説明

紙加工用水性樹脂分散体

【課題】 重合時の安定性が良好で、機械的安定性、化学的安定性、貯蔵安定性、造膜性、耐溶剤性に優れ、紙の加工剤、特に建材紙用バインダー樹脂として使用した際に、印刷適性、特に水性インキに対する印刷適性に優れる紙加工用水性樹脂分散体を提供する。
【解決手段】 固形分100重量部において、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(A)15〜25重量部と、スチレン(B)5〜30重量部と、エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル(C)5〜15重量部と、アミド基含有エチレン性不飽和単量体(D)2〜8重量部、及び、その他のエチレン性不飽和単量体(E)22〜73重量部とからなり、且つ水性媒体中で乳化重合してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造膜性及び耐溶剤性に優れる、紙加工用水性樹脂分散体に関する。
更に詳しくは、特に建材紙用バインダー樹脂として用いた場合に、機械的安定性、化学的安定性、貯蔵安定性に優れ、且つ紙間強度が高く、特に水性インキに対する印刷適性に優れる、紙加工用水性樹脂分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
紙はリサイクルが可能な環境対応型材料として、その需要量が年々増加傾向にあり、最近では、従来プラスチックが使用されてきた分野でも、プラスチックの代替材料として検討され徐々に実用化されつつあり、それに伴い用途に適した紙の特性の向上が求められている。
【0003】
例えば、建材紙の場合、特に紙間強度や印刷適性などの特性の更なる向上が要求されており、また、印刷紙の場合、有機溶剤型インキに含まれる有機溶剤による作業環境汚染や大気汚染の問題から、水性インキへの早期移行が切望されている。
【0004】
水性インキは有機溶剤型インキと較べて、(1)環境負荷が少ないこと、(2)非引火性であり危険性が低いこと、(3)印刷物から発生する残留溶剤の臭気がないこと、等の長所を有している反面、(1)印刷後の印刷物の乾燥が遅く生産性に劣ること、(2)水性インキのレベリング、滲み、乾燥不良によるブロッキング等の品質不良が発生しやすいこと、(3)印刷物中の水を蒸発乾燥させるためのエネルギーコストが多大であること、等の短所も有しているため、印刷適性などの要求特性を全て満足でき、水性インキとして有用な水性樹脂分散体が検討されてきた。
【0005】
例えば、非吸水性支持体の少なくとも片面にポリビニルアルコール皮膜を形成して成るインクジェットプリンター記録用シートにおいて、ポリビニルアルコール中に非イオン系界面活性剤を含有させ乾燥性を向上させた記録用シート(特許文献1。)、あるいは、イソシアネート化合物とポリエーテルポリオールの縮合生成物を含有してなる被記録材(特許文献2及び特許文献3。)、遮光性基材の少なくとも片面に、ポリビニルピロリドンを含有する第1のインク受理層と、ポリエチレンオキサイドを含有する第2のインク受理層とが順次積層して設けられている記録シート(特許文献4。)などが提案されている。
しかしながら、これらは単独では、インキ吸収性、鮮明性は良好であっても、耐水性には劣るなど、要求性能のバランスがとりにくく、2種以上の水性樹脂分散体を使用する場合には水性樹脂分散体同士の相溶性に乏しい等の問題があった。また、水性樹脂分散体を含浸させる場合には、粘度が高く含浸しにくいために、あるいは紙への水性樹脂分散体の付着が十分でないために、充分な性能を有する加工紙を得ることが困難であるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−56587号公報
【特許文献2】特開昭60−248387号公報
【特許文献3】特開昭61−32787号公報
【特許文献4】特開平2−243380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、重合時の安定性が良好であり、機械的安定性、化学的安定性、貯蔵安定性、造膜性、耐溶剤性に優れ、紙の加工剤、特に建材紙用バインダー樹脂として使用した際に、印刷適性、特に水性インキに対する印刷適性に優れる水性樹脂分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体、スチレン、エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル、アミド基含有エチレン性不飽和単量体、その他のエチレン性不飽和単量体を用いて、水性媒体中で乳化重合して得られる紙加工用の水性樹脂分散体により、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、水性樹脂分散体が、固形分100重量部において、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(A)15〜25重量部と、スチレン(B)5〜40重量部と、エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル(C)5〜15重量部と、アミド基含有エチレン性不飽和単量体(D)2〜8重量部、及び、その他のエチレン性不飽和単量体(E)12〜73重量部とからなり、且つ水性媒体中で乳化重合してなることを特徴とする、紙加工用水性樹脂分散体を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、固形分100重量部において、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(A)15〜25重量部と、スチレン(B)5〜40重量部と、エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル(C)5〜15重量部と、アミド基含有エチレン性不飽和単量体(D)2〜8重量部、及び、その他のエチレン性不飽和単量体(E)12〜73重量部とからなり、且つ水性媒体中で乳化重合してなる紙加工用水性樹脂分散体を用いて得られることを特徴とする、加工基材を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の紙加工用水性樹脂分散体は、重合時の安定性が良好であり、機械的安定性、化学的安定性、貯蔵安定性、造膜性、耐溶剤性に優れ、紙の加工剤、特に建材紙用バインダー樹脂として使用した際に、印刷適性、特に水性インキに対する印刷適性に優れる。
本発明の紙加工用水性樹脂分散体を用いてなる加工基材は、紙間強度に優れ、インキの裏抜けによるブロッキングの心配がなく、印刷適性、特に水性インキに対する印刷適性に優れ、加工基材として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するにあたり、必要な事項を以下に述べる。
本発明の紙加工用水性樹脂分散体とは、必須成分として、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(A)と、スチレン(B)と、エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル(C)と、アミド基含有エチレン性不飽和単量体(D)、及びその他のエチレン性不飽和単量体(E)、を含むラジカル重合性モノマーの混合物を、水性媒体中で乳化重合させて得られる水性樹脂分散体である。
【0013】
本発明の紙加工用水性樹脂分散体の乳化重合において用いる、前記シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(A)とは、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロトンニトリル、α−クロロアクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリルを用いることができ、印刷適性を向上させるためには(メタ)アクリロニトリルが好ましく、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
【0014】
前記シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(A)の使用量は、水性樹脂分散体の固形分100重量部に対して、好ましくは15〜25重量部の範囲であり、より好ましくは15〜20重量部の範囲である。
前記シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(A)の使用量がかかる範囲であれば、印刷適性が向上し、インキの裏抜け等によるブロッキングの発生もなく、反応性にも優れ、またエチレン性不飽和単量体としてスチレン(B)を併用した場合に著しい粘度の上昇もなく、乳化重合を正常に進行させることができる。
【0015】
また、本発明の紙加工用樹脂分散体において、スチレン(B)の使用量は、水性樹脂分散体の固形分100重量部に対して、好ましくは5〜40重量部の範囲であり、より好ましくは5〜30重量部の範囲であり、更に好ましくは10〜30重量部の範囲である。前記スチレン(B)の使用量がかかる範囲であれば、アミド基含有エチレン性不飽和単量体(D)が水性樹脂分散体の粒子表面に局在化でき紙間強度が向上し、加工紙の風合いに優れる。
【0016】
また、本発明の紙加工用樹脂分散体の乳化重合において用いる、エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル(C)とは、例えば、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル等が挙げられ、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。前記エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル(C)の中でも、反応性と水性インキに対する印刷適性の面から、ヒドロキシアルキル基の有する炭素原子数が1〜3の範囲のものが好ましく、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチルがより好ましい。
【0017】
前記エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル(C)の使用量は、水性樹脂分散体の固形分100重量部に対して、好ましくは5〜15重量部の範囲であり、より好ましくは7〜13重量部の範囲である。前記エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルの使用量がかかる範囲であれば、印刷適性の向上効果に優れ、反応性も良好でゲル化も起こさず、乳化重合を良好に行うことができる。
【0018】
また、本発明の紙加工用樹脂分散体の乳化重合において用いる、アミド基含有エチレン性不飽和単量体(D)とは、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等が挙げられ、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。これらの中でも(メタ)アクリルアミドが人体に有害性を有するホルムアルデヒドの発生がない点から好ましい。
【0019】
前記アミド基含有エチレン性不飽和単量体(D)の使用量は、水性樹脂分散体の固形分100重量部に対して、好ましくは2〜8部の範囲であり、より好ましくは3〜5重量部の範囲である。前記アミド基含有エチレン性不飽和単量体の使用量がかかる範囲であれば、得られる水性樹脂分散体の粘度が適正な範囲になり紙加工過程での作業性に優れると共に、加工後の印刷適性と紙間強度にも優れる。
【0020】
更に、本発明の紙加工用樹脂分散体の乳化重合において用いる、その他のエチレン性不飽和単量体(E)とは、前記した、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(A)、スチレン(B)、エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル(C)、及びアミド基含有エチレン性不飽和単量体(D)と、共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体であれば、特に限定しないが、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、メタクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸オクチル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、などで例示されるアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステル、1,2−ブタジエン、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の脂肪族共役ジエン単量体、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、2,4−ジブロモスチレン等で示されるエチレン性不飽和芳香族単量体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸およびその無水物、フマル酸、イタコン酸並びに、不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステル、例えば、マレイン酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノノルマルブチル等のエチレン性不飽和カルボン酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の如きビニルエステル、塩化ビニリデン臭化ビニリデン等の如き、ビニリデンハライド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等の如きエチレン性不飽和カルボン酸のグリシジルエステル等が挙げられ、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記その他のエチレン性不飽和単量体(E)の使用量は、水性樹脂分散体の固形分100重量部に対して、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(A)、スチレン(B)、エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル(C)、及びアミド基含有エチレン性不飽和単量体(D)の使用した重量部を差し引いた残りの重量部であり、すなわち、12〜73重量部の範囲である。
【0022】
本発明の紙加工用水性樹脂分散体の製造方法としては、公知慣用の方法を採用でき特に制限はなく、通常はラジカル重合開始剤の存在下、重合溶液を所定温度範囲に保つことにより重合反応を行えばよい。
重合方法としては、例えば、使用する全ての単量体を反応容器に一括で仕込んで重合する回分重合法、あるいは、単量体の一部を重合反応中に連続で添加する半回分重合法などが挙げられ、何れの方法で行ってもよく、特に制限はない。
重合反応中、同一温度に保つ必要はなく、重合反応の進行に伴い適宜温度調整を行いながら、加熱又は徐熱をしながら重合を行ってもよい。
重合温度は使用する単量体や重合開始剤の種類などにより異なるため、特に限定しないが、単一開始剤の場合には、通常30〜100℃の範囲であり、レドックス系重合開始剤の場合にはより低く、逐次添加する場合には30〜95℃の範囲であり、一括で重合を行う場合には反応釜が高圧密閉系であれば安全上問題のない範囲で100℃を超えても構わない。
重合反応器内の雰囲気は特に限定しないが、重合反応を速やかに行わせるためには窒素ガス等の不活性ガスで反応開始前から置換しておくことが好ましい。
重合時間も特に限定しないが、通常1〜40時間である。
【0023】
本発明の紙加工用水性樹脂分散体の製造に用いる乳化剤としては、一般に入手可能な陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤などを、本発明の目的を阻害しない範囲で使用すればよく、特に制限はない。
前記陰イオン性乳化剤としては、例えば、高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩等が挙げられ、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
前記非イオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等が挙げられ、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
前記陽イオン性乳化剤としては、例えば、ドデシルアンモニウムクロライド等のアルキルアンモニウム塩等が挙げられ、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
前記両イオン性乳化剤としては、例えば、ベタインエステル型乳化剤等が挙げられ、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
更に、一般的に「反応性乳化剤」と称される重合性不飽和基を分子内に有する乳化剤を使用することもできる。本発明で使用できる反応性乳化剤としては、例えば、スルホン酸基及びその塩を有する「ラテムルS−180」〔商標;花王(株)製〕、「エレミノールJS−2、RS−30」〔商標;三洋化成工業(株)製〕等;あるいは硫酸基及びその塩を有する「アクアロンKH−05、KH−10」〔商標;第一工業製薬(株)製〕、「アデカリアソープSE−10、SE−20」〔商標;旭電化工業(株)製〕等;あるいはリン酸基を有する「ニューフロンティアA−229E」〔商標;第一工業製薬(株)製〕等;あるいは非イオン性親水基を有する「アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50」〔商標;第一工業製薬(株)製〕等が挙げられ、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
【0024】
乳化重合時に用いる重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が用いられ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類、過酸化水素等が挙げられ、これら過酸化物のみを用いてラジカル重合を行うか、或いは、前記過酸化物と、アスコルビン酸、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、塩化第二鉄等のような還元剤とを併用したレドックス重合開始剤系によっても重合でき、また、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ系開始剤を使用することも可能であり、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
前記重合開始剤の内、有機過酸化物類としては、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。
また、前記重合開始剤の内、還元性有機化合物としては、例えば、アスコルビン酸およびその塩、エリソルビン酸およびその塩、酒石酸およびその塩、クエン酸およびその塩、ホルムアルデヒドスルホキシラートの金属塩等が挙げられ、上記有機過酸化物類と併用して、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。
【0025】
本発明において、乳化重合の際に重合体の分子量を調整する必要がある場合は、分子量調整剤として連鎖移動能を有する化合物を用いることができ、かかる化合物として、例えば、ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸、チオグリセリン等のメルカプタン類、又はα−メチルスチレン・ダイマー等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。
【0026】
更に、合成した紙加工用水性樹脂分散体は、酸性では紙に加工した際に紙焼け等の問題が生じる場合があるため、中和剤により中和することが好ましい。
かかる中和剤として用いる塩基性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物;あるいは水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属化合物;あるいはアンモニア;あるいはモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジメチルプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等の水溶性有機アミン類等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中で、得られる被膜の耐水性を特に向上させたい場合は、常温或いは加熱により飛散するアンモニアを使用することが好ましい。
【0027】
次いで、本発明の加工基材とは、固形分100重量部において、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(A)15〜25重量部と、スチレン(B)5〜40重量部と、エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル(C)5〜15重量部と、アミド基含有エチレン性不飽和単量体(D)2〜8重量部、及び、その他のエチレン性不飽和単量体(E)12〜73重量部とからなり、且つ水性媒体中で乳化重合してなる前記紙加工用水性樹脂分散体を用いて、処理し加工してなることを特徴とする。
【0028】
本発明でいう基材とは、紙の他に、不織布(パルプ、ポリエステルなど)や繊維基材、木材、フイルムなどのことをいう。
【0029】
本発明の加工基材の加工方法としては、特に限定しないが、例えば、含浸加工(ディッピング、スプレー)や塗工(エアーナイフ、ロールコーター、フローコーターなど)、サイズプレス加工などの方法が挙げられる。
【0030】
本発明の加工基材の特徴は、紙間強度(相関剥離)、インキ着肉性、耐溶剤性、耐候性などに優れ、建材化粧紙、壁紙、建築内装材など広範囲の用途に利用可能である。
【0031】
以下、本発明を実施例及び比較例により、一層具体的に説明するが、本発明はそれら実施例のみに限定されるものではない。また、文中「部」及び「%」は特に断りのない限り重量基準であるものとする。
尚、諸物性は以下に記した方法により評価した。
【0032】
[印刷適性の評価方法]
紙加工用樹脂含浸紙をグラビア印刷機(HOEI SEIKO CO.,LTD製、DICOM PROOFER DP−II)を用いてベタ印刷した。印刷後の濃度を濃色計と目視により、下記の基準に従い評価した。
印刷適性の評価基準
○;濃度が濃く、特性が良好。
△;濃度が薄く、実用上問題あり。
×;濃度の薄さの程度が酷く、特性不良である。
【0033】
[インキ裏抜けの評価方法]
紙加工用樹脂含浸紙にインキ溶剤を垂らし、インキ裏抜けの状態を以下の基準に従い評価した。
インキ裏抜けの評価基準
○;インキは全く含浸紙の裏に浸透しない。
△;インキは若干浸透するが実用上問題ない程度である
×;インキは浸透し実用上問題ある。
【0034】
[紙間強度の評価方法]
セロハンテープ〔商標;品番CT405A、NICHIBAN(株)製〕を紙加工用樹脂含浸紙(15×100mm)の両面に完全に付着させ、セロハンテープを剥離試験機(ORIEITEC製、TENSIRON)を用いて剥離試験を行い、積分平均荷重(gf)により評価した。
紙間強度の評価基準
積分平均荷重(gf)
300gf以上 ;評価5
280以上300gf未満;評価4
260以上280gf未満;評価3
240以上260gf未満;評価2
240gf未満 ;評価1
【実施例1】
【0035】
[実施例1]
表1に示した如く、撹拌装置を備えた重合容器に水79部を仕込み、80℃に昇温した。別の容器にS−20F[アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、第一工業製薬(株)製]を10部、ブチルアクリレート46部、メタクリル酸メチル17部、スチレン10部、アクリロニトリル15部、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル5部、アクリルアミド4部、メタクリル酸2部、アクリル酸1部、水30部を仕込み、攪拌し、乳化を行い、乳化液を調整した。
前記乳化液の3重量%を前記重合容器に仕込み、10%過硫酸ナトリウム水溶液0.5部を添加し、重合を開始させた。残りのモノマー混合物の乳化液と10%過硫酸ナトリウム水溶液5部を4時間かけて滴下し、重合を行った。滴下終了後、10%過硫酸ナトリウム水溶液1部を投入し、80℃にて2時間保持した。次いで冷却を行い、アンモニア水でエマルジョンのpHを7.0に調整し、粘度264mPa・s、固形分44.6%の本発明の紙加工用水性樹脂分散体(1)を得た。
かくして得られた本発明の紙加工用水性樹脂分散体(1)に水を加え、固形分濃度を20%にした含浸液を調製し、紙に浸漬含浸させ、これを絞り、120℃×5分で乾燥し、カレンダー処理(70℃、線圧力70kg/cm、2nip)した後の含浸加工紙の諸物性を測定評価した。本発明の加工基材である含浸加工紙(1)の測定結果を表2に示す。
【実施例2】
【0036】
[実施例2]
表1に示した如く、撹拌装置を備えた重合容器に水79部を仕込み、80℃に昇温した。別の容器にS−20F[アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、第一工業製薬(株)製]を10部、ブチルアクリレート47部、メタクリル酸メチル18部、スチレン10部、アクリロニトリル15部、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル5部、アクリルアミド3部、メタクリル酸2部、水30部を仕込み、攪拌し、乳化を行い、乳化液を調整した。
前記乳化液の3重量%を前記重合容器に仕込み、10%過硫酸ナトリウム水溶液0.5部を添加し、重合を開始させた。残りのモノマー混合物の乳化液と10%過硫酸ナトリウム水溶液5部を4時間かけて滴下し、重合を行った。滴下終了後、10%過硫酸ナトリウム水溶液1部を投入し、80℃にて2時間保持した。次いで冷却を行い、アンモニア水でエマルジョンのpHを7.0に調整し、粘度72mPa・s、固形分44.4%の本発明の紙加工用水性樹脂分散体(2)を得た。
かくして得られた本発明の紙加工用水性樹脂分散体(2)を用いて、実施例1と同様にして、本発明の加工基材である含浸加工紙(2)を作成し、測定結果を表2に示す。
【実施例3】
【0037】
[実施例3]
表1に示した如く、撹拌装置を備えた重合容器に水79部を仕込み、80℃に昇温した。別の容器にS−20F[アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、第一工業製薬(株)製]を10部、ブチルアクリレート47部、メタクリル酸メチル17部、スチレン10部、アクリロニトリル15部、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル5部、アクリルアミド4部、メタクリル酸2部、水30部を仕込み、攪拌し、乳化を行い、乳化液を調整した。
前記乳化液の3重量%を前記重合容器に仕込み、10%過硫酸ナトリウム水溶液0.5部を添加し、重合を開始させた。残りのモノマー混合物の乳化液と10%過硫酸ナトリウム水溶液5部を4時間かけて滴下し、重合を行った。滴下終了後、10%過硫酸ナトリウム水溶液1部を投入し、80℃にて2時間保持した。次いで冷却を行い、アンモニア水でエマルジョンのpHを7.0に調整し、粘度66mPa・s、固形分44.5%の本発明の紙加工用水性樹脂分散体(3)を得た。
かくして得られた本発明の紙加工用水性樹脂分散体(3)を用いて、実施例1と同様にして、本発明の加工基材である含浸加工紙(3)を作成し、測定結果を表2に示す。
【実施例4】
【0038】
[実施例4]
表1に示した如く、撹拌装置を備えた重合容器に水79部を仕込み、80℃に昇温した。別の容器にS−20F[アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、第一工業製薬(株)製]を10部、ブチルアクリレート47部、メタクリル酸メチル12部、スチレン10部、アクリロニトリル20部、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル5部、アクリルアミド3部、メタクリル酸2部、アクリル酸1部、水30部を仕込み、攪拌し、乳化を行い、乳化液を調整した。
前記乳化液の3重量%を前記重合容器に仕込み、10%過硫酸ナトリウム水溶液0.5部を添加し、重合を開始させた。残りのモノマー混合物の乳化液と10%過硫酸ナトリウム水溶液5部を4時間かけて滴下し、重合を行った。滴下終了後、10%過硫酸ナトリウム水溶液1部を投入し、80℃にて2時間保持した。次いで冷却を行い、アンモニア水でエマルジョンのpHを7.0に調整し、粘度275mPa・s、固形分44.4%の本発明の紙加工用水性樹脂分散体(4)を得た。
かくして得られた本発明の紙加工用水性樹脂分散体(4)を用いて、実施例1と同様にして、本発明の加工基材である含浸加工紙(4)を作成し、測定結果を表2に示す。
【0039】
[比較例1]
表1に示した如く、撹拌装置を備えた重合容器に水79部を仕込み、80℃に昇温した。別の容器にS−20F[アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、第一工業製薬(株)製]を10部、ブチルアクリレート51部、メタクリル酸メチル47部、メタクリル酸2部、水30部を仕込み、攪拌し、乳化を行い、乳化液を調整した。
前記乳化液の3重量%を前記重合容器に仕込み、10%過硫酸ナトリウム水溶液0.5部を添加し、重合を開始させた。残りのモノマー混合物の乳化液と10%過硫酸ナトリウム水溶液5部を4時間かけて滴下し、重合を行った。滴下終了後、10%過硫酸ナトリウム水溶液1部を投入し、80℃にて2時間保持した。次いで冷却を行い、アンモニア水でエマルジョンのpHを7.0に調整し、粘度14mPa・s、固形分45.0%の紙加工用水性樹脂分散体(5)を得た。
かくして得られた紙加工用水性樹脂分散体(5)を用いて、実施例1と同様にして、加工基材である含浸加工紙(5)を作成し、測定結果を表2に示す。
【0040】
[比較例2]
表1に示した如く、撹拌装置を備えた重合容器に水79部を仕込み、80℃に昇温した。別の容器にS−20F[アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、第一工業製薬(株)製]を10部、ブチルアクリレート51部、メタクリル酸メチル37部、スチレン10部、メタクリル酸2部、水30部を仕込み、攪拌し、乳化を行い、乳化液を調整した。
前記乳化液の3重量%を前記重合容器に仕込み、10%過硫酸ナトリウム水溶液0.5部を添加し、重合を開始させた。残りのモノマー混合物の乳化液と10%過硫酸ナトリウム水溶液5部を4時間かけて滴下し、重合を行った。滴下終了後、10%過硫酸ナトリウム水溶液1部を投入し、80℃にて2時間保持した。次いで冷却を行い、アンモニア水でエマルジョンのpHを7.0に調整し、粘度21mPa・s、固形分44.9%の紙加工用水性樹脂分散体(6)を得た。
かくして得られた紙加工用水性樹脂分散体(6)を用いて、実施例1と同様にして、加工基材である含浸加工紙(6)を作成し、測定結果を表2に示す。
【0041】
[比較例3]
表1に示した如く、撹拌装置を備えた重合容器に水79部を仕込み、80℃に昇温した。別の容器にS−20F[アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、第一工業製薬(株)製]を10部、ブチルアクリレート51部、メタクリル酸メチル22部、スチレン10部、アクリロニトリル15部、メタクリル酸2部、水30部を仕込み、攪拌し、乳化を行い、乳化液を調整した。
前記乳化液の3重量%を前記重合容器に仕込み、10%過硫酸ナトリウム水溶液0.5部を添加し、重合を開始させた。残りのモノマー混合物の乳化液と10%過硫酸ナトリウム水溶液5部を4時間かけて滴下し、重合を行った。滴下終了後、10%過硫酸ナトリウム水溶液1部を投入し、80℃にて2時間保持した。次いで冷却を行い、アンモニア水でエマルジョンのpHを7.0に調整し、粘度25mPa・s、固形分44.6%の紙加工用水性樹脂分散体(7)を得た。
かくして得られた紙加工用水性樹脂分散体(7)を用いて、実施例1と同様にして、加工基材である含浸加工紙(7)を作成し、測定結果を表2に示す。
【0042】
[比較例4]
表1に示した如く、撹拌装置を備えた重合容器に水79部を仕込み、80℃に昇温した。別の容器にS−20F[アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、第一工業製薬(株)製]を10部、ブチルアクリレート51部、メタクリル酸メチル18部、スチレン10部、アクリロニトリル15部、アクリルアミド4部、メタクリル酸2部、水30部を仕込み、攪拌し、乳化を行い、乳化液を調整した。
前記乳化液の3重量%を前記重合容器に仕込み、10%過硫酸ナトリウム水溶液0.5部を添加し、重合を開始させた。残りのモノマー混合物の乳化液と10%過硫酸ナトリウム水溶液5部を4時間かけて滴下し、重合を行った。滴下終了後、10%過硫酸ナトリウム水溶液1部を投入し、80℃にて2時間保持した。次いで冷却を行い、アンモニア水でエマルジョンのpHを7.0に調整し、粘度120mPa・s、固形分44.6%の紙加工用水性樹脂分散体(8)を得た。
かくして得られた紙加工用水性樹脂分散体(8)を用いて、実施例1と同様にして、加工基材である含浸加工紙(8)を作成し、測定結果を表2に示す。
【0043】
[比較例5]
表1に示した如く、撹拌装置を備えた重合容器に水79部を仕込み、80℃に昇温した。別の容器にS−20F[アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、第一工業製薬(株)製]を10部、ブチルアクリレート51部、メタクリル酸メチル30部、アクリロニトリル15部、アクリルアミド2部、メタクリル酸2部、水30部を仕込み、攪拌し、乳化を行い、乳化液を調整した。
前記乳化液の3重量%を前記重合容器に仕込み、10%過硫酸ナトリウム水溶液0.5部を添加し、重合を開始させた。残りのモノマー混合物の乳化液と10%過硫酸ナトリウム水溶液5部を4時間かけて滴下し、重合を行った。滴下終了後、10%過硫酸ナトリウム水溶液1部を投入し、80℃にて2時間保持した。次いで冷却を行い、アンモニア水でエマルジョンのpHを7.0に調整し、粘度86mPa・s、固形分44.5%の紙加工用水性樹脂分散体(9)を得た。
かくして得られた紙加工用水性樹脂分散体(9)を用いて、実施例1と同様にして、加工基材である含浸加工紙(9)を作成し、測定結果を表2に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1中の略号は、下記の化合物名を表す。
AN ;アクリロニトリル
St ;スチレン
β−HEA ;アクリル酸−2−ヒドロキシエチル
β−HEMA;メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル
β−HPA ;アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル
AM ;アクリルアミド
BA ;アクリル酸ブチル
MMA ;メタアクリル酸メチル
MAA ;メタアクリル酸
AA ;アクリル酸
【0046】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の紙加工用水性樹脂分散体は、重合時の安定性が良好であり、機械的安定性、化学的安定性、貯蔵安定性、造膜性、耐溶剤性に優れ、紙の加工剤、特に建材紙用バインダー樹脂として使用した際に、印刷適性、特に水性インキに対する印刷適性に優れる。
また、本発明の紙加工用水性樹脂分散体を用いてなる加工基材は、建材用化粧紙、壁紙、建築内装材など広範囲に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性樹脂分散体が、固形分100重量部において、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(A)15〜25重量部と、スチレン(B)5〜40重量部と、エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル(C)5〜15重量部と、アミド基含有エチレン性不飽和単量体(D)2〜8重量部、及び、その他のエチレン性不飽和単量体(E)12〜73重量部とからなり、且つ水性媒体中で乳化重合してなることを特徴とする、紙加工用水性樹脂分散体。
【請求項2】
前記シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(A)が、(メタ)アクリロニトリルである、請求項1記載の紙加工用水性樹脂分散体。
【請求項3】
前記アミド基含有エチレン性不飽和単量体(D)が、(メタ)アクリルアミドである、請求項1又は2記載の紙加工用水性樹脂分散体。
【請求項4】
固形分100重量部において、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(A)15〜25重量部と、スチレン(B)5〜40重量部と、エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル(C)5〜15重量部と、アミド基含有エチレン性不飽和単量体(D)2〜8重量部、及び、その他のエチレン性不飽和単量体(E)12〜73重量部とからなり、且つ水性媒体中で乳化重合してなる紙加工用水性樹脂分散体を用いて得られることを特徴とする、加工基材。


【公開番号】特開2006−8763(P2006−8763A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184811(P2004−184811)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】