説明

紡糸巻取設備ならびに紡糸巻取設備における糸掛け方法

【課題】廃糸量を低減できる紡糸巻取設備ならびに紡糸巻取設備における糸掛け方法を提供する。
【解決手段】紡出装置10とゴデットローラ群20と第一巻取装置30と第二巻取装置40とを備えた紡糸巻取設備100であって、第一巻取装置30ならびに第二巻取装置40は、糸掛けが行なわれるボビン31B・41Bを装着する第一ボビンホルダ軸31・41と第一ボビンホルダ軸31・41のボビン31B・41Bから糸切替えが行なわれるボビン32B・42Bを装着する第二ボビンホルダ軸32・42とを具備し、第一巻取装置30は、第一ボビンホルダ軸31のボビン31Bへの糸掛けに際して糸掛時回転速度Lとし、ボビン31Bへの糸掛けが完了した後に生産時回転速度Hとして、第二巻取装置40は、第一ボビンホルダ軸41のボビンへの糸掛けに際して生産時回転速度Hとする、とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸巻取設備ならびに紡糸巻取設備における糸掛け方法の技術に関する。より詳細には、廃糸量を低減できる紡糸巻取設備ならびに紡糸巻取設備における糸掛け方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紡出装置から紡出されたフィラメントを束ねることで複数本の糸条を構成し、それぞれの糸条に対して延伸ならびに調質を行なった後にボビンに巻き取る紡糸巻取設備が知られている。
【0003】
このような紡糸巻取設備においては、一の紡出装置に対して複数台の巻取装置を備えることで製造される糸条の本数を増やし、該糸条の生産効率を向上させるとしたものがあった(例えば特許文献1参照。)。
【0004】
また、巻取装置に複数のボビンホルダ軸を備え、一のボビンホルダ軸のボビンに糸条が満巻になると他のボビンホルダ軸のボビンに糸切替えを行なうことで該糸条を連続して巻き取ることを可能とし、該糸条の生産効率を向上させるとしたものもあった(例えば特許文献2参照。)。
【0005】
しかし、巻取装置が糸条の巻き取りを開始する際には、該巻取装置のボビンに糸条を掛止する、いわゆる糸掛けを行なう必要があり、この糸掛けを行なうためにボビンの回転速度を生産時回転速度より低い糸掛時回転速度とすると、所望の糸特性を有していない糸条(屑糸)が製造されて該ボビンに巻き取られることとなる。
【0006】
特に、一の紡出装置に対して複数台の巻取装置を備える場合では、全ての巻取装置においてボビンの回転速度を糸掛時回転速度とし、それぞれのボビンに糸掛けを行なう必要があるため、糸掛け時にボビンに巻き取られた糸条(屑糸)については全て廃棄処分にせざるを得ず、廃糸量が多くなるという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−75340号公報
【特許文献2】特開平11−92035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであり、糸掛け時にボビンに巻き取られる糸条(屑糸)を減らすことによって、廃糸量を低減できる紡糸巻取設備ならびに紡糸巻取設備における糸掛け方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
次に、この課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、第1の発明は、フィラメントを紡出する紡出装置と、
前記フィラメントを束ねて成る複数本の糸条を送り出すゴデットローラ群と、
前記ゴデットローラ群から送り出された前記糸条のうち、所定の本数の前記糸条をボビンに巻き取る第一巻取装置と、
残りの前記糸条をボビンに巻き取る第二巻取装置と、を備えた紡糸巻取設備であって、
前記第一巻取装置ならびに前記第二巻取装置は、糸掛けが行なわれるボビンを装着する第一ボビンホルダ軸と、該第一ボビンホルダ軸のボビンから糸切替えが行なわれるボビンを装着する第二ボビンホルダ軸と、の少なくとも二つのボビンホルダ軸をそれぞれ具備し、
前記第一巻取装置は、前記第一ボビンホルダ軸のボビンへの糸掛けに際して該第一ボビンホルダ軸の回転速度を糸掛時回転速度とし、該ボビンへの糸掛けが完了した後に該第一ボビンホルダ軸の回転速度を糸掛時回転速度より高速の生産時回転速度として、
前記第二巻取装置は、前記第一ボビンホルダ軸のボビンへの糸掛けに際して該第一ボビンホルダ軸の回転速度を生産時回転速度とする、としたものである。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記第一巻取装置は、前記第一ボビンホルダ軸の回転速度が生産時回転速度となってから任意期間の経過後に、生産時回転速度で回転する前記第二ボビンホルダ軸のボビンへ糸切替えを行なって該ボビンに前記糸条の巻き取りを開始し、
前記第二巻取装置は、前記第一巻取装置における前記第二ボビンホルダ軸のボビンへの糸切替えと同時又は略同時に、生産時回転速度で回転する前記第一ボビンホルダ軸のボビンに糸掛けを行なって該ボビンに前記糸条の巻き取りを開始する、としたものである。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記紡出装置は、前記第一巻取装置における前記第一ボビンホルダ軸の回転速度が糸掛時回転速度から生産時回転速度まで増速することに対応して、前記フィラメントの紡出量を糸掛時紡出量から生産時紡出量まで増量させる、としたものである。
【0013】
第4の発明は、第1から第3のいずれかに記載の発明において、前記ゴデットローラ群は、前記第一巻取装置における前記第一ボビンホルダ軸の回転速度が糸掛時回転速度から生産時回転速度まで増速することに対応して、該ゴデットローラ群を構成するゴデットローラの回転速度を糸掛時回転速度から生産時回転速度まで増速させる、としたものである。
【0014】
第5の発明は、フィラメントを紡出する紡出装置と、
前記フィラメントを束ねて成る複数本の糸条を送り出すゴデットローラ群と、
前記ゴデットローラ群から送り出された前記糸条のうち、所定の本数の前記糸条をボビンに巻き取る第一巻取装置と、
残りの前記糸条をボビンに巻き取る第二巻取装置と、を備えるとともに、
前記第一巻取装置ならびに前記第二巻取装置が、糸掛けが行なわれるボビンを装着する第一ボビンホルダ軸と、該第一ボビンホルダ軸のボビンから糸切替えが行なわれるボビンを装着する第二ボビンホルダ軸と、の少なくとも二つのボビンホルダ軸をそれぞれ具備する紡糸巻取設備に糸掛けを行う、糸掛け方法であって、
前記第一巻取装置の糸掛時回転速度で回転する前記第一ボビンホルダ軸のボビンに糸掛けを行なった後に、該第一ボビンホルダ軸の回転速度を糸掛時回転速度より高速の生産時回転速度とし、その後、前記第二巻取装置の生産時回転速度で回転する前記第一ボビンホルダ軸のボビンに糸掛けを行なう、としたものである。
【0015】
第6の発明は、第5の発明において、前記第一巻取装置における前記第一ボビンホルダ軸の回転速度が生産時回転速度となってから任意期間の経過後に、生産時回転速度で回転する前記第二ボビンホルダ軸のボビンへ糸切替えを行なって該ボビンに前記糸条の巻き取りを開始し、該第二ボビンホルダ軸のボビンへの糸切替えと同時又は略同時に、前記第二巻取装置の生産時回転速度で回転する前記第一ボビンホルダ軸のボビンに糸掛けを行なって該ボビンに前記糸条の巻き取りを開始する、としたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0017】
第1ならびに第2の発明によれば、第二巻取装置における第一ボビンホルダ軸のボビンに対し、生産時回転速度で回転させた状態で糸掛けをすることができる。これにより、第二巻取装置における第一ボビンホルダ軸のボビンへの糸掛け時において、該ボビンに巻き取られる糸条の糸特性を所望の糸特性とすることができ、廃糸量を低減することが可能となる。
【0018】
第3ならびに第4の発明によれば、第一巻取装置における第一ボビンホルダ軸のボビンへの糸掛け時において、糸条の製造量を減少させることができる。これにより、第一巻取装置における第一ボビンホルダ軸のボビンへの糸掛け時において、該ボビンに巻き取られる糸条を減らすことができ、廃糸量を低減することが可能となる。
【0019】
第5ならびに第6の発明によれば、第二巻取装置における第一ボビンホルダ軸のボビンに対し、生産時回転速度で回転させた状態で糸掛けをすることができる。これにより、第二巻取装置における第一ボビンホルダ軸のボビンへの糸掛け時において、該ボビンに巻き取られる糸条の糸特性を所望の糸特性とすることができ、廃糸量を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】紡糸巻取設備100の全体構成を示す正面図である。
【図2】第一巻取装置30ならびに第二巻取装置40の構成を示す斜視図である。
【図3】図3Aは、第一巻取装置30における糸掛け時の動作態様を示す一の図である。図3Bは、第一巻取装置30における糸掛け時の動作態様を示す他の図である。
【図4】図4Aは、第一巻取装置30における糸切替え時の動作態様を示す一の図である。図4Bは、第一巻取装置30における糸切替え時の動作態様を示す他の図である。
【図5】紡糸巻取設備100の動作態様を示す一のタイムチャート図である。
【図6】紡糸巻取設備100の動作態様を示す他のタイムチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明の一実施形態に係る紡糸巻取設備100について説明する。
【0022】
図1は、紡糸巻取設備100の全体構成を示す正面図である。なお、重力の作用方向を上下方向として図中に示す。
【0023】
紡糸巻取設備100は、主にフィラメントを紡出する紡出装置10と、フィラメントを束ねて成る糸条Yの延伸ならびに調質を行なうゴデットローラ群20と、該ゴデットローラ群20から送り出された糸条Yを巻き取る第一巻取装置30と、同じくゴデットローラ群20から送り出された糸条Yを巻き取る第二巻取装置40と、から構成される。
【0024】
紡出装置10は、複数のフィラメントを紡出し、紡出されたフィラメントを上方から下方に向けて供給するものである。紡出装置10は、投入された合繊原料(フィラメントの原料)をギヤポンプ11を用いて圧送することにより、スピニングヘッド12に設けられた複数の紡出口から紡出させる。
【0025】
なお、フィラメントの紡出量は、図示しない制御装置によって自在に制御可能とされ、低紡出状態である糸掛時紡出量と高紡出状態である生産時紡出量とで切替可能とされている。
【0026】
そして、スピニングヘッド12の紡出口から紡出された複数のフィラメントは、所定の本数毎に束ねられて複数本の糸条Yを構成し、ゴデットローラ群20へ導かれる。つまり、フィラメントを束ねて成る糸条Yが複数本構成されて、この複数本の糸条Yがゴデットローラ群20へ導かれるのである。
【0027】
ゴデットローラ群20は、フィラメントを束ねて成る複数本の糸条Yをそれぞれ延伸するとともに、延伸された糸条Yの調質を行なうものである。ゴデットローラ群20は、一対のゴデットローラから構成される、いわゆるネルソンローラ対を複数個備えており、各ネルソンローラ対に糸条Yを架け渡すことによって延伸と調質を行なうものとしている。
【0028】
なお、延伸とは、糸条Yを所定の温度条件下で引き伸ばすことにより、該糸条Yの分子配向性を高めて繊維結晶を形成させる工程をいう。また、調質とは、糸条Yを所定の温度条件下で維持することにより、該糸条Yの非晶領域の分子配向性を緩和させる工程をいう。
【0029】
ゴデットローラ群20に導かれた糸条Yは、該糸条Yの温度を延伸に適した温度とするために加熱された第一ネルソンローラ対21に複数回にわたって巻回される。そして、第一ネルソンローラ対21から送り出された糸条Yは、第二ネルソンローラ対22との間で適宜に延伸され、加熱された第二ネルソンローラ対22に複数回にわたって巻回される。その後、第二ネルソンローラ対22から送り出された糸条Yは、第三ネルソンローラ対23との間で適宜に延伸される。
【0030】
こうして、各ネルソンローラ対21・22・・・に架け渡されて延伸された糸条Yは、調質を行なうために加熱された第四ネルソンローラ対24ならびに第五ネルソンローラ対25に複数回にわたって巻回される。これにより、延伸された糸条Yを所定の温度条件下に維持することができ、該糸条Yの調質を行なうことができるのである。
【0031】
なお、本ゴデットローラ群20は、5つのネルソンローラ対21・22・・・を備え、上流側3つを延伸に、下流側2つを調質に用いるとしているが他の構成であっても良く、これに限定するものではない。
【0032】
また、各ネルソンローラ対21・22・・・を構成するゴデットローラの回転速度は、図示しない制御装置によって自在に制御可能とされ、低速回転状態である糸掛時回転速度と高速回転状態である生産時回転速度とで切替可能とされている。
【0033】
第一巻取装置30ならびに第二巻取装置40は、糸条Yを巻き取ってパッケージPKを形成するものである。第一巻取装置30は、ゴデットローラ群20から送り出された複数本の糸条Yのうち、所定の本数の糸条Yを巻き取ることで、これと同数のパッケージPKを形成する。一方、第二巻取装置40は、ゴデットローラ群20から送り出された複数本の糸条Yのうち、残りの糸条Yを巻き取ることで、これと同数のパッケージPKを形成する。なお、各巻取装置30・40の構成と動作態様については後に詳細に説明する。
【0034】
このように、紡糸巻取設備100は、複数のフィラメントを紡出して束ねることで複数本の糸条Yを構成し、それぞれの糸条Yに対して延伸ならびに調質を行なうものとしている。そして、紡糸巻取設備100は、このようにして製造された糸条Yを巻き取ることによってパッケージPKを形成するとしているのである。なお、本実施形態においては、糸条Yを完全に延伸することによって得られる完全延伸糸(FDY)を製造するものとしているが、ゴデットローラ群20を変更して部分的に延伸することによって得られる部分延伸糸(POY)を製造する構成であっても良い。
【0035】
以上が本発明の一実施形態に係る紡糸巻取設備100の全体構成であるが、次に、各巻取装置30・40の主な構成と各巻取装置30・40における糸掛け時と糸切替え時の動作態様について説明する。
【0036】
図2は、第一巻取装置30ならびに第二巻取装置40の構成を示す斜視図である。なお、第一巻取装置30と第二巻取装置40は、同一の構成であることから第一巻取装置30についてのみを説明する。
【0037】
第一巻取装置30は、主にボビン31Bが装着される第一ボビンホルダ軸31と、ボビン32Bが装着される第二ボビンホルダ軸32と、第一ボビンホルダ軸31ならびに第二ボビンホルダ軸32の互いの位置を交替させるターレット33と(図4、図5参照。)、糸条Yを巻き取る際に該糸条Yを綾振するトラバース装置34(図4、図5参照。)と、糸掛けならびに糸切替えの際に糸条Yをボビン31B(あるいはボビン32B)に保持させるセパレータ装置35と、から構成される。
【0038】
第一ボビンホルダ軸31は、図示しない電動モータによって回転される略円筒形状の回転体である。第一ボビンホルダ軸31には、ボビン31Bが脱着可能に装着されており、この第一ボビンホルダ軸31が巻取位置P1で回転すると、該ボビン31B上に糸条Yが巻き取られる(図4、図5参照。)。
【0039】
第二ボビンホルダ軸32は、図示しない電動モータによって回転される略円筒形状の回転体である。第二ボビンホルダ軸32には、ボビン32Bが脱着可能に装着されており、この第二ボビンホルダ軸32が巻取位置P1で回転すると、該ボビン32B上に糸条Yが巻き取られる(図4、図5参照。)。
【0040】
なお、第一ボビンホルダ軸31ならびに第二ボビンホルダ軸32の回転速度は、図示しない制御装置によって自在に制御可能とされ、低速回転状態である糸掛時回転速度と高速回転状態である生産時回転速度とで切替可能とされている。また、第一ボビンホルダ軸31ならびに第二ボビンホルダ軸32の回転速度は、糸条Yが巻き取られてパッケージPKの径が大きくなると糸条Yの巻き取り速度が増速することとなるために従動回転するタッチローラ38の回転速度を検出することによってフィードバック制御が行なわれる。
【0041】
ターレット33は、第一ボビンホルダ軸31ならびに第二ボビンホルダ軸32を支持するとともに、これらを回動することによって互いの位置を交替させる回動装置である。ターレット33は、回転軸Zを中心として180度回動することにより、巻取位置P1にある第一ボビンホルダ軸31(あるいは第二ボビンホルダ軸32)と退避位置P2にある第二ボビンホルダ軸32(あるいは第一ボビンホルダ軸31)の互いの位置を交替させる(図4、図5参照。)。
【0042】
トラバース装置34は、糸条Yをボビン31B(あるいはボビン32B)上に巻き取る際に該糸条Yを綾振するものである。トラバース装置34は、糸条Yを綾振することによってパッケージPKにおける該糸条Yの偏りを防いでいる。
【0043】
セパレータ装置35は、巻取位置P1で回転するボビン31B(あるいはボビン32B)に糸条Yを保持させるものである。セパレータ装置35は、回動軸35Sを中心として回動することによって糸条Yの糸道を屈曲させることができ、該糸条Yを巻取位置P1で回転するボビン31B(あるいはボビン32B)に保持させる。
【0044】
次に、第一巻取装置30ならびに第二巻取装置40の糸掛け時の動作態様について説明する。なお、第一巻取装置30と第二巻取装置40は、糸掛け時の基本動作が同一であることから第一巻取装置30を用いて糸掛け時の動作態様を説明する。
【0045】
また、第一ボビンホルダ軸31とこれに装着されるボビン31Bは、第二ボビンホルダ軸32とこれに装着されるボビン32Bに対して何ら構造上に差異はないが、説明の便宜上、第一ボビンホルダ軸31のボビン31Bに糸掛けが行なわれるものとして説明を行なう。
【0046】
図3Aは、第一巻取装置30における糸掛け時の動作態様を示す一の図であり、図3Bは、第一巻取装置30における糸掛け時の動作態様を示す他の図である。なお、図中に示す矢印は、第一ボビンホルダ軸31の回転方向と、セパレータ装置35の回動方向と、を示している。
【0047】
上述したように、第一巻取装置30が糸条Yの巻き取りを開始する際には、第一ボビンホルダ軸31のボビン31Bに糸掛けを行なう必要がある。そのため、オペレータは、サクションガンSGを操作することによって糸条Yを保持しつつ、該糸条Yを糸掛け部材36に配置する(図3A参照。)。このとき、糸条Yは、サクションガンSGによって吸引されているためにヤーンガイド37から糸掛け部材36にかけて緩むことなく張架される。
【0048】
なお、サクションガンSGとは、オペレータが自在に操作できる吸引装置であり、ゴデットローラ群20から送り出された糸条Yを吸引することによって該糸条Yを保持するものである。
【0049】
その後、オペレータは、ボビン31Bに近接する方向にセパレータ装置35を回動させる(図3B参照。)。このとき、糸条Yは、回動したセパレータ装置35によって押されるため、該糸条Yの糸道は屈曲されてボビン31Bの周面に接することとなる。
【0050】
これにより、糸条Yは、ボビン31Bに穿設されているスリットに押さえ込まれて該スリットに保持される。そして、糸条Yは、ボビン31Bの回転によって巻き取られていくのである。
【0051】
次に、第一巻取装置30ならびに第二巻取装置40の糸切替え時の動作態様について説明する。なお、第一巻取装置30と第二巻取装置40は、糸切替え時の基本動作が同一であることから第一巻取装置30を用いて糸切替え時の動作態様を説明する。
【0052】
図4Aは、第一巻取装置30における糸切替え時の動作態様を示す一の図であり、図4Bは、第一巻取装置30における糸切替え時の動作態様を示す他の図である。なお、図中に示す矢印は、第一ボビンホルダ軸31ならびに第二ボビンホルダ軸32の回転方向と、ターレット33の回動方向と、セパレータ装置35の回動方向と、を示している。
【0053】
上述したように、第一巻取装置30は、第一ボビンホルダ軸31のボビン31Bに糸条Yが満巻になると第二ボビンホルダ軸32のボビン32Bに糸切替えを行なうことで該糸条Yを連続的に巻き取る。また、第一巻取装置30は、第二ボビンホルダ軸32のボビン32Bに糸条Yが満巻になると第一ボビンホルダ軸31のボビン31Bに糸切替えを行なうことで該糸条Yを連続的に巻き取る。
【0054】
具体的に説明すると、第一巻取装置30は、例えば巻取位置P1にある第一ボビンホルダ軸31のボビン31Bに糸条Yが満巻になると、ターレット33を180度回動させることによって退避位置P2にある第二ボビンホルダ軸32と互いの位置を交替させる(図4A参照。)。このとき、糸条Yは、未だ第一ボビンホルダ軸31のボビン31Bに巻かれている状態であるため、トラバース装置34からパッケージPKにかけて緩むことなく張架される。
【0055】
その後、第一巻取装置30は、ボビン32Bに近接する方向にセパレータ装置35を回動させる(図4B参照。)。このとき、糸条Yは、回動したセパレータ装置35によって押されるため、該糸条Yの糸道は屈曲されてボビン32Bの周面に接することとなる。
【0056】
これにより、糸条Yは、ボビン32Bに穿設されているスリットに押さえ込まれて該スリットに保持される。そして、糸条Yは、ボビン32Bの回転によって巻き取られていくのである。
【0057】
以上が各巻取装置30・40の主な構成と各巻取装置30・40における糸掛け時と糸切替え時の動作態様であるが、次に、廃糸量を低減できる紡糸巻取設備100の動作態様について詳細に説明する。
【0058】
まず、紡糸巻取設備100を構成する第一巻取装置30ならびに第二巻取装置40の動作態様に着目して説明する。
【0059】
図5は、紡糸巻取設備100の動作態様を示す一のタイムチャート図である。なお、図5に示す各図の横軸は、時間の経過を示し、その縦軸は、第一巻取装置30ならびに第二巻取装置40の各ボビンホルダ軸31・32・41・42の回転速度を示している。また、各ボビンホルダ軸31・32・41・42が停止状態である場合をS、糸掛時回転速度で回転している場合をL、生産時回転速度で回転している場合をH、として図中に示す。
【0060】
まず、オペレータは、第一巻取装置30における第一ボビンホルダ軸31のボビン31Bに糸掛けを行なう必要がある。そのため、第一巻取装置30は、時刻T1において、第一ボビンホルダ軸31の回転を開始させ、その回転速度を糸掛時回転速度Lとする。
【0061】
第一巻取装置30は、第一ボビンホルダ軸31の回転速度を糸掛時回転速度Lで維持し、その間にオペレータは、サクションガンSGを操作しながら該糸条Yを糸掛け部材36に配置する(図3A参照。)。そして、オペレータは、時刻T2において、セパレータ装置35を回動させてボビン31Bに糸掛けを行なうのである(図3B参照。)。
【0062】
なお、糸条Yは、糸掛けを行った時刻T2から糸切替えが行なわれる時刻T5までボビン31Bに巻き取られていくこととなるが(図中TU1)、糸掛時回転速度Lで巻き取られた糸条Yの糸特性は、所望の糸特性と異なるものとなっている。これは、糸掛時回転速度Lで巻き取られた糸条Yは、生産時回転速度Hで巻き取られた糸条Yよりも掛けられる張力が小さいことに起因する。
【0063】
その後、第一巻取装置30は、糸掛けを行った時刻T2から所定時間が経過した時刻T3において、第一ボビンホルダ軸31の回転速度を糸掛時回転速度Lから生産時回転速度Hまで増速させる。
【0064】
第一巻取装置30は、第一ボビンホルダ軸31の回転速度を生産時回転速度Hで維持し、その間に第二ボビンホルダ軸32の回転を開始させ、その回転速度を生産時回転速度Hとする。なお、本実施形態においては、第一ボビンホルダ軸31の回転速度を生産時回転速度Hとした後に第二ボビンホルダ軸32の回転を開始するものとしているが、該第二ボビンホルダ軸32の回転を開始した後に第一ボビンホルダ軸31の回転速度を生産時回転速度Hにするとしても良い。
【0065】
その後、第一巻取装置30は、時刻T4において、ターレット33の回動を開始させて巻取位置P1にある第一ボビンホルダ軸31と退避位置P2にある第二ボビンホルダ軸32の互いの位置を交替させる(図4A参照。)。そして、第一巻取装置30は、時刻T5において、セパレータ装置35を回動させてボビン32Bに糸切替えを行なうのである(図4B参照。)。
【0066】
なお、糸切替えを行なう時刻T5は、第一ボビンホルダ軸31の回転速度が生産時回転速度Hとなってから任意期間の経過後とされている。これは、糸掛時回転速度Lで巻き取りを行なっていたことによる糸特性への影響がなくなった後に糸切替えを行なうように設定したものであり、第一ボビンホルダ軸31のボビン31Bが満巻になったときに糸切替えを行なうとするものではない。こうして、糸条Yは、糸切替えを行った時刻T5から次に糸切替えが行なわれる時刻Tnまでボビン32Bに巻き取られていくこととなるのである(図中TU2)。また、オペレータは、この間に第一ボビンホルダ軸31から不良糸(糸掛時回転速度Lで巻き取られた糸条Y)が巻き取られているボビン31Bを取り外し、新たなボビン31Bを装着して次回の巻き取りに備える。
【0067】
一方、第二巻取装置40は、第一巻取装置30における第二ボビンホルダ軸32の回転の開始と前後して第一ボビンホルダ軸41の回転を開始させ、その回転速度を生産時回転速度Hとする。
【0068】
第二巻取装置40は、第一ボビンホルダ軸41の回転速度を生産時回転速度Hで維持し、その間にオペレータは、サクションガンSGを操作しながら該糸条Yを糸掛け部材46に配置する(図3A参照。)。そして、オペレータは、第一巻取装置30における時刻T5での糸切替えと同時又は略同時にセパレータ装置45を回動させてボビン41Bに糸掛けを行なうのである(図3B参照。)。本実施形態では、時刻T5にボビン41Bに糸掛けを行なうものとしており、糸条Yは、時刻T5から時刻Tnまでボビン41Bに巻き取られていくこととなる(図中TU3)。
【0069】
なお、本紡糸巻取設備100は、所定の本数の糸条Yについて第一巻取装置30を用いて巻き取りを開始し、その後に残りの糸条Yについて第二巻取装置40を用いて巻き取りを開始することから、第二巻取装置40における糸掛けの際に糸条Yを絡めてしまう等の不手際を減らすことができる。
【0070】
従って、オペレータは、第二巻取装置40における第一ボビンホルダ軸41のボビン41Bに対して糸掛けを良好に行なうことができ、生産時回転速度Hで回転させた状態で糸掛けを行なうことができるのである。
【0071】
こうすることで、第二巻取装置40における第一ボビンホルダ軸41のボビン41Bへの糸掛け時において、該ボビン41Bに巻き取られる糸条Yの糸特性を所望の糸特性とすることができ、廃糸量を低減することが可能となるのである。
【0072】
次に、紡糸巻取設備100を構成する紡出装置10ならびにゴデットローラ群20の動作態様に着目して説明する。
【0073】
図6は、紡糸巻取設備100の動作態様を示す他のタイムチャート図である。なお、図6に示す各図の横軸は、時間の経過を示し、その縦軸は、紡出装置10からのフィラメントの紡出量ならびにゴデットローラ群20を構成するゴデットローラの回転速度を示している。また、フィラメントの紡出が停止状態である場合をS、糸掛時紡出量で紡出している場合をL、生産時紡出量で紡出している場合をH、として図中に示す。更に、ゴデットローラが停止状態である場合をS、糸掛時回転速度で回転している場合をL、生産時回転速度で回転している場合をH、として図中に示す。
【0074】
まず、オペレータは、第一巻取装置30における第一ボビンホルダ軸31のボビン31Bに糸掛けを行なう必要がある。そのため、紡出装置10は、第一ボビンホルダ軸31のボビン31Bに糸条Yを供給すべく、フィラメントの紡出を開始させる。そして、紡出装置10は、時刻T1にその紡出量を糸掛時紡出量Lとする。
【0075】
また、ゴデットローラ群20は、第一ボビンホルダ軸31のボビン31Bに糸条Yを供給すべく、ゴデットローラ群20を構成するゴデットローラの回転を開始させる。そして、ゴデットローラ群20は、時刻T1にその回転速度を糸掛時回転速度Lとする。
【0076】
紡出装置10は、フィラメントの紡出量を糸掛時紡出量Lで維持し、その間にオペレータは、サクションガンSGを操作しながら該糸条Yを糸掛け部材36に配置する(図3A参照。)。そして、オペレータは、時刻T2において、セパレータ装置35を回動させてボビン31Bに糸掛けを行なうのである(図3B参照。)。
【0077】
その後、紡出装置10は、糸掛けを行った時刻T2から所定時間が経過した時刻T3において、フィラメントの紡出量を糸掛時紡出量Lから生産時紡出量Hまで増量させる。 更に、ゴデットローラ群20は、時刻T3において、ゴデットローラの回転速度を糸掛時回転速度Lから生産時回転速度Hまで増速させる。これは、第一巻取装置30における第一ボビンホルダ軸31の回転速度が糸掛時回転速度Lから生産時回転速度Hまで増速することに対応させたものである。
【0078】
このように、本紡糸巻取設備100は、第一巻取装置30における第一ボビンホルダ軸31のボビン31Bへの糸掛け時において、フィラメントの紡出量やゴテットローラの回転速度を抑制し、糸条Yの製造量を減少させることができる。
【0079】
こうすることで、第一巻取装置30における第一ボビンホルダ軸31のボビン31Bへの糸掛け時において、該ボビン31Bに巻き取られる糸条Yを減らすことができ、廃糸量を低減することが可能となるのである。
【符号の説明】
【0080】
10 紡出装置
11 ギヤポンプ
20 ゴデットローラ群
21 第一ネルソンローラ対
22 第二ネルソンローラ対
23 第三ネルソンローラ対
24 第四ネルソンローラ対
30 第一巻取装置
31 第一ボビンホルダ軸
31B ボビン
32 第二ボビンホルダ軸
32B ボビン
33 ターレット
34 トラバース装置
35 セパレータ装置
36 糸掛け部材
40 第二巻取装置
100 紡糸巻取設備
Y 糸条
PK パッケージ
SG サクションガン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントを紡出する紡出装置と、
前記フィラメントを束ねて成る複数本の糸条を送り出すゴデットローラ群と、
前記ゴデットローラ群から送り出された前記糸条のうち、所定の本数の前記糸条をボビンに巻き取る第一巻取装置と、
残りの前記糸条をボビンに巻き取る第二巻取装置と、を備えた紡糸巻取設備であって、
前記第一巻取装置ならびに前記第二巻取装置は、糸掛けが行なわれるボビンを装着する第一ボビンホルダ軸と、該第一ボビンホルダ軸のボビンから糸切替えが行なわれるボビンを装着する第二ボビンホルダ軸と、の少なくとも二つのボビンホルダ軸をそれぞれ具備し、
前記第一巻取装置は、前記第一ボビンホルダ軸のボビンへの糸掛けに際して該第一ボビンホルダ軸の回転速度を糸掛時回転速度とし、該ボビンへの糸掛けが完了した後に該第一ボビンホルダ軸の回転速度を糸掛時回転速度より高速の生産時回転速度として、
前記第二巻取装置は、前記第一ボビンホルダ軸のボビンへの糸掛けに際して該第一ボビンホルダ軸の回転速度を生産時回転速度とする、ことを特徴とする紡糸巻取設備。
【請求項2】
前記第一巻取装置は、前記第一ボビンホルダ軸の回転速度が生産時回転速度となってから任意期間の経過後に、生産時回転速度で回転する前記第二ボビンホルダ軸のボビンへ糸切替えを行なって該ボビンに前記糸条の巻き取りを開始し、
前記第二巻取装置は、前記第一巻取装置における前記第二ボビンホルダ軸のボビンへの糸切替えと同時又は略同時に、生産時回転速度で回転する前記第一ボビンホルダ軸のボビンに糸掛けを行なって該ボビンに前記糸条の巻き取りを開始する、ことを特徴とする請求項1に記載の紡糸巻取設備。
【請求項3】
前記紡出装置は、前記第一巻取装置における前記第一ボビンホルダ軸の回転速度が糸掛時回転速度から生産時回転速度まで増速することに対応して、前記フィラメントの紡出量を糸掛時紡出量から生産時紡出量まで増量させる、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の紡糸巻取設備。
【請求項4】
前記ゴデットローラ群は、前記第一巻取装置における前記第一ボビンホルダ軸の回転速度が糸掛時回転速度から生産時回転速度まで増速することに対応して、該ゴデットローラ群を構成するゴデットローラの回転速度を糸掛時回転速度から生産時回転速度まで増速させる、ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の紡糸巻取設備。
【請求項5】
フィラメントを紡出する紡出装置と、
前記フィラメントを束ねて成る複数本の糸条を送り出すゴデットローラ群と、
前記ゴデットローラ群から送り出された前記糸条のうち、所定の本数の前記糸条をボビンに巻き取る第一巻取装置と、
残りの前記糸条をボビンに巻き取る第二巻取装置と、を備えるとともに、
前記第一巻取装置ならびに前記第二巻取装置が、糸掛けが行なわれるボビンを装着する第一ボビンホルダ軸と、該第一ボビンホルダ軸のボビンから糸切替えが行なわれるボビンを装着する第二ボビンホルダ軸と、の少なくとも二つのボビンホルダ軸をそれぞれ具備する紡糸巻取設備に糸掛けを行う、糸掛け方法であって、
前記第一巻取装置の糸掛時回転速度で回転する前記第一ボビンホルダ軸のボビンに糸掛けを行なった後に、該第一ボビンホルダ軸の回転速度を糸掛時回転速度より高速の生産時回転速度とし、その後、前記第二巻取装置の生産時回転速度で回転する前記第一ボビンホルダ軸のボビンに糸掛けを行なう、ことを特徴とする糸掛け方法。
【請求項6】
前記第一巻取装置における前記第一ボビンホルダ軸の回転速度が生産時回転速度となってから任意期間の経過後に、生産時回転速度で回転する前記第二ボビンホルダ軸のボビンへ糸切替えを行なって該ボビンに前記糸条の巻き取りを開始し、該第二ボビンホルダ軸のボビンへの糸切替えと同時又は略同時に、前記第二巻取装置の生産時回転速度で回転する前記第一ボビンホルダ軸のボビンに糸掛けを行なって該ボビンに前記糸条の巻き取りを開始する、ことを特徴とする請求項5に記載の紡糸巻取設備における糸掛け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−195254(P2011−195254A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62907(P2010−62907)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】