に防止することができる。
【0054】
なお、トラバース制御装置63を構成するユニット制御部50には、前記危険ワインド数の設定値を記憶可能な記憶手段としてのRAMが備えられているので、糸4が危険ワインド数で巻かれることを確実に回避し、リボン巻を確実に防止できる。
【0055】
なお、以上に開示された構成は一例であって、例えば以下のように変更することができる。
【0056】
小さい綾角WA2側から大きい綾角WA1側へトラバースジャンプするタイミングとしては、危険ワインド数に相当する綾角が上記の綾角WA1側の所定範囲よりも減少側であり、かつ小さい綾角WA2側の所定範囲よりも増大側にあるタイミングであれば、何時でも構わない。ただし図3のように、危険ワインド数に相当する綾角が2つの綾角WA1,WA2の中間値(平均)にほぼ一致したタイミングで綾角を第2綾角WA2側→第1綾角WA1側とトラバースジャンプさせると、制御も簡単で、かつ危険ワインド数を確実に瞬時に通過できる点で好ましい。
【0057】
トラバース装置5は、ボイスコイルモータに構成したトラバースガイド駆動モータ45によってアーム部材13を旋回往復駆動させる構成に代えて、例えば無端状の可撓性のタイミングベルトによりトラバースガイドを往復駆動する構成に変更することができる。また、ドラム状のトラバースカムの外周面にカム溝を斜状に設け、このカム溝にトラバースガイドを係合する構成等、他の構成のトラバース装置に変更することもできる。
【0058】
パッケージ径センサ44が検出した径の信号は、ユニット制御部50を介してトラバース制御部46に転送される構成に代えて、トラバース制御部46に直接入力される構成に変更することができる。
【0059】
図2の制御は、ユニット制御部50で行うことに代えて、例えばトラバース制御部46で行うように変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動ワインダの糸巻取ユニットを示す模式正面図及びブロック図。
【図2】トラバース制御を説明するフローチャート図。
【図3】本実施形態のトラバースジャンプの様子を示すグラフ図。
【図4】比較例におけるトラバースジャンプの様子を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0061】
1 自動ワインダ
2 糸巻取ユニット(糸巻取装置)
4 糸
5 トラバース装置
6 巻取チューブ(空の巻取ボビン)
7 パッケージ(糸層付の巻取ボビン)
11 トラバースガイド
41 パッケージ駆動モータ(巻取ボビン回転駆動モータ)
42 パッケージ駆動制御部
44 パッケージ径センサ
45 トラバースガイド駆動モータ
46 トラバース制御部
50 ユニット制御部
63 トラバース制御装置
71 トラバース速度急減少手段
72 トラバース速度急増大手段
WA1、WA2 綾角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡績糸を綾振りしながら巻取ボビンを回転させて前記糸を前記巻取ボビンに巻取るとともに、前記糸の巻取中に綾角を変化させながら綾角が所定範囲内に維持されるように前記トラバース速度を制御する糸巻取方法において、
パッケージ径の増大に伴ってワインド数が危険ワインド数に近づくと、綾角を前記所定範囲から減少側へ急激に外すように変化させることで、ワインド数が危険ワインド数になることを避けるようにトラバース速度を制御することを特徴とする、糸巻取方法。
【請求項2】
請求項1に記載の糸巻取方法であって、
綾角を前記所定範囲内から減少側へ急激に外すように変化させた後、変化後の綾角が減少側の所定範囲内に維持されるように前記トラバース速度を制御し、その後、前記危険ワインド数を飛び越えるように、綾角を再び元の所定範囲内へ急激に戻すようにトラバース速度を制御することを特徴とする糸巻取方法。
【請求項3】
紡績糸を巻き取るための巻取ボビンを回転駆動するための巻取ボビン回転駆動モータと、前記巻取ボビンへの糸の巻取りの際にその糸を綾振るためのトラバース装置と、を備え、
前記トラバース装置が、
糸と係合して糸を綾振りさせるためのトラバースガイドと、
前記巻取ボビン回転駆動モータとは切り離されて駆動し、前記トラバースガイドを移動させるためのトラバースガイド駆動モータと、
を有し、
更に、綾角を変化させながら、綾角が所定範囲内に維持されるように前記トラバースガイド駆動モータを制御するトラバース制御装置を備える糸巻取装置において、
前記トラバース制御装置はトラバース速度急減少手段を備え、
このトラバース速度急減少手段は、パッケージ径の増大に伴ってワインド数が危険ワインド数に近づくと、ワインド数が危険ワインド数になることを避けるように、綾角が前記所定範囲から減少側へ外れるように変化させるようにトラバースガイド駆動モータを制御することを特徴とする糸巻取装置。
【請求項4】
請求項3に記載の糸巻取装置であって、
前記トラバース制御装置はトラバース速度急増大手段を備え、
前記トラバース速度急増大手段は、前記トラバース速度急減少手段による綾角の変化の後、前記危険ワインド数を飛び越えるように、かつ綾角を再び元の所定範囲内へ戻すように前記トラバースガイド駆動モータを制御することを特徴とする糸巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−276955(P2007−276955A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106062(P2006−106062)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】