説明

紙塗工用樹脂組成物

【課題】ホルムアルデヒドが発生せず低温下貯蔵安定性に優れ、高耐水性を付与する塗工用樹脂組成物の提供。
【解決手段】ポリアミン類、脂環式二塩基性カルボン酸類および/またはグリコール類のモル数1モルに対し1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸類を反応させた生成物、尿素類、架橋性化合物のうち4または5成分を反応させた樹脂組成物であり、化合物(I)および(II)の合計を1.5重量%未満とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙の塗工、特に顔料及び水性バインダーと混合して紙に塗工するのに有用な紙塗工用樹脂組成物、及びそれの紙塗工への適用に関するものである。さらに詳しくは、ホルムアルデヒドの発生がなく、紙に対して優れた耐水性を付与することができる紙塗工用組成物、及びそれに有用な紙塗工用樹脂組成物を提供しようとするものである。なお、本明細書で用いる「紙」という語は広義の意味であり、狭義の意味でいう紙及び板紙を包含する。
【背景技術】
【0002】
顔料と水性バインダーを主体とした塗工組成物を紙に塗布し、乾燥、カレンダー処理などの必要な処理を施して得られる塗工紙は、その優れた印刷効果などの特徴から、商業印刷物や雑誌・書籍などに広く用いられているが、品質要求の高度化、印刷の高速化などに伴って、塗工紙の品質改良努力が今もなお続けられている。とりわけ印刷の多くを占めるオフセット印刷においては、湿し水の影響下でのインキ受理性、ウエットピックなどの耐水性、及び輪転印刷での耐ブリスター性の改良・向上が、業界の重要な課題となっている。
【0003】
従来よりこうした課題に対して、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、ポリアミドポリ尿素−ホルムアルデヒド樹脂(特許文献1)、ブロックグリオキザール樹脂(特許文献2)、アミン−エピハロヒドリン樹脂(特許文献3)、ポリアミドポリ尿素−エピハロヒドリン−ホルムアルデヒド樹脂(特許文献4)など、耐水化剤やバインダー用添加剤として添加する手法が開示されている。しかし、これら従来の耐水化剤やバインダー用添加剤は、最近の品質要求の高度化やそれに伴う配合組成の変化により現在では、一部の特性において重大な欠点又は効果の不十分さが認められることから、実用上必ずしも満足しうるものではない。
【0004】
例えば、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂や尿素−ホルムアルデヒド樹脂などのいわゆるアミノプラスト樹脂は、作業時の、あるいは塗工紙からのホルムアルデヒドの発生が多いのみならず、インキ受理性や耐ブリスター性の改良効果がほとんど得られないことや、塗工組成物のpHが高くなると耐水化効果も発揮されにくくなることなどの問題がある。またポリアミドポリ尿素-ホルムアルデヒド樹脂はアミノプラスト樹脂同様、作業時の、あるいは塗工紙からのホルムアルデヒドの発生の問題がある。一方、ホルムアルデヒド不含のバインダー用添加剤として知られているブロックグリオキザール樹脂は、湿し水に対する耐水性をある程度付与できるものの、インキ受理性や耐ブリスター性などの塗工紙品質の改良にはほとんど効果がない。また、アミン−エピハロヒドリン樹脂も、耐水性やインキ受理性などの塗工紙品質の改良にあまり有効でないとともに、エピハロヒドリン由来の吸着性有機ハロゲン化合物が存在するため、その使用が差し控えられる傾向にある。
【0005】
さらに昨今では、品質要求の高度化、印刷の高速化が進行しており、さらなる塗工紙の品質改良努力が今もなお続けられている。とりわけ印刷の多くを占めるオフセット印刷においては、湿し水の影響下でのウエットピックなどの耐水性の改良・向上が、業界の重要な課題となっている。
【0006】
こういう課題に対して、本発明者らは、先にインキ受理性および耐水性に優れた塗工紙を与える紙塗工用樹脂組成物として、ポリアミン類、脂環式二塩基性カルボン酸類、尿素類、アルキル化剤を反応せしめてなる樹脂組成物(特許文献5)を提案した。 前記樹脂組成物は、従来の塗工用組成物よりはインキ受理性や耐水性が向上しているものの耐水性と低温(10℃以下)での製品貯蔵安定性については、さらなる改良が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特公昭44−11667号公報
【0008】
【特許文献2】特開昭63−120197号公報
【0009】
【特許文献3】特公昭53−44567号公報
【0010】
【特許文献4】特開昭58−180529号公報
【0011】
【特許文献5】特開2003−227096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、ホルムアルデヒドの発生がなく、かつ低温(10℃以下)における製品貯蔵安定性に優れ、さらに優れた耐水性を有する塗工紙を与える紙塗工用樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべくホルムアルデヒド及びホルムアルデヒドを発生させる化合物を含まない樹脂組成物について鋭意検討した結果、(A)ポリアミン類、(B)(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類および/または(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物、(C)尿素類、(D)架橋性化合物の4または5成分を反応せしめてなる樹脂組成物であって、以下に示す構造を有する化合物(I)および(II)の合計が1.5重量%未満であることを特徴とする紙塗工用樹脂組成物が、従来の紙塗工用樹脂組成物と同等の耐水性を有し、かつ低温(10℃以下)における製品貯蔵安定性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【化1】

(Rはそれぞれ独立して水素またはメチル基をあらわす)
【発明の効果】
【0014】
本発明の紙塗工用樹脂組成物は、従来の紙塗工用樹脂組成物と同等の耐水性、および優れた低温(10℃以下)貯蔵安定性を有する。また、本発明の紙塗工用樹脂組成物は印刷適性向上剤および耐水化剤にも使用し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における(A)ポリアミン類とは、分子中に1級又は2級アミノ基を少なくとも2個有する脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、複素環ポリアミンであり、例えば、エチレンイミンを重合して得られるポリエチレンイミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の炭素数1〜10のアルキレン基を含有するアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、3−アザヘキサン−1,6−ジアミン、4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン等のポリアルキレンポリアミン;イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂環式ポリアミンが挙げられる。
【0016】
ここで複素環ポリアミンとは、分子中に窒素原子、酸素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を少なくとも1個含有する複素環を含み、1級又は2級アミノ基を少なくとも2個有するポリアミンのことである。中でも、複素環に窒素原子を含有する複素環ポリアミンが好ましく、具体例としては、ピペラジン、ホモピペラジン等のような複素環ジアミン類;N−アミノエチルピペラジン、N−アミノプロピルピペラジン、及び1,4−ビス(アミノプロピル)ピペラジンのような複素環アミンとアミノアルキル基とからなる複素環ポリアミンなどが挙げられる。
【0017】
(A)ポリアミン類として、異なる2種類以上のポリアミン類を用いてもよい。ポリアミン類としては、中でも、ポリアルキレンポリアミンが好ましく、とりわけ、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンが好適である。
【0018】
本発明における(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類とは、分子中に2個以上のカルボキシル基を有し、分子中に二重結合を有していてもよい脂環式二塩基性カルボン酸、該カルボン酸と炭素数1〜4のアルコールとからなるエステル類、あるいは該カルボン酸の無水物であることができる。
【0019】
(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類のうち、遊離酸としては、例えば、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、3−メチルテトラヒドロフタル酸、4−メチルテトラヒドロフタル酸などが挙げられる。中でもテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、3−メチルテトラヒドロフタル酸及び4−メチルテトラヒドロフタル酸が好ましい。
【0020】
(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類のうち、エステル類としては、例えば、前記脂環式二塩基性カルボン酸と、メタノール、エタノールなどの低級アルコールとからなる低級エステル類、上記遊離酸とグリコール類とのポリエステル類などが挙げられる。
【0021】
(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類のうち、酸無水物としては、例えば、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。中でもテトラヒドロ無水フタル酸、3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸が好ましい。
【0022】
本発明の(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物において用いられるグリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール等のアルキレングリコール類、ブテンジオール、オクテンジオール等のアルケニレングリコール類、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール類等が例示され、中でもエチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンが好適に使用される。これらグリコール類は、単独で使用しても、あるいは異なる2種類以上を併用してもよい。
【0023】
(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物としては、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、3−メチルテトラヒドロフタル酸及び4−メチルテトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、および4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸から選ばれる少なくとも1種類の脂環式二塩基性カルボン酸類とエチレングリコール又はジエチレングリコール又はグリセリンから選ばれる少なくとも1種類のグリコール類との反応生成物が好ましく、テトラヒドロ無水フタル酸とエチレングリコール、テトラヒドロ無水フタル酸、3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、および4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸とエチレングリコールの反応生成物がさらに好ましい。
【0024】
(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物は、グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られ、グリコール類1モルに対する脂環式二塩基性カルボン酸類のモル量は、1モルより多ければよく、グリコール類のモル数1モルに対し、脂環式二塩基性カルボン酸類のモル量が1モルより少ない場合、耐水性が低下する傾向がある。(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物の反応条件としては、必要に応じて生成する水を留去しながら、通常、温度100〜200℃、好ましくは120〜180℃で2〜10時間、好ましくは3〜8時間攪拌することによって得ることができる。
【0025】
これらの(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類や(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物は、それぞれ単独で用いても、また2種以上組み合わせて用いてもよい。(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類や(B−2)分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物は、(A)ポリアミン類1モルに対して、一般的には0.05〜0.7モルの範囲で、好ましくは0.1〜0.6モルの範囲で、更に好ましくは0.2〜0.5モルの範囲で用いられる。(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類や(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物が(A)ポリアミン類1モルに対して、0.05モルを下回ると耐水性が低下する傾向があり、0.7モルを上回ると低温(10℃以下)貯蔵安定性が悪化する傾向がある。
【0026】
本発明における(C)尿素類としては、例えば、尿素、メチル尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン、1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノン等が挙げられ、中でも尿素が好適である。
【0027】
これらの(C)尿素類は、それぞれ単独で用いても、また2種以上組み合わせて用いてもよい。(C)尿素類は、(A)ポリアミン類に含有される1級および2級アミノ基の合計モル数(x)から、(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類や(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物に含有されるカルボキシル基のモル数(y)を差し引いたモル数をモル数(z)((z)=(x)−(y))としたとき、(尿素類のモル数)/(z)が、一般的には0.05〜1.5モル比の範囲で、好ましくは0.05〜1.2モル比の範囲で、更に好ましくは0.05〜1.0モル比の範囲で、最も好適には0.05〜0.8モルの範囲で用いられる。(尿素類のモル数)/(z)が、0.05モル比を下回ったり、1.2モル比を上回ったりすると耐水性が低下する傾向がある。
【0028】
本発明における(D)架橋性化合物としては、例えば、エピハロヒドリン類、モノハロヒドリン類、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類、グリシジル化合物又はイソシアネート類等が挙げられる。(D)架橋性化合物のうちのエピハロヒドリン類は、次の式(1)で示される。
【0029】
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を表し、wは1〜3の整数を表す。)で示される。
【0030】
エピハロヒドリン類の好ましい例としては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンなどが挙げられる。
(D)架橋性化合物のうちのモノハロヒドリン類は、式(2)
【0031】
【化2】

(式中、Xはハロゲン原子を表し、wは1〜3の整数を表す。)で示される。
【0032】
モノハロヒドリンとしては、例えば、エチレンクロロヒドリン、エチレンブロモヒドリン等が挙げられる。
【0033】
(D)架橋性化合物のうちのα,γ−ジハロ−β−ヒドリン類は、式(3)
【0034】
【化3】

(式中、Xはハロゲン原子等を表し、Yはハロゲン原子又は水酸基を表し、Zは前記Yがハロゲン原子のとき水酸基を表し、前記Yが水酸基のときハロゲン原子を表す。)で示される。
【0035】
かかるα,γ−ジハロ−β−ヒドリン類としては、例えば1,3−ジクロロ−2−プロパノールなどが挙げられる。
【0036】
(D)架橋性化合物のうちのグリシジル化合物は通常、分子内にグリシジル基を少なくとも2個有するものである。その具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテルやプロピレングリコールジグリシジルエーテルのようなアルキレングリコールジグリシジルエーテル類、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルやポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルのようなポリオキシアルキレングリコールジグリシジルエーテル類、レゾルシンジグリシジルエーテルやビスフェノールAジグリシジルエーテルのような芳香族ジグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパンジ−又はトリ−グリシジルエーテル、ソルビトールジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−又はヘキサ−グリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジ−、トリ−又はテトラ−グリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0037】
(D)架橋性化合物のうちのイソシアネート類は通常、分子内にイソシアナト基を少なくとも2個有するものである。その具体例としては、イソホロンジイソシアネート、3−(2−イソシアナトシクロヘキシル)プロピルイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、 トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネートのような脂環式イソシアネート類、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトヘキサン酸メチル(リジンジイソシアネートとも呼ばれる)のような脂肪族イソシアネート類及び、トリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアナトフェニル)チオフォスフェート、フェニレンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネートのような芳香族イソシアネート類が挙げられる。
【0038】
これらの(D)架橋性化合物は、それぞれ単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。もちろん、エピハロヒドリン類、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類、グリシジル化合物及びイソシアネート類のうちで、異なる種類に属するものを2種以上併用することもできる。中でもエピハロヒドリン類、及びα,γ−ジハロ−β−ヒドリン類が工業的に好ましく、とりわけエピハロヒドリン類が好適である。(D)架橋性化合物を反応させる場合、(D)架橋性化合物は、通常、(A)ポリアミン類1モルに対して、0.1モル以上、1モル未満の範囲で、好ましくは0.2モル以上、0.8モル以下の範囲で用いられる。
【0039】
(A)ポリアミン類、(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類や(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物、(C)尿素類、及び(D)架橋性化合物の4または5成分を反応させる場合、例えば、(ア):(A)ポリアミン類と(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類および/または(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物とをアミド化反応させたのち、続いて(C)尿素類と脱アンモニア反応せしめ、さらに(D)架橋性化合物を反応させる方法、(イ):(A)ポリアミン類と(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類および/または(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物とをアミド化反応させたのち、続いて(D)架橋性化合物を反応せしめ、さらに(C)尿素類と脱アンモニア反応させる方法、(ウ):(A)ポリアミン類と(D)架橋性化合物とを反応させたのち、続いて(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類および/または(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物とをアミド化反応せしめ、さらに(C)尿素類と脱アンモニア反応させる方法、(エ):(A)ポリアミン類と(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類および/または(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物と(C)尿素類と(D)架橋性化合物を同時に反応させ、アミド化反応と脱アンモニア反応と架橋反応を同時にさせる方法などが例示されるが、架橋性化合物(D)を反応させたあと、尿素類(C)を脱アンモニア反応させた方が、耐水性がより高くなり好ましい。
【0040】
(A)ポリアミン類と(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類および/または(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物との反応は(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類や(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物の種類によって、反応温度および反応時間が異なるが、例えば、(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類および/または(B−2)分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物と、ポリアミン類(A)とをアミド化反応させる場合、通常、130〜250℃で、水等を留去しながら、2〜10時間反応させる方法;(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類の脂環式二塩基性カルボン酸無水物とポリアミン類(A)とをアミド化反応させる場合、通常、50〜200℃程度で、水等を留去しながら、1〜10時間程度反応させる方法;(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類の脂環式二塩基性カルボン酸エステルと(A)ポリアミン類とをアミド化反応させる場合、通常、80〜250℃程度で、水またはアルコール等を留去しながら、2〜10時間反応させる方法等が挙げられる。
【0041】
(A)ポリアミン類のアミノ基と(C)尿素類との脱アンモニア反応は、通常、80〜180℃、好ましくは90〜160℃で、発生するアンモニアを留去しながら4〜30時間、好ましくは5〜20時間反応させる方法等が挙げられる。
【0042】
(A)ポリアミン類のアミノ基と(D)架橋性化合物との反応は、通常、30〜120℃、好ましくは50〜100℃にて1〜20時間、好ましくは2〜10時間反応させる方法等が挙げられる。
【0043】
このようにして得られた紙塗工用樹脂組成物は、必要に応じて、リン酸、硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸や、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、アジピン酸などの有機酸を用いて、pH6〜10に調整してもよい。
【0044】
この紙塗工用樹脂組成物は、以下に示す構造を有する化合物(I)および(II)の合計が1.5重量%未満、より好ましくは1.3%未満にすることにより、低温(10℃以下)での優れた貯蔵安定性が達成される。化合物(I)としては、例えば、N,N’−ビス(N’’−(1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド)エチル)−2−イミダゾリジノン、N−(N’’−(1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド)エチル)−N’−(N’’’−(3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド)エチル)−2−イミダゾリジノン等が挙げられ、化合物(II)としては、例えば、N,N’−ビス(N’’−(1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド)エチル)−N,N’−ジカルバモイルエチレンジアミン、N−(N’’−(1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド)エチル)−N’’−(N’’’−(3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド)エチル)−N,N’−ジカルバモイルエチレンジアミン等が挙げられる。 これらの化合物(I)および(II)の合計が1.5重量%以上の場合、低温(10℃以下)での貯蔵安定性が悪化する。
【化2】

(Rはそれぞれ独立して水素またはメチル基をあらわす)
【0045】
かくして得られた紙塗工用樹脂組成物は、顔料および水性バインダーとともに紙用塗工組成物として調整される。ここで、顔料としては、例えば、白色無機顔料、白色有機顔料などが挙げられる。白色無機顔料の具体例としては、カオリン、タルク、炭酸カルシウム(重質又は軽質)、水酸化アルミニウム、サチンホワイト、酸化チタンなどが挙げられる。また白色有機顔料の具体例としては、例えば、ポリスチレン、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。顔料として、2種類以上の顔料を使用してもよい。
【0046】
水性バインダーとしては、例えば、水溶性バインダー、水乳化系バインダーなどが挙げられる。水溶性バインダーの具体例としては、酸化でんぷん、無変性でんぷん、リン酸エステルなどで変性されたでんぷん等のでんぷん類;カゼイン、ゼラチンなどの水溶性プロテイン;カルボキシメチルセルロースなどの変性セルロース類;部分または完全けん化されたポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。水乳化系バインダーの具体例としては、カルボキシル基やニトリル基を有することもあるスチレン−ブタジエン系樹脂(SBRラテックス)、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂(NBRラテックス)、クロロプレン系樹脂(CRラテックス)、メチルメタクリレート−ブタジエン系樹脂(MBRラテックス)、アクリル系モノマー2種以上の共重合樹脂、アクリル系モノマーと酢酸ビニルとの共重合樹脂、アクリル系モノマーとスチレンとの共重合樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレン−酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。水性バインダーとして、2種類以上の異なる水性バインダーを使用しても良い。
【0047】
本発明の紙用塗工組成物における顔料、水性バインダー(固形分)および紙塗工用樹脂(固形分)の重量比率としては、通常、顔料100重量部に対して、水性バインダーが1〜200重量部、とりわけ好ましくは5〜50重量部であり、紙塗工用樹脂組成物が0.01〜5重量部、とりわけ好ましくは、0.05〜2重量部である。
【0048】
紙用塗工組成物を調製するにあたり、顔料、水性バインダー及び樹脂組成物の添加混合順序は任意であり、特に制限されない。例えば、樹脂組成物を顔料及び水性バインダーの混合物に添加混合する方法、樹脂組成物を予め顔料又は水性バインダーに添加混合しておき、これを残りの成分と配合する方法などが採用できる。
【0049】
さらに、塗工組成物に、例えば、アロンT−40(東亞合成社製)、スミレーズレジンDS-10(住友化学社製)などの分散剤、粘度・流動性調整剤、消泡剤、防腐剤、潤滑剤、保水剤、染料・有色顔料等の着色剤、ならびに、本発明の紙塗工用樹脂とは異なる印刷適性向上剤および耐水化剤などを含有せしめてもよい。
【0050】
本発明の塗工紙とは、前記紙塗工用組成物を片面または両面に含有する紙である。紙の製造方法としては、例えば、製紙科学(中外産業調査会発行(1982))、Pulp and Paper:Chemistry and Chemical Technology、 Vol.II、 John Wiley & Sons (1980)などに記載の方法により、化学パルプ、機械パルプ、故紙パルプなどを抄紙する方法などが挙げられる。本発明に用いられる紙に、必要により、填料、サイジング剤、バンド剤、紙力増強剤、染料などの添加剤を含有せしめた紙であってもよい。なお、本発明の紙とは広義の意味であって、狭義の意味でいう紙のほか、いわゆる板紙をも包含する。
【0051】
本発明の塗工紙の製造方法としては、例えば、紙に塗工組成物を1回塗工する方法、塗工組成物の配合比率が同じまたは異なる塗工組成物を複数回塗工する方法などが挙げられる。ここで、塗工方法としては、例えば、ブレードコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター、キャストコーターなどのコーターを用いて塗工組成物を塗工原紙に塗布し、その後、必要な乾燥を行い、さらに必要に応じてスーパーカレンダーなどで平滑化処理を施す方法などが挙げられる。
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定される物ではない。例中、部および%は、特に断わらないかぎり重量基準である。また、固形分は、JIS K6828の4.9に準じて乾燥することにより求めた蒸発残分であり、pHは、ガラス電極式水素イオン濃度計〔東亜電波工業社製〕を用い、調製直後の試料のpHを25℃にて測定した値であり、粘度は、B型粘度計〔東京計器社製、BL型〕を用い、60rpm 、25℃で、調製直後の塗工組成物の粘度を測定した値である。
【0053】
(合成例1)
<(B−2)成分の製造例1:樹脂1−1の合成>
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた反応器に、(B−1)3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸および4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸の混合物220.6部(1.33モル比、HN−2000 日立化成工業(株)製)及び(B−1)テトラヒドロ無水フタル酸532.5部(3.50モル比)を仕込み、内温を120℃に昇温した。次に、内温120〜140℃に保温しながら、エチレングリコール149.8部(2.41モル比)をゆっくりと滴下し、滴下終了後、内温140〜155℃でさらに1時間攪拌し、末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物902.7部を得た。該反応生成物は、エチレングリコールがすべて反応したとして、2.41モル比とみなした。その後、このポリエステルを冷却せずにステンレスのトレイに回収し、冷却して固化させ、樹脂組成物(1−1)を得た。
【0054】
<(A)成分と(B−2)成分との生成物の製造例1:樹脂1−2の合成>
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた反応器に、樹脂組成物(1−1)を101.1部(0.27モル比、ポリアミンに対して0.33モル比)添加し、内温を110℃まで昇温させたのち、(A)トリエチレンテトラミン118.6部(0.81モル比、アミノ基として3.25モル比)を110〜135℃でゆっくりと滴下した。次いで、生成する水を留去しながら内温を145℃まで昇温させ、発生する水を留去しながら、さらに内温145〜155℃で4時間反応させた。このとき、留去した水の重量は1.4部であった。その後、水79.4部を加えて固形分濃度70%のポリエステルポリアミド樹脂組成物水溶液(樹脂組成物1−2)299.6部(トリエチレンテトラミン基準で0.81モル比、アミノ基として2.70モル比)を得た。
【0055】
<(A)成分と(B−2)成分と(D)成分との生成物の製造例1:樹脂1−3の合成>
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた反応器に、樹脂組成物(1−2)を299.6部(トリエチレンテトラミン基準で0.81モル比、アミノ基として2.70モル比)と水16.1部を添加し、65〜75℃に内温を保持しながら、(D)エピクロルヒドリン37.5部(0.41モル比、ポリアミンに対して0.50モル比)を2時間かけて滴下し、さらに内温65〜75℃で4時間攪拌した。その後、室温に冷却し、固形分濃度70%のエピクロルヒドリン変性ポリエステルポリアミド樹脂組成物水溶液(樹脂組成物1−3)352.2部(トリエチレンテトラミン基準で0.81モル比、アミノ基として2.70モル比)を得た。
【0056】
<紙塗工用樹脂組成物の製造例1:紙塗工用樹脂組成物1の調製>
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた反応器に、樹脂(1−3)を171.0部(トリエチレンテトラミン基準で0.39モル比、アミノ基として1.31モル比)、および水20.3部を添加し、80℃まで内温を昇温させた。次に、(C)尿素47.3部(0.79モル比、アミノ基に対して0.60モル比)を添加した後、内温を90℃まで昇温させた。続いて、発生するアンモニアを系外に留去しながら、内温104℃まで2時間かけて昇温させ、さらに、発生するアンモニアを反応器から留去しながら、内温104〜106℃で8時間反応させた。その後、水76.0部を徐々に加えながら冷却して、不揮発分51.0%、pH8.42、粘度41mPa・sの水溶液(紙塗工用樹脂組成物1)301.0部を得た。
【0057】
(合成例2)
<(B−2)成分の製造例2:樹脂2−1の合成>
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた反応器に、(B−1)3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸および4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸の混合物458.0部(2.76モル比、HN−2000 日立化成工業(株)製)及び(B−1)テトラヒドロ無水フタル酸1677.5部(11.03モル比)を仕込み、内温を120℃に昇温した。次に、内温120〜140℃に保温しながら、エチレングリコール427.7部(6.89モル比)をゆっくりと滴下し、滴下終了後、内温140〜155℃でさらに1時間攪拌し、末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物2563.0部を得た。該反応生成物は、エチレングリコールがすべて反応したとして、6.89モル比とみなした。その後、このポリエステルを冷却せずにステンレスのトレイに回収し、冷却して固化させ、樹脂組成物(1−1)を得た。
【0058】
<(A)成分と(B−2)成分との生成物の製造例2:樹脂2−2の合成>
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた反応器に、樹脂組成物(2−1)を1208.4部(3.25モル比、ポリアミンに対して0.50モル比)添加し、85%ε−カプロラクタム22.9部(0.17モル比、ポリアミンに対して0.026モル比)を滴下した後、内温を110℃まで昇温させたのち、(A)トリエチレンテトラミン950.2部(6.50モル比、アミノ基として26.0モル比)を110〜135℃でゆっくりと滴下した。次いで、生成する水を留去しながら内温を145℃まで昇温させ、発生する水を留去しながら、さらに内温145〜155℃で4時間反応させた。このとき、留去した水の重量は39.0部であった。その後、水634.6部を加えて固形分濃度73.6%のポリエステルポリアミド樹脂組成物水溶液(樹脂組成物2−2)2766.4部(トリエチレンテトラミン基準で6.50モル比、アミノ基として19.5モル比)を得た。
【0059】
<(A)成分と(B−2)成分と(B−1)成分と(D)成分との生成物の製造例2:樹脂2−3の合成>
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた反応器に、樹脂組成物(2−2)を145.0部(トリエチレンテトラミン基準で0.34モル比、アミノ基として1.02モル比)と水14.0部を添加し、65〜75℃に内温を保持しながら、(B−1)テトラヒドロ無水フタル酸2.6部(0.017モル比、ポリアミンに対して0.05モル比)を仕込み、内温65〜75℃で2時間攪拌した。攪拌終了後、(D)エピクロルヒドリン12.6部(0.14モル比、ポリアミンに対して0.40モル比)を2時間かけて滴下し、さらに内温65〜75℃で4時間攪拌した。その後、室温に冷却し、固形分濃度70%のエピクロルヒドリン変性ポリエステルポリアミド樹脂組成物水溶液(樹脂組成物2−3)173.8部(トリエチレンテトラミン基準で0.34モル比、アミノ基として1.00モル比)を得た。
【0060】
<紙塗工用樹脂組成物の製造例2:紙塗工用樹脂組成物2の調製>
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた反応器に、樹脂(2−3)を173.8部(トリエチレンテトラミン基準で0.34モル比、アミノ基として1.00モル比)を添加し、80℃まで内温を昇温させた。次に、(C)尿素25.6部(0.43モル比、アミノ基に対して0.42モル比)を添加した後、内温を90℃まで昇温させた。続いて、発生するアンモニアを系外に留去しながら、内温104℃まで2時間かけて昇温させ、さらに、発生するアンモニアを反応器から留去しながら、内温104〜106℃で8時間反応させた。その後、水82.4部を徐々に加えながら冷却して、不揮発分51.2%、pH8.39、粘度64mPa・sの水溶液(紙塗工用樹脂組成物2)274.1部を得た。
【0061】
<(A)成分と(B−2)成分と(B−1)成分と(D)成分との生成物の製造例3:樹脂3−3の合成>
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた反応器に、樹脂組成物(2−2)を110.4部(トリエチレンテトラミン基準で0.26モル比、アミノ基として0.78モル比)と水12.4部を添加し、65〜75℃に内温を保持しながら、(B−1)テトラヒドロ無水フタル酸5.9部(0.039モル比、ポリアミンに対して0.15モル比)を仕込み、内温65〜75℃で2時間攪拌した。攪拌終了後、(D)エピクロルヒドリン9.6部(0.10モル比、ポリアミンに対して0.40モル比)を2時間かけて滴下し、さらに内温65〜75℃で4時間攪拌した。その後、室温に冷却し、固形分濃度70%のエピクロルヒドリン変性ポリエステルポリアミド樹脂組成物水溶液(樹脂組成物3−3)137.9部(トリエチレンテトラミン基準で0.26モル比、アミノ基として0.74モル比)を得た。
【0062】
<紙塗工用樹脂組成物の製造例3:紙塗工用樹脂組成物3の調製>
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた反応器に、樹脂(3−3)を137.9部(トリエチレンテトラミン基準で0.26モル比、アミノ基として0.74モル比)を添加し、80℃まで内温を昇温させた。次に、(C)尿素19.5部(0.32モル比、アミノ基に対して0.44モル比)を添加した後、内温を90℃まで昇温させた。続いて、発生するアンモニアを系外に留去しながら、内温104℃まで2時間かけて昇温させ、さらに、発生するアンモニアを反応器から留去しながら、内温104〜106℃で8時間反応させた。その後、水64.8部を徐々に加えながら冷却して、不揮発分51.6%、pH8.26、粘度65mPa・sの水溶液(紙塗工用樹脂組成物3)217.1部を得た。
【0063】
(比較合成例1)
<(B−2)成分の製造例4:樹脂4−1の合成>
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた反応器に、(B−1)3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸および4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸の混合物373.9部(2.25モル比、HN−2000 日立化成工業(株)製)及び(B−1)テトラヒドロ無水フタル酸1369.3部(9.00モル比)を仕込み、内温を120℃に昇温した。次に、内温120〜140℃に保温しながら、エチレングリコール349.1部(5.63モル比)をゆっくりと滴下し、滴下終了後、内温140〜155℃でさらに1時間攪拌し、末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物2091.7部を得た。該反応生成物は、エチレングリコールがすべて反応したとして、5.63モル比とみなした。その後、このポリエステルを冷却せずにステンレスのトレイに回収し、冷却して固化させ、樹脂組成物(4−1)を得た。
【0064】
<(A)成分と(B−2)成分との生成物の製造例4:樹脂4−2の合成>
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた反応器に、樹脂組成物(4−1)を361.1部(0.97モル比、ポリアミンに対して0.50モル比)添加し、85%ε−カプロラクタム6.8部(0.051モル比、ポリアミンに対して0.026モル比)を滴下した後、内温を110℃まで昇温させたのち、(A)トリエチレンテトラミン284.0部(1.94モル比、アミノ基として7.77モル比)を110〜135℃でゆっくりと滴下した。次いで、生成する水を留去しながら内温を145℃まで昇温させ、発生する水を留去しながら、さらに内温145〜155℃で4時間反応させた。このとき、留去した水の重量は18.6部であった。その後、水239.3部を加えて固形分濃度70%のポリエステルポリアミド樹脂組成物水溶液(樹脂組成物4−2)892.1部(トリエチレンテトラミン基準で1.94モル比、アミノ基として5.83モル比)を得た。
【0065】
<(A)成分と(B−2)成分と(B−1)成分と(D)成分との生成物の製造例4:樹脂4−3の合成>
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた反応器に、樹脂組成物(4−2)を164.8部(トリエチレンテトラミン基準で0.36モル比、アミノ基として1.08モル比)と水11.5部を添加し、65〜75℃に内温を保持しながら、(B−1)テトラヒドロ無水フタル酸13.6部(0.090モル比、ポリアミンに対して0.25モル比)を仕込み、内温65〜75℃で2時間攪拌した。攪拌終了後、(D)エピクロルヒドリン13.3部(0.14モル比、ポリアミンに対して0.40モル比)を2時間かけて滴下し、さらに内温65〜75℃で4時間攪拌した。その後、室温に冷却し、固形分濃度70%のエピクロルヒドリン変性ポリエステルポリアミド樹脂組成物水溶液(樹脂組成物4−3)202.9部(トリエチレンテトラミン基準で0.36モル比、アミノ基として0.99モル比)を得た。
【0066】
<紙塗工用樹脂組成物の製造例4:紙塗工用樹脂組成物4の調製>
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた反応器に、樹脂(4−3)を202.9部(トリエチレンテトラミン基準で0.36モル比、アミノ基として0.99モル比)を添加し、80℃まで内温を昇温させた。次に、(C)尿素26.9部(0.45モル比、アミノ基に対して0.45モル比)を添加した後、内温を90℃まで昇温させた。続いて、発生するアンモニアを系外に留去しながら、内温104℃まで2時間かけて昇温させ、さらに、発生するアンモニアを反応器から留去しながら、内温104〜106℃で8時間反応させた。その後、水101.5部を徐々に加えながら冷却して、不揮発分48.9%、pH7.86、粘度46mPa・sの水溶液(紙塗工用樹脂組成物4)325.2部を得た。
【実施例1】
【0067】
<塗工組成物の製造例>
ウルトラホワイト90(顔料、米国エンゲルハードミネラルズ社製のクレー)60重量部、カービタル90(顔料、富士カオリン(株)製の炭酸カルシウム)40重量部、ポリアクリル酸系顔料分散剤0.2重量部、スチレン−ブタジエン系ラテックス(水性バインダー)9重量部及び市販の酸化でんぷん2重量部を混合し、水を加えて、固形分64.5%となるようにマスターカラーを調製した。続いて、マスターカラーの顔料100重量部に<紙塗工用樹脂組成物の製造例1>で得られた紙塗工用樹脂組成物1の固形分が0.6重量部となる割合で添加し、固形分を64%に調整した。
得られた塗工組成物のpHは9.2、粘度は1950mPa・sであった。
【0068】
<塗工紙の製造例>
塗工組成物を、米坪量80g/m2の上質紙の片面に、ワイヤーロッドを用いて塗工量が15g/m2となるように塗布した。塗布後ただちに、130℃にて10秒間熱風乾燥し、次いで温度20℃、相対湿度65%にて16時間調湿し、さらに温度60℃、線圧60kN/mの条件で2回スーパーカレンダー処理を施して、塗工紙を得た。こうして得た塗工紙を耐水性の試験に供し、試験結果を表1に示した。なお、試験方法は以下のとおりである。
【0069】
<耐水性:ウェットピック法(WP法)>
RI試験機(明製作所製)を使用し、塗工面を給水ロールで湿潤させた後に印刷し、紙むけ状態を肉眼で観察して判定した。判定基準は次のように行った。
耐水性 (劣)1〜5(優)
【0070】
<冷蔵貯蔵安定性>
紙塗工用樹脂を5℃の冷蔵ショーケースにて1週間保管し、その状態を肉眼で観察して判定した。判定基準は次のように行った。
冷蔵貯蔵安定性 ○:澄明であり外観に問題が見られない
×:固体が発生している
【0071】
<化合物(I)の定量>
化合物(I)の定量は紙塗工用樹脂組成物をそのまま用い、ガスクロマトグラフィー(GC−14B、株式会社島津製作所社製)で定量した。
【0072】
<化合物(II)の定量>
化合物(II)の定量は紙塗工用樹脂組成物をそのまま用い、液体クロマトグラフィー(LC−20A、株式会社島津製作所社製)で定量した。
【0073】
(実施例2〜3、比較例1)
表1に記載の紙塗工用樹脂を用いる以外は実施例1と同様にして、塗工組成物及び塗工紙を製造し、紙塗工用樹脂組成物の物性及び塗工紙の物性を測定した。実施例1の結果とともに、結果を表1に示した。
【0074】
【表1】

*1:紙塗工樹脂の製造に用いられた(A)ポリアミン類1モルに対する、用いられた(B)脂環式二塩基性カルボン酸類のモル比
*2: ポリアミン類に含有される1級および2級アミノ基の合計モル数(x)から脂環式二塩基性カルボン酸類に含有されるカルボキシル基のモル数(y)を差し引いたモル数(z)1モルに対する、(C)尿素のモル比
*3:紙塗工樹脂の製造に用いられた(A)ポリアミン類1モルに対する、用いられた(D)架橋性化合物のモル比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミン類、(B)(B−1)脂環式二塩基性カルボン酸類および/または(B−2)グリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数の脂環式二塩基性カルボン酸類を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物、(C)尿素類、(D)架橋性化合物の4または5成分を反応せしめてなる樹脂組成物であって、以下に示す構造を有する化合物(I)および(II)の合計が1.5重量%未満であることを特徴とする紙塗工用樹脂組成物。
【化1】


(Rはそれぞれ独立して水素またはメチル基をあらわす)
【請求項2】
(B)(B−1)がテトラヒドロ無水フタル酸および/または3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸および/または4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、(B−2)がグリコール類のモル数1モルに対し、1モルより多いモル数のテトラヒドロ無水フタル酸および/または3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸および/または4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸を反応させて得られる、分子末端に遊離カルボキシル基を有する反応生成物であることを特徴とする請求項1に記載の紙塗工用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1、2のいずれかに記載の紙塗工用樹脂組成物、顔料および水性バインダーを含有することを特徴とする紙塗工用組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の紙塗工用組成物を紙に塗工してなる塗工紙。

【公開番号】特開2009−24280(P2009−24280A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188942(P2007−188942)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】