説明

紙幣処理装置、引抜き防止方法、及び紙幣取扱装置

【課題】Z折れ癖を有した紙幣を異常紙幣として搬送部材を逆転させて挿入口に戻す機能と、不正な引抜き行為を防止するための引抜き防止レバーを備えた紙幣処理装置において、Z折れ癖紙幣が引抜き防止レバーの下流側に搬送された後で返却のために逆転搬送されることにより紙幣詰まりが発生する不具合を解消する。
【解決手段】既存の複数の紙幣識別センサ30から得られたスキャンデータに基づいてZ折れ癖の有無を判定し、Z折れ癖部があると判断した場合には直ちに(Z折れ癖部が引抜き防止レバー35に達する前に)返却のための動作を開始するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば紙幣を入金する機能を備えた各種自動販売機、入出金装置、両替機等の紙幣取扱装置に装備される紙幣処理装置の改良に関し、特にZ状の折れ癖を有した紙幣を紙詰まりすることなく顧客に返却することができる紙幣処理装置、引抜き防止方法、及び紙幣取扱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種自動販売機、入出金装置、両替機、パチンコ遊技場で使用される台間機等の紙幣取扱装置は、入金された紙幣の真贋、金種を判定したり、紙幣収納庫に収納する等の処理を行う紙幣処理装置を備えている。
図4(a)及び(b)は従来の紙幣処理装置の紙幣導入搬送路に装備される各種センサ及び引抜き防止レバーの配置例を示す略図である。この紙幣処理装置は紙幣挿入口100から挿入された紙幣Sを導入搬送路101に沿って装置内部に搬送する搬送ベルト等の図示しない搬送部材を備え、紙幣挿入口100には紙幣挿入の有無を検知する透過光型の挿入センサ105を備える。挿入センサの下流側の導入搬送路101上には紙幣の真贋、金種を判定する透過光型の識別センサ106と、導入搬送路101内へ出没自在に支持されて紙幣の引き戻しを阻止する引抜き防止レバー107と、が順次配置されている。また、紙幣処理装置は、上面にベルト等の搬送部材を備えた装置本体110と、装置本体上面の一端部(左側端部)に設けた図示しない開閉軸によって上下方向に開閉自在に軸支された蓋部材115と、を備えている。図示しない制御手段は、挿入口100から紙幣を挿入することにより挿入センサ105がオンした場合には搬送部材を駆動するモータを駆動して導入搬送路101に沿って紙幣を装置内に搬送する。識別センサ106が通過する紙幣の真贋を判定し、真正紙幣ではないことを検知した信号を制御手段に出力すると、制御手段は搬送部材を逆転させて当該紙幣を紙幣挿入口100から外部に返却する。識別センサ106が真正紙幣であることを検知すると、制御手段は搬送部材が紙幣を更に下流側へ搬送させるようにモータを制御する。
引抜き防止レバー107は、蓋部材115に設けた軸107aにより導入搬送路101内へ突出した位置と退避した位置との間を進退可能に支持されており、識別センサ106を通過した紙幣が下流側へ進行する際には紙幣によって押圧されて導入搬送路から退避する一方で、紐を付けた真正紙幣を挿入口から挿入し、当該紙幣が引抜き防止レバー107を通過した後に紐を用いて挿入口に引き戻す不正行為が行われようとした場合には、引抜き防止レバーの先端部が紙幣に食い込んで引抜きを阻止する。識別センサを通過した紙幣が引抜き防止レバーに達する前に当該紙幣が真正であるとの識別結果を出力してしまうと、引抜き防止レバーを用いた真正紙幣の引抜きによる不正防止ができなくなるため、識別センサを通過した紙幣後端が引抜き防止レバー107に達してから真正紙幣であるとの識別結果を出力させている。
【0003】
ところで、従来の識別センサ106による紙幣の真贋判定においては、通過する紙幣の図柄の濃淡パターン等を主な判断材料として真正紙幣か否かを判定していたため、紙幣の全長に亘って図柄データを取得した後に制御手段が予め記憶されている真正紙幣の図柄データと比較してチェックする必要があった。また、装置サイズを小型化する必要から識別センサ106と引抜き防止レバー107間の距離が紙幣の全長よりも大幅に短く設定されているため、紙幣後端の図柄を識別センサ106が取得している時点では紙幣の先端部は引抜き防止レバー107を通過していることとなる。一方、先端寄りにZ折れ癖(紙幣がZ字状に三枚折り重なった部分)を有した真正紙幣が不正の意図無く挿入された場合に、Z折れ癖部の透光性が基準値よりも低下していることを識別センサ106が検知したとしても、識別センサが紙幣全長の図柄データ取得を完了するまで制御手段は異常を有した紙幣であることを認識できないため、制御手段が紙幣を挿入口に戻すためにモータを逆転駆動開始した時点では図示のようにZ折れ癖部が引抜き防止レバー107を通過してしまうことがある。このため、逆転駆動を継続させると、Z折れ癖部がレバー先端に引っ掛かって図4(b)に示すように紙幣詰まりを起こし易くなる。
ここでZ折れ癖部は、紙幣を四つ折りにした際の折り皺と、3つ折りにした際の折り皺とがその発生に大きく影響していると考えられる。そのため、Z折れ癖部は紙幣長手方向と直交する方向に出現することとなり、紙幣搬送(長手)方向と直交して配列された引抜き防止レバー107に引っ掛かり易いという結果をもたらすのである。
【0004】
特開2007−299190公報には、引抜き防止用のゲートを回避するために搬送方向に沿った切り込み線を形成した不正紙幣を投入し、ゲート通過後に該紙幣に固定した紐により引き戻す不正行為を防止するために、各ゲートに沿った搬送ライン上に切り込み線の有無を検出するためのセンサを配置すると共に、切り込み線をゲートによって強制的に開放させることにより切り込み線の存在を前記センサによって確実に検出可能とした構成が開示されている。
しかし、この従来技術は切り込み線を形成した不正紙幣の引き戻し対策に特化されており、Z折れ癖部を有した真正紙幣を異常紙幣として挿入口に戻す際に発生する引抜き防止レバーによる紙幣詰まりを防止することはできない。
【特許文献1】特開2007−299190公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、識別センサの下流側に紙幣の引抜きを防止するためのレバーを備えた紙幣処理装置において、識別センサによる紙幣面の識別作業中に紙幣前半部に形成されたZ折れ癖部がレバーを越えた場合には、この段階で識別センサからの異常報知信号によって制御手段が紙幣を挿入口に返却させるための戻し動作を開始したとしても、Z折れ癖部がレバーに引っ掛かって紙幣詰まりが発生する。
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、Z折れ癖を有した紙幣を異常紙幣として搬送部材を逆転させて挿入口に戻す機能と、不正な引抜き行為を防止するための引抜き防止レバーを備えた紙幣処理装置において、識別センサからの信号に基づきZ折れ癖に起因した異常を検知した時点で遅滞なく搬送部材を逆転させて返却するようにした 紙幣処理装置、引抜き防止方法、及び紙幣取扱装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明に係る紙幣処理装置は、紙幣を搬送する搬送部材を備えた装置本体と、前記搬送部材を開閉するように軸支された蓋部材と、閉止状態にある前記蓋部材と前記装置本体との間に形成された紙幣挿入口、及び該紙幣挿入口から挿入された紙幣を装置内部へガイドする導入搬送路と、該導入搬送路に設けた前記搬送部材を駆動するモータと、前記紙幣挿入口からの紙幣の挿入を検知する挿入センサと、該挿入センサの下流側において前記導入搬送路の幅方向に沿って複数個配置された紙幣識別センサと、前記各紙幣識別センサの下流側において前記導入搬送路内に出没自在に支持されて搬送される紙幣の引き戻しを阻止する引抜き防止レバーと、前記挿入センサがオンした時に前記モータの駆動を開始すると共に前記各紙幣識別センサからの信号に基づき挿入された紙幣が返却すべき紙幣であることを検知したときに前記搬送部材を逆転させて前記紙幣を前記紙幣挿入口から返却するように制御する制御手段と、を備えた紙幣処理装置であって、前記制御手段は、少なくとも二個の前記紙幣識別センサが前記紙幣がZ折れ癖紙幣であることを検知した場合には、前記紙幣のZ折れ癖部分が前記引抜き防止レバーに達する前に前記搬送部材を逆転させるように制御することを特徴とする。
Z折れ癖のZ折れ癖部が引抜き防止レバーよりも下流側に達したあとで搬送部材を逆転させて挿入口から返却しようとすると、Z折れ癖部が引抜き防止レバーに引っ掛かって返却不能となる。一方、従来の紙幣識別センサは紙幣の絵柄模様等の濃淡のみを手掛かりとして真贋、金種を判定しており、Z折れ癖部の存在を特別に検知してはいなかった。本発明では、既存の紙幣識別センサに一切改変を加えることなく、各紙幣識別センサから得られたスキャンデータに基づいてZ折れ癖の有無を判定し、Z折れ癖部があると判断した場合には直ちに(Z折れ癖部が引抜き防止レバーに達する前に)返却のための動作を開始するようにしたものである。
【0007】
請求項2の発明に係る紙幣処理装置は、請求項1において、更に、前記搬送部材の搬送動作に連動してパルス信号を発生するパルス発生手段を備え、前記紙幣識別センサが透過型の光センサであるものにおいて、前記制御手段は、前記各紙幣識別センサからの識別データに基づいて紙幣にZ折れ癖があるか否かを判定するための透過光量の基準として予め閾値レベルVthを設定し、前記各紙幣識別センサからの識別データの透過光量が閾値レベルVth以下となる期間について前記パルス発生手段からのパルス信号をカウントして夫々のデータ継続数nを得て、二個以上の前記紙幣識別センサにおいて同時にデータ継続数nが予め設定した個数Nを越えた場合にはZ折れ癖紙幣であると判定し、Z折れ癖部位が前記引抜き防止レバーに搬送される前に前記搬送部材を逆転するように制御することを特徴とする。
紙幣識別センサから通常出力される識別データのうちZ折れ部に相当する部分のセンサレベルが低下することを利用し、2以上の識別センサからの出力が閾値レベルを低下しており、しかも閾値レベル以下の出力が一定期間以上続けた場合にZ折れ癖部ありと判定するものである。
【0008】
請求項3の発明に係る紙幣処理装置における引抜き防止方法は、紙幣を搬送する搬送部材を備えた装置本体と、前記搬送部材を開閉するように軸支された蓋部材と、閉止状態にある前記蓋部材と前記装置本体との間に形成された紙幣挿入口、及び該紙幣挿入口から挿入された紙幣を装置内部へガイドする導入搬送路と、該導入搬送路に設けた前記搬送部材を駆動するモータと、前記紙幣挿入口からの紙幣の挿入を検知する挿入センサと、該挿入センサの下流側に配置されて紙幣の金種、真贋を識別する紙幣識別センサと、前記紙幣識別センサの下流側において前記導入搬送路内に出没自在に支持されて搬送される紙幣の引き戻しを阻止する引抜き防止レバーと、前記挿入センサがオンした時に前記モータの駆動を開始すると共に前記紙幣識別センサからの信号に基づき挿入された紙幣が返却すべき紙幣であることを検知したときに前記搬送部材を逆転させて前記紙幣を前記紙幣挿入口から返却するように制御する制御手段と、を備えた紙幣処理装置における引抜き防止方法であって、前記紙幣識別センサは前記導入搬送路の幅方向に沿って複数個配置されており、前記制御手段は、少なくとも二個の前記紙幣識別センサが前記紙幣がZ折れ癖紙幣であることを検知した場合には、前記紙幣のZ折れ癖部分が前記引抜き防止レバーに達する前に前記搬送部材を逆転させるように制御することを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明に係る紙幣処理装置における引抜き防止方法は、請求項3において、更に、前記搬送部材の搬送動作に連動してパルス信号を発生するパルス発生手段を備え、前記紙幣識別センサが透過型の光センサであるものにおいて、前記制御手段は、前記各紙幣識別センサからの識別データに基づいて紙幣にZ折れ癖があるか否かを判定するための透過光量の基準として予め閾値レベルVthを設定し、前記各紙幣識別センサからの識別データの透過光量が閾値レベルVth以下となる期間について前記パルス発生手段からのパルス信号をカウントして夫々のデータ継続数nを得て、二個以上の前記紙幣識別センサにおいて同時にデータ継続数nが予め設定した個数Nを越えた場合にはZ折れ癖紙幣であると判定し、Z折れ癖部位が前記引抜き防止レバーに搬送される前に前記搬送部材を逆転するように制御することを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明に係る紙幣取扱装置は、請求項1又は2に記載の紙幣処理装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る紙幣処理装置によれば、Z折れ癖を有した紙幣を異常紙幣として搬送部材を逆転させて挿入口に戻す機能と、不正な引抜き行為を防止するための引抜き防止レバーを備えた紙幣処理装置において、既存の複数の紙幣識別センサから得られたスキャンデータに基づいてZ折れ癖の有無を判定し、Z折れ癖部があると判断した場合には直ちに(Z折れ癖部が引抜き防止レバーに達する前に)返却のための動作を開始するようにしたので、Z折れ癖紙幣が引抜き防止レバーの下流側に搬送された後で返却のために逆転搬送されることにより紙幣詰まりが発生する不具合を解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の紙幣処理装置を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る紙幣処理装置の外観斜視図であり、図2(a)及び(b)は紙幣処理装置の導入搬送路に沿った構成を示す正面図、及び平面図であり、図3はZ折れ癖部をスキャンした3つの紙幣識別センサから夫々得られた波形図である。
この紙幣処理装置1は例えばパチンコ遊技機の台間機に装備され、利用者によって挿入口から挿入された各種の紙幣を内部の紙幣収納庫内に積層状態で収納するための構成を備えている。
紙幣処理装置1は、上面に搬送ベルト等の搬送部材3を備えた装置本体2と、搬送部材3を含む装置上面を開閉するように装置上面の一端に設けた回動軸6によって上下方向へ開閉自在に軸支された蓋部材5と、閉止状態にある蓋部材5と装置本体2との間に形成された紙幣挿入口10、及び紙幣挿入口10から挿入された紙幣Sを装置内部へガイドする導入搬送路15と、導入搬送路15によって搬送されてきた紙幣を受け入れる紙幣収納庫16と、導入搬送路15に設けた搬送部材3を駆動するモータ20と、紙幣挿入口10の近傍において蓋部材側と装置本体側に分けて対向配置された発光素子25a及び受光素子25bから成る紙幣挿入検知用の挿入センサ25と、挿入センサ25の下流側位置において蓋部材5側と装置本体2側に分けて対向配置された発光素子30a及び受光素子30bから成る紙幣識別センサ30と、紙幣識別センサ30の下流側において導入搬送路15内に出没自在に支持されて搬送される紙幣の引き戻しを阻止する引抜き防止レバー35と、挿入センサ25がオンした時にモータ20の駆動を開始すると共に紙幣識別センサ30から挿入された紙幣が返却すべき紙幣である旨の検知信号が出力されたときに搬送部材3を逆転させて紙幣を紙幣挿入口から返却するように制御する制御手段40と、から概略構成されている。
【0013】
例えば、モータ20としてパルスモータを用いる場合には、制御手段40が生成するパルスに基づいてモータ20は動作するので、制御手段40にパルス発生手段を内蔵していると考えられ、モータ20としてDCモータを用いる場合にはモータの出力軸の回転数をパルス数として検出し制御手段にパルス信号を出力するパルス出力手段を別途備える。制御手段40はパルス発生手段からのパルス信号に基づいて搬送部材による紙幣の搬送距離を判定する。
紙幣挿入口10から長手方向一端縁を先頭にして紙幣Sが挿入され、挿入センサ25が紙幣の挿入を検知して制御手段40に挿入検知信号を出力すると、制御手段40はモータ20を駆動して搬送部材3を駆動開始し、紙幣は導入搬送路15に沿って搬送される。この紙幣は紙幣識別センサ30によって金種、真贋の判定を受け、真正紙幣である場合には紙幣収納庫16に収納される。
引抜き防止レバー35は、蓋部材5に設けた軸5aにより導入搬送路15内へ突出した位置と退避した位置との間を進退可能に支持されており、識別センサ30を通過した紙幣が下流側へ進行する際には紙幣によって押圧されて導入搬送路15から退避する一方で、紐を付けた真正紙幣を挿入口から挿入し、当該紙幣が引抜き防止レバー35を通過した後に紐を用いて挿入口に引き戻す不正行為が行われようとした場合には引抜き防止レバーの先端部が紙幣に食い込んで引抜きを阻止する。
【0014】
装置の小型化のために、紙幣識別センサ30と引抜き防止レバー35との間の距離は、最小サイズの紙幣の長手方向長よりも大幅に短く設定されており、紙幣識別センサ30が紙幣面の印刷画像から真贋、金種を識別している過程で紙幣の少なくとも前半部分が引抜き防止レバー35に到達していることとなる。このため、紙幣の前半部分にZ折れ癖が形成されている場合には、Z折れ癖部が引抜き防止レバーに達する前に装置内部への搬送を停止して挿入口に引き戻すことが有効である。ところで、紙幣識別センサは紙幣面上の図柄データを取り込むだけであり、当該図柄データに基づいた真贋の判定は制御手段が行う。また、制御手段は紙幣識別センサから得られた紙幣全長の図柄データと、予め記憶している真正紙幣の全長に亘る基準図柄データとを比較することにより、真贋の判定を行っていた。その理由は、多少の汚れ、落書き、染み等が存在する程度であれば真正紙幣と判定した方が円滑な運用が期待できるからである。従って、従来の紙幣処理装置においては、紙幣識別装置によって読み込まれた図柄データ中に三枚の紙が重なった状態となるZ折れ癖部の存在に起因して透過光量の少ない(暗い)箇所が存在していたとしても返却せずに全長を読取っていた。
【0015】
本発明では、紙幣識別センサ30を、導入搬送路15の幅方向に沿って複数個(本例では3個、30L、30C、30R)配置し、少なくとも二個の紙幣識別センサからのデータに基づき紙幣に折れ癖が存在することを検知した場合に、制御手段40が紙幣のZ折れ癖部分が引抜き防止レバーに達する前に搬送部材(搬送ベルト、ローラ)3を逆転開始させるようにした構成が特徴的である。
即ち、3個の紙幣識別センサ30L、30C、30Rは、引抜き防止レバー35の上流側位置に、幅方向に向けて配置されている。個々の紙幣識別センサ30L、30C、30Rは、発光素子3aと受光素子3bから構成された透過型光センサである。各発光素子3aと各受光素子3b間を紙幣が通過する過程で紙幣面に印刷された絵柄等の印刷濃度に応じて変化する光の透過量を受光素子3bで捕らえ、これを制御手段40が識別データとして処理し、真贋、異常の有無、金種等を判定する。
Z字状に折れ曲がったZ折れ癖部を有した紙幣が紙幣識別センサを通過する際に得られる識別データは、Z折れ癖部が3枚の紙が重なった状態であるために3個の紙幣識別センサ共に透過レベルが低くなる(透過光量が低下する)。印刷濃度が薄い紙幣面に形成されたZ折れ癖であっても同様である。一方、汚れ等のない正常な状態の真正紙幣であっても、印刷濃度の濃い部分は透過レベルが低くなるが、検出部位が異なる3つの紙幣識別センサの透過レベルが同時に低くなることはない。
【0016】
本発明では上記の現象を利用して、Z折れ癖紙幣を既存の複数の紙幣識別センサによって高精度に検出するようにしたものである。
即ち、図3は各紙幣識別センサによる紙幣面の検知部位と、各紙幣識別センサ30L、30C、30Rによるスキャン波形を示している。制御手段40は、受け入れた紙幣にZ折れ癖があるか否かを判定するための透過光量の基準として閾値レベルVthを設定しており、検知された透過光量が閾値レベルVth以下であるデータ継続数nを紙幣識別センサ30L、30C、30R毎にリアルタイムで計数する。即ち、制御手段40は、各紙幣識別センサ30L、30C、30Rからの識別データに基づいて紙幣にZ折れ癖があるか否かを判定するための透過光量の基準として予め閾値レベルVthが設定されており、各紙幣識別センサからの識別データの透過光量が閾値レベルVth以下となる期間についてパルス発生手段からのパルス信号をカウントして夫々のデータ継続数nを得て、二個以上の紙幣識別センサにおいて同時にデータ継続数nが予め設定した個数Nを越えた場合にはZ折れ癖紙幣であると判定し、Z折れ癖部位が引抜き防止レバーに搬送される前に搬送部材を逆転するように制御する。
なお、データ継続数nとは、言い換えれば、連続して出力された閾値Vth以下の部分に相当する出力パルス数の合計のことであり、受光素子の出力が暗になっている期間の長さに比例している(図3の各波形中の破線で囲んだ部分)。
【0017】
制御手段40は、各紙幣識別センサ30L、30C、30R毎にデータ継続数nが所定の個数Nを越えるか否かをチェックし、二個以上の紙幣識別センサにおいて個数Nを越えた場合にはZ折れ癖紙幣であると判定し、Z折れ癖部位が引抜き防止レバー35に搬送される前に搬送部材を停止させて逆転し、挿入口から返却するように制御する。なお、二個以上の紙幣識別センサにおいて個数Nを越えた場合にはZ折れ癖紙幣であると判定するのは、単一の紙幣識別センサにより得られた検知データのみに依存した判断では正確を期することができないからである。即ち、紙幣の印刷濃度の低い部分に形成されたZ折れ癖に対して発光素子からの検知光を出射した場合には透過光量が十分に低くならないために、一つの紙幣識別センサから得られたデータ継続数nが個数Nを越えている場合に、このデータのみに依存するとZ折れ癖部の存在を正しく判定できなくなる虞があるが、他の部位をスキャンする他の一つの紙幣識別センサからも同様なデータが得られた場合には信頼することができるからである。このことは紙幣搬送(長手)方向と直交して所定の間隔で配列された3つの紙幣識別センサの透過レベルが同時に低くなることはなく、逆にZ折れ癖部は紙幣長手方向と直交する方向に出現し易いので前記3つの紙幣識別センサの透過レベルが同時に低くなる、という知見を前提としている。
設置する紙幣識別センサの必要個数としては、2個以上であればよいが、3個程度が理想である。
【0018】
以上のように、本発明によれば、2個以上の紙幣識別センサがZ折れ癖部の存在を検知した際にZ折れ癖部有りと判定し、Z折れ癖部が引抜き防止レバー35に達する前に逆転搬送により返却するように制御するので、Z折れ癖部が引抜き防止レバー35に引っ掛かることによる紙幣詰まりの発生を未然に防止することができる。しかも、本発明によるZ折れ癖部の検知方法は、複数の紙幣識別センサを備えた既存の紙幣処理装置を利用し、各紙幣識別センサから得られたデータ処理のみを変更するだけで成立するため、低コストにて既存の紙幣処理装置を改良することができる。
なお、本発明の紙幣処理装置1は、各種自動販売機、入出金装置、両替機、パチンコ遊技場で使用される台間機等の紙幣取扱装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る紙幣処理装置の外観斜視図である。
【図2】(a)及び(b)は紙幣処理装置の導入搬送路に沿った構成を示す正面図、及び平面図である。
【図3】Z折れ癖部をスキャンした3つの紙幣識別センサから得られた波形図である。
【図4】(a)及び(b)は従来の紙幣処理装置の紙幣導入搬送路に装備される各種センサ及び引抜き防止レバーの配置例を示す略図である。
【符号の説明】
【0020】
1…紙幣処理装置、2…装置本体、3…搬送部材、3a…各発光素子、3a…発光素子、5…蓋部材、5a…軸、6…回動軸、10…紙幣挿入口、15…導入搬送路、16…紙幣収納庫、20…モータ、25…挿入センサ、25a…発光素子、25b…受光素子、30、30L、30C、30R…紙幣識別センサ、30a…発光素子、30b…受光素子、35…引抜き防止レバー、40…制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙幣を搬送する搬送部材を備えた装置本体と、前記搬送部材を開閉するように軸支された蓋部材と、閉止状態にある前記蓋部材と前記装置本体との間に形成された紙幣挿入口、及び該紙幣挿入口から挿入された紙幣を装置内部へガイドする導入搬送路と、該導入搬送路に設けた前記搬送部材を駆動するモータと、前記紙幣挿入口からの紙幣の挿入を検知する挿入センサと、該挿入センサの下流側において前記導入搬送路の幅方向に沿って複数個配置された紙幣識別センサと、前記各紙幣識別センサの下流側において前記導入搬送路内に出没自在に支持されて搬送される紙幣の引き戻しを阻止する引抜き防止レバーと、前記挿入センサがオンした時に前記モータの駆動を開始すると共に前記各紙幣識別センサからの信号に基づき挿入された紙幣が返却すべき紙幣であることを検知したときに前記搬送部材を逆転させて前記紙幣を前記紙幣挿入口から返却するように制御する制御手段と、を備えた紙幣処理装置であって、
前記制御手段は、少なくとも二個の前記紙幣識別センサが前記紙幣がZ折れ癖紙幣であることを検知した場合には、前記紙幣のZ折れ癖部分が前記引抜き防止レバーに達する前に前記搬送部材を逆転させるように制御することを特徴とする紙幣処理装置。
【請求項2】
更に、前記搬送部材の搬送動作に連動してパルス信号を発生するパルス発生手段を備え、前記紙幣識別センサが透過型の光センサであるものにおいて、
前記制御手段は、前記各紙幣識別センサからの識別データに基づいて紙幣にZ折れ癖があるか否かを判定するための透過光量の基準として予め閾値レベルVthを設定し、前記各紙幣識別センサからの識別データの透過光量が閾値レベルVth以下となる期間について前記パルス発生手段からのパルス信号をカウントして夫々のデータ継続数nを得て、二個以上の前記紙幣識別センサにおいて同時にデータ継続数nが予め設定した個数Nを越えた場合にはZ折れ癖紙幣であると判定し、Z折れ癖部位が前記引抜き防止レバーに搬送される前に前記搬送部材を逆転するように制御することを特徴とする請求項1に記載の紙幣処理装置。
【請求項3】
紙幣を搬送する搬送部材を備えた装置本体と、前記搬送部材を開閉するように軸支された蓋部材と、閉止状態にある前記蓋部材と前記装置本体との間に形成された紙幣挿入口、及び該紙幣挿入口から挿入された紙幣を装置内部へガイドする導入搬送路と、該導入搬送路に設けた前記搬送部材を駆動するモータと、前記紙幣挿入口からの紙幣の挿入を検知する挿入センサと、該挿入センサの下流側に配置されて紙幣の金種、真贋を識別する紙幣識別センサと、前記紙幣識別センサの下流側において前記導入搬送路内に出没自在に支持されて搬送される紙幣の引き戻しを阻止する引抜き防止レバーと、前記挿入センサがオンした時に前記モータの駆動を開始すると共に前記紙幣識別センサからの信号に基づき挿入された紙幣が返却すべき紙幣であることを検知したときに前記搬送部材を逆転させて前記紙幣を前記紙幣挿入口から返却するように制御する制御手段と、を備えた紙幣処理装置における引抜き防止方法であって、
前記紙幣識別センサは前記導入搬送路の幅方向に沿って複数個配置されており、
前記制御手段は、少なくとも二個の前記紙幣識別センサが前記紙幣がZ折れ癖紙幣であることを検知した場合には、前記紙幣のZ折れ癖部分が前記引抜き防止レバーに達する前に前記搬送部材を逆転させるように制御することを特徴とする紙幣処理装置における引抜き防止方法。
【請求項4】
更に、前記搬送部材の搬送動作に連動してパルス信号を発生するパルス発生手段を備え、前記紙幣識別センサが透過型の光センサであるものにおいて、
前記制御手段は、前記各紙幣識別センサからの識別データに基づいて紙幣にZ折れ癖があるか否かを判定するための透過光量の基準として予め閾値レベルVthを設定し、前記各紙幣識別センサからの識別データの透過光量が閾値レベルVth以下となる期間について前記パルス発生手段からのパルス信号をカウントして夫々のデータ継続数nを得て、二個以上の前記紙幣識別センサにおいて同時にデータ継続数nが予め設定した個数Nを越えた場合にはZ折れ癖紙幣であると判定し、Z折れ癖部位が前記引抜き防止レバーに搬送される前に前記搬送部材を逆転するように制御することを特徴とする請求項3に記載の紙幣処理装置における引抜き防止方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の紙幣処理装置を備えたことを特徴とする紙幣取扱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−251979(P2009−251979A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99926(P2008−99926)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(305027456)ネッツエスアイ東洋株式会社 (200)
【Fターム(参考)】