説明

糸巻取装置

【課題】糸巻取装置における糸掛けを容易に行う。
【解決手段】糸巻取装置においては、まず、ボビンホルダの左端部に位置する糸保持部材に、上方から等間隔に配列された状態で送られてきた複数の糸をまとめて保持し、この状態では、複数の糸Yは、糸配置ユニットの左右方向に延びた屈曲板33の屈曲部分に接触して屈曲している。この状態から、糸保持部材を右方に移動させると、糸Yの屈曲した部分が屈曲板33の表面に沿って右方に移動する。屈曲板33の間には、それぞれ、複数の糸Yに対応して、屈曲板33の長手方向と直交する方向に延びた糸挿入隙間34が形成されており、糸Yが対応する糸挿入隙間34上にきたときにのみ、糸保持部材が左右方向に関してその糸挿入隙間34と同じ位置にくることで、糸Yと糸挿入隙間34との延在方向が一致し、これにより、糸Yは屈曲板33に当接しなくなって糸挿入隙間34に挿入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上方から送られてきた複数の糸を、複数のボビンに巻き取らせるための、糸巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の紡糸巻取機においては、ボビンホルダの下方に、綾振りガイドを経て上方から送られてくる複数の糸に対して個別に設けられた複数の糸掛け部材が配置されている。そして、紡糸巻取機においてボビンに糸掛けを行うためには、まず、これら複数の糸掛け部材に接続されたロッドのノブを引くことにより、複数の糸掛け部材を紡糸巻取機の一端部に集合させ、この状態で、上方から送られてきた複数の糸を、エアサッカを用いて前記一端部まで持ってきて各糸掛け部材に取り付ける。次に、ロッドのノブを押し込むことによって、複数の糸掛け部材をボビンホルダに保持された複数のボビンと対向する位置まで移動させる。その後、旋回セパレータを旋回させることにより、複数の糸が旋回セパレータに形成された溝に挿入されるとともに、旋回セパレータに押された糸がボビンに巻き掛けられる位置まで移動する。そして、この状態で、糸寄せ装置により所定の糸道を形成させつつターレットテーブルを回転させると、糸がボビンに形成された糸掛け用のスリットにキャッチされることによってボビンに糸掛けが行われるともに、ボビンに糸が巻き取られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−104732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の紡糸巻取装置では、複数の糸に対して個別に糸掛け部材が設けられているため、ボビンへの糸掛けを行う際に、作業者は、上述したように、複数の糸を対応する糸掛けガイドに取り付ける作業を行う必要があり、糸掛け作業が煩雑になる。
【0005】
本発明の目的は、糸掛け作業を容易に行うことが可能な糸巻取装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る糸巻取装置は、一方向に配列された状態で上方から送られてくる複数の糸を、複数のボビンに巻き取らせるための糸巻取装置であって、前記一方向に長い筒状に形成され、複数のボビンが、上方から送られてくる複数の糸の配列間隔と同じ間隔で直列的に装着されるボビンホルダと、前記ボビンホルダの下方に配置され、複数の糸を保持し、前記ボビンホルダの軸方向に沿って移動可能な糸保持部と、前記複数の糸を、前記ボビンホルダに保持された複数のボビンに対応する位置に配置させる糸配置ユニットと、を備えており、前記糸配置ユニットは、前記一方向に延びており、前記糸保持部に連なる糸が接触した状態で、前記糸保持部が前記ボビンホルダの軸方向に沿って移動する際に、糸を前記糸保持部の移動方向に案内する糸案内部と、前記糸案内部に複数のボビンの配列間隔と同じ間隔で形成され、前記糸案内部の長手方向とほぼ直交する方向に延びているとともに、その先端において開口した複数の糸挿入隙間と、を備えていることを特徴とするものである。
【0007】
これによると、複数の糸が糸保持部に保持され、これら複数の糸が糸案内部により糸が屈曲された状態で、糸保持部をボビンホルダの軸方向沿ってに移動させると、糸保持部が、一方向に関してある糸挿入隙間と同じ位置にきたときに、この糸挿入隙間に対応する糸が当該糸挿入隙間上にくるとともに、その糸の延在方向が糸挿入隙間の延在方向と一致するため、屈曲されることによって生じた糸の張力によって、この糸が対応する糸挿入隙間に挿入される。
【0008】
一方、糸が対応しない糸挿入隙間上にきたときには、糸保持部が、一方向に関してその糸挿入隙間とは異なる位置にあるので、糸は、糸挿入隙間の延在方向に対して傾斜しており、これにより、糸案内部に接触して糸挿入空間に挿入されるのが妨げられるため、糸は糸挿入隙間に挿入されない。
【0009】
したがって、複数の糸を保持する糸保持部をボビンホルダの軸方向に沿って移動させるだけで、複数の糸を対応する糸挿入隙間に挿入して、複数の糸をボビンに対応する位置に配置させることができる。そして、この状態で、糸をボビンホルダに保持されたボビンに巻き掛けられる位置まで移動させることにより、ボビンに糸掛けを行うとともに、ボビンに糸を巻き取らせることができる。
【0010】
このとき、複数の糸をまとめて糸保持部に保持させるように配置すればよいので、複数の糸を個別の部材に取り付ける作業などが必要なく、ボビンへの糸掛けを容易に行うことができる。
【0011】
第2の発明に係る糸巻取装置は、第1の発明に係る糸巻取装置であって、前前記糸案内部の前記糸案内隙間が形成された部分が、糸が前記糸案内部に接触することで屈曲した糸道から離隔していることを特徴とするものである。
【0012】
これによると、糸案内部に接触することで屈曲された糸は、対応しない糸挿入隙間上にある状態では、糸道から離隔した糸挿入隙間に接触することがないので、糸が対応しない糸挿入隙間の上を通過する際に糸が糸挿入隙間に引っかかってしまうのを防止することができる。
【0013】
第3の発明に係る糸巻取装置は、第1又は第2の発明に係る糸巻取装置であって、前記糸挿入隙間に挿入された糸が、前記糸挿入隙間から抜け落ちてしまうのを防止する抜け落ち防止部をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0014】
これによると、一旦対応する糸挿入隙間に挿入された糸が、当該糸挿入隙間から抜け落ちてしまうのを防止することができる。
【0015】
第4の発明に係る糸巻取装置は、第3の発明に係る糸巻取装置であって、前記糸配置ユニットが、前記複数の糸を対応する前記糸挿入隙間に挿入させることで、前記複数の糸をボビンに対応する位置に配置するための糸配置位置と、前記糸挿入隙間に挿入された糸が前記複数のボビンに巻き掛けられる、前記ボビンへの糸掛けを行うための糸掛け位置との間で移動可能となっていることを特徴とするものである。
【0016】
これによると、糸挿入隙間に糸が挿入された糸配置ユニットを、糸配置位置から糸掛け位置まで移動させることにより、ボビンへの糸掛けが可能な状態となるので、複数の糸をボビンに対応する位置に配置させるための糸配置ユニットと別に、このように配置した糸をボビンに巻き掛けられる位置まで移動させるための機構を設ける必要がなく装置の構成が簡単になる。
【0017】
第5の発明に係る糸巻取装置は、第3又は第4の発明に係る糸巻取装置であって、前記糸案内部における、前記糸保持部の移動方向の下流側に隣接する部分に、前記抜け落ち防止部を構成する、前記糸挿入隙間に連通した切り欠きが形成されており、前記切り欠きの、前記糸保持部の移動方向の下流側の壁面が、前記糸案内部の長手方向と直交する方向に対して、前記糸保持部の移動方向の下流側に傾斜していることを特徴とするものである。
【0018】
これによると、対応する糸挿入隙間に挿入された糸が、切り欠きに入り込むため、糸挿入隙間から糸が抜け落ちてしまうのが防止される。
【0019】
また、糸は、対応しない糸挿入隙間上を通過する場合、その一部が糸挿入隙間に入り込むとともに、糸挿入隙間に入り込んだ部分が、切り欠きの、糸保持部材の移動方向の下流側の壁面に沿って移動し、その後、切り欠きから抜け出すこととなる。しかしながら、切り欠きの、糸保持部材の移動方向の下流側の壁面が、糸案内部の長手方向と直交する方向に延びているとすると、糸が対応しない糸挿入隙間に入り込んでから切り欠きから抜け出すまでの間、糸は、糸保持部材の移動方向には移動せず、糸が切り欠きから抜け出したときに急激に、糸保持部材の移動方向に移動することとなる。このため、糸が切り欠きから抜け出す際に糸が跳ね上がって、対応する糸挿入隙間を飛び越えて移動してしまい、糸が対応する糸挿入隙間に挿入されなくなってしまう虞がある。さらに、切り欠き自体が形成されていない場合にも、糸は、糸挿入隙間の、糸保持部材の移動方向の下流側の壁面に沿って移動することとなり、上述したのと同様、糸が糸挿入隙間から抜け出す際に、糸が跳ね上がってしまう虞がある。
【0020】
しかしながら、本発明では、対応しない糸挿入隙間に入り込んだ糸は、切り欠きに入り込むとともに、切り欠きの上記傾斜した壁面に沿って移動し、その後、切り欠きから抜け出すため、糸が対応しない糸挿入隙間に入り込んでから切り欠きから抜け出すまでの間も、糸保持部材の移動方向に移動する。したがって、糸が切り欠きから抜け出す際に、糸が糸保持部材の移動方向に急激に移動することがなく、上述したような糸の跳ね上がりを防止することができる。
【0021】
第6の発明に係る糸巻取装置は、第1〜第5のいずれかの発明に係る糸巻取装置であって、前記一方向に移動することによって、前記ボビンホルダから装着された複数のボビンを押し出し、ボビンの押し出し時と反対方向に移動することによって、ボビンを押し出す前の位置に戻るプッシャをさらに備えており、前記糸保持部が、前記プッシャに設けられていることを特徴とするものである。
【0022】
これによると、プッシャを移動させることにより、自動的に複数の糸を対応する糸挿入隙間に挿入させることができる。また、別途、糸保持部を移動させるための専用の機構を設ける必要がなく、装置の構成が簡単になる。
【0023】
第7の発明に係る糸巻取装置は、第1〜第6のいずれかの発明に係る糸巻取装置であって、前記糸保持部は、互いに接続されているとともに、その面方向が互いに異なる2つの鉛直面を備え、これら2つの鉛直面の接続部分に糸が掛けられることによって糸が保持されるようになっており、前記2つの鉛直面のうち前記糸保持部の移動方向の上流側に位置しているものは、前記一方向と直交する方向に対して、前記糸保持部の移動方向の上流側に傾斜していることを特徴とするものである。
【0024】
これによると、糸が対応する糸挿入隙間に挿入された後、さらに糸保持部が移動すると、糸の張力が大きくなるが、糸の張力がある程度大きくなった時点で、糸が上記傾斜した鉛直面に案内されて順次糸保持部から抜け落ちるため、糸の張力が大きくなりすぎてしまうのを防止することができる。また、糸が対応する糸挿入隙間に挿入された後、さらに糸保持部が移動すると、糸保持部に保持された部分における糸の屈曲が大きくなっていくが、上述したように糸が糸保持部から抜け落ちるため、糸の屈曲が大きくなりすぎてしまうのを防止することができる。そして、これらのことから、糸にかかる負担が小さくなり、安定した糸掛け作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、複数の糸を保持する糸保持部をボビンホルダの軸方向に沿って移動させるだけで、複数の糸を対応する糸挿入隙間に挿入して、複数の糸をボビンに対応する位置に配置させることができる。そして、この状態で、糸をボビンホルダに保持されたボビンに巻き掛けられる位置まで移動させることにより、ボビンに糸掛けを行うとともに、ボビンに糸を巻き取らせることができる。
【0026】
このとき、複数の糸をまとめて糸保持部に保持させるように配置すればよいので、複数の糸を個別の部材に取り付ける作業などが必要なく、ボビンへの糸掛けを容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る糸巻取装置の構成を示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る糸巻取装置の構成を示す正面図である。
【図3】上方から見たプッシャの拡大図である。
【図4】糸配置ユニットの先端部の拡大斜視図である。
【図5】図4を矢印Vの方向から見た図である。
【図6】図4を矢印VIの方向から見た図である。
【図7】ボビンに糸掛けを行う手順を示す図である。
【図8】図7(a)の動作中の様子を正面から見た図である。
【図9】糸が屈曲板上を移動する様子を示す図であり(a)が図5の方向から見た図、(b)が図6の方向から見た図である。
【図10】糸保持部材に保持された糸が移動する様子を示す図である。
【図11】ボビン交換動作の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0029】
図1は、本実施の形態に係る糸巻取装置の側面図であり、図2は、本実施の形態に係る糸巻取装置の正面図である。なお、以下では、図1、図2に示すように、互いに直交する上下方向、左右方向及び前後方向を規定して説明を行う。
【0030】
本実施の形態に係る糸巻取装置1は、図示しない紡糸装置などにより、上方から送られてきたフィラメント糸Y(以下、単に糸Yとする)を後述するボビンホルダ4に保持されたボビンBに巻き取らせるためのものである。糸巻取装置1は、複数の糸ガイド2、ターレットテーブル3、2つのボビンホルダ4、コンタクトローラ5、複数のトラバースガイド6、プッシャ7、糸配置ユニット8、などを備えている。
【0031】
複数の糸ガイド2は、糸巻取装置1の上端部に配置されており、左右方向に配列されている。複数の糸ガイド2には、それぞれ、上方から送られてきた糸Yが位置決めガイドされ、これにより、複数の糸Yは、左右方向(一方向)に等間隔に配列され、この状態で下方に送られる。
【0032】
ターレットテーブル3は、円形の板状体であり、その中心を通るとともに左右方向に延びた回転軸A1を中心として回転可能となっている。2つのボビンホルダ4は、左右方向(一方向)に延びた円筒状の部材であり、ターレットテーブル3の左側の面に、ターレットテーブル3の中心に対して約180°ずれた位置に配置されている。ボビンホルダ4には、それぞれ、複数のボビンBが、左右方向に、複数の糸ガイド2(上方から送られてくる糸Y)とほぼ同じ間隔で配列された状態で装着されており、図示しないモータなどにより、ボビンホルダ4を、左右方向に延びた回転軸A2を中心として回転させると、装着されたボビンBも回転する。
【0033】
コンタクトローラ5は、図示しない移動機構によって上下方向に移動可能に構成されたローラであって、後述するようにボビンBに糸Yを巻き取らせる際に、糸Yを巻き付けるボビンBの表面を押圧して、ボビンBに巻き付けられる糸Yに適切な圧力を付与する。
【0034】
複数のトラバースガイド6は、ボビンホルダ4の上方に配置されており、左右方向に糸ガイド2とほぼ同じ間隔で配列されている。トラバースガイド6は、後述するようにボビンBに糸Yを巻き付ける際に、糸Yを左右方向に綾振りする。
【0035】
プッシャ7は、糸Yの巻き取りが完了したボビンBをボビンホルダ4から押し出すためのものであって、基部11、2つの押圧部12、及び、糸保持部材13を備えている。
【0036】
基部11は、ターレットテーブル3の下方に配置されているとともに、シリンダ21に取り付けられており、シリンダ21によって左右方向に移動される。
【0037】
2つの押圧部12は、基部11の上面の前後端部から上方に、ターレットテーブル3の回転により最も低い位置まできたボビンホルダ4とほぼ同じ高さまで延びている。これにより、プッシャ7が左方に移動すると、押圧部12がこのボビンホルダ4に装着されたボビンBに当接するとともにボビンBを左方に押圧し、これにより、ボビンホルダ4から糸Yの巻き取りが完了したボビンBが押し出される。また、プッシャ7は、ボビンホルダ4からボビンBを押し出した後、右方(ボビンBの押し出し時とは反対方向)に移動することにより、ボビンBを押し出す前の位置に戻る。
【0038】
糸保持部材13は、後述するようにボビンBへの糸掛けを行う際に、複数の糸をまとめて保持する部材であり、プッシャ7の2つの押圧部12の間の部分に設けられている。図3は、糸保持部材13を上方から見た図である。糸保持部材13は、板状の部材であって、その右側(糸保持部材の移動方向の下流側)の端に、2つの鉛直面13a、13bを有している。鉛直面13aは左右方向に延びている。鉛直面13b(2つの鉛直面のうち、糸保持部材13の移動方向の上流側に位置しているもの)は、鉛直面13aの左端に接続されているとともに、この接続部分から左後方に延びている(一方向と直交する方向に対して糸保持部材13の移動方向上流側に傾斜している)。そして、糸Yが鉛直面13aと鉛直面13bとの接続部分に掛けられることで、糸Yが糸保持部材13に保持される。
【0039】
また、後述するように、糸巻取装置1において、ボビンBに糸掛けを行うとともに、ボビンBに糸Yを巻き取らせる際には、プッシャ7を右方に移動させることにより、糸保持部材13を右方に(ボビンホルダ4の軸方向に沿って)移動させる。
【0040】
糸配置ユニット8は、後述するように、ボビンBへの糸掛けを行う際に、糸YをボビンBと対向する位置(ボビンBに対応する位置)に配置させるためのものであって、ターレットテーブル3の上端部と同程度の高さに配置されている。糸配置ユニット8は、揺動アーム31、固定板32及び複数の屈曲板33を備えている。
【0041】
揺動アーム31は、左右方向に延びており、図示しない駆動源に接続されたシャフト25に取り付けられており、これにより、糸配置ユニット8が、シャフト25を中心として揺動可能となっている。固定板32は、揺動アーム31の先端部に取り付けられた、左右方向を長手方向とする略矩形の板状体である。
【0042】
図4は、糸配置ユニット8の屈曲板33近傍の拡大斜視図である。図5は、図4を矢印Vの方向から見た図である。図6は、図4を矢印VIの方向から見た図である。なお、図4〜図6は、糸配置ユニット8が、後述するように、複数の糸Yを対応するボビンBと対向する位置に配置させるための位置(図7(a)参照、糸配置位置)にある状態の図である。
【0043】
図4〜図6に示すように、複数の屈曲板33は、その略中央部において屈曲した略矩形の板状体であり、左右方向に配列された状態で固定板32の先端部に取り付けられている。また、屈曲板33は、その屈曲部分を挟んだ2つの部分の一方が、固定板32への取り付けを行うための取付部33aとなっており、他方が、後述する糸挿入隙間34及び抜け落ち防止隙間35を形成するための隙間形成部33bとなっている。なお、本実施の形態では、屈曲板33のうち、隙間形成部33b及び取付部33aの隙間形成部33b近傍の部分と、隙間形成部33bに近接した固定板32の先端部分とをあわせたものが、本発明に係る糸案内部に相当し、左右方向がその長手方向となっている。
【0044】
取付部33aは、左右方向が長手方向となっており、図4〜図6に示す状態での、揺動アーム31の先端部の下面に固定されている。隙間形成部33bは、取付部33aとの屈曲角度が鈍角となっており、図4〜図6に示す状態で、固定板32の先端よりも上方まで延びている。
【0045】
また、隙間形成部33bは、左右方向がその長手方向となっているとともに、取付部33aよりも左右方向の両側に長く延びている。これにより、隙間形成部33bの取付部33aよりも右側に長く延びた部分と、固定板32との間には、左右方向に延びた抜け落ち防止隙間35が形成されている。ここで、抜け落ち防止隙間35は、後述するように糸挿入隙間34から糸Yが抜け落ちてしまうのを防止するためのものである。
【0046】
また、屈曲板33が左右方向に配列されていることにより、隙間形成部33bも左右方向に配列されており、隣接する隙間形成部33bの間には、隙間形成部33bの長手方向と直交する方向(図5の上下方向)に延びた糸挿入隙間34が形成されている。糸挿入隙間34は、隙間形成部33bの上端(先端)において開口している。また、糸挿入隙間34のこの開口と反対側の端には、固定板32が位置しており、糸挿入隙間34は、この端部において上記抜け落ち防止隙間35と連通している。
【0047】
また、各糸挿入隙間34の右側(糸保持部材13の移動方向の下流側)に隣接する、各隙間形成部33bの取付部33aよりも左側に延びた部分には、それぞれ、切り欠き33cが形成されている。切り欠き33cのうち、最も右側に配置された隙間形成部33b1以外の隙間形成部33b2に形成された切り欠き33c2は、その右側(糸保持部材13の移動方向の下流側)の壁面33d2が、隙間形成部33b2の長手方向と直交する方向に対して右側(糸保持部材13の移動方向の下流側)に傾斜している。なお、最も右側に配置された隙間形成部33b1に形成された切り欠き33c1の右側の壁面は33d1、隙間形成部33b1の長手方向と直交する方向と平行に延びている。
【0048】
次に、糸巻取装置1においてボビンBに糸掛けを行うとともに、ボビンBに糸を巻き取らせる手順について説明する。図7は、この手順を示す工程図である。図8は、図7(a)の動作中の様子を正面から見た図である。
【0049】
糸巻取装置1においてボビンBに糸掛けを行うとともに、ボビンBに糸を巻き取らせるためには、まず、図7(a)、図8(a)に示すように、2つのボビンホルダ4が、ターレットテーブル3の中央部と同程度の高さにくるまでターレットテーブル3を回動させる。これと同時に、図7(a)に示すように、屈曲板33が以下に説明する動作中最も前方にくるように糸配置ユニット8を揺動させる。また、これと同時に、プッシャ7を図中最も左方まで移動させる。なお、2つのボビンホルダ4が図7(a)に示すようにターレットテーブル3の中央部と同程度の高さにある場合、2つのボビンホルダ4は、後述するボビンBへの糸掛けを行うための位置と、ボビンBを交換するための位置との間の中間位置にあるため、移動するプッシャ7がボビンホルダ4に保持されたボビンBに接触することはない。
【0050】
そして、この状態(図7(a)に示す状態)で、糸巻取装置1の左方にいる作業者が、上方から送られてきた複数の糸YをサクションノズルSにより吸引するとともに、対応する各糸ガイド2に順次糸掛けし、さらにプッシャ7に設けられた糸保持部材13の鉛直面13aと鉛直面13bとの接続部分に掛けてから、サクションノズルSを糸保持部材13の左下方に持ってくる。
【0051】
この状態では、複数の糸Yは、屈曲板33の取付部33aと隙間形成部33bとの間の屈曲部分に接触しており、これにより、糸Yが走行する糸道が屈曲している。
【0052】
さらに、この状態では、糸Yは、隙間形成部33bの先端部には接触していない。すなわち、隙間形成部33bの先端部は、糸Yの糸道から離隔している(図9(b)参照)。
【0053】
次に、プッシャ7を右方に移動させる。すると、プッシャ7上に配置された糸保持部材13も右方に(ボビンホルダ4の軸方向に沿って)移動し、これにより、糸保持部材13に保持された糸Yが右方に移動する。このとき、糸Yの屈曲板33に接触した部分(屈曲した部分)は、屈曲板33により右方に(糸保持部材13の移動方向に)案内される。
【0054】
そして、図8(b)、(c)に示すように、左側の糸Yから、順に、対応する糸挿入隙間34に挿入され、糸挿入隙間34に挿入された後に、糸保持部材13から抜け落ちる。
【0055】
このときの動作について、より詳細に説明する。図9は、糸保持部材13を右方に移動させたときの、糸Yが屈曲板33上を移動する様子を示す図であり、(a)が図5の方向から見た図、(b)が図6の方向から見た図である。図10は、糸保持部材13を右方に移動させたときの、糸保持部材13に保持された糸Yが移動する様子を示す図である。
【0056】
プッシャ7により糸保持部材13を右方に移動させると、糸Yは、屈曲板33に接触した状態で右方に移動する。そして、いずれかの糸Yが図9において符号Y1〜Y3で示すように、対応しない糸挿入隙間34上にきたときや、糸挿入隙間34上にきていないときには、糸保持部材13が、左右方向に関してその糸挿入隙間34と異なる位置にあるため、この糸Yは、糸挿入隙間34の延在方向に対して傾斜している。これにより、糸Yは、隙間形成部33bのいずれかの部分に接触することで、糸挿入隙間34に挿入されるのが妨げられるため、糸挿入隙間34に挿入されない。
【0057】
さらに、このとき、糸Yは、糸挿入隙間34の上記開口が位置する隙間形成部33bの先端部から離隔しているため、糸Yが糸挿入隙間34に引っかかってしまうのが防止される。
【0058】
また、糸Yは、対応しない糸挿入隙間34上を通過する際、糸Yの屈曲板33の屈曲部と接触している部分が糸挿入隙間34上にくると、糸Yのこの部分近傍の部分が一時的に糸挿入隙間34内に入り込む。糸挿入隙間34に入り込んだ糸Yは、その後、図9において符号Y2で示すように、切り欠き33c2の右側の壁面33d2に接触しつつ移動し、続いて、図9において符号Y3で示したように、切り欠き33c2から抜け出して、再び、屈曲板33の屈曲部に接触することとなる。
【0059】
このとき、切り欠き33c2の右側の壁面が、隙間形成部33b2の長手方向と直交する方向に延びているとすると、糸Yは、切り欠き33c2の右側の壁面33d2に沿って移動する間、右方には移動しないため、糸保持部材13の移動に伴って糸Yの張力が大きくなっていく。そして、切り欠き33c2から抜け出したときに、この張力によって急激に右方に移動することとなり、これにより、糸Yが跳ね上がって、対応する糸挿入隙間34を跳び越えた位置まで移動して、糸Yが対応する糸挿入隙間34に挿入されなくなってしまう虞がある。
【0060】
これに対して、本実施の形態では、上述したように、切り欠き33c2の右側の壁面33d2が傾斜しているため、糸Yは、切り欠き33c2の右側の壁面33d2に沿って移動する間も、傾斜した当該壁面33d2に沿って右方に移動する。したがって、切り欠き33c2から抜け出すときの糸Yの張力がそれほど大きくはならず、上述したような糸Yの跳ね上がりが生じてしまうのを防止することができる。
【0061】
なお、最も右側の隙間形成部33b1に形成された切り欠き33c1の右側の壁面が、他の切り欠き33c2と異なり、隙間形成部33b1の長手方向と直交する方向と平行に延びているのは、切り欠き33c1に連通する糸挿入隙間34に挿入される糸Yは最も右側の糸Yであり、他の糸Yの一部がこの糸挿入隙間34に入り込むとともに切り欠き33c1の右側の壁面33d1に沿って移動するということがないためである。
【0062】
一方、いずれかの糸Yが、図9において符号Y4で示す、対応する糸挿入隙間34上にきたときには、糸保持部材13が、左右方向に関してこの糸挿入隙間34と同じ位置にくるため、この糸Yの延在方向と糸挿入隙間34の延在方向とが一致する。これにより、糸Yが屈曲板33のいずれの部分とも接触しなくなるため、糸Yは糸挿入隙間34に挿入され、挿入された糸Yは固定板32の先端部に接触する。
【0063】
糸挿入隙間34に挿入された糸Yは、プッシャ7の移動によって、さらに右方に移動し、図9において符号Y5で示すように、切り欠き33cの右側の壁面33d1又は壁面33d2に接触した状態となる。このように、糸挿入隙間34に挿入された糸が切り欠き33c内に入り込むため、糸挿入隙間34に挿入された糸Yが、後述するように抜け落ち防止隙間35に挿入される前に、糸挿入隙間34から抜け落ちてしまうのが防止される。
【0064】
そして、糸Yが切り欠き33cの壁面に接触した状態で、プッシャ7が右方に移動するほど、糸Yの張力が大きくなっていく。そして、この張力がある大きさを超えると、図10に示すように、糸Yの糸保持部材13に掛けられている部分は、自身の張力によって、鉛直面13bに案内されて図中左後方に移動し、糸保持部材13から抜け落ちる。
【0065】
このように、糸Yは、対応する糸挿入隙間34に挿入された後、張力がある大きさを超えたときに、糸保持部材13から抜け落ちるため、糸挿入隙間34に挿入された後の糸Yの張力が大きくなりすぎてしまうのが防止される。また、糸挿入隙間34に挿入された後においては、糸保持部材13が右方に移動するほど、糸保持部材13に掛けられている部分における糸Yの屈曲が大きくなるが、前述したように、糸Yは糸挿入隙間34に挿入された後、糸保持部材13から抜け落ちるため、糸Yの屈曲が大きくなりすぎてしまうのが防止される。そして、これらのことから、糸Yに係る負担が小さくなり、安定した糸掛け作業が可能となる。
【0066】
そして、糸保持部材13から抜け落ちた糸Yは、サクションノズルSによって図9の左下方に引っ張られるため、左方に移動し、図9において符号Y6で示すように抜け落ち防止隙間35に入り込み、これにより、糸Yが糸挿入隙間34から抜け落ちるのが防止される。なお、本実施の形態では、上述の切り欠き33c、及び、この抜け落ち防止隙間35が、本発明に係る抜け落ち防止部に相当する。
【0067】
以上のような動作によって、複数の糸Yは、順次対応する糸挿入隙間34に挿入されることで、自動的にボビンBと対向する位置に配置されるとともに、糸挿入隙間34に入り込んだ糸Yは、抜け落ち防止隙間35に入り込んで糸挿入隙間34から抜け落ちないようになる。このように、本実施の形態では、複数の糸Yを束ねて保持する糸保持部材13を右方に移動させるだけで、容易に、複数の糸YをボビンBに対応する位置に配置させることができる。
【0068】
また、本実施の形態では、糸保持部材13が、後述するように糸Yの巻き取りが完了したボビンBを押し出すためのプッシャ7に設けられており、プッシャ7を移動させることにより糸保持部材13を移動させているため、別途、糸保持部材13を移動させるための専用の機構を必要とせず、装置の構成が簡単になる。
【0069】
また、このとき、糸Yは、糸挿入隙間34又は抜け落ち防止隙間35に保持されているが、これらは、上述の特許文献1の糸掛けガイドに比べて高い位置にあるため、糸挿入隙間34又は抜け落ち防止隙間35における糸Yの屈曲の程度は、上述の特許文献1の糸掛けガイドにおける糸の屈曲の程度に比べて小さなものとなる。したがって、糸Yにかかる負担が小さくなり、安定した糸掛け作業が可能となる。
【0070】
次に、図7(b)に示すように、糸配置ユニット8を図7の方向から見て時計回りに揺動させるとともに、ターレットテーブル3を図7の方向から見て反時計回りに回動させ、その後、コンタクトローラ5を下方に移動させる。
【0071】
すると、固定板32及び屈曲板33が後方に移動するとともに、一方のボビンホルダ4が上方に移動し、これによって、糸Yがボビンホルダ4に保持されたボビンBに巻き掛けられ、コンタクトローラ5が、ボビンBに当接する。なお、このときの、糸配置ユニット8の位置が、本発明に係る糸掛け位置に相当する。
【0072】
このとき、前述したように、糸挿入隙間34に挿入された糸Yは、抜け落ち防止隙間35に入り込んでいるため、糸配置ユニット8を揺動させたときには、糸Yは、抜け落ち防止隙間35を形成する隙間形成部33bの壁面に接触し、糸Yが糸挿入隙間34から抜け落ちてしまうことがない。したがって、糸配置ユニット8を揺動させることによって、糸YをボビンBに巻き掛けられる位置まで移動させることができる。これにより、複数の糸YをボビンBに対向する位置に配置させるための機構と別に、ボビンBに対向する位置に配置された糸YをボビンBに巻き掛けられる位置まで移動させるための機構を設ける必要がなく、装置の構成が簡単になる。
【0073】
次に、図示しない糸寄せ装置により、複数の糸Yをボビンホルダ4の軸方向に移動させる。もしくは、上記状態(図7(b)の状態)で、トラバースガイド6により、糸Yを左右方向に綾振りさせつつ、ボビンホルダ4を回転させてボビンBを回転させる。すると、糸YはボビンBに形成された図示しない糸掛け用のスリットと重なる位置にきたときに、このスリットにキャッチされ、これにより、ボビンBに糸掛けが行われる。そして、この状態でボビンBを回転させると、糸YがボビンBに巻き取られる。このとき、糸Yは、トラバースガイド6により左右方向に綾振りされており、ボビンBに均等に巻き取られる。なお、このとき、ボビンBに巻き取られた糸Yの量が多くなるにつれて、コンタクトローラ5が上方に移動する。
【0074】
ボビンBに糸Yが巻き取られると、糸Yは、ボビンBとサクションノズルSとにより互いに反対方向に引っ張られて切断され、上流側の糸Yについては、上述のとおりボビンBに巻き取られていき、下流側の糸YについてはサクションノズルSによって吸引される。この後、図7(c)に示すように、糸配置ユニット8をさらに時計回りに揺動させることによって、固定板32及び屈曲板33を後方に退避させる。
【0075】
次に、満巻時のボビン交換動作について説明する。図11は、ボビン交換動作の手順を示す工程図である。ボビンBの交換は、図7(c)に示す状態で、ボビンBへの糸Yの巻き取りを継続し、図11(a)に示すように、ボビンBに所定量の糸Yが巻き付けられ満巻となったたときに行う。
【0076】
ボビンBの交換を行うためには、図11(a)に示す満巻状態になった後、下方のボビンホルダ4に取り付けられたボビンBを回転させ、トラバースガイド6により糸を左右方向に綾振りさせたまま、コンタクトローラ5を上方に移動させ、図11(b)に示すように、ターレットテーブル3を図11の方向から見て反時計回りに回動させて、今まで糸Yの巻き取りを行っていた満ボビンBが保持されたボビンホルダ4を下方に移動させるとともに、もう一方のボビンホルダ4を上方に移動させる。そして、その後、コンタクトローラ5を下方に移動させて、新たな空ボビンBに当接させるとともに、糸配置ユニット8を反時計回りに揺動させる。
【0077】
すると、糸Yは、糸挿入隙間34と対向する位置にきたときに、糸挿入隙間34を経て抜け落ち防止隙間35に挿入され、挿入された糸Yは、抜け落ち防止隙間35において屈曲される。
【0078】
次に、図示しない糸寄せ装置により糸Yをボビンホルダ4の軸方向に移動させる、もしくは、上記状態(図11(b)の状態)でトラバースガイド6により糸Yを左右方向に綾振りさせると、上述したのと同様、糸YがボビンBの図示しない糸掛け用のスリットにキャッチされることで糸掛けが行われるともに、ボビンBに糸Yが巻き取られていく。また、このときの糸Yを巻き取る力により、糸Yは、屈曲された抜け落ち防止隙間35近傍の部分において切断される。
【0079】
その後、図11(c)に示すように、上述したのと同様、糸配置ユニット8を時計回りに揺動させることによって、固定板32及び屈曲板33を退避させる。さらに、プッシャ7を左方に移動させることにより、糸Yの巻き取りが完了したボビンBをボビンホルダ4から押し出すとともに、ボビンホルダ4に新たにボビンBを取り付ける。そして、以下、図11(a)〜図11(c)に示す動作を繰り返すことにより、連続してボビンBに糸Yを巻き取らせることができる。
【0080】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0081】
上述の実施の形態では、本発明に係る糸保持部として、鉛直面13a、13bを有する糸保持部材13が設けられており、糸挿入隙間34に挿入された糸Yは、その張力によって鉛直面13bに案内されることで順次、糸保持部材13から抜け落ちるように構成されていたが、これには限られない。
【0082】
例えば、糸保持部が、鉛直面13bが前後方向と平行に延びているなど、糸Yを保持し続けるものであってもよい。この場合には、糸保持部がさらに糸保持部材から糸Yを取り外すための機構を有しており、全ての糸Yが対応する糸挿入隙間34に挿入された後で、この機構により糸保持部材から糸Yを取り外してもよいし、あるいは、このような糸Yを取り外すための機構は設けられておらず、作業者が、糸保持部材からの糸Yの取り外しを行ってもよい。
【0083】
さらには、糸保持部は、2つの鉛直面13a、13bの接続部分に複数の糸Yが掛けられることで、複数の糸Yをまとめて保持するものであることには限られず、例えば、複数の糸Yをまとめて把持する機構を有するものなどであってもよい。
【0084】
また、上述の実施の形態では、ボビンホルダ4から糸Yの巻き取りが完了したボビンBを押し出すためのプッシャ7を用いて糸保持部材13を移動させたが、これには限られず、例えば、シリンダなど、糸保持部材13を移動させるための専用の機構が設けられていてもよい。あるいは、作業者が糸保持部材13を手などで移動させてもよい。
【0085】
また、上述の実施の形態では、切り欠き33cの右側の壁面が、隙間形成部33bの長手方向と直交する方向に対して傾斜していたが、切り欠き33cの右側の壁面は、隙間形成部33b長手方向と直交する方向と平行に延びていてもよい。
【0086】
この場合には、上述したように、糸Yが切り欠き33cから抜け出す際に糸Yが跳ね上がってしまう虞があるが、糸挿入隙間34の間隔が、跳ね上がりによる糸Yの移動距離に比べて十分に大きい場合などには、このような跳ね上がりが生じたとしても、糸Yが対応する糸挿入隙間34を跳び越えた位置まで移動することがない。
【0087】
また、一旦、対応する糸挿入隙間34に挿入された糸Yは、糸Yの張力が大きく変動したりしない限りは、糸挿入隙間34から抜け落ちてしまうことはないため、切り欠き33cは形成されていなくてもよい。なお、この場合には、対応しない糸挿入隙間34に入り込んだ糸Yは、切り欠き33cの右側の壁面に沿って移動する代わりに、糸挿入隙間34の右側の壁面に沿って移動することとなり、この場合にも、上述したのと同様、糸Yの跳ね上がりが生じる可能性はある。
【0088】
また、上述の実施の形態では、糸挿入隙間34に連通する切り欠き33cや抜け落ち防止隙間35に糸Yが入り込むことにより、糸Yが糸挿入隙間34から抜け落ちないようになっていたが、例えば、糸挿入隙間34の先端部に、隙間形成部33bの先端から奥に行くほど糸挿入隙間34の幅が狭くなった部分が設けられることによって糸Yが抜けにくくなっているなど、本発明に係る抜け落ち防止部は、他の構成によって実現されていてもよい。
【0089】
また、上述の実施の形態では、糸挿入隙間34に挿入された糸Yが抜け落ち防止隙間35に入り込むことによって糸挿入隙間34から抜け落ちなくなっているとともに、糸配置ユニット8がシャフト25を軸として揺動可能となっていることで、複数の糸YをボビンBに対応する位置に配置するための糸配置位置と、糸YがボビンBに巻き掛けられる糸掛け位置との間で移動可能となっていたが、これには限られない。
【0090】
例えば、糸挿入隙間34に挿入された糸YをボビンBに向けて押圧することで糸YをボビンBに巻き掛ける機構など、糸挿入隙間34に挿入された糸YをボビンBに巻き掛けるための専用の機構が別途設けられていてもよい。あるいは、糸Yが糸挿入隙間34に挿入された時点で、糸YがボビンBに巻き掛けられる位置にくるように構成されていてもよい。なお、これらの場合には、糸挿入隙間34に挿入された糸YをボビンBに巻き掛ける際に糸配置ユニット8を移動させる必要がないので、糸挿入隙間34からの糸Yの抜け落ちを防止するための抜け落ち防止隙間35は設けられていなくてもよい。
【0091】
また、上述の実施の形態では、屈曲板33接触することで屈曲した糸Yは、隙間形成部33bの先端部には接触していなかったが、屈曲した糸Yが隙間形成部33bの先端部に接触していてもよい。この場合には、糸Yが、対応しない糸挿入隙間34上を移動する際にその糸挿入隙間34の壁に引っかかってしまう可能性はあるものの、糸Yの張力が十分にあれば、糸挿入隙間34の壁に引っかかった糸Yは、糸Yの張力によって糸挿入隙間34の壁から外れる。
【0092】
また、上述の実施の形態では、糸配置ユニット8が上記糸配置位置にある状態で、糸Yが接触する屈曲板33の屈曲部よりも上方に隙間形成部33bの先端が位置していたが、これには限られず、例えば、糸配置ユニット8が上記糸配置位置にある状態で、固定板32及び屈曲板33が、図6の上下を逆にしたような位置関係となるなど、屈曲板33の屈曲部よりも下方に隙間形成部33bの先端が位置していてもよい。この場合には、屈曲板33により屈曲された糸Yは、図9(b)の上下を逆にしたような状態となり、上述の実施の形態と同様、糸Yが対応する糸挿入隙間34上にきたときにのみ糸Yが糸挿入隙間34に挿入される。
【0093】
また、上述の実施の形態では、固定板32に複数の屈曲板33が取り付けられることによって、本発明に係る糸案内部が形成されていたが、これには限られず、例えば、糸案内部が1つの部材によって一体的に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 糸巻取装置
4 ボビンホルダ
7 プッシャ
8 糸配置ユニット
13 糸保持部材
13a、13b 鉛直面
32 固定板
33 屈曲板
33c 33c1、33c2 切り欠き
33d1、33d2 壁面
34 糸挿入隙間
35 抜け落ち防止隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に配列された状態で上方から送られてくる複数の糸を、複数のボビンに巻き取らせるための糸巻取装置であって、
前記一方向に長い筒状に形成され、複数のボビンが、上方から送られてくる複数の糸の配列間隔と同じ間隔で直列的に装着されるボビンホルダと、
前記ボビンホルダの下方に配置され、複数の糸を保持し、前記ボビンホルダの軸方向に沿って移動可能な糸保持部と、
前記複数の糸を、前記ボビンホルダに保持された複数のボビンに対応する位置に配置させる糸配置ユニットと、を備えており、
前記糸配置ユニットは、
前記一方向に延びており、前記糸保持部に連なる糸が接触した状態で、前記糸保持部が前記ボビンホルダの軸方向に沿って移動する際に、糸を前記糸保持部の移動方向に案内する糸案内部と、
前記糸案内部に複数のボビンの配列間隔と同じ間隔で形成され、前記糸案内部の長手方向とほぼ直交する方向に延びているとともに、その先端において開口した複数の糸挿入隙間と、を備えていることを特徴とする糸巻取装置。
【請求項2】
前記糸案内部の前記糸案内隙間が形成された部分が、糸が前記糸案内部に接触することで屈曲した糸道から離隔していることを特徴とする請求項1に記載の糸巻取装置。
【請求項3】
前記糸挿入隙間に挿入された糸が、前記糸挿入隙間から抜け落ちてしまうのを防止する抜け落ち防止部をさらに備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の糸巻取装置。
【請求項4】
前記糸配置ユニットが、前記複数の糸を対応する前記糸挿入隙間に挿入させることで、前記複数の糸をボビンに対応する位置に配置するための糸配置位置と、前記糸挿入隙間に挿入された糸が前記複数のボビンに巻き掛けられる、前記ボビンへの糸掛けを行うための糸掛け位置との間で移動可能となっていることを特徴とする請求項3に記載の糸巻取装置。
【請求項5】
前記糸案内部における、前記糸保持部の移動方向の下流側に隣接する部分に、前記抜け落ち防止部を構成する、前記糸挿入隙間に連通した切り欠きが形成されており、
前記切り欠きの、前記糸保持部の移動方向の下流側の壁面が、前記糸案内部の長手方向と直交する方向に対して、前記糸保持部の移動方向の下流側に傾斜していることを特徴とする請求項3又は4のいずれかに記載の糸巻取装置。
【請求項6】
前記一方向に移動することによって、前記ボビンホルダから装着された複数のボビンを押し出し、ボビンの押し出し時と反対方向に移動することによって、ボビンを押し出す前の位置に戻るプッシャをさらに備えており、
前記糸保持部が、前記プッシャに設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の糸巻き取り装置。
【請求項7】
前記糸保持部は、互いに接続されているとともに、その面方向が互いに異なる2つの鉛直面を備え、これら2つの鉛直面の接続部分に糸が掛けられることによって糸が保持されるようになっており、
前記2つの鉛直面のうち前記糸保持部の移動方向の上流側に位置しているものは、前記一方向と直交する方向に対して、前記糸保持部の移動方向の上流側に傾斜していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の糸巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−102174(P2011−102174A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257884(P2009−257884)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】